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【春郷祭】【夜煌】戦勝記念祭 これまでの経緯


更新情報(6月30日更新)
TOPにて掲載しておりましたノベルを、「これまでの経緯」に移動しました。
【春郷祭】【夜煌】ストーリー
▼タイトルをクリックすると下に展開します
プロローグ (5月29日公開)
●元領主の憂鬱
辺境で長く続いた戦いの雌雄が決したとの早馬が、鮮やかな色の花咲く畑の前で止まった。
その真ん中で、気難しそうな顔をした男がスッと立ち上がる。手に持った雑草を麻袋に収めながら、片眼鏡をかけた壮年の男は短く「詳細を」と呼ばわった。
彼の名は、ルーベン・ジェオルジ。辺境にもっとも近い農耕推進地域の元領主である。半年前、辺境に自生させる目的で開発した不思議な植物・おにぎり草「まめし」を世に出した。しかし間を置かず、歪虚の侵攻が開始。激闘の行方を心配していた。
「人類側連合軍が勝利を収めたとのことです」
実際には拠点となるホープやCAM実験場にダメージがあり、辛勝と呼ぶのが正確かもしれないが、ルーベンはそこまでの情報を求めてはいない。辺境の無事さえ知れれば、それでよかった。
むしろ商人気質の強い妻・バルバラや、巨万の富を持つ大商人なら、こういった細かな戦況を聞きたがるだろう。どんなところに商機があるか探すのが、いわば生業なのだから。
ルーベンは片眼鏡に手をやり、遠く辺境の方を向いた。彼は何度か辺境に行き、農業研究の旅をしている。不意に、その時の風景を思い出していた。
「妻や息子に伝えてほしい。延期していた村長祭の準備を頼む、と」
情報をもたらした青年は「わかりました!」と答え、また馬を走らせた。
「あの地にも、ここと同じ程の豊穣をもたらさねばな……」
彼は似合わぬ笑顔を見せながら、また草むしりに没頭すべく、その場にしゃがみこんだ。
●狐の化かしあい
「天下の同盟商人、それもヴァリオス商工会が金を出し渋ったとなれば、ワシらは世の笑いものになってしまう。その話を仲間とも相談して出資を決めた後でここに訪れた、というわけだ」
「ということは、ノールドさんは誰よりも早く提案したということですよね。それもあなたへの相談もなしに……」
セストは冷静に分析するが、これはバルバラも読めていた。
「でも随分と脇が甘いじゃない。天下のダリオも鼻が鈍ったんじゃなくて?」
「フフ、それもあるやもしれんがな。しかし、バルバラよ。我ら商人が重んじる取り決めというものさしで計ると、この行動はギリギリの線だとは思わないか?」
バルバラは「ノールドほどの立場がなければ完全にアウト」と語ったところで「あっ」と声を上げる。
「しかも、あやつ「ジェオルジの村長祭も同時期になりますので、ちょうどいいタイミングですから」とも言っておった」
「まさか、これって誰かの入り知恵……?」
ダリオは「そういうことだ、やられたよ」と気持ちのいい笑い声を響かせた。
「ということだ、セストよ。今回もガッポリ村長祭で稼がせてもらうぞ!」
「どちらでも稼ぐおつもりなのに、何を遠慮されてるのですか。たっぷりと村長祭を盛り上げてくだされば、僕はそれで結構です」
セストがサラリと言い返すと、バルバラは自慢げに鼻で笑ってみせた。
「これが我が領主のお言葉ですわ」
「しばらく見んうちに立派になりおって……ワシもまだまだ負けんぞ!」
ダリオは不敵な笑みを浮かべ、この地を目指して動き出した商人と同じく、ジェオルジ村長祭で利益を求めんと意気込んだ。
●
東方へ先発隊が転移した後も聖地は慌ただしかった。
聖地の巫女達が怠惰によって汚された辺境の地を浄化する準備を進めていた為だ。
夜煌祭。
辺境巫女が大地への感謝も持って願い、祈祷して土地を浄化する儀式だ。祭りの後に行われる宴は夜通し行われ、辺境の戦士達が大いに騒ぐ祭りでもある。
かつて辺境巫女のリムネラ(kz0018)が狂気の欠片をこの祭で浄化した事で記憶にあるハンターもいるだろう。
しかし、今回は規模が違う。
一口に辺境の地と行っているが、東はマギア砦、西はノアーラ・クンタウ北部の広範囲に渡る。いくら巫女を各地へ派遣してもそう簡単な話ではない。さらに浄化される前の土地は雑魔が現れる可能性もある。巫女の護衛に部族の戦士も同行するが、各地の復興に人手を取られて戦士の確保も難しい。
既に辺境各地では怠惰への勝利を祝して『戦勝夜煌祭』と称されて祭りの準備が始まっていると聞いているが……。
辺境の巫女を束ねる大巫女にとっては頭の痛い話だが、ここに来て思わぬ相手から支援の申し出を受ける。
「本気なのかい?」
大巫女は、目の前の男に問いを投げかける。
目の前の男??商業管理事務所『ゴルドゲイル』所長ノールド・セッテントリオーネは、恐縮そうにしながらも顔は笑みを浮かべている。
ゴルドゲイルは辺境内の同盟商人の商売を管理する事が主な仕事だ。悪徳商人が不当に値をつり上げたり、要求した物品が届かない等の問題を円滑に解決する。部族会議からの大口発注もゴルドゲイルが一手に引き受け、比較的安価に物資を届けている。
ヴァリオス商工会出身の商人が所長を勤めるのが通例だが、ノールドは同盟商人の中でも『やり手』として名が通っており、適任との呼び声も高い。
「いやぁ、もう本当に心からの気持ちなんですよ。我々同盟商人がお役に立てるなんて、こういう時だけですから」
ノールドの提案。
それは大巫女にとって驚くべきものであった。各地への巫女移送や護衛となるハンターへの依頼、儀式の後の宴にかかる費用をすべてゴルドゲイルが負担すると言っているのだ。
それも大巫女に対して見返りを求めずに。
「ふーん。あたしはね、こう見えても無駄に年を重ねている訳じゃないんだよ」
大巫女の目はノールドを貫くように見据えている。
疑いの目。
それはノールドも感じ取っていた。
「いやいや、裏の意図なんてありませんよぉ」
「リアルブルーには『タダより高いものはない』って言葉があるそうじゃないか。
今回の資金提供で何が得られるんだい? 大方、新たに発足した部族会議への商業的アピールかヨアキムが管理するマテリアル鉱山の採掘権……そんなところかねぇ」
「そんな、大それた事……でも、理由が必要でしたら、白龍への餞別でお願いします。白龍の喪失は、西方世界にとって大きな痛手ですから……」
ノールドの言葉の語尾は、急速に弱まっていく。
この腰の低い上に申し訳無さそうな口調は、ノールドの処世術かもしれない。事実、大巫女はこれ以上の追求をする気は失せていた。
「分かったよ。あんたの力を借りるよ。あたしは土地を浄化できるならそれでいい。あんたが何を考えていようと俗世の話だ。巫女には関係ないからね」
ため息をつく大巫女。
それて対してノールドは、変わらぬ笑みを浮かべながら感謝を述べた。
「いえいえ。私も辺境に済む人間です。巫女にはちゃーんと経緯を払ってますよ、はい」
聖地の奪還に成功してから、約一ヶ月。
しかしそこに至るまでに、流れた血は余りにも多い。
『マギア砦籠城戦』。
『ナナミ川攻防戦』。
そして――『聖地奪還』。
辺境を駆け抜けた多くの出来事は、一見すると余りにも急激な変化でもあった。
むろん、その変化の功績者は、ハンターたちだ。
しかし、多くの者が傷つき、多くの場所で嘆きが生まれたことは変わりない。
たとえ必要なことだったとわかっていても、それをすぐに受け入れられる人間はそう多くない。人々の心には多くの傷跡が残っている。
「やっぱり浄化の儀式は、必要だねぇ」
それもとびきりのやつを――大巫女はそう言って、小さく頷く。
浄化の儀式――そういわれて思い出すのは、夜煌祭だ。
事実、昨年の夜煌祭が目に焼き付いている人も多いだろう。しかし、あれはあの頃聖地の外にいた巫女であるリムネラ(kz0018)が中心となって行ったもので、正直なところ規模としてはとても小さい。
本来の夜煌祭とは、辺境全域において巫女が舞い、マテリアルを浄化する儀式なのだ。
そして今回、大巫女は本格的にそれを行おうとしている。
「去年は、リムネラも随分頑張ったと聞いているけれど」
それくらいのものでは足りない、というのは大巫女もリムネラも百も承知だ。
もっと盛大で、もっと厳粛に。
巫女たちの能力を存分に発揮出来るように。
「リムネラも頑張っているのはわかるさ。あたしたちも、今までの分を取り返さないとね」
大巫女はそういうと、しわの多い顔にチャーミングな笑みを浮かべた。
●
「夜煌祭を、辺境全域で?」
ハンターズソサエティでもその話題は既に耳に届いていた。
辺境というのは一枚岩ではない――そして、多くの部族がそれぞれの主張をもって行動をしている、それは今までの辺境に対する多くの人の認識であった。
しかし、聖地を奪還したことによって、その関係性に変化が生まれつつある。
部族は大首長という代表を生み、意見の統一を図ろうとしている。
中立の立場である巫女たちも、それを陰ながら後押ししているらしい。
そしてそんな状況を知った人々も、これを機に辺境への認識を変えつつあった。
そんな中で特に立ち上がったのは同盟の商人たちである。
もともと同盟商人たちは部族との商いを通じて独自に信頼関係を築いている者たちも多かった。そこに、今回の夜煌祭の話だ。
――これは、辺境との関係を向上させるだけでなく、巫女や部族会議にも好印象を与えるチャンスだ。
そう考える者が少なくなかったのは、流石商いに長けている同盟の人々ゆえといえよう。
一肌脱ごうじゃないか。
同盟の商人たちは、そう言い合った。
これもまたきっと、一つの『架け橋』になれると、そう信じて。
●
そうきゅっと拳を握りしめると、少女は瞳を輝かせて頷いた。
これからまた大変だろうけれど、それを活力に出来るという意志を込めて。
辺境で長く続いた戦いの雌雄が決したとの早馬が、鮮やかな色の花咲く畑の前で止まった。
その真ん中で、気難しそうな顔をした男がスッと立ち上がる。手に持った雑草を麻袋に収めながら、片眼鏡をかけた壮年の男は短く「詳細を」と呼ばわった。
彼の名は、ルーベン・ジェオルジ。辺境にもっとも近い農耕推進地域の元領主である。半年前、辺境に自生させる目的で開発した不思議な植物・おにぎり草「まめし」を世に出した。しかし間を置かず、歪虚の侵攻が開始。激闘の行方を心配していた。
「人類側連合軍が勝利を収めたとのことです」
実際には拠点となるホープやCAM実験場にダメージがあり、辛勝と呼ぶのが正確かもしれないが、ルーベンはそこまでの情報を求めてはいない。辺境の無事さえ知れれば、それでよかった。
むしろ商人気質の強い妻・バルバラや、巨万の富を持つ大商人なら、こういった細かな戦況を聞きたがるだろう。どんなところに商機があるか探すのが、いわば生業なのだから。
ルーベンは片眼鏡に手をやり、遠く辺境の方を向いた。彼は何度か辺境に行き、農業研究の旅をしている。不意に、その時の風景を思い出していた。
「妻や息子に伝えてほしい。延期していた村長祭の準備を頼む、と」
情報をもたらした青年は「わかりました!」と答え、また馬を走らせた。
「あの地にも、ここと同じ程の豊穣をもたらさねばな……」
彼は似合わぬ笑顔を見せながら、また草むしりに没頭すべく、その場にしゃがみこんだ。
●狐の化かしあい
世情の関係で延期していた村長の寄り合い、そして村長祭の開催が大々的に発表されると、真っ先に「ヴァリオス商工会」で長老会に属する豪商、ダリオ・ミネッリが馳せ参じた。 その行動の早さに、若き領主であるセスト・ジェオルジ(kz0034)は舌を巻き、母のバルバラ・ジェオルジは大いに呆れる。 「さすがですね。お耳が早い」 応接室に案内するセストの賛辞を聞き、古狐がケタケタと笑う。 「いやいや、これでも今回は遅い方なんだ。辺境にいる狐に、先手を打たれてしまってのぉ」 それを聞いたバルバラが、驚いたように「まさか、あのノールドに?」と声を上げる。 「そうじゃ、辺境の商売を取り仕切る事務局長のノールドだ。あやつ、大巫女様に辺境の復興や浄化にかかる費用を『ゴルドゲイル』が工面するとぶち上げてだな」 ゴルドゲイルとは、要塞『ノアーラ・クンタウ』に存在する商業管理事務所を指す。そこの事務局長が、ヴァリオス商工会所属の商人でノールド・セッテントリオーネという腰の低い男なのだ。 |
![]() セスト・ジェオルジ |
「ということは、ノールドさんは誰よりも早く提案したということですよね。それもあなたへの相談もなしに……」
セストは冷静に分析するが、これはバルバラも読めていた。
「でも随分と脇が甘いじゃない。天下のダリオも鼻が鈍ったんじゃなくて?」
「フフ、それもあるやもしれんがな。しかし、バルバラよ。我ら商人が重んじる取り決めというものさしで計ると、この行動はギリギリの線だとは思わないか?」
バルバラは「ノールドほどの立場がなければ完全にアウト」と語ったところで「あっ」と声を上げる。
「しかも、あやつ「ジェオルジの村長祭も同時期になりますので、ちょうどいいタイミングですから」とも言っておった」
「まさか、これって誰かの入り知恵……?」
ダリオは「そういうことだ、やられたよ」と気持ちのいい笑い声を響かせた。
「ということだ、セストよ。今回もガッポリ村長祭で稼がせてもらうぞ!」
「どちらでも稼ぐおつもりなのに、何を遠慮されてるのですか。たっぷりと村長祭を盛り上げてくだされば、僕はそれで結構です」
セストがサラリと言い返すと、バルバラは自慢げに鼻で笑ってみせた。
「これが我が領主のお言葉ですわ」
「しばらく見んうちに立派になりおって……ワシもまだまだ負けんぞ!」
ダリオは不敵な笑みを浮かべ、この地を目指して動き出した商人と同じく、ジェオルジ村長祭で利益を求めんと意気込んだ。
(執筆:村井朋靖)
(文責:株式会社フロンティアワークス)
(文責:株式会社フロンティアワークス)
●
東方へ先発隊が転移した後も聖地は慌ただしかった。
聖地の巫女達が怠惰によって汚された辺境の地を浄化する準備を進めていた為だ。
夜煌祭。
辺境巫女が大地への感謝も持って願い、祈祷して土地を浄化する儀式だ。祭りの後に行われる宴は夜通し行われ、辺境の戦士達が大いに騒ぐ祭りでもある。
かつて辺境巫女のリムネラ(kz0018)が狂気の欠片をこの祭で浄化した事で記憶にあるハンターもいるだろう。
しかし、今回は規模が違う。
一口に辺境の地と行っているが、東はマギア砦、西はノアーラ・クンタウ北部の広範囲に渡る。いくら巫女を各地へ派遣してもそう簡単な話ではない。さらに浄化される前の土地は雑魔が現れる可能性もある。巫女の護衛に部族の戦士も同行するが、各地の復興に人手を取られて戦士の確保も難しい。
既に辺境各地では怠惰への勝利を祝して『戦勝夜煌祭』と称されて祭りの準備が始まっていると聞いているが……。
辺境の巫女を束ねる大巫女にとっては頭の痛い話だが、ここに来て思わぬ相手から支援の申し出を受ける。
「本気なのかい?」
大巫女は、目の前の男に問いを投げかける。
目の前の男??商業管理事務所『ゴルドゲイル』所長ノールド・セッテントリオーネは、恐縮そうにしながらも顔は笑みを浮かべている。
ゴルドゲイルは辺境内の同盟商人の商売を管理する事が主な仕事だ。悪徳商人が不当に値をつり上げたり、要求した物品が届かない等の問題を円滑に解決する。部族会議からの大口発注もゴルドゲイルが一手に引き受け、比較的安価に物資を届けている。
ヴァリオス商工会出身の商人が所長を勤めるのが通例だが、ノールドは同盟商人の中でも『やり手』として名が通っており、適任との呼び声も高い。
「いやぁ、もう本当に心からの気持ちなんですよ。我々同盟商人がお役に立てるなんて、こういう時だけですから」
ノールドの提案。
それは大巫女にとって驚くべきものであった。各地への巫女移送や護衛となるハンターへの依頼、儀式の後の宴にかかる費用をすべてゴルドゲイルが負担すると言っているのだ。
それも大巫女に対して見返りを求めずに。
「ふーん。あたしはね、こう見えても無駄に年を重ねている訳じゃないんだよ」
大巫女の目はノールドを貫くように見据えている。
疑いの目。
それはノールドも感じ取っていた。
「いやいや、裏の意図なんてありませんよぉ」
「リアルブルーには『タダより高いものはない』って言葉があるそうじゃないか。
今回の資金提供で何が得られるんだい? 大方、新たに発足した部族会議への商業的アピールかヨアキムが管理するマテリアル鉱山の採掘権……そんなところかねぇ」
「そんな、大それた事……でも、理由が必要でしたら、白龍への餞別でお願いします。白龍の喪失は、西方世界にとって大きな痛手ですから……」
ノールドの言葉の語尾は、急速に弱まっていく。
この腰の低い上に申し訳無さそうな口調は、ノールドの処世術かもしれない。事実、大巫女はこれ以上の追求をする気は失せていた。
「分かったよ。あんたの力を借りるよ。あたしは土地を浄化できるならそれでいい。あんたが何を考えていようと俗世の話だ。巫女には関係ないからね」
ため息をつく大巫女。
それて対してノールドは、変わらぬ笑みを浮かべながら感謝を述べた。
「いえいえ。私も辺境に済む人間です。巫女にはちゃーんと経緯を払ってますよ、はい」
(執筆:近藤豊)
(文責:株式会社フロンティアワークス)
(文責:株式会社フロンティアワークス)
聖地の奪還に成功してから、約一ヶ月。
しかしそこに至るまでに、流れた血は余りにも多い。
『マギア砦籠城戦』。
『ナナミ川攻防戦』。
そして――『聖地奪還』。
辺境を駆け抜けた多くの出来事は、一見すると余りにも急激な変化でもあった。
むろん、その変化の功績者は、ハンターたちだ。
しかし、多くの者が傷つき、多くの場所で嘆きが生まれたことは変わりない。
たとえ必要なことだったとわかっていても、それをすぐに受け入れられる人間はそう多くない。人々の心には多くの傷跡が残っている。
「やっぱり浄化の儀式は、必要だねぇ」
それもとびきりのやつを――大巫女はそう言って、小さく頷く。
浄化の儀式――そういわれて思い出すのは、夜煌祭だ。
事実、昨年の夜煌祭が目に焼き付いている人も多いだろう。しかし、あれはあの頃聖地の外にいた巫女であるリムネラ(kz0018)が中心となって行ったもので、正直なところ規模としてはとても小さい。
本来の夜煌祭とは、辺境全域において巫女が舞い、マテリアルを浄化する儀式なのだ。
そして今回、大巫女は本格的にそれを行おうとしている。
「去年は、リムネラも随分頑張ったと聞いているけれど」
それくらいのものでは足りない、というのは大巫女もリムネラも百も承知だ。
もっと盛大で、もっと厳粛に。
巫女たちの能力を存分に発揮出来るように。
「リムネラも頑張っているのはわかるさ。あたしたちも、今までの分を取り返さないとね」
大巫女はそういうと、しわの多い顔にチャーミングな笑みを浮かべた。
●
「夜煌祭を、辺境全域で?」
ハンターズソサエティでもその話題は既に耳に届いていた。
辺境というのは一枚岩ではない――そして、多くの部族がそれぞれの主張をもって行動をしている、それは今までの辺境に対する多くの人の認識であった。
しかし、聖地を奪還したことによって、その関係性に変化が生まれつつある。
部族は大首長という代表を生み、意見の統一を図ろうとしている。
中立の立場である巫女たちも、それを陰ながら後押ししているらしい。
そしてそんな状況を知った人々も、これを機に辺境への認識を変えつつあった。
そんな中で特に立ち上がったのは同盟の商人たちである。
もともと同盟商人たちは部族との商いを通じて独自に信頼関係を築いている者たちも多かった。そこに、今回の夜煌祭の話だ。
――これは、辺境との関係を向上させるだけでなく、巫女や部族会議にも好印象を与えるチャンスだ。
そう考える者が少なくなかったのは、流石商いに長けている同盟の人々ゆえといえよう。
一肌脱ごうじゃないか。
同盟の商人たちは、そう言い合った。
これもまたきっと、一つの『架け橋』になれると、そう信じて。
●
それから数日後、リムネラの元に届いた二通の手紙。 一つは聖地の大巫女からで、大々的な浄化の儀式――夜煌祭を実施する為にもリムネラ、そしてハンターたちの力を貸して欲しいということが記されていた。 そしてもう一つは、同盟商人たちから。 夜煌祭のバックアップを手伝うという旨が記されていて、これはリムネラにとってもありがたい話だった。 夜煌祭はきっと前回以上に大規模になる。そうなれば、物資に乏しい辺境全域での開催について、厳しいものが出てくるだろう。それに、辺境と同盟の関係も更に良好な物になるに違いない。 リムネラはそう考えると、なんだか力がわいてきた。 「ワタシも、がんばらナイと……!」 |
![]() リムネラ |
これからまた大変だろうけれど、それを活力に出来るという意志を込めて。
(執筆:四月朔日さくら)
(文責:株式会社フロンティアワークス)
(文責:株式会社フロンティアワークス)
怪奇!? その名は「毒パルム」 (6月4日公開)
要塞『ノアーラ・クンタウ』から見える辺境の光景は、時に幻想的な光景となる。
北を見れば連なる雪山。
その岩肌を彩る雪を夕暮れの太陽が照らし、オレンジ色へと染め上げる。
澄んだ空気が見る者を包み込み、別の世界へ誘われたかのような錯覚を起こさせる。
――そして。
このノアーラ・クンタウに新たなる名所が誕生する。
辺境ドワーフのカペラがマテリアル鉱山の新規開拓中に発見した温泉脈を、入浴可能な温泉地へと整備したのだ。怠惰との戦いを温泉で癒そうと、多くのハンターや各国の兵士が入浴にやってくる。
さらにハンター達の要望を受けて、温泉をポンプで引き上げて辺境の地を山から眺める事のできる露天風呂を公開。この露天風呂が大ヒット、更なる温泉客を呼び込む結果となり、西方世界に温泉の名が轟いた。
ドワーフも入浴料を徴収できて、みんながハッピー。
この時は、誰もがそう思っていた。
そう、あの事件が起こるまでは……。
●
犠牲は大きかったかもしれないが、もし怠惰に負けていればこの光景は失われていたのだ。その事を自覚すると、ハンター達は胸の辺りがそっと暖かくなる。
「……あ、パルムだ」
一人の女性ハンターが、温泉に姿を見せた数匹のパルムを発見する。
キノコ型の小人だが、これでも立派な要請だ。マテリアルから誕生した存在だが、人語も理解する知性を見せてくれる。その愛らしい姿でペットとするハンターも多い。
「ホントだ。おいでっ!」
ハンターが手を差し出すと、ちょこんと座る形で応じるパルム。
掌の上で首を傾げてこちらを見られたハンターは、愛らしさに思わず叫び出す。
「きゅーーん、かっっわいいー! ……あ、一緒に温泉へ入る?」
「あ、あたしもっ! 一緒に入ろっ!」
そう言ったハンター達は、温泉近くにいたパルムを温泉の中へと誘う。
途端、パルムの頭の傘が紫色へと変色していく。
「ん? どうしたの?」
異変に気付いたのは、一人の女性ハンターだった。
先程まで愛らしい微笑みを浮かべていたパルムが、鋭い眼差しでこちらに視線を送る。それも何故かハンターの胸に向けての熱視線。パルムが中年のオッサンが放つネットリとした視線は、ハンター達に鳥肌を立たせる。
「ちょ、ちょっとっ! やめてっ!」
別のハンターの方に目を向ければ、同じように紫の傘のパルムが女性ハンターの豊満なをバストタッチ。異様に慣れた手つきで揉み回される状況に、女性ハンターは思わず悲鳴を上げる。
「きゃーーー! もう無理っ! みんな、逃げてっ!」
慌てて温泉を出るハンター達。
そこには怪しい笑みを浮かべるパルム達の姿があった。
●
この温泉パルム異変事件は、高速でハンター達の間に伝わった。
何せあの可愛らしいパルムが、中年オッサン顔負けの行動を取り始めるというのだから事件の内容も衝撃的だ。多くの男性ハンターは『パルムになりたいっ!』と強い願望を示すが、温泉を取り仕切るドワーフにとっては堪った物ではない。
北を見れば連なる雪山。
その岩肌を彩る雪を夕暮れの太陽が照らし、オレンジ色へと染め上げる。
澄んだ空気が見る者を包み込み、別の世界へ誘われたかのような錯覚を起こさせる。
――そして。
このノアーラ・クンタウに新たなる名所が誕生する。
辺境ドワーフのカペラがマテリアル鉱山の新規開拓中に発見した温泉脈を、入浴可能な温泉地へと整備したのだ。怠惰との戦いを温泉で癒そうと、多くのハンターや各国の兵士が入浴にやってくる。
さらにハンター達の要望を受けて、温泉をポンプで引き上げて辺境の地を山から眺める事のできる露天風呂を公開。この露天風呂が大ヒット、更なる温泉客を呼び込む結果となり、西方世界に温泉の名が轟いた。
ドワーフも入浴料を徴収できて、みんながハッピー。
この時は、誰もがそう思っていた。
そう、あの事件が起こるまでは……。
●
「はーっ、暖まるぅ」 「肩まで浸かった方が良いんだったよね?」 「風景も噂通り最っっっ高っ!」 ここはドワーフが公開した温泉の一つ。 この時間は女性専用とあって、温泉にいるのは全員女性。 全員風呂に入るのだからタオル以外は、一糸纏わぬ姿。リアルブルーの中学生男子に見せれば、大興奮間違いなしの光景だ。 「空気が澄んでいるからずーっと遠くまで見えるよねー!」 「あ、あれが聖地なのかな?」 「いや、聖地はもっと遠いと思うよ」 噂を聞きつけてやってきた女性ハンター達も素晴らしい辺境の風景に驚嘆する。 この美しい光景を、自分達は歪虚から守り抜いたのだ。 |
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「……あ、パルムだ」
一人の女性ハンターが、温泉に姿を見せた数匹のパルムを発見する。
キノコ型の小人だが、これでも立派な要請だ。マテリアルから誕生した存在だが、人語も理解する知性を見せてくれる。その愛らしい姿でペットとするハンターも多い。
「ホントだ。おいでっ!」
ハンターが手を差し出すと、ちょこんと座る形で応じるパルム。
掌の上で首を傾げてこちらを見られたハンターは、愛らしさに思わず叫び出す。
「きゅーーん、かっっわいいー! ……あ、一緒に温泉へ入る?」
「あ、あたしもっ! 一緒に入ろっ!」
そう言ったハンター達は、温泉近くにいたパルムを温泉の中へと誘う。
途端、パルムの頭の傘が紫色へと変色していく。
「ん? どうしたの?」
異変に気付いたのは、一人の女性ハンターだった。
先程まで愛らしい微笑みを浮かべていたパルムが、鋭い眼差しでこちらに視線を送る。それも何故かハンターの胸に向けての熱視線。パルムが中年のオッサンが放つネットリとした視線は、ハンター達に鳥肌を立たせる。
「ちょ、ちょっとっ! やめてっ!」
別のハンターの方に目を向ければ、同じように紫の傘のパルムが女性ハンターの豊満なをバストタッチ。異様に慣れた手つきで揉み回される状況に、女性ハンターは思わず悲鳴を上げる。
「きゃーーー! もう無理っ! みんな、逃げてっ!」
慌てて温泉を出るハンター達。
そこには怪しい笑みを浮かべるパルム達の姿があった。
●
この温泉パルム異変事件は、高速でハンター達の間に伝わった。
何せあの可愛らしいパルムが、中年オッサン顔負けの行動を取り始めるというのだから事件の内容も衝撃的だ。多くの男性ハンターは『パルムになりたいっ!』と強い願望を示すが、温泉を取り仕切るドワーフにとっては堪った物ではない。
「何とかしてよ、お父さんっ!」 温泉を整備していたカペラが対応を具申したのは、ドワーフ王ヨアキム(kz0011)。 中年オッサンのパルム――通称『毒パルム』の登場で、女性客が激減。今や、ドワーフ温泉は筋肉を誇示したいマッスル愛好者と一部のマニア以外の利用客は皆無。このままでは温泉を閉鎖する他ない。 「何とかしてって言われてもよぉ……」 「毒パルムは、パルムが温泉に浸かると毒パルムに変わるみたいなの。だから、温泉から出して乾かせば元のパルムに戻るんだって。実験したハンターさんがそう言ってたわ」 カペラが聞いた情報によれば、毒パルムを捕まえて温泉の成分が抜けるまで乾かせば元に戻るようだ。だが、何処からやってきたのか露天温泉には多数のパルムが占拠。無数とも思える状態にカペラも頭を悩ませている。 「えーと、だから、つまり……給仕、どういう事だ?」 「給仕じゃありません。執事のキュジィです。 とにかく、温泉にいる毒パルムを捕まえれば良いのではありませんか?」 娘にせっつかれて狼狽するヨアキムを、キュジィ(kz0078)はそっとフォローする。 それでもヨアキムは理解できていない様子だ。 「捕まえるたって、どうすりゃいいんだ? 網で掬えばいいのか……いや、ザルの方が掬いやすいよな。まてよ、やっぱりワシの光のゴッドハンドで一発ツモ……」 意味不明な事を言い出したヨアキムに対し、カペラの怒りが爆発する。 「もーっ! ハンターさんに頼んで毒パルムを捕まえて貰ってちょうだい!」 |
![]() ヨアキム ![]() キュジィ |
(執筆:近藤豊)
(文責:株式会社フロンティアワークス)
(文責:株式会社フロンティアワークス)
新たな出会いと秘密の出会い (6月11日公開)
褐色の大地が広がる辺境。歪虚との戦いから解き放たれた大地に、丈夫な幌で着飾った馬車が走っていた。
向かうはホープ。その地では戦勝記念祭をぶち上げたノールド・セッテントリオーネが各方面への折衝を行っているという。
「ふーむ、そろそろ着くね。大将、準備はいいかい?」
「ああ、こちらです」
さっと取り出した巻物に目を通したヴァネッサは、満足そうにひとつ頷く。
「いいね、この調子で頼むよ。じゃ、ロメオを呼んでくるから」
「はい、よろしくお願いします?」
怪しげな巻物をさっさと片付け、ヴァネッサは何事もなかったかのようにロメオを呼びに戻った。
その後、ロメオとノールドはこの地で会談を開き、ヴァリオス商工会に続いて夜煌祭への出資を行うことを表明。また、辺境の部族にはサルヴァトーレ・ロッソに卸している海産物の入ったレトルト食品で興味を引くなど、熱心に売り込みをかける。
ロメオは生粋の商人ではないが、こういった交渉では熱心さと切符のよさを武器に戦うタイプだ。同行する秘書たちもその性格を知っているので、臨機応変に対応していく。ゴルドゲイルの面々もまた有益な交渉をすべく、その熱を受け取っての商談を行った。
●友との再会
そんな難しい話は勘弁とばかりに、ヴァネッサはホープの中を歩く。そして視線の先に友の姿を見つけ、明るく微笑んだ。
「ファリフ、元気にしてた?」
ヴァネッサはそう言いながら、周囲を眺める。今は明るい声も響いており、マテリアルも元気になっているような気がした。だが、今から始まる戦勝記念祭が始まれば、もっと盛り上がるだろう。
辺境を舞台にしたお祭りもまた、かつてない賑わいに包まれようとしていた。
向かうはホープ。その地では戦勝記念祭をぶち上げたノールド・セッテントリオーネが各方面への折衝を行っているという。
「ふーむ、そろそろ着くね。大将、準備はいいかい?」
御者を務めるのは、ダウンタウンのリーダー・ヴァネッサ(kz0030)だ。彼女はポルトワール都市統合本部の代表、ロメオ・ガッディ(kz0031)のボディーガードとして随伴している。 「もちろんですとも! ここはひとつ、同盟に港湾都市ポルトワールありと知らしめなくては……」 同盟で首都機能を有するヴァリオスに追いつけ追い越せの勢いで発展を続けるポルトワールにとって、今回のビジネスチャンスを指をくわえて逃すわけにはいかない。もし、要塞『ノアーラ・クンタウ』に存在する商業管理事務所「ゴルドゲイル」に顔が売れれば、何かいい話が舞い込んでくるやも知れぬ。ロメオは自慢の蝶ネクタイをいじりながら、どう話を切り出そうかと考えていた。 「ドウドウ。じゃ、ノールドに会えるようにしてくるよ」 ヴァネッサは馬を止め、ひらりと地面へ下りた。そして、サッと人混みの中に紛れる。 その先に腰の低いことで有名な男、ノールド・セッテントリオーネが待っていた。 「ヴァネッサさん、お久しぶりです?。この度は戦勝祝賀会のアイデアまで提供していただいて、本当にありがとうございます。おかげで辺境もいろんな意味で賑わってますよ!」 ノールドは忙しそうに働きながらも、ヴァネッサを丁寧に出迎える。 そう、同盟の【春郷祭】と辺境の【夜煌祭】を共催とし、戦勝祝賀会とするアイデアはヴァネッサが考えた。彼女はノールドの口を借りて、これを実現のものとしたのである。 「ところで今日はポルトワールの代表をお連れになったとか……?」 「ノールドも知っての通り、王国や帝国に続く海路を仕切る都市のトップだ。その柳腰でうまくやってほしいね」 「いやぁ?、こんなによくしてもらうと、私も緊張してしまいます。小心者なもんでね、プレッシャーとかにてんで弱くって……」 目の前の小男の正体を知るヴァネッサは「ホントよく言うよ」と不敵な笑みを浮かべた。 「せっかく会ったんだ、例のリストをもらって帰るよ」 |
![]() ヴァネッサ ![]() ロメオ・ガッディ |
さっと取り出した巻物に目を通したヴァネッサは、満足そうにひとつ頷く。
「いいね、この調子で頼むよ。じゃ、ロメオを呼んでくるから」
「はい、よろしくお願いします?」
怪しげな巻物をさっさと片付け、ヴァネッサは何事もなかったかのようにロメオを呼びに戻った。
その後、ロメオとノールドはこの地で会談を開き、ヴァリオス商工会に続いて夜煌祭への出資を行うことを表明。また、辺境の部族にはサルヴァトーレ・ロッソに卸している海産物の入ったレトルト食品で興味を引くなど、熱心に売り込みをかける。
ロメオは生粋の商人ではないが、こういった交渉では熱心さと切符のよさを武器に戦うタイプだ。同行する秘書たちもその性格を知っているので、臨機応変に対応していく。ゴルドゲイルの面々もまた有益な交渉をすべく、その熱を受け取っての商談を行った。
●友との再会
そんな難しい話は勘弁とばかりに、ヴァネッサはホープの中を歩く。そして視線の先に友の姿を見つけ、明るく微笑んだ。
「ファリフ、元気にしてた?」
「あ、ヴァネッサさんだ!」 その名を呼ばれたファリフ・スコール(kz0009)は、思わぬ来客に声を弾ませる。 「もう、来るなら来るって言ってくれればいいのに?」 「今のファリフは忙しいだろう? 私が来ると言っても、出迎える暇なんてなかったろうに」 長き戦いで疲れもあるだろうと思い、ヴァネッサは「会えたらいい」くらいのつもりでいたが、今回は幸運だったようだ。 「あ、いつも物資とかありがとう! ボクたちも助かってるよ!」 「フフ、そんなに遠慮することもないさ。ちゃんとお駄賃はもらってるからね」 無邪気なファリフは言葉の真意がわからなかったが、「ヴァネッサさんがいいと言うならいい!」と元気よく頷く。 「せっかくだから、夜煌祭を見て行ってよ! ハンターさんたちもたくさん来るからさ」 「そうだね、たまには違う土地のお祭りを見てくってのもいいかもね」 |
![]() ファリフ・スコール |
辺境を舞台にしたお祭りもまた、かつてない賑わいに包まれようとしていた。
(執筆:村井朋靖)
(文責:株式会社フロンティアワークス)
(文責:株式会社フロンティアワークス)