ゲスト
(ka0000)
ライブラリ

ここはライブラリ。キノコが集めてきた皆の姿や声、
音楽なんかを見たり聞いたりできるよ。
新しい姿を頼んだりもできるから、試してみてね!
竹村 早苗(kz0014)
※本商品は「ファナティックブラッド」の本編とは異なるアナザーノベルであり、「ファナティックブラッド」ならびに他ゲームコンテンツでプレイングやキャラクター設定の参照元にすることはできませんのでご注意ください。
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Dea ex machina~メアリ・ロイド~
カウンターを小刻みに叩く深爪気味の指。気難しさを窺わせる細い鼻梁。
昼時を過ぎ、客が少なくなってきた喫茶店にやって来たその中年男性を、一対の菫青石の瞳がひたと見据えていた。
(……上着はくたびれてっけど、仕立ては結構良いもんじゃねーの……深爪に黒ずみ。あれは……機械油? 入ってきた時の歩き方に癖はなかった。なのに靴が右側ばっか磨り減ってんのは、普段工具袋を右腰に下げてっからか……?)
傾きかけた工場の工場長あたりかと見当をつけたメアリ・ロイドは、自らが陣取るテーブルへ目を落とした。
散らばっているのは、手慰みに解体し再構築中だった魔導インカムのパーツ。磨り硝子越しの柔らかな陽射しの許、歯車や基盤は金銀のように美しく照っている。
"こういうもの"に丹精する人間にはいくらか親近感が湧く。
金属の部品達は己のあるべき場所をきちんと知っていて、正しい場所に収めてやりさえすれば、確かな動作で応えてくれる。裏切ることはない。あるとすればこちらが手入れを怠った時だけだ。
一時期世間から隔離されていたメアリにとって、物言わぬ機械達が返す決められた挙動でも、それは確かに"自分ではない何か"が"自分へ向けて"示してくれる反応だった。
銀縁眼鏡の奥で、くたびれた背へ向ける眼差しを心持ち和らげた。
メアリが観察していたのは、なにも男の外見ばかりではない。
カウンター奥へ目をやると、年老いた店主はホールに背を向け洗い物に勤しんでいる。そして男の手許にはまだ水のグラスさえない。男の指が苛々と動いているのはそのためだ。
メアリは席を立つと、磨かれたグラスを手に取り、ピッチャーから冷水を注ぎ男の前へ置いた。
「ここのご主人、少し耳が遠いようで。洗い物の音で来客に気付かなかったんでしょう。……メニューはこちらです。何にします?」
事情を聞き、男は幾分決まりが悪そうに「ホットを」と短く応じた。メアリがカウンターから身を乗り出し、
「ご主人。ご主人、お客様です」
声を大きくしてオーダーを伝えると、店主は恐縮しきりで男性に詫び、急いで珈琲を淹れ始めた。
程なくして狭い店内に立ち込める芳しい香り。男性は駆け足気味に珈琲を味わうと、メアリに目礼して出ていった。
するとすぐに店主がやって来て、メアリのテーブルの隅へコトリと皿を置く。簡単だけれど旬の果実をたっぷり挟んだサンドイッチだった。
「あの、頼んでいませんが」
「先程のお礼です」
それだけ言って片目を瞑ると、店主はまたカウンターの奥へ引っ込んでいく。
(何も親切心だけでしたワケじゃねーんだけど……)
唇の内で呟いて、メアリは密かに息をついた。
年季が入っていてお世辞にも流行っているとは言えない店だが、飲み物も食べ物も外れがない。メアリは用事でこの界隈を訪れる度にここへ足を運んでいた。
店主は歳のせいかあまり商売っ気がなく、こうして長時間席を占領しようと嫌な顔ひとつしない。かと言って客に無関心かと言うとそうではなく、カップが空になった頃合いにやって来てお替りを注いでくれ、他愛ない話を一言二言して去っていく。
この絶妙な店主の距離感、そしてよく手入れされた古い物達に囲まれるこの空間は、メアリにとって居心地が良いものだった。
先程の男性が声を荒げて怒りだしてしまったら台無しになる。声をかけたのは自分のためでもあったのだ。
「……、」
ふと、思う。
気まぐれにした親切にさえ、こうして理由をつけようとするのは何故だろう。
人間観察、主に感情の動きをつぶさに観ることを好むメアリだけれど、一番不透明で汲み取り辛い感情は恐らく自分の内にあるものだ。
赤ん坊は大人の庇護を得るために愛らしく笑うのだと聞いたことがある。笑っても誰も反応してくれなければ、笑わない子になるのだと。
けれどメアリは、それが赤ん坊に限った話ではないと身を持って知っている。
笑っても誰も微笑み返してくれないなら、虚しくなるだけ。
泣いても差し伸べられる手がないのなら、惨めになるだけ。
"独り"は誰かに傷つけられることも、誰かを傷つけてしまうこともないけれど、胸の内の柔らかな部分を削り取っていく。
気付いた時には、鏡に映る自分の顔からは一切の表情が消えていた。それを見て機械仕掛けの人形のようだと感じたし、以降機械への愛着が一層増したように思う。
(不透明っつーより"足りてない"。分かってる)
観察対象を失ったメアリは、束の間自らの胸の内に目を向けていたけれど――やめた。今向き合うべきは出来たてのサンドイッチだと思い直して。
パーツを傍らに寄せ、拭い清めた手をそっと合わす。
「……いただきます」
店主には聞き取れないだろうけれど、小声で呟いてからサンドイッチに食みつく。軽く焼かれた林檎の歯ざわりが快い。ほんのり振られたシナモンが、凪いだ心へ優しく香った。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6633/メアリ・ロイド/女性/20歳/天使にはなれなくて】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。メアリさんのとある休日、といった雰囲気で書かせていただきました。
メアリさんなら、流行りの賑やかな店よりも、落ち着いた老舗店の方がお好きなのでは……というところから
妄想もとい想像し始めたところから、このようなお話になりました。
イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。
この度はご用命下さりありがとうございました!