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プレゲーム第3回リプレイ「サルヴァトーレ・ロッソ調査」

プレゲーム第3回リプレイ「サルヴァトーレ・ロッソ調査」

● 単独行の果てに
「ああああ、く、喰われてる……は、はは」
 ゼツは嗤う。いや、嗤うしかない。
 もう自分には何もできないのだから。
 両足はもう喰われた。
 左手もない。

 蜘蛛に似たおぞましい化け物共に喰われてしまった。

 耳から奴らのナニかが入ってきて、身体がいうことを聞かなくなった。
 正気を失うこともできない。
 身体が寒い。咽喉が渇く。次第に、何も感じなくなっていくのが怖い。
 独りきり、こんなところで、死……ぬ……? ……い、嫌だ。
 嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 死に、たくな

「あ、ぎ、ぐが……ぁ」
 ……声が消える。
 後には、蜘蛛が肉を咀嚼する音だけが響いていた。

●調査の開始
 ゼツの出来事よりも数時間前。
 ハンター側の要請により、艦後部から出た歪虚反応の調査隊が結成された。
 広い艦後部の調査を行うにあたって、調査隊は重点的に人を割り振る箇所を三か所と決めた。

クリストファー・マーティン

 CAMなどの各種兵器類が置かれた格納庫、艦を動かすための重要装置がある機関部、最も範囲が広く航行中には確認の困難な外壁。
 その内の機関部に、クリストファー・マーティン(kz0019)を隊長とする調査班は居た。
「これが異界の金属……」
 ドワーフのサーティカ・ソウディアムが、すりすりと機械に頬ずりを繰り返す。
 同様に【歌う鋳槌】の面々が続く。
「ブヒィィィ何このフォルム超カッケー!!」
 狂喜乱舞したエルフのアメリエ・ハルメトヤが、奇声ともつかぬ声を上げながらクンカクンカと辺りの匂いを嗅ぎまわりはじめ、
「軽い……だが強靱だ、それでいてクリスタルのような鏡面を持っておる」
 サーティカの横で並んで頬ずりしていたドワーフのヴァルトル=カッパーの目が何かに狙いを定めたかと思うと、
「ふぉあおおおおお! いいね、これいいね! すげぇ、ラブい、舐めたい!」
 変態度を増したドワーフのルフタが手際よく工具を取り出して並べ、
「こ、こここの奥も調べた方が良い。ううう嘘じゃねぇよ、ドワーフウソツカナイ」
 目を泳がせながらもしっかりとした手つきでドワーフのグオルムール=クロムが部品を取り外しだし、
「これ内側が壊れてるけど直せねぇわ! ワシが処理しとく!」
 外された部品を見たドワーフのゼカライン=ニッケルが流れのまま持って帰ろうとして、
「こらーっ! 壊しちゃだめだよーっ!」
 通気口から出てきたティト=カミロに【歌う鋳槌】の5人プラス1人がまとめて飛び蹴りを食らい、潰れたカエルのような音を異なる音色で出しながらすっ飛んでいった。
「隊長?、これなんすかね?」
 フラフラと何処かから持ってきた不思議生物を手にアーヴァスト・アガルトがクリストファーの下にやってくる。
「あんまり無闇に触り歩いてくれるなよ? 整備班から俺の方にも苦情が回ってくるんだから」
 少年に蹴り飛ばされ死屍累々と化したドワーフ達をため息交じりに見やりながら、何事かとアーヴァストのほうを睨め付けてから、その手中でもがく生物へ視線を落とす。
「それは……パルムかな? こんなところにまでいつの間にか入り込んでたのか」
「へ?、このキノコみたいなのがそうなんすか」
 そのパルムはアーヴァストの手からじたばたと暴れて逃げ出すと、ぱたぱたと祭りの会場の方へ走り去って行った。
「よぉ、大将! 反重力機関ってのはどこにあるんだ!? 俺の勘じゃあ、そいつに群がってんじゃねぇかと思うんだけどよ!」
 パルムを目で追っていたクリストファーに、バラガス(ka1636)が自分の経験を基に提案する。
「反重力機関かい? 艦の案内資料にもあると思うけど、あれは戦艦自体の質量軽減に使われてるからなあ。万遍なくそこら中の壁なんかにも埋め込まれてるよ」
 一般にも公表されている範囲でしかクリストファーも知らず、やや困った顔で受け答えた。
「さて、それじゃあ、質問などはいいか? では、各々の担当範囲の調査を開始してくれ」
 クリストファーが号令を掛けて、集まった人々はそれぞれに動き出す。
「よ、よし! 行こう、エリーゼ」
 握る銃把に力を込めながら、ハロルド・H・オーウェンがエリーゼ・G・リデンブロックに声をかけた。
 呼ばれたエリーゼは、ハロルドの腕に自分の腕を絡めて体を寄せる。
「えへへ、ハルと一緒なら怖くないー♪」
「う、うぁ……?」
 腕に押し当てられる大きく柔らかいものを感じて顔を真っ赤にさせながら、歩き出す。

「ここが格納庫ですね」
 宮川氷翠は迷子のエルフ、エリノア・グレゴリーを案内して、格納庫の調査隊に合流させた。
「案内ご苦労様、もういいわよ。案内する代わりに調査に協力すればいいのよね? まあ、初めからそのつもりだけど」
「そうですか! では、遠慮なく……!」
 彼女の”個人的”な調査への協力に同意を得られたとみるや否や、氷翠はエリノアの胸を揉んだ。
「お、おおっ! ちゃんとブラジャーはあるんですね……!」
 エリノアの大きな胸を揉みしだく氷翠。
 いきなりコンプレックスの胸を揉まれて顔を真っ赤にするエリノア。
 魚の様に口をパクパクと動かすが言葉にならずそのまま手を振り払うと、どうしたのかと氷翠がきょとんとした目で見返す。
「うぉー、なんだこれ、すげー!!」
 ドワーフのドミノ・ウィルが、興味津々といった目で艦載機の固定された区画を見渡す。
 広い空間に異世界の見たこともない兵器が整然と並び、ドミノは感嘆の呻きを漏らす。
「ま、探し物は虱潰しが鉄板だよね。ローラー作戦でもする?」
 八剣 伝がハンター達に格納庫の案内図を配布しながら提案する。
「んー、ここは効率的にいきたいな。何処かから侵入されたというんなら、出入口に近い区画から重点的にやっていった方がよくないか?」
 自分の配布分を配り終えた浮寝 葭切が伝を手伝い、いくらか追加で分けてもらいながら応える。
「整備の方からも一言いいか?」
 近くで聞いていた整備士の紫藤 道が2人を覗きこんで、伝の持っていた案内図の中をいくつか指差して意見を出す。
「今、指差したところが順に、今出入りが激しい場所、派手に探して良い場所、触ると拙い場所、床下、壁裏の空間だ。注意しといてくれ。……ああ、それと火気厳禁で」
 自分が咥えている火の点いていない煙草を指して言う。
「幾つかのグループに分かれるなら、最低でも2人組以上で班を作った方がいいんじゃないかな? 僕達の役目は情報をちゃんと生きて持ち帰ることだもん」
 こっちも配り終えたよ、と戻ってきた神原 菫が2人の話に入っていく。
「へへ、そんならいいとこは俺だけで持ってかせてもらいますよ、っと」
 菫の注意を無視してゼツはこっそり抜け出していった。
「カズオミ、ちょっと地図と見比べたいねんけど、肩車してくれへん?」
 相方のカズオミ・カグラと揃いのファッションリングを着けたユウマ・オノが、慣れた風に相方の肩へと登る。
「あ、あっちシュウヤさんらがおる。あっちや、あっち」
「お、どっちだ?」
 ユウマがシュウヤ・ツキオリとハルヒサ・ヤクノを見つけて、そちらへ向かうようにカズオミに指示を出す。
「よぉ、お前らもこっちか。……何してんだ?」
 カズオミがシュウヤ達に声をかけると、ハルヒサがハンターのエリス・エアエッジと話をしているところだった。
「ハンターさんらに地図の見方とか、ちょっとな」
「異世界の船の中って珍しいものが多すぎるのよね」
 エリスがやや肩を竦めて、後ろに見えるCAMへと視線を向ける。
「なら、俺達も通路の死角とか実地で説明していくかな」
 カズオミがシュウヤ達だけでは手が足りないだろう、と数の多いハンター達に目を向けて苦笑する。
「助かる。範囲も広いし、協力して定期的に情報交換と行こうか」
 シュウヤが提案し、カズオミ達も頷いた。

●調査中

カグラ・シュヴァルツ

「シュネー、私が調べている間は周辺警戒を頼みます」
「……わかった、カグラ兄さん」
 カグラ・シュヴァルツ(ka0105)とシュネー・シュヴァルツの兄妹は、CAMの周囲を入念に調査し始めた。
 装備はその特性上、何かが隠れる隙間が多いため、カグラはわずかな隙間ですら見落とさぬよう目を光らせる。
 格納庫の中、立ち並んだCAMの調査班が、ようやく半分の調査を終えようとしていた。
「まさかとは思うがCAM自体が発生源だったら洒落にならないからな……」
 CAMが固定されている足元の周辺をぐるりと一周するように確認しながら、ガルシア・ペレイロがぼやく。
「ただでさえ化粧直しの道具も満足に手に入らねえんだ。これ以上資材減らされてたまるか!」
 耳聡くぼやきを聞きとった整備士のラザラス・フォースターが、整備用のコンソールパネルから顔を覗かせて怒鳴る。
「俺だって、こいつが鉄屑になるのは嫌だってんだよ!」
 ガルシアが怒鳴り声に反論する。
「それは皆同じです……私の機体に何かしたら、ただじゃ済ませないですよ」
 調査中の機体のコクピットから降りながら彼らの会話を聞いていた若山 望は、自分の機体の方へ視線をやる。
 自分の機体のチェックは、順番的にもう少し後になる。

セレン

デスドクロ・ザ・ブラックホール

 ぼそりと呟いたその声には、殺気が籠っていた。
「愛しのCAMちゃん……ボク幸せだよ……」
 ガルシアとラザラスが怒鳴り合っている間に挟まれながらも、ミシェル・プランタジネットは、意に介さずCAMにうっとり見惚れている。
「セレンさん。こっちのチェック終了です?」
 そんな中、マイペースに調査を進めていた林海 モニカが、2人の口喧嘩をあらあら、仲が良いことですね?とばかりに華麗にスルーしてセレン(ka0153)の所へとやってくる。
「分かりました。……クリア。この辺りは異常無し、と。皆さん、次に行きますよ」
 全体の機体確認表にチェックマークを入れながら、セレンが仲間達に通信で連絡を行う。
 セレン達が次の機体へと移動していくその格納庫の片隅、男女の更衣室が設置されている。
 その片方、女子更衣室の前にデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)がドヤ顔で立つ。
「俺様の天才的な頭脳が導き出した答えは、ここだ!」
 声を張り上げて、バーンと女子更衣室のドアを開けようとしたが――、もちろん、防犯上の都合により鍵が掛かっていた。

 ガチャガチャ。
 ドンドン。
 
 ……開かない。

「くっ……! このままだと歪虚野郎どものせいで更衣室のアレやコレがひどいことに!」
「へへ、ここはビリィ様に任せな!」
 ビリティス・カニンガム(ka6462)が悪戯好きの瞳を輝かせて、颯爽と女子更衣室の中と繋がる壁の通気口へと身を潜らせていく。
 通気口へ四つん這いで入っていく際に、スカートが捲れて白いぱんつが見えたが気にした様子はなかった。

クロード・インベルク

ルオ

 機関部でも、調査は続いていた。
「すっごいね、ここは!」
 クロード・インベルク(ka1506)がメモ帳にいろいろ書き込みながら、溢れ出る好奇心のままに、すっ、と機関の操作パネルへと手を伸ばした。
「あまり関係ない場所を触り歩かない様にお願いします」
 迂闊に機関の操作パネルに手を伸ばそうとするクロードを見咎めて、エスター・ファーガスが注意する。
「あ、ごめん! ワクワクしちゃって、つい……っと、この範囲は調査終了っと!」
 誤魔化すように手に持っていたメモ帳をしまい、代わりのペンを取り出してクロードが床にバツ印を書いていく。
「これで7割方終了、かな?」
 ルオ(ka1272)が周囲を警戒しつつ、次の場所への先導に向きを変える。
「和久さん、どうですか? それと、動力付近の調査状況はどうです?」
 やや心配げにエスターが視線を転じて和久 司に話しかけた。
「ああ、ルオの言う通りだな。俺達の動力付近担当箇所は終了だ。定時報告で他の箇所の状況も確認してるが、動力付近に異常は無いとさ」
 司が機関部の案内図を手に、エスターに見せながら言う。
「懸念事項のひとつは消えましたか。修復不可能な損傷も無い、ですか?」
「ああ、みたいだな。余計に疑問が浮かび上がってきたわけだが……」
 エスターがやや安堵したように述べた言葉を、司が追従しつつ思案顔になる。
「そうなると、ひとまずはヴォイドがどこにいるか突き止めるのが先決ってことだな」
 ルオが通路の先へと振り返る。残り三割の担当範囲のどこかにヴォイドが居るかもしれない。
 気を引き締め直すようにして、四人は歩き出した。

「なにか、動いた?」
 棚の上に溜まった埃に塗れながら、頭を天井にぶつけないよう四つん這いになった雪代のぞみが視界の端に何か動くものを見つける。
 薄暗いそちらにライトを向けてみると――そこにぬっと現れる飄 凪 。
「ひぃぃぃっ!?」
 のぞみは危うく、手にしていたライトを取り落しそうになったが、凪も脅かしたことを詫びている。
「妹と弟がどっかいっちまって……探してんだ」
 見かけたら教えてくれと告げて、きょうだいの名を呼びながら他の場所を探索に出掛けていった。
 隣にいた超級 毬緒と顔を見合わせ、ごそごそと方向を転換して、棚の上から抜け出す。
「上の方も異常なかったよー!」
 下着が見えるのも気にせず、毬緒が棚と壁との隙間を利用してするすると仲間の下に降りてきた。
「なら、ここもいいわね」
 毬緒の言葉を聞きながら、緋想 ヒナはマーカーで壁にバツ印を描く。
 調査を終えた区画については、案内標識の下に印を残していくことで、他の班が調査済みであることを確認できるようにしていた。
「次はどこかな?」
 毬緒が後ろに控える同じ班の仲間に振り返る。
「ここでもなかったとなると、廃棄資材置き場が怪しいかな」
 足立 真は手元の携帯端末に表示されたマップへと目を落としながら答える。
「そっちは?」
 自分達の担当分はこれで終わりだったはずと思い出しながら、ヒナが問う。
 真がマップの担当区画に”済”のマークを入れて顔を上げた。
「既に別の班が向かってるよ」

 中へ一歩、佐倉・桜は薄暗い資材置き場に確認に入って後悔した。
 廃棄予定の備品にまだ使えるものがないか、リストの見直しを兼ねたチェックを行う。それだけのはずだった。

 ――其処には血の臭いが立ち込めていた。

 呼吸の度、鉄の味が鼻腔を伝い、舌を撫でる。嫌な予感が脳裏を掠める。
 目を凝らす。暗い。部屋の隅が見えなかった。
 ゆっくりとした動作でライトを向けると。群がる黒の中に何かがあった。
 原形を留めていない人の――ゼツの――骸。
 それを貪る変わり果てた異形の蜘蛛達。
 一斉に此方を向いた蜘蛛達が、ぎぃ、と啼いた。
 仲間がひっ、と息を呑む。

 ほんの一瞬。それが命取りだった。

榊 兵庫

 すぐ横にいた仲間は、次の瞬間に蜘蛛に集られ喰われた。
 首筋を食い千切る時に飛び出た血飛沫が頬に付いた。対応が遅れた。
 震える。
 誰かの喚き声が遠くに聞こえる。
 声が止む間に、さらにもう一人喰われた。
「大丈夫か!」
 近くにいた榊 兵庫(ka0010)が悲鳴を聞いて駆けつける。
 最後の一人となった彼女の腕を引っ張って、後退する。
 逃げる獲物へと襲い掛かってくる蜘蛛の群れ。
「ちっ、数だけいやがる!」
 部屋から溢れてきたところを蹴撃で一閃、空いた隙間に綺羅・K・ユラが蜘蛛達と兵庫達の間に体を割り込ませる。
 先に飛び込んだ綺羅を援護する様に、クオンと若松 拓哉が蜘蛛達に牽制の射撃を加える。
 仲間の援護を受けながら兵庫は素早く退避する。
「現在地を連絡。応援を呼びながら後退するぞ」
「ここは私たちに任せて、あなたは彼女を連れて先に行ってください」
 ここは慣れた場所ですからというクオンと、『邪魔だから退いてろ』と鼻で笑う拓哉。
 それに、こちらへ向かってくる数人の足音や声も響いてくる。
 兵庫は彼らに礼を言い、佐倉の腕を引いてその場を離れた。

 兵庫らと入れ違いにやってきたメンバーの加勢により、綺羅たちは殺人蜘蛛を討伐することに成功した。

 クリストファーは、格納庫からの調査終了の報告を受けていた。
 小型ヴォイドとの交戦にて、何人かの死傷者が出たことに顔を歪める。
 その上、ハンターからの報告によれば、歪虚反応はまだ消えていないという。
「マーティン隊長、機関部を調査していたハンターから報告が届いています」
 鳳・七花が各員からの情報をまとめて報告する。
「うう、姉さんが胸に飛び込んでくる予定だったのに……。反重力機関の不調の原因が分からなかったなんて……」
 戦闘部隊として待機中のアニタに良いところを見せようと思っていた無限 馨が、七花の後ろで最後の報告をしたまま落ち込み気味に突っ立っていた。
 後ろから聞こえる声をあえて無視しつつ、七花は淡々と報告を行う。
「機関動力の融合炉周辺に、クリムゾンウェストの機導術に似た技術の使用が確認されたため周辺を詳しく調査するものの、ヴォイドの痕跡は見当たらなかったとのことです」  まとめられたデータに目を通しながら七花の言葉に耳を傾ける。

 嘆息を一つ。
「機関部に居るわけでもなし、か」
「そうなります。歪虚反応もまだ消えていないとのことです」
 艦内の安全が確保されたことにやや安堵の顔を見せながら七花が頷く。
 少女の表情に苦笑を浮かべつつ、クリストファーは天井を向く。
「となると、残すは外か……」
 艦上部から外壁の調査にあたっている班から吉報が届くのを期待する。
 でなければ、総当たりで他の可能性を考慮しなければならなくなる。

●発見
 戦艦サルヴァトーレ・ロッソの外壁。
 広く、かつ、複雑な構造上、死角の多いその戦艦の外側を幾多の人が調査にあたっていた。
「あああ! 凧が、僕の凧が飛んで行ってまいよる!」
 艦外に設置された外部カメラの死角を補完しようと、淵東 茂が揚げた撮影機器搭載の凧は、戦艦外部の複雑な構造で発生した風の濁流に巻き込まれ、あらぬ方向へと飛んでいく。
 死角を上手く偵察することはできないでいた。
「カイトか。確か、日本の文化……だったか?」
 風に煽られる茂の凧を視界の端に捉えながら、ウィルフレッド・ハミルトンは一時、調査を忘れて艦首へと目をやった。
 後方のカタパルトから外に出て艦首を眺めれば、船の全貌が一様にでき、クリムゾンウェストにはない懐かしき機械の香りがする。
「確かにこれは、あの青き星から転移してきた船、か。ふ、これはただ事では終わらなさそうだな」

ユリアン

 自らがリアルブルーに居た頃を思い出し、ウィルフレッドはしばし昔を懐かしむように想いを馳せた。
「これが異世界の……乗り物一つが都市そのものみたいだ」
 ユリアン(ka1664)は、班の仲間であるウィルフレッドが視線をやった先を追うように艦首へと目をやって、その威容に感嘆を覚えていた。
「まったく、足を滑らせ海にドボン、なんてのはご免だぜ」
 2人が其々の思いに浸っているのを横目に、ナガレ・コールマンは命綱を頼りに身を乗り出した位置から戻る。
「お嬢ちゃん、こっちも異常無しだ。次に移動するぜ、連絡よろしく」
 整備士のアニー アットウェルに声を掛けて、調査範囲が終了したことを伝える。
「……こちらアニー。歪虚らしき異常は発見できず」
 むすっとした声で、アニーは通信機へと報告する。
「つーかあたしが整備した場所でそんなの発生するわけねーです、オーバー」
 愚痴を通信先にぶつけながら、次の調査範囲へと先行して歩き出したナガレ達の後を追っていく。

 そして、幾つかの調査個所で異常無しの報告を伝えられた頃、
「おぉっと、何か発見! 何これ超☆ヤヴァイみたいな?!」
 ザイルにて外壁を懸垂下降したダガーフォールが遂にその姿を発見する。
 艦外部に取り付けられたカメラの視界から逃れるように、ヴォイドは艦の後部外壁下部に張り付いていた。
 こちらからの発見と同時、蠢動する中型ヴォイドの視線もまた、こちらを捉えたと感じた。
 ヒヤリと背筋に悪寒が走ったが、ダガーフォールは慌てず伊出へ発見の合図を送り、するするとザイルを登り始めた。
「こちら、伊出だ。現在位置の艦下部にてヴォイドを発見した」
 伊出 陸雄が連絡しながら、場所を確認する様に下方、中型ヴォイドの方を見やると、その更に後ろから小型ヴォイドが集まってきているのが見えた。
 中型ヴォイドは、こちらの焦燥を嘲笑うかのように身体を一度震わせると、こちらへとその巨体を進めた。
 焦燥。冷や汗が頬を伝う。――追いかけてくる、か!
「迎撃態勢を――迎撃態勢を願う! 奴らに感づかれた! すまない、そちらへとヴォイドを誘導する!」
「落ち着きな・よ☆ あいつらとの距離はじゅーぶん開いてるし、ここからならみんなの所へ戻る間にお迎えの準備もカンペキにできるって!」
 慌てた様子もなく、懸垂降下から戻ってきたダガーフォールが、よっ、と外壁の端に手をかけて、身体を持ち上げ登り切る。
 笑いながら、陸雄の背中をぽんと叩いて、逃走の準備に入る。
 その度胸に少し呆けつつ、にやりと陸雄も笑みを返す。
「浮かれた奴かと思ったら、随分とやるもんだ」
 2人は、艦下部からゆっくりと這い登ってくるヴォイドを置いて、撤退を始めた。

担当:草之佑人
監修:藤城とーま
文責:フロンティアワークス

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