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プレゲーム第1回リプレイ「サルヴァトーレ・ロッソ直衛」

プレイベント第1回リプレイ「サルヴァトーレ・ロッソ直衛」

●サルヴァトーレ・ロッソ周辺領域
 丸々と膨れた蜘蛛が落ちてくる。
 1つ2つではない。
 CAMで感知できるだけでも数十、戦場全域では何体いるのか想像もできない。
 ゲン・プロモントリーは蜘蛛型ヴォイドの進路へCAMを割り込ませる。
 ヴォイド群先頭に対しアサルトライフルを向け即座に発砲。
 密集していた鉄色の蜘蛛に無音で無数の穴が開く。
 2体の蜘蛛は内側から爆ぜ割れるようにして崩壊し、しかし残りの数十が進路を微修正してゲン機に殺到する。
 味方と合流して戦え、死ぬ気か馬鹿野郎とブリッジから五月蠅く言ってくるがここは退けない。
 至近距離を非武装の脱出艇が複数飛んでいるのだから。
 スラスターを全開にしたまま向きを90度変更。
 横に逃げるとみせかけてヴォイド群と並走する。
 非常識な加速だ。ヘッドマウントディスプレイに無数の警告が表示されゲンの体が悲鳴をあげる。
「直衛部隊の名に恥じないようにしなきゃな」
 太い眉を上げてにやりと笑う。残弾0の銃を迫り来る蜘蛛の頭に叩きつけCAMの両腕でカタナを振り下ろす。
 普段の半分も見えない視界で、粘液をまき散らしながら蜘蛛がひしゃげていった。
「今のうちに着艦してください」
 のほほんとした声が脱出艇に届いた。
 薄いオレンジ色のCAMが脱出艇の護衛できる位置へたどり着く。
 死闘を繰り広げる、否、半壊しててもなお動き続け囮に徹するゲンを援護しようとはしない。
 ヴォイドの群れは1つではない。CAM単独で感知できる範囲だけでも3つはいるのだ。
 最初の群れに比べれば少数の蜘蛛共にシールドを叩きつけ、迂回しようとした牙付きの蜘蛛にもう1つのシールドを叩きつける。
 CAMと比べると一回り小さなヴォイドは自身の勢いとシールドの強度に負け、潰れ、盾の表面を戦場色に染めた。
 林海 モニカ(ka0585)は高速でコマンドを入力する。
 ディスプレイに映っているのは2つの盾の裏側で何も変化がない。が、彼女は次の展開が読めている。
「ロケットパンチないなら」
 盾の端に蜘蛛の足が10ほど現れ。盾越しにかかる重さが増してCAMの手首関節から警報が届く。
「殴るしかないですよね!」
 両腕のシールドを排除、スラスターを前、後ろの順に吹かしてCAM1機分の空間をつくり、そこになだれ込むヴォイド十数体に3つめの盾を叩きつける。
 ディスプレイ上の手首、肩、腰の可動部が真っ赤に染まり、脱出を促す表示が視界中央に舞った。
「下がって!」
 全面に表示されたヴォイドが端から砕けて汚い華を咲かせた。
 モニカがCAMの頭を動かす。
 レヴァン機が2つの砲門から銃弾をまき散らしてモニカ機の安全を確保する。
 だがまだ敵がいる。半壊した3体と無傷の2体が、全弾射耗しナイフ1本装備のレヴァン機と盾1つのモニカ機を押し潰そうと迫る。
 モニカ機が盾ごとはじき飛ばされ、レヴァン機はこれまで温存していた燃料を使い尽くす勢いで加速し5体を引きつける。
「急いで」
 脱出艇がCAM乗りの血で確保された進路をいく。

神原 菫

 そこへ第3の群れが近づこうとしていた。
「僕じゃ、出来ることなんて限られてる。でも、出来ることがない訳じゃない!」
 前進を入力。繰り返し前進を入力。
 神原 菫(ka0193)の機体は訓練では絶対に許可されない速度で小型の蜘蛛の群れに飛び込んだ。
 右手の刀で先頭の蜘蛛を潰し、左手の刀で左右の蜘蛛の首を飛ばして障害物へ変える。
 ヴォイドの群れは戸惑いあるいは恐怖したように足を動きが鈍る。
 その隙に、脱出艇がサルヴァトーレ・ロッソへの着艦に成功した。
「良かっ」
 気は抜けていなかった。
 でも、これまでの無理な動きでCAMにがたが来ていてヴォイドの方向転換と加速についていけなかった。
 蜘の脚が接触。菫機の右腕が衝撃に耐えかね脱落。感知装置も破損してディスプレイの半分が何も映さなくなる。
「諦めるもんか!」
 残った左のカタナで向かってくる蜘蛛を三枚下ろし、次を両断、3体目を叩いて潰した時点でカタナが限界を超え根元で折れる。
 菫が残る2体のヴォイドを睨みつけ、2体が左右から菫機を押し潰そうとして、斜め横からナイフとカタナが飛来し2体を串刺しにした。
「あ」
 安堵し、全身が震えた。
 菫がおそるおそる振り返ると、投擲した体勢で機能停止したレヴァン機とゲン機が力無く漂っていた。
「気を抜いては駄目ですよ。CAMから自力で脱出出来ない方は私が」
 第2陣の脱出艇と共に新手のCAMがやってくる。
「あら」
 救助より脱出艇護衛を優先しろと救助しようとした相手から言われ、スピカが迫力のありすぎる笑みを浮かべた。
「怪我人は黙って治療されやがれです」
 穏やかなのにこれほど怖い声は聞いたことがない。
 同行していた砂射 狙が肩をすくめ、第1陣護衛の救助はスピカへ任せて自身はヴォイドの残骸に隠れる。スナイパーライフルを構えオペレーターから情報を受け取り、CAMの感知範囲外のヴォイドに照準。
 銃口から吹き上がる炎が藍色のCAMを不吉に照らすたびに、1つずつ敵がこの世から姿を消していた。

●戦線崩壊直前
 ハブに近づくヴォイドは、サルヴァトーレ・ロッソ付近のヴォイドより少しだけ大きかった。
 その分頑丈で攻撃能力も高い。

東條

ヴィーズリーベ・メーベルナッハ

 蜘蛛型の場合、邪魔なデブリを糸で固定、切断することまで出来た。
「訓練どおりやれば出来る」
 東條 克己(ka1076)のヘッドマウントディスプレイにロックオン完了が表示される。
 焦らず、永遠にも思われる1秒の間をおいて発射コマンドを実行。
 分割されたデブリの隙間をライフル弾が通り抜け、正面から戦えば手こずったかもしれない蜘蛛型ヴォイドの中核部分を撃ち抜いた。
「生き残るんだ、絶対に」
 怒りも憎しみも腹の中に押し込んで次の目標を探す。近くのヴォイドは意識から外し、感知可能な限界の距離から獲物を探そうとする。
 球形に近い暗色のヴォイドが東條を狙って忍び寄り、死角から3発の銃弾を浴び破裂して滅ぶ。
「ふむ」
 再装填の操作を入力しつつ、ヴィーズリーベ・メーベルナッハ(ka0115) は片目を瞑って考え込む。
 臨時で組んだ新米は予想以上の腕の持ち主で、ハブやハブから離脱した脱出艇を狙うヴォイドを大量に仕留めることができた。それも無傷で苦労せずに、だ。
「ねえ子猫ちゃん。救援要請とか届いてないの?」
 ブリッジから羞恥と怒り混じりの問題なしの連絡が返ってくる。
「準備した方がいいかもね」
 ヴィーズリーベは銃弾と燃料の残りを確認し、東條により遠い敵に注意を向けるよう促した。
 その勘は、完璧に的中していた。
 サルヴァトーレ・ロッソ直援CAM隊は、初期にハブから母艦に向かう脱出艇をほぼ完璧に守り抜いた。
 その分のしわ寄せは、とある一点、それも致命的な一点に集中してしまった。
 CAMサイズの蜘蛛がメインブリッジに迫る。
 蜘蛛から吐き出されるのはただの蜘蛛糸。
 人間の人差し指ほどの太さの糸が高速でブリッジへ向かい、直撃寸前にシールドに遮られた。
 ブリッジからは歓喜の声も安堵のため息も聞こえない。
 敵群がマテリアル粒子砲に接近。防衛戦力無し。ブリッジから大量の緊急要請が出されていた。
「マテリアル粒子砲のチャージが終わるまでは」
 エル・ファナティック・ブラッド(ka2603)はスラスター全開にした直後ブリッジ付近の装甲を蹴ってさらに加速する。ブリッジを狙うかエル機を狙うか一瞬にも満たない間迷った蜘蛛をカタナで両断し、斬撃の衝撃とスラスターの推進力で強引に粒子砲付近へ移動する。
 そこにいたのは小型の、何の特殊能力も持たない蜘蛛が6つ。
 エルが盾で受け止めカタナで切り飛ばし蹴りで潰して半減させるに1分もかからない。
 マテリアル粒子砲直撃コースの4体はそれで全滅したけれども、残りの2体は勢いよく加速して粒子砲の近くの外壁に衝突、破裂した。
「っ」
 ディスプレイに、全身の関節部分が真っ赤に染まった自機と、新手の蜘蛛群が表示されていた。
 ラトウィッジ・D・フォーサイスがその場にたどり着いたとき、ヴォイドとマテリアル粒子砲の距離は100メートルもなかった。地上ならともかく宇宙でなら至近距離だ。
「汚ねえ手で俺たちの希望に触んなっての!」
 加速を緩めずアサルトライフルをフルオートに。
 蜘蛛が銃弾の雨を浴びて微かに進路がずれる。
 自機ごと質量弾にするつもりでシールドを構えて突っ込む。
 CAMとほぼ同じ大きさのヴォイドが潰れてラトウィッジ機にまとわりつき、そのまま進路上の2体をはね飛ばす。ラトウィッジ機は、ビリヤードの球のごとく明後日の方向へ飛ばされてしまう。酸素が残っているうちに戻ってこれるかどうか、微妙なところだった。
 残り7体。
 十分な速度を得たヴォイドは命中すればマテリアル粒子砲に致命傷を与えかねない。CAMなら掠めただけでスクラップだ。
 だが、そんな危険なものの前に、特別な装備も持たないCAMが立ちふさがる。
「あなた達は私だけの物なの!」
 絶大な憎悪が言葉と共に、フランツィスカ・ブラは両脇に構えたガトリングガンを1秒もかからず撃ち尽くした。
 しかも進路がねじ曲がるよう特定箇所のみに命中させ、体の半分を潰された6体が粒子砲から逸れていく。
 ただ、奇跡的な射撃は無理に無理を重ねてようやく成し遂げたものだ。
 フランツィスカ機は6体の残骸に巻き込まれ虚空へ消えていった。
「しょうがない、身を粉にして働こうじゃないか」
 淡々と呟きガルクエイが機体を衝突コースへ乗せる。補給を受ける直前に急報を受け駆けつけたので、手元にあるには残弾0のライフルと折れたナイフのみだ。
「マテリアル粒子砲のチャージが終わるまでは、絶対に死守です!」
 無事なのは片手とカタナ1本だけのエル機がガルクエイに並ぶ。
 2人は躊躇なくヴォイドの前に飛び込み、一瞬でヴォイドに止めを刺した上で機体をぶつけて進路をねじ曲げた。
 くるくると、ヴォイドの残骸2つと壊れた人形2つが飛んでいく。
 地獄は終わらない。
 先程より一回り大きく、先程と同数のヴォイドがマテリアル粒子砲突撃コースで接近。
 人類側が新たに投入できたのはCAM2機のみだった。
「キリがないわね!なんて数なの!」
 並走してカトレア・ハートマンが銃弾をたらふく食わせてやっても間に合わない。
「そのまま攻め続けろ」
 もう1機から通信に、カトレアは全身の毛が逆立った気がした。
「迎撃を開始する」
 第2の通信が届くと同時に全弾ヴォイドに叩き込んで離脱。
 それをマテリアル粒子砲の至近で確認したシンイチ・モリオカが、無造作にミサイル発射の操作を入力する。
 数は4つ。
 ヴォイド用ミサイル4発は、粒子砲破壊のため回避を棄て速度を上げていたヴォイド群を包囲する形で炸裂、痕跡すら残さず人類の敵を消し去った。
「回収後補給に戻る」
 ブリッジのオペレータ達が各方面から戦力を引き抜き主砲の防衛にまわす。
 大量に浮かぶCAMの残骸から多くの勇士が回収され、医務室へ直送された。

●艦内
 時は遡りマテリアル粒子砲にヴォイド群が近づいた頃。ブリッジは押しつぶされそうな緊張感で満たされていた。
「ヴォイドの進路変わります。主砲左方5メートルに2体着弾」
 専門の計測器でなくても分かるほどブリッジが揺れ、複数の女性の悲鳴が聞こえた。
「損害報告」

ダニエル・ラーゲルベック

三日月壱

ジョシュア・ハーヴェイ

栂牟礼 千秋

 ツヴァイ・バラムはオペレータ席で膨大な種類の数字を確認し眉をしかめる。
「マテリアル粒子砲が損傷しました」
「落ち着け」
 その声は腹に響いた。
 ダニエル・ラーゲルベック(kz0024)は一瞬だけツヴァイに目をやる。最初から落ち着いていたツヴァイが分かっていますよと軽く唇の端をつり上げた。
「脱出艇とCAMの誘導は継続。整備班を急行させろ」
 トップが落ち着いたまま明確な方針を示したことで、ブリッジの暗さと緊張が適度な水準まで低下する。
「2時の方向、脱出艇です。回収をお願いします」
 アイリーン・コリンズが普段の数割増しの速度で指示を出し通信先を切り替える。
「天頂方向から障害物接近中です。はい、ヴォイドが隠れている可能性が」
 必要な場所に必要な戦力を誘導し、戦力が正しく戦力であれるよう情報をまとめて提供する。CAM戦闘は別種の、戦闘と同程度に苛酷な頭脳の戦いだ。
「脱出艇の索敵なら僕に任せて下さい! 現進路の右34度仰角20度に、はい、それが第2陣の脱出艇です。避難してきた方達を守ってあげてください」
 通信を終了した瞬間、それまで明るく純真な少年を演じていた三日月壱(ka0244)の顔が変わった。
 面倒なことさせやがると迫力のある顔のまま複数面のディスプレイを同時に確認、辛うじて余裕のあるCAMと危険な滑空艇を探しだし、再び仮面を被って通信を繋ぐ。
「燃料全て使って加速をお願いします。前方の脱出艇は1分後にヴォイドに捕捉されます」
「主砲周辺からヴォイドの排除完了!」
 ジョシュア・ハーヴェイ(ka0331)の報告にブリッジが湧く。
「格納庫、発進急がせて! 約200秒で敵増援が来ます!」
 ジョシュアは同調せず数分後の未来のためあがき続けている。
「来た」
 ツヴァイが安堵の息をもらしキーを叩く。
 ダニエルの間近のディスプレイに詳細な損害と整備班の現在位置が表示される。
 詳細報告。マテリアル粒子砲本体に損害無し。エネルギーバイパスに異常発生。充填停止中。
 整備班が到着したと表示されたとき、ダニエルは内心安堵のため息をついていた。
 が、整備班は絶望的に手が足りていなかった。
「私調理員なんですよっ」
 問題の区画で栂牟礼 千秋(ka0989)が消化剤をぶちまける。
 体に悪そうな煙をあげていた絶縁体から炎は消えたが、剥き出しになった線から強烈な火花が飛び散り続けている。
 艶やかな黒髪が、紫電によって幽霊風にライトアップされた。
「ダメコン大事ヨ?」
 整備士の金髪ツインテールが元気に揺れる。
 大きく固いレバーを専用工具で引っ張りエネルギー供給をカット。火花が小さくなりようやく安全が確保される。
 マキナ・M・レイヴンは軽い足取りでひびの入ったパネルに近づき、分厚い手袋をはめた細い手を突っ込んで引っぺがす。パネルは衝撃に耐えきれず十数の破片になって飛び散った。
「いいんですか?」
「背に腹はって奴ネ」
 壊れちゃいけないはずの部品が全て焼き切れている。
 使えない部品は抜き取り床に転がし、持ち込んだ健全な部品を組み込み、省ける場所から部品を拝借して最重要箇所にのみ組み込んでいく。
「出来たネ」
 盛大な虫食い回路を見下ろし眩い笑顔を浮かべるマキナに、たらりと冷や汗を流す千秋。
「はい、お願いします」
 千秋が恐る恐るブリッジに連絡を入れる。返事は、全艦放送だった。
「40秒後に主砲充填再開します。関連区画内から至急退去してください」
 2人は放送に突き飛ばされるような勢いで本来の部署へ駆け出した。
 その頃、格納庫へ空気が流し込まれ安全を示す緑の照明が灯っていた。
 脱出艇の出入り口が一斉に開き、長時間恐怖に震えていた避難民が我先に飛び出そうとする。
「押さない駆けない喋らない戻らない!」
 気合の入った大音量が避難民の足を止める。
 空木 雨音(ka3026)は拡声器を片手で持ったまま、誘導棒で居住区画への入り口を分かり易く指し示した。
「整列した方が早くご飯が食べられるよー? 順番守らないと最後尾に送っちゃうし! あ、怪我は向こうね」
「怪我人はこっちに来い!」
 細身で華のある雨音とは逆の、分厚い筋肉の鎧を持つ男達が列に迫る。
 戦闘に立つのは軍医のギャリー・ハッシュベルト。
 負傷の程度を素早く判断して軽傷者と重傷者をそれぞれ別の班に任せて医務室へ向かわせ、自身は即座の治療を必要とする避難民に緊急処置を行う。
 だが、経験が浅い部下達はギャリーほどためらいなく動けない。
「休む暇ありゃ手を動かせ! 頭を使え! ここが俺らの戦場だぁ!」
 唾を飛ばし吼えても手の繊細な動きに狂いはない。医療班は本来の動きを取り戻し、避難民の列から怪我人を回収する。
 ようやく安全な場所だと実感できたのだろう。避難民の列から安堵のため息がいくつも聞こえた。
「何をしている」
 避難民の列にいたミシェル・ローランドが、足を止めてしまった少女を連れ列から離れる。
 腰をかがめて目をあわせると、虚ろに見開かれていた幼児の目から涙がこぼれた。
「おか……さんが……」
 小さな手が、汚れてしまったぬいぐるみを痛いほど握りしめている。
「分かったから泣くな。一緒に探してやるから」
 穏やかな声で宥め、優しく背中を撫でる。幼児は声も無く泣いてミシェルに従い列の後を追う。
 ようやく傷を自覚出来た者に、力を振り絞り支える者。
 この場でも人類生存のための戦いが行われていた。

●避難民第一陣
 医務室には次から次に患者が運び込まれ足場もない有様だった。
 患者の視線がリアルロリ巨乳に引きつけられ、その隙にリアルロリもといミーチェ=セフェルトの注射器が患者の血管を捉えて限界ぎりぎりの速度で薬液を注入した。
「あの、これで大丈夫です」
 自信のなさは患者の不安を煽る。しかし手当の内容と手際は見事なものだった。
 逞しい看護師が患者を廊下に追い出し次の患者を運び込もうとして、おやと驚きと簡単の混じった表情を浮かべる。
「だいじょうぶ、だから」

桜憐 りりか

 自身も避難してきて身も心も疲れ果てている桜憐 りりか(ka3748)が、それでも笑顔を浮かべて怪我人に包帯を巻いていた。柔らかな声は緊張で凍り付いた怪我人の心に潤いを与え、涙をこぼさせる。
「一息ついたらこれに入力してくれ」
 榊 蔵之助(ka1529)が、艦内用の端末を患者に突きつけ顔写真をとり名前だけを入力させる。
「ありがとよ。名簿がないと家族も友人もあんたを探せないからよ」
「あの」
 看護師からもらった新しい包帯を胸に抱え、りりかがじっと見上げている。
 蔵之助がうやうやしく端末を差し出したとき、突然照明が弱くなった。
 艦のエネルギーの流れが大きく変わったのだ。
 遠方に位置する大型ヴォイドに、おそらく唯一対抗可能なマテリアル粒子砲。
 それへのエネルギー供給が再開され、加速される。エネルギー吸収速度はこれまでの遅れを取り戻すため凄まじく、医務室や戦闘に直結する区画以外では暗闇に襲われるところもあった。
 たとえば、放置しても死にはしない状態の避難民が収容された区画とかだ。
「我等が矛に力が集中しているようです。皆さん、後少しの辛抱です」
 体育館サイズの大部屋の照明が落ちてから悲鳴があがりかけるまでの一瞬にも満たない間に、絶妙の機を捉えた声が放たれた。
「矛」
「主砲、あの大きな」
 恐慌を未然に潰し終えたシトリア=クラローテはが、非常灯だけで薄暗く照らされた部屋を見回す。自分と同じく冷静さを保ち同程度に押し出しのききそうな人材を捜し、見つけ、連携をとるために。
「家族やご友人とはぐれた方はこちらに集まってください」
 拡声器を使い、放っておけば騒ぎかねない者を集め宥めるのはルメナ=スペレール。今は脱出することが優先と意識を誘導して沈静化する手際は見事で、この場に本業政治家の親族がいれば即後継者に指名したかもしれない。
 ヴォイドの来襲、サルヴァトーレ・ロッソの救援、さらにコロニーからの撤退は多くの人々を強制的に引き離した。人々はひとまずの安全地帯に辿り着いたことで、ようやく恐怖を感じられるようになる。
 藤瀬 サトミの手にある携帯電話に着信はない。
 回線が込みすぎて父や母に繋がらないだけなのか、あるいは電話ごと消えてしてしまったのか、考えるだけで胸の内側が削れていく気がする。
 奥歯を噛みしめ顔をあげる。母にいつも褒められている赤い髪が、青ざめた頬を撫でた。
「何かお手伝いできますか?」
 己を慰めるためでなく家族に胸を張って会うために、背を伸ばし、繰り返し優しく視線をあわせて自分に似た境遇の者に話しかける。
 サトミより頭1つ小さな少年、ロン=マドックがひくっとしゃくり上げた。
 ロンが抱えているのは、どれだけ大事にされていたかよく分かる少し古い型のアルバム。でも今は、ロンの両親の血で薄く赤黒く染まっていた。
「おとーさぁん、おかーさぁん」
 これまで泣いて泣いて痛んだ喉からしわがれた声が漏れる。
 声をかけてよかったのか悩むサトミだが、このとき話しかけなければ戻って来られない場所までロンが行き着いていたかもしれない。
 部屋の片隅、小さなディスプレイが埋め込まれた角に月森 雪奈(ka5264)がうずくまっていた。
 数時間前までは明るく快活だったのに、今は出来の良すぎる人形にしか見えない。
 仕立ての良い服は彼女を庇って死んだ家族の血が張り付き、瞳孔は開いたまま戻らない。
 避難状況が表示されていた画面が切り替わり、ヴォイドが砕かれる光景が映し出された。
「私も軍人になれば」
 CAM乗りの闘志に満ちた叫びが凍り付いた心に響く。
「あれを殺せるの? 皆と同じようにグチャグチャにできる?」
 雪奈の瞳は平常に戻らず、憎悪だけが燃えていた。

担当:馬車猪
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

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