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プレゲーム第1回リプレイ「LH044脱出」

プレゲーム第1回リプレイ「LH044脱出」

●それぞれの逃亡劇
「……んだよこれ……んだよこれ!!」
 赤い非常灯に照らされたパイプが複雑に入り組んだ通路の中を無我夢中で駈けて行く紫雲 篝の口から本人も意識しないままに繰り返しこの呟きが漏れていた。
 その全身はべったりと血で汚れている。彼自身の血ではない。むしろ、彼自身の血であったならどれだけ良かったことか。それは彼の親友の血だった。
「――!」
 ぎゅっと唇を噛む篝。必死に前を見るその目からは止めどどなく涙が流れる。
 彼の親友は殺された。彼の目の前でヴォイドに殺されたのだ。
 篝は瞬きで目を閉じれば途端に甦る、あの光景。あの悲鳴。それを必死に振り払う。走ることで振り払おうとする。だが、その彼の走りは唐突に止められた。
「……!」
 絶句する篝。闇の中、明らかに異質な『目』がきょろきょろと蠢く。棘の生えた脚がカサカサと嫌悪を催す動きで速やかに篝の方へ近寄って来る。
 恐怖のあまりか、それとも親友を奪われた怒り故か。篝は目を閉なかった。
 それ故、彼は軍で正式採用されている小銃の発砲音だけでなく眼前のヴォイドが体の一部を吹き飛ばされ体液を撒き散らすさまをしっかりと目撃することが出来た。
「何とか間に合ったようだな。大丈夫か?」
 呆然とする篝の前に現れたのは、彼とほぼ同じ年齢の少年――月村 恭也(ka0418)だった。
「礼なら後でいい」
 何か言おうとする篝を制して恭也は手に持っていた拳銃を篝の方へ差し出した。
「これって……」
 目を丸くする篝。
「……ここまで来る途中、死んでいた軍人たちから借りてきた」
 その言葉に、改めて親友の死を思い出し目を閉じる篝。
「探せば、俺やお前のような逃げ遅れた人たちがまだ居るはずだ……彼らと合流して最寄りの脱出艇かハブを目指そう」
 受け取った銃を握る篝。不思議なことだが、彼はその握り締めた手にぬくもりが甦るのを感じた。直前までお互い握りあっていた親友の手の。
「解った……俺も、戦う」
 頷く篝。彼は戦う決意をした。仇を討つためではない。今度こそ、守るために。

「また来やがったな、この化け物があっ!」
 広大な牧草地帯の真ん中にて、ダンガリーシャツ他いかにも大農場の主と言った風情のハーランド・エドワーズは口汚く罵声を吐きながら自衛用のショットガンを構えて振り向いた。
「……む?」
 しかし、そこにいたのはあの悍ましいヴォイドではなくお気に入りの熊のぬいぐるみを抱えてぶるぶると震える可愛らしい少女、佐藤 絢音であった。
「お嬢ちゃん、何だってこの緊急事態に一人でこんな所にいるんだ?」
 精一杯優しく尋ねる髭面のエドワーズ。
「パパ……ママ……ぐすっ」
 ただただ泣きじゃくる絢音。しかし、エドワーズは彼女の唇から洩れた単語から容易に状況を察した。
「そうか、ご両親が……大変だったなぁ」
 エドワーズの節くれだった手が少女の頭を優しく撫でる。
「それで……こっちの方から……てっぽうの音と、おじちゃんの怒った声が聞こえたから……」
「それで、安全な方向を見定めたって訳か。こんな小っちゃいのに大したもモンだ」
 そう言ってガハハと笑うハーランドの足元では、大型犬くらいの大きさの小型のヴォィドの遺体が速やかに分解しつつあった。
 この程度のヴォイドを仕留めるのに彼は装填していた弾丸を全て使い果たしていた。
 無理もない。気密のためコロニーでの銃器の所持は厳しく制限される。彼がこの銃を持てていたのは彼のコレクションで前世紀の骨董品だったこと。
 そしてショットガンという貫通力には劣り、旧式であることもあってコロニーの外壁の最も脆い部分に接射しても、安全だと判断されたからに過ぎない。
「なーに、安心しなこの俺と出会ったからには安全だ! しかし……」
 ハーランドは溜息をついた。ありったけの弾丸を使ってようやく仕留めたのは敵の群れの中でもごく弱い小型のものに過ぎない。
「……俺もこの牧場を捨てるのは癪だが、命には変えられねえ。この先の納屋に、ウチのがクルマが留めてある。そのどれかに乗って逃げるぞ」
 ぬいぐるみを抱きしめたままこくんと頷く絢音。
「そうだな、トラクターにでも乗って連中を耕しながら逃げるか! なーに、中央ハブにまで行ければきっと助けが来る! ……お嬢ちゃんのパパとママもきっといるさ!」
 ぬいぐるみに押し付けられた絢音の口元が少しだけ笑った。
 ここまでの行動で解る通り、彼女はこの年齢としては相当に頭が良い。恐らくハーランドの言葉を信じたのではなく、その心遣いがうれしかったのだろう。
 だが、微かな希望を胸に抱いて納屋に急いだ二人が直面したのは紛う事無き『絶望』であった。
 破壊しつくされ、燃え上がる納屋。その炎に照らされぬめり輝く蛸と蟹の合いの子のようなヴォイドがゆっくりと獲物の方を向く。
「○×△―!!」
 最早言葉にも聞こえぬ悪罵と共にハーランドは再装填したショットガンを連射。
 しかし、ヴォイドは全弾を浴びせられても一向に怯まず、その歪んだ鋏角をゆっくりと二人の方に伸ばした……次の瞬間。側面からの銃撃がヴォイドを貫いた。
 真っ先に発砲したのは篝だった。小型ではあるが、強力な弾丸がハートランドと絢音を襲おうとしていたヴォイドが激しく身体を痙攣させる。
 その隙に、ハートランドは絢音を抱えて篝と恭也のいる方向に向かって走る! なおも追いすがろうとするヴォイドに今度は恭也が発砲して足止めした。
「助かったぜ……」
 農場を抜けて、ようやく安全な場所まで辿り着いた時、ハートランドが礼を言う。
「良かった……」
 篝の言葉は、ハートランドたちにというよりは自分自身に向かっていっているようにも見えた。
「さて、次はどっちへ向かうか」
 そう呟く恭也を見上げ、絢音はある方向を指す。その時、全員がその方角から銃声がしている事に気付く。
 彼らは実際に合流するまで知ることは無かったが、それはアンジェリナとキリル・シューキンが応戦する音であった。

「全く、我ながら情けない……」
 キリルはそう情けなく笑うと、本と埃の山から体を起こした。ここは、コロニーの一角にある彼の学校の研究室。
 彼は襲撃時の振動で倒れてきた本棚の下敷きになっていたようだ。幸い怪我はしていないものの、周囲に人の姿は無い。逃げ遅れたようだ。とにもかくにも、研究室の外に出て彼は絶句した。
「……ひどいな」
 彼の研究室のある区画は既に破壊し尽されていた。彼の研究室がある建物を始めとして見渡す限りの建物が、無残に破壊されている。
 ふと、近くを見ると誰かの遺体が建物の破片の下敷きになっており、がれきの下から伸びる手の先に軍隊で使用されている小銃が転がっていた。
 拾った小銃を手に、とにかく市街地を抜けハブへと向かおうとするキリル廃墟と化したビルの角を曲がった時、突然彼はアンジェリナ・ルヴァンと出会った。
「何だ、人間か……」

 危うく銃を突きつけそうになったキリルが、ほっとしながら言う。
 一方、アンジェリナはいきなり。
「良かった……やっと軍人に会えた……」
 そのまま地面に座り込むアンジェリナ。驚いて自分の格好を見直したキリルは納得した。トレンチコートに銃。これでアンジェリナは勘違いしたのだろう。
「今は、本隊からはぐれてしまっているが……私はキリル軍曹だ」
 良心の呵責を感じつつ、相手の希望を失わせないためにそう名乗るキリル。
「ありがとう……私は、アンジェリナ・ルヴァンだ」
 そう名乗ってからアンジェリナは自己紹介が必要だと気付いたのかこう付け加えた。
「このコロニーの者ではない。ここにはバカンスで来ていた」
「バカンス? じゃあ、あそこの区画からここまで?」
 そう言って、アンジェリナがいた筈である観光用の区画を見上げるキリル。だが、そこは丁度反対側にあるこの位置からも既に破壊し尽されているのが見えた。
 何気なくキリルの視線を追ったアンジェリナの表情が、同じ位置を見つめて凍り付く。
「……そうだ、私の両親は、あそこで……あそこで……!」
 わなわなと震えだすアンジェリナ。
「二人は、最後まで私に『生きろ』と……だから、こんなとこで……こんなとこで死んでたまるか!」
 キリルは何も言えず、黙ってアンジェリナより先に歩き出すしかなかった。

 その後も、彼らの避難は続いた。そして、今彼らはコロニー外周に設けられた複数ある脱出艇の中で身を寄せ合っていた。
 既に発進の準備は整っている。後は周囲のヴォイドが手薄になるのを待つばかりだ。
 そんな状況、彼は途中で合流したタンポポが皆に配ったカロリーブロックを詰め込んで腹ごしらえしていた。
 極限の緊張の後の故か、妙に美味しく感じられる。
「……あの変な子達も、お腹空いてるの?」
 そんな中、当のタンポポ(ka1234)がぽつりと言った一言に全員の注目が集まる。
「ねえ、何で皆をいじめるのかな? 怖いのかな?」
 誰かが口を開こうとした時、無機質な機械音声が脱出シークエンスの秒読みを告げた。
 ――今はまだ、ヴォイドと戦う術を持たぬ彼らはタンポポの問いの答えなど知る由もない。それでも、いずれは……。

●最後の脱出者たち
 かつて、そこは学生たちが集い明るい声が木霊する場所であった筈だ。だが、今は悲鳴と怒号が飛び交い、そしてヴォイドと呼ばれる異形の軍勢が群がる地獄と化していた。
 その真っただ中で防衛隊の一人、ロバート・ガレオン(ka0048)はこの状況を楽しむかのように叫んだ。
「いいか! 最高だ! 民間人を守るぞ! 死人からも武器をはぎ取れ! 使えるやつはナイフでも分捕れ!」
 彼は戦争さえ出来れば満足なのか防衛線の最前列に陣取り、ひたすら機関砲を連射していた。
「おいおい、頭出しすぎだまぬけ」
 校庭の一角に急遽残骸で構築されたバリケードの陰から、自身の放った弾丸にヴォイドが貫かれたのを確認して玖ヶ塚 旋風は皮肉に口元を歪めた。
 しかし、その顔はよく見れば疲労が色濃く出ている。それは、白髪の混じり始めた彼の年齢によるものではなく、この絶望的な戦況故だ。
 なにしろ、彼らが遮蔽物にしているのは既に機能を停止した最新兵器、CAMの残骸なのだから。
 旋風の傍らでは歩兵装備に身を固めた、ほぼ同年代の須藤尚孝が必死の形相で敵の群れに小銃を放つ。
「あまり無駄弾使うな」
 思わず声をかける旋風。だが、彼はそんな声など耳に入らないかのように。
「ここには俺の子がいるんだ……これ以上は進ません!」
 肩を竦める旋風。だが、彼にも尚孝の気持ちは理解できた。彼とて一人娘を持つ身なのだから。
「ちっ! ふんばるしかねえか」
 彼がそう言って引き金を引こうとした時、突如一匹のヴォイドがバリケードを飛び越えて着地した。
 だが、旋風と尚孝が銃を構えなおすより早く、横合いから安藤・レブナント・御治郎が自分の小銃に残っていた弾を叩き込み、何とかヴォイドを射殺する。
「助かった……だが、あんた、弾は?」
 銃を投げ捨てる御治郎に旋風が顕現な表情を見せる。
「な、なぁに……弾が切れればナイフで、刃が折れれば瓦礫ででも殴ってやるさ。少しでも時間を稼がないとな……軍人の本懐此処にありって感じだぜ……」
 その時、またバリケードを越えてきた小型のヴォイドが御治郎の背後に。御治郎の表情が凍り付く。
「危ない!」
 だが、そう叫んだ尚孝の小銃が火を噴きヴォイドを撃ち殺した。
「は……はは、勿論ウソだよ……」
「お、おい?」
 御治郎の様子がおかしい事に気付く尚孝。御治郎の身体は恐怖に打ち震えていた。どんなに強がってみせても、精神はとうに限界だ。
「タスケテェー! 救援早くぅー!」
 絶叫が響く。それに応えるかのように、校庭で兵士たちか気付いた最終防衛線に守られた急造の戦闘指揮所から女性兵士である寒河江 真言の嬉しそうな声が通信に響いた。
「援軍だよ! あの最新鋭艦サルヴァトーレ・ロッソが来てくれたって!」
 そう言ってから、真言はだからもう少し持ち堪えて、と言おうとした。が、既に防衛線の崩壊は時間の問題であった。
「……このままじゃ学校が、シェルターが! ちっちゃい子もいるのに……!」
 遂に、真言は決断した。
「皆、もうここで待っていても駄目だよ、皆でサルヴァトーレ・ロッソの方に移動しよう!」
 彼女の提案に指揮所の人間は一様に驚くが――すぐに納得した。
「だけど、問題は脱出ルートだね」
 K・ハイネマンの言う通りだった闇雲に逃げれば避難民のいるこの状況では、全滅するだけだ。
 だが、一心に端末を操作していたハイネマンは努めて明るい表情で言う。
「大丈夫、まだシステムの一部は生きている。これなら、周辺の電源系から無事なルートが策定出来るよ」
 だから、もう少しだけ持ち堪えて欲しい。そうハイネマンは申し訳なさそうに仲間に詫びると再び端末に向かい、呟く。
「誰も見捨てない……全員で生き残るんだ」

フラヴィ・ボー

『この放送が聞こえていますか? 残されたシェルターはこの学校の物だけです。逃げ遅れた方は直ちに集合して下さい。繰り返します――この放送が聞こえていますか?』
 放送室から聞こえるフラヴィ・ボー(ka0698) ーの声。LH044のとある学校、そこが最後の脱出劇の舞台であった。
 度重なるコロニーの破壊にシェルターが揺れる。その度に下級生たちの押し殺した悲鳴や嗚咽がシェルター内に広がってく。
 悲鳴を上げ、泣き叫びたいのはキリエ・マーカーとて同じだ。だが、彼女は養護教諭という立場を支えに、震える両足を拳で叱咤し、子供たちや近隣の避難民たちの間を駆けまわって、常備していた医薬品を配って回る。
「心配ないわ。怪我したらこれで治るわよ」
 キリエがそう言うと、小さな子供は受け取った薬を大切に抱きしめた。
 子供たちの中には既に怪我をしている子も多い。クティ・アモンはキリエから受け取った絆創膏で手早く手当てを施していく。
「大丈夫よ。お姉ちゃんも一緒にいてあげる」
 クティの言葉に、子供も小さく頷いた。
 一方、学生ではない近隣の住民や、学校の先生などにも怪我人は多い。医薬品は傷の重い者や女子供が優先なので、中には医薬品を使っての治療を受けられない者もいた。そういった怪我人を前にしたシエルは迷わなかった。
「血を、血を止めなければ……!」
 傷は深くはないが出血が多い。包帯が足りないことが解っているのでシエルは消毒だけすると、そこに引きちぎった自分のスカートを巻いていくのだった。
 そうこうしている内に、寒河江ら軍人からシェルターを脱出するという指示がもたらされた。勿論、皆それしかないと解ってはいるのだろうが、やはり動揺が広がっていく。
 その混乱を収めるべく、アイゼリア・A・サザーランドが立ち上がった。
「大丈夫! 今の軍人さんの話を聞いたでしょう? 救助はすぐそこまで来ているわ! だから、生徒も、住民の皆さんも避難訓練の通り、整列ッ!!」
 その凛とした声に、住民たちは勇気づけられた。整然と訓練で学んだ通りに準備を整える避難民たち。
「それじゃ、おねーさんについてきなさーい」
 立ち上がった美少女、クリス・クロフォードが自身に溢れた態度でまず小さい子供らを先導する。
「ありがとう、クリス……」
 信頼する生徒の振る舞いにほっと息を吐くアイゼリア彼女も緊張していたのだ。
「任せて! センセ、じゃあ先行くからね」
 そう言って手を振るクリス。
「お願いね、クリス。でも、脱出したら今度こそ女子制服を着るのは止めること。いいわね?」
 しかし、クリスは振り向いて舌を出しただけだった。
「良かったわ。おかげで授業時間が伸びたじゃない」
 物資の箱の上に立っていたソフィア・シュナイダーのその冗談に、何人かの避難民は少しだけ笑顔を見せた。
「いい? 基本的な使い方は今教えた通りよ」
 壇上で改めて武器を構えて見せるソフィア。見れば避難民の内の何名か彼女と同じ武器を握っている。
「後は指示に従ってくれれば大丈夫! ハブまで一気に駆け抜けるわよ……敵? あんなのはアンモナイトと同じよ」
 ソフィアの冗談にまた何人かが笑った時、指揮所からハイネマンの脱出経路が決まったという通信が入る。いよいよこのシェルターから脱出する時が来たのだ。
 シェルターの出口には、既に避難民の有志や防衛隊の一部が用意した車両がかき集められていた。
 だが、車両を集めてきた人物の一人である緋想ヒナは、一台の大型車両を前に、焦っていた。
「そんな……ここまで来てエンジンがかからないなんて……!」

リック

 もしこの車両が使えなければ、車に乗れない人々が出てしまう。だが、ヒナに工具箱を抱えたリック(ka0614)が余裕な態度で話しかける。
「ちょっとどいてくれ…これは多分ここが……そら動いた!」
 ジャンク屋であるリックにとってこの程度の修理はお手の物。普段は尊大なヒナも思わず感謝する。
「へへ、ついでに運転も任せな」
 リックがそう言った時、和久 司がやって来た。
「無事動くようだな……こっちも準備が出来た」
 警官である司は、自分の装備のほかに防衛隊から拝借して来た武器を並べて見せた。
 避難民たちがソフィアによる武器のレクチャーを受けている。きっと役立てられるはずだ。僅かにだが脱出への希望が見えてきた。だがヴォイドの群れの第二波が学校の近くに現れたのは、その直後であった。
 バリケードに開いた穴に殺到するヴォイドたち。その数は見ただけで圧倒的だ。だが、彼らの戦闘集団が校庭になだれ込んだ瞬間、そこに一台の輸送車が突っ込んで来た。しかも、その荷台からは火の手が上がっている。
 群れの中に突っ込んで横転した車両は、すかさず燃料に引火し大爆発を起こした。

テンシ・アガート

 祈るようにその成り行きを見守っていたテンシ・アガート(ka0589)はヴォイドの動きが一時的の止まったのを確認して振り向くと避難民を鼓舞する。
「さあ、もう少しです! 早く車に……皆で生きて帰りましょう!」
 アガートに説得され、その場に残っていた車両にすし詰め状態で乗り込んだ住民たちに安堵が走る。
 だが、その時誰かが悲鳴を上げた。何と別方向から小型ヴォイドの小集団が出現。まだ発進準備が整っていない車両の方へと群がっていく。しかし、彼らの注意は反対方向で響いた爆竹の派手な音に向けられた。
「私だって怖い……だけど……民間人を守る責任があるから……」
 奥歯をカチカチと鳴らしながら、それでも瀧 かなめは二つ目の爆竹に火を点けた。武装は小銃のみ。
「みんな、どうか、無事で……」
 ヴォイドたちは、あるいは先ほどテンシの特攻させた車両の爆発で神経質になっていたのか、迷わず彼女の方に向かっていく。
 既に発進した最後尾の車両の避難民たちの耳に三発目の爆竹の音が聞こえ――それっきり銃声も悲鳴も聞こえなくなった。
「希望は……繋がった……どうか幸せに……」
 同様に最後の車両の発進を見届けた尚孝は、銃を下すと、遮蔽物にしていた瓦礫に寄りかかる。既にバリケードは寸断され、旋風や御治郎とも離れ離れ。
 周囲に最早生きている人間はいなかった。
 銃撃が止んだ途端ヴォイドが群がってきたが、その時、既に尚孝は目を閉じていた。
「……解りました! そっちの道路は避けてA地区からハブに向かいます」

 サルヴァトーレ・ロッソから来た救援部隊との通信を切ったハルト・ドゥルックは、車列の先頭を走る車両の窓から身を乗り出し、周囲を警戒する。学校を襲っていた集団は振り切ったようだが、まだ油断は出来ない。
「……」
 ハルトは目を閉じ、散って行った同僚たちを思い浮かべ、改めて銃に再装填。
 その傍らでは、ジェイク アルバーンが車列の進路になおも群がる少数のヴォイドに向けてひたすら弾丸を撃ちまくっていた。
「かかって来いよクソヴォイドども! このジェイク様が相手になってやらぁ!」
「迂回してハブに向かいます。和泉さん、ルート変更を!」
「了解! 道はばっちり記憶してるから任せて! このままみんなで絶対脱出、だよ!」
 ハルトの指示に運転席の和泉 鏡花がギアを入れ替えアクセルを踏み込んだ。
 銃声を後に残して、車列はひたすらに崩壊寸前のコロニーをハブに向かって爆走するのであった。

●闇の中の光
 唐突にLH044に『夜』が訪れた。原因は、コロニーの集光システムの破損。通常のコロニーの一日で訪れる管理されたそれではない暗闇の中、車列は立ち往生するしかなかった。
 闇の中、運転手や軍人たちが必死にルートや現在地を確認する中、だれかが叫んだ。あれは何だ、と――。
 色とりどりの眼球だけが、出鱈目に、左右非対称に、異様な角度で煌めき蠢く――最悪のタイミングでヴォイドの一団と遭遇したのだ。
 直ちに応戦が始まった。
「みんな頑張ってるから、絶対報われます! もっと、もっと撃って!」
 射撃に長けたリンカ・ロ?ゼンハイムの鼓舞の元、ソフィアのレクチャーを思い出して必死に撃ちまくる人々。
 ヴォイドはすぐには車列には近づけないでいた。とにかく強行突破したいところだが、どの方向から敵が来ているかわからない状況では迂闊に逃げ出すのは危険だった。
 だが、この状況を打開する案は意外なところからもたらされた。
「軍の車なら熱源探知モニターくらいついていないの!? 人とヴォイドなら大きさも熱量も違うはずよ! 確認して敵の手薄な方向に脱出を!」
 こう叫んだ三木名 雪の判断は正しかった。熱源探知機に映し出される蛸や虫を思わせる異様な反応から敵の分布は解った。
 だが、敵は完全に車列を取り囲んでいる。
「こうなったらせめて若い奴くらいは……」
 覚悟を決め、前に出たのはトウモロコシ農家のシンジ・マツダ。
「俺も付き合うぜ……怪物なんぞにあいつとの約束は破らせねえ!」
 同じく農家経営の築地 龍正も雄々しく叫ぶ。
「げ!? あれがヴォイド……こ、怖いけど、俺は! 絶対父ちゃんを一人になんかしないんだからな!」
 龍正の息子である、築地 瀧生も父の側に並ぶ。
「行くぞ瀧生! 男なら根性みせろ!」
 彼らが手に握っているのはスコップや鉄パイプでは勿論無く、司が調達してきた銃器であり決して無謀ではない。
 その証拠に、一旦は気力が萎えかけていた人々が再び闘志を取り戻す。そして、センサーが僅かにだが敵の群れに脆弱そうな箇所が出来た事を示した時、人々はそこに突入した。

 弾丸をほぼ使い尽くして敵の群れを強行突破した車列はどれほど走っただろうか。安全な迂回路を取っているせいもあり、まだハブは遠い。
 そんな中、誰かがまた悲鳴を上げる。
 まただ。再び暗闇の中に煌々と光る目が――だが、何かがおかしい。
 最初にその正体に気付いた軍人が歓声を上げた。同時に、闇の中でアイセンサーのみを光らせていた数台のCAMが一斉に投光器を使用して車列を照らし出す。
 人々の目が潤んでいるのは、眩しいからだけではあるまい。
 彼らは、生き残ったのだ。尊い幾許かの犠牲の上に、最後の避難民が今、LH044を後にする――。

担当:稲田和夫
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

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