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【東幕】篝火狐鳴「ゲート開放阻止」リプレイ

▼【東幕】グランドシナリオ「篝火狐鳴」 情報▼
▼--OPと参加者一覧▼

 
 

作戦2:ゲート開放阻止 リプレイ

蓬生
蓬生
青木 燕太郎
青木 燕太郎 (kz0166)
ルトガー・レイヴンルフト
ルトガー・レイヴンルフト(ka1847
シガレット=ウナギパイ
シガレット=ウナギパイ(ka2884
エラ・“dJehuty”・ベル
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
スメラギ
スメラギ (kz0158)
龍堂 神火
龍堂 神火(ka5693
鞍馬 真
鞍馬 真(ka5819
アルバ・ソル
アルバ・ソル(ka4189
リューリ・ハルマ
リューリ・ハルマ(ka0502
アルスレーテ・フュラー
アルスレーテ・フュラー(ka6148
エステル
エステル(ka5826
アーサー・ホーガン
アーサー・ホーガン(ka0471
神代 誠一
神代 誠一(ka2086
アルト・ヴァレンティーニ
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
セツナ・ウリヤノヴァ
セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645
トリプルJ
トリプルJ(ka6653
シアーシャ
シアーシャ(ka2507
ケイ
ケイ(ka4032
イスフェリア
イスフェリア(ka2088
十 音子
十 音子(ka0537
マリィア・バルデス
マリィア・バルデス(ka5848
ジェールトヴァ
ジェールトヴァ(ka3098
ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ
ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804
南條 真水
南條 真水(ka2377
コーネリア・ミラ・スペンサー
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
時音 ざくろ
時音 ざくろ(ka1250
ヴィルマ・レーヴェシュタイン
ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
エステル・ソル
エステル・ソル(ka3983
不動 シオン
不動 シオン(ka5395
オキクルミ
オキクルミ(ka1947
 空に生じた亀裂の遥か下。地上に敷かれた漆黒の魔法陣。
 駆け付けたハンター達の目に飛び込んだのは、負のマテリアルが溢れるその中央で困り顔をしている蓬生と、亀裂から次々と湧き出る影のような猪狐を薙ぎ払っている青木 燕太郎(kz0166)だった。
「あー。ハンターさんすみません。お恥ずかしながらこんな状況なので助けて貰えませんかね」
 元憤怒王のプライドも何もない台詞に、言葉もなく呆れたようにため息を漏らす青木。
 ルトガー・レイヴンルフト(ka1847)はニヤリと笑って蓬生に目線を送る。
「へぇ。人間やハンターにも色々いるように、歪虚にも色んなのがいるんだなぁ」
「全くだ。まさか歪虚を助けを求められる日が来るとはなァ」
「データとしては、いいものが取れそうですけれどもね」
 頷くシガレット=ウナギパイ(ka2884)。
 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)は興味深そうに魔法陣に縛られている蓬生と戦っている青木を見つめる。
 スメラギ(kz0158)は手早く符を並べると、ハンター達を振り返った。
「よし! 準備完了だ! 結界陣始めるぞ! 集中が必要なんで暫く動けねえから宜しくな!」
「OK! ちゃんと守るから!」
「はい! スメラギさんがきちんと集中できるように頑張りますからね!」
 カードデッキと盾をそれぞれ構え、こちらも準備万端、という意思を見せる龍堂 神火(ka5693)とルカ(ka0962)。
 鞍馬 真(ka5819)も剣を構えて息を整える。
 ――この戦いが東方と世界の命運を決める、か。負けられないな……!
 始まるスメラギの詠唱。沸き上がる金色の光。敷いた陣から光が強くなると、上空に生じている亀裂が広がる速度が緩やかになる。
 邪魔が入ったことを察したのか。それとも『向こう側』からこじ開けようとしているのか――。
 亀裂から溢れ出て来る猪狐歪虚の数が一気に増加した。
「数が増えたな……」
「困ってるようだね、青木。力を貸そうか?」
 舌打ちする青木。挑発するように笑うアルバ・ソル(ka4189)を一瞥する。
「勘違いするな。助けを求めたのは俺ではなく蓬生だ」
「もー。またそんなこと言って。燕太郎さん、蓬生さん助けてここを早く出るのには一緒に戦った方が早いよ」
 窘めるように言うリューリ・ハルマ(ka0502)を睨み付ける青木。
 異論はないのか、無言を返す彼に、アルスレーテ・フュラー(ka6148)が包みを差し出す。
「あんたには文句を山程言いたいけど、今は我慢してあげるわ。ほら、とりあえずこれあげるから協力しなさい」
「要らん」
「はぁ!? あんたね、ツナサンド馬鹿にすると痛い目に遭うわよ!!?」
「ああ、アルスレーテ様、落ち着いて……!」
 ピシャリと跳ね除けた青木にブチ切れるアルスレーテ。
 別に青木はツナサンドを馬鹿にした訳ではないと思うのだが。
 彼女を必死で宥めるエステル(ka5826)を見て、アーサー・ホーガン(ka0471)が苦笑する。
「ったく、賑やかなこったな。こっちはこっちで始めるとするか」
 そういう間に輝く槍を振るい、猪狐歪虚を両断したアーサー。
 ……青木が蓬生の吸収を狙っている。懸念事項がないとは言わないが、今はそれより優先すべき事がある。
 仲間達があの奇妙な歪虚を説得してくれるだろう。そう期待して――。
「よし、行きましょう、皆さん!」
 気合を入れつつ、仲間達に合図を送る神代 誠一(ka2086)。彼は棒手裏剣を手に走り出す。
「エンタロウ。セトさん程じゃないがお前に合わせてやる。私が敵を集めるから槍でも黒弓でも新しい技でもいいから纏めて消し飛ばせ!」
「あっ。燕太郎さん! 鎖が出る技と無理は禁止ね!」
「……全く。注文の多い奴らだな」
 守護者としての力を開放し、燃え盛るようなオーラを纏うアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
 リューリの身長を遥かに超える魔斧と、青木の槍が猪狐歪虚を薙ぎ払い――。


 ハンター達と青木による猪狐歪虚の掃討が始まる中、身動きの取れない蓬生の元にハンター達が集まっていた。
「蓬生殿。束の間の共闘となりますが……大丈夫ですか?」
「正直なんでこうなってんのか理解に苦しむんだが。自力で……って、厳しそうだな。すまん」
 蓬生に牽制しようとしていたのも忘れて思わず声をかけるセツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)。
 トリプルJ(ka6653)もまた、友人の状況を察して目を伏せる。
 ――術式に組み込まれた蓬生は胸に穴が開いて、猪狐に食いちぎられたのか、右肩と首の大半を喪っている。
 普通の歪虚であればとっくに死んでいるであろう致命傷と思われた。
「すみません、お嬢さん。ちょっと大丈夫とはいい難い状況ですね」
「そうでしょうね……。分かりました。狐卯猾が倒れるまで、貴方が持つよう最善を努めます」
「お願いします。……トリプルJさん、お久しぶりですね」
「お前な、再会喜んでる場合じゃねえだろ」
 蓬生の返答に頷くセツナ。微笑む彼に、トリプルJは思わずツッコむ。
 そこにひょっこりとシアーシャ(ka2507)とケイ(ka4032)が顔を出した。
「おにーさん、久しぶり! 私もいるよ!」
「ハァイ、蓬生。色男が台無しじゃないの」
「……! シアーシャさん。ケイさんまで……。折角お会いできたのにこんな状況で申し訳ない」
「いいのよ。分かってて来たんだし。友達を助けるのに理由はいらない。そうでしょ?」
「うん! そうだよね!」
 驚く蓬生に笑顔を返すケイとシアーシャ。
 ルトガーは音もなく寄って来た猪狐歪虚に光線をぶち当てると、チラリと蓬生を見る。
「なあ、あんた。ちょっと聞きたいんだがいいか?」
「何でしょう?」
「あんた、憤怒王獄炎の分体らしいな。獄炎の放り投げた人間性ってことらしいが……死にたくない、消えたくないという感情はないのか? 妹に仕返ししたいとか、お説教したいとか」
「……別に。そういう感情はありませんね。いつ死んでも構いませんし、妹がどうなろうが知ったことではありません」
「歪虚のくせに世捨て人みてえなこと言うんだな。ほんじゃ、ついでにもう一つ。今のあんたと青木はどっちが強いんだ?」
「さあ……。どっちでしょうね。強さにも色々ありますし」
「ふーん。じゃあ質問変える。あんたが本気で抵抗すれば、青木に取り込まれることは防げるのか?」
「その時になったら抵抗するつもりはありませんよ。吸収されたら困るのはあなた方の都合で、私には関係ありませんから」
「関係ない、ねぇ……」
 淡々と答える蓬生に呟くルドガー。
 シアーシャがおずおずと口を開く。
「あのね……確かに約束は本来は守るべきものだけど。自分にとっても相手にとっても不利益になるものだったら、破棄してもいいんじゃないかな」
「不利益、ですか?」
「青木ね、歪虚を吸収しすぎたのか制御がきかない時があるみたいでね。おにーさん吸収したら破滅させちゃうかも。……おにーさんと青木は友達なんだよね。お互いに幸せになれないのは『友達』じゃないよね?」
「うん。このまま吸収されても青木は力を活かせないと思う。蓬生さんは無駄に吸収されることになるんじゃないかな。蓬生さんの生きた証も消えてしまうよ」
 言い募るイスフェリア(ka2088)に目を見開く蓬生。肩を震わせて笑い出す。
「……おにーさん?」
「何がおかしいの?」
「いえ、無駄かどうかは私達が判断することではありませんし……歪虚の『幸せ』や『生きた証』とは何かと思ってしまいましてね。生来私達は壊すだけのモノです。何かを成すようには作られていませんよ」
 ハッとするシアーシャとイスフェリア。
 ……蓬生は友好的だから忘れてしまいがちだが、この男は生粋の歪虚なのだ。
 人間としての当たり前……生きざまや良識を説いたところで理解されよう筈もない――。
 その様子を見ながら、十 音子(ka0537)は自分の願いをどうやって蓬生に伝えるか考えていた。
 ――最初は通信機でこっそり話しかけようと思っていたのだが、そもそも通信はそれを受信するものがなければ成立しない。
 蓬生は残念ながらその手のものは持っていなかったし、持っていたとしても扱えないであろう。
 出来ないのであれば仕方がない。音子は正面から行くことにした。
「蓬さん! お願いがあります。青木に喰われるのはやめてください」
「……それは前にも言いましたが、青木さんとの約束ですから無理ですね」
「では一部を残すというのは可能ですか?」
「それはどういう……?」
「結局は蓬さんの『力』を青木に渡せばいいのでしょう? 『存在全て』を吸収するという約束ではないのでは?」
「ええ。確かに。ただ、力を渡すのには吸収が一番手っ取り早いんですけどね」
「だったら『蓬さん』という存在を残すようにして努力してください」
「……音子さんがどうしてそこに拘るのか理解できないんですが」
「それは……」
 首を傾げる蓬生に口ごもる音子。
 蓬生が危険な存在であることは分かっている。それでも、消えて欲しいとは思わない。
 だから、その可能性を探りたいのだが……。
 彼女の言わんとしていることを察したシガレットがふぅ、とため息をついた。
「ここまで言われて分からないとは、やっぱお前さん歪虚なんだなァ」
「何度もそう言っているでしょう?」
「そうだな。じゃあ、狐卯猾の策略が解けてハンターに討たれるか、青木に吸収されるかはお前さん次第ってのは理解してんのかねェ?」
「私としては約束を果たせないのは困るんですが……」
「そりゃそうだろうな。その上で、お前さんは俺達に助けて欲しい、と。ハンターを雇うには報酬が必要だ。ちょっと交渉に応じてみねえか?」
「なるほど。それは確かに。でも、私にお渡しできるものなどないのですが」
「あるぜ、お前さんにしか出来ないことが。皆が無事で済むにはゲートそのものを閉じるのが一番だ。ゲートが開いてる原因や術の要が見えるなら教えて欲しいが……蓬生よ、どうだ?」
「そういうことですか……」
 シガレットの交渉に考え込む蓬生。それを今まで見守っていたケイが口を開く。
「……ねえ、蓬生。別に私は貴方の行動を止めるつもりはないわ。そんな権利ないしね。でもね、私としてはもう少しだけフレンズを続けたいな」
「ズッ友のケイさんにそう言われては敵いませんね。……分かりました。やってみましょう」
「さっすが蓬生。話分かるゥ! それじゃよろしくね」
 困ったように笑う蓬生。ケイはバチンとウィンクを返して銃を構えた。


「歪虚とはいえ大の男がホイホイ罠に引っ掛かるなんて何してるのかしら……。ちょっと可愛いアホの子に路線変更でもしたの?」
「まあまあ、実にヒトらしいじゃないか。新たな一面だね。とても熱い」
 毒づきながらも猪狐歪虚を撃ち抜いて行くマリィア・バルデス(ka5848)。
 ジェールトヴァ(ka3098)も生み出した無数の闇の刃で敵を空中に縫い付けていく。
 ――青木という歪虚は用心深く、以前であればこんな分かり易い罠にかかりはしなかったのだが。
 ビックマーは力は強いが単純で、どこか義理堅いところがあった。
 それを吸収した青木も、その影響を受けているのだろうか。それとも、これが本来の性格……?
 いやはや、実に興味深い。
「しかし、本当に味方になると心強いね。歪虚にしておくのが惜しいくらいだよ」
 青木を目線を送るジェールドヴァ。
 その先には大精霊が司る「節制」の理を解放し、猪狐の注目を集めるアルトがいた。
 吸い寄せられるようにやって来る歪虚。一定の距離まで引き付けると、すごい速さで引き離す。
「エンタロウ! 敵釣り上げたぞ!」
「……分かっている。死にたくなければ下がっていろ」
 彼女の声に応えて槍を構える青木。踏み込み、振るわれる槍。
 広範囲に起きた衝撃波で、猪狐が面白いように消えて行く。
 沸き上がる爆風で、討ち漏らした敵を掃討していたアルスレーテのスカートが持ち上がった。
「ちょっと青木ー! だからスカートめくるんじゃないわよ!!」
「言いがかりだな。戦場にそんな恰好をしてくるのが悪い」
「うっさいわね! 鍛え上げたスカート舐めんじゃないわよ!」
「そんなに嫌ならめくれないように鍛えろ」
「……ちょっとそれいいかもしれないわね」
 アルスレーテと青木のやり取りにくすりと笑うリューリ。
 ――燕太郎さんが人だった頃、セトさんともこんなやり取りをしてたのかな。
 思わず声に出ていたらしい。青木はこちらを見ずに口を開く。
「……そんなこといちいち覚えていられるか」
「え、でもセトさんのこと思い出したんでしょう? 思い出してくれて嬉しいよ」
「いつ俺が思い出したなんて言った?」
「そういえば言ってないね。でも、見てれば分かるよ」
 嬉しそうに笑うリューリ。
 ……正直、何がそんなに嬉しいのか全く理解できない。
 青木はため息をつくと、槍を振るって猪狐の突撃を跳ね返す。
「無駄口を叩いてないで手を動かせ、リューリ」
「はーい! ……って、わあっ!」
 不意に現れた猪狼に反応が遅れたリューリ。銀髪のエステルが盾で歪虚を弾き返す。
「リューリ様、お気をつけください。お姉さまも手当てをしましょう」
「まだ大丈夫だよ。それよりエンタロウを守ってやって」
「了解しました」
 アルトの指示に頷く銀髪のエステル。
 リューリは純粋に青木との共闘を楽しんでいるようだったが、アルバとエラはちょっと違っていた。
 ――こんな近くで、青木が戦っているのを見られるのはまたとない機会だ。
 間合い、使う手立て、跳躍する距離、攻撃方法――覚えておけば、確実に今後の戦略に役に立つ。
 いつかは倒さねばならぬ相手だ。情報は多いに越したことはない。
 今のところ見る限り、投擲槍、衝撃派、黒い弓から槍を打ち出す攻撃方法は確認している。
 だが、以前より威力は上がっているようだし、何より……。
「……黒弓から発射される槍、数が増えていませんか?」
「ああ、僕もそう思っていたところだ」
「あれ下手に打たせたくないですね……。あんなもの大量に撃ち出されたたら死人が出ますよ」
「幸い、撃つのに時間がかかるようだけどね」
 サクサクと向かい来る猪狐を蹴散らしながらそんな会話をするエラとアルバ。
 報告書にあった『黒い鎖』は、自由には出せないのだろうか……?
 ふと、蓬生の方に目線を移したエラ。
 仲間達が、蓬生を術の楔から解き放とうと努力しているのが目に入った。
「本当、あの猪だか狐だか分かんない歪虚、キリがないね。どんどん出て来るよ!?」
 叫ぶピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804)。蓬生を中心にディヴァインウィルを張り続けているが、まず黒い結界の中にディヴァインウィルが展開出来ない。
 仕方ないので結界の外側に仕掛けるが、猪狐が噛みついて術を乗り越えて来る。
 あの歪虚に噛まれるとマテリアルを吸収するとは聞いていたけれど、術まで解除してくるなんて――。
 邪神の影響を受けているというのは伊達ではないということなのだろうか。
 それでも、ないよりは良いと必死に不可視の結界を張り続ける彼女。
 南條 真水(ka2377)は紫の目をキラリと輝かせて不敵に笑った。
「はい。南條さんは考えた! 蓬生さんが動けないのは仕方ないけれど、きっと動かせなくはないはず! という訳でトリプルJさん、ファントムハンドお願い!」
「……ダメだ。蓬生に触れる前にファントムハンドが消えちまう」
 真水に言われるまでもなく、ファントムハンドで蓬生を掴もうと試みるトリプルJ。
 幻影の手は蓬生に届く前に、黒い結界に触れると消えてしまっていた。
「むむむ。ダメか……。しかしここで諦める南條さんではない。引いてもダメなら押してみなの理論! 直接やってみよう!」
 そう言い、黒い結界に近づく真水。
 何の警戒心もなく近づいて来る彼女に、蓬生が目を見開いた。
「ダメです! この結界は……」
「南條さん!! 下がって!!」
 駆け出すセツナ。そう言っている間に結界に手を伸ばす真水。
 ――黒い結界に触れた途端、襲い来る急激な寒気。
 次にやって来たのは力を奪われるような感覚。
 立っていられず、その場に倒れ込む真水。
 咄嗟にセツナが彼女を庇うように覆い被さって――そこに一斉に、猪狐が襲いかかる。
「うへえ。マズいぞ。生贄が増えちまう!」
「今助けるよ……! きゃああああ!」
 叫びと共に、真水に喰いついている歪虚に攻撃を浴びせるルドガーとシアーシャ。
 シアーシャは真水とセツナ、猪狐の間に立ちふさがるように滑り込んだ為、歪虚からの集中攻撃を受ける。
 仲間達が何とか攻撃を食い止めている間に真水を結界から引き離したエラは、駆け付けて来たイスフェリアに彼女を引き渡す。
「イスフェリアさん、重傷者の退避をお願いします」
「分かった! 行こう、皆。手当しようね」
 イスフェリアの呼びかけにぐったりとしたまま答えない真水。
 セツナもシアーシャも酷い怪我だ。これ以上の戦闘続行は難しいだろう。
 シガレットは蓬生を支援しつつ、声をかける。
「蓬生よ、どうだ? 何か分かったかァ?」
「……すみません。もう少し時間をください」
「へいよ。引き続き守ってやるからお前さんも気張れ」
 結構な時間が経過したように思うが、まだ狐卯猾討伐成功の報せは聞こえてこない。
 そして、こうしている間も蓬生は弱っていっているように見える。
 この術式自体に、蓬生の力を奪う何かが仕掛けてあるんだろうなァ。
 ――狐卯猾が倒されるまで、持ってくれりゃァいいが。


 終わりの見えぬ戦い。その中で、青木や蓬生に向かう猪狐の数を確実に減らしている隊があった。
「歪虚同士が潰し合ってくれるのなら結構だが、邪神に手を貸すわけにはいかんのでな」
「そうだね! ゲートの開放、絶対阻止しなきゃ!」
 こんな確固たる意志を持って敵の殲滅に当たっていたコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)と時音 ざくろ(ka1250)。
 まずこの2人が空の亀裂から漏れ出て来る敵を片っ端から掃射していた。
 亀裂から湧き出る歪虚の数はとても多く、当然撃ち漏らしも出て来るが、倒せなくともダメージを入れておくだけで、仲間達が対応する際楽になる。
 この一手は、確実に後に繋がるものなのだ。
『……状況は以上です。依然敵の数が多いですから、お気をつけて』
「――了解、エラさん。こちらも引き続き注意しますね」
「何だって?」
 声をかけてきたアーサーに、誠一は頷き返す。
「蓬生の周りも青木の周りも今のところは安定しているらしいですよ。……蓬生は、シガレットさんの交渉に応じたって話も聞きました」
「そうか。それじゃ、懸念事項は今のところ大丈夫ってことかね」
 後方に視線をやるアーサー。
 今回ばかりは協力するとはいえ、相手は歪虚だ。いつどんな行動に出るか分からない。
 何より、青木が蓬生の吸収を狙っている訳で……それは、出来れば避けたいところであるが。
「まあ、まずは先に仕事を片付けるとするかね」
「そうだね。ヴィルマさん、エステルさん、お願い出来ますか」
「うむ! 任せておくがよいぞ!」
「はいです! 頑張るです!」
 アーサーと誠一にこくりと頷くヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)とエステル・ソル(ka3983)。
 彼女達は即座に詠唱に入る。
「――霧の魔女ヴィルマ・ネーベルの名の下に。凍てつかせ噴舞せよ、霧裂け氷乱の嵐!」
「蒼穹の祈り。光を灯し、天を駆ける――蒼燐華!」
 空へ向けて沸き上がる冷気の嵐と複数の火球。それは数十匹にも及ぶ大量の猪狐を巻き込み、歪虚を無に還して行く。
「ほー。こいつは効率がいいな」
「お二人とも、そのまま続けて下さい!」
 手を目の上に翳して落ちていく歪虚を見つめるアーサー。誠一の声に、青い髪のエステルとヴィルマが頷いて……。
 不意に、亀裂から溢れた猪狐歪虚の軌道が変わったことに気が付いた。
「何かちょっと、猪狐さんこっちに向かって来てないです!?」
「何でじゃ!? あやつら蓬生と青木を狙うんじゃなかったのかえ!?」
「……猪狐、マテリアル探知するみたいだからね。さっきのスキルが美味しそうに見えたんじゃないのかな?」
 何気ないざくろの一言にがびーんとショックを受けるヴィルマと青い髪のエステル。
 一瞬驚いたものの、すぐに立ち直って空を見上げる。
「エステルや。これはチャンスじゃぞ! 我らのスキルが美味しそうだと思うのであれば、あやつらを引き寄せることが出来るからの」
「はいです! 一網打尽です!」
 ぐっと握りこぶしを作る2人。誠一はそんな彼女達に頼もしさを感じながら、某手裏剣を構えた。
「とにかく、ヴィルマさんとエステルさんが噛みつかれるのはマズいですね。アーサーさん! ざくろさん! コーネリアさん! 2人を守るように陣形組んでもらっていいですか!?」
「へいへい」
「いいよ! 任せて!」
「了解。どこにいようとやることは変わらん!」
 誠一の声に応え、散会する仲間達。
 ハンター達の猛攻が始まった。


「えっ。この戦い、狐卯猾を倒すまで続くの!!? スメラギ帝が陣を使用不能にするなり破壊するなりするまでかと思ってたわ! そんなのジリ貧じゃない!」
「ジリ貧大いに結構。どちらが先に倒れるか根競べという訳だろう? 上等だ。絶望的な状況ほど滾るものはない」
 スメラギの張っている結界陣からも『マテリアル』を放出していると気づき、様子を見に来たマリィア。
 実に楽し気に笑う不動 シオン(ka5395)に、マリィアはがっくりと肩を落とす。
 そうしている間も、鞍馬 真の星の光を思わせる、寄り添うような優しい旋律が戦場に響き渡っていた。
 猪狐による体当たりで起きる精神汚染も、彼の唄のお陰で防ぐことが出来ている。
「ガラルガ召喚! スメラギさんの壁となれ!」
 そこに聞こえて来た神火の声。
 戦闘が始まってからずっと、彼は無骨な鉄で出来た鎧のモンスターを召喚し続けている。
 ダメージを受けると消えて行ってしまうものではあるが、猪狐の攻撃を受け止める手が増えるというのは、この状況においてはとても有用だった。
 神火としては、真の支援が続いているからこそ攻撃が続けられている訳だったが。
 後できちんとお礼言わなきゃ……なんて考えつつ、彼は空に符を投げる。
「蹴散らせ、ファルガ!」
 ――神火くんの生み出す符術は綺麗なものが多いな。
 そんなことを考えていた真。スメラギを中心に、死角がないように布陣を張っているが、長引く戦闘に皆消耗してし始めているのが気になる。
 そろそろヤルダバオートを……いや、できれば戦闘終了まで温存したい。
 狐卯猾撃破後、青木や蓬生がスメラギ帝を狙わないとも限らない。
 その時に彼を守るための切り札として取っておきたいから――。
 ……とはいえ、そろそろ不動君は下がるべきじゃないかな?
 真は歌っている為話せないが、同じことを思ったらしいルカが、シオンを回復しながら声をかける。
「シオンさん。回復が追い付かないくらい怪我してますけど、下がらなくて大丈夫ですか?」
「何を言う。私の愛刀が敵を斬り足りないと騒いで仕方がない。遠ざけようとしてもそうはいかんぞ?」
 頭から流れる血を拭いもせずにニヤリとするシオン。そんな彼女に、オキクルミ(ka1947)は困ったように笑う。
「無茶はダメだよ? 無理そうなら声かけてね」
「無理? 怪我をしてからが本番だぞ。私の心配はいい。1匹でも多く敵を殲滅しろ!」
「シオンさんはすごいなー……。分かった! ボクは右のを迎撃する! 他よろしく!」
「任せろ!」
 同時に駆け出すオキクルミとシオン。
 ――世界は広いな。あんな風になっても戦える人がいる。
 ハンターとしてはまだ半端なボクだけど。それでも守れる人がいるなら……戦わなきゃ!
 向かい来る猪狐目掛けて槍を振り下ろすオキクルミ。
 ふと陣の中央に目をやった神火は、スメラギが苦しそうな顔をしているのに気が付いた。
「スメラギさん……!」
 崩れ落ちそうな彼に手を伸ばす神火。
 それとほぼ同時に、真がスメラギの腕を掴む。
「……真?」
「立てないなら私達が支える。……辛いだろうが、君が頼りだ」
「ごめんね。あともうちょっとだと思うから……結界を続けて貰えるかな」
「わーってるって。……悪ィな。こんなとこ見せちまって」
「大丈夫。経緯はどうあれまだ君は膝をついてない」
「うん。最後まで立ってたって、真さんと僕が証言するよ!」
 強がった笑みを浮かべるスメラギに、笑みを返す真と神火。
 辛いのは自分達だけではない。狐卯猾と戦っている部隊も今頃頑張っている筈だ。
 そう信じて……陣を張り続ける。
「はははは! その程度か? 命懸けでかかってこなければ私の首は刈り取れんぞ?」
 笑いながら敵を両断するシオン。
 ――その時。異変に気付いたのは、オキクルミだった。
「……! スメラギさん! 向こう側が何かおかしい!」
「……何だ?」
「土煙がこちらに迫ってきます!」
「まさか……」
 ルカの叫びに、呻くスメラギ。
 続く沈黙。それを打ち破ったのは蓬生の一言だった。
「……そのまさかのようですね。狐卯猾がこちらに向かっています」
「……そんな。討伐したんじゃないんですか?」
「誠一さん、傷に障るです。喋ったらダメです……!」
 満身創痍の誠一に肩を貸す青い髪のエステル。
 誠一は、砲台のごとくスキルを撃ちまくるヴィルマと青い髪のエステルを身体を張って守り続けた結果、酷い怪我を負っていた。
「ともあれ誠一はこれ以上戦うのは無理じゃ。イスフェリア! 手当てを頼めるかえ?」
「分かった!」
「待ってください。まだ狐卯猾は倒れていないんでしょう? このままじゃマズい……!」
 ヴィルマとイスフェリアを押し留め、流れる血も構わず叫ぶ誠一。
 ――そう。狐卯猾が倒せなかったということは、いずれここに到達してゲートを開かれてしまう。
 そうなっては東方の――否、世界の終わりだ。
 この手勢で狐卯猾を迎え撃つのは難しい。だとしたら、ゲート自体を何とかするしかない……!
 シガレットがくしゃくしゃと頭を掻き毟る。
「ちょっとこれは予想外だぜェ。……蓬生よ、どうだ。何とかなりそうか?」
「ええ。皆さんが時間を稼いでくださったお陰で、妹の術式が分かりました。負のマテリアルを遮断するくらいなら出来そうですよ」
「お。頼んだ甲斐があったぜ……! 悪ィが、早速頼むわ」
「分かりました。マテリアルの供給を遮断します。皆さんは一刻も早く退避を」
 シガレットの声に応えて動き出そうとする蓬生。音子は慌てて声をかける。
「蓬さん! マテリアルさえ遮断すれば何とかなるのでしょう? 一緒に逃げましょう」
「すみません。私がここに残らないと供給の遮断が出来ないのですよ。妹は、私の身体の中に直接陣を敷いています。内側から干渉しないといけないんです」
「そんな……。それやったら、おにーさんはどうなるの?」
「間違いなく消えるでしょうね」
 さらりと言う蓬生。青木は元怠惰王を睨み付ける。
「……約束を違える気か、蓬生」
「力をお分け出来ないのは申し訳ないと思っています。でも、ゲートが開いたら青木さんも終わってしまいますから……どうか、ご容赦下さい。とはいえ、何もお渡し出来ないのは申し訳ないですね。……怠惰の本陣にお行きなさい。歪虚の王が何故強かったのか、理由が分かるでしょうから」
「ちょっ。そういうヤバイ情報はやめてくんね!?」
 慌てるトリプルJにすみません、と返す蓬生。彼は力を振り絞って立ち上がる。
「時間がありません。早く行って下さい」
「ちょっと待った。狐卯猾が生き残ったということは、間違いなく拠点を移すよな。どこだか予想つくか?」
「……恐らく妹が向かう先は憤怒本陣でしょう。あそこには負のマテリアルが沢山ありますから……あの子が活用を考えない筈がない。それから……気をつけなさい。あの子は虚博の能力を継承している。『倒した』と思っても油断しないことです」
「何でそんなこと教えてくれるんだい?」
 アーサーの問いに答える蓬生。油断ない目線を送って来るアルバに、彼はため息をつく。
「……最後の抵抗ですかね。狐卯猾が私に術式をかけた際、虚博の塵を分けられたんですが……あの子、私の中で叫んでいるんですよ。ちょっとくらい嫌がらせしても許されるでしょうって」
「そうか。虚博ってやつに礼言っといてくれ」
 シガレットの声に、蓬生が頷いて――泣きそうな顔をしているシアーシャに気付いたのか、笑顔を向ける。
「……そんな顔しないでください。大丈夫、きっとまた会えますよ。ええ、どうせ近い未来に世界滅亡しますしね」
「そういう再会の仕方は嫌なんだけどね。……楽しかったわ、蓬生。元気で」
「ええ。皆さんもお元気で。……私も楽しかったですよ」
 薄く笑う蓬生。ケイは瞳に焼き付けるように、友人の姿を食い入るように見つめる。


 ――ああ。獄炎の残り滓として生まれた私だけれど、色々なものが見られた。決して、悪いものではなかった。
 心残りがあるとしたら……一度でいいから、花に触れてみたかったですね。……私では枯らすばかりで、終ぞ触れることが出来なかったので――。
 ――一風変わった元憤怒王は、上空の亀裂を巻き込むようにして――溶けるようにして消えて行った。


 蓬生が消えて行った場所を、音子はただじっと見つめていた。
「……蓬さん」
「おい! 別れを惜しんでる場合じゃねえ! 狐卯猾がこっちに向かってやがる! 逃げるぞ!」
「皆、怪我人担いだかぁ!? 全速前進! それ行けーーーー!!」
 アーサーとルドガーの号令で撤退を開始するハンター達。
 アルスレーテはため息をつくと、青木に向き直る。
「残念ながら共闘はここまでみたいね。ほら、ツナサンド持って帰りなさい。拒否は禁止よ」
「要らんと言っている」
「人の好意は受けておいた方がいいよ?」
 無邪気に言うリューリに、くすりと笑うアルト。武器をしまいながら青木に声をかける。
「エンタロウ。今日の戦いは参考になったよ。私もまだまだだな」
「……本当にお前は厄介だな、茨の王。――どうだ。歪虚になる気はないか?」
「遠慮しとくよ。私には守りたいものがあるんでね」
「そうだ、燕太郎さん。心配する相手を間違えてるって言ったけど、相手間違えてないからね。セトさんも心配してるよ」
「大きなお世話だ。……次会う時は敵としてだ。覚悟しておくんだな」
 踵を返して去って行く青木に、リューリはひらひらと手を振って――。


 ――ゲートが閉じ、蓬生と青木が消えたことに怒り狂った狐卯猾が、殿を勤めた幕府軍を蹂躙したのは、それからまもなくのことだった。

執筆:猫又ものと
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

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