ゲスト
(ka0000)
【東幕】
狐卯猾は討ち滅ぼした。蓬生も消えた。
これで憤怒王の残滓は全部のはずだ。もう現れることもねえだろ。
……東方の帝として、礼を言わせて貰う。ありがとな。
東方帝:スメラギ(kz0158)
更新情報(3月27日更新)
東幕連動、ついに決着! ハンター達は狐卯猾を追い詰め、打ち滅ぼすことに成功しました。
天ノ都は甚大な被害を受け、有力な武家と公家を失った東方の行く末は――。
帝として残ったスメラギは一体何を成すのか……?
東方連動【東幕】、エピローグが公開!
あわせてグランドシナリオ報酬の「【東幕】支援感謝符」についても掲載致しました。
これより【東幕】は事後連動に入ります。今後の動きにもご注目ください。
天ノ都は甚大な被害を受け、有力な武家と公家を失った東方の行く末は――。
帝として残ったスメラギは一体何を成すのか……?
東方連動【東幕】、エピローグが公開!
あわせてグランドシナリオ報酬の「【東幕】支援感謝符」についても掲載致しました。
これより【東幕】は事後連動に入ります。今後の動きにもご注目ください。
▼【東幕】リベンジシナリオ リプレイ公開!▼
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『【東幕】支援感謝符』について
【東幕】グランドシナリオ「篝火狐鳴」に参戦したハンター達に贈られた褒章アイテム、「【東幕】支援感謝符」ですが、こちらを保持した状態で、エトファリカ連邦国からの条件を満たし、またPCが希望した場合、領地の拝領を受ける事ができます。
●エトファリカ連邦国領内の一つであり、連邦国に所属する事
●西方諸国やリアルブルーなどの政治機関と無関係である事
●東方の国を作る一員として働く気があること
●責任をもって土地を管理し、慈しみ、育んでいく事
なお、土地の拝領はエピローグ期間中に可能になる予定です。
エピローグ期間中の予定は以下の通りです。
●エピローグ期間に『【東幕】支援感謝符』所持を前提に、領主である旨を自由設定に記載できます。
●エピローグ期間に関連するシナリオがリリースされます。
●ただし、土地を有していることで他のPCより有利になるわけではありません。
●ゲームの進行上で世界が滅亡し、エピローグを迎えられなかった場合はその限りではありません。
●エトファリカ連邦国領内の一つであり、連邦国に所属する事
●西方諸国やリアルブルーなどの政治機関と無関係である事
●東方の国を作る一員として働く気があること
●責任をもって土地を管理し、慈しみ、育んでいく事
なお、土地の拝領はエピローグ期間中に可能になる予定です。
エピローグ期間中の予定は以下の通りです。
●エピローグ期間に『【東幕】支援感謝符』所持を前提に、領主である旨を自由設定に記載できます。
●エピローグ期間に関連するシナリオがリリースされます。
●ただし、土地を有していることで他のPCより有利になるわけではありません。
●ゲームの進行上で世界が滅亡し、エピローグを迎えられなかった場合はその限りではありません。
【東幕】エピローグノベル「憤怒去りし土地」(3月27日公開)
●天ノ都
憤怒本陣での狐卯猾討伐戦に参加した幾人かのハンター達は立花院家に声を掛けられた。
案内されたのは立花院家の屋敷から――地下深く降りた地下通路のような場所であった。
「地下にこんなに広い空間があるなんて、驚きですの!」
ディーナ・フェルミ(ka5843) が目を丸くしながら声を発する。
発した声は洞窟の奥にこだましていった。
「気のせいか? 僅かに負のマテリアルを感じるが?」
ひんやりとする壁に手を触れながらイレーヌ(ka1372)は言った。
壁や床がマテリアル汚染されているというべきだろうか。
その時、イレーヌの言葉に答えるように、地下通路の先から女性の声が返ってきた。
「それは、この枯れた龍脈に負のマテリアルが流れたからです」
「この声は……朱夏さん!?」
聞き覚えのある声にUisca Amhran(ka0754)が張りのある声で言った。
はたして、暗闇の中で待っていたのは朱夏(kz0116)であった。
部分甲冑姿ではなく、身丈の短い着物とミニスカートを組み合わせた和洋折衷な出で立ちであった。
いつもは後ろで一つに纏めている長い髪は真っ直ぐに下りている。
「皆様、お待ちしておりました」
「……地下龍脈に呼ばれるような理由があっての事なのか?」
七葵(ka4740)の質問に朱夏は静かに頷いた。
そして、クルっと闇の方へと振り返る。彼女の長い髪が揺れた。
「その通りです。皆様にお伝えしなければならない真相があるのです」
暗闇の中、遠くに灯った松明が近づいてきた。
忍びが板のような物を引っ張っている。それがバラバラになった全身甲冑だとボルディア・コンフラムス(ka0796)はすぐに気が付いた。
「これは……こんな状態だが、“誰か”の物という事か」
「造りから見るに……かなりの逸品のようにも……」
砕けた甲冑を、銀 真白(ka4128)が注意深く観察する。
防御力も相当高いだろう。鎧の隙間や裏側には符や複雑な紋様が描かれ、呪術に対する抵抗力もあるはずだ。
それこそ、一介の武士が身に着けられるような代物ではない。
ボロボロになった肩当てだったものに、天竜寺 詩(ka0396)は優しく触れた。
「……これは、タチ……ううん。紫草さんの鎧……なの、かな?」
「はい……行方不明になった上様の鎧で間違いありません」
残酷に言い放った朱夏。
悲しみに溢れた瞳を隠すように瞼を閉じる。
「理由を聞かせて貰っても?」
長い間の後に真白が訪ねた。
朱夏は目を閉じたまま頷くと静かに語りだした。
「龍脈の一部はこのように人が出入りできるような空間になっている箇所もあります。あの時……狐卯猾が枯れた龍脈に負のマテリアルを流し、ゲートを開こうとした際、上様は龍脈を流れる負のマテリアルを生身で受け止めようとしたのだと思います」
「ちょっと待て、ここを流れた負のマテリアルってのは、とんでもない量じゃなかったのかよ!」
驚きを隠せない様子でボルディアが叫ぶ。
強靭な体を持つボルディアであっても、歪虚王クラスの負のマテリアルの奔流を受け止めれば、木端微塵は容易に分かる。
「つまり……紫草殿は……ゲートを開かせないように、ここで……」
ググっと力強く拳を握る七葵。
ゲートが開かれていれば、この世界に邪神が姿を現し、全てが終わっていただろう。
世界を文字通り守ったのだ。人知れず、この暗闇の中で……。
「い、生きてるって、事……はあるの、かな?」
懇願するように詩が、身体を震わせながら、途切れ途切れに言った。
朱夏は返事をしなかった。
――ただ、静かに、首を横に振った。
泣き崩れた詩の肩に、慰めるよう手を当てるUisca。
「ご遺体は残っているのですか?」
「いえ……探索を続けたのですが……汚染が酷い場所もあり……調べ切れていないのです」
「それなら、どこかで生きているかもしれないですの!」
パンと手を叩くディーナに閉じていた目を開いた朱夏は悲し気な表情を湛える。
「……そう私も信じたいです。スメラギ様もその僅かな望みがあるので――推定しての死亡とは認められないと……」
「だろうね。大切な人を失った悲しみは……簡単に割り切れないものさ」
ただ遠くを見つめてイレーヌは言う。
スメラギの判断が良いか悪いか、それは安易に決めつけられないだろう。
「この事はまだ公にはされませんが、皆様にはお伝えしておこうと――足をお運び頂き、ありがとうございました」
深く頭を下げた朱夏は、ハンター達がその場から去るまで顔をあげる事は無かった。
泣き顔を見せたくなかった。ただ、その意地の為に……。
●龍尾城
襖も畳も吹き飛び、柱は倒れ、あるいは傾き、廃城かと思わすような大広間で、東方帝であるスメラギ(kz0158)は憮然とした表情だった。
眼前には膨大な書類や資料の山。いずれも復興の為に必要な承認や確認の書類だ。しかも、これで全部では無い。
「……いいわ。後でやるから」
「上様はこの程度、ふた刻もしないうちに終わりましたが」
淡々と朱夏が告げ、立ち上がろうとしたスメラギの動きが止まる。
「あいつと一緒にするんじゃねぇ!」
「それはスメラギ様が上様の分までやると言い放ったからです!」
「うっせーなー! 俺様がやるしかねえだろうが!」
大きく息を吐きだして、ドンと座り直すスメラギ。
巨大な山となった書類に目を通すだけで、明後日にはなりそうだ。
というか、返事が必要な時、俺様の字で大丈夫なのか……いや、そもそも難しい字が多い書類だと読めねぇぞなどとくだらない事が頭に過った。
「……分かりました。私も手伝います」
「頼む……」
「その前に、スメラギ様に大事な要件があります」
ズイっと書類とスメラギの間に身体を割り込ませ、出したのは一通の書状。
包みには、立花院家の家紋と紫草のサインが記してあった。
「これは……どうしたんだ? どっから出てきたんだ!?」
「スメラギ様が恵土城へ旅立たれた後です。自室に籠り、したためていたようで……もし、上様が戻らぬ時にと……」
「中身はなんだ?」
震える手で書状を手に取るスメラギ。
中を開くと――小難しい文字がいっぱい並んでいて、視線を朱夏へと向ける。
「“秘宝”に関する事と、今後の復興に関して……発表する際の原稿と思われます」
「……分かった。読み上げてくれ」
「御意」
作法に則り、スメラギから書状を受け取ると、朱夏は呼吸を整える。
――本物の“秘宝エトファリカ・ボード”には、御覧の通り、幕府成立前後の東方諸国の国名と治めている者の名が記されています。
何時か歪虚を退けた時、誰が何処を治めていたかという記録を残しておく事で、速やかに、戦後処理を行う為のものではないかと考えますが、私はもっと別の想いが込められているのではないかと思っています。
すなわち、当時の東方は歪虚勢力によって攻め立てられており、戦力を集中させる為に手放さなければならなかった土地もあったはずです。
その為、人々に強い決意と結束が求められており、憤怒との戦いに必ず勝つという想いが込められていたのではないかと。
憤怒歪虚を退けた我々には、先祖達が未来へと託した想いに応える事が、これから求められます。
朝廷や幕府を頂点に置いた政ではなく、本来あるべき姿へと復帰させる事を。今こそ、その時が来ようとしているのです。
歪虚によって奪われた全ての故郷を取り戻し、復興させていかねばなりません。
“東方大復興”。
――これを、私達と、これから続いていく未来の世代で、成し遂げましょう。
読み上げ終わった朱夏は書状を丁寧に閉じた。
スメラギといえば、幾度もまばたきをして、天井を見上げたりと、泣かないように耐えているようだった。
「……“東方大復興”かよ。いいじゃねぇか。それを実現させてやるよ」
「上様は『朝廷や幕府を頂点に置いた政ではなく、本来あるべき姿へと復帰させる』と述べています。これはつまり……エトファリカ連邦国成立前の状況に戻すという事でしょうか」
元々、東方は大小様々な国が存在していたという。
有力だった国は武家となり、国を守った。今でも地方ごとに様々な特色があるのは、この名残ともいえるだろう。
「そうか……紫草はそうやって俺様の目指す国造りを……」
「問題があるとすれば、滅亡した武家や治める能力が無くなっている場合の、空白地かと。一先ず、朝廷か幕府の直轄地にはなりますが……」
「人も何も不足しているって事か……」
それは復興に取り組む上でとても大きな障害となるだろう。
結果的に後回しになる可能性もある。だが、それでは、“東方大復興”にはならない。
「歪虚に奪われた土地も、誰も住む者が居なければ意味がありませんし」
考え込む朱夏とスメラギ。
しばし、時間が流れる。歪虚に奪われた土地は負のマテリアルに汚染されている。
汚染自体は浄化すればいいだけの事だ。もちろん、それなりに時間は掛かるだろうが。
でも、浄化が終わって人が住める土地になっても、住む者がいなければ、意味がない。土地ばっかり余ってしまう。
「まあ、暫くは俺様預かりで管理していくしかねえだろうが……あー! もう、いっそ、空白地や奪還した土地とか、元々治めていた奴がいなきゃ、くれてやっていいんじゃねぇ? 自分のものになるなら、頑張る奴もいるだろうし」
頭を掻きながらスメラギがぶっきらぼうに言い放った。
朱夏は一瞬、頭の中で、この人何を言い出すだろうとか思ったが、二度三度、スメラギの言葉を繰り返し考えて、何かひらめいたようで、ポンと手を叩いた。
「それですよ、スメラギ様。幾つか条件を設定した上で、希望者に拝領するのです」
『エトファリカ連邦国の一つである事』『西方諸国やリアルブルーなどの政治機関と無関係な事』『責任をもって土地を愛し、育んでいく事』これらを最低条件として、自ら土地を切り開いた者へ土地を託していけば……。
土地を失った武家や元々、土地を持っていなかった侍は奮起するかもしれない。
あるいは、一国の長になる事を夢見て、西方からの移住者も出てくる可能性だってある。
功績のあったハンターも条件が適うなら、土地を手にする事もできるだろう。
「よしっ! 今すぐできるって訳じゃないだろうが……それでも、少しずつでも、進んでいくしかねぇ!」
「及ばずながら、私もお手伝い致しますよ」
真剣な眼差しの朱夏にスメラギは力強く頷いた。
「見てろよ紫草! “東方大復興”――俺様達が絶対に成し遂げてやるからな!」
「良い方向に話がまとまったようですが、スメラギ様。一点確認させて戴きたいことがございます」
「あ? 何だよ」
「上様の件です。このまま『行方不明』としておくのは、宜しくないと思うのですが……」
朱夏の言わんとしていることを察して、口籠るスメラギ。
暫しの沈黙の後、口を開く。
「……1か月だけ、時間をくれ。捜索してダメなら、諦める」
――今の東方に、捜索に割く人手があるとお思いですか。
そう言おうと思っていた朱夏。
そこに現れた人物に気付き、頭を下げた。
「あの、失礼します。スメラギ様に呼ばれて来たんですけど……」
きょろきょろと辺りを見回すアシェ?ル(ka2983)は、礼をしている朱夏に気付くとアワアワとお辞儀を返し、スメラギはおう、と軽く手を挙げた。
「確かに呼んだぜ。よく来たなアシェール。……朱夏、ちょっと人払いしてくれ」
「かしこまりました」
再び腰を折り、席を辞する朱夏。
「スメラギ様、御用って何ですか?」
「ん。ちょっとここ座れ」
言われるままにスメラギの隣に腰掛けたアシェール。
そのままぱたりと倒れ込んだ帝。アシェールの膝の上に彼の頭が乗る恰好になって、目を丸くする。
「えっ。ちょ……スメラギ様!? どうしたんですか?!」
「どうしたって……側室に入る覚悟はある、人恋しい時は呼べって言ってたじゃねーか」
「た、確かに言いましたけど……」
「……強引だったのは謝る。5分だけ膝貸してくれ」
戸惑いながらもこくりと頷いたアシェール。
スメラギは彼女に背を向けるように寝返りを打つと、深く深くため息をついた。
「――母上も父上も、黒龍も牡丹も……何で皆して俺様を置いて行くんだよ」
スメラギから囁くように漏れた言葉にハッとしたアシェール。
泣くでもなく。ただ歯を食いしばっている帝。
そんな彼の髪を、そっと撫でた。
ディーナ・フェルミ
イレーヌ
Uisca Amhran
七葵
ボルディア・コンフラムス
銀 真白
天竜寺 詩
立花院 紫草
スメラギ
朱夏
案内されたのは立花院家の屋敷から――地下深く降りた地下通路のような場所であった。
「地下にこんなに広い空間があるなんて、驚きですの!」
ディーナ・フェルミ(ka5843) が目を丸くしながら声を発する。
発した声は洞窟の奥にこだましていった。
「気のせいか? 僅かに負のマテリアルを感じるが?」
ひんやりとする壁に手を触れながらイレーヌ(ka1372)は言った。
壁や床がマテリアル汚染されているというべきだろうか。
その時、イレーヌの言葉に答えるように、地下通路の先から女性の声が返ってきた。
「それは、この枯れた龍脈に負のマテリアルが流れたからです」
「この声は……朱夏さん!?」
聞き覚えのある声にUisca Amhran(ka0754)が張りのある声で言った。
はたして、暗闇の中で待っていたのは朱夏(kz0116)であった。
部分甲冑姿ではなく、身丈の短い着物とミニスカートを組み合わせた和洋折衷な出で立ちであった。
いつもは後ろで一つに纏めている長い髪は真っ直ぐに下りている。
「皆様、お待ちしておりました」
「……地下龍脈に呼ばれるような理由があっての事なのか?」
七葵(ka4740)の質問に朱夏は静かに頷いた。
そして、クルっと闇の方へと振り返る。彼女の長い髪が揺れた。
「その通りです。皆様にお伝えしなければならない真相があるのです」
暗闇の中、遠くに灯った松明が近づいてきた。
忍びが板のような物を引っ張っている。それがバラバラになった全身甲冑だとボルディア・コンフラムス(ka0796)はすぐに気が付いた。
「これは……こんな状態だが、“誰か”の物という事か」
「造りから見るに……かなりの逸品のようにも……」
砕けた甲冑を、銀 真白(ka4128)が注意深く観察する。
防御力も相当高いだろう。鎧の隙間や裏側には符や複雑な紋様が描かれ、呪術に対する抵抗力もあるはずだ。
それこそ、一介の武士が身に着けられるような代物ではない。
ボロボロになった肩当てだったものに、天竜寺 詩(ka0396)は優しく触れた。
「……これは、タチ……ううん。紫草さんの鎧……なの、かな?」
「はい……行方不明になった上様の鎧で間違いありません」
残酷に言い放った朱夏。
悲しみに溢れた瞳を隠すように瞼を閉じる。
「理由を聞かせて貰っても?」
長い間の後に真白が訪ねた。
朱夏は目を閉じたまま頷くと静かに語りだした。
「龍脈の一部はこのように人が出入りできるような空間になっている箇所もあります。あの時……狐卯猾が枯れた龍脈に負のマテリアルを流し、ゲートを開こうとした際、上様は龍脈を流れる負のマテリアルを生身で受け止めようとしたのだと思います」
「ちょっと待て、ここを流れた負のマテリアルってのは、とんでもない量じゃなかったのかよ!」
驚きを隠せない様子でボルディアが叫ぶ。
強靭な体を持つボルディアであっても、歪虚王クラスの負のマテリアルの奔流を受け止めれば、木端微塵は容易に分かる。
「つまり……紫草殿は……ゲートを開かせないように、ここで……」
ググっと力強く拳を握る七葵。
ゲートが開かれていれば、この世界に邪神が姿を現し、全てが終わっていただろう。
世界を文字通り守ったのだ。人知れず、この暗闇の中で……。
「い、生きてるって、事……はあるの、かな?」
懇願するように詩が、身体を震わせながら、途切れ途切れに言った。
朱夏は返事をしなかった。
――ただ、静かに、首を横に振った。
泣き崩れた詩の肩に、慰めるよう手を当てるUisca。
「ご遺体は残っているのですか?」
「いえ……探索を続けたのですが……汚染が酷い場所もあり……調べ切れていないのです」
「それなら、どこかで生きているかもしれないですの!」
パンと手を叩くディーナに閉じていた目を開いた朱夏は悲し気な表情を湛える。
「……そう私も信じたいです。スメラギ様もその僅かな望みがあるので――推定しての死亡とは認められないと……」
「だろうね。大切な人を失った悲しみは……簡単に割り切れないものさ」
ただ遠くを見つめてイレーヌは言う。
スメラギの判断が良いか悪いか、それは安易に決めつけられないだろう。
「この事はまだ公にはされませんが、皆様にはお伝えしておこうと――足をお運び頂き、ありがとうございました」
深く頭を下げた朱夏は、ハンター達がその場から去るまで顔をあげる事は無かった。
泣き顔を見せたくなかった。ただ、その意地の為に……。
●龍尾城
襖も畳も吹き飛び、柱は倒れ、あるいは傾き、廃城かと思わすような大広間で、東方帝であるスメラギ(kz0158)は憮然とした表情だった。
眼前には膨大な書類や資料の山。いずれも復興の為に必要な承認や確認の書類だ。しかも、これで全部では無い。
「……いいわ。後でやるから」
「上様はこの程度、ふた刻もしないうちに終わりましたが」
淡々と朱夏が告げ、立ち上がろうとしたスメラギの動きが止まる。
「あいつと一緒にするんじゃねぇ!」
「それはスメラギ様が上様の分までやると言い放ったからです!」
「うっせーなー! 俺様がやるしかねえだろうが!」
大きく息を吐きだして、ドンと座り直すスメラギ。
巨大な山となった書類に目を通すだけで、明後日にはなりそうだ。
というか、返事が必要な時、俺様の字で大丈夫なのか……いや、そもそも難しい字が多い書類だと読めねぇぞなどとくだらない事が頭に過った。
「……分かりました。私も手伝います」
「頼む……」
「その前に、スメラギ様に大事な要件があります」
ズイっと書類とスメラギの間に身体を割り込ませ、出したのは一通の書状。
包みには、立花院家の家紋と紫草のサインが記してあった。
「これは……どうしたんだ? どっから出てきたんだ!?」
「スメラギ様が恵土城へ旅立たれた後です。自室に籠り、したためていたようで……もし、上様が戻らぬ時にと……」
「中身はなんだ?」
震える手で書状を手に取るスメラギ。
中を開くと――小難しい文字がいっぱい並んでいて、視線を朱夏へと向ける。
「“秘宝”に関する事と、今後の復興に関して……発表する際の原稿と思われます」
「……分かった。読み上げてくれ」
「御意」
作法に則り、スメラギから書状を受け取ると、朱夏は呼吸を整える。
――本物の“秘宝エトファリカ・ボード”には、御覧の通り、幕府成立前後の東方諸国の国名と治めている者の名が記されています。
何時か歪虚を退けた時、誰が何処を治めていたかという記録を残しておく事で、速やかに、戦後処理を行う為のものではないかと考えますが、私はもっと別の想いが込められているのではないかと思っています。
すなわち、当時の東方は歪虚勢力によって攻め立てられており、戦力を集中させる為に手放さなければならなかった土地もあったはずです。
その為、人々に強い決意と結束が求められており、憤怒との戦いに必ず勝つという想いが込められていたのではないかと。
憤怒歪虚を退けた我々には、先祖達が未来へと託した想いに応える事が、これから求められます。
朝廷や幕府を頂点に置いた政ではなく、本来あるべき姿へと復帰させる事を。今こそ、その時が来ようとしているのです。
歪虚によって奪われた全ての故郷を取り戻し、復興させていかねばなりません。
“東方大復興”。
――これを、私達と、これから続いていく未来の世代で、成し遂げましょう。
読み上げ終わった朱夏は書状を丁寧に閉じた。
スメラギといえば、幾度もまばたきをして、天井を見上げたりと、泣かないように耐えているようだった。
「……“東方大復興”かよ。いいじゃねぇか。それを実現させてやるよ」
「上様は『朝廷や幕府を頂点に置いた政ではなく、本来あるべき姿へと復帰させる』と述べています。これはつまり……エトファリカ連邦国成立前の状況に戻すという事でしょうか」
元々、東方は大小様々な国が存在していたという。
有力だった国は武家となり、国を守った。今でも地方ごとに様々な特色があるのは、この名残ともいえるだろう。
「そうか……紫草はそうやって俺様の目指す国造りを……」
「問題があるとすれば、滅亡した武家や治める能力が無くなっている場合の、空白地かと。一先ず、朝廷か幕府の直轄地にはなりますが……」
「人も何も不足しているって事か……」
それは復興に取り組む上でとても大きな障害となるだろう。
結果的に後回しになる可能性もある。だが、それでは、“東方大復興”にはならない。
「歪虚に奪われた土地も、誰も住む者が居なければ意味がありませんし」
考え込む朱夏とスメラギ。
しばし、時間が流れる。歪虚に奪われた土地は負のマテリアルに汚染されている。
汚染自体は浄化すればいいだけの事だ。もちろん、それなりに時間は掛かるだろうが。
でも、浄化が終わって人が住める土地になっても、住む者がいなければ、意味がない。土地ばっかり余ってしまう。
「まあ、暫くは俺様預かりで管理していくしかねえだろうが……あー! もう、いっそ、空白地や奪還した土地とか、元々治めていた奴がいなきゃ、くれてやっていいんじゃねぇ? 自分のものになるなら、頑張る奴もいるだろうし」
頭を掻きながらスメラギがぶっきらぼうに言い放った。
朱夏は一瞬、頭の中で、この人何を言い出すだろうとか思ったが、二度三度、スメラギの言葉を繰り返し考えて、何かひらめいたようで、ポンと手を叩いた。
「それですよ、スメラギ様。幾つか条件を設定した上で、希望者に拝領するのです」
『エトファリカ連邦国の一つである事』『西方諸国やリアルブルーなどの政治機関と無関係な事』『責任をもって土地を愛し、育んでいく事』これらを最低条件として、自ら土地を切り開いた者へ土地を託していけば……。
土地を失った武家や元々、土地を持っていなかった侍は奮起するかもしれない。
あるいは、一国の長になる事を夢見て、西方からの移住者も出てくる可能性だってある。
功績のあったハンターも条件が適うなら、土地を手にする事もできるだろう。
「よしっ! 今すぐできるって訳じゃないだろうが……それでも、少しずつでも、進んでいくしかねぇ!」
「及ばずながら、私もお手伝い致しますよ」
真剣な眼差しの朱夏にスメラギは力強く頷いた。
「見てろよ紫草! “東方大復興”――俺様達が絶対に成し遂げてやるからな!」
「良い方向に話がまとまったようですが、スメラギ様。一点確認させて戴きたいことがございます」
「あ? 何だよ」
「上様の件です。このまま『行方不明』としておくのは、宜しくないと思うのですが……」
朱夏の言わんとしていることを察して、口籠るスメラギ。
暫しの沈黙の後、口を開く。
「……1か月だけ、時間をくれ。捜索してダメなら、諦める」
――今の東方に、捜索に割く人手があるとお思いですか。
そう言おうと思っていた朱夏。
そこに現れた人物に気付き、頭を下げた。
アシェ?ル
きょろきょろと辺りを見回すアシェ?ル(ka2983)は、礼をしている朱夏に気付くとアワアワとお辞儀を返し、スメラギはおう、と軽く手を挙げた。
「確かに呼んだぜ。よく来たなアシェール。……朱夏、ちょっと人払いしてくれ」
「かしこまりました」
再び腰を折り、席を辞する朱夏。
「スメラギ様、御用って何ですか?」
「ん。ちょっとここ座れ」
言われるままにスメラギの隣に腰掛けたアシェール。
そのままぱたりと倒れ込んだ帝。アシェールの膝の上に彼の頭が乗る恰好になって、目を丸くする。
「えっ。ちょ……スメラギ様!? どうしたんですか?!」
「どうしたって……側室に入る覚悟はある、人恋しい時は呼べって言ってたじゃねーか」
「た、確かに言いましたけど……」
「……強引だったのは謝る。5分だけ膝貸してくれ」
戸惑いながらもこくりと頷いたアシェール。
スメラギは彼女に背を向けるように寝返りを打つと、深く深くため息をついた。
「――母上も父上も、黒龍も牡丹も……何で皆して俺様を置いて行くんだよ」
スメラギから囁くように漏れた言葉にハッとしたアシェール。
泣くでもなく。ただ歯を食いしばっている帝。
そんな彼の髪を、そっと撫でた。
【東幕】これまでの足跡
▼【東幕】グランドシナリオ(2018.1/30?2/20)▼
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▼【東幕】グランドシナリオ「篝火狐鳴」(2019.2/13?3/6)▼
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