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【東幕】篝火狐鳴「天ノ都脱出」リプレイ

▼【東幕】グランドシナリオ「篝火狐鳴」 情報▼
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作戦3:天ノ都脱出 リプレイ

史郎
史郎 (kz0242)
キヅカ・リク
キヅカ・リク(ka0038
百鬼 一夏
百鬼 一夏(ka7308
龍崎・カズマ
龍崎・カズマ(ka0178
エルバッハ・リオン
エルバッハ・リオン(ka2434
蜜鈴=カメーリア・ルージュ
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
星野 ハナ
星野 ハナ(ka5852
万歳丸
万歳丸(ka5665
カーミン・S・フィールズ
カーミン・S・フィールズ(ka1559
鳳城 錬介
鳳城 錬介(ka6053
ジャック・エルギン
ジャック・エルギン(ka1522
高瀬 未悠
高瀬 未悠(ka3199
ルフィリア・M・アマレット
ルフィリア・M・アマレット(ka1544
パトリシア=K=ポラリス
パトリシア=K=ポラリス(ka5996
サクラ・エルフリード
サクラ・エルフリード(ka2598
ユリアン
ユリアン(ka1664
久我・御言
久我・御言(ka4137
琴吹 琉那
琴吹 琉那(ka6082
志鷹 都
志鷹 都(ka1140
ミィリア
ミィリア(ka2689
フィロ
フィロ(ka6966
神楽
神楽(ka2032
岩井崎 旭
岩井崎 旭(ka0234
岩井崎 メル
岩井崎 メル(ka0520
 スメラギには「こんなときまで守銭奴キャラかよ」と苦笑されたが、こんなときだからこそだと史郎(kz0242)は思っているし、そもそも「キャラ」だなどとは心外だ。まるで史郎が普段守銭奴をよそおっているかのようではないか。
「甘いんだよなあ、スーさんは。ま、そういうところがいいんだけどさ。……と、いうわけで、スーさんからはたんまり軍資金をせしめたからね、水と食料、救護用品や薬、連絡に必要なトランシーバー……、とにかく、必要と思われるものには心配いらないよ」
 史郎は、独り言ののち、集まったハンターたちにむかって微笑んだ。つまり、アイテムの心配はいらないということだ。おおお、と一同からどよめきが起きる。
「さて。こんなことで盛り上がっているわけにはいかないよ。一刻も早く、出発だ」
 明るさは失わないままでありながらも厳しいまなざしで、史郎が告げた。



「隊列、なんて大げさに呼ぶわけじゃないけど、ある程度集団移動の形式を整えておいた方が移動しやすいし、守りやすいと思うんだよね」
 そう言って移動の基本形式を提案してきたのはキヅカ・リク(ka0038)だ。
「いい案ですね! それでいきましょう!」
 百鬼 一夏(ka7308)が大きく頷いて、列形成に積極的な協力をした。前後、両脇にハンターを配置し、ハンターがロープを持って避難民を囲うように集団をつくる。適度な感覚を開けつつ、この集団ごとに列になって進む計画だった。これなら移動の際にはぐれる可能性がぐっと低くなるだろう。史郎が準備した物品の中にはロープも潤沢にあったため、一夏は有難くそれを使用した。
 龍崎・カズマ(ka0178)、エルバッハ・リオン(ka2434)、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009))、星野 ハナ(ka5852)は史郎に道の確認をしていた。彼らは先行して障害物や獣その他道行きの脅威となりそうなものを排除していくつもりでいるのである。
「露払い程度は出来よう。出過ぎて危険を呼ぶつもりも無い故安心せい」
「助かります。俺も基本的には先行しますが、列全体を確認しながら進みたいので、いったりきたりすると思います」
 ゆったりと微笑む蜜鈴に、史郎は頷き返した。
「基本的に、ここを辿って行きます。状況に応じて、多少変えるかもしれませんが」
「了解だ。休憩のたびに確認させてもらうことにしよう」
「ええ、お願いします。……ですが、そのメモは」
 道筋をメモに取るカズマに、史郎が表情を曇らせる。カズマはすぐに言い添えた。
「安心してくれ、メモは後ほど破棄する。本来そちらの間道、使わせて貰うだけでもありがたい話だ」
 隊列が整い、出発の準備が完了した。史郎は素早く樹上に跳び上がると、不安げな顔をした避難民の列をしっかりと眺めた。これだけの人々を、率いてゆくのだ。見下ろしていると、前方の列の脇に控えていた万歳丸(ka5665)と目が合った。
「出発しましょう」
 史郎がそう声をかけると、万歳丸は何をすべきなのかを察して大きく頷いた。そして大きく息を吸う。
「出発だ!!! ……終わり、じゃねェよ、皆の衆」
 万歳丸の声は、列の後ろの後ろまで、しっかりと届いた。暗い表情でうつむいていた人々の顔が、上がる。史郎は、そっと微笑んだ。
 かくして、人々は生まれ育った故郷・天ノ都を背に、歩き出した。



 先行部隊は、すでに森を進んでいた。カズマは、すでに覚醒状態だ。移動中、常に維持するつもりらしい。ハナが首を傾げた。
「大丈夫ですかぁ? もたなくなるかもですよぉ?」
「……無理を通す責任が俺にはある」
「ふぅん。ま、そう言いつつ、私も同じことするつもりだったんですけどぉ」
 くすりと笑ってから、ハナも覚醒した。彼女もまた、常時この状態でいるつもりなのだ。
「じゃれおうている場合か、おぬしら」
 蜜鈴が煙管をくゆらせつつ苦笑した。エルはすでに仕事に取りかかっており、大きな岩をグラビティーフォールで砕いていた。
「思ったほど、障害物は多くなさそうですが、できるだけ少なくするに越したことはありませんものね」
 冷静に周囲を見回し、エルが告げると、ハナとカズマも頷いて、倒木などの障害物を排除しにかかった。
「おや。さっそくお出ましではないか」
 蜜鈴の視線の先には、狼がいた。群れからはぐれてしまったのだろうか、一匹だけで蜜鈴を睨みつけ、ぐるるる、と唸る。
「恐ろしいよな……、なれどおんし等の縄張を荒らすつもりはない。すぐに去る……許せ?」
 蜜鈴は狼と目を合わせ、威嚇を仕返しつつそう呟いた。彼らのすみかを騒がすのはこちらの方なのだ、できることなら殺さずにおきたい。
 その蜜鈴の気持ちが伝わったというわけでもないだろうが、しばしの睨み合いの末、狼はくるりと背を向けて去って行った。
「できれば殺さない方がいいですね、血が流れると他の獣も呼び寄せますし」
 殺さない方がいい、という意見は一致してもその理由がまったく違う、そんなエルのセリフに、蜜鈴は少々苦笑した。



 カーミン・S・フィールズ(ka1559)はいくつものまとまりとなって進む、長い移動列の殿で、天ノ都を去る人々を眺めた。いまだ不安げな様子はあるものの、避難民にはまとまりがある。自分勝手な行動を取ろうとしたり、騒いだりする者は誰一人いない。
「スメラギサマ、ってのは慕われているのねぇ」
 ひとりごとのつもりで呟くと、隣から返答があった。
「ええ、慕われていますよ」
 鳳城 錬介(ka6053)だ。多くを語らなかったが、彼のその落ち着いた、自信ありげな表情からも、スメラギという人物への信頼がうかがえた。
「……そう。見上げたものよ、そのスメラギサマも、ここを歩く民も、ね。……でも、体力がついてくるかは別問題ね」
 カーミンの目線が少し鋭くなる。そう、道行きは長い。体力が落ちれば、気持ちも揺らぐ。それがカーミンには少し心配だった。
「そうですね。ですから、我々はできる限りそれをカバーしなければ。ああ、あの驢馬の背が空いていますね。あちらを歩くご老人を乗せてあげましょう」
 錬介は後ろから民衆の様子を注意深く眺め、驢馬の方へと駆けて行った。
「焦るな! 落ち着いてゆっくり進め! 道はハンターが守ってる! 心配はいらねえぞ!」
 ジャック・エルギン(ka1522)が大きな声で励ましている姿も見えた。
「男は病人や怪我人を運ぶの手伝ってやってくれ! 女は子供や年寄りの手を引いてくれ!」
 その姿を眺めて、カーミンは頷く。
「そうよね。サポートするのが、私たちの仕事よね」
 ハンターたちの多くは、その「民衆たちのサポート」を一番に考えていた。特に子どもは、大人ほど器用に恐怖を隠すことができない。早々にべそをかく子も少なくはなかった。
「大丈夫。お姉ちゃん達、強いのよ。絶対に皆を安全な所まで連れてってあげる」
 ちょうど真ん中あたりの列に寄り添っていた高瀬 未悠(ka3199)が、ぐすぐすと泣き出してしまった少年に微笑みかけた。未悠の反対側を歩いていたリクも頷く。
「そうそ。心配いらないよ。こうやって皆で繋がっているわけだし。さ、君も持ってくれない?」
 避難民たちを囲み、繋いでいるロープをぶらぶらさせてみせつつ、リクは少年を手招きした。何か役目を与えられたのが嬉しかったと見え、少年は涙を拭って、頷いた。
「うん!」
 どこからか歌も聞こえてくるようになった。
「ある日 森の中 冒険だ 楽しいぞ?♪」
 ルフィリア・M・アマレット(ka1544)だ。道中が少しでも和やかになるようにと、子どもたちと歌っているのである。歌に合わせてタンバリンも鳴らし、実に賑やかだ。こうして賑やかにしていれば、獣避けにもなる、という考えがあってのことだった。未悠は聞こえてくる歌声に耳を澄ませて微笑みながら、自分もその歌に合わせて持っていたタンバリンを鳴らした。
「マル! 前、任せたヨ! ちょっと後ろも見てくるカラ!」
 万歳丸と共に前方の護衛を担っていたパトリシア=K=ポラリス(ka5996)が、そう言って駆け出した。
「ずっと住んで場所からの移動、とっても心細いと思うカラ……、その、心細い気持ちが、良くないマテリアルと結びつかないよーに」
 そう呟きながら、列の間をくまなく行ったり来たりして人々に声をかけて回った。明るいパトリシアの笑顔は、暗い顔の人をも釣られて笑顔になってしまうような、そんな力がある。足並みを揃えて共に歩んでくれるところにも、安心感をおぼえているようだった。
 サクラ・エルフリード(ka2598)は人の少ない場所を素早く見つけ、そこに付き守ることにしていた。気を付けていても、いつの間にか偏りは出てしまうものだからだ。足の遅い人にできるだけ寄り添い、なによりも人々を不安にさせないよう堂々としておくことを心掛けた。
「私たちがいるから大丈夫です」
 そういうシンプルな言葉を、目線を合わせつつ話しかける。堂々とした態度が、その言葉に信憑性を生み、人々の不安を取り除いてくれていた。
 そんな、ハンターたちの気遣いと頼もしさがじわじわ浸透してゆき、移動の列全体に活気が出てきた。最初はただ話しかけられるものに応えていただけの民衆も、自分からハンターに話しかけたり、助けを求めたりするようにもなってきたのである。ユリアン(ka1664)の提案で、ハンターたちは目印として幅広のタスキをつけており、それも隊列の前、真ん中、後ろで青、黄、赤に分けていたため、皆ハンターを見つけやすくなっていたのである。
「東方の民よ。この度は我らの力が足りず苦労をかけてすまない。だが、これは長くなる事はない。約束しよう。君達は私達が守る、と」
 そう力説する久我・御言(ka4137)に対して「大げさだなあ」なんて笑顔を見せる余裕すら出てきていた。
 そんな明るさを見せる避難民の列を、琴吹 琉那(ka6082)は微笑んで見守りつつ、内心ではひどく警戒していた。活気づくのはよいことだが、それが過ぎれは油断となる。この避難の道中で、ひとりとして命を落としてはならないと、琉那は人一倍強く思っているのである。
「誰か命落とせばそこから混乱が生じる。せやから守り抜くしかあらへんのよ」
 誰にも聞こえないように、そっと呟く。忍者を自称するだけあり、琉那は身のこなしに自信があった。列の中盤を基本位置とし、しかし前方の確認と足場の確保もしながら、後方の様子を随時確認する。ときおり、樹上を移動して様子を見て回っている史郎と行き逢ったりもした。その史郎から、トランシーバーに連絡が入った。ついに敵襲か、と身構えたが。
『予定通り、ケヤキの大木まで辿り着きそうですので、そこで休憩にします』
 とのことであった。



(活気づいているこの勢いで進めるところまで進んでおきたい気もするけど……、ここで休憩をとっておかないとこの先はキツイからな……)
 史郎は胸中で唸った。ここまでの行程において、この避難は史郎の予想の何倍も上手くいっている。混乱もほとんどなく、まだひとりの怪我人も出ていない。
「ですが、ここからはそうはいかないと思います」
 休憩中、一部のハンターたちを集めて史郎は告げた。避難民のケアや周囲の警戒には志鷹 都(ka1140)、ミィリア(ka2689)やフィロ(ka6966)らが積極的に申し出てくれた。
「道が険しくなる、ってことですねー。後続が休憩場所に追いつくまでにちょっと先に見てきましたけどぉ、細い道でしたぁ。力技で広げることも難しそうですしぃ、確かにあの道は一般の皆さんにはキツイところがあるかもですぅ」
 先行隊のひとりであるハナが言うと、史郎が頷いた。
「はい。ですが、危険、というほどではありません。道自体は」
「道自体は、か。つまり気にかけなければならないのは襲撃、ということだな」
 カズマが呟く。史郎がええ、と肯定した。
「今までの道よりも襲撃の可能性が増える、というわけではありません。そうではなく、道が険しくなる分、もし襲撃に遭ったときには人々を守ることの難易度が上がる、ということです。今までも危険をできるだけ事前に察知する対策をしてきましたが、今まで以上にそれが必要だということになります」
「つまり『天空の眼』が重要になるってことっすね!」
 神楽(ka2032)がニッと笑って史郎を見た。『天空の眼』は、神楽が主導となり指揮を取っている「空からの警戒・監視行動」である。『天空の眼』に参加しているハンターが、飛行可能なペットでファミリアズアイを使用し、空から周辺を警戒したり隊列を監視したりしているのである。ここまでの行程でもすでに行っていたのだが、ここからはそれがさらに重要となりそうだ。
「ここまでは先のことも考えて温存体勢で行っていたから、余力はあるしな!」
 鳥の幻獣カラドゥリケスを携え、『天空の眼』に参加している岩井崎 旭(ka0234)も力強く頷いた。彼らを頼もしくみやって、史郎は微笑む。
「もちろん、強化しなければならないのはその部分だけではありません。道が険しくなるということは、民衆の疲労や不安は増すということです。人々のサポートも、よろしくお願いします。……まあ、今までも充分気遣ってくださっているので心配はしていませんが」
 史郎は優しいまなざしで、休息をとる人々を眺めた。怪我人はいないが、もともと体に不調をきたしていた者は多くいる。そうした人を最優先に、都が声をかけ、ケアにあたっていた。ミィリアは節制蒸留水で水を作る作業を、大げさにやって見せて子どもたちの気を引いていた。まるで手品のように見えるらしく、幼い子ほど目を丸くして驚き、喜んでいた。
「ミィリア、おサムライさんに憧れてて。こう……困った人を助けられるヒーローみたいな? だから、皆のこともばっちりお守りしちゃうからまっかせて!」
 集まってきた子どもたちを相手に、明るく喋るミィリアは、場をしっかりと和ませていた。
 フィロは休憩中も立ったままで周囲を油断なく警戒していたし、ハンターたちの民衆への気遣いは史郎の言う通り充分で、感動的なほどであった。
「私も避難する皆の心を守ってみせるんだからっ。細かい気配りで不安の種を解消して行けば行軍もしやすくなるはずっ」
 旭の隣で史郎の話を聞いていた岩井崎 メル(ka0520)が決意を新たにして休憩している人々の方へ駆けて行った。さっそく、必要な物品の把握のために人々から情報を集め出した彼女の姿を、史郎は目を細めて見守る。
「頼りにしていますよ、皆さん」



 神楽のモフロウが、旭のカラドゥリケスが、空を駆ける。ユリアンのレミージュは低空飛行でふたりとは違う視点から警戒をし、交代要員には未悠が控えていた。地上では、ジャックが連れている猟犬が、道のにおいを嗅いで獣などの痕跡を探っている。厳重な警戒の中、休憩が明けてからの道のりは、史郎の言う通り、これまでより確実に険しいものとなっていた。
 まず、ハナも言っていたように道が細い。そして起伏が激しく、特に下り坂がキツイ。民衆ひとりひとりに手を貸しながら下らなければならない上、荷馬車は複数名で支えながら降ろさなければならず、かなりの時間と体力を使った。
 荷馬車に関してもっとも力を発揮したのはフィロだった。下りの一番キツイポイントに立ち続け、あとからあとからやってくる荷馬車や手押し車の類をすべて支えて助けたのである。
「ありがとう、本当にありがとう」
 礼を繰り返す人々に、フィロは微笑んだ。
「いえ、皆さまのお役にたつのが、私の仕事ですので」
 子どもたちのために道をつくったのは一夏だった。
「先行部隊が安全な道を探してくれるので、私達は安心して進めますよ!」
 そう言って励ましつつ、人が足を滑らせて落ちそうな場所にはアースウォールを使って通りやすくしたのである。
「これで怖くないですね! 皆で仲良く頑張りましょう!」
「うん!」
 一夏の声に負けぬくらいの元気の良さで、子どもたちが返事をした。
『このまま真っ直ぐ行くと、何かの群れに突っ込みそうだぞ……、鹿、か? 猛獣じゃないから危険性は低いだろうけど』
 旭がカラドゥリケスの視界情報をもとに、先行部隊にそう伝えた。真っ先に応えたのは、先の道が完全に頭に入っている史郎だ。史郎は今、列の後方を見回っているところだった。
『少し右舷に寄って進んでも問題ないはずです、先行の皆さん、お願いします』
『了解しました。そのように進路を修正します』
 エルが応答し、一行はゆるやかに進路を変えて鹿の群れを回避した。
「いいねェ、上手く連携が取れてるじゃねェか」
「うんうん、いい感じだよネー!」
 万歳丸がニヤリとし、パトリシアがにこにこ頷く。ふたりの言う通り、実に上手く連携が働いていた。ロープで列を管理しているおかげで、はぐれた者もいない。細い道を抜け、原っぱのような場所へ出たところで、再び休息を取ることとなった。
「もう二、三時間歩けば森を出られるはずです。もうひと踏ん張りですよ」
 史郎がそう言って微笑み、ハンターたちもホッとしたようであった。この分なら日暮れまでには余裕を持って森を出られそうだった。
「あと二時間で森を抜けるからもうひと踏ん張りっす! 目的地には美味しいご飯と温かいお風呂とフカフカの布団があるから皆頑張るっすよ!」
 休憩を終えて再出発する際、神楽がそう民衆に声をかけ、さすがに疲れの色を濃く見せていた人々の顔が輝いた。
 そうして、ラストスパートである進行が再開されてしばらくしたとき。
「うん……?」
 ユリアンが、眉をしかめた。『天空の眼』として視界を任せていたレミージュには、隊列からの離脱者などの確認の他に、追撃者についても警戒をさせていた。その視界に、何か、人ではないモノの影が見えたのである。
「後ろから、何か来ます! 後方隊は注意を!」
 追ってくるモノの正体を確かめるより早く、ユリアンは注意喚起をした。それを受け、殿を務めていたカーミンと錬介がザッと風の音のしそうなほどの素早さで背後を振り向いた。最後列の民衆が、びくりと身をすくませる。
「大丈夫! まだ何か来るって決まってないし! 来ても私たちがやっつけるから!」
 カーミンが笑顔を向けたが、人々は不安そうな顔色のままだ。早く進むことが出来ず、最後列にまで遅れてきた人々を、ここまでずっとカーミンと錬介がケアしてきたのだ、ふたりへの信頼度がきわめて高かった。
「ここは預かりましょう。お二人は、皆さんについて先へ」
 駆けつけてきたユリアンが、カーミンと錬介に告げた。ふたりは頷き合うと、素直にそれに従い、最後列の人々を助けながら先へ進んだ。
 ユリアンからしばし遅れて、リク、旭、御言、一夏が駆けつけてきた。
「何が来た!? 何が来ても返り討ちにするが!!」
 御言が身構え、一夏も拳を固めていた。姿は見えないが、何かが走ってくる気配は、すでに誰もが感じていた。
「これは……、熊では?」
 先に目視情報を得ているユリアンが呟く。と、その言葉通り、大きな熊の頭が見えた。その数……、五頭。
「数が多い!! これは無傷でお帰り頂くってわけにいかなさそうだなー」
 旭がぼやくように言いつつ体勢を整えたとき、カズマが合流してきた。
「え、先行してたのに一番後ろまで来たの!?」
 リクが目をむいて驚くと、カズマは苦笑した。
「駆けつけてきながら、他のハンターに持ち場を守るように言って来た。誰も彼もが『身を挺して民を守る』と駆けつけかねなかったのでな。一日行動を共にしたハンターがそばを離れるのは、その方が民衆にとって恐怖だろう」
「あ、ありがとうございます駆けつけちゃった俺」
「大丈夫です! 結果的にみーんな無事に森を抜けられれば、それでいいんですから。いっきますよー!」
 襲い掛かろうとする熊に、一夏は縮地瞬動で距離を詰め……、ぶん殴った。



 追走してきた熊は、どうやら、一行が休憩していた場所の匂いから辿ってきたものらしかった。
「しっかり後片付けはしてきたはずなんだけど……、やっぱり野生動物は凄いんだ……」
 メルが呟く。そして、戦闘を終えて帰ってきた旭を、真っ先に労った。
 最後尾でユリアンら六名が熊と戦っている間に、一行は無事森を抜けた。すっかり怖がってしまっている子どもたちを、都が穏やかな声で慰めている。
「もう、大丈夫。何も怖くないよ」
 史郎はその様子を、目を細めて眺めた。熊が出たという知らせを受けたとき、史郎はハンターたちが必ず対処してくれると信じて最後尾には向かうことなく民衆の誘導を最優先にした。その判断は正解だったと、誰一人かけることなく森を抜けたことが示している。
「さー、今度こそ、フカフカの布団が待ってるっすよー!」
 神楽の一言に、皆が笑い声を上げた。史郎も笑いながら、ふと、抜けてきた森を振り返った。
 帰るときには、天ノ都へ帰るときには、どうかこの道を使うことがなければいい、と願いながら。

 皆の笑い声が響く中、カズマは声を聞いたような気がして足を止めた。
 密やかなあいつの声。
 ……あいつは幕府軍の指揮に当たっていた筈だ。こんなところにいる筈がない。
 そう。あの最上級にイイ女は腕っぷしも強いし、逃げ足も速い。
 大丈夫。その筈なのに――何か、酷く。嫌な予感がする。
「カズマさん、どうかした?」
「いや、何でもない。行こう」
 リクの声に鷹揚に応えたカズマ。不安を押し殺すように、一言だけ、声を発した。
「牡丹……」




執筆:紺堂 カヤ
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

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