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【東幕】憤怒再来「結界陣維持」リプレイ

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作戦2:結界陣維持 リプレイ

神楽
神楽(ka2032
十 音子
十 音子(ka0537
杢
杢(ka6890
スメラギ
スメラギ(kz0158
天竜寺 詩
天竜寺 詩(ka0396
龍堂 神火
龍堂 神火(ka5693
バジル・フィルビー
バジル・フィルビー(ka4977
エステル・ソル
エステル・ソル(ka3983
三条 真美
三条 真美(kz0198
エラ・“dJehuty”・ベル
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
羊谷 めい
羊谷 めい(ka0669
八島 陽
八島 陽(ka1442
オグマ・サーペント
オグマ・サーペント(ka6921
リラ
リラ(ka5679
鞍馬 真
鞍馬 真(ka5819
ディーナ・フェルミ
ディーナ・フェルミ(ka5843
時音 ざくろ
時音 ざくろ(ka1250
セツナ・ウリヤノヴァ
セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645
サクラ・エルフリード
サクラ・エルフリード(ka2598
レイオス・アクアウォーカー
レイオス・アクアウォーカー(ka1990
ステラ・レッドキャップ
ステラ・レッドキャップ(ka5434
南護 炎
南護 炎(ka6651
クレール・ディンセルフ
クレール・ディンセルフ(ka0586
エーミ・エーテルクラフト
エーミ・エーテルクラフト(ka2225
星空の幻
星空の幻(ka6980
 天ノ都の中心近くにある広場。
 円陣を組む術師達の周囲を公家の私兵とハンター達が固め、場は物々しい雰囲気を挺していた。
 モフロウの目を通してみるまでもなく、遠目に揺らめく黒い巨大な獣が見えて……獄炎の影の大きさに、神楽(ka2032)はヒューと口笛を鳴らす。
「相変わらずデッカイっすねえ。全然嬉しくないっすけど」
「同感です。一度倒した敵が何度も出て来るとは、憤怒も余程人手不足と見えますね」
「そういう問題っすかね?」
 淡々と言う十 音子(ka0537)にデッカイ冷や汗を流す神楽。
 杢(ka6890)はスメラギ(kz0158)の顔をまじまじと見つめる。
「スメラギさんば本当に偉い人だったんずね……」
「お前俺様を何だと思ってたんだよ」
「半裸の面白い兄ちゃんだんず!」
 きっぱりと告げた杢に笑いをかみ殺す天竜寺 詩(ka0396)。
 これは半裸じゃなくてお洒落だと訴えているスメラギに声をかける。
「スメラギ君達は私達がきっと護るから、心配しないで仕事に集中してね」
「おう。流石に陣を敷き始めるとそれ以外何も出来ねえから、頼むな」
「ところで、スメラギさん。緊急の時にボクらが術式を継ぐ事は出来ますか?」
「……マテリアルの通り道になら我輩達でもなれると思うのな」
 確認する龍堂 神火(ka5693)に思い出すように呟く黒の夢(ka0187)。
 彼女は以前、北の地に転移門を設置する任を負ったスメラギを手伝ったことがあった。
 身体を通り抜ける大量のマテリアル。正の力とはいえ、暴力的なその感覚をまだ覚えている。
「今回はアレとは質が違うけど、マテリアルが通る回路としてであれば同じはずなのな」
 そう続けた彼女に、スメラギは頷く。
「陣を編むのは難しいと思うが……そうだな。その通りだ」
「通り道……ですか?」
「結界陣を張るのにはマテリアルを張り巡らす必要があってさ。今回は人を媒介にするから……人が減ると網目の目が広がっちまうんだよ」
 帝の言葉に首を傾げる神火。バジル・フィルビー(ka4977)がぽん、と手を打つ。
「ああ、そうか。網目の目が広がるとそこが薄くなって……弱くなるってことかな」
「……ということは、術式は手伝えないまでも、網目を繋ぐ役目は果たせるってことですかね」
「そうそう。そういう感じ。まあ、でも訓練詰んでねえと大分キツイから本当、緊急時だけにしといてくれ。何とか最後まで持たせるからよ」
「そういう事なら、術師さん達はきちんと持ち場を守るのが大事ですね。分かったです」
 これまでの話を聞き納得したように頷くエステル・ソル(ka3983)。くるりと振り返り、友人である三条 真美(kz0198)に抱きつく。
「真美ちゃん、いざとなったらスメラギさんを助けてあげてくださいです。自分の出来る最善を尽くすですよ」
「はい。分かりました」
「憤怒の影、進軍中。すごいスピードです。皆さん用意を」
「よし、始めるぞ。……総員構え! 詠唱開始!」
 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)に頷くスメラギ。
 彼の合図に合わせて始まる詠唱。
 広場の中央に光が集まり出し……光の壁が広がっていく。
 それに釣られるように、小さい黒い狐が沸き出してきた。
「黒い狐……! 来ました!」
「早速来たか! この地は穢させない!」
 羊谷 めい(ka0669)の鋭い声に応えるように、木製のソリに飛び乗り空へ舞い上がる八島 陽(ka1442)。
 オグマ・サーペント(ka6921)は武器を構える武家の私兵と詩天の兵達に声をかける。
「皆さん、落ち着いてことに当たって下さい。私達がついていますから大丈夫です。手が足りないと思ったらすぐに救援を呼んで下さい」
「了解した!」
「あっちが勝つまで、何としても護り抜くぞ!」
「大丈夫。力を合わせれば必ず勝てます。頑張りましょう!」
「応!!」
 鞍馬 真(ka5819)とリラ(ka5679)の叫びに応える兵達。
 その間もあちこちから現れ続ける狐。もう数えるのも面倒になった辺りでディーナ・フェルミ(ka5843)が手近な狐をメイスで殴りつける。
「もー! やっぱり思った通りなの! あちこちから同時に来たの!!」
「同時多発ですか……。機動力があるものを用意して正解でしたね」
「うん。皆で手分けして叩こう! 行くよサクラ!」
「はい、行きましょう。ざくろさん」
 バイクに跨るセツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)に頷く時音 ざくろ(ka1250)。
 早速これを使うことになるとは思わなかった……と呟きながら、サクラ・エルフリード(ka2598)もざくろと共にソリで空へと駆け上がる。
「……随分と数が多いな」
「お、何? まさか怖気づいた?」
「まさか。暴れるには十分と思っただけだ」
「ハハハ。そーこなくっちゃ」
「うおおお! ここから先は通さんぞ!!」
 襲い来る敵を前に軽口を叩き合うレイオス・アクアウォーカー(ka1990)とステラ・レッドキャップ(ka5434)。
 その横を南護 炎(ka6651)が先陣を切るように走る。
 あちこちで交戦が始まる中、クレール・ディンセルフ(ka0586)は集まる情報を必死で纏めながら眉根を寄せていた。
「何これ。どんどん数が増えてる……」
「こちらエラ。クレールさん聞こえますか?」
「聞こえるよ! 情報お願い!」
「10時の方向に1体……今11時の方向にも2体出現しました」
 聞こえて来る情報を必死に整理するクレール。その間も通信を知らせる音が聞こえて来る。
「こちら陽、神楽聞こえるか?」
「聞こえるっすよ! 敵の数と位置を教えて欲しいっす!」
 そして神楽もまた、味方と敵の位置を割り出し、状況把握に努めていた。
 これまでに現れた影狐の数、出現場所共に神出鬼没という言葉がピッタリで、法則性などと言うものは全く存在しないように見える。
 出来れば状況を整理し、敵の出現場所の予測をしたかったのだが、この状況では難しい。
 ただただ、現れるところに駆けつけては敵を叩くの繰り返しになっている。
「思うようにいかないっすね……」
「でも分かったこともいくつかあるわ」
 唇を噛む神楽を励ますようなエーミ・エーテルクラフト(ka2225)の声。
 神楽は頷いて、現状分かっていることを整理する。
 ――影狐は空からは飛んで来たりはせず、地面から湧くように出現する。
 そして、広場以外……他の街の拠点などには出没していない。
 音子のファミリアズアイを使った報告で、事前に調べていた街の拠点……寺や神社、地蔵といったものにも影狐が現れている気配はないという報告が上がっている。
「やはり結界陣の出すマテリアルに引かれて出現してるっすかね」
「……結界陣あったら、憤怒の影本体が天ノ都に侵入出来ないって理解しているんじゃないのかな」
「大荷物を小分けに送ってきている可能性はないかしら?」
「大荷物っすか?」
「そう。防衛陣を潜り抜けて天ノ都に入り込む為に、小さい狐を送り込んでるんじゃないかって……」
 エーミの推理に考え込むクレールと神楽。確かにその可能性も捨てきれない。
 ともあれ、現状分かっていることを皆に伝えないと……!
 2人は通信機を手にして息を吸い込む。
「皆さん! こちらクレールです! 影狐はこの広場に集中しています。空から現れることはありません」
「こちら神楽っす! 敵は突然現れることが多くて出現パターンやポイントは解析中っす! とりあえず出て来るのを片っ端から叩いちゃって欲しいっす!」
「了解! 解析の為にはデータが必要ってな!」
「影狐、お手並み拝見と行くぞ!」
 手近な敵を手にした剣で薙ぎ払うレイオス。その隙間を縫うように、ステラの銃弾が面白いように吸い込まれる。
 その背後に現れた狐の足元に銃弾を浴びせる星空の幻(ka6980)。
 広場近くの高い建物の上から、敵を見下ろす。
「数が多いの……。でも、ここからなら全部見えるの……」
 彼女のライフルでは広場全てをカバーするのは無理だが、半分弱は行ける。その反対側は陽や杢が上空から対応してくれるはずだ。
「これ以上術者達に近づけるな!」
「けっぱるだんずー!!」
 そんな星空の幻の思考に応えるように、陽が空飛ぶソリの上から、杢は敵の隙間を突いて銃弾を浴びせていた。
「うお!?」
「大丈夫か?」
「ああ、大丈夫。突然足元から現れるとは卑怯だな!」
「向こうはそう思ってないだろうけどね」
 突然足元から現れた敵を咄嗟に避けた炎。苦笑する真に、炎はうーんと考え込む。
「踏みつけられるなら簡単なんだけどな。影相手じゃそうもいかないか……」
「一度出現してしまえば、物体をすり抜けるということはないみたいだし……意外と行けるかもだぞ?」
「踏むのはいいんですけど、そうすると精神汚染貰っちゃうんじゃないんですか……?」
 リラの冷静なツッコミに『デスヨネー』という顔をする2人。
 彼女は困ったように笑うと、ベルを打ち鳴らす。
「分かりました。少しでも抵抗出来るように支援しますね!」
 ――関係を築いた友達のいるこの国を必ず守る。
 そんな願いを込めた彼女の『アイデアルソング』。
 穏やかで静かな歌が戦場に響く。
 その頃、エステルはそりに騎乗して敵にブリザード当てつつ、影狐の動きを観察していた。
 小さな黒い狐達は魔法での攻撃は通りにくい特性を持つが、行動阻害などは効果があるらしい。
 出現時は地面から炎が湧くような感じに見えるが、一度現れてしまえば建物や人をすり抜けることは出来ない。
 そして、影狐自身にほぼ知能はないらしく、意思の疎通や連携が取れているようには見えなかった。
「やっぱり、マテリアルに引かれて来てるんですかね……」
 そう考えたエステル。大きなイクシード・プライムを手にして影狐の前で振ってみるも、反応する様子は見られず首を傾げる。
「何で反応しないですかね……?」
 残念ながらその時、彼女のその疑問に答えられるものはなく。陣の中央部分から突然光が立ち昇ったのを見て詩が慌てて振り返る。
「スメラギ君、大丈夫!? 何が起きてるの!?」
「大丈夫だ! 今ようやっと龍脈に繋がった! 少しだけだけど力が使えそうだ……!」
 スメラギの声にホッとする詩。
 良かった。龍脈は完全に枯れている訳ではなかったのだ。
 でも、扱う力が大きくなれば、それだけ術者達に負担がかかるのでは……。
 手を握りしめる詩。
 彼らの疲労は、彼女の癒しの力では治せない。
 それでも、命に代えてもスメラギを守ると誓った。
 その誓いを果たす為にも。影狐に邪魔はさせない――!
 示す確固たる意志。続く詠唱。詩は不可視の境界を作り上げる。
「真美、大丈夫かい」
 心配そうに声をかけるバジル。
 無言で頷く真美もまた額に汗を滲ませ、苦しそうな顔をしている。
 あんな小さな身体で必死に頑張っているのを見ると、居たたまれない気持ちになる。
「……代われるものなら代わりたいよ」
「お気持ちはよくわかります。代わることが出来ない以上、私達の出来ることを頑張りましょう」
 聞こえてきたセツナの声に頷くバジル。ふと、彼女があちこちから血を流していることに気付く。
「セツナさん傷だらけじゃないか!」
「この陣を守る兵達、覚醒者じゃない者もいるんですよ。彼らを守ろうと思ったらつい……」
 彼女もいてもたってもいられない気持ちだったのだろう。バジルは苦笑すると、柔らかい光でセツナを包む。
「僕の力の続く限り回復するから、無理はしないで。皆無事で帰らなきゃ」
「はい。肝に銘じます」
「……新手か来たましたね。私が動きを封じましょう。神火さん、セツナさん、攻撃をお願いします」
「了解だよ」
「お任せください」
 符を投げ、光の結界を張るオグマ。
 眩い光に目を眩ませた影狐に、神火の炎龍とセツナの太刀が襲いかかる――!
 現れる影狐を次々と追い込み、動きを封じて順番に始末して行くハンター達。
 それでも、足元や背後から突然現れる影狐に公家の私兵や詩天の兵達では対処しきれない状況だった。
「うわああああ!!」
「落ち着くの! 怒りに飲み込まれちゃダメなの!」
 影狐の体当たりを食らい、よろけた私兵。怒りで我を忘れて暴れ出した彼に、ディーナがピュリフィケーションをかけて心を落ち着かせようと試みる。
 敵と身体を張って戦い、時に『憤る怒り』に襲われて同士討ちをしかけて……。
 そんな兵達を、めいは近くで必死に支え続けていた。
 ――スメラギも符術師達も、天ノ都も……皆、誰かの『大切なもの』。
 その大切なものを壊されるのを、黙って見ているなんて出来なかった。
 自分独りで出来ることなんて限られている。本当は戦うのは好きじゃない。
 だけど……守りたいものを守るために。出来ることをしないなんて。
 そのほうがずっとずっと嫌だった。
 国を。国に生きるを皆を守りたいという気持ちを、守りたい――。
「ディーナさん、めいさん、大丈夫か!?」
 上空から聞こえてきた声。顔を上げると陽が彼女達の近くにいる影狐を狙撃しているのが見える。
「はーいなの! 私達は大丈夫なの!」
「でも、兵の皆さんが……!」
「サポートが要りそうだね。分かった。……こちら陽。神楽さん、聞こえるか?」
「はいはーい! 聞こえるっすよ! 状況教えてくださいっす!」
「俺から5時方向地点の兵が精神汚染にやられてる! 回復は既に試みてるが攻撃の手が足りない! 支援頼む!」
「了解っす! 皆さん、ポイントCが手薄っす! 援護お願いするっす!」
「OK! すぐに向かう! 跳ぶよサクラ!」
「了解です!」
 その声にすぐさま応えたざくろ。その後をサクラが追う。
「……正直ソリがこんなに役立つとは思いませんでしたね」
「そうだね」
 サクラの呟きに頷くざくろ。
 影狐は地上からしか湧いて出ない上に、精神汚染のある攻撃は体当たりのみ。時折鬼火が飛んでくることがあるものの、敵の上空にいられるというのは大きな強みだった。
 2人で縦横無尽に戦場を駆け巡り、ヒットアンドアウェイを繰り返すのはなかなか爽快感がある。
「作戦が上手く嵌って良かったよ。このまま1体でも多く減らそう」
「はい!」
「……カッコよく決めたらサクラ、ざくろに惚れ直してくれるかな」
「……!? こんな時に何言ってるんですか、もう……!」
「あれ? サクラ、何でざくろが考えてること分かったの?」
「何でって声に出てましたー!!」
 恥ずかし紛れに光の波動をぶっ放すサクラ。
 ざくろもアワアワしつつも手元が狂わない辺り、流石熟練ハンターといったところである。
 そう。彼はらきすけが絡まなければ強いのだ!
「音子さん! 獄炎の影は!?」
「進軍停止しました! 別部隊が足止めに成功したようです」
「やった! ……と。ポイント分かれば教えて下さい!」
 音子の報告に小さくガッツポーズをするクレール。神楽と情報共有している彼女の耳に、エーミの声が届く。
「……防衛ラインは敷いてるけれど、こうも神出鬼没だといつ突破されてもおかしくないわね」
「そもそも、陣を敷いているはずなのに何故敵が内部に出現するんでしょうか」
「確かに、それも不思議ですね……」
 音子の指摘に考え込むエラ。
 今回の防衛陣は憤怒の影の侵攻を食い止めるもののはずだ。
 結界陣の効果自体に穴がある可能性もあるが、スメラギが取り込み中でその確認も取れない。
 音子は集められたデータを睨んで首を傾げる。
「これまでの戦況を見るに出現パターンという程のものは見られませんね。……しいて言うならハンターや兵達、術師達の近くに現れる、ということくらいでしょうか」
「人を狙っているのかしら? それもおかしな話よね」
 エーミの呟きを聞きつつ、手元の情報を更新し続ける神楽。思い出したように通信機を手に取る。
「そういえば、エステルさん! イクシード・プライムのおびき寄せはどうだったっすか? 効果あったっすか??」
「こちらエステルです! ダメです。イクシード・プライムには反応しないです! でも、意思の疎通や連携が取れているようにも見えません!」
「んん? マテリアルに反応するんじゃないっすかね?」
「イクシード・プライムが出すマテリアルより、別のものの出すマテリアルの方が強いのでしょう。知能がさほどないのであれば、弱いものより強いものを優先する行動にも納得できます」
「……ん? じゃあハンターや術師達の近くに集まるっていうのは……マテリアルを出しているからってこと?」
 エラとクレールの言葉にハッとするエーミと神楽。
 ――ということは、結界陣より強力なマテリアルを放出すればいいのではないか?
 通信機を手にした神楽は総員に呼びかける。
「公家の兵と詩天の兵はその場で防衛を続けてくださいっす! 遊撃隊以外のハンターは広場北側付近に移動! 炎さん! 真さん! そこでソウルトーチ頼むっす!」
「……? 術師達から離れてしまうけどいいのか?」
「それが狙いよ! 多分あなた達なら影狐をおびき寄せられるはず!」
「ああ、そういうことか……。分かった。なるべく離れてから試みる」
 神楽とエーミの通信に頷く炎。真は共に戦っていた兵達に向き直る。
「いいかい。私達はここから少し離れる。……君達が守りの要だ。頼めるか?」
「しかし……」
 真の言葉に不安そうな顔を見せる兵達。
 無理もない。これまでずっと不利な戦況をハンター達に支えて貰っていた。
 彼は額から流れる血を払いもせず、兵達を見据えて声をかける。
「君達は誉ある東方の戦士達だ。帝を守るのだろう? 今その心意気を私に見せてくれ!」
「……! 分かりました! ご武運を!」
「ああ、君達もな!」
 真に敬礼を返す兵達。彼は炎の後を追うように走り出す。
「真さん! そろそろ目標地点だ! 行くぞ!」
「了解! いつでも始めてくれ!」
 炎と真が体内のマテリアルを燃やし、炎のようなオーラを纏ったのはほぼ同時。
 法則性もなく現れ、そしていたずらに人を襲っていた影狐達は一斉に2人目掛けて襲いかかる。
「うおああああああ!!? 何だこの数!!?」
「耐えろ、炎さん!」
「分かってるけどこれは予想外だぞ!!」
「回復なら任せてなの! 死なない限りは回復してあげるの!」
「おう! もう俺ごと狩ってくれて構わん! 一思いにやってくれ!!」
 ディーナの物騒な発言。炎は友軍に討たれる覚悟を決めて攻勢に出る。
「ひぃえええええ!? もんのすげえ数だんず! ホイホイ引っかかってるだんずー!!」
「ふむ。これなら狙いやすい。背後も狙い放題です。一網打尽と行きましょう」
「分かっただんず! けっぱるだんずー!」
 こくりと頷く杢。オグマが敵の目くらましをしてくれるお陰で面白いように銃撃が敵に吸い込まれて行く。
「おー。絶好調だんずー! このまま行くだんずー!」
「ばーんとやっちゃってなのー!」
「ばーんだんずー! どーんだんずー!!」
「友軍には気を付けてあげてくださいね……」
 ディーナの励ましに応える杢。心配そうにしているオグマだが……真と炎は影狐に取り囲まれていてとりあえず撃てば敵に当たりそうな状況であった。
「私も攻撃に……」
「セツナさん……!」
 バイクから崩れ落ちるように膝をついたセツナに駆け寄るめい。
 見れば全身傷だらけで、今まで戦っていたのが不思議なほどだった。
「セツナさん、少し休みましょう?」
「そう、ですね。これ以上は足手まといですね……」
「足手まといというのは違います。仲間を信頼して任せるんです!」
「……ふふ。その通りですね」
 セツナに肩を貸して、戦線から離脱するめい。ソウルトーチにおびき寄せられた影狐を叩き続けているレイオスもまた、長く前線で戦い続けた為に満身創痍の状態だった。
「お前血だらけじゃねーか! そろそろ下がっとけよレイオス!」
「まだまだァ!」
 チラリとステラを一瞥するレイオス。彼の得意技は銃撃だと言うのに、自分に付き合って前線に出張っている。
 その為か、ステラの赤い頭巾が彼の血を吸って、更に深い赤へと変わっていた。
「そういうお前こそそろそろヤバいんじゃねーのか?」
「なーに言ってやがる。あの兵達見てみろよ。覚醒者じゃないのまでいるってのに諦めてねえ。ハンターであるオレが負けてられるかっつーの」
「お前もなんつーか、変わったよな。良い方向に」
「うっせーよ! いいから手動かせ!!」
「へいへい」
 笑うステラとレイオス。
 2人共もう立っているのもやっとの状態のはずなのに、何だか楽しそうで――。
 こうしている間も、戦場に響くリラの歌声。
 ずっと歌い続けて、喉が痛い。もう声も枯れそうだけれど。
 戦っている仲間達が少しでも楽になって、勇気づけられるなら……。
 今ここでやめる訳にはいかない。
 怒りも嘆きも吹き飛ばすような歌を、彼女は歌い続ける。
「こちらエラ。サクラさん、ざくろさん。南側に少しつづ出現している影狐の対応をお願いします」
「了解しましt」
「もう倒したよー!」
「こちら神楽っす! 西の方にも新手が出たっす!」
 真と炎が大半の影狐を引き受けている間にも少しづつ湧く敵。
 一向に減る様子のないそれに、クレールがため息をつく。
「音子さん、獄炎の影は!?」
「……依然交戦中です」
 その報告に唇を噛む彼女。
 ハンター達もそうだが、怪我をしている兵達が増えた。
 何より長引く戦闘に、防衛陣を敷いている術師達の消耗も激しくなってきている。
 ――このままではまずい。
 いいや、諦めたら終わりだ。まだだ。まだこれからだ……!
 クレールは立ち上がると、総員を鼓舞するように通信機に向かって叫ぶ。
「皆さん! 獄炎の影は確実に弱っています! ここが正念場! 立ち向かいましょう! 神楽さん! あと通信宜しく!」
「了解っすよ!」
「……ここより先、全ての汚染は浄化刃が斬る! クレール、いざ参る!!」


「真美ちゃん……!」
 体力が尽きたのか、その場に崩れ落ちそうになる真美。
 お友達に駆け寄ろうとしたエステルより先に手を伸ばす神火。
 彼女を抱えて、支えるようにして姿勢を保つ。
「……あ。神火さん?」
「ボクがこのまま支えてるから大丈夫だよ。続けて」
「でも……」
「真美さんもそうだけど、スメラギさんも凄いよね。ボクと大して変わらないのに、大規模な符術を使ってさ。でも、ボクもボクなりに戦うって決めてるから」
「……神火さんもすごいと思うです。詩天を救って、今もこうして真美ちゃんを助けています。わたくしも負けていられないです」
「あはは。ありがと。褒められついでにマテリアルの通り道も引き受けるよ。倒れた術師さんの救援をお願い出来るかな」
「それは私がやります。エステルさんはお友達を近くで支えてあげてください」
「リラさん、ありがとです……! 真美ちゃん、あともうちょっとだけ頑張ってくださいです!」
 決意に満ちた神火の瞳。お友達の手を取るエステル。
 体力が尽きた術師達を順番に運んで行くリラを見守りながら、真美は彼に寄りかかったまま前に片手を出し、術を編み続ける。
「う、わ……」
「きゃあああっ」
 思わず声をあげる神火とエステル。身体を通り抜けるマテリアルの奔流。暴力的な正の力。
 何かをしている訳ではない。ただ、力を繋ぎ止めているだけのはずなのに息が苦しい。
 これでも、龍脈の力を借りられるのは少しだけだとスメラギは言っていた。
 ――これに耐えながら、術師達は術式を編んでいたというのか。
「ボクにはこの術式が良く分からないけど……こんな無茶を前提とした式は間違ってるよ……!!!」
 叫ぶ神火。こうしている間も、1人、また1人と術師が力尽きて倒れて行く。
 近くで倒れた術師に駆け寄る黒の夢。その術師の代わりの網目となるべく輪の中に入り込む。
「バジルちゃん、この子はもう限界なのな。連れて行って」
「僕も術に協力した方がいいんじゃ……」
「ううん。回復役がいなくなったら困るのな。汝が加わるのは本当に最後の最後なのな。……この子をお願い」
「……分かった」
 彼女の願いに頷き、術師を連れて行くバジル。
 顔を上げた黒の夢。
 光の渦の中で、戦い続けているスメラギが見える。
 ――あの子は生贄だ。
 この国を守る為に生み出された人柱。
 ……人柱として産まれても汝にはこれからがある。これからうんと人間らしく生きてほしい。
 だから、ここで倒れられたら困るのだ。
 代われるものは代わる。
 かつての自分。――として大切に扱われたモノ。
 あの子と自分は同じだ。
 どうせこの運命が変えられないのなら。
 誰の為に――となるか、自分で選びたい。
 身体を通り抜ける力。これを感じるのも久しぶりだ。
 黒の夢は目を閉じて、懐かしい感覚に身を任せる。


 櫛の歯が欠けるように減っていく術師達。兵達も重傷者が増えた。
 陽は銃を降ろすと、ソリから降りて上空の音子を見上げる。
「……このままじゃヤバいな。そろそろ俺も陣に加わる。音子さん、引き続き監視頼む」
「了解しました……あ」
「どうした?」
「獄炎の影が消えていきます……!」
 その声に振り返る陽。遠目からでも見えていた獄炎の影が薄くなり、空気に溶けて行く。
 そしてそれに合わせるように、影狐達も1体、また1体と溶けるように消えて行き……。
 暫くの後、広場に静けさが戻った。
「やった……! 勝ったああああああ!!」
「総員にお知らせっす。獄炎の影と影狐の消滅を確認したっす。これにて作戦は終了っす。お疲れっした!!」
 クレールの勝利の雄叫びが響く中、通信をする神楽。
 その報せに、兵達から勝鬨があがり……それを黒の夢は地面に伏したままぼんやりと聞いていた。
 目に映るのは疲れた顔をして、肩で息をしながら防御陣を終息させる東方帝。
 背がすっかり伸びて、子供らしさは消えたように思う。
「……もう、こんなにおっきくなってたんだね」
 呟く彼女。
 ――人混みを掻き分けながら手を引いてくれたあの子の温もりはもう思い出せなくて……。
 黒の夢はため息をついて、そのまま目を閉じる。
 そして完全に消えた光。そこに詩が駆け寄って来る。
「スメラギ君、大丈夫!?」
「おう、何とかなー……。九代目詩天と術師達は無事か?」
「真美も術師達も体力が尽きてしまったけれど、命に別状はないよ」
 バジルの報告に頷くスメラギ。
 そしてオグマは慌てて真と炎に駆け寄る。
「お二人とも、生きてますか……?」
「うん、何とか……」
「俺はやりきったぜ……」
「うんうん。頑張ったの。帰ってゆっくり休むの!」
「「いってええええ!!」」
 ぽんぽんと励ますように2人の身体を叩いたディーナ。真と炎の悲鳴が響いた。


 こうして、いつ終わるとも知れない戦いを耐え、困難な状況を精一杯凌いだハンター達。
 兵達に犠牲が出たものの術師達は全員生還し、無事に勝利を掴み取った。
 何故獄炎の影が現れたのか。エトファリカ・ボードとは何なのか。
 まだ多くの謎は残るものの……東方の地は、ひとまずの平穏を取り戻したのだった。

執筆:猫又ものと
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

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