• 東幕

【東幕】歳月不待

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
イベント
難易度
難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/03/12 22:00
完成日
2019/03/26 20:02

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

※要注意※
当依頼は赤山MSの依頼、『【東幕】恩讐越想』と同時攻略シナリオとなります。
同時参加はシステム上可能ではありますが、両方に参加された場合、当シナリオには参加出来なかったという扱いになります。
同キャラクターで重複参加されないようご注意ください。

●遺されたもの
 仮設の陣に戻って来たスメラギ(kz0158)は、予想以上の惨状に言葉を失った。
 天ノ都は狐卯猾によって蹂躙され――幕府軍も、朝廷の兵も驚く程に疲弊して、数が減っている。
 被害は甚大であることは既に言うまでもなかったが……それでも、報告を聞かなくてはならない。
 スメラギはため息をつくと、膝をついている兵に目を向けた。
「……一体どうなってやがる! 状況を報告しろ」
「狐卯猾の討伐に失敗。撤退の際、幕府軍が殿を勤めましたが、全滅……鳴月 牡丹(kz0180)殿と仁々木 正秋(kz0241)殿が討ち死になさいました」
「そうか……。紫草はどうした? どこにいる」
「それが、お姿が見当たらず、お探ししたのですが……」
 口ごもる幕府軍の兵。スメラギは拳が白くなるまで握り締める。
「どうした? 報告を続けろ」
「はっ。城の地下で、立花院殿の鎧が発見されましたが、ご本人は見当たらず、行方が分からなくなっております」
「……行方が、分からない?」
 言葉の意味が分からず、同じ言葉を繰り返すスメラギ。
 ――あんな、誰も敵わないような腕っぷし持ってて、殺しても死なないような男が?
 行方が分からない……?
 ――大体何なんだよ死んだって。牡丹も正秋もまだまだこれからだろうが……!
 ……落ち着け。落ち着け俺様。
 今は悲しんでる場合じゃない。
 出来ることを、やれることを考えろ……!
「……残っている兵達を終結させろ。狐卯猾討伐隊を編成する」
「スメラギ様……?」
「あいつは生かしておいていいことはない。長江に行ったってことは憤怒本陣にいるんだろう。ハンターが負わせた怪我が全快する前に打って出る。準備ができ次第出発する。手配を急げ!」
「はっ!」
「それから九代目詩天に連絡を取れ。大至急!」
「御意!」

●歳月不待
 ――憤怒王分体、狐卯猾討伐の為の力を借りたい。
 ハンターズソサエティでスメラギからの依頼を知ったハンター達は憤怒本陣に集結していた。
 スメラギから討伐計画の概要を聞き、ハンターはため息をつく。
「……それじゃ、真美とスメラギが結界で憤怒本陣を覆って、狐卯猾を出られないようにしている間、別動隊が狐卯猾を叩くって訳か」
「そーゆーこった。真美が初代詩天討伐の時に使った結界陣を応用する。とはいえ、完全に動きを封じられる訳じゃねえ、術が効いている間、憤怒本陣から出られなくなる程度だが……」
「それでも、『逃げられない』というのは大きなイニシアチブだと思うわ」
「そうだな。とはいえ、敵も黙って結界陣を張らせてくれるとも思えないんだが」
「ああ。そこでお前達の出番ってワケだ。……陣を開始すれば、狐卯猾を助けようとそりゃもう恐ろしい数の歪虚が本陣から出て来るはずだ。向こうだって、親分喪ったらあとは消えるしかねえ。本気出してくると思うぜ」
「そりゃあ、ここは敵の本拠地だもの。そうなるでしょうね」
 もう一度ため息を漏らすハンター。スメラギは、後ろに控えている三条 真美(kz0198)に目線を送る。
「……真美も付き合わせて悪いな」
「いいえ。とんでもない。私も東方の民の1人です。お役に立てるのでしたら、何なりと」
 ぷるぷると首を振る真美。ハンターが心配そうに少女の顔を覗き込む。
「でも、あの結界陣って結構真美さんの身体に負担かかるよね? 大丈夫?」
「はい。私も以前よりは色々経験してますし……! 国の一大事に何もしないなんてあり得ないですから」
「ふふ。頼もしくなりましたわね。でも、くれぐれも無理してはいけませんわよ?」
「はい」
 素直に頷く少女の頭をよしよしと撫でるハンター。
 スメラギは顔を上げると、ハンター1人1人の顔を見つめる。

 邪神を召喚するゲートが開けば、東方はおろか世界が滅亡する。
 その為に、辺境も、王国も助力せんと動いた。
 ――この機会を、逃す訳にはいかない。

「……憤怒王との戦いは、これで最後にする。その為に力を貸してくれ」
 頷くハンター達。
 スメラギも頷き返して、長江の荒れ果てた大地に目線を移す。

 ――牡丹と正秋は歳も近いからか、結構話す機会があった。
 特に牡丹とはよく馬鹿話をしては立花院 紫草(kz0126)に窘められていたように思う。
 新しい政治形態の話も、『興味ない』なんて言いながらも理解を示してくれていたのに……。
 もう、彼らと話す機会は、二度と訪れない。
 ――多分、自分は国を治める器ではなかったのだろう。
 経験も知識もある紫草が治めるべきだったのだ。
 出来る、やれると意地を張って、齎した結果がこれだ。
 でも、今更立ち止まることは出来ない。だから……。
「牡丹、正秋――仇は取ってやるからな」

リプレイ本文

 長江にある憤怒本陣。長きに渡り歪虚に占拠されていたこの場所には、命を感じるようなものはなく――ただ、乾いた風が吹き抜ける。
 黒戌(ka4131)の目線の先のスメラギ(kz0158)は見たことがない程険しい表情をしていた。
 ……無理もない。有力な武将を多数喪い、腹心とも言える征夷大将軍殿までもが生死不明となったのだ。
 しかし、それでも帝は生きておられる。生きてさえいれば、先がある……。
 そんなことを考えていた黒戌。帝に歩み寄ったエステル・ソル(ka3983)は、どう声をかけていいのか分からず戸惑っていた。
 抱き着いて元気を分けられればと思っていたけれど……。そんな慰めも、今の彼には届くまい。
 少し前のエステルであれば、それでも実行したかもしれないが――もう、それが理解できないような子供ではない。
 彼女はくるりと踵を返すと、帝の分の思いも込めて三条 真美(kz0198)にぎゅっと抱きついた。
「わぷっ。エステルさん、お久しぶりのご挨拶ですか?」
「それもあるですけど……。元気になるおまじないです。わたくしがついてるです。大丈夫です」
 笑って、エステルに抱き着き返す真美。
 龍堂 神火(ka5693)は少し屈んで、その顔を覗き込んだ。
「……真美さん。その……大丈夫?」
「はい! 皆さんが一緒ですし、大丈夫です」
 親友の抱擁もあってか、真美に怖がるような様子は見られない。
 これまでの戦いで彼女も実力をつけているのも事実ではある。
 でも、今回の戦いを思うと、真美がここにいること自体に不安を感じるのも本当で――。
 勿論、その意志は尊重したいと思うけど。それでも……。
 ――落ち着け。不安に駆られて見失うな。
 近くで護りたいと言えば他の皆も納得はしてくれるだろう。
 それでも、今回は……守りに徹して良い戦いじゃない。
 早い内に一体でも多く撃破して、護衛の余裕を作るべきだ。
 それなら、自分の出来ることは……。
 神火は口伝符を真美の手に握らせて続ける。
「結界の手が足りなくなったり、困ったことがあったらすぐにこれで呼んで。駆け付けるから」
「はい。ありがとうございます。でも、それだと神火さんが大変なのでは……」
「そりゃあ無茶は……少しはするだろうけど。遠慮しちゃダメだからね」
「無茶はダメ……と言いたいことだけど今回は難しいかな。でも真美ちゃんも、スメラギさんも、神火君も絶対に生きて皆で帰るんだからね!」
 心配そうな真美に言い聞かせる神火とリューリ・ハルマ(ka0502)。
 そこに星野 ハナ(ka5852)が歩み寄って、近寄りがたい雰囲気の帝にそっと声をかけた。
「……スメラギさん。ちょっと確認したいんですけどぉ。結界陣って途中から参加することは可能ですかぁ?」
「ん? おう。俺様の集中が切れたらやべーけど、維持の手伝いなら途中からでも出来るぜ」
「……ということは、スメラギが攻撃を食らうとマズいってことだな」
「責任重大だね。頑張らないと」
「まぁ、せいぜい守らせて貰う。スメラギと真美、二人が近くにいてくれれば守りやすいが、任せる」
「何があっても攻撃は通さないから、結界陣に集中してくれ」
「おう。頼むぜ」
 頷き合うメンカル(ka5338)と鞍馬 真(ka5819)。続いたスメラギに、ハナも頷き返す。
「じゃあ、私は予定通りまず術師さんの補強に回りますねぇ」
「さて、やられっぱなしで終わるのは信条に反するんでな。行くとするか」
「うん。スメラギ。こっちはやっとく。結界を頼んだよ」
「おう。狐卯猾が倒れるまでは結界を切らすワケにいかねえ」
「ああ、出来る限り支援はしますよ。皆、思いっきり暴れて下さい。――それじゃ、行きましょう!」
 アーサー・ホーガン(ka0471)とキヅカ・リク(ka0038)の声に頷くスメラギ。
 鳳城 錬介(ka6053)の一声が、作戦開始の合図となった。


 結界陣を敷き始める術師達。
 光の輪が広がって、憤怒本陣を包み始める。
 それに気づいたのか、歪虚がこちらに向かってゆっくりと進軍を開始する。
「ここまで集まってると気持ち悪いですね」
 群れをなす歪虚に率直な感想を漏らすアシェ-ル(ka2983)。
 魔導トライクのサイドカーにいるユグディラを見つめる。
「カジディラ、森の宴の狂詩曲で支援をお願いします。出来る限り続けて下さい」
「にゃっ!」
 主の命に元気に返事をしたユグディラ。
 ……作戦の打合せ、装備やスキルの準備、全て整えてきた。後は……気持ちで行くだけだ。
「Gnome、壁の生成を!」
「お前も壁の間にCモードで罠張って! 敵通すなよ!」
 十 音子(ka0537)とリクの指示で動き出す刻令ゴーレム。
 ゴーレム達は結界陣を囲むようにして壁と罠を構築していく。
 ユリアン(ka1664)は、グリフォンの背から地上を見下ろしていた。
 ――いつだったか。東方の民は悲しみや痛みを糧として笑う習慣がある、とある人に聞いた。
 強くて逞しく、美しい国民性。自分には、それが出来るとは思えないけれど……。
 正秋達が最期を自分で決めて、笑って立ち向かっただろう事は想像できる。
 ――少しだけど、縁があったあの人。
 糧が東方の人達の手に届くように。あの場へ向かった仲間の刃が届くまで……俺は、ここで。
「ラファル、頼むよ」
 白いグリフォンの背をそっと撫でる彼。ふと、動きの早い歪虚に気付いて魔道スマートフォンを手にした。
「こちらユリアン。化鴉と火蛇が動き出した!」
「こちらエラです。敵の数は分かりますか?」
 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)の通信に双眼鏡を構えるユリアン。
 素早く、敵の構成を把握する。
「火蛇は12時と2時方向に数体かな。化鴉は数えられないくらい大量にいる! 動きが早いからあっという間に到達しそうだ」
「なるほど。それでは到達前に掃射した方が良さそうですね。皆さん、宜しいですか?」
「ええ、いつでもどうぞ。……崩天丸、頼んだよ」
「了解。紅蓮、合わせろ!」
「一斉掃射! 撃てーーーー!」
 エラの号令に合わせて、砲撃を開始した廉介とアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)のVolcanius。
 3体の刻令ゴーレムから発射された弾。響く破裂音。周囲へ大量の霰玉をまき散らし、化鴉だけではなく、範囲内にいた歪虚を塵へと還して行く。
「おー。派手だな。これで全滅……ってワケにはいかねえよな、やっぱ」
 舌打ちするアーサー。塵となって消えた歪虚の向こうから、空を滑空する化鴉が見える。
 ギエーギエーと聞こえる耳障りな声。その後方をゆっくりと進む歪虚。新手も数が多い……!
 ワイバーンの背からそれを見ていた黒戌はトランシーバーに向けて事実を告げる。
「こちら黒戌。後方より新手が来ているで御座る」
「こちらエラ。仔細了解。塗壁は今どのあたりですか? 目撃ポイントの報告をお願いします」
「こちらユリアン! 塗壁はゆっくりとだけど点在しつつ進軍中! 接敵はまだ先だと思う!」
「情報ありがとうございます。では、刻令ゴーレム部隊に砲撃を続けさせます。皆さんを巻き込まないように注意はしますが、どうぞお気をつけて」
「相分かったで御座る」
「そちらも気を付けて」
 エラの声に応える黒戌とユリアン。
 2人はそれぞれのワイバーンとグリフォンに上昇を命じると、討ち漏らされた化鴉目掛けて武器を振り下ろす――!


「イスト、リクさんとアルトちゃんの支援お願いね」
 リューリの指示にこくりと頷くユグディラ。にゃんにゃんと森の午睡の前奏曲を歌い始める。
 リクは、酷く冷たい目で迫りくる敵を眺めていた。
 ――仲間が、戦死した。
 同じ戦場にいた訳ではない。全てに手が届く訳でもない。
 それは理解している。
 託されたものとして、やるべきことも解っている。
 ……解っている筈だ。
 だけど、今回は……久しく感じていなかった思いが沸き上がっている。
 リクはこの感情を知っている。
 心の奥を焼くようなこれは『怒り』だ。
 いつもなら、抑えるべき感情。
 冷静さを失うことに繋がるから。それは戦いにおいて命取りになる。
 でも、今日は。今日だけは――これに身を任せることを許して欲しい。
 彼は黒白の機械剣を痛い程握り締めて、呟く。
「――お前らはここで殲滅する。一匹たりとも逃がして帰さねぇよ」
 アルトもまた、リクと少し距離を取って無の表情で目の前の光景を見つめている。
 ――これは戦争だ。
 人の命は儚い。戦いの中で簡単に消えゆくものだと理解はしている。
 これもいずれは過ぎ行く歴史の1つになるのだと。割り切っているつもりだ。
 その報せを聞いた時。アルトは、自分の中に寂しさが宿っていることを自覚した。
 ……強い女性だった。
 もう一度手合わせしたいと願っていたのに、それももう叶わない。
 次に自覚したのは、怒りという感情だった。
 ……そうだ。私は怒っている。
 理不尽に友人を奪っておいて、どうして許されると思うのか?
 ――何が憤怒だ。笑わせるな。
 いいだろう。上等だ。私にこの感情を宿らせたお前達に地獄を与えよう。
 『憤怒』を超えた『憤怒』を見せてやる。
「……行くぞ!!」
「楽に死ねると思うな!!」
 リクとアルトの咆哮。
 ほぼ同時に、守護者としての力を開放する――!


「さて、最新の装備が来たから試してみるか。……コイツで何処まで敵を吹き飛ばせるか楽しみだな」
「何です? この状況で実地テストですか?」
「安心してくれ。破壊力は保証する」
「そうですか。では期待しておりますね」
 ダインスレイブとコンフェッサーから聞こえるキャリコ・ビューイ(ka5044)とフィロ(ka6966)の会話。
 赤と黒のオファニムの操縦席にいるアニス・テスタロッサ(ka0141)は黙したままプラズマライフルを構える。
 ――世話になってる奴が、先の戦いで死んだやつの仇を取るべく参加している。
 死んだやつのことも、知っている。
 あの2人が、とても仲が良かったことも――。
 狐卯猾との戦いに参加していた訳じゃないけれど。
 ……あの人が必死になる気持ちは分かるから――ちょっと手伝ってやろうかと思ったのだ。
「……らしくねえなぁ」
 ぽつりと呟くアニス。その横で百鬼 一夏(ka7308)のコンフェッサーが盾からグレネードの射出口を出してぶっ放す。
「よーし! 最初から飛ばしていきますよー!」
 どっかんどっかんと巻き起こる爆発。それに巻き込まれた歪虚が次々と蹴散らされて行く。
 その攻撃を耐え、かろうじて生き残った歪虚と、更に後ろからやってきた歪虚が群れを成して迫って来る。
「あれ?! 今結構減らしましたよね!!?」
「……減らした以上に沸いたな」
 目を丸くする一夏にぼそりと呟くキャリコ。
「ほう。向こうも本気ということか。ふむ。こうでなくては面白くない」
「面白さを求めないでください。フィロ、出ます!」
 赤い唇に笑みを乗せたコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)にツッコミを入れつつ、敵の群れに突っ込んで行くフィロ。
 敵の数は多いが、こちらはCAMだ。
 コンフェッサーの機動力なら何とかなるだろう……!
 そんなことを考えながら、コンフェッサーの爪を振うフィロ。
 紙切れのように切り裂かれる歪虚。着地したついでに敵を踏みつける。
 やけに軽い音がした。踏んだのは骸骨武者だろうか。
 ちょっと足を伸ばせば化け提灯も踏める気がする。
 踏むなんてメイドとしてはしたない気もしますけれど。大量な敵の始末が必要ですし、今回だけはご容赦戴こうかしら……。
 フィロが乾いた大地の上で踊るように敵を始末して行く中、キャリコはコンバージェンスで着々とマテリアルをチャージしていた。
 その間に、程良い距離にいる塗壁を捕捉し、発射角度を計算する。
 ――仰角、方位、風速。修正完了。
 精密砲撃姿勢をとったキャリコは、砲身に弾を積めるだけ積んで狙いを定めて――。
「発射ー!!」
 響く破裂音。放たれた弾は山なりの起動を描き……沸き上がる爆風。攻撃が味方に当たらぬよう、盾になるように塗壁の後方を狙って撃った。
 そのお陰か、後方にいた歪虚は四散。物理攻撃は吸収するものの、爆風までは吸収出来なかった塗壁がばたっと前のめりに倒れた。
「あっ。コケました! じたばたしてますよ!」
「油断するな! 後続が来ている!」
 起き上がれないのか手足をバタバタとしている塗壁。それを乗り越えてやって来る歪虚。
 一夏とコーネリアの声に、アニスの目がすっと細くなる。
「よーし! CAM部隊聞こえるか!!? 火線に合わせて砲撃ブッ込め! 押し戻す!」
「了解。引き続き砲撃する!」
「かしこまりました。皆さまは砲撃を。討ち漏らしはお任せください」
 その声に応え、動き出すキャリコとフィロ。
 コーネリアはガトリングガンを構えると、連続射撃で見事な弾幕を張る。
「……術式の邪魔はさせんぞ。あの女狐共々地獄行きだ」
 激しい銃撃に動きが止まる歪虚。塗壁を盾に弾幕をすり抜けてきた火蛇めがけて、一夏がマテリアルバルーンをぶつける。
「これ以上は先に行かせませんよ! 誰かの犠牲の上の平和じゃなく! 皆で勝利を掴んだ平和が欲しいんです!!」
 叫ぶ一夏。
 歪虚が消えて、平和になればいいと思う。
 でも、どんなに穏やかな世界でも。今隣にいる仲間が――大切な人がいなきゃ意味がないから。
 それを手に入れる為に。精一杯手を伸ばす――!
 行く手を阻まれ、キャリコやフィロに滅多打ちにされて不利を悟ったか後退を始める火蛇。
 アニスがスラスターを起動させ、稲妻のような速さで敵に迫る。
「逃がすかよ……!」
 オファニムの装甲が焦げるのも構わず突っ込み、マテリアルライフルで薙ぎ払う彼女。火蛇は悲鳴をあげて、塵へと還る。
 アニスはふう……とため息をつくと。じわじわと後退する歪虚をモニター越しに睨みつける。
「お前ら。主を守るんじゃなかったのか? まーてめえらみたいなハンパもんはその程度か。……まあいいや。俺、ちょっと虫の居所が悪ぃんだ。大人しく死ね。――行くぜ! レラージュ・ベナンディ!!」
 CAMの操縦桿を握り、叫ぶアニス。
 彼女の赤と黒のオファニムは、長江の赤っぽい土煙をまとって――まさに赤い死神のようだった。


 セレスティア(ka2691)は、眼下に広がる光景を固唾を飲んで見守っていた。
 リクもアルトも「節制」の理を解放し、肉体を大幅に強化しているが、それと同時に敵から注視されている。
 それゆえ、敵に全方位を囲まれ退路もないような状態だったが――それをものともせず、押し返すような勢いで歪虚を切り伏せ続けている。
 が、いくら2人が守護者で強いとはいえ、手数の多さは捌ききれるものではない。
 じわじわとダメージを食らっているはずで……セレスティアはペガサスに高度を下げるように指示すると、リクとアルトに声をかける。
「リクさん! アルトさん! 回復します!」
 精霊に祈りを捧げ、2人の傷を癒す彼女。
 だが、リクもアルトも、こちらに注意を向ける様子はない。
 ただただ、ひたすらに。スキルが尽きても。腕力と武器の力だけで目の前の敵を殲滅し続けている。
 その勢いに恐怖を感じたか、距離を取り始める歪虚達。
 しかし、2人はそれを許さなかった。
「行かせるわきゃ……ねぇだろぉ!!!」
「彼女が感じた痛みの分! 全てお前たちに返してやる……!」
 怒りに任せて塗壁を蹴倒すリク。
 アルトは鈎爪で火蛇をひっかけると、そのまま首を切り裂き、力任せに引きちぎった。
「ちょっと無理しすぎだと思うんですが……」
「仕方ないよ。アルトちゃんもリクさんもすっっっごく怒ってるから」
 派手に暴れまわる2人をはらはらと見守るセレスティアに苦笑を返すリューリ。
 ――リューリの親友はとても強い。
 ハンターとしての腕前もそうだが、精神的にもだ。
 どんな過酷な戦いを前にしても、いつでも冷静でいるような人であるのに……。
 結構長い付き合いになるのに、彼女が怒りに任せて行動しているのを見たのは初めてかもしれない。
 でも、こういう感情を剥きだしにしたアルトも悪くはないと思うのだ。
 だから……。
「見てるとちょっと心配になるけど、私達に出来ることをしよう。2人とも、きっと狐卯猾が倒れるまで止まらないから」
「……そうですね。出来る限り支援しますね」
 リューリに頷き返すセレスティア。
 後方で、こうして見ているのは辛いと思うこともあるけれど。
 癒し手である自分が先に倒れる訳にはいかない。
 これが、私の戦い……!
 セレスティアは顔を上げて、戦況を探る。


 倒しても倒しても押し寄せる歪虚。徐々に敵味方入り乱れての乱戦となりつつあった。
 幸い、音子とリクの刻令ゴーレム達がせっせと作っていた壁や罠、リクとアルトが敵を引き付けてくれているお陰で抜かれて結界陣に到達する、というようなことはなかったが、それでも手数が多いのはどうしようもない。
 アーサーは弓から槍に持ち替えると、敵を見据えたまま叫ぶ。
「ゴルラゴン! お前は火蛇を狙え! 絶対に先に行かせるな!」
 主の指示に応え、弾丸のように駆け出すイェジド。咆哮で火蛇を威圧する。
 その脇をするりと抜けてきた骸骨武者。アーサーはその足を槍で薙ぎ払う。
「悪いが、ここで通行止めだぜ」
 ニヤリと笑う彼。足を砕かれ、骸骨武者がその場で崩れ落ちる。
 ……どうせ敵は際限なく沸く。撃破より無力化を重視すべきと考えたのだ。
 動けなくなった敵も、量があれば障害物代わりにはなってくれるだろう。
「さーて、お前ら。身をもって仲間達を止めやがれ」
「どうせ障害物にするなら大きい方がいいんじゃないですか? ……シュネーシュトゥルム。水となれ!」
 淡々という音子。迫る火蛇。火種を吐こうとしたそれの口に魔矢を叩き込む。
「なあ、殺しちまったら障害物にならないんじゃねえ?」
「あー……まあ、そうとも言いますね」
「まあ、結果オーライだろ。その調子で頼むわ」
「言われなくてもそうします」
 火蛇の断末魔をBGMにそんなやり取りをするアーサーと音子。
 アシェールもまた、バイクで駆け抜けながら、仲間達が討ち漏らした歪虚を丁寧に潰して回っていた。
「化け提灯飛んでますし、障害物にしなくていいですよね?!」
「ああ! 潰せるやつは潰してくれ!」
「了解です! 任せてください!」
 アーサーの声に頷き、弱っている歪虚を重点的に狙うアシェール。
 ぼーっと突っ立っている塗壁もついでに始末する。
 その上を、濃い真紅のワイバーンが化鴉を挑発するように空を滑る。
「さて。天禄、回避は任せる。空の王者たる龍が容易く捉えられるで無いぞ?」
 返事でもするかのように吠えたワイバーンに目を細める蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)。
 そのまま、意識を集中する。
 ――彼方目指す蔓。
 ――編むは階。
 頂の光のその先へ……!
「広がる枝葉。囲むは小さき世界。大地に跪き、己が手にした罪を識れ――!」
 蜜鈴の詠唱。降り注ぐ紫色の光。襲い来る重力波。
 それは空にいた化鴉の一団を纏めて巻き込み、地上に叩き落した。
「ふむ。大掃除は成功かのう。さて、天禄。もう1回じゃ」
 蜜鈴の声に応え、再び高度を上げるワイバーン。
 地上では、2匹のイェジドが縦横無尽に駆け回っていた。
「……赤き日輪。我が手に集う猛き炎。全てを滅し、灰燼と化せ」
 相棒の背の上でマテリアルを練り上げたエルバッハ・リオン(ka2434)。続く詠唱。
 3つの火球が降り注ぎ、歪虚の軍団にぽっかりと大きな穴が開く。
 ……が、その穴もすぐに後方から来た歪虚によって埋められて行く。
「本当に数が多いですね……」
 呟くエルバッハ。
 歪虚達の数も多く厄介だが……敗北は許されない以上、死力を尽くしてでも勝利しなくては。
 今のところ後ろにいて敵を纏めて薙ぎ払っているが、ここまで到達するのも……いや。敵も無限と言う訳ではないはずだ。
 幸い、範囲攻撃が使える者が多い。この調子で数を減らしていけば、いずれは在庫切れになるだろう。
「さあ、もうひと頑張りしましょうか、ガルム」
「……グラ! ミサイル掃射!!」
「グォ!!」
 神代 誠一(ka2086)の短い叫び。
 彼のイェジドから発射された幻獣ミサイル。その行方を見つめ――歪虚の動きを観察する。
 倒されても倒されても、仲間の屍を乗り越えてやって来る歪虚達。
 この士気の高さは、狐卯猾を守ろうとするが故なのだろうか――。
 ……士気の高さなら、自分も負けていない。
 東方への想いは熱い。そうだ。忘れる訳がない。初めて多くの死に直面した、この胸にある大きな傷だって――。
 俺の生き方を決定した地。
 ――先の戦いも決して喜べるものではなかった。
 沢山の犠牲が出てしまった。悔しくてやりきれない……!
 ――落ち着いて考えろ、今すべきは何だ?
 今まで磨き続けた腕は何の為か。ここで生かさずどこで生かすというのか?
「……グラ。無理させて済まないが、力を貸してくれ。この戦いは譲れないんだ……!」
 己の背の上にいる主をちらりと見たイェジド。
 分かっている、と言いたげな目線を送ると、風のように戦場を駆け抜ける。


 ハンター達の猛攻により、どんどん敵を減らして行く中、しぶとく生き残っている歪虚がいた。
 そう。塗壁である。
 物理攻撃を吸収する性質がある上、サイズも大きいと来ている。
 中には、塗壁を盾として使うような歪虚までいて厄介極まりない。
 エラはふう、とため息をつくと通信機に向けて話し始める。
「こちらエラ。さて、塗壁退治と参りましょう。皆さん、準備は宜しいですか?」
「こちらエステルです! 準備できてます!」
「こちら神火。いつでもOKだよ!」
「こちら蜜鈴じゃ。汚物は消毒と行こうかのう」
「了解。それではエステルさんは10時、神火さんは2時、蜜鈴さんは5時方向の塗壁を……って、今5時方向の塗壁、アニスさんに蹴倒されたんで気を付けて攻撃お願いします」
「はいです!」
「了解!」
「任せておくがよいぞ」
 エラの指示にエステルと神火、蜜鈴の詠唱が始まる。
「蒼の戦女神は紅き衣を纏い。情熱の唇に清澄の旋律を以て命じる。花開け――」
「掻い潜り、刺し穿て! ――スティルガ!」
「轟く雷、穿つは我が怨敵……一閃の想いに貫かれ、己が矮小さを識れ」
 ペガサスの背に乗ったエステルの手から沸き上がる9つの火球。それは塗壁だけでなく、近くにいた歪虚も巻き込み消滅させる。
 そして神火の符から現れた巨大な紅の女王蜂と、三体の兵隊蜂の幻影。雷が真っ直ぐに塗り壁を貫き――蜜鈴から放たれた雷もまた、赤い死神を器用に避けて、大地に蠢く敵を一直線に薙ぎ払う。
 3人の攻撃によって、あちこちに立っていた塗壁達が面白いように消えて行った。


「皆さん! 頑張るですよぅ!!」
 守護者としての力を開放したハナは結界陣を敷き続ける術師達を、ずっと励まし続けていた。
 幸い、仲間達が本気を出してくれているお陰かこちらにまでやってくる敵はいない。
 いざとなれば身を張る覚悟はあったが、その必要はなさそうで……。
 ただ、結界の維持が長く続くと、どうしても術師達が消耗してくる。
 そんな彼らに、大精霊が司る『勇気』の力を解放し、強力な加護を与えるハナ。
 終わりの見えない戦いの中、それがどんなにか救いになったことだろう。
 結界の安定した維持が出来ているのも、ハナの支えによる部分が大きかった。
「グデちゃん、身体がフラフラした人を見つけたらすぐそこへ行って前奏曲弾いて下さいねぇ」
「にゃん!」
 ハナの声に任せておけ! と言わんばかりに胸を張る黒白の毛並みのユグディラ。
 狐卯猾を封じる光は、絶え間なく続き――。


「アルトと言い、リクといい、俺の弟といい、奴さんは怒らせたらいけないやつを怒らせたみたいだな」
「天網恢々疎にして漏らさず……という奴かな」
「おー。怖いねえ」
「それを君が言うのかい? 君も大分怒っているように見えるけれど」
 淡々と言うメンカルに思わずツッコミを入れた真。
 メンカルは肩を竦めて空を見上げる。
「……やれやれ。別れも言えんとはな」
「メンカルさん、亡くなった武家の人とお友達だったの?」
 気遣うような目線を送ってくるピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804)。
 メンカルは重大な勘違いをされていることに気付いて、首を振る。
「ああ、いや。俺が友達なのは彼らじゃない。蓬生だ」
「……蓬生って、あの憤怒王の? え? 歪虚だよね?」
「歪虚だが、友達なんだ」
 キョトンとする彼女に、メンカルは苦笑を返す。
 ――蓬生は、開きかけたゲートを閉じる為に犠牲になったと聞いた。
 俺の手で殺さずに済んだことだけは救いだが。
 歪虚相手に不謹慎だとは思うが……正直、もっと話をしたかったし、生きていて欲しかった。
 あれが消える原因を作った狐卯猾を、決して許さない。
 ――ここで消えて貰う。絶対に。
 そんなことを考えていた彼はふと、ピアレーチェを見る。
「さて、ピアレーチェ、ディヴァインウィルは何回使える?」
「ん? 2回かな!」
「了解。ちょっと温存しておいて貰えるかな。文字通り私達が最後の砦だからね。念の為の手として取っておきたい」
「分かった! 絶対に守るよ!!」
 メンカルと真の言葉に元気に頷くピアレーチェ。
 勿論、メンカルも真もガウスジェイルで攻撃を引き受ける気はあるし、周囲の認識と現象を書き換える結界を展開するヤルダバオートもあるが――これも最終手段だ。
 使わずに済むのであれば、それに越したことはない。
 話をしている間にも動き続ける戦況。
 仲間達の猛攻をすり抜けてきた歪虚を、魔導銃で撃ち抜くピアレーチェ。
 塵となって消えて行く仲間を気にすることなく前進して来る。
「んもう! これだけ仲間が倒れてるのに怯まないって厄介だよね」
「知能が低そうだから仲間が消えてることにも気づいてないのかもしれないな……と。セレーネ! 紅水晶!」
 相棒のユキウサギに命じる真。セレーネは咄嗟に赤い光で場を覆い、歪虚の前に立ちふさがる。
 真とユキウサギに行く手を遮られた火蛇は苛立ったのか、口を大きく開けて火種を飛ばす。
 それは、次の一撃を入れようとしていたピアレーチェ目掛けて降り注いだ。
「きゃあっ!」
「エーギル! 惑わすホー!」
 そこに滑りこむメンカルのポロウ。展開された幻影の結界は、火種と打ち消し合って消えて行く。
「ありがと! メンカルさん!」
「礼はいい! このデカブツ倒すぞ!」
「了解! セレーネはそのまま紅水晶頼む!」
 武器を構えるピアレーチェとメンカル。敵の進路を阻む真。
 3人はそのまま、火蛇に集中砲火を浴びせた。


 長く続く戦い。
 結界を維持する術師達も、消耗の色が見える。
 セレスティアと錬介の弛まぬ癒しの術と支援で、乱戦も何とか乗り越えることができている。
 長期に渡る消耗戦において、この2人の貢献は特筆すべきものがあった。
 しかし、結界維持で消耗した体力は、癒しの術で回復できるものではなく……。
 近くで支援を続けていたハナは、そろそろ自分が結界に入るべきタイミングだと悟る。
「グデちゃん、あの術師さんそろそろ限界ですぅ。連れてって休ませてあげてくださいねぇ」
「にゃっ」
 ハナの命に従うユグディラ。術師が抜けた穴を塞ぐように、ハナは結界に加わり……。
「あ、うぅ……」
 身体を流れるマテリアルの力に、顔を顰めるハナ。
 いくら正のマテリアルとはいえ、大量に流れ込めば息苦しさを感じる。
 え。ちょっとスメラギさん、こんなの敷き続けてたですかぁ?
 こんなこと続けてたら身が持たないんじゃ……。
 スメラギに目線をやる彼女。
 集中している帝は目を閉じて涼しい顔をしているが……良く見ると額に脂汗が滲んでいる。
 ……やはり、苦痛を伴う作業なのだろう。
 でも、狐卯猾を倒すまでは、続けないと……!
 ハナも大きく深呼吸をして、精神を集中する。
 真美もまた、身体を流れる力の奔流に耐えながら陣を敷き続けていた。
 陣を敷き始めてからどれくらい経ったのだろう。
 時間の感覚がない。呼吸が浅くなる。
 まずい。このままでは……。
 ふらつく身体を支えようとして――ぐいっと、身体ごと引っ張り上げられた。 
「真美さん! 大丈夫!?」
「神火さん……?」
 神火に支えられているのだと気づいて慌てる真美。
 身を離そうとするが、力が入らず上手くいかなくて……神火は友人の顔を覗き込むと、めっ、とその額を指でつつく。
「顔色真っ青だよ? 辛くなったら呼んでって言ったでしょう。ボクそんなに頼りない?」
「……違いますよ。神火さんは頼れるお兄さんです。お兄さんが頑張ってるのに、私が頑張らない訳にいかないじゃないですか」
 弱々しく笑みを返す真美に、はぁ……とため息をつく神火。
 そうだ。この子は頑張り過ぎるくらい頑張ってしまう子だった……!
 だから自然と手伝いたいと思うし、ボクも強くなろうと思えるんだ――。
「結界、維持するの手伝うよ。多分あともうちょっとだ。頑張ろう」
「はい……!」
 神火に頷き返す真美。
 ――いつまで経っても、このマテリアルが流れる感覚には慣れないけれど。
 この人が一緒なら……。


 そして長時間に渡る戦闘は、ハンター達にも影響が出始めていた。
「ユリアンさん! しっかりしてください!」
「俺は大丈夫……。それより術師の人は? 結界陣は無事かい……?」
 ぐったりとしているユリアンに必死に癒しの術をかけるセレスティア。
 ユリアンは、ハンターの包囲網を潜り抜けた火蛇から身を挺して結界陣を守り、深い傷を負っていた。
 噛まれた肩から酷く失血しているというのに、自分のことを構わないユリアンに、セレスティアは眉根を寄せながら続ける。
「大丈夫ですよ。ユリアンさんのお陰で皆さん無事です。真さんがヤルダバオートを使ってくれましたし、ユリアンさんを襲った火蛇はメンカルさんが倒してくださいました」
「そっか……。良かった……」
 ふう、とため息をつくユリアン。これ以上戦うのは無理だろう。黒戌はそっとセレスティアに声をかける。
「拙者が責任もって安全な場所にお連れするでござる。セレスティア殿は引き続き皆の支援をお願いしたいで御座る」
「……分かりました。お願いします」
 そしてアーサーと誠一は、スキルも既に使い果たし、全身血まみれになってもなお、武器振るい続けていた。
「アーサーさん、その身体では無理です。下がってください」
「まだまだ……! こんなとこで引き下がれるか!」
 エルバッハに不敵な笑みを返すアーサー。エステルが慌てて誠一に駆け寄る。
「誠一さんも手当てするです!」
「ダメだ! 命と引き換えに俺を、俺達を生かしてくれたあの日の東方兵たちを、受けた恩を、譲り受けた未来への想いを……! 俺は絶対忘れない! ここで返さないでいつ返すんだ!」
 鬼気迫る誠一の叫び。
 もう誰も死なせたくない。
 その為に。足掻けるだけ足掻きたい……!
 血が滴る棒手裏剣。
 駆けだそうとして……そこに迫る化鴉の嘴。
 避けようとして、ガクリと足から力が抜ける。
「しまっ……」
 身構えた誠一。いくら待っても痛みは来ない。
 顔を上げると、顔を顰めている廉介が目に入った。
「廉介さん……?」
「ガウスジェイル使っておいて良かったですよ。これ以上怪我を負ったら、貴方の命もここで散りかねないですからね」
「死ぬ気はない! 俺は……」
「分かっていますよ。ここで犠牲になる気はないんですよね? ……全員で生きて帰りましょう。これ以上犠牲を出したくないのは皆一緒です。無理をするだけが戦いではありません。先を考えてこそですよ」
「……ああ、そうだね」
 微笑む廉介。眼鏡を上げる誠一。
 そうだ。自分だけじゃない。皆で戦っている。
 独りでは、成し得ない――。
 そこに聞こえた通信音。エラがすぐさま反応する。
「こちらエラです。どうしました?」
「こちら音子です! 歪虚の動きが急に変わりました! 何か起きたみたいです!」
 その声に振り返るハンター達。
 目線の先の憤怒本陣。
 微かに悲鳴が聞こえて――憤怒の歪虚達が一斉に引き始めた。
「……狐卯猾を倒したか!」
「皆やりやがったな!!!」
 ズタボロの状態でハイタッチをするアルトとリク。
 アニスは操縦席のハッチを開けて、煙草を咥えた。
「籃奈、牡丹……。終わったぜ……」


 それからまもなくして、狐卯猾討伐成功の報せが別動隊から届いた。
 酷く疲れた顔をしながら結界陣を終息させるスメラギ。
 アシェールはそんな彼に歩み寄って、そっと声をかけた。
「……スメラギ様。お疲れ様でした」
「おう。アシェールもお疲れさん。狐卯猾も無事に倒せたし、ハンター達も労ってやらねえとな」
「スメラギ様は、自分を労りましたか?」
「あ? 別に俺様なんともねーぞ?」
「それは今まで気を張ってらしたからでしょう? ……全部終わった後に来るんですよね。……こう、果てしない虚無感というか……」
「……そんなもんかね」
「そんなもんです。上に立つ者だからといって、悲しむ事を我慢しなくて良いと思うのです。だからいっぱい泣きましょう。スメラギ様は独りじゃありませんから。みんな、居ますから」
 敵を倒して終わりではなく、この先の未来を作っていく為に――。
 そう続けたアシェール。スメラギは暫し考えているようだったが……ため息をついて、彼女を見つめる。
「んー。気持ちは有り難いが、やっぱ俺様、泣いてる暇ねえのよ。紫草探さなくちゃなんねーし」
 ニヤリと笑うスメラギ。
 ――行方不明になっている紫草。矢張りそう簡単に諦められるものでもないのだろう。
 それでも、きっと。独りで辛い時があると思うから……。
 アシェールは暫し目を泳がせると、こほん。と咳払いをする。
「スメラギ様」
「ん?」
「わ、私はいつでも側室に入る覚悟はありますから、人肌恋しい時は遠慮せず呼んで下さいね」
「……何言ってんだよバーカ。……まあ、心配してくれてありがとな」
 そのまま踵を返す帝。スメラギの表情は見えず。その言葉をどう受け取ったのかはわからなかった。


 こうして、憤怒王分体狐卯猾は討ち滅ぼされた。
 蓬生も消え、東方の地に、憤怒王の残滓が現れることはもうないだろう。
 沢山の犠牲を払いつつも、エトファリカの国は大きな一歩を踏み出そうとしていた。

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MVP一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサka0141
  • 淡光の戦乙女
    セレスティアka2691
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベルka3142
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介ka6053

重体一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエka1664
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一ka2086
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    コクレイゴーレム「ノーム」
    刻令ゴーレム「Gnome」(ka0038unit009
    ユニット|ゴーレム
  • 赤黒の雷鳴
    アニス・テスタロッサ(ka0141
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    オファニム
    レラージュ・アキュレイト(ka0141unit003
    ユニット|CAM
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ゴルラゴン
    ゴルラゴン(ka0471unit002
    ユニット|幻獣
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • ユニットアイコン
    イスト
    イスト(ka0502unit002
    ユニット|幻獣

  • 十 音子(ka0537
    人間(蒼)|23才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    コクレイゴーレム「ノーム」
    刻令ゴーレム「Gnome」(ka0537unit002
    ユニット|ゴーレム
  • 抱き留める腕
    ユリアン・クレティエ(ka1664
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ラファル
    ラファル(ka1664unit003
    ユニット|幻獣
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    グラ
    グラ(ka2086unit002
    ユニット|幻獣
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ガルム
    ガルム(ka2434unit001
    ユニット|幻獣
  • 淡光の戦乙女
    セレスティア(ka2691
    人間(紅)|19才|女性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ロスヴァイセ
    ロスヴァイセ(ka2691unit004
    ユニット|幻獣
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    カジディラ
    カジディラ(ka2983unit004
    ユニット|幻獣
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    グレン
    紅蓮(ka3109unit004
    ユニット|ゴーレム
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
    人間(蒼)|30才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    ナナカマド
    七竃(ka3142unit004
    ユニット|ゴーレム
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    パール
    パール(ka3983unit004
    ユニット|幻獣
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    テンロク
    天禄(ka4009unit003
    ユニット|幻獣
  • 黒風の守護者
    黒戌(ka4131
    人間(紅)|28才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ワイバーン
    ワイバーン(ka4131unit003
    ユニット|幻獣
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 本家・名付け親
    ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ka4804
    ドワーフ|17才|女性|聖導士
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    アラドヴァル
    アラドヴァル(ka5044unit004
    ユニット|CAM
  • 胃痛領主
    メンカル(ka5338
    人間(紅)|26才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    エーギル
    エーギル(ka5338unit003
    ユニット|幻獣
  • 九代目詩天の想い人
    龍堂 神火(ka5693
    人間(蒼)|16才|男性|符術師
  • ユニットアイコン
    スピルガ
    スピルガ(ka5693unit001
    ユニット|幻獣

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    セレーネ
    セレーネ(ka5819unit003
    ユニット|幻獣
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師
  • ユニットアイコン
    グデチャン
    グデちゃん(ka5852unit004
    ユニット|幻獣
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ホウテンマル
    崩天丸(ka6053unit004
    ユニット|ゴーレム
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    コンフェッサー
    コンフェッサー(ka6966unit004
    ユニット|CAM
  • ヒーローを目指す炎娘
    百鬼 一夏(ka7308
    鬼|17才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    ホットリップス
    ホットリップス(ka7308unit002
    ユニット|CAM

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依頼相談掲示板
アイコン 【質問】聞いてみよう
エステル・ソル(ka3983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/03/11 21:16:11
アイコン 【相談】結界陣防衛線
エステル・ソル(ka3983
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/03/12 21:44:23
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/03/09 19:30:49