【繭国】

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や! 皆、元気にしてたかな! 少し日焼けしたかな。ふふ。
僕が夏耐久湯巡り温泉ツアーに励んでる中でも王国は随分と動いてたらしいね!
さーて、これだけの準備をしたんだ。次は――どうなるかな。楽しみだね。

ガンナ・エントラータ領主:ヘクス・シャルシェレット(kz0015)

更新情報(8月10日更新)

先日リプレイが公開されました「【繭国】王国騎士団“黒の騎士”、誕生」。 これにて【繭国】連動シナリオは終わり、そして新たな闘いが始まります。
黒の騎士への叙任式、次なる連動シナリオの序章とも言えるエピローグノベルを公開!
【繭国】連動シナリオによって変化した状況についても記載しております。
ご確認の上、続報をお待ちください!

 
 

【繭国】エピローグノベル「繭より生まれしは――」(8月10日更新)

●“黒の騎士”叙任式

アカシラ

ゲオルギウス・グラニフ・
グランフェルト

エリオット・ヴァレンタイン

システィーナ・グラハム

 グラズヘイム王城、謁見の間にはずらりと並んで跪く多種多様な戦士たちの姿が溢れている。彼らは、鬼の棟梁たるアカシラ(kz0146)などの故国を離れた無所属の傭兵、王立学校に入学を許されなかった者や貴族の末弟、そしてハンターなど様々な出自の者たちだ。
 彼らの前に立つのは王国騎士団長ゲオルギウス・グラニフ・グランフェルト。その朗々とした声が、いま広間中に響いている。
 老騎士が読み上げているのは、ここ一、二ヶ月ほどに渡って各地で開催された“新騎士選考会”においてその力を示し、騎士団に認められた先述の猛者たち一人一人の名だ。
「……以上の者を、第一回王国騎士団黒の隊所属の特別戦闘要員“黒の騎士”として任命する」
「代表、前へ」
 ゲオルギウス騎士団長の傍に控えていた男──元王国騎士団長であるエリオット・ヴァレンタイン(kz0025)の呼び声に応じ、一人の青年が立ちあがった。
 黒髪に眼鏡をかけた控えめな青年は、ハンターの一人だ。彼はシスティーナ・グラハム(kz0020)。王女殿下の前へ進み出て再び跪くと、リハーサル通り、自らの刀を鞘から抜き出して王女にそれを預ける。
 ──本来ならば、個々に騎士叙任の宣言などを行うべきなのですが。
 心の内で申し訳なさを抱きながら、少女は顔に出すことなく、受け取った刀を手に、その刃を騎士となる青年の肩へと置いた。
 西洋剣でないものを預けられるのは初めての経験だったが、それこそが“黒の隊”を象徴する出来事のようにも感じられ、システィーナは国の新たな歩みをしかと胸に刻みつけるのだった。
「我らがグラズヘイム王国は、これまで数え切れぬほどの歪虚の襲撃に遭い、その都度に守られ、時に多くの犠牲の上に成り立っています」
 小さな深呼吸の後、少女の口から語られたのは、芯のある強い“宣言”だった。
「わたくしたちは、王国の騎士を中心として、数え切れぬほど多くの人々に守られて今日を生きています。しかし、近年の過酷な戦争に我らが騎士団は縮小の一途をたどるばかり。
 この国の正規軍としての王国騎士団、それを組織する騎士たちには、既に限りが来ている今、わたくしたちがすべきは、尊い犠牲を嘆くばかりでよいのでしょうか?」
 辺りを見渡すシスティーナに対し、シン、と静まり返る謁見の間。それでも、自らの眼下に居並ぶ騎士たち一人一人を見つめながら、少女は言葉を、自らの内にずっと温めていた柔らかくも確かな想いを、自らの外へ、現実の世界へ解き放つ。
「答えは、“否”です。わたくしたちは、決してこの国を、世界を諦めません」
 その宣言は、古の塔の最上階で彼女が明かした想い。
 その宣言は、今ここにいる全ての者に知らしめる決意。
 この道に至るまで支え導いてくれたありとあらゆる存在に感謝を捧げながら、少女は知らず、ハンターの青年に預けられた“対傲慢試作刀”──“怨敵を討伐するために生み出された新たな力”に想いを込める。
「その為に、わたくしたちができること。大切なのは、過去に感謝し、未来へ進むこと。どんなにこれまでの歴史が選んでこなかった道であろうとも、この国のため、民を思うが故のものであるのならば、世界はきっと、この判断と決意を“否定”することはないでしょう」
 この場における“黒の騎士の任命”と“本来の騎士の任命”には大きな隔たりがある。それは、彼ら“黒の騎士”は、“正規の王国騎士”とはあらゆるものが異なるからだが、そういった些末事など今後の働き如何でどうとでもなっていくだろう。
「此度、王国騎士団が結成した新たなる第四の騎士隊。そして、そこに所属するこの場全ての黒の騎士たちよ。どうか、民を守る剣とならんことを──」
 誓いの句と共に青年の肩に置いていた刃を下げると、王女システィーナ・グラハムは──微笑んだ。

 王女殿下が玉座に戻ったのを確認すると、王国騎士団長ゲオルギウスは一呼吸の後に声を張りあげた。
「王国騎士団黒の隊長には、騎士エリオット・ヴァレンタインを任命する。
 すべての騎士たちよ、王国の剣たれ! 以上、“黒の騎士”叙任式を終了する」
 頭を垂れ、王女殿下に跪く青年の姿は、まるで絵本でよく見た“騎士ものがたり”の騎士そのものだったと、後日誰かが口にしていた。


●――そして道化は幽冥に嗤う

フリュイ・ド・パラディ

ヘクス・シャルシェレット

「立派なもんじゃないか。そう思わないかい?」
 笑みを含んだ青年の声が、室内に落ちた。重厚な石造りの部屋には、豪奢な調度品が並べ立てられている。人の気配は、ただ二つ。残った一人――フリュイ・ド・パラディ(kz0036)は不快げに鼻を鳴らすと、手にした資料を机に投げ捨てた。
「君に身内を褒める趣味があるとは知らなかったね」
 緑色の目に不満を乗せて、告げる。
「それとも、君の目もだいぶ曇っちゃったのかな? ……シャルシェレット卿」
「立派になった、とでも言えばよかったかな」
 これだ、と慨嘆するフリュイを他所にヘクス・シャルシェレット(kz0015)が眺めているのは、システィーナ・グラハムの施策についての資料である。
 国庫からの金の動き。その用途についてと、展望についての調査書である。その中に、黒の隊"隊長"の記述を認めて、ヘクスは微かに笑みを零した。それから、フリュイを眺める。容姿だけでいえば、かたや青年、かたや少年と些か不釣り合いである。しかし"長年の"付き合い故にか、双方の気質によるものか、二人の間には砕けた気配があった。尤も、友好的であるかは一考の余地があるのだが。
「で、君たちの方はどんな調子だい」
「手応え無しだね。話は終わりかな? それじゃあ、さっさと帰ってくれると嬉しいんだけど」
「おいおい、ひどいな。それがスポンサーへの態度かい?」
「僕の書斎に、『穢れ』を持ち込むような人間に払う敬意は無いさ。分かっていると思うけど……酷いもんだよ、君。はっきり言って不快だ」
 フリュイにしては珍しく――あまりにも露骨な感情表現に、ヘクスは皮肉げな苦笑を零した。
「……これでも誠意を見せたつもりなんだけどね」
 言いながら、手元の資料を読み進める。実態はともかく彼の経営する第六商会を始め、グラムヘイズ・シュバリエ、聖堂教会、錬筋協会、此処、アークエルス……それぞれに、新たな動きが生まれているのは事実である。他の領域でも、相応の成果を挙げていることを確認しながら、そこに幾つかの領名が記されているのを見るに至り、微かに目を細めた。
「貴族たちも、少しは旗を振るようになったみたいじゃないか。善哉、善哉」
「………………」
 フリュイは、答えなかった。不満げに見えるのは、そうして沈黙していれば眼前の男が帰ると思っている――からでは、ない。
「それでも、不足しているだろうけどね。どれだけ金子を注いでも一枚岩になれないのは、この国の欠点だよ」
「そりゃあね。どれだけ金を落としても素直になってくれない貴族が、僕の目の前の、そのまた目の前の目の前に一人いるくらいだ」
「……はあ」
 少年は、苛立たしげに長い袖で髪を撫でまくった。苛立ちを飲み込むように、吐き捨てる。
「戯言も聞き飽きた。いいさ、教えてあげるから今日は帰りなよ」
「はい、聞こうか」
「梨の礫、だね。《王の座》はなんの反応もみせない……けれど」
 続きを促すヘクスの視線に、フリュイは鼻を鳴らした。成果不足を見せつけるようで、まこと腹立たしい。
「あの名無しのホムンクルスが扱っていた機能だけなら、一部使用可能……かもしれない。少なくとも、糸口は見つけたところだ」
「……そうかい」
 やおら立ち上がったヘクスは、さらりと何かを書き留めるとフリュイの机に差し置いた。手渡さなかったのはフリュイが受け取らないであろうことを見越してのことであろうか。そして、軽い仕草で、ポケットから、もう一つ。
「……………………なにこれ。ルーク、かい?」
「ビショップの方が好みかな?」
 不満げな声は、置かれたソレが、チェスの駒であったから、というわけではなかろう。駒を見た際に、紙片に書き記された桁の数が、気に触っただけのこと。それを、眼前の男に伝えない程度には。
「話は終わったろ。さっさと帰りなよ」
「はい、はい……」
 出口へと向って歩きだしたヘクスの背に、フリュイが舌打ちを鳴らしていると、
「ありがとう、これで全てが揃ったよ」
「……………………」
 そんな声が、落ちた。フリュイが指を鳴らすと、一人でに戸が閉まる。
「…………ああ」
 全く、腹立たしい。その憤懣を示すように、激しい音を立てて戸が閉じた。
 不快だったことは多々ある。ヘクスの態度。彼が持ち込んだもの。しかし、何よりもフリュイを苛立たせたものは。
 ――想定以上の成果を出せなかったこと。それが、研究者たる彼の挟持をいたく傷つけていたのだった。

 ―・―

 そんなフリュイの心中を知ってか知らずか、ヘクスは廊下を歩きながら、黙考していた。帽子と前髪、顎に置かれた手で表情を隠しながら――最後にヘクスは、こう呟いた。

「……これで、チェックだ」

(執筆:藤山なないろムジカ・トラス
(監修:京乃ゆらさ
(文責:フロンティアワークス)

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