• 繭国

【繭国】王国騎士団“黒の騎士”、誕生

マスター:WTRPGマスター

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
1~50人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2017/07/20 19:00
完成日
2017/08/03 18:32

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●黒の隊、結成へ

『王国騎士団、新組織結成。対歪虚特化部隊、名称──“黒の隊”。
 それに伴い、条件不問の新騎士選考会の開催を決定。参加者、求む』

 ある日、王国騎士団がこのような報せを全世界に向けて公示したのだ。
 赤の隊、青の隊、白の隊に続く、第四の騎士隊、黒の隊。
 その設立と新たな“騎士団組織員”の募集だ。
 元来、王国騎士団への入団は特例を除いて基本的に王立学校の卒業を条件とする。それに比して、この文面はどうか。
 これはつまり、「王国が血筋や学歴を問わず幅広く新戦力を募集し、大規模な組織再編成・構造改革に乗り出した」ということの証に他ならなかった。
 公示以来、定期的に王国騎士団新騎士先行会が開かれては、新たな騎士が任命されていったが、それは未だ“隊”と呼べるほどの数には至っていない。
 そして遂に、ハンター向けとしては最大規模の先行会が、本日行われることと相成った。



「続々と参加者の皆さんが集まってきていますね」
「我々運営側の準備も、じき整うかと」
 訓練場を見下ろすのはグラズヘイム王国王位継承権第一位、王女システィーナ・グラハム。その傍には、彼女の直下で特務に従事する騎士エリオット・ヴァレンタインの姿がある。
 広がる準備風景をしばし眺めていた王女は、やがて隣の青年を見上げると柔らかく笑んだ。
「わたくしは、騎士団が今回の判断に至った経緯を嬉しく思います」
 ここは王国騎士団戦闘演習場の一つで、普段は主に従騎士たちの訓練に使用されている。王都より多少離れた場所に位置し、ある程度の面積が確保されているため、小~中規模の戦闘演習を行うことが出来る王国騎士団管理の公的施設だ。
 アリーナの東西南北にはそれぞれ今回の選考会に際して多少の仮設観覧席が設けられており、今回その一角に通されたのが先述のシスティーナ王女だった。
 少女はこの目で騎士団が変わろうする姿を見たかったのだろうし、青年もそれを見せたいと願ったのだろう。今日ここに集うのは、王国を変えることが出来得るほどの“熱量”だと、両者はそう信じているからだ。

●伝統と政治

 此度の紅白戦をもとに適正者を選考するため、観覧席には騎士団の主要メンバーが雁首を揃えて座している。しかし、その中にゲオルギウス・グラニフ・グランフェルトの姿はない。
 曰く『対歪虚戦闘に関しては覚醒者に任せる』と、彼は今回の選考にノータッチの姿勢を貫いているのだ。逆を返せば、“選考に関与したとみなされたくない”のだろう。彼らしいリスクヘッジであり、騎士団の誰かがかけるべき保険であることもエリオットは十分理解していた。
 そのゲオルギウスが、アリーナに向かう最中のエリオットを呼び止める。
「王女殿下の召喚に成功するとは、お前も“政治”の“せ”の字は理解出来たか」
 口角を上げる長に、青年は首を傾げる。
「どう言う意味だ?」
「まさか、お前」
 老騎士は目を見開いた後、呆れの色を強く滲ませた。
「この国の行く末を担う御方に、この国を支える者たちの熱量を見せたい。それだけだ」
「……最早、何も言うまい」
 爺は溜息一つ零すと、青年に託す想定だった“追加予算に関する稟議書”を握りしめてその場を去って行った。

●野心と展望

「よう、エリオット!」
 主催者を乱暴に呼びとめる声に振り返ると、そこには王国騎士団副長であり、赤の隊を率いるダンテ・バルカザールと、赤い髪の女がいた。
「ったく、待ちくたびれたがようやっと“選考会”だな。調子はどうだ? オイ?」
 ニッと浮かべた笑顔は、いつもより数倍増しで輝いている。うきうきしすぎだろう。
 それを隠す気もないダンテの様子に、エリオットは思わず顔をしかめた。
「お前、この“選考会”の意味を解って言ってるか?」
「あ? そりゃ……モチロン解ってるっつか……まぁいいじゃねえか、そんなこたぁよ!」
 青年の背中をバシバシと思う様叩いて豪快に笑うダンテには嫌な予感しかない。
「お前な」
「そうだ、コイツ。面識はあんだろ?」
 これ以上詮索されまいと、ダンテは隣の赤い髪の女を指す。それは──
「あぁ、アカシラだろう?」
「節分の時にゃ、世話んなったね。けどアンタ……てっきり、国を捨てたと思っちゃいたがねぇ?」
 ──鬼の頭領、アカシラだ。彼女の鋭い視線がエリオットに突き刺さる。
「ま、いいさね。今回の選考会はアタシらには“渡りに船”だ」
 女は青年の左胸をトン、と叩いて口角を上げた。
「覚悟しな。“紅組”が必ず勝利して見せるよ」

●いざ、開戦

 これは、選考会の話を聞きつけたダンテとアカシラが“面白がって紅組にエントリーした”ことに端を発する。
 この二人が加わった紅組を前にすれば、白組に自分が参加したとて分が悪いことに変わりはない。そこでエリオットは事前にある人物に連絡を入れておいたのだが……
「一体何をやっているんだ、あいつは」
 懐中時計は、選考会の開始時刻を告げようとしている。
 二つの組に分かれた参加者は続々と会場に集結しているが、白組に召喚したはずの男は未だ姿を現さない。
 しかし、その時だった──。

『ヤァヤァ、エリー! オソクナッテ、ワルカッタ、ネ!』

 嫌な予感がする。振り返りたくない。
 この感情を今どこにぶつけていいのかが解らなくなりそうだからだ。
 だが、周囲はみな不安感を覚えていることだろう。早めに対処しなければならないことは、理解出来ていた。
『ボクナラ、イッキトウセン、ダヨ! サア、ハジメヨウカ!』
 “新型砲戦ゴーレム”が、喋っている。
 自律稼働なのか、指定された音声を遠隔操作で発しているかは定かではないが、腹立たしい事に、ゴーレムの腹には「へくす・しゃるしぇれっと」と書かれた張り紙がしてあった。
「……あの、馬鹿」
 白組のバランサーとしてエリオットが召喚しようとしていたのは、ヘクス・シャルシェレットだった。
 あれがいれば少なくとも鬼の頭領や、赤の隊長などのバランスブレイカーどもを黙らせることが出来たはずなのだ。だが……
 ──逃げたな。
 眼前のゴーレムに罪はない。ないが……この怒りはどこへやればよいのやら。
 エリオットは、腹の張り紙を引っぺがして握り潰し、騎士らにゴーレムの撤去を指示。
 ダンテが指さしてこちらを笑っているが、選考会さえ上手くいけばもう何だっていいのだ。
「……見苦しいところを見せたが、早速選考会を始める。
 選考会のルールはシンプルだ。これより紅白戦を行う。
 まず、参加者は“紅組”と“白組”に別れてもらう。
 フィールドの東を紅組、西を白組の陣地とし、其々の陣地に【3本の旗】を設置した。
 旗は夫々の陣地の北・中央・南に1本ずつだ。
 参加者は相手陣地にあるこれら3本の旗全てを奪えば勝利となる。以上だ。

 王国の騎士たちが、そして王女殿下がこの選考会の見届け人だ。
 ──どうか、グラズヘイム王国の名に恥じぬ戦いを」

リプレイ本文


 広大な演習場に、50名を超える人数が押し込められていた。
 二十六名と二十七名に別れた陣容は、南に厚く、北へと伸びる形に散在している。
「……さて、この演習がどのような結末を迎えるか分からないが」
 その中で顎を撫でる榊 兵庫(ka0010)の呟きが、地に落ちる。無骨な兵法家に出来ることは、限られている。やれることをやらん、と、槍のごとく意を澄ます。
 その隣。小さく息を整えるマリエル(ka0116)の胸中は、武人のそれとは大きく、異なる。
 ――ハンターの皆さんの中には、自分が疎かになってしまう人が、多い。
 そう思えるようになったのも、少女自身に、少女の価値を教えてくれた友人のおかげだ。ただ、治癒手として、この場に在る。
「……掲げる『想い』も私は守りたい」
 誰よりも優しい少女だ。彼女にとってこの場は、激しい戦場になるだろう。その事をマリエル自身が解っており――だからこそと、自分を奮い立たせる。
 その、南方。
 守備に付くクレール・ディンセルフ(ka0586)は気合を入れていた。
 ――鍛冶と同じ! 「私」を全力で表現するだけ!
 拳をあわせながら、相対する陣容を遠景に見据える。少女にとって、世界とは、足りないモノだらけだった。
 両組ともに、クレール自身すらも眩く感じるほどの英才が並んでいる。それでも、少女は諦めない。
「這いずり、泥を啜ってでも勝ちますからね!」
「ええ」
 同じく防衛につくUisca Amhran (ka0754)が、力強く頷きを返す。
「私たちに希望を託し私の目の前で亡くなった友、ソルラさん……彼女の想いを繋いでいくために……」
 そして、小さく、祈りを捧げた。夜桜 奏音(ka5754)も、それに続く。喪失の痛みは、彼女にとっても等しいものだから。自らを光撃と称したあの小隊の主に――故人に、祈りを捧げ、剣と符に、誓う。
 ――必ず、守り抜いてみせます。
 彼女のように特定の誰かを強く守りたい、という気持ちは及ばないかもしれない。それでも、ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929)は、前方から視線を外し、遠く天幕の下に控える小さな少女を思った。
「騎士って柄じゃあないけど……ね」
 この場にシスティーナ・グラハムが居るということ。その事実が、この選考会にかける王国ないし少女の想いを如実に物語っていた。ならば、その意を応援したい。そのために自分ができることはここにあるはずだ。だからこそ、青年はこの場に挑む決意をした。自分の力試しにもなるならば尚良いだろうと、まるで自分を言い聞かせるように独り言ち──ラィルは人好きのする笑みを浮かべた。

 全身鎧に包まれたSerge・Dior(ka3569)は小さく、息を吐いた。
 居並ぶ面々を、見渡す。その姿の、なんと、若いことか。
 ――私自身をしても、そうだが。
 屈強であったかつてから、喪われた騎士たち。今回のこれは、そのための措置の一つであろう。
 なればこそ、元王国騎士として、出来ることをしたいというのが、Sergeの意志だ。
「……それがディオール家の家訓であり」
 ――現実から逃げてしまった私自身の償うため。
 心血を注ぐのは、当然のことだった。道は、同じ方向を向いているのだから。
 祈り手を斬るセルジュの傍らで、ソティス=アストライア(ka6538)はくふ、と笑みを零した。
「魔術師が騎士、なぁ……ありじゃないかね?」
 嗚呼、と。熱い吐息が溢れた。多量の"敵"。上等じゃないか。このような場所で、思う様魔術を振るえる、とは――。
 これがただの獣であれば、こうはいくまい。何処か邪悪さすら孕んだ笑みで、ソティスはただ、前を見つめていた。


「ぶええーーーっくしょい!」
 空寒いものを覚えて、神楽(ka2032)は盛大にくしゃみをした。
「大丈夫、ですか?」
「やー、大丈夫っすよ。変な寒気しただけっすから……」
 ミオレスカ(ka3496)の気遣いに、神楽は苦笑いを返す。そんな反応にミオレスカは少しばかり言葉を呑んだ。
 そうして。
「少々博打ですが、勝利する算段のある作戦だと思いますよ」
「――俺、そんなにテンパってみえるっすかね?」
「勝ちたいのかな、とは」
「……っすかねー」
 相対する敵陣を眺めれば眺めるほど、この作戦でよいのか、と気鬱になる。名うてのハンターが敵に回ることがこうも恐ろしいことだとは。
「――やれるだけのことをやるしかないな」
 戦斧「ネメシス」を肩に掲げたセルゲン(ka6612)が静かに言うと、神楽は口をつぐんだ。これ以上喋ると、慰めの雨が降って居心地が悪くなりそうだった。
「ん……神楽は、騎士に、なりたい?」
「…………どうっすかね」
 ほら来た。アーシェ(ka6089)の問いに、神楽は思わず詰まってしまう。まさか楽して金が稼げそうで、あわよくば美人を引っ掛けてウハウハだなんて、そんなことを言えるはずもない。相手が幼女だからではなく、そう、これは選考会であるからして。
「……わたし、大勢の人の前で話すの、苦手。ただ、じっと聞いてるだけだった。それでも、騎士になれるの……かな」
「……どうっすかね。俺よりは、素直だと思うっすけど……」
 なんとなく居心地が悪くなったので、いよいよ口を閉ざすことにした。素直な善意で開戦前に胃が痛みそうだ。

「出来るなら私もと思いましたが」
 クリスティア・オルトワール(ka0131)は遠く相手の陣に在る誰かを眺めて、呟いた。
 自らの望みを、思う。黒の隊に所属することに惹かれるものはある。けれどそれは、クリスティアの道とは、違う。
 だから。
「……この戦い、勝たせて頂きます」
 小さく、言葉にする。
 そんな心境を知ってか知らずか。同列に位置する夢路 まよい(ka1328)は朗らかに、こう言った。
「せっかくゲームするなら勝ちを目指したいよねー。ハンターどうしで遊ぶ機会とか、滅多にないし」
 背伸びしながらの言葉に、クリスティアは微笑を零した。確かにそういう心持ちでも良い筈だ。滅多にない機会という意味では、慣れ親しんだ面子と闘うことは――興味はある。

「……いやー」
 対して、ケイ(ka4032)の心中は苦い。
 ――やばいの混じってるじゃない……いや、知ってたけど。
 弓矢を構えながら遠景に見るも、舞刀士二名はその矮躯もあってか人混みの中にとらえることが出来ない。
 まあ、いい。いずれ派手に動くだろう、と割り切る。
 どこか淑やかですらある微笑が口元に咲いた。そこに、ちろり、と赤い舌が覗く。
 ――邪魔し倒してあげる。
 と、疚しい決意を固めていた傍らで。

「同道って……アタシと、かい?」
「ああ」
 西空 晴香 (ka4087)とレイオス・アクアウォーカー(ka1990)の要請を受けて、アカシラは面食らったようだった。
「負けたくないのさ、私達もな」
「……へえ」
 晴香の言葉に偽りはない。更には他意すらもない。
 これは――響いた。
 アカシラは『疫病神』だ。この場、選考の機会に於いてこのような扱いをされるとは、思ってもみなかったのだ。故に。
「……それなら、乗らせて貰おうかね。とはいえ――」
 アカシラは歯を剥くように笑い、こう結んだ。
「アタシは疫病神だ。ツキが落ちたって泣き入れるんじゃないよ?」


 開始直前。ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は怖じる心を振り切って、エリオットの元へと歩を進めた。
「……どうした?」
「いえ」
 その対応にエリオットが"あのこと"を気にしていないことが解り、言葉を飲み込みそうになる。
 けれど、今しかない。だから、その顔を見上げながら、こう言った。
「先日は、つい甘えた事を申してしまいました……申し訳ありません。まだまだですね、私」
「……?」
 返ったのは、怪訝そうな顔。
「よく解らんが、じき始まる。準備は済んだか」
 ――分かっていない。
 何も。
 その事がヴァルナの胸中に落胆と安堵を生む。そんな中、エリオットは前を――恐らくはダンテ・バルカザールを――見つめて、言った。
「……来る、か」

 その時。号令の鐘の音が高く、鋭く鳴り響いた。

「……始まった」
 オグマ・サーペント(ka6921)は無線機を手に、呟いた。
 足の速度に差はあろうに、両陣ともに、走りだしたハンター達の足並みは揃えられている。遅れている者も数名見られるが、隊列としては見事なものだった。
 南方の守りを固めるオグマ達の出番は当分先になるだろう。だからこそ、オグマは自らの望む所――"ハンターたち"を見つめることができる。 

 ―・―

 シン(ka4968)は駆けながら、突出を避けるように注意する。
 技も、体の強さも、至らないことは解っている。だからこそ気持ちだけは負けない。そのつもりでやってきた、筈、だが。
「これ、は……」
 目を走らせるが、横に広がった敵勢の隙の無さに、言葉を呑んだ。どこから攻めるべきか。
 そうこうしている間に――敵、後方から、射撃が飛んできた。
「っ!」
 思っていたよりも攻撃の出が速い。足さばきのみで回避を図る。
「ままならない、なあ……けど」
 ――王女様を護りたい。
 その一心で此処にきたのだ。やれることをやろう、と。ただ、足を進めることに専心する。
「ふぅん……」
 一方、藤堂 小夏(ka5489)は相手の動きにけだるげな目を細めた。数はこちら優勢と見るが、後衛は――深い。手がとどくかは、微妙な所。
 ――基本は前衛の相手、かな……。
「臨機応変、臨機応変……」
 隙があれば、飛び込もう。そう定めて、振動刀とパリィグローブの具合を確かめる。
 シンとは対称的に、選考会だからといって気負うようなことは無かった。ただ、己らしく戦おうと、そう決めただけ。


 読み勝った。仲間と共に迎撃に走りながら神楽は確信した。今回の模擬戦の要点として紅組が腐心したのは、如何に人数的優位を保つかという点にある。この点において紅組は緒戦を制したと言えよう。正面より迫る敵の数は白組全体の半数程度。こちらは三分の二を超える。白組の後列は紅組の意図に気づき残った戦力で稼働可能なメンバーを前に出しているが、到着と合流には僅かに間が空く。そのわずかな時間こそが紅組にとって最大の優位。赤組には勿論その時間を生かすための策もある。神楽は自身の腕に意識を集中した。紅組の切り札は神楽含めて三名の霊闘士の扱うファントムハンドだ。強力な拘束力を持つファントムハンドで敵の要たる人物を拘束して仲間と同時に一斉射撃を掛ければ、如何に強力な戦士でもひとたまりも無い。接触と同時に強力な一人を退場させれば以後も有利を維持できるだろう。唯一難点はファントムハンドの射程がそれほど長く無い事だ。足の遅いセルゲンと初期位置の遠いボルディア・コンフラムス(ka0796)は最初の激突には間に合わないため、神楽の一撃が勝敗を決する一撃となるだろう。
(この戦い、勝ちはいただくっす!)
 それを油断と呼ぶのは酷だろう。彼は役割を果たそうとした。ただ、自身の重要性に無頓着過ぎた。白組との接触の間際、神楽は敵前衛の一人が足を止めるのを見る。ぞくりと、悪寒が神楽の背を這い上がった。
「――――あ」
 最初の敵を捕まえるために前列に出ていた神楽は自身を狙った者の顔を見る。紅薔薇(ka4766)、白組の要注意人物。戦場をやや迂回しつつ移動していた紅薔薇は紅組の前衛に対して十分な射線を確保していた。足を止めた紅薔薇は祈りの刀を引き抜き、天高く掲げるように上段に構えた。マテリアルが収束し、赤い光が彼女の周囲を満たす。
「油断したのう、小僧」
 幼い顔に浮かぶのは戦いの愉悦。溜め込んだマテリアルは振り下ろされた先から大地を走り、彼女から一直線に幻影の青い薔薇を咲かせた。四十メートルを越える射程を誇る紅薔薇の必殺剣、次元斬『青薔薇』だ。神楽は咄嗟にかわそうと体をひねるが、間に合わずに胴体に直撃を食らった。神楽の肩口から血しぶきが舞い、弾かれて独楽のように周りながら地面に倒れ伏す。
(そりゃ、そうか)
 白組も赤組もハンター達は互いを良く知る仲間同士。敵の顔ぶれから警戒すべき作戦や人物は割れている。紅組にとっての懸念事項はリリティア・オルベール(ka3054)、誠堂 匠(ka2876)、ジェーン・ノーワース(ka2004)などの優秀な疾影士による突貫であり、紅組は彼らの足止めをメンバーに周知した。ならば白組は? 白組は切り札の効果を最大化させるため、切り札へのカウンターに対してカウンターを実施した。これが最初の答えである。
(くそっ……後は任せたっす……)
 聞き慣れた雄たけびが遠くなる。神楽は仲間の奮闘を信じながら、意識を手放した。


「アンタたちも物好きだねえ」
「……私ごときには勿体無いお言葉で恐悦の限りです」
「それも気にしすぎだと思うが……」
 駆けながらケラケラと笑うアカシラの声に、ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)、レイオス・アクアウォーカーが応じた。アカシラのそれは、彼女の直衛につくことを択んだ二人に対しての言であった。此処には西空も挙手していたのだが、移動速度故に遅れ、追走する形になっている。
「駒は活かしたいってだけさ」
「そりゃぁ上等」
 レイオスの口の端に、笑み。抜刀の音に、アカシラの泰然たる声が乗り、その足が、止まった。
「――それじゃ、気張ろうかね」
 アカシラは昂揚のままに、肩に掲げた刀を下ろす。此処まで抜かずにいたのは、周囲の面々と足並みを揃える必要があったからだ。後続含めて四人。前線の戦列からごっそり抜けるには大所帯である。
 加えて。
「……参りましたね。二人……いえ、一人であれば、アカシラさんがいれば私ごときでも何とかなった……」
 倦んだニャンゴの声の先。三人のハンターが、相対せんとしている。眺めつつのネガティブな評価に、同陣から苦笑が溢れる。
「アタシ一人に随分じゃあないか」
「それだけ、貴女はこの場に於いて重要ということですよ」
 眼鏡の位置を直しながら告げる米本 剛(ka0320)の傍らには、南護 炎(ka6651)とオウカ・レンヴォルト(ka0301)。いずれも得物を抜いて臨戦態勢だ。
 昂揚した戦意が、絡み合った。


 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は、この選考会の意図と、"彼女"を意識していた。黒の隊に期待される役割は歪虚退治。となれば、抑えるべきは敵ハンターそのものだ、と。眼前からハンター達が急接近してくる中でも視界の端に"彼女"の気配を留めていたのは――僥倖、だったと言えるだろうか。
 刹那のことだった。風を感じた。それが風威となり、痛打に至るまで。
「――っ!」
 胴体に当たった手裏剣の凄まじさと同時に、思考が切り替わる。
 瞬後に、斬撃が降ってきた。急加速する視界一杯に"青"が咲く。
「リリティ、」
「試させて――確かめさせてもらいますよ」
 ――私も、貴方も。
「……っ」
 言葉と共に降ってきた二撃目を回避しながら、反撃の一閃を切り上げる。
 ――彼女は此処で止めなくては!
 リリティアはアルトを最優先としているようだ。獅子が喉元に迫るような殺気を払うべく、息を吐き、斬撃を放つ。リリティア対応を宣言していたキャリコ・ビューイ(ka5044)の動きを背中に感じた。ボルディアは北側の守備故に、遠い。
 思考の最中にも、十余秒の間に二本の手裏剣と二閃、さらにアルトの二撃が光となって弾けた。
 味方はキャリコを除き、相手陣と相対している味方はリリティアに手を割けない。そうこうしている内に"射線"が通った。沈黙のままにキャリコは射撃するが、リリティアは後方に跳躍してアルトの追撃ごと回避。
「さすがだ」
 男の短い言葉に、驚きはなかった。アルトも同感だ。その程度のことは、理解している。
 勝機は、ある。キャリコの"策"と、自らの斬撃。そうでなくても、彼女を抑えている間に他所で優位を掴めればいい。
 だからこそ、本気で往く。
「――勝たせてもらうよ、リリティアさん」


 アカシラたちを向こうに構え、炎は小声で呟いた。
「……護衛が居るとは」
 計算違いであった。とはいえ、周辺に人的余力は無い。数で言えば、前線へと多数を動員した紅組が優勢なのだ。
 アカシラを止める――否、押し退ける。そのために守勢に特化した三人を中てる算段だったが、同数勝負となれば、互いの戦術と質が直に問われる。
「やるべきを、やるしかない、な」
 オウカは微かに顎を引いて答えた後、「久しぶりだな、アカシラ」と言葉を投げた。
「ひとつ、互いの全力を比べてみない、か?」
「サシで、ってことかい?」
 目論見を引き寄せるためのもの。それに、アカシラは歯を剥くように笑った。
「……ああ」
 腰を下ろす。こと戦闘においては文字通りの鬼女だ。油断はしない、が。

「戯けたこと抜かすんじゃないよ」
 笑いを含んだ言葉と共に、殺気。叩きつけられたそれは、予感を引き出す。
「これは戦争だよ。グダグダ抜かしてんなら、お仲間の方をまとめて斬るだけさね」
 次元斬――向こうの手は、長い。立ち往生のまま先手を奪われるのは愚策。
「―――――っ!」
 察し、まず動いたのはオウカだった。即応する形で、米本が続く。
「オォ……ッ!」
 オウカは咆哮し、機導術を二つ、編み上げる。強化された超重錬成によって、三メートルを超える刀が更に延長、重化した。遠慮は無用と放たれた、全力の殲撃。
「ハ。良い声じゃぁないかい」
 迎え撃つアカシラは、刃を片手にぶら下げたまま半身になって回避。壮烈な威力に土飛沫が上がる中、見つめる先は二人。米本と、その体の向こうに炎。こちらはオウカの動き――更にはアカシラの反応を見てからの動き出し故に遅れた形だ。

 ――速い。
 その遅れは、炎にとって思考のための猶予となる。
「出方を、見るか……!」
 アカシラの身のこなし、更には此方を見るだけの余力に、背筋が凍る。 結果として此方は多段階攻撃を採択した形になるが、格上の相手の余力を削ぐには至らない。
 遥かに格上の相手だった。だが。
 ――アカシラ一人を恐れているようで!
 己が武器を持ち続けるのは、護り、遺された想いを継いでいくため。だから。
「……そんな戦いが、できるものか!!」
 眼前で、米本の斧槍が空を切った。アカシラの体が左へ流れる中、女の左手が開かれているのを、見た。飛び込もうとしたニャンゴを、留めるように。
「疾ッ!」
 意図を汲むよりも前に、往った。雷撃の如き速さをもって大剣を振り抜く。手応えは、あり。しかし岩を打ったような硬度だった。
 噛み合う刃先。アカシラの瞳が至近に在った。
「アンタからにしようか、坊や」
 すかさずレイオスとニャンゴが動いた。レイオスはオウカとアカシラとの間に。ニャンゴは、突撃の勢いのままに衝撃波を放つ。的中。鎧を揺らす存外の痛撃を噛み締めながら、米本は吠えた。
「……ッ、やりますな!」
「そのようなことは、決して」
 援護へと動こうとした米本であるが、身体を挟んだニャンゴを押し退ける手段が無い。
「アンタらの意図は解るが、易々とさせる道理もないからな。付き合ってもらうぜ」
「……ちっ」
 それは、守りの構えを発動したレイオスに阻まれたオウカにしても同様だった。
 同数対決で、かつ、護衛二人の行動が図に当たった形だった。
 明らかな劣勢。けれど。
「……望む所だ!」
 それに怖気づく、炎ではない。上段に構え、真っ向から向かっていった。


 事実上の一騎打ちとなったアルトとリリティアに遅れまいと、他のハンター達も続々と敵の陣営を目指した。範囲攻撃を警戒するのであれば、射線を塞ぐためにも混戦の優位を維持したい。可能ならば敵のキーマンを討ち取りたい。それぞれに同種の思惑を抱きながら乱戦状態へと突入する。
 白組の先頭を切ったのはウィンス・デイランダール(ka0039)、続いてヴァルナ=エリゴス、Serge・Dior、蓬仙 霞(ka6140)。迎撃位置には ミオレスカ、藤堂 小夏、アーシェ、ハーティ(ka6928)、スファギ(ka6888)がいた。
「どきやがれええええぇッ!」
「邪魔をするなら容赦はしません!」
 ウィンスとヴァルナ、二人の槍使いは強敵だ。下手にぶつかれば一方的に蹴散らされてしまうだろう。迎撃できる者は多くないが、まずは足を止める必要があった。
 殺気をかんじた二人は同時に足を止め、武具を構えて防御の姿勢を取る。物理法則を無視して軌道をゆがめた弾丸が二人を襲った。ミオレスカのハウンドバレットだ。攻防に優れた二人にとってはさして脅威となる一撃ではなかったが、仲間が飛び込む一瞬を稼ぐには十分だった。盾剣を構える鳳城 錬介(ka6053)がウィンスを、振動刀を持つ小夏がヴァルナの行く手を遮る。
「貴方の相手はこの俺です!」
「はッ、上等だ!」
 吼えたウィンスは振りかぶった槍を渾身の力で振り下ろした。錬介は盾剣でこの攻撃を真っ向から受け止めるが、衝撃を殺し切れず思わず後ずさった。何度もまともに受けて良い攻撃ではない。同時に錬介は受けて良かったとも思った。この一撃を受けて無事でいられるメンバーは少ない。
(一人ではとてもかないませんね。ですが)
 ウィンスの追撃は無い。ミオレスカが錬介の斜め後方より援護射撃を行い、錬介に一拍分の猶予を作っていた。この合間にハーティがヒールで錬介を回復。
「ボクもおたすけするれす」
「助かるよ。これなら戦いようがある」
 一手分余裕の出来た錬介は一歩踏み込んで盾剣を斜めに振りぬく。ウィンスは槍の柄を斜めに構えてこれを受け止めた。斬り合った二人は一歩引いて間合いの外へ。ウィンスはにやりと不敵な笑みを浮かべた。
「三対一か。良いぜ、相手してやるよ」
 聖導士二人を釘付けに出来るなら悪くない。ウィンスは全く怯む様子も見せず、槍を構えなおす。
 ウィンスが戦うすぐ傍ら、ヴァルナを足止めしたのは小夏だった。槍の間合いを保つヴァルナに対して、小夏は刀を下段に構えている。一見小夏不利とも思える構図だが、その左手にはパリィグローブが装着されている。間合いに飛び込むだけの十分な防御能力が彼女にはある。
「本当は嫌だけど、他に動ける人は居ないし」
「なら引いて頂いても良いんですよ?」
 笑顔のヴァルナに小夏は苦い顔だ。空気の切り替わりは一瞬だった。ヴァルナが踏み込みと同時に槍を突き出す。小刻みに突きを繰り返し、小夏に反撃を許さない。小夏はパリィグローブで受け流しつつ一歩前進。素早く間合いに入り刀を振りぬく。ヴァルナは二歩下がって難なく小夏の一撃を回避。同じ闘狩人だがヴァルナのほうが軽く、小夏のほうが固い。力量も近しいために間合いを取った次の行動も小夏にとっては予測の範囲内であった。
「失礼します。時間を掛けていられませんので」
 ヴァルナの槍の穂先にはマテリアルの光。幻惑するように槍を何度も回転させると、ヴァルナは一歩下がった距離から渾身の突きを繰り出した。徹閃。光は凄まじい速さで小夏の胸元に伸びる。小夏は咄嗟にパリィグローブを使いつつも肩を前に出して鎧受け。回避出来ないものの致命傷は避けた。
「この……!」
 光をはじいた小夏は間合いを詰めながら刀を振りぬき刺突一閃。槍の間合いはこの距離では絶対ではない。ヴァルナは槍と鎧で刀を受け流すが、衝撃を殺し切れない。両者譲らずにらみ合い、再び槍と刀の応酬が始まった。実力の伯仲した同士だがどちらも攻防バランスが良い。すぐに決着がつくような戦いでない事は明らかであった。
 Sergeの進む正面に構えていたのは禍々しい鎧に身を包んだ竜人の男、スファギ。勢いよく突撃してきたSergeだが、目の前の男の腕前を見切るとすぐに足を止めた。スファギも対応して剣を抜く。
「騎士か。腕試しには丁度良い」
 スファギがここで白組に対応したのは彼の本意ではない。彼は本来遊撃班であり、魔術師を狙う意図で前進していた。しかし鎧の重さで動きの鈍い彼は前衛に追随することが難しく、急いでも間に合わなかったのだ。
 先に仕掛けたのは間合いの長いセルジュだった。単調だが勢いの乗った一撃を見舞う。スファギは危なげなく盾で一撃を受け止めた。同時に疑念がわく。この動きは斧を扱うから単調になっているわけではない。
「……攻める気が無いならこちらから行くぞ」
 スファギはSergeが斧を振り切ったタイミングに合わせ、盾で斧をかわしながら大上段から剣を振り下ろした。Sergeは斧を引きながらスファギの剣を受ける。元騎士の男はその攻撃を受けきるかどうかというタイミングで斧を引き起こし、スファギ目掛けて斧を振りぬいた。これに驚いたスファギはぎりぎり盾で受けるのだが、今度は威力を殺し切れていない。
「そういう作戦か」
「奇を衒う必要はありませんからね」
 カウンターアタックによる反撃で一撃必殺を狙いつつ、受けた傷はマテリアルヒーリングで治癒する。防御能力と攻撃能力の極まった者が使えば脅威となる。この作戦ならSergeの勝ちは揺るがないだろう。だがSergeの作戦を理解したスファギは嗤った。
「何がおかしい」
「ぬるい」
 スファギは、男から一歩離れると、数メートル横で切り合うヴァルナ目掛けて一瞬で踏み込み、分厚い剣を振り下ろした。この一撃で怯むヴァルナではないが、態勢を崩してしまい小夏の剣撃に押され始めてしまう。
「お前は!」
「相手を待つとはこういうことだ。これは戦争の代わりだぞ。本気になれ」
 スファギは楽しそうに笑った。顔に宿る悪意の真贋はSergeには見分けられない。それでも仲間を狙う刃の鋭さは本物だ。Sergeは自身の手数が少ないことを後悔するが、結局最後まで、この不利な条件を覆すことは出来なかった。
 アーシェと蓬仙霞の戦いはSergeとスファギに比べると素早い展開となった。鞭を振るい霞を遠ざけるアーシェに対して、霞は隙を探して円を描くように間合いを計る。鞭をすり抜けた霞がアーシェに切り込むが、防具の不備が重くのしかかる。決着は思いのほか早くなるだろうと予測された。
 この二人の戦闘の結果は状況に変化を与えることはなかった。二人は自身の未熟を思い知る。心で劣っているとは思っていないが、技も体も、まだまだ磨き得る余地がある。当然"ハンター最強"である必要は無いにせよ、心と技と体──それを見せるべきこの場において、体の条件のみで言えば裕にクリアするような歴戦のハンターが並ぶなか、自らを示すにはどうすればよいのか? それには、あと一歩、何かが必要だったのではないか。そんなことと感じられる結果となった。


 ウィンスとヴァルナ他、白の前衛とすれ違うように龍崎・カズマ(ka0178)ら赤の前衛も白の後列へと殴り込んでいく。赤組と違い白組は後方支援能力に長けた者が多く、放置すれば被害は拡大する一方だ。カズマは先に配置についていたシンに追いつき、足並み揃えて白組の前衛を突破した。本来であれば隠の徒で奇襲をするか、あるいは無線を通じて敵に欺瞞の情報を流そうとも考えていた。しかし開かれた戦場で隠の徒は用を成さず、情報戦をするには距離が近すぎた。このためカズマは残った最後の案として、敵陣の後方攪乱を任務として選んだ。
(こいつは迷うな……)
 カズマは強敵を前に不敵に笑う。刈り取るだけ刈り取れば、悪化した戦況をひっくり返すことも可能だろう。幸いなことに疾影士はこの手の"自衛能力に乏しい後衛クラス"と戦うに際し非常に相性が良い。狙う相手は複数。ブラウ(ka4809)、レイレリア・リナークシス(ka3872)、ソティス=アストライア、マリエル。あるいは疾影士の3人だが、足の速い敵に時間を掛ける余裕はない。ふと、視線が一人の魔術師に向かう。
「狩りの時間だ。その身を燃やして灰となれ!」
 ソティスが突破しようとするカズマら前衛目掛けて炎の雨を降らせた。カズマは正面から飛来したフレイムレイン、誠堂匠やジェーン・ノーワースら後列で温存された疾影士達の手裏剣を回避。標的に視線を合わせた。
「決めたぜ。まずはあんただ」
 カズマは散兵となった白組の前衛をすり抜け、後列を射程に捉える。握った蒼機剣に意識を集中、マテリアルを込めた光刃をソティス目掛けて射出した。刃がソティスの肩を抉り、血が飛沫く。
「ぐっ、おのれ貴様!」
 ソティスは悪態をつくのが精一杯だった。瞬きの間にカズマは影渡りによってソティスの目の前まで迫っていた。盾無し、護衛無し、足は鈍重──疾影士や猟撃士からすれば良い的である。
「まずは一人」
 飛び込む勢いで足の刃斬で蹴りを叩きこむ。影渡の拘束で動きの鈍ったソティスは回避しようがなく、吹き飛ばされてあっけなく意識を失った。ソティスを難なく仕留めたカズマは周囲を見渡し次の獲物を狙う。同時に離脱のルートも模索した。
 突入時に共に動いたシンは榊兵庫に足止めを食らっていたが、逆に言えば厄介な兵庫を足止めしてくれている状態でもある。体を張って止めてくるような相手は何をするにも分が悪い。おかげでカズマは充分に逃走する余地があった。ブラウを見る。彼女は横幅の広い次元斬を得意とするが、広さゆえに内向きに撃つには向いていないため脅威にはならないだろう。疾影士達は追いかけてくる可能性もあるが、攻撃に特化していないなら逃げ切れる。結論、魔術師を倒すか魔術師から離れるかすれば安全に退避可能だ。
「逃げ切れると思っているのですか?」
 レイレリアの持つ杖の宝玉が光り、カズマの周囲一帯に氷の嵐が吹き荒れる。複数の術を持つ魔術師ならばカズマを的確に狙うことができる。最大の脅威はここだ。
「……ちっ」
 かわしきれずに武器で受けて僅かばかりダメージを軽減する。ここまでは予測通り。今引き上げればまだ間に合う。ここでカズマの計算に狂いが生じた。後列は動かないもの、とは考えていなかったが、射程の見積もりを甘く見ていた。
「そこから先には、いかせません!」
 クレール・ディンセルフの正面に紋章が浮かびあがり光で出来た?が三本、カズマの近辺に着弾する。クレールの穿光?は強力だが回避自体は容易い。が、破壊によって巻き起こった砂埃は純粋な目眩ましになった。本命は二撃目。防衛位置より前進したアイシュリング(ka2787) のグラビティフォール。離脱は間に合わない。重力異常に晒された体が軋みを上げた。立つこともままならない重力の鎖にとらわれ、ついにカズマは倒れ伏した。
(ここまで、か……)
 散兵同士の激突、個人へ使用される範囲攻撃。敵の攪乱を意図するならばランアウトやアクセルオーバーが必要だ。蝶のように舞い、蜂のように刺すのが疾影士の戦い方。捕まれば羽をもがれ地に落ちる。この様子は後列の防衛班からもはっきり見えていた。
「強敵を防ぎ切りましたか……アイシュリングさん、お見事です」
 周囲の警戒を怠らぬままに、仲間の一手を賞賛するシルウィス・フェイカー(ka3492)だが、アイシュリングの内心では冷や汗をかいていた。
(確率的に勝算あっての行動だったけれど、無茶をしたことは否定できないわ)
 アイシュリングは自身の弱さを自覚していた。守りを失った魔術師は脆い。本来なら味方の前衛が盾になってくれる位置からの攻撃に徹したいところだったが、生憎と戦場の後方には条件に合う味方が居ない。急ぎ前線まで走っていたところをカズマが攻撃を始めたために対応を余儀なくされた結果が、今の一撃だった。
 少女は深呼吸して意識を整えると、ちらりとシルウィスに視線を送る。自身の内面にある恐れは、決して外には出さない。不安を煽っても良い事は無いからだ。
「後のこと……お願いするわ」
 それだけ告げるとアイシュリングは戦闘の激化する前線に急いだ。シルウィスは更に前進するアイシュリングを見送ると、カズマに合わせていた狙いを再び赤組の前衛に振り分け直す。シルウィスは制圧射撃を用意していたこともあり、この場の立ち回りで自らの活躍を示すことはできたが、もともと弓は射程距離が長い代わりに重武装の前衛や回避に特化した前衛には相性が悪いとされる。「防衛の弓兵として」をうたうのであれば、本来的には動きが鈍く自衛能力の無い敵を確実に処理する、あるいはアタッカーのサポートが仕事になるだろう。だからこそ余計に、シルウィスにはアイシュリングの位置取りの巧さが際立って見えた。着実に堅実にシルウィスは仕事をこなした。しかしそれだけで本当に良かったのか──生真面目な彼女の脳裏に、そんな言葉がよぎる。
「その悩みは手を止めるほどのものか?」
 アバルト・ジンツァー(ka0895)の声にシルウィスは我に返る。始まってしまったもの、やりかけの仕事は終わらせなければならない。
「いいえ、もう大丈夫です」
 アバルトは返事を返さない。視線も逸らさない。ただ答えるように、次の矢をつがえた。
 ここに来て赤組の攻め手は進退窮まった。舞刀士であるシンは突破能力では疾影士各位には及ばない。カズマの攻撃で起こった混乱が収束する前に撤退する必要があった。でなければ分厚い防衛線に一方的に刈り取られる。
「逃げるのか? もう少し遊んでいけ」
 十文字槍を構える榊兵庫がシンを煽る。シンの状況を理解した上での挑発だ。同時に仲間を守る策でもある。破れかぶれで突入されては被害が広がる。
「戦いは勝ってこそだろ」
 シンは冷静だった。兵庫の間合いから逃れようと後ずさり、背中を見せる瞬間を計っている。しかしシンが逃げるよりも早く、ブラウが動いた。
「ここまで踏み込んでおいて、逃がさないわよ」
 殺気を感じたシンは躊躇もなく後方へ走った。兵庫の槍を気にする余裕もない。ブラウは構わず横薙ぎに刀を払う。紅薔薇の使う「蒼薔薇」と違い、横に広がる次元斬がシンを追いかける。熟練のハンターでも回避が難しい一撃だ。シンは回避しそこね、仲間と合流することは叶わなくなった。
 防衛班の当面の危機は去った。問題が残るとすれば、他の防衛メンバーの役割にある。クレールはカズマが会場に控えていた騎士に抱えられて退場する様を見ながら、振り上げていた手をゆっくり下した。射程に倒すべき敵は居ない。警戒は最大限行っており、隠れて前進する敵は見当たらない。そう、仕事が無い。紅組の進軍は完全に止まっていた。特に足の速い者は既に白組の誰かが捕まえている。
「出番は無さそうですね」
  夜桜 奏音 がぽつりとつぶやいた。白組の後衛4名は揃って戦意が高い。特に Uisca Amhranとクレール・ディンセルフの熱意は尋常ではなかった。が、それもぶつける相手や場所があればこそ意味がある。やる気のかたまりのようなクレールは苦り切った顔で「あー」だの「うー」だのうめき声を漏らしながら指を開いたり閉じたりしていた。
「これでは力の示しようがありませんね」
  オグマ・サーペントの声からは緊張が抜けていた。彼は騎士になるよりは腕試しで来ているようで、腕が示せないことには特に焦燥は無く、先達の動きを知る為にじっと戦場の推移を観察している。焦ったのはUiscaや奏音、クレール達だ。役割上防衛に回ってはいるが、何もしないで良い訳が無い。腕前も心意気も、何一つ示す機会が無い。
「この距離に、もっと自覚的になるべきでしたね」
 奏音の声は苦い。百メートルという距離は遠いようで近い。この会場も広いようで狭い。王国製の魔導銃「アルコル」で丁度旗から旗まで届いてしまう。北と南は旗から旗へ、防衛戦力を狙撃することも可能だろう。何かが出来る距離だ。
「迂闊だったわ。想定していて当然、ということなのよね」
 戦闘では戦力の集中を如何に達成するかが重要だ。あるいは逆に集中の阻害が大事になるが、今回の場合は特に前者の比重が重い。戦力をどう配置すれば無駄なく動けるか、その視点に両者とも意識的ではなかった。射程が無いから何も出来ないでは済まない。ジャック・J・グリーヴ(ka1305)のようにクラスとの相性が最適でなくとも銃を持つ、あるいはシルウィスやアバルトのように射程の長い者を防衛に置く。アイシュリングのように必要に応じて前進するなど対策を講じる必要があった。
 個人ではその点に気づいた者、あるいは当たり前のようにそう動いた者がいた。その人数差が今の白組に優位につながっている。
「それじゃあ、今からでも進みます?」
「……それは止めましょう」
 クレールの提案は魅力的だったが、断腸の思いでUiscaは却下した。今からでは遅い。仲間達は防衛班がここで常に立っている前提で戦闘をしている。準備も作戦もなく、安易に曲げて良いものではない。それに、通信から聞こえてくるゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)報告が、既に"駆けつけるには間に合わない状況"を明確に示している。 最終的に四名はこれ以上戦闘に巻き込まれることもなく、最終局面を迎えることとなった。


 紅薔薇の刀は前線の猛威であり続けた。突破を試みて前線を迂回しようと動くため、純粋な火力ではブラウのほうが恐ろしい。だがブラウよりも前線に近く、常に移動を繰り返して射線が変化する紅薔薇はブラウ以上に赤組全体にとっての脅威であった。ケイは前列の少し後ろから紅薔薇の動きを注視し、虎視眈々と彼女の隙を伺っていた。
(やっぱり貴方が脅威になるわよね)
 後列にいて射線の狭いブラウはともかくとしても、常に突破を試みようとする紅薔薇は二つの意味で危険だ。ただ力任せに動くだけの戦士でないこともわかっていた。
「ここで沈んでもらうわ。いえ、お願いだから沈んでちょうだい」
 ケイは弓を引き絞り、紅薔薇の進路にぴたりと狙いを合わせる。歩数を数え、呼吸を合わせ、第一撃を解き放つ。ケイに気づいた紅薔薇は矢を刀ではじき返した。すかさず第二射・三射・四射。狙いよりも速度を重視した制圧射撃。ケイの狙いは完全に紅薔薇を中央に捉えていた。しかし紅薔薇も一角の戦士、ケイの放つ全力の射撃を事も無げに全て打ち払ってしまった。
「うそぉ」
 口ではそう言いながらも「ああやっぱり」という気持ちも強い。不意を撃たない限りは彼女にこの手は届かないだろう。あるいはもっと別の、自分らしい絡め手でなければ。紅薔薇は驚いた様子もなくケイを見ていた。刀は上段に構えている。距離を考えればここは既に射程圏内。逃げようと努力しなかったわけではない。進攻班に所属している以上、どこにいても逃れられない。
「覚悟はできておるのじゃな?」
 幼くも明朗な凛とした声が響く。視線を真っ向から受けたケイは迷わずに答えた。
「そんな殊勝な性格に見える?」
「それもそうじゃな」
 ハハハ、フフフと快活に笑いあう二人。それも数秒のことだった。
「では、さらばじゃ」
 青い薔薇が咲いた。ケイの記憶はここで途切れている。


 荒い呼吸を繰り返し、クリスティア・オルトワールは味方の後方を逃げ回っていた。戦術とは極論すれば機動である。後方支援を担う者にとっては安全と射線の確保が最優先となるが、クリスティアはこの点で状況に恵まれなかった。
 彼女を狙っているのは白組前衛のルカ(ka0962)。銃と盾で武装した彼女は後列の仲間に対して壁となるように移動しながらも、的確に銃で赤組後列の要たる人物を狙っていた。主に遠距離より敵を制圧することに長けた者、この条件で赤組の優先第一位はクリスティアである。直接標的にはまだなっていないが、アバルト・ジンツァーとシルウィス・フェイカーが間断なく弓矢による支援を続けている。既にハーティが2人によって沈んでいた。彼らの矢は十分な鎧を着こめない魔術師には致命的な一撃となり得る。
(白組の後列、火力を落としていませんね)
 クリスティアは当初仲間に隠れてと考えていたが、多くの者が範囲攻撃を警戒して散兵となった結果、彼女は身を隠すに十分な盾を見つけることができなかった。結果、こうして走り回って敵の射線から逃げ続けるはめになっている。この間にも彼女は魔法による後方支援を行っていたが、ルカが居る為に十分前に出ることが出来ずに攻撃はどうしても散発的になっていた。
(私は、こんなところで倒れるわけには……!)
 焦燥で手が震えるが、だが彼女に出来ることは少なかった。仲間を強力に支援する機能を持つかわりに、仲間の強力な庇護を必要とする。
 敵の視界から逃げるにも限界がある。後列よりシルウィスの放った矢がクリスティアの肩を貫いた。クリスティアは必死に退路を探すが、壁も起伏も無い平地ではそれも望み薄だ。鳳城錬介も状況には気づいていたが彼が回復に向かうよりも早く、アバルトの放った続く第二の矢がクリスティアの太腿を貫いた。
 戦場の中で膝をつくクリスティア。これ以上は命に関わるものとして退場となった。宿命ではあるが、やはり、守りを失った魔術師は脆いものだった。
 一方で白組の後列は被害が少なく済んでいた。白組の魔術師は装備の重さで足が遅い者が多く、両者の激突時に後方支援の半数が不在であった。本来ならばマイナス要素となるところであったが、乱戦の中で状況は逆転した。紅組のクリスティアが真っ先に狙われた事とは対象的に、レイレリア・リナークシスとソティス=アストライアは激突当初は敵の射程に入っていなかった。切り込んだ龍崎カズマが一人斬り倒したが、未だにアイシュリングとレイレリアが残っている。
 戦況を見渡せる位置に居たミオレスカは彼女らの猛威を見過ごす事は無かったが、同時に対処する武器も持たなかった。射程の限界から魔法を使うレイレリアと、榊兵庫の影を離れないアイシュリング。自身の射程ではどちらも狙うことはできない。対崎 紋次郎(ka1892)がこれを的確に狙撃していたが、優勢なように見えて彼は攻めあぐねていた。
「ダメだ。あと一手足りん」
 破弓は強力だが、一撃必殺とは行かない。ソティスのように盾を持たず魔法に特化した魔術師ならば十分倒し切れるが、この段階まで残るような魔術師は最低限の自衛能力を有している。余程の火力でなければ一撃で倒れるということはないだろう。一撃で倒れないならば回復が間に合ってしまう。敵の範囲攻撃魔法は止むことはなく、敵を後退させることもできない。
「なぁあんた、援護をもらえんか? 一発で良いんだが」
「無茶を言いますね」
 ミオレスカも前に出ようとは考えていたが敵の前衛が問題だ。ウィンスとヴァルナは健在。引き続き錬介とミオレスカ、藤堂小夏が防いでいるが、徐々に押されつつある。激闘の末にSergeと蓬仙霞を下してはいるが、敵の支援攻撃によってスファギ、ハーティ、アーシェを失っていた。手数は増えていない。むしろ状況は悪化している。
 ミオレスカは装備選定の失敗を痛感した。もっと遠くまで飛ぶ弓や銃なら前に出る必要はなかった。拳銃であっても盾を持っていれば過剰に敵の近接戦闘職を恐れる必要もなかった。射程を伸ばすスキルがあれば拳銃でもあるいは目はあった。しかし今はどれもない。彼女は威力に拘ったあまり、猟撃士の手の長さという利点を殺してしまっていた。
「でも、やるしかないのよね?」
「出なければ押し通されるからな」
 状況は理解している。ミオレスカは意を決して正面に進み出た。何秒保つかはわからないが、座して敗北を受け入れるよりはずっと良いだろう。


 鳳城錬介はウィンスの攻撃を間近に受けながら、敵の聖導士である柏木 千春(ka3061)の動きに舌を巻いていた。千春は聖導士でありながらも後列ではなく前衛を守る事にも特化しており、こちらの致命的な攻撃の悉くを防ぎ、あるいは回復能力で素早く陣形を復旧させた。
 先の紋次郎は、この千春の動きに完全に足止めされていたのだ。破弓により回復能力を持つ聖導士と聖導士の回復を待つ敵を同時に叩くという作戦だったのだが、鉄壁の防御能力を持つ千春にはそれが一切通用しない。余剰の火力でSergeや霞に致命的な打撃を与えはしたが、戦場を支える要たる戦士を挫くことは出来なかった。
 千春の視線を追えば彼女の戦い方が良く分かる。守りの薄い者、傷ついた者、敵の脅威となる者。戦場を的確に捉えている。自身が癒すべき仲間を把握し、庇うべき仲間に気を配っている。
(そうか、これも答えだったのか)
 仲間を守る。その心意気は大事だ。身を盾とする事も必要だろう。聖導士としての役目を必要十分に務める錬介であったが、あと一歩前に進むことが出来なかった。敵の攻撃に対応して動く以上、それは敵に動きをコントロールされているも同然。
 千春は聖導士である以上相手の先手を取ることは難しいが、先手を取る事に長けた者が誰かは理解しており、彼らを守る事の重要性も理解している。
「余所見か? 考え事か? 余裕ぶっこいてる暇はねえだろ!!」
 ウィンスの槍が右へ左へ、速さと威力を伴って振るわれる。技を使わない一撃であっても錬介には受けるのが精一杯だ。盾剣を前に掲げて槍を防ぐが、一撃を受けるたびに手が痺れる。ウィンスの猛攻は止まらない。錬介が後手に回った以上、彼を能動的に排除することは難しい。周囲に解決を求めることも望み薄だ。紅組は先手を取れる人材を守れなかった。神楽、セルゲン、クリスティア──彼ら彼女らが残っていればまだ手はあった。
「それでも!」
 錬介はウィンスの突きに合わせて盾剣を上に弾き上げる。袈裟斬り、横薙ぎ、槍の間合いに届かないまでも、強力な一撃でウィンスの足を止める。勝てないからと言って諦めるような、そんな無様を晒せない。
「俺は戦う。仲間を信じて!」
「んなもん、当たり前だ! 仲間を信じてこそ戦えるんだろうが!」
 ウィンスの叫びが響き渡った。錬介は初めてウィンスの目を真っ向から見つめた。これは死兵の目だ。自分の損害を省みず、仲間の突破を信じてここに立っている。目の前の戦士に戦意で劣っているつもりはない。それでも戦いの技量では明確に劣っているのだと、それゆえの結果なのだと突きつけられる。錬介はくじけそうになる心に奮い立たせ、再びウィンスに突撃を繰り返した。仲間の勝利を信じて。


 濃密な暴力の交錯に、精神が擦り切れそうだ。
 機動する身体に、リリティアは己の限界を見る。躱される斬撃はこちらにとっても同じこと。
 敗北への意識はない。万全に、完全に、こなすだけ。手品と一緒だ。
 リリティアには、一切の過失は無かった。

 故に。
「…………っ!?」
 その一撃は、想定外だった。

 ―・―

 殺気をこぼさず、気配も欲も見せず。必勝を期した策故に、キャリコ・ビューイは慎重だった。
 ――最後の、一弾。
 残弾を意識し、狙うのは"回避不能な"タイミング。即ち、アルトの斬撃の瞬後だ。
 渾身の銃声は、しかし、軽く響いた。
「……届いたな」
 トリガーエンド。持ちうる限りのスキルを詰め込んだ必中必殺の一撃が、リリティアの身体を貫いた。

 ―・―

 アルト・ヴァレンティーニの眼前で、リリティアの身体が右へ流れた。籠められた威力に、左側頭部から血煙が弾けている。キャリコの策が、刻んだ結果だ。
 惜しむらくは、アルトの斬撃の"後"にそれが放たれたことか。追撃が半歩、遅れる。だが、気合で踏み込んだ。
 ――此処で、決める……!
 態勢を整えようとするリリティアに、二連の剣閃。体に染み付いた練武の発露。
 しかし、だ。
「……っ!」
 リリティアの身体が沈み、獣のような動きで四つん這いで横に飛んだ。アルトの刃が、リリティアの髪束を断ち切る。
 はらりはらりと、青い髪が風圧に弾かれて舞う中、深手を負ったリリティアが立ち上がる。
「―――水を差して、ごめんなさい」
 そこに。声と共に、治癒の光がリリティアを包んだ。重装聖導士、千春の法術だった。戦場の趨勢を見て、最前線に居た癒し手が駆け寄ってきたのだ。



「ち、くしょ……」
 南護炎は苦悶の声を零した。胴に、深々とした刀傷。折れそうになる膝を無理矢理に奮い立たせて立ち上がろうとしたところで、蹴り飛ばされた。
「威勢がいいねえ。よく保ったほうさ。寝てな」

 ―・―

 それから三合。それが、炎が立っていられた時間だった。実力差を思えばよく保ったといえる。それには炎自身の奮戦もあるが――答えは、アカシラが次に刃を向ける先にあった。
「剛。アンタ、存外器用じゃあないか」
「……届きませんでしたが、ね……っと!」
 剛毅に笑い返す米本剛が、ニャンゴの一撃に身を揺らした。
「貴女とは、相性が悪いですな」
「私としては不快な醜面をお見せし続けて、心苦しい限りですが」
 衝撃波を中心に距離を取って組み立てるニャンゴは、剛にとって鬼門に近しい。勝ちを急がないがゆえに慎重な立ち回りもあり、間接的な援護しかできなかったのも事実だ。技と体がもう少しでも揃いさえしていれば、苦しめられたかもしれない。
 しかしながら、剛はニャンゴを相手取りながら味方を癒やし、炎に防護の法術を飛ばし、一閃をもたせた。想定されるべき状況全てに対応してみせたのは、堅実ながらも優れた手並といえる。二対一という状況を前に笑っていられるのは、己が仕事を果たした――あるいは果たすという自負の顕れだろう。
「では、私はこれで」
 影のように、ニャンゴは飛び退いた。強者の援護に徹するニャンゴはこの場を預け、オウカ・レンヴォルトの足止めに向かう。
「――いざ、尋常に」
「あんまり遊んであげられないケドねえ」
 趨勢は、決したといってもいいだろう。それでも、相対を愉しまんとする剛の太い笑みに、アカシラは応じて笑った。


「調子が、でない、が……!」
 気勢とともに、痺れる身体を奮い立たせてレイオス・アクアウォーカーが往く。
「ち、ィ……っ!」
「させないよ!」
 オウカが一撃を躱そうとした所に、西空晴香のエンタングルが絡んだ。ただでさえ重い足を奪われ、一撃を受けることになる。
 オウカは明確に、苦戦していた。戦力的に拮抗するレイオスが相手である事に加え、遅れて参入した晴香の戦術援助が重たい。回避を削がれれば闘狩人の重い一撃に身を晒さねばならず、痛打と引き換えに障壁で吹き飛ばしても僅かな移動で間に入るレイオスの守りの構えを突破できない。
 この日、レイオスの動きは冴えていたことに加え、元々が想定外の状況。オウカは剛同様――あるいはそれ以上に、援護のための動きができなかった。遠距離攻撃。あるいは、移動の術式でもあれば状況は好転しただろう。
 尤も、レイオスには既に深手を与えている。あと一撃でも入れられれば、剛の援護には動ける。晴香の攻撃は受け続ける限りにおいて障害としては軽い。
 しかし。
「――失礼ながら」
 背後から、声と共に、衝撃。攻撃そのものは受けられない程では無い。問題なのは。
「ぐっ、……!」
 マテリアルの働きにより、オウカの足が、止まった。止まってしまった。
「騎士道には反するかもしれませんが……」
 視線を向ければ、ニャンゴの呟き。
「勝ちは、拾わせていただきますよ」
「……くっ……!」
 三対一。挙句、足を奪われることとなったオウカの苦悶が落ちた。


 北側から、南方の前線へとめがけ、ボルディアは全力疾走していた。
 ――飛んだ綱渡りだぜ。
 キャリコを絡めた必勝を狙った一手は、僅かに届かなかった。アルトが落ちればリリティアは自由になり、前線は手痛い損害を被ることになる。
「させねェ……ッ!」
 長距離の移動はそのまま、趨勢を見守る鬱憤となった。それを吹き飛ばすべくボルディアは咆哮し――、
「囚えてやらァ!!」
 間合い限界。十二メートル先のリリティアへと向かって伸ばした腕から幾重もの炎鎖が湧き出た。炎檻。あのダンテ・バルカザールすらも囚えて見せた霊呪の鎖が機動戦を続けるリリティアを猛追。
 しかし。
「……オイオイ」
 嘘だろ、と。ボルディアは呟いた。甘く見積もってもボルディア優勢。そのはずだった。なのに今、気勢と共にリリティアは炎鎖を弾いた。
 伸ばした手が、虚しく残る。その眼前で、リリティアの身体が円を描いて機動。踏み込んでくるアルトと真っ向から相対――そして、交錯した。

 ―・―

 右足の踏み込みに合わせ、必殺の連撃を放つ。対して、リリティアも抜いた。
 ――届かせる……ッ!
 積み上げた練武の果て。それが眼前にあると感じられた。
 決して、引かない。目の前の怪物が、脅威と捉えた自分だからこそ。
 振り抜いた。

 瞬後のことだった。

 壮烈な、衝撃。
 その激しさに抗うことも出来ないままに――アルトの身体が宙を舞った。


 リリティアが、アルトを討った。その衝撃が両陣に走る中でも、ハンター達は止まらない。幾重にも動きが重なっていく。
 ボルディアは諦めなかった。再びの炎鎖を放ち、今度はリリティアの足を止めることに成功する。
「させぬのじゃ!」
「……ち、ィ……!」
 しかし、そのボルディアを留めるものもいた。紅薔薇の次元斬である。北方からの単騎突出の形になったボルディアは、混戦には放てぬ次元斬の良き的となる形。ボルディアの追撃が、留められた。
 渦中のリリティアもまた、動きを止めない。斬撃の動きを留めることなく、手裏剣をキャリコへと投擲。
「ほんと、化物かよ……」
 アルトを討ったという安堵を狙っていたキャリコであるが、これには参った。キャリコ自身が射撃できていたように、射線は通っていた。
 となれば、警戒すべきは続く動き――アルトへと突っ込んできたあの動き、であったが。視界の、先。炎の檻にマテリアルによる機動を絶たれて立ち往生している姿を見て取った。
「…………そうか」
 これ幸いと、距離を取りながら銃撃を重ねることとする。

 ――尤も、炎の縛鎖が外れるまでの二十数余秒のことであったのだが。
 最大限の警戒に晒された結果、最優先に狙われたキャリコはリリティアの一閃に沈んだ。
 リリティアにとってはそれほどまでに致命的な一撃であったのだろう。恨みは深かった。


 対して、アカシラ側。こちらでも、動きがあった。
「……間に合いました」
 今回の戦場はこんな動きばかりだ、と。柏木千春は安堵と苦笑を零す。その傍らでは、肩で息を吐いていたオウカ・レンヴォルトが、快癒した身体を奮い立たせるように立ち上がろうとしていた。リリティアの治癒を終えて千春は劣勢に立っていたオウカの元へ全力疾走した。猶予は殆ど無かったが、疾走後から治療に至るまでの動きがただ、"間に合った"。
「済まん!」
 言いながら、レイオスをめがけて走る。超重錬成の一撃が、麻痺に鈍る身体を穿つまで幾ばくもない。
「……ったく、最悪のタイミング、だな……!」
 レイオスは苦く吐き捨てながら、得物を構えた。治癒手不在。此方側の急所はそこだった。
 オウカが真っ先に狙うは、レイオスただ一人。この場に於いて最も強敵で、最も消耗した相手だ。
「おォ……!」
 脇目も振らずに特攻を仕掛けるオウカの圧に、レイオスが苦笑を零した、その時だった。その眼前に、立ちはだかる影があった。
 ニャンゴ・ニャンゴ。黒衣に徹するとした女が、その身を捧げていた。
「ぐ、…………っ!」
「……ほら、こっち!」
 衝撃に弾かれたニャンゴの意を汲む形で、レイオスを引き寄せる西空晴香。それでも、一人が落ちた。俄に趨勢が変わったかと思われた、その、瞬後。
「――ハ」
 声が、落ちた。
「随分と派手にやってくれたじゃないか」
 米本を下したアカシラが、そこにいた。


 ニャンゴを欠いたとはいえ、前線は三対一。千春の治療も間に合わず、先にオウカが落ちた。
「随分と手こずったが、次は――」
 アカシラの連撃を、晴香のエンタングルがサポートする形だ。その火力を支えきるには、個の力が足りない。最も、自らが振るえる限りの武威を振るうことが出来たためか、オウカは満足げであったのだが。
 兎角、アカシラの刃が流れていく。オウカを支えんとする千春――ではなく、その、横へ。
「 ……アンタかい、青いの」
「ええ」
 千春の傍らに立ったリリティアは、淡い笑みを浮かべてそう応じた。
「……試させて、ください」
 満身創痍である。此処にたどり着くまでに手傷を負っても居る。すぐさま治癒を施す千春の耳に、言葉が届く。
 ――余り、長くは保たないと思います。此処は預けて、他所へ。
「…………っ」
 治療を終えた千春は、その言葉をどのように受け取ったか。
 斬り合いに走るリリティアに背を向けて、次の戦場へと向かって走り出した。

 僅か、二合であった。
 攻撃を躱されたリリティアは、アカシラの反撃の刃にエンタングルを絡められ、地に落ちた。
 スキルを使い果たし、全力で走り続けた末の、敗戦であった。

●南防衛拠点、制圧
 ここまでに展開された戦場各地の戦いそれぞれに、多くの騎士たちが目を見張った。
 なまじ武を修めている人間が見るから、解ってしまうのだ。
 ハンターたちの戦いは、完全に騎士たちの心を圧倒した。
 力と力のぶつかり合い、その壮絶さを否応なしに見せつける。
 しかし、この"防衛戦"において真に勝敗を決するものは、単なる力のぶつかり合いだけではない。
「……匠」
 赤いフードで顔を隠した少女──ジェーン・ノーワースが、小さく囁いた。すぐ傍の青年に聞こえるだけの声で。
「あぁ、勝ちに行こう」
 ここに至るまでに数多くのぶつかり合いがあった。その一つ一つに、ドラマがあった。
 それは、この選考会という場だけに留まらない。
 青年──誠堂匠にとって"黒の隊結成と、その選考の場"に至るまで、どれほどの月日がかかっただろう。
 ──どんな戦況だろうと、今迄出会った王国騎士達に"諦めた"人なんていなかったのだから。
 瞑目する青年。彼の胸中には様々な人々との出会い、死別、そして戦いが秘められている。
『……匠。俺のもとでその力、存分に振るう気はないか?」
 あの日の出来事を反芻する。王国騎士団長であった青年から、率直に告げられた言葉を。
『一年前のあの日、お前は俺に言った。"我々を使え"と。今なら言える。お前の力が必要だ』
 ようやく、"そこ"に至れたのだと青年は理解した。その心境、その経緯にはどれほどのことがあったのか、想像もできない。あの日、あの時、あの瞬間──既に心は決まっていた。
 あとは、そう。"自身の在り方を示すだけ"。
 そして、匠とジェーン、二人の疾影士は同時に地を蹴った。
 迎撃に遭い、完全衝突した紅白のハンターたちのなか、最終的に戦線を抜け出せたのは、この二名だった。
 彼と彼女が目指したのは、すぐ傍にある赤組南の旗。そこには、南拠点最後の"難関"が待ち構えている。
 ガウン、と低く重い銃声が二つ。匠はそれを見極めると、一つを丁寧にかわした。けれどもう一つの弾は僅かに匠の頬を撫で、一筋の赤が流れた──かと思いきや、その姿はゆらりと薄れて消え去ってゆく。
「残像……アクセルオーバーか、当たらねぇな。敵に回すには厄介に過ぎる。……牽制程度になりゃいいけどよ」
 あの青年が相手ではそれも叶わないだろうと、舌打ちを一つ。けれどいまだ余裕の笑みを湛えるジャック・J・グリーヴは、視線を"対象"からそらさず慣れた手つきでリロードを開始。
「なんつーか、"想定通りの"が抜けてきたワケだが。準備はどうだ?」
 軽口の相手は、クローディオ・シャール(ka0030)。先の二つの銃声の内、一つが彼の退魔銃によるものだった。
 彼はジャックのように無駄を好む性質ではない。敵との距離を冷静に測り直すと、静かに盾を構えなおした。
「解っている、既に結界は張り終えた。ここからが分水嶺だ。行くぞ、ジャック!」
 黒と赤。二人の疾影士がここに到達するまであと十秒もない。生真面目なクローディオを横目に、ジャックはやれやれと息を吐いた。
「しかしまぁ……条件不問の選考会、ねぇ」

 ジャックはふと、紅白戦が始まる直前の事を思い返していた。会場に居た王国騎士団長ゲオルギウス・グラニフ・グランフェルトと廊下でばったり出くわしたジャックは、何食わぬ顔で挨拶を交わしたのだが……
『よう。"黒の隊"なんざ、爺さんらしくねぇ策だな、オイ?』
 しかしゲオルギウスは、青年を一瞥しただけで、何を言うこともなく通り過ぎて行く。青年は、彼の手駒たる青の隊の密偵だというのに「なぜ、ジャックがここにいるのか」──それを、問われはしなかった。いや、"問うまでもない"ようだ。
『せいぜい恥を晒さんことだな』
 通り過ぎる刹那、零された騎士団長の呟きに口の端を上げる。振り返り、白銀鎧の背中に青年は声を張った。

「ハッ、上等じゃねぇか! 魅せてやるよ、俺様の魂をなァ!!」
 けれどその直後、二人の疾影士が瞬く間に二人を"抜けて行った"。
 匠とジェーンにあって、ジャックやクローディオにないものがある。それは、"太刀打ちできないほどに高い行動力(移動+行動回数)"だ。
 二人は元々の移動力に加え、瞬脚で移動力を、アクセルオーバーで加速し十秒間の行動手数を増強。さらに匠はそこからランアウトで行動力を上増した状態であり、現在の移動力はサブ行動が回数を増していることを加味すればゴースロン以上だ。もはや人間の域を超えているし、普通のハンターでは"追いつきようがない"。
 つまり、二人の行動力をもってすればジャックとクローディオに"接近されずに大きく回り込んで旗を取る"ことは造作もない。
 だが、結局大回りで自分達を抜けたといっても"旗を取るためには、その瞬間必ず旗に接近する"はずだ。
 その瞬間を逃しさえしなければ、二人を抑え込むことは出来るかもしれない。それになにより、先刻、クローディオは旗の周囲に"ディヴァインウィル"による不可視の結界を張ってある。この範囲に捉えることが出来れば、二人の足は止まるはず──そう、考えていた。
「今の結界? よく解らないけど、まぁいいわ」
「……ッ、結界を、いとも容易く……!」
 クローディオの眼前で、ジェーンが、匠が、何事もなかったかのように旗へと近づいてくる。結界が張られているというのに、だ。その様子に、クローディオは眉を寄せた。理由など、聡明な彼にはすぐに理解できるのだ。
 匠たちは行動力も高いが、抵抗値も非常に高い。足こそが"疾影士の最大の強み"なのだから、当然"移動阻害"による妨害は想定の範囲内だった。それを対策するため一番手っ取り早いのは抵抗力を増すこと。つまり、クローディオの結界の強度では、この二人に対して分の悪い賭けとなってしまったわけだ。目の前に迫ってくる二人の疾影士は、それほどに"圧倒的"だった。
「まずは一本目──南の防衛拠点、頂いたわ」
 余りに鮮烈、余りに素早い動きを前に、ジャックもクローディオも"手を出すことすらできなかった"。
 匠でもジェーンでも、どちらでも旗を取ることは出来ただろう。だが、より瞬発力の高いジェーンが、匠より先に懐に潜り込み、一つ目の旗の奪取に成功。
 しかし、少女が旗を引き抜いた直後の出来事だった。
「行かせるかよッ……!」
 ジャックが、少女の間近で吠えた。攻撃を捨て、守りに徹した青年は自分に隣接する旗を奪った少女が、見る間に離脱していこうとする瞬間を捉え、この場におさえこもうとしたのだろう。それは"守りの構え"による技だが、しかし。
「悪いけど、遊んでる暇はないの」
 先述通り、彼女たちは抵抗力が非常に高い。状態異常を付与するには"余りに分が悪すぎる"。
 赤く巨大な旗を肩にかけ、次の旗を奪取するため少女はいとも容易く大地を蹴る。
「まだだ、諦めるもんかよ! ……クローディオ!!」
 ジャックが、クローディオが、瞬時に事態を理解して銃を構えた。アクセルオーバーで華奢な肉体を加速し限界を引き延ばしているジェーンだが、"旗を奪う"という行為の後、さらに離脱できる距離はせいぜい十メートルが限界だ。それでも、防衛班が近接射程の武器ならばかわしきれただろう。だが、ジャックとクローディオはきちんと"対策ができている"。彼らは狙いを定めると、射程内に残されたジェーンめがけて銃口を重ねた。
「無論だ。まだ旗は二つある。ここで何も出来ずに見ている訳にはいかないからな……ッ!」
 決して逃がしはしない。やれることはまだあるはずだと、二人の青年は諦める姿勢を決して見せなかった。そして彼ら二人は"旗の防衛を務めながらも、離れた敵への対処策をもち、ただただ待つだけの存在にならなかった"。
 二丁の銃から放たれる銃声は混戦した戦場に響き、少女の姿を捉えようとしていた──が、しかし。
 フードの奥、少女の口角が上がった。
「"攻撃してくると思ってた"。おかげで"また動けるわ"」
 ジャックの銃撃を回避した直後、ジェーンの体が驚異的な動きを見せた。少女は更に加速し、彼らの射程から完全に離脱してしまったのだ。
 疾影士のスキルの一つ、瞬影。
 それは『受けもしくは回避に成功した場合に使用できるスキルで、攻撃を行ってきた敵の行動終了直後に、メインアクションで行える行動を1回、行うことができる』と言うものだ。これによって、少女は先を行く匠に追いつき、二人の疾影士はまた揃って並走を開始している。
「はぁ!? なんッだよあれ、マジかよ、信じらんね……」
「……クラス相性とはいえ、この勝負においては完封負け、だな」
「ああああーーーくそッ、爺に何言われるか!!」
「爺? 誰の事だ?」
「なんでもねえ! 行くぞ、まだ終わってねえんだからよッ」

●中央防衛拠点、制圧
 ジェーンと匠。二人の疾影士は一つ目の旗を取った瞬間、既に次の目標を見据えていた。
 次なるは、中央防衛地点。そこへ目を向けると、旗の前には二メートルほどの岩が立ちふさがっていた。
「アースウォール、か。楽観視を避けるなら、あの場所に最低一人以上の魔術師は居るだろうね」
「他にも何人か後ろに隠れているのかしら……こちらから姿が見えないのは危険ね」
「少なくとも、あの岩から四十メートルは攻撃圏内とみた方がよさそうだ。やはり、ここも大きく回り込もう」
 匠が苦笑し、ジェーンが眉を寄せる。これは、少し前に交わされた二人の会話だ。
 彼らは、先の旗奪取直後に移動を開始していたがそれは「真っ直ぐそのまま旗を目指した」訳ではない。それでは待ち構える敵の射程にむざむざ入りと入りに行くだけだからだ。
 先の南の防衛拠点でも披露されていたように、大回りで距離を詰め、十秒のうちに旗を奪取し、離脱まで完了させる──それが策であり、彼らが取り得る最上の手段だった。
 そんな(賢いけどあざとい)疾影士対策に必要なものは、少なくとも解っているだけで二つ。
 彼らの最大の強みは"行動力の高さ"だ。足を止める為の手段は当然必要になるだろう。攻撃で物理的に倒してもいいし、スキルで移動不能に陥らせるのもいいだろう。
 だが、その手段を取るためには、彼らの素早い身のこなしの前に"どうやって攻撃・技を当てるのかが重要"になるはずだ。それには防衛者同士の連携も、要素の一つになるだろう。先のジャックとクローディオはその点で非常に優れていたのだが、"相手が更にその上をいってしまった"だけで、彼らに落ち度があったとは到底言えないだろう。
「赤組総員に告げる。南の防衛拠点より旗が奪われた。疾影士二名だ。彼らは次にこの中央拠点を目指している」
 中央防衛拠点の防衛を担うゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)は、通信機を片手に盾を構え、二人の疾影士を待ちかまえている。
『もうすぐだね。旗の二十メートル圏内まで、あとどれくらい?』
「約十秒と言ったところだろう。連中、凶悪な行動力を盾に大回りで護衛を抜けてくるぞ。恐らく、北側から攻められるだろう。遮蔽物はないものと思った方がいい」
 すぐ近くに控えている夢路まよいが、ゼクスに通信機で問うと、幾つもの補足とともに答えが返ってくる。それに少なからぬ安堵を感じつつ、まよいは周囲を見渡した。彼女は、南の拠点がいち早く攻められたことを通信ならびに目視で確認しており、それに応じて旗の南の方角にアースウォールを設置していた。今はその岩壁の後方に控えているため南の旗方面の状況は見えない部分があるのだ。けれど、ゼクスの通信のお陰で状況の把握は出来ていたため、少女にとっての不足は何もなかった。
『そうなるよね、仕方ないっ! 集中、集中。……詠唱、開始するよ』
 刹那、まよいの瞳がひときわ強い輝きを放ち、日の光に透ける美しい灰色の髪がふわりと柔らかく舞う。
 他方、彼らが接近してくるまで情報戦に尽力しているゼクスには、疾影士たちが接近してくる事実を目の当たりにしながら、それを止める為の手だては無かった。仲間に呼び掛けて駆けつけてもらおうにも、他の面々は別の地点で白組と正面衝突中だからだ。
「……倒すことは出来ずとも、止めることが出来れば作戦は維持継続できるはずだ」
 そう念じ、青年は盾を構えて腰を落とした。
 けれど、先の南防衛戦の戦いを見知っていたうえでも、まよいとゼクスは一方的に二人の疾影士に翻弄される結果となった。それもそのはずだ。
「接近してきたら、攻撃を仕掛ける」ということは、その行動自体が「敵の行動を見たうえで、その後に行動する=後手の選択」となる。
 疾影士二人の先手──そのうえで、彼らは「十秒以内に旗を奪取して離脱を済ませる」ところまでを作戦として行動している。
 相手はメイン行動一回+サブ行動二回に加えて、移動力についてはジェーンは五、匠は旗の奪取時にはランアウトを駆使して八の状態まで引き上がる。
 範囲外から一気に攻められ、旗を奪われ、離脱されたのなら「どうしようもない」──特にゼクスは、攻撃を仕掛けようにもナイフの射程が非常に短いこと。そして、攻性防壁は攻撃の対象にならない限り発動することはできないため、移動に専念している彼らに出来うる手立てはなかったのだ。
「隠れてたのは一人なのね。助かるわ」
 まよいの視界に、真っ赤な旗をたなびかせながらひとりの少女が軽やかな動きで躍り出た。それはまよいが攻撃を仕掛けるより早く、二つ目の旗をさらい、旗を翻して去ってゆく。
 疾影士に旗をスムーズにとらせないためには、旗の全方位を占有スクエアで固める等の手段もあっただろうが、占有スクエアを作るには、一スクエアに対し二名のハンターが必要になる。赤組の防衛拠点の人数は概ね「二名」であったこともあり、どうしても高い移動力で回り込まれては仕方がないのだ。
「早すぎる……! でも、このまま、終わらせる訳にはいかないからっ」
 迫ってきた二人の疾影士のうち、匠は既に射程外に離脱されてしまったが、旗を持つジェーンは未だ射程内だ。
 詠唱を終えたまよいは、去りゆくジェーンの背に向けて渾身の一撃を放つ。
 集中状態からの、グラビティフォール。それは、贅沢にもジェーン一人に向けて放たれる、まよいの特大の高火力魔法。ジェーンに限った話ではなく、この場の多くのハンターにとって"まよいの魔法は、当たれば一発退場"が確実なほどのシロモノだ。
 ただでさえ範囲魔法は"回避がしづらい"のだから性質が悪いにもほどがある──のだが。
「ありがとう。これでまた、動けるわ」
「……!」
 グラビティフォールは、かわされた。
 疾影士のスキル、アクセルオーバーの効果にはサブ行動を増加させるのみでなく「このスキルの効果中に攻撃され、複数回攻撃や範囲攻撃を由来とする回避を割り算する効果を受けた場合、「強度(スキル)」回までその効果を無効とし、通常の回避力で回避判定を行う事ができる(しないこともできる)」という能力が備わっている。
 これが匠であったとしても同じだったが、二人は旗の奪取に際する行動の際にはアクセルオーバーを発動させていたのだ。彼らの回避能力の高さは、言うまでもない。"クリティカルが出ない限り、あたりっこない"のだ。
 攻撃を回避した直後、瞬影で再び匠の移動に追いつくべく地を蹴る少女の背中を見送り、まよいはカラッとした声を上げた。
「あーぁ、当たらなかったかぁ。警戒してはいたんだけどね、疾影士」
 直後、南の防衛をしていたジャックとクローディオが合流。
「全力移動で追いついても、既に連中は離脱した後か……」
 クローディオの嘆息にも、ジャックはまだ諦めないとばかりに引き続き二人組の疾影士が向かった北の拠点へと黙って駆け出していく。
 そんな二人のハンターの様子に、少女は口元を緩めて笑った。
「そうだね、まだゲームは続いてるんだし、黒の隊に興味はないけどもうすこし皆と楽しませてもらおうかな」

 途中結果、報告。
 赤0 VS 白2

●北防衛拠点、制圧
 北の防衛拠点。最後の旗のもとには、一人の青年──ラジェンドラ(ka6353)が待ち構えていた。
「ここまで来たか……仕方がない」
 腕輪型の小型情報処理端末を装備した腕をあげ、対象を捉えるように掌を開く。
 瞬後、腕輪からの術式陣が前方に展開。同時に無数の氷柱を出現させると、一直線に放たれた。
 本来、北の守備にはもう一人ボルディアが居たのだが、彼女は「白組のリリティアを発見次第、優先して炎檻発動し引き寄せ敵と分断」させるため、北の拠点から離れている。
「あいつらより、メフィストの方が強いんだ、気圧される気はない。確実に、数を減らせばいいだけだ」
 勝敗を決するのは、ここでの一戦だ。これまで二つの拠点の様子を見ていると、「待っているだけでは一方的に旗を奪われる」だけだと青年は理解していた。さらに、ラジェンドラの攻撃手段は、有効射程が長いことと、周囲に"仲間が誰もいないこと"も功を奏していた。
 一対二の戦いだ、さして悲観する状況ではない──そうして、ラジェンドラから放たれたアイシクルコフィン。その対象は二つの赤い旗をたなびかせているジェーンだった。
(流石にそろそろ、旗、邪魔ですよね)
 アサルトディスタンスの効果時間中であることもあり、氷の魔術をかわすこと自体に難はなかったが、少女は眉を寄せる。
「流石に三本は重いでしょうし、行ってくるわ」
「ありがとう、頼むよ」
 瞬時に、二人は散開。北の旗は最後の旗だ。奪いさえすれば"離脱しなくてもいい"──その分の行動余力を、旗の奪取以外の事に使える状態であることが幸いした。
 本来、狙われた際に囮になるのは匠のつもりだったのだが、狙われたのは"ジェーン"。
 少女も、そうなった場合に自分がどうすればよいかなど、覚悟はとうに出来ていた。
 しかしそこへ、白組の勝利を確たるものとする駄目押しの一手が繰りだされた。
「……ッ」
 ジェーンめがけて術を繰り出そうとするラジェンドラの足を、一つの弾丸が急襲。咄嗟に青年は盾でそれを防いだのだが……
「漸く間に合った、みたいやな」
 ……赤組にとって、それは決定打のようなものだった。
 ラィル・ファーディル・ラァドゥが、まず先にジェーンを倒そうとする青年機導師との戦いに飛び込んだのだ。
「二人とも早くてかなわんよ」
「私なんか置いて旗を狙いに行けばよかったのに」
「僕じゃあと一手届かんし、まぁ後は"彼の勤め"やさかい。……さ、お兄さん。これで終いや」
 にっと笑うラィルは再び銃を構え、彼を背にジェーンが小さい体を大きく捻る。ラジェンドラの体めがけて、巨大な鎌が振り抜かれようとしたその時──

『そこまで。勝者、白組』

 ──匠が、最後の赤い旗を抜き去っていた。

●黒の騎士、誕生
 王国騎士団より、此度の選考会における選抜者を発表する。

 アカシラ(獅子奮迅の戦いにより)
 誠堂 匠(自らの性能を理解し、最大限生かした作戦により旗の奪取に最高効率で貢献)
 リリティア・オルベール(敵主力級を単力で止める、脅威の戦闘能力を評価)
 アルト・ヴァレンティーニ(敵の主力級を見極め、足止めならびに戦闘力損耗に貢献)
 レイオス・アクアウォーカー(敵主力級の足止めに尽力。優れた動きで戦に貢献)
 米本 剛(敵の主力級に対し、効果的な足止めを展開し、白組の無失点に貢献)
 柏木 千春(戦場の要を見極め、効率的な治療活動で勝利に貢献)
 アイシュリング(赤組突破者が少なかったことから活躍の場は少なかったが、防衛時の適切な複数対処策と強い精神性を高く評価)
 ジャック・J・グリーヴ(二人のエースを前に活躍の場は少なかったが、複数の対処策と仲間との連携行動を高く評価)
 クローディオ・シャール(二人のエースを前に活躍の場は少なかったが、複数の対処策と仲間との連携行動を高く評価)
 ラィル・ファーディル・ラァドゥ(二人のエースを前に活躍の場は少なかったが、他者を活かす様々な行動とその精神性を高く評価)

 以上十一名を、対歪虚特化部隊"黒の隊"への所属騎士として、選抜。
 うち、リリティア・オルベールは騎士任命に際し辞退の申し入れがあり、これを承諾。
 計十名を、本日付で正式に"黒の騎士"に任命する。

 ウィンス・デイランダール
 ジェーン・ノーワース
 シルウィス・フェイカー
 ニャンゴ・ニャンゴ

 以上四名は此度の選定から漏れたが、十分な素養と可能性を持つ者として高く評価。今後の活躍に期待する。

●"心"の示し方(ある候補生の場合)
『白組で特に目立った活躍をしたジェーン・ノーワースだが、今回彼女は騎士に選出しないつもりだ』
 選評会でのエリオットの判断に、周囲はざわめいた。彼女が華々しく活躍したことは誰の目にも明らかだったからだ。ゲオルギウスは、その判断を『甘やかしだ』と言うにとどまった。

 選考会終了後、黙って会場を後にするジェーンの腕は、突如として何者かに掴まれた。それが誰の手なのか、見ないでも解る。どうせエリオットだろうと、少女は嘆きの息をつく。
「ジェーン、お前に話がある」
「いい。そういうの、いらないから」
 だから離して、と。少女は掴まれた腕を振りほどこうと力をこめるが、びくともしない。
「逃げるな。お前は、何がしたい? どんな形でもいい、その意思を伝えてくれ。お前にとってそれが難しいことも理解している。だが……」
 見上げた青い瞳は余りに真っ直ぐで。
 思わず逃れるようにフードを目深にかぶり直すと、一文字に結んでいた唇を緩め、少女は呟く。
「解ってる、から……」
 ──もう少しだけ、待って。
 消えそうな声を残し、少女は会場を去った。

依頼結果

依頼成功度大成功

MVP一覧

  • フューネラルナイト
    クローディオ・シャールka0030
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛ka0320
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴka1305
  • システィーナのお兄さま
    ラィル・ファーディル・ラァドゥka1929
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカーka1990
  • 未来を想う
    アイシュリングka2787
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠ka2876
  • The Fragarach
    リリティア・オルベールka3054
  • 光あれ
    柏木 千春ka3061
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109

重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • フューネラルナイト
    クローディオ・シャール(ka0030
    人間(紅)|30才|男性|聖導士
  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 聖癒の奏者
    マリエル(ka0116
    人間(蒼)|16才|女性|聖導士
  • 古塔の守り手
    クリスティア・オルトワール(ka0131
    人間(紅)|22才|女性|魔術師
  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 孤高の射撃手
    アバルト・ジンツァー(ka0895
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士

  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • Monotone Jem
    ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 光凛一矢
    対崎 紋次郎(ka1892
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • システィーナのお兄さま
    ラィル・ファーディル・ラァドゥ(ka1929
    人間(紅)|24才|男性|疾影士
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • グリム・リーパー
    ジェーン・ノーワース(ka2004
    人間(蒼)|15才|女性|疾影士
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 未来を想う
    アイシュリング(ka2787
    エルフ|16才|女性|魔術師
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠(ka2876
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士
  • The Fragarach
    リリティア・オルベール(ka3054
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 光あれ
    柏木 千春(ka3061
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 平穏を望む白矢
    シルウィス・フェイカー(ka3492
    人間(紅)|28才|女性|猟撃士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 盾の騎士
    Serge・Dior(ka3569
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • 六水晶の魔術師
    レイレリア・リナークシス(ka3872
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • 侮辱の盾
    西空 晴香(ka4087
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士
  • 背徳の馨香
    ブラウ(ka4809
    ドワーフ|11才|女性|舞刀士
  • 王女の私室に入った
    シン(ka4968
    人間(蒼)|16才|男性|舞刀士
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • スライムの御遣い
    藤堂 小夏(ka5489
    人間(蒼)|23才|女性|闘狩人
  • 【ⅩⅢ】死を想え
    ゼクス・シュトゥルムフート(ka5529
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • 里を守りし獣乙女
    アーシェ(ka6089
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士

  • 蓬仙 霞(ka6140
    人間(紅)|18才|女性|舞刀士
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラ(ka6353
    人間(蒼)|26才|男性|機導師
  • 白狼は焔と戯る
    ソティス=アストライア(ka6538
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 半折れ角
    セルゲン(ka6612
    鬼|24才|男性|霊闘士
  • 覚悟の漢
    南護 炎(ka6651
    人間(蒼)|18才|男性|舞刀士

  • スファギ(ka6888
    ドラグーン|24才|男性|闘狩人
  • その幕を降ろすもの
    オグマ・サーペント(ka6921
    ドラグーン|24才|男性|符術師
  • 根性れす!
    ハーティ(ka6928
    ドラグーン|17才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 組分け宣言卓
榊 兵庫(ka0010
人間(リアルブルー)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2017/07/20 11:39:58
アイコン 紅組作戦卓2(相手は見ない事)
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2017/07/20 13:16:39
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/08/03 21:44:54
アイコン ルール等の質問卓
紅薔薇(ka4766
人間(クリムゾンウェスト)|14才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/07/18 22:41:26
アイコン 白組作戦卓(相手側は見ない事)
紅薔薇(ka4766
人間(クリムゾンウェスト)|14才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/07/20 12:18:40
アイコン 紅組作戦卓(相手側は見ない事)
紅薔薇(ka4766
人間(クリムゾンウェスト)|14才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2017/07/19 23:01:20