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【幻視】ホーリー&ブライト 「アレクサンドル撃破」リプレイ

▼【幻視】グランドシナリオ「ホーリー&ブライト」(9/13?10/3)▼
 
 

作戦1:コーリアス撃破 リプレイ

アレクサンドル・バーンズ
アレクサンドル・バーンズ(kz0112
紫月・海斗
紫月・海斗(ka0788
Holmes
Holmes(ka3813
無限 馨
無限 馨(ka0544
パトリシア=K=ポラリス
パトリシア=K=ポラリス(ka5996
ルナ・レンフィールド
ルナ・レンフィールド(ka1565
エラ・“dJehuty”・ベル
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
イスフェリア
イスフェリア(ka2088
アニス・エリダヌス
アニス・エリダヌス(ka2491
レイオス・アクアウォーカー
レイオス・アクアウォーカー(ka1990
夜桜 奏音
夜桜 奏音(ka5754
シガレット=ウナギパイ
シガレット=ウナギパイ(ka2884
メイ=ロザリンド
メイ=ロザリンド(ka3394
神楽
神楽(ka2032
イェルズ・オイマト
イェルズ・オイマト(kz0143
氷雨 柊羽
氷雨 柊羽(ka6767
アルスレーテ・フュラー
アルスレーテ・フュラー(ka6148
レギ
レギ(kz0229
十色 エニア
十色 エニア(ka0370
アルマ・A・エインズワース
アルマ・A・エインズワース(ka4901
コーネリア・ミラ・スペンサー
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
アーク・フォーサイス
アーク・フォーサイス(ka6568
クラン・クィールス
クラン・クィールス(ka6605
オグマ・サーペント
オグマ・サーペント(ka6921
花厳 刹那
花厳 刹那(ka3984
 ――希望。事物の実現を望み、その為に努力する。
 それはとても尊いものだ。
 ――だが、叶えられるのはほんの一握り。
 誰かの望みと望みがぶつかりあうこともある。
 叶える為に代償を払わなければならないこともある。
 そしてその代償は――自分が払うとは限らない。
 望みを掴みとるということは、とても重いことだ。
 誰にも平等で、そして時に残酷なこの事実を、受け止める覚悟はあったのか――?


 鶴岡八幡宮と由比ヶ浜を一直線に結ぶ中心線である若宮大路。
 そこに広がる光景はまさに『地獄』だった。
 突如として現れた巨大な恐竜の進軍を阻止する為、防衛線を敷いていた地球統一連邦軍。
 部下を引き連れたアレクサンドル・バーンズ(kz0112)に横から襲われる形となった軍は一気に総崩れとなり――。
 そこかしこから上がる黒い煙。燃える地球統一連邦軍の車。道には、沢山の兵士が折り重なるようにして倒れている。
 そのあまりの数の多さに、紫月・海斗(ka0788)とHolmes(ka3813)がため息を漏らす。
「ひでぇことしやがるなぁオイ」
「やれやれ。大分長生きはした方だが、こういう光景は何度見ても嫌なものだね」
「……嫌なこと思い出させてくれるすね」
 無限 馨(ka0544)の脳裏に過る過去。以前、似たような光景を見た。
 ――否。未熟な自分が招いた事実か。
 そんなことを考えていた彼の横からパトリシア=K=ポラリス(ka5996)の声が聞こえた。
「ししょー! 大変……! 早く助けなきゃ!!」
「そうですね。その提案も正しいですが……優先順位というものがありますから。まずは……」
「歪虚を倒さないと……だね」
 湧き上がる怒りで震える彼女に淡々と答えるエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)。その言葉をルナ・レンフィールド(ka1565)が引き継ぐ。
 惨状を目にしたイスフェリア(ka2088)と、生存者の救援に走り出したいのをぐっとこらえていた。
 2人の言う通り、あの歪虚達を止めない限り、死傷者は増え続ける。
 結果的に、アレクサンドル達を一刻も早く排除することが被害を減らす近道なのだ。
 だから……出来る限りのことを。足りなくても手を伸ばして……。
「この悲劇に一刻も早い終焉を……」
 祈るように指を折るアニス・エリダヌス(ka2491)。
 そえに夜桜 奏音(ka5754)とレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が頷く。
「それは同感です。急いで駆け付けはしましたが……向こうが無策で突っ込んで来るとも思えないんですよね」
「ああ。準備された状態で迎撃されると考えたほうがよさそうだな」
「準備っつーか何つーか。触れたものなら何でも操れるらしいからなあ」
 下手すりゃ死体も操れるじゃねえか……。
 シガレット=ウナギパイ(ka2884)の呟きにハッとするメイ=ロザリンド(ka3394)。
 もしかしたら、今以上の『地獄』が待っているのかもしれない。
 ――それでも行かなくては。あの時届かなかった願いと想いを、もう一度伝える為に……。
「……そーゆーことなんで、イェルズさんとレギさんはなるべく死傷者を回収してくれないっすかね」
「了解です。俺達もなるべく支援に回るようにします」
 神楽(ka2032)の申し出に頷くイェルズ・オイマト(kz0143)。
 聞き覚えのある声に振り返った氷雨 柊羽(ka6767)は、見知った顔に安堵のため息を漏らす。
 父のいた世界の危機。放ってはおけないとやってきた場所。
 父の故郷、ということ以外の知識がなかった彼女にとって、やはり知り合いがいるという状況は精神衛生上に良かった。
 ――勿論、それに甘えるつもりはない。最善を尽くすのみ。
 そして、アルスレーテ・フュラー(ka6148)はレギ(kz0229)をまじまじと見つめていた。
 彼の鮮やかな銀髪。やはり見覚えがある気がする。
「あの。僕の顔に何かついてますか?」
「ううん。じろじろ見てごめんなさいね。……貴方、レギ君って言ったわね。セトって名前に心当たりは?」
「……!?」
 アルスレーテに笑顔を返しかけて固まるレギ。驚愕しきったその表情に、彼女は己の勘が当たっていたことを覚る。
「申し訳ないけど続きは今度ね。気になるなら、お互い生き残りましょ」
 ――生き残る。うん。やっぱりあの人には死んで欲しくないです。
 アルスレーテの言葉を聞いて考え込んでいたアルマ・A・エインズワース(ka4901)。その顔を、十色 エニア(ka0370)が覗き込む。
「アルマさん、大丈夫?」
「何がです?」
「先生と戦うのに迷ってたら死ぬよ?」
「迷ってないですよ」
「ならいいけど。命は大事にしてね」
「勿論です。死んだらアレックスさんとお友達になれないですから」
 ブレないアルマに苦笑するエニア。
 彼が持っているトランシーバーから受信を知らせる音がしてコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)の声が聞こえて来た。
「量産型が高速度で接近中! 各員臨戦態勢!」
「さて、いよいよか。……毎度突き合わせて悪いな、クラン」
「何言ってんだ。今更だろ。お膳立てくらいはこなしてやる。きっちり決めてくれよ」
 拳を突き合わせるアーク・フォーサイス(ka6568)とクラン・クィールス(ka6605)。
 オグマ・サーペント(ka6921)は符を構えて前を見据える。
「露払いは引き受けます。……ご武運を」
「ありがとう。あなたも気を付けてね!」
「おう、行くぜェ!!」
 叫び、駆け出して行く花厳 刹那(ka3984)と輝羽・零次(ka5974)。
 それが、戦端を切る合図となった。


「乗り手なしで、自動操縦で動くバイクか。歪虚じゃなきゃ一台欲しいところだな」
「乗り手を落として進まれても困りますけどね。……さて、皆さん。手筈通りにお願いしますね」
「はーい! 分かったヨ!」
 縦横無尽に駆け巡り、連合軍の部隊を蹂躙していく量産型を見て呟くレイオス。
 エラの声に、パトリシアがビシッと敬礼を返す。
 その奥にいたマティリアはハンター達に鋭い目線を向けた。
「……来ましたね。標的をハンターに変更。迎撃せよ。マスターに近寄らせるな!」
「支援するよ!」
 戦場に響くルナのリュートの音。きびきびとした迫力のある曲が、仲間達を鼓舞する。
 マティリアの指示に従い、急速に散開した量産型。全員捕捉はできなかったものの、レイオスのマテリアルを込めた一撃と馨のすれ違いざまの一閃が量産型を捉える。
「俺達を囲い込む気か!?」
「そうはさせないッスよ!」
「連合軍との通信を受理。生存者の避難を開始しました。総員、作戦『初動』開始してください」
「んっと。ししょー。とにかくボコボコにすればいいってコト?」
「まあ、そういうことですね。頼みましたよ、パティ」
「はーーーい!!」
「了解っす! 任せとけっす!!」
 エマの声に答えたパトリシアと神楽。彼女の投げた符と神楽の手から現れる雷撃。一直線に進んで量産型を貫く。
 響く爆音。感じる衝撃。確かにダメージは行っている筈だが量産型が動じた様子はない。
 イスフェリアは小さく息を吸い込んで詠唱を始める。
「満ちよ、聖なる光。巡れ天の風。闇を滅せよ!」
「来たれ冷たき氷の矢。我が手に出でて全てを貫け!」
「召令。雷撃。進め!」
 放たれた光の波動。続けざまに飛び出すルナの氷の矢。更にオグマの雷撃が追従して、量産型に直撃する。
「……動きが早いな」
 矢を番える柊羽。レイオスと馨を支援しようとしていた彼女に、通信音が聞こえた。
「柊羽さん、砲撃来ます! 下がって!」
「……!」
 エラの声と同時に飛びずさった柊羽。
 続いた爆風。彼女のいた場所のアスファルトが抉れて、衝撃の物凄さを物語っていて……柊羽の背中に冷たいものが流れる。
「これがマティリアの砲撃? 確かに直撃を食らったらタダでは済まんな……」
 アレクサンドルとマティリアに近づけさせまいと円を描くように囲い込もうと動く量産型達と、突破口を開こうとするハンター達の戦いは拮抗していた。
 マティリアと量産型を盾にしたアレクサンドルはハンター達を無視して連合軍や周辺の設備に攻撃し続けている。
 長引けば長引く程、犠牲が増える……!
「馨、下がれッ!」
「うぉっ!?」
 量産型の突撃を受け止めたレイオス。突然反転した量産型と追撃しようとした馨がぶつかる。
 バランスを崩した彼。それを好機と見たか。そのまま轢こうとした量産型。その先頭部分に鋭い矢がぶつかる。
「弾かれたか……!」
「いや、相手のスピードを削ぐには十分ッス! 柊羽さん助かったッス!」
「おい待てこのバイク野郎!! 馨! 一気に畳みかけるぞ!」
「了解ッス!!」
 幾度となくレイオスと馨が接近戦に持ち込み、隙間を縫うように矢を浴びせる柊羽。
 押し寄せる量産型を押し戻すように光の波動を放つイスフェリア。変化のない量産型にため息を漏らす。
「硬い……! 本当に効いてるのかな」
「大丈夫だよ。機械だから分かりにくいけど、ダメージは通ってるはず」
「倒れるまで続けるしかありませんね」
 励ますようなルナとオグマの言葉。それにエラが頷いて続ける。
「大丈夫。十分に引き付けていますし作戦的には上々です。あとは数を減らせれば完璧ですね」
「はーい! 減るまでボコボコするネ!!」
「ええ。お願いしますね」
 師匠の言葉に元気に頷き、符を投げるパトリシア。
 幾度とない攻撃で、量産型はじわじわとその動きに統率を欠いて行き――。
「今っす! 走れっす!」
 雷撃を放った神楽の叫び。
 前触れもなく崩れ落ちる量産型。ハンター達の繰り返す攻撃によって確かに出来た綻び。
 それは確かに、マティリアとアレクサンドルへの道しるべとなって――ハンター達は一気に、2人の前に躍り出た。
「さて。そこまでにして貰おうかのう。お二人さん」
「おのれ、ハンター……!」
「止せ。マティリア。相手にするな。俺達は与えられた仕事をこなせばいい」
「しかし……!」
 距離を詰めるHolmes。
 ハンター達に怒りの眼差しを向けるマティリアを、アレクサンドルが制止し、そんな彼をアニスはまっすぐ見据える。
 ――忘れもしない。この姿。ディーン・キルとの因縁、あの島での借り……今こそ、清算しよう。
「……漸く、会えましたね」
「おっさんは別に会いたくなかったがね」
「今日はいつにも増してツレないのね、先生」
「アレックスさん。……また自分で大事な人を殺すです?」
「おかしなことを言う。いつだって一方的に奪って行ったのはお前達人間だろうに」
 エニアとアルマを一瞥するアレクサンドル。更に続けようとしたアルマに投げられるメス。
 それを彼は咄嗟に義手で弾き返して……アレクサンドルの瞳に宿る怒りを見た。
「……もう語るべきことはない。お前さん達はおっさんの大事なものを傷つけた。それが全てだ」
「自分から壊しにきて、奪われそうになったら激高する? 随分勝手な言い草だな」
「命を奪うと言うのなら、俺はお前を許さない……!」
 振り下ろされる拳と刀。零次とアークの攻撃を、アレクサンドルは跳躍で避けて距離を取る。
 ハンターと主の間に割り込むマティリア。そんな2人を、アルマは哀しげな瞳で見つめる。
「30年前、貴方がああしなければ、リリカさんは命まで捨てなかった筈です、『バーンズ先生』」
「分かったような口をきくな!!」
「分かりますよ。大切な人を失った悲しみは、よく分かります。……ねえ。先生。私、以前に問われた答え……考えて来ました。もし、先生に大切な人が殺されたら……憎み、悔やむと思います」
 言い募るメイ。苛立つ様子を見せるアレクサンドルを宥めるような声色で続ける。
「それでもいつかきっと先生を赦すと思います。どんなに憎んでも、恨み続けてもその人は帰ってこない。……それなら、私はその人の為にも世界を愛して生きたい」
 ――それをこの人に強要する訳ではない。
 ただ、そんな道もあるということを知って欲しい……。
 メイの思い。それを聞いたアレクサンドルは鼻で笑い飛ばした。
「いつか……か。それは10年後か? 100年後か? ……30年経った今も、この憎悪は消えてはいない。ならば何の確証をもってして、お前さんは寿命が尽きる前に、憎しみが消えると断言する?」
 その声色には、怒りと、どこか諦めの色もあって……彼の絶望を見た気がして、メイの瞳が揺れる。
「甘い。お前さん達の甘さには反吐が出る。俺とお前さん達は分かり合うことはない」
「そうだな。お前は歪虚。お前の存在は負のものだ。そこに居るだけで命を吸い、殺していく……存在自体が許されるものではない。消えろ」
「喪い、絶望と失望に塗れたお前には同情する。だが、認める事も出来はしない」
「同感です。……私は、皆さんみたいに甘くないですよ? オジサマ」
「そうか。ならばどうする?」
「こうするんですよ……!」
 きっぱりと断じたアークとクラン。刀を構える刹那に身構えるアレクサンドル。
 奏音はマティリアとアレクサンドルを分断するように符を投げて、桜吹雪を生み出す。
 アニスは続けざまに輝く光の弾を放出した。
「勝負しましょう、アレクサンドル。貴方の絶望とわたしの……わたし達の希望、どちらが大きいかを」
「マティリアって言ったかしら。ちょっと私と力比べしない?」
「お断りします。私にはマスターを守るという使命があります」
「そう。残念ながら断るっていう選択肢はないわ……!」
「ほいほい。了解。作戦始動ってな」
 呟くシガレット。
 マティリアに食らいつこうとするアルスレーテに光の防御壁が現れる。


 アレクサンドルとマティリアを引き離したハンター達。
 アレクサンドルとの交戦は、苦しいものとなっていた。
「Stop」
「くっ……!」
 振り下ろした刃を目の前で止められたクラン。
 アークの攻撃に繋げるべく積極的に仕掛けるが、『Life to Lifeless』と『Death to Souless』に阻まれて思うようにいかない。
 振り下ろされたメスを咄嗟に莫邪宝剣で弾き飛ばして距離を取る。
「くそっ。これじゃ埒が明かない……!」
「大丈夫です。クランさん、そのまま続けてください」
「アレクサンドルはの能力は複数の攻撃は防げません。波状攻撃を仕掛ければ必ず当たります」
「成程。そういうことか……」
「よし。少しづつタイミングをズラして仕掛けるぞ」
 刹那とアニスの説明にニヤリと笑う零次。アークの声に、総員が頷く。
 マティリアと引き離していると気付かれないうちに、勝負を決めなければ……!
「食らいやがれええええ」
「させるかッ……!」
 零次の拳を受け止める機械製の鋼腕。
 腕の痺れを感じて舌打ちする零次。
 ……だが、その後に続く刹那の一閃は防げない。
 影のように飛び出してきた彼女。アレクサンドルの腕に突き刺さる刃。
 クランは続いたメスを受け止めて納刀の構えを続けている信頼を置く相棒の名を呼ぶ。
「今だ! アーク! 行け!!」
「貰った……!」
「甘いッ!! ――Wake up」
 閃くマテリアル光。一直線に進んだそれは、アレクサンドルの前に現れた瓦礫の壁に阻まれる。
「まだ抵抗するんですか? 諦め悪いですね、オジサマ……!」
「そうでなくちゃな……!!」
「喜んでる場合じゃありません。畳みかけますよ……!」
 どこか嬉しそうに言う刹那と零次。アニスはそんな2人を窘めながら、仲間達の傷を回復して――。


「捕まえたわ!」
 その頃、アルスレーテは追いかけっこの末にマティリアを捕捉することに成功していた。
 勿論、メイがスキルを駆使して上手いこと気を反らしてくれた為、隙をつくことに成功したこともあったけれど。
 ――この歪虚人形。動きは機敏に見えるが今までの戦闘ダメージは相当蓄積しているのだろう。
 その証拠に、この状況においてもバイクに変形しようとしない。
 損傷が激しく、形を変えることが出来ないのかもしれない。
 正直、バイクになられた日には追い付けなかったのでそれは助かったが……。
 もがいて振り払おうとするマティリア。負けじと押さえつけるアルスレーテ。
 暴れる度に腕がぶつかって痛い。
 体内のマテリアルを練り上げて筋力を強化しているだけで、ダメージまで防げるものではない。
 シガレットが光の障壁を作ってくれてはいたが、それでも限界がある。
「アルスレーテ、死にたくなければ動くなよ!」
 そこに聞こえたコーネリアの声。彼女の銃撃の腕は確からしい。アルスレーテの身体に当たることなく、マティリアの体力を削っていく。
「ぐ……あ!」
「まだまだこの程度じゃ済まんぞ。人形。全弾くれてやる……!」
「コーネリア、ボク達の出番も取っておいてくれたまえ!」
「だったらさっさと倒して戴きたいものだな!」
 Holmesの軽口に応えるコーネリア。
 それに奏音とエニアの詠唱が続く。
「雷撃招来! 急急如律令!」
「わたしも行くよ!」
 マティリアに襲い掛かる雷撃と水球。マティリアからバチバチと嫌な音がして、シガレットが慌てた顔をする。
「やっちまったか!?」
「いいえ、まだよ……!」
 いつでも技を繰り出せるようにしつつ、メイがマティリアを見据える。
「ねえ、もうやめてヨ! 2人のこと、いっぱい考えてる皆の声ハ聞こえているデショ? 本当にアレックスがタイジならこれ以上……」
「お前達は何も分かっていない。歪虚は命ある限り世界の滅びを願い行動する。私はそんなマスターに従う存在。お前達が抗う限り、マスターの安寧などありはしない!」
「黙れ! 余計なマネをしおって……!!」
「これで決めさせて貰うよ!」
 ボロボロになっていくマティリアにかけられるパトリシアの悲痛な叫び。
 噛みつかんばかりに言い返す歪虚に、返事代わりと言わんばかりのコーネリアの銃弾が叩き込まれる。
 そこに重なるHolmesの倫理爆裂拳。マティリアの砲が嫌な音を立てて弾け飛ぶ。
 焦げ臭い匂い。今にも割れそうな腹部……。
 それはもう、致命的とも言える傷となっていた。
「ああああああ!!」
「勝負あったわ。もう諦めなさい。マティリア」
「いいえ、いいえ……!」
 叫ぶマティリア。己を抑え込むアルスレーテを逆に引き寄せ抱きしめる。
「……一体何をしようっていうの?」
「地獄の底まで付き合ってもらうわ、ハンター……! ――安全装置解除」
 ――今回の戦いで、取り返しのつかぬ程の深手を負った。
 このままではきっと、あの人は己の為に身を挺して戦うだろう。
 それは。それだけは。耐え難い……。
 ――致命傷を負ったこの身で、出来ることはただ一つ。
 マスターの活路を拓くことだ……。
「マティリア! 止せ!!」
「マスター。最後まで不出来な配下で申し訳ありません。マティリアは貴方にお仕え出来て幸せでした」
 その決意を覚り、青ざめるアレクサンドル。
 止めようにも距離があり過ぎる。
 そして、アルスレーテもまたマティリアを引き剥がそうとするが、今までのダメージの蓄積もあるせいか上手く行かない。
 相手ももう身体はボロボロだというのに――こういうのを死力と言うのだろうか。
 とにかく凄い力だった。
「くそっ。自爆かよ! 止めるぞ!」
「やめろ! アレクサンドルを守るんじゃなかったのかよ!!」
 走る零次。叫ぶシガレット。ダメだ。アレクサンドルの前でこんな……!
 マティリアを抑え込むべく走り出す。
「こんなこと許してたまるか……!!」
「アルスレーテ! 手を伸ばせ!!」
「くそっ……!」
 同時にアルスレーテに向かって駆け出すアーク。
 クランと柊羽も組み伏せられた仲間に向かって手を伸ばす。
 『誰かを守りたい』という思いが強い彼らにとって、この状況は許しがたいものだった。
 そして、自爆装置が作動する前にマティリアにトドメをさせば……と考えたエニア。
 コーネリアも同じことを思ったのか、銃を構えて……そこに、イェルズが駆け込んで来るのが見えた。
「……!? イェルズさん!?」
「馬鹿!! 下がれ……!!」
「間に合え……!!」

 アルスレーテはマティリアに組み敷かれながら、歪虚人形の顔をぼんやりと見上げていた。
 ……残念。逃げられないか。
 自分で勝負仕掛けておいてちょっとカッコ悪いなあ……。
 まあでも、マティリアをここまで追い詰めたのだから御の字か。

 目線を横に向けると駆け込んで来る仲間達が見える。

 ああ、もう。私なら大丈夫だからさっさと逃げて欲しい。
 ルナさんとアニスさんは曲で、パトリシアさんは符で必死で支援してくれた。
 シガレットさんのスキルの効果もあるし。
 そうだ。『長女の意地』があればこのくらい……。

 覚悟を決めて身構えたアルスレーテ。
 すごく長い時間に感じたが、ほんの一瞬だったのかもしれない。
「アルスレーテさん……!」
「………!!?」
 次の瞬間、すごい力で引き上げられて……。

「コード・『Blazing Heart』――!」

 眩い閃光。沸き起こる地響き。ものすごい熱量。
 それが暴風となってハンター達に襲いかかる。
「うおああああああああああああ!!?」
 仲間の行動を見届けてから動き出すつもりで、銃も構えず眺めていた海斗。強烈な爆風に飲み込まれ……。
 この爆発は広範囲に渡り、アルスレーテの支援に回っていたHolmesと奏音、メイ。
 そして彼女を助けに走ったアークとクラン、柊羽。
 マティリアを止めようと飛び込んだシガレットと零次を巻き込んだ。
 
 立ち上る黒煙。広範囲に抉れた大地。その爆発の威力は凄まじく――。
 ……爆発の中心地から少し離れたところに倒れ伏したアルスレーテ。
 そして、ブロートコアの直撃を食らったイェルズは血すらも焦げ付き……大地に張り付くように伏し、生きているのか死んでいるのかも分からないような状況だった。

 この爆発で、ハンター達は半分ほどの戦力を一気に失った。
 この状態でほぼ無傷のアレクサンドルと戦うのは不利でしかないが……。
「マティリア……」
 呆然としたアレクサンドル。ふらふらと歩き、マティリアがいた場所に膝をつく。
 
 ――マスター。どうか、生き延びて……そして――。

 聞こえたマティリアの声。
 ――何故だ。
 あの2人も、マティリアも。
 何故、皆俺を置いて行くのか……。
 俺は何度喪えばいいのか……!

 アレクサンドルから不意に湧き上がる黒い風。
 その異変にいち早く気づいたのはアルマだった。
「Plague the――」
「アレックスさん! その技はダメです……!!」
 迷わず飛び込むアルマ。アレクサンドルの腕を切り落とす覚悟で突っ込む。
 聞こえたくぐもった声。黒い風は止んだが、アルマの周囲を漂い……それを吸い込んだ途端、膝をつく。
 ――何だろう。寒い。酷く身体が重い。動こうとする度に身体が悲鳴を上げる。
 まるで、重い『病』にかかったかのような……。
 ――これが、リリカが嫌がった……30年前に起きた悲劇の元なのか……?
「アレックスさん……この技をマフォジョ族の人達に使ったです……?」
「……ほう。さすがハンター。それを身に受けてまだ話せるのか」
「この技は使っちゃダメです……! もう辞めましょう、こんなこと……」
「マティリアを奪ったハンターに言われたくはない」
「違う……! 僕はただ、あなたとマティリアさんに静かに暮らして欲しかっただけで……! 僕は、傷つけたくて傷つけてたんじゃない!」
「ほう? では何故マティリアは消えた。傷つける気がないというのなら何故こうなった……!!」
「……アレックスさん。僕は……」
「……また奪うのかと問うたな。そうだ。俺はこの命が続く限り奪い続ける。俺にはもうそれしか残されていない――Weather the Elder」
「う、あ、あッ……!」
 アルマの体力を吸い、傷つけられた身体を回復させ始めるアレクサンドル。
 足元でぼろ雑巾のようになっている赤毛の青年を掴み上げる。
「お前、何する気だ……!?」
「動くなよハンター。動いたらこの男の命の保証は出来かねる」
「……人質って訳っすか。卑怯っすねー」
「あなたが引いてくれるなら深追いはしないッス」
「だけどイェルズさんは返して。彼は巻き込まれただけなの」
「断る。お前さん達の言葉は信用に値しない。やるからには――凶悪に。卑怯に、だ」
「……っ」
 ぐったりとしたまま動かないイェルズ。何とか取り返せないものかと隙を伺うレイオスと神楽、馨とエニアを睨みつける白衣の歪虚。
 用が済んだとばかりにアルマを投げ捨てると、踵を返す。
「勝負は一旦預けるぞ、ハンター。……俺を止めたいのなら殺す気で来ることだ」


「ししょー、どうしよう! イェルズさんが……!」
「……深追いはいけませんよ、パティ。残念ながら、半数が動けない状態です」
「今の状態で仕掛けるには危険すぎます。撤退して立て直しましょう」
 オロオロとするパトリシアに淡々と答えるエラとオグマ。それにコーネリアも頷く。
「これだけの爆発だ。死人が出なかっただけ幸運だと思うべきなのかもしれん」
「そうだね……。……皆を早く手当てしよう。連合軍の人達も心配だよ」
「イェルズさん……」
 そう言いつつ、悔しさで唇を噛むルナ。イスフェリアが歪虚が去って行った方向を見つめて、小さく呟いた。


 こうして、ハンター達は多くの犠牲を払いながら、『機動砲兵』マティリアの破壊に成功した。
 ――マティリアの自爆による周囲のダメージは大きく。更にイェルズがアレクサンドルに連れ去られ……。
 『勝利』というには、あまりにも辛い状況であった。

 そしてこの知らせは、紅の世界――オイマト族長の元にも届けられた。
「……そうか。分かった。……すまないが、イェルズ捜索の手配をしてくれ。生きていると思いたいが……万が一の時は骨くらいは拾ってやりたい」
「族長……」
「……すまん。ちょっと独りにしてくれ……」
 バタルトゥに一礼し、席を辞するオイマト族の戦士。
 族長の足元には、彼が握り潰したカップの破片が散らばっていた。

担当:猫又ものと
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

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