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(ka0000)
【幻視】




災厄の十三魔、アレクサンドル・バーンズの討伐が成された……。
……皆の尽力に最大限の感謝と敬意を。
それから……これは個人的な話になるが……。イェルズ救出に奔走してくれたことも深く感謝する。
……ありがとう。
オイマト族長:バタルトゥ・オイマト(kz0023)
更新情報(11月7日更新)
▼【幻視】グランドシナリオ「ホーリー&ブライト」(9/13?10/3)▼
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【幻視】エピローグ2「嵐の後に」(11月3日公開)
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辺境、パシュパティ砦。
部族会議のメイン拠点として知られるこの場所に首長バタルトゥ・オイマト(kz0023 )は担ぎ込まれていた。
「お加減はどうですか?」
ベッドに横たわるバタルトゥの元を訪れたのはヴェルナー・ブロスフェルト(kz0232)。
要塞ノアーラ・クンタウの管理者にして、部族会議の首長補佐役を務めている。
「…………」
身体の具合を聞かれていたバタルトゥは、沈黙を持って答えた。
ヴェルナーは医者でもない。痛むところを伝えても何もできない事は分かっている。
「おや、無視ですか? 酷いですね。……あ、お見舞いのリンゴを剥きましょうか?」
「……いらん」
世話を焼こうとするヴェルナーに対して、バタルトゥは憮然とする。
バタルトゥはヴェルナーが何をしに来たのか分かっている。
自分が不在である事から、その負担がヴェルナーに掛かった事へ愚痴を言いに来たのだ。
「まあ、そう仰らずに。こう見えてもリンゴの皮ぐらいは剥けますよ」
バタルトゥの言葉を無視してナイフを手にするヴェルナー。
慣れた手つきでリンゴの皮は剥ぎ取られていく。
「ふふ、どうです? 私もやるものでしょう? いや、それにしても忙しすぎてバタルトゥさんのお見舞いに来るのが遅れてしまいました」
(……始まったか)
バタルトゥはヴェルナーに気付かれないよう小さくため息をついた。
ヴェルナーにも不満はあるのだろう。
黙って話を聞いてやるぐらいはしてやろう。
バタルトゥはそう考えてヴェルナーの言葉に耳を傾ける。
「忙しい理由は明白です。どっかの誰かが感情に任せてリアルブルーへ突撃したからです。重傷を負って帰ってくれば、公務もままなりません。おかけで私は誰かさんの代わりをする事になりました」
バタルトゥが感情を露わにするのは珍しい。
災厄の十三魔アレクサンドル・バーンズ(kz0122)にイェルズ・オイマト(kz0143)が連れ去られ、契約者となった。
この事実をイェルズからもぎ取った左腕と共にアレクサンドルから送られてきたのだ。
この事態にバタルトゥは激昂。怒れる辺境の狼は、リアルブルーの富士山麓まで突撃。アレクサンドルを倒してイェルズを奪還したものの、自身も重傷を負う結果となった。
「……すまん」
バタルトゥは謝罪を口にした。
その一言だけでヴェルナーが納得しないことを承知の上で。
「おや、悪いとお思いでしたか。素直に謝罪されるとは思いませんでした。そこまで素直だと警戒してしまいます。
……あ。イェルズさんですが、帝国へご招待しようかと思います」
「……帝国へ?」
「ええ。錬魔院で義手を作って貰おうかと思って上に掛け合って来ました。イェルズさんの身体に合った物を作る為、彼にはしばらく帝国内にて滞在して戴く予定です」
義手だけならば、辺境ドワーフでも製作は可能だ。
しかし、より実物に近い戦闘可能な義手となれば帝国錬魔院を頼るべきだ。魔導技術を日夜研究している錬魔院で製作してもらえれば、メンテナンスは辺境ドワーフでもできる。
アレクサンドルとの契約を断ち切り、覚醒者としての力を取り戻した以上は失われた片腕の代わりとなる義手が必要になるのは明白だった。
「……そうか。手間をかけたな……」
「いいえ。それにしても……コーリアスにしてもアレクサンドルにしても、多くの物を我々に突きつけてきましたね」
ヴェルナーは皮を剥いたリンゴに半分に割って切り分ける。
戦いを遊戯として捉え、ハンターの破滅を予言したコーリアス。
悲劇に塗れて歪虚となり、その果てに思い出の地にてその身を散らせたアレクサンドル。
どちらもハンターへ己が抱えていた闇を垣間見せた。どんな悲惨な状況であろうと、歪虚である以上、討たなければならない。
しかし、討った後にハンターの心に残った物は何か。
下らないと切り捨てるハンターもいれば、彼らが見せた闇を戒めとする者もいる。それは個々のハンターが答えを示していかなければならない。
「私も今回の事件で一つ学びました」
「なんだ……?」
「バタルトゥさんが激情家だということです。
あるハンターが言ってました。バタルトゥさんは部族の者を家族のように想うからこそ、あそこまで怒るのだと。
それも部族の長としては良いでしょう。
ですが、今のあなたは部族会議の大首長です。あなたの身に万一の事があれば辺境部族に混乱が起こるでしょう。それだけではありません。連合軍の諸国にも多大なる迷惑がかかります。
ご自身の立場を、理解されていますか?」
矢継ぎ早に飛び出すヴェルナーの言葉。
補佐役だからこそ、バタルトゥの立場を理解している。
辺境部族は大きくなった。
それだけ、首長には大きな負担も掛かることになる。激情に流される事が常に悪い事では無いが、冷静な自分を忘れれば大きな災いとなる。
「……すまなかった。こういうことは……これで最後にしたい」
「そう願いたいものです。それに分かったのはそれだけではありません。怒れるバタルトゥさんはとても危なっかしい。案外、あなたも子供っぽいのですね」
「……!」
瞳を見開くバタルトゥに対して、ヴェルナーは切り分けたリンゴを差し出した。
●
パシュパティ砦の一室。清潔に保たれた部屋のベッドの上で、イェルズはぼんやりと天井を見上げていた。
――マティリアの心臓部にあったブロートコア。その爆発から仲間達を守ろうと思ったのは覚えている。
あと、アレクサンドルの淡々とした声も――。
夢か現実か、良く分からないような日々を過ごし……気づけば、辺境に戻って来ていた。
自分が意識を失っている間に、コーリアスとアレクサンドルは倒れ、メタ・シャングリラという犠牲を払いつつもエンドレスも撃破されたと聞いた。
作戦中にこんなことになって、艦長である森山恭子(kz0216)や函館、鎌倉と戦いを共にしてきた仲間達に迷惑をかけたに違いない。
族長にも心配をかけたはずだ――。
背中を火傷し、左半身が吹っ飛び――その影響で脇腹が抉れ、左腕と左目を失った。
……これだけの怪我を負って生きていただけでも幸運だったのだろうというのは理解できる。
それでも……自身がずっと追い続けていた蛇の戦士の仇をこの手で討ちたかった。
起き上がろうとしたイェルズ。脇腹に痛みが走ってくぐもった声をあげる。
身体が思うように動かない。
片目しかないせいか、遠近感も掴めない。
これじゃ、族長の役に立つどころの騒ぎじゃない。早く。早く身体を治さなくちゃ……。
ベッドに身を沈めた彼は、深い深いため息をついた。
●
――その山のように大きなクマのぬいぐるみは、己の根城で深いため息をついた。
「どうした。浮かない顔だな、ビックマー」
「おう。青木か。そりゃあ大事な切り札を2つも失えばため息の一つも出るってもんよ」
「……コーリアスとアレクサンドルか」
青木 燕太郎(kz0166)の言葉に頷くビックマー・ザ・ヘカトンケイル。
辺境の地を恐怖と混乱に陥れた存在……力のある歪虚を2つ同時に喪ったのは、怠惰王としても痛い事実であった。
「オレの配下も大分減った。少し増員を考えないとならねえか……」
「……契約者を増やすのは構わんが使える奴にしてくれ。あの女歪虚みたいなのは二度と御免被る」
「いやぁ、アレはアレで使い道があるんだよ。……と。そういや青木よ、例の大精霊の遺跡はどうなった?」
「ああ。コーリアスやアレクサンドルがハンター達の気を引いてくれたお陰で大分調べがついた」
「ヒュー! そいつはいい。使えそうか?」
「それは試してみないと分からんな」
「そうか……まあ、いい。それなら遺跡を確保しなきゃならねえな」
どちらにせよ、あの力をハンター達に渡すようなことになれば配下はおろか自分の身すら危うい。
あの遺跡を奪取できれば御の字。最悪は破壊してでも、ハンター達の手に渡るのを阻止しなければならない……。
「……ビックマー。怖い顔してる。どうしたの?」
「いや、何も。オーロラが心配するようなことは何もねえ。お前が寝てる間に全部片づけておくぜぇ」
見上げてくる少女にニヤリと笑みを返すビックマー。
オーロラと呼ばれた少女はこくんと頷くと、クマのぬいぐるみの膝の上で寝息を立て始める。
それをじっと見つめていた怠惰の王は、重々しく口を開いた。
「……青木よ。もう1つ頼まれてくれるか」
「……事と次第によるが。話は聞こう」
●
「何だよ。アレクサンドルの奴。ハンターの素体をほぼ完璧な形で届けてくれるって言ってたのにー!」
暗闇の中、黙示騎士シュレティンガーは頬を膨らませていた。
エンドレスが長い時間をかけて集めていたモノ。
そしてアレクサンドルから届くはずだった素体が揃えば、それはそれは面白いものが生み出せたに違いないのに……。
「つまんないの。……まあ、パーツは届けて貰えたし。ここから試しに何か作ってみればいいかな」
うふふと笑うシュレティンガー。
その手が持っている瓶。その中には……若草色の虹彩を持つ眼球が入っていた。

バタルトゥ・オイマト

ヴェルナー・ブロスフェルト

アレクサンドル・バーンズ

イェルズ・オイマト
部族会議のメイン拠点として知られるこの場所に首長バタルトゥ・オイマト(kz0023 )は担ぎ込まれていた。
「お加減はどうですか?」
ベッドに横たわるバタルトゥの元を訪れたのはヴェルナー・ブロスフェルト(kz0232)。
要塞ノアーラ・クンタウの管理者にして、部族会議の首長補佐役を務めている。
「…………」
身体の具合を聞かれていたバタルトゥは、沈黙を持って答えた。
ヴェルナーは医者でもない。痛むところを伝えても何もできない事は分かっている。
「おや、無視ですか? 酷いですね。……あ、お見舞いのリンゴを剥きましょうか?」
「……いらん」
世話を焼こうとするヴェルナーに対して、バタルトゥは憮然とする。
バタルトゥはヴェルナーが何をしに来たのか分かっている。
自分が不在である事から、その負担がヴェルナーに掛かった事へ愚痴を言いに来たのだ。
「まあ、そう仰らずに。こう見えてもリンゴの皮ぐらいは剥けますよ」
バタルトゥの言葉を無視してナイフを手にするヴェルナー。
慣れた手つきでリンゴの皮は剥ぎ取られていく。
「ふふ、どうです? 私もやるものでしょう? いや、それにしても忙しすぎてバタルトゥさんのお見舞いに来るのが遅れてしまいました」
(……始まったか)
バタルトゥはヴェルナーに気付かれないよう小さくため息をついた。
ヴェルナーにも不満はあるのだろう。
黙って話を聞いてやるぐらいはしてやろう。
バタルトゥはそう考えてヴェルナーの言葉に耳を傾ける。
「忙しい理由は明白です。どっかの誰かが感情に任せてリアルブルーへ突撃したからです。重傷を負って帰ってくれば、公務もままなりません。おかけで私は誰かさんの代わりをする事になりました」
バタルトゥが感情を露わにするのは珍しい。
災厄の十三魔アレクサンドル・バーンズ(kz0122)にイェルズ・オイマト(kz0143)が連れ去られ、契約者となった。
この事実をイェルズからもぎ取った左腕と共にアレクサンドルから送られてきたのだ。
この事態にバタルトゥは激昂。怒れる辺境の狼は、リアルブルーの富士山麓まで突撃。アレクサンドルを倒してイェルズを奪還したものの、自身も重傷を負う結果となった。
「……すまん」
バタルトゥは謝罪を口にした。
その一言だけでヴェルナーが納得しないことを承知の上で。
「おや、悪いとお思いでしたか。素直に謝罪されるとは思いませんでした。そこまで素直だと警戒してしまいます。
……あ。イェルズさんですが、帝国へご招待しようかと思います」
「……帝国へ?」
「ええ。錬魔院で義手を作って貰おうかと思って上に掛け合って来ました。イェルズさんの身体に合った物を作る為、彼にはしばらく帝国内にて滞在して戴く予定です」
義手だけならば、辺境ドワーフでも製作は可能だ。
しかし、より実物に近い戦闘可能な義手となれば帝国錬魔院を頼るべきだ。魔導技術を日夜研究している錬魔院で製作してもらえれば、メンテナンスは辺境ドワーフでもできる。
アレクサンドルとの契約を断ち切り、覚醒者としての力を取り戻した以上は失われた片腕の代わりとなる義手が必要になるのは明白だった。
「……そうか。手間をかけたな……」
「いいえ。それにしても……コーリアスにしてもアレクサンドルにしても、多くの物を我々に突きつけてきましたね」
ヴェルナーは皮を剥いたリンゴに半分に割って切り分ける。
戦いを遊戯として捉え、ハンターの破滅を予言したコーリアス。
悲劇に塗れて歪虚となり、その果てに思い出の地にてその身を散らせたアレクサンドル。
どちらもハンターへ己が抱えていた闇を垣間見せた。どんな悲惨な状況であろうと、歪虚である以上、討たなければならない。
しかし、討った後にハンターの心に残った物は何か。
下らないと切り捨てるハンターもいれば、彼らが見せた闇を戒めとする者もいる。それは個々のハンターが答えを示していかなければならない。
「私も今回の事件で一つ学びました」
「なんだ……?」
「バタルトゥさんが激情家だということです。
あるハンターが言ってました。バタルトゥさんは部族の者を家族のように想うからこそ、あそこまで怒るのだと。
それも部族の長としては良いでしょう。
ですが、今のあなたは部族会議の大首長です。あなたの身に万一の事があれば辺境部族に混乱が起こるでしょう。それだけではありません。連合軍の諸国にも多大なる迷惑がかかります。
ご自身の立場を、理解されていますか?」
矢継ぎ早に飛び出すヴェルナーの言葉。
補佐役だからこそ、バタルトゥの立場を理解している。
辺境部族は大きくなった。
それだけ、首長には大きな負担も掛かることになる。激情に流される事が常に悪い事では無いが、冷静な自分を忘れれば大きな災いとなる。
「……すまなかった。こういうことは……これで最後にしたい」
「そう願いたいものです。それに分かったのはそれだけではありません。怒れるバタルトゥさんはとても危なっかしい。案外、あなたも子供っぽいのですね」
「……!」
瞳を見開くバタルトゥに対して、ヴェルナーは切り分けたリンゴを差し出した。
●

森山恭子
――マティリアの心臓部にあったブロートコア。その爆発から仲間達を守ろうと思ったのは覚えている。
あと、アレクサンドルの淡々とした声も――。
夢か現実か、良く分からないような日々を過ごし……気づけば、辺境に戻って来ていた。
自分が意識を失っている間に、コーリアスとアレクサンドルは倒れ、メタ・シャングリラという犠牲を払いつつもエンドレスも撃破されたと聞いた。
作戦中にこんなことになって、艦長である森山恭子(kz0216)や函館、鎌倉と戦いを共にしてきた仲間達に迷惑をかけたに違いない。
族長にも心配をかけたはずだ――。
背中を火傷し、左半身が吹っ飛び――その影響で脇腹が抉れ、左腕と左目を失った。
……これだけの怪我を負って生きていただけでも幸運だったのだろうというのは理解できる。
それでも……自身がずっと追い続けていた蛇の戦士の仇をこの手で討ちたかった。
起き上がろうとしたイェルズ。脇腹に痛みが走ってくぐもった声をあげる。
身体が思うように動かない。
片目しかないせいか、遠近感も掴めない。
これじゃ、族長の役に立つどころの騒ぎじゃない。早く。早く身体を治さなくちゃ……。
ベッドに身を沈めた彼は、深い深いため息をついた。
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青木 燕太郎

ビックマー・
ザ・ヘカトンケイル
「どうした。浮かない顔だな、ビックマー」
「おう。青木か。そりゃあ大事な切り札を2つも失えばため息の一つも出るってもんよ」
「……コーリアスとアレクサンドルか」
青木 燕太郎(kz0166)の言葉に頷くビックマー・ザ・ヘカトンケイル。
辺境の地を恐怖と混乱に陥れた存在……力のある歪虚を2つ同時に喪ったのは、怠惰王としても痛い事実であった。
「オレの配下も大分減った。少し増員を考えないとならねえか……」
「……契約者を増やすのは構わんが使える奴にしてくれ。あの女歪虚みたいなのは二度と御免被る」
「いやぁ、アレはアレで使い道があるんだよ。……と。そういや青木よ、例の大精霊の遺跡はどうなった?」
「ああ。コーリアスやアレクサンドルがハンター達の気を引いてくれたお陰で大分調べがついた」
「ヒュー! そいつはいい。使えそうか?」
「それは試してみないと分からんな」
「そうか……まあ、いい。それなら遺跡を確保しなきゃならねえな」
どちらにせよ、あの力をハンター達に渡すようなことになれば配下はおろか自分の身すら危うい。
あの遺跡を奪取できれば御の字。最悪は破壊してでも、ハンター達の手に渡るのを阻止しなければならない……。
「……ビックマー。怖い顔してる。どうしたの?」
「いや、何も。オーロラが心配するようなことは何もねえ。お前が寝てる間に全部片づけておくぜぇ」
見上げてくる少女にニヤリと笑みを返すビックマー。
オーロラと呼ばれた少女はこくんと頷くと、クマのぬいぐるみの膝の上で寝息を立て始める。
それをじっと見つめていた怠惰の王は、重々しく口を開いた。
「……青木よ。もう1つ頼まれてくれるか」
「……事と次第によるが。話は聞こう」
●

シュレティンガー
暗闇の中、黙示騎士シュレティンガーは頬を膨らませていた。
エンドレスが長い時間をかけて集めていたモノ。
そしてアレクサンドルから届くはずだった素体が揃えば、それはそれは面白いものが生み出せたに違いないのに……。
「つまんないの。……まあ、パーツは届けて貰えたし。ここから試しに何か作ってみればいいかな」
うふふと笑うシュレティンガー。
その手が持っている瓶。その中には……若草色の虹彩を持つ眼球が入っていた。