ゲスト
(ka0000)
【幻視】Black Storm【界冥】
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/10/20 19:00
- 完成日
- 2017/11/02 12:58
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
※要注意※
当依頼は他の【幻視】依頼と同時攻略シナリオとなります。
同時参加はシステム上可能ではありますが、両方に参加された場合、当シナリオには参加出来なかったという扱いになります。
同キャラクターで重複参加されないようご注意ください。
●不穏な報せ
部下であるイェルズ・オイマト(kz0143)が行方不明になって数日。
部族会議大首長であるバタルトゥ・オイマト(kz0023)は通常の職務をこなしながらイェルズ奪還の為に情報収集に努めていた。
こんな時くらい休んでもバチはあたりませんよ、とノアーラ・クンタウの管理者であるヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)には言われたが、こういう時こそ気を引き締めないと……。
――何より、何かしていないと落ち着かないというのもある。
人並みに動揺する程感情が残っていたのかと自嘲するバタルトゥ。
調査のお陰で、アレクサンドルの足取りは掴みつつある。
自分も向かいたいのは山々だが、立場的にここを離れる訳にはいかない。
ハンター達であればどんな形であれ、きっとあれを探し出してくれるだろう――。
「族長、お届け物です」
「……ご苦労だった」
オイマト族の戦士の声で我に返るバタルトゥ。
渡された箱に差出人の名前はない。
――ドワーフ達に頼んでいた染料だろうか?
バタルトゥは何気なく箱を開けて――目を見開く。
そこに無造作に入っていたのは人間の腕。
それは酷くボロボロな状態だったが……掘られた刺青に見覚えがある。
――間違いない。これはイェルズの……!
そして箱にはカードが添えられていた。
契約完了。
アレクサンドル・バーンズ
短い文言。
イェルズの身に何が起きたのかを説明するには十分で――。
襲い来る全身の血が湧きたつ感覚。バタルトゥは目の前が赤くなるのを感じて頭を振る。
「族長、どうされました?」
「……リアルブルーに行く」
「は? この件はハンターさん達にお任せするのでは……?」
「……事情が変わった。ヴェルナーにも伝えてくれ」
「分かりました……!」
ただならぬ様子を感じ取ったのか、頷くオイマト族の戦士。バタバタとヴェルナーの元に走っていく。
これが事実なのであれば、急がねば……。
人間が歪虚化する場合、多くは生前に高位歪虚と『契約』を結び、死後『堕落者』となって完全に歪虚化する。
一刻も早くアレクサンドルを討伐し、契約を破棄出来なければ……もし契約元を倒せずにイェルズが死ねば歪虚化する。
一度歪虚化してしまえば、二度と元に戻ることはない。
――ベスタハの悲劇を呼んだオイマト族。
一族から二度も歪虚を出す訳にはいかない。
――もし、イェルズが堕落者になっていたら、その時は。
この手で黄泉地へと送らねば……。
悲壮な決意を胸に秘めて、バタルトゥは剣を取る。
●思い出の地で
「バーンズ先生。私の病気は本当に治るのかしら」
「……ああ、治るさ。だから決して、諦めてはいけないよ」
――その建物は近づきがたい暗さが漂っていた。
壁の塗料は剥げ落ちて変色し、窓についた鉄格子は赤く錆付き、窓には色あせたカーテンがぶら下がっている。床や机にはどこも埃が積もり、空き瓶などが無造作に転がっていた。
「……まさに夢の終わりと言った光景だな」
呟くアレクサンドル・バーンズ(kz0112)。
かつてこの場所に来た時には、沢山の医師と患者達がいた。
そしてリリカと、多くの友人達も――。
病と闘う場所でありながらそこは多くの笑顔に満ち溢れていた。
……今は、誰もいない。
皆自分を残して消えてしまった。
――失いたくなかった。
本当にただ、それだけだったのに。
だが、その夢は潰えた。
己に残されているものは、この力と憎しみだけ……。
「俺は復讐する。俺から全てを奪って行った人間達に……!」
薄れることのない憎しみは、黒い嵐となって病院内を支配する。
●誰のために
「レギちゃん、イェルズちゃんをお願いするザマス……!」
涙目の森山恭子(kz0216)に頷き返すレギ(kz0229)。
恭子が艦長を勤めるメタ・シャングリラ。そこに搭乗しているクルー達も、共に戦ったイェルズの救出に向かうことを望んでいたが――それは叶わなかった。
レギも当初はメタ・シャングリラに同行するよう指示されていたが、彼はそれに抵抗を示した。
――あの時自分は彼より反応が遅れた。本当にそのたった一瞬が、運命を分けた。
僕はイェルズさんに命を救われたようなものだ。
救出に向かいたい、と直接『あの人』に掛け合ったのだ。
結果的に、レギはその賭けに勝った。
そもそも恭子達のいるメタ・シャングリラと、レギ達強化人間は所属する部隊が違う。
それも上手く行った要因かもしれない。
そうして向かった先は、朽ち果てた大病院だった。
アレクサンドルが潜伏しているという廃病院の内部地図は手に入れられなかったが、航空写真は手に入った。
見る限り、周囲は深い森に覆われており、県道から見て手前に前庭、病院、駐車場と分かれ、駐車場となっている裏手には救急搬入口があったらしい。
この救急搬入口と正面玄関以外の窓には防犯用に柵が嵌め殺してあり、二階以上の窓にも全て転落防止の柵が取り付けられていた。
まるで荒れ果てた大きな牢獄のような病院だが、これがかつてはサナトリウムとして近隣では有名な病院であったというのだから、時の流れとは無情である。
そして病院を見据えるバタルトゥは、恐ろしい程の怒気を発していた。
「大首長の任を放り出してイェルズの救出に来るなんざ、バタルトゥも人間らしいところがあるんだな。ちょっと安心したぜ」
「……いや、歪虚を殲滅しに来た」
「アレクサンドルを倒すってことですか?」
「………無論。それもある」
ハンターの言葉に頷く彼。その物言いには何やら引っかかるものがあったが……病院から感じるものすごい負のマテリアルにハンター達は振り返る。
「何だ……? すごい負のマテリアルだな。一体何が起こってる?」
「分かりませんが、黒い風のようなものが病院を覆っています!」
「これ、アレックスさんの『禁じ手』だと思います。吸い込むとすごく身体が重くなるです」
「なんてこった。小型狂気までウヨウヨしてるじゃねえか。こんなのの中を進むのか?」
「見取り図もありませんからね……」
レギの返答に言葉を失くすハンター達。
地図もないような場所。吹き荒れる嵐。行く手を阻む小型歪虚。
状況としては最悪だが――進むしかない。
この黒い嵐を力のない動物や人間が吸い込んだら、一体どんな害が及ぶのか想像もつかない。止めなくては――。
「……これより、災厄の十三魔アレクサンドル・バーンズの討伐作戦を開始する。……総員、突撃! 歪虚を生きて帰すな! 1つ残らず殲滅せよ!!」
響くバタルトゥの雄叫。
それに応えるように、ハンター達は走り出す。
当依頼は他の【幻視】依頼と同時攻略シナリオとなります。
同時参加はシステム上可能ではありますが、両方に参加された場合、当シナリオには参加出来なかったという扱いになります。
同キャラクターで重複参加されないようご注意ください。
●不穏な報せ
部下であるイェルズ・オイマト(kz0143)が行方不明になって数日。
部族会議大首長であるバタルトゥ・オイマト(kz0023)は通常の職務をこなしながらイェルズ奪還の為に情報収集に努めていた。
こんな時くらい休んでもバチはあたりませんよ、とノアーラ・クンタウの管理者であるヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)には言われたが、こういう時こそ気を引き締めないと……。
――何より、何かしていないと落ち着かないというのもある。
人並みに動揺する程感情が残っていたのかと自嘲するバタルトゥ。
調査のお陰で、アレクサンドルの足取りは掴みつつある。
自分も向かいたいのは山々だが、立場的にここを離れる訳にはいかない。
ハンター達であればどんな形であれ、きっとあれを探し出してくれるだろう――。
「族長、お届け物です」
「……ご苦労だった」
オイマト族の戦士の声で我に返るバタルトゥ。
渡された箱に差出人の名前はない。
――ドワーフ達に頼んでいた染料だろうか?
バタルトゥは何気なく箱を開けて――目を見開く。
そこに無造作に入っていたのは人間の腕。
それは酷くボロボロな状態だったが……掘られた刺青に見覚えがある。
――間違いない。これはイェルズの……!
そして箱にはカードが添えられていた。
契約完了。
アレクサンドル・バーンズ
短い文言。
イェルズの身に何が起きたのかを説明するには十分で――。
襲い来る全身の血が湧きたつ感覚。バタルトゥは目の前が赤くなるのを感じて頭を振る。
「族長、どうされました?」
「……リアルブルーに行く」
「は? この件はハンターさん達にお任せするのでは……?」
「……事情が変わった。ヴェルナーにも伝えてくれ」
「分かりました……!」
ただならぬ様子を感じ取ったのか、頷くオイマト族の戦士。バタバタとヴェルナーの元に走っていく。
これが事実なのであれば、急がねば……。
人間が歪虚化する場合、多くは生前に高位歪虚と『契約』を結び、死後『堕落者』となって完全に歪虚化する。
一刻も早くアレクサンドルを討伐し、契約を破棄出来なければ……もし契約元を倒せずにイェルズが死ねば歪虚化する。
一度歪虚化してしまえば、二度と元に戻ることはない。
――ベスタハの悲劇を呼んだオイマト族。
一族から二度も歪虚を出す訳にはいかない。
――もし、イェルズが堕落者になっていたら、その時は。
この手で黄泉地へと送らねば……。
悲壮な決意を胸に秘めて、バタルトゥは剣を取る。
●思い出の地で
「バーンズ先生。私の病気は本当に治るのかしら」
「……ああ、治るさ。だから決して、諦めてはいけないよ」
――その建物は近づきがたい暗さが漂っていた。
壁の塗料は剥げ落ちて変色し、窓についた鉄格子は赤く錆付き、窓には色あせたカーテンがぶら下がっている。床や机にはどこも埃が積もり、空き瓶などが無造作に転がっていた。
「……まさに夢の終わりと言った光景だな」
呟くアレクサンドル・バーンズ(kz0112)。
かつてこの場所に来た時には、沢山の医師と患者達がいた。
そしてリリカと、多くの友人達も――。
病と闘う場所でありながらそこは多くの笑顔に満ち溢れていた。
……今は、誰もいない。
皆自分を残して消えてしまった。
――失いたくなかった。
本当にただ、それだけだったのに。
だが、その夢は潰えた。
己に残されているものは、この力と憎しみだけ……。
「俺は復讐する。俺から全てを奪って行った人間達に……!」
薄れることのない憎しみは、黒い嵐となって病院内を支配する。
●誰のために
「レギちゃん、イェルズちゃんをお願いするザマス……!」
涙目の森山恭子(kz0216)に頷き返すレギ(kz0229)。
恭子が艦長を勤めるメタ・シャングリラ。そこに搭乗しているクルー達も、共に戦ったイェルズの救出に向かうことを望んでいたが――それは叶わなかった。
レギも当初はメタ・シャングリラに同行するよう指示されていたが、彼はそれに抵抗を示した。
――あの時自分は彼より反応が遅れた。本当にそのたった一瞬が、運命を分けた。
僕はイェルズさんに命を救われたようなものだ。
救出に向かいたい、と直接『あの人』に掛け合ったのだ。
結果的に、レギはその賭けに勝った。
そもそも恭子達のいるメタ・シャングリラと、レギ達強化人間は所属する部隊が違う。
それも上手く行った要因かもしれない。
そうして向かった先は、朽ち果てた大病院だった。
アレクサンドルが潜伏しているという廃病院の内部地図は手に入れられなかったが、航空写真は手に入った。
見る限り、周囲は深い森に覆われており、県道から見て手前に前庭、病院、駐車場と分かれ、駐車場となっている裏手には救急搬入口があったらしい。
この救急搬入口と正面玄関以外の窓には防犯用に柵が嵌め殺してあり、二階以上の窓にも全て転落防止の柵が取り付けられていた。
まるで荒れ果てた大きな牢獄のような病院だが、これがかつてはサナトリウムとして近隣では有名な病院であったというのだから、時の流れとは無情である。
そして病院を見据えるバタルトゥは、恐ろしい程の怒気を発していた。
「大首長の任を放り出してイェルズの救出に来るなんざ、バタルトゥも人間らしいところがあるんだな。ちょっと安心したぜ」
「……いや、歪虚を殲滅しに来た」
「アレクサンドルを倒すってことですか?」
「………無論。それもある」
ハンターの言葉に頷く彼。その物言いには何やら引っかかるものがあったが……病院から感じるものすごい負のマテリアルにハンター達は振り返る。
「何だ……? すごい負のマテリアルだな。一体何が起こってる?」
「分かりませんが、黒い風のようなものが病院を覆っています!」
「これ、アレックスさんの『禁じ手』だと思います。吸い込むとすごく身体が重くなるです」
「なんてこった。小型狂気までウヨウヨしてるじゃねえか。こんなのの中を進むのか?」
「見取り図もありませんからね……」
レギの返答に言葉を失くすハンター達。
地図もないような場所。吹き荒れる嵐。行く手を阻む小型歪虚。
状況としては最悪だが――進むしかない。
この黒い嵐を力のない動物や人間が吸い込んだら、一体どんな害が及ぶのか想像もつかない。止めなくては――。
「……これより、災厄の十三魔アレクサンドル・バーンズの討伐作戦を開始する。……総員、突撃! 歪虚を生きて帰すな! 1つ残らず殲滅せよ!!」
響くバタルトゥの雄叫。
それに応えるように、ハンター達は走り出す。
リプレイ本文
十色 エニア(ka0370)は思う。
災厄の十三魔、アレクサンドル・バーンズ。
――元軍医だった彼は、最悪な形で大切な少女を喪った。
それから30年以上の間、少女を喪う切欠となった人間達に復讐を続けてきたのだろう。
……歪虚になってなお、リリカやマティリアを大切に思う『人間らしさ』を忘れなかった人だ。
歪虚としての存在の『歪み』と、人としての『情』の間に人知れず苦しんでいたのではないか。
情が深かったからこそ、人への絶望も深かったのでは……。
その答えを、最早知る術はないけれど――。
廃病院を前にしたバタルトゥ・オイマト(kz0023)は、本当に珍しく怒りを露わにしていた。
――いや、本人は隠しているつもりなのかもしれないが。
怒りに燃える目。今まで見たことがなかったそれに、東方でかつて関わったあの人を思い出して涙目になるエステル・ソル(ka3983)。
一人で抱え込むのは良くない、とか。あなたを手伝いたい、とか。色々言いたいことはあったはずなのに上手く言葉にならない。
そんなエステルの心情を察してか、イスフェリア(ka2088)が彼女の青い髪を撫でて……バタルトゥを見上げる。
「バタルトゥさん、わざわざリアルブルーに渡って来るなんて……何かあったの?」
「……言っただろう。歪虚を殲滅しに来た……」
「本当にそれだけかえ? おぬしが大首長の立場を放って出た理由に得心が行かぬ」
無言を返すバタルトゥをじっと見つめる蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)。
――彼は元々必要以上に責任感の強い人間だ。
たとえ一族の者……それが補佐役であったとて特別扱いはしない。大首長の立場を優先する筈だ。
そんな友人がこの地にまで来た『理由』は何か他にあるはず……。
付き合いの長い妾をそう簡単に誤魔化せると思うでないぞ――そんな声が聞こえて来そうな蜜鈴の空色の瞳。
バタルトゥは諦めようにため息をつくと、重々しく口を開く。
「……イェルズが『契約者』となった」
「契約者……?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる氷雨 柊羽(ka6767)。エステルは息を飲んで、バタルトゥの怒りの理由を察して目を伏せる。
「……契約者は歪虚に愛された存在というか、歪虚の卵みたいな感じだって聞いたです。人間が歪虚化するには高位の歪虚と『契約』を結ぶ必要があるって……」
『契約者』の段階で契約元の歪虚を討伐すれば、契約は強制解除され人間に戻ることが出来るが、『契約者』の段階で死亡した場合、自動的に『堕落者』となる。
そう続けたエステルに紫月・海斗(ka0788)が空を仰ぐ。
「随分面倒くせえことになってんなぁオイ」
「……バタルトゥ。一つ聞きたい。このまま放っておいたらイェルズは歪虚化するんだね?」
「そうだ。一度歪虚になれば、もう元に戻ることはない」
「逆に言えばアレクサンドルを討伐すれば元に戻るが、それまでイェルズ君が持つかどうかだね……」
「時間勝負だな……」
確認するルシオ・セレステ(ka0673)に頷くバタルトゥ。
ジェールトヴァ(ka3098)の静かな声に、コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が苛立たし気に呟く。
トリプルJ(ka6653)はため息をつくと、オイマト族の族長をチラリと見る。
「族長さんよ。あんた予定通りアレクサンドルをぶっ倒しに行くんでいいのか?」
「……ああ。あれを最短で倒す。それでなお、イェルズも歪虚化していた場合は……」
「そんなことさせない。絶対に」
「……気持ちは有り難いが、歪虚化していたら迷わず黄泉地へ送る。……それがオイマト族の族長としての俺の務めだ」
「そんな……そんなのって……」
バタルトゥの言葉を遮ったラミア・マクトゥーム(ka1720)。
族長の悲壮な覚悟に目を伏せるイスフェリア。エステルの大きな目から涙が零れる。
「……了解。あんたの意向は理解した。ただし落ち着いてくれよ。今のあんたとじゃ俺すらいい勝負が出来そうだ」
バタルトゥの胸を拳で小突くトリプルJを見ながら、リューリ・ハルマ(ka0502)はぼんやり考えていた。
――契約かぁ。燕太郎さんも誰かと契約してああなったんだよね……。
「リューリさん、どうかしました?」
「ん? ううん。何でもないよ」
心配そうに声をかけてきたレギ(kz0229)に、笑みを返すリューリ。思い出したように口を開く。
「そういえばレギ君はセトさんのこと知ってるんだってね。お友達から聞いたよ」
「……知ってるも何も。セトは僕の兄ですから」
目を見開くリューリ。似ているとは思っていたが、まさか血縁だったとは……。
彼に話をしなくてはならないことがある。でも、今は――。
「そっかぁ……。その話はまた今度ゆっくりしようね」
頷くレギ。そうだ。ここに来たのはお世話になったあの人を助ける為だ。個人の感傷に浸っている場合ではない。
そしてその横では占術を始めた北谷王子 朝騎(ka5818)が符を手にしたまま難しい顔をしていた。
「どうですか? 何か分かりましたか?」
「はいでちゅ。病院の中に歪虚がいっぱいいるでちゅ」
「それは、占わなくても分かることなのでは……」
「それだけじゃないでちゅよ! 上の方にいるかな……? という気がするでちゅ」
セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)のツッコミに朝騎が慌てて占いの結果を補足する。
「それじゃ紫苑さんの言う通り予定通り上を目指すんでいいのかな」
「ああ。禁じ手の中心に居ると思うんだよな、あの野郎」
小首を傾げるディーナ・フェルミ(ka5843)に頷く仙堂 紫苑(ka5953)。
こういう技は、何か特殊な装置でも設置しない限りは本人を中心に広がるもんだ、と続けた彼に、エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)も同意を示す。
「同感ですね。もし装置を見つけた場合には各員速やかに報告を。何が罠に繋がるか分かりませんので迂闊に破壊しないようにしてください」
「了解した。……急ごう。事態は一刻を争う」
「妙な罠がないことを願うばかりだな」
「ったく回りくどいことする奴だねえ! 行くよ!!」
アーク・フォーサイス(ka6568)とクラン・クィールス(ka6605)の呟きに頷く仲間達。
駆け出したボルディア・コンフラムス(ka0796)の後を追うようにして、ハンター達も移動を開始する。
「イェルズ……。必ず助けるからね」
ラミアは祈るように胸のペンダントに触れると、その後に続いた。
病院の前庭に現れた歪虚と戦闘を開始した玲達の脇をすり抜けるようにして病院に突入したハンター達。
一歩足を踏み入れたその先は……黒い霧のようなものが立ち込めていた。
「……何だこれ!? 息吸って大丈夫かよ」
息苦しさを感じて顔を顰めるトリプルJにアルマ・A・エインズワース(ka4901)が淡々と答える。
「アレックスさんの禁じ手ですよ。動けなくなるですから吸い込み過ぎないように気を付けてください」
「要するに広範囲に毒みたいのを撒き散らしてるってことか」
「厄介やねぇ……。でもなんで今までこの技を使わへんかったんやろうか」
南護 炎(ka6651)とレナード=クーク(ka6613)の呟きに目を伏せるアルマ。
彼は一度……過去の記録で、アレクサンドルがこの技を使ったのを見たことがある。
そして、その技を見たリリカは悲しみながら命を落とした。
――今までこれを使わなかったのはきっと。あの事件が関係している。
「それじゃ一気に3階まで駆け上がろうぜ」
「ああ、ダメ! ダメですよ零次さん!」
「何でだよ! 急いでるんだろ!?」
「アレクサンドルがどんな罠仕掛けてるか分からないんですから……! 敵に遭遇する前に罠で動けなくなったら本末転倒ですよ!」 真っ直ぐ階段を目指そうとする輝羽・零次(ka5974)を慌てて止める穂積 智里(ka6819)。
冷静な指摘に、零次は悔しそうに唇を噛む。
――そう。アレクサンドルはとても狡猾だ。動きに無駄がない。
病院のどこか……いや、この病院自体を操って来る可能性もある。
「急ぐのも大切だが、周囲の警戒も忘れずにね。……さあ、行くとしよう」
ジェールトヴァの声に頷く総員。彼の言う通り、曲がり角、天井、床――ありとあらゆる場所に注意を払って進む。
黒い霧が覆う中、階段を見つけたハンター達。
そして彼らに誘われるように小型狂気がゆっくりとやってきた。
「……早速来たか。雑魚は引き受ける!」
銃を構えるコーネリア。素早い動きで歪虚を撃ち抜いて行く。
討伐班が交戦状態入る一方、イェルズ探索班は3チームに分かれて行動を開始した。
「こういうまどろっこしいことは苦手なんだけどね……」
「仕方ないよ。罠が発動してイェルズさん巻き込んだら大変だもん」
「そうじゃな……。全く心配かけよってからに……」
「あまり怒らないであげてください。こうなったのは僕にも責任の一端があるので」
ぶつぶつ呟きながら周囲を警戒するボルディアを棒で壁を突きながら宥めるイスフェリア。
同じく床を棒でつつく蜜鈴に、レギが申し訳なさそうな顔をする。
「そうだね。わたしもあの場にいたけど……イェルズさんが咄嗟にあの行動に出なかったら、もっと沢山の死傷者が出てたと思う」
「己の身を顧みないところまで族長を真似せんでもよいわ。無事保護したら説教しよる」
イスフェリアにピシャリと言い返す蜜鈴。これも心底案ずるが故の怒りなのだろう。
それに無言を返して……ボルディアは担当している1階の天井を仰ぐ。
……こういうことになった以上、今更アレクサンドルに言いたいこともない。
最早聞く耳も持たないだろう。
自分に出来るのは、あの歪虚のせいで死ぬ人間をこれ以上増やさないようにするだけ――。
罠を警戒しながら移動する為、あまり速度は出ないが……これまで見て来た病室にイェルズはいなかった。
「1階にはいないのかな……」
「まだ何部屋かありますし、きちんと見て回りま……」
仲間達にレジストをかけ直しながら言うイスフェリア。言いかけたレギを、ボルディアが手で制止する。
聴覚を極限まで高めた彼女は、聞き覚えのある音を拾って顔を顰めた。
「……小型狂気がお出ましみたいだ。あんた達構えな」
「こちらも急いでおる。さっさとお帰り戴くとしようかのう」
奥から飛来する小型狂気に、蜜鈴は剣呑な目を向けて――。
その頃、討伐班は階段を使って3階に到達していた。
濃密な黒い霧と強い風に零次と炎が苦しげに顔を歪める。
「くそ、何だこれ……! まるで嵐じゃないか」
「気持ち悪くなって来やがるな……」
「お二人とも大丈夫? 回復するの」
「待ってろ。今白虹をかけ直す」
てきぱきと対応するディーナと紫苑。智里は灯火の水晶球の灯りを操作しながらため息をつく。
「……ダメですね。霧が濃くて灯りが通らないです」
「いやはや。こうも視界を塞がれると罠を調べるのは現実的ではないね。まるで黒い嵐だ。エラさん、他の階はどうかな。罠の報告はあったかい?」
「今のところは何も。狂気の歪虚に行方を阻まれているそうですが……」
足元を見ながら確認するジェールトヴァに答えるエラ。
1階や2階の階段にはアレクサンドルのものらしき足跡が残っていたが、ここまで上がって来ると足元も霧で霞んでいる。
霧が濃く、風が段々強くなっているのには、何か理由があるはずで――。
「なあ。これ、紫苑の読みが当たってるんじゃねえのか?」
「……もしかしたら、この『禁じ手』自体が『罠』なのかもしれないね」
トリプルJの推測に頷くエニア。
視界を塞ぎ、動けなくする効果のある霧。そして吹き付ける強い風。
自分達はハンター達の中でも精鋭ゆえ何とか動けているが、初心者ハンターが吸い込めば動くこともままなるまい。
「そうだとしたら単純で助かるんだけどよ」
「黒い嵐の中心を目指すですよ。そこにきっとアレックスさんがいるはずです。うちの参謀が言うことなら間違いないです」
紫苑のボヤキに妙な自信を持って答えるアルマ。
そこにコーネリアの鋭い声が聞こえて来る。
「おい! 新手が来てるぞ!!」
続く銃撃。彼女の狂いのない狙撃は的確に小型狂気を消したが……その後ろから更に複数の気配を感じて、クランが切るような鋭い目線を送る。
「……数が多いな」
「俺達で対応しよう。レナード行けるか?」
「勿論や! 任せとき!」
刀を抜きながら言うアークに強く頷くレナード。
――黒い嵐が吹き荒れる中、どこまで出来るか分からない。けれど……俺の持つ力全てを使って、支え動かなくては……!
エステル、ラミア、柊羽の3人は討伐班と別れ、3階の探索を開始していた。
仲間達は黒い嵐の中心を目指すと言っていた。
ここも十分に嵐が強いが……イェルズを探すのが最優先だ。アレクサンドルに遭遇する可能性もあるが、構っていられない。
襲い来る小型狂気を矢で撃ち抜いた柊羽は、ふっと短くため息をついた。
柊羽自身、イェルズとは1回、依頼でお世話になっただけだ。
彼のことをあまり知らない。でもだからこそ、また一緒に依頼に行けたらいいと思っていた。
その為にもまだ死んでもらっては困る……!
――イェルズさん、すぐに助けに行きます。待っていてください。
エレメンタルコールでイェルズに呼びかけるエステル。
……バタルトゥが、補佐役が歪虚の卵の状態であると言っていた。
現状、覚醒者ではないかもしれず、この声が届いているかどうかも分からないが。
それでも、届く可能性があるのなら諦めない……!
祖霊を身に宿し、嗅覚を大幅に上昇させたラミアは、病室に入るなり踵を返した。
「ラミアさん、調べなくていいです?」
「……ここにはいない」
「え?」
「イェルズの匂いがしない。ここは違う」
断言したラミアに目をぱちくりとさせるエステル。柊羽がドアから入って来ようとした小型狂気を撃ち抜きながら口を開く。
「……何でイェルズさんの匂いが分かるんだ?」
「えっ。それはその……この間一緒に出掛けたし……」
素朴な疑問に目が泳ぐラミア。エステルはその理由に思い当って、目を輝かせる。
「特別に好きですね! 分かるです!」
「ちょっ。まっ。だから……! 次! 次行くよ!!」
動揺を覚られまいとするラミア。そこに飛来した小型狂気を八つ当たりとばかりに掴んで床に叩きつけた。
奥へ奥へと進む討伐班の面々。
進めば進むほど黒い嵐の勢いは増し、小型狂気の数が飛躍的に増えて行く。
紫苑の支援で対策はしていたが、それでも長時間このままでは抵抗が難しくなることが予想された。
「くっそ。どこにいやがるあの野郎……!」
「そろそろだと思うんだが……」
舌打ちする海斗に、小型狂気を叩き伏せながら言う炎。
厳しさを増す嵐。数が減る様子のない歪虚。
アークは意を決したように仲間達を振り返る。
「こう手数が多くてはアレクサンドルに会えても厳しいだろう。だから……」
「……ここは俺が引き受けるって言うんだろ。付き合うぜ、アーク」
「しかし、お前達はアレクサンドルを……」
「何や水臭い! 僕もお手伝いするで!」
クランに言葉を奪われて目を見開くアーク。続いたレナードの言葉に、諦めたようにため息をついて……コーネリアは歪虚に銃弾を叩き込みながら3人を一瞥する。
「話はまとまったか? 新手が来る。迎撃するぞ!」
「了解。さて、俺達の見せ場かね」
「そやね。気張るとしよか。あ、皆遠慮せえへんで先に行っとくんなはれ」
「すみません。なるべく早くアレクサンドル倒して戻ってきます!」
「皆、無理しないでなのー!」
「了解。エラ! 悪いが俺達の作戦を引き継いでくれ!」
「了解しました」
クランとレナードに申し訳なさそうに頭を下げる智里とディーナ。
空間を切り割くレナードの雷撃を背景に舞うように敵を斬るアークに頷くエラ。
次の瞬間。ゆらりと黒い嵐が揺れて……暗闇に、茶色の目が浮かび上がった。
「……誰が誰を倒すって?」
「出やがったなアレクサンドル!」
零次の叫び。刹那、駆け抜ける風。彼が踏み込むより早くバタルトゥが飛び込み、双剣を振り下ろす。
「誰かと思えば……辺境部族の大首長殿じゃないか。補佐役の為にわざわざ出張ってくるとはご苦労なこった」
「……黙れ!」
バタルトゥの怒りに燃える目。目まぐるしい速さで振われる剣を、十三魔の機械腕が受け止め、受け流す。
「おいぃ! 族長! いきなりツッコむのなしって言っただろおおおお!!?」
頭を抱えるトリプルJ。まあ、言って止まるくらいならここまで来てないか……。
良く見れば、十三魔相手にギリギリ均衡を保っている。長くは続かないだろうが、これはチャンスとも言える。
「畳みかけるなら今だね」
「そうだな。よし、行ってこい!」
「人を鉄砲玉みたいに言うんじゃねえよ!」
ジェールトヴァの呟きに頷く紫苑。言い返す海斗に与えられたオーラ状の障壁。他の前衛にも紫苑のマテリアルが注ぎ込まれる。
暗闇に浮かぶアレクサンドルの姿。見慣れているが……いつもと違う様子のそれに、アルマは冷たい眼差しを向けた。
「僕を正気に戻してくれて、ありがとう。そして、『初めまして』……災厄の十三魔アレクサンドル。貴方の正義を認め、その上で殺します」
「ほう? 甘っちょろいお前さんに出来るのか?」
「できますよ。僕は『魔王の卵』ですから」
その返答に目を見開いた十三魔。くつくつと心底愉快そうに笑う。
大きな鎌を持ったエニア。暗闇に立つ彼はまるで死神のようで……。
「話したい事、色々あるけど……先生。今度こそ終わりにしよう」
「……坊やが随分と大きく出たな。面白い。どこまで俺に迫れるか見せてみろ……!」
その頃。ボルディアやラミアと同様に超嗅覚を使って2階を探索していたリューリは若干の違和感を感じていた。
ここにも、勿論黒い霧が立ち込めているし、小型狂気も出没する。
他の場所では陳臭かったり、埃の匂いがしたりするのだが……微かに異質な匂いがするのだ。
「……何か分かりましたか?」
向かい来る小型狂気を鬼の如き迫力で切り捨てて行くセツナ。それにリューリは考えながら口を開く。
「うん。何て言うか……違う匂いがするんだよ」
「それはどういう匂いですか?」
「なんていうのかな……。お酒に近い匂いなんだけど、ちょっと違うような気もするし……」
適切な表現が思いつかずに言い淀むリューリ。床をライトで照らしていたルシオから息を飲む声がした。
「ルシオさん、どうかした?」
「これは血痕ではないだろうか」
足元を指差すルシオ。黒い霧で視界が悪い中、目を凝らすと……そこには赤黒く変色した染みがあり、確かに乾いた血のように見えた。
「彼はこの階にいるのかもしれないね。リューリ、その匂いはどこからするか分かるかい?」
「多分だけど、この奥だと思う」
「急ぎましょう……!」
セツナの声に頷くルシオ。リューリは2人を案内するように走り出す。
――過去の記録で、青木が契約者から堕落者になっていく様を見た。
仲間を助ける為に契約者となったあの人。堕落者になったせいなのか過去のことを忘れてしまっているのはとても悲しいことで……助けたいと思ったのに助けられなかったから。
せめてイェルズは助けたい。
「邪魔はさせない……消えろ!」
「もー! 退いて!!」
奥へと向かう彼女達の前に立ち塞がるように小型狂気。それをセツナとリューリが薙ぎ払い……どれくらい走っただろうか。
一番奥の一際広い病室。古びたベッドの上。黒い霧が漂う中……赤毛の人物が横たわっていた。
「イェルズさん……!?」
慌てて駆け寄るセツナ。その姿にギクリとする。
横たわるイェルズは酷く青白く、眠っているように見えたが……上半身と左目が包帯に覆われ――そして左腕は上腕を少し残して跡形もなく消えていた。
「酷い怪我……。でも手当てされていますね。一体誰が……」
「……アレクサンドルしかいないだろうね」
「何故アレクサンドルが……?」
「理由までは分からないけど……アレクサンドルさん、前は軍医だったんだよね。怪我人を放っておけなかったとかかな」
不思議そうな顔をしているセツナに答えたルシオ。続いたリューリに頷くと、彼女はそっとイェルズに触れる。
「良かった。まだ息はある。でも大分冷たいな……」
「この場所に置いておいては危険です。早く搬出しましょう」
「そうだね! この怪我で直接担いだら危ないかな。私毛布持って来てるから担架にしよう!」
「お手伝いします!」
バタバタと作業を始めるリューリとセツナ。
ルシオはトランシーバーを手にすると通信を開始する。
「……エラ。エステル。聞こえるかい? こちらルシオだ」
「こちらエラ。通信状態オールクリアです」
「こちらエステルです。聞こえてます」
「イェルズを発見した。まだかろうじて息はあるが一刻を争う。これから彼の搬出に当たる。エステル、救護班の面々に至急2階奥の病室に集合するよう連絡を」
「……! 分かったです!」
「それから、エラ。可能であればアレクサンドルに伝えてくれないか。――イェルズを手当てしてくれてありがとう、と」
「……了解しました。伝えてみます」
「……Stop」
「族長は囮だよ! 食らえ!」
振り下ろした剣がピタリと止まり、攻撃を封じられたバタルトゥ。
その隙をついた海斗の一閃が、アレクサンドルの脇腹に入る。
黒い嵐が吹き荒れる中、何度打ち合っただろうか。
前衛を請け負う海斗、炎、零次、トリプルJとバタルトゥ。そしてつかず離れずのギリギリのやり取りをしているエニアとアルマは既に満身創痍で、動けているのが不思議な状態だった。
「皆、大丈夫!? 今回復するの!」
「……お前が癒し手か。邪魔だ!」
「キャアア!!」
「ディーナ!! くっそ……!」
回復役であるディーナを確実に潰しに来たアレクサンドル。彼女が身を持って作った隙を逃さず、紫苑の鋭い拳が機械腕の最後の1本を跳ね飛ばす。
「おう。十三魔さんよ。自慢の機械腕はぶっ壊れちまったけどどうするよ。降参する気はねえか?」
「ここで逃げられても困るけどねえ。……残念だったね。回復役は彼女だけではないんだよ」
肩で息をする彼を柔らかいな光で包むジェールトヴァ。
彼は注意深くアレクサンドルを観察していたが……Life to LifelessやDeath to Souless、夢物語を使っては来るが、動きに精彩がない。
以前のダメージが残っているのか。それとも、この『禁じ手』の使用はそれなりの代償を伴うものなのか――。
動きが鈍い状態でこれだけ苦戦している。今のうちに倒しておかねばなるまい……。
「炎! 決めて来い!!」
「うおお! 俺は南護炎、歪虚を断つ剣なり!」
紫苑の叫びとともに湧き上がる桜吹雪。それを纏うようにして現れた炎の一撃が腕に決まり、アレクサンドルがくぐもった声をあげる。
「総員に通達。イェルズさんを保護したとの報せが入りました。……十三魔アレクサンドル。仲間から貴方に伝言です。イェルズを手当てしてくれて感謝しているとのことです」
エラの声に目を見開く零次。腕から流れる血を払って体勢を立て直す彼を睨みつける。
「どうしてイェルズを手当てしたりした。お前に何の得がある」
「契約者となった以上、あいつは俺のモノだ。自分のモノをメンテナンスして何が悪い」
「……そのままにして早く死んで貰った方が、先生としては都合が良かったんじゃないの?」
「俺が手当したところであいつの寿命は変わらんさ。精々腐食を防止する程度だ」
エニアの言葉に肩を竦める白衣の歪虚。デルタレイを瓦礫の壁で防がれた智里とアルマは疑問に思っていたことを口にする。
「何故ここを選んだんですか? 本気で勝つつもりなら、選ぶ場所はここじゃないでしょう?」
「思い出も、過去の幸せまで全部自分で否定して壊して、一体何がしたかったです?」
「場所を選んだのに理由などない。俺は歪虚だ。人間を、世界を無に還す。それ以外に何がある」
「……嘘ですよね。それ」
「じゃあ何でリリカさんを、マチリアさんを守ろうとしたですか!?」
「分かったような口をきくな!!」
怒りを露わにするアレクサンドル。激しくなる嵐。バランスを崩しそうになったエニアは咄嗟に踏ん張る。
「わたしはただ、戦いから引いて、2人で過ごす理由になればと……」
「もっと、他に方法は無かったのかよ!」
思いの丈を拳に込める零次。こいつのやっていることは滅茶苦茶だ。
人を想いながら、何故破壊するのか。どうしても理解できないし、許す訳にはいかない――!
「黙れ! 他に方法などあるものか! リリカを殺したのはお前達人間だ!!」
「先生だって人間でしょう……!!」
「Stop。……!?」
「1回で終わると思った? 残念でした」
「これで最後……ッ!!」
放たれるエニアの水球。1つめは止められたが、同時に詠唱して生み出されていた2つ目が直撃する……!
黒い嵐を切り割くように照らす鮮やかな蒼い炎。アルマの抱く心全てを解放し、ただ真っ直ぐに――。
そして現れた無数の氷柱。それを防ぐこともできず……災厄の十三魔の身体に全て突き刺さった。
「が……あッ……! まだだ……! 俺はまだ……リリカと……マティリアの仇を……!」
「……貴方は十分に戦ったの。もう休むの、アレックス」
ジェールトヴァに支えられたディーナの呟き。
何かを求めるように空を掻くアレクサンドル。塵になり消えて行く彼をアルマは瞬きもせずに見つめ続けて――。
「……あの人は夢見たここで終わって、眠りたかったんじゃないでしょうか」
「そうだね……。ずっとリリカさんのことを想ってたから……」
智里の呟きに頷くエニア。アルマの瞳から、ポロリと涙が零れた。
救出班の面々は合流した後、イェルズを担ぎ、襲い来る黒い嵐と小型歪虚を振り払い――何とか脱出することに成功していた。
「イェルズ……! お願い目を開けて……」
抱きつきたいのを堪えて、イェルズの残った右手を握るラミア。
酷く冷たい手。今にも消えそうな命の灯火。イェルズの状態にボルディアが顔を顰める。
「手当はされてるがこいつは……まさに虫の息だね」
「ここまで衰弱が酷いとお水飲めそうにないね……」
「うん。効くかどうか分からないけど回復してみよう」
リューリが彼の身体をそっと毛布で包むと、イスフェリアが祈りを捧げ……彼が暖かな光に包まれる。
セツナと蜜鈴は少し後方で、イェルズを注意深く観察していた。
――もし、このままアレクサンドルが討伐できず、歪虚化するようなら彼を倒さなくてはならない。
その役目をバタルトゥに担わせてはならない……。
そして柊羽は、周囲の警戒に当たっていた。
玲やドロシー達も近くで戦っている。討ち漏らしたり、新たに出現した歪虚が襲ってくるかもしれない。
この人を守る為に、出来ることを……!
エステルと朝騎は、ただただ必死に赤毛の青年に呼びかけていた。
「イェルズさん、しっかりしてくださいです。バタルトゥさんがとても心配してました」
「そうでちゅよ。森山艦長もメタ・シャングリラのみんなもイェルズさんのこと心配してまちたよ。みんな助けに来たがってたけど来られなくて……だから朝騎が代わりに来たでちゅ」
「頑張ってください……。気を強く持って……」
「帰ってみんなを安心させまちょう。イェルズさんはオイマト族の立派な戦士なんでちゅから……」
イェルズはその声をどこかぼんやりとしながら聞いていた。
――誰かに呼ばれてる?
「若造が何故こんなところにおるのじゃ。ここに来るのはまだ早い。戻れ……」
――シバ様……?
懐かしい深い声。大きな手に背中を押されて――視界が真っ白な光に包まれる。
ふと目を開けると……泣いているラミアの顔が見えた。
「……イェルズ!!」
「……? ラミア……さん?」
「動いたらダメだよ」
彼女が何故泣いているのか分からずに起き上がろうとしたイェルズを制止するイスフェリア。
ふと、後ろにいる戦友の名を呼ぶ。
「……ルシオ……さん……エン、ドレスは……?」
「何の心配も要らないよ。シバの仇は必ず討つ」
共にあの人を追い込んだ悪夢を終わらせに行きたかったけれど……君の思いは私が持って行こう。
ルシオは安心させるようにイェルズの髪を撫でた。
「……先生、今頃リリカさんとマティリアとお茶でもしてるかな」
「そう、ですね。そうだと良いですね……」
「アルマさん、泣いてるの……?」
「おいおい、しっかりしてくれよ。喜ぶべきとこだぞここは」
エニアの呟きにごしごしと目をこするアルマ。心配そうなリューリと茶化す紫苑に、にっこりと笑みを返す。
「……大丈夫。敵の前で泣くのはこれで最後にします」
最期まで分かり合えなかったのは残念だけれど――あの人なりの信念は貫いた。
――お疲れ様でした。おやすみなさい……アレックスさん。
こうして、災厄の十三魔『天命輪転』アレクサンドル・バーンズは討伐され、辺境部族大首長の補佐役であるイェルズは無事に救出された。
イェルズは左腕と左目を失う結果になったけれど……契約は解除された為、覚醒者としての力も取り戻すだろう。
ハンター達はまた一つ試練を乗り越えて――コーリアスの予言じみた言葉を思い出すのだった。
災厄の十三魔、アレクサンドル・バーンズ。
――元軍医だった彼は、最悪な形で大切な少女を喪った。
それから30年以上の間、少女を喪う切欠となった人間達に復讐を続けてきたのだろう。
……歪虚になってなお、リリカやマティリアを大切に思う『人間らしさ』を忘れなかった人だ。
歪虚としての存在の『歪み』と、人としての『情』の間に人知れず苦しんでいたのではないか。
情が深かったからこそ、人への絶望も深かったのでは……。
その答えを、最早知る術はないけれど――。
廃病院を前にしたバタルトゥ・オイマト(kz0023)は、本当に珍しく怒りを露わにしていた。
――いや、本人は隠しているつもりなのかもしれないが。
怒りに燃える目。今まで見たことがなかったそれに、東方でかつて関わったあの人を思い出して涙目になるエステル・ソル(ka3983)。
一人で抱え込むのは良くない、とか。あなたを手伝いたい、とか。色々言いたいことはあったはずなのに上手く言葉にならない。
そんなエステルの心情を察してか、イスフェリア(ka2088)が彼女の青い髪を撫でて……バタルトゥを見上げる。
「バタルトゥさん、わざわざリアルブルーに渡って来るなんて……何かあったの?」
「……言っただろう。歪虚を殲滅しに来た……」
「本当にそれだけかえ? おぬしが大首長の立場を放って出た理由に得心が行かぬ」
無言を返すバタルトゥをじっと見つめる蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)。
――彼は元々必要以上に責任感の強い人間だ。
たとえ一族の者……それが補佐役であったとて特別扱いはしない。大首長の立場を優先する筈だ。
そんな友人がこの地にまで来た『理由』は何か他にあるはず……。
付き合いの長い妾をそう簡単に誤魔化せると思うでないぞ――そんな声が聞こえて来そうな蜜鈴の空色の瞳。
バタルトゥは諦めようにため息をつくと、重々しく口を開く。
「……イェルズが『契約者』となった」
「契約者……?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる氷雨 柊羽(ka6767)。エステルは息を飲んで、バタルトゥの怒りの理由を察して目を伏せる。
「……契約者は歪虚に愛された存在というか、歪虚の卵みたいな感じだって聞いたです。人間が歪虚化するには高位の歪虚と『契約』を結ぶ必要があるって……」
『契約者』の段階で契約元の歪虚を討伐すれば、契約は強制解除され人間に戻ることが出来るが、『契約者』の段階で死亡した場合、自動的に『堕落者』となる。
そう続けたエステルに紫月・海斗(ka0788)が空を仰ぐ。
「随分面倒くせえことになってんなぁオイ」
「……バタルトゥ。一つ聞きたい。このまま放っておいたらイェルズは歪虚化するんだね?」
「そうだ。一度歪虚になれば、もう元に戻ることはない」
「逆に言えばアレクサンドルを討伐すれば元に戻るが、それまでイェルズ君が持つかどうかだね……」
「時間勝負だな……」
確認するルシオ・セレステ(ka0673)に頷くバタルトゥ。
ジェールトヴァ(ka3098)の静かな声に、コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が苛立たし気に呟く。
トリプルJ(ka6653)はため息をつくと、オイマト族の族長をチラリと見る。
「族長さんよ。あんた予定通りアレクサンドルをぶっ倒しに行くんでいいのか?」
「……ああ。あれを最短で倒す。それでなお、イェルズも歪虚化していた場合は……」
「そんなことさせない。絶対に」
「……気持ちは有り難いが、歪虚化していたら迷わず黄泉地へ送る。……それがオイマト族の族長としての俺の務めだ」
「そんな……そんなのって……」
バタルトゥの言葉を遮ったラミア・マクトゥーム(ka1720)。
族長の悲壮な覚悟に目を伏せるイスフェリア。エステルの大きな目から涙が零れる。
「……了解。あんたの意向は理解した。ただし落ち着いてくれよ。今のあんたとじゃ俺すらいい勝負が出来そうだ」
バタルトゥの胸を拳で小突くトリプルJを見ながら、リューリ・ハルマ(ka0502)はぼんやり考えていた。
――契約かぁ。燕太郎さんも誰かと契約してああなったんだよね……。
「リューリさん、どうかしました?」
「ん? ううん。何でもないよ」
心配そうに声をかけてきたレギ(kz0229)に、笑みを返すリューリ。思い出したように口を開く。
「そういえばレギ君はセトさんのこと知ってるんだってね。お友達から聞いたよ」
「……知ってるも何も。セトは僕の兄ですから」
目を見開くリューリ。似ているとは思っていたが、まさか血縁だったとは……。
彼に話をしなくてはならないことがある。でも、今は――。
「そっかぁ……。その話はまた今度ゆっくりしようね」
頷くレギ。そうだ。ここに来たのはお世話になったあの人を助ける為だ。個人の感傷に浸っている場合ではない。
そしてその横では占術を始めた北谷王子 朝騎(ka5818)が符を手にしたまま難しい顔をしていた。
「どうですか? 何か分かりましたか?」
「はいでちゅ。病院の中に歪虚がいっぱいいるでちゅ」
「それは、占わなくても分かることなのでは……」
「それだけじゃないでちゅよ! 上の方にいるかな……? という気がするでちゅ」
セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)のツッコミに朝騎が慌てて占いの結果を補足する。
「それじゃ紫苑さんの言う通り予定通り上を目指すんでいいのかな」
「ああ。禁じ手の中心に居ると思うんだよな、あの野郎」
小首を傾げるディーナ・フェルミ(ka5843)に頷く仙堂 紫苑(ka5953)。
こういう技は、何か特殊な装置でも設置しない限りは本人を中心に広がるもんだ、と続けた彼に、エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)も同意を示す。
「同感ですね。もし装置を見つけた場合には各員速やかに報告を。何が罠に繋がるか分かりませんので迂闊に破壊しないようにしてください」
「了解した。……急ごう。事態は一刻を争う」
「妙な罠がないことを願うばかりだな」
「ったく回りくどいことする奴だねえ! 行くよ!!」
アーク・フォーサイス(ka6568)とクラン・クィールス(ka6605)の呟きに頷く仲間達。
駆け出したボルディア・コンフラムス(ka0796)の後を追うようにして、ハンター達も移動を開始する。
「イェルズ……。必ず助けるからね」
ラミアは祈るように胸のペンダントに触れると、その後に続いた。
病院の前庭に現れた歪虚と戦闘を開始した玲達の脇をすり抜けるようにして病院に突入したハンター達。
一歩足を踏み入れたその先は……黒い霧のようなものが立ち込めていた。
「……何だこれ!? 息吸って大丈夫かよ」
息苦しさを感じて顔を顰めるトリプルJにアルマ・A・エインズワース(ka4901)が淡々と答える。
「アレックスさんの禁じ手ですよ。動けなくなるですから吸い込み過ぎないように気を付けてください」
「要するに広範囲に毒みたいのを撒き散らしてるってことか」
「厄介やねぇ……。でもなんで今までこの技を使わへんかったんやろうか」
南護 炎(ka6651)とレナード=クーク(ka6613)の呟きに目を伏せるアルマ。
彼は一度……過去の記録で、アレクサンドルがこの技を使ったのを見たことがある。
そして、その技を見たリリカは悲しみながら命を落とした。
――今までこれを使わなかったのはきっと。あの事件が関係している。
「それじゃ一気に3階まで駆け上がろうぜ」
「ああ、ダメ! ダメですよ零次さん!」
「何でだよ! 急いでるんだろ!?」
「アレクサンドルがどんな罠仕掛けてるか分からないんですから……! 敵に遭遇する前に罠で動けなくなったら本末転倒ですよ!」 真っ直ぐ階段を目指そうとする輝羽・零次(ka5974)を慌てて止める穂積 智里(ka6819)。
冷静な指摘に、零次は悔しそうに唇を噛む。
――そう。アレクサンドルはとても狡猾だ。動きに無駄がない。
病院のどこか……いや、この病院自体を操って来る可能性もある。
「急ぐのも大切だが、周囲の警戒も忘れずにね。……さあ、行くとしよう」
ジェールトヴァの声に頷く総員。彼の言う通り、曲がり角、天井、床――ありとあらゆる場所に注意を払って進む。
黒い霧が覆う中、階段を見つけたハンター達。
そして彼らに誘われるように小型狂気がゆっくりとやってきた。
「……早速来たか。雑魚は引き受ける!」
銃を構えるコーネリア。素早い動きで歪虚を撃ち抜いて行く。
討伐班が交戦状態入る一方、イェルズ探索班は3チームに分かれて行動を開始した。
「こういうまどろっこしいことは苦手なんだけどね……」
「仕方ないよ。罠が発動してイェルズさん巻き込んだら大変だもん」
「そうじゃな……。全く心配かけよってからに……」
「あまり怒らないであげてください。こうなったのは僕にも責任の一端があるので」
ぶつぶつ呟きながら周囲を警戒するボルディアを棒で壁を突きながら宥めるイスフェリア。
同じく床を棒でつつく蜜鈴に、レギが申し訳なさそうな顔をする。
「そうだね。わたしもあの場にいたけど……イェルズさんが咄嗟にあの行動に出なかったら、もっと沢山の死傷者が出てたと思う」
「己の身を顧みないところまで族長を真似せんでもよいわ。無事保護したら説教しよる」
イスフェリアにピシャリと言い返す蜜鈴。これも心底案ずるが故の怒りなのだろう。
それに無言を返して……ボルディアは担当している1階の天井を仰ぐ。
……こういうことになった以上、今更アレクサンドルに言いたいこともない。
最早聞く耳も持たないだろう。
自分に出来るのは、あの歪虚のせいで死ぬ人間をこれ以上増やさないようにするだけ――。
罠を警戒しながら移動する為、あまり速度は出ないが……これまで見て来た病室にイェルズはいなかった。
「1階にはいないのかな……」
「まだ何部屋かありますし、きちんと見て回りま……」
仲間達にレジストをかけ直しながら言うイスフェリア。言いかけたレギを、ボルディアが手で制止する。
聴覚を極限まで高めた彼女は、聞き覚えのある音を拾って顔を顰めた。
「……小型狂気がお出ましみたいだ。あんた達構えな」
「こちらも急いでおる。さっさとお帰り戴くとしようかのう」
奥から飛来する小型狂気に、蜜鈴は剣呑な目を向けて――。
その頃、討伐班は階段を使って3階に到達していた。
濃密な黒い霧と強い風に零次と炎が苦しげに顔を歪める。
「くそ、何だこれ……! まるで嵐じゃないか」
「気持ち悪くなって来やがるな……」
「お二人とも大丈夫? 回復するの」
「待ってろ。今白虹をかけ直す」
てきぱきと対応するディーナと紫苑。智里は灯火の水晶球の灯りを操作しながらため息をつく。
「……ダメですね。霧が濃くて灯りが通らないです」
「いやはや。こうも視界を塞がれると罠を調べるのは現実的ではないね。まるで黒い嵐だ。エラさん、他の階はどうかな。罠の報告はあったかい?」
「今のところは何も。狂気の歪虚に行方を阻まれているそうですが……」
足元を見ながら確認するジェールトヴァに答えるエラ。
1階や2階の階段にはアレクサンドルのものらしき足跡が残っていたが、ここまで上がって来ると足元も霧で霞んでいる。
霧が濃く、風が段々強くなっているのには、何か理由があるはずで――。
「なあ。これ、紫苑の読みが当たってるんじゃねえのか?」
「……もしかしたら、この『禁じ手』自体が『罠』なのかもしれないね」
トリプルJの推測に頷くエニア。
視界を塞ぎ、動けなくする効果のある霧。そして吹き付ける強い風。
自分達はハンター達の中でも精鋭ゆえ何とか動けているが、初心者ハンターが吸い込めば動くこともままなるまい。
「そうだとしたら単純で助かるんだけどよ」
「黒い嵐の中心を目指すですよ。そこにきっとアレックスさんがいるはずです。うちの参謀が言うことなら間違いないです」
紫苑のボヤキに妙な自信を持って答えるアルマ。
そこにコーネリアの鋭い声が聞こえて来る。
「おい! 新手が来てるぞ!!」
続く銃撃。彼女の狂いのない狙撃は的確に小型狂気を消したが……その後ろから更に複数の気配を感じて、クランが切るような鋭い目線を送る。
「……数が多いな」
「俺達で対応しよう。レナード行けるか?」
「勿論や! 任せとき!」
刀を抜きながら言うアークに強く頷くレナード。
――黒い嵐が吹き荒れる中、どこまで出来るか分からない。けれど……俺の持つ力全てを使って、支え動かなくては……!
エステル、ラミア、柊羽の3人は討伐班と別れ、3階の探索を開始していた。
仲間達は黒い嵐の中心を目指すと言っていた。
ここも十分に嵐が強いが……イェルズを探すのが最優先だ。アレクサンドルに遭遇する可能性もあるが、構っていられない。
襲い来る小型狂気を矢で撃ち抜いた柊羽は、ふっと短くため息をついた。
柊羽自身、イェルズとは1回、依頼でお世話になっただけだ。
彼のことをあまり知らない。でもだからこそ、また一緒に依頼に行けたらいいと思っていた。
その為にもまだ死んでもらっては困る……!
――イェルズさん、すぐに助けに行きます。待っていてください。
エレメンタルコールでイェルズに呼びかけるエステル。
……バタルトゥが、補佐役が歪虚の卵の状態であると言っていた。
現状、覚醒者ではないかもしれず、この声が届いているかどうかも分からないが。
それでも、届く可能性があるのなら諦めない……!
祖霊を身に宿し、嗅覚を大幅に上昇させたラミアは、病室に入るなり踵を返した。
「ラミアさん、調べなくていいです?」
「……ここにはいない」
「え?」
「イェルズの匂いがしない。ここは違う」
断言したラミアに目をぱちくりとさせるエステル。柊羽がドアから入って来ようとした小型狂気を撃ち抜きながら口を開く。
「……何でイェルズさんの匂いが分かるんだ?」
「えっ。それはその……この間一緒に出掛けたし……」
素朴な疑問に目が泳ぐラミア。エステルはその理由に思い当って、目を輝かせる。
「特別に好きですね! 分かるです!」
「ちょっ。まっ。だから……! 次! 次行くよ!!」
動揺を覚られまいとするラミア。そこに飛来した小型狂気を八つ当たりとばかりに掴んで床に叩きつけた。
奥へ奥へと進む討伐班の面々。
進めば進むほど黒い嵐の勢いは増し、小型狂気の数が飛躍的に増えて行く。
紫苑の支援で対策はしていたが、それでも長時間このままでは抵抗が難しくなることが予想された。
「くっそ。どこにいやがるあの野郎……!」
「そろそろだと思うんだが……」
舌打ちする海斗に、小型狂気を叩き伏せながら言う炎。
厳しさを増す嵐。数が減る様子のない歪虚。
アークは意を決したように仲間達を振り返る。
「こう手数が多くてはアレクサンドルに会えても厳しいだろう。だから……」
「……ここは俺が引き受けるって言うんだろ。付き合うぜ、アーク」
「しかし、お前達はアレクサンドルを……」
「何や水臭い! 僕もお手伝いするで!」
クランに言葉を奪われて目を見開くアーク。続いたレナードの言葉に、諦めたようにため息をついて……コーネリアは歪虚に銃弾を叩き込みながら3人を一瞥する。
「話はまとまったか? 新手が来る。迎撃するぞ!」
「了解。さて、俺達の見せ場かね」
「そやね。気張るとしよか。あ、皆遠慮せえへんで先に行っとくんなはれ」
「すみません。なるべく早くアレクサンドル倒して戻ってきます!」
「皆、無理しないでなのー!」
「了解。エラ! 悪いが俺達の作戦を引き継いでくれ!」
「了解しました」
クランとレナードに申し訳なさそうに頭を下げる智里とディーナ。
空間を切り割くレナードの雷撃を背景に舞うように敵を斬るアークに頷くエラ。
次の瞬間。ゆらりと黒い嵐が揺れて……暗闇に、茶色の目が浮かび上がった。
「……誰が誰を倒すって?」
「出やがったなアレクサンドル!」
零次の叫び。刹那、駆け抜ける風。彼が踏み込むより早くバタルトゥが飛び込み、双剣を振り下ろす。
「誰かと思えば……辺境部族の大首長殿じゃないか。補佐役の為にわざわざ出張ってくるとはご苦労なこった」
「……黙れ!」
バタルトゥの怒りに燃える目。目まぐるしい速さで振われる剣を、十三魔の機械腕が受け止め、受け流す。
「おいぃ! 族長! いきなりツッコむのなしって言っただろおおおお!!?」
頭を抱えるトリプルJ。まあ、言って止まるくらいならここまで来てないか……。
良く見れば、十三魔相手にギリギリ均衡を保っている。長くは続かないだろうが、これはチャンスとも言える。
「畳みかけるなら今だね」
「そうだな。よし、行ってこい!」
「人を鉄砲玉みたいに言うんじゃねえよ!」
ジェールトヴァの呟きに頷く紫苑。言い返す海斗に与えられたオーラ状の障壁。他の前衛にも紫苑のマテリアルが注ぎ込まれる。
暗闇に浮かぶアレクサンドルの姿。見慣れているが……いつもと違う様子のそれに、アルマは冷たい眼差しを向けた。
「僕を正気に戻してくれて、ありがとう。そして、『初めまして』……災厄の十三魔アレクサンドル。貴方の正義を認め、その上で殺します」
「ほう? 甘っちょろいお前さんに出来るのか?」
「できますよ。僕は『魔王の卵』ですから」
その返答に目を見開いた十三魔。くつくつと心底愉快そうに笑う。
大きな鎌を持ったエニア。暗闇に立つ彼はまるで死神のようで……。
「話したい事、色々あるけど……先生。今度こそ終わりにしよう」
「……坊やが随分と大きく出たな。面白い。どこまで俺に迫れるか見せてみろ……!」
その頃。ボルディアやラミアと同様に超嗅覚を使って2階を探索していたリューリは若干の違和感を感じていた。
ここにも、勿論黒い霧が立ち込めているし、小型狂気も出没する。
他の場所では陳臭かったり、埃の匂いがしたりするのだが……微かに異質な匂いがするのだ。
「……何か分かりましたか?」
向かい来る小型狂気を鬼の如き迫力で切り捨てて行くセツナ。それにリューリは考えながら口を開く。
「うん。何て言うか……違う匂いがするんだよ」
「それはどういう匂いですか?」
「なんていうのかな……。お酒に近い匂いなんだけど、ちょっと違うような気もするし……」
適切な表現が思いつかずに言い淀むリューリ。床をライトで照らしていたルシオから息を飲む声がした。
「ルシオさん、どうかした?」
「これは血痕ではないだろうか」
足元を指差すルシオ。黒い霧で視界が悪い中、目を凝らすと……そこには赤黒く変色した染みがあり、確かに乾いた血のように見えた。
「彼はこの階にいるのかもしれないね。リューリ、その匂いはどこからするか分かるかい?」
「多分だけど、この奥だと思う」
「急ぎましょう……!」
セツナの声に頷くルシオ。リューリは2人を案内するように走り出す。
――過去の記録で、青木が契約者から堕落者になっていく様を見た。
仲間を助ける為に契約者となったあの人。堕落者になったせいなのか過去のことを忘れてしまっているのはとても悲しいことで……助けたいと思ったのに助けられなかったから。
せめてイェルズは助けたい。
「邪魔はさせない……消えろ!」
「もー! 退いて!!」
奥へと向かう彼女達の前に立ち塞がるように小型狂気。それをセツナとリューリが薙ぎ払い……どれくらい走っただろうか。
一番奥の一際広い病室。古びたベッドの上。黒い霧が漂う中……赤毛の人物が横たわっていた。
「イェルズさん……!?」
慌てて駆け寄るセツナ。その姿にギクリとする。
横たわるイェルズは酷く青白く、眠っているように見えたが……上半身と左目が包帯に覆われ――そして左腕は上腕を少し残して跡形もなく消えていた。
「酷い怪我……。でも手当てされていますね。一体誰が……」
「……アレクサンドルしかいないだろうね」
「何故アレクサンドルが……?」
「理由までは分からないけど……アレクサンドルさん、前は軍医だったんだよね。怪我人を放っておけなかったとかかな」
不思議そうな顔をしているセツナに答えたルシオ。続いたリューリに頷くと、彼女はそっとイェルズに触れる。
「良かった。まだ息はある。でも大分冷たいな……」
「この場所に置いておいては危険です。早く搬出しましょう」
「そうだね! この怪我で直接担いだら危ないかな。私毛布持って来てるから担架にしよう!」
「お手伝いします!」
バタバタと作業を始めるリューリとセツナ。
ルシオはトランシーバーを手にすると通信を開始する。
「……エラ。エステル。聞こえるかい? こちらルシオだ」
「こちらエラ。通信状態オールクリアです」
「こちらエステルです。聞こえてます」
「イェルズを発見した。まだかろうじて息はあるが一刻を争う。これから彼の搬出に当たる。エステル、救護班の面々に至急2階奥の病室に集合するよう連絡を」
「……! 分かったです!」
「それから、エラ。可能であればアレクサンドルに伝えてくれないか。――イェルズを手当てしてくれてありがとう、と」
「……了解しました。伝えてみます」
「……Stop」
「族長は囮だよ! 食らえ!」
振り下ろした剣がピタリと止まり、攻撃を封じられたバタルトゥ。
その隙をついた海斗の一閃が、アレクサンドルの脇腹に入る。
黒い嵐が吹き荒れる中、何度打ち合っただろうか。
前衛を請け負う海斗、炎、零次、トリプルJとバタルトゥ。そしてつかず離れずのギリギリのやり取りをしているエニアとアルマは既に満身創痍で、動けているのが不思議な状態だった。
「皆、大丈夫!? 今回復するの!」
「……お前が癒し手か。邪魔だ!」
「キャアア!!」
「ディーナ!! くっそ……!」
回復役であるディーナを確実に潰しに来たアレクサンドル。彼女が身を持って作った隙を逃さず、紫苑の鋭い拳が機械腕の最後の1本を跳ね飛ばす。
「おう。十三魔さんよ。自慢の機械腕はぶっ壊れちまったけどどうするよ。降参する気はねえか?」
「ここで逃げられても困るけどねえ。……残念だったね。回復役は彼女だけではないんだよ」
肩で息をする彼を柔らかいな光で包むジェールトヴァ。
彼は注意深くアレクサンドルを観察していたが……Life to LifelessやDeath to Souless、夢物語を使っては来るが、動きに精彩がない。
以前のダメージが残っているのか。それとも、この『禁じ手』の使用はそれなりの代償を伴うものなのか――。
動きが鈍い状態でこれだけ苦戦している。今のうちに倒しておかねばなるまい……。
「炎! 決めて来い!!」
「うおお! 俺は南護炎、歪虚を断つ剣なり!」
紫苑の叫びとともに湧き上がる桜吹雪。それを纏うようにして現れた炎の一撃が腕に決まり、アレクサンドルがくぐもった声をあげる。
「総員に通達。イェルズさんを保護したとの報せが入りました。……十三魔アレクサンドル。仲間から貴方に伝言です。イェルズを手当てしてくれて感謝しているとのことです」
エラの声に目を見開く零次。腕から流れる血を払って体勢を立て直す彼を睨みつける。
「どうしてイェルズを手当てしたりした。お前に何の得がある」
「契約者となった以上、あいつは俺のモノだ。自分のモノをメンテナンスして何が悪い」
「……そのままにして早く死んで貰った方が、先生としては都合が良かったんじゃないの?」
「俺が手当したところであいつの寿命は変わらんさ。精々腐食を防止する程度だ」
エニアの言葉に肩を竦める白衣の歪虚。デルタレイを瓦礫の壁で防がれた智里とアルマは疑問に思っていたことを口にする。
「何故ここを選んだんですか? 本気で勝つつもりなら、選ぶ場所はここじゃないでしょう?」
「思い出も、過去の幸せまで全部自分で否定して壊して、一体何がしたかったです?」
「場所を選んだのに理由などない。俺は歪虚だ。人間を、世界を無に還す。それ以外に何がある」
「……嘘ですよね。それ」
「じゃあ何でリリカさんを、マチリアさんを守ろうとしたですか!?」
「分かったような口をきくな!!」
怒りを露わにするアレクサンドル。激しくなる嵐。バランスを崩しそうになったエニアは咄嗟に踏ん張る。
「わたしはただ、戦いから引いて、2人で過ごす理由になればと……」
「もっと、他に方法は無かったのかよ!」
思いの丈を拳に込める零次。こいつのやっていることは滅茶苦茶だ。
人を想いながら、何故破壊するのか。どうしても理解できないし、許す訳にはいかない――!
「黙れ! 他に方法などあるものか! リリカを殺したのはお前達人間だ!!」
「先生だって人間でしょう……!!」
「Stop。……!?」
「1回で終わると思った? 残念でした」
「これで最後……ッ!!」
放たれるエニアの水球。1つめは止められたが、同時に詠唱して生み出されていた2つ目が直撃する……!
黒い嵐を切り割くように照らす鮮やかな蒼い炎。アルマの抱く心全てを解放し、ただ真っ直ぐに――。
そして現れた無数の氷柱。それを防ぐこともできず……災厄の十三魔の身体に全て突き刺さった。
「が……あッ……! まだだ……! 俺はまだ……リリカと……マティリアの仇を……!」
「……貴方は十分に戦ったの。もう休むの、アレックス」
ジェールトヴァに支えられたディーナの呟き。
何かを求めるように空を掻くアレクサンドル。塵になり消えて行く彼をアルマは瞬きもせずに見つめ続けて――。
「……あの人は夢見たここで終わって、眠りたかったんじゃないでしょうか」
「そうだね……。ずっとリリカさんのことを想ってたから……」
智里の呟きに頷くエニア。アルマの瞳から、ポロリと涙が零れた。
救出班の面々は合流した後、イェルズを担ぎ、襲い来る黒い嵐と小型歪虚を振り払い――何とか脱出することに成功していた。
「イェルズ……! お願い目を開けて……」
抱きつきたいのを堪えて、イェルズの残った右手を握るラミア。
酷く冷たい手。今にも消えそうな命の灯火。イェルズの状態にボルディアが顔を顰める。
「手当はされてるがこいつは……まさに虫の息だね」
「ここまで衰弱が酷いとお水飲めそうにないね……」
「うん。効くかどうか分からないけど回復してみよう」
リューリが彼の身体をそっと毛布で包むと、イスフェリアが祈りを捧げ……彼が暖かな光に包まれる。
セツナと蜜鈴は少し後方で、イェルズを注意深く観察していた。
――もし、このままアレクサンドルが討伐できず、歪虚化するようなら彼を倒さなくてはならない。
その役目をバタルトゥに担わせてはならない……。
そして柊羽は、周囲の警戒に当たっていた。
玲やドロシー達も近くで戦っている。討ち漏らしたり、新たに出現した歪虚が襲ってくるかもしれない。
この人を守る為に、出来ることを……!
エステルと朝騎は、ただただ必死に赤毛の青年に呼びかけていた。
「イェルズさん、しっかりしてくださいです。バタルトゥさんがとても心配してました」
「そうでちゅよ。森山艦長もメタ・シャングリラのみんなもイェルズさんのこと心配してまちたよ。みんな助けに来たがってたけど来られなくて……だから朝騎が代わりに来たでちゅ」
「頑張ってください……。気を強く持って……」
「帰ってみんなを安心させまちょう。イェルズさんはオイマト族の立派な戦士なんでちゅから……」
イェルズはその声をどこかぼんやりとしながら聞いていた。
――誰かに呼ばれてる?
「若造が何故こんなところにおるのじゃ。ここに来るのはまだ早い。戻れ……」
――シバ様……?
懐かしい深い声。大きな手に背中を押されて――視界が真っ白な光に包まれる。
ふと目を開けると……泣いているラミアの顔が見えた。
「……イェルズ!!」
「……? ラミア……さん?」
「動いたらダメだよ」
彼女が何故泣いているのか分からずに起き上がろうとしたイェルズを制止するイスフェリア。
ふと、後ろにいる戦友の名を呼ぶ。
「……ルシオ……さん……エン、ドレスは……?」
「何の心配も要らないよ。シバの仇は必ず討つ」
共にあの人を追い込んだ悪夢を終わらせに行きたかったけれど……君の思いは私が持って行こう。
ルシオは安心させるようにイェルズの髪を撫でた。
「……先生、今頃リリカさんとマティリアとお茶でもしてるかな」
「そう、ですね。そうだと良いですね……」
「アルマさん、泣いてるの……?」
「おいおい、しっかりしてくれよ。喜ぶべきとこだぞここは」
エニアの呟きにごしごしと目をこするアルマ。心配そうなリューリと茶化す紫苑に、にっこりと笑みを返す。
「……大丈夫。敵の前で泣くのはこれで最後にします」
最期まで分かり合えなかったのは残念だけれど――あの人なりの信念は貫いた。
――お疲れ様でした。おやすみなさい……アレックスさん。
こうして、災厄の十三魔『天命輪転』アレクサンドル・バーンズは討伐され、辺境部族大首長の補佐役であるイェルズは無事に救出された。
イェルズは左腕と左目を失う結果になったけれど……契約は解除された為、覚醒者としての力も取り戻すだろう。
ハンター達はまた一つ試練を乗り越えて――コーリアスの予言じみた言葉を思い出すのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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依頼相談掲示板 | |||
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選択肢表明 エステル・ソル(ka3983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/10/17 22:46:08 |
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質問卓 エステル・ソル(ka3983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2017/10/18 01:05:46 |
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選択肢1:アレクサンドル討伐 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/10/20 18:06:20 |
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選択肢2:イェルズ救出 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2017/10/20 14:28:55 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/10/17 22:40:25 |