ゲスト
(ka0000)
【星罰】これまでの経緯




うーん。なにやら厄介な状況になったような、そうでもないような。
願ったり叶ったりと言ってしまってもいい気はしますね。
既に邪神戦争が終わった今、私達が歩むべき未来が何か。
残すべきもの、残してはいけないもの。それを考えるいい機会です。
帝国皇子:カッテ・ウランゲル(kz0033)
更新情報(10月25日更新)
過去の【星罰】ストーリーノベルを掲載しました。
【星罰】ストーリーノベル
●「もうひとつの決断」(9月12日更新)

ヴィルヘルミナ・ウランゲル
ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)がぴしゃりと言い放つと、ヒルデブラント・ウランゲルは困った様子で顎髭を撫でた。
もうこんな問答を随分と繰り返しているが、妥協点が見えてこない。
帝都、バルトアンデルス城の応接室で彼らが顔を合わせるのはもう五度目になる。
「私は元ヴルツァライヒも等しくただの罪人として扱う。当たり前に彼らの人権を保証し、当たり前に彼らにはこの国の一員として働いてもらう」
ヴィルヘルミナは皇帝として当然の扱いをする。
先の邪神戦争では、ヴルツァライヒやらそれに与する絶火の騎士やらも国土防衛に参加した。
彼らは憂国の士であって、国そのものが無くなっていいとは考えていない。
故に共闘し、守った。そしてその功績は認められ、元ヴルツァライヒの多くは帝国の一員として働くことを了承した。
この国はこれから民主化に向かって大きく動き出す。
国に不満があるのなら正しく議席を奪い取り、正しくこの国を導く健全な競争をすればよい。
「故に、決闘はしない」
「だがな、結局戦って白黒つけねぇと納得しないって連中がいるんだよ。そういうやつらはどうすんだ? またテロリストに逆戻りだぞ」 「くどい」
腕を組み、一刀両断。
肩をすくめるヒルデブラントに、白い騎士の英霊――自称、本物のナイトハルト・モンドシャッテが言う。
「悪い相談じゃないだろう? 今戦争すれば、絶対に勝つのは現政府だ。不穏分子を一掃するチャンスじゃないか。国家安泰だよ?」
心底不思議そうなナイトハルト(仮)に、ヴィルヘルミナは渋い溜息を零す。
「貴様は心底そういう男なのだな、征服者。効率が最優先で、善も悪もない」
「最高の褒め言葉だ。嫁もよく同じ言葉と共に刃を手向けてくれたものさ」
「お前さんの時代そんなヤツばっかなの?」
「全仲間に3回ずつくらいは殺されかけてるよ。アレクサンダーは1回だけだから、彼はいいやつ。脳筋のくせに魔法使いたがる変人だったなあ。神なんているわけないじゃんって言ったらガチギレしてた」

カッテ・ウランゲル
カッテ・ウランゲル(kz0033)の考え方はナイトハルト(仮)に近いが、意見は少し違う。
ヒルデブラント率いる「残党」とも呼ぶべき人々は、どこにも根を下ろせずに彷徨い続けている。
現政府には勝てない。仲間もどんどん離れていく。
もう革命を起こしてやろうなんて心意気のあるやつはいないのだ。彼らは放っておいても自然消滅するだろう。
つまりヴルツァライヒという組織の絞りカスは、既にこの国の脅威足り得ない。
そういう着地点もコミコミで、ヒルデブラントやナイトハルト(仮)は活動しているはずだ。
(ので。私としてはどちらでもよいのですが――)
ヴィルヘルミナの考えは違うだろう。
そうやって勝手に残党が消え去って終わるような、そんな決着は望んでいない。
けれども彼らをなで斬りにしてハイ終了というのも好まない。
(もう打てる手は打って、譲れる部分は譲っている。これ以上帝国は何一つ彼らに捧げられない。姉上もそれは承知のはず)
だから渋い顔なのだ。もう何もできない。でも納得もできない。
膠着状態が続けば勝手にヴルツァライヒは消滅する。それもよくない。
「かあ??っ、ワガママな女だなあ。ったく、母親にソックリだぜ」
ヒルデブラントはゆっくりと立ち上がる。
「今回も話し合いは決着せず、か。邪魔したな」
「ヒルデブラント、やっぱり英霊と残存戦力を率いて突貫するのがいいんじゃないかな? とりあえず誰かが戦端を開けば否応なく闘争は燃え広がるものだよ」
「お前どうしてそんなに流血好きなの? こわいわー、初代皇帝こわいわー」
「えっ、流血は嫌いだよ? あと、僕は皇帝になった覚えはないとあれほど……」
二人が雑談しながら城から去っていく。
「困りましたね」
「ああ、困った。あのナイトハルト(仮)も間もなく消えてしまうだろうしな」
「そうなる前に、英霊たちに命令してほしいのですが。帝国に協力しろ――と」
英雄伝説のはびこるこの国土に、制御されない絶火騎士の英霊が蔓延っている今の状況は危険だ。
精霊はどれも気まぐれなものだが、自然精霊に比べて元人間様である英霊の類は我が強すぎて困る。
精霊との戦いなど笑い話にもならない。その起爆装置を彼らが保持している限り、“敵”と定義しないわけにもいかなかった。
「陛下! お話中失礼致します、火急の要件で参りました!」
「話は終わっている。続けろ」
「は! 帝国領北部に暴食王ハヴァマールが出現!」
来たか――。姉弟の目つきが変わる。
いずれは来ると思っていた。最後の歪虚王、不死の剣王ハヴァマール。
邪神戦争の途中で姿を消したが、やつとの決着は未だついていない。
「状況は?」
「それが……ハヴァマールは、休戦協定を結びたいと言っております!」
「「はい?」」
●

ハヴァマール

ミリア・クロスフィールド

リアルブルー
後日。暴食王ハヴァマールと帝国との交渉が行われた。
そのテーブルにはソサエティ総長であるミリア・クロスフィールド(kz0012)、そしてリアルブルー(kz0279)も同席している。
なにせ、最後の歪虚王だ。ソサエティとしても無視できる問題ではない。
「見逃す……暴食の王である貴様がそう言ったのか?」
『いかにも』
暴食の眷属は、基本的に“待つ”ことができない。
やると思った時には即座に行動する。食べたいと思った時に食べ、暴れたいと思った時に暴れる。
計画的に思考し、時を合わせることができない。刹那的で本能的な眷属なのだ。
その代表格である王が、「待つ」と言う。
「信用できんな。何故そのような奇妙な解に至ったのか説明しろ」
『単純な話だ。余は――強すぎた』
ハヴァマールはあの日、グラウンド・ゼロで人類と敵対した。
だが、人類はハヴァマールを倒せなかった。そして王はそのまま人類を叩き潰せたものを、潰さずに姿を消した。
それ自体が既におかしなことだったのだが……。
『あの日、余は人類に最後の審判を下すつもりであった。人が生きるべきならば生き、死ぬるべきならば死すと』
そして王は判決を下した。人はやはり死ぬるさだめ、と。
だが、そんな王の前に勇敢に立ちはだかる人間たちがいた。
彼らと戦いながら考えたのだ。自分は答えを急ぎすぎたのではないか――と。
『邪神との戦いの中で傷つき、余力もなく必死に足掻く人類を叩き潰したところで、それは果たして正しき判断であると言えるだろうか。例えばあの日、余の前に屈した英傑……彼奴らとてあの状況でなければ、余を打ち破れた可能性もあったはず』
死に際にありながらも暴食王を留めた者たち。彼らの犠牲に、自分が応じることはなにか。
僅かな暇に命を賭けたその武勇、ならば時にて応じるのが筋ではないのか。
「……ふざけるな。貴様が……歪虚の王が人を慮るだと?」
一体これまでどれだけの兵が犠牲になったか。
死者はきっと望んでいる。応報せよと。決着をつけよと。
自分が何のために死んだのか、その答えが知りたいのだ。
「舐めるな暴食王。感傷も大概にしろ」
『然り。だが、この気まぐれを逃せば、余はいつでも貴様らに大打撃を与えることが可能だ』
骨の指を立て、髑髏の王は静かに語る。
『想像しろ。例えば余は今この瞬間に席を立ち、この場全員を置き去りにして真っ直ぐに帝都を襲撃できる。その中心で超越体となり、気ままに力を振るうこともできる。そして現実的に、貴様ら誰一人“それ”を止めることはできない』
無表情のままヴィルヘルミナが額に青筋を浮かべたのは、ぶっちゃけキレていたからだ。
こいつはそれが本当にできる。何一つ間違いではない。
“そう”なったとしても最終的には取り囲んで撃滅できるだろう。帝都のど真ん中など自殺行為だ。
だがその自殺のために一体何人の民が犠牲になる?
暴食王の最も恐るべき力は機動力だ。
直進に限るが、新幹線ほどの最高速度で移動できるという。
大柄とはいえ人間大の物体がそんな速さで動いた場合、阻止するには大軍が必要になる。
『だが、余はそれをしなかった。これは最大限の譲歩と理解せよ』
それもわかる。だからこそ腹が立つ。
よりによって暴食の王が“譲歩”だと?
「話はよくわかりました」
ミリアが口を挟んだ。
「あなたは人類を見逃すと言いましたね。しかし、そのままあなたという存在を人類が放置することはできません。いずれは討たねばならない……それもわかりますね?」
『いかにも。余も永遠に人類を見逃すわけではない。人類が力をつけ、正しくその器を量れる時まで――時間の問題である』
暴食王の要求はシンプルだ。
お互いに矛を収めること。
暴食王は眷属を引き連れ、はるか北の負の領域へと撤退する。
そこで自らを封印する城を作り、地下にて眠る。
遠い未来、人類が自らの力で城まで辿り着くか、時限式で目覚め、再び対決する。
(問題の先送り……でもありませんか)
カッテは思案する。
間違いなく人類の技術はリアルブルーとの交流で2?30年程度で劇的に進歩するはずだ。
今は邪神戦争終結直後で帝国も弱っている。今直接対決するよりも少ない被害で、或いは一方的に撃破出来る可能性は高い。
リアルブルーから大量破壊兵器を手に入れて一撃必殺で寝込みをふっとばすのもいいだろう。楽勝だ。
今すぐここで戦わないのであれば、最小限の被害で暴食王を潰す策略などいくらでも思いつく。
そしてこの交渉に嘘はない。
なぜなら暴食王は自由だ。そもそも好きにすればいい。
その気になったら撤退する暴食王に誰も追いつけない。断りを入れる必要がない。逃れようと思った瞬間に逃れればいいし、そうしたら帝国軍は絶対に追いつけない。
無駄なことをしている。故に歩み寄りであると確信せざるを得ない。
「陛下」
「わかっている。だが、気に食わん」
『足りぬと言うのなら更に足そう。我らが北に撤退する道中――貴様ら人間の探索隊と行動を共にしてもよい』
ヴィルヘルミナの表情が変わった。
『貴様らはこれから人類の生活圏を奪還する為に行動するはずだ。負の領域の安全確保は喫緊の課題であろう。それを我が眷属が担保しよう』
「馬鹿な……! 共闘だと!?」
『いかにも。人類は安全に北へ進むことができよう。無論、道中のみ……であるがな』
ヴィルヘルミナの脳裏には今、全く別の未来が浮かんでいた。
ヴルツァライヒの主張を受け入れられないのは、帝国にもう土地がないからだ。
そして帝国は他国を侵略しないと決めている。どこからかポンと土地を得る算段がつかない以上、もう彼らに譲れるものはなにもない。
だから元々考えていた。負の領域を開拓し、国土を広げることを。
そしてそれが短期間で達成できる。この暴食王の誘いを受ければ、実現可能。
彼らに開拓を任せ、開拓した土地を任せる形で、領土を与えることができる――。
(なるほど。問題を一挙に解決できますね)
カッテも同じ考えに至り、そして眉を潜めた。
(しかし、歪虚撃滅は我らが国是……。多くの兵を殺したこの暴食王を見逃して、国民はどのように考えるか……)
だとしても、答えはひとつだ。迷うヒマはない。
「検討する時間をくれ」
そう。今必要なのは答えを出すことではない。現状を維持すること。
逃げに徹されたら追いつけない。攻め込まれたら防ぎきれない。
倒すにせよ、逃がすにせよ、一旦は話を聞く“フリ”をして、引き伸ばさなければならない。
暴食王ハヴァマールが、何もしないでいる時間を――!
「ミリア総長。これは帝国だけの問題ではない。ソサエティ側の判断も仰がねばなるまい」
「――――。はい、そうですね。ソサエティの意見をまとめるのにも、時間がかかります」
意図を察してか、ミリアが笑顔で応じる。
「暴食王、あなたの申し入れを検討します。答えを出すまで、今しばらくお待ちいただけますか?」
『よかろう』
快諾。そして、王はゆっくりと立ち上がる。
『ゆめ忘れるな。余は自由なのだと』
言い残し、暴食王は文字通り、爆発と共に吹っ飛んでいった。
ひっくり返って空を舞うティーカップからこぼれた紅茶を頭から浴びながら、リアルブルーがぼやく。
「で、どうするんだい? 確かに時間稼ぎが必要だ。いかにも倒しますって空気を出したら逃げられて終わりだからね」
「リアルブルーくん、なんとかできますか?」
「無理。一応僕ならプライマルシフトで追いつけるけど、追いついても一人だとどうにもならない。クドウに力を借りてもどうかなぁ……」
「実際問題」
乱れたミリアの髪をさっと直し、倒れた椅子を戻しながら。
「ソサエティとして許容できるのか? 歪虚との休戦状態を」
「……真っ向勝負を挑むには、今のソサエティは疲労していますからね。歪虚との休戦は前例がないわけでもありません。戦力が整ってから倒しに行く、その時間を稼ぐという意味で、非現実的ではないと考えます。北方王国での戦い……ほら、強欲王メイルストロムの時にも、似たような判断を取りましたよね?」
「そうだな。残念ながら同意見だ」
「これは頭から紅茶をかぶったまぬけな神の個人的な意見なんだけどさ」
三人同時に「どうぞどうぞ」と手を差し出す。
「邪神戦争で感じたんだ。戦って答えを出すことは必要だ。でも、それでしか答えは出せないのだろうか、と」
まさに頭の中に浮かべた言葉だった。ヴィルヘルミナは眉を潜める。
闘争は一種の交渉手段に過ぎない。
言葉ではわかりあえない。だから力比べをして、どちらかの意見を叩き折る。
意見の数を減らして答えを出す。消去的な論法だ。
「あんなバケモノ残しておくことはできないから、いずれは絶対倒す。でもそれは今じゃないとダメなのだろうか」
「…………。未来には、更にやつの考えが変わるかもしれない、と?」
「可能性の問題だけどね。暴食王ってあんなこと言うやつじゃなかっただろ? 何かが変わったんだよ、人間と戦って」
ハンカチで顔を拭きながら、リアルブルーは口を閉じた。
変わった。確かにそうだろう。
そしてそれは計画的なものではない。偶発的にそうなったと直感する。
(ハンターか)
暴食王に、“今殺すのは惜しい”と思わせた者がいたのだ。
「北伐、か」
それもまた、帝国の国是だ。
何より、“ずっと遠くまで冒険してみたい”。
人類の領域を取り戻したい。それはヴィルヘルミナの個人的な夢でもあった。
●

アイゼンハンダー

紫電の刀鬼
「素晴らしいですね。難しい話も多かったでしょうに、よく頑張ってくれました」
『流石デース! PRESIDENT!』
帝国領北部。
アイゼンハンダー(kz0109)と紫電の刀鬼(kz0136)は帰還したハヴァマールに拍手する。
何を隠そう、今回の交渉は主にアイゼンハンダーがまとめたものだった。
「やれるだけのことはやりました。結局この交渉が決裂するとしても、彼らは時間を稼がざるを得ない。仮に対決を求めるとしても、しばしの時間は稼げたはずです」
『アイちゃんもわかってるデースね? 人類と分かり合う可能性はNOTHINGと』
「当然です」
『だったらわざわざ話さなくても走って逃げればいいデス。ミーたちの速度なら絶対追いつかれないデス。戦わないこと……それが一番では?』
「それもわかっています。ただ……」
アイゼンハンダーは顔を上げ、少し寂しそうに笑った。
「ただ、伝えたかったのです。だからどうあれ、私は満足します。戦いを求められるのなら、それにも応じましょう」
アイゼンハンダーに、もう人間と戦う理由は残っていなかった。
もう、彼らを傷つける理由がなにもない……。
だったら自分は消えるしかない。でも……何故か今はただ消えたいとは思わなかった。
クリピクロウズの最後を、そして邪神戦争を見届けた今だからこそ。
「満足しなきゃいけない。劇的なフィナーレではなくとも……心の穴は、自分の掌で埋めなくちゃ」
『気負いすぎるなよ、ツィカーデ。お前にはこの鋼鉄の腕がついている。お前の胸の穴は、我が埋めてやる。我らは二人でアイゼンハンダーだからな』
腕に憑依した亡霊がそんなことを言うと、アイゼンハンダーは困ったように笑った。
「そういう刀鬼殿は、これからどうするのです?」
『ミーも特に戦う理由がないデスねー。人類は十分、その在り方をミーに示してくれましたので。それに今戦うのは卑怯な気がするデース』
『好きにせよ。どこへとなりとも行き、好きに滅べ。暴食とはそういうものだ』
ハヴァマールの言葉に刀鬼はサムズアップする。
『勿論そのつもりデース! ミーも満足したら、どっかに行くデース!』
ハヴァマールに表情はない。だが、アイゼンハンダーの目には彼が優しく微笑んでいるかのように見えた。
「皮肉ですね。あなたはきっと、人にとっても良き王なのに」
『で、あるか。ならばわしが喰らった人間の中に、王がいたのだろうよ。或いは――王たるナイトハルトと、長らく共にあったからか』
そういえばむかーしむかし、リグ・サンガマで騎士王を喰ったこともあったのだが、暴食王がそれを思い出すことはなかった。
襤褸のマントを翻し、王は帝国の大地を睨む。
『さて、返答やいかに?』
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●「罪ではなく、罰でもなく」(9月30日更新)

ヴィルヘルミナ・ウランゲル

カッテ・ウランゲル
きっぱりと言い切った割に、ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)の横顔には苦渋が滲んでいた。
ハンター、そして国民からの意見聴取は予想通り暴食王討伐の未来を示した。
「ですが、意外と考え方は拮抗していましたね」
休戦を呑むべきという意見は、少なくともカッテ・ウランゲル(kz0033)の予想よりずっと多かった。
これまでさんざん人類を苦しめてきた敵。
感覚的に地続きの「怨敵」ではなかった邪神に比べ、ハヴァマールは明確に帝国の歴史に敵として刻まれた存在である。
ヒトは自分がよく知らない相手を憎むことはできない。だが、深く知れば知るほど、憎しみは強く濃く増していく。
「暴食王と停戦してもいいという意見が少なくなかったのは、やはり邪神戦争の影響が大きいのでしょうね」
「そうだな……」
「予想通りの結果だったと思いますが、陛下としては何かご懸念でも?」
「単純にまたぞろ戦となれば兵が死ぬし国が弱ると思っただけだ。そんなこと、国民は百も承知のはずだろうにな」
「“自分がどうなってもいいから相手を殺したい”――反動存在を思い出しましたか?」
「あれもヒトの本質だということだ。それも別に遠いどこかの誰かなどではなく、きちんと手の届く範囲のな」
歪虚と人間は死者と生者という絶対的な壁に阻まれている。
暴食は特にその壁がハッキリと見て取れてしまう相手だ。
戦いは正義だ。死者を死に還す。それは当たり前に定められたこの星の理である。
だが戦えば誰かが死に、その死が淀んで歪虚が生まれるというのなら、なんとも非効率的な正義じゃないか。
「やっぱり寝込みを大量破壊兵器で根こそぎ吹き飛ばすのがいいと私は思うんですけどね」
「凶暴だな、我が弟よ」
「CAMなどの兵器も、一番の利点は“兵が死ににくいこと”じゃないですか。ミサイル一発でケリがつくなら、誰も死ななくて済みます」
「戦場に送りたくない者もいるようだしな」
「ええ。自分が好きな人達に死んでほしくない――当然の感情でしょう?」
突けば少しは照れるかと思いきや、余裕の笑顔である。可愛げがない。
「ミサイル一発で暴食王を倒すのは“勝利”じゃなくてただの“処理”になってしまうんじゃないかな?」
姉弟の視線が窓に向けられる。
そこには壁をよじ登ってきたナイトハルト(仮)の姿があった。
「窓から執務室に来ないでください。失礼ですよ」
「それもそうだね。失礼しました」
「そういう問題ではなかろう。なぜ壁を登る不審者を兵は攻撃しないのだ」
閑話休題。
「僕は思うんだ。戦争とはエンターテイメントなんだって。というかそうじゃないと国民の理解なんて得られない。君たちも散々、戦争を利用してきただろう?」
自分達は正しい事をしています。
敵は邪悪なもので、それを倒すことは正義です。
戦争は苦しくて悲しいけれど、皆同じく悲しいので共感しあって我慢しましょう。
直接前線で戦う兵士だけではなく、それを支える国民みんなで戦っています。
「――ほら。戦争は参加型の劇場なんだよ。だから、実は一方的に勝利してもあんまり意味はなくて、こっちも血を流さないとさ。勝った気がしないんだよ。どんなに極上の料理だって噛まずに飲み込んだらよくわからないだろう? しっかり味わわないとね」
「何が言いたい?」
「反政府組織との決着もそうだけど、結局人間ってやつはきっちり勝っただの負けただの決めないことには気がすまないってこと。適度に可哀想な犠牲が出て、怒ったり悲しんだりしたほうがいい。感情さえ動けばプラスでもマイナスでも楽しめるのが人間の素晴らしいところなのさ」
「この国が貴様の代で滅ばなかったのはそれなりに奇跡だな……」
「12万とだいたい6千人」
英霊は突然、謎の数字を口にした。
「僕が直接、または僕が指揮した部隊が殺した亜人または人間の数だよ。ちゃんと歴史に残ってたかい?」
ゾンネンシュトラール帝国の歴史は殺戮の歴史だ。
敵も味方も殺し殺され、さんざん積み重なった亡骸の上にハリボテの国が拵えられた。
そのあまりの怨嗟を前に歴史を忘却し、正義を語って軍事力を高めながらも壁を作って歪虚から逃れようとした臆病者だ。
「でも、僕は今のこの世界もそれなりには素敵だと思ってるよ」
「それは皮肉か?」
「いいや。遠い未来の皇帝に教えよう。そもそもヒトはなぜ戦争をすると思う?」
「戦争は政治的目標の解決手段に過ぎない。内部的にも外部的にもな」
「それは前提条件であって問題の答えじゃない。そもそもなんで政治的目標の解決が必要なのさ」
なぜ?
確かに言われてみるとなぜだ。ヒトは何のために戦う?
考え込むヴィルヘルミナに、英霊は笑顔で告げる。
「単純なことだ。ヒトが夢を見るからだよ」
ヒトは成長を求める。
より良い環境を。より良い世界を。
時に大地を砕き、血を流し、何かを壊しながらでも星を切り開いていく。
それが正義か悪かといった考え方は、人間の贅沢に過ぎない。
ヒトは夢を見る。ヒトは何度でも冒険を求める。成長を、革新を、前に進むことを求める。
例えその道が、どんなに醜く血に塗れたものであったとしても――。
「じっとしてはいられないのさ」
「ひょっとして私達を励まそうとしてます?」
「いいや? 心外だな……まったくそんなつもりはないよ」
「じゃあ貴様は結局何が言いたいのだ……!」
「戦争は手段に過ぎない。殺し合いはエンターテイメントに過ぎない。それでもヒトは前に進む、ただ“そういう生き物”に過ぎない。――別に人間ってやつはそれでよくないかな? 呪われてなんかいないよ、君たちは。それもただ生物として認められた在り方なんだ。単純で、傲慢で、何よりも素晴らしい……ただの人間そのものなのさ」
爽やかな笑顔を残し、英霊は退室する。
「戦争が他人事になれば、人間は興味や関心を失ってしまう。どこか遠くの誰かが戦って死んでいても、涙一つ流せない。もしも戦いはもう嫌だって思うのなら、これを人類最後の悲劇にしようと努力すればいい。語りついで、その記憶を絶対に手放さなければいい。目の前にある痛みを罰とするのかどうかは、君たち次第さ」
正規の出入り口たる扉の前に立ち、男はドアノブをひねる。
「ああ、素晴らしきかなドア。掴んでひねって押せば開くなんて最高だね。窓なら“ひとっ飛び”なのに、手順や趣を尊重する人間の美しさが詰まってる。はい、それでは失礼しまぁす」
残された二人は神妙な面持ちで英霊を見送ったが、少ししてヴィルヘルミナはそっと塩を撒いた。
「よし、あのクソ野郎のことは忘れよう」
「して、対暴食王用の策はありますか?」
「そんなもの一つしかないから苦虫を噛みに噛んですり殺したような顔をしているのだろうが」
「……まあ、ですよね。この手だけは使いたくありませんでした」
二人は同時に顔を見合わせ、深々と溜息を零した。
「……帝都に居住する全国民に通達してくれ。3日以内に一人残らず全員退去するようにと」
「承知しました。代わりに全師団に声をかけ、ダミーの国民を帝都に誘導します」
「それなりに盛大にパーティーの準備だ。せっかくだから師団兵に振る舞ってやれ。いやー、忙しくなってきたぞう」

ハヴァマール

アイゼンハンダー

紫電の刀鬼
暴食王ハヴァマールと彼が率いる一団は、帝国領北部のノアーラ・クンタウ近くに集結していた。
帝国軍はこの周辺を包囲し、暴食王の動きを見張っているが、暴食王は日がな一日草原に横たわって寝ているだけで行動を起こす気配はない。
『ほう。余は字が読めんのでな。ツィカーデ、代わりに読み上げよ』
「は」
帝国軍の伝令に渡された封筒を開封しようとするが、アイゼンハンダー(kz0109)は左手しか使えないので開封できず。
結局すったもんだあって、紫電の刀鬼(kz0136)が封筒から取り出し、アイゼンハンダーに渡すという手順を踏み。
「読み上げます。“人類は暴食王ハヴァマールとの休戦を受け入れる。ついては汚染領域への遠征について打ち合わせを兼ね、帝都バルトアンデルスにて歓待を受け入れたし”……」
『………………』
「『罠』」「ですね……」『DEATH……』
刀鬼とアイゼンハンダーが同時に漏らした。
『だとしても、行くしかあるまい。休戦を申し入れたのはこちらなのだからな……どっこいしょ』
立ち上がった暴食王は丘陵の彼方、目には見えぬ帝都を睨んだ。
『マジで行くつもりデスか……?』
『本気(マジ)とも。逆に行かぬ理由がなにかあるのか?』
暴食王は己の力に絶大な自信を持っている。それになにより刹那主義者だ。
どうなろうと、そうなったように行動する。あらゆる局面に対する自由があり、それを通す力がある。
考えるという行いは、それが必要ない者にとってはただの小細工なのだ。
『第一、確かめもせぬ内からなぜ罠だと言い切れる? 行ってみなければわかるまい』
『ウーン……歪虚王のセリフとは思えないデース』
「“罠だったらその時はその時でまあいいや”という剛毅なお考えなので、むしろ歪虚王ならではかもしれませんね……」
王に表情はない。いかんせん骨である。
だが、その横顔はどこか楽しげに見えた。
『罠――それも良し。国の心臓部に招き入れるのなら、その覚悟であろう。我が裁定の場に相応しい戦場よ』
のしのしと王が歩き出すと、慌てたように不死者の眷属たちがそれに続く。
『期日まで数日! せいぜいこの旅を楽しむとしよう!』
「……歩いて行かれるのですね……」
『走ったらミー以外誰もついていけないのわかってるから歩いてくれてる説』
ぞろぞろと進んでいく死者の列。
帝国軍人たちは遠巻きに監視しつつ、並行して列を作る。
それはまるで、楽しげなパレードか何かのようであった。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●「死と再生のロンド」(10月4日更新)

ヴィルヘルミナ・ウランゲル

ハヴァマール
『……王とは戴かれる者だ』
王様になりたいと願った者もいるだろう。
だが現実問題、王とはなるべくしてなるものである。
『例え当人が王であることを願わなくとも、弱者に戴かれればそのようになる。故に、王とは力だ』
ただの騎士も。いずこかの巫女も。
その力のせいでやがては皇帝と呼ばれ、そして神の代弁者と呼ばれた。
王とはつまり力だ。力がある者に必然的に付帯するさだめだ。
『王そのものの願いのなんと儚きものか』
救いたいと心から願っても、民が救われることを願うとは限らない。
だから王と民の間にはいつも身勝手な思い込みの壁がある。
相手のことなど見てはいない。とても空虚で、いい加減で、ワガママな関係性だ。
「奇遇だな。私も同じ考えだよ」
ヴィルヘルミナ・ウランゲル(kz0021)は久々に袖を通したサーコートを翻し、議事堂を歩く。
「せっかく二人きりだ。貴様にだけは本音を語っておこう。私には――わざわざ貴様らと戦う理由がない」
ヴィルヘルミナには夢があった。
それはこのゾンネンシュトラール帝国を救うこと。そして、どこまでも自分の意思で冒険を続けること。
「私は自分勝手だ。その夢を叶えるために、皇帝という立場を利用したに過ぎない」
暴食王が眷属と共に国を去り、眠りにつくまでの道中、開拓の協力もしてくれる。
その多大なるメリットに比べれば、問題が先送りにされることなどなんと些細なことか――それが素直な感想だった。
「停戦を求めるハンターの意見も尤もだ。すべての王を倒した後、この世界がどうなるともわからない。世界のどこかに歪虚王が残っているという事実は、争いの抑止にもなるだろう。邪神戦争が集結し、趨勢が決まりつつある今、歪虚と人類の関係性も変わっていくかもしれない」
目を閉じればハッキリと思い浮かべることができるIFのカタチ。
宿敵たる暴食王と共に、ハンターや自分たちが星の開拓を目指す有様……。
今日この日、そんな未来は確実に可能性として存在した。なんならそうなった場合の準備すら進めていた。
「だが……私はな、ハヴァマール。とうの昔に皇帝なのだ。皇帝というのは自分のためには笑わないし、涙も流さない。国民の為に怒り、国民の為に殺す」
足を止め、背中を見せたまま、ヴィルヘルミナは小さく溜息を零す。
「私はな、戦いたくないのだ。だって、戦えば私は死ぬかもしれない。やっと邪神を討伐して……ようやく、ようやく国が安全になり……ヒトは自由になれる時が来たというのに。あれだけ渇望した未来が、自由が目の前にあるというのに……ほんの少し手を伸ばせば、すぐそこに……私はそれを押し通せるだけの皇帝という立場があるというのに……」
両の掌をじっと見つめ、握りしめる。
「私にだってあったのだよ。やりたいこと、叶えたい夢……だが、皇帝の優先順位は揺らがない。私は私の為に決断してはいけないのだ」
ハヴァマールはじっと、ヴィルヘルミナの独白を聞いていた。
暴食王ハヴァマールは生体マテリアルのプロフェッショナルだ。
僅かな感情の機微さえも冷静に把握する能力がある――当人がそれと気づいて運用しているかは別として。
故に、王は直感した。目の前のちっぽけな人間は、本当に心からそう思っているのだと。
「話せてよかった。認めるよ、ハヴァマール。貴様は確かに、王だった」
二人きりになったのは、確信があったからだ。
ハヴァマールは、“本当に停戦を望んでいる”のだという確信。
暴食は正直だ。嘘を吐かない……いや、嘘を吐く必要性がなく、結果的に真実しか言えない。
ハヴァマールは、絶対に、自分に手を出したりしない。
だから――。
●

アイゼンハンダー

紫電の刀鬼
「よもやこんな形で帝都に帰還することになろうとは……」
不死の軍勢に参列しながら、アイゼンハンダー(kz0109)はぼんやりと呟いた。
帝都バルトアンデルス。堆い城壁で覆われた、この国の心臓部。
まさかそこに暴食の眷属らが案内され、ぞろぞろと大通りに列を作る様など、一体誰が想像しただろう。
(少なくとも……私は考えたこともなかった)
壁に覆われた空なのに、どこか自由で清々しい気持ちにさせてくれる。
仰ぎ見ながら、なぜか無性に悲しくなって、苦しくなって、アイゼンハンダーは軍帽を目深に被り直した。
暴食の眷属共にまっとうに考えられる頭などついていない。
だがそれでも、なぜだか彼らは奇妙なまでに大人しかった。
ハヴァマールからそう命じられただけと言ってしまえばそれまでだが――。
『なんだか皆嬉しそうデスね』
「ああ。故郷に帰ってきた……そんな気がするんだ」
紫電の刀鬼(kz0136)にはわからない。
この地の“死”を操り力と変える暴食王は、帝国の宿敵でありながら、今となっては帝国そのものに限りなく近い存在だ。
彼はたくさんの死者を、この地で倒れた死者たちを――この帝都まで引き連れた。
身体の弱い者はこの葬列を前に体内のマテリアルを乱してしまうので仕方ないが、大通りの左右には死者を歓迎する人々が手を叩き、軍歌を鳴らし、花びらを撒いている。
凱旋だ。凱旋だ。凱旋だ。
死者らの凱旋は、もちろん偽りだとわかっていても、それでもアイゼンハンダーの胸に深く突き刺さった。
「……ああ、どうして……私は、こんなにも……」
わかっている。これは罠だ。
帝都の民がこんなに少ないわけがないし、右を見ても左を見ても屈強な男連中というのもおかしな話だ。
十中八九、皇帝の命令を受けた軍人共に違いない。
怨敵への憎しみを引きつった笑みで塗りつぶし、心にもない歓迎の言葉を繰り返す。
嘘に決まっている。罠に決まっている。
でも……罠なら普通、帝都の中にまで入れるだろうか?
もしかしたら本当に……自分たちを歓迎して……。
そんな甘い考えを、完全には否定できずにいた。
「ただいま、みんな。ただいま……ただいま。私達は帰ってきた。帰ってきたんだよ……」
帰りたかった。本当はこんな形ではなく、みんなと一緒に勝って、生き残って。
でも、そうはできなかった。
それがたったひとつ、どうしようもなく虚しい真実だった。
●
“詳しい話は帝都にて”。
そんな帝国の申し入れをハヴァマールは快く受け入れた。
当然ながらハヴァマールが帝都に入れば、それだけで負のマテリアルの影響を受け、最悪命が失われかねない。
故に帝都の住民はことごとくがこの地から追い出され、今この街に残っているのは覚醒者や若々しく生命力に満ちた者のみ、というのが前置きであった。
人類の作戦は単純だ。この地を暴食王決戦の地とする。
暴食王との戦いにはいくつかの前提条件が存在する。
まず、こちらがいくら戦うといっても向こうが逃げに徹してしまえば追いつけないため、逃さない戦い方が必要となる。
戦うと決めるからには絶対に逃さない。そういう前提がないと、そもそも敵対すること自体が無意味だ。
なんなら逃げ回る暴食王がチマチマゲリラ戦とか仕掛けてきて大変なことになるだろう。
“戦う”と決めるということは“決着がつくまで絶対にその戦いをやめない”ということでもある。そういう前提でなければ国民は納得しない。
そして逃さないためには、決着をつけるためには、確実に勝利できるという条件とそれを整える準備が必要になる。
そういった全ての条件を満たす為にヴィルヘルミナが最後の戦場として選んだのが、帝都バルトアンデルスだった。
帝都はこれまでにも何度か戦場になったことがあるが、基本的には防衛戦の類である。
ゾンネンシュトラール帝国の主要機能は全てこの帝都に集中しており、ここを破壊されることは国家に取って大打撃であった。
中央集権制の急所とも呼ぶべき場所だからこそ、これまで必死になって守ってきたわけだ。
だからこそ暴食王は“脅し”の際にこの街の名前を出した。
そしてだからこそ――ヴィルヘルミナはこの街を決戦の地に選んだ。
ハイリスク・ハイリターン――。
城壁に囲まれたこの都市の内側に暴食王を入れてしまえば、人型での直線移動は不可能。
超越体になっても、城壁を越えるまでには時間がかかるだろう。
この街そのものが巨大な罠。それは、アイゼンハンダーや紫電の刀鬼もわかっていた。
故に肝要なのは、一体どこで戦端が開かれるのかであった。
●
「パーティーを前に、不死の剣王殿と二人きりで話がしたい」
バルトアンデルス城まで歪虚を案内したヴィルヘルミナの提案にアイゼンハンダーは驚いていた。
二人きりになって何かあったら困るのは、単体の戦闘力では暴食王に遠く及ばないヴィルヘルミナの方のはず。
よほど暴食王を信用しているのか、何か裏があるのか……。だが、裏があったとしてもヴィルヘルミナ一人に何ができるはずもない。
『よかろう。案内せよ』
「ハヴァマール様、お気をつけください」
『気をつける……何に、だ?』
確かに。何に? 何に気をつける?
くどいようだが戦いになったら返り討ちになるのはヴィルヘルミナの方だ。
本当にただ二人で話がしたいだけ……?
わからない。少なくともアイゼンハンダーの思考では答えにたどり着けない。
たどり着けないまま、ハヴァマールは、城に隣接した議事堂へ案内され……そして。
それからほんの数分後。突如として、議事堂が吹き飛んだ。
これは比喩表現ではなく、文字通り屋根や壁が吹っ飛んだのだ。
内側からの大爆発である。燃え盛る炎と熱風を浴びながら、アイゼンハンダーは唖然としていた。
(マテリアルエネルギーを用いていない爆発……リアルブルーの爆薬……!? いや、それよりも、こいつら……!!)
皇帝ごとふっ飛ばしやがった――――!!!!
怪しい動きをすれば絶対にハヴァマールは見逃さない。
だから、皇帝が事前に逃げるということはできなかったはず。
アイゼンハンダーも紫電の刀鬼も、何事も起きぬように、誰も議事堂に近づかないようにと警戒していた。
その上で爆発した。つまり、皇帝の命を燃やして開戦の狼煙としたのだ。
普通思いついたとしても実行するか?
「王ーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
『アイちゃん!!』
駆け寄ろうとするアイゼンハンダーの手を掴み、紫電の刀鬼が雷の如きスピードで移動する。
直後、不死者の隊列に次々と砲撃が降り注いだ。
砕け、焼かれ、バラバラになっていく歪虚たち。
遠ざかっていく景色の中、アイゼンハンダーは再び空を仰ぎ見た。
(人間というのは……本当に……)
帝都を覆う城壁の上、大砲を担いだ魔導アーマーがずらりと並んでいる。
彼らの銃口は帝都の外ではなく内側に向けられており、その事実をまるで何一つ気にかける様子もなく、次々と撃ち込まれてくる。
自分たちの大切な街を。この国の心臓を自らの意思で砕いて尚――それでも敵を絶対に逃さずに殺し尽くすという覚悟。
(悪い夢を見ているみたいだ)
敵と味方が逆になったかのような錯覚にめまいがする。
わかっていた。わかっていたとも。自分のなすべきことも――!
「怯むな! 隊列を立て直し、ハヴァマール殿の援護に向かぞ! さあ、私に続け!!」
これが最後の戦いになる。そんな予感があった。
きっと自分はここから帰れない。そんな予感が。
帰る……? 今自分はようやく帰ってきたばかりだというのに?
どこへ帰るというのか。一体、どこへ……。
迷いを振り払うように鋼鉄の腕で空を薙ぐ。
アイゼンハンダーの眼差しは、真っ直ぐに今を見つめていた。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)