ゲスト
(ka0000)
グランドシナリオ【東征】襲来、歪虚城塞ヨモツヘグリ


作戦3:ヨモツヘグリ攻略(危険) リプレイ
- 響ヶ谷 玲奈
(ka0028) - 南條 真水
(ka2377) - エヴァ・A・カルブンクルス
(ka0029) - ヴァイス
(ka0364) - 八城雪
(ka0146) - 小鳥遊 時雨
(ka4921) - ケイ
(ka4032) - 対崎 紋次郎
(ka1892) - ヒース・R・ウォーカー
(ka0145) - J
(ka3142) - 岩井崎 旭
(ka0234) - ミィリア
(ka2689) - セレスティア
(ka2691) - レオン・フォイアロート
(ka0829) - 柏木 千春
(ka3061) - 麗奈 三春
(ka4744) - 鳳 覚羅
(ka0862) - ナハティガル・ハーレイ
(ka0023) - 朱香
(kz0116) - ナツキ
(ka2481) - デスドクロ・ザ・ブラックホール
(ka0013) - 八劒 颯
(ka1804)
●対峙
吹き荒れる砂嵐を乗り越えた先でハンターたちを待っていたもの。
何もかもがビッグサイズなその敵こそが彼らのターゲット、ヨモツヘグリであった。
「これがヨモツヘグリ? なんて悍ましい……」
「うーわー。観光気分でこっち来るんじゃなかったよ。今すぐ帰りたい」
『残念ね
もう少し余裕のある状況だったら是非描きたかったわ この兵器』
しかしその強大な敵を目の前にしても響ヶ谷 玲奈(ka0028)や南條 真水(ka2377)の声音と、いつもの通りのエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)の筆談からは、怖気づいた様子はない。
だがそうは言っても、剣を交えようとするにはいささか心もとない人数なのも明らかだった。
戦争の基本は相手よりも多い兵力でその戦いの臨むこと。
現状、敵側が圧倒的優位に立っている。
それでも。
「さーて、はじめようぜ!」
ヴァイス(ka0364)の掛け声にかぶせるように誰からともなく鬨の声が上がる。
数で勝るだけの歪虚では絶対に敵わないものがハンターたちにはあった。
そして彼ら彼女らはそれがわかっているからこそ、どんな敵にでも立ち向かえる。
ハンターたちが三方向に散り、戦いの火ぶたが切って落とされた。
●死線を潜り抜けて
巨大なヨモツヘグリ。
その体躯にものを言わせた一撃は、ハンターであれまともに食らえばただでは済まされない。
けれど巨体であるがゆえにその動作は必然的に鈍くなる。
「バカみてぇにでけぇ、です。でも、それでこそ、楽しめるってモン、です」
「うわーでっか!? こんなのどうにか……しなきゃヤバいもんねっ。いくよ……っ」
右舷では八城雪 (ka0146)が、左舷では小鳥遊 時雨(ka4921)が改めて感じるその大きさに気合を入れ直している。
理解していたつもりでも、足元から見上げるようになれば感じ方もかわるものだ。
「一夜で築かれその日に滅びる……まさに『一夜城』ってやつじゃない? ゾクゾクするわね」
ケイ(ka4032)もまたそれに同調するようにつぶやき、臨戦態勢に入る。
本体まではまだ距離があるが、腕から分離した歪虚がハンターたちの行く手を阻む。
一体一体は本当にただの雑魚である上に、まだ数もあまり多くない。
「命を賭けて戦う……今がその時ってやつか」
近づいてくる敵を対崎 紋次郎(ka1892)がデルタレイでまとめて蹴散らすと、ことのほか容易く腕への道が開けた。
「先に進ませてもらうよ」 それは右舷側でも同様で、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)の魔導拳銃から放たれたものが次々に敵を沈めていき、障害となるものを排除する。
しかしこれで慢心するハンターたちではない。 嵐の前の静けさに過ぎないことをしっかりと認識していた。 作戦を展開してから数分、左右からヨモツヘグリの腕を狙う両部隊がそれぞれの攻撃範囲内に対象を捉えた。 しかしそれはそのまま、ヨモツヘグリの攻撃範囲内に入ったことも意味する。 『左舷、ヨモツヘグリの拳撃の対象になっています』 中央突破の役割のため、少し離れた位置にいるJ(ka3142)から速報が入った。 その情報と、実際に自分たちが見ているヨモツヘグリの挙動から、最良の回避先を選択するハンターたち。 歪虚の分離をいったん止めたヨモツヘグリは、重く響く地響きとともにその剛腕を振り上げた。そして振り上げる腕が頂点に達すると運動を逆転させて、天を覆うような手が左舷の部隊を標的にして地に落ちてくる。
ずうぅぅん……。 それは辺り一帯の大地が無理矢理揺らされている感覚。
結果としてハンターたちにダメージはなかったものの、攻撃を避ける術を持たない大地は大きくえぐられていた。
「くそっ、でかけりゃ強そうったって限度を考えやがれ! こっちの! 好き勝手させるわけには行かねーし、こうなりゃ端から削ってぶっ潰す!!」
岩井崎 旭 (ka0234)は口ではそうぼやきながらも、体はしっかりと次の行動に移していた。
筋力充填にノックバックをのせた旭の一撃がいまだ地面の上にある巨大な手を無理矢理に縫い付ける。
ヨモツヘグリが再び腕を振り上げるべく持ち上げようとする。しかしその手は地面から離れない。
すかさずハンターたちが飛び出して、肩の切り落としを目標に腕を上り始めた。
ミィリア(ka2689)がロープを結び付けたナイフを投擲してそれを手繰るように駆け上っていくと、
「後ろは任せて。私が守るから」
それを追随するようにセレスティア(ka2691)が続く。
しかしヨモツヘグリも黙って登られるはずはなく、歪虚を分離することで抵抗を見せる。
腕を上る足は止めずにセレスティアが迫る敵を盾で弾き、ミィリアが薙ぎ払いで一掃し、進路を確保する。
その間わずか数十秒。
一見して順調に見えたが、腕が一本ではないのを忘れてはいけない。
『左舷を標的とした振り下ろしのだね。左腕に登っている人も揺れるかもしれないから気をつけるんだよ』
響ヶ谷 玲奈(ka0028)からの通信の直後、
「うわぁ!」
「きゃぁ!」
今まさに登らんとしていた腕が大きく揺れ、その場にいたハンターたちの体が投げ出された。
「攻撃が来るぞー!」
紋次郎の警告に合わせて右舷の部隊が回避行動をとる。
ずぅぅん……。
と、重く響く地響き。
直後、ランアウトとマルチステップで腕の攻撃をかわしていたヒースがヨモツヘグリに刀を突き刺してよじ登り始めた。
「無謀と嘲笑うのは失敗した時。成功した時は堂々と笑うとしよう」
先ほど左舷がよじ登りを敢行した際に何人かが振り落とされていた。
二の舞を演じぬよう、ヒースは一歩一歩慎重に踏み出していく。
そんな時、四つん這いの姿勢になっているヨモツヘグリが立ち上がろうとして両の腕を動かし始める。
するとその動きに合わせてチャージングと薙ぎ払いを重ね掛けしたレオン・フォイアロート(ka0829)が馬上突撃を仕掛け、ヨモツヘグリの腕に深々と刀を突き刺した。
片腕の状態でならまだしも、ヨモツヘグリのような巨体が両手で踏ん張っている力は抑えきれずに旭の縫い付けが破られてしまう。
まさに「ゆらぁ……」という効果音がぴったりな動きをしながら上体を起こすヨモツヘグリ。
必然的に腕が地面と垂直になってしまい何人かが腕の上から脱落していくなか、レオンはその重力加速度を刀にのせて腕を駆け落ちていた。
それにさらにチャージングと薙ぎ払いを合わせた一撃はヨモツヘグリの腕に多大なダメージを与えていく。
レオンの体がヨモツヘグリの腕を離れる直前には、遠目でもわかるほどの大きな傷跡と大量の歪虚の姿があった。
しかしそれでも、切断にまではいたらない。
レオンが縄をつけた盾をうまい具合にヨモツヘグリへ巻きつけてから空中に身を投げた時、何度目かになる重低音があたりに響いた。
左腕がレオンによって攻撃を受けているのと同じタイミング、右腕は再び振り下ろしの姿勢に入っていた。
空を切りつつ襲い掛かる巨大な手。
その手の軌道が、突然の雷撃によって照らされた。
エヴァの放ったライトニングボルトである。
その効果範囲すべてにヨモツヘグリの腕を捉えた雷は腕から次々と歪虚を引きはがす。
両腕へのダメージが増えることに比例して数を増やしていく歪虚。
戦いは混戦へともつれ込んだ。
●城としての姿へ
ずぅぅん……。
先ほどから何度も、その手の一撃に歪虚が巻き込まれている。
そんなことを気にする必要が皆無なほどには数の用意があるのだ。
数の暴力、とでも言うべきヨモツヘグリの攻撃の前にハンターたちは苦戦を強いられていた。
腕への攻撃が着実に進んでいることの象徴でもあるのだが、素直に喜べないのが難点である。
「次、いきます!」
盾装備の兵士を中心として構成された部隊の指揮をとるのは柏木 千春(ka3061)。
手の攻撃が届かないギリギリのところに配置されたその部隊は迫りくる歪虚を着実に減らしていった。
適当なタイミングで千春が展開するヒーリングスフィアもあり、ハンターサイドに大きな損害はなくここまできている。
巨体のあまりレクイエムが大して威力を発揮できなかったのが後々の誤算と言えば誤算なのだろうか。
地上での戦闘も苛烈を極めていたが、腕の上も変わらず厳しいものとなっていた。
腕の攻撃が地を殴るたびに腕に取りつき、人間で言うところの肘のあたりをめどに攻撃を加えては離脱を繰り返す。
腕の付け根を狙っていては取りついてから到達するまでに大きなタイムロスが生まれてしまう。
止まってくれているわけではない腕の上でそれは効率が悪いということから攻撃対象を肘に定めたのだった。
「この巨大さ……無策では切断は成らぬでしょうが、間接部分に何らかの機構や仕掛けがあれば、其れが狙い目となるやもしれません」
麗奈 三春 (ka4744)が腕を駆け上がって肘に攻撃を加えていると、腕を振り上げようとするヨモツヘグリが体を震わせ、足場がなくなってしまった。
それでも三春は落ち着いてヨモツヘグリの体を切りつけて落下のスピードを緩めた。
そして地面が近づくと体の向きを変え、最低限に衝撃を緩和する。
その際、自身の武器の射程内から出ないようにアンカーを打ち込んでおくのを忘れない。
ヨモツヘグリがある程度の単純な動きをしていることがこの戦いの中でわかってきたハンターたちは、それに合わせて取りつくタイミングが計りやすくなっていた。離脱の時のタイミングもまた然り。
三春が離脱した右腕の反対側、左腕を標的とする右舷の部隊が、ヨモツヘグリの振り下ろしを契機に攻撃に移る。
右腕に比べて左腕にはレオンのつけた傷跡が残っているため、狙いを定めるという点ではわずかながら容易であった。
「城に腕など不要だ……削ってやる」
紋次郎がファイアスローワーをその傷跡の部分に放ち、さらにその傷口を広げていく。
「そろそろ斬れてくれると助かるんだけどねぇ」
立体機動を利用したヒースの斬撃も、同じポイントへと襲い掛かる。
そして、腕が再び動き始めるとその都度離脱を繰り返す。
一挙手一投足がゆっくりであるとはいえ、腕が振り下ろされる際の風圧は相当のものだ。
始めのうちこそなんとか腕にしがみつこうとするハンターもいたが、努力むなしく振り落とされてしまうので、腕が振り上げられる際にその上に残ろうとするハンターはいなくなった。
開戦から数刻、ある程度規則性のある動きを取っていたヨモツヘグリだった。
さればこそ、戦場はヨモツヘグリが異なる行動をとった時に動く。
空へ片腕が振り上げられるのは毎度のこと。けれど今回は違ったのだ。
万歳のポーズで両腕が振り上げられ、同時のタイミングで振り下ろされる。
それでも歪虚の対応に当たっていたハンターたちは冷静にその戦闘から離脱し、手の攻撃範囲から距離を取る。
どぅずうぅん……。
多数の歪虚を巻き込みながら両手が地面に叩きつけられる。
と、同時に左舷では三春に時雨、ミィリア、セレスティアの四人が腕を駆け上がる。
腕の上とはいえ出現する歪虚を、対象が遠いうちは時雨が強弾を用いて排除し、接近された場合にはミィリアが薙ぎ払いで進路を確保して進んで行く。
そうしているうちに一行は肘のあたりまでのぼりきると、そこには多数の歪虚の姿があった。
「大丈夫。絶対私が守るから」
セレスティアは一歩前に出ると、攻撃役を庇うように立ちふさがった。
標的としているポイントへミィリアが大太刀を突き刺した。
ミィリアは下方向に刺突一閃を放つと、腕の深いところまで刺さった大太刀を薙ぎ払いで振りぬく。
大太刀の動きに合わせて多くの歪虚が腕から剥がれ落ちる。
そしてその傷の部分へ三春の追撃が浴びせられる。
また、歪虚が剥がれ落ちた。
再度ミィリアが大太刀を持ち直し、深く、深く突き刺す。
「いっけぇえええ!!!」
力の限り振りぬかれた大太刀は確かな手ごたえと共に斬るべきものを引き裂いた。
振り下ろされ続けている腕を少し離れた位置から見つめるハンターがいた。
銃を手にしたケイである。
彼女はヨモツヘグリに対して構えると、レイターコールドショットで腕を狙撃した。
「……」
効果は、ある。
命中した部分の歪虚が剥がれ落ちたのが確認できた。
しかし攻撃として効果がないわけではないようだが、それは魚の鱗を一枚一枚はがしていくようなもの。
大局的に見れば効果がないも同然だった。
ケイは即座にその攻撃対象を、腕の上で仲間を狙う歪虚に変更し、銃を構えなおす。
今は右舷の部隊が攻撃を加えているタイミングだ。
攻撃しているハンターを背後から狙おうとする歪虚に狙いを定め、引き金を引く。
……命中。
次の狙いを定めてまた引き金を引く。
……命中。
次の狙いを定めて……。
しかし、次の引き金はひかれなかった。彼女の目に飛び込んできた光景がそうさせなかったのだ。
ケイの手元のトランシーバーが叫び出す。
『右腕破壊! 残りもこっちで抑えておくから、後は任せたよん……って死亡ふらぐ立ててないからねっ!? とにかくがんばー!』
そしてそれとほぼ同時に
『左腕、撃破!』
とも。
両腕が地面に叩きつけられる。
タイミングを合わせて右舷のハンターたちも駆け上がっていく。
もう何度目になるかわからない。皆慣れたもので、地点に到達するまでの時間は格段に短くなった。
また、この時点で腕の太さは、部分的であるものの当初の三分の一程度にまで細くなっていた。
「こー言う、小さいのが沢山集まって、大きなモンの形になってるの、昔の騙し絵にあった、です」
攻撃箇所の周囲も巻き込んだ薙ぎ払いで腕としての接続を断ち切っていく雪。
……の後ろを高速ななにかが通り過ぎる音。
ハッと雪が振り返るとそこには歪虚が崩れ落ちていた。
遠くを見やれば光を反射する何かがこちらへ向けられている。
即座に狙撃だということに思い至る雪。
背後を任せられる存在ができたことで攻撃に集中できるようになった雪は、再び剣を振る。
またしても背後を何かが通り過ぎた。
それを感じつつ、雪が再びの薙ぎ払いを傷口へ振る。
そこへ、立体機動を使用しての違う角度からのヒースの一撃も加えられた。
「生きる理由と死ねない理由があるんでねぇ。だからこの城、この刃で崩す」
二方面からの攻撃が加えられたその時。
肉塊の向こう側からは見えるはずのなかった剣が顔をのぞかせた。
直後、耳障りな音を立てつつ右舷部隊のハンターたちの足場兼切断対象であったヨモツヘグリの腕がゆっくりと地面へ向かって倒れていく。
右舷部隊の目標、レオンの一撃から始まった左腕の切断がなされた瞬間だった。
『右腕破壊! 残りもこっちで抑えておくから、後は任せたよん…って死亡ふらぐ立ててないからねっ!? とにかくがんばー!』
それと時を同じくして、左舷でも腕の切断に成功したことがトランシーバーから流れる時雨の声によって伝えられた。
そしてそのフラグは、即座に自分たちの身を持って成立させられるのだった。
両舷において切断された腕。
それは喜ぶ間も与えぬうちにおびただしい量の歪虚へと分裂した。
文字通り蜘蛛の子を散らすように広がっていく歪虚。
右舷においてその被害を一身に受けることになったのは開戦から地上で歪虚の対処に当たっていた千春たちであった。
腕の切断に当たっていたハンターたちはすぐには間に合わないだろう。
かといって逃げようにも敵の勢いの前に叶わず、そもそもそんなことをすればこの歪虚群が中央突破の妨げになることは想像に難くない。
徹底抗戦の構えを取る千春たちだったが、如何せん戦力が足りない。
じりじりと後退しつつ、なんとか受け流している時だった。
千春たちと歪虚群の間に一人のハンターが割り込んでくる。
「まだ、諦めるには早いよな?」
ヴァイスは千春たちの目前の敵を一掃してみせ、振り返りながらそう言った。
彼もまた、スキルを惜しむことなく腕への攻撃を行っていた一人だ。体力的にも、残りの手数的にも限界は近いだろう。
それでも彼はそんなことをおくびにも見せず、先陣を切って敵へ向かっていった。
状況は左舷においても変わらなかった。
戦場が歪虚に塗りつぶされる。ただその一点。
エヴァの連れる犬にいたっては終始吠えている状態。
『玲奈が無事中央突破できますように、かしこみ! ってお参りするんだっけ?』
ライトニングボルトとファイアボールを併用するエヴァだったが、倒しているはずなのに自分を囲む敵の数は増えていく。
前、右、後ろ、左。敵、敵、敵、敵。
他の場所でもその歪虚群の中でそれをかき乱す影があった。
旭は同様に歪虚群の真っただ中においてラウンドスウィングで周囲の敵を吹き飛ばしていた。
しかしどれだけ吹き飛ばしても歪虚群にはきりがない。
次から次へと隊列の穴を埋めてしまうのだ。
他の仲間と合流する予定だった旭だが、どうにもこの場から動けそうになかった。
両舷において戦力は壊滅に等しい状態だった。
けれど、作戦はまだ終わっていない。
ここを乗り越えていく仲間がいる。
その思いがハンターたちをそこに立たせ、戦わせていた。
そして、その思いを継ぐ者たちが駆けつける。
●次へつなぐ突破口
歪虚群に塗りつぶされた戦場。
しかしそこに風穴を開ける音が轟いた。
「君たち、どいてもらうよ」
魔導二輪にまたがる鳳 覚羅(ka0862)が、破竹の勢いで歪虚群を倒していく。
「さて、俺も始めようか」
馬にまたがるナハティガル・ハーレイ(ka0023)もチャージングをのせた薙ぎ払いで中央突破部隊の行く手を阻む歪虚群を排除して回る。
唸るバイクの音、戦場を駆ける馬。
なかなかにして絵になる光景である。
「それじゃあ――あとは頼むよ、いってらっしゃい」
敵を蹴散らしつつ自分の横を通り抜けていく彼らに、真水はそうつぶやいた。
「城を骨組み替わりに生きた要塞を造り出すとはね…まったく恐れ入ったよ…歪虚はどこまでのことをやってくれるやら」
鋼索鞭で敵に斬撃を加えつつ戦場を魔導二輪で縦横無尽に駆け巡る覚羅。
唐突に現れ唐突に去っていく嵐のような戦い方は、この戦場において十分な攪乱になっているようだった。
現に、戦場を右へ左へ移動する覚羅に無理についてこようとした個体がそれぞればらばらの方向に行こうとし、歪虚同士でお互いの道をふさぎ合う状態になっている。
しかし覚羅を前に動きを止めるというのは言語道断なわけであって。
「それは焼いてくれってことなのかな?」
覚羅は歪虚の動きが停滞している箇所に魔導二輪で近づき、ファイアスローワーでその地点を焼き払った。
「…さて、解体作業といきますか」
そうつぶやく覚羅の視線の先にはヨモツヘグリがあった。
両腕を切断され、事実上攻撃手段を失ったヨモツヘグリはもう目前であるというのに、そのもう少しの距離が途方もなく遠い。
ハンターや朱夏(kz0116)ならまだしも、東方兵では歪虚一体倒すのにも時間がかかってしまう。
致し方ないと言えば致し方ないのだが、なんにせよ全体として戦闘の時間が長引くのは好ましくない。
足を動かしながらも考えを巡らせる中、
「……わたしが敵の足を止める」
と、ナツキ(ka2481)が声をあげた。
「ナツキ殿、大丈夫なのか?」
心配そうな様子を見せる朱夏にナツキは、
「行って。わたしは……わたしじゃ、皆を繋げるのは、難しい。でも、アヤカや皆なら。この世界の皆が繋がるように、できると思う。皆が笑顔で過ごせる世界を、つくれると思う」
そう言った。
「……承知した」
ナツキの言葉を受け、朱夏は先へ進むことを決めた。
離れていく朱夏たちをしばし眺めていたナツキは、その手に持った薙刀を構えると、
「……だから。わたしは死ぬまでお前たちを止めてみせる。……死んでもお前たちを通さない。この薙刀に誓って、わたしはお前たちを斃す。負けない。わたしは、負けない……!!」
「まずは、情報集めだな」
ヨモツヘグリの腹。穴を開けるべき対象を目の前にし、魔導銃を構えつつそうつぶやくデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が数回引き金を引く。
放たれた炎のような光をまとうその弾丸がヨモツヘグリの腹に命中すると、しばらくの後に数体の歪虚となって動き始めた。
「なるほど? おまえらの動き、把握したぜ」
歪虚の出現具合や、ヨモツヘグリ本体は抵抗を示すだけで既に攻撃手段を持ちえないことなどを暗黒皇帝は即座に見抜いたようだ。
「負傷はわたしに任せろ、どてっ腹ぶち抜けっ!」
腕の切断の際に負傷した人へヒールをかけて回っていた玲奈だったが、まだヒールの使用回数はかろうじて残っていた。
突破口を開くまでの間持たせるだけなら十分間に合うと踏んだ玲奈が名乗りを上げる。
「それじゃあ私は露払いを担当しましょうか」
突破口を開く準備に入る様子を一瞥すると、Jは皆とは反対の方向へと体を向けた。
途中でナツキが足止めをしてくれているとはいえ依然としてこの数だ。抜けてくる個体も少なくない。
Jは機杖を敵に構え、
「邪魔はしないでくださいね」
ファイアスローワーに焼かれた歪虚たちが次々とダウンしていく。
「こっちはお任せ下さい」
一度振り返ってそう言った後、Jは敵の迎撃へと専念するのだった。
突破口を開けるのに専念できる状況が整い、改めてヨモツヘグリに向き直り、ドリルを構える八劒 颯(ka1804)。
「穴を開けるはドリルの本懐、全力で参ります!!」
掛け声とともにヨモツヘグリの腹へと突き刺されるドリル。そして。
「びりびり電撃どりる!!!!」
確実に内側からダメージを与えられている手ごたえを感じる。
頃合いを見計らってドリルを引き抜いて颯が身を引くと、
「これはどうだ?」
ハーレイが外側からのダメージとしてチャージングをのせた渾身撃を打ち込み、一撃で離脱する。
ハーレイの場合はダメージが穴として目に見えた。
そして二人の攻撃が終わると、ちょうどその攻撃分の歪虚が出現するタイミングとなる。
ハーレイの離脱と交代してブラックホールが騎乗突撃し、出現した歪虚をまとめてファイアスローワーで焼き尽くしてしまう。
こうして障害が排除されたところに颯がドリルをさして……を繰り返していく。
するとそれは何週目だっただろうか。
「やっとだな」
ハーレイの薙ぎ払った先に空洞が見えたのだ。
「お前、ばしっときめるんだぜ?」
出現した歪虚を倒して下がるブラックホールが颯の背中を押した。
「はやてにおまかせですの!」
そう返事を返す颯。
今もまだそこかしこで戦闘は続いている。
この穴を貫通させるために何人が戦ったのだろう。
でもそれもすべて、これが貫通すれば終わる。
強化され通常のものより巨大化したドリル。それは無理矢理に肉を押しのけて穴を広げる。
颯がドリルを引き抜いた時、そこには後続が不自由なく通れるような突破口が開いていた。
吹き荒れる砂嵐を乗り越えた先でハンターたちを待っていたもの。
何もかもがビッグサイズなその敵こそが彼らのターゲット、ヨモツヘグリであった。
「これがヨモツヘグリ? なんて悍ましい……」
「うーわー。観光気分でこっち来るんじゃなかったよ。今すぐ帰りたい」
『残念ね
もう少し余裕のある状況だったら是非描きたかったわ この兵器』
しかしその強大な敵を目の前にしても響ヶ谷 玲奈(ka0028)や南條 真水(ka2377)の声音と、いつもの通りのエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)の筆談からは、怖気づいた様子はない。
だがそうは言っても、剣を交えようとするにはいささか心もとない人数なのも明らかだった。
戦争の基本は相手よりも多い兵力でその戦いの臨むこと。
現状、敵側が圧倒的優位に立っている。
それでも。
「さーて、はじめようぜ!」
ヴァイス(ka0364)の掛け声にかぶせるように誰からともなく鬨の声が上がる。
数で勝るだけの歪虚では絶対に敵わないものがハンターたちにはあった。
そして彼ら彼女らはそれがわかっているからこそ、どんな敵にでも立ち向かえる。
ハンターたちが三方向に散り、戦いの火ぶたが切って落とされた。
●死線を潜り抜けて
巨大なヨモツヘグリ。
その体躯にものを言わせた一撃は、ハンターであれまともに食らえばただでは済まされない。
けれど巨体であるがゆえにその動作は必然的に鈍くなる。
「バカみてぇにでけぇ、です。でも、それでこそ、楽しめるってモン、です」
「うわーでっか!? こんなのどうにか……しなきゃヤバいもんねっ。いくよ……っ」
右舷では八城雪 (ka0146)が、左舷では小鳥遊 時雨(ka4921)が改めて感じるその大きさに気合を入れ直している。
理解していたつもりでも、足元から見上げるようになれば感じ方もかわるものだ。
「一夜で築かれその日に滅びる……まさに『一夜城』ってやつじゃない? ゾクゾクするわね」
ケイ(ka4032)もまたそれに同調するようにつぶやき、臨戦態勢に入る。
本体まではまだ距離があるが、腕から分離した歪虚がハンターたちの行く手を阻む。
一体一体は本当にただの雑魚である上に、まだ数もあまり多くない。
「命を賭けて戦う……今がその時ってやつか」
近づいてくる敵を対崎 紋次郎(ka1892)がデルタレイでまとめて蹴散らすと、ことのほか容易く腕への道が開けた。
「先に進ませてもらうよ」 それは右舷側でも同様で、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)の魔導拳銃から放たれたものが次々に敵を沈めていき、障害となるものを排除する。
しかしこれで慢心するハンターたちではない。 嵐の前の静けさに過ぎないことをしっかりと認識していた。 作戦を展開してから数分、左右からヨモツヘグリの腕を狙う両部隊がそれぞれの攻撃範囲内に対象を捉えた。 しかしそれはそのまま、ヨモツヘグリの攻撃範囲内に入ったことも意味する。 『左舷、ヨモツヘグリの拳撃の対象になっています』 中央突破の役割のため、少し離れた位置にいるJ(ka3142)から速報が入った。 その情報と、実際に自分たちが見ているヨモツヘグリの挙動から、最良の回避先を選択するハンターたち。 歪虚の分離をいったん止めたヨモツヘグリは、重く響く地響きとともにその剛腕を振り上げた。そして振り上げる腕が頂点に達すると運動を逆転させて、天を覆うような手が左舷の部隊を標的にして地に落ちてくる。
ずうぅぅん……。 それは辺り一帯の大地が無理矢理揺らされている感覚。
結果としてハンターたちにダメージはなかったものの、攻撃を避ける術を持たない大地は大きくえぐられていた。
「くそっ、でかけりゃ強そうったって限度を考えやがれ! こっちの! 好き勝手させるわけには行かねーし、こうなりゃ端から削ってぶっ潰す!!」
岩井崎 旭 (ka0234)は口ではそうぼやきながらも、体はしっかりと次の行動に移していた。
筋力充填にノックバックをのせた旭の一撃がいまだ地面の上にある巨大な手を無理矢理に縫い付ける。
ヨモツヘグリが再び腕を振り上げるべく持ち上げようとする。しかしその手は地面から離れない。
すかさずハンターたちが飛び出して、肩の切り落としを目標に腕を上り始めた。
ミィリア(ka2689)がロープを結び付けたナイフを投擲してそれを手繰るように駆け上っていくと、
「後ろは任せて。私が守るから」
それを追随するようにセレスティア(ka2691)が続く。
しかしヨモツヘグリも黙って登られるはずはなく、歪虚を分離することで抵抗を見せる。
腕を上る足は止めずにセレスティアが迫る敵を盾で弾き、ミィリアが薙ぎ払いで一掃し、進路を確保する。
その間わずか数十秒。
一見して順調に見えたが、腕が一本ではないのを忘れてはいけない。
『左舷を標的とした振り下ろしのだね。左腕に登っている人も揺れるかもしれないから気をつけるんだよ』
響ヶ谷 玲奈(ka0028)からの通信の直後、
「うわぁ!」
「きゃぁ!」
今まさに登らんとしていた腕が大きく揺れ、その場にいたハンターたちの体が投げ出された。
「攻撃が来るぞー!」
紋次郎の警告に合わせて右舷の部隊が回避行動をとる。
ずぅぅん……。
と、重く響く地響き。
直後、ランアウトとマルチステップで腕の攻撃をかわしていたヒースがヨモツヘグリに刀を突き刺してよじ登り始めた。
「無謀と嘲笑うのは失敗した時。成功した時は堂々と笑うとしよう」
先ほど左舷がよじ登りを敢行した際に何人かが振り落とされていた。
二の舞を演じぬよう、ヒースは一歩一歩慎重に踏み出していく。
そんな時、四つん這いの姿勢になっているヨモツヘグリが立ち上がろうとして両の腕を動かし始める。
するとその動きに合わせてチャージングと薙ぎ払いを重ね掛けしたレオン・フォイアロート(ka0829)が馬上突撃を仕掛け、ヨモツヘグリの腕に深々と刀を突き刺した。
片腕の状態でならまだしも、ヨモツヘグリのような巨体が両手で踏ん張っている力は抑えきれずに旭の縫い付けが破られてしまう。
まさに「ゆらぁ……」という効果音がぴったりな動きをしながら上体を起こすヨモツヘグリ。
必然的に腕が地面と垂直になってしまい何人かが腕の上から脱落していくなか、レオンはその重力加速度を刀にのせて腕を駆け落ちていた。
それにさらにチャージングと薙ぎ払いを合わせた一撃はヨモツヘグリの腕に多大なダメージを与えていく。
レオンの体がヨモツヘグリの腕を離れる直前には、遠目でもわかるほどの大きな傷跡と大量の歪虚の姿があった。
しかしそれでも、切断にまではいたらない。
レオンが縄をつけた盾をうまい具合にヨモツヘグリへ巻きつけてから空中に身を投げた時、何度目かになる重低音があたりに響いた。
左腕がレオンによって攻撃を受けているのと同じタイミング、右腕は再び振り下ろしの姿勢に入っていた。
空を切りつつ襲い掛かる巨大な手。
その手の軌道が、突然の雷撃によって照らされた。
エヴァの放ったライトニングボルトである。
その効果範囲すべてにヨモツヘグリの腕を捉えた雷は腕から次々と歪虚を引きはがす。
両腕へのダメージが増えることに比例して数を増やしていく歪虚。
戦いは混戦へともつれ込んだ。
●城としての姿へ
ずぅぅん……。
先ほどから何度も、その手の一撃に歪虚が巻き込まれている。
そんなことを気にする必要が皆無なほどには数の用意があるのだ。
数の暴力、とでも言うべきヨモツヘグリの攻撃の前にハンターたちは苦戦を強いられていた。
腕への攻撃が着実に進んでいることの象徴でもあるのだが、素直に喜べないのが難点である。
「次、いきます!」
盾装備の兵士を中心として構成された部隊の指揮をとるのは柏木 千春(ka3061)。
手の攻撃が届かないギリギリのところに配置されたその部隊は迫りくる歪虚を着実に減らしていった。
適当なタイミングで千春が展開するヒーリングスフィアもあり、ハンターサイドに大きな損害はなくここまできている。
巨体のあまりレクイエムが大して威力を発揮できなかったのが後々の誤算と言えば誤算なのだろうか。
地上での戦闘も苛烈を極めていたが、腕の上も変わらず厳しいものとなっていた。
腕の攻撃が地を殴るたびに腕に取りつき、人間で言うところの肘のあたりをめどに攻撃を加えては離脱を繰り返す。
腕の付け根を狙っていては取りついてから到達するまでに大きなタイムロスが生まれてしまう。
止まってくれているわけではない腕の上でそれは効率が悪いということから攻撃対象を肘に定めたのだった。
「この巨大さ……無策では切断は成らぬでしょうが、間接部分に何らかの機構や仕掛けがあれば、其れが狙い目となるやもしれません」
麗奈 三春 (ka4744)が腕を駆け上がって肘に攻撃を加えていると、腕を振り上げようとするヨモツヘグリが体を震わせ、足場がなくなってしまった。
それでも三春は落ち着いてヨモツヘグリの体を切りつけて落下のスピードを緩めた。
そして地面が近づくと体の向きを変え、最低限に衝撃を緩和する。
その際、自身の武器の射程内から出ないようにアンカーを打ち込んでおくのを忘れない。
ヨモツヘグリがある程度の単純な動きをしていることがこの戦いの中でわかってきたハンターたちは、それに合わせて取りつくタイミングが計りやすくなっていた。離脱の時のタイミングもまた然り。
三春が離脱した右腕の反対側、左腕を標的とする右舷の部隊が、ヨモツヘグリの振り下ろしを契機に攻撃に移る。
右腕に比べて左腕にはレオンのつけた傷跡が残っているため、狙いを定めるという点ではわずかながら容易であった。
「城に腕など不要だ……削ってやる」
紋次郎がファイアスローワーをその傷跡の部分に放ち、さらにその傷口を広げていく。
「そろそろ斬れてくれると助かるんだけどねぇ」
立体機動を利用したヒースの斬撃も、同じポイントへと襲い掛かる。
そして、腕が再び動き始めるとその都度離脱を繰り返す。
一挙手一投足がゆっくりであるとはいえ、腕が振り下ろされる際の風圧は相当のものだ。
始めのうちこそなんとか腕にしがみつこうとするハンターもいたが、努力むなしく振り落とされてしまうので、腕が振り上げられる際にその上に残ろうとするハンターはいなくなった。
開戦から数刻、ある程度規則性のある動きを取っていたヨモツヘグリだった。
さればこそ、戦場はヨモツヘグリが異なる行動をとった時に動く。
空へ片腕が振り上げられるのは毎度のこと。けれど今回は違ったのだ。
万歳のポーズで両腕が振り上げられ、同時のタイミングで振り下ろされる。
それでも歪虚の対応に当たっていたハンターたちは冷静にその戦闘から離脱し、手の攻撃範囲から距離を取る。
どぅずうぅん……。
多数の歪虚を巻き込みながら両手が地面に叩きつけられる。
と、同時に左舷では三春に時雨、ミィリア、セレスティアの四人が腕を駆け上がる。
腕の上とはいえ出現する歪虚を、対象が遠いうちは時雨が強弾を用いて排除し、接近された場合にはミィリアが薙ぎ払いで進路を確保して進んで行く。
そうしているうちに一行は肘のあたりまでのぼりきると、そこには多数の歪虚の姿があった。
「大丈夫。絶対私が守るから」
セレスティアは一歩前に出ると、攻撃役を庇うように立ちふさがった。
標的としているポイントへミィリアが大太刀を突き刺した。
ミィリアは下方向に刺突一閃を放つと、腕の深いところまで刺さった大太刀を薙ぎ払いで振りぬく。
大太刀の動きに合わせて多くの歪虚が腕から剥がれ落ちる。
そしてその傷の部分へ三春の追撃が浴びせられる。
また、歪虚が剥がれ落ちた。
再度ミィリアが大太刀を持ち直し、深く、深く突き刺す。
「いっけぇえええ!!!」
力の限り振りぬかれた大太刀は確かな手ごたえと共に斬るべきものを引き裂いた。
振り下ろされ続けている腕を少し離れた位置から見つめるハンターがいた。
銃を手にしたケイである。
彼女はヨモツヘグリに対して構えると、レイターコールドショットで腕を狙撃した。
「……」
効果は、ある。
命中した部分の歪虚が剥がれ落ちたのが確認できた。
しかし攻撃として効果がないわけではないようだが、それは魚の鱗を一枚一枚はがしていくようなもの。
大局的に見れば効果がないも同然だった。
ケイは即座にその攻撃対象を、腕の上で仲間を狙う歪虚に変更し、銃を構えなおす。
今は右舷の部隊が攻撃を加えているタイミングだ。
攻撃しているハンターを背後から狙おうとする歪虚に狙いを定め、引き金を引く。
……命中。
次の狙いを定めてまた引き金を引く。
……命中。
次の狙いを定めて……。
しかし、次の引き金はひかれなかった。彼女の目に飛び込んできた光景がそうさせなかったのだ。
ケイの手元のトランシーバーが叫び出す。
『右腕破壊! 残りもこっちで抑えておくから、後は任せたよん……って死亡ふらぐ立ててないからねっ!? とにかくがんばー!』
そしてそれとほぼ同時に
『左腕、撃破!』
とも。
両腕が地面に叩きつけられる。
タイミングを合わせて右舷のハンターたちも駆け上がっていく。
もう何度目になるかわからない。皆慣れたもので、地点に到達するまでの時間は格段に短くなった。
また、この時点で腕の太さは、部分的であるものの当初の三分の一程度にまで細くなっていた。
「こー言う、小さいのが沢山集まって、大きなモンの形になってるの、昔の騙し絵にあった、です」
攻撃箇所の周囲も巻き込んだ薙ぎ払いで腕としての接続を断ち切っていく雪。
……の後ろを高速ななにかが通り過ぎる音。
ハッと雪が振り返るとそこには歪虚が崩れ落ちていた。
遠くを見やれば光を反射する何かがこちらへ向けられている。
即座に狙撃だということに思い至る雪。
背後を任せられる存在ができたことで攻撃に集中できるようになった雪は、再び剣を振る。
またしても背後を何かが通り過ぎた。
それを感じつつ、雪が再びの薙ぎ払いを傷口へ振る。
そこへ、立体機動を使用しての違う角度からのヒースの一撃も加えられた。
「生きる理由と死ねない理由があるんでねぇ。だからこの城、この刃で崩す」
二方面からの攻撃が加えられたその時。
肉塊の向こう側からは見えるはずのなかった剣が顔をのぞかせた。
直後、耳障りな音を立てつつ右舷部隊のハンターたちの足場兼切断対象であったヨモツヘグリの腕がゆっくりと地面へ向かって倒れていく。
右舷部隊の目標、レオンの一撃から始まった左腕の切断がなされた瞬間だった。
『右腕破壊! 残りもこっちで抑えておくから、後は任せたよん…って死亡ふらぐ立ててないからねっ!? とにかくがんばー!』
それと時を同じくして、左舷でも腕の切断に成功したことがトランシーバーから流れる時雨の声によって伝えられた。
そしてそのフラグは、即座に自分たちの身を持って成立させられるのだった。
両舷において切断された腕。
それは喜ぶ間も与えぬうちにおびただしい量の歪虚へと分裂した。
文字通り蜘蛛の子を散らすように広がっていく歪虚。
右舷においてその被害を一身に受けることになったのは開戦から地上で歪虚の対処に当たっていた千春たちであった。
腕の切断に当たっていたハンターたちはすぐには間に合わないだろう。
かといって逃げようにも敵の勢いの前に叶わず、そもそもそんなことをすればこの歪虚群が中央突破の妨げになることは想像に難くない。
徹底抗戦の構えを取る千春たちだったが、如何せん戦力が足りない。
じりじりと後退しつつ、なんとか受け流している時だった。
千春たちと歪虚群の間に一人のハンターが割り込んでくる。
「まだ、諦めるには早いよな?」
ヴァイスは千春たちの目前の敵を一掃してみせ、振り返りながらそう言った。
彼もまた、スキルを惜しむことなく腕への攻撃を行っていた一人だ。体力的にも、残りの手数的にも限界は近いだろう。
それでも彼はそんなことをおくびにも見せず、先陣を切って敵へ向かっていった。
状況は左舷においても変わらなかった。
戦場が歪虚に塗りつぶされる。ただその一点。
エヴァの連れる犬にいたっては終始吠えている状態。
『玲奈が無事中央突破できますように、かしこみ! ってお参りするんだっけ?』
ライトニングボルトとファイアボールを併用するエヴァだったが、倒しているはずなのに自分を囲む敵の数は増えていく。
前、右、後ろ、左。敵、敵、敵、敵。
他の場所でもその歪虚群の中でそれをかき乱す影があった。
旭は同様に歪虚群の真っただ中においてラウンドスウィングで周囲の敵を吹き飛ばしていた。
しかしどれだけ吹き飛ばしても歪虚群にはきりがない。
次から次へと隊列の穴を埋めてしまうのだ。
他の仲間と合流する予定だった旭だが、どうにもこの場から動けそうになかった。
両舷において戦力は壊滅に等しい状態だった。
けれど、作戦はまだ終わっていない。
ここを乗り越えていく仲間がいる。
その思いがハンターたちをそこに立たせ、戦わせていた。
そして、その思いを継ぐ者たちが駆けつける。
●次へつなぐ突破口
歪虚群に塗りつぶされた戦場。
しかしそこに風穴を開ける音が轟いた。
「君たち、どいてもらうよ」
魔導二輪にまたがる鳳 覚羅(ka0862)が、破竹の勢いで歪虚群を倒していく。
「さて、俺も始めようか」
馬にまたがるナハティガル・ハーレイ(ka0023)もチャージングをのせた薙ぎ払いで中央突破部隊の行く手を阻む歪虚群を排除して回る。
唸るバイクの音、戦場を駆ける馬。
なかなかにして絵になる光景である。
「それじゃあ――あとは頼むよ、いってらっしゃい」
敵を蹴散らしつつ自分の横を通り抜けていく彼らに、真水はそうつぶやいた。
「城を骨組み替わりに生きた要塞を造り出すとはね…まったく恐れ入ったよ…歪虚はどこまでのことをやってくれるやら」
鋼索鞭で敵に斬撃を加えつつ戦場を魔導二輪で縦横無尽に駆け巡る覚羅。
唐突に現れ唐突に去っていく嵐のような戦い方は、この戦場において十分な攪乱になっているようだった。
現に、戦場を右へ左へ移動する覚羅に無理についてこようとした個体がそれぞればらばらの方向に行こうとし、歪虚同士でお互いの道をふさぎ合う状態になっている。
しかし覚羅を前に動きを止めるというのは言語道断なわけであって。
「それは焼いてくれってことなのかな?」
覚羅は歪虚の動きが停滞している箇所に魔導二輪で近づき、ファイアスローワーでその地点を焼き払った。
「…さて、解体作業といきますか」
そうつぶやく覚羅の視線の先にはヨモツヘグリがあった。
両腕を切断され、事実上攻撃手段を失ったヨモツヘグリはもう目前であるというのに、そのもう少しの距離が途方もなく遠い。
ハンターや朱夏(kz0116)ならまだしも、東方兵では歪虚一体倒すのにも時間がかかってしまう。
致し方ないと言えば致し方ないのだが、なんにせよ全体として戦闘の時間が長引くのは好ましくない。
足を動かしながらも考えを巡らせる中、
「……わたしが敵の足を止める」
と、ナツキ(ka2481)が声をあげた。
「ナツキ殿、大丈夫なのか?」
心配そうな様子を見せる朱夏にナツキは、
「行って。わたしは……わたしじゃ、皆を繋げるのは、難しい。でも、アヤカや皆なら。この世界の皆が繋がるように、できると思う。皆が笑顔で過ごせる世界を、つくれると思う」
そう言った。
「……承知した」
ナツキの言葉を受け、朱夏は先へ進むことを決めた。
離れていく朱夏たちをしばし眺めていたナツキは、その手に持った薙刀を構えると、
「……だから。わたしは死ぬまでお前たちを止めてみせる。……死んでもお前たちを通さない。この薙刀に誓って、わたしはお前たちを斃す。負けない。わたしは、負けない……!!」
「まずは、情報集めだな」
ヨモツヘグリの腹。穴を開けるべき対象を目の前にし、魔導銃を構えつつそうつぶやくデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が数回引き金を引く。
放たれた炎のような光をまとうその弾丸がヨモツヘグリの腹に命中すると、しばらくの後に数体の歪虚となって動き始めた。
「なるほど? おまえらの動き、把握したぜ」
歪虚の出現具合や、ヨモツヘグリ本体は抵抗を示すだけで既に攻撃手段を持ちえないことなどを暗黒皇帝は即座に見抜いたようだ。
「負傷はわたしに任せろ、どてっ腹ぶち抜けっ!」
腕の切断の際に負傷した人へヒールをかけて回っていた玲奈だったが、まだヒールの使用回数はかろうじて残っていた。
突破口を開くまでの間持たせるだけなら十分間に合うと踏んだ玲奈が名乗りを上げる。
「それじゃあ私は露払いを担当しましょうか」
突破口を開く準備に入る様子を一瞥すると、Jは皆とは反対の方向へと体を向けた。
途中でナツキが足止めをしてくれているとはいえ依然としてこの数だ。抜けてくる個体も少なくない。
Jは機杖を敵に構え、
「邪魔はしないでくださいね」
ファイアスローワーに焼かれた歪虚たちが次々とダウンしていく。
「こっちはお任せ下さい」
一度振り返ってそう言った後、Jは敵の迎撃へと専念するのだった。
突破口を開けるのに専念できる状況が整い、改めてヨモツヘグリに向き直り、ドリルを構える八劒 颯(ka1804)。
「穴を開けるはドリルの本懐、全力で参ります!!」
掛け声とともにヨモツヘグリの腹へと突き刺されるドリル。そして。
「びりびり電撃どりる!!!!」
確実に内側からダメージを与えられている手ごたえを感じる。
頃合いを見計らってドリルを引き抜いて颯が身を引くと、
「これはどうだ?」
ハーレイが外側からのダメージとしてチャージングをのせた渾身撃を打ち込み、一撃で離脱する。
ハーレイの場合はダメージが穴として目に見えた。
そして二人の攻撃が終わると、ちょうどその攻撃分の歪虚が出現するタイミングとなる。
ハーレイの離脱と交代してブラックホールが騎乗突撃し、出現した歪虚をまとめてファイアスローワーで焼き尽くしてしまう。
こうして障害が排除されたところに颯がドリルをさして……を繰り返していく。
するとそれは何週目だっただろうか。
「やっとだな」
ハーレイの薙ぎ払った先に空洞が見えたのだ。
「お前、ばしっときめるんだぜ?」
出現した歪虚を倒して下がるブラックホールが颯の背中を押した。
「はやてにおまかせですの!」
そう返事を返す颯。
今もまだそこかしこで戦闘は続いている。
この穴を貫通させるために何人が戦ったのだろう。
でもそれもすべて、これが貫通すれば終わる。
強化され通常のものより巨大化したドリル。それは無理矢理に肉を押しのけて穴を広げる。
颯がドリルを引き抜いた時、そこには後続が不自由なく通れるような突破口が開いていた。
リプレイ拍手
岡本龍馬 | 1人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
- 【1.突破口確保】
- 【2.龍尾城防衛】
- 【3.ヨモツヘグリ攻略】
- 【4.生体兵器内部突入】