ゲスト
(ka0000)
【龍奏】これまでの経緯




【龍奏】でのストーリーノベルはここで確認が可能じゃ。
状況の整理に役立てるがよいぞ!
ナディア・ドラゴネッティ
更新情報(6月15日更新)
過去の【龍奏】ストーリーノベルを掲載しました。
【龍奏】ストーリーノベル
各タイトルをクリックすると、下にノベルが展開されます。
どよめくハンター達。ナディアは頭を振り。
「だとしても、それも全ては大昔の話。おぬしらの生まれるずっと前の問題じゃ。アズラエル、彼らには関係ない」
「龍は忘れてはいないんだよ。君たちヒトに裏切られた過去をね。とはいえ、異世界から来た者には無縁の話。だから僕らも無差別に君たちを攻撃したりはしない。お嬢さんのような者がここにいる事を君たちは感謝すべきだね」
アリアに目配せしアズラエルは微笑む。だがもうわかる。彼の笑顔は仮面に過ぎないと。
「それは、あたし達がいなかったら戦いになってたって事?」
「青龍はヒトと敵対する事を望んでいるのか? 俺達が忘れた過去に何があった?」
スメラギの問いに答えず、アズラエルは遺跡を眺める。
「強欲王メイルストロムがこの地の動きに感づいた。直にザッハーク率いる強欲の大部隊が押し寄せるだろう」
「おい、話を逸らすな!」
「話ならばナディアから聞き出せばいい。彼女と君たちの祖先の罪を存分にね。僕もしばらくはこの遺跡でお世話になるよ。それでいいね、ラヴィアン?」
露骨に舌打ちしそっぽ向くラヴィアンに肩を竦めるアズラエル。ハンター達の動揺は収まらず、浮足立った空気が広がっていった。
「そ、それは違う! 龍による支配など無意味じゃ。ソサエティの源流が龍にあったとしても、組織を広げたのはヒトの力。わらわはそれをずっと見つめてきた」
「だったらこの戦いは何なんだ? 俺達はこれからどうすりゃいい!?」
「お話中失礼しま?す。遺跡の防衛機能の再起動の件についてお話が」
空気を全く読まずに歩いてきたナサニエル・カロッサ(kz0028)はそのまま話を続ける。
「龍鉱石集めは順調で、このまま行けば問題なく防衛機能を活用できそうです。確認をよろしいですか、総長?」
「あ、ああ……すまぬ、続きはまた今度じゃ」
ナサニエルと共に走り去るナディアを見送るスメラギ。その肩をそっとアルマが叩く。
「スメラギさん。お気持ちはわかりますが……」
「今はそれどころじゃねぇな。悪ぃな、感情的になって。俺よりお前達の方が困惑してるだろうに」
目を瞑り首を横に振るアルマ。偽りの掌を見つめ、宿敵に想いを馳せる。
「この戦いの先に真実がある……そんな気がするんです。だから今は……」
「――アルマ! 悪いな、ちょっと来てくれ!」
「おや、団長さん……? はーい、今行きまーす! さ、スメラギさんも」
軽く背を押され歩き出すスメラギ。約束を守れなかった自分。黒龍が告げなかった真実。
半端者と言ったあの男の言葉が、今も頭の中に響いていた。
氷河を超え結晶の森を超え、山をも超えた強欲の軍勢が空を埋め尽くさんと羽ばたき続ける。
赤き鱗を持つ一体の竜は山の頂に立ち、遠巻きにカム・ラディ遺跡を見つめていた。
ヒトのように二本の脚で歩く、人型竜。体長もさほど大きくはない。だが、身に纏った負のマテリアルは大気をも震わせる。
「ザッハーク、サマ……先行サセタ部隊ガ、壊滅シマシタ」
「もう良い、号令を待て。送り込んで帰還したのは一部の実力者のみ、それ以外の兵力はすべて殲滅か。侮れぬな、ニンゲンも」
『この北の大地では、ゲートを巡る戦いが続けられてきた。リグ・サンガマの滅亡は、ゲートを封印する戦いの末路であった』
ヴォイドゲートと呼ばれるものは、恐らくこの世界に幾つか既に存在している。
その中でも特に巨大なゲートがこのリグ・サンガマにある。それが北方が滅んだ原因、そして北狄と呼ばれる歪虚の勢力圏が生まれた原因でもある。
『ヴォイドゲートを使い、異界より闇を引き入れようとした強欲王を、我らは一国を擲って封じた。結果、この国は滅び……そして強欲王と共にゲートは封じられた。だが、私の封印は完全ではなかった』
強欲王の力の中枢をゲートと共に封じようとするも、歪虚の出現を完全に抑える事はできなかった。
結果として北方ではゲートから出現する歪虚、そしてゲートの封印を開放しようとする強欲との戦いが続けられる事となった。
『私はゲートと強欲王の封印に殆どの力を使っている。それもそう長くは持たぬだろう。私が倒れれば、北のゲートは完全に開放される事となる』
「その前に強欲王を倒し、ゲートを破壊しなければならない。それが、僕らが君達に期待する未来だ」
「……もし、ヴォイドゲートが開放されたらどうなる?」
『“真なる闇”が訪れるだろう。最早龍も人も抗えぬ、星喰らいの闇が』
青龍の重苦しい言葉にスメラギは思わず息を呑んだ。王を封じた龍が言う、抗えぬ闇。それがどんな規模なのか、想像もできない。
「もし強欲王とゲートを破壊するなら、青龍様は封印を解く必要がある。空間断絶の結界だから、封じたままではこっちも近づけないんだ」
「じゃあ、強欲王と闘う為にはゲートを一時的にでも開放するリスクがあるのか……」
「ああ。だから、もし君達が自分の力に自信がないというのなら、ゲートの破壊は先送りにする事もできる。強欲王は、“二つに分かれている”からね」
かつて強欲王と青龍の戦争が起きた時、青龍は多くの竜種と人間の力を束ね、強欲王と共にゲートの封印に成功した。
封印術にはカム・ラディ、ザムラ・ガラン、デ・シェールといった神殿の法術装置を使い、多くの龍や人間の術者の命を犠牲にした。それでも強欲王を完全に封じられないと悟った当時の術者達は、強欲王の力だけを封じる事を選んだ。
強欲王の心臓とも言える力の中心、龍の心核。ゲートを操作していたその力だけを切り離し、ゲートと共に星の傷跡に封じる事で不完全ながらも封印を成したのだ。
「だから、力を奪われた強欲王の器は今でも活動を続けている。ゲートと同化している強欲王の心臓を倒さなくても、強欲王の肉体を滅ぼせば少なくとも強欲の攻勢は弱まるはずだ。そうすれば青龍様はもうしばらくの間、ゲートを封印できるだろう」
「つまり、人類がもっと力をつけるまで待つ事もできるってことか……」
『星の中枢から力を取り込んだからこそゲートを操る力を得たのだ。今のあやつが完全に力を取り戻せば、王らの中でも頭一つ抜きん出るだろう』
強欲王の肉体を滅ぼしても、強欲王の心核とゲートは残る。だがそれはまたの機会、人類がより力をつけてから再度破壊に向かう事もできる。
青龍の封印が長く持たないのは、歪虚のによる攻撃が続いているからだ。それを一先ずなんとかすれば、封印は続けられる。だが……。
何より、ゲートを開放するという事は完全体となった強欲王を倒さねばならないという事だ。
万が一そこで人類が敗れたならばゲートは完全に解き放たれ、多数の歪虚が雪崩れ込み――世界の終焉が始まってしまうだろう。
「強欲王の心核も、強欲王の肉体も、どちらも同時に滅ぼしてしまえば済む話でしょう」
「簡単に言うんじゃねぇ! これまでに王との戦いでどれだけ犠牲者が出たと思ってやがる!? 戦争は盤上の遊戯じゃねぇんだぞ!」
スメラギの怒鳴り声に静まり返る神殿内。ラヴィアンはそれ以上なにも語らず、スメラギも言葉を失っていた。
「……まずは星の傷跡を威力偵察する。結論を出すのはそれからでもよかろう? あそこはもう龍園の者も何年も足を運んでいない。何がどうなっているのか、それを知らねば策は練れまい」
ナディアの諭すような言葉では話の落とし所としては適切ではない。誰もが言い知れない焦燥感を抱いていた。
世界の果てにあるという門と、選択すべき未来。
真実は試練となって、人々の前に立ちはだかろうとしていた。
「接続交戦魔導機構」
「ワカメが言ってるのは多分エンゲージリングシステムの事なのよさ」
運転者の首に装備するリング状の装置が、マテリアルの流動を感知し、より直感的な運転を可能とする。これもまたCAMからインスパイアを受けた技術だ。
「エンゲージリングシステムの最終調整はあたしでなければ不可能だったに違いないのよさ。これも渡り鳥の騎士……プラヴァーモデルのおかげなのよね!」
「プラヴァー……ああ、エインヘリアルタイプの試作機ですか」
「エインヘリアルじゃなくてプラヴァーなのよさ! っていうかヘイムダルはカオウルクヴァッペがベースだから、ほぼほぼあたしが作ったようなものよね!?」
「機導兵器開発室魔導アーマー部門には追加予算を約束しますよ」
両手で握り拳を作り、頭上に持ち上げドヤ顔した後、ブリジッタは作業に戻っていった。
「ヘイムダルの生産はもうラインに乗ってる。こっちはいいとして……サルヴァトーレ・ロッソの方はどうなんだ?」
「さっき様子を見てきましたが、修理そのものはもう間もなくといった所ですね。問題は先の戦いで大量消費してしまった燃料とマテリアルエンジンの調整ですが、リグ・サンガマのおかげで目処が立ちそうです」
今だ帝国領北部にて停止したままのサルヴァトーレ・ロッソの周囲には、長期化した作業の結果関係者と警備の帝国軍でちょっとしたキャンプ地が形成されつつあった。だがそれももうじき終わりを告げるだろう。
度重なるCAMを含めた全力出撃の結果、化石燃料は枯渇に向かっている。何よりロッソ墜落の直接的な原因となったのは、歪虚の攻撃ではなくマテリアルエンジンのマシントラブルだ。
ロッソを飛ばす為にマテリアルエンジンを魔導化し消費を抑えようとしたはいいが、うまく化石燃料とマテリアル燃料が交わらなかった。その大きな原因の一つとして、出力比のバランスというものがあった。
「リグ・サンガマには高純度のマテリアル鉱石である龍鉱石というのが豊富に存在しています。これならマテリアルエンジンも動かせるかもしれません」
「ならその龍鉱石ってやつを早く持ってくればいいじゃないか」
「それがまあ、色々とモラル的な問題がありまして……青龍と交渉してからでないと人類軍、主にスメラギ様が承知しないでしょう。私はダニエル艦長らと打ち合わせをした後、龍園に戻って話をつけるつもりです。となると、間に合うかどうかはギリギリという感じですね」
「別に俺は構わんが……あんたのそれはただの研究者の仕事なのか?」
肩を竦め笑うナサニエル。リグ・サンガマへの遠征時からそうだったが、随分と便利に使われている。
「ダニエル艦長が龍園に赴ければそれが早いのですが、転移門を使わないと時間もかかりますからねぇ。ジョン・スミスさんあたりに同行をお願いするとしましょう。個人的に気になっている事もありますし」
「ヘイムダルの方は予定通りでいいんだな?」
「ええ。強欲王との戦いで、必要になるかもしれませんからね……」
頷き、作業に戻っていくクリケット。ナサニエルはヘイムダルを眺める。
「コレの大量運用にもマテリアル燃料は必要不可欠。龍の皆さんには、やはり力を貸してもらわねばなりませんねぇ」
サルヴァトーレ・ロッソ、そして龍園に戻る前に一ヶ月分の報告書類に目を通さねばならない。
お気に入りの飴玉を口に放り込み、伸びを一つ。そして男は悠々と自室へと歩き去っていった。
「青木よ。ビッグマーへの伝令とオーロラは任せる。余もこれより前線へ向かう……後の事は任せるぞ」
「ああ……でかすぎてここに入れなかったんだった。仰せの通りに。行くぞ、オーロラ」
「彼が元は六大龍の一柱、赤龍だったとしても、もうどうしようもないんだ。彼と彼の王が率いた赤の守護者達は闇に飲み込まれた。その無念を思うと胸が張り裂けそうになる。彼らは望んで堕ちたわけじゃない。守護者さえも取り込む何かが、歪虚にはあるはずなんだ」
強く拳を握り締めるアズラエルに、スメラギは笑い。
「なんかちっと安心したぜ。あんたもそんな顔するんだな」
「ああ……そうだね。心なんてなければ争う事もないのに。僕はどうしても……人間だ」
「心があるから人間なんだろ? その理屈で言うなら、龍にもヒトにも大きな違いなんかねぇよ」
肌身離さず身につけた聖書を胸に当て、男は目を瞑る。支えとなるものがなければ、ヒトの心は脆く儚い。
青龍に尽くす者達は皆、救いと許しを求めていた。人間であるが故の悪性を知ればこそ、それを律する強い光を望んだのだ。
それは決して一方的な支配ではなかった。彷徨う無力な子らを救おうという、青龍の優しい揺り籠だったから。
「その為には星の傷跡奥地に突入し、封印を解除しヴォイドゲートと強欲王の心臓を解き放ち、その上でその両方を撃破する必要があるわ」
「当然、こちらの方がリスクは圧倒的に上じゃ。何が起こるのかすらわからぬからな……。よって、“強欲王本体の撃破”と“心核とゲートの破壊”、そのどちらを龍奏作戦の最終目標とするのかは、おぬしらハンターに委ねたい。最初に言ったのはそういう意味じゃ」
強欲の勢力を抑えるだけならば強欲王とその軍勢を倒せば事足りる。相手は心核を封じられているのだから、力も弱まっている。
だが、もしリアルブルー帰還の手がかりを目指し、ヴォイドゲートという脅威の排除を望むなら、危険な戦場へ赴く必要がある。 『仮に封印を解き、お前達がゲートを目指すならば、強欲王の肉体は私が抑えこもう。封印に使っている分の力を取り戻せるのなら、いくばくかの時を稼ぐ事は可能だ』
「既に王との戦いも三度目。おぬしらハンターは王狩りに至る力を身に着けていると確信する。望む未来と己の力を天秤にかけ、作戦を決定してほしい」
確かに、サルヴァトーレ・ロッソの大転移以降、人類軍は加速度的に強化を進めている。
各国の内部的な問題にもメスが入り、西方の秩序は回復に向かっている。何より最前線である北狄を北方王国にまで押し返した事で、少なくとも西方での歪虚の攻勢は弱まるはずだ。
その好機をみすみす怠ける人類ではない。ここリグ・サンガマでの戦いが長引いたとしても、人類は必ず戦力を強化し、歪虚王にも負けないだけの力を手に入れるだろう。
「俺は人間の可能性を信じるぜ。ここで壊滅的な打撃を受けるくらいなら、龍園を守って長期戦に持ち込んだ方がいい。そういうハンターの判断は間違いじゃねぇ。何より実際に最前線に向かうのはあいつらだ。最善の結果を得る為なら何人死んでもいいなんて、そんなのは作戦とは呼べねぇんだよ」
真正面から睨み合う二人。そこで折れたのはラヴィアンだった。
「既に決定は下された。所詮部外者に過ぎない私にこれ以上とやかく言う権利はないわね」
「……どこへ行くんですか?」
神薙の呼びかけに足を止め、ラヴィアンは静かに首を横に振る。
「あなた達には関係のない事よ。あなた達ができないというのなら、別の方法を考えるまで。私は私なりに最善を尽くす。
……お互い、後悔のないように尽力しましょう」
少し寂しげな、しかし確かな微笑みを残してラヴィアンは姿を消した。
協議と決定が終了し、作戦開始に向けてハンターらが動き出す中、神薙は席に座り込んで考えていた。
「これで……本当に良かったのか?」
「そんな問答に意味はないよ、少年。僕らにできることは決断し、ただ前に進む事だけさ」
眼鏡のブリッジに中指をあて、僅かなズレを修正しながらアズラエルは笑う。
「どちらを選択しても、きっと後悔は残っただろう。当然さ。なぜならば、その答えはまだ出ていないのだから」
「――ああ。その通り、ですね」
「後悔なら作戦が失敗し、全てがどうしようもなくなった時にすればいい。それまでに夢想する悔恨など、何の役にも立たない」
やや突き放したような言い方ではあるが、それはアズラエルなりの慰めの言葉だった。
ゆっくりと席を立ち、神薙は頬を両手で叩く。確かに、後悔するにはまだ早すぎる。
「確かに青龍様の封印は長くは保たないだろう。だが、強欲王の肉体を滅ぼす事ができれば……」
「ええ。でも……結局俺たちはまた、龍の力に頼っている」
「巣立ちの時を急ぐ必要はないんじゃないかな。背伸びをして大人になったつもりになっても、それは虚しいだけだよ」
そう言って神薙の肩を叩き、アズラエルは去っていく。
そんな二人の様子を遠巻きに眺め、ナディアは小さく息を吐いた。
あのアズラエルがヒトと足並みを揃えようとしている。その変化もまた、未来を信じる一つの希望となるだろう。
「……なあ、ナディア。俺は……間違えたか?」
背を向けたまま頭上を仰ぎ見るスメラギの呟きに、ナディアは首を横に振る。
「信じよう。ハンター達が選んだ未来を」
決断には痛みが伴う。結局のところ、どんな未来を選んでも犠牲は出るし、先の事などわからない。
それでも、より絶望的な死地にハンターを追いやらずに済んだ事に、少年は心の底から安堵した。
小型の狂気が群がると、ファリフも青木を追撃できない。そこへ馬に跨った八重樫 敦(kz0056)が駆け寄り、狂気を一刀に切り伏せる。
「山岳猟団……? 連合軍の援護に来てくれたの?」
「いや。こちらにはこちらの目的がある。ただ、あまりに見慣れたVOIDでな……余計な世話だったならば謝罪しよう」
「団長、間違いねぇ! ヴァルハラだ! 例の黒歩兵に……見たことのねぇCAMもいるぜ!」
「巻き込まれたくなければ撤退しろ。ここは直、乱戦になる」
部下を指揮し走り去る八重垣。ファリフは振り返り青木の姿を探すが、既に見つける事は叶わない。
「フェンリル……ボクは……」
この力は精霊を、そしてヒトを守る為に託されたもの。
青木は確かに許せない宿敵だ。だが今は……。
「一人でも多くの仲間を助けるんだ。そうだよね……フェンリル!」
しかし狂気と強欲は一枚岩ではなく、“青龍の抹殺”という目的達成を競いあうように、道中で争いが続いていた。
『――ったく。確かに俺はCAMが好きだぜ? テメェらのやりたいことも察しはつく。けどなァ……』
自らを包囲するのは歪虚CAM達。LH044から出撃した狂気の尖兵である。
『ンなナメた真似されて許せる程気が長くねェんだよ! 雑魚がァ!!』
銃撃をかわし、翼で弾き距離を詰めると、光をまとった爪の一撃。歪虚CAMの装甲が拉げ、中に詰まった狂気の肉が盛り上がる。
それを掴んで大地に叩きつけると、黒竜は吼えた。
元よりこの戦場にこだわりはない。ザッハークとは昔から反りが合わないし、元々赤龍の眷属だったわけでもなし。強欲に同属意識など存在しない。
だがこの状況は冗談にしては度が過ぎている。せっかくハンターとの戦いに興じていたところに水を差されたのだ。
『何を思っての悪巫山戯か、なんて知った事じゃねェ。誰に喧嘩を売ったのか、スクラップになりながら思い知るんだなァ!』
倒れそうになるザッハークの背をしっかりと支え、旭は頷く。
「皆で約束しちまったもんな。お前ら龍の後を継ぐってよ」
「勘違いするんじゃねえ。俺はただ気に喰わねえだけだ。奴らも……そして」
あの空の向こうで、ヒトを嘲笑う何者かも。
構え直したウィンスの背後、突然何かが雪を巻き上げながら通過する。
急制動をして停止したのは暴食王ハヴァマール。新たな王の乱入に全員が驚きを隠せないが、暴食王は強欲王を一瞥すると剣を掲げる。
「勇敢なる強欲の戦士達よ! 盟友メイルストロムに代わり、我が剣に集うが良い! 本懐を果たす時は今ぞ!」
「……あいつ、俺たちじゃなくて狂気と戦ってんのか?」
「――は。上等だ」
暴食王が味方になったわけではない。ただ、優先順位の問題だろう。
与えられた時間はそう長くはない。不死王の背中がそう語っていた。
こんな状況でも、やるべき事は変わらない。
狂気に支配された強欲王をを討ち滅ぼし、永遠の苦しみから開放する事。
龍奏作戦は、いよいよ最終局面を迎えようとしていた。
「大転移は予定にはあったけれど、タイミングが早すぎた。艤装が完全でなかったのも理由の一つだと思うけど、詳しいことは彼にもわからなかった」
VOID反攻の希望たるサルヴァトーレ級の消失と、それを切っ掛けとする技術開示要求とそれに伴う各国利権の奪い合いは、議会の卓上でささやかな、しかし長期に渡る騒動を齎した。
それによりサルヴァトーレ計画は大きく後退。その間にVOIDの侵攻を受けることになった。
「トマーゾがいないと話が進まないのに、彼を拘留したりしたから遅々として全てが進まず、その隙をVOIDに突かれたの」
“何やってんだリアルブルー人”とツッコミを入れたくなったが、自分達もついこの間まで同じようなものだったので、クリムゾンウェスト勢は無言で頭を抱えた。
「私がトマーゾの監視についたのは、彼の審議が中断され、サルヴァトーレ計画が再開された後。人類は超技術に不安を抱いたままでも、彼にすがるしか道はなかった」
「それで、その監視役のお前さんがなぜこっちの世界に?」
「トマーゾはロッソに搭載したように、片道だけの世界転移ならもう技術的に可能としていたの。でも彼の最終目的は“自在に異世界を行き来する事”だった」
「何のために?」
「さあ……? でも、こっちの世界に来てわかった。恐らくトマーゾは、二つの世界の力を合わせたいのだと思う」
リアルブルーの科学技術とクリムゾンウェストの魔法技術。
二つの世界を生きるハンターらがこのクリムゾンウェストの戦況をひっくり返してきたように、異世界の力はVOIDに抵抗する切り札足り得る。
「トマーゾは私にただロッソをリアルブルーに戻すのではなく、“異世界の力”と共に戻すように命じた」
だがラヴィアンは半信半疑だった。異世界の存在も、そこに住む人々の力も。
人間なんて所詮自分の事で手一杯。他の国を助ける事すら難しいのに、他の世界を救う義理などありはしない。
余計な勢力が介入することで統一連合の足並みが更に不揃いになれば、戦況の悪化は必至。
「私はこれ以上、地球の利権戦争に厄介ごとを持ち込みたくなかった。でも、あなた達の戦いを見て気が変わった」
「それで素直に協力を求めてきたってわけか。それはいいが、トマーゾってのは一体何者なんだ?」
「トマーゾ教授については、結局統一連合議会も正体を暴けずにいます。ただ、彼が人工知能ではないかという噂には出所があります」
これまで黙っていたジョン・スミス(kz0004)が口元に手をやり、ゆっくりと語る。
「地球ではトマーゾがもう一つ特殊技術の開発に成功していました。それが高度人工知能、つまりAIです」
しかしトマーゾは自らが生み出したその技術をすぐに封印してしまった。
他の技術に関しては根幹以外はオープン、誰が何に利用しようが金すらとらなかった教授が、人工知能に関する技術は特許とし、世界的に開発を禁じたのだ。
「最適解を自分で埋めてそれを特許とし開示しない。そこまでして彼がAIを禁じた理由が、あのエンドレスにあります」
地球のVOIDは狂気と呼ばれるカテゴリーに属する。
狂気はある時期を境にリアルブルーにおいて機械との同化・同調を見せるようになった。
「人の心を狂わせる狂気の力は人工知能にも及ぶ。なぜかそれを知っていた教授は、戦争の自動化を拒絶したのです」
本来ならばサルヴァトーレ・ロッソもまた、より機械化・自動化を行うことで人員を削減できたはずだ。
しかしロッソは未だ旧時代的な人的制御によって稼働している。それは意図された構図なのだ。
「ロッソにはコンピューターではなく、強い意志を持った担い手が必要でした。ダニエル艦長、あなたのような……ね」
すっと目を細め、ジョンが笑う。そして懐からデータディスクを取り出し。
「中尉から預かった、サルヴァトーレ級の欠損データ……完了していなかった艤装の一部を解析し、ナサニエル院長に相談してみました。時間はかかりますが、憑龍機関を再調整すれば、おそらくは――」
「転移装置が使えるんだな?」
「しかしエネルギー不足です。一度転移するだけで莫大な量のエネルギーが必要になります」
『そこで私たち、龍の力を借りたいというわけか。だが、残念ながら私は自由に力を扱えぬ』
青龍は今もヴォイドゲートの封印に力の殆どを使っている。
もしゲートが破壊されていたのなら、今頃自由になった彼の力を借りることで、既に転移装置が完成していたかもしれないが……。
『六大龍と同格の力を持つ精霊ならばあるいは……。アズラエル、過去の記録を参照し、転移技術について調査せよ』
命令を受けたアズラエルは一礼しすぐに動き出す。
『星の傷跡奥地まで強欲が撤退したことで、龍鉱石であれば新たに回収は可能であろう。すまぬが私にできる手助けはこの程度だ』
「感謝するわ、青龍。思えばあなたには転移直後から世話になってばかりね」
『構わぬ。トマーゾという男、私も興味があるのでな』
「当面は龍鉱石を集めながら、エンジンの調整待ちか……」
帽子を目深にかぶり、ダニエルはため息を零す。
今頃リゼリオでは戦勝祝いも兼ねて武闘大会の準備が進んでいる頃だろうか。
「ようやっとの勝利、せめて少しくらいは休ませてやりてぇがな」
北方にはまだ狂気と強欲の残党がいる。彼らの相手をしながら、ロッソを強化する。
宴が終わるころには、何らかの決断を迫られるだろう。その時まで、猶予はあまり残されていなかった。
(終幕)
●青龍の使者(3月15日公開)
「それにしても、随分集まってきたなぁ」 カム・ラディ遺跡で続けられる龍鉱石の回収と周辺地域の探索任務は、多くのハンター達の協力により想定以上の成果を出しつつあった。 大小様々な龍鉱石を集めた遺跡の一画、そこに木箱に詰め込んだ鉱石を下ろし、ザレム・アズール(ka0878)はぐっと背筋を伸ばす。 「エヴァンスさん、どうしたんですか? 難しい顔して」 「いやなあ。この龍鉱石全部売っぱらったら幾らになるのかと思ってよ」 真剣極まりない表情から一転、爽やかに笑うエヴァンス・カルヴィ(ka0639)にザレムは苦笑を零す。 「まあ、最終的にはソサエティが買い取ってくれるんですけどね」 「財宝目当ての冒険も竜の討伐もハンター冥利に尽きるってもんだが、ちっとばかしやり過ぎたな!」 「ええ……少し休憩しましょう」 改築が進むカム・ラディに幾つか灯る篝火。その前の腰掛けるスメラギ(kz0158)の頭に黒の夢(ka0187)の重量感のある胸がのしかかる。 「スーちゃん、イニシャライザー作りお疲れ様なー♪」 「俺様一応帝だからな? 一応頭が高いからな?」 わなわなと震えるスメラギだが、嫌がっているわけではないようだ。 「でもでも、頑張りすぎてスメラギちゃんが倒れちゃったら元も子もないからね。ちゃーんと休憩するのも仕事の内なんだから」 笑いかけながら焚き火で茶を沸かし、カップに注いで差し出すアリア ウィンスレッド(ka4531)。その様子をエヴァンスは遠巻きに眺める。 「率直に言って羨ましいぜ!」 「自分に正直ですよね、エヴァンスさん……あれ?」 騒ぎに気づき顔を上げるザレム。その頭上に翼竜の影が落ちると、エヴァンスは壁に立てかけていた大剣を引ったくり走り出す。 「竜種だあ!? 哨戒は何やってやがる!」 「ここまで接近を許すなんて……!」 慌てふためくハンター達。しかしそれを諌めるように、ナディア・ドラゴネッティが立ちはだかる。 「落ち着くのじゃ! アレは敵ではない!」 遺跡上を旋回する青い鱗の翼竜は、見ればその背に人影を乗せているではないか。 竜はゆっくりと遺跡に降り立つと、その背から一人の男が顔を覗かせる。少々風変わりだが、カソックを纏った様相は聖職者を思わせた。 男は取り囲むハンター達を見渡し、悠々とナディアへと歩み寄るとにっこりと笑みを作る。 「……目の前に居るのに念話しようとするでない、アズラエル」 「ヒトの言葉がお好みかい、ナディア? それは失礼をしたね。でも、無粋な横槍を避けたい僕の心境も察してくれると嬉しいな」 鋭く睨み返すナディアの視線からは敵意にも似た感情が読み取れる。 わけのわからない状況に顔を見合わせるハンター達。そこへラヴィアン・リューが人混みを掻き分け姿を見せた。 「アズラエル……まさかあなたが来るとはね」 「やあ、ラヴィアン。お目当てのサルヴァトーレ・ロッソとは接触できたかい?」 「サルヴァトーレ・ロッソ……?」 その言葉に首を傾げるアリア。彼女は元ロッソクルー。地球軍人だというラヴィアンの横顔をじっと見つめる。 ラヴィアンは何故かアリアに対し当たりが強かった。というより、リアルブルー人に対してだろうか。 任務や作戦に支障を来たすほどでもないが、少し前にリアルブルー人の少年と揉めているのも目撃した。 「ラヴィアンさんはサルヴァトーレ・ロッソに用があったのかな?」 「……余計な事を言うのはやめて、アズラエル。それよりどういうつもり? これも青龍の意志なの?」 視線も合わせず話を逸らすラヴィアンにアリアは溜息を一つ。アズラエルは笑顔で頷き。 「勿論さ。僕は青龍様のご意思に背くことはないよ……彼女とは違ってね」 「わらわも背信したわけではないわ! ただ、三百年前には色々あったのじゃ!」 「色々か。ナディア、兄さんはそんな無様な言い訳をする子に君を育てた覚えはないよ」 「か?! 何が兄さんじゃ! おぬしを兄と思った事などないわ!」 地団駄踏むナディア。黒の夢の胸を押しのけ、スメラギが立ち上がる。 「つまりあんたはナディアの兄貴で、青龍に仕える神官って事か?」 「兄妹……言われてみるとそっくりなのなー?」 納得するように頷く黒の夢。アズラエルはスメラギに目を向け、僅かに眉を潜める。 「その通りだよ、黒龍の御柱君。尤も、君のように龍を見殺しにするような半端者ではないがね」 「むぅー? そんな言い方はー……」 「よせ黒の夢。あいつの言う事は間違っちゃいねぇ」 「おう兄ちゃんよ。わざわざ喧嘩売りに来たわけじゃないんだろ?」 前のめりになる一部のハンターを片手で制し、代わりにエヴァンスは視線を鋭くする。 「逆に問おう。君たちはこのリグ・サンガマに何をしに来た?」 「あ?」 「俺達は北狄の歪虚を倒す為、北伐作戦の一環としてここに来ました。勿論、龍園の青龍を救う事も視野に入れて……」 「本気で言っているのかい? いや……本気で信じているのか? その子を」 ザレムは驚き、ナディアへ視線を移す。 「総長……?」 「……すまぬ。北伐の主旨はザレムの言う通りじゃ。しかし、わらわは皆にまだ伝えておらぬ事が幾つかある」 |
![]() ザレム・アズール ![]() エヴァンス・カルヴィ ![]() スメラギ ![]() 黒の夢 ![]() アリア ウィンスレッド ![]() ナディア・ドラゴネッティ ![]() ![]() |
「だとしても、それも全ては大昔の話。おぬしらの生まれるずっと前の問題じゃ。アズラエル、彼らには関係ない」
「龍は忘れてはいないんだよ。君たちヒトに裏切られた過去をね。とはいえ、異世界から来た者には無縁の話。だから僕らも無差別に君たちを攻撃したりはしない。お嬢さんのような者がここにいる事を君たちは感謝すべきだね」
アリアに目配せしアズラエルは微笑む。だがもうわかる。彼の笑顔は仮面に過ぎないと。
「それは、あたし達がいなかったら戦いになってたって事?」
「青龍はヒトと敵対する事を望んでいるのか? 俺達が忘れた過去に何があった?」
スメラギの問いに答えず、アズラエルは遺跡を眺める。
「強欲王メイルストロムがこの地の動きに感づいた。直にザッハーク率いる強欲の大部隊が押し寄せるだろう」
「おい、話を逸らすな!」
「話ならばナディアから聞き出せばいい。彼女と君たちの祖先の罪を存分にね。僕もしばらくはこの遺跡でお世話になるよ。それでいいね、ラヴィアン?」
露骨に舌打ちしそっぽ向くラヴィアンに肩を竦めるアズラエル。ハンター達の動揺は収まらず、浮足立った空気が広がっていった。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●憎しみの記憶(3月18日公開)
カム・ラディ遺跡を目指す竜種の数は増え、日に日に襲撃は激化していった。 ハンター部隊の先陣を切りリザードマンを大剣で薙ぎ倒すアーサー・ホーガン(ka0471)の眼前、結晶の木々を踏み潰し巨大な竜種が降り立つ。 雪を舞い上げながら吼えるドラゴンの息吹は炎と成し、アーサーへと襲いかかった。 大剣を盾に見立て構えるアーサーの眼前に、マテリアルの光が翼を広げる。ティリル(ka5672)の符術だ。 炎を薙ぎ払い、体を回転させ大剣を竜の横っ面に叩き込む。堪らず舞い上がろうとするその翼を、瀬崎・統夜(ka5046)の銃弾が貫いた。 「ハッ……飛ばせるかよ、蜥蜴野郎!」 「アーサーさん、今です!」 ティリルが空に放った三つの符が次々に雷撃を降り注がせ、怯んだところへアーサーが跳躍。剣で竜の頭部を両断した。 「こいつはキリがないな……助かったぜ、二人共」 「礼なんざいらねぇよ。それよりアーサー、次のお客さんだ!」 上空から襲いかかるワイバーンを射撃で迎撃する統夜。ハンターの一人が噛みつかれて血を流し絶叫する。 「クソッ! ……おい、しっかりしろ!」 「大丈夫です、命に別状はありません。私が手当します……でも、この状況じゃ」 「一度撤退し、部隊を立て直す! アーサー・ホーガン、そちらの8名の指揮を任せる!」 「俺はもう軍属じゃないんだがな……文句を言っていられる状況でもないか」 ラヴィアンの言葉に肩を竦めるアーサー。負傷者を背負った統夜へ近づくリザードマンに大剣をめり込ませる。 「引き上げるぜ。こいつはデカい戦場になりそうだ」 強欲の大規模侵攻に備え、慌ただしさの増すカム・ラディ遺跡。その一室で、アルマ・アニムス(ka4901)は笑顔を浮かべる。 重苦しい空気の原因は中心に座るナディアだ。アルマは皆にカップを配り。 「同盟領のハーブティーです。気持ちが落ち着きますよー。お口に合うと良いのですが」 「すまぬな、アルマ……」 「いいえ。ただ……僕も少し興味があるんです。エルフすら忘れた過去、歪虚と僕達ハンターの戦いに連なる記憶なのでしょう?」 無意識にか、アルマは義手に生身の手を添える。 「そうじゃな。今を生き、傷つくおぬしらに無関係とは言えぬか。じゃが今は戦いに備える時、触りだけ語ろう」 かつて、大侵攻と呼ばれる戦いがあった。 王国暦700年。リグ・サンガマに飽和した歪虚の大軍は南下を開始する。 広がる戦火に伴い、当時はまだ希少な存在であった国軍に属さない民兵としての覚醒者の互助組織としてハンターズソサエティは設立された。 精霊との契約を簡易化し適性により覚醒者を仕分けするクラスシステムの制定により、ソサエティは覚醒者組織として勢力を拡大する事になる。 「じゃが、そもそもクラスシステムのルーツはリグ・サンガマにあった。わらわが青龍様の指示で、西方に持ち込んだのじゃ」 青龍の巫女は時代の権力者達を一つにし、力と知識を与え歪虚に対抗させようとした。 当時既にリグ・サンガマは100年以上に渡る歪虚との戦いの渦中にあり、それは後に大侵攻の始まりと共に滅びた歴史を鑑みても、既に壊滅の瀬戸際にあったとわかる。 そんな彼らが救いを求め、その対価として力と技術を伝え、やがてソサエティという組織を成したのだ。 「西方の人々は約束した。一致団結し、六大龍と共に歪虚に立ち向かうと。じゃが、その約束は歪虚との戦い、国家の分裂、連絡の断絶……様々な理由で忘れられてしまった。皆生きる事に精一杯だったのじゃ」 確かに、一部の者達は龍との誓いを忘れなかった。辺境の白龍、東方の黒龍。龍との融和を成し遂げた者達もいた。 「じゃが、皆忘れてしまった。リグ・サンガマに青龍という存在がいた事を。それはわらわの責任。わらわはの考えは、ヒトを信じず支配しようという青龍様のそれと徐々に乖離していった」 ソサエティ発足の代償は、青龍への忠誠。青龍側は、後々は各国を支配下に置くつもりであり、ナディアはその為に送られた監視者だった。 「じゃあ、青龍はヒトが約束を守って助けに来るのをずっと待ってたのか? だけど何百年もほったらかされて怒ってると?」 スメラギ(kz0158)の言葉に逡巡し、ナディアは頷く。 「ざっくり言えばそうじゃな。これ以上は世界の成り立ちであるとか、龍とは何かという話になって長くなるので、後にしようと思うのじゃが……」 おずおずと周囲を見渡すナディア。スメラギは腕を組み。 「まさか、その大昔の約束を履行させる為に俺達を連れてきたわけじゃないだろうな?」 |
![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ナディア・ドラゴネッティ ![]() スメラギ ![]() |
「だったらこの戦いは何なんだ? 俺達はこれからどうすりゃいい!?」
「お話中失礼しま?す。遺跡の防衛機能の再起動の件についてお話が」
空気を全く読まずに歩いてきたナサニエル・カロッサ(kz0028)はそのまま話を続ける。
「龍鉱石集めは順調で、このまま行けば問題なく防衛機能を活用できそうです。確認をよろしいですか、総長?」
「あ、ああ……すまぬ、続きはまた今度じゃ」
ナサニエルと共に走り去るナディアを見送るスメラギ。その肩をそっとアルマが叩く。
「スメラギさん。お気持ちはわかりますが……」
「今はそれどころじゃねぇな。悪ぃな、感情的になって。俺よりお前達の方が困惑してるだろうに」
目を瞑り首を横に振るアルマ。偽りの掌を見つめ、宿敵に想いを馳せる。
「この戦いの先に真実がある……そんな気がするんです。だから今は……」
「――アルマ! 悪いな、ちょっと来てくれ!」
「おや、団長さん……? はーい、今行きまーす! さ、スメラギさんも」
軽く背を押され歩き出すスメラギ。約束を守れなかった自分。黒龍が告げなかった真実。
半端者と言ったあの男の言葉が、今も頭の中に響いていた。
氷河を超え結晶の森を超え、山をも超えた強欲の軍勢が空を埋め尽くさんと羽ばたき続ける。
赤き鱗を持つ一体の竜は山の頂に立ち、遠巻きにカム・ラディ遺跡を見つめていた。
ヒトのように二本の脚で歩く、人型竜。体長もさほど大きくはない。だが、身に纏った負のマテリアルは大気をも震わせる。
「ザッハーク、サマ……先行サセタ部隊ガ、壊滅シマシタ」
「もう良い、号令を待て。送り込んで帰還したのは一部の実力者のみ、それ以外の兵力はすべて殲滅か。侮れぬな、ニンゲンも」
竜は部下を下がらせると腕を組み思案する。正直なところ、未だに敵の素性には理解の追いつかぬところがある。 リグ・サンガマは既に龍園を残し殲滅済み。南の人類軍は他眷属が完全に頭を抑えていた筈だ。 「西方のニンゲン共は憤怒王すら屠ったと聞くが、さて……」 そこまで考え、ザッハークは思考を閉ざす。同じことだ。相手がどこの誰かなど関係ない。 「ニンゲン……私は貴様らを許さぬ。貴様らが龍より奪いし全てをただ奪い返すのみ。命も力も文明も! 全て奪い尽くし、我が王に捧ぐのだ!」 ザッハークの叫びに応じ、悪竜達が吼える。その旋律は暴力的な轟音の濁流となり、凍えた空を満たしていく。 「我らが王の嘆きと憎しみを知れ! ニンゲン――ッ!」 |
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(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●グランドシナリオOP 巨竜迎撃戦(3月23日公開)
カム・ラディ遺跡に押し寄せる強欲の数は人類軍を圧倒していた。
陸路での進軍経路を未だ確保しきれていない人類軍がカム・ラディへ戦力を送り込むには転移門に頼るしかない。
故にこの戦いはハンターを始めとした覚醒者たちが要なのだ。
「撃て撃て! 一匹でも多くここで食い止めるんだ!」
上空を飛行する小型のワイバーン達を銃、弓、魔法で迎撃するハンター達。そこへ地上を走るリザードマンが突っ込んでくる。
「ったく、いくら倒してもキリがねぇ……! 司祭殿は下がってろ!」
その時だ。小さな地鳴りが彼らの足を伝ったのは。
それはやがて大きくなり、うねりとなって大地に響き渡る。
「やっぱりか……」
結晶樹林を踏み砕きながら迫る巨大な影。ニ体の超大型竜種がまっすぐにこちらへ向かってくる。
「嫌でもよぉく見えちまうぜ」
「前線の方々は……」
「残念だが……あの様子じゃな」
唇を噛み締め、強くメイスを握りしめるイコニア。それでも、だからこそここを離れるわけにはいかない。
聖堂教会の代表の一人として。例え無力でも、今の自分にできることを精一杯成し遂げなければならない。
そう覚悟を決めた時だ。突如護衛の男に抱えられ、イコニアの身体は空を舞った。
上空から真っ直ぐに落下してきた人影。それは二本の足で大地を踏みしめ、光の翼を広げる。
リグ・サンガマでの戦いの始まりは決して“今”ではない。
西方での戦い、東方との和解。北伐作戦を経てここまで辿り着いたのだ。
辛いことも苦しいことも沢山あった。それでもくじけずに前に進むことを選んだのは、誰かの為なんかじゃない。
「信じてもらう為に……俺達の“今”を伝える為に。俺は俺の為に戦うんだ。“世界”の為なんかじゃない!」
これまで倒れて行った多くの仲間達が――。
「間違いなんかじゃなかったって、証明してみせる!」
「奪うばかりで与えることを知らぬ種族が! 今更何を!」
ザッハークは大きくのけぞり、その口に光を収束させていく。
放たれたドラゴンブレスはまばゆい一条の閃光となりハンター達を襲う。その力は十三魔にも劣らない。
『ザッハーク様ー!』
低空飛行をしてきたその竜は空中で丸くなるとゴロリと回転するようにして着地と制動を済ませる。
「メチタか。今まで何をしていた?」
『やだなー。最強は遅れてやってくるのがかっこいいんじゃないですかー。それよりずるいですよザッハーク様。ぜーんぶ一人で食べちゃうつもりですか?』
メチタと呼ばれた竜は身構えるハンター達を品定めするように眺め。
『こいつらとは前にちょ?っとあって……あ、負けたわけじゃないですよ? 戦略的撤退です。見逃してあげたんです。だけど今日のわたしはお腹もぺこぺこで、なかなかに凶暴ですよ!』
「気を抜くなよ、メチタ。敵も猛者が集まっている」
『心配ご無用です! ここはわたしに任せて、ザッハーク様はグランドワームを援護してください! あいつらわたしと違って図体でかいだけのノロマですからー』
ふふんと鼻を鳴らすメチタ。ザッハークは頷き返すと光の翼を広げ、巨大な竜種へと向かっていく。
「あの超大型竜種、このままじゃカム・ラディ遺跡に向かってしまいます!」
「くそ、止めなきゃ!」
『おーっとー? このわたしを無視して行けるだなんて思わないでくださいよー。強欲最強の竜、このメチタが相手です!』
立ちはだかるメチタに歯噛みする神薙。イコニアはその前に立ち。
「この丸っこいドラゴンさんは私達でなんとかします! あなたは向こうの敵を追って下さい!」
「……すみません、お願いします!」
走り去る神薙達を振り返らずイコニアは震える息を吐き出す。
目の前の丸っこい竜は言動はこれでも強い力を感じる。決して容易な相手ではないだろう。
「それでも……私は司祭ですからっ!」
『おやおやー? そこはかとなく似てる気がしますね、わたし達ってば。最強は一人だけで十分なんですよー?』
「エクラ……ばんっざいっ!」
雪原を走る神薙とハンター達。移動する巨大竜を背にザッハークは振り返る。
「愚かな……追ってこなければ死ぬ事もなかったろうに!」
「あんた達を止める! カム・ラディには……皆の所へは行かせない!」
「その小さな身体で何を守る? 見せてみろ……ニンゲンッ!!」
陸路での進軍経路を未だ確保しきれていない人類軍がカム・ラディへ戦力を送り込むには転移門に頼るしかない。
故にこの戦いはハンターを始めとした覚醒者たちが要なのだ。
「撃て撃て! 一匹でも多くここで食い止めるんだ!」
上空を飛行する小型のワイバーン達を銃、弓、魔法で迎撃するハンター達。そこへ地上を走るリザードマンが突っ込んでくる。
「ったく、いくら倒してもキリがねぇ……! 司祭殿は下がってろ!」
野蛮に見えても彼らはグラズヘイム王国有力貴族の私兵団。この乱戦の中でも護衛対象を見捨てたりはしない。 「団長さん、傷が……! い、今癒やします!」 イコニア・カーナボン(kz0040)のヒールを受けながら男は歯噛みする。 「前線の部隊を突破してきたにしては敵の数が多すぎる……司祭殿、ここはもう危険だ! 引き返すぞ!」 「だ、だめです! イニシャライザーを設置し、この地を守る事……それが私の使命です! 団長さんこそ引き返してくださいっ!」 「それができるならもうやってるんですがねぇ!」 |
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それはやがて大きくなり、うねりとなって大地に響き渡る。
「やっぱりか……」
結晶樹林を踏み砕きながら迫る巨大な影。ニ体の超大型竜種がまっすぐにこちらへ向かってくる。
「嫌でもよぉく見えちまうぜ」
「前線の方々は……」
「残念だが……あの様子じゃな」
唇を噛み締め、強くメイスを握りしめるイコニア。それでも、だからこそここを離れるわけにはいかない。
聖堂教会の代表の一人として。例え無力でも、今の自分にできることを精一杯成し遂げなければならない。
そう覚悟を決めた時だ。突如護衛の男に抱えられ、イコニアの身体は空を舞った。
上空から真っ直ぐに落下してきた人影。それは二本の足で大地を踏みしめ、光の翼を広げる。
「これは……龍の力を使った結界か。何故だ? 何故そのような姿になってまでヒトに加担する……?」 「あ、あなたは……ふぁあああああっ!?」 悪竜は掌に集めた光を投擲し、イニシャライザーを爆破してしまった。その衝撃にイコニアも後方に三回ほど地べたを転がる。 「くそっ、強欲の上位眷属か!?」 「袂を分かったとは言え、元は同族。その生命を使い潰す貴様らを見過ごすわけにはいかんな」 再び掌に光を集める強欲。男がイコニアを庇った直後、上空より無数の魔法が降り注いだ。 青い鱗のワイバーンが数体、カム・ラディより飛来したのだ。その背から飛び降りたハンター達を前に悪竜は睨みを効かせる。 「大丈夫ですか!?」 「は、はいぃ……ま、まだまだ元気です!」 震え拳を握り締め虚勢を張るイコニア。篠原 神薙(kz0001)はデルタレイを放つが、悪竜は光の翼でこれを弾き飛ばす。 「アレは強欲の上位眷属、ザッハークだ。生半可な攻撃は通用しないよ、少年」 青竜の背に留まったままのアズラエルの言葉に神薙は剣を構えながら頷く。 「ここまで俺達を運んでくれてありがとうございます。後は任せて下さい」 「うん? この僕に礼を言うのかい? 変わっているね、君は」 「力を貸してもらったのは事実ですから」 アズラエルは眼鏡のブリッジを持ち上げ、小さく笑みを作る。 「勘違いしないことだね。僕はただ青龍様の命令に従っているだけだ。だが……もしも運命がそれを許すのなら。生き延びたまえよ、人類諸君」 青龍のワイバーン達が飛び去っていく。その姿にザッハークは怒りを露わにする。 「つくづく解せぬな、青龍の眷属は……“世界”の奴隷どもめ。その末路を知らぬわけではあるまいに!」 「あんたにも多分、戦う理由や意味があるんだと思う。だけどやっぱり、ここで負けてやるわけにはいかないんだ」 |
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西方での戦い、東方との和解。北伐作戦を経てここまで辿り着いたのだ。
辛いことも苦しいことも沢山あった。それでもくじけずに前に進むことを選んだのは、誰かの為なんかじゃない。
「信じてもらう為に……俺達の“今”を伝える為に。俺は俺の為に戦うんだ。“世界”の為なんかじゃない!」
これまで倒れて行った多くの仲間達が――。
「間違いなんかじゃなかったって、証明してみせる!」
「奪うばかりで与えることを知らぬ種族が! 今更何を!」
ザッハークは大きくのけぞり、その口に光を収束させていく。
放たれたドラゴンブレスはまばゆい一条の閃光となりハンター達を襲う。その力は十三魔にも劣らない。
『ザッハーク様ー!』
低空飛行をしてきたその竜は空中で丸くなるとゴロリと回転するようにして着地と制動を済ませる。
「メチタか。今まで何をしていた?」
『やだなー。最強は遅れてやってくるのがかっこいいんじゃないですかー。それよりずるいですよザッハーク様。ぜーんぶ一人で食べちゃうつもりですか?』
メチタと呼ばれた竜は身構えるハンター達を品定めするように眺め。
『こいつらとは前にちょ?っとあって……あ、負けたわけじゃないですよ? 戦略的撤退です。見逃してあげたんです。だけど今日のわたしはお腹もぺこぺこで、なかなかに凶暴ですよ!』
「気を抜くなよ、メチタ。敵も猛者が集まっている」
『心配ご無用です! ここはわたしに任せて、ザッハーク様はグランドワームを援護してください! あいつらわたしと違って図体でかいだけのノロマですからー』
ふふんと鼻を鳴らすメチタ。ザッハークは頷き返すと光の翼を広げ、巨大な竜種へと向かっていく。
「あの超大型竜種、このままじゃカム・ラディ遺跡に向かってしまいます!」
「くそ、止めなきゃ!」
『おーっとー? このわたしを無視して行けるだなんて思わないでくださいよー。強欲最強の竜、このメチタが相手です!』
立ちはだかるメチタに歯噛みする神薙。イコニアはその前に立ち。
「この丸っこいドラゴンさんは私達でなんとかします! あなたは向こうの敵を追って下さい!」
「……すみません、お願いします!」
走り去る神薙達を振り返らずイコニアは震える息を吐き出す。
目の前の丸っこい竜は言動はこれでも強い力を感じる。決して容易な相手ではないだろう。
「それでも……私は司祭ですからっ!」
『おやおやー? そこはかとなく似てる気がしますね、わたし達ってば。最強は一人だけで十分なんですよー?』
「エクラ……ばんっざいっ!」
雪原を走る神薙とハンター達。移動する巨大竜を背にザッハークは振り返る。
「愚かな……追ってこなければ死ぬ事もなかったろうに!」
「あんた達を止める! カム・ラディには……皆の所へは行かせない!」
「その小さな身体で何を守る? 見せてみろ……ニンゲンッ!!」
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●呪われたさだめを超えて(4月13日公開)
リグ・サンガマという国が滅んだ後も、彼らの聖地だけは残り続けた。
“龍園”ヴリトラルカ。巨大な神殿を中心とする宗教都市でハンターらを出迎えたのは、龍とヒトの混成部隊であった。
「リザードマンにワイバーンが人間の兵士と整列するのかよ!?」
「彼らは既に人間という立場を捨て、青龍様に忠誠を誓った者……我々は龍人と呼んでいるよ。まあ、君も似たようなものかな?」
ナディアの言葉に青龍は頷く。
『それも知ればこそアズラエルを遣いに出し、龍園に招きもしよう。ナディアはよくヒトを鍛え上げた。だが、それだけでは足りぬのだ』
「なぜだ! 俺達は歪虚王ですら倒せる! 倒してきた……これからだって!」
『ここに到達せし英雄なれば、高潔さと共に世界と寄り添いもしよう……が、お前達の本質、血の宿業は変えられぬ』
深く息を吐き、青龍は話題を変えるように視線を神殿内に巡らせる。
『――龍とは何か、お前達は知っているか?』
クリムゾンウェストと呼ばれるこの惑星。マテリアルという生命の理が根幹を成す魔法世界。
龍はそのバランサーとして産み落とされた精霊種。特に純粋な、原初の高位存在を六大龍と呼んだ。
『龍は小さなマテリアルと共に生まれ、共に成長する。やがて莫大なマテリアルを保持する存在となり、この星に仇成す者を討つ守護者となる』
彼らは世界のバランスを崩す存在を許しはしなかった。当然、歪虚から世界を守る最大の防護壁となる。が、その矛先は内側にも向けられた。
『この世界に、世界そのものを崩そうとする悪が生まれたなら、その芽を摘むのも龍の使命であった』
ヒトと龍の関係性は時代と共に変化した。
古代には莫大な力の象徴である龍を討ち、我が物にしようとする者。また、名声の為に龍に挑む戦士も後を耐えなかった。
本来龍そのものがヒトを能動的に襲う事などあり得ない。故に、龍とヒトの騒乱の矢は、常にヒトによって放たれた。
『だが、我らはヒトを否定できなかった。ヒトもまた世界に産み落とされた命……世界の一部。ならば世界を守護する我ら龍がヒトを滅ぼそうというのでは、それは道理にも反しよう』
ヒトは言わば、世界が生み出した自殺因子。しかし紛れも無く世界の一部。
故に六大龍はそれぞれの方法でヒトの存在を肯定した。距離を置き争いを避ける者。共に歩み分かり合おうとする者。支配により本能を抑えこもうとする者……。
やり方は違えど、誰もがヒトを許していた。だがその結果、今や六大龍のほとんどは滅び去り、星の海に還った。
『許せど愛せど、お前たちは龍を弄び続けた。それを罪とは言うまい。だが、結局こうして最期までヒトと共に在れたのは……支配を選んだ私だけだったのだ』
何も言い返せなかった。ぐっと拳を握り締め、スメラギは俯いていた。
人類は愚かだ。それはわかる。でも言い返せなければ黒龍を否定されたようで辛かった。
『龍とは本来、生まれては死に続けるだけの存在。世界の奴隷……赤龍はそう言っておったな。小さな火と共に生まれ、大きく燃え上がり世界を守って死ぬ。そしてその火を星に還す……白龍や黒龍がそうであったように』
「じゃあ……龍鉱石ってのは……」
『龍の中にも近年、己の存在に悩む者が現れたのだ。守ろうとする世界が産んだ自殺因子たるヒトとの関係性に苦しみ、歪虚との戦いに疲れ死に果てた者の中には、大人しく大地に還る事を拒む者もいた』
「君達が燃料にしてきたのは、死して尚迷い続け、自らの運命を呪った龍達の成れの果てだよ」
「なんてこった……ナサニエル……わかってて俺達に……ッ」
アズラエルの言葉に打ち拉がれるスメラギに、青龍は瞳を閉じて。
『形として残るかどうかの問題に過ぎぬ。お前たち人間はマテリアルを使い、多くの命や歴史を燃やして生を拡大してきた。それときちんと見つめてこなかっただけで、お前たちはずっとそうだったのだ』
「人類には力が必要でした。生き残り、闇に立ち向かうだけの力が。その為に命を燃やす事を、言い訳するわけではございませぬが……」
「……責任は取るさ」
ナディアの助け舟にスメラギは歯を食いしばり、瞳に涙を浮かべながら叫ぶ。
「300年前の約束だけじゃねぇ。俺達人間は、ただ生きてるだけで世界を壊してる……それはわかってる! でも生きる事はやめられねぇんだ! 諦めたり立ち止まったりしたら、本当に全部が終わっちまう! 這いつくばって生き延びて……それで最後には世界を救ってみせる! そうでなきゃあ、俺達は本当にただの自殺因子だ!」
青龍に歩み寄り、涙を拭いてスメラギは跪く。
「俺達を導いてくれ、青龍。どうすれば世界を救えるのか。どうすれば“血の宿業”から逃れられるのか……! あんたは知ってるんだろ!? この北の大地には、まだ俺達の知らない事があるんだろ!?」
『黒龍の……』
「俺に出来んのは頭下げることくらいだ。ハンターの連中はよう、本当によくやってくれてんだ。だから頼むよ……もう一度俺達にチャンスをくれよ!」
「畏れながら……青龍様、彼らは確かに強力な戦士達です。或いは我らの悲願を果たす事も可能かと」
アズラエルの言葉に青龍は目を閉じ思案する。長い唸り声が止まると、次には穏やかな声が聞こえた。
“龍園”ヴリトラルカ。巨大な神殿を中心とする宗教都市でハンターらを出迎えたのは、龍とヒトの混成部隊であった。
「リザードマンにワイバーンが人間の兵士と整列するのかよ!?」
「彼らは既に人間という立場を捨て、青龍様に忠誠を誓った者……我々は龍人と呼んでいるよ。まあ、君も似たようなものかな?」
アズラエルの笑みにスメラギ(kz0158)は眉を潜める。 龍を模した巨大な彫像と兵たちが並ぶ通りを真っ直ぐに進めば、古代に作られた荘厳な神殿に辿り着く。 白亜の結晶神殿の最奥、ステンドグラスから降り注ぐ光を浴び、青き龍は身体を丸め来訪者を見つめる。 「青龍様。不詳ナディア、ご尊顔を拝する事をお許し下さい」 『許そう。久方振り……否。我らにとっては暇の別れ。我が子の帰還を喜ぶぞ』 跪いたナディアだが、青龍の言葉に肩を震わせる。涙を流し頷く姿にスメラギは驚いていた。 青龍から感じるのは決して冷徹さなどではない。むしろ黒龍にすら近い、温かみであったからだ。 『我が盟友たる黒龍の子よ。そして西方の勇者達よ。果てなき旅路、よくぞ苦難を乗り越えた。衰え故に立ち上がれぬ老骨を許すがよい』 「あ、いや……構わないが、あんたには言いたい事が山程あってな」 300年前の支配の約束。ソサエティの成り立ち。そして滅んだリグ・サンガマの今。ヒトをどう考えているのか。 矢継ぎ早に質問するスメラギの言葉に青龍はじっと耳を方向け、静かに頷く。 『私はヒトの裏切りを憎んではいない。配下にはそれと敵意を向ける者もおるだろうが、龍園において無礼はさせぬ』 胸に手を当て、飄々と一礼するアズラエル。青龍は話を続ける。 『しかし、ヒトには支配が必要との考え方もまた、改めるつもりはない』 「白龍や黒龍はヒトと共存した。俺の存在がその証だろう?」 『ああ。然らば……お前の存在こそが、あれらの間違いの果てでもある。共存というのなら、何故守らなかった?』 「それは……っ」 龍の言葉にスメラギは言葉を一瞬、失った。 『ヒトには強い個がある。善良な者もいるが、種全体を見渡せば本質は悪辣。お前たち人間は、己を縛れぬ生き物なのだ』 「畏れながら、我が神よ。確かに人類は愚かであります。傷つけ合い、憎しみ合い、我欲の果てに世界さえも傷つける未熟な生物。だからこそ、成長の余地があるのです」 |
![]() ![]() スメラギ ![]() ナディア・ドラゴネッティ |
『それも知ればこそアズラエルを遣いに出し、龍園に招きもしよう。ナディアはよくヒトを鍛え上げた。だが、それだけでは足りぬのだ』
「なぜだ! 俺達は歪虚王ですら倒せる! 倒してきた……これからだって!」
『ここに到達せし英雄なれば、高潔さと共に世界と寄り添いもしよう……が、お前達の本質、血の宿業は変えられぬ』
深く息を吐き、青龍は話題を変えるように視線を神殿内に巡らせる。
『――龍とは何か、お前達は知っているか?』
クリムゾンウェストと呼ばれるこの惑星。マテリアルという生命の理が根幹を成す魔法世界。
龍はそのバランサーとして産み落とされた精霊種。特に純粋な、原初の高位存在を六大龍と呼んだ。
『龍は小さなマテリアルと共に生まれ、共に成長する。やがて莫大なマテリアルを保持する存在となり、この星に仇成す者を討つ守護者となる』
彼らは世界のバランスを崩す存在を許しはしなかった。当然、歪虚から世界を守る最大の防護壁となる。が、その矛先は内側にも向けられた。
『この世界に、世界そのものを崩そうとする悪が生まれたなら、その芽を摘むのも龍の使命であった』
ヒトと龍の関係性は時代と共に変化した。
古代には莫大な力の象徴である龍を討ち、我が物にしようとする者。また、名声の為に龍に挑む戦士も後を耐えなかった。
本来龍そのものがヒトを能動的に襲う事などあり得ない。故に、龍とヒトの騒乱の矢は、常にヒトによって放たれた。
『だが、我らはヒトを否定できなかった。ヒトもまた世界に産み落とされた命……世界の一部。ならば世界を守護する我ら龍がヒトを滅ぼそうというのでは、それは道理にも反しよう』
ヒトは言わば、世界が生み出した自殺因子。しかし紛れも無く世界の一部。
故に六大龍はそれぞれの方法でヒトの存在を肯定した。距離を置き争いを避ける者。共に歩み分かり合おうとする者。支配により本能を抑えこもうとする者……。
やり方は違えど、誰もがヒトを許していた。だがその結果、今や六大龍のほとんどは滅び去り、星の海に還った。
『許せど愛せど、お前たちは龍を弄び続けた。それを罪とは言うまい。だが、結局こうして最期までヒトと共に在れたのは……支配を選んだ私だけだったのだ』
何も言い返せなかった。ぐっと拳を握り締め、スメラギは俯いていた。
人類は愚かだ。それはわかる。でも言い返せなければ黒龍を否定されたようで辛かった。
『龍とは本来、生まれては死に続けるだけの存在。世界の奴隷……赤龍はそう言っておったな。小さな火と共に生まれ、大きく燃え上がり世界を守って死ぬ。そしてその火を星に還す……白龍や黒龍がそうであったように』
「じゃあ……龍鉱石ってのは……」
『龍の中にも近年、己の存在に悩む者が現れたのだ。守ろうとする世界が産んだ自殺因子たるヒトとの関係性に苦しみ、歪虚との戦いに疲れ死に果てた者の中には、大人しく大地に還る事を拒む者もいた』
「君達が燃料にしてきたのは、死して尚迷い続け、自らの運命を呪った龍達の成れの果てだよ」
「なんてこった……ナサニエル……わかってて俺達に……ッ」
アズラエルの言葉に打ち拉がれるスメラギに、青龍は瞳を閉じて。
『形として残るかどうかの問題に過ぎぬ。お前たち人間はマテリアルを使い、多くの命や歴史を燃やして生を拡大してきた。それときちんと見つめてこなかっただけで、お前たちはずっとそうだったのだ』
「人類には力が必要でした。生き残り、闇に立ち向かうだけの力が。その為に命を燃やす事を、言い訳するわけではございませぬが……」
「……責任は取るさ」
ナディアの助け舟にスメラギは歯を食いしばり、瞳に涙を浮かべながら叫ぶ。
「300年前の約束だけじゃねぇ。俺達人間は、ただ生きてるだけで世界を壊してる……それはわかってる! でも生きる事はやめられねぇんだ! 諦めたり立ち止まったりしたら、本当に全部が終わっちまう! 這いつくばって生き延びて……それで最後には世界を救ってみせる! そうでなきゃあ、俺達は本当にただの自殺因子だ!」
青龍に歩み寄り、涙を拭いてスメラギは跪く。
「俺達を導いてくれ、青龍。どうすれば世界を救えるのか。どうすれば“血の宿業”から逃れられるのか……! あんたは知ってるんだろ!? この北の大地には、まだ俺達の知らない事があるんだろ!?」
『黒龍の……』
「俺に出来んのは頭下げることくらいだ。ハンターの連中はよう、本当によくやってくれてんだ。だから頼むよ……もう一度俺達にチャンスをくれよ!」
「畏れながら……青龍様、彼らは確かに強力な戦士達です。或いは我らの悲願を果たす事も可能かと」
アズラエルの言葉に青龍は目を閉じ思案する。長い唸り声が止まると、次には穏やかな声が聞こえた。
『この龍園の南と東に、二つの遺跡がある。旅人達よ。ヒトの善性に祈る巡礼者達よ。その力を以って、奪われた神殿を奪い返す事は可能か?』 「可能か不可能かじゃねぇ。やると決めた事はやる。俺達はそうやって生きてきた」 スメラギは振り返り、ハンター達を眺める。そうしてまた深く頭を下げた。 「いつも頼ってすまねぇが、お前らの力を貸してくれ。もう一度ヒトと龍の間に、信頼を取り戻す為に……!」 「ヒトと龍、ね……」 そんなハンター達の後方、ラヴィアン・リューは腕を組み、どこか他人事のように呟いた。 「精々活躍してもらわなくてはね。私達、地球人のためにも……」 |
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(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●星の傷跡へ(4月25日公開)
『此度の遺跡奪還戦、見事であった。西方の人類の力……私が思う以上である』 「クリムゾンウェスト連合軍も続々とこの龍園に集結しつつあります。つきましては、我が神よ」 『承知しておる。この龍園に根ざす神霊樹と我の力をナディアに貸そう。三つの遺跡と龍園、それぞれを転移門で結ぶがよい。尤も、我の力にも限度はあるが』 龍園にある青龍の神殿にて、事の顛末を伝えたスメラギ(kz0158)やナディア、そしてハンターらを労い、青龍は静かな眼差しで語る。 『星の旅人よ。お前達の力を認め、この地の真実を伝えよう……アズラエルよ』 跪いていたアズラエルが呼び声に立ち上がり、ハンターらへ向き合う。 「このリグ・サンガマの大地、北の最果てと言っていい場所に、“星の傷跡”と呼ばれる聖域がある」 それがいつからそこにあるのか、青龍ですら知る事はない。 大地を深く深く抉る、直径数十キロに及ぶ巨大なクレバスは、無数の大小の洞窟と連なり、この星の中心へ向かって伸びている。 その最奥を確かめた者はいない。しかし伝承によれば、それはこの星の中枢にすら通じているのだという。 「君達も地脈、つまり大地のマテリアルの流れについては承知しているね?」 「ああ。東方では龍脈と呼んでるけどな」 「生物は全てマテリアルの流れを宿している。地脈、龍脈っていうのは要するにこの惑星という巨大な生命体の血管のようなものさ。この星には、そんな血が集まる場所がいくつかある」 「その一つが星の傷跡ってわけか」 「もしかしたら君達の身近にもあるかもしれないけどね。この北の傷跡が特別なのには理由があるんだ」 大地のマテリアルの収束点である星の傷跡は、莫大な正のマテリアルが集まる場所だ。 それを糧とできるのは人間や精霊だけではない。歪虚にとっても格好の餌場であり、彼らにとっては重要な戦略拠点足りえるのだ。 「――ヴォイドゲート。僕らはそう呼んでいる。歪虚が“出現する門”……“異世界”に通じるゲートだ」 「……異世界だと!?」 「歪虚は確かにこの世界においても自然発生する。そのはじまりについては僕にもわからない。ただ、ヴォイドゲートはどこからか歪虚を運んでくるんだ。恐らくは、ここではないどこかから」 |
![]() スメラギ ![]() ナディア・ドラゴネッティ ![]() |
ヴォイドゲートと呼ばれるものは、恐らくこの世界に幾つか既に存在している。
その中でも特に巨大なゲートがこのリグ・サンガマにある。それが北方が滅んだ原因、そして北狄と呼ばれる歪虚の勢力圏が生まれた原因でもある。
『ヴォイドゲートを使い、異界より闇を引き入れようとした強欲王を、我らは一国を擲って封じた。結果、この国は滅び……そして強欲王と共にゲートは封じられた。だが、私の封印は完全ではなかった』
強欲王の力の中枢をゲートと共に封じようとするも、歪虚の出現を完全に抑える事はできなかった。
結果として北方ではゲートから出現する歪虚、そしてゲートの封印を開放しようとする強欲との戦いが続けられる事となった。
『私はゲートと強欲王の封印に殆どの力を使っている。それもそう長くは持たぬだろう。私が倒れれば、北のゲートは完全に開放される事となる』
「その前に強欲王を倒し、ゲートを破壊しなければならない。それが、僕らが君達に期待する未来だ」
「……もし、ヴォイドゲートが開放されたらどうなる?」
『“真なる闇”が訪れるだろう。最早龍も人も抗えぬ、星喰らいの闇が』
青龍の重苦しい言葉にスメラギは思わず息を呑んだ。王を封じた龍が言う、抗えぬ闇。それがどんな規模なのか、想像もできない。
「もし強欲王とゲートを破壊するなら、青龍様は封印を解く必要がある。空間断絶の結界だから、封じたままではこっちも近づけないんだ」
「じゃあ、強欲王と闘う為にはゲートを一時的にでも開放するリスクがあるのか……」
「ああ。だから、もし君達が自分の力に自信がないというのなら、ゲートの破壊は先送りにする事もできる。強欲王は、“二つに分かれている”からね」
かつて強欲王と青龍の戦争が起きた時、青龍は多くの竜種と人間の力を束ね、強欲王と共にゲートの封印に成功した。
封印術にはカム・ラディ、ザムラ・ガラン、デ・シェールといった神殿の法術装置を使い、多くの龍や人間の術者の命を犠牲にした。それでも強欲王を完全に封じられないと悟った当時の術者達は、強欲王の力だけを封じる事を選んだ。
強欲王の心臓とも言える力の中心、龍の心核。ゲートを操作していたその力だけを切り離し、ゲートと共に星の傷跡に封じる事で不完全ながらも封印を成したのだ。
「だから、力を奪われた強欲王の器は今でも活動を続けている。ゲートと同化している強欲王の心臓を倒さなくても、強欲王の肉体を滅ぼせば少なくとも強欲の攻勢は弱まるはずだ。そうすれば青龍様はもうしばらくの間、ゲートを封印できるだろう」
「つまり、人類がもっと力をつけるまで待つ事もできるってことか……」
『星の中枢から力を取り込んだからこそゲートを操る力を得たのだ。今のあやつが完全に力を取り戻せば、王らの中でも頭一つ抜きん出るだろう』
強欲王の肉体を滅ぼしても、強欲王の心核とゲートは残る。だがそれはまたの機会、人類がより力をつけてから再度破壊に向かう事もできる。
青龍の封印が長く持たないのは、歪虚のによる攻撃が続いているからだ。それを一先ずなんとかすれば、封印は続けられる。だが……。
「またの機会になんて悠長な事は言っていられないわ。私たちには時間がないの」 それはずっと話を聞き入っていたラヴィアンの言葉だった。 「ゲートを取り戻せば、それを利用して私達が地球に帰ることも可能になるはずよ。そうでしょう?」 ハンターたちがどよめいたのも無理はない。リアルブルー……地球からやってきた者達にとっては、この上ない朗報だ。 しかし、最早状況はそこまで単純ではなかった。リアルブルーの転移者がいるからこそ、クリムゾンウェストの戦況はここまで持ち直したのだ。 彼らが一斉に帰還を果たしてしまったなら、その後この世界はどうなってしまうのだろう? この世界で結んだ友と、そして愛すべき人との絆……ゲートで帰還を果たした時、再度こちらの世界に戻れる保証もなかった。 |
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万が一そこで人類が敗れたならばゲートは完全に解き放たれ、多数の歪虚が雪崩れ込み――世界の終焉が始まってしまうだろう。
「強欲王の心核も、強欲王の肉体も、どちらも同時に滅ぼしてしまえば済む話でしょう」
「簡単に言うんじゃねぇ! これまでに王との戦いでどれだけ犠牲者が出たと思ってやがる!? 戦争は盤上の遊戯じゃねぇんだぞ!」
スメラギの怒鳴り声に静まり返る神殿内。ラヴィアンはそれ以上なにも語らず、スメラギも言葉を失っていた。
「……まずは星の傷跡を威力偵察する。結論を出すのはそれからでもよかろう? あそこはもう龍園の者も何年も足を運んでいない。何がどうなっているのか、それを知らねば策は練れまい」
ナディアの諭すような言葉では話の落とし所としては適切ではない。誰もが言い知れない焦燥感を抱いていた。
世界の果てにあるという門と、選択すべき未来。
真実は試練となって、人々の前に立ちはだかろうとしていた。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●ヘイムダル、投入へ(5月2日公開)
「あー! ワカメなのよさー!」 ワルプルギス錬魔院のラボにナサニエル・カロッサ(kz0028)が顔を出すのは丸一ヶ月ぶりであった。 錬魔院はいくつかの研究室に別れ、その研究室単位に設置された室長が音頭を執る。故にしばらく院長が留守にしても、業務は問題なく行われる。 ナサニエルを見るなり作業を中断して駆け寄るブリジッタ・ビットマン(kz0119)に続き、クリケット(kz0093)も作業グローブを脱ぎながら立ち上がる。 「あんたが顔を出すのは久しぶりだな。リグ・サンガマの方はもういいのか?」 「ええ。まあ、もう私がいなくても青龍側がなんとかしてくれるでしょう。それに、そろそろスメラギ様が真相に気づいて私を探している頃です」 龍鉱石は龍の命の結晶だ、なんて言えばきっとスメラギは使用を躊躇っただろう。躊躇った所で必要なのに違いはないのに。 「こちらの状況はどうですか?」 「順調なのよさ。とりあえずヘイムダルの仕上げはもう終わったようなものなのね」 すす汚れていた顔をナサニエルの白衣の裾で拭き、躊躇なく鼻までかんでブリジッタはすっきりした顔で言った。 ラボには既に組み立てを終えた魔導アーマーが並んでいる。 第二世代魔導アーマー、ヘイムダル。既に試作機が大規模作戦に先行導入されていた、覚醒者専用機の完成形であった。 魔導型CAMの開発に携わった知識と経験を活かして作られたヘイムダルは、これまでの魔導アーマーよりもCAMに近い外見をしている。 特に運転席を閉鎖し、頭部カメラで写した映像をHMDに映し出すという部分は、まるきりCAMの性能を模倣したものだ。 尤も、地球製の部品など存在しないので、そのあたりは機導装置……即ち“魔法的”な力に頼っている。それもヘイムダルが覚醒者専用機である理由の一つだ。 「接続交戦魔導機構は問題なく実用化したようですね」 「なんだって?」 |
![]() ナサニエル・カロッサ ![]() ブリジッタ・ビットマン ![]() クリケット |
「ワカメが言ってるのは多分エンゲージリングシステムの事なのよさ」
運転者の首に装備するリング状の装置が、マテリアルの流動を感知し、より直感的な運転を可能とする。これもまたCAMからインスパイアを受けた技術だ。
「エンゲージリングシステムの最終調整はあたしでなければ不可能だったに違いないのよさ。これも渡り鳥の騎士……プラヴァーモデルのおかげなのよね!」
「プラヴァー……ああ、エインヘリアルタイプの試作機ですか」
「エインヘリアルじゃなくてプラヴァーなのよさ! っていうかヘイムダルはカオウルクヴァッペがベースだから、ほぼほぼあたしが作ったようなものよね!?」
「機導兵器開発室魔導アーマー部門には追加予算を約束しますよ」
両手で握り拳を作り、頭上に持ち上げドヤ顔した後、ブリジッタは作業に戻っていった。
「ヘイムダルの生産はもうラインに乗ってる。こっちはいいとして……サルヴァトーレ・ロッソの方はどうなんだ?」
「さっき様子を見てきましたが、修理そのものはもう間もなくといった所ですね。問題は先の戦いで大量消費してしまった燃料とマテリアルエンジンの調整ですが、リグ・サンガマのおかげで目処が立ちそうです」
今だ帝国領北部にて停止したままのサルヴァトーレ・ロッソの周囲には、長期化した作業の結果関係者と警備の帝国軍でちょっとしたキャンプ地が形成されつつあった。だがそれももうじき終わりを告げるだろう。
度重なるCAMを含めた全力出撃の結果、化石燃料は枯渇に向かっている。何よりロッソ墜落の直接的な原因となったのは、歪虚の攻撃ではなくマテリアルエンジンのマシントラブルだ。
ロッソを飛ばす為にマテリアルエンジンを魔導化し消費を抑えようとしたはいいが、うまく化石燃料とマテリアル燃料が交わらなかった。その大きな原因の一つとして、出力比のバランスというものがあった。
「リグ・サンガマには高純度のマテリアル鉱石である龍鉱石というのが豊富に存在しています。これならマテリアルエンジンも動かせるかもしれません」
「ならその龍鉱石ってやつを早く持ってくればいいじゃないか」
「それがまあ、色々とモラル的な問題がありまして……青龍と交渉してからでないと人類軍、主にスメラギ様が承知しないでしょう。私はダニエル艦長らと打ち合わせをした後、龍園に戻って話をつけるつもりです。となると、間に合うかどうかはギリギリという感じですね」
「別に俺は構わんが……あんたのそれはただの研究者の仕事なのか?」
肩を竦め笑うナサニエル。リグ・サンガマへの遠征時からそうだったが、随分と便利に使われている。
「ダニエル艦長が龍園に赴ければそれが早いのですが、転移門を使わないと時間もかかりますからねぇ。ジョン・スミスさんあたりに同行をお願いするとしましょう。個人的に気になっている事もありますし」
「ヘイムダルの方は予定通りでいいんだな?」
「ええ。強欲王との戦いで、必要になるかもしれませんからね……」
頷き、作業に戻っていくクリケット。ナサニエルはヘイムダルを眺める。
「コレの大量運用にもマテリアル燃料は必要不可欠。龍の皆さんには、やはり力を貸してもらわねばなりませんねぇ」
サルヴァトーレ・ロッソ、そして龍園に戻る前に一ヶ月分の報告書類に目を通さねばならない。
お気に入りの飴玉を口に放り込み、伸びを一つ。そして男は悠々と自室へと歩き去っていった。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●龍奏作戦 ?選択?(5月6日公開)
「やはり強欲王は、他眷属の助力を拒んだか……」 それは青木 燕太郎(kz0166)には当然のように思えた。 強欲王率いる強欲の眷属は、龍の聖地である星の傷跡に固執している。自分らの縄張りに執着する特性は、元精霊らしい所。 これまでに精霊の類を狩ってきた青木からすれば不思議な事ではなかった。 北の最果てに広がるクレバスの手前に、複数体の高位歪虚が集まりつつあった。幻獣の森での戦いに一区切りつけた青木もその一人だ。 「しかし、我が軍は既に敵の奇襲により喉元にまで切っ先を突きつけられた状況にあります。所属の違いでいがみ合っている場合でしょうか?」 アイゼンハンダー(kz0109)の言う通り、歪虚側の防御態勢は整っていない。人類が決死の転移攻撃で防衛戦の内側に侵入してきたからだ。 本来であればここには各眷属の高位歪虚が揃ってしかるべきだが、足並みが揃わず現段階で集ったのは強欲、暴食、怠惰のみ。それだけでも強大な戦力ではあるが、付け入る隙が存在しないと断言はできない。 「戦線が伸びすぎた上に、龍園の部隊と合流した敵戦力は最早侮れるものではないかと」 「わしもそうは思うがのぅ……まあ、我らの関係は上下にあらず。メイルストロムに指図は出来ぬよ。なあ、オーロラ?」 困ったように頬を指先で掻く暴食王の腕には小柄な少女がちょこんと腰掛けている。二人は強欲王の中枢体とも言うべき龍の心核とヴォイドゲートを確認しに赴いたのだが、やはり封印は強固で近づく事はできなかった。何より強欲王本人が、他人の力で救われることを望んでいない。 「うん……嫌がってるのを無理矢理引っ張りだすのも……違うと思うの。気持ちはよくわかるし……ふゎ」 「二人がそんな調子でいいのかね。確かに指図しあうような関係じゃあないが、王に物言えるのは同じ王くらいだろうに」 「この世は全て滅亡の理に導かれる運命よ。青木とか言ったな。故にわしはおぬしのようなモノも否定はせぬ」 何かを見透かすような物言いに僅かに眉を潜める青木。と、そこへ上空から翼影が降りてくる。ガルドブルムだ。 『よッと……なんだァ、雁首揃えて呆けやがって。やっぱ助力は不要ってか?』 「ガルドブルム殿! 同属なのですから、貴公からも説得をお願いしたい!」 『ヤだよ面倒くせェ……ザッハークは俺を嫌ってるしな。話をややこしくするだけだぜ? それに心配せずとも戦闘には加わってやるよ。まァ、俺なりのやり方で、だがな』 「それで良い。下手に眷属間の歩調を揃えるよりは、それぞれの得意分野で挑めば良かろう。アイゼンハンダーには、わしを守ってほしい」 「……はい」 優しく頭を撫でる暴食王の言葉にしぶしぶ頷く。 |
![]() 青木燕太郎 ![]() アイゼンハンダー ![]() ハヴァマール ![]() ガルドブルム |
「ああ……でかすぎてここに入れなかったんだった。仰せの通りに。行くぞ、オーロラ」
「“龍奏作戦”と命名したのはあんただってな」 戦支度で浮足立った青龍の神殿の片隅に立つアズラエルへ、スメラギ(kz0158)は声をかける。 「龍と人とが奏でるのは、これまで不和ばかりだった。僕らは結局、どこまで行っても異種同士なのだと思い知らされるばかりでね」 男はゆっくりと立ち上がり、神殿のステンドグラスへ目を向けた。それは龍と人との争いの記憶、そして龍園の調和の物語だ。 僕はヒトを信じていない。なぜなら僕がヒトそのものだからだ。僕は簡単に君達を裏切れるし、自己保身の為に他人を切り捨てられる」 「だから俺達も同じだって事か……まあ、否定はしねぇよ。人間は自分勝手さ。俺も聖人にはなれそうもない。それでも信じるよ、あいつらを」 「ハンターか。闇を切り裂く狩人達……歴史が研磨した人造守護機。なるほど、確かに彼らは星の意志を端的に表現する、新しい抗体なのかも知れないね」 ずっと考えていたのだ。何故、守護者に心があるのか。 龍が惑星の防衛機構でしかないのなら、粛々と全てを焼きつくす暴力装置であればよかった。ならばヒトさえもとうに龍は滅ぼしただろう。 心があるから惑い、答えを模索する。龍神信仰はヒトが龍に捧げる祈り、そして龍が世界に投げ打つ問答でもある。 「強欲王もきっと己が生まれ持った心に苦しんでいたんだ。救いが、答えが欲しかった。その気持ちが僕にはよくわかる」 「……風の噂で聞いたんだけどよ。強欲王ってのは……その」 |
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強く拳を握り締めるアズラエルに、スメラギは笑い。
「なんかちっと安心したぜ。あんたもそんな顔するんだな」
「ああ……そうだね。心なんてなければ争う事もないのに。僕はどうしても……人間だ」
「心があるから人間なんだろ? その理屈で言うなら、龍にもヒトにも大きな違いなんかねぇよ」
肌身離さず身につけた聖書を胸に当て、男は目を瞑る。支えとなるものがなければ、ヒトの心は脆く儚い。
青龍に尽くす者達は皆、救いと許しを求めていた。人間であるが故の悪性を知ればこそ、それを律する強い光を望んだのだ。
それは決して一方的な支配ではなかった。彷徨う無力な子らを救おうという、青龍の優しい揺り籠だったから。
「この龍奏作戦では強欲王メイルストロム以外にも複数の眷属との戦いになるじゃろう。その上で、この作戦の目標設定は諸君らに任せようと考えておる」 青龍の前に集められたハンターらを前に、ナディアは声を張り上げる。 「強欲王は肉体と心臓、二つにその力を分かたれておる。肉体は今も強欲の軍勢を率い、この龍園へ侵攻中。そして奴の心臓……心核結晶はヴォイドゲートと共に星の傷跡の奥地、龍の聖域に封じられておる」 ヴォイドゲートと心臓は青龍によって封じられている。それがいつまで保つかはわからないが、強欲の軍勢をこの戦いで大きく消耗させれば、封印はまだ持続できるだろう。 心臓を封じている限り、強欲王の力は本来のそれではない。龍園の戦力が戦線に加われば、更に戦闘は優位になり、憤怒王の時のように滅ぼす事も可能だろう。 『だが……肉体を滅ぼしても奴の中心核たる心臓はゲートと共に残り続ける。また別途、新たにこれを葬る機会を設ける必要がある』 「心臓を残したままではゲートは消せぬ。封印されているとは言え、ゲートはそれでも今現在も歪虚を召喚し続けている。抜本的な脅威の排除には及ばぬ、という事になるな」 「そして何より、異世界転移門を奪う事はできない」 ラヴィアンの言葉にナディアは少し考え、それから頷く。 「まだ仮説に過ぎぬが、ヴォイドゲートを破壊した暁には、その力場を使って人類が利用可能な異世界転移門……即ち、リアルブルーへの転移が可能になる可能性があるのじゃ」 |
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「当然、こちらの方がリスクは圧倒的に上じゃ。何が起こるのかすらわからぬからな……。よって、“強欲王本体の撃破”と“心核とゲートの破壊”、そのどちらを龍奏作戦の最終目標とするのかは、おぬしらハンターに委ねたい。最初に言ったのはそういう意味じゃ」
強欲の勢力を抑えるだけならば強欲王とその軍勢を倒せば事足りる。相手は心核を封じられているのだから、力も弱まっている。
だが、もしリアルブルー帰還の手がかりを目指し、ヴォイドゲートという脅威の排除を望むなら、危険な戦場へ赴く必要がある。 『仮に封印を解き、お前達がゲートを目指すならば、強欲王の肉体は私が抑えこもう。封印に使っている分の力を取り戻せるのなら、いくばくかの時を稼ぐ事は可能だ』
「既に王との戦いも三度目。おぬしらハンターは王狩りに至る力を身に着けていると確信する。望む未来と己の力を天秤にかけ、作戦を決定してほしい」
最果ての氷原に眠っていた大きな影が動き出す。 心臓を、心を聖地に封印された強欲王メイルストロムは最早言葉を持たなかった。 ただ星の傷跡に近づくモノを見境なく抹殺するその姿は、皮肉にもありし日に彼の王が望んだ、心なき守護装置のようですらある。 地の底にある深い場所、そこに闇の門と共に己の心を封じられた竜の王は、ただ脅威に反応し、機械的にその翼を広げ咆哮する。 「我が王よ。嘆きすら鎖され、星に縛られた哀れな王よ。征くのですね……失われた火を取り戻す為に」 空へと舞い上がる巨影を仰ぎ、ザッハークは静かに目を瞑る。 「我が翼は御身と共に。我らが眷属は王と共に。さあ、どこまでも飛び続けましょう。いつかきっと、あらゆる哀しみが消えて果てるその時まで。最後の最後の刹那まで……私はずっとお側におります」 心なき竜達が共鳴するように吼え立て、空に舞い上がる。その一つに混じる事こそ、ザッハークのこの上ない望みであった。 闇に抗い、戦い続けた守護者の王は死んだ。正しさと答え、救いを求め飛び続けた王は死んだ。 メイルストロムは彼方を目指す。地平線の暁に、己の朱を更に色濃く染めながら――。 |
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(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●龍奏作戦 ?開戦?(5月11日公開)
「――協議の結果が出た。此度の龍奏作戦では強欲王の撃退のみに留め、星の傷跡深部への侵入は見送る事とする!」 龍園の大聖堂の一室を借りて行われた作戦協議には多くのハンターが参加し、それぞれが意見を述べた。 その結果、龍奏作戦の目標は強欲王の撃退、即ち地上に出現している肉体に対するものに限るという結論が出たのだ。 ナディア・ドラゴネッティの決定に 篠原 神薙(kz0001)は心のどこかで安堵していた。 仮にヴォイドゲートを破壊し、リアルブルーへの帰還が可能な異世界転移門が建造されたなら、再び難しい決断を迫られていた事だろう。 危険な作戦には多くの犠牲が伴う。この北の大地に至るまでに支払ってきた命の数を思えば、躊躇するのは自然な事だ。 だがそれより神薙にとっては、帰還の決断を少しだけ先延ばしにできたという事に安らぎがあった。 「ゲート封印の維持に龍園側の異論はないよ。元々君たちが現れなければそれを続けるつもりだったのだからね」 「とは言え、危険な戦いである事に違いはあるまい。ここで強欲王の肉体だけでも撃破しなければ、龍園は再び危機的状況に陥るじゃろうからな」 アズラエルの言葉を補足するように語るナディア。その時、静かに席を立つ者の姿があった。 「お話にならないわね。あなた達の楽観的な未来予想にはつくづく失望したわ」 ラヴィアン・リューのため息混じりの言葉にハンターらは眉を潜める。 この決断は単純な多数決ではあるが、だからこそ意見を採用するに値するだけの効力がある。 最終決定そのものはナディアが下したとは言え、多くのハンターが星の傷跡内部への突入を躊躇ないし拒絶したのなら、それがソサエティの総意に近いと言えるだろう。 「ラヴィアンさんが早くリアルブルーに帰還したいという気持ちは俺もよくわかります。でも、それで人類軍が壊滅するような事になれば本末転倒じゃないですか」 神薙がそう口火を切ったのはラヴィアンを非難する為ではなく、むしろその逆であった。 誰もが思い浮かべた気持ちを代弁することで、彼女への風当たりを和らげたつもりであった。しかし……。 「肝心の青龍の封印はいつまで保つかわからない。何より、長期戦になれば不利になるのはこちらの方よ」 敵陣には複数の王クラスが名を連ねているが、それでも今だ強欲、暴食、怠惰の三眷属に収まっている。 それは人類側がカム・ラディ遺跡への転移から電撃作戦でここまで漕ぎ着けたからだ。歪虚の不意を突いたからこそ、敵の布陣は完璧ではない。 「ヴォイドゲートは連中にとって無視できない重要拠点よ。それはこの北方王国が歪虚に封鎖され、北狄と呼ばれていたことからも容易に想像できる。今は歪虚は広い北狄や各地に戦力を分散しているけれど、本気で守りに入られたなら、もうゲートを奪うことは不可能よ」 「そ、それは……」 ラヴィアンの発言には一理あると認めるからこそ、神薙は二の句を失っていた。 だが、代わりに立ち上がる者の姿があった。スメラギ(kz0158)である。 「お前こそ俺たち人類軍の戦力を見誤ってるぜ。この北方に集まったのが人類軍の全力ってわけじゃねぇ。時間があれば戦力を増強できるのはこっちも同じ話だ。それに何より、人類軍は短期間に驚異的な速度で拡大している。それは各地で幻獣や精霊との対話が進み仲間を増やし、新技術の導入で新たな兵器を実戦投入しているからだ」 |
![]() ナディア・ドラゴネッティ ![]() 篠原 神薙 ![]() ![]() スメラギ ![]() |
各国の内部的な問題にもメスが入り、西方の秩序は回復に向かっている。何より最前線である北狄を北方王国にまで押し返した事で、少なくとも西方での歪虚の攻勢は弱まるはずだ。
その好機をみすみす怠ける人類ではない。ここリグ・サンガマでの戦いが長引いたとしても、人類は必ず戦力を強化し、歪虚王にも負けないだけの力を手に入れるだろう。
「俺は人間の可能性を信じるぜ。ここで壊滅的な打撃を受けるくらいなら、龍園を守って長期戦に持ち込んだ方がいい。そういうハンターの判断は間違いじゃねぇ。何より実際に最前線に向かうのはあいつらだ。最善の結果を得る為なら何人死んでもいいなんて、そんなのは作戦とは呼べねぇんだよ」
真正面から睨み合う二人。そこで折れたのはラヴィアンだった。
「既に決定は下された。所詮部外者に過ぎない私にこれ以上とやかく言う権利はないわね」
「……どこへ行くんですか?」
神薙の呼びかけに足を止め、ラヴィアンは静かに首を横に振る。
「あなた達には関係のない事よ。あなた達ができないというのなら、別の方法を考えるまで。私は私なりに最善を尽くす。
……お互い、後悔のないように尽力しましょう」
少し寂しげな、しかし確かな微笑みを残してラヴィアンは姿を消した。
協議と決定が終了し、作戦開始に向けてハンターらが動き出す中、神薙は席に座り込んで考えていた。
「これで……本当に良かったのか?」
「そんな問答に意味はないよ、少年。僕らにできることは決断し、ただ前に進む事だけさ」
眼鏡のブリッジに中指をあて、僅かなズレを修正しながらアズラエルは笑う。
「どちらを選択しても、きっと後悔は残っただろう。当然さ。なぜならば、その答えはまだ出ていないのだから」
「――ああ。その通り、ですね」
「後悔なら作戦が失敗し、全てがどうしようもなくなった時にすればいい。それまでに夢想する悔恨など、何の役にも立たない」
やや突き放したような言い方ではあるが、それはアズラエルなりの慰めの言葉だった。
ゆっくりと席を立ち、神薙は頬を両手で叩く。確かに、後悔するにはまだ早すぎる。
「確かに青龍様の封印は長くは保たないだろう。だが、強欲王の肉体を滅ぼす事ができれば……」
「ええ。でも……結局俺たちはまた、龍の力に頼っている」
「巣立ちの時を急ぐ必要はないんじゃないかな。背伸びをして大人になったつもりになっても、それは虚しいだけだよ」
そう言って神薙の肩を叩き、アズラエルは去っていく。
そんな二人の様子を遠巻きに眺め、ナディアは小さく息を吐いた。
あのアズラエルがヒトと足並みを揃えようとしている。その変化もまた、未来を信じる一つの希望となるだろう。
「……なあ、ナディア。俺は……間違えたか?」
背を向けたまま頭上を仰ぎ見るスメラギの呟きに、ナディアは首を横に振る。
「信じよう。ハンター達が選んだ未来を」
決断には痛みが伴う。結局のところ、どんな未来を選んでも犠牲は出るし、先の事などわからない。
それでも、より絶望的な死地にハンターを追いやらずに済んだ事に、少年は心の底から安堵した。
人類側の狙いが直前までわからないという事は、歪虚に小さな番狂わせをもたらすだろう。 歪虚側が最も警戒するのは星の傷跡最奥のヴォイドゲート。だからこそ広域に戦力を展開……否、“分散させてしまっている”。 何が本命で、どこに作戦の落とし所を持ってくるのか不明。既に動き出している人類軍の部隊を見ても、正確に時勢を読むことは不可能だ。 「星の傷跡へ続く脇道は暴食王と怠惰王が封鎖している。後は正面突破を目論む輩がどれほどいるか……」 ザッハークは地平線から登る陽光を見つめ、考えを巡らせる。 メイルストロムは雄々しく翼を広げ、人類の到来を待ち構えている。星の傷跡に執着し、そこを何としても死守しようとするからこそ、“ここにいる”と誰にも宣言しているようなものだ。 心なき守護装置となった強欲王の肉体に撤退という選択肢は存在しない。敵が踏み込めば自動的に、かつその身が滅びるまで戦い続ける事だろう。 「相手の出方がどうであれ、私の使命は何も変わらない」 この竜の王こそザッハークの執着点であり、死守すべきモノ。その事実に動きはない。 地平線に姿を見せた人類軍を前に、メイルストロムの瞳に火が灯る。 巨大な竜王は咆哮し、眷属を率いて行軍を開始する。 両軍激突の時は、もう間もなくまで迫っていた。 |
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(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●龍奏作戦 ?介入?(5月24日公開)
「……何だ?」 ウィンス・デイランダール(ka0039)は星の傷跡にほど近い雪原で空を見上げていた。 強欲王との決戦は佳境に入りつつある。 過酷な戦闘の最中、ハンターらはザッハークを打ち倒した。残すは強欲王メイルストロムのみ。 これが長らく続いた北伐の結末。龍とヒトの奏でる、運命の歌。 だが、男は感じていた。彼だけではない。その場にいるハンターの全てが……いや。強欲王さえもが、空を見上げていた。 それはまるで天空に開いた巨大な穴だった。空に、世界に亀裂を広げ、穴は広がっていく。 “穴”はひたすらに黒く、あらゆる光を拒んでいるかのようだった。その向こう側にはっきりと敵意を感じられたのは、ほんの一瞬の事。 誰かに見られていると、直感的にそう思った。ヒトも龍も知る事のない、遠い遠いどこか。 これまで何体もの王と対峙してきた歴戦の猛者たちでさえ戸惑うほどの、得体の知れない視線――。 「やれやれ。“ヴォイドゲート”は封印しておく……そういう手筈だったと記憶しているが……」 元よりアレがどのようなもので、この戦場で何が起きるかなど、誰にもわからなかった事。 「ままならないものだね……どうも」 Holmes(ka3813)がそう呟くと同時、空に開いた穴から何かがせり出してくる。 巨大な石塊のようにも、肉塊のようにも思えた。だがそれは共に間違いだ。 彼らはそれを知っていた。後に大転移と呼ばれた、サルヴァトーレ・ロッソの転移事件。その直前に、彼らが救おうと奮闘したモノ。 「LH……044……!?」 レイド・グリュエル(ka1174)の瞳が大きく見開かれる。 守るために闇の中へと飛び立ち、多くのモノを失った。あの始まりの戦場が、そこにあった。 あの戦いで破壊されたコロニーの残骸は、今や狂気のVOIDと融合し、巨大な巣を形成していた。 天空に浮かぶ巨大な肉塊からはおびただしい数のVOIDが出現し、黒く空を染め上げる。 まるで人類が戦い疲れるのを待っていたかのようなタイミングに、呆然とした兵たちが手から武器を取りこぼすのも無理はなかった。 既に退けたはずの強欲の軍勢と同規模……あるいはそれ以上の数の狂気の歪虚が、人類軍に襲いかかったのだ。 「おいおい……何がどうなってやがる? 来るぞ、にーさん!」 出現した狂気は各戦域に追い打ちをかけるように雪崩れ込む。龍園を防衛していた春日 啓一(ka1621)の声に従いレイス(ka1541)は槍を構え直した。 既に人類軍の疲労もピークに近づいている。それぞれが狂気への迎撃を開始するが、この物量ではどこまで持ちこたえられるか……。 しかし、彼らの予想はいい意味で裏切られた。何故ならば、出現した狂気のVOIDは――同じ歪虚であるはずの、強欲の龍らにも襲いかかったからだ。 「さて、これはどのような筋書きでしょうか。少なくとも我々が思い描いたものとは大きく異なるようですが」 龍園付近の雪原にぽつんと立ち、カッツォ・ヴォイは空を見上げていた。 ヴォイドゲート防衛戦に伴い各眷属にも招集がかかると、カッツォも嫉妬の軍勢と共に戦闘に合流する……その予定だった。 確かに戦闘開始の初動には間に合わなかったが、この段階からの援軍として申し分ないだけの戦力を率いてきたつもりだが……。 接近してきた狂気のVOIDが放つレーザーをするりと交わし、仮面の歪虚は飛びかかるとステッキを叩きつけ粉砕する。 「無秩序な闖入は褒められたものではありませんね」 「Hey、マスクメン! これは何がどーなってるデスか!?」 稲妻をまとって雪原を突っ切ってきた紫電の刀鬼(kz0136)が駆け寄ると、カッツォは肩を竦め。 「さて。私も押取り刀で駆けつけた所でして……。しかし、これでは防衛戦どころではありませんね。王には、どのようにご報告申し上げたものか……」 「さっぱり意味不明デース! アレもミー達と同じVOIDの筈デスが……というか、あのゲートの向こう側にいる“ヤツ”! 誰デース!?」 ゲートの向こう側、同じ歪虚であっても薄気味悪さを覚えるほどの異質な存在がこちらを覗いている。 その視線に中指を立てながら刀鬼が地団駄を踏むと、まもなくして空中に浮かび上がった穴……ヴォイドゲートは封鎖された。 「どうやら青龍が再封印を行ったようですね。さて、私は一度退いて王と合流致しますが……」 「そうデス! ミーもキングやアイちゃんと合流するデース! マスクメンも気をつけるデスよ!」 ビシリと敬礼し、再び稲妻となった刀鬼が一瞬で姿を消すと、カッツォは小さく息をつく。 「――不愉快なものですね。丹精込めて作り上げた舞台を、台無しにされるのは」 |
![]() ウィンス・デイランダール ![]() Holmes ![]() レイド・グリュエル ![]() 春日 啓一 ![]() レイス ![]() カッツォ・ヴォイ ![]() 紫電の刀鬼 |
「青龍……おい、青龍! 大丈夫か!?」 ぐったりと倒れこんだ青龍の肉体には亀裂が走り、血が流れ出していた。 封印を一時的に破られ、それを再度施す為に彼が支払ったものが痛みだけで済んだのはむしろ幸運であった。 『既に気配は感じぬか……一体何が起きたのか……私にも理解できぬ』 「封印は正常に動作していたはず。ということは、此方側の問題ではなく……門の向こう側。異界からの介入か……?」 険しい表情で青龍に寄り添うナディア。スメラギ(kz0158)は居てもたってもいられずに大聖堂を飛び出した。 そこで彼が見たのは、狂気の軍勢に襲われる人類軍……そして、強欲の眷属たちの姿だった。 「連中、同士討ちをしてるのか……!?」 おかげで人類軍もかろうじて応戦できているが、それも長くは持たないだろう。 狂気のVOIDを発生させている、空に浮かんだあの巨大な巣をどうにかしない限りは。 その時、龍園に大きな影がさした。新たな敵かと身構えたスメラギだが、その表情はすぐに柔らかく変化する。 「――来てくれたのか! サルヴァトーレ・ロッソ!」 |
![]() スメラギ ![]() ナディア・ドラゴネッティ |
「……データ照合完了。間違いありません、LH044です!」 オペレーターの声にダニエル・ラーゲンベック(kz0024)は眉間に刻んだ皺をより深くする。 「目標よりCAMの出撃を確認……艦のデータベースに登録あり! その……LH044戦で撃破されたCAMと思われます!」 「あっちゃー。ちょっと間に合いませんでしたねぇ。それにウチの機体ですかぁ」 苦笑するジョン・スミス(kz0004)の隣でラヴィアン・リューは舌打ちする。 「いつかは追いつかれると思ったけど……どうして今なのよ!」 「コレ、“博士”は承知の上なんですかぁ?」 スミスの問いに視線を逸らすラヴィアン。状況をおおまかに把握できたのは彼だけで、ダニエルは怒りに満ちた声で叫んだ。 「なんだか知らねぇがいい度胸だ。目標、LH044! ジョン、ラヴィアン、あとできっちり説明してもらうからな!」 |
![]() ダニエル・ラーゲンベック ![]() ジョン・スミス |
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●龍奏作戦 ?継承?(5月25日公開)
「――目標、LH044! 主砲、発射ぁ!」 ダニエル・ラーゲンベック(kz0024)の怒号と共に放たれた膨大なエネルギーは、改造したマテリアルエンジンに龍鉱石を適用したもの。 憑龍機関と呼ばれる追加装置により安定したロッソは主砲発射後も艦を安定させていたし、主砲の威力は以前よりも上がっていた。 閃光はLH044に直撃。大爆発を起こし、見事に外壁を吹き飛ばす。続けてもう一度主砲を撃てればよかったが、再チャージには時間が必要だった。 「よし、これなら墜落するような無様はねぇな。続けて……」 指示を出そうとした瞬間、アラートが鳴り響く。レーダーには艦に接近する二つの熱源反応があった。 「え……? 八時の方向、急接近する熱源……これは……巡航ミサイル!?」 ロッソはすかさず機首を傾け、身体を捻るように回避運動を取りつつ、艦の各所にある機銃を起動させる。 弾幕が張られると、途端に空中に巨大な炎の華が咲いた。衝撃に揺れる艦橋、そこへ不気味な声が響き渡る。 『……ロー……。ハロー……サルヴァトーレ・ロッソ。我々はエンドレスです』 「通信系に干渉を確認! これは……広域にジャミングが発生しています!」 『ハロー、サルヴァトーレ・ロッソ。ハロー、地球の皆さん。我々を記憶していますか?』 「知るかよ。誰だテメェ!」 帽子を片手で抑えながらがなり立てるダニエル。ミサイルの第二射を迎撃し、爆炎に照らされる艦橋でジョン・スミス(kz0004)が呟く。 「エンドレス……確か地球にいた頃、少し聞いた事があります。未完の試作兵装管理システムですね」 「ちょっと、まさかAI!? トマーゾが禁止したでしょ!?」 「はい。高度な人工知能はVOIDに感染する可能性がありますからね。でも、結局作ってしまったんでしょう」 「テメェら何の話してんだ!? 俺にも分かるように説明しろ!」 ジョンとラヴィアンのやり取りに怒鳴るダニエル。遠方より接近するヴァルハラと呼ばれる揚陸艇はハッチを開き、搭載していた兵力が動き出す。 「対象、ヴァルハラ級強襲揚陸艇をエンドレスと登録! 対象よりCAMの出撃を確認! データベースに照合ありません!」 「リニアカノンによる砲撃を確認……艦長、LH044からも敵が来ます!」 「機甲部隊出撃! グリフォン隊にも出撃を要請! ったく、次から次へと何だってんだ!」 「全く……これは割に合わんな」 混乱を極める戦場を眺め、青木燕太郎(kz0166)は小さく息を吐いた。 既にビックマーとオーロラは撤退。巨人の軍勢も後退を始めている。青木自身も、既にこの戦場に残る理由を見いだせずにいた。 「そろそろ頃合か。東に向かうのも一興か……」 「青木燕太郎!」 見ればこちらへ駆け寄る影が一つ。ファリフ・スコール(kz0009)だ。 ファリフは青木へ跳びかかり斧を振るうが、青木は素早くバック転で距離を取る。 「悪いがこっちも遊んでいる場合じゃないんでな。……既に義務は果たした。これ以上訳のわからんことに巻き込まれて死ぬのは御免被る」 「待て! 青木……くっ!」 |
![]() ダニエル・ラーゲンベック ![]() ジョン・スミス ![]() 青木燕太郎 ![]() ファリフ・スコール ![]() 八重樫 敦 |
「山岳猟団……? 連合軍の援護に来てくれたの?」
「いや。こちらにはこちらの目的がある。ただ、あまりに見慣れたVOIDでな……余計な世話だったならば謝罪しよう」
「団長、間違いねぇ! ヴァルハラだ! 例の黒歩兵に……見たことのねぇCAMもいるぜ!」
「巻き込まれたくなければ撤退しろ。ここは直、乱戦になる」
部下を指揮し走り去る八重垣。ファリフは振り返り青木の姿を探すが、既に見つける事は叶わない。
「フェンリル……ボクは……」
この力は精霊を、そしてヒトを守る為に託されたもの。
青木は確かに許せない宿敵だ。だが今は……。
「一人でも多くの仲間を助けるんだ。そうだよね……フェンリル!」
「アイちゃん! 無事だったデスか!」 傷ついたアイゼンハンダー(kz0109)はとある洞窟の出口で空を見上げていた。紫電の刀鬼(kz0136)が駆けつけても、心はここにあらず。 「何故だ……どうして友軍同士で……。違う。私は……私は、守りたかったのだ。大切な祖国を、民を……友を……なのに」 その肩を叩こうと刀鬼が手を伸ばそうとした時、突如地面を粉砕し暴食王ハヴァマールが飛び上がってくる。 「おお、ここにおったか。既に怠惰は引き上げさせた。人類の狙いは地下のゲートではないとわかった。ならばこちらも時間の猶予は……」 そこでアイゼンハンダーが泣き出しそうな顔をしている事に気づき、王はその頭を撫でる。 「陛下……わからなくなりそうです。何が正しく……何が間違いなのか。私は……」 「刀鬼よ。アイゼンハンダーと共に天の繭へ向かえ」 「WHY? わざわざあそこに向かうですか? もしかして遅刻の罰デス!?」 「否。既に大局は決した。仮に強欲王の肉体が滅ぼされたとしてもゲートと星の傷跡は歪虚の手中にある。後はおぬしらの好きにせよ」 暴食王は膝を折、アイゼンハンダーと向き合う。 「世界は滅ぶさだめにある。なればこそ、その瞬間まで己が真実と共に生きよ」 「陛下……?」 「刀鬼よ、おぬしにとっても決別は必然。余は果たすべき約束がある……後は任せるぞ」 脚部にマテリアルを収束させ、ジェット機のような速度で吹っ飛んでいく王を見送り、刀鬼は肩を竦めた。 龍園に狂気の軍勢が特に集中したのは、彼らの狙いが青龍にあったからだ。 狂気の行動原理は理解できないものだったが、“ゲートの封印を解く”という、一つの意志を感じ取る事ができた。 物量で龍園に雪崩れ込む狂気に続き、強欲も本来の目的である大聖堂への侵攻を再開すると、人類は一気に劣勢に立たされる事になった。 |
![]() アイゼンハンダー ![]() 紫電の刀鬼 ![]() ハヴァマール |
『――ったく。確かに俺はCAMが好きだぜ? テメェらのやりたいことも察しはつく。けどなァ……』
自らを包囲するのは歪虚CAM達。LH044から出撃した狂気の尖兵である。
『ンなナメた真似されて許せる程気が長くねェんだよ! 雑魚がァ!!』
銃撃をかわし、翼で弾き距離を詰めると、光をまとった爪の一撃。歪虚CAMの装甲が拉げ、中に詰まった狂気の肉が盛り上がる。
それを掴んで大地に叩きつけると、黒竜は吼えた。
元よりこの戦場にこだわりはない。ザッハークとは昔から反りが合わないし、元々赤龍の眷属だったわけでもなし。強欲に同属意識など存在しない。
だがこの状況は冗談にしては度が過ぎている。せっかくハンターとの戦いに興じていたところに水を差されたのだ。
『何を思っての悪巫山戯か、なんて知った事じゃねェ。誰に喧嘩を売ったのか、スクラップになりながら思い知るんだなァ!』
ひときわ大きな狂気の個体が三つ、星の傷跡にも迫っていた。 それらは傷ついた強欲王を取り巻くと、突如全身から触手を伸ばす。狙った先は人類ではなく、強欲王の肉体であった。 「なんで強欲王に……俺たちが狙いじゃないのか!?」 戸惑いを隠せない岩井崎 旭(ka0234)の目の前で、強欲王の肉体が狂気によって蝕まれていく。 黒い触手に身体を覆われながら吼える強欲王の姿は、何故かひどく痛々しく見えた。 「クソが……クソが、クソが。勝手に何してくれてんだ……ッ」 わなわなと怒りに震える手で得物を握り締めるウィンス・デイランダール(ka0039)。 この戦いに賭けた仲間達の思いが。あの時かの龍に告げた約束が、目の前で踏みにじられる思いだった。 メイルストロムは心なき龍。確かに倒すべき敵だった。死力を尽くして挑んだ事に後悔はない。 だが、こんな決着は望んではいなかった。こんな風に歪められた戦いに、一体なんの価値があるのか――。 狂気に侵食された強欲王が吼える。体中にまとった狂気の瞳がぎょろりと蠢き、周囲に立つハンターらへ眩い光線が放たれた。 吹き飛ぶ雪の中、身構えた旭が見たのは打ち倒したはずのザッハークの背中だった。竜は光の盾を作り、彼を守ったのだ。 「ザッハーク……おまえ……!」 「お前たちならば、それでもよかった。お前が相手ならば、私は……ここで倒れてもよかった。だが……」 闇に飲み込まれ暴れ狂う強欲王の姿を、ザッハークはまっすぐに見つめていた。 「だが……このような運命は受け入れられぬ! 我が王へ、赤龍様へのこのような仕打ち、黙って死ぬわけにはいかぬのだ!」 既にザッハークの命運は尽き、身体は塵に還り始めている。それでも立ち上がり、息も絶え絶えに乞う。 「どうか、我が王を救ってくれ。私にできなかった事を……我々では掴めなかった“明日”を。ほんの少しでも……愛のある結末を……」 |
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「皆で約束しちまったもんな。お前ら龍の後を継ぐってよ」
「勘違いするんじゃねえ。俺はただ気に喰わねえだけだ。奴らも……そして」
あの空の向こうで、ヒトを嘲笑う何者かも。
構え直したウィンスの背後、突然何かが雪を巻き上げながら通過する。
急制動をして停止したのは暴食王ハヴァマール。新たな王の乱入に全員が驚きを隠せないが、暴食王は強欲王を一瞥すると剣を掲げる。
「勇敢なる強欲の戦士達よ! 盟友メイルストロムに代わり、我が剣に集うが良い! 本懐を果たす時は今ぞ!」
「……あいつ、俺たちじゃなくて狂気と戦ってんのか?」
「――は。上等だ」
暴食王が味方になったわけではない。ただ、優先順位の問題だろう。
与えられた時間はそう長くはない。不死王の背中がそう語っていた。
こんな状況でも、やるべき事は変わらない。
狂気に支配された強欲王をを討ち滅ぼし、永遠の苦しみから開放する事。
龍奏作戦は、いよいよ最終局面を迎えようとしていた。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●龍奏作戦 ?暁光?(6月8日公開)
強欲王メイルストロムの肉体が塵に還った。それは龍奏作戦の終わりを意味していた。 王の消滅を悼むように、空を旋回する強欲の竜らの叫び声が重なるのを、久延毘 大二郎(ka1771)は白衣に片手を突っ込んで見上げていた。 「やれやれ。狂気の介入には骨を折ったが、無事初志貫徹できたようだな」 強欲王は肉体と心核に分かたれている。そういう意味で、完全に強欲王を滅ぼしたわけではない。 だが王の肉体を失った強欲たちが狼狽え、次々に撤退していく様子を見れば、この戦いに意味はあったと確信する。 「これで当面、強欲の動きは抑え込めるだろう。北方の勢力図も、一気に塗り替わる」 戦いが終わり、傷ついたハンター達が引き上げ始める中、ドゥアル(ka3746)は長い前髪を揺らし、膝を着く。 人類と壮絶な戦いを繰り広げ、しかし最期にはほんの僅かな間だけ志を共にした強欲竜。 「ザッハーク……」 決戦の最中、ザッハークはその存在を無へと還した。 最期の言葉さえ残さず消えたかの竜が何を思っていたのか、知る術はもう残されていない。 彼はどうあれ、歪虚であった。既に死して命はなく、滅びれば跡形も残さず消え去るのみ。 「それでもあなたは……今際に見たのですか?」 振り返ったドゥアルの視線の先、静寂に包まれた氷原に立つ戦士たちの姿がある。 あの龍が最後に見た希望の光。暁の向こう側。彼が求めた“明日”は確かにそこあった。 「これがLH044の慣れの果てとはな……」 墜落したLH044付近へ着陸したサルヴァトーレ・ロッソは、脱出したハンターらの収容を開始していた。 狂気の残党は未だ周囲に散見され油断のならない状況ではあるが、狂気も既に交戦を中断し、引き上げに入っていた。 「尤も、奴らも帰る場所を見失ったようだけどね」 鳳凰院ひりょ(ka3744)の言う通り、狂気も単独では異世界へ転移できないのだろう。 既にこの戦域で最上位権限を持っていたLH044メインシステムを失い、狂気は統率を失っている。とは言え放置はできない。いずれ、殲滅が必要になるだろう。 「……ブッハァア!! 危うく生き埋めにされるところだったぜ!」 突如足元から生えてきた腕に飛び退くひりょ。デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)は瓦礫を押しのけ立ち上がる。 「LH044と一緒に落ちてきて無事だったのか? すごいね……」 「俺様も暗黒の力を使えば瞬間転移くらいわけもないことだが、世界と時空に与える影響が大きすぎるからな……俺様レベルになると、あえて一緒に落ちる」 「そりゃあまた随分と……。ヴァルハラも去ってくれたのは良いが、そう遠くない内にまた見える事になりそうだね」 エアルドフリス(ka1856)は共にLH044の残骸を調査に来た八重樫 敦(kz0056)へと視線を送る。 「それで、奴らの事ですがね。あの屑鉄共……エンドレスと名乗っていたようですが」 「……昔の話になる。俺もその片鱗を知るに過ぎないが……今回の戦いで幾つかの確信を得た。エンドレスについて、俺の知る限りで説明しよう」 『此度の戦、実に大義であった。強欲王の肉体が滅び、強欲の勢力は大きく後退した。当面、龍園にも安らぎが訪れよう』 龍園大聖堂には、青龍と一部のハンター、そしてサルヴァトーレ・ロッソのクルーが招かれていた。 「勿体ないお言葉です。結局、沢山の命が失われ、龍園にも多くの被害が出てしまいましたから……」 しゅんとした様子の柏木 千春(ka3061)に青龍は首を伸ばし、頬を寄せるようにして目を瞑る。 『戦とは常に痛みを伴うもの。だが、命は強く逞しい。傷も痛みも、必ずや癒し立ち上がるであろう。お前たちが守ったこの龍園さえあれば、リグ・サンガマは眠らない』 千春が青龍の鼻先を抱擁し頷くと、龍はすっと首を引く。 『重々、その身を愛で労わる事よ』 「……はい。ありがとうございます」 「ヒトが持つ可能性と力、双方を存分に拝見させてもらった。僕らはどうやら長い時を生き過ぎたらしい」 その様子にアズラエルが眼鏡のブリッジを押し上げながら微笑むと、ナディアは鼻で笑い。 「じゃから言っとろーに。ヒトは変わった。成長したとな」 「確かに。妹を信じきれなかった悪い兄だ。詫びよう、愛しのナディア」 「そういうのマジでやめんかきもいんじゃ」 「……で、だ。青龍さんよ。今回の件、LH044と狂気の乱入……ありゃなんだったんだ?」 ダニエル・ラーゲンベック(kz0024)の問いに青龍は首を横に振る。 『わからぬ。ヴォイドゲートが作用したのは間違いないが……』 「ゲートの封印が完全じゃないってことか? だとすれば、まだ安心はできないぜ?」 スメラギ(kz0158)の言うように、これからもゲートから狂気が出現するとなれば、強欲王を撃破しても戦いは終わらないことになる。 『今のところゲートに異常はない。この封印は既に数百年続けてきたものだが、このような事態は初めて。私にも理解はできぬ』 「恐らく半分は偶然なのよ。元々、VOIDはこの世界に来るはずだった……私を追ってね」 そう語りながら前に出たのはラヴィアンだ。女は腕を組み、一同に視線を巡らせる。 「私はある男から極秘任務を言い渡されて転移してきた。依頼主の名はトマーゾ。トマーゾ・アルキミア教授」 「反重力機関、マテリアルエンジンの開発者か。つまり、やはりサルヴァトーレ・ロッソの転移は……」 「ええ。彼が仕組んだものよ」 ダニエルはその可能性について考慮していた。故に落ち着いた様子であったが、クリムゾンウェスト人らにはさっぱり話が通じていない。 「“大転移”がトマーゾの仕業だってんなら俺は納得だ。だが、巻き込まれた地球人らに強いたこの二年の旅はどうなる?」 ゆっくりと歩み寄り、ラヴィアンの前に立ったダニエルの瞳には、静かな怒りの炎が灯っている。 「LH044を巻き込んだことは彼の本意ではなかった筈よ。本来であれば、ロッソが転移するのはもっと先だった」 「トマーゾは何をしようとしている? 俺たちは地球に帰れるのか?」 「ゲートを使うのが手っ取り早かったんだけどね。元々サルヴァトーレ級は転移能力を備えてる。エネルギーの問題なのよ。私の任務は、サルヴァトーレ・ロッソの回収……つまり、あなたたちを地球に戻すこと」 険しい表情のダニエルからハンターらへ視線を写し、ラヴィアンは声を上げる。 「――サルヴァトーレ・ロッソを地球に戻すために、あなた達ハンターと……そして青龍の力を借りたい」 『あの鋼の箱舟に、私ができる手助けなどあるのか?』 「ナサニエル・カロッサの作った、“憑龍機関”は、龍の力をマテリアルエンジンに融和させる。龍鉱石の力で今のロッソは安定しているのだから、青龍の力があれば……」 「ちょ、ちょ、ちょっと待て! 話が唐突すぎんだよ! 今は戦いが終わったばかりだ、ハンターを休ませてくれ!」 あわてた様子で声を荒らげたスメラギは、動揺を隠せずに頭を振る。 「その……数日でいい。時間をくれ……」 「スメラギ……。そうじゃな、ひとまずこの話は置いておくとしよう。追って、情報の詳細を開示する。各員それでよいな?」 ナディアがそうまとめると、ハンターらもぽつぽつとその場を後にする。 龍をめぐる一つの戦いが終わった。そしてそれは、再びの出会いと別れの物語の始まりでもあったのだ。 |
![]() 久延毘 大二郎 ![]() ドゥアル ![]() ![]() デスドクロ・ザ・ブラックホール ![]() エアルドフリス ![]() 八重樫 敦 ![]() 柏木 千春 ![]() ![]() ナディア・ドラゴネッティ ![]() ダニエル・ラーゲンベック ![]() スメラギ ![]() |
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)
●トマーゾ・アルキミアの思惑(6月15日公開)
「私が直属の護衛部隊としてトマーゾにつくようになったのは、2014年の11月の事だった」 トマーゾ・アルキミア教授。リアルブルーにおける二大発明、反重力機関とマテリアルエンジンにより人類を宇宙へと誘った偉大な科学者。 彼についての謎は元々多く、連合宙軍が開発した人工知能ではないか、などという噂まであったほどだ。 「彼は筋金入りの人間嫌いで、人前に出たがらなかった。生活の殆どを自室件研究室で行い、外部との連絡は人伝かメール。護衛部隊の私たちとのやり取りさえ手紙だったわ」 尤も、彼は気づいていたのかもしれない。ラヴィアン率いる護衛部隊が、実は地球統一連合が送り込んだ監視役だという事に。 リアルブルー、すなわち地球は大宇宙開発時代の到来と共に、暫定的に世界秩序の統一に成功している。 それが地球統一連合。細分化すれば旧国家間からなる統一連合議会と月やコロニーなどの宇宙移民者からなる宇宙自治政府に分かれる。 地球上で人間同士の戦争行為が根絶されたわけではないが、少なくとも大国間の揉め事はすっかり鳴りを潜めた。 それは彼らが既に奪い合いを終えた地球という資源ではなく、宇宙に新たな利権を求めたからだ。 その原動力となる反重力機関とマテリアルエンジンの根幹となる技術はトマーゾだけに解析可能であり、各国間は彼が配布する技術に沿った、すなわちレギュレーション管理された競争で宇宙を目指すことになったのだ。 「誇大解釈かもしれないけど、彼が与えた技術がひとまず人間同士の戦争を終わらせたとも言えるかしら」 人々はトマーゾから与えられた技術に感謝し、しかし同時に疑念を持った。 利害に関係なく技術を提供し、しかし根幹を明かそうとせず、人前に姿を見せる事も拒む謎の人物。 教授としていくつかの大学に席を置いている。連合宙軍と深い関わりがある。それ以上の事は誰にもわからない。 「そんな彼への疑念が爆発する事件が起きた。2013年12月12日。サルヴァトーレ・ロッソが世界から消えた日……」 兼ねてより懸念はされていた反重力機関とマテリアルエンジンのブラックボックスがロッソ消失事件の原因と疑われたのは当然の事だった。 元々情報の開示を求めていた統一連合議会はトマーゾに要求を突き付けるも、教授はこれを拒否。 それに伴いサルヴァトーレ級二番艦、サルヴァトーレ・ブルの建造も大きく遅れる事となった。 「結局、ロッソ消失事件の原因は不明のままだった」 「俺たちが消えたのは、トマーゾがそう仕組んだからじゃねぇのか?」 黙って話を聞いていたダニエル・ラーゲンベック(kz0024)が首をかしげる。 龍園大聖堂、青龍の前に集まった者たちは、ラヴィアン・リューの言葉に耳を傾けている。 |
![]() ![]() ダニエル・ラーゲンベック ![]() ジョン・スミス ![]() |
VOID反攻の希望たるサルヴァトーレ級の消失と、それを切っ掛けとする技術開示要求とそれに伴う各国利権の奪い合いは、議会の卓上でささやかな、しかし長期に渡る騒動を齎した。
それによりサルヴァトーレ計画は大きく後退。その間にVOIDの侵攻を受けることになった。
「トマーゾがいないと話が進まないのに、彼を拘留したりしたから遅々として全てが進まず、その隙をVOIDに突かれたの」
“何やってんだリアルブルー人”とツッコミを入れたくなったが、自分達もついこの間まで同じようなものだったので、クリムゾンウェスト勢は無言で頭を抱えた。
「私がトマーゾの監視についたのは、彼の審議が中断され、サルヴァトーレ計画が再開された後。人類は超技術に不安を抱いたままでも、彼にすがるしか道はなかった」
「それで、その監視役のお前さんがなぜこっちの世界に?」
「トマーゾはロッソに搭載したように、片道だけの世界転移ならもう技術的に可能としていたの。でも彼の最終目的は“自在に異世界を行き来する事”だった」
「何のために?」
「さあ……? でも、こっちの世界に来てわかった。恐らくトマーゾは、二つの世界の力を合わせたいのだと思う」
リアルブルーの科学技術とクリムゾンウェストの魔法技術。
二つの世界を生きるハンターらがこのクリムゾンウェストの戦況をひっくり返してきたように、異世界の力はVOIDに抵抗する切り札足り得る。
「トマーゾは私にただロッソをリアルブルーに戻すのではなく、“異世界の力”と共に戻すように命じた」
だがラヴィアンは半信半疑だった。異世界の存在も、そこに住む人々の力も。
人間なんて所詮自分の事で手一杯。他の国を助ける事すら難しいのに、他の世界を救う義理などありはしない。
余計な勢力が介入することで統一連合の足並みが更に不揃いになれば、戦況の悪化は必至。
「私はこれ以上、地球の利権戦争に厄介ごとを持ち込みたくなかった。でも、あなた達の戦いを見て気が変わった」
「それで素直に協力を求めてきたってわけか。それはいいが、トマーゾってのは一体何者なんだ?」
「トマーゾ教授については、結局統一連合議会も正体を暴けずにいます。ただ、彼が人工知能ではないかという噂には出所があります」
これまで黙っていたジョン・スミス(kz0004)が口元に手をやり、ゆっくりと語る。
「地球ではトマーゾがもう一つ特殊技術の開発に成功していました。それが高度人工知能、つまりAIです」
しかしトマーゾは自らが生み出したその技術をすぐに封印してしまった。
他の技術に関しては根幹以外はオープン、誰が何に利用しようが金すらとらなかった教授が、人工知能に関する技術は特許とし、世界的に開発を禁じたのだ。
「最適解を自分で埋めてそれを特許とし開示しない。そこまでして彼がAIを禁じた理由が、あのエンドレスにあります」
地球のVOIDは狂気と呼ばれるカテゴリーに属する。
狂気はある時期を境にリアルブルーにおいて機械との同化・同調を見せるようになった。
「人の心を狂わせる狂気の力は人工知能にも及ぶ。なぜかそれを知っていた教授は、戦争の自動化を拒絶したのです」
本来ならばサルヴァトーレ・ロッソもまた、より機械化・自動化を行うことで人員を削減できたはずだ。
しかしロッソは未だ旧時代的な人的制御によって稼働している。それは意図された構図なのだ。
「ロッソにはコンピューターではなく、強い意志を持った担い手が必要でした。ダニエル艦長、あなたのような……ね」
すっと目を細め、ジョンが笑う。そして懐からデータディスクを取り出し。
「中尉から預かった、サルヴァトーレ級の欠損データ……完了していなかった艤装の一部を解析し、ナサニエル院長に相談してみました。時間はかかりますが、憑龍機関を再調整すれば、おそらくは――」
「転移装置が使えるんだな?」
「しかしエネルギー不足です。一度転移するだけで莫大な量のエネルギーが必要になります」
『そこで私たち、龍の力を借りたいというわけか。だが、残念ながら私は自由に力を扱えぬ』
青龍は今もヴォイドゲートの封印に力の殆どを使っている。
もしゲートが破壊されていたのなら、今頃自由になった彼の力を借りることで、既に転移装置が完成していたかもしれないが……。
『六大龍と同格の力を持つ精霊ならばあるいは……。アズラエル、過去の記録を参照し、転移技術について調査せよ』
命令を受けたアズラエルは一礼しすぐに動き出す。
『星の傷跡奥地まで強欲が撤退したことで、龍鉱石であれば新たに回収は可能であろう。すまぬが私にできる手助けはこの程度だ』
「感謝するわ、青龍。思えばあなたには転移直後から世話になってばかりね」
『構わぬ。トマーゾという男、私も興味があるのでな』
「当面は龍鉱石を集めながら、エンジンの調整待ちか……」
帽子を目深にかぶり、ダニエルはため息を零す。
今頃リゼリオでは戦勝祝いも兼ねて武闘大会の準備が進んでいる頃だろうか。
「ようやっとの勝利、せめて少しくらいは休ませてやりてぇがな」
北方にはまだ狂気と強欲の残党がいる。彼らの相手をしながら、ロッソを強化する。
宴が終わるころには、何らかの決断を迫られるだろう。その時まで、猶予はあまり残されていなかった。
(執筆:神宮寺飛鳥)
(文責:フロンティアワークス)
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