ゲスト
(ka0000)
「遺跡防衛戦」 遺跡防衛B(北西) リプレイ


作戦4:遺跡防衛B(北西) リプレイ
- 八島 陽
(ka1442) - 松瀬 柚子
(ka4625)
(ka2394)- メイム
(ka2290) - J・D
(ka3351) - グレイブ
(ka3719) - シャルア・レイセンファード
(ka4359) - アーサー・ホーガン
(ka0471) - ネプ・ヴィンダールヴ
(ka4436) - 椿姫・T・ノーチェ
(ka1225) - 神代 誠一
(ka2086) - アリア ウィンスレッド
(ka4531) - ヴィルマ・ネーベル
(ka2549) - シェルミア・クリスティア
(ka5955) - マーゴット
(ka5022) - ミオレスカ
(ka3496) - 雲類鷲 伊路葉
(ka2718) - 央崎 枢
(ka5153) - ジャック・J・グリーヴ
(ka1305) - イザヤ・K・フィルデント
(ka1841) - ディーナ・フェルミ
(ka5843) - 久延毘 大二郎
(ka1771) - クロード・N・シックス
(ka4741) - チョココ
(ka2449) - 天竜寺 舞
(ka0377) - ミィリア
(ka2689) - ユーリ・ヴァレンティヌス
(ka0239)
●
僅かな雪を巻き上げて滑走する魔導バイクに乗車する八島 陽(ka1442)は、目の前の戦場を確認するとアースワームが進軍してくる箇所に向けて加速した。
ここは龍鱗結界の外。無数の強欲の軍勢が迫る戦場の真っただ中だ。
「12時の方角へワームを集めます。そちらにスペルランチャーを発射して下さい」
無線機を通じて願い出たスペルランチャー「天華改」は第十師団師団員がリロードを行い発射をハンターが担当している。現在はリロードの最中なので終わるまでにワームを集めることができれば最善といったところだろう。
陽は視界に映るワームの数を数えながらどうにして彼の存在を誘導するか考える。
「ワームは大量の龍鉱石のマテリアルを感知して進撃しているはず。その習性を利用できれば――にしても数が多いッ!」
イニシャライザーの攻撃を回避して到達した歪虚が多いのだろうか。予想以上の数に陽の眉間に皺が寄る。と、その時だ。
ペダルとハンドルの双方を使って勢い良く利かせたブレーキから上る高音に松瀬 柚子(ka4625)の目が向かった。
無数のリザードマンとワイバーンに行く手を阻まれる陽。そこにリザードマンが体当たりする姿を目撃して刀を手にしていた柚子の足が動いた。
「靴問題なし。よし、いけますっ!」
トンッと地面を蹴って一気に駆け出す。狙うべくは陽の前にいるリザードマン。彼女は援軍として参戦するために刃を抜き取ると、まずは――
「あなたッ!」
駆け抜けながらリザードマンの胴を薙ぎ払う。
そうしてそのまま延長線上にいる敵にも斬りかかると、瞬時に周囲の状況を確認。敵のどの部分を突けば道が開けるかを黙視する。
(ワイバーンも気になりますが、そこは後回しが良いでしょうね……今は行く手を塞ぐリザードマンの壁を切り崩すのが先)
柚子は陽を振り返ると僅かに口角を上げて前方を指さした。
「ここは私が抑えます! あなたは早くワームの元へ!」
切り開く道は見えた。あとは一瞬の隙を突いて陽が戦場に戻ればいい。とは言え、敵はザッと見積もっても10体はいるだろうか。
それに加えてワイバーンがいるとなれば1人で抑えきるのは至難の業だ。だが自由に戦場を駆けられるバイクは何物にも変え難い。ましてやこのような場所で足止めを食うなど勿体ないの一言に尽きる。
「でも」
「大丈夫ですから」
安心させるように微笑んで地面を蹴る。風のように敵陣に切り込み、ワイバーンを無視してリザードマンの殲滅に向かう。しかし敵もそう簡単にはやらせてくれなかった。
「やはり邪魔してきますか……!」
咄嗟に飛び退き打撃の命中は避ける。それでも迫る敵に彼女の足が下がった。
「ふりぃぃず!」
「!」
動きを封じるほどの大きな声が響いた。これに柚子へ迫っていた敵の足が止まる。
「いまのうちに――あんたの相手はあたしなのよ!」
無線から飛んできた指示に従って援軍に駆け付けたアリア(ka2394)とメイム(ka2290)。彼女らは柚子を援護するようにそれぞれの攻撃を繰り出し敵軍を突破してゆく。その姿に陽のバイクが再びエンジンを起動した。
「ありがとう!」
伝えたい言葉は沢山あるが今は当初の目的を実行する時だ。陽は3人が作り上げた僅かな道にバイクを走らせると、一気に加速してワームの元へ急いだ。
そして彼を見送ったアリアとメイムが背中を合わせる。
「それじゃ頑張ろう?」
「うん。せーいちやつばきの邪魔はさせないよ!」
2人は互いに頷き合うとそれぞれの敵に向かって走り出した。まず手始めに狙うのはリザードマンを指揮しているであろうワイバーン。
「竜鉱石、リザードマンとワイバーンには見られない……かな?」
ワイバーンには少し効果があったんだけど。そう零しながら巨大ハンマーを手にメイムが飛び上がる。それに合わせてアリアが白銀の銃を構えると、彼女は飛翔する敵の翼目掛けてそれを放った。
1発、2発――掠め、命中した弾にワイバーンの口から奇声が上がる。
「メイム!」
「わかってるー! ほら、連続攻撃で倒れてよ!」
体勢を崩せばこちらの物。間合いに飛び込んできた相手にハンマーによる連撃が打ち込まれると、敵は吹き飛ばされる形で地面に叩きつけられた。そこに更なる攻撃が見舞う。
アリアはワイバーンが逃げないように首に鞭を巻き付けると、リザードマンの群れの中に引き込んだ。突然の味方と敵双方の襲撃にリザードマンの隊列が崩れる。そこにメイムが合流すると、彼女は全身を武器にしてハンマーを回転させた。
『射撃準備完了ダ。カウント5以内に退避シテくれ』
耳を打つ無線の声。これは遺跡の柱から周囲を見回していたJ・D(ka3351)の物だ。これがあったから陽や柚子の救出にも向かえた。
「天華改の射撃がくるよ! 退避して!!」
「5、4、3――」
カウントを口にしながら下がる2人の姿に柚子も退去を開始する。そしてカウントが0になると当時だった。無数の炎の矢が頭上から降り注ぎ、集まっていたリザードマンとワイバーンに突き刺さる。
『命中確認。サテ、お次は……と、グレイブ。何を囲まれているんだ?』
「いやぁ、思った以上にソウルトーチが利いてるらしくてな? 少しばかり状況が見えないんだが、近辺にまだ敵はいるか?」
のんびり周囲を見回すようにでも話すグレイブ(ka3719)は先の戦場から少し離れた位置にいる。
場所は結界の外。11時――いや、12時の方角ピッタリの場所だ。
「3番砲、リロードが終了します」
無線で通信するJの近くでシャルア・レイセンファード(ka4359)が声を上げた。これに「少し待て」とJの手が合図する。
グレイブの位置は先ほど陽が目指していたのと合致する。つまり彼に惹かれて集まりだした歪虚を見て彼が動き出したと考えるのが普通だろう。とは言えその数はかなりのもの。ワームだけで2体、
『3体目が接近中だ。後方カラ来てる』
流石にこれ以上増えるのはグレイブにとっても、そこに向かった仲間にとっても望ましくない。
「3体目か……流石にヤバいかね?」
背筋を冷たい汗が伝うが感覚的に寒くはない。グレイブは周囲を見回すことで現状を理解すると、自身のマテリアルを燃やす炎のオーラを見つめた。そして小さく息を吸ってミラージュグレイブを握り締める。
「巻き込まれるのは御免だからな。ここは突破させてもらう!」
グレイブからの通信は続いている。天華改の砲撃用意が整ったこと、周辺に未だ敵が増え続けていること、そして味方が目前まで助けに来ていること。これらの情報を顧みて突破を目指す方向は決まった。
「ワーム以外も集まってきやがるッ。クソッ、キリがねぇ!!」
払っても払っても前が見えない状態に徐々に焦りが浮かんでくる。だが手間取っている暇はない。このままだと自分も炎の矢に貫かれてしまうのだ。だから――
『後ろカラ炎が!』
注意力が散漫になっていた。
振り返った目にワームが放つ火炎が見える。このままだと燃える。そう思い目を見開いた時、彼に風が吹いた。
「重心を背中に寄せてください。できれば乗って!」
声と同時に不自然な浮遊感が襲う。それが誰かのバイクに拾われたのだと気付くのにそう時間は掛からなかった。
グレイブは声に従って操縦者の後ろに飛び乗ると、自身を追いかける歪虚の群れに目を向けた。直後、天から降る光の矢が集まった敵を次々と打ち倒してゆく。
「……命拾いした。ありがとうな?」
「いえ。それよりも受け身をとる準備をしておいてください。ちょっと、ここ地形が――ぁああああッ!!!」
天華改の砲撃を避けるのに加速したのが原因か。グレイブを拾った陽のハンドルが天を仰いだ。そして次の瞬間、2人は結晶の地面に叩きつけられるように倒れたのだった。
●
龍鱗結界の外で繰り広げられる強欲の軍勢との攻防戦。それを視界に納めながら、アーサー・ホーガン(ka0471)は天華改への装填処理に追われていた。
「えーと、まずは龍鉱石を箱に入れて……スペルランチャーの取り出し口に紐で繋いで……あ、箱はそこの毛布の滑り台に乗せてもらえるか?」
そう師団員に指示を飛ばす彼が行っているのは、馬を使った半自動装填機だ。と言ってもこの作業、馬を扱えるのは彼1人な為師団員が使用することはできない。それでもリロード時間が僅かに縮まるため1機だけでも、と現在その作業を行っている。
「――よし、セット完了だ。発射頼むぜ!」
願い出た先にいたのはネプ・ヴィンダールヴ(ka4436)だ。
彼はアーサーの声に頷きを返すと天華改の発射準備に掛かる。が、その動きが止まった。それにつられてアーサーの視線も動くのだが、彼もまた視線の先の光景を見て動きを止めた。
「待ちなさい!」
「こちらはとことん無視ですか。まったく失礼極まりない方ですね!」
手裏剣を投げて足止めを図る椿姫・T・ノーチェ(ka1225)。それに合わせて足払いも兼ねた斬り込みを入れる神代 誠一(ka2086)は、結界に一直線に向かおうとする紫電の刀鬼に手を焼いている様子だった。
「HAHAHAHA! ユーたちではミーに追いつけまセーン!」
刀鬼の移動は走るだけでなく雷化の能力も使用している。その結果、距離が縮まるよりも更に距離が空いているのだが、ハンターたちもただ何も考えず彼の対処に当たっているわけではなかった。
「その動き、あたしが止めてあげる!」
2人と共に刀鬼の動きを止めに掛かっていたアリア ウィンスレッド(ka4531)がワンドを振り上げる。そして短い詠唱の後に、雷化した刀鬼に合わせて光の杭を打ち込むと、一瞬だが彼の動きが止まった。
「ワオ! デンジャラスデスネ?!!」
足元に打ち込まれた杭。本来であれば少しは時間稼ぎできるのだが流石は十三魔と呼ばれるだけのことはある。ほんの僅かの隙を見せただけで刀鬼はすぐさま背中の刃を抜き取ると、自身に迫る新たな攻撃を受け止めた。そして手の中でクルリと柄を回して攻撃を放った椿姫の胴を打つ。
「ンン?、甘い、甘いデスネ?♪」
瞬時に飛び退こうとした彼女の服が避け、僅かな血痕が飛び上がる。それを目にした誠一の目が据わった。
身に纏う緑のオーラと同じ若芽色のオーラに染まった武器を手に、椿姫に向く刀鬼へと飛び出す。そして彼の間合いに踏み込むと、流れるような動きで彼の身を切り裂いた。
「オウ、ッと残念デース♪」
避けたのは服だけ。風のように飛び上がって回避した彼は宙で一回転するとすぐに目的を実行に図る。今の様子から椿姫を放って誠一が追ってこれないと判断したのだ。しかし――
「着地を狙えば当たる、かもっ!」
地面に足を突いた直後、刀鬼の足元に再び光の杭が打ち込まれた。それは1つ、2つ、と刀鬼が動くごとに追いかけてくる。
その動きに流石の刀鬼も「邪魔」を認識したらしい。
「モウ、仕方のナイお嬢さんデスネー」
光の杭を回避して飛んだ直後、刀鬼は雷化を使ってアリアに突進してきた。これに彼女の目が開かれる。
急ぎ盾を構えて防御を敷くが耐えられる自信はない。それでもこの防御が先に繋がれば体を張る意味はあるというもの。
「さあ、ちょっと楽しくなってきたよ!」
虚勢を張って身構えた――瞬間! 全身を打つ雷撃の鋭さと吹き飛ばされる感覚に彼女の意識が一瞬だけ飛ぶ。
それでも全身にマテリアルを巡らせると、霞ゆく意識の中でワンドを振り上げ、
「光よ……あたしに力、を……!」
「!!」
声に振り返ったときには遅かった。刀鬼の真後ろに出現した光の杭が、彼の動きを阻害するように突き刺さったのだった。
●
「少し援護に向かうのでな。終わりそうになったら呼んでくれるかのぅ?」
そう言って天華改の傍を離れ結界の外へ飛び出したヴィルマ・ネーベル(ka2549)は、外に出るのと同時に煌びやかな装飾のワンドを振り上げた。
彼女の視線の先に在るのは結界を攻撃するリザードマンが数体。その他にそれを指揮していると思われるワイバーンの姿もある。
「命乞いをする暇は与えぬでな。そのままそこで燃えてもらうぞ!」
作り出した火炎の弾。それを勢い良く放つとリザードマンの群れに向かって炎が広がっていった。だが空を飛ぶワイバーンには届いていない。
ワイバーンは火球が飛んできた方角を見やると、息を吸い込み一気に火炎を吐き出してきた。これにはヴィルマも退避せざる負えない。だがそこへ彼女の担当する天華改から通信が入った。
「ぬ。もうリロードが終わったとな?!」
ここから当初の場所まではそう遠くない。急いで戻ればリロード完了から間を置かずに砲撃が出来るだろう。
しかしこちらは若干修羅場だ!
「あわわ! ヴィルマさんがワイバーンに襲われてますよ!」
そう声を上げたのはヴィルマと同じ天華改の砲撃担当のシェルミア・クリスティア(ka5955)だ。
彼女もまた装填までの時間を結界外で過ごしていたのだが、予想外の姿にリザードマンを撃ち抜くとすぐさま彼女の元に駆け付けようとした。だがそんな彼女を遮って前に出る者があった。
「私が行くから、シェルミアはそろそろ戻って。ここは必ず食い止めてみせるよ。皆が守るものを……壊させる訳にはいかないから」
大丈夫。そう囁きヴィルマの援護に向かったのはマーゴット(ka5022)だ。その全身には擦り傷や切り傷が見えるのだが、それもその筈。彼女は先ほどまで前戦でグレイブたち誘導を行う人たちの援護を行っていたのだ。
マーゴットは身の丈の倍以上はあろうかという刃を振り上げると、ワイバーンの間合いに飛び込み、敵の背後から一気に振り下ろす。これに敵の体が揺らいだのは言うまでもない。
「砲撃位置へ」
ワイバーンによって足止めされていたヴィルマは、マーゴットの姿を見ると「有難い」と声を残して駆けて行った。
残るのはワイバーンとマーゴットのみ。彼女は雪の残る地面を踏みしめると、再びワイバーンに向けて駆けだした。そこへ新たな援護が降り注ぐ。
「今のうちに止めをさしてください」
ワイバーンの翼を凍らせる一撃を放ったミオレスカ(ka3496)は二丁の銃を構えると更なる攻撃を叩きこむ。
これに背中を抑える形で飛び出すと、まるで風のように走ってワイバーンの横を通り過ぎた。
『グォォオオオッ!!』
咆哮を上げて崩れ落ちる敵。その声に反応して足を速めたリザードマンが彼女たちの包囲に掛かる。しかしマーゴットの足が止まらない。
「戦場を動かします。天華改の砲撃が届く位置へ敵を……」
「わかりました」
数が多くなれば強力な砲撃で一網打尽にするのが一番だろう。頷くミオレスカは大きく息を吸い込むと、マーゴットに続く形で駆けだした。
彼女たちが随時敵に攻撃を加えながら向かったのは、敵陣中央。リザードマンは勿論、ワイバーンやワームも集まる危険地帯だ。
「あら、あなたたち来てくれたのね」
息を切らせ、2人の来訪を喜んだ雲類鷲 伊路葉 (ka2718)は、眼前の敵に銃撃を放って後退する。
「発射まではもう少しかかるみたいだけど、耐えられそうかしら? まあ耐えられなくても大丈夫。例え倒しきれなくてもある程度動きを止めれば私たちの勝ちよ」
そうでしょ? そう片眼を瞑って見せる彼女の言う通りだ。
伊路葉の先の言葉から、少し持ち堪えれば天華改での援護が約束されているのだ。つまりここの敵は倒しきる必要はない。やるべきことは敵の足を止めること。それを理解したミオレスカとマーゴットが各々の武器を構える。
「大丈夫です。射的より難しいですが、当てられない的ではありませんから」
「私も問題ない」
「よろしい」
伊路葉はそう言って勇ましい双方の姿に笑みを浮かべると、ワイバーンの翼を狙ってライフルの弾を撃ち込んだ。
この頃、マーゴットやミオレスカ、伊路葉の行動を目で追っていたヴィルマは照準を合わせると彼女たちの援護に天華改の砲撃を放った。巨大な炎の矢が天を貫き、地上へ落ちる際に分解されて無数の矢が落ちる。
矢は空を飛ぶワイバーンは勿論、彼女たちが足止めをしていたワームやリザードマンも打ち抜いてゆく。だが中には漏れた敵もいるのも確かだ。
「2番砲、発射準備完了だよ!」
声を上げたのはシェルミアだ。
彼女もまた天華改の元に戻ってくると射程をヴィルマと同じ位置に集めたらしい。その姿にJが改めて通信を飛ばす。
『追撃を発射スル。5カウントの内に退避だ』
5、4、3――。
刻まれてゆくカウントダウンを耳に、霧崎 灯華(ka5945)はやや優れない表情で戦場を駆けていた。
「味方同士の連携は上手くいってるみたいね」
お陰で私の入る隙がないけど。とボヤク彼女が当初目的としていたのは、戦場の簡易MAP作って敵味方の状況を駒で確認し指示を飛ばすことだった。その為には味方との通信が不可欠だが、味方はすでに多くの連携をとっていて彼女の入り込む隙が無い。
それに加えて誤算なのは敵に指揮官がいない上に高速で変化する状況に、自分が指揮したい状況に戦況が噛み合っていないのだ。となると、目的は最終段階に移行する。
「やっぱりあちらを狙うしかないってことね」
次々と小太刀で敵の息の根を止めながら、冷静に周囲の状況を確認する。その中で一瞬だけ視界に留めたのは刀鬼の姿だ。しかしその場所へも現在向かう事は出来ていない。それでも彼女に焦りはない。
「仕掛けてくるにはまだ時間があるはず。とにかく相手の動きから目を離さないことね」
言ってリザードマンの首を掻く。そうして敵が崩れるのを待たずに駆けだすと、彼女の前に巨大なハンマーを持ったゼナイドが飛び込んできた。
「次から次へと送り込んできてよく飽きませんわ、ねッ!」
台地が揺れんばかりの一撃を叩きこんでワームとリザードマンの足止めを果たしたゼナイド。そんな彼女を見て央崎 枢(ka5153)は何処となくホッとした面持ちで剣を構えなおした。その背にはジャック・J・グリーヴ(ka1305)の姿もある。
「ゼナイドさん、気が晴れたみたいだね」
「痴女女のことはどうでも良いんだが……第十師団が来てるって事は盗賊エルフ……ジュリも来てんだよな?」
「ジュリ?」
いや、なんでもない。そう言葉を返し、ジャックは枢と背中を合わせた。
見たところジュリの姿は見えない。それでもこの戦場のどこかに彼女がいるのなら、かっこ悪い姿は見せられないだろう。
「アンタの背中は守る。任せとけ」
「ああ、背中は預けた。その代わり、オウサキの背中は俺様が守ってやる」
応。そんな遣り取りをして離れる2人が向かうのは天華改の新たなターゲットの元だ。無線からの指示では次にリロードが終わる1番砲が狙いやすい10時か11時の方角に敵を集めて欲しいらしい。
ジャックはすぐさま獅子吼を使用すると、獅子の如き雄叫びを上げて敵の注意を惹きにかかった。これにワームが反応する。
「チッ、トカゲと竜は俺様を無視か!」
いや、そうじゃない。そうじゃないけどジャックは気になったらしい。
自信を無視するように通り過ぎようとした一団へ向けて銃弾を放ち、今度こそ彼らに聞こえるように咆哮を上げる。それに更なるワームが反応すると流石に枢が距離を詰めてきた。
「Let's Rock!」
リザードマンとワイバーンを挑発するように攻撃しながら接近してくる彼は、ジャックに向かうワームを見て微かに眉を上げて笑った。
「いいねぇ、楽しい! 行こうぜ、相棒!」
トンッと彼の肩を叩き、ワームの進行方向を阻害するために斬り込んでゆく。
その姿を遠目に確認していたイザヤ・K・フィルデント(ka1841)が小さく息を吐いて自らの手を握り締めた。そこに柔らかな手が降ってくる。
「大丈夫かな? 疲れてない?」
「だ、大丈夫よ! 大事な友達が前で戦ってるんだから、私だって、頑張る!」
そりゃ、こういう大きな戦いは怖いけど。そう言葉を濁らせて俯いたイザヤにディーナ・フェルミ(ka5843)がふわっと微笑んだ。
「私は傷を癒すことしかできませんが、そばにいることで少しでも楽になればと思っています」
「……あなたの場合、ヒールだけじゃないじゃない。ちゃんと、戦ってくれてるし」
先ほど、天華改の使い過ぎで疲れた彼女の前に、結界を攻撃する敵が映った。その瞬間、ディーナが彼女を守るために攻撃に転じてくれたのだ。それはとても心強く、もっと頑張ろうとさせてくれる動きだった。だから、
「強くならなきゃ……」
ぎゅっと手を握って顔を上げる。そこに砲撃要請の無線が飛んできた。
「1番砲、発射するわ……!」
天高く打ち上げた炎の矢。それと同時に襲い来る疲労感に足元を揺らしながら、イザヤは踏ん張るように自分の頬を叩いてリロードの手伝いに入った。
●
「そろそろ、スペルランチャーの交代時期か……」
コキリッと肩を鳴らして呟いた久延毘 大二郎(ka1771)は、眼前で微睡むリザードマン数体へワンドを向け太陽のような火球を作り出した。そしてそれを放ちながら無線を手にする。
「エネルギー切れ間近だ。交代を要請する」
返事は聞かなくてもわかる。彼と天華改の砲撃を交換するのはシャルアだ。彼女は通信を聞くと同時にこちらに向かってくるだろう。
その前に敵を出来る限り倒したかったのだが、彼には1つだけ誤算があった。
「……まさかスリープクラウドが利かないとはね」
そう、スリープクラウドは眠らない相手には効果がないのだ。リザードマンやワイバーンは煙に驚いて怯む姿や、少し呆けた姿を見せてくれたがワームは違った。なんの影響もなく突っ込んできたお陰で彼は肩を負傷している。
「まあ、この位なら大丈――」
大丈夫。そう口にしようとした所で彼の動きが止まった。
「なんだあれは……」
「人の底力……馬鹿に、しないでください……ね?」
膝を吐きながら微笑むアリアに刀鬼の口から口笛が漏れる。
「――面白い。実に面白いデスネー♪」
光の杭に打たれた刀鬼は動けない。そこにクロード・N・シックス(ka4741)が飛び込んできた。
「そんな怪我させてゴメンッ! あたしの力だけじゃ勝てない相手だけど! だとしても! だからこそ!! あたしの全力で見せてやる!!
人間がどれだけやれるかを。あたしたちの本当の力をッ!!」
守りを捨てたクロードにチョココ(ka2449)のウィンドガストが降り注ぐ。それに内心で感謝を述べながら、クロードは全身全霊の力をもって刀鬼に挑む。
「喰らえ! 十八式奥義!! 『我が士魂の叫びを聞け』ぇぇぇえッ!!!」
「アハーン? そんな技、ミーには利かな……What!?」
己の足を台地に繋ぐ呪縛。それに意識が向いた瞬間、クロードの一撃が刀鬼のヘルメットを叩く。
ガッコーンッ!!
振り払われ、吹き飛んだヘルメットに刀鬼の悲痛な叫びが上がる。だが彼には更なる攻撃が見舞う。
「ミーの! ミーの着物がッ!!」
「ダメージそれだけデスカ!! ホント、化け物ですネッ!!!」
クロードの攻撃が直撃する直前、刀鬼は機械刀で自分の周りを切り裂くと、雷を使って彼女の攻撃を和らげた。それでも技の威力は相当の物で、彼の大事にしているヘルメットと着物を割くことには成功。以前彼女の目に触れたことのある刀の柄が体の中に浮いているの目撃した。
「あの柄は……っ!?」
目が服の中に釘付けになった瞬間、彼女の体が衝撃と同時に地面に叩きつけられた。
それが刀鬼の雷撃を受けてなのだと気付いたのは、天竜寺 舞(ka0377)が接近戦を仕掛けた直後だ。
「ほらほら何処見てんの!? 敵はあの子だけじゃないよ!!」
死角から回り込み、間髪入れずに斬り込む舞。そんな彼女の動きを頭なしで回避する刀鬼のなんと異様なことか。
それでも彼女は諦めない。次なる攻撃を見舞う仲間の為にもここで大きな隙を再び作る必要があるのだ。そもそもこの間にも刀鬼への遠距離攻撃は続いている。それなのに何故攻撃が当たらないのか!
「こうなったら……これで、どうだッ!!」
気配を消して死角に回り込む。それを援護するように椿姫の手裏剣が飛び込むと、刀鬼の体が彼女の方を向いた。
(今だ!)
体を地面すれすれまで低くする。そうする事で自身の存在を隠すと、今度は全身のバネを使って一気に斬り込んだ。
「これで、いける筈!」
下からの勢いある攻撃に刀鬼の足が一瞬怯――まなかった!
「ノンノン。今のはフェイントデス♪」
くるりと足を回して舞の剣を一掃。宙にそれを飛ばしながら機械刀を振り上げると、彼は天に向けて突き上げ……落とした。
激しい音と共に降り注ぐ雷音。その音に飛び出したチョココは、舞に体当たりするようにして彼女を雷の軌道上から外すと、すぐさま風の刃を放つ。が、それすらも刃で振り払うと、刀鬼は雷化して2人に迫ってきた。
「刀鬼さん、そこまでだよ!」
雷の軌道上に割っているように突撃してきたミィリア(ka2689)が、空間を割くように刀を薙ぎ払う。と、その手に微かな感触を得て彼女の視線が動いた。
「BINGOデスネ?」
「そう、みたい?」
肩を竦める刀鬼の脇腹に突き刺さった刃にミィリアがへへっと笑う。しかしその笑みは一瞬で消えた。
刀鬼が着物の中に手を突っ込んだのだ。次の瞬間取り出したのは、異様な気配を放つ刀の柄。それを刀鬼が握り締めた直後、周囲の空気が変わった。
「この負のマテリアル……普通じゃない……」
「以前、そこのGirlには見せマシタネ?」
顔はないのに笑っている気配がする。それを負のマテリアルと共に受け取ったユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は、指が白くなるほど強く剣を握り締めて彼のことを見据える。
「前はタングラムやゼナイドが回避させてくれたけど、この至近距離で避けれるかどうか……」
ユーリは以前、あの柄から放たれた雷撃を受けている。その時は彼女の言うようにタングラムやゼナイドが事前に防御を敷いてくれたお陰で何とかなった。しかし今回はそうもいかない。
「ね、ねぇ。東方の出身じゃないって聞いてからずっと気になってたんだけど、刀鬼さんってずっと昔にこっちにきたリアルブルーからの転移者さん?」
「な、なにをいきなり」
良いから。そう片眼を瞑るミィリアにハッとする。
もしこの質問に刀鬼の注意が惹かれるなら、その隙に彼に強力な攻撃をして欲しい。それが彼女の願いなのだ。
それを察したユーリは少しずつ彼女から距離をとってゆく。それにしても彼が持つ柄は奇妙だ。服の中に収納されており、強力な技を放ってくる。しかもその力は背中の機械刀を使うよりも強くて――
「――まさか」
思わず上がった声を片手で封じる。と、その時だ。
「ユーの言うとおりデス。ミーはリアルブルーから来た元人間デ?ス。弱くてちっちゃな人間デシタ?」
お道化る様にお辞儀をして見せる刀鬼にミィリアは「やっぱり」と眉を顰める。そうして自らの刃を構えると、踏み込みを深くして飛び出した。
「この柄を見ても逃げませんか……Good! 真正面から焼き殺してあげまショウ!!」
柄に集まる負の気配。同時に紡がれる雷の刀身にミィリアの全身の毛が逆立つ。それでも突き進むと、刀鬼の視界から消えたユーリが踏み込むのが見えた。
「刀鬼、ここから先は絶対に通さない……攻撃箇所は、そこッ!!」
ミィリアと挟み込む形で振り上げた刃。それに渾身の力を注ぎ込むと、ユーリは彼の持つ柄に向けて振り下ろした。
「!!」
眩いばかりの光が辺りを包み込み、ミィリアとユーリの体が吹き飛ばされる。そして空気に交じって雷撃が飛散して光が消え去ると、刀鬼の姿と彼のヘルメットはその場から消え去っていた。
僅かな雪を巻き上げて滑走する魔導バイクに乗車する八島 陽(ka1442)は、目の前の戦場を確認するとアースワームが進軍してくる箇所に向けて加速した。
ここは龍鱗結界の外。無数の強欲の軍勢が迫る戦場の真っただ中だ。
「12時の方角へワームを集めます。そちらにスペルランチャーを発射して下さい」
無線機を通じて願い出たスペルランチャー「天華改」は第十師団師団員がリロードを行い発射をハンターが担当している。現在はリロードの最中なので終わるまでにワームを集めることができれば最善といったところだろう。
陽は視界に映るワームの数を数えながらどうにして彼の存在を誘導するか考える。
「ワームは大量の龍鉱石のマテリアルを感知して進撃しているはず。その習性を利用できれば――にしても数が多いッ!」
イニシャライザーの攻撃を回避して到達した歪虚が多いのだろうか。予想以上の数に陽の眉間に皺が寄る。と、その時だ。
ペダルとハンドルの双方を使って勢い良く利かせたブレーキから上る高音に松瀬 柚子(ka4625)の目が向かった。
無数のリザードマンとワイバーンに行く手を阻まれる陽。そこにリザードマンが体当たりする姿を目撃して刀を手にしていた柚子の足が動いた。
「靴問題なし。よし、いけますっ!」
トンッと地面を蹴って一気に駆け出す。狙うべくは陽の前にいるリザードマン。彼女は援軍として参戦するために刃を抜き取ると、まずは――
「あなたッ!」
駆け抜けながらリザードマンの胴を薙ぎ払う。
そうしてそのまま延長線上にいる敵にも斬りかかると、瞬時に周囲の状況を確認。敵のどの部分を突けば道が開けるかを黙視する。
(ワイバーンも気になりますが、そこは後回しが良いでしょうね……今は行く手を塞ぐリザードマンの壁を切り崩すのが先)
柚子は陽を振り返ると僅かに口角を上げて前方を指さした。
「ここは私が抑えます! あなたは早くワームの元へ!」
切り開く道は見えた。あとは一瞬の隙を突いて陽が戦場に戻ればいい。とは言え、敵はザッと見積もっても10体はいるだろうか。
それに加えてワイバーンがいるとなれば1人で抑えきるのは至難の業だ。だが自由に戦場を駆けられるバイクは何物にも変え難い。ましてやこのような場所で足止めを食うなど勿体ないの一言に尽きる。
「でも」
「大丈夫ですから」
安心させるように微笑んで地面を蹴る。風のように敵陣に切り込み、ワイバーンを無視してリザードマンの殲滅に向かう。しかし敵もそう簡単にはやらせてくれなかった。
「やはり邪魔してきますか……!」
咄嗟に飛び退き打撃の命中は避ける。それでも迫る敵に彼女の足が下がった。
「ふりぃぃず!」
「!」
動きを封じるほどの大きな声が響いた。これに柚子へ迫っていた敵の足が止まる。
「いまのうちに――あんたの相手はあたしなのよ!」
無線から飛んできた指示に従って援軍に駆け付けたアリア(ka2394)とメイム(ka2290)。彼女らは柚子を援護するようにそれぞれの攻撃を繰り出し敵軍を突破してゆく。その姿に陽のバイクが再びエンジンを起動した。
「ありがとう!」
伝えたい言葉は沢山あるが今は当初の目的を実行する時だ。陽は3人が作り上げた僅かな道にバイクを走らせると、一気に加速してワームの元へ急いだ。
そして彼を見送ったアリアとメイムが背中を合わせる。
「それじゃ頑張ろう?」
「うん。せーいちやつばきの邪魔はさせないよ!」
2人は互いに頷き合うとそれぞれの敵に向かって走り出した。まず手始めに狙うのはリザードマンを指揮しているであろうワイバーン。
「竜鉱石、リザードマンとワイバーンには見られない……かな?」
ワイバーンには少し効果があったんだけど。そう零しながら巨大ハンマーを手にメイムが飛び上がる。それに合わせてアリアが白銀の銃を構えると、彼女は飛翔する敵の翼目掛けてそれを放った。
1発、2発――掠め、命中した弾にワイバーンの口から奇声が上がる。
「メイム!」
「わかってるー! ほら、連続攻撃で倒れてよ!」
体勢を崩せばこちらの物。間合いに飛び込んできた相手にハンマーによる連撃が打ち込まれると、敵は吹き飛ばされる形で地面に叩きつけられた。そこに更なる攻撃が見舞う。
アリアはワイバーンが逃げないように首に鞭を巻き付けると、リザードマンの群れの中に引き込んだ。突然の味方と敵双方の襲撃にリザードマンの隊列が崩れる。そこにメイムが合流すると、彼女は全身を武器にしてハンマーを回転させた。
『射撃準備完了ダ。カウント5以内に退避シテくれ』
耳を打つ無線の声。これは遺跡の柱から周囲を見回していたJ・D(ka3351)の物だ。これがあったから陽や柚子の救出にも向かえた。
「天華改の射撃がくるよ! 退避して!!」
「5、4、3――」
カウントを口にしながら下がる2人の姿に柚子も退去を開始する。そしてカウントが0になると当時だった。無数の炎の矢が頭上から降り注ぎ、集まっていたリザードマンとワイバーンに突き刺さる。
『命中確認。サテ、お次は……と、グレイブ。何を囲まれているんだ?』
「いやぁ、思った以上にソウルトーチが利いてるらしくてな? 少しばかり状況が見えないんだが、近辺にまだ敵はいるか?」
のんびり周囲を見回すようにでも話すグレイブ(ka3719)は先の戦場から少し離れた位置にいる。
場所は結界の外。11時――いや、12時の方角ピッタリの場所だ。
「3番砲、リロードが終了します」
無線で通信するJの近くでシャルア・レイセンファード(ka4359)が声を上げた。これに「少し待て」とJの手が合図する。
グレイブの位置は先ほど陽が目指していたのと合致する。つまり彼に惹かれて集まりだした歪虚を見て彼が動き出したと考えるのが普通だろう。とは言えその数はかなりのもの。ワームだけで2体、
『3体目が接近中だ。後方カラ来てる』
流石にこれ以上増えるのはグレイブにとっても、そこに向かった仲間にとっても望ましくない。
「3体目か……流石にヤバいかね?」
背筋を冷たい汗が伝うが感覚的に寒くはない。グレイブは周囲を見回すことで現状を理解すると、自身のマテリアルを燃やす炎のオーラを見つめた。そして小さく息を吸ってミラージュグレイブを握り締める。
「巻き込まれるのは御免だからな。ここは突破させてもらう!」
グレイブからの通信は続いている。天華改の砲撃用意が整ったこと、周辺に未だ敵が増え続けていること、そして味方が目前まで助けに来ていること。これらの情報を顧みて突破を目指す方向は決まった。
「ワーム以外も集まってきやがるッ。クソッ、キリがねぇ!!」
払っても払っても前が見えない状態に徐々に焦りが浮かんでくる。だが手間取っている暇はない。このままだと自分も炎の矢に貫かれてしまうのだ。だから――
『後ろカラ炎が!』
注意力が散漫になっていた。
振り返った目にワームが放つ火炎が見える。このままだと燃える。そう思い目を見開いた時、彼に風が吹いた。
「重心を背中に寄せてください。できれば乗って!」
声と同時に不自然な浮遊感が襲う。それが誰かのバイクに拾われたのだと気付くのにそう時間は掛からなかった。
グレイブは声に従って操縦者の後ろに飛び乗ると、自身を追いかける歪虚の群れに目を向けた。直後、天から降る光の矢が集まった敵を次々と打ち倒してゆく。
「……命拾いした。ありがとうな?」
「いえ。それよりも受け身をとる準備をしておいてください。ちょっと、ここ地形が――ぁああああッ!!!」
天華改の砲撃を避けるのに加速したのが原因か。グレイブを拾った陽のハンドルが天を仰いだ。そして次の瞬間、2人は結晶の地面に叩きつけられるように倒れたのだった。
●
龍鱗結界の外で繰り広げられる強欲の軍勢との攻防戦。それを視界に納めながら、アーサー・ホーガン(ka0471)は天華改への装填処理に追われていた。
「えーと、まずは龍鉱石を箱に入れて……スペルランチャーの取り出し口に紐で繋いで……あ、箱はそこの毛布の滑り台に乗せてもらえるか?」
そう師団員に指示を飛ばす彼が行っているのは、馬を使った半自動装填機だ。と言ってもこの作業、馬を扱えるのは彼1人な為師団員が使用することはできない。それでもリロード時間が僅かに縮まるため1機だけでも、と現在その作業を行っている。
「――よし、セット完了だ。発射頼むぜ!」
願い出た先にいたのはネプ・ヴィンダールヴ(ka4436)だ。
彼はアーサーの声に頷きを返すと天華改の発射準備に掛かる。が、その動きが止まった。それにつられてアーサーの視線も動くのだが、彼もまた視線の先の光景を見て動きを止めた。
「待ちなさい!」
「こちらはとことん無視ですか。まったく失礼極まりない方ですね!」
手裏剣を投げて足止めを図る椿姫・T・ノーチェ(ka1225)。それに合わせて足払いも兼ねた斬り込みを入れる神代 誠一(ka2086)は、結界に一直線に向かおうとする紫電の刀鬼に手を焼いている様子だった。
「HAHAHAHA! ユーたちではミーに追いつけまセーン!」
刀鬼の移動は走るだけでなく雷化の能力も使用している。その結果、距離が縮まるよりも更に距離が空いているのだが、ハンターたちもただ何も考えず彼の対処に当たっているわけではなかった。
「その動き、あたしが止めてあげる!」
2人と共に刀鬼の動きを止めに掛かっていたアリア ウィンスレッド(ka4531)がワンドを振り上げる。そして短い詠唱の後に、雷化した刀鬼に合わせて光の杭を打ち込むと、一瞬だが彼の動きが止まった。
「ワオ! デンジャラスデスネ?!!」
足元に打ち込まれた杭。本来であれば少しは時間稼ぎできるのだが流石は十三魔と呼ばれるだけのことはある。ほんの僅かの隙を見せただけで刀鬼はすぐさま背中の刃を抜き取ると、自身に迫る新たな攻撃を受け止めた。そして手の中でクルリと柄を回して攻撃を放った椿姫の胴を打つ。
「ンン?、甘い、甘いデスネ?♪」
瞬時に飛び退こうとした彼女の服が避け、僅かな血痕が飛び上がる。それを目にした誠一の目が据わった。
身に纏う緑のオーラと同じ若芽色のオーラに染まった武器を手に、椿姫に向く刀鬼へと飛び出す。そして彼の間合いに踏み込むと、流れるような動きで彼の身を切り裂いた。
「オウ、ッと残念デース♪」
避けたのは服だけ。風のように飛び上がって回避した彼は宙で一回転するとすぐに目的を実行に図る。今の様子から椿姫を放って誠一が追ってこれないと判断したのだ。しかし――
「着地を狙えば当たる、かもっ!」
地面に足を突いた直後、刀鬼の足元に再び光の杭が打ち込まれた。それは1つ、2つ、と刀鬼が動くごとに追いかけてくる。
その動きに流石の刀鬼も「邪魔」を認識したらしい。
「モウ、仕方のナイお嬢さんデスネー」
光の杭を回避して飛んだ直後、刀鬼は雷化を使ってアリアに突進してきた。これに彼女の目が開かれる。
急ぎ盾を構えて防御を敷くが耐えられる自信はない。それでもこの防御が先に繋がれば体を張る意味はあるというもの。
「さあ、ちょっと楽しくなってきたよ!」
虚勢を張って身構えた――瞬間! 全身を打つ雷撃の鋭さと吹き飛ばされる感覚に彼女の意識が一瞬だけ飛ぶ。
それでも全身にマテリアルを巡らせると、霞ゆく意識の中でワンドを振り上げ、
「光よ……あたしに力、を……!」
「!!」
声に振り返ったときには遅かった。刀鬼の真後ろに出現した光の杭が、彼の動きを阻害するように突き刺さったのだった。
●
「少し援護に向かうのでな。終わりそうになったら呼んでくれるかのぅ?」
そう言って天華改の傍を離れ結界の外へ飛び出したヴィルマ・ネーベル(ka2549)は、外に出るのと同時に煌びやかな装飾のワンドを振り上げた。
彼女の視線の先に在るのは結界を攻撃するリザードマンが数体。その他にそれを指揮していると思われるワイバーンの姿もある。
「命乞いをする暇は与えぬでな。そのままそこで燃えてもらうぞ!」
作り出した火炎の弾。それを勢い良く放つとリザードマンの群れに向かって炎が広がっていった。だが空を飛ぶワイバーンには届いていない。
ワイバーンは火球が飛んできた方角を見やると、息を吸い込み一気に火炎を吐き出してきた。これにはヴィルマも退避せざる負えない。だがそこへ彼女の担当する天華改から通信が入った。
「ぬ。もうリロードが終わったとな?!」
ここから当初の場所まではそう遠くない。急いで戻ればリロード完了から間を置かずに砲撃が出来るだろう。
しかしこちらは若干修羅場だ!
「あわわ! ヴィルマさんがワイバーンに襲われてますよ!」
そう声を上げたのはヴィルマと同じ天華改の砲撃担当のシェルミア・クリスティア(ka5955)だ。
彼女もまた装填までの時間を結界外で過ごしていたのだが、予想外の姿にリザードマンを撃ち抜くとすぐさま彼女の元に駆け付けようとした。だがそんな彼女を遮って前に出る者があった。
「私が行くから、シェルミアはそろそろ戻って。ここは必ず食い止めてみせるよ。皆が守るものを……壊させる訳にはいかないから」
大丈夫。そう囁きヴィルマの援護に向かったのはマーゴット(ka5022)だ。その全身には擦り傷や切り傷が見えるのだが、それもその筈。彼女は先ほどまで前戦でグレイブたち誘導を行う人たちの援護を行っていたのだ。
マーゴットは身の丈の倍以上はあろうかという刃を振り上げると、ワイバーンの間合いに飛び込み、敵の背後から一気に振り下ろす。これに敵の体が揺らいだのは言うまでもない。
「砲撃位置へ」
ワイバーンによって足止めされていたヴィルマは、マーゴットの姿を見ると「有難い」と声を残して駆けて行った。
残るのはワイバーンとマーゴットのみ。彼女は雪の残る地面を踏みしめると、再びワイバーンに向けて駆けだした。そこへ新たな援護が降り注ぐ。
「今のうちに止めをさしてください」
ワイバーンの翼を凍らせる一撃を放ったミオレスカ(ka3496)は二丁の銃を構えると更なる攻撃を叩きこむ。
これに背中を抑える形で飛び出すと、まるで風のように走ってワイバーンの横を通り過ぎた。
『グォォオオオッ!!』
咆哮を上げて崩れ落ちる敵。その声に反応して足を速めたリザードマンが彼女たちの包囲に掛かる。しかしマーゴットの足が止まらない。
「戦場を動かします。天華改の砲撃が届く位置へ敵を……」
「わかりました」
数が多くなれば強力な砲撃で一網打尽にするのが一番だろう。頷くミオレスカは大きく息を吸い込むと、マーゴットに続く形で駆けだした。
彼女たちが随時敵に攻撃を加えながら向かったのは、敵陣中央。リザードマンは勿論、ワイバーンやワームも集まる危険地帯だ。
「あら、あなたたち来てくれたのね」
息を切らせ、2人の来訪を喜んだ雲類鷲 伊路葉 (ka2718)は、眼前の敵に銃撃を放って後退する。
「発射まではもう少しかかるみたいだけど、耐えられそうかしら? まあ耐えられなくても大丈夫。例え倒しきれなくてもある程度動きを止めれば私たちの勝ちよ」
そうでしょ? そう片眼を瞑って見せる彼女の言う通りだ。
伊路葉の先の言葉から、少し持ち堪えれば天華改での援護が約束されているのだ。つまりここの敵は倒しきる必要はない。やるべきことは敵の足を止めること。それを理解したミオレスカとマーゴットが各々の武器を構える。
「大丈夫です。射的より難しいですが、当てられない的ではありませんから」
「私も問題ない」
「よろしい」
伊路葉はそう言って勇ましい双方の姿に笑みを浮かべると、ワイバーンの翼を狙ってライフルの弾を撃ち込んだ。
この頃、マーゴットやミオレスカ、伊路葉の行動を目で追っていたヴィルマは照準を合わせると彼女たちの援護に天華改の砲撃を放った。巨大な炎の矢が天を貫き、地上へ落ちる際に分解されて無数の矢が落ちる。
矢は空を飛ぶワイバーンは勿論、彼女たちが足止めをしていたワームやリザードマンも打ち抜いてゆく。だが中には漏れた敵もいるのも確かだ。
「2番砲、発射準備完了だよ!」
声を上げたのはシェルミアだ。
彼女もまた天華改の元に戻ってくると射程をヴィルマと同じ位置に集めたらしい。その姿にJが改めて通信を飛ばす。
『追撃を発射スル。5カウントの内に退避だ』
5、4、3――。
刻まれてゆくカウントダウンを耳に、霧崎 灯華(ka5945)はやや優れない表情で戦場を駆けていた。
「味方同士の連携は上手くいってるみたいね」
お陰で私の入る隙がないけど。とボヤク彼女が当初目的としていたのは、戦場の簡易MAP作って敵味方の状況を駒で確認し指示を飛ばすことだった。その為には味方との通信が不可欠だが、味方はすでに多くの連携をとっていて彼女の入り込む隙が無い。
それに加えて誤算なのは敵に指揮官がいない上に高速で変化する状況に、自分が指揮したい状況に戦況が噛み合っていないのだ。となると、目的は最終段階に移行する。
「やっぱりあちらを狙うしかないってことね」
次々と小太刀で敵の息の根を止めながら、冷静に周囲の状況を確認する。その中で一瞬だけ視界に留めたのは刀鬼の姿だ。しかしその場所へも現在向かう事は出来ていない。それでも彼女に焦りはない。
「仕掛けてくるにはまだ時間があるはず。とにかく相手の動きから目を離さないことね」
言ってリザードマンの首を掻く。そうして敵が崩れるのを待たずに駆けだすと、彼女の前に巨大なハンマーを持ったゼナイドが飛び込んできた。
「次から次へと送り込んできてよく飽きませんわ、ねッ!」
台地が揺れんばかりの一撃を叩きこんでワームとリザードマンの足止めを果たしたゼナイド。そんな彼女を見て央崎 枢(ka5153)は何処となくホッとした面持ちで剣を構えなおした。その背にはジャック・J・グリーヴ(ka1305)の姿もある。
「ゼナイドさん、気が晴れたみたいだね」
「痴女女のことはどうでも良いんだが……第十師団が来てるって事は盗賊エルフ……ジュリも来てんだよな?」
「ジュリ?」
いや、なんでもない。そう言葉を返し、ジャックは枢と背中を合わせた。
見たところジュリの姿は見えない。それでもこの戦場のどこかに彼女がいるのなら、かっこ悪い姿は見せられないだろう。
「アンタの背中は守る。任せとけ」
「ああ、背中は預けた。その代わり、オウサキの背中は俺様が守ってやる」
応。そんな遣り取りをして離れる2人が向かうのは天華改の新たなターゲットの元だ。無線からの指示では次にリロードが終わる1番砲が狙いやすい10時か11時の方角に敵を集めて欲しいらしい。
ジャックはすぐさま獅子吼を使用すると、獅子の如き雄叫びを上げて敵の注意を惹きにかかった。これにワームが反応する。
「チッ、トカゲと竜は俺様を無視か!」
いや、そうじゃない。そうじゃないけどジャックは気になったらしい。
自信を無視するように通り過ぎようとした一団へ向けて銃弾を放ち、今度こそ彼らに聞こえるように咆哮を上げる。それに更なるワームが反応すると流石に枢が距離を詰めてきた。
「Let's Rock!」
リザードマンとワイバーンを挑発するように攻撃しながら接近してくる彼は、ジャックに向かうワームを見て微かに眉を上げて笑った。
「いいねぇ、楽しい! 行こうぜ、相棒!」
トンッと彼の肩を叩き、ワームの進行方向を阻害するために斬り込んでゆく。
その姿を遠目に確認していたイザヤ・K・フィルデント(ka1841)が小さく息を吐いて自らの手を握り締めた。そこに柔らかな手が降ってくる。
「大丈夫かな? 疲れてない?」
「だ、大丈夫よ! 大事な友達が前で戦ってるんだから、私だって、頑張る!」
そりゃ、こういう大きな戦いは怖いけど。そう言葉を濁らせて俯いたイザヤにディーナ・フェルミ(ka5843)がふわっと微笑んだ。
「私は傷を癒すことしかできませんが、そばにいることで少しでも楽になればと思っています」
「……あなたの場合、ヒールだけじゃないじゃない。ちゃんと、戦ってくれてるし」
先ほど、天華改の使い過ぎで疲れた彼女の前に、結界を攻撃する敵が映った。その瞬間、ディーナが彼女を守るために攻撃に転じてくれたのだ。それはとても心強く、もっと頑張ろうとさせてくれる動きだった。だから、
「強くならなきゃ……」
ぎゅっと手を握って顔を上げる。そこに砲撃要請の無線が飛んできた。
「1番砲、発射するわ……!」
天高く打ち上げた炎の矢。それと同時に襲い来る疲労感に足元を揺らしながら、イザヤは踏ん張るように自分の頬を叩いてリロードの手伝いに入った。
●
「そろそろ、スペルランチャーの交代時期か……」
コキリッと肩を鳴らして呟いた久延毘 大二郎(ka1771)は、眼前で微睡むリザードマン数体へワンドを向け太陽のような火球を作り出した。そしてそれを放ちながら無線を手にする。
「エネルギー切れ間近だ。交代を要請する」
返事は聞かなくてもわかる。彼と天華改の砲撃を交換するのはシャルアだ。彼女は通信を聞くと同時にこちらに向かってくるだろう。
その前に敵を出来る限り倒したかったのだが、彼には1つだけ誤算があった。
「……まさかスリープクラウドが利かないとはね」
そう、スリープクラウドは眠らない相手には効果がないのだ。リザードマンやワイバーンは煙に驚いて怯む姿や、少し呆けた姿を見せてくれたがワームは違った。なんの影響もなく突っ込んできたお陰で彼は肩を負傷している。
「まあ、この位なら大丈――」
大丈夫。そう口にしようとした所で彼の動きが止まった。
「なんだあれは……」
「人の底力……馬鹿に、しないでください……ね?」
膝を吐きながら微笑むアリアに刀鬼の口から口笛が漏れる。
「――面白い。実に面白いデスネー♪」
光の杭に打たれた刀鬼は動けない。そこにクロード・N・シックス(ka4741)が飛び込んできた。
「そんな怪我させてゴメンッ! あたしの力だけじゃ勝てない相手だけど! だとしても! だからこそ!! あたしの全力で見せてやる!!
人間がどれだけやれるかを。あたしたちの本当の力をッ!!」
守りを捨てたクロードにチョココ(ka2449)のウィンドガストが降り注ぐ。それに内心で感謝を述べながら、クロードは全身全霊の力をもって刀鬼に挑む。
「喰らえ! 十八式奥義!! 『我が士魂の叫びを聞け』ぇぇぇえッ!!!」
「アハーン? そんな技、ミーには利かな……What!?」
己の足を台地に繋ぐ呪縛。それに意識が向いた瞬間、クロードの一撃が刀鬼のヘルメットを叩く。
ガッコーンッ!!
振り払われ、吹き飛んだヘルメットに刀鬼の悲痛な叫びが上がる。だが彼には更なる攻撃が見舞う。
「ミーの! ミーの着物がッ!!」
「ダメージそれだけデスカ!! ホント、化け物ですネッ!!!」
クロードの攻撃が直撃する直前、刀鬼は機械刀で自分の周りを切り裂くと、雷を使って彼女の攻撃を和らげた。それでも技の威力は相当の物で、彼の大事にしているヘルメットと着物を割くことには成功。以前彼女の目に触れたことのある刀の柄が体の中に浮いているの目撃した。
「あの柄は……っ!?」
目が服の中に釘付けになった瞬間、彼女の体が衝撃と同時に地面に叩きつけられた。
それが刀鬼の雷撃を受けてなのだと気付いたのは、天竜寺 舞(ka0377)が接近戦を仕掛けた直後だ。
「ほらほら何処見てんの!? 敵はあの子だけじゃないよ!!」
死角から回り込み、間髪入れずに斬り込む舞。そんな彼女の動きを頭なしで回避する刀鬼のなんと異様なことか。
それでも彼女は諦めない。次なる攻撃を見舞う仲間の為にもここで大きな隙を再び作る必要があるのだ。そもそもこの間にも刀鬼への遠距離攻撃は続いている。それなのに何故攻撃が当たらないのか!
「こうなったら……これで、どうだッ!!」
気配を消して死角に回り込む。それを援護するように椿姫の手裏剣が飛び込むと、刀鬼の体が彼女の方を向いた。
(今だ!)
体を地面すれすれまで低くする。そうする事で自身の存在を隠すと、今度は全身のバネを使って一気に斬り込んだ。
「これで、いける筈!」
下からの勢いある攻撃に刀鬼の足が一瞬怯――まなかった!
「ノンノン。今のはフェイントデス♪」
くるりと足を回して舞の剣を一掃。宙にそれを飛ばしながら機械刀を振り上げると、彼は天に向けて突き上げ……落とした。
激しい音と共に降り注ぐ雷音。その音に飛び出したチョココは、舞に体当たりするようにして彼女を雷の軌道上から外すと、すぐさま風の刃を放つ。が、それすらも刃で振り払うと、刀鬼は雷化して2人に迫ってきた。
「刀鬼さん、そこまでだよ!」
雷の軌道上に割っているように突撃してきたミィリア(ka2689)が、空間を割くように刀を薙ぎ払う。と、その手に微かな感触を得て彼女の視線が動いた。
「BINGOデスネ?」
「そう、みたい?」
肩を竦める刀鬼の脇腹に突き刺さった刃にミィリアがへへっと笑う。しかしその笑みは一瞬で消えた。
刀鬼が着物の中に手を突っ込んだのだ。次の瞬間取り出したのは、異様な気配を放つ刀の柄。それを刀鬼が握り締めた直後、周囲の空気が変わった。
「この負のマテリアル……普通じゃない……」
「以前、そこのGirlには見せマシタネ?」
顔はないのに笑っている気配がする。それを負のマテリアルと共に受け取ったユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)は、指が白くなるほど強く剣を握り締めて彼のことを見据える。
「前はタングラムやゼナイドが回避させてくれたけど、この至近距離で避けれるかどうか……」
ユーリは以前、あの柄から放たれた雷撃を受けている。その時は彼女の言うようにタングラムやゼナイドが事前に防御を敷いてくれたお陰で何とかなった。しかし今回はそうもいかない。
「ね、ねぇ。東方の出身じゃないって聞いてからずっと気になってたんだけど、刀鬼さんってずっと昔にこっちにきたリアルブルーからの転移者さん?」
「な、なにをいきなり」
良いから。そう片眼を瞑るミィリアにハッとする。
もしこの質問に刀鬼の注意が惹かれるなら、その隙に彼に強力な攻撃をして欲しい。それが彼女の願いなのだ。
それを察したユーリは少しずつ彼女から距離をとってゆく。それにしても彼が持つ柄は奇妙だ。服の中に収納されており、強力な技を放ってくる。しかもその力は背中の機械刀を使うよりも強くて――
「――まさか」
思わず上がった声を片手で封じる。と、その時だ。
「ユーの言うとおりデス。ミーはリアルブルーから来た元人間デ?ス。弱くてちっちゃな人間デシタ?」
お道化る様にお辞儀をして見せる刀鬼にミィリアは「やっぱり」と眉を顰める。そうして自らの刃を構えると、踏み込みを深くして飛び出した。
「この柄を見ても逃げませんか……Good! 真正面から焼き殺してあげまショウ!!」
柄に集まる負の気配。同時に紡がれる雷の刀身にミィリアの全身の毛が逆立つ。それでも突き進むと、刀鬼の視界から消えたユーリが踏み込むのが見えた。
「刀鬼、ここから先は絶対に通さない……攻撃箇所は、そこッ!!」
ミィリアと挟み込む形で振り上げた刃。それに渾身の力を注ぎ込むと、ユーリは彼の持つ柄に向けて振り下ろした。
「!!」
眩いばかりの光が辺りを包み込み、ミィリアとユーリの体が吹き飛ばされる。そして空気に交じって雷撃が飛散して光が消え去ると、刀鬼の姿と彼のヘルメットはその場から消え去っていた。
- 1.イニシャライザー展開A
- 2.イニシャライザー展開B
- 3.遺跡防衛A
- 4.遺跡防衛B
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