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「遺跡防衛戦」 遺跡防衛A(北東) リプレイ

作戦3:遺跡防衛A(北東) リプレイ



藤堂 小夏
藤堂 小夏
ka5489
南條 真水
南條 真水
ka2377
ヴァイス
ヴァイス
ka0364
アニス・エリダヌス
アニス・エリダヌス
ka2491
テノール
テノール
ka5676
蜜鈴=カメーリア・ルージュ
蜜鈴=カメーリア・ルージュ
ka4009
アシェ?ル
アシェ?ル
ka2983
霧雨 悠月
霧雨 悠月
ka4130
八劒 颯
八劒 颯
ka1804
近衛 惣助
近衛 惣助
ka0510
ルキハ・ラスティネイル
ルキハ・ラスティネイル
ka2633
デスドクロ・ザ・ブラックホール
デスドクロ・ザ・ブラックホール
ka0013
イーディス・ノースハイド
イーディス・ノースハイド
ka2106
星野 ハナ
星野 ハナ
ka5852
小鳥遊 時雨
小鳥遊 時雨
ka4921
烏丸 涼子
烏丸 涼子
ka5728
アルスレーテ・フュラー
アルスレーテ・フュラー
ka6148
玉兎 小夜
玉兎 小夜
ka6009
ルンルン・リリカル・秋桜
ルンルン・リリカル・秋桜
ka5784
エルラ
エルラ
ka6196
恭牙
恭牙
ka5762
高瀬 未悠
高瀬 未悠
ka3199
鞍馬 真
鞍馬 真
ka5819
ネーヴェ=T.K.
ネーヴェ=T.K.
ka5479

 遺跡にある最も高い物見塔の窓から藤堂 小夏(ka5489)は迫り来る歪虚の集団を静かに見つめていた。そして視線はそのままにトランシーバーの送信口に口を寄せる。
「対象、目標地点まであと5、4、3、2、1、発射!」
 小夏のカウントダウンを合図に、北東に設置されていたスペルランチャー『天華改』5台が一斉に発射された。それは曇天に5本の炎の放射線を描き、目標地点へと辿り着くと炎の雨のように凍り付いた大地へと降り注ぐ。
 体内マテリアルをかき乱されるような衝撃に、南條 真水(ka2377)は『天華改』の操縦桿を握ったままぺたりと石畳の上に座り込んだ。
「これは……凄い」
 「大丈夫ですか?」と手を差し伸べてくれる帝国兵に礼を言いながら立ち上がる。
「あー、では、南條さんはちょっと様子を見ているので、リロードお願いしてもいいかな?」
 「了解しました」と見た目的には自分より年上そうなドワーフの青年兵は、敬礼するとすぐに踵を返して龍鉱石の補充へと向かった。
「なるほど、これはなかなか……」
 保・はじめ(ka5800)は炎の矢が氷の大地を抉り、爆煙のように雪煙が上がるのを見つめて独りごちた。
 双眼鏡があるわけでは無いので、砲撃地点の詳細は分からないが、肉眼で見えるだけでもその威力は十分に伝わってくる。これで無属性だというのだから、若干詐欺のような気さえする。
『東1・2、残数が多そう。準備急いで』
 トランシーバーから聞こえた小夏からの情報に、「わかりました」と応えて、はじめはバイクへと跨がると、次の砲撃に備えるべく走り出した。


「よし、行くぞ!」
 地鳴り様な振動が収まると同時にヴァイス(ka0364)が愛馬のロンに全速力で駆けるよう合図を送る。
 その横にはアニス・エリダヌス(ka2491)がぴたりと寄り添い、ちらりとその精悍な横顔を見た。
 『前に進むことは忘れることと同義ではない』
 大切なことを教えてくれたヴァイスに、自分の生き様を、“わたしの今の答え”を示したい。そう思っていた。
(いつだって危険な戦場の最前線へと挑んで行ってしまう人)
「……守りたい」
 アニスの呟きは轟く蹄の音にかき消され、隣のヴァイスの耳に届くことは無かった。

「イズンさん、お久しぶり」
 テノール(ka5676)は出立前、『天華改』の前でイズン・コスロヴァ(kz0144)と交わした言葉を思い出していた。
「テノール殿、お久しぶりです」
 目礼するイズンの横にある『天華改』を見て、かつて自分も参戦した『試作品』を使った戦いを思い出す。
「『天華』、これで歪虚に一泡吹かせたいですね」
 結局魔導アーマーやCAMに持たせるのでは無く、こういう設置型にしたのかと苦く思う。
「……えぇ、彼らの犠牲は無駄にはしません」
 「敵討ちを」とテノールが口にする前に、イズンはハッキリとそう告げると、少しだけ目元を和らげ彼を見た。
「皆さんと共に助けた負傷兵は全員治療を終え、今またそれぞれ職務に就きました」
 イズンの言葉にテノールは目を丸くした後、少しだけ口角を上げて「そう」と息を吐いた。
 『無事』とは言わなかった。それでも助けた命があって、彼らも再び彼らの戦いに身を投じたというのなら。
「負けるわけにはいかないよね」
 真っ直ぐに前を睨み付け、愛馬の手綱を手繰ると、テノールは敵の群れへと突っ込んでいった。

「嗚呼、おいでなさったか」
 聞こえた羽ばたきに蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は嘶く愛馬の脚を一度止め上空をひと睨みする。煙管の吸口から唇を離すと、ふぅ。と少し遠くへ煙を吐いた。そしてそのままそっとウロボロスリングへと唇を寄せ、呪を唱える。
 朱金の幻蝶が舞い踊り、生み出された雷光が、結界へと近付いていくワイバーンの背を射抜き、恐らく『天華改』の直撃も受けていたのだろう飛竜は失墜して行く。
「護れぬ等と無様な真似をするつもりは無い故な……此の場を死地としてでも護るだけじゃ」
 そして前方から迫り来るリザードマンの群れに今度は華炎を見舞うべく、ゼファーを引き抜くとくるりと手の平で回し構えた。
 そのすぐ横にいたアシェ?ル(ka2983)もスピリトゥスを構え、蜜鈴とタイミングを合わせて炎弾を打ち出す。
 2人のファイアーボールは既に満身創痍だったリザードマンを一掃していく。
「こんな所で結界にダメージを与えさせたりなんか絶対にさせませんから!」
 あの遺跡の中にはアシェールにとって憧れの対象でもあるスメラギがいて、結界の維持の為にはたらいている。決して負けるわけにはいかなかった。その為にも。
「生き残り、戦い続ける事、今、この戦場でもっとも、大切な事だと思うのです」
「……そうじゃな」
 ぷかり、と紫煙を吐きながら、蜜鈴は少しだけ眩しそうに――好ましいものを見るように――アシェールを見て唇の端を持ち上げた。

 天華の一斉砲撃の後に遠距離攻撃持ちが更にそこに追い打ちをかけ、それから接近戦へと持ち込む……というのが全体の作戦方針だった。
 幸いにして魔術師を筆頭とする複数体攻撃が得意な作戦参加者が多く、また、参加者のほとんどが騎乗出来るよう準備を整えてきており、移動力を高めたことで一気に奥まで突き進むことが出来たため、この作戦は見事はまったと言って良いだろう。
 また、天華を受けても失墜しなかったワイバーンや、そもそも天華の射程範囲外にいたワイバーンへも、単体遠距離攻撃スキル持ちの者や、後衛に控えた猟撃士達が討ち漏らしの無いよう狙い撃つ対応がとられていた。
 結果、序盤の戦闘はハンター優位な状態で進められていた。


 霧雨 悠月(ka4130)は決して大きいとは言えない体躯で地を縫うように駆け抜け、リザードマンへと斬り付けながら群れの動きを見る。
 八劒 颯(ka1804)もまた、縦横無尽に龍雲を操りながらドリルで貫き、焼き払い、群れの動きを見ていた。
「……どうやら明確に指揮を出しているような個体はいないみたいだね……見た?」
「いいえ。はやても見てませんの。本能のまま向かってきているのか……それともまだどこかに潜んでいるのかっ」
 飛び掛かって来たリザードマンをソーサーシールドでいなしつつドリルでその頭部を吹き飛ばした。
「とりあえず、大きめの個体から狙いましょうか……っと」
 ノイズ音と共に颯のトランシーバーに通信が入る。

「もうすぐ東1、2に『天華改』がいくよ。至急対象地域に居る人には離脱を促してね」
 近衛 惣助(ka0510)は前線後衛からヴォロンテAC47のスコープで注意深く周囲を伺いつつ、結界へと近付くワイバーンを迎撃しながら、通信を試みていた。
 スコープの向こうでは撃ち落とした飛竜へとハンターが駆けつけているのが見え、惣助は冷静にリロードをすると次の飛竜へと狙いを定める。
『ねぇ、そうすけ。貴方から見て、指揮官とか見つけた?』
「いや、ワイバーンにも特にはそういう特徴があるヤツは今の所いなさそうだ」
『そう、ありがとですの』

 颯はトランシーバーを顔から離すと、両肩を竦めながら悠月を見た。
「とりあえず、はやては避難呼びかけに行きますの」
「じゃあ、僕は退路を維持するよう戦うよ。呼びかけよろしく」
「はやてにおまかせですの!」
 颯がフルスロットルで目標地点とされた場所へと向かって行く。
 その後を追うように悠月は疾走し、襲いかかるリザードマンへと白狼を振り下ろした。

 ルキハ・ラスティネイル(ka2633)は美しいものが好きだ。
「美しいマドモワゼルと戦線を共にできるなんて、光栄じゃない♪」
 くつくつと喉の奥で笑い、青い瞳のような宝石の埋め込まれた杖をフンフン♪ と鼻歌交じりに軽く振った。次の瞬間、ブルーアイが指し示したリザードマンを中心に猛吹雪が発生すると、密集していた彼らを氷漬けにする。
「氷像だと思えば美しいんだけど」
 残念ながら、すぐに小さなヒビが入ってきている事からもこの氷の拘束は長くは続かないだろう。
「さぁさ、不恰好なトカゲちゃん達を、さくさく追っ払っちゃいましょ!」
 次の『天華改』発射までに少しでも多くの敵を足止めしようと、別の敵密集地へ向かってバイクを走らせた。

「『天華』が来るぞ! 中央より北へ移動しろ!」
 戦場の状況把握に努めていたデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)が馬上から声を張り上げる。
 ソウルトーチを使ってアースワームの誘導をしていた者達もほとんどが射程外へと避難していた。そんな中で、まだワームを遺跡から離すように引き付けていたイーディス・ノースハイド(ka2106)の姿を見つけて、デスドクロは戦馬を走らせる。
「おい!」
 ワームの間を走り抜け、自分へと手を伸ばしたデスドクロを見て、イーディスは驚いたように目を見張った。
「私なら大丈夫だ、貴方こそ早く避難しなければ……うわぁっ!?」
 問答無用とばかりに馬上へ引き上げられる。
「ごちゃごちゃと煩い! 今から全力で走れば間に合う、行くぞ」
 抵抗することも出来たが、ここでうっかり馬を傷付けたりすれば、それこそ2人揃って命取りになりかねないと瞬時に判断し、とりあえず大人しくデスドクロの前に収まった。
「いや、私が行くとワームが……っ」
 引き付けていたワームが2人へと攻撃を繰り出してきたが、それはイーディスが大盾で受け流し、カウンターで斬り伏せた。
「しゃべるな! 舌を噛んでも知らんぞ」
 「騎乗技術は人並みなんだ」と言いながらデスドクロは愛馬へと“全速力で走れ”と合図を送る。戦馬は瞬時にハンターが多くいる中央方面へと走り出した。
 遺跡から一本の火柱が上がり、再び炎の矢が大地を穿つ。遅れて襲ってきた雪交じりの爆風にイーディスの銀の髪が激しく踊った。
 さらに、もう一本の火柱が上がり、先ほどよりも近くに火矢が降り注ぐのを肌に感じる。轟音とリザードマンかワイバーンかあるいは両方の悲鳴が聞こえる中、デスドクロは振り返らずただ真っ直ぐ前だけを見て、走り抜けた。

「うーん、中々減らないね」
 スコープ越しに見回せば、地表のうっすらと積もっていた雪を『天華改』の衝撃が吹き飛ばし、所々斑に凍てつき結晶化した地面が露出している。惣助はそれでもなおこちらへ向かってくる敵の群れを見て、驚嘆とも諦念とも取れる溜息を吐いた。予想より明らかに敵の数が多い。
「中央に引き付けた方が早そうだね」
 惣助はトランシーバーの送話ボタンを押すと報告を始める。


『次は中央から北2、1! はじめ、行ける?』
 砲撃が終わり、安堵したのもつかの間。すぐに次の指示が来て、はじめは知らず流れ出た額の汗を手の甲で拭った。
「はい、大丈夫です」
 仲間を巻き込んでいないか、きちんと予定の場所に砲撃できているのか、前線で戦う皆は無事なのか。攻勢なのか劣勢なのか。ここからではよく分からない。……わからないからこそ、集中出来ると気持ちを切り替える。
 ノイズ音がトランシーバーから漏れる。
『南條さんのところはいつでも撃てるよ。まず北2で待機しているよ』
「僕も2分後には」
 兵士にリロードをお願いしているので、問題が無ければもう使えるはずだった。
『じゃ、また連絡するよ』

 小夏は砲撃手の2人とつないでいた通信機を置くと、別の通信機で戦場にいる者達へと呼びかけた。
「こちら藤堂。次は中央から北2、1で2分後で行けるよ。また戦況が変わるようなら教えて」
 ジャッ、ザッという音の後に『了解』『うぃっす』『はーい』などの声が重なりながら聞こえる。今回は『天華改』の射程内で戦う者が多い為、トランシーバーでのやり取りは非常に有効だった。だが、逆に言えば、結界に近いところで戦うということでもある。
 双眼鏡を覗けば、結界ギリギリまでリザードマンの侵入を許し、何とか追いかけて撃退する、という様子がそこかしこで見られていた。このスペルランチャー5台をフルに活用出来たなら、さらに有利に戦いを進められたかも知れないが、そんなことを今言っても仕方が無い。
 ふと、頭上が暗くなった事に顔を上げた小夏の目の前にワイバーンが迫っていた。思わず仰け反った小夏だが、飛竜が放った火は結界によって遮られる。直後、頭部より血糊を吹きながら飛竜は結界に沿ってずり落ちていった。
「藤堂殿、怪我は?」
 イズンによるヘッドショットが決まったのだと知り、思わずその場にへたり込みながらも、この場にイズン達帝国兵を配置しておいて良かったと心から思った。

 真水は結界へと攻撃を仕掛けようとするワイバーン達へ止水を付けた左腕をかざす。
「ハルト」
 真水を中心に巨大な時計のような魔方陣が現れると、その時計の針が光の槍となりそれぞれにワイバーンを貫く。それでもまだ失墜しないワイバーン達は炎を吐き、蹴爪を立て結界を破ろうとするが、帝国兵達もそれぞれに銃を構え追撃していく。
「ワイバーンがすり抜けて来ちゃってるね……これはちょっとマズイかも」
 真水は迫り来る飛竜達をぐるぐる眼鏡の奥の瞳で睨み付けながら、かさかさに乾いた唇を噛んだ。


「はぅぅ……しくじりましたですぅ……」
 星野 ハナ(ka5852)はバックの中をガサガサと漁っていた。アムニスをアクセサリーとしてセットしたのは良かった。これのお陰でうっかりと飛んできた火炎弾を瑞鳥符で受ける際に攻撃用の符を使わずに済んだ。お陰で、符を補充すること無く6連続で五色光符陣を使えて、面白いくらいに敵が光にあたふたとする様を見ることが出来たし、何より仲間の助けにもなれた。が。
「うぅ、素直にリロードした方が早いし強かったですねぇ、これ……」
 つまり、携行品で持ってきたものは装備しなおさなければならないので、一手間かかる、という事を失念していたのだ。
 持ち前の幸運のお陰か、空の状態のまま敵と退治する前に嫌な予感に襲われ、少し後ろに下がって確認。やはり実際やってみると、装備し直すより素直に符を補充した方が早い。
「……うぅ、華麗なる12連続発動大作戦がぁ……」
 がっくりと肩を落としたが、すぐに顔を上げて降魔結界へと符を補充する。
「こうなったら、『纏めてババンと撃退大作戦』に変更ですぅ」
 持ち前の豪快……もとい、前向きさで即座に作戦を切り替えると直ぐ様、愛馬のまーちゃんに前線に復帰するよう合図を出したのだった。

「んもぅ、しつこいっ!」
 小鳥遊 時雨(ka4921)は徐々に後退しながらワイバーンへとコールドショットを撃ち込む。
「よし、命中!」
 片方の皮翼を凍り付かせたワイバーンは地に落ち、丁度その場に居合わせた烏丸 涼子(ka5728)とアルスレーテ・フュラー(ka6148)、玉兎 小夜(ka6009)がリザードマン共々巻き込みながら攻撃していく。
 と、そこへ突如割り込む魔導二輪。その運転手こそ(自称)ニンジャキャプタールンルン☆ ことルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)その人である。
「ジュゲームリリカル…ルンルン忍法ニンジャ力! 目覚めて貴方のニンジャパワー」
 ルンルンが口づけて投げた符はその場にいた者達の胸元にぴたりと貼り付くと、そこから大地のマテリアルの流れを取り入れていく。「ありがとう」と一同が口を揃えると、ルンルンは少しだけ得意げに胸を張って、決めポーズを取る。そしてその後、再びまたルンルンは彼女の助けを必要とする現場へと走り出した。
 「戦争なんて柄じゃないけど」そう言っていた涼子だったが、戦場に出ればゴースロンの移動力を活かして押され気味の戦域へと駆けつけていた。何よりひとたび仲間と認めた人間を見捨てられないという彼女の長所にして弱点が、そうさせるのだろう。地に落ちて上手く動けない飛竜のボディへと炎の如き拳を叩き込んでいく。
「何やってんのかしらね……明らかにやばい戦場になんて、私らしくもない」
 そうアルスレーテはぼやきながらも、バチンと畳んだ北斗で飛竜の硬い鱗の奥にある軟らかな肉へと直接ダメージを叩き込むと、ふわりと舞うように距離を取る。
「蜥蜴がうじゃうじゃいるよ……」
 表情の変化の乏しい小夜が珍しく眉根を寄せて不快を示す。
「兎の意地、見せてやんよ! 【朔】からの……【疾風剣】!」
 一度納刀した祢々切丸を素早く引き抜き、一気に間合いを詰めると敵を貫いた。

 そんな仲間と敵の動向を見守る時雨の横には、同じく猟撃士のエルラ(ka6196)が手頃な石を拾い上げていた。
「大丈夫? 無理はしちゃダメだよ」
「はい、すみません」
 エルラはこの作戦に参加すると決めて、銃と弓、どちらにしようかと悩んでいたのは覚えている。そしてまさかそれをどちらも忘れて戦場に来てしまうハメになるとは自分でも思っていなかったのだ。しかも最悪なことに気付いたのは戦場に出てからだった。迂闊にも程がある。他人に武器を借りるわけにもいかず、結局その場にある石にマテリアルを込めてぶつけつつも途方に暮れていた所を時雨に声をかけてもらって、今こうやって徐々に後退しながら結界内へと戻る途中だ。
「……でも、次が最後の攻撃になりそうです」
「ん。オッケー。とりあえず、走るなら今だね!」
 しつこく自分達を追ってきていたリザードマンも討たれたのを確認し、ワイバーンが群れて結界へと突撃してはいるが、逆に言えばそちらに攻撃が集中している今なら地上から遺跡へ戻るところを攻撃しては来ないだろう。
「有り難うございました。……ご武運を」
「うん、ありがと。エルラも気をつけてね!」
 飄々とした口調でそう告げて、走り去るエルラに向かって緩い笑顔を向けていた時雨は、飛竜の鳴き声に顔つきを変える。二本の矢をつがえ、クレスケンスの弦を引き絞り、眇めて狙いを付けて放った。矢は皮翼を貫くものの、器用に体勢を整えた飛竜は時雨に向かって滑空すると大きく口を開いた。
「くはははは! これでもくらえ!」
 その横っ面へ恭牙(ka5762)が気功波を撃ち込み、驚いた飛竜は上空へと舞い戻っていく。
「おぉ、ありがとう、助かったよ」
「なに、礼には及ばぬ」
 恭牙は素っ気なくそう告げると、また別のこちらへと迫り来るリザードマン達を見つけると、嬉しそうに両の口角を釣り上げた。
「さぁ、蜥蜴共よ、皆殺しにしてやろう。我は修羅である! くはは!」
 豪快な足音を立てて笑い去る恭牙。その背を見送りながら時雨はぽそっと呟いた。
「うん、元気、元気」

 高瀬 未悠(ka3199)は焦っていた。囮役としてわざと見えるように龍鉱石を揺らしているのに、アースワームのほとんどが自分に反応を示さない。ワーム達の間を精霊馬で駆け抜けているにもかかわらず、ワーム達は遺跡へと走って行く。
「これ以上は、行かせないわよ!」
 追いかけ、その背にオートMURAMASAを突き立て切り裂いても、意にも介さずワームは脚を止めない。それどころか、その尾肢を振って未悠へと襲いかかった。不意打ちを食らう形となった未悠はバイクから投げ出され地面へと叩き付けられた。
「ぐぅっ……」
 上体を起こし、体勢を整えようとした未悠に別のワームが走り寄ってくる。思わず目を閉じた未悠はワームの間に割り込む蹄の音、そして急速に集められ、一直線に放出されるマテリアルの流れを感じて、そっと目を開けた。
「立てる?」
「えぇ」
 頷いて立ち上がると、少し先に転がった愛車が見える。
「こっちで引き付けるから、その間に立て直して。もうすぐ『天華』が来る」
 「どうやって」と聞こうとして、目を見張る。腰のベルトに括り付けられた5つの大きな龍鉱石。なるほど、引き付ける為に使うにはこのくらいやらなければ足りなかったのかと、未悠は素直に納得した。
「ありがとう、テノール」
 礼に応えるように軽く左手を上げると、テノールは人馬一体となってワームの真横を通り抜けていく。そしてワームは彼の腰にある龍鉱石に惹かれるように向きを変え、追い始めた。
 未悠はすぐにバイクを起こすとフルスロットルでその場を後にした。


 『天華改』が何度も雪肌を吹き飛ばし、この一帯は結晶化したごつごつとした岩肌が完全に露出していた。
 鞍馬 真(ka5819)はソウルトーチでアースワームを引き付けながら戦馬で縦横無尽に走り、道中の邪魔なリザードマンの群れをオートMURAMASAで薙ぎ払い突き進む。
 ネーヴェ=T.K.(ka5479)もソウルトーチで引き付けられるのがワームだけだと気付いてからは、はぐれワームを自分へと引き寄せ、『天華改』の攻撃範囲への誘導に専念していた。ワイバーンが上空に影を作る度に遠距離攻撃が欲しいとグリップを握る手に力がこもる。手が届けば、優先的に倒したいと思っていたのに。
 ネーヴェは自分のオーラが消えた事に気付き、再び纏おうとしたところを真に声を掛けられた。
「あと何回行ける?」
「2回、かな。真は?」
「私はあと1回だ」
 ネーヴェは真に合わせて速度を落としながら、襲いかかってくるリザードマンへ斧形状にしたアックスブレードを振り下ろす。真も穏やかに話しながら自分のオーラに引き寄せられているワームをソウルクラッシュで射抜く。際限無く現れていた敵も最初に比べれば減ってきているように感じた。次の天華は北2と東2、中央だったはず。
「上手く行けば次で掃討戦に移れるだろう。踏ん張り処だな」
「あぁ。じゃぁ、私はもう一度北へ向かおうかな」
「じゃぁ、俺は東から。中央で会おう」
 2人は軽く拳を突き合わせて、互いに背を向けて走り出した。

 アニスとヴァイスは互いに背を預けるように、互いの死角を補い合うように立ち回っていた。リザードマンはヴァイスに取ってはさほど脅威を感じる相手ではないとはいえ、あまりにも数が多い。小さな傷が増え、蓄積する疲労感に今回に限って言えば、薙ぎ払いを中心に持ってきても良かったかもしれないと思えるほど。
 アニスもまた、早々に範囲攻撃を使い切り、肩で息をしながら盾による防御を軸にフラーメ・ルージュで斬り付けていた。その頭上で大きな羽ばたきが聞こえた次の瞬間、視界が暗くなる。
「ワイバーンっ!」
 ホーリーライトを、と思ったが先ほど既に最後の一撃を放ってしまっていた事を思い出す。
(盾を)
 アニスは飛竜の口が大きく開くのを目にして咄嗟に盾を構えようとしたその時、彼女の前によく知る広い背中が立ち塞がった。
「ヴァイスさんっ!」
 アニスの悲鳴じみた絶叫と、飛竜の炎が降り注ぐのはほぼ同時だった。
「アニス、大丈夫か?」
 そこかしこに火傷を負いつつも、ヴァイスはまずアニスへ声を掛けた。
「私は、ヴァイスさんが庇って下さったから……今、回復を」
 アニスが祈りを捧げると僅かながらヴァイスの傷が塞がる。そして再び頭上で飛竜が羽ばたくのを聞き、ヴァイスは彼女の細い肩を押した。
「俺が引き付けている間に」
「何言ってるんですか! わたしは、もう、守りたいものは手放しません」
「アニス……」
 驚いたように自分を見るヴァイスの金の瞳をしっかりと見返してアニスは微笑むと、聖盾を構え、飛竜と対峙する。
「ルンルン忍法三雷神の術!」
 キラキラとした声音と共に突如現れた稲妻が飛竜を撃った。続けざま、別方向から飛んできたマジックアローが飛竜の尾を切り落とす。驚いた飛竜は悲鳴を上げて飛び去っていく。
 呆気にとられた2人の前にそれぞれ別方向から近寄ってきたバイクには、ルキハとルンルンの姿。
「お邪魔だったかしらん?」
 バチン、と音がしそうなウィンクに、アニスは頬を染めて「そんなお邪魔とかそんなありがとうございました」と慌てて噛みながら頭を下げた。
「遺跡の危機も、どんなピンチも、プロカードゲーマーでニンジャな私にお任せです☆」
「あぁ、ルンルンも、助かった」
 きゃるる?ん☆ という効果音が付いてきそうな決めポーズのルンルンに、ヴァイスも煤だらけの顔を綻ばせて礼を告げる。
「さぁ、もう一踏ん張りだ」
 ヴァイスの声に、三者三様に返事をすると同時に、遺跡から二本の火柱が上がった。
 それはそれぞれに北と東に分かれ、火の雨を降らす。遅れて、もう一本。

 これが、北東遺跡防衛部隊が放った最後の天華改だった。

 参加した8割の者が大小傷は負ったが、巧みなフォローと連携の結果、重傷者を一人も出さずに結界を守り抜いたのだった。

担当:葉槻
監修:高石英務
文責:フロンティアワークス

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