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【RH】ハーメルンの笛吹き男・エリュマントス破壊 リプレイ


▼【RH】グランドシナリオシナリオ「ハーメルンの笛吹き男」(5/17~6/07)▼
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作戦2:エリュマントス破壊 リプレイ
- 岩井崎 旭(ka0234)
- ロジャック(ワイバーン)(ka0234unit002)
- 時音 ざくろ(ka1250)
- 八島 陽(ka1442)
- レイオス・アクアウォーカー(ka1990)
- サクラ・エルフリード(ka2598)
- エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)
- 八劒 颯(ka1804)
- Gustav(魔導アーマー量産型)(ka1804unit002)
- レベッカ・アマデーオ(ka1963)
- エステル・ソル(ka3983)
- セレン・コウヅキ(ka0153)
- ルシオ・セレステ(ka0673)
- 森山恭子(kz0216)
- 近衛 惣助(ka0510)
- 真改(魔導型ドミニオン)(ka0510unit002)
- クレール・ディンセルフ(ka0586)
- ヤタガラス(魔導アーマー「ヘイムダル」)(ka0586unit001)
- アイビス・グラス(ka2477)
- ゾファル・G・初火(ka4407)
- ガルちゃん(ガルガリン)(ka4407unit004)
- 不動 シオン(ka5395)
- イスフェリア(ka2088)
- ロニ・カルディス(ka0551)
- テンシ・アガート(ka0589)
- アルスレーテ・フュラー(ka6148)
- レギ(kz0229)
- 氷雨 柊羽(ka6767)
- アウレール・V・ブラオラント(ka2531)
- オルテンシア(ユグディラ)(ka2531unit002)
- ミオレスカ(ka3496)
- 星野 ハナ(ka5852)
- グデちゃん(ユグディラ)(ka5852unit004)
- 藤堂 小夏(ka5489)
- フィロ(ka6966)
- フィルメリア・クリスティア(ka3380)
- マリエル(ka0116)
- SC-H01
- ラミア・マクトゥーム(ka1720)
- レガリア(グリフォン)(ka1720unit003)
- ラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457)
- アシェ?ル(ka2983)
- Uisca Amhran(ka0754)
- トルヴィ・クァス・レスターニャ(ユグディラ)(ka0754unit002)
- 瀬織 怜皇(ka0684)
- 星輝 Amhran(ka0724)
「うへえ……デッカいな!」
「ちょっとアンコウにしてはデカすぎない!!?」
響き渡る地鳴り。何かが潰されるような鈍い音。
巨大潜水艦『エリュマントス』がテムズ川の岸を削り取るようにして進んで来るのが分かる。
その様子に率直な感想を漏らした岩井崎 旭(ka0234)と時音 ざくろ(ka1250)。八島 陽(ka1442)も潜水艦の巨体をじっくりと眺める。
「巨大なアンコウか。あまり趣味がいいとは言えないな」
「同感だ。しかし潜水艦が姿を晒すのかよ。アレが囮じゃないよな?」
「好きで姿を晒している訳ではなさそうですよ。潜ろうにも、川がそこまで深くないのでしょう」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)の疑問に答えるエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)。サクラ・エルフリード(ka2598)もこくりと頷く。
「川沿い削りながら進んでますし、横がつかえてるのかもしれませんよ」
「ちょっと太りすぎですの。ダイエットすればいいですの」
「3枚おろしにすればダイエットの必要もないんじゃないのかい?」
「3枚におろしても食べられないです。美味しくなさそうです!」
八劒 颯(ka1804)とレベッカ・アマデーオ(ka1963)の軽口に真顔で答えたエステル・ソル(ka3983)。
考え込んでいたセレン・コウヅキ(ka0153)がふと口を開く。
「それにしても、あれだけのものをどこから持ち出したのか……背後に大きな組織があるんでしょうか?」
「……それは確かに気になるね。SC-H01が出てきたところを見ると歪虚同士の繋がりはあるんだろうが。強化人間の子供達を利用したのにも何か理由があるのか……」
呟くルシオ・セレステ(ka0673)。
杏やユニスは保護されたと聞いたが、今度は友人に似た歪虚が現れている。
いつまでこんなことが続くのか――。
いや。こんな理不尽や悲しみは終わらせる。その為にも、ここを抑えなくては……。
そんなルシオの気持ちを察したのか、エラが頷く。
「その辺りも調査したいところですが、まずはこの状況を打開しないといけませんね。……では、進軍を開始する前に……森山艦長。最終防衛地点はロンドン・シティ空港で間違いないですね?」
彼女の確認に、通信機から森山恭子(kz0216)の声が返ってくる。
「こちら森山ザマス。その認識で間違いないザマス。先に進むほど川はどんどん狭くなっていくザマス」
「……あの巨体で狭くなっていく川を無理矢理遡るのか? となると、周辺のモノをぶっ潰しながら進むことになるな」
近衛 惣助(ka0510)の吐き捨てるような呟き。聞こえていたのか、恭子の甲高い声が続く。
「惣助さんの言う通りザマス。潜水艦が進めば進む程被害が広がるザマス。何としても空港の手前で止めるザマスよ!」
「了解しました。それでは総員、戦闘配置についてください」
静かなエラの声。あちこちからCAMの起動音が聞こえて来る。
「こちらクレール。ヤタガラス、システムオールグリーン。いつでも行けます!」
「こちらアイビス。コンフェッサー準備OKよ」
「……目標、巨大潜水艦。進軍を開始します。皆さんご武運を」
クレール・ディンセルフ(ka0586)とアイビス・グラス(ka2477)の通信に応えるように敬礼をしたエラ。
彼女の号令に合わせて、ハンター達が一斉に動き出す。
「アロー、アロー、キコエマスカー……なんてな」
一応念のため、と。巨大潜水艦に向かって通信を試みる仙石 春樹(ka6003)。
案の定反応は返って来ない。突入までに潜水艦の気を引ければ最良。
返事が返って来たらそれはそれでラッキーという程度だったので気にしない。
「じゃあ予定通りの仕事をしますかねえ」
「イヤッホー! 俺様ちゃんが一番槍いただきじゃん!!」
ライフルを構える春樹の叫びと共にかっ飛んで行ったゾファル・G・初火(ka4407)の濃紺のガルガリン。
フライトシステムで文字通り空を飛んで突っ込んできた『喧嘩上等』とデカデカと塗られた機体は歪虚CAMや強化人間達が操るコンフェッサーの目を引いたらしい。
彼女の愛機『ガルちゃん』を目指して集まって来る。
「はっはー! キタキター!! 死にたい奴も死にたくない奴も俺様ちゃんがやっつけてやるじゃん!!」
次にエリュマントスの甲板に舞い降りたのは不動 シオン(ka5395)だった。
「ふむ。あやつもなかなかやるな。これは負けていられんぞ、神威」
イェジドに声をかけるシオン。槍を水平に構えた途端、イェジドに前進の指示を出す。
風のように走り出すイェジド。その背の上で、彼女は唇の端をあげて笑う。
「これだけ巨大で頑丈な潜水艦だ、護衛など要るまい? お前達の盾、全て剥がしてくれようぞ。さあ、生臭坊主。ゲーム開始と行こうじゃないか……!」
「こちらエラ。クレールさん、調査結果をお願いします」
「こちらクレール! ちょっと待って! 接続する場所がない!!」
続いて甲板に着地したクレール。彼女が真っ先に始めたのは、機導の徒を使用した潜水艦のアナライズだった。
機械であれば、採れる情報は必ずある。
誘爆で艦に穴が開く位置、マテリアル砲のエネルギー経路が分かればと思ったのだが――。
内部に侵入していれば結果は違ったかもしれないが、ここは甲板だ。
クレールが持っている機材と接続する端子がそもそも見つからない。
機導の徒も万能ではない。あくまでも『目的の情報を探しやすくする』程度のものだ。
そもそも接続が出来なければ解析は出来ない……ということになる。
「……解析は難しそうですね。クレールさん、作戦2に移行してください」
「分かった! くやしいいいいいいいいいいい!!」
聞こえたエラの指示。クレールの咆哮が甲板に響く。
「いい作戦だと思ったんだがな……」
「そうだね。仕方ないよね」
肩を落とすレイオスを宥めるイスフェリア(ka2088)。
彼はゴーレムを甲板から潜水艦に向かって落とし、激突させる案を恭子に相談したが、残念ながらいい返事は貰えなかった。
ラスモネ・シャングリラがエリュマントスに接近するのは最初にハンター達を降ろす時。
その後は後方からの射撃による支援となる。
初動でゴーレムを落下させれば仲間達に激突しかねない為、実行の際には機会を見て再び近づかなければならない。
――巨大な戦艦であるラスモネ・シャングリラは標的になりやすい。
迂闊に近づいて、対空VOID砲やガトリングKZキャノン、アンチマテリアル砲に撃たれたとあっては作戦の成否に影響する事態となる。
その危険がなくなった頃にゴーレムを落としても意味はないだろう。
それが、恭子の下した判断だった。
「まあ、気落ちしてても仕方ねえ。出来ることをやるだけだな」
「うん。ゴーレム、すごく遠くまで攻撃届くしやれること沢山あるよ」
「だな! よし! ドラング、連続装填! 皆を支援するぞ!」
「Volcaniusもお願い!」
レイオスとイスフェリアの声に応えるように動き出す2機の刻令ゴーレム。
巨体から飛び出す砲撃が甲板の上に煙を巻き起こす。
その煙に視界を塞がれたか、動きが乱れる敵性CAM。
目標を探しているコンフェッサーに、ネット状のマテリアルが絡みつく。
「捕獲成功、と。……大人しくしてて頂戴。生身と違って加減なんかできないから」
コンフェッサーカスタムの中にいるであろう強化人間に向けて声をかけるアイビス。
新しく入手したコンフェッサーの初陣がこんなことになるなんて思いもしなかった。
いきなりの修羅場。上等だ。やれることをやるだけよ……!
「あーっ! アイビスちゃんそれ俺様ちゃんの獲物じゃん!!?」
「あら。ごめんなさいね。他当たってくれる?」
聞こえてきたゾファルの抗議にコンフェッサーカスタムを抑えつけながら言うアイビス。
マテリアルネットに囚われている上にアイビスの筋力に勝てる訳がない……いや、正確に言えばコンフェッサーの筋力か。
彼女は敵性CAMの腕をへし折って無効化を試みる。
「ゾファルさん! 新手来てるっすよ!!」
「お! よっしゃー! 次じゃんー!」
援護射撃をする春樹の声に再び飛んで行くゾファルのガルちゃん。
その近くで、レベッカの黒と濃紺の魔導型デュミナスが敵性CAMを薙ぎ払っていた。
「……アンタ達に恨みは無いけどさ。越えちゃいけない一線ってあるだろ?」
呟く彼女。
そう、強化人間達は慈恵院という歪虚に操られ、凶行に走った。
一方から見れば被害者だと言うのは理解している。
だが、力のない者から見たらどうか。
力を持つものは、それに対する責任を負わねばならない。そう思う。だから……。
――漆黒の鎌を振う様がまるで死神のようだ。
レベッカは迷わず、強化人間も歪虚も問わず……死へと導く。
再び上がった煙幕。
セレンはラズモネ・シャングリラの甲板の上から、ライフルのスコープ越しに戦場を見つめていた。
銃撃にバランスを崩す歪虚CAM。感じる手応え。
次にコンフェッサーに目標を移す。
……強化人間達の事情はどうあれ、戦場に立ったという事は覚悟は出来ている筈だ。
手心は加えまい。迷えば、力を持たぬ者達に被害が及ぶ――。
ライフルの引き金に手をかける彼女。
ふと視界に入った動くモノ。煙の向こう。潜水艦の上のVOID砲の砲身がゆっくり動いているのに気づいた。
「こちらセレン。エリュマントスのVOID砲に動きがあります。注意してください」
「こちらエラ。了解しました。ざくろさん。砲身動いてます。気を付けてください」
「こちらざくろ! 動いてるのはこちらからも確認出来てる!」
「どこを狙っているか分かりますか?」
「……方角的にラズモネ・シャングリラだ! 気を付けるように森山艦長へ伝えて!」
「了解しました」
エラとの通信を切ったざくろ。彼のアルカディアの肩先をガトリングKZキャノンの砲撃が掠めて行く。
どうやら狙いは自分ではないらしい。
改めてVOID砲を見ると、ワイバーンに騎乗した旭がガトリングKZキャノンを何発か食らいつつも一心不乱に攻撃を仕掛けていた。
「こいつ撃たれる前に何とかしたい! アンチマテリアル砲もやべーけど、こいつが街に当たっても大惨事だぞ!」
「分かってる! それにしても硬いよねこれ……!!」
「くっそ! ここ奥さんの故郷なんだよ! まだ挨拶も観光もしてねーのに壊されてたまるかーーー!!」
「えっ。そうだったの!? 奥さんの故郷は大事だよね! ざくろも協力するよ!!」
旭の叫びに俄然力が入るざくろ。
彼にも最愛の奥さんが沢山いる。とても他人事とは思えない。
そして今回は奥さんである颯とサクラが一緒だ。カッコいいところを見せないと……!
R7エクスシアの操縦桿を握る手に力が入る。
「貫け!! アルカディアビーム!!」
その頃、惣助と陽、エステルとクレールは巨大なアンコウの口と頭の部分に取り付けられた砲身……アンチマテリアルキャノンとアンコウの提灯のような部分を調べていた。
陽が試した機導の徒はクレールと同じ理由で判別がつかなかったが、目視での確認は可能だし、色々試すことはある。
「それでは、行くです……!」
「エステルちゃん、気を付けてね」
クレールの声にこくりと頷くエステル。星の輝きを纏い、火球を放つ。
アンチマテリアルキャノンに叩き込まれる爆炎――。
4人はまじまじと砲身を見つめる。
「……火球が弾かれた様子はなかった、よね」
「ああ。シールドは展開されていないと見ていいのかな」
「傷がついたようにも見えんがな」
クレールと陽、惣助の呟きにしょんぼりとするエステル。
この攻撃は自分のスキルの中でも渾身と言えるものだったのに、傷もついていないなんて……!
彼女と陽は通信機を手にすると通信を始める。
「こちらエステルです! アンチマテリアルキャノンにシールドはないみたいです」
「こちら陽。シールドはないがとんでもない硬さだぞこいつは」
「こちらエラです。エンドレスも結構な硬さでしたし、想定の範囲内ですね」
「いくら硬くても金属! 殴ればいつかは壊れる! 引き続き攻撃を……」
「待て。何の音だ?」
エラとクレールの通信を遮る惣助の声。
次の瞬間、聞こえる地鳴りのような音。砲身からヒュオオオオオ……と空気の流れる音がする。
「……! すごい音です……! エネルギーの集約が始まったです!」
「エラ! エネルギーの充填が終わる前にこいつをへし折る!! 援護頼む!」
「了解しました。森山艦長にも連絡を取ります。お待ちください」
エステルと陽の報告に淡々と返すエラ。惣助の黒鉄色の魔導型ドミニオンが波動銃を構える。
「発射までにかなりの時間がかかるというのは分かっているが……早いに越したことはないな。よし、エステルは後方に下がって支援を頼む! 陽、クレール! 撃って撃って撃ちまくれ!」
「はいです!」
「OK! やるぜ!!」
「了解! ヤタガラス、全力で砲撃します!」
「みんな、突入口はこっちなの!」
「ここは私達が食い止めます。皆さんは先に進んで下さい」
内部突入班を先導する颯とサクラ。彼女達の案内と、外部班が上手いこと敵性存在の攻撃を引き付けてくれたことでこれと言った難はなく突入口に到達することが出来ていた。
「恩に着る。颯もサクラもくれぐれも無理はするなよ」
「分かってるですの! 中からどーんとやっちゃってくださいですの!」
「ご武運をお祈りしています」
颯とサクラに手を振り返すロニ・カルディス(ka0551)。
次々と突入していく仲間達を見送って、颯がため息をつく。
「一山乗り越えたですの!」
「そうですね。でも本番はこれからですよ。皆さんが戻られるまで、ここを維持しなくては……」
「はいですの! はやてにおまかせですの!」
「頼りにしていますよ」
にこにこと笑い合う颯とサクラ。そこに敵性CAMが引き寄せられるように近づいて来る。
「早速来たですのー! ここは通さないですの! 電撃どりるお見舞いしてやるですの!」
「あまりこちらの邪魔をしないで戴きたいのですが……無理でしょうか。仕方ありませんね。この槍がただの槍だと思わない事です……」
巨大なドリルを担ぐ颯の魔導アーマー。そしてランスカノンを構えたサクラのオファニムが近づいてくる敵を掃射する――。
潜水艦の内部は思ったより広く、CAMが通れるほどに広い通路が多数存在していた。
ここなら確かに、多数の強化人間達やコンフェッサーカスタムを収容できる。
彼らが忽然と姿を消したのも、なかなか見つからなかったのも、海中にいたからだったのかもしれない――。
「……歪虚が作ったっていう割に随分中身は近代的だね」
「こんなところに子供達を閉じ込めておくなんてあんまり趣味良いとは言えないけど」
周囲をきょろきょろと見渡すテンシ・アガート(ka0589)に続いた氷雨 柊羽(ka6767)。アルスレーテ・フュラー(ka6148)はレギ(kz0229)の顔をちらりと見る。
「レギ。念のために聞くけどこの場所に見覚えは?」
「いいえ。ないですね」
「そう。じゃあもう1つ。ここの構造から大体の全体構造の予測がつかない?」
「うーん……僕も軍人になってから日が浅いんですが。潜水艦とかって効率考えると大体構造は似て来るものなんじゃないですかね」
「そうだな。それはその通りだが、これだけのものを動かすのにはそれなりの動力が要る筈だ。どういった動力を積んでいるのか……」
「そこは歪虚らしく負のマテリアルでも使ってるんじゃない?」
考え込むロニに淡々と答えるアルスレーテ。アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が顔を顰める。
「……どうかしました?」
「いや、何でもない」
ミオレスカ(ka3496)の問いかけに首を振るアウレール。
理由は分からない。……だが何か、とても嫌な……胸糞悪い予感がする。
外れてくれればいいのだが――。
そこに、星野 ハナ(ka5852)ののんびりとした声が聞こえて来た。
「ここに来る前に、エンジンとかシールド発生装置とかの場所を占ってみたんですけどぉ」
「何か分かったの?」
「……良く分からなかったですぅ。多分後方かなーって感じですぅ」
藤堂 小夏(ka5489)の声に肩を落とす彼女。
『失せもの探し』という形で占ってしまったことがそもそも方向性が間違えてしまっていたとも言える。
ハナの持ち物、かつ重要なものであればそれで見つかったかもしれないが。潜水艦の動力源などは『失せもの』とは違うからだ。
適当な場所を示さなかっただけ、彼女の占いは優秀だと言えたのかもしれない。
「まあ当たるも八卦当たらぬも八卦と言いますしぃ! 当たればラッキー的な感じですしぃ!」
「元々後方はシールドがあるし、目指すつもりだったからいいんじゃないかな」
ハナの調子に笑いをかみ殺すテンシ。ロニは仲間達を見渡して続ける。
「いいか。敵とは極力交戦するな。ひたすら動力部を目指せ」
「強化人間に遭遇した場合はどうします?」
「……対応は各員に任せる」
フィロ(ka6966)の言葉に、少し考えてから答えたロニ。
この件に関しては、何が正しいとは言えない。
助けるのか。倒すのか――それぞれに、譲れないものがある筈だから。
「了解したわ。それぞれの最善を尽くしましょう」
淡い青のデュミナスを駆り、前進するフィルメリア・クリスティア(ka3380)。
それが、侵攻作戦開始の合図となった。
潜水艦の奥を目指すハンター達。その存在に気付いたのはテンシだった。
「待って。何かいる……!」
「回避できそうですか?」
「回避できると思ってるんですか?」
「……!」
マリエル(ka0116)の声に反応する人物。
通路の先。立ち塞がる赤毛の青年はにこやかな笑みを侵入者達に向けた。
「いらっしゃい。ようこそエリュマントスへ。遅いからもう来ないのかと思いましたよ」
「SC-H01……!」
「イェルズさん……!?」
その姿に燃えるような目線を向けるラミア・マクトゥーム(ka1720)。今にも飛びかかりそうな彼女を慌てて制止するマリエル。
反して驚愕の表情のレギに、アルスレーテは頭を抱える。
「そっか。レギはこいつ見たことなかったんだっけ……」
「アルスレーテさん、どういうことですか!? 何でイェルズさんがここに……!?」
「レギ、落ち着いて。あいつはイェルズに似た別物。歪虚よ」
「そんなまさか……! だってそっくりじゃないですか……!」
「説明は後。とはいえ、私も説明できるほど詳しい訳じゃないんだけど」
アルスレーテは慌てるレギを宥めながら仲間達を振り返る。
「ここは私達が引き受けるわ。皆は先に向かって。レギもね」
「でも……!」
「そんなに動揺していて、あいつと戦える? ……分かったら、先に行きなさい」
「……分かった。何かあったらすぐ連絡して! 皆、行こう!」
アルスレーテの確認するような声に無言を返すレギ。
彼女に頷き返して、テンシとハンター達が奥へと走っていく。
「行きなさい! レギ! 早く!」
赤毛の歪虚を見据えたまま声をかけるアルスレーテ。暫く迷う様子を見せていたレギは頷くと、仲間達を追って行き……。
ハンター達を追う様子が見られないSC-H01に、柊羽が首を傾げる。
「ねえ、追いかけなくていいのか? 君はここの防衛を任されてるんだろう?」
「ん? 俺、防衛任されてたんですか?」
「は? どういうこと?」
「いやぁ、好きにしていていいって言われてるんで……別に追いかけなくてもいいかなって。君達が遊んでくれるんでしょう? 俺、丁度退屈してたんですよねー」
「あぁ……。あんた歪虚にしては面倒臭いタイプね」
その返答に面食らう柊羽。アルスレーテはため息をつく。
近くにいれば寒気がする程の負のマテリアルを撒き散らしているのに。赤毛の歪虚の反応は妙に無邪気で――余計に不気味だ。
次の瞬間、ぶおんという風を切る音。
柊羽とSC-H01の間を斬り割くようにラミアの戦槌が振るわれる。
「避けるなバカ!!」
「やあ。君か。また会いましたね」
「お前はここで倒す……!」
「そんな怖い顔したら可愛い顔が台無しですよ」
「うるさい! 喋るな!!」
「ラミア、ダメよ……!」
「姉さん……! でも、こいつは許せない! 許す訳にはいかないんだ!!」
手を差し出し、制止するラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457)に怒りに満ちた目を向けるラミア。
――妹が感情的になるのも分かる。大切な人と同じ姿の歪虚が現れて、冷静でいられる訳がない。
でも、それでも……。
「ラミア、落ち着いて聞いて。勝利を目指す、否定する……。その為には……識らないと。私達は……まだ彼の出自しか、知らないのに」
ラウィーヤの声にハッとするラミア。
その出自すら、『シュレティンガーに作られた歪虚』ということしか分からない。
何故、イェルズと同じ姿をしているのか。
確かにそれを知らなければ、また同じようなことが起きるかもしれないのだ。
目を伏せるラミア。その様子から、口には出さないが、謝罪の意思が見て取れて……ラウィーヤは彼女の肩を叩く。
「……あれ? もう終わりですか? つまんないなー。じゃあ、こっちから行きますね……!」
「ラミアさん! 避けて!」
マリエルの叫びと、SC-H01の武骨な大剣が横凪ぎに振るわれたのはほぼ同時。
ラミアは飛びずさると攻撃をパリィグローブで受け流す。
「あれ。両断出来たと思ったのにな。残念」
「この……!」
重い一撃に顔を顰めるラミア。
受け流したはずなのに、腕が痺れている。
バランスを崩した彼女を、ラウィーヤが咄嗟に支える。
「姉さん、この歪虚……」
「上位歪虚並みの力があるみたいね。ラミア、大丈夫?」
「平気。それよりあいつのことを聞きださなきゃ……!」
咄嗟に体勢を立て直すラミア。アルスレーテがくいくい、と手招きをする。
「遊んで欲しいんでしょう? いいわ、お姉さんが遊んであげる」
「嬉しいなぁ! それじゃ遠慮なく……!」
「させるか……!」
アルスレーテに向けて笑顔で大剣を振り下ろすSC-H01。柊羽が剣に向けて妨害射撃を放つ。
「お姉さんのご要望に応えただけなのに酷いなあ」
「えっと……遊ぶ、というのは戦うことだけじゃないんじゃないかしら」
「ええ、他にも遊ぶ方法はあると思いますよ?」
「えー。何して遊ぶんです?」
「お話する……というのはどうでしょう」
「そうそう。お話。楽しいですよ!」
ラウィーヤとマリエルの提案に考え込むSC-H01。構えていた大剣を肩に担いで、首を傾げる。
「一体何の話をするんです?」
「……あんた、一体何が目的なのさ」
「俺の目的? うーん。それはシュレティンガー様次第ってとこですねえ」
ラミアの単刀直入な質問にあっけらかんと答えるSC-H01。
シュレティンガーが作り出した歪虚なのであれば、彼の命令で動くというのはまあ当然のことか……。
柊羽は矢を番えたまま、用心深く口を開く。
「どうしてその姿を取ってるのか興味が湧くんだけど……教えてくれないかな」
「どうしてでしょうね? シュレティンガー様は『容姿の設定をしなかったら、素体の姿を再現した』って言ってたかな」
「素体……?」
「そう。シュレティンガー様が手に入れたハンターの素体です。俺はそれを元に作られたんですよ。……素体の正体は、君達の方が良く知ってるんじゃないですか?」
にこやかに答える歪虚に、息を飲むラウィーヤ。
要するに。イェルズの身体の一部を元にして作られた複製品、ということか。
姿も声も同じである理由も頷ける。
そこまで素直に答えていた赤毛の歪虚は、不意に大剣を振り回して壁を削る。
「……あんた何やってんの!?」
「……やっぱり、お話はつまらないですよ。俺、世界を無に還したいんですよね。皆さんも無に還って戴いてもいいですか?」
目を見開くラミアに酷く無邪気に言うSC-H01。やはり戦いは避けられないか……。
ハンター達は武器を構え、注意深く間合いを詰める。
その頃、甲板ではVOID砲とガトリングKZキャノン、アンチマテリアルキャノンの破壊活動が続いていた。
「こちら陽! シールドはまだ破壊されないのか!?」
「こちらエステルです。シールド破壊のお知らせ来てません! まだみたいです! クレールさん、惣助さんご無事ですか!?」
「こちらクレール! まだまだいけるわよー!」
「惣助だ! 破壊活動続行中! エネルギー充填が続いてるぞ! 急げ!!」
そして旭は、ひたすらVOID砲に取り付き続けた結果、何発か直撃を喰らっていた。
「旭、VOID砲を受けるなんて無茶にも程があるよ!」
「だってこれが一発でも街に当たったら大変なことになるぞ! 俺と俺のワイバーンの身で守れるなら安いもんだ!!」
ざくろのツッコミに頭から血を流しながらビシッと親指を立てる旭。
ワイバーンによるレイン・オブ・ライトで砲台にダメージは入ったが、目くらましは出来なかった。
砲撃の方角を変えようと思ったら、力ずくでやるしかない。さもなくば、根本からへし折るかだ。
「ざくろー! 俺がぶっ倒れる前にこいつ壊してくれ!」
「分かった! ざくろのアルカディアの本気を見せてあげるからね!!」
「もー! どこから湧いて出るんだこの敵はー!!」
「まあ、ある意味敵の本拠地ですから、ここ……」
キレ気味に叫ぶ小夏に、でっかい冷や汗を流すミオレスカ。
彼女達とフィルメリアは、仲間達を奥へと進ませる為に、広い通路で敵の足止めを試みていた。
奥へ進んだからか、CAMに搭乗していない強化人間達が出現するようになったからだ。
強化人間の少年少女自体、無効化するのは難しくはない。
が、歪虚CAMやコンフェッサーカスタムと同時に現れられると面倒な事態となる。
小夏とミオレスカは生身の強化人間を、ユニットに騎乗しているフィルメリアが歪虚CAMやコンフェッサーカスタムを引き受けるという分業をこなしていた。
「小夏さん! 後ろ!」
「おおっと! 私の背中を取ろうなんて100年早いぞ少年!」
不意に現れた強化人間に短い叫びをあげたミオレスカ。小夏は器用に反転すると、少年の鳩尾に鋭い一撃を入れる。
「……今、すごくいい音しましたけど」
「大丈夫。峰打ちでござる。生きてる生きてる」
「後で運び出して、手当てしてあげませんとね」
「そだね。私が言うのも何だけどさ。やっぱ子供が死ぬのって、良くないと思う」
小夏の言葉に、こくりと頷くミオレスカ。
彼らの出自や背景は良く知らない。
それでも……ハンターとして、守れる命はは守りたい。そう思う。
フィルメリアもまた、懸命に歪虚CAMを倒し、コンフェッサーカスタムの無力化に努めていた。
――正直、歪虚CAM同様に撃破した方が楽だし簡単ではある。
だが、中に強化人間がいると分かっている以上……それがアスガルドの子供達である以上、フィルメリアはどうしても、彼らの命を諦めることが出来なかった。
新手の気配がして振り返った彼女。視界の端に、見覚えのある姿を捉える。
「ニーナ……?」
呟くフィルメリア。そうだ。あの子はアスガルドで会った、最年少の少女だ。
甘えん坊で、自分の胸に縋りついて離れなかったことを思い出す。
まさか、こんなところで会うなんて……!
淡い青のCAMに怯える少女。逃げ出そうとする彼女にフィルメリアは操縦席から身を乗り出して慌てて声をかける。
「ニーナ! 待って!」
「だあれ? 先生……?」
「私よ。フィルメリアよ。分かる……?」
「……フィルメリアまま? ままどこ? こわくて、沢山走って……足が痛いの……」
「ここにいるわ。もう大丈夫よ。お家に帰りましょうね」
そっと少女に近づくフィルメリア。しきりに『まま』を探して手を伸ばす少女を捕まえる。
ニーナの目の焦点が合っていない。
――この子も、呪法の影響を受けているのか。
「フィルメリアさん、この子お知り合いですか?」
「ええ。アスガルドで会ったことがあるの」
「そっか……。あのさ。強化人間の子達、大分増えちゃったんだけど……このままだと救助しようにも運び出すのが大変だよね」
「救命艇を寄越して貰うようにお願いしましょうか。ちょっと通信してみますね」
「ええ、お願い」
ミオレスカと小夏に頷き返すフィルメリア。
怯えるニーナを、ただただ抱きしめ続ける。
「おい、ゾファル。お前ボロボロじゃねーか! 手当受けろ!」
「何言ってるじゃん!? 俺様ちゃんまだまだこれからじゃん! そういうレイオスちゃんこそズタボロじゃん!!?」」
「俺は平気だっつーの」
「いいからお前達下がって手当を受けて来い」
「「一番ボロボロの奴がなに言ってる!」じゃん!!」
「なーに。怪我をしてからが本番だぞ?」
レイオスとゾファルのツッコミを受け流すシオン。
レイオスはラズモネ・シャングリラを狙う攻撃を一部引き受け続けていた為、そしてゾファルとシオンは気が赴くままに敵を叩きたいだけ叩き、天然陽動として働き続けていた為、見るも無残な姿になっていた。
ハッキリ言って、立って動いているのが不思議な状況と言っていい。
そんな3人を見て、イスフェリアは盛大にため息をつく。
「私の戦いを邪魔しないでもらおうか」
「3人が手当してる間くらい、俺とアイビスさんとレベッカさんで何とかできるっすから!」
「もっと戦いたいなら早く治療受けて来なさいな。その身体じゃ十分に動けないわよ」
「ああ、満身創痍なお前達より、元気なあたし達の方が動けるからなぁ」
春樹とアイビス、レベッカが駆るユニットの鮮やかな動きに3人が光の速さでやって来る。
「そうだなあ。あと1、2発食らってもいいようにしとくかね」
「早く治療して欲しいじゃん! もっと敵倒すじゃん!」
「私の獲物を横取りさせる訳にはいかん」
素直に治療を受けてくれるのはいいけれど、その理由はどうなんだろう。
イスフェリアはでっかい冷や汗を流す。
その頃、ロニとテンシ、アウレールはひたすら奥を目指して進んでいた。
「まだ奥には辿りつかないのか?」
「これだけの大きさだからね……って、うおあ!?」
ロニと話しながら歩くテンシ。何かにぶつかって転びかける。
「いたたた……すみませーん」
「いやいや、こっちこそごめん。前見てなかった」
ぺこぺこと頭を下げ合うアシェ?ル(ka2983)とテンシ。ロニが目を丸くする。
「アシェールじゃないか。お前今までどこにいたんだ?」
「え。そりゃもう真っ先に真っ直ぐに最奥目指してました! 元引きこもりとしては最奥大好きなので!!」
「……ここにいると言うことは、最奥には辿りついていないんだな?」
「えへへ……。結構広くて迷っちゃって……」
「よく敵に襲われなかったな……」
「あ、1人だと意外と見つからないんですよ! 隠れる場所も多いですし! さっきUiscaさん達ともすれ違いましたよ!」
アウレールのツッコミにてへぺろするアシェール。続いた言葉に、ロニがふむ、と考え込む。
「彼女達も別ルートで最奥を目指していた筈だな。ということはもう少しか」
「……急ごう」
アウレールの言葉に頷く仲間達。時間をかけるのは得策ではない。ひたすら奥へと走る。
「……聞こえるかい?」
「……あ、あ……」
「もう大丈夫だ。今助ける。そこでじっとしていなさい」
手足を折られ、動けなくなったコンフェッサーカスタムの操縦席を覗き込み、声をかけるルシオ。
彼女は敵性CAMの露払いをしながら、強化人間達を助ける為に撃墜されたコンフェッサーカスタムを出来る範囲で見て回っていた。
――中には既に事切れているパイロットもいた。
あまりにも残酷な光景に目を覆いたくなるけれど。
それでも。1人でも生きている可能性があるのなら。子供達を助けてやりたい。
その一心で、彼女はコンフェッサーの操縦席をこじ開ける。
「レオーネ。この子を救命艇に運んでくれるかい。歪虚CAMに気を付けるんだよ」
主の声に短く鳴いて答えたイェジド。強化人間を背に乗せて、隙間を縫うように進んで行く。
――甘いのかもしれない。それでも。私は……。
ルシオは、彼女の信念を胸に。救護活動を続ける。
「ないない! ないですよぅ!!」
「困りましたね。手記の1つでもあればと思ったんですが……」
潜水艦の中にある客室を回り、手あたり次第に探るハナとフィロ。
この中で子供達が調整されていたなら、洗脳を解く鍵もここにあるのではないか。
先にそれを見つけないと洗脳が解けないかもしれない……。
そう考えた2人は、洗脳解除に役立ちそうな情報を探し回っていたのだ。
客室は、子供達が暮らしていたとは思えないくらい生活感がなく、機械的で何も置かれていない。
洗脳状態に置かれた子供達が人間らしい生活をしていたかと言われれば確かに疑問なのであるが……。
そもそも資料や手記と言ったものは、技術や情報を誰かに伝達する為に残すものだ。
もし、子供達の洗脳方法が慈恵院独自のもので、誰にも伝える気がないのだとしたら――資料などある筈もない。
洗脳方法も、解除方法も全て慈恵院の頭の中、ということになる。
「あの坊主生け捕りにしてって言っても間に合わないですよねぇ」
「今まさに交戦中でしょうからね……」
「とにかく! ここまで来たからには強化人間の子供達を捕獲して連れ帰りたいと思いますぅ!」
「その行動指針に賛成です。私も子供達も、この中で一緒に爆散したくありませんから。1人でも多く無効化して連れ出しましょう」
頷き合うハナとフィロ。強化人間の子供達を捕獲するべく2人は走り出す。
一体どのくらい走り続けたであろうか。
ハンター達は遂にエリュマントスの最奥まで到達した。
――そして、そこにあったものは、想像を絶するおぞましいものだった。
「……な、何ですかこれ」
「嫌な予感が当たったか……。当たって欲しくはなかったのだが」
わなわなと震えるアシェールに、ため息をつくアウレール。
――立ち並ぶ大きなガラスの筒。培養液に入れられた強化人間の子供達。
それがいくつもいくつも無数に並べられ……それらが全てコードに繋げられ、1つに集められていた。
「……何で? 何でこんなことになってるんだ? どうして……!?」
「レギさん、落ち着いて!」
自分達の後輩の無残な姿に混乱を来すレギ。そんな彼を、テンシが必死に押さえる。
その光景を呆然と見ていたロニがようやく口を開いた。
「……これが、動力源なのか?」
「恐らくな。強化人間達の生命エネルギーを使っているのだろうが、この数では潜水艦を動かすまでには至らない。シールドの動力と見て間違いないだろう」
「そんな……! じゃあ、シールドを壊そうと思ったら……」
――この子達を、殺さなくてはならないのか。
最後まで言葉が続かないアシェール。
アウレールはつかつかと歩み寄ると、強化人間達が繋がれているコードの束を手にする。
「……私がやろう。エネルギーの供給が止まったら、動力部を叩いてくれ」
「でも……」
「いいんだ。誰かがやらなくてはならない。幸い、私はこういうのに慣れているからね」
人類史は弱者救済の試みの歴史。弱者と知りつつ救うのは人だけだ。
より多き、弱きの為に文明はある。
その筈なのに……弱きものたちは天秤にかけられることがある。
そうだ。数十、数百の命は……百万都市より軽い。
大切であるはずの命は、より多くの命の為に捨てられる。
――その矛盾を、私は知っている。
迷えば更に多くが死ぬ。だから……。
「シールドの動力源が強化人間であったことは、作戦終了まで機密事項とする。……この事実を知っては、潜水艦を攻撃できぬ者が出てきてもおかしくない」
「……了解。君の案に従おう」
きっぱりと断じたアウレールに頷くロニ。
彼の決意に、アシェールは唇を噛む。
落ち着きを取り戻したレギは、テンシに頭を下げた。
「すみません、僕……取り乱したりして」
「……仲間がこんな目に遭ってるんだ。ショックを受けて当然だよ。辛かったら俺達に任せて、外で待っててもいいんだよ」
「……いいえ、残ります。これを見届けて。森山艦長に報告するのが僕の仕事ですから」
「そっか。……辛かったら言って。すぐ外に連絡入れるから」
「……テンシ、レギ。始めるぞ」
「はーい。いつでもどうぞ」
「……彼らの為に祈ってやってくれ」
呟くアウレール。目を閉じ、胸に手をやって頭を垂れた彼。
剣を一気に抜き放つと、強化人間達の命が繋がっているコードを一気に両断する――!
「これより、動力部を攻撃します。――来たれ雷撃! 迅雷!!」
アウレールの一閃で光が消えた機器類。
それらに向けて一直線に伸びる雷撃。
飛び散る火花。アシェールの目から、ぽろりと涙が零れた。
Uisca Amhran(ka0754)達が大分奥へと進んだ頃。ゴウン、という地響きと火花が散った。
「姉さん、レオ。今の音なんでしょう?」
「恐らくシールドが解除されたんじゃないでしょうか」
「何と。先を越されたかのう。残念じゃ」
瀬織 怜皇(ka0684)の言葉にむぅ、と唸る星輝 Amhran(ka0724)。
ふと立ち止まって、2人を見る。
「ところで、レオ。イスカ」
「何です?」
「どうしました? 姉さん」
「これ、何じゃろうの」
「「………」」
星輝が指差す先に見えるは巨大な黒い球体。
何だかやけに寒気を感じる。これは負のマテリアルだろうか……?
怜皇は機導の徒を使って調べ始める。
「何か分かったかえ?」
「えーと……。ちょっと調べがつかないんですが……この負のマテリアルの集まり方を見るに、アンチマテリアルキャノンのエネルギー充填装置である可能性が高いですね」
「わあ。第二目標発見! さすが姉さん!」
「ふははは! 任せろ!」
「早速止めちゃいましょ! レオの知識じゃ止められそうにない?」
「そこまでハッキングするには機材が足りないですね」
「じゃ、壊すとするかの」
「そうですね!!」
にこやかに言うUiscaの頭上に現れる無数の闇色の龍牙や龍爪。それらは黒い球体を串刺しにして……そして続く星輝と怜皇の猛攻が続き……。
内部から動力源とも呼べる場所に打撃を与えられた潜水艦は、徐々に崩壊し始めていた。
「……あら。動力、壊されちゃったみたいよ」
「どうする? まだやるの?」
周囲の異変を察知したアルスレーテと柊羽。SC-H01はあっさり剣を収めると、再びにこやかな笑顔を浮かべる。
「時間切れみたいですね。そろそろ撤退します。遊んで戴いてありがとうございました」
「偽物だって分かってるけどやっぱムカつく!! もう出てくんなバーカ!!」
がるるると吼えるラミアを再び制止するラウィーヤ。あの……と小声で切り出す。
「……貴方の名前は……?」
「名前? 俺の名前はSC-H01ですけど」
「それは、名前ではなくて……出自を示す記号ではないんですか?」
「そうなんですか? もしそうなら、名前はないってことになるのかな。別に記号でも構いませんけどね」
――与えられたのは自分を示す記号だけ。
それを『可哀想だ』と思うのは、何かが違うのかもしれないけれど……。
「ああ。ごめんなさい。名前を聞いておいて名乗っていませんでしたね。私はメネル傭兵隊のラウィーヤ・マクトゥームです」
「……姉さん!?」
「ラウィーヤさん、か。覚えておきますね。それじゃ、また会いましょう」
ひらひらと手を振るSC-H01。彼は以前と同じように、忽然と姿を消した。
そして、エラの元にはシールドが破壊された報せが届いていた。
「こちらエラ。皆さんに通達します。動力部を守るシールドが破壊されました。皆さん、総攻撃をお願いします」
「こちらざくろ! 了解! 大至急向かうよ!」
「春樹っす! 俺も向かうっす! セレンさんも届く限り狙撃してくれるそうっす!」
「こちらレベッカ。メインシャフトの破壊に移行する」
「こちらアイビス! 後方をとにかくぶち壊せばいいのよね! 任せといて!」
高速で潜水艦の後方へ向かう仲間達。そこに通信音が響き渡った。
「こちら陽! ヤバいぞ! アンチマテリアルキャノンが発射されそうだ! 総員退避!! 衝撃に備えろ!!」
「アンコウの提灯壊したのに何でです……!?」
陽の鋭い声。エステルの困惑した様子に、エラの通信が続く。
「エネルギー充填とは関係ない機関だったのでしょうね。アンテナという可能性がありますから、アンチマテリアルキャノンの軌道が外れる可能性はあります」
「くそ……! やりたくは無かったが市民の命には代えられん!」
叫ぶ惣助。言うなり、アンチマテリアルキャノンの発射口に取り付く。
「惣助さん!? 無茶です!!」
「この地球で、お前達の好きにはさせん!」
エステルの悲鳴に近い声。発射口から溢れる血のような赤――それはどんどん膨れ上がり、惣助を弾き飛ばして……急速に萎み、放たれた細い光線が虚空へ消えた。
「……何だ今の」
あんぐりと口を開ける陽。そこにエラからの通信が入った。
「こちらエラです。Uiscaさんより入電。アンチマテリアルキャノンのエネルギー供給機関を破壊したとのことです」
「……それでこの威力か……。フルパワーだったら消し炭だったな」
「惣助さんしっかりしてくださいです! イスフェリアさんー! ルシオさんー! 怪我人ですーーー!!」
ずるりと崩れ落ちる惣助。エステルの叫びに、イスフェリアとルシオが駆けつけて来た。
「皆さん大丈夫ですの!?」
「お出口こちらですよ!」
艦の外側で待機し、出口を確保していた颯とサクラ。
現れたフィルメリアとそのCAMが傷だらけであることに気付いて慌てて近づく。
「フィルメリアさん、大丈夫ですの!?」
「傷だらけじゃないですか……! 早く救護艇に行きましょう。」
「私は大丈夫。それより子供達をお願い」
2人を制止し、腕を差し出すフィルメリア。
そこには複数の強化人間が抱えられていた。
更に子供を抱えたハナやフィロ、ミオレスカに千夏も戻って来る。
そこに救命ボートを限界まで荷台に積んだクレールがやって来た。
「お待たせしました! これに乗せて脱出させます!」
「動けない子供も、動ける子供もまだ残ってるですぅ!」
「早く、引きずってでも連れて来ないと……!」
後方で起きる爆発。ハナとフィロの言葉に颯もサクラも戦慄する。
「急がないと……! このままじゃ潜水艦と心中ですの!」
「動ける子供達の洗脳は解けていないんですか!?」
「……ええ。まだ戦いを続けようとしているわ」
「……! どうして? 慈恵院は倒したのに……!」
「分からないわ。でも考えている時間はない。極力助けたいの」
フィルメリアの哀し気な呟きに目を見開くクレール。
再び聞こえた爆発。クレールは潜水艦に向かって叫んだ。
「もうやめて! これ以上戦わなくていいの! お願い逃げてーーー!!」
悲痛な願い。
――それでも怒号や悲鳴は止むことはなく。
「……私は君達の命を背負おう。それが私の役目だ。……せめて、安らかに眠れ」
崩れゆく潜水艦を見つめて呟くアウレール。
エリュマントスから湧き上がる炎。黒い煙をあげて、崩れて行く。
巨大な潜水艦は、沢山の強化人間達を抱えたまま。炎を撒き散らして四散した。
「ちょっとアンコウにしてはデカすぎない!!?」
響き渡る地鳴り。何かが潰されるような鈍い音。
巨大潜水艦『エリュマントス』がテムズ川の岸を削り取るようにして進んで来るのが分かる。
その様子に率直な感想を漏らした岩井崎 旭(ka0234)と時音 ざくろ(ka1250)。八島 陽(ka1442)も潜水艦の巨体をじっくりと眺める。
「巨大なアンコウか。あまり趣味がいいとは言えないな」
「同感だ。しかし潜水艦が姿を晒すのかよ。アレが囮じゃないよな?」
「好きで姿を晒している訳ではなさそうですよ。潜ろうにも、川がそこまで深くないのでしょう」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)の疑問に答えるエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)。サクラ・エルフリード(ka2598)もこくりと頷く。
「川沿い削りながら進んでますし、横がつかえてるのかもしれませんよ」
「ちょっと太りすぎですの。ダイエットすればいいですの」
「3枚おろしにすればダイエットの必要もないんじゃないのかい?」
「3枚におろしても食べられないです。美味しくなさそうです!」
八劒 颯(ka1804)とレベッカ・アマデーオ(ka1963)の軽口に真顔で答えたエステル・ソル(ka3983)。
考え込んでいたセレン・コウヅキ(ka0153)がふと口を開く。
「それにしても、あれだけのものをどこから持ち出したのか……背後に大きな組織があるんでしょうか?」
「……それは確かに気になるね。SC-H01が出てきたところを見ると歪虚同士の繋がりはあるんだろうが。強化人間の子供達を利用したのにも何か理由があるのか……」
呟くルシオ・セレステ(ka0673)。
杏やユニスは保護されたと聞いたが、今度は友人に似た歪虚が現れている。
いつまでこんなことが続くのか――。
いや。こんな理不尽や悲しみは終わらせる。その為にも、ここを抑えなくては……。
そんなルシオの気持ちを察したのか、エラが頷く。
「その辺りも調査したいところですが、まずはこの状況を打開しないといけませんね。……では、進軍を開始する前に……森山艦長。最終防衛地点はロンドン・シティ空港で間違いないですね?」
彼女の確認に、通信機から森山恭子(kz0216)の声が返ってくる。
「こちら森山ザマス。その認識で間違いないザマス。先に進むほど川はどんどん狭くなっていくザマス」
「……あの巨体で狭くなっていく川を無理矢理遡るのか? となると、周辺のモノをぶっ潰しながら進むことになるな」
近衛 惣助(ka0510)の吐き捨てるような呟き。聞こえていたのか、恭子の甲高い声が続く。
「惣助さんの言う通りザマス。潜水艦が進めば進む程被害が広がるザマス。何としても空港の手前で止めるザマスよ!」
「了解しました。それでは総員、戦闘配置についてください」
静かなエラの声。あちこちからCAMの起動音が聞こえて来る。
「こちらクレール。ヤタガラス、システムオールグリーン。いつでも行けます!」
「こちらアイビス。コンフェッサー準備OKよ」
「……目標、巨大潜水艦。進軍を開始します。皆さんご武運を」
クレール・ディンセルフ(ka0586)とアイビス・グラス(ka2477)の通信に応えるように敬礼をしたエラ。
彼女の号令に合わせて、ハンター達が一斉に動き出す。
「アロー、アロー、キコエマスカー……なんてな」
一応念のため、と。巨大潜水艦に向かって通信を試みる仙石 春樹(ka6003)。
案の定反応は返って来ない。突入までに潜水艦の気を引ければ最良。
返事が返って来たらそれはそれでラッキーという程度だったので気にしない。
「じゃあ予定通りの仕事をしますかねえ」
「イヤッホー! 俺様ちゃんが一番槍いただきじゃん!!」
ライフルを構える春樹の叫びと共にかっ飛んで行ったゾファル・G・初火(ka4407)の濃紺のガルガリン。
フライトシステムで文字通り空を飛んで突っ込んできた『喧嘩上等』とデカデカと塗られた機体は歪虚CAMや強化人間達が操るコンフェッサーの目を引いたらしい。
彼女の愛機『ガルちゃん』を目指して集まって来る。
「はっはー! キタキター!! 死にたい奴も死にたくない奴も俺様ちゃんがやっつけてやるじゃん!!」
次にエリュマントスの甲板に舞い降りたのは不動 シオン(ka5395)だった。
「ふむ。あやつもなかなかやるな。これは負けていられんぞ、神威」
イェジドに声をかけるシオン。槍を水平に構えた途端、イェジドに前進の指示を出す。
風のように走り出すイェジド。その背の上で、彼女は唇の端をあげて笑う。
「これだけ巨大で頑丈な潜水艦だ、護衛など要るまい? お前達の盾、全て剥がしてくれようぞ。さあ、生臭坊主。ゲーム開始と行こうじゃないか……!」
「こちらエラ。クレールさん、調査結果をお願いします」
「こちらクレール! ちょっと待って! 接続する場所がない!!」
続いて甲板に着地したクレール。彼女が真っ先に始めたのは、機導の徒を使用した潜水艦のアナライズだった。
機械であれば、採れる情報は必ずある。
誘爆で艦に穴が開く位置、マテリアル砲のエネルギー経路が分かればと思ったのだが――。
内部に侵入していれば結果は違ったかもしれないが、ここは甲板だ。
クレールが持っている機材と接続する端子がそもそも見つからない。
機導の徒も万能ではない。あくまでも『目的の情報を探しやすくする』程度のものだ。
そもそも接続が出来なければ解析は出来ない……ということになる。
「……解析は難しそうですね。クレールさん、作戦2に移行してください」
「分かった! くやしいいいいいいいいいいい!!」
聞こえたエラの指示。クレールの咆哮が甲板に響く。
「いい作戦だと思ったんだがな……」
「そうだね。仕方ないよね」
肩を落とすレイオスを宥めるイスフェリア(ka2088)。
彼はゴーレムを甲板から潜水艦に向かって落とし、激突させる案を恭子に相談したが、残念ながらいい返事は貰えなかった。
ラスモネ・シャングリラがエリュマントスに接近するのは最初にハンター達を降ろす時。
その後は後方からの射撃による支援となる。
初動でゴーレムを落下させれば仲間達に激突しかねない為、実行の際には機会を見て再び近づかなければならない。
――巨大な戦艦であるラスモネ・シャングリラは標的になりやすい。
迂闊に近づいて、対空VOID砲やガトリングKZキャノン、アンチマテリアル砲に撃たれたとあっては作戦の成否に影響する事態となる。
その危険がなくなった頃にゴーレムを落としても意味はないだろう。
それが、恭子の下した判断だった。
「まあ、気落ちしてても仕方ねえ。出来ることをやるだけだな」
「うん。ゴーレム、すごく遠くまで攻撃届くしやれること沢山あるよ」
「だな! よし! ドラング、連続装填! 皆を支援するぞ!」
「Volcaniusもお願い!」
レイオスとイスフェリアの声に応えるように動き出す2機の刻令ゴーレム。
巨体から飛び出す砲撃が甲板の上に煙を巻き起こす。
その煙に視界を塞がれたか、動きが乱れる敵性CAM。
目標を探しているコンフェッサーに、ネット状のマテリアルが絡みつく。
「捕獲成功、と。……大人しくしてて頂戴。生身と違って加減なんかできないから」
コンフェッサーカスタムの中にいるであろう強化人間に向けて声をかけるアイビス。
新しく入手したコンフェッサーの初陣がこんなことになるなんて思いもしなかった。
いきなりの修羅場。上等だ。やれることをやるだけよ……!
「あーっ! アイビスちゃんそれ俺様ちゃんの獲物じゃん!!?」
「あら。ごめんなさいね。他当たってくれる?」
聞こえてきたゾファルの抗議にコンフェッサーカスタムを抑えつけながら言うアイビス。
マテリアルネットに囚われている上にアイビスの筋力に勝てる訳がない……いや、正確に言えばコンフェッサーの筋力か。
彼女は敵性CAMの腕をへし折って無効化を試みる。
「ゾファルさん! 新手来てるっすよ!!」
「お! よっしゃー! 次じゃんー!」
援護射撃をする春樹の声に再び飛んで行くゾファルのガルちゃん。
その近くで、レベッカの黒と濃紺の魔導型デュミナスが敵性CAMを薙ぎ払っていた。
「……アンタ達に恨みは無いけどさ。越えちゃいけない一線ってあるだろ?」
呟く彼女。
そう、強化人間達は慈恵院という歪虚に操られ、凶行に走った。
一方から見れば被害者だと言うのは理解している。
だが、力のない者から見たらどうか。
力を持つものは、それに対する責任を負わねばならない。そう思う。だから……。
――漆黒の鎌を振う様がまるで死神のようだ。
レベッカは迷わず、強化人間も歪虚も問わず……死へと導く。
再び上がった煙幕。
セレンはラズモネ・シャングリラの甲板の上から、ライフルのスコープ越しに戦場を見つめていた。
銃撃にバランスを崩す歪虚CAM。感じる手応え。
次にコンフェッサーに目標を移す。
……強化人間達の事情はどうあれ、戦場に立ったという事は覚悟は出来ている筈だ。
手心は加えまい。迷えば、力を持たぬ者達に被害が及ぶ――。
ライフルの引き金に手をかける彼女。
ふと視界に入った動くモノ。煙の向こう。潜水艦の上のVOID砲の砲身がゆっくり動いているのに気づいた。
「こちらセレン。エリュマントスのVOID砲に動きがあります。注意してください」
「こちらエラ。了解しました。ざくろさん。砲身動いてます。気を付けてください」
「こちらざくろ! 動いてるのはこちらからも確認出来てる!」
「どこを狙っているか分かりますか?」
「……方角的にラズモネ・シャングリラだ! 気を付けるように森山艦長へ伝えて!」
「了解しました」
エラとの通信を切ったざくろ。彼のアルカディアの肩先をガトリングKZキャノンの砲撃が掠めて行く。
どうやら狙いは自分ではないらしい。
改めてVOID砲を見ると、ワイバーンに騎乗した旭がガトリングKZキャノンを何発か食らいつつも一心不乱に攻撃を仕掛けていた。
「こいつ撃たれる前に何とかしたい! アンチマテリアル砲もやべーけど、こいつが街に当たっても大惨事だぞ!」
「分かってる! それにしても硬いよねこれ……!!」
「くっそ! ここ奥さんの故郷なんだよ! まだ挨拶も観光もしてねーのに壊されてたまるかーーー!!」
「えっ。そうだったの!? 奥さんの故郷は大事だよね! ざくろも協力するよ!!」
旭の叫びに俄然力が入るざくろ。
彼にも最愛の奥さんが沢山いる。とても他人事とは思えない。
そして今回は奥さんである颯とサクラが一緒だ。カッコいいところを見せないと……!
R7エクスシアの操縦桿を握る手に力が入る。
「貫け!! アルカディアビーム!!」
その頃、惣助と陽、エステルとクレールは巨大なアンコウの口と頭の部分に取り付けられた砲身……アンチマテリアルキャノンとアンコウの提灯のような部分を調べていた。
陽が試した機導の徒はクレールと同じ理由で判別がつかなかったが、目視での確認は可能だし、色々試すことはある。
「それでは、行くです……!」
「エステルちゃん、気を付けてね」
クレールの声にこくりと頷くエステル。星の輝きを纏い、火球を放つ。
アンチマテリアルキャノンに叩き込まれる爆炎――。
4人はまじまじと砲身を見つめる。
「……火球が弾かれた様子はなかった、よね」
「ああ。シールドは展開されていないと見ていいのかな」
「傷がついたようにも見えんがな」
クレールと陽、惣助の呟きにしょんぼりとするエステル。
この攻撃は自分のスキルの中でも渾身と言えるものだったのに、傷もついていないなんて……!
彼女と陽は通信機を手にすると通信を始める。
「こちらエステルです! アンチマテリアルキャノンにシールドはないみたいです」
「こちら陽。シールドはないがとんでもない硬さだぞこいつは」
「こちらエラです。エンドレスも結構な硬さでしたし、想定の範囲内ですね」
「いくら硬くても金属! 殴ればいつかは壊れる! 引き続き攻撃を……」
「待て。何の音だ?」
エラとクレールの通信を遮る惣助の声。
次の瞬間、聞こえる地鳴りのような音。砲身からヒュオオオオオ……と空気の流れる音がする。
「……! すごい音です……! エネルギーの集約が始まったです!」
「エラ! エネルギーの充填が終わる前にこいつをへし折る!! 援護頼む!」
「了解しました。森山艦長にも連絡を取ります。お待ちください」
エステルと陽の報告に淡々と返すエラ。惣助の黒鉄色の魔導型ドミニオンが波動銃を構える。
「発射までにかなりの時間がかかるというのは分かっているが……早いに越したことはないな。よし、エステルは後方に下がって支援を頼む! 陽、クレール! 撃って撃って撃ちまくれ!」
「はいです!」
「OK! やるぜ!!」
「了解! ヤタガラス、全力で砲撃します!」
「みんな、突入口はこっちなの!」
「ここは私達が食い止めます。皆さんは先に進んで下さい」
内部突入班を先導する颯とサクラ。彼女達の案内と、外部班が上手いこと敵性存在の攻撃を引き付けてくれたことでこれと言った難はなく突入口に到達することが出来ていた。
「恩に着る。颯もサクラもくれぐれも無理はするなよ」
「分かってるですの! 中からどーんとやっちゃってくださいですの!」
「ご武運をお祈りしています」
颯とサクラに手を振り返すロニ・カルディス(ka0551)。
次々と突入していく仲間達を見送って、颯がため息をつく。
「一山乗り越えたですの!」
「そうですね。でも本番はこれからですよ。皆さんが戻られるまで、ここを維持しなくては……」
「はいですの! はやてにおまかせですの!」
「頼りにしていますよ」
にこにこと笑い合う颯とサクラ。そこに敵性CAMが引き寄せられるように近づいて来る。
「早速来たですのー! ここは通さないですの! 電撃どりるお見舞いしてやるですの!」
「あまりこちらの邪魔をしないで戴きたいのですが……無理でしょうか。仕方ありませんね。この槍がただの槍だと思わない事です……」
巨大なドリルを担ぐ颯の魔導アーマー。そしてランスカノンを構えたサクラのオファニムが近づいてくる敵を掃射する――。
潜水艦の内部は思ったより広く、CAMが通れるほどに広い通路が多数存在していた。
ここなら確かに、多数の強化人間達やコンフェッサーカスタムを収容できる。
彼らが忽然と姿を消したのも、なかなか見つからなかったのも、海中にいたからだったのかもしれない――。
「……歪虚が作ったっていう割に随分中身は近代的だね」
「こんなところに子供達を閉じ込めておくなんてあんまり趣味良いとは言えないけど」
周囲をきょろきょろと見渡すテンシ・アガート(ka0589)に続いた氷雨 柊羽(ka6767)。アルスレーテ・フュラー(ka6148)はレギ(kz0229)の顔をちらりと見る。
「レギ。念のために聞くけどこの場所に見覚えは?」
「いいえ。ないですね」
「そう。じゃあもう1つ。ここの構造から大体の全体構造の予測がつかない?」
「うーん……僕も軍人になってから日が浅いんですが。潜水艦とかって効率考えると大体構造は似て来るものなんじゃないですかね」
「そうだな。それはその通りだが、これだけのものを動かすのにはそれなりの動力が要る筈だ。どういった動力を積んでいるのか……」
「そこは歪虚らしく負のマテリアルでも使ってるんじゃない?」
考え込むロニに淡々と答えるアルスレーテ。アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が顔を顰める。
「……どうかしました?」
「いや、何でもない」
ミオレスカ(ka3496)の問いかけに首を振るアウレール。
理由は分からない。……だが何か、とても嫌な……胸糞悪い予感がする。
外れてくれればいいのだが――。
そこに、星野 ハナ(ka5852)ののんびりとした声が聞こえて来た。
「ここに来る前に、エンジンとかシールド発生装置とかの場所を占ってみたんですけどぉ」
「何か分かったの?」
「……良く分からなかったですぅ。多分後方かなーって感じですぅ」
藤堂 小夏(ka5489)の声に肩を落とす彼女。
『失せもの探し』という形で占ってしまったことがそもそも方向性が間違えてしまっていたとも言える。
ハナの持ち物、かつ重要なものであればそれで見つかったかもしれないが。潜水艦の動力源などは『失せもの』とは違うからだ。
適当な場所を示さなかっただけ、彼女の占いは優秀だと言えたのかもしれない。
「まあ当たるも八卦当たらぬも八卦と言いますしぃ! 当たればラッキー的な感じですしぃ!」
「元々後方はシールドがあるし、目指すつもりだったからいいんじゃないかな」
ハナの調子に笑いをかみ殺すテンシ。ロニは仲間達を見渡して続ける。
「いいか。敵とは極力交戦するな。ひたすら動力部を目指せ」
「強化人間に遭遇した場合はどうします?」
「……対応は各員に任せる」
フィロ(ka6966)の言葉に、少し考えてから答えたロニ。
この件に関しては、何が正しいとは言えない。
助けるのか。倒すのか――それぞれに、譲れないものがある筈だから。
「了解したわ。それぞれの最善を尽くしましょう」
淡い青のデュミナスを駆り、前進するフィルメリア・クリスティア(ka3380)。
それが、侵攻作戦開始の合図となった。
潜水艦の奥を目指すハンター達。その存在に気付いたのはテンシだった。
「待って。何かいる……!」
「回避できそうですか?」
「回避できると思ってるんですか?」
「……!」
マリエル(ka0116)の声に反応する人物。
通路の先。立ち塞がる赤毛の青年はにこやかな笑みを侵入者達に向けた。
「いらっしゃい。ようこそエリュマントスへ。遅いからもう来ないのかと思いましたよ」
「SC-H01……!」
「イェルズさん……!?」
その姿に燃えるような目線を向けるラミア・マクトゥーム(ka1720)。今にも飛びかかりそうな彼女を慌てて制止するマリエル。
反して驚愕の表情のレギに、アルスレーテは頭を抱える。
「そっか。レギはこいつ見たことなかったんだっけ……」
「アルスレーテさん、どういうことですか!? 何でイェルズさんがここに……!?」
「レギ、落ち着いて。あいつはイェルズに似た別物。歪虚よ」
「そんなまさか……! だってそっくりじゃないですか……!」
「説明は後。とはいえ、私も説明できるほど詳しい訳じゃないんだけど」
アルスレーテは慌てるレギを宥めながら仲間達を振り返る。
「ここは私達が引き受けるわ。皆は先に向かって。レギもね」
「でも……!」
「そんなに動揺していて、あいつと戦える? ……分かったら、先に行きなさい」
「……分かった。何かあったらすぐ連絡して! 皆、行こう!」
アルスレーテの確認するような声に無言を返すレギ。
彼女に頷き返して、テンシとハンター達が奥へと走っていく。
「行きなさい! レギ! 早く!」
赤毛の歪虚を見据えたまま声をかけるアルスレーテ。暫く迷う様子を見せていたレギは頷くと、仲間達を追って行き……。
ハンター達を追う様子が見られないSC-H01に、柊羽が首を傾げる。
「ねえ、追いかけなくていいのか? 君はここの防衛を任されてるんだろう?」
「ん? 俺、防衛任されてたんですか?」
「は? どういうこと?」
「いやぁ、好きにしていていいって言われてるんで……別に追いかけなくてもいいかなって。君達が遊んでくれるんでしょう? 俺、丁度退屈してたんですよねー」
「あぁ……。あんた歪虚にしては面倒臭いタイプね」
その返答に面食らう柊羽。アルスレーテはため息をつく。
近くにいれば寒気がする程の負のマテリアルを撒き散らしているのに。赤毛の歪虚の反応は妙に無邪気で――余計に不気味だ。
次の瞬間、ぶおんという風を切る音。
柊羽とSC-H01の間を斬り割くようにラミアの戦槌が振るわれる。
「避けるなバカ!!」
「やあ。君か。また会いましたね」
「お前はここで倒す……!」
「そんな怖い顔したら可愛い顔が台無しですよ」
「うるさい! 喋るな!!」
「ラミア、ダメよ……!」
「姉さん……! でも、こいつは許せない! 許す訳にはいかないんだ!!」
手を差し出し、制止するラウィーヤ・マクトゥーム(ka0457)に怒りに満ちた目を向けるラミア。
――妹が感情的になるのも分かる。大切な人と同じ姿の歪虚が現れて、冷静でいられる訳がない。
でも、それでも……。
「ラミア、落ち着いて聞いて。勝利を目指す、否定する……。その為には……識らないと。私達は……まだ彼の出自しか、知らないのに」
ラウィーヤの声にハッとするラミア。
その出自すら、『シュレティンガーに作られた歪虚』ということしか分からない。
何故、イェルズと同じ姿をしているのか。
確かにそれを知らなければ、また同じようなことが起きるかもしれないのだ。
目を伏せるラミア。その様子から、口には出さないが、謝罪の意思が見て取れて……ラウィーヤは彼女の肩を叩く。
「……あれ? もう終わりですか? つまんないなー。じゃあ、こっちから行きますね……!」
「ラミアさん! 避けて!」
マリエルの叫びと、SC-H01の武骨な大剣が横凪ぎに振るわれたのはほぼ同時。
ラミアは飛びずさると攻撃をパリィグローブで受け流す。
「あれ。両断出来たと思ったのにな。残念」
「この……!」
重い一撃に顔を顰めるラミア。
受け流したはずなのに、腕が痺れている。
バランスを崩した彼女を、ラウィーヤが咄嗟に支える。
「姉さん、この歪虚……」
「上位歪虚並みの力があるみたいね。ラミア、大丈夫?」
「平気。それよりあいつのことを聞きださなきゃ……!」
咄嗟に体勢を立て直すラミア。アルスレーテがくいくい、と手招きをする。
「遊んで欲しいんでしょう? いいわ、お姉さんが遊んであげる」
「嬉しいなぁ! それじゃ遠慮なく……!」
「させるか……!」
アルスレーテに向けて笑顔で大剣を振り下ろすSC-H01。柊羽が剣に向けて妨害射撃を放つ。
「お姉さんのご要望に応えただけなのに酷いなあ」
「えっと……遊ぶ、というのは戦うことだけじゃないんじゃないかしら」
「ええ、他にも遊ぶ方法はあると思いますよ?」
「えー。何して遊ぶんです?」
「お話する……というのはどうでしょう」
「そうそう。お話。楽しいですよ!」
ラウィーヤとマリエルの提案に考え込むSC-H01。構えていた大剣を肩に担いで、首を傾げる。
「一体何の話をするんです?」
「……あんた、一体何が目的なのさ」
「俺の目的? うーん。それはシュレティンガー様次第ってとこですねえ」
ラミアの単刀直入な質問にあっけらかんと答えるSC-H01。
シュレティンガーが作り出した歪虚なのであれば、彼の命令で動くというのはまあ当然のことか……。
柊羽は矢を番えたまま、用心深く口を開く。
「どうしてその姿を取ってるのか興味が湧くんだけど……教えてくれないかな」
「どうしてでしょうね? シュレティンガー様は『容姿の設定をしなかったら、素体の姿を再現した』って言ってたかな」
「素体……?」
「そう。シュレティンガー様が手に入れたハンターの素体です。俺はそれを元に作られたんですよ。……素体の正体は、君達の方が良く知ってるんじゃないですか?」
にこやかに答える歪虚に、息を飲むラウィーヤ。
要するに。イェルズの身体の一部を元にして作られた複製品、ということか。
姿も声も同じである理由も頷ける。
そこまで素直に答えていた赤毛の歪虚は、不意に大剣を振り回して壁を削る。
「……あんた何やってんの!?」
「……やっぱり、お話はつまらないですよ。俺、世界を無に還したいんですよね。皆さんも無に還って戴いてもいいですか?」
目を見開くラミアに酷く無邪気に言うSC-H01。やはり戦いは避けられないか……。
ハンター達は武器を構え、注意深く間合いを詰める。
その頃、甲板ではVOID砲とガトリングKZキャノン、アンチマテリアルキャノンの破壊活動が続いていた。
「こちら陽! シールドはまだ破壊されないのか!?」
「こちらエステルです。シールド破壊のお知らせ来てません! まだみたいです! クレールさん、惣助さんご無事ですか!?」
「こちらクレール! まだまだいけるわよー!」
「惣助だ! 破壊活動続行中! エネルギー充填が続いてるぞ! 急げ!!」
そして旭は、ひたすらVOID砲に取り付き続けた結果、何発か直撃を喰らっていた。
「旭、VOID砲を受けるなんて無茶にも程があるよ!」
「だってこれが一発でも街に当たったら大変なことになるぞ! 俺と俺のワイバーンの身で守れるなら安いもんだ!!」
ざくろのツッコミに頭から血を流しながらビシッと親指を立てる旭。
ワイバーンによるレイン・オブ・ライトで砲台にダメージは入ったが、目くらましは出来なかった。
砲撃の方角を変えようと思ったら、力ずくでやるしかない。さもなくば、根本からへし折るかだ。
「ざくろー! 俺がぶっ倒れる前にこいつ壊してくれ!」
「分かった! ざくろのアルカディアの本気を見せてあげるからね!!」
「もー! どこから湧いて出るんだこの敵はー!!」
「まあ、ある意味敵の本拠地ですから、ここ……」
キレ気味に叫ぶ小夏に、でっかい冷や汗を流すミオレスカ。
彼女達とフィルメリアは、仲間達を奥へと進ませる為に、広い通路で敵の足止めを試みていた。
奥へ進んだからか、CAMに搭乗していない強化人間達が出現するようになったからだ。
強化人間の少年少女自体、無効化するのは難しくはない。
が、歪虚CAMやコンフェッサーカスタムと同時に現れられると面倒な事態となる。
小夏とミオレスカは生身の強化人間を、ユニットに騎乗しているフィルメリアが歪虚CAMやコンフェッサーカスタムを引き受けるという分業をこなしていた。
「小夏さん! 後ろ!」
「おおっと! 私の背中を取ろうなんて100年早いぞ少年!」
不意に現れた強化人間に短い叫びをあげたミオレスカ。小夏は器用に反転すると、少年の鳩尾に鋭い一撃を入れる。
「……今、すごくいい音しましたけど」
「大丈夫。峰打ちでござる。生きてる生きてる」
「後で運び出して、手当てしてあげませんとね」
「そだね。私が言うのも何だけどさ。やっぱ子供が死ぬのって、良くないと思う」
小夏の言葉に、こくりと頷くミオレスカ。
彼らの出自や背景は良く知らない。
それでも……ハンターとして、守れる命はは守りたい。そう思う。
フィルメリアもまた、懸命に歪虚CAMを倒し、コンフェッサーカスタムの無力化に努めていた。
――正直、歪虚CAM同様に撃破した方が楽だし簡単ではある。
だが、中に強化人間がいると分かっている以上……それがアスガルドの子供達である以上、フィルメリアはどうしても、彼らの命を諦めることが出来なかった。
新手の気配がして振り返った彼女。視界の端に、見覚えのある姿を捉える。
「ニーナ……?」
呟くフィルメリア。そうだ。あの子はアスガルドで会った、最年少の少女だ。
甘えん坊で、自分の胸に縋りついて離れなかったことを思い出す。
まさか、こんなところで会うなんて……!
淡い青のCAMに怯える少女。逃げ出そうとする彼女にフィルメリアは操縦席から身を乗り出して慌てて声をかける。
「ニーナ! 待って!」
「だあれ? 先生……?」
「私よ。フィルメリアよ。分かる……?」
「……フィルメリアまま? ままどこ? こわくて、沢山走って……足が痛いの……」
「ここにいるわ。もう大丈夫よ。お家に帰りましょうね」
そっと少女に近づくフィルメリア。しきりに『まま』を探して手を伸ばす少女を捕まえる。
ニーナの目の焦点が合っていない。
――この子も、呪法の影響を受けているのか。
「フィルメリアさん、この子お知り合いですか?」
「ええ。アスガルドで会ったことがあるの」
「そっか……。あのさ。強化人間の子達、大分増えちゃったんだけど……このままだと救助しようにも運び出すのが大変だよね」
「救命艇を寄越して貰うようにお願いしましょうか。ちょっと通信してみますね」
「ええ、お願い」
ミオレスカと小夏に頷き返すフィルメリア。
怯えるニーナを、ただただ抱きしめ続ける。
「おい、ゾファル。お前ボロボロじゃねーか! 手当受けろ!」
「何言ってるじゃん!? 俺様ちゃんまだまだこれからじゃん! そういうレイオスちゃんこそズタボロじゃん!!?」」
「俺は平気だっつーの」
「いいからお前達下がって手当を受けて来い」
「「一番ボロボロの奴がなに言ってる!」じゃん!!」
「なーに。怪我をしてからが本番だぞ?」
レイオスとゾファルのツッコミを受け流すシオン。
レイオスはラズモネ・シャングリラを狙う攻撃を一部引き受け続けていた為、そしてゾファルとシオンは気が赴くままに敵を叩きたいだけ叩き、天然陽動として働き続けていた為、見るも無残な姿になっていた。
ハッキリ言って、立って動いているのが不思議な状況と言っていい。
そんな3人を見て、イスフェリアは盛大にため息をつく。
「私の戦いを邪魔しないでもらおうか」
「3人が手当してる間くらい、俺とアイビスさんとレベッカさんで何とかできるっすから!」
「もっと戦いたいなら早く治療受けて来なさいな。その身体じゃ十分に動けないわよ」
「ああ、満身創痍なお前達より、元気なあたし達の方が動けるからなぁ」
春樹とアイビス、レベッカが駆るユニットの鮮やかな動きに3人が光の速さでやって来る。
「そうだなあ。あと1、2発食らってもいいようにしとくかね」
「早く治療して欲しいじゃん! もっと敵倒すじゃん!」
「私の獲物を横取りさせる訳にはいかん」
素直に治療を受けてくれるのはいいけれど、その理由はどうなんだろう。
イスフェリアはでっかい冷や汗を流す。
その頃、ロニとテンシ、アウレールはひたすら奥を目指して進んでいた。
「まだ奥には辿りつかないのか?」
「これだけの大きさだからね……って、うおあ!?」
ロニと話しながら歩くテンシ。何かにぶつかって転びかける。
「いたたた……すみませーん」
「いやいや、こっちこそごめん。前見てなかった」
ぺこぺこと頭を下げ合うアシェ?ル(ka2983)とテンシ。ロニが目を丸くする。
「アシェールじゃないか。お前今までどこにいたんだ?」
「え。そりゃもう真っ先に真っ直ぐに最奥目指してました! 元引きこもりとしては最奥大好きなので!!」
「……ここにいると言うことは、最奥には辿りついていないんだな?」
「えへへ……。結構広くて迷っちゃって……」
「よく敵に襲われなかったな……」
「あ、1人だと意外と見つからないんですよ! 隠れる場所も多いですし! さっきUiscaさん達ともすれ違いましたよ!」
アウレールのツッコミにてへぺろするアシェール。続いた言葉に、ロニがふむ、と考え込む。
「彼女達も別ルートで最奥を目指していた筈だな。ということはもう少しか」
「……急ごう」
アウレールの言葉に頷く仲間達。時間をかけるのは得策ではない。ひたすら奥へと走る。
「……聞こえるかい?」
「……あ、あ……」
「もう大丈夫だ。今助ける。そこでじっとしていなさい」
手足を折られ、動けなくなったコンフェッサーカスタムの操縦席を覗き込み、声をかけるルシオ。
彼女は敵性CAMの露払いをしながら、強化人間達を助ける為に撃墜されたコンフェッサーカスタムを出来る範囲で見て回っていた。
――中には既に事切れているパイロットもいた。
あまりにも残酷な光景に目を覆いたくなるけれど。
それでも。1人でも生きている可能性があるのなら。子供達を助けてやりたい。
その一心で、彼女はコンフェッサーの操縦席をこじ開ける。
「レオーネ。この子を救命艇に運んでくれるかい。歪虚CAMに気を付けるんだよ」
主の声に短く鳴いて答えたイェジド。強化人間を背に乗せて、隙間を縫うように進んで行く。
――甘いのかもしれない。それでも。私は……。
ルシオは、彼女の信念を胸に。救護活動を続ける。
「ないない! ないですよぅ!!」
「困りましたね。手記の1つでもあればと思ったんですが……」
潜水艦の中にある客室を回り、手あたり次第に探るハナとフィロ。
この中で子供達が調整されていたなら、洗脳を解く鍵もここにあるのではないか。
先にそれを見つけないと洗脳が解けないかもしれない……。
そう考えた2人は、洗脳解除に役立ちそうな情報を探し回っていたのだ。
客室は、子供達が暮らしていたとは思えないくらい生活感がなく、機械的で何も置かれていない。
洗脳状態に置かれた子供達が人間らしい生活をしていたかと言われれば確かに疑問なのであるが……。
そもそも資料や手記と言ったものは、技術や情報を誰かに伝達する為に残すものだ。
もし、子供達の洗脳方法が慈恵院独自のもので、誰にも伝える気がないのだとしたら――資料などある筈もない。
洗脳方法も、解除方法も全て慈恵院の頭の中、ということになる。
「あの坊主生け捕りにしてって言っても間に合わないですよねぇ」
「今まさに交戦中でしょうからね……」
「とにかく! ここまで来たからには強化人間の子供達を捕獲して連れ帰りたいと思いますぅ!」
「その行動指針に賛成です。私も子供達も、この中で一緒に爆散したくありませんから。1人でも多く無効化して連れ出しましょう」
頷き合うハナとフィロ。強化人間の子供達を捕獲するべく2人は走り出す。
一体どのくらい走り続けたであろうか。
ハンター達は遂にエリュマントスの最奥まで到達した。
――そして、そこにあったものは、想像を絶するおぞましいものだった。
「……な、何ですかこれ」
「嫌な予感が当たったか……。当たって欲しくはなかったのだが」
わなわなと震えるアシェールに、ため息をつくアウレール。
――立ち並ぶ大きなガラスの筒。培養液に入れられた強化人間の子供達。
それがいくつもいくつも無数に並べられ……それらが全てコードに繋げられ、1つに集められていた。
「……何で? 何でこんなことになってるんだ? どうして……!?」
「レギさん、落ち着いて!」
自分達の後輩の無残な姿に混乱を来すレギ。そんな彼を、テンシが必死に押さえる。
その光景を呆然と見ていたロニがようやく口を開いた。
「……これが、動力源なのか?」
「恐らくな。強化人間達の生命エネルギーを使っているのだろうが、この数では潜水艦を動かすまでには至らない。シールドの動力と見て間違いないだろう」
「そんな……! じゃあ、シールドを壊そうと思ったら……」
――この子達を、殺さなくてはならないのか。
最後まで言葉が続かないアシェール。
アウレールはつかつかと歩み寄ると、強化人間達が繋がれているコードの束を手にする。
「……私がやろう。エネルギーの供給が止まったら、動力部を叩いてくれ」
「でも……」
「いいんだ。誰かがやらなくてはならない。幸い、私はこういうのに慣れているからね」
人類史は弱者救済の試みの歴史。弱者と知りつつ救うのは人だけだ。
より多き、弱きの為に文明はある。
その筈なのに……弱きものたちは天秤にかけられることがある。
そうだ。数十、数百の命は……百万都市より軽い。
大切であるはずの命は、より多くの命の為に捨てられる。
――その矛盾を、私は知っている。
迷えば更に多くが死ぬ。だから……。
「シールドの動力源が強化人間であったことは、作戦終了まで機密事項とする。……この事実を知っては、潜水艦を攻撃できぬ者が出てきてもおかしくない」
「……了解。君の案に従おう」
きっぱりと断じたアウレールに頷くロニ。
彼の決意に、アシェールは唇を噛む。
落ち着きを取り戻したレギは、テンシに頭を下げた。
「すみません、僕……取り乱したりして」
「……仲間がこんな目に遭ってるんだ。ショックを受けて当然だよ。辛かったら俺達に任せて、外で待っててもいいんだよ」
「……いいえ、残ります。これを見届けて。森山艦長に報告するのが僕の仕事ですから」
「そっか。……辛かったら言って。すぐ外に連絡入れるから」
「……テンシ、レギ。始めるぞ」
「はーい。いつでもどうぞ」
「……彼らの為に祈ってやってくれ」
呟くアウレール。目を閉じ、胸に手をやって頭を垂れた彼。
剣を一気に抜き放つと、強化人間達の命が繋がっているコードを一気に両断する――!
「これより、動力部を攻撃します。――来たれ雷撃! 迅雷!!」
アウレールの一閃で光が消えた機器類。
それらに向けて一直線に伸びる雷撃。
飛び散る火花。アシェールの目から、ぽろりと涙が零れた。
Uisca Amhran(ka0754)達が大分奥へと進んだ頃。ゴウン、という地響きと火花が散った。
「姉さん、レオ。今の音なんでしょう?」
「恐らくシールドが解除されたんじゃないでしょうか」
「何と。先を越されたかのう。残念じゃ」
瀬織 怜皇(ka0684)の言葉にむぅ、と唸る星輝 Amhran(ka0724)。
ふと立ち止まって、2人を見る。
「ところで、レオ。イスカ」
「何です?」
「どうしました? 姉さん」
「これ、何じゃろうの」
「「………」」
星輝が指差す先に見えるは巨大な黒い球体。
何だかやけに寒気を感じる。これは負のマテリアルだろうか……?
怜皇は機導の徒を使って調べ始める。
「何か分かったかえ?」
「えーと……。ちょっと調べがつかないんですが……この負のマテリアルの集まり方を見るに、アンチマテリアルキャノンのエネルギー充填装置である可能性が高いですね」
「わあ。第二目標発見! さすが姉さん!」
「ふははは! 任せろ!」
「早速止めちゃいましょ! レオの知識じゃ止められそうにない?」
「そこまでハッキングするには機材が足りないですね」
「じゃ、壊すとするかの」
「そうですね!!」
にこやかに言うUiscaの頭上に現れる無数の闇色の龍牙や龍爪。それらは黒い球体を串刺しにして……そして続く星輝と怜皇の猛攻が続き……。
内部から動力源とも呼べる場所に打撃を与えられた潜水艦は、徐々に崩壊し始めていた。
「……あら。動力、壊されちゃったみたいよ」
「どうする? まだやるの?」
周囲の異変を察知したアルスレーテと柊羽。SC-H01はあっさり剣を収めると、再びにこやかな笑顔を浮かべる。
「時間切れみたいですね。そろそろ撤退します。遊んで戴いてありがとうございました」
「偽物だって分かってるけどやっぱムカつく!! もう出てくんなバーカ!!」
がるるると吼えるラミアを再び制止するラウィーヤ。あの……と小声で切り出す。
「……貴方の名前は……?」
「名前? 俺の名前はSC-H01ですけど」
「それは、名前ではなくて……出自を示す記号ではないんですか?」
「そうなんですか? もしそうなら、名前はないってことになるのかな。別に記号でも構いませんけどね」
――与えられたのは自分を示す記号だけ。
それを『可哀想だ』と思うのは、何かが違うのかもしれないけれど……。
「ああ。ごめんなさい。名前を聞いておいて名乗っていませんでしたね。私はメネル傭兵隊のラウィーヤ・マクトゥームです」
「……姉さん!?」
「ラウィーヤさん、か。覚えておきますね。それじゃ、また会いましょう」
ひらひらと手を振るSC-H01。彼は以前と同じように、忽然と姿を消した。
そして、エラの元にはシールドが破壊された報せが届いていた。
「こちらエラ。皆さんに通達します。動力部を守るシールドが破壊されました。皆さん、総攻撃をお願いします」
「こちらざくろ! 了解! 大至急向かうよ!」
「春樹っす! 俺も向かうっす! セレンさんも届く限り狙撃してくれるそうっす!」
「こちらレベッカ。メインシャフトの破壊に移行する」
「こちらアイビス! 後方をとにかくぶち壊せばいいのよね! 任せといて!」
高速で潜水艦の後方へ向かう仲間達。そこに通信音が響き渡った。
「こちら陽! ヤバいぞ! アンチマテリアルキャノンが発射されそうだ! 総員退避!! 衝撃に備えろ!!」
「アンコウの提灯壊したのに何でです……!?」
陽の鋭い声。エステルの困惑した様子に、エラの通信が続く。
「エネルギー充填とは関係ない機関だったのでしょうね。アンテナという可能性がありますから、アンチマテリアルキャノンの軌道が外れる可能性はあります」
「くそ……! やりたくは無かったが市民の命には代えられん!」
叫ぶ惣助。言うなり、アンチマテリアルキャノンの発射口に取り付く。
「惣助さん!? 無茶です!!」
「この地球で、お前達の好きにはさせん!」
エステルの悲鳴に近い声。発射口から溢れる血のような赤――それはどんどん膨れ上がり、惣助を弾き飛ばして……急速に萎み、放たれた細い光線が虚空へ消えた。
「……何だ今の」
あんぐりと口を開ける陽。そこにエラからの通信が入った。
「こちらエラです。Uiscaさんより入電。アンチマテリアルキャノンのエネルギー供給機関を破壊したとのことです」
「……それでこの威力か……。フルパワーだったら消し炭だったな」
「惣助さんしっかりしてくださいです! イスフェリアさんー! ルシオさんー! 怪我人ですーーー!!」
ずるりと崩れ落ちる惣助。エステルの叫びに、イスフェリアとルシオが駆けつけて来た。
「皆さん大丈夫ですの!?」
「お出口こちらですよ!」
艦の外側で待機し、出口を確保していた颯とサクラ。
現れたフィルメリアとそのCAMが傷だらけであることに気付いて慌てて近づく。
「フィルメリアさん、大丈夫ですの!?」
「傷だらけじゃないですか……! 早く救護艇に行きましょう。」
「私は大丈夫。それより子供達をお願い」
2人を制止し、腕を差し出すフィルメリア。
そこには複数の強化人間が抱えられていた。
更に子供を抱えたハナやフィロ、ミオレスカに千夏も戻って来る。
そこに救命ボートを限界まで荷台に積んだクレールがやって来た。
「お待たせしました! これに乗せて脱出させます!」
「動けない子供も、動ける子供もまだ残ってるですぅ!」
「早く、引きずってでも連れて来ないと……!」
後方で起きる爆発。ハナとフィロの言葉に颯もサクラも戦慄する。
「急がないと……! このままじゃ潜水艦と心中ですの!」
「動ける子供達の洗脳は解けていないんですか!?」
「……ええ。まだ戦いを続けようとしているわ」
「……! どうして? 慈恵院は倒したのに……!」
「分からないわ。でも考えている時間はない。極力助けたいの」
フィルメリアの哀し気な呟きに目を見開くクレール。
再び聞こえた爆発。クレールは潜水艦に向かって叫んだ。
「もうやめて! これ以上戦わなくていいの! お願い逃げてーーー!!」
悲痛な願い。
――それでも怒号や悲鳴は止むことはなく。
「……私は君達の命を背負おう。それが私の役目だ。……せめて、安らかに眠れ」
崩れゆく潜水艦を見つめて呟くアウレール。
エリュマントスから湧き上がる炎。黒い煙をあげて、崩れて行く。
巨大な潜水艦は、沢山の強化人間達を抱えたまま。炎を撒き散らして四散した。
リプレイ拍手
猫又ものと | 33人 |
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