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【聖呪】


更新情報(11月24日更新)
【聖呪】ストーリーノベル「動乱の終わり」(11月24日更新)
●アークエルス/フリュイ・ド・パラディ
市街戦は早くも指示が実行され、そこかしこでマテリアル光が瞬いている。この調子なら街の放棄までは至らないだろう。ならば問題ない。
フリュイは単眼鏡を懐から取ると、覗き込んで街の外にピントを合わせた。魔術を付与し、戦塵を透過して見えるよう微調整。視界では多くの茨小鬼と人間が剥き出しの感情をぶつけ合っている。そして一角には、蹲って動かない一人の男の姿。
オーラン・クロス。法術陣とやらの要はこの男に違いない。
注目していると、不意に戦場から燐光が立ち上り始めた。燐光は次第に密度を増していく。陣。描かれた図形、記された文言が光に溶け、不可視の奔流に変化していくのがよく分かる。
――そうだ、早く見せてくれ!
光は一瞬で肥大化するや、脈動の如き明滅を繰り返す。そして次の瞬間――天を突き抜けた。
無音の衝撃波がフリュイの精神を圧迫する。我知らず膝をつき、目を強く閉じた。
――これは……!?
慌てて単眼鏡を再び合わせるが、既に事態は終焉を迎えつつある。
――マテリアル酔い……?
陣を拡大し直視していたせいか?
ともあれフリュイは単眼鏡を戻し、戦場を見晴るかした。
「『考察』しないといけないな、これは。はっ……はははは……」
込み上げてくる感情を抑えることなく、フリュイは笑う。
フリュイは、新しい玩具を見つけた昂揚感が胸に広がるのを自覚した。
●とある古ぼけた紙片より/???
王国暦1015年、春。グラズヘイム王国北部に端を発し、次第に規模を拡大していった茨小鬼(ホロム・ゴブリン)達の叛乱は、数多の遭遇戦と幾つかの陣地戦を経て同年十月、一つの会戦に辿り着いた。
アークエルス北にて戦端を開いた両軍は、当初南下の勢いを駆って攻勢に出た茨小鬼軍が優勢に思えたが、王国側はハンターを中心とした少数部隊が敵有力個体を次々撃破、時の推移に従い王国側優位へと変移していった。
古都北門を破るという戦果を上げた敵軍はしかし、古都を蹂躙し尽くす前に限界を迎えた。 そうして彼ら――おそらくゴブリン史上類を見ぬほど強大なマテリアルを有し、人間に戦争を仕掛けてきた彼らは――人間の歴史の前に敗れ去ったのであった。
私はこの戦を古都会戦、そしてこの叛乱を北方動乱と呼びたく思う。
斯様にちっぽけな紙面に記される程度では、簒奪者と名乗った彼らの魂は決して満たされぬであろうけれども。
●王都イルダーナ・王城/システィーナ・グラハム
それによって瀕死の茨の王からマテリアルを吸収し、然るべき場所へ移したと記録にはあったが……。
「これは、大司教さまが?」
「ええ、堅物揃いの教会幹部に資料を求めたところで無駄かと思いまして。殿下はご存知でしたか」
「……わたくしも知らなかったことです」
羊皮紙には、法術陣なるものの機能について書かれていた。大司教の推測か、オーラン・クロスという人から聞いた話か。どちらにしろ、王の娘すら知らない国の秘密がここにはあった。
「巡礼路の、陣……」
「グラズヘイム王国の国土全域に広がる巡礼路をそのまま陣として利用した法術陣。それが『本来の法術陣』のようですな」
読み進める。が、全然頭に入ってこない。
「仮にこれを巡礼陣と呼びますか。そこにマテリアルを貯蔵しておき、起動プロセスを経て陣を発動させる。それこそが千年王国の秘術。そして、貯蔵されていたはずのマテリアルが1000年のソリス・イラ失敗で枯渇した、もとい消失した。これが今回の事件の発端です」
それは、つまり、どういうこと?
システィーナの目は紙面を撫でるだけで、何一つ機能してくれない。
「消失したそのマテリアルこそが、茨の一味の得た力であり、法術陣で得たマテリアルだったのです。つまり今回、小規模で且つ巡礼陣と連結させた『陣を起動』することで『陣の発動』に必要なマテリアルを強制的に収奪、のちに発動せず中断した、と」
「それで、マテリアルが戻った?」
「そうなるでしょう。巡礼陣を発動すれば何ができるのか。それは分かりかねますがね」
「…………、そう、ですか」
システィーナはか細い吐息を零し、目を伏せる。
大司教は一拍置くと、嘆息して告げた。まさしく聖職者のように。
「――殿下が仰らないのであれば私が指摘して差し上げましょう。そう。巡礼陣を発動できてさえいれば、つまりソリス・イラの失敗さえなければ、先王は死ななかったかもしれぬ。多くの人々は死ななかったかもしれぬ。それが何か? 苦しければ嘆けばよろしい。悔しければ喚けばよろしい! 決して時は戻らんがね」
「…………」
「殿下の前には常に二つの道がある。それを努々忘れぬことだ」
「……一つの道しか見えませんよ、わたくしには」
どうしようもなくやるせなくて、システィーナは無理矢理笑みを浮かべた。
大司教は満足げに頷き、最後にもう一つの爆弾を投下した。
「では、これよりハンター諸君の叙勲式があります。殿下におかれましては顔を洗って登壇するように」
●王城・玉座の間/システィーナ・グラハム
儀仗兵が直立不動で控え、勇壮な音楽が奏でられる中、ハンターたちが玉座の間へとやってくる。
貴族軍への叙勲は別に行う為、今いるのはハンターだけである。彼らはみな、今回の動乱において王国に力を貸してくれた者たちだった。
大司教が何事か合図すると音楽が止まり、儀仗兵達が一斉に剣を捧げた。
「只今より叙勲式を挙行致す」
大司教が朗々と宣言し、式は進む。
勲章の授与。命を賭けて戦ってくれた彼らに報いる手段が、自分にはこれしかない。感謝を伝えて、勲章と僅かばかりの物を贈って。もっと色んなことができればいいのに。もっと沢山の思いを表わせたらいいのに。
システィーナは笑顔の下でちくりとした胸の痛みを堪える。
「――れよりシスティーナ・グラハム王女殿下よりお言葉を――」
大司教に促され、システィーナは起立する。ハンター一人一人の顔を見つめ、目礼。
「皆さま、この度は本当にありがとうございました。皆さまのご助力のおかげで無事動乱を乗り切ることができました。皆さまがいなければ――あるいはこの王都にまで亜人たちの牙は届いていたかもしれません。千年王国の誇りを二度穢すことなく乗り越えることができた……そして少しでも被害を少なくすることができた……。全ての国民に代わり、わたくしが心よりの感謝を申し上げます」
腰から折って礼をする。
三秒、四秒。侍従長が綬章を持ってくるのが横目に見え、システィーナは顔を上げた。
「これからも皆さまは様々な場所で脅威と戦うのでしょう。その時、わたくしには大したことなどできないかもしれません。けれどわたくしは皆さまと共に戦いたい……常に皆さまと共にありたい……そう思っています」
ご迷惑かもしれませんけれど。
システィーナは出かかった言葉を何とか飲み込み、威厳を示すようにぐっと胸を張った。
「ですから、その……」
早速言葉につまった。咳払いして続ける。
「み、皆さまにはわたくしと、我らが光がついています。だからきっと大丈夫ですっ」
……あれ? 最初は良かったはずなのに何でこうなったんだろう。
心の隅で湧き上がった疑問にフタをして、システィーナは必死に神妙な顔をして瞑目した。
「皆さまに光のご加護のあらんことを」
「……、勲章の授与に移る。名を呼ばれた者は登壇し――」
――荘厳だったはずの叙勲式は、調子外れの幕引きとなった。
●とある古ぼけた紙片より/???
斯くして北方動乱を乗り越えたグラズヘイム王国であったが、さらなる戦乱の足音はすぐそこに迫っていた……。
古都の領主フリュイ・ド・パラディ(kz0036)は塔の最上部から自らの街を見下ろしていた。 北門を破られる光景を淡々と観察しながら、戦況を分析する。 街へ侵入した敵部隊は役目を果たし、門を開いた。その部隊自体はハンターによって追い詰められつつあるようだが、その間にも外から亜人どもが雪崩れ込んできている。 街の北部は完全に戦場と化すだろう。 全く、面倒なことだ。嘆息した時、階段を駆け上がってくる音が聞こえてきた。 「閣下! パラディかっ……」 「ああ分かってる、分かってるからその煩い口は閉じていいよ。街の研究者諸氏で布告に応じた者は集まっているね?」 「はっ!」 「彼らを投入しろ。ああそうだ、以降は僕に指示を仰がなくていい。僕は君達を信用しているからね、現場のベテランに従いたまえ」 「了解!」 急ぎ塔を下りていく音を聞き、フリュイは一人肩を竦めてみせる。 ――大切な時を邪魔してくれるなよ、愚図め。 |
![]() フリュイ・ド・パラディ |
フリュイは単眼鏡を懐から取ると、覗き込んで街の外にピントを合わせた。魔術を付与し、戦塵を透過して見えるよう微調整。視界では多くの茨小鬼と人間が剥き出しの感情をぶつけ合っている。そして一角には、蹲って動かない一人の男の姿。
オーラン・クロス。法術陣とやらの要はこの男に違いない。
注目していると、不意に戦場から燐光が立ち上り始めた。燐光は次第に密度を増していく。陣。描かれた図形、記された文言が光に溶け、不可視の奔流に変化していくのがよく分かる。
――そうだ、早く見せてくれ!
光は一瞬で肥大化するや、脈動の如き明滅を繰り返す。そして次の瞬間――天を突き抜けた。
無音の衝撃波がフリュイの精神を圧迫する。我知らず膝をつき、目を強く閉じた。
――これは……!?
慌てて単眼鏡を再び合わせるが、既に事態は終焉を迎えつつある。
――マテリアル酔い……?
陣を拡大し直視していたせいか?
ともあれフリュイは単眼鏡を戻し、戦場を見晴るかした。
「『考察』しないといけないな、これは。はっ……はははは……」
込み上げてくる感情を抑えることなく、フリュイは笑う。
フリュイは、新しい玩具を見つけた昂揚感が胸に広がるのを自覚した。
●とある古ぼけた紙片より/???
王国暦1015年、春。グラズヘイム王国北部に端を発し、次第に規模を拡大していった茨小鬼(ホロム・ゴブリン)達の叛乱は、数多の遭遇戦と幾つかの陣地戦を経て同年十月、一つの会戦に辿り着いた。
アークエルス北にて戦端を開いた両軍は、当初南下の勢いを駆って攻勢に出た茨小鬼軍が優勢に思えたが、王国側はハンターを中心とした少数部隊が敵有力個体を次々撃破、時の推移に従い王国側優位へと変移していった。
古都北門を破るという戦果を上げた敵軍はしかし、古都を蹂躙し尽くす前に限界を迎えた。 そうして彼ら――おそらくゴブリン史上類を見ぬほど強大なマテリアルを有し、人間に戦争を仕掛けてきた彼らは――人間の歴史の前に敗れ去ったのであった。
私はこの戦を古都会戦、そしてこの叛乱を北方動乱と呼びたく思う。
斯様にちっぽけな紙面に記される程度では、簒奪者と名乗った彼らの魂は決して満たされぬであろうけれども。
●王都イルダーナ・王城/システィーナ・グラハム
「うぅ……」 古都近郊で茨の王を打倒して数日。システィーナ・グラハム(kz0020)は山のような事後処理の書類相手に、地道な格闘を続けていた。 茨小鬼軍によって被害を受けた――あるいは今も残党によって苦しめられている――地域は、多くの貴族が根を上げて問題を国に丸投げしてきた。その結果が、机にうず高く積まれた「敵」である。 勿論、中には辛抱強く自ら立て直しにかかる有能な貴族もいる。ルサスール家などはその筆頭だろう。が、それでもこの量だ。 「大司教さまももうちょっと手伝って……」 「私が何か?」 「っ!?」 びくぅ、と露骨に震えあがってシスティーナは周りを見回す。すると「敵」の影に隠れるように、セドリック・マクファーソン(kz0026)その人が佇んでいた。 大司教は何やら綺麗な羊皮紙を手に、進み出る。 「隠れてなどおりませんが?」 「えっ」 「いえ。これも為政者としての勉強です、王女殿下」 「は、はいっ……!」 「と、姿勢を新たにしたところで申し訳ございませんが、少しお尋ねしたいことがありましてな」 改まった調子で差し出してくるのは、丁寧に作られた数枚の羊皮紙。一番上には『法術的アプローチにより構築された陣について』と書かれている。 法術陣。先の決戦において用いられたという術式だ。 |
![]() システィーナ・グラハム ![]() セドリック・マクファーソン |
「ええ、堅物揃いの教会幹部に資料を求めたところで無駄かと思いまして。殿下はご存知でしたか」
「……わたくしも知らなかったことです」
羊皮紙には、法術陣なるものの機能について書かれていた。大司教の推測か、オーラン・クロスという人から聞いた話か。どちらにしろ、王の娘すら知らない国の秘密がここにはあった。
「巡礼路の、陣……」
「グラズヘイム王国の国土全域に広がる巡礼路をそのまま陣として利用した法術陣。それが『本来の法術陣』のようですな」
読み進める。が、全然頭に入ってこない。
「仮にこれを巡礼陣と呼びますか。そこにマテリアルを貯蔵しておき、起動プロセスを経て陣を発動させる。それこそが千年王国の秘術。そして、貯蔵されていたはずのマテリアルが1000年のソリス・イラ失敗で枯渇した、もとい消失した。これが今回の事件の発端です」
それは、つまり、どういうこと?
システィーナの目は紙面を撫でるだけで、何一つ機能してくれない。
「消失したそのマテリアルこそが、茨の一味の得た力であり、法術陣で得たマテリアルだったのです。つまり今回、小規模で且つ巡礼陣と連結させた『陣を起動』することで『陣の発動』に必要なマテリアルを強制的に収奪、のちに発動せず中断した、と」
「それで、マテリアルが戻った?」
「そうなるでしょう。巡礼陣を発動すれば何ができるのか。それは分かりかねますがね」
「…………、そう、ですか」
システィーナはか細い吐息を零し、目を伏せる。
大司教は一拍置くと、嘆息して告げた。まさしく聖職者のように。
「――殿下が仰らないのであれば私が指摘して差し上げましょう。そう。巡礼陣を発動できてさえいれば、つまりソリス・イラの失敗さえなければ、先王は死ななかったかもしれぬ。多くの人々は死ななかったかもしれぬ。それが何か? 苦しければ嘆けばよろしい。悔しければ喚けばよろしい! 決して時は戻らんがね」
「…………」
「殿下の前には常に二つの道がある。それを努々忘れぬことだ」
「……一つの道しか見えませんよ、わたくしには」
どうしようもなくやるせなくて、システィーナは無理矢理笑みを浮かべた。
大司教は満足げに頷き、最後にもう一つの爆弾を投下した。
「では、これよりハンター諸君の叙勲式があります。殿下におかれましては顔を洗って登壇するように」
●王城・玉座の間/システィーナ・グラハム
儀仗兵が直立不動で控え、勇壮な音楽が奏でられる中、ハンターたちが玉座の間へとやってくる。
貴族軍への叙勲は別に行う為、今いるのはハンターだけである。彼らはみな、今回の動乱において王国に力を貸してくれた者たちだった。
大司教が何事か合図すると音楽が止まり、儀仗兵達が一斉に剣を捧げた。
「只今より叙勲式を挙行致す」
大司教が朗々と宣言し、式は進む。
勲章の授与。命を賭けて戦ってくれた彼らに報いる手段が、自分にはこれしかない。感謝を伝えて、勲章と僅かばかりの物を贈って。もっと色んなことができればいいのに。もっと沢山の思いを表わせたらいいのに。
システィーナは笑顔の下でちくりとした胸の痛みを堪える。
「――れよりシスティーナ・グラハム王女殿下よりお言葉を――」
大司教に促され、システィーナは起立する。ハンター一人一人の顔を見つめ、目礼。
「皆さま、この度は本当にありがとうございました。皆さまのご助力のおかげで無事動乱を乗り切ることができました。皆さまがいなければ――あるいはこの王都にまで亜人たちの牙は届いていたかもしれません。千年王国の誇りを二度穢すことなく乗り越えることができた……そして少しでも被害を少なくすることができた……。全ての国民に代わり、わたくしが心よりの感謝を申し上げます」
腰から折って礼をする。
三秒、四秒。侍従長が綬章を持ってくるのが横目に見え、システィーナは顔を上げた。
「これからも皆さまは様々な場所で脅威と戦うのでしょう。その時、わたくしには大したことなどできないかもしれません。けれどわたくしは皆さまと共に戦いたい……常に皆さまと共にありたい……そう思っています」
ご迷惑かもしれませんけれど。
システィーナは出かかった言葉を何とか飲み込み、威厳を示すようにぐっと胸を張った。
「ですから、その……」
早速言葉につまった。咳払いして続ける。
「み、皆さまにはわたくしと、我らが光がついています。だからきっと大丈夫ですっ」
……あれ? 最初は良かったはずなのに何でこうなったんだろう。
心の隅で湧き上がった疑問にフタをして、システィーナは必死に神妙な顔をして瞑目した。
「皆さまに光のご加護のあらんことを」
「……、勲章の授与に移る。名を呼ばれた者は登壇し――」
――荘厳だったはずの叙勲式は、調子外れの幕引きとなった。
●とある古ぼけた紙片より/???
斯くして北方動乱を乗り越えたグラズヘイム王国であったが、さらなる戦乱の足音はすぐそこに迫っていた……。
(執筆:京乃ゆらさ)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)