ゲスト
(ka0000)
【反影】グラウンド・ゼロ「未確認領域突入」リプレイ


▼【反影】グランドシナリオ「グラウンド・ゼロ」(1/18~2/8)▼
|
|||
---|---|---|---|
作戦2:未確認領域突入 リプレイ
- メアリ・ロイド(ka6633)
- サンダルフォン(R7エクスシア)(ka6633unit001)
- アーサー・ホーガン(ka0471)
- アウレール・V・ブラオラント(ka2531)
- PzI-2M ザントメンヒェン(魔導型デュミナス)(ka2531unit001)
- シガレット=ウナギパイ(ka2884)
- ローエン・アイザック(ka5946)
- セレス・フュラー(ka6276)
- アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
- リューリ・ハルマ(ka0502)
- レイノ(イェジド)(ka0502unit001)
- Uisca Amhran(ka0754)
- ウイヴル(ワイバーン)(ka0754unit003)
- ヒース・R・ウォーカー(ka0145)
- シェリル・マイヤーズ(ka0509)
- 十色 エニア(ka0370)
- ミオレスカ(ka3496)
- スパチュラ(オファニム)(ka3496unit005)
- オウカ・レンヴォルト(ka0301)
- 南條 真水(ka2377)
- 神城・錬(ka3822)
- フィルメリア・クリスティア(ka3380)
- ルナリリル・フェルフューズ(ka4108)
- パピルサグX(魔導型デュミナス)(ka4108unit001)
- 星輝 Amhran(ka0724)
- 久延毘 大二郎(ka1771)
- 万歳丸(ka5665)
- ヴァイス(ka0364)
- グレン(イェジド)(ka0364unit001)
- アニス・エリダヌス(ka2491)
- ソフィア =リリィホルム(ka2383)
虚無の空間に降り立ったハンター達の前に広がっていたのは、足元と周囲に広がる浮島のような荒野の大地と、たたずむ塔のような物体――ソードオブジェクトの姿だった。
天上はなく、浮島から下方へ覗く奈落にも底はない。
ただ赤黒い靄のような空間がはるか先に広がっているだけ。
陽の光も無い。
だが、暗いわけでもない。
それはまさしく悪夢の光景を体現しているかのような、不可解で、歪な空間だった。
「今後のためにもじっくり観察したいところですが、そうもいかないようですね」
閉じていくハッチの下で、メアリ・ロイド(ka6633)はシートに身を沈めながら採集したマテリアルのカートリッジをダッシュボードのソケットへ放り込む。
ベルトで身体を固定して、装着したバイザーの画面をのぞき込むと、既に動き出したシェオル型歪虚達の姿がそう遠くない位置に展開しているのが目に入った。
死肉のような黒い身体に骨のような鎧をまとった彼らは、ガシャリ、ゴキリ、と不快な音を立てながら侵入者たちへと迫る。
「かははっ、粋がいいじゃねぇか! 楽しい苦難の旅路になりそうだぜ」
「苦難と為すか、希望と為すか――どちらにせよ、我々は進むしかない」
愛機ドゥン・スタリオンのコックピットで首の節を鳴らすアーサー・ホーガン(ka0471)同様に、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)も自らの機体ザントメンヒェンの中で程よい緊張感を瞳に宿していた。
一方でワイバーンのグラウに跨って、立ち並ぶユニット群の肩口辺りを飛び回るシガレット=ウナギパイ(ka2884)は、丸めた手を望遠鏡のようにして片目で覗き込みながら、戦場一帯に視線を巡らせる。
「直線だな。どこを行ったって敵の数は変わりゃしねぇ。下手に迂回するよりゃ、突っ切った方が早そうだ」
「了解。真っすぐ行って、真っすぐ帰る。分かりやすくていいんじゃねーの?」
スイッチが入るのを感じながらメアリが操縦桿を握り締めると、一思いにフットペダルを踏み込んだ。
蓄積されたエネルギーがスラスターから一気に放出され、銀色の機体・サンダルフォンが荒野を蹴る。
「サーチライト、投射します!」
ローエン・アイザック(ka5946)の指示で、彼のノームが担いだ大型探照灯を虚無の中央方向へと投射。
帰還の際の道しるべとするためだった。
「派手に行くぜ! それが俺たちの仕事だ!」
サンダルフォン同様に第一線に飛び出したドゥン・スタリオン、そして続くザントメンヒェンの2機が激しく立ち上るマテリアルのオーラを纏うと、前方のシェオル達の視線が一斉に自分達の方へ向いたのを機体ごしにピリリと感じる。
「退けッ! ここは我々の進むべき道だ……ッ!」
アウレール機のライフルから放たれた弾丸が、突出するシェオル・ノドの鎧を打ち砕く。
衝撃で一瞬ひるんだように見えた敵は足を大きく開いて踏みとどまると、風穴の開いたままの身体で再び進軍を始めた。
「見た目同様のバケモンか。容赦がなくて、いいじゃんかよ」
グラウの火炎球が最前線で爆ぜ、ハンター達の進行方向を赤く染め上げる。
なおもシェオル・ノドらは残火から足を踏み出して見せたが、サンダルフォンの担ぐプラズマキャノンが立て続けに追い撃って先頭の1体が消し飛んだ。
「やってやれない敵じゃないじゃんか」
「当然だ。この程度で根をあげてる暇はねぇぞ」
ドゥン・スタリオンの波動銃が、翡翠色のマテリアル光をその銃口に宿す。
直後、放たれた熱線が切り開かれた戦端を貫いた。
敵陣の穴に後続の4機のオファニムが飛矢のように飛び込んで、出来上がった突破口を支える。
「前線の突破を確認したよ。本隊は続いて!」
前線の状況を聞き及んだセレス・フュラー(ka6276)が叫ぶと、十数名のハンター本隊が進軍を開始した。
既に四方八方に散見されるシェオル達は後続のハンター達へも狙いを定めて火弾を放つが、ローエンのノームが構築した遮蔽壁に出鼻を護られながら着々と先行部隊の後を追って虚無を進む。
「仰角修正――よし、放てッ!」
ヴォルカヌスのゴーレム砲が唸りをあげて、放たれた炸裂弾が進軍する本隊をさらにシェオル達の接近から守る。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は続けて次の放火点を見据えて、ゴーレムへと指示を加えていく。
自分達の役割は、この撤退ポイントを守り続ける事。
だが無事に送り出すことも重要な役目の1つである。
「囮役の人たちはうまく敵を引き付けてくれてるみたいだね!」
「そうだね。だが、彼らが十分に離れれば孤立するのは僕らの方だ。嵐の前の静けさ――というやつだろうね」
相棒のイェジト、レイノと共に周囲の警戒に努めるリューリ・ハルマ(ka0502)へローエンが比較的にこやかに、だけど説法のようにしっかりとした口調で言い添える。
「無理せずに行こうか、僕らはここに死にに来たわけではない」
「もちろん、遠足気分ってわけじゃないけどさ。でも興味は尽きないよね、この空間ってさ」
セレスは後方に控えさせていたグリフォン、ヤタの背に飛び乗ると、ひと羽ばたきのうちに異空間の空へと飛び立つ。
あらためて眺めても、この空間は「この世」のものではないことはひと目で断言できる。
ではここが「あの世」なのか。
それもまた違うだろう。
歪虚の目的は世界を無へ帰すこと――と言われている。
無とは空虚……すなわち「あの世」という概念すらもなく、宗教観すらも超越した真実の“消滅”がその先にはあるはずなのだ。
「だったら……ここは何なんだろうね」
カシャリ、とスマートフォンのシャッターが切られる。
「あっ、私も撮る! 忙しくなってきたら時間無さそうだもんね」
リューリもまたスマホを取り出して、地上からパシャパシャと周囲の光景をファインダーへと収めていく。
画面に映るのは、荒涼の浮遊大地を進むCAMやハンター達の姿とシェオル型歪虚、そして巨大なるソードオブジェクト――。
●
先行部隊を発端に切り開かれた前線は、シェオル型歪虚を引き寄せながら地道に――だが着実にオブジェクトへの距離を縮めていた。
人間種であるアーサーとアウレールが宿すスキル「ソウルトーチ」によって直近の歪虚は有無を言わぬ勢いで彼らに引き寄せられ、逆に歪虚達の狙いが定まっているからこそ周りの者達も確実にその進路を予測し対処することができている。
「対象までもう少しです!」
ワイバーン、ウイヴルの騎上から発せられるUisca Amhran(ka0754)の通信に、先行隊、そして本隊は一路足を速める。
「そろそろ効果が切れる! 敵のヘイトが分散するぜ!」
「了解。ここからはボクらの仕事だねぇ、ウェスペル・リィン」
アーサーからの通信に応えるヒース・R・ウォーカー(ka0145)は、それまで狙撃戦用に展開していたシステムを中距離戦のそれへと切り替える。
愛機ウェスペル・リィンのカメラも広角へと移ったのを視認して、スカートスラスターへ火を灯した。
「シェリー、ついて来れてるかい?」
「えっ……あっ……うん、大丈夫……むしろ、私が前衛だから……ついて来て貰うのは、そっち?」
「言い得て妙だねぇ。確かに、言う通りだ」
から笑いをしながらトリガーを絞ると、群れから飛び出したシェオル・ノドの振り上げた腕が鋭い銃弾で打ち抜かれ、弾ける。
大きく開いたその身体にシェリル・マイヤーズ (ka0509) 機の携える斬機刀の切っ先が吸い込まれると、そのまま質量とブースターの圧力に任せて一思いに振り抜いた。
腹から肩に掛けてを深く抉られた敵は、マテリアル光をなびかせながら消滅していく。
「いいタイミングだ。流石だねぇ」
「ありがとう、その……ヒー兄。後ろは……任せるから」
「……ああ、兄、か。なかなかどうして、悪くない心地だねぇ」
続く側面の敵へ銃口を向けながら、彼の機体はその名の如く、宵の帳となって赤烈の大地に舞う。
「――思ってたより、ここまでの損傷は軽微だね。順調……だと思いたいかな」
最前線からは一歩引いた位置からプラズマキャノンを放る十色 エニア(ka0370)は、目視で被害状況を確認しながら期待と不安の入り混じった心中でその緊張を保っていた。
はたと戦場を俯瞰すれば、眼前に迫りつつあるソードオブジェクトの周囲では絶えず渦巻くマテリアルの雲が発生しては、その中から新たなシェオル・ノドが浮遊大地を踏みしめる。
時間を掛ければ、瓦解するのは間違いなくこちらの方だ。
「あれは……これまでの歪虚とは違う、異質の何かなのでしょうか?」
不安の織り交じった言葉を添えて、ミオレスカ(ka3496)機スパチュラの狙撃砲が一つ覚えのように直線的に攻めてくる敵を1体1体、確実に狙い撃つ。
この銃が、自分の力が通じるうちは、まだ戦える。
だが、もしそうでない敵がこの先に待ち受けているとしたら――たられば話だとは分かっていても、「未知」への漠然とした恐怖を知性体は拭い去ることができない。
それは海辺の潮が満ちるように、それと知れず、だが確実にハンター達の足元からまとわりついてくるのである。
「もう十分だろう! 俺たちはこれから敵を引き付けて別進路を取る! 残存部隊の健闘を祈ってるぜェ!」
「すまない! おかげでほぼ無傷でここまで来ることができた! そちらの部隊の無事を祈る……!」
シガレットの通信にオウカ・レンヴォルト(ka0301)が答えると、先行隊はオブジェクトを大きく迂回するように進路を取った。
「ここからが正念場だ……みんな、覚悟はできてるな?」
「そういうのって、逆に士気が落ちるもんだと思うぜ?」
メアリにへらへらと返されて、アウレールは思わず噴き出しながら不敵に笑みを浮かべる。
「戦場へ来たら、やったか、やれなかったかのどっちかだ。そこに覚悟なんて関係ねぇ」
「では、行くぞ……!」
ドゥン・スタリオンとザントメンヒェンがソウルトーチの炎に包まれる。
周囲のシェオル型の視線が一斉に彼らの方へ向き、その進路へ向かって一斉に移動を始めた。
それはさながら羊飼いのように――いや、羊は自分たちであって周りは全て牧畜犬であるかもしれない。
だが、彼らが引き連れたその先には僅かに残った歪虚と大きく開いたオブジェクトへの道が残される。
「ヒースくん――また後で」
先行隊として離脱していくヒース機の背に投げかける南條 真水(ka2377)の言葉。
「ああ、また後で」
ヒースの返したそれは、取りとめもないいつも通りの会話。
それだけで十分なのだと2人は知っている。
「なんだアレは……ソードオブジェクトと言うから刀剣の類かと思っていたが、まるで――いや、外に例えようはない。だが……」
その全容が明らかになってくるにつれて、神城・錬(ka3822)の表情は徐々に曇っていく。
「剣」と呼称するのが最も近しい呼び名であることに変わりはないだろう。
だが、決してそれは何かを切るために生み出されたような形はしておらず、それどころか用途として「剣」であるかどうかすら定かではない。
刀工である彼だからこそ、その異様さ、違和感は人一倍に強く感じるものだ。
「時間を掛ければそれだけこちらが不利になる……先行隊の作ってくれた機会を逃さないためにも、あれが何であろうと迅速に破壊するだけよ」
フィルメリア・クリスティア(ka3380)の魔導型デュミナス、Is Reginaに搭載された対VOIDミサイルがアクティブになり、ロックオンマーカーが青色に点灯する。
バックブラストを伴って射出されたミサイルは、オブジェクトの中心へ着弾して巨大な爆炎を伴って炸裂した。
ド派手な先制攻撃に一帯は眩い閃光に包まれる。
それをロータス・クイーンのカメラを利用して観測していたルナリリル・フェルフューズ(ka4108)は、やがて閃光が、そして爆炎が晴れていったその先の光景に思わず目を疑った。
「……嘘だろう?」
着弾点を覆うようにして現れた格子状のシールド――否。
オブジェクトから無数に発せられた蝕腕が格子状に組み合わさって壁となり、ミサイルのプラズマバーストを防いでいたのだ。
「無傷……? い、いえ、あの触腕もオブジェクトの一部と考えれば……損傷軽微っ!」
ウィスカの伝令に、ハンター達は一斉に言葉を失った。
それどころか、その体表から放たれたレーザーがハンター達を襲う。
ウィスカはそれを縫うようにしてオブジェクトの周辺まで飛び込むと浄化の歌を奏でていた。
が、それも目立った効果はなく、せめて情報を得る「目」だけでも――と周辺に式神を放つ。
ハンター達も、動揺こそ走っても不慣れな事態というわけではない。
各自すぐに意識を切り替えると、射撃部隊の放火が始まっていた。
「初撃を防いだくらいで……もとより、出し惜しむ気はないわ」
Is Reginaの構えるガトリングガンが、帯状の炸裂音を伴って放たれる。
それに続いてライフルが、キャノン砲が、飛竜のブレスが瞬く間にその巨体に集中する。
再び数多の爆炎に包まれるオブジェクトだったが、包み込んだ噴煙が吹き消えたその先にあるのは無傷と言っていいほど目立った破損が見受けられない姿であった。
「触腕……! あの無数の触腕が、こちらの攻撃を全て防いでます! そんな、信じられない……!」
式神を通して着弾の瞬間を目撃したウィスカは確かに見た。
触腕の1つ1つが俊敏に動いて、銃砲弾の1つ1つをそれはもう丁寧に弾くのを。
時に先ほどと同じように格子を組んで、キャノン砲の爆炎を防ぐのを。
それどころか、周囲を飛び回る彼女目がけて数多の触腕が襲い掛かり、慌ててトンボ返るのを余儀なくされた。
「つまるところ、あれらを何とかせん限りは本体にダメージは入らぬ……ということかのう?」
「ふむ、カラクリさえ分かれば造作もないことだ」
星輝 Amhran(ka0724)の分析に、久延毘 大二郎(ka1771)は実に興味深げに頷いて見せた。
「出たのは鬼でも蛇でもなく烏賊か蛸の類……いや、磯巾着か? とにかく、私の知らないものがあった。それで十分だ。知った以上は、あとは“仕事”にかかろう」
講義のように口にして、ワンドの先にマテリアルを宿す大二郎。
それは徐々に徐々に、風船ように膨れ上がっていく。
「ついては、狙える者は触腕の破壊。難しい者は――あちらを何とかしてもらえると効率がいいところだな」
そうこうしている間にも、オブジェクトの周囲には新たに発生したシェオル型がその数を増やしてハンター達へ進軍を始めている。
先ほどまでのシェオル・ノドだけではなく、敵も自らに肉薄されていることを理解しているのか、生み出された大型の髑髏ムカデ――シェオル・ブリッツもその首をもたげて長い身体と数多の足をうねらせていた。
「シェオル型は引き受ける、蝕腕は頼んだ!」
オウカ機、王牙が地を蹴って、フライトフレームの推進力を利用してシェオル軍への距離を一瞬で詰め寄る。
「斬り伏せる……止めてみろ!」
勢いのまま振り抜かれた斬艦刀がシェオル・ノドの胴を抉る。
文字通り皮一枚繋がっているように上半身が傾きながらも迫る敵に、万歳丸(ka5665)の拳が叩きこまれていた。
「おう、シェオル型とか言ったか。オレとちょいと、知恵比べしようや……フンッ!」
知恵比べ――とは似ても似つかない見事なサイド・チェストを決めた彼の身体が眩い閃光を放つ。
その光を受けたシェオル・ノドたちは、その肉体美に酔いしれ――ることはなく、全く動じずに彼の姿をもみくちゃに取り囲んだ。
「はっはっ! 知恵はないか! そうか! なら大五郎、馬鹿にも理解できる歌を聞かせてやってくれィ!」
相棒であるユグディラの大五郎はコクリと頷くと、シェオル達の爪の猛攻へ甲拳で応戦する万歳丸もろとも幻惑の旋律が包み込んだ。
途端にシェオル達はだらりと両手を垂れ下げ、何をするでもなくふらりふらりと辺りをうろつき始める。
万歳丸自身は気合いと筋肉で歌の幻惑を撥ね退けると、その横を2人乗りのイェジドが駆け抜けた。
「万歳丸、助けはいるか!?」
口にしながら騎上から振り回したヴァイス(ka0364)の槍の柄が、敵の一体をなぎ倒す。
「なに、今しがた必要なくなったところだ!」
「それはすまなかった……アニス、頼めるか?」
「はい、もちろんです」
ヴァイスの背に身を預けるアニス・エリダヌス(ka2491)が携えた錬金杖に祈りを捧げると、万歳丸にヴァイス、その相棒たちも含めて傷が癒されていく。
「微力かもしれませんが、これで……」
「いや、相伴に預かった! この通りだ!」
ヴァイスが叩き伏せた個体を追いの一撃で粉砕してみせる万歳丸。
その瞳には、先に群がる大勢のシェオル型の姿が映る。
「時間なんて掛けたくないのにさ。さっさとぶっ壊してやろうじゃん」
ガルガリンのハンドガンに備えられたグレネードをオブジェクトへ放りながら、ハンス=シュミット(ka1820)は嫌々気に眉間に皺を寄せる。
爆炎は例によって防がれてしまうも、触腕自体はボロリと綻びを見せて確かなダメージが入っていることを認識させられる。
近寄れさえすれば本隊に直接グレネードを叩きこむなり、斬艦刀の刃を叩きこむなり何とでもしようがあるものを、これでは時間ばかりかかって仕方がない。
そんな射撃部隊の足元へ、可能な限りオブジェクトへの接近を試みていた星輝が、浮かない顔で帰還する。
「――だめじゃ。外面上は只の1つの物体……まさしく1枚刃の剣と言ったところか。触腕を駆逐して、隙を見て本体のどこかへ攻撃を集中し、活動停止になるまで攻撃を加えるしかないかのぅ」
「良くない方の知らせだな。下手したら消耗戦になる。先行隊は大丈夫か?」
『やれるだけやってるけど、この敵だ。こっちも消耗戦になったらどこまで持つか分からないぜ』
ルナリリルのトランシーバーごしのメアリの声には、まだずいぶん余裕があるようにも聞こえる。
だが、ドカン、ガキンと機体が揺れる音が雑音として響いている分には、嘘偽りのない言葉であることは容易に想像できた。
「――だ、そうだ。各員、やることは分かったな?」
彼女の問いかけに、真水はオファニムのコックピットで小さくため息をついてみせる。
「了解。もとより、出し惜しむつもりの南條さんではないけれ、ど……」
うわの空のように口にしながら、その瞳はバイザー越しに複数のロックオンマーカーが点灯する。
「タイミング合わせ……3……2……1……シュート」
担いだプラズマキャノンが閃光を放つ。
唸りをあげて飛翔する砲弾は、その射線上の触腕を纏めて貫いていった。
●
「――って言う状況だって話。もうしばらく頑張れってことじゃねーの?」
別動隊との通信内容を伝えるメアリの言葉に、シェオル・ノドに四方八方を囲まれたアーサーはニヤリと歯を見せる。
「無茶言うじゃねぇか、無理じゃねぇがな!」
「アーサー! 飛び退けッ!」
アウレールの通信にアーサー機が体格差に任せて無理やり包囲を突破すると、その頭上を舞ったザントメンヒェンがシェオル達に影を差す。
ガンポッドとライフルの掃射が空中から軍勢を襲い、手負いになった敵をシガレットの駆るグラウがブレスで纏めて焼き尽くした。
「あっちもシェオルが増えてるって話だろ? 流石にこの距離じゃ新たに転移してきたヤツらはトーチに魅かれないだろうしよォ、一旦引き連れなおすか……?」
「それだと、今引き連れてる敵があっちに合流してしまう危険も……ううん、本当に数だけは一向に減らないんだ……ねっ!」
担いだキャノンをノンアクティブにしながら、装備ハンガーから引き抜いたランスを群がる鎧骨歪虚へと突き立てるエニア機。
その足元にムカデ型のブリッツが巻き付いて、彼はランスのブースターで咄嗟に振り払いながら距離を取る。
投げ出されてひっくり返ったブリッツを、入れ違いに頭上から飛び込んだシェリル機の斬機刀が地面に縫い付けるように串刺した。
「ヒー兄……あと、よろしく……!」
「言われなくても、ね」
動けなくなったところにウェスペル・リィンとスパチュラの銃砲撃が叩きこまれると、文字通り跡形もなく粉砕されていた。
「本体とは別の方向から、オブジェクトに近づいたらどうだろうか? 今までの様子なら、トーチが目に付く範囲にさえいれば新しく転移して来た敵もまとめてこちらで引き受けられるだろう」
「誘蛾灯ならそれらしく、敵の目についてこそか……」
そう語るヒース機の傍に着陸して、アウレールは勢いの止まない敵勢へ絶えずトリガーを引き続ける。
このままではジリ貧になって行くのは目に見えていた……なら少しでも早くこの作戦の本懐を遂げるために動くのはもっともだ。
そのためならば、多少危険を冒す価値はある。
「私なら……まだまだ大丈夫。ヒー兄が一緒なら、やられるつもりも……やらせるつもりもない」
小刻みなスラスター噴射で回り込むようにしながら、別のブリッツを仲間達の方へと追い立てるシェリル。
そこをアーサーの波動銃の光が貫いて、敵はボロボロと身を朽ちさせていった。
「俺とアウレールとで交互に使えば、トーチも想定の倍の時間は持つ。なぁに、引き付けた敵に囲まれて死ぬなんてこたぁ、誰一人として許さねぇさ」
「もちろん、そんな事はさせません」
そう口にしたアーサーの言葉にミオレスカが頷いて、一同の覚悟は決まった。
同隊は再び進路を変更し、背方向に見えるオブジェクトの側面へとその矛先を向ける。
「了解、本体へ伝えるぜ。私らが今からシェオルを引き受ける。その隙に――」
――オブジェクトを潰せ。
上空の小さな浮遊大地にふわりと1体のグリフォンが舞い降りて、その背から小柄な少女が飛び降りる。
彼女――ソフィア =リリィホルム(ka2383)は、グリフォン「風月」へ岩陰から周囲を警戒するよう言いつけると、自らは崖っぷちに身を添えて眼下の戦場を見据えた。
(通信は受けていたけど、あの触腕は厄介だな……)
四方八方へ振るわれる無数の触腕は、ハンター達の抵抗で大分数を減らしていたものの、それでも攻撃及び防衛器官としての力を存分に振るっていた。
「それじゃ、わたしも動くとするか」
背負っていた大型の魔導銃を構えると、装弾を確認して慎重に狙いを付ける。
シェオルがこちらを狙う様子は見受けられない。
それは彼女の種族が戦況の中でそうさせていることを、彼女自身、十分に承知してのことだった。
「使えるモンは全部、すべからく、最大限に使っていかねーと……“あざとく”って生きられねーんだぜ?」
風を切って飛翔する銃弾が鈍い衝撃音を発し、蝕腕の1本が根本から切断されてはらりとはじけ飛ぶ。
直後に飛来した光線が足元の地面を揺らして、彼女は咄嗟に岩肌にしがみ付いて振り落とされるのを耐えた。
「風月っ、次の地点に行くよっ!」
その掛け声にグリフォンは甲高く呼応して、彼女を背に乗せ異界の空を飛翔する。
幸いこの空間に似たような浮遊大地は数多に存在している。
敵に狙われることがないのなら、狙撃ポイントに困ることはない。
「6時の方角、仰角修正……放てッ!」
アルトの叫びと共に戦場に火炎が走る。
その炎は多くのシェオル・ノドを巻き込んで地面ごと燃え上がったが、炎のカーテンの先からなおも走り寄る敵勢を前に、アルト自身も刀を抜き放って戦場へ踊り出る他なかった。
「自立機械のような連中だ……!」
骨鎧に残火をまとったシェオルを一刀で切り伏せ、振り向きざまにもう1体を横薙ぎにぶった切る。
代わりに何本もの爪が一斉に彼女の頭上に降りかかるが、戦域を包み込んだローエンの鎮魂歌が敵の狙いを鈍らせて、1本たりとも彼女の肌を掠めることはなかった。
「どうやら彼らの中に定められた優先目標順に、最も短絡的な方法で動いているようだね。こうして“僕らが狙われている”というのが何よりの証拠だ」
万歳丸のスキル――知性のない者には効果がない――に反応がなかった事からも、シェオル型に知性はないとわかる。
何らかの個体が指揮を執っているわけでもないのなら、刷り込まれた目的……本能に従い行動しているだけなのだろう。
アルトの感じた「自立機械のよう」という手応えは、かなり実態に近い。
退路確保のためにリューリやセレス、その相棒たちもまた必死に護ってくれてはいるが、こうしてひとところに居るうちでは全く相手にされている様子がない。
その分だけ自由に動けるため背中を預けるにはこれ以上なくありがたいことではあったが、それでも集られるというのはやはりうっとおっしいものだ。
「ごめんなさい、ローエンさん! アルトちゃん! 2人が囮みたいに……」
申し訳なさそうに語り掛けるリューリに、ローエンはにこやかに微笑み返す。
「なに、構わないよ。背中はしっかり護ってくれると信じているからね」
「もちろん、あたしもヤタもヘマはしないよ」
上空を巡回するセレスも頷いて、彼は満足げに視線を地上へと戻す。
「遮蔽壁をうまく使ってくれ。僕らの役目は倒れないことであり、敵を殲滅することじゃないからね」
「ああ、分かっている」
低く腰を落として刃を脇に構え、アルトは眼前の敵越しにいまだ健在のオブジェクトを視界に収める。
「皆が返ってくるまで、倒れるつもりは毛頭ない――」
●
「おや、シェオルが引いていくね……?」
周辺から移動していくシェオル型の姿を狙撃モードのカメラ越しに認めて、真水はポツリと驚いたように零す。
「先行隊が別方向からオブジェクトへ接近して追加で発生するシェオルも引き付ける、と連絡があった。その間にオブジェクト破壊してくれ――とな」
ルナリリルの応答に、真水は思わず緊張を解いたように笑みをこぼす。
「なるほど……ヒースさんもまだまだやれるってことだね。当然か」
「ありがたい。こちらもようやく準備が整ったというものだ」
機動兵器群の影に隠れて魔力を研ぎ澄ませていた大二郎は、これ好機として杖先に溜め込んだマテリアルを一気に放出する。
「研究というものは一の成功のために千、万の失敗を積み重ねることをいう。つまるところ、その根気こそが最大の才とも言えるかもしれんな」
マテリアルは彼の頭上で巨大な3つの火球を成して、今にも弾けんばかりに膨れ上がる。
その太陽のごとき輝きに厚い眼鏡を怪しく光らせながら、振るうワンドの動きに合わせて火球はオブジェクトへ向けて解き放たれる。
巨大な爆炎が異空間全土を赤く照らし、熱波が荒野の上を駆け巡っていた。
やがて煙が晴れていくと、巨大な剣のその表面には、グズグズと燃え落ちて霧散していく大量の触腕が力なく垂れ下がっていた。
その様子に、ルナリリルはコックピットで小さく口笛を吹く。
「前面触腕の消失を確認。やるじゃないか」
「聞いたな! 今が好機だ、行くぞ……ッ!」
オウカの王牙が斬艦刀を振り回して、そのまま切っ先をオブジェクトへ向けて突きつける。
それに続くように、本隊のハンター達は一斉にオブジェクトの懐へと飛び込んだ。
「3度目の正直――行きなさいッ!」
Is Reginaから放たれた対VOIDミサイルが噴煙をなびかせてオブジェクトへ着弾する。
現存する背面の触腕は防御壁の構築に間に合うことがなく、爆炎と共に大きな焼け痕がその表面に大きな印を残した。
「効いてるじゃんか! ボクも景気よくぷっぱなしちゃうよ!」
接近しながら次々とプラズマグレネードを放り込むハンス。
待ちに待った機に他の機体からも一斉に火砲が放たれ、爆音と爆炎が絶えずオブジェクトを包み込む。
「残ったシェオルを狩るぞ、グレン! アニスはしっかり捕まっていろ……!」
「はいっ、ヴァイスさん! ――プルガトリオっ!」
アニスの生み出した無数の刃がシェオル達へ向けて飛び交って、その手足を荒野に縫い止める。
「はぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
紅蓮の頭上から構えられた七支の槍が真紅のマテリアルを纏い、閃光となって進路上のシェオルを穿つ。
「さっさとぶっ壊して、こんな辛気臭い場所おさらばしようじゃん?」
開けた道の先にオブジェクトの根本までたどり着くと、ハンスのガルガリンはダメージで赤熱した破損面へ向けて王牙と同じ巨大な斬艦刀を突き刺す。
そのままグリグリと表面を抉るように刃を翻して、力技で傷口を押し広げて行った。
「各員、根元に攻撃を集中。射撃班は触腕の対応も頼むぞ。裏面のはまだ生きてるからな」
戦況報告を連ねながら自らの深紅の機体パピルサグXのカノン砲が火を噴いて、裏から伸びて来た蝕腕の伸長を寸前で押しとどめる。
ならばと、マテリアルエネルギーがオブジェクトの中心へと集まって、レーザー光となってハンター達の隊列を薙ぎ払う。
火柱と共に一文字の深い溝を荒野に描いたが、それを飛び越えて漆黒のオファニムがハンス機に並んで飛び込んだ。
「俺たちの世界を、これ以上奪わせはしない……!」
斬艦刀が、押し広げられた亀裂へと突き込まれる。
「左右から仕掛けるぞ、タイミングを合わせろ!」
「熱いねぇ。そういうの、嫌いじゃないよ」
2機は内側から対照的に軸足、継ぎ足と、揃って足元を踏み固めると、そのまま渾身の力で巨刀を左右へと振り抜いた。
ガリゴリと激しい破砕音を伴って宙へ投げ出された2本の切っ先。
オブジェクトの根元に、一筋の亀裂が走る。
「見事じゃ! 追の刃は任されたッ!」
星輝の声が轟いて、2機はスラスターを吹かして瞬く間に散開。
その視界が開けた先には、彼女の不敵な笑みが浮かび上がる。
「イスカ、内なる龍は寝てはおらんじゃろうな?」
「もちろんです、キララ姉さま」
膨大なマテリアルの放出を伴って、その身を半龍化させる星輝。
ゆったりとした踏み出しから岩盤を踏み抜く勢いで加速すると、その頭上でウィスカの生み出した無数の龍の牙爪が雨のように降り注いだ。
牙爪はまるで楔を打つように、次々とオブジェクトの亀裂へと突き刺さっていく。
一文字の傷が闇色のマテリアルで埋め尽くされたころ、十文字槍を振り上げた星輝が亀裂の眼前で大きく身を開く。
「――砕けよ」
足先から全身のバネを伝って放たれた穂先が、亀裂のど真ん中へと穿たれた。
同時にウィスカの牙爪がゴリっと最後の一押しめり込んで――ソードオブジェクトの根本が、砕けた。
「オブジェクトが、折れた――いや!?」
間近でその瞬間を見ていた錬は、ゆっくりと倒れていくその巨体に目を見張り……そして、目の前で起こったことに声を荒げた。
背面の触腕が一斉に地面へ向かって伸び、大地へと深く突き刺さる。
数多の細い“腕”に支えられたオブジェクトは、いまだにその身を横たえようとはしなかったのだ。
「そういうの、往生際が悪いって思うなぁ」
浮遊大地の上からその様子を眺めていたソフィアは、ため息交じりに魔導銃のサイトを覗き込むと、オブジェクトの傾き加減から1本の触腕へ狙いを定めた。
「――つうわけで、さっさとおねんねしなッ!」
銃弾は寸分違わぬ狙いで細い柱を貫いて、バキリと巨体の支えの1つが失われる。
最も体重が掛かっていたその1本を失ったオブジェクトは、自重に耐えられない触腕をへし折りながらついに荒野の上へと倒れ伏した。
「呵呵ッ! ようやくオレの目の前に伸びやがったなッ!?」
横たわるオブジェクトを直線状に、拳を引いて構える万歳丸。
練り上げたマテリアルが筋繊維を伝って拳へと注ぎ込まれ、煌々と黄金の輝きを纏う。
「未来の大英雄、万歳丸――推して参らァ!」
突き出された右ストレートのその先に、蒼い麒麟の姿をしたエネルギー体がオブジェクトを突き割って猛進する。
破片を飛び散らせながら穿たれたその傷にマテリアルの光が走って、それはやがて細かい亀裂となって巨体の全面に閃いた。
次の瞬間、巨大な爆炎が火柱となって異世界の空を貫いていた。
誰もがその光を追って天を仰ぐ。
見上げたその先で火柱が世界を覆う赤黒い靄をも貫くと、まるで鏡面に亀裂が入ったかのように、その靄が水晶玉にでも映し出されていたかのように、空間にヒビが入る。
それはみるみる四方八方へと広がって――パキンッ。
――空が、砕けた。
「世界が……崩壊するのか?」
呟いた錬の頭上から、結晶のような負のマテリアルの破片が降り注ぐ。
それは地面に激突する前にさらさらと霧散して、やがて大気中へと消えて行った。
「見えてるわね! 各員、直ちに退いてッ!」
弾かれたようにフィルメリアが叫んで、ハンター達は一斉に帰路へ――出口の方から発せられる、サーチライトへと撤退を開始する。
「まずいよ、足元の荒野も消えていってる!」
撤退宣言と共に合流した先行隊の中で、エニアが思わず声を上擦らせる。
浮遊大地も端から順に負のマテリアルとなって消失していくのが見え、彼らの心に急く想いを抱かせた。
一方で、世界の崩壊が始まっているというのにシェオル型がそれに巻き込まれ消えていくような気配はない。
いや、最期には共に砕けるのかもしれないが――その瞬間まで、自らが消えることも知らずにハンター達へと襲い掛かり続けているかのようだった。
「何事も最後が肝心ってね……!」
プラズマグレネードで進路を切り開きながら、フィルメリアは取り残されている仲間がいないか絶えず周囲へ気を巡らせる。
「殿は任せて! そのために必要分、ここまで温存して来たんだ!」
「全員で、無事にキャンプまで帰るんです……!」
スラスターで引き撃ちながら、エニアとミオレスカは追いすがる後方のシェオル達の足を引き留めていた。
爆炎に阻まれて足を止めた歪虚達は、地面の崩壊と共に奈落へと落下していく。
出口点の方では、オブジェクトと世界の崩壊を確認した4人が額に汗を浮かべながら本隊の到着を今か今かと待ちわびていた。
しかし消えないシェオルは相変らず攻撃の手を緩めず、息を吐くことすらままならない。
「セレスさん、みんなはまだ!?」
レイノに頭をかみ砕かれたシェオル・ノドへ素早い聖拳2連撃を浴びせながら、リューリは上空のセレスへと問いかける。
セレスは急降下と共に別の個体へ光の刃を突き立てながら、何度も部隊を送り出した方向を見やる。
「……まだ! 撤退は開始しているんだけど、もう少し……!」
ヤタの後ろ足が敵を蹴り飛ばして、ふらついたその姿をレイノが覆いかぶさって地面に叩き伏せる。
一方のリューリは大斧で敵の爪を防ぐと、そのままレイノが捉えたシェオルへと飛び寄って拳を叩き込んだ。
「あと少しだ、ここを持ちこたえれば……!」
「分かってるよ、アルトちゃん! でも、そろそろ世界の方が……!」
既に空の一部は形を失って、似たような色の“本物の空”が覗いている。
あとどれだけ、この空間が持つものか。
「――見えたよ!」
セレスが叫んで、3人は弾かれたように進路を見やる。
そこには残存のシェオルを蹴散らしながらやってくる本隊の無事な姿があった。
「急いで、出口はすぐそこだ!」
ローエンのゴーレムがサーチライトで突入口を照らし、ハンター達は次々と靄の中へと飛び込んで異空間を脱していく。
指折り人数を数えながらちゃんと全員が外へ脱したのを確認して、リューリはぐっと拳を握り締めた。
「やった……完全勝利っ!」
脱出の際、最後に振り返って見た虚無の世界には、ダイヤモンドダストのように赤黒いマテリアルが煌めきながら舞っていた。
天上はなく、浮島から下方へ覗く奈落にも底はない。
ただ赤黒い靄のような空間がはるか先に広がっているだけ。
陽の光も無い。
だが、暗いわけでもない。
それはまさしく悪夢の光景を体現しているかのような、不可解で、歪な空間だった。
「今後のためにもじっくり観察したいところですが、そうもいかないようですね」
閉じていくハッチの下で、メアリ・ロイド(ka6633)はシートに身を沈めながら採集したマテリアルのカートリッジをダッシュボードのソケットへ放り込む。
ベルトで身体を固定して、装着したバイザーの画面をのぞき込むと、既に動き出したシェオル型歪虚達の姿がそう遠くない位置に展開しているのが目に入った。
死肉のような黒い身体に骨のような鎧をまとった彼らは、ガシャリ、ゴキリ、と不快な音を立てながら侵入者たちへと迫る。
「かははっ、粋がいいじゃねぇか! 楽しい苦難の旅路になりそうだぜ」
「苦難と為すか、希望と為すか――どちらにせよ、我々は進むしかない」
愛機ドゥン・スタリオンのコックピットで首の節を鳴らすアーサー・ホーガン(ka0471)同様に、アウレール・V・ブラオラント(ka2531)も自らの機体ザントメンヒェンの中で程よい緊張感を瞳に宿していた。
一方でワイバーンのグラウに跨って、立ち並ぶユニット群の肩口辺りを飛び回るシガレット=ウナギパイ(ka2884)は、丸めた手を望遠鏡のようにして片目で覗き込みながら、戦場一帯に視線を巡らせる。
「直線だな。どこを行ったって敵の数は変わりゃしねぇ。下手に迂回するよりゃ、突っ切った方が早そうだ」
「了解。真っすぐ行って、真っすぐ帰る。分かりやすくていいんじゃねーの?」
スイッチが入るのを感じながらメアリが操縦桿を握り締めると、一思いにフットペダルを踏み込んだ。
蓄積されたエネルギーがスラスターから一気に放出され、銀色の機体・サンダルフォンが荒野を蹴る。
「サーチライト、投射します!」
ローエン・アイザック(ka5946)の指示で、彼のノームが担いだ大型探照灯を虚無の中央方向へと投射。
帰還の際の道しるべとするためだった。
「派手に行くぜ! それが俺たちの仕事だ!」
サンダルフォン同様に第一線に飛び出したドゥン・スタリオン、そして続くザントメンヒェンの2機が激しく立ち上るマテリアルのオーラを纏うと、前方のシェオル達の視線が一斉に自分達の方へ向いたのを機体ごしにピリリと感じる。
「退けッ! ここは我々の進むべき道だ……ッ!」
アウレール機のライフルから放たれた弾丸が、突出するシェオル・ノドの鎧を打ち砕く。
衝撃で一瞬ひるんだように見えた敵は足を大きく開いて踏みとどまると、風穴の開いたままの身体で再び進軍を始めた。
「見た目同様のバケモンか。容赦がなくて、いいじゃんかよ」
グラウの火炎球が最前線で爆ぜ、ハンター達の進行方向を赤く染め上げる。
なおもシェオル・ノドらは残火から足を踏み出して見せたが、サンダルフォンの担ぐプラズマキャノンが立て続けに追い撃って先頭の1体が消し飛んだ。
「やってやれない敵じゃないじゃんか」
「当然だ。この程度で根をあげてる暇はねぇぞ」
ドゥン・スタリオンの波動銃が、翡翠色のマテリアル光をその銃口に宿す。
直後、放たれた熱線が切り開かれた戦端を貫いた。
敵陣の穴に後続の4機のオファニムが飛矢のように飛び込んで、出来上がった突破口を支える。
「前線の突破を確認したよ。本隊は続いて!」
前線の状況を聞き及んだセレス・フュラー(ka6276)が叫ぶと、十数名のハンター本隊が進軍を開始した。
既に四方八方に散見されるシェオル達は後続のハンター達へも狙いを定めて火弾を放つが、ローエンのノームが構築した遮蔽壁に出鼻を護られながら着々と先行部隊の後を追って虚無を進む。
「仰角修正――よし、放てッ!」
ヴォルカヌスのゴーレム砲が唸りをあげて、放たれた炸裂弾が進軍する本隊をさらにシェオル達の接近から守る。
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は続けて次の放火点を見据えて、ゴーレムへと指示を加えていく。
自分達の役割は、この撤退ポイントを守り続ける事。
だが無事に送り出すことも重要な役目の1つである。
「囮役の人たちはうまく敵を引き付けてくれてるみたいだね!」
「そうだね。だが、彼らが十分に離れれば孤立するのは僕らの方だ。嵐の前の静けさ――というやつだろうね」
相棒のイェジト、レイノと共に周囲の警戒に努めるリューリ・ハルマ(ka0502)へローエンが比較的にこやかに、だけど説法のようにしっかりとした口調で言い添える。
「無理せずに行こうか、僕らはここに死にに来たわけではない」
「もちろん、遠足気分ってわけじゃないけどさ。でも興味は尽きないよね、この空間ってさ」
セレスは後方に控えさせていたグリフォン、ヤタの背に飛び乗ると、ひと羽ばたきのうちに異空間の空へと飛び立つ。
あらためて眺めても、この空間は「この世」のものではないことはひと目で断言できる。
ではここが「あの世」なのか。
それもまた違うだろう。
歪虚の目的は世界を無へ帰すこと――と言われている。
無とは空虚……すなわち「あの世」という概念すらもなく、宗教観すらも超越した真実の“消滅”がその先にはあるはずなのだ。
「だったら……ここは何なんだろうね」
カシャリ、とスマートフォンのシャッターが切られる。
「あっ、私も撮る! 忙しくなってきたら時間無さそうだもんね」
リューリもまたスマホを取り出して、地上からパシャパシャと周囲の光景をファインダーへと収めていく。
画面に映るのは、荒涼の浮遊大地を進むCAMやハンター達の姿とシェオル型歪虚、そして巨大なるソードオブジェクト――。
●
先行部隊を発端に切り開かれた前線は、シェオル型歪虚を引き寄せながら地道に――だが着実にオブジェクトへの距離を縮めていた。
人間種であるアーサーとアウレールが宿すスキル「ソウルトーチ」によって直近の歪虚は有無を言わぬ勢いで彼らに引き寄せられ、逆に歪虚達の狙いが定まっているからこそ周りの者達も確実にその進路を予測し対処することができている。
「対象までもう少しです!」
ワイバーン、ウイヴルの騎上から発せられるUisca Amhran(ka0754)の通信に、先行隊、そして本隊は一路足を速める。
「そろそろ効果が切れる! 敵のヘイトが分散するぜ!」
「了解。ここからはボクらの仕事だねぇ、ウェスペル・リィン」
アーサーからの通信に応えるヒース・R・ウォーカー(ka0145)は、それまで狙撃戦用に展開していたシステムを中距離戦のそれへと切り替える。
愛機ウェスペル・リィンのカメラも広角へと移ったのを視認して、スカートスラスターへ火を灯した。
「シェリー、ついて来れてるかい?」
「えっ……あっ……うん、大丈夫……むしろ、私が前衛だから……ついて来て貰うのは、そっち?」
「言い得て妙だねぇ。確かに、言う通りだ」
から笑いをしながらトリガーを絞ると、群れから飛び出したシェオル・ノドの振り上げた腕が鋭い銃弾で打ち抜かれ、弾ける。
大きく開いたその身体にシェリル・マイヤーズ (ka0509) 機の携える斬機刀の切っ先が吸い込まれると、そのまま質量とブースターの圧力に任せて一思いに振り抜いた。
腹から肩に掛けてを深く抉られた敵は、マテリアル光をなびかせながら消滅していく。
「いいタイミングだ。流石だねぇ」
「ありがとう、その……ヒー兄。後ろは……任せるから」
「……ああ、兄、か。なかなかどうして、悪くない心地だねぇ」
続く側面の敵へ銃口を向けながら、彼の機体はその名の如く、宵の帳となって赤烈の大地に舞う。
「――思ってたより、ここまでの損傷は軽微だね。順調……だと思いたいかな」
最前線からは一歩引いた位置からプラズマキャノンを放る十色 エニア(ka0370)は、目視で被害状況を確認しながら期待と不安の入り混じった心中でその緊張を保っていた。
はたと戦場を俯瞰すれば、眼前に迫りつつあるソードオブジェクトの周囲では絶えず渦巻くマテリアルの雲が発生しては、その中から新たなシェオル・ノドが浮遊大地を踏みしめる。
時間を掛ければ、瓦解するのは間違いなくこちらの方だ。
「あれは……これまでの歪虚とは違う、異質の何かなのでしょうか?」
不安の織り交じった言葉を添えて、ミオレスカ(ka3496)機スパチュラの狙撃砲が一つ覚えのように直線的に攻めてくる敵を1体1体、確実に狙い撃つ。
この銃が、自分の力が通じるうちは、まだ戦える。
だが、もしそうでない敵がこの先に待ち受けているとしたら――たられば話だとは分かっていても、「未知」への漠然とした恐怖を知性体は拭い去ることができない。
それは海辺の潮が満ちるように、それと知れず、だが確実にハンター達の足元からまとわりついてくるのである。
「もう十分だろう! 俺たちはこれから敵を引き付けて別進路を取る! 残存部隊の健闘を祈ってるぜェ!」
「すまない! おかげでほぼ無傷でここまで来ることができた! そちらの部隊の無事を祈る……!」
シガレットの通信にオウカ・レンヴォルト(ka0301)が答えると、先行隊はオブジェクトを大きく迂回するように進路を取った。
「ここからが正念場だ……みんな、覚悟はできてるな?」
「そういうのって、逆に士気が落ちるもんだと思うぜ?」
メアリにへらへらと返されて、アウレールは思わず噴き出しながら不敵に笑みを浮かべる。
「戦場へ来たら、やったか、やれなかったかのどっちかだ。そこに覚悟なんて関係ねぇ」
「では、行くぞ……!」
ドゥン・スタリオンとザントメンヒェンがソウルトーチの炎に包まれる。
周囲のシェオル型の視線が一斉に彼らの方へ向き、その進路へ向かって一斉に移動を始めた。
それはさながら羊飼いのように――いや、羊は自分たちであって周りは全て牧畜犬であるかもしれない。
だが、彼らが引き連れたその先には僅かに残った歪虚と大きく開いたオブジェクトへの道が残される。
「ヒースくん――また後で」
先行隊として離脱していくヒース機の背に投げかける南條 真水(ka2377)の言葉。
「ああ、また後で」
ヒースの返したそれは、取りとめもないいつも通りの会話。
それだけで十分なのだと2人は知っている。
「なんだアレは……ソードオブジェクトと言うから刀剣の類かと思っていたが、まるで――いや、外に例えようはない。だが……」
その全容が明らかになってくるにつれて、神城・錬(ka3822)の表情は徐々に曇っていく。
「剣」と呼称するのが最も近しい呼び名であることに変わりはないだろう。
だが、決してそれは何かを切るために生み出されたような形はしておらず、それどころか用途として「剣」であるかどうかすら定かではない。
刀工である彼だからこそ、その異様さ、違和感は人一倍に強く感じるものだ。
「時間を掛ければそれだけこちらが不利になる……先行隊の作ってくれた機会を逃さないためにも、あれが何であろうと迅速に破壊するだけよ」
フィルメリア・クリスティア(ka3380)の魔導型デュミナス、Is Reginaに搭載された対VOIDミサイルがアクティブになり、ロックオンマーカーが青色に点灯する。
バックブラストを伴って射出されたミサイルは、オブジェクトの中心へ着弾して巨大な爆炎を伴って炸裂した。
ド派手な先制攻撃に一帯は眩い閃光に包まれる。
それをロータス・クイーンのカメラを利用して観測していたルナリリル・フェルフューズ(ka4108)は、やがて閃光が、そして爆炎が晴れていったその先の光景に思わず目を疑った。
「……嘘だろう?」
着弾点を覆うようにして現れた格子状のシールド――否。
オブジェクトから無数に発せられた蝕腕が格子状に組み合わさって壁となり、ミサイルのプラズマバーストを防いでいたのだ。
「無傷……? い、いえ、あの触腕もオブジェクトの一部と考えれば……損傷軽微っ!」
ウィスカの伝令に、ハンター達は一斉に言葉を失った。
それどころか、その体表から放たれたレーザーがハンター達を襲う。
ウィスカはそれを縫うようにしてオブジェクトの周辺まで飛び込むと浄化の歌を奏でていた。
が、それも目立った効果はなく、せめて情報を得る「目」だけでも――と周辺に式神を放つ。
ハンター達も、動揺こそ走っても不慣れな事態というわけではない。
各自すぐに意識を切り替えると、射撃部隊の放火が始まっていた。
「初撃を防いだくらいで……もとより、出し惜しむ気はないわ」
Is Reginaの構えるガトリングガンが、帯状の炸裂音を伴って放たれる。
それに続いてライフルが、キャノン砲が、飛竜のブレスが瞬く間にその巨体に集中する。
再び数多の爆炎に包まれるオブジェクトだったが、包み込んだ噴煙が吹き消えたその先にあるのは無傷と言っていいほど目立った破損が見受けられない姿であった。
「触腕……! あの無数の触腕が、こちらの攻撃を全て防いでます! そんな、信じられない……!」
式神を通して着弾の瞬間を目撃したウィスカは確かに見た。
触腕の1つ1つが俊敏に動いて、銃砲弾の1つ1つをそれはもう丁寧に弾くのを。
時に先ほどと同じように格子を組んで、キャノン砲の爆炎を防ぐのを。
それどころか、周囲を飛び回る彼女目がけて数多の触腕が襲い掛かり、慌ててトンボ返るのを余儀なくされた。
「つまるところ、あれらを何とかせん限りは本体にダメージは入らぬ……ということかのう?」
「ふむ、カラクリさえ分かれば造作もないことだ」
星輝 Amhran(ka0724)の分析に、久延毘 大二郎(ka1771)は実に興味深げに頷いて見せた。
「出たのは鬼でも蛇でもなく烏賊か蛸の類……いや、磯巾着か? とにかく、私の知らないものがあった。それで十分だ。知った以上は、あとは“仕事”にかかろう」
講義のように口にして、ワンドの先にマテリアルを宿す大二郎。
それは徐々に徐々に、風船ように膨れ上がっていく。
「ついては、狙える者は触腕の破壊。難しい者は――あちらを何とかしてもらえると効率がいいところだな」
そうこうしている間にも、オブジェクトの周囲には新たに発生したシェオル型がその数を増やしてハンター達へ進軍を始めている。
先ほどまでのシェオル・ノドだけではなく、敵も自らに肉薄されていることを理解しているのか、生み出された大型の髑髏ムカデ――シェオル・ブリッツもその首をもたげて長い身体と数多の足をうねらせていた。
「シェオル型は引き受ける、蝕腕は頼んだ!」
オウカ機、王牙が地を蹴って、フライトフレームの推進力を利用してシェオル軍への距離を一瞬で詰め寄る。
「斬り伏せる……止めてみろ!」
勢いのまま振り抜かれた斬艦刀がシェオル・ノドの胴を抉る。
文字通り皮一枚繋がっているように上半身が傾きながらも迫る敵に、万歳丸(ka5665)の拳が叩きこまれていた。
「おう、シェオル型とか言ったか。オレとちょいと、知恵比べしようや……フンッ!」
知恵比べ――とは似ても似つかない見事なサイド・チェストを決めた彼の身体が眩い閃光を放つ。
その光を受けたシェオル・ノドたちは、その肉体美に酔いしれ――ることはなく、全く動じずに彼の姿をもみくちゃに取り囲んだ。
「はっはっ! 知恵はないか! そうか! なら大五郎、馬鹿にも理解できる歌を聞かせてやってくれィ!」
相棒であるユグディラの大五郎はコクリと頷くと、シェオル達の爪の猛攻へ甲拳で応戦する万歳丸もろとも幻惑の旋律が包み込んだ。
途端にシェオル達はだらりと両手を垂れ下げ、何をするでもなくふらりふらりと辺りをうろつき始める。
万歳丸自身は気合いと筋肉で歌の幻惑を撥ね退けると、その横を2人乗りのイェジドが駆け抜けた。
「万歳丸、助けはいるか!?」
口にしながら騎上から振り回したヴァイス(ka0364)の槍の柄が、敵の一体をなぎ倒す。
「なに、今しがた必要なくなったところだ!」
「それはすまなかった……アニス、頼めるか?」
「はい、もちろんです」
ヴァイスの背に身を預けるアニス・エリダヌス(ka2491)が携えた錬金杖に祈りを捧げると、万歳丸にヴァイス、その相棒たちも含めて傷が癒されていく。
「微力かもしれませんが、これで……」
「いや、相伴に預かった! この通りだ!」
ヴァイスが叩き伏せた個体を追いの一撃で粉砕してみせる万歳丸。
その瞳には、先に群がる大勢のシェオル型の姿が映る。
「時間なんて掛けたくないのにさ。さっさとぶっ壊してやろうじゃん」
ガルガリンのハンドガンに備えられたグレネードをオブジェクトへ放りながら、ハンス=シュミット(ka1820)は嫌々気に眉間に皺を寄せる。
爆炎は例によって防がれてしまうも、触腕自体はボロリと綻びを見せて確かなダメージが入っていることを認識させられる。
近寄れさえすれば本隊に直接グレネードを叩きこむなり、斬艦刀の刃を叩きこむなり何とでもしようがあるものを、これでは時間ばかりかかって仕方がない。
そんな射撃部隊の足元へ、可能な限りオブジェクトへの接近を試みていた星輝が、浮かない顔で帰還する。
「――だめじゃ。外面上は只の1つの物体……まさしく1枚刃の剣と言ったところか。触腕を駆逐して、隙を見て本体のどこかへ攻撃を集中し、活動停止になるまで攻撃を加えるしかないかのぅ」
「良くない方の知らせだな。下手したら消耗戦になる。先行隊は大丈夫か?」
『やれるだけやってるけど、この敵だ。こっちも消耗戦になったらどこまで持つか分からないぜ』
ルナリリルのトランシーバーごしのメアリの声には、まだずいぶん余裕があるようにも聞こえる。
だが、ドカン、ガキンと機体が揺れる音が雑音として響いている分には、嘘偽りのない言葉であることは容易に想像できた。
「――だ、そうだ。各員、やることは分かったな?」
彼女の問いかけに、真水はオファニムのコックピットで小さくため息をついてみせる。
「了解。もとより、出し惜しむつもりの南條さんではないけれ、ど……」
うわの空のように口にしながら、その瞳はバイザー越しに複数のロックオンマーカーが点灯する。
「タイミング合わせ……3……2……1……シュート」
担いだプラズマキャノンが閃光を放つ。
唸りをあげて飛翔する砲弾は、その射線上の触腕を纏めて貫いていった。
●
「――って言う状況だって話。もうしばらく頑張れってことじゃねーの?」
別動隊との通信内容を伝えるメアリの言葉に、シェオル・ノドに四方八方を囲まれたアーサーはニヤリと歯を見せる。
「無茶言うじゃねぇか、無理じゃねぇがな!」
「アーサー! 飛び退けッ!」
アウレールの通信にアーサー機が体格差に任せて無理やり包囲を突破すると、その頭上を舞ったザントメンヒェンがシェオル達に影を差す。
ガンポッドとライフルの掃射が空中から軍勢を襲い、手負いになった敵をシガレットの駆るグラウがブレスで纏めて焼き尽くした。
「あっちもシェオルが増えてるって話だろ? 流石にこの距離じゃ新たに転移してきたヤツらはトーチに魅かれないだろうしよォ、一旦引き連れなおすか……?」
「それだと、今引き連れてる敵があっちに合流してしまう危険も……ううん、本当に数だけは一向に減らないんだ……ねっ!」
担いだキャノンをノンアクティブにしながら、装備ハンガーから引き抜いたランスを群がる鎧骨歪虚へと突き立てるエニア機。
その足元にムカデ型のブリッツが巻き付いて、彼はランスのブースターで咄嗟に振り払いながら距離を取る。
投げ出されてひっくり返ったブリッツを、入れ違いに頭上から飛び込んだシェリル機の斬機刀が地面に縫い付けるように串刺した。
「ヒー兄……あと、よろしく……!」
「言われなくても、ね」
動けなくなったところにウェスペル・リィンとスパチュラの銃砲撃が叩きこまれると、文字通り跡形もなく粉砕されていた。
「本体とは別の方向から、オブジェクトに近づいたらどうだろうか? 今までの様子なら、トーチが目に付く範囲にさえいれば新しく転移して来た敵もまとめてこちらで引き受けられるだろう」
「誘蛾灯ならそれらしく、敵の目についてこそか……」
そう語るヒース機の傍に着陸して、アウレールは勢いの止まない敵勢へ絶えずトリガーを引き続ける。
このままではジリ貧になって行くのは目に見えていた……なら少しでも早くこの作戦の本懐を遂げるために動くのはもっともだ。
そのためならば、多少危険を冒す価値はある。
「私なら……まだまだ大丈夫。ヒー兄が一緒なら、やられるつもりも……やらせるつもりもない」
小刻みなスラスター噴射で回り込むようにしながら、別のブリッツを仲間達の方へと追い立てるシェリル。
そこをアーサーの波動銃の光が貫いて、敵はボロボロと身を朽ちさせていった。
「俺とアウレールとで交互に使えば、トーチも想定の倍の時間は持つ。なぁに、引き付けた敵に囲まれて死ぬなんてこたぁ、誰一人として許さねぇさ」
「もちろん、そんな事はさせません」
そう口にしたアーサーの言葉にミオレスカが頷いて、一同の覚悟は決まった。
同隊は再び進路を変更し、背方向に見えるオブジェクトの側面へとその矛先を向ける。
「了解、本体へ伝えるぜ。私らが今からシェオルを引き受ける。その隙に――」
――オブジェクトを潰せ。
上空の小さな浮遊大地にふわりと1体のグリフォンが舞い降りて、その背から小柄な少女が飛び降りる。
彼女――ソフィア =リリィホルム(ka2383)は、グリフォン「風月」へ岩陰から周囲を警戒するよう言いつけると、自らは崖っぷちに身を添えて眼下の戦場を見据えた。
(通信は受けていたけど、あの触腕は厄介だな……)
四方八方へ振るわれる無数の触腕は、ハンター達の抵抗で大分数を減らしていたものの、それでも攻撃及び防衛器官としての力を存分に振るっていた。
「それじゃ、わたしも動くとするか」
背負っていた大型の魔導銃を構えると、装弾を確認して慎重に狙いを付ける。
シェオルがこちらを狙う様子は見受けられない。
それは彼女の種族が戦況の中でそうさせていることを、彼女自身、十分に承知してのことだった。
「使えるモンは全部、すべからく、最大限に使っていかねーと……“あざとく”って生きられねーんだぜ?」
風を切って飛翔する銃弾が鈍い衝撃音を発し、蝕腕の1本が根本から切断されてはらりとはじけ飛ぶ。
直後に飛来した光線が足元の地面を揺らして、彼女は咄嗟に岩肌にしがみ付いて振り落とされるのを耐えた。
「風月っ、次の地点に行くよっ!」
その掛け声にグリフォンは甲高く呼応して、彼女を背に乗せ異界の空を飛翔する。
幸いこの空間に似たような浮遊大地は数多に存在している。
敵に狙われることがないのなら、狙撃ポイントに困ることはない。
「6時の方角、仰角修正……放てッ!」
アルトの叫びと共に戦場に火炎が走る。
その炎は多くのシェオル・ノドを巻き込んで地面ごと燃え上がったが、炎のカーテンの先からなおも走り寄る敵勢を前に、アルト自身も刀を抜き放って戦場へ踊り出る他なかった。
「自立機械のような連中だ……!」
骨鎧に残火をまとったシェオルを一刀で切り伏せ、振り向きざまにもう1体を横薙ぎにぶった切る。
代わりに何本もの爪が一斉に彼女の頭上に降りかかるが、戦域を包み込んだローエンの鎮魂歌が敵の狙いを鈍らせて、1本たりとも彼女の肌を掠めることはなかった。
「どうやら彼らの中に定められた優先目標順に、最も短絡的な方法で動いているようだね。こうして“僕らが狙われている”というのが何よりの証拠だ」
万歳丸のスキル――知性のない者には効果がない――に反応がなかった事からも、シェオル型に知性はないとわかる。
何らかの個体が指揮を執っているわけでもないのなら、刷り込まれた目的……本能に従い行動しているだけなのだろう。
アルトの感じた「自立機械のよう」という手応えは、かなり実態に近い。
退路確保のためにリューリやセレス、その相棒たちもまた必死に護ってくれてはいるが、こうしてひとところに居るうちでは全く相手にされている様子がない。
その分だけ自由に動けるため背中を預けるにはこれ以上なくありがたいことではあったが、それでも集られるというのはやはりうっとおっしいものだ。
「ごめんなさい、ローエンさん! アルトちゃん! 2人が囮みたいに……」
申し訳なさそうに語り掛けるリューリに、ローエンはにこやかに微笑み返す。
「なに、構わないよ。背中はしっかり護ってくれると信じているからね」
「もちろん、あたしもヤタもヘマはしないよ」
上空を巡回するセレスも頷いて、彼は満足げに視線を地上へと戻す。
「遮蔽壁をうまく使ってくれ。僕らの役目は倒れないことであり、敵を殲滅することじゃないからね」
「ああ、分かっている」
低く腰を落として刃を脇に構え、アルトは眼前の敵越しにいまだ健在のオブジェクトを視界に収める。
「皆が返ってくるまで、倒れるつもりは毛頭ない――」
●
「おや、シェオルが引いていくね……?」
周辺から移動していくシェオル型の姿を狙撃モードのカメラ越しに認めて、真水はポツリと驚いたように零す。
「先行隊が別方向からオブジェクトへ接近して追加で発生するシェオルも引き付ける、と連絡があった。その間にオブジェクト破壊してくれ――とな」
ルナリリルの応答に、真水は思わず緊張を解いたように笑みをこぼす。
「なるほど……ヒースさんもまだまだやれるってことだね。当然か」
「ありがたい。こちらもようやく準備が整ったというものだ」
機動兵器群の影に隠れて魔力を研ぎ澄ませていた大二郎は、これ好機として杖先に溜め込んだマテリアルを一気に放出する。
「研究というものは一の成功のために千、万の失敗を積み重ねることをいう。つまるところ、その根気こそが最大の才とも言えるかもしれんな」
マテリアルは彼の頭上で巨大な3つの火球を成して、今にも弾けんばかりに膨れ上がる。
その太陽のごとき輝きに厚い眼鏡を怪しく光らせながら、振るうワンドの動きに合わせて火球はオブジェクトへ向けて解き放たれる。
巨大な爆炎が異空間全土を赤く照らし、熱波が荒野の上を駆け巡っていた。
やがて煙が晴れていくと、巨大な剣のその表面には、グズグズと燃え落ちて霧散していく大量の触腕が力なく垂れ下がっていた。
その様子に、ルナリリルはコックピットで小さく口笛を吹く。
「前面触腕の消失を確認。やるじゃないか」
「聞いたな! 今が好機だ、行くぞ……ッ!」
オウカの王牙が斬艦刀を振り回して、そのまま切っ先をオブジェクトへ向けて突きつける。
それに続くように、本隊のハンター達は一斉にオブジェクトの懐へと飛び込んだ。
「3度目の正直――行きなさいッ!」
Is Reginaから放たれた対VOIDミサイルが噴煙をなびかせてオブジェクトへ着弾する。
現存する背面の触腕は防御壁の構築に間に合うことがなく、爆炎と共に大きな焼け痕がその表面に大きな印を残した。
「効いてるじゃんか! ボクも景気よくぷっぱなしちゃうよ!」
接近しながら次々とプラズマグレネードを放り込むハンス。
待ちに待った機に他の機体からも一斉に火砲が放たれ、爆音と爆炎が絶えずオブジェクトを包み込む。
「残ったシェオルを狩るぞ、グレン! アニスはしっかり捕まっていろ……!」
「はいっ、ヴァイスさん! ――プルガトリオっ!」
アニスの生み出した無数の刃がシェオル達へ向けて飛び交って、その手足を荒野に縫い止める。
「はぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
紅蓮の頭上から構えられた七支の槍が真紅のマテリアルを纏い、閃光となって進路上のシェオルを穿つ。
「さっさとぶっ壊して、こんな辛気臭い場所おさらばしようじゃん?」
開けた道の先にオブジェクトの根本までたどり着くと、ハンスのガルガリンはダメージで赤熱した破損面へ向けて王牙と同じ巨大な斬艦刀を突き刺す。
そのままグリグリと表面を抉るように刃を翻して、力技で傷口を押し広げて行った。
「各員、根元に攻撃を集中。射撃班は触腕の対応も頼むぞ。裏面のはまだ生きてるからな」
戦況報告を連ねながら自らの深紅の機体パピルサグXのカノン砲が火を噴いて、裏から伸びて来た蝕腕の伸長を寸前で押しとどめる。
ならばと、マテリアルエネルギーがオブジェクトの中心へと集まって、レーザー光となってハンター達の隊列を薙ぎ払う。
火柱と共に一文字の深い溝を荒野に描いたが、それを飛び越えて漆黒のオファニムがハンス機に並んで飛び込んだ。
「俺たちの世界を、これ以上奪わせはしない……!」
斬艦刀が、押し広げられた亀裂へと突き込まれる。
「左右から仕掛けるぞ、タイミングを合わせろ!」
「熱いねぇ。そういうの、嫌いじゃないよ」
2機は内側から対照的に軸足、継ぎ足と、揃って足元を踏み固めると、そのまま渾身の力で巨刀を左右へと振り抜いた。
ガリゴリと激しい破砕音を伴って宙へ投げ出された2本の切っ先。
オブジェクトの根元に、一筋の亀裂が走る。
「見事じゃ! 追の刃は任されたッ!」
星輝の声が轟いて、2機はスラスターを吹かして瞬く間に散開。
その視界が開けた先には、彼女の不敵な笑みが浮かび上がる。
「イスカ、内なる龍は寝てはおらんじゃろうな?」
「もちろんです、キララ姉さま」
膨大なマテリアルの放出を伴って、その身を半龍化させる星輝。
ゆったりとした踏み出しから岩盤を踏み抜く勢いで加速すると、その頭上でウィスカの生み出した無数の龍の牙爪が雨のように降り注いだ。
牙爪はまるで楔を打つように、次々とオブジェクトの亀裂へと突き刺さっていく。
一文字の傷が闇色のマテリアルで埋め尽くされたころ、十文字槍を振り上げた星輝が亀裂の眼前で大きく身を開く。
「――砕けよ」
足先から全身のバネを伝って放たれた穂先が、亀裂のど真ん中へと穿たれた。
同時にウィスカの牙爪がゴリっと最後の一押しめり込んで――ソードオブジェクトの根本が、砕けた。
「オブジェクトが、折れた――いや!?」
間近でその瞬間を見ていた錬は、ゆっくりと倒れていくその巨体に目を見張り……そして、目の前で起こったことに声を荒げた。
背面の触腕が一斉に地面へ向かって伸び、大地へと深く突き刺さる。
数多の細い“腕”に支えられたオブジェクトは、いまだにその身を横たえようとはしなかったのだ。
「そういうの、往生際が悪いって思うなぁ」
浮遊大地の上からその様子を眺めていたソフィアは、ため息交じりに魔導銃のサイトを覗き込むと、オブジェクトの傾き加減から1本の触腕へ狙いを定めた。
「――つうわけで、さっさとおねんねしなッ!」
銃弾は寸分違わぬ狙いで細い柱を貫いて、バキリと巨体の支えの1つが失われる。
最も体重が掛かっていたその1本を失ったオブジェクトは、自重に耐えられない触腕をへし折りながらついに荒野の上へと倒れ伏した。
「呵呵ッ! ようやくオレの目の前に伸びやがったなッ!?」
横たわるオブジェクトを直線状に、拳を引いて構える万歳丸。
練り上げたマテリアルが筋繊維を伝って拳へと注ぎ込まれ、煌々と黄金の輝きを纏う。
「未来の大英雄、万歳丸――推して参らァ!」
突き出された右ストレートのその先に、蒼い麒麟の姿をしたエネルギー体がオブジェクトを突き割って猛進する。
破片を飛び散らせながら穿たれたその傷にマテリアルの光が走って、それはやがて細かい亀裂となって巨体の全面に閃いた。
次の瞬間、巨大な爆炎が火柱となって異世界の空を貫いていた。
誰もがその光を追って天を仰ぐ。
見上げたその先で火柱が世界を覆う赤黒い靄をも貫くと、まるで鏡面に亀裂が入ったかのように、その靄が水晶玉にでも映し出されていたかのように、空間にヒビが入る。
それはみるみる四方八方へと広がって――パキンッ。
――空が、砕けた。
「世界が……崩壊するのか?」
呟いた錬の頭上から、結晶のような負のマテリアルの破片が降り注ぐ。
それは地面に激突する前にさらさらと霧散して、やがて大気中へと消えて行った。
「見えてるわね! 各員、直ちに退いてッ!」
弾かれたようにフィルメリアが叫んで、ハンター達は一斉に帰路へ――出口の方から発せられる、サーチライトへと撤退を開始する。
「まずいよ、足元の荒野も消えていってる!」
撤退宣言と共に合流した先行隊の中で、エニアが思わず声を上擦らせる。
浮遊大地も端から順に負のマテリアルとなって消失していくのが見え、彼らの心に急く想いを抱かせた。
一方で、世界の崩壊が始まっているというのにシェオル型がそれに巻き込まれ消えていくような気配はない。
いや、最期には共に砕けるのかもしれないが――その瞬間まで、自らが消えることも知らずにハンター達へと襲い掛かり続けているかのようだった。
「何事も最後が肝心ってね……!」
プラズマグレネードで進路を切り開きながら、フィルメリアは取り残されている仲間がいないか絶えず周囲へ気を巡らせる。
「殿は任せて! そのために必要分、ここまで温存して来たんだ!」
「全員で、無事にキャンプまで帰るんです……!」
スラスターで引き撃ちながら、エニアとミオレスカは追いすがる後方のシェオル達の足を引き留めていた。
爆炎に阻まれて足を止めた歪虚達は、地面の崩壊と共に奈落へと落下していく。
出口点の方では、オブジェクトと世界の崩壊を確認した4人が額に汗を浮かべながら本隊の到着を今か今かと待ちわびていた。
しかし消えないシェオルは相変らず攻撃の手を緩めず、息を吐くことすらままならない。
「セレスさん、みんなはまだ!?」
レイノに頭をかみ砕かれたシェオル・ノドへ素早い聖拳2連撃を浴びせながら、リューリは上空のセレスへと問いかける。
セレスは急降下と共に別の個体へ光の刃を突き立てながら、何度も部隊を送り出した方向を見やる。
「……まだ! 撤退は開始しているんだけど、もう少し……!」
ヤタの後ろ足が敵を蹴り飛ばして、ふらついたその姿をレイノが覆いかぶさって地面に叩き伏せる。
一方のリューリは大斧で敵の爪を防ぐと、そのままレイノが捉えたシェオルへと飛び寄って拳を叩き込んだ。
「あと少しだ、ここを持ちこたえれば……!」
「分かってるよ、アルトちゃん! でも、そろそろ世界の方が……!」
既に空の一部は形を失って、似たような色の“本物の空”が覗いている。
あとどれだけ、この空間が持つものか。
「――見えたよ!」
セレスが叫んで、3人は弾かれたように進路を見やる。
そこには残存のシェオルを蹴散らしながらやってくる本隊の無事な姿があった。
「急いで、出口はすぐそこだ!」
ローエンのゴーレムがサーチライトで突入口を照らし、ハンター達は次々と靄の中へと飛び込んで異空間を脱していく。
指折り人数を数えながらちゃんと全員が外へ脱したのを確認して、リューリはぐっと拳を握り締めた。
「やった……完全勝利っ!」
脱出の際、最後に振り返って見た虚無の世界には、ダイヤモンドダストのように赤黒いマテリアルが煌めきながら舞っていた。
リプレイ拍手
のどか | 18人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!