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【反影】グラウンド・ゼロ「未確認飛行物体迎撃」リプレイ

作戦3:未確認飛行物体迎撃 リプレイ

鵤
鵤(ka3319
マッシュ・アクラシス
マッシュ・アクラシス(ka0771
???
???
シャンカラ
シャンカラ(kz0226
藤堂研司
藤堂研司(ka0569
アーク・フォーサイス
アーク・フォーサイス(ka6568
ムラクモ(ワイバーン)
ムラクモ(ワイバーン)(ka6568unit002
キヅカ・リク
キヅカ・リク(ka0038
フィーナ・マギ・フィルム
フィーナ・マギ・フィルム(ka6617
レム・フィバート
レム・フィバート(ka6552
クラン・クィールス
クラン・クィールス(ka6605
氷雨 柊
氷雨 柊(ka6302
ヴァルナ=エリゴス
ヴァルナ=エリゴス(ka2651
リュー・グランフェスト
リュー・グランフェスト(ka2419
シエル(ワイバーン)
シエル(ワイバーン)(ka2419unit004
岩井崎 旭
岩井崎 旭(ka0234
ロジャック(ワイバーン)
ロジャック(ワイバーン)(ka0234unit002
蜜鈴=カメーリア・ルージュ
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
天禄(ワイバーン)
天禄(ワイバーン)(ka4009unit003
ユリアン
ユリアン(ka1664
ラファル(グリフォン)
ラファル(グリフォン)(ka1664unit003
鞍馬 真
鞍馬 真(ka5819
カートゥル(ワイバーン)
カートゥル(ワイバーン)(ka5819unit005
夢路 まよい
夢路 まよい(ka1328
イケロス(グリフォン)
イケロス(グリフォン)(ka1328unit002
エヴァンス・カルヴィ
エヴァンス・カルヴィ(ka0639
八島 陽
八島 陽(ka1442
リリティア・オルベール
リリティア・オルベール(ka3054
倶利伽羅(ワイバーン)
倶利伽羅(ワイバーン)(ka3054unit001
ロニ・カルディス
ロニ・カルディス(ka0551
夜桜 奏音
夜桜 奏音(ka5754
ジャック・エルギン
ジャック・エルギン(ka1522
ボルディア・コンフラムス
ボルディア・コンフラムス(ka0796
●赤き空へ
 龍園の主にして六大龍の一角・青龍をサブエンジンに搭載したサルヴァトーレ・ロッソは、宇宙から飛来する未確認飛行物体を迎撃すべく上昇を続けていた。
 鋼鉄の戦艦のカタパルトハッチから次々に射出されるのは、覚醒者を乗せた龍園由来のワイバーンや、帝国生まれのグリフォンといった幻獣達。何とも不思議な光景だが、これまでにハンターが地域や世界の枠を越え、様々な縁を繋いできたからこそ実現した作戦だった。
 射出時の強烈なGと風圧に耐え、辿り着いた空の高み。風に細めていたまぶたをこじ開けた時、誰もが異様と偉容に息を飲む。
 その眺めの異常さたるや、
「やーねぇおっさん、とんでもねぇトコ来ちまったんじゃねーのぉ?」
 働きたくないと公言してはばからない鵤(ka3319)に、嫌でも働かなくてはいけなくなる予感で溜息つかせる程だった。
 マッシュ・アクラシス(ka0771)も風で乱れた前髪を払い、表情は崩さぬまま、けれど若干のなげやりさを声に滲ませて言う。
「何と戦うのかわからないのが困りものですなあ……」
 不気味な赤に染まった空。そこへ更なる上空から降下してくる、圧倒的な大きさを持つ銀色の何か。
 未確認飛行物体と聞けば、おおよその蒼界出身者が思い浮かべるだろうオーソドックスな銀の円盤。それだけ見れば無機物のようだが、銀のボディから伸びる幾多の触手は粘膜質めいていて生物のようでもある。
 『ボディ』を現す字として、『機体』が正しいのか『胴体』が妥当なのかすら悩ましい有様だ。
 ともかくその巨大な母艦を守るよう、無数の小型円盤が先行して押し寄せてくる。いち早くロッソから射出された龍騎士達へ、円盤群が放つ光弾が降り注いだ。
「第二隊は速やかにこの一群の討伐を!」
「行くぞォお前ら、後続の体勢が整うまで手出しさせンな!」
 シャンカラ(kz0226)の指示で、年長龍騎士・ダルマを先頭に龍騎士達が駆ける。
 空戦に慣れた彼らは巧みに敵を囲い込み、一斉にブレスを浴びせた。
 敵の動きを観察していたシャンカラの許へ、揃いの金眼をしたムラクモに乗るアーク・フォーサイス(ka6568)と、スカーフを巻いた竜葵に跨る藤堂研司(ka0569)がやって来た。
「シャンカラ!」
「ああ追いついた、ありがとう竜葵! 龍園の皆! すまない、ちょっとお願いが!」
 ふたりはシャンカラの傍に飛龍を寄せ、ハンター達で立てた作戦を伝える。
 作戦は、ハンター達が母艦対応と円盤対応とに分かれ、龍騎士隊は円盤対応者と共に円盤討伐へ、グリフォン隊はロッソの護衛と負傷者の回収に当たるというものだった。
 更に母艦対応者達が母艦を押さえ込んだ所で、ロッソに主砲を撃ち込んでもらうのだと。
「あのバカでかいのに攻撃を仕掛けるチャンスを作るために、小さいのを抑えないといけない。お願いだ、俺と一緒に円盤どもを倒しにきてくれると凄く嬉しい!」
 シャンカラは目を伏せ逡巡したが、それは一瞬だった。
「分かりました。共に円盤討伐に当たりましょう」
 そこへ、通信機からキヅカ・リク(ka0038)の声が響く。
『こちらキヅカ、グリフォン隊とロッソの承諾は取り付けたよ。あとフィーナさんの護衛をお願いしたくて』
 周囲を見回したアーク、上空にフィーナ・マギ・フィルム(ka6617)の姿を見つけ指し示す。
 そう、龍騎士より後発であったはずの彼女はあっという間に交戦中の円盤群をすり抜け、更にその上の空域を駆けていた。そんな離れ業を可能にしているのは、彼女を乗せた黒き飛龍・Schwarzeの機動力だ。そのスピードにシャンカラは目を瞠る。
「彼女ですか。ハンターさんの方で護衛に当たる方は何名でしょう?」
『それが……』
 リクの声が忍びなさそうに揺れた。フィーナの護衛に当ってくれる者を募ってはいたが、それに応じる声はなかったのだ。
 理由はおそらくSchwarzeの突出した機動力だろう。足が遅くなることを極端に嫌うというSchwarzeは、装備を最低限に抑え、誰よりも速い移動を可能としている。
 しかしそれに追いつけぬのでは護衛の役目は果たせないし、護衛と足並みを揃えるためにはSchwarzeの機動力を削ぐ事になる。
 とはいえ、飛行に長けた龍騎士言えど同等の機動力を有す者は一握り。かつ護衛という役目を負うに足る強者となると隊長格くらいなものだ。ましてやハンターからの要請で護衛につけるのだから、シャンカラとしても生半な者を出すわけにはいかない。
「ダルマさん!」
 ダルマを呼び戻すと委細を話し、彼に加え、機動力では劣るが射程の長さでカバーできる射手2名を護衛に付ける事になった。早速フィーナの許へ向かおうとするダルマをアークが呼び止める。
「シャンカラもダルマさんも、無茶するなとは言えないけど、しすぎたら駄目だからね」
 そう言ってふたりへ『キズナオール君』を投げ渡す。
「悪ィな、行ってくらァ」
 言い残して飛び去る背を見送るアークに、明るい少女の声がかかる。
「ふふーん、アーくんったら固くなりすぎだぞっ☆」
「レム。そう、だね」
 幼馴染のレム・フィバート(ka6552)へ、アークは小さく頷いた。けれど小さくなった彼らを仰ぐ横顔には、気遣わしげな色が濃く残ったまま。そんな風に護衛に発つ彼らを見つめているのは、クラン・クィールス(ka6605)も同様だった。
(龍騎士達か……あぁ、どうやら。アイツ等とは深く関わりすぎたか。……誰一人欠けずにいてくれたらと思ってしまう。……こんな戦場で、高望みも良いとこだろうに)
 危険な戦場だと言うことは、負のマテリアルで淀んだ酷い空気からも察せられる。それでも龍騎士達と縁を重ねてきたクランは、思わずにおれなかった。通信機を手にダルマへ語りかける。
「ダルマ、……死ぬな、ではお節介が過ぎるか。……任せたぞ」
『お前さんも、可愛い嬢ちゃん泣かすような真似すンじゃねェぞ』
 言われて傍らを見る。銀の髪の間から猫耳を覗かせた氷雨 柊(ka6302)は、彼とは対象的に下方のロッソを見下ろしていた。
「全員出揃ったようですよー。いよいよ、ですねぇ」
 言葉通り、グリフォンを駆るユノ(ka0806)が飛び出すと同時にハッチが閉ざされた。
「ああ。行くぞ柊」
 ふたりはグラムとフラルを急がせ、共に母艦対応に当たる仲間達に合流した。
 偵察を行っていたフィーナから通信が入る。
『敵は今、大きく分けて3層に分かれています。下層は龍騎士達が交戦中。中間層は徐々に降下中、下層の加勢に加わるつもりでしょう。上層は母艦を囲むように展開、母艦の表面から次々に湧き出しています……母艦西側、少し層が薄いでしょうか』
 それを受けリクが動く。槍先に旗を括った聖槍を高々と掲げ、
「これより母艦西側から円盤群突破を試みます! まずは母艦対応者、円盤対応者一丸となって敵群突破。母艦からの雷撃にはくれぐれも注意して、兆候があれば即散開!」
『了解!』
 一斉に勇ましい応えが上がり、いよいよ空戦の幕が切って落とされた。

●風の加護
 ロッソ上空で交戦開始したその時、ユノはロッソの傍にいた。錬金杖の先から風の力を持つマテリアルを練り、ロッソの巨大な機体を包み込むよう懸命にイメージする。
 ユノの出撃が最後だったのには理由があった。青龍と艦長のダニエル・ラーゲンベック(kz0024)にある確認をしていたのだ。
 母艦からの雷撃に何らかの属性がありそうかと、ロッソへウィンドガストを付与するのは可能かどうかを。
『属性があったかは定かでないな』
「ハンターの技に関しちゃあ、お前さんらの方がほっぽど詳しいんじゃねぇか?」
 二者の回答では判然としなかったが、やれそうな事はやってみる事にする。ユノがマテリアルを放つと、清らな風がロッソを包んでいった。
「でーきたっ♪」
 ロッソが術の対象外ならば発動すらしなかったろう。この術の対象は『味方』『1体』。ただ、ロッソは確かに1体(艦)ではあるが、いかんせん大きさが大きさだ。
「どこまでカバーできるかわかんないけどー……でもロッソにも使えるってわかったのはしゅーかく収穫っ!」
 ぎゅっと拳を握ると、ロッソ近辺を固めるグリフォン隊へ元気に声をかける。
「敵の神風特攻警戒にはちゅーいしないとねっ。あと、機関部・艦橋・主砲なんかは優先して守ったほうがいいと思うんだー」
 あどけないユノが口にしたしっかりとした提案に、グリフォンを駆る騎士達は思わず顔を見合わせた。

●母艦への道
 研司は竜葵のスカーフを目印に、龍騎士達を先導し飛び出す。
「俺は皆にお願いした身……一番槍で道を作る義務がある! 藤堂号全開! 行こう竜葵!」
 防具P.B.W.で飛行要塞と化した竜葵を駆り、スキルアシストで弾数を増やしたダブルシューティングで射掛けていく。並走し先陣を切るのは、燐光の竜翼を背に現したヴァルナ=エリゴス(ka2651)だ。
「母艦対応組の消耗を抑える為――大物への道を切り開きますよ、シエル」
 鮮やかな青き肢体のシエルに合図し、唇から仲間を鼓舞する歌を紡ぎ出した。彼女の援護を受けたレムとアークは、ワイバーン達のスキルを温存するべく拳で、刀で、円盤達を叩き落とす。
 だが母艦対応者達も黙って見てるわけではない。
 リュー・グランフェスト(ka2419)は青龍を搭載したロッソを振り向くと、剛刀「大輪一文字」を掲げ一礼。
「赤龍に託された者として、同じ戦場に立てるのは光栄だ」
 今は亡き赤龍と剣を交えた者だからこそ、思う所もあるのだろう。託された意志と力が込められた額の装飾に触れ、シエルで駆けがてら近くの円盤を斬り捨てる。
 岩井崎 旭(ka0234)も「彼」に託された竜環を輝かせ、ロジャックと空を往く。
「なんか死んだ世界、みてーな感じだな。そんで、ここでも戦闘か! 行くぜロジャック!」
 そうして手近な円盤を幻影の手で捕獲。高強度の移動不能をかけられた円盤は、真っ逆さまに墜落していった。その姿が点になるまで見届けてから、通信機で仲間達へ呼びかける。
「子機円盤の抵抗力はさほどでもないみたいだぜ。移動力を奪っちまえば墜落させられる!」
 一行はトランシーバーで通信手段を揃えていたため、情報はすぐ戦場全域共有された。
 この高空域での墜落は命取りだ。ホバリング可能なグリフォンでもない限り、移動し続けなければ即墜落状態に陥ってしまう。空戦に挑むなら肝に命じておかなければいけない制約のひとつだ。それをよく理解しているハンター達は、多くが移動不能に抵抗する手段を講じてきていた。翻せば、相手の移動を封じてしまえば墜落させられるという事。
 それを聞いた蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は、咥えた煙管を唇から離し、細く紫煙を吐く。
「左様か。なれば母艦への作戦も期待できそうじゃな」
 愛しげに漆黒の天禄の首を撫でながら、呪歌を紡ぎ円盤達に氷の呪縛を科していく。
「私達も行くよ、カートゥル」
「ラファルのデビュー戦だ。存分に力を揮おう!」
 龍を愛する鞍馬 真(ka5819)、そしてまだ数少ないテイマーであるユリアン(ka1664)は、相棒に声をかけ突き進む。真は魔導剣から放つ衝撃波とカトゥールのブレスを使い分け、1体でも多くと敵を屠る。
 ユリアンはテイマースキル「オルオトロス」を発動し、ラファルと息の合った同時攻撃で敵群を打ち砕く。両者とも相棒と共に戦場を駆ける事に少なからず喜びを感じているようだ。
「クィールスさん、そちらお任せしますよぅ」
「柊も。無理はするなよ」
 柊とクランも死角を補い合い、仲間が拓いた道を押し広げていく。――と、急速に膨れ上がるマテリアルを感じ振り返る。夢路 まよい(ka1328)の錬金杖の先へ、夥しい量のマテリアルが集まっていた。
 瞳に強い煌めきを湛えたまよいは、濡れ羽色のイケロスに身を委ね、全神経を集中させる。ホバリング可能なグリフォンが相棒だからこそ、己の手番全てを用い術に専念できているのだ。
「ちょっと痛いわよ? 道を開けてもらうわね」
 杖を天へ翳せば、それに呼応し上空に炎球が出現。燃え盛る隕石のごとき3つの炎球が、往く手を阻む円盤どもへ降り注ぐ! 11体もの円盤を無に帰し、まよいはふぅっと額の汗を拭った。
「相変わらずハンパねぇな」
 殿で戦場把握に努めていたエヴァンス・カルヴィ(ka0639)、友人の繰り出した苛烈な魔術に思わず口笛を鳴らす。
「覚悟はしていたけど、飛行中に集中するのってホント大変ね」
 実は1回目発動できなかったの、と笑ってまよいは舌を出した。彼女の力量を知るエヴァンスは低く唸る。
「まよい程の実力者でもか、侮れねぇな」
 強力なスキルであればある程、発動には負荷を強いられる。ことメテオスウォームの命中負荷は凄まじく、高い命中精度を誇る彼女だからこそ発動可能な大技だった。
 飛行中は姿勢を維持するため、回避、受け、そしてあらゆる命中力が半減してしまう。現状ハンターにこの制約から逃れる術はない。その空中戦において、精度を落として強大な威力を持つ術を用いるか、威力を落として安定した精度を保てる術を用いるかは重大な選択と言え、どちらを選び取ったかはハンターによって異なっていた。これが後々戦局を左右する一因となる。
 すると軍用双眼鏡を覗いていた八島 陽(ka1442)が叫んだ。
「中層の敵がこちらへ雪崩れ込んでくるっ。数は80強!」
「あら、ちょっとやりすぎちゃったかしら?」
「構わんさ、どうせ全部叩き斬らなきゃならねぇんだ!」
 小首を傾げるまよい。エヴァンスは気を吐き、魔力の炎を纏う大剣を構えた。だが次の瞬間、頭上から雲霞のごとく押し寄せていた円盤達の半数以上が、突如向きを変えた。突破を狙う彼らを無視し、ある方向に飛び去っていく。
「何だ?」
 明は再び双眼鏡を覗き込み、円盤どもの行く先を見て息を飲む――そこには、母艦に接近するフィーナの姿があった。

●劫火と雷鎚
「近くで見るとますます大きいです……まるごと火の海にしてやりましょう」
 サイドワインダーを駆使したSchwarze、フィーナを乗せ見る間に母艦へ接近していく。風を裂いて飛ぶ黒き飛龍は、円盤どもの追随を許さない。彼女の行く手にいる敵は護衛の龍騎士が撃ち払う。
 ダルマは他のハンター達を振り返った。母艦・円盤対応者混合の部隊は足並みを揃え――機動力が少ない者に合わせる上、円盤どもを撃墜しながらなので、その進みは早駆けするフィーナに比べ随分遅いが――互いにフォローし合っている。お陰で今のところ大きな傷を負った者はなく、分断される懸念もない。突出具合を危惧した彼が声をかけようとした時、フィーナは母艦を射程に捉えた。
「一番槍はいただきます」
 3本携えてきた杖の内、炎の精霊の力を秘めた「セルマンシ」を握り術を構築していく。セルマンシのスキルアシストにより恐ろしく大きく、絶大な威力を持つ火球が宙に出現。一息に放てば、燃え盛る劫火が一瞬にして母艦の巨体を呑み込んだ! 触手が悶えるように蠢き、幾本かが灼き切れる。
「さあ、長居は無用……」
 Schwarzeの首を巡らせたフィーナの目に映ったものは、彼女と部隊の間に突如として現れた銀色の壁――否、彼女を部隊から切り離そうと押し寄せた幾多の円盤どもだった。
 母艦というひとつの個体から、生まれるか分裂するかして発生した円盤どもである。連携が取れているだろう事は事前に予想されていた。そこへ単騎突入すればどうなるか――あるいは偵察を捨て、速攻で一撃離脱していれば状況は違ったかもしれない。誰より早く駆ける彼女達は偵察の時点で目立っていたし、探っていた時間は敵に群がる間を与えてしまったのだ。フィーナはSchwarzeの回避力をもって切り抜けようと手綱を繰った。
「いけません、上です――!」
 母艦下部を探っていたリリティア・オルベール(ka3054)が異変に気付いた。母艦の滑らかな銀の腹一面に、網の目状の稲妻が奔る。次の瞬間、収束した稲妻が一筋の白閃となってフィーナへ伸びる!
「クソッ!」
 だが被雷間際、ダルマがフィーナの頭上へ割り込んだ。青龍のドラゴンスケイルをも貫通する雷に撃たれ、ダルマと彼の飛龍は声もなく墜ちていく。そしてまた、傍にいたフィーナとSchwarzeも。
「これ、は……麻痺……?」
 強烈な雷撃の余波を受け、全身が痺れ行動も移動もままならない。移動力に重きを置いていたSchwarzeは姿勢制御を所持しておらず、為す術なく墜落していく。護衛の射手達が受け止めようと飛び出したが、待ち構えていた円盤どもが同時に光弾を放つ! 護衛諸共閃光に包まれたフィーナは、深い傷を負い意識を手放した。
 眉間に深い皺を刻んだロニ・カルディス(ka0551)が、通信機へ声を張る。
「何て事だっ……グリフォン隊に告ぐ。要救助者4名4騎、直ちに確保に向かってくれ!」
 30余騎のグリフォン隊を下方のロッソ付近に厚く配備していた事から、彼女達は全員無事に保護され、ロッソへ運び込まれた。
 序盤にして、強大な魔力を持つフィーナと、手練の龍騎士3名が戦線を離脱。けれど彼女に多くの円盤が引きつけられた分、他の戦域が手薄となり、戦線を押し上げる一助となった事もまたひとつの事実である。

●雷撃封じ
「やはりあの雷撃は厄介ですね……行きましょう、キヅカさん」
 夜桜 奏音(ka5754)はリクと頷き合い、母艦上空を目指す部隊から離れた。あの強力な雷撃を封じるための秘策が彼女にはあった。己が射程に捉えるべく駆ける。その時、母艦の底面に再び稲妻が閃いた。
「散開しろぉ!! 雷撃くるぞぉ!!」
 いち早く反応したジャック・エルギン(ka1522)の怒号が、通信機と魔導拡声器から飛ぶ。散り散りになる面々の中、
「怖や怖や……なれど、我等がやられたままで居ると思うでないよ」
 蜜鈴の艶やかな唇が再び呪歌を口遊む。
「彼方は光、此方は鏡、映す姿は誰そ彼と、歪む光は何処へと、さぁ泡沫の夢へと散り逝け――!」
 水鏡で雷撃の打ち消しを試みる。激しい抵抗。円盤どもの抵抗力は低いが、母艦は巨躯相応の力を有していた。
「ちぃ、流石に単独では敵わぬか」
 母艦底面を覆う稲妻の網が収束すると、轟音をたてロッソへ向かう! 今度は蜜鈴の下方で、ユノが雷撃にぶつけるようグラビティフォールを放つ。重力波で空間を歪め、進行方向をずらそうとしたのだが、轟雷は意に介さず突き進む。しかしロッソ自身が急加速しこれを回避、事なきを得た。
 誰もがホッと胸を撫で下ろす中、難しい顔で母艦を仰ぐ者達がいた。雷撃の射出口を探ろうと、母艦を観察していた者達だ。
 ジャックは顎に手を当て呟く。
「雷撃の前兆は、底面を覆うみてぇに奔る稲妻……それは間違いなさそうだ。けど俺の見間違いじゃなきゃ、さっきの雷撃と今の雷撃、発射場所がズレてなかったか?」
 その声を通信機が拾い、観察を行っていた他の面々に届けた。双眼鏡でくまなく下部を見まわしたリリティアが苦々しく答える。
「ええ。底面の稲妻が一点に収束し、雷撃に『成る』ようです。その一点は仰る通りズレていました。射出口と思しき部分は見当たりません……底面からならどこからでも撃てるという事でしょうか」
 陽も双眼鏡を下ろし息を吐いた。
「発射の時だけ射出機関を現す、という事でもないようだね」
 先程、水鏡――カウンターマジックで雷撃の打ち消しを図った蜜鈴が言う。
「ふむ。妾の水鏡は『抵抗』に遭いよった、つまり『発動はできた』のじゃ。なれば、レーザーなどといった射撃の類ではなく、魔術であるのじゃろう」
「『射出口』ではなく『発動起点』というわけですか……そしてその起点は不明、と。射出口であったなら、幾つであろうと破壊して回ろうと思ったのですが」
 リリティアは奥歯を噛み、神斬の柄を握りしめた。彼女の破壊力ならばその計画も遂行できただろう。しかしそれらしきものはなく、母艦下部の外観から得られる情報は殆どなかった。
 いよいよ混成部隊は母艦と同じ高度に到達した。この先分隊し、各々の役割に当たる事になる。すでに伸びてきた触手との戦闘が始まったらしい。派手な剣戟の音や爆発音が聞こえてくる。彼らは偵察を切り上げ、目的を同じとする仲間の許へ急いだ。
 一方、その場に留まる者もいる。奏音とリクだ。雷撃の出処を破壊する事が叶わないとなると、あとは術をもって防ぐしかない。雷撃の予兆を察知するためには、母艦の下方に位置取らなければならなかった。
 奏音の雷撃封じの秘策は、極めて高い集中力と大量の符を要する黒曜封印符。ふたりは銀のボディから僅か12mの距離まで肉薄する。すかさず太く長い触手が繰り出されたが、
「させないっ、ヤマテ!」
 銀河のやまてゃん――二度見必至の名ではあるが、実によく訓練され、高い防御力を誇るグリフォンである――通称ヤマテを駆るリクが受け止める。
「あまり離れないでくださいね。修祓陣から出ると効果が消えてしまいますから」
「ありがとう、助かるよ!」
 奏音の修祓陣で更に防御力を高めたリクとヤマテにとって、触手の一撃は脅威たり得ない。奏音は符を補充すると間近に迫った母艦底面に目を凝らす。そして――再び銀の表面が、放電するよう紫電を纏う!
「いきますっ」
 奏音は10枚の符を扇のように広げ、舞いめいた優雅な動きで陣を張る。それはさながら神楽舞。神道の流れを汲む旅巫女であった彼女は、たおやかに肢体を揺らし黒曜陣を展開した。途端、母艦の下部に閃いた稲妻が消える。
「……これで、しばらく雷撃を止められるといいんですが。キヅカさん、ヤマテさん、ボレアス……頼みましたよ」
 母艦の強い抵抗を必死に押さえ込む奏音。たちまち額に玉のような汗が浮かぶ。陣を張り続ける事に専念しなければならない彼女を守るため、リクと2頭は獅子奮迅の働きをみせた。その間、母艦対応者達が全員母艦上空へ抜けたことを確認したリクは、安堵に胸を撫で下ろす。
「良かった、皆抜けたね!」
 その時だ。大気が爆ぜるかのような、バチンッと大きな音がした。見れば奏音の放った符が残らず焼き切られている。
(狙うのはロッソか? いや、たったひとりで雷撃を封じたカノンちゃんを、母艦が警戒しないはずがない!)
 咄嗟に庇おうとしたリクだったが、彼女を守るため既に手番を消費していた彼には叶わなかった。
「……――!!」
 至近距離で雷撃を喰らった奏音とボレアスは、気を失い落下していく。
「カノンちゃん!」
 自らも雷撃の余波で麻痺したリクだったが、すぐにヤマテを姿勢制御で立ち直らせると、奏音を追おうとした。そこへグリフォン部隊から通信が入る。
『彼女達はこちらで受け止めましょう』
「くっ……頼んだよ!」
 リクは遠ざかる奏音から身を切るような思いで視線を外す。毅然と顔を上げ、仲間達が駆ける上方を仰いだ。

●作戦決行
 遂に母艦の上をとった母艦対応者達は、作戦通り一斉攻撃を開始した。
「デカい的だが、俺が良い目印を付けてやるぜ!」
 黒い大型ロングボウ「レピスパオ」を構えたジャックが吼える。熱帯びた鋼を思わす色の双眸で、蠢く触手の合間、銀のボディに狙いを定めた。母艦までの距離、およそ30メートル。ボウ自体は長い射程を持つが、万全を期すため、ジャックはあえてこの距離につける。そしてこの選択が功を奏した。
「行け――ッ!」
 裂帛の気合と共に射た剛力矢は、過たず滑らかな表面へ突き刺さる。ジャックの矢は、目標を揃えるしるべとなった。
「みんな今だ、敵の防御が下がってる内にっ」
「あの矢を目掛けて撃ち込むんだ!」
 更に上空から現状把握に努めていたロニも号令をかける。指示を出しつつ、彼は接近攻撃を得手とする者を中心にアンチボディを付与していく。
「あの辺りね? 任せて」
 まよいは再びイケロスのホバリングを活かし、集中で威力を高めた重力波を投げつける。その横でワイバーンの天禄を駆る蜜鈴、ほぅと息をつく。
「少々難儀じゃの……こちらは天禄の回避術を行使した手番でなければ、集中することもままならぬ。じゃが天禄、おんしは翼、妾は刃……此度も共に翔けようて」
 呪歌を紡ぎ、荘厳で生み出した黄金の果実を落とす。見目とは裏腹に強烈な威力を秘めたそれが接触すると、紫光の塊が母艦を呑んだ。
 しかしふたりの術を併せても、まだ母艦は止まらない。触手でハンター達を払いながら移動し、振り切ろうとする。
「オラオラぁ、俺達も打って出るぞシャル!」
 これまで極力スキルと体力を温存してきたボルディア・コンフラムス(ka0796)、ここで一気にマテリアルを開放した。
 屈強な身体を包む紅蓮のオーラを一層強くすると、魔斧「モレク」を振りかざし、果敢に触手の間へ飛び込んでいく。移動必須の制約を犯さぬよう、巧みにシャルラッハと己の技を繋げ、悪魔の名を冠した斧を思う様叩きつける!
「まだまだぁ!」
 続けて炎犬の祖霊をその身に降ろすと巨大化し、更に精度と威力を高め二連の全周攻撃『烽火連天』で周囲の触手を根本から断つ! 主から吹き出した炎のオーラに紅鱗を輝かせたシャルは、他者を巻き込まぬ位置取りし彼女をよく助けていた。
 遅れて合流したリリティアも、倶利伽羅と共に母艦の表を撫でるように飛ぶ。捕らえようと伸ばされる触手を難なく回避し、
「そんな動きでは、私達は捕まえられませんよ!」
 破格の破壊力を持つ神斬を水平に構え、触手の脇を抜けざま音もなく斬り捨てた。

 陽は母艦上空にやってくると、再び双眼鏡を覗き込む。
(母艦は無数の子機で何かを覆ったモノで、中身は歪虚ではないかも……)
 そんな仮説を胸に、この異様な敵の正体に繋がる手がかりはないかと、円盤が生ずる様に目を凝らす。母艦から離れた円盤のあった箇所を覗いてみたが、特にヘコみが生じている事もなく、奥が窺えるでもなかった。陽の様子に気付いたエヴァンスが声をかける。
「俺もさっきから円盤排出口的なモンがねぇか見てたんだけどよ、残念ながらねぇんだよ。アイツら母艦の表面のどこからでも出てきやがる」
 上空で管制の役割を果たしつつ、同様に観察していたロニも頭を振る。
「全くだ。円盤が生じる予兆と言えば、ほんの一瞬銀色の表面が沸騰するように膨れ上がるくらいなものだ」
 円盤が生じる箇所は特定できず、前兆もただの一瞬では対処しようがないと嘆息する。
「ハッチみたいなのがねーかなと思ったけど、それもねーんだよなぁ。ホント何なんだコイツ」
 そうぼやくのは旭だ。もし円盤を吐き出すハッチがあるならブレスを撃ち込んでやろう、どうにもならなきゃ突撃して乗り込んでやろうと腹括っていた旭は、やや肩透かしを食った風だった。
 そこへ、イットを駆る鵤の間延びした声が、通信機から流れてくる。
『ちょいとちょいとぉ、遠距離攻撃の一斉放火、手が足りないんですけどぉ? 触手うじゃうじゃしてるんですけどぉ? つか焼いても凍らせてもまた生えてくるんですけどぉ。おっさんが身ぃ削って多重性強化かけてるっつうのに、どういうことよ』
 それを聞き、リクは母艦全体を見渡せるよう高く飛翔した。作戦決行を告げる鏑矢となったジャックの一矢から約40秒――各自4度行動を起こせるだけの時間が経過しているが、触手の数は思うほど減っていなかった。鵤の言うように、攻撃手と手数が足りていないのだ。
 理由はいくつかあった。
 母艦に挑む面々は、初の大規模な空中戦とは思えぬほど、全員が空戦の制約をよく理解し墜落対策も準備していた。非常に優秀なハンター達と言える。だが相手は六大龍・青龍のスケイルを破る程の強大な敵。対するのはハンター十余名のみ。ロッソからの援護も、両騎士達の加勢は得られていなかった。
 その限られた人員で、『母艦に対する攻撃以外』を主眼に据えた者が多かったのも一因のひとつ。得体の知れぬ敵の情報を得、今の戦いのみならず後につなげようとする事は正しい。しかし偵察や警戒に注力すれば必然手数は減ってしまう。
 そして絶大な効果をもたらす代償に、強い負荷を強いる高度なスキル。優秀な能力のスキルであっても、命中精度が足らず発動できなければ結果手番のロスとなる。攻撃手が足りない現状、1つのロスが大きく影響した。
 こうしてハンター達の攻撃が途切れたすきに、母艦は新たな円盤を増産。母艦対応者の護衛に来たヴァルナに加え、仲間の援護や露払いを考慮に入れていたエヴァンスと真、クランと柊がその対応に回る事になり、一層母艦への攻撃手数が減ってしまっていたのだ。
 それにしても、ロッソからの支援も、両騎士達の加勢は得られていないのは何故なのか。更に上昇し戦域を広く視界に収めたリクは、事態を察し手綱を握りしめる。

 ――この状況下にあって、龍騎士達もグリフォン部隊も、そしてロッソも、ハンター達の作戦に則し、自分達に与えられた役割を変わらず遂行し続けていたのだ。

 これまで幾度もハンター達に助けられてきたダニエル艦長や両隊の騎士達は、ハンター達を信頼している。だからこそ『動けない』し『動かない』。
 ロッソの砲は沈黙を保ち、的にならぬよう低空での移動を繰り返している。合図があるまで待てと言われれば、待つ。墜落対策に相互フォローを厚くした一行の中、墜落する者が少なくとも、救助に備えよと言われれば低空で待ち構える。ハンターに寄せる絶大な信頼が、自己の判断よりも与えられた指示を優先させているのだった。

●空を幻獣と往くということ
 円盤対応を任された龍騎士と円盤対応者達は、母艦とロッソの間に展開していた。つまり母艦より下方であり雷撃の危険があるが、母艦対応者達と分断されるわけにはいかない。鵤の通信を耳にしたユリアンは眉根を寄せた。
「あちらも随分苦戦させられているみたいだ」
 言いつつもラファルのツイスターで3体の円盤を撃墜する。手近な円盤に飛び移り、直接精霊刀を叩き込めないか機会を伺うが、行きよりも戻りの事を考えると実行は難しい。断念せざるを得なかったが、ライフリンクでラファルと生命調和を可能にした彼は、ここまで危なげない戦いぶりを披露していた。
 研司の竜葵は再開した雷撃に脇を掠められたものの、姿勢制御で持ち直す。研司自身も強い精神力と豪運で麻痺を跳ね除け、鋭い眼差しで上空を見据えた。
「どうにかしないと……」
「けど、まだまだ円盤は出てきてますぞっ。これをどかーんとやっちゃわないとー……!」
 レムはシャンカラと共に戦うアークの傍にグレイアをつけると、ふたりを範囲に収めガウスジェイルを発動した。途端、彼らに向かっていた円盤群の光弾がレムへ引き寄せられていく。
「レム……!」
「レムさん、いけません!」
 アークとシャンカラが驚いてレムを振り返る。けれど彼女は力強い笑みを閃かせ、ぐっと親指を立てて見せた。
「アーくんはほら、ババーっと剣で薙ぎ払っちゃえ♪ れんけーは必要だけど、全部を意識しようとしたら剣が迷うってししょーに怒られるぞっ!」
「そうじゃなくて、こんなことしたらレムが……!」
「守るとかはレムさんにお任せなさい♪ だから、他のことは任せたねっ☆ それに、」
 レムはそこで言葉を切ると、幼馴染から龍騎士隊長へ視線を移し、にへっと眉尻を下げた。
「幼馴染が凹んでるのは見たくないのでー……ささっ、今のうちにずばーんと攻撃こーげきっ!」
「レムったら! 俺は……!」
 言いかけたアークの目の前で、強引に軌道を変えられた光弾が金剛で身を硬めたレムへ――否、グレイアへ次々に被弾した!
 ガウスジェイルは範囲内にいる他者への攻撃を、強制的に『発動者』へ引き寄せる効果を持っている。けれど騎乗中においては、騎乗者ではなくユニットが敵の攻撃を受けるという制約がある。『発動者』がユニットに騎乗していた場合も同様で、ユニットが受ける事になるのは変わらない。そして特殊な攻撃でもない限り、ユニットの急所に当たらなければ騎乗者にダメージが及ぶ事もない。
 なので攻撃は『発動者』のレムではなく、ことごとく彼女を乗せたグレイアへ向かってしまうのだ。
「おっとぉ、なら庇ってみせますぞっ!」
 レムはパリィグローブに展開した障壁で、グレイアを庇おうと試みる。――しかし、ここでもまた騎乗中の制約がレムを阻んだ。
 騎乗者とユニットは、ひとり分の手番を共有しており、さながらひとつの『個』であるように思える。けれど実際は生命力を異にする『別の個体』であり、騎乗したユニットを庇おうとするならば、割り込み行動で仲間を庇う時と同じく、相応の手番を消費しなければならない。
 加えて、グレイアはワイバーン。己の手番の内どこかで移動できなければ墜落してしまう。飛行中にユニットを庇う事はバランスの保持が困難であり、非常にリスキーな行為と言えた。
 アークもシャンカラもガウスジェイルは使えない。スキル効果を上書きし、彼女を守る事ができない以上、周囲の敵を必死に斬り伏せる事でしか援護する手立てがなかった。
 そこでふとアークが気付く。ガウスジェイルは、発動者が任意で引き寄せる攻撃を選択できたはずだと。
「レムッ、もういい! 充分だから!」
「…………!」
「レム!」
 しかしレムは攻撃を寄せ続け、効果が切れると再びガウスジェイルを発動させる。覚醒し、死への恐怖が薄れた彼女を、幼馴染とその友達を守るという強い意志が突き動かしていた。
(ごめんねグレイアくん……私も出来る限りカバーするからっ。もうちょっとだけ、あと少しだけ付き合って――!)
 そこへ彼女の死角となる真下から、1体の円盤が特攻を仕掛けてきた!
「――ッ!」
 あわやと思ったその時、円盤は血色の刃によって両断された。
「足元にはご注意を、ですな」
「せんぱいっ!?」
 駆けつけたのはマッシュだった。マッシュは負傷したレムより先に、真っ先にグレイアへヒールをかける。騎乗中の制約をよく理解しているようだった。それからレムを見やり溜息をつく。
「いやはや、どうも。後輩が無茶をしているようで」
「あははー……」
「笑い事ではありませんな。レムさんの事です、大方友人を守る為に無茶をしたんでしょう?」
 マッシュの琥珀色の瞳がアークを映す。アークはガウスジェイルの効果が切れたすきに周囲の敵を殲滅せんと――それがレムを守ることに繋がるのだから――ムラクモと駆けていた。けれどレムの瑠璃の瞳はシャンカラを映している。
「へへー。彼が怪我したら、アーくんが悲しむのでー……レムさんとしてはがんばっちゃったわけなのです」
 後輩の弁解を聞き、マッシュは再び深く息を吐いた。
「なるほど、なるほど。……いやはや、気付かないものですかね。少しは落ち着いてご覧なさいよ、彼のあの顔を」
 言われてレムは幼馴染に視線を移す。守ったはずの幼馴染は、何故か傷をおった自分よりも痛々しく顔を歪め、必死に刃を振るっていた。
「レムさんが傷つくのも、彼にとっては同じかそれ以上に悲しい事に違いな……おっと、これはお喋りが過ぎたようで」
 マッシュは自らのワイバーンをグレイアに寄せ、レムの手から強引に手綱をひったくる。そして驚く彼女に飄々と、
「ヒールの回数にも限りがありますからな。この辺りで退いておかねば、レムさんよりもワイバーンがロッソまで保ちますまい――レムさんを撤退させます。念のため私がロッソまで護衛につきますよ」
 言葉の後半をアークへ投げかける。アークは沈痛な面持ちのまま深々と頭を下げた。そうしてマッシュに伴われ、レムが戦場を離脱する。
 道中、強かなマッシュは、目の当たりにした騎乗中のガウスジェイルの効果や、ユニットを庇う行為のリスクなどを、仲間へ周知する事を忘れなかった。

●血路を拓け
 遠ざかるふたりを視界に捉えた研司は、竜葵の首をそっと撫でる。
「円盤対応者からも撤退者が出たのか……覚悟キメよう、竜葵。俺が敵を引き受けた分だけ母艦攻撃手が増える、そうだろ?」
 問いかけに竜葵は勇ましい鳴き声で答えた。研司は通信機を掴むと腹に息を吸い、両騎士隊の面々へ声を張り上げる。
「皆、交戦中ならそのまま抑えて! 手が空いてるなら母艦攻撃隊に手を貸して!」
「宜しいんですか?」
 傍にいたシャンカラが反応した。研司は勇ましくボウを掲げて見せ、
「俺と竜葵でもう一度血路を拓いてみせるよ! 何かお願いしてばっかで悪いんだけどさっ」
「いえ、そんな事は……けれど、」
 躊躇うシャンカラに、アークが頷きかける。
「俺も彼とここに残るよ。これ以上レムの……ロッソの方へ敵を近づけるわけにはいかないから」
 アークの金の獣眼に、揺るがぬ闘志が灯っていた。
「……では、小隊ひとつを連れていきます。おふたりとも、決して無理しないでくださいね」
 シャンカラは龍騎士達に号令をかけ、母艦へ向かう者、この場に留まる者それぞれに指示を飛ばした。ユノは先程やりとりした下方のグリフォン隊に向け、ぶんぶん手を振る。
「聞いたー? 加勢に行けそーな人は上がってきてほしいんだよー!」
 呼びかけに応じ、グリフォン隊の中でも機動力の高い者達が上昇して来た。
 言うなれば、ハンターによる指示の上書き。こうして両騎士隊から数名ずつ、母艦対応の加勢に向かう事となった。
「ありがとう皆! ここが勝負だ竜葵! 片っ端から叩き落とす!」
 荒々しく気合いを漲らせる研司に、寄ってきたユリアンが苦笑する。
「そんなに気負わずに。これだけ大規模な空中戦は初めての事だ。俺とラファルも、テイマーの技を存分に振るわせてもらうよ」
「よし、じゃあ行こう! 竜葵、ファイア!」
 徐々に集まりだした面々を警戒し、頭上へ円盤共が群がってきていた。先制、まずは竜葵が苛烈なブレスで風穴を開けた! その穴を押し広げるようムラクモも火焔を吐き、ラファルは巻き起こした竜巻をねじ込む! 更にユノが続く。
「まきこみちゅーいっ」
 注意を促してから火球を放り込んだ!
「行きます!」
 4人が穿った風穴から、騎士達は一気に敵群突破を狙う。彼ら自身も範囲攻撃手段を駆使し、群がる敵を蹴散らし進む。4人は彼らの殿を担うように移動すると、敵の層を抜けた所で振り返る。
「さあ狙ってこい! 人龍一体の極致を見せてやる! 俺を! 竜葵を! パリスの翼を! ナメるなぁぁっ!!」
 研司のデュナミスの苦い経験から生まれた頑強な鎧。それを纏った竜葵は、高く長く咆え、再びのブレスを吐きかけた。

●背を守る者達
 母艦上空。際限なく生み出される円盤達は、主に強力な範囲魔法を繰る術師達を狙っていた。それを懸命に斬り裂いていたエヴァンス、上がってくる騎士達を認めると周囲に声をかけた。
「もうじき援軍が来るな。よし、母艦対応に戻れそうな奴は戻ってくれて構わないぜ! あとは俺ひとりでも何とかなる、突撃時に接近職連中の道を拓く手も必要だろ」
 クランはまだ多数残っている円盤どもを見、微かに眉根を寄せたが、母艦対応の人手が足りないのは確かだった。
「……頼んだぞ」
「では行きましょうー」
 クランと柊は母艦上部へ向け降下していく。ヴァルナも超々重鞘に触れて頷き、
「分かりました。きっと皆さんの突撃路を拓いてみせましょう」
 シエルの手綱を繰り、クラン達の後を追った。そして最後に真も、それならばとカートゥルの首を巡らせた。――だがその数秒後。
「なっ!?」
 真は背後で燃え上がったマテリアルに驚き、振り返る。見れば、エヴァンスが燃え盛るマテリアルを身に纏い、危険な挑発を仕掛けていたのだ。母艦の巨体以外ほぼ視界を遮るもののない空において、それは術の名に違わず危険すぎる挑発だった。生体マテリアルに反応した円盤どもが、一斉にエヴァンスへ群がっていく!
「何を……! 私達を遠ざけておいて、ひとりで囮になる気か!」
 真はすぐさま引き返し、彼に向かう円盤へ衝撃波を撃つ。真に気付いたエヴァンスは、一瞬悪戯が見つかった子供のような顔をすると、すぐに不敵な笑みを浮かべる。
「いや何。ああは言ったが、母艦対応の連中の披露も溜まってきた頃だろう。俺の目算じゃ、援軍の到着を待ってちゃ間に合わねぇと思ったんでな」
「だからって!」
 エヴァンスは話を打ち切ると、円盤が密集した所をすかさずエボルグのファイアブレスで灼き尽くす。そして自らも残火衝天で幾多の敵を貫いた! しかし円盤どもは彼の燃やす激しいマテリアルに釣られ、後から後から群がってくる。遂には敵影に覆われ、エヴァンス達の姿が真の視界から消える。
「させないっ!」
 真は死に物狂いで魔導剣を振るう。この敵の壁の奥に彼がいる事を思うと、範囲攻撃は使えない。地道に斬り伏せるしかないもどかしさに、キツく唇を噛んだ。それならばソウルトーチを発動し、彼から円盤どもの目を奪おうと試みたが、空中における命中精度の負荷がそれを阻んだ。
 全周囲から降り注がれる光弾に、回避する場をなくしたエボルグは忌々しそうに唸る。そのうち幾つかは急所に入り、容赦なくエヴァンスの体力を削いでいった。
「無理させて悪いなぁエボルグ……無事還れたら特製ステーキ食わせてやるから、許せよ」
 その言葉を最後に、エヴァンスの声もエボルグの唸りも止んだ。青ざめる真。そして――ずるり、と、下方の円盤を押しのけるようにして、重症を負った彼らが墜ちていく。
 しかし円盤どもは、既に意識のない彼らへの攻撃を止めなかった。危険な挑発――ソウルトーチの恐ろしい所は、発動者が気絶しようと、万が一落命しようとも、効果時間の限り敵を引きつけ続ける事。
「くっ! こんな大事な時に、私は、私は……っ」
 真、動揺する心を必死に押さえ込み、体内に巡るマテリアルを燃やすイメージを思い浮かべる。ここで真がエヴァンスの術を上書きできなければ、すでに重体の彼らは更なる攻撃を受け、最悪の事態に陥る。
「頼むっ!」
 祈るように叫んだ時、真の身体を炎めくマテリアルが包んだ。途端、墜落するエヴァンスを追っていた円盤どもがいちどきに真を振り返る。
「……来い。これ以上仲間に手出しはさせない!」
 たちまち殺到する円盤ども。そして真は多くの円盤を道連れにして、やがてエヴァンスの後を追うように墜ちていったのだった。

●激突
 グリフォン隊へエヴァンスと真の救助を要請し終えたロニは、きつく眉を寄せ頭を振った。そこへ、母艦上空へ到達した騎士達が姿を現す。ロニはそっとラヴェンドラの肩へ手を置いた。
「……俺達も行こう、ラヴェンドラ。ここで手を止めるわけには……彼らの意志に報いないわけには、いかない」
 名が示す通り美しい薫衣草色をしたラヴェンドラは、主の憔悴を察し微かに喉を鳴らした。
「じゃあもう一度改めて! 頼むよ皆!」
 リクの合図で、触手を薙ぎ払っていた面々も一端上空へ離脱する。手勢が揃った所で、再度手筈通りに集中砲火を行うのだ。母艦上空に、もう円盤の姿はごく僅かだった。張り詰める緊張感。気配を察したか、母艦が触手を振り回したが、全員が見事にこれを回避した。そして。
「行こう――!」
 リクは聖槍を掲げ正義執行。周囲の仲間の力を高めた。
「おいおい、おっさんに無理させるんじゃねえよ? これっきりよ?」
 軽口を飛ばしつつ、鵤も複雑な文様を浮かべた魔導拳銃を媒体に、多重性強化を発動。それでも的確にイットに指示し、リクのコール・ジャスティスの範囲に被せぬよう気を払っているあたり流石だった。なおも範囲から漏れた仲間は、陽の多重性強化でカバーされた。
「目印の矢はー……まだ無事ですねぇ、助かりますよぅ」
 その恩恵を受けた柊、しぶとく刺さり続けていたジャックの矢を見出すと、すかさず同調し強化したモフロウを突撃させる。それが騎士達に目印を視認させるきっかけとなり、龍騎士達は飛龍のファイアブレスを、グリフォン隊は逆巻く風を一斉に叩きつけた! 同時に叩き込まれた範囲攻撃によって、矢周辺の触手がちぎれ飛ぶ。矢は射手の根性を継いだか、それでもなおそこにとどまり続けていた。
「おーおー、若いモンは元気だねぇ」
 先程触手が再生する様を見ていた鵤は、触手が失せた箇所を入念に氷弾で凍てつかせていく。
 まよいは再び集中、スキルアシストを使用し膨大なマテリアルを制御しきってみせた。
「全てを無に帰せ……ブラックホールカノン!」
 触手回避で移動をクリアした蜜鈴、集中しつつちらりと騎士達へ目をやった。
「龍の愛子達が来て居るのう……護ると誓うたのじゃ。皆、無事に帰してやらねば……勿論、我等ものう? ――『広がる枝葉、囲むは小さき世界、大地に跪き、己が手にした罪を識れ』」
 先程よりも強度と威力を増した『果実』は、まよいの放った紫色の巨球と共に、触手の消えた母艦の表へ激突! 一瞬の後、今度はロニのプルガトリオが炸裂した!
 重ねがけた高強度の移動阻害術の数々。飛び続けなければ墜落するのが空中戦の道理。だが母艦が激しく抗おうとしている気配が感じられた。
「いけません! 突撃路を拓きます、皆さんどうか続いてください!」
 ヴァルナは背の幻影の翼を、シエルの翼の動きにリンクさせるようにはためかせ、駆ける。この瞬間のために残しておいたとっておきの一撃を見舞うべく、綺羅びやかな魔剣を大きく引いた。
「行く手を塞ぐものは全て貫いてみせましょう――徹閃<ペネトレイト>!」
 切っ先から放たれたマテリアル光は、スキルアシストによって20メートルを優に超える光の槍となり、円盤や触手の残りを刺し貫く! 彼女が作った突撃口から、接近武器を携えた者達が次々に急降下を開始する。先行したのは旭とボルディア。ふたりは目的を果たすため、母艦の側面を滑るように位置へ着く。ジャックは仲間が斬り込むのに先駆け、再び貫徹の矢で母艦の防御力を削る。
「頼むぜ、シエル!! 仲間が拓いてくれた道だ、感謝は行動で示す!」
 剛刀を携えリューが往く。その刃には、ソウルエッジを使用し描いた紋章が浮かび上がっていた。彼は2ターンかけて緻密に術を重ねてきており、次に振るう一刀には何と、ケイオスチューンで延長した攻めの構えにソウルエッジ、更には行動阻害を与える心の刃、全ての効果が乗ることになる。それを、移動し続けなければならないワイバーンに騎乗しやってのけたのだから恐ろしい……否、頼もしい。
 垂直に降下し、母艦の脇をすり抜けざま、それらを積み重ねた一撃をスキルアシストで更に強化。気合い一閃紋章剣を繰り出す。
「覚えておけ! この世界は俺たちが救う、と! 貫け!! 天の竜槍<グングニル>!!」
 紋章剣『天槍』。またの名を竜貫。超々重鞘の効果で飛躍的に伸びた光の刃を、母艦側面から中心へ刺し貫くよう突き立てる! 凶暴な程の威力を秘めた一撃に、母艦の巨体が大きく揺れた。
「続くぞ……!」
 クランは己の命を威力に転換し、マテリアル光の刃で斬りつける。これを見越して追ってきていた柊から、すかさずヒールが飛ぶ。
「また傷つくために、治すんじゃないんですけどねぇ……」
「……さて。それは少々耳に痛いな」
 通常営業のふたり。こんな過酷な戦場で普段通りふるまえるこの恋人達は、ある種の強者に違いなかった。そんなふたりに続くリリティア、思わず苦笑を零す。しかししっかり臨戦態勢。その背に負うた漆黒の翼の幻影を、3対6枚に増やし、刀の柄を握りしめる。
「竜も王も斬り伏せて、目指すは神の頂へ……こんなよく分からない物が斬れなくて堪りますか――!」
 仲間達が技を叩き込んできた箇所と寸分たがわぬ位置へ、神斬の連撃を見舞う! 凄まじい轟音が響く。そして最後に技を振るおうとしたリクが気付いた。
「装甲が割れてる……! 亀裂、入った!」
 驚愕しつつ、上から墜落するような勢いで叩き込むと、細い亀裂はわずかに広がった。その奥に微かに覗いたのは――
「何だ、あれは」
「中は……紫色?」
 自らの手番を終え、双眼鏡を持つ者達は亀裂を観察し、魔導カメラ相当のアイテムを所持していた者達はシャッターを切った。この不可解な物体について、少しでも情報を持ち帰るために。だがまだ大仕事を残している者達がいる。母艦下部に陣取った霊闘士コンビだ。
「何だ!? 何が見えたって!?」
「俺も見たい! じゃねぇや、一気に引くよボルディア!」
「おうっ、墜落させてからじっくり中身拝んでやる!」
 度重なる上から下への駆け抜けざまの攻撃で、僅かに傾いだ母艦の縁へ幻影の手をかける。そして精神を研ぎ澄ませ、更に傾けるべく息合わせ引く!
「オオオオォ……ッ!!」
 旭はミミズク、ボルディアは炎犬。祖霊の力を得たふたりは、あらん限りの力で手繰り寄せる。同時に、今まで仲間達が重ねに重ねてきた阻害術に、強度の高い移動不能を積み増した。

 ――と。
 遂に母艦が大きく傾ぐ!
「やったぜ!」
「喜びてぇけど一先ず退避だっ」
 ボルディアと旭は母艦の影から飛び出した。ファントムハンドは自らの方向に引き寄せる術のため、墜落してくる母艦と衝突する危険があろうと、真下にいる必要があったのだ。
 母艦が遮っていた、やけに紅い陽光の元に飛び出せば、母艦対応に当たった面々の顔に安堵の色が広がっていた。リクは通信機で下方の仲間へロッソの射線上から退避するよう呼びかけ、続いてロッソへ繋いだ。
「今だ! 手筈通りに主砲を……!」

 だが。
 ロッソの主砲は、沈黙を続けるばかりだった。


「どうなってるの? 合図足りない? 花火上げる? あ、もう使っちゃったや」
 想定外の事態にたじろぐハンター達。ユノは使い終えたマテリアル花火を手に小首を傾げる。実は先程の一斉攻撃に合わせて打ち上げ、花火に込められたマテリアルで敵の気を逸らそうと試みたのだが、残念ながら効果はなかった。
 静かな砲の代わりに、ダニエル艦長のがなり声が響く。
『まだ全員が退避しきれてねぇ! いくら覚醒者でも、最大出力の主砲は掠めただけで蒸発しちまう!』
 その声に言われて見やれば、ロッソと母艦を結ぶ線上に、決して少なくない味方が残っていた。
「急いで退避を!」
 声を枯らして叫ぶも、事態は好転しなかった。
 何故ならつい今しがたまで、ロッソは雷撃を回避するため、母艦はハンター達を振り切るために、両者とも移動し続けていたのだ。いずれロッソの主砲が母艦を撃つと分かっていても、全周囲に気を配らなければならない空中戦を行いながら、両者の位置関係を常に各人が把握し続ける事は不可能に近い。
 そして今、母艦は墜落中。当然射線は秒単位で変化し続けている。そんな射線から『退避せよ』という通信のみで全員を即撤退させるのは、非常に困難だったのだ。
 その時、落下していく母艦が小刻みに振動した。
「まずい、そろそろ抵抗されちまうぞ!」
 ボルディアが叫ぶが早いか、母艦が制御を取り戻す。一気に空高く舞い上がるや、下部に稲妻を迸らせる。撃たれたのは彼女、ボルディアだった。母艦は砲を撃たぬロッソよりも、驚異的な威力の全周囲への連撃と、強度の高い移動不能術を使う彼女をこそ警戒したのだ。
「クッ……!」
 シャルと共に墜ちていくボルディア。そばにいた旭は、雷撃の余波によってロジャックが受けた麻痺を自らに転呪。そしてレセプションアークで麻痺の強度を増し、更に母艦へ転呪! 見事な術の繋げ方だったが、やはりひとりの力では母艦を止める事はできなかった。
 それを見た艦長は、主砲の出力を絞るよう指示。万が一味方を掠めても重症で済む程度まで。そうして放たれた砲撃をたやすく回避した母艦は、そのまま戦域の最上層へ舞い上がり、開戦時と同じように人類を睥睨する。
「ちくしょうっ!」
「装甲に亀裂は入ったのですから、諦めずもう一度そこを攻めましょう?」
「やるしか、ないな」
「ああ、あの亀裂へ攻撃を加え続けりゃ、きっと装甲が剥がせるさ」
 疲労とダメージが溜まってきた身体、そして徒労感に萎えかける心を叱咤して、ハンター達は手綱を握り直す。そして再び赤い空へ愛騎を駆けさせるのだった。

執筆:鮎川 渓
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

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