ゲスト
(ka0000)
【反影】グラウンド・ゼロ「スワローテイル共闘」リプレイ


▼【反影】グランドシナリオ「グラウンド・ゼロ」(1/18~2/8)▼
|
|||
---|---|---|---|
作戦4:スワローテイル共闘 リプレイ
- 森山恭子(kz0216)
- ジーナ(ka1643)
- アシェ?ル(ka2983)
- R7エクスシア-DM(R7エクスシア)(ka2983unit002)
- ジャック・J・グリーヴ(ka1305)
- ヘクトル(R7エクスシア)(ka1305unit002)
- クローディオ・シャール(ka0030)
- フレデリク・リンドバーグ(ka2490)
- アニス・テスタロッサ(ka0141)
- レラージュ・ベナンディ(オファニム)(ka0141unit003)
- カイン・シュミート(ka6967)
- エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)
- デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)
- ルドルフ・デネボラ(ka3749)
- 弓月・小太(ka4679)
- ジェイミー・ドリスキル(kz0231)
- マリィア・バルデス(ka5848)
- mercenario(R7エクスシア)(ka5848unit002)
- 高瀬 未悠(ka3199)
- パトリシア=K=ポラリス(ka5996)
- ホル(リーリー)(ka5996unit001)
- Holmes(ka3813)
- Peter(ワイバーン)(ka3813unit002)
- ソティス=アストライア(ka6538)
- 紅薔薇(ka4766)
- 大伴 鈴太郎(ka6016)
- 近衛 惣助(ka0510)
- 無銘(オファニム)(ka0510unit003)
- 八劒 颯(ka1804)
- Gustav(魔導アーマー量産型)(ka1804unit002)
- コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)
- 坂上 瑞希(ka6540)
- チョココ(ka2449)
- 神楽(ka2032)
曇天の空から漏れる深紅の太陽。
見渡す限りの荒野には、人の――否、生命の息吹は感じられない。
まさに、死の象徴。
それが『グラウンド・ゼロ』と呼ばれる場所であり、ラズモネ・シャングリラの初陣を飾る場所である。
「対空警戒強化ザマス。強化人間部隊は地上へ降下を開始するザマス」
艦長の森山恭子(kz0216)は、矢継ぎ早に指示を飛ばす。
ゲートを潜って初めて異世界航行を成功させたラズモネ・シャングリラ。
そこは既に戦場のど真ん中。
現状把握を進めながら、自らを守る為に強化人間部隊を展開する。
「艦長、甲板を借りるぞ! 飛翔体の一部とよく分からない円盤はハンターでまとめて引き受ける!」
ジーナ(ka1643)の魔導型デュミナス『バレル』は、ラズモネ・シャングリラの甲板を目指してスラスターを全開で上空へと飛び上がる。
ラズモネ・シャングリラから視認できる敵は、遠距離から飛来する謎の飛翔体オブジェクト。そして、上空から飛来する未確認飛行物体。
未だ、明確な敵の情報はない。
だが、これだけははっきりしている。
もう、『シャングリラ』は二度と沈ませない。
「紫電を纏え、バレル! 片っ端から撃ち落とすぞ!」
ラズモネ・シャングリラの甲板へ到達したと同時に、ジーナはバレルにプラズマキャノン「ヴァレリフラッペ」を握らせる。
飛来する未確認飛行物体に向けて紫電を纏った弾丸が発射される。
「魔法砲台アシェール登場です! 艦橋に当てないよう気を付けます!」
ジーナ同様、アシェ?ル(ka2983)もR7エクスシア『R7エクスシア-DM』をラズモネ・シャングリラの甲板へ到着させる。
ラズモネ・シャングリラを狙うのは主に未確認飛行物体。
アシェールが見る限り、未確認飛行物体は光弾を発射している。
だが、射程距離はそれ程長くはない。
未確認飛行物体が攻撃を的中させる為には、ある程度近づく必要があるようだ。
「向こうから近寄ってくれますか。今日は出し惜しみしませんよ?。ふるふぁいあーです!!」
桜色のR7エクスシア-DMから発射される試作型対VOIDミサイル「ブリスクラ」。
ラズモネ・シャングリラへ接近を試みる未確認飛行物体を複数巻き込みながら、大きな爆発。グラウンド・ゼロの空に開いた花火が、戦いの狼煙を周囲に知らしめる。
「……これで繋がったザマスか? ハンターの皆さん、ラズモネ・シャングリラの初陣を助けてくれる事を感謝するザマス」
誰かがラズモネ・シャングリラへコンタクトを取ったのだろう。
ハンターとの回線を開いた瞬間、恭子が各機へ感謝を述べてきた。
「艦長、感謝は後だ。今は目の前の敵を片付けるのが先だ」
未確認飛行物体に紫電の弾丸を叩き込みながら、ジーナは手短に恭子へ返答する。
ラズモネ・シャングリラを守る為に集ってくれたハンター達だが、今は感謝よりも敵を叩く方が先だ。
「そう、そうザマスね」
「艦長! 0時方向から飛翔物。十秒後に地上へ到達します」
「主砲の準備はできてるザマスね? 何だか分からないザマスが、地上の皆さんを守るザマス!」
ラズモネ・シャングリラの主砲『マテリアルキャノン』にエネルギーが収束。
溜められたエネルギーは、一呼吸置いた後に光となって発射される。
黒い剣のような物体を目視した瞬間、鮮やかな光が貫いた。
空中で破壊される飛翔物。
砕かれた彼らは地上へと降り注ぐ。
ラズモネ・シャングリラの初陣は、華々しい始まりとなった。
●
「商いの開拓も心躍るもんだったがよ。ソレが今度は世界の開拓と来たモンだ。
……ハッ、コレで心が躍らなきゃ漢じゃねぇ!」
R7エクスシア『ヘクトル』のジャック・J・グリーヴ(ka1305)は、量産型フライトパックで上空を駆る。
敵は未確認飛行物体や飛翔体オブジェクトだけではない。
地上に突き刺さった飛翔体オブジェクトからシェオルと呼ばれる敵が生まれ出ていた。
黒い肉と骨の装甲を持ち、四本足で移動する。
以前、血盟作戦でも目撃された敵が、このグラウンド・ゼロでも姿を見せていたのだ。
「そこのけそこのけ、俺様が通るぜ!」
地上近くでアクティブスラスター。
光輝く右手にハルバード「ウンヴェッター」を握り締め、シェオル・ノドの集団に一撃を叩き込む。
吹き飛ぶ黒い塊。
だが、一部のシェオル・ノドは地面へ転がると体を再生させながら、四本足で立ち上がる。
「再生能力付き、か。それに……こいつらの目標はシャングリラじゃねぇな」
機体を走らせながら、ジャックは周囲に気を配っていた。
未確認飛行物体は確かにラズモネ・シャングリラへ攻撃を仕掛けている。
だが、シェオル・ノドはラズモネ・シャングリラやその周辺にいるCAMへ向かって行く素振りが無い。
むしろ、地上へ展開した強化人間の歩兵に向かって移動している。
今も上空で飛翔体オブジェクトが打ち砕かれたが、その欠片が地上へと落下した直後にシェオル・ノドが生まれ出る。
再生能力を持つ敵が、訓練を積んだとしても未知の世界で戦う事になれていない強化人間に殺到する。
この情報が何を意味するのか。
それをジャックは本能的に理解する。
「ハッ、上等だ」
ジャックから放たれる獅子の如き雄叫び。
空気を振動させ、周囲を揺らすかのような声がマテリアルを乗せて広がっていく。
その瞬間、強化人間へ向かおうとするシェオル・ノドや未確認飛行物体が、ヘクトルに向かって集まってくる。
「反応したか。やっぱり謎の敵は歪虚か。
平民を守んのは、貴族の責務だ。体、張ってやるよ」
再びウンヴェッターを構えるヘクトル。
眼前に広がる黒い波に向かって飛び込んでいく。
●
飛翔体オブジェクトから生まれるシェオル・ノド。
周囲から次々と集まってくる黒い敵を前に強化人間達は、やや押されている。
CAMに騎乗する強化人間を無視して歩兵へ襲いかかる状況は、ラズモネ・シャングリラにとっても想定外であった。
「くっ、敵数が多い。CAMも使って叩いているのに」
「手を止めるな! 防衛線が崩壊するぞ」
周囲から響く怒声。
荒野の砂煙が舞い上がり、赤い光が敵の黒い装甲を鈍く光らせる。
異様とも言える『異世界』の光景に、強化人間の歩兵達は心を削られていく。
諦めの境地に達するかと思われたのだが――。
「闇に飲まれた大地であろうと私の為すべき事は、変わらない。
守るべき者を守り、撃つべき者を撃つ……ただ、それだけだ」
地上の強化人間部隊と合流を果たしたクローディオ・シャール(ka0030)は、初めての敵に窮する強化人間達に檄を飛ばす。
「臆するな! 自分を信じて、剣を握れ。そうして初めて、前に進む事ができる」
クローディオの登場。
それは、窮地に陥りかけた強化人間達に注入される活力となった。
彼らの活気を感じ取ったクローディオは、退魔銃「イェーガークロイツ」を構える。
「シャール家が長子、クローディオ……黒騎士として、参る」
クローディオの呟きと共に、空中に現出する無数の闇の刃。
強化人間へ攻撃を仕掛けるシェオル・ノドに襲い掛かる。
貫かれたシェオル・ノドはその場で縫い付けられるように動かなくなる。
「うわっ……なんなんですか、アレ!?」
縫い付けられたシェオル・ノドを目撃したフレデリク・リンドバーグ(ka2490)は、奇怪な敵を前に、一瞬気圧される。
リアルブルーから来た強化人間達と戦える事を楽しみにしていたフレデリクだが、不気味な敵を目にして心が止まる。
戦場で足を止める事。
それは、身の危険を意味している。
「……っ!」
一匹のシェオル・ノドがフレデリクを目指して移動。
そして、射程距離へ近づくと足に付いた鋭い爪を大きく振りかぶった。
振り下ろされる爪。
しかし、その爪はフレデリクに届かない。
「だ、大丈夫か!」
一人の強化人間が体を張ってフレデリクとシェオル・ノドの間に入り込んだ。
手にしていたマテリアルソードでシェオル・ノドの爪を食い止めたのだ。
動きを止められるシェオル・ノド。そこをクローディオが強襲する。
「消え失せろ」
側面から直撃する光の波動。
シェオル・ノドを吹き飛ばし、地面に激しく叩き付けられる。
地面で倒れたシェオル・ノドは、その体を塵のように風で散らせていく。
「……あ、ありがとう」
フレデリクは守ってくれた強化人間にそっと礼を述べる。
それに対して強化人間は笑ってくれた。
「後にしよう。今は、目の前の敵に集中しましょう。ハンターの皆さんが来てくれたのなら、きっと勝てる」
きっと勝てる。
その言葉がフレデリクの心に染み込んでいく。
「はい、勝ちましょう。これまでだって色々危なかったですけど、何とかしてきたんですし! その為にも、私は全力で支援させていただきますね!」
気合いを入れ直したフレデリクは、シェオル・ノドの集団を見据える。
そして、構えた機導砲を遠距離から浴びせかけていく。
窮地に陥っていた歩兵部隊は、徐々にシェオル・ノドを押し返し始めていた。
●
「アホみてぇにデカブツ落としやがって……来やがれっ! 片っ端から叩き落としてやらぁ!!」
ラズモネ・シャングリラの甲板でアニス・テスタロッサ(ka0141)は、オファニム『レラージュ・ベナンディ』のプラズマキャノン「アークスレイ」を放った。
800センチの大型砲が、飛翔体オブジェクトを打ち砕く。
欠片が地上へ降り注ぐが、地面に突き刺さってシェオル・ノドを大量発生されるよりはマシだ。
「おい! 座標はまだかよ!」
アニスは、タクティカルヘッドセッドへ叫ぶ。
怒気が孕んだアニス。その声に対して、カイン・シュミート(ka6967)が返答する。
「簡単に言うな。戦闘の最中だ、邪魔も多すぎる」
ラズモネ・シャングリラの上空でカインはワイバーン『エプイ』の背中にいた。
双眼鏡で飛翔体オブジェクトを観測。さらにマッピングセットの方眼紙でメモを整理する事で、戦域での情報混乱を発生しないように情報の橋渡しを行う手筈となっていた。
だが、戦闘を開始しても詳細な情報がすぐには送られてこなかった。
「仕方ないわ。戦場は刻一刻と変化している。戦場を座標マップ化するだけじゃなく、それをラズモネ・シャングリラへ展開させるのは突貫作業のはずよ」
今度は、地上で敵の掃討を行っているエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)の声がヘッドセットから聞こえてくる。
グラウンド・ゼロの事前情報があれば、戦闘前に戦域を座標化して情報共有できたかもしれない。
だが、敵の襲撃は突如な上、ラズモネ・シャングリラは異世界転移したと同時に戦闘が開始された。いずれも予期しない形で、未知の場所での戦闘開始だ。カインも情報を整理してラズモネ・シャングリラやハンターへ展開しているが、情報をまとめている間に新たな飛翔体オブジェクトが飛来する状況なのだ。
「こちらは整理を付けて仲間へ展開する。もう少しだけ持ちこたえてくれ」
カインの声に、アニスもエラも承知する他なかった。
「地上は敵が歩兵に集まっているけれど、何とか彼らを支援してみるわ」
「へっ、どうせやらなきゃ帰る場所が無くなるんだろ。だったら……」
アークスレイの第二射が銃口から発射される。
巨大なエネルギーが再び飛翔体オブジェクトを捉えた。
轟音と共に地表へと降り注ぐ飛翔体オブジェクトを前に、アニスははっきりと断言した。
「やるしかねぇだろ。目の前の敵は、手当たり次第にぶっ飛ばす!」
●
「ぬぅぅぅ! 各々の居場所、オブジェクトの落下位置を伝えなければならねぇというのに……」
カインと同じ事で悩んでいたのが、デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。
R7エクスシア『閻王の盃』の操縦席で唸り声を上げていた。
地上で飛翔体オブジェクトから生まれたシェオル・ノドを掃討しながら、戦域を整理。戦域を東西南北で座標化。戦況をハンターやラズモネ・シャングリラの面々へ伝えられれば、戦いは有利に展開する事ができると考えていたのだ。
だが、カイン同様、戦闘中の様々な要因から情報共有に苦慮していたのだ。
「デスドクロ、応答してくれ」
「ん、俺様を呼ぶのは……お前か」
デスドクロに呼び掛けたのは、同じ悩みを抱えていたカインであった。
ヘッドギア「ヘーラー」から流れるカインの声に、デスドクロは耳を傾ける。
「して、何用だ?」
「情報共有と整理に協力してくれ」
カインは、率直に要件を伝えた。
各地に点在するハンターから情報が集められても、それを整理して情報展開する必要がある。それもリアルタイムに行うのだから、一人ではかなり厳しい状況だ。
その為、同じく情報展開を考えていたデスドクロへ協力を要請したのだ。
一人では難しくても複数で手分けをすれば情報の整理もスムーズになる。
双方の悩みを一気に解決できるかもしれない。
「良いだろう。俺様一人でも時間の問題だが、迷える仲間を導くのも俺様の使命よ」
「ありがたい。だが、急いだ方がいい。各地のハンターが情報の展開を待っている」
戦いの最中、情報という難敵に二人のハンターが果敢に挑戦する――。
●
「未確認飛行物体の増援、来ます!」
ラズモネ・シャングリラのブリッジでオペレーターが、冷静に現状を報告する。
ハンターの活躍もあり、ラズモネ・シャングリラへの被害は軽微。だが、現時点で敵の攻撃が止む気配はまったくない。
新たなる増援を前に、ハンター達も必死な抵抗を見せる。
「シャングリラの死角へ回り込むつもりですか。そうはさせません」
ルドルフ・デネボラ(ka3749)のR7エクスシアは、ジェットブーツでジャンプ。
重力に引かれて落下する間にクイックライフル「ウッドペッカー」の引き金を数回引いた。
発射されるマテリアルビームのうち、一発が未確認飛行物体の底面へ直撃。
未確認飛行物体の基底に大きな亀裂を与える。
「そ、狙撃なら少しくらいはお手伝いできるはず、ですぅ!」
弓月・小太(ka4679)は、亀裂の入った未確認飛行物体を見逃さない。
魔導型デュミナスのロングレンジライフル「ルギートゥスD5」に付けられたスコープが、フラフラと揺れる未確認飛行物体を捉え続ける。
攻撃を受けた為か、他の機体よりも動きに鈍さがある。
「目標捕捉……あ、当たれ、ですよぉっ!」
ルギートゥスD5の咆哮。
ドラゴンの咆哮が響き渡ると同時に、未確認飛行物体の本体に大きな風穴を開ける。
派手な爆発音と共に、未確認飛行物体は粉砕され地面へと墜落していく。
「やった、ですぅ! 確実に一つずつ撃墜して行くのですぅ。飛翔体を落とせれば、地上の人達の負担も減っていくでしょうしぃ」
弓月は次の目標へ狙いを定める。
特にルドルフも弓月も飛翔体オブジェクトを優先的に狙っていた。
地上の状況はラズモネ・シャングリラからも送られてくる。飛翔体オブジェクトから生まれるシェオル・ノドは、歩兵に狙いを定めている。少しでも地上部隊を支援する為には飛翔体オブジェクトを確実に破壊していく必要がある。
「……きたっ!」
ルドルフの声。それに反応するかのように飛翔体オブジェクトが飛来する。
R7エクスシアはフライトシールド「プリドゥエン」に捕まりながら上空へと舞い上がる。
その手に握られるは、試作錬機剣「NOWBLADE」。
後方では弓月が早くも飛翔体オブジェクトに照準を合わせ始める。
確実な破壊――それが勝利への近道であった。
●
「……やっぱりこんな時も飲んでるのね、中尉」
強化人間ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉が騎乗する戦車型CAM『ヨルズ』の傍らを、マリィア・バルデス(ka5848)のR7エクスシア『mercenario』が並走する。
マリィアには一つの気がかりがあった。
ドリスキルは戦闘中であろうとも酒を手放す事はない。
本人曰く、飲んだ方が砲弾の命中率が良いのというのだ。
本当かどうかは不明だが、この異世界のグラウンド・ゼロで飲酒する行為がある心配を引き寄せていた。
「ああ? さっきからやたら酒を止めるように言っているが、何かあんのか?」
「お酒はダウナーだから、敵に引き摺られないようになるべく控えて欲しいわね。貴方の機体、攻撃力だけはあるんだから」
マリィアは虚無が古代人や精霊の憎悪で出来ているという話を聞いていた。その感情が強化人間部隊に影響を及ぼして引き摺られ、取り込まれる事を懸念していたのだ。
だが、当のドリスキルは――。
「なら、陽気に飲めばいいのか? こっち来て酔いが足りねぇのか、新しくウイスキーを開けたばかりだが……何ともねぇぞ?」
「え?」
マリィアはドリスキルの言葉を反芻する。
何ともない。
現時点では異常がない、という意味合いかもしれないが、既にヨルズによる砲撃支援でかなりの虚無を吹き飛ばしてきた。それでも何も変わらないのであれば、強化人間が影響を受ける事はないのかもしれない。
「おい、それより新たなお客だ。9時方向、デカいムカデが二体だ」
ドリスキルの声に気付き、マリィアは指摘された方向のモニターを確認する。
見ればムカデのような外見をしたシェオル・ブリッツが物凄いスピードでこちらへ向かって来る。
後方には強化人間部隊。ここで食い止める他はない。
「中尉。強化人間部隊を守る為、ここで敵を惹き付ける」
「へっ、その隙に二体を仕留めろってか? 大したリクエストだ。こりゃ全米でなくても俺が泣きそうだ」
減らず口を叩きながら、ヨルズを旋回させて二時方向へ移動させる。
その間にマリィアは量産型フライトパックで上昇。アクティブブラスターで敵の前に躍り出る。
「聞こえるか、強化人間部隊。
R7の方が防御力は上である! 私達で遮蔽を取りなさい! 誰も欠けずに帰る為よ、戸惑う前に……撃ちなさい!」
後方にいる強化人間部隊に、マリィアは行動を促した。
戦場にいる以上、守られるだけでは生き残れない事を知っているのだ。
●
「ぶははははっ! やはり俺様は完璧ぃ! 我ながら見事なモンだぜぇ!」
「ラズモネ・シャングリラ、主な戦況をまとめた。この情報を展開して欲しい。こちらからも関係者に情報を展開する」
デスドクロとカインの声が、ラズモネ・シャングリラへ木霊する。
二人で激変する戦況をまとめ、カインがラズモネ・シャングリラのクルーへメモを手渡した。そのメモを再編してブリッジで映像化する事に成功したのだ。
このデータを元に敵の出現ポイントを追記していけばいい。
「感謝するザマス! こちらでもハンターの皆さんへ最新の情報をお届けできるザマス」
「艦長、情報では北東エリアQ-2で新たな飛翔体オブジェクトを確認しました」
感謝を述べる恭子の傍らで、オペレーターが冷静に新情報を伝達している。
戦闘前に座標を手に入れられなかった関係で通信で具体的な座標を連絡する事はできないが、大まかな場所を伝えるだけでも状況は変わるはずだ。
「これで戦況は変わるであろう! では、俺様も敵の掃討へ向かうとするか」
「Q-2の上空から俺が地上へいるハンターを支援する……エラ、聞いていたか?」
デスドクロとカインも継続して情報をラズモネ・シャングリラへ展開していけば、敵を撃ち漏らす可能性が低下する。
カインの読み通り、虚無の方は集団戦闘、継戦能力が上であったとしてもこれで状況を一変させられるはずだ。
●
「聞いてたわ。既に北東に向かって移動中よ。情報通りなら、もう間もなく見えてくる」
エラは刻令ゴーレム「Volcanius」『七竈』と共に現地へ急行していた。
エラの前を行くのは、リーリー『ホル』に騎乗するパトリシア=K=ポラリス(ka5996)とユグディラ『ミラ』と共に進む高瀬 未悠(ka3199)である。
「居心地の悪い場所ね……彼らは大丈夫かしら」
未悠は傍らを走る強化人間に視線を送った。
初めての異世界、それも未知の敵と戦っているのだ。心配な点は尽きる事がない。心許ないのであれば、自分達ハンターが彼らを支えてやらなければ――。
「あれね……秘書見習い、前進して周囲の敵を攪乱して」
「うぃっ♪ りょーかいダヨ、ししょー♪」
パトリシアは、ホルのスピードを一気に上げた。
エラの目にも黒い大きな塊がはっきりと見える。そして、その周囲に存在する虚無――シェオル・ノドが蠢いている。
飛翔体オブジェクトを叩く為には、周囲の虚無を排除しなければならない。
そこでエラは手筈通りパトリシアを前線近くで走らせる。
そして、単騎でシェオル・ノドの前まで到達したパトリシアは、手にしていたギター「ジャガーノート」を掻き鳴らす。
「盛り上がっテ、いくんダヨー♪」
グラウンド・ゼロに鳴り響く、ジャガーノートの調べ。
それはシェオル・ノド達の注意を引くには最適であった。
パトリシアに向けて動き出す虚無。
追いかけるように動き、陣形が大きく変わろうとする。
だが、それはハンター達にとって好都合だ。
「せめて魂だけでも帰れるように……楽にしてあげるわ」
未悠と強化人間の部隊が、虚無達の側面を襲撃する形で突撃。
ミラージュグレイブを大きく振りかぶり、眼前にいたシェオル・ノドを吹き飛ばす。再生能力がある事は既に承知している。ならば、再生前に猛攻を仕掛けて一気に止めを刺す。
その情報は強化人間達にも伝えている。
パトリシアが囮を続けながら、未悠達が何処まで奮戦できるかが鍵であろう。
「良い感じね。なら、こちらも始めましょう。七竈」
エラは少し離れた場所から七竈に砲撃の指示を出した。
この位置からでも飛翔体オブジェクトが狙えう事ができる。幸い、パトリシア達が前にいる為にエラの方へ向かう虚無の姿は見当たらない。
ここからゆっくりとプラズマキャノン「アークスレイ」と狙う事ができる。
「あなたの炸裂弾、見せてあげなさい」
アークスレイの照準は、飛翔体オブジェクトをしっかりと収めていた。
●
カインがQ-2に向かってエプイを飛ばす頃、ラズモネ・シャングリラの上空では相変わらず未確認飛行物体の襲撃が続いていた。
「空から降るのは雨や雪ばかりだと思っていたけど、こういう天気もあるんだね」
ワイバーン『Peter』と共に飛行するHolmes(ka3813)は、誰も聞こえない小声でそっと呟いた。
雨や雪どころか、空を埋める勢いで飛来する未確認飛行物体。
その飛行物体を縫うように飛行しているHolmesだが、その冗談は甲板で戦うハンター達にとっては笑えない。
「Peter、対空迎撃で新たな来客をお迎えするとしよう」
Holmesに答えるようにPeterは一声吼えた。
幻獣剣「グルート」により炎のオーラのような刃が形成される。
Peterは未確認飛行物体の合間を通り過ぎるように飛行して、グルートで適確に攻撃を叩き込んでいく。
しかし、未確認飛行物体の影から別の飛行物体が姿を覗かせる。
――至近距離。だが、その距離だからこそHolmesは次の一手を打てる。
「近くに来たいのなら、遠慮する事は無いよ」
至近距離だからこそ、Holmesはファントムハンドを伸ばした。
飛行物体の一部を掴み、強引に近くへと引き寄せる。
「Peter、ファイアブレス」
Holmesの指示で炎を吐き出すPeter。
焙られる飛行物体。幻影の腕が離れる時には、飛行物体は自力飛行ができず墜落していった。
「こっちもまだ終わってませんよ。CAMから降りてからが魔法砲台の本番です」
R7エクスシア-DMを降りたアシェールは、ラズモネ・シャングリラの甲板の上で堂々と墜空を発動。
未確認飛行物体の上空に火球を生み出し、次々と降らせていく。
ラズモネ・シャングリラへ攻撃を仕掛ける為にアシェールの近くに寄っていた未確認飛行物体が次々と地上へ墜落していく。
「おーおー、結構ピンチって奴か? ちぃとばっかり遅れての登場となっちまったが……俺様が直々に相手してやるよ」
敵の大量出現で予定よりも異なる場所で釘付けにされていたラズモネ・シャングリラ。
その近くへフライトブーストとアクティブスラスターを駆使して到着したジャックのヘクトル。
到着早々に獅子吼を発動。
マテリアルを乗せた雄叫びが、ラズモネ・シャングリラの上空にいた未確認飛行物体をヘクトルの方へ引き寄せる。エンジン部を狙おうとしていた敵も引き寄せる事ができた以上、貴族が平民の窮地を救ったと見ても良いのかもしれない。
「そうだ。こっちに来い。俺様の強さをたっぷりと教えてやる」
マテリアルライフルで紫色の光線が未確認飛行物体を貫いていく。
ハンターの活躍で空を埋めていた敵は、確実にその数を減らしていった。
●
「世界の裏側なぁ……なんだろうな、この違和感は」
ソティス=アストライア(ka6538)はR7エクスシアの中で奇妙な感覚に襲われていた。
目眩とは異なる、胸騒ぎと軽い頭痛を併発したような感覚。
それはグラウンド・ゼロに広がる異様な光景が原因なのかもしれない。
だが、そうであってもやるべき事に相違はない。
「狩りの時間だ。纏めて……消し飛ぶがいい!」
まだ調整は万全ではないR7エクスシアだったが、ソティスは眼前のシェオル・ブリッツへハンドガン「トリニティ」を浴びせかける。
黒いムカデの大量に叩き込まれる弾丸。長い体は地面へのたうち周り、周囲のシェオル・ノドを巻き込んで吹き飛ばす。
「スワローテイル、行け」
ソティスは傍らで控えていた強化人間達に眼前の敵にトドメを刺すよう打診した。
強化人間とソティスで同一の敵を目標とする事で確実に敵を葬りさるのが狙いだ。
それに万一問題があれば、ソティスが直接強化人間達を助ける事もできる。
「ふぅむ。じゃが、まだあのムカデは元気なようじゃな。リアルブルーから来た者達から離れてくれたのは好都合じゃ……黒っ!」
紅薔薇(ka4766)の傍らにいた刻令ゴーレム「Volcanius」『黒』は、200mm4連カノン砲 をシェオル・ブリッツへ向けた。
未だ地面に体を叩き付けるムカデ。
その場で暴れ回るだけなら、黒にとっては良い的だ。
「撃てっ!」
紅薔薇の指示を受け、200mm4連カノン砲が火を噴いた。
黒の体が反動で僅かばかり後ろへ下がる。
同時に、放たれた砲弾はムカデの体を直撃。派手な爆発がムカデの体を包んだ。
「よし。黒は後方で支援じゃ。妾は皆と共に雑兵を相手にしよう」
紅薔薇は祈りの剣を握り、強化人間達を支援するべく一気に前へ出た。
手近にいたシェオル・ノドを一刀の元に斬り伏せた。
「リアルブルーから来てくれた皆には感謝するのじゃ。我らの力を合わせて、必ず、皆で生きて帰るのじゃ!!」
強化人間達へ檄を飛ばす紅薔薇。
連戦続きで疲労が見え始めた強化人間達であった。だが、ソティスや紅薔薇のように強化人間達を助けて導く存在が、戦況に影響を与え始めていた。
「新たな敵影、か。さっさと退場願うとするか……この世からな」
ソティスは、新たに襲来したクイックライフル「ウッドペッカー」の銃口を向けた。
●
「飛翔体、新たにB-8付近へ飛来! 戦域西、ラズモネ・シャングリラの近くです」
「……って、事ぁオレがいる辺りか!」
大伴 鈴太郎(ka6016)はR7エクスシアのモニターをチェックする。
展開された情報から類推する限り、鈴太郎が立つ辺りに向かって飛翔体オブジェクトが飛んでくるはずだ。その証拠にR7エクスシアのモニターにも大きな黒い塊が空に浮かんでいるのを確認できる。
「初搭乗にしちゃ、デカいのが相手かよ。……頼むぜ、くまごろー」
サポートロボット「くまごろー」は、R7エクスシアに接続されている。
鈴太郎の操縦サポートをする頼もしい仲間である。
「20秒で飛翔体が着弾します」
「わーってるよ。焦るなって」
鈴太郎はR7エクスシアを屈ませ、マテリアルキャノン「タスラム」を構える。
既に飛翔体は目視できる。照準へ収める事はできる。問題は、あの飛翔体を破壊するのにマテリアルキャノンだけで火力が足りるかどうか、だ。
そこへ近衛 惣助(ka0510)の声が魔導スマートフォンから聞こえてくる。
「一人でヒーローにでもなろうっていうのか? 独り占めはズルいな」
ラズモネ・シャングリラの甲板からロングレンジライフル「ルギートゥスD5」を構えるオファニム『無銘』。
長い銃身の先には飛来する飛翔体オブジェクトがある。
惣助の意識は、その飛翔体へと向けられていく。
「だったら、さっさと手伝え!」
「ああ。地上部隊に楽させてやろう!」
鈴太郎と惣助が狙う同一の飛翔体オブジェクト。
もう少し――もう少しでお互いの射程圏内に入る。
息を細め、虫のような息をゆっくりと吐く。
周囲の音が掻き消えたかのような錯覚。
すべてが自分と飛翔体オブジェクトだけになったかのよう。
――そして、意を決した二人の手に力が込められる。
「墜ちろ!」
「やらせるかよ!」
轟音と共に放たれる二人の弾丸。
飛翔体オブジェクトヘ突き刺さり、深く抉っていく。
さらに鈴太郎はミサイルランチャー「レプリカント」を、惣助は高速射撃とシャープシューティングを乗せた第二射へ追撃をかける。
浴びせかける攻撃に飛翔体オブジェクトも限界を迎えたのだろう。
黒い塊は上空で弾け、その体を欠片として地面へ降り注いだ。
「へっ、他愛もねぇ」
「他愛もないなら、少しでもこっちを手伝ってくれ。シャングリラに増援だ」
惣助のモニターには、未確認飛行物体の増援を知らせる警告が表示されている。
惣助は手早くミサイルランチャー「ガダブタフリール」へ切り替え、照準を合わせ始めている。
「わーったよ。だけど、飛翔体がまた来るようならそっちを優先するからな」
鈴太郎のR7エクスシアは、ラズモネ・シャングリラに向かって歩き出した。
●
「うおっ!?」
ヨルズの機体が激しく揺れる。
旋回中にシェオル・ブリッツが側面から突進。頭部の角がヨルズの機体に深く突き刺さっている。
「中尉!」
マリィアが異変に気付き、ハンドガン「トリニティ」でシェオル・ブリッツへ銃弾を浴びせかける。
状況を考えれば、周囲は乱戦に見舞われている。
破壊された飛翔体オブジェクトがヨルズの近くへ落下。そこからシェオル・ブリッツが突如姿を見せたのだ。回避そのものが難しかったのかもしれない。
「やってくれるじゃねぇか。
type3装填……季節外れのハロウィンだ。あめ玉が欲しければ、悪戯前に言うべきだったな」
ヨルズからの砲撃。
周辺の空気が大きく揺れる。
次の瞬間、荒野に跳ね回るシェオル・ブリッツの姿があった。
type3――対空用榴散弾。
本来ならば未確認飛行物体を相手に発射される散弾だが、ドリスキルは近接射撃として利用したようだ。おかげでシェオル・ブリッツに直撃。その体は大きく削り取られる事になった。
だが、まだトドメを刺した訳ではない。
「はやてにおまかせですの!」
通信を聞いた八劒 颯(ka1804)が、魔導アーマー量産型『Gustav』で駆けつける。
タイヤを滑らせながら、アーマードリル「轟旋」を前面へ突き出した。
高速回転するドリル。
独特な音を響かせながら、ドリルの突端をシェオル・ブリッツへ向かって行く。
「びりびり電撃どりる!」
強烈な一撃が、シェオル・ブリッツの体を貫いた。
シェオル・ブリッツは悲鳴を上げる暇もなく、地面で動かなくなった。
敵を葬った事を確認した颯は、破損したヨルズに近づく。
「大丈夫ですの?」
「ああ、駆動系には異変は無さそうだ。このままダンスも踊れるぐらい元気……」
「中尉、一旦引きます。今回の戦いでヨルズを失いたくは無いでしょう?」
ドリスキルの言葉をマリィアは遮った。
CAMに負けたくないという想いから、無理を貫こうとしていると感じたようだ。
事実、見た目からもシェオル・ブリッツに作られた角は深く突き刺さっている。ヨルズの移動には問題ないかもしれないが、大事を取った方がいい。
「無理はダメですの。みんなのおかげで敵の数は減ってますの」
颯からもドリスキルの後退を勧める。
まだラズモネ・シャングリラは初戦。ヨルズはこれからも戦ってもらわなければならない。ここで無理して長期修理としては目も当てられない。
CAMよりも上だと見せつけたいドリスキルにとって、それは避けたい事態だ。
「ちっ、仕方ねぇ。ラズモネ・シャングリラへ戻るとするか」
「ここは、はやてが頑張るですの」
ラズモネ・シャングリラの方へ走り出すヨルズ。
そのヨルズに並走する形でmercenarioも動き出す。
颯の目から見ても敵の数は減少している。
あと少し――あと少しで趨勢は決しようとしていた。
●
「たとえ世界の裏側とて、私の手から逃れる事はできぬ。
それが虚無でも……空から降る黒い悪夢でも」
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は、スナイパーライフル「ルーナマーレ」のスコープで飛翔体オブジェクトの欠片を捕捉していた。
ラズモネ・シャングリラのマテリアルビーム砲で砕いた飛翔体オブジェクトだが、上空で砕いたとしても大きめの欠片はどうしても地上に落下してしまう。
コーネリアら一部のハンターは、大きめな欠片も確実に破壊するべく注力していた。
「距離1200……もう少し」
ルーナマーレの引き金に掛けた人差し指。
コンバージェンスによりマテリアルを収束。さらに高加速射撃で弾丸の威力を高めている。
『負を纏う漆黒の闇』を狙うコーネリア。
そこへ他のハンター達も同調する。
「私、あまり強くないのだけれどね……どこまでやれるかしらっ!」
坂上 瑞希(ka6540)も同じ飛翔体オブジェクトに狙いを定めていた。
アサルトライフル「ブラック・ペイン」の弾丸に自身のマテリアルをエネルギーとして流入。
己の想いを弾丸に乗せ、銃口を空へと向ける。
破壊できるのかは、分からない。
だが、戦わなければ道を切り拓けない。
「ユーグ、敵を食い止めるですの。わたくしがあれを落とすですの」
ユグディラ『ユーグ』と共に、チョココ(ka2449)が駆け込んできた。
近寄るシェオル・ノドをユーグが撃退する傍らで、チョココはスタッフ「ケレース」を空へ掲げた。
ケレースの先に生まれる燃え盛る火球が生み出され、チョココの指示を待つかのようにその場で漂っている。
――そして。
三人の攻撃が一斉に、飛翔体オブジェクトヘ殺到する。
コーネリアの弾丸が欠片に突き刺さり、瑞希が細かい弾丸を打ち砕いていく。
チョココのファイアーボールが欠片に衝突。爆炎がグラウンド・ゼロの上空に広がった。
気付けば、欠片は跡形も無く霧散していた。
「クリア。残るは、シェオル・ノドか」
コーネリアは、ユーグの方へ向き直る。
既にハンターと強化人間達が虚無の掃討に尽力。その数を大幅に減らしていた。視界に見える虚無も数える程になっていた。
「オブジェクトも見当たらなくなってきたし、後は地上の敵だね!」
瑞希は、ブラックペインの銃口を周辺の虚無へと向ける。
――掃討戦。
それは瑞希の脳裏にもはっきりと浮かんでいた。勝利は目前という意識が強くなった証拠だ。
「よぉーし! もう一頑張りですの!」
チョココはシェオル・ノドへライトニングボルトを放つ。
強烈な電撃がシェオル・ノドを貫通。
ハンター達の猛攻は、確実に虚無を追い詰めていた。
●
「UFOは男のロマンっす! 歪虚だろうっすけど万が一があるっすからね?」
撃墜されていく未確認飛行物体を、神楽(ka2032)は三下魔導カメラで次々と撮影する。
ラズモネ・シャングリラの甲板で、神楽はフレイムアローで未確認飛行物体を射貫き続けていた。
だが、神楽の中に眠っていた浪漫が暴れ出すのは時間の問題だった。
目の前に飛来するのは、恐怖と興味が入り交じった感情で雑誌を見続けたUFO。
徐々に攻撃するだけでは飽き足らなくなってきた。
気付けば三下魔導カメラで次々と激写し始めていたという訳だ。
「くぅ?。UFOの欠片はゲットできなかったっすけど、心にしっかりと焼き付けないとっすねぇ?」
次々とシャッターを切る神楽。
残念ながら、未確認飛行物体の欠片は手にした段階で歪虚同様サラサラと砂のように崩れてしまった。持ち帰る事が難しいと分かった段階で、神楽は未確認飛行物体を撮影し続けていた。
もし、この写真を解析して何か重要な事が判明するとすれば――それは、まさに浪漫だ。
「粗方片付いたザマスね」
「え!?」
恭子の通信で神楽はようやく我に返る。
見回せば、未確認飛行物体の姿は消え失せ、ただの荒野が広がる大地がそこにあった。
撮影で夢中になるあまり、戦いが終わりを告げた事を気付かなかったのだ。
「何機はフレイムアローで落としたっすが、もうちょっと未確認飛行物体を満喫したかったっすねぇ」
「あたくしはもうUFOはこりごりザマス!」
神楽の言葉に、恭子は即座に否定した。
ラズモネ・シャングリラの初陣はこうして幕を閉じた。
強化人間側に多少の負傷者は出ていたものの、ハンターの尽力である程度の被害は抑えられた。
ラズモネ・シャングリラもエンジン出力や一部調整を行えば、再び異世界航行する事も可能なはずだ。
次なる戦いは、果たしていずこで待っているのだろうか。
見渡す限りの荒野には、人の――否、生命の息吹は感じられない。
まさに、死の象徴。
それが『グラウンド・ゼロ』と呼ばれる場所であり、ラズモネ・シャングリラの初陣を飾る場所である。
「対空警戒強化ザマス。強化人間部隊は地上へ降下を開始するザマス」
艦長の森山恭子(kz0216)は、矢継ぎ早に指示を飛ばす。
ゲートを潜って初めて異世界航行を成功させたラズモネ・シャングリラ。
そこは既に戦場のど真ん中。
現状把握を進めながら、自らを守る為に強化人間部隊を展開する。
「艦長、甲板を借りるぞ! 飛翔体の一部とよく分からない円盤はハンターでまとめて引き受ける!」
ジーナ(ka1643)の魔導型デュミナス『バレル』は、ラズモネ・シャングリラの甲板を目指してスラスターを全開で上空へと飛び上がる。
ラズモネ・シャングリラから視認できる敵は、遠距離から飛来する謎の飛翔体オブジェクト。そして、上空から飛来する未確認飛行物体。
未だ、明確な敵の情報はない。
だが、これだけははっきりしている。
もう、『シャングリラ』は二度と沈ませない。
「紫電を纏え、バレル! 片っ端から撃ち落とすぞ!」
ラズモネ・シャングリラの甲板へ到達したと同時に、ジーナはバレルにプラズマキャノン「ヴァレリフラッペ」を握らせる。
飛来する未確認飛行物体に向けて紫電を纏った弾丸が発射される。
「魔法砲台アシェール登場です! 艦橋に当てないよう気を付けます!」
ジーナ同様、アシェ?ル(ka2983)もR7エクスシア『R7エクスシア-DM』をラズモネ・シャングリラの甲板へ到着させる。
ラズモネ・シャングリラを狙うのは主に未確認飛行物体。
アシェールが見る限り、未確認飛行物体は光弾を発射している。
だが、射程距離はそれ程長くはない。
未確認飛行物体が攻撃を的中させる為には、ある程度近づく必要があるようだ。
「向こうから近寄ってくれますか。今日は出し惜しみしませんよ?。ふるふぁいあーです!!」
桜色のR7エクスシア-DMから発射される試作型対VOIDミサイル「ブリスクラ」。
ラズモネ・シャングリラへ接近を試みる未確認飛行物体を複数巻き込みながら、大きな爆発。グラウンド・ゼロの空に開いた花火が、戦いの狼煙を周囲に知らしめる。
「……これで繋がったザマスか? ハンターの皆さん、ラズモネ・シャングリラの初陣を助けてくれる事を感謝するザマス」
誰かがラズモネ・シャングリラへコンタクトを取ったのだろう。
ハンターとの回線を開いた瞬間、恭子が各機へ感謝を述べてきた。
「艦長、感謝は後だ。今は目の前の敵を片付けるのが先だ」
未確認飛行物体に紫電の弾丸を叩き込みながら、ジーナは手短に恭子へ返答する。
ラズモネ・シャングリラを守る為に集ってくれたハンター達だが、今は感謝よりも敵を叩く方が先だ。
「そう、そうザマスね」
「艦長! 0時方向から飛翔物。十秒後に地上へ到達します」
「主砲の準備はできてるザマスね? 何だか分からないザマスが、地上の皆さんを守るザマス!」
ラズモネ・シャングリラの主砲『マテリアルキャノン』にエネルギーが収束。
溜められたエネルギーは、一呼吸置いた後に光となって発射される。
黒い剣のような物体を目視した瞬間、鮮やかな光が貫いた。
空中で破壊される飛翔物。
砕かれた彼らは地上へと降り注ぐ。
ラズモネ・シャングリラの初陣は、華々しい始まりとなった。
●
「商いの開拓も心躍るもんだったがよ。ソレが今度は世界の開拓と来たモンだ。
……ハッ、コレで心が躍らなきゃ漢じゃねぇ!」
R7エクスシア『ヘクトル』のジャック・J・グリーヴ(ka1305)は、量産型フライトパックで上空を駆る。
敵は未確認飛行物体や飛翔体オブジェクトだけではない。
地上に突き刺さった飛翔体オブジェクトからシェオルと呼ばれる敵が生まれ出ていた。
黒い肉と骨の装甲を持ち、四本足で移動する。
以前、血盟作戦でも目撃された敵が、このグラウンド・ゼロでも姿を見せていたのだ。
「そこのけそこのけ、俺様が通るぜ!」
地上近くでアクティブスラスター。
光輝く右手にハルバード「ウンヴェッター」を握り締め、シェオル・ノドの集団に一撃を叩き込む。
吹き飛ぶ黒い塊。
だが、一部のシェオル・ノドは地面へ転がると体を再生させながら、四本足で立ち上がる。
「再生能力付き、か。それに……こいつらの目標はシャングリラじゃねぇな」
機体を走らせながら、ジャックは周囲に気を配っていた。
未確認飛行物体は確かにラズモネ・シャングリラへ攻撃を仕掛けている。
だが、シェオル・ノドはラズモネ・シャングリラやその周辺にいるCAMへ向かって行く素振りが無い。
むしろ、地上へ展開した強化人間の歩兵に向かって移動している。
今も上空で飛翔体オブジェクトが打ち砕かれたが、その欠片が地上へと落下した直後にシェオル・ノドが生まれ出る。
再生能力を持つ敵が、訓練を積んだとしても未知の世界で戦う事になれていない強化人間に殺到する。
この情報が何を意味するのか。
それをジャックは本能的に理解する。
「ハッ、上等だ」
ジャックから放たれる獅子の如き雄叫び。
空気を振動させ、周囲を揺らすかのような声がマテリアルを乗せて広がっていく。
その瞬間、強化人間へ向かおうとするシェオル・ノドや未確認飛行物体が、ヘクトルに向かって集まってくる。
「反応したか。やっぱり謎の敵は歪虚か。
平民を守んのは、貴族の責務だ。体、張ってやるよ」
再びウンヴェッターを構えるヘクトル。
眼前に広がる黒い波に向かって飛び込んでいく。
●
飛翔体オブジェクトから生まれるシェオル・ノド。
周囲から次々と集まってくる黒い敵を前に強化人間達は、やや押されている。
CAMに騎乗する強化人間を無視して歩兵へ襲いかかる状況は、ラズモネ・シャングリラにとっても想定外であった。
「くっ、敵数が多い。CAMも使って叩いているのに」
「手を止めるな! 防衛線が崩壊するぞ」
周囲から響く怒声。
荒野の砂煙が舞い上がり、赤い光が敵の黒い装甲を鈍く光らせる。
異様とも言える『異世界』の光景に、強化人間の歩兵達は心を削られていく。
諦めの境地に達するかと思われたのだが――。
「闇に飲まれた大地であろうと私の為すべき事は、変わらない。
守るべき者を守り、撃つべき者を撃つ……ただ、それだけだ」
地上の強化人間部隊と合流を果たしたクローディオ・シャール(ka0030)は、初めての敵に窮する強化人間達に檄を飛ばす。
「臆するな! 自分を信じて、剣を握れ。そうして初めて、前に進む事ができる」
クローディオの登場。
それは、窮地に陥りかけた強化人間達に注入される活力となった。
彼らの活気を感じ取ったクローディオは、退魔銃「イェーガークロイツ」を構える。
「シャール家が長子、クローディオ……黒騎士として、参る」
クローディオの呟きと共に、空中に現出する無数の闇の刃。
強化人間へ攻撃を仕掛けるシェオル・ノドに襲い掛かる。
貫かれたシェオル・ノドはその場で縫い付けられるように動かなくなる。
「うわっ……なんなんですか、アレ!?」
縫い付けられたシェオル・ノドを目撃したフレデリク・リンドバーグ(ka2490)は、奇怪な敵を前に、一瞬気圧される。
リアルブルーから来た強化人間達と戦える事を楽しみにしていたフレデリクだが、不気味な敵を目にして心が止まる。
戦場で足を止める事。
それは、身の危険を意味している。
「……っ!」
一匹のシェオル・ノドがフレデリクを目指して移動。
そして、射程距離へ近づくと足に付いた鋭い爪を大きく振りかぶった。
振り下ろされる爪。
しかし、その爪はフレデリクに届かない。
「だ、大丈夫か!」
一人の強化人間が体を張ってフレデリクとシェオル・ノドの間に入り込んだ。
手にしていたマテリアルソードでシェオル・ノドの爪を食い止めたのだ。
動きを止められるシェオル・ノド。そこをクローディオが強襲する。
「消え失せろ」
側面から直撃する光の波動。
シェオル・ノドを吹き飛ばし、地面に激しく叩き付けられる。
地面で倒れたシェオル・ノドは、その体を塵のように風で散らせていく。
「……あ、ありがとう」
フレデリクは守ってくれた強化人間にそっと礼を述べる。
それに対して強化人間は笑ってくれた。
「後にしよう。今は、目の前の敵に集中しましょう。ハンターの皆さんが来てくれたのなら、きっと勝てる」
きっと勝てる。
その言葉がフレデリクの心に染み込んでいく。
「はい、勝ちましょう。これまでだって色々危なかったですけど、何とかしてきたんですし! その為にも、私は全力で支援させていただきますね!」
気合いを入れ直したフレデリクは、シェオル・ノドの集団を見据える。
そして、構えた機導砲を遠距離から浴びせかけていく。
窮地に陥っていた歩兵部隊は、徐々にシェオル・ノドを押し返し始めていた。
●
「アホみてぇにデカブツ落としやがって……来やがれっ! 片っ端から叩き落としてやらぁ!!」
ラズモネ・シャングリラの甲板でアニス・テスタロッサ(ka0141)は、オファニム『レラージュ・ベナンディ』のプラズマキャノン「アークスレイ」を放った。
800センチの大型砲が、飛翔体オブジェクトを打ち砕く。
欠片が地上へ降り注ぐが、地面に突き刺さってシェオル・ノドを大量発生されるよりはマシだ。
「おい! 座標はまだかよ!」
アニスは、タクティカルヘッドセッドへ叫ぶ。
怒気が孕んだアニス。その声に対して、カイン・シュミート(ka6967)が返答する。
「簡単に言うな。戦闘の最中だ、邪魔も多すぎる」
ラズモネ・シャングリラの上空でカインはワイバーン『エプイ』の背中にいた。
双眼鏡で飛翔体オブジェクトを観測。さらにマッピングセットの方眼紙でメモを整理する事で、戦域での情報混乱を発生しないように情報の橋渡しを行う手筈となっていた。
だが、戦闘を開始しても詳細な情報がすぐには送られてこなかった。
「仕方ないわ。戦場は刻一刻と変化している。戦場を座標マップ化するだけじゃなく、それをラズモネ・シャングリラへ展開させるのは突貫作業のはずよ」
今度は、地上で敵の掃討を行っているエラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)の声がヘッドセットから聞こえてくる。
グラウンド・ゼロの事前情報があれば、戦闘前に戦域を座標化して情報共有できたかもしれない。
だが、敵の襲撃は突如な上、ラズモネ・シャングリラは異世界転移したと同時に戦闘が開始された。いずれも予期しない形で、未知の場所での戦闘開始だ。カインも情報を整理してラズモネ・シャングリラやハンターへ展開しているが、情報をまとめている間に新たな飛翔体オブジェクトが飛来する状況なのだ。
「こちらは整理を付けて仲間へ展開する。もう少しだけ持ちこたえてくれ」
カインの声に、アニスもエラも承知する他なかった。
「地上は敵が歩兵に集まっているけれど、何とか彼らを支援してみるわ」
「へっ、どうせやらなきゃ帰る場所が無くなるんだろ。だったら……」
アークスレイの第二射が銃口から発射される。
巨大なエネルギーが再び飛翔体オブジェクトを捉えた。
轟音と共に地表へと降り注ぐ飛翔体オブジェクトを前に、アニスははっきりと断言した。
「やるしかねぇだろ。目の前の敵は、手当たり次第にぶっ飛ばす!」
●
「ぬぅぅぅ! 各々の居場所、オブジェクトの落下位置を伝えなければならねぇというのに……」
カインと同じ事で悩んでいたのが、デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。
R7エクスシア『閻王の盃』の操縦席で唸り声を上げていた。
地上で飛翔体オブジェクトから生まれたシェオル・ノドを掃討しながら、戦域を整理。戦域を東西南北で座標化。戦況をハンターやラズモネ・シャングリラの面々へ伝えられれば、戦いは有利に展開する事ができると考えていたのだ。
だが、カイン同様、戦闘中の様々な要因から情報共有に苦慮していたのだ。
「デスドクロ、応答してくれ」
「ん、俺様を呼ぶのは……お前か」
デスドクロに呼び掛けたのは、同じ悩みを抱えていたカインであった。
ヘッドギア「ヘーラー」から流れるカインの声に、デスドクロは耳を傾ける。
「して、何用だ?」
「情報共有と整理に協力してくれ」
カインは、率直に要件を伝えた。
各地に点在するハンターから情報が集められても、それを整理して情報展開する必要がある。それもリアルタイムに行うのだから、一人ではかなり厳しい状況だ。
その為、同じく情報展開を考えていたデスドクロへ協力を要請したのだ。
一人では難しくても複数で手分けをすれば情報の整理もスムーズになる。
双方の悩みを一気に解決できるかもしれない。
「良いだろう。俺様一人でも時間の問題だが、迷える仲間を導くのも俺様の使命よ」
「ありがたい。だが、急いだ方がいい。各地のハンターが情報の展開を待っている」
戦いの最中、情報という難敵に二人のハンターが果敢に挑戦する――。
●
「未確認飛行物体の増援、来ます!」
ラズモネ・シャングリラのブリッジでオペレーターが、冷静に現状を報告する。
ハンターの活躍もあり、ラズモネ・シャングリラへの被害は軽微。だが、現時点で敵の攻撃が止む気配はまったくない。
新たなる増援を前に、ハンター達も必死な抵抗を見せる。
「シャングリラの死角へ回り込むつもりですか。そうはさせません」
ルドルフ・デネボラ(ka3749)のR7エクスシアは、ジェットブーツでジャンプ。
重力に引かれて落下する間にクイックライフル「ウッドペッカー」の引き金を数回引いた。
発射されるマテリアルビームのうち、一発が未確認飛行物体の底面へ直撃。
未確認飛行物体の基底に大きな亀裂を与える。
「そ、狙撃なら少しくらいはお手伝いできるはず、ですぅ!」
弓月・小太(ka4679)は、亀裂の入った未確認飛行物体を見逃さない。
魔導型デュミナスのロングレンジライフル「ルギートゥスD5」に付けられたスコープが、フラフラと揺れる未確認飛行物体を捉え続ける。
攻撃を受けた為か、他の機体よりも動きに鈍さがある。
「目標捕捉……あ、当たれ、ですよぉっ!」
ルギートゥスD5の咆哮。
ドラゴンの咆哮が響き渡ると同時に、未確認飛行物体の本体に大きな風穴を開ける。
派手な爆発音と共に、未確認飛行物体は粉砕され地面へと墜落していく。
「やった、ですぅ! 確実に一つずつ撃墜して行くのですぅ。飛翔体を落とせれば、地上の人達の負担も減っていくでしょうしぃ」
弓月は次の目標へ狙いを定める。
特にルドルフも弓月も飛翔体オブジェクトを優先的に狙っていた。
地上の状況はラズモネ・シャングリラからも送られてくる。飛翔体オブジェクトから生まれるシェオル・ノドは、歩兵に狙いを定めている。少しでも地上部隊を支援する為には飛翔体オブジェクトを確実に破壊していく必要がある。
「……きたっ!」
ルドルフの声。それに反応するかのように飛翔体オブジェクトが飛来する。
R7エクスシアはフライトシールド「プリドゥエン」に捕まりながら上空へと舞い上がる。
その手に握られるは、試作錬機剣「NOWBLADE」。
後方では弓月が早くも飛翔体オブジェクトに照準を合わせ始める。
確実な破壊――それが勝利への近道であった。
●
「……やっぱりこんな時も飲んでるのね、中尉」
強化人間ジェイミー・ドリスキル(kz0231)中尉が騎乗する戦車型CAM『ヨルズ』の傍らを、マリィア・バルデス(ka5848)のR7エクスシア『mercenario』が並走する。
マリィアには一つの気がかりがあった。
ドリスキルは戦闘中であろうとも酒を手放す事はない。
本人曰く、飲んだ方が砲弾の命中率が良いのというのだ。
本当かどうかは不明だが、この異世界のグラウンド・ゼロで飲酒する行為がある心配を引き寄せていた。
「ああ? さっきからやたら酒を止めるように言っているが、何かあんのか?」
「お酒はダウナーだから、敵に引き摺られないようになるべく控えて欲しいわね。貴方の機体、攻撃力だけはあるんだから」
マリィアは虚無が古代人や精霊の憎悪で出来ているという話を聞いていた。その感情が強化人間部隊に影響を及ぼして引き摺られ、取り込まれる事を懸念していたのだ。
だが、当のドリスキルは――。
「なら、陽気に飲めばいいのか? こっち来て酔いが足りねぇのか、新しくウイスキーを開けたばかりだが……何ともねぇぞ?」
「え?」
マリィアはドリスキルの言葉を反芻する。
何ともない。
現時点では異常がない、という意味合いかもしれないが、既にヨルズによる砲撃支援でかなりの虚無を吹き飛ばしてきた。それでも何も変わらないのであれば、強化人間が影響を受ける事はないのかもしれない。
「おい、それより新たなお客だ。9時方向、デカいムカデが二体だ」
ドリスキルの声に気付き、マリィアは指摘された方向のモニターを確認する。
見ればムカデのような外見をしたシェオル・ブリッツが物凄いスピードでこちらへ向かって来る。
後方には強化人間部隊。ここで食い止める他はない。
「中尉。強化人間部隊を守る為、ここで敵を惹き付ける」
「へっ、その隙に二体を仕留めろってか? 大したリクエストだ。こりゃ全米でなくても俺が泣きそうだ」
減らず口を叩きながら、ヨルズを旋回させて二時方向へ移動させる。
その間にマリィアは量産型フライトパックで上昇。アクティブブラスターで敵の前に躍り出る。
「聞こえるか、強化人間部隊。
R7の方が防御力は上である! 私達で遮蔽を取りなさい! 誰も欠けずに帰る為よ、戸惑う前に……撃ちなさい!」
後方にいる強化人間部隊に、マリィアは行動を促した。
戦場にいる以上、守られるだけでは生き残れない事を知っているのだ。
●
「ぶははははっ! やはり俺様は完璧ぃ! 我ながら見事なモンだぜぇ!」
「ラズモネ・シャングリラ、主な戦況をまとめた。この情報を展開して欲しい。こちらからも関係者に情報を展開する」
デスドクロとカインの声が、ラズモネ・シャングリラへ木霊する。
二人で激変する戦況をまとめ、カインがラズモネ・シャングリラのクルーへメモを手渡した。そのメモを再編してブリッジで映像化する事に成功したのだ。
このデータを元に敵の出現ポイントを追記していけばいい。
「感謝するザマス! こちらでもハンターの皆さんへ最新の情報をお届けできるザマス」
「艦長、情報では北東エリアQ-2で新たな飛翔体オブジェクトを確認しました」
感謝を述べる恭子の傍らで、オペレーターが冷静に新情報を伝達している。
戦闘前に座標を手に入れられなかった関係で通信で具体的な座標を連絡する事はできないが、大まかな場所を伝えるだけでも状況は変わるはずだ。
「これで戦況は変わるであろう! では、俺様も敵の掃討へ向かうとするか」
「Q-2の上空から俺が地上へいるハンターを支援する……エラ、聞いていたか?」
デスドクロとカインも継続して情報をラズモネ・シャングリラへ展開していけば、敵を撃ち漏らす可能性が低下する。
カインの読み通り、虚無の方は集団戦闘、継戦能力が上であったとしてもこれで状況を一変させられるはずだ。
●
「聞いてたわ。既に北東に向かって移動中よ。情報通りなら、もう間もなく見えてくる」
エラは刻令ゴーレム「Volcanius」『七竈』と共に現地へ急行していた。
エラの前を行くのは、リーリー『ホル』に騎乗するパトリシア=K=ポラリス(ka5996)とユグディラ『ミラ』と共に進む高瀬 未悠(ka3199)である。
「居心地の悪い場所ね……彼らは大丈夫かしら」
未悠は傍らを走る強化人間に視線を送った。
初めての異世界、それも未知の敵と戦っているのだ。心配な点は尽きる事がない。心許ないのであれば、自分達ハンターが彼らを支えてやらなければ――。
「あれね……秘書見習い、前進して周囲の敵を攪乱して」
「うぃっ♪ りょーかいダヨ、ししょー♪」
パトリシアは、ホルのスピードを一気に上げた。
エラの目にも黒い大きな塊がはっきりと見える。そして、その周囲に存在する虚無――シェオル・ノドが蠢いている。
飛翔体オブジェクトを叩く為には、周囲の虚無を排除しなければならない。
そこでエラは手筈通りパトリシアを前線近くで走らせる。
そして、単騎でシェオル・ノドの前まで到達したパトリシアは、手にしていたギター「ジャガーノート」を掻き鳴らす。
「盛り上がっテ、いくんダヨー♪」
グラウンド・ゼロに鳴り響く、ジャガーノートの調べ。
それはシェオル・ノド達の注意を引くには最適であった。
パトリシアに向けて動き出す虚無。
追いかけるように動き、陣形が大きく変わろうとする。
だが、それはハンター達にとって好都合だ。
「せめて魂だけでも帰れるように……楽にしてあげるわ」
未悠と強化人間の部隊が、虚無達の側面を襲撃する形で突撃。
ミラージュグレイブを大きく振りかぶり、眼前にいたシェオル・ノドを吹き飛ばす。再生能力がある事は既に承知している。ならば、再生前に猛攻を仕掛けて一気に止めを刺す。
その情報は強化人間達にも伝えている。
パトリシアが囮を続けながら、未悠達が何処まで奮戦できるかが鍵であろう。
「良い感じね。なら、こちらも始めましょう。七竈」
エラは少し離れた場所から七竈に砲撃の指示を出した。
この位置からでも飛翔体オブジェクトが狙えう事ができる。幸い、パトリシア達が前にいる為にエラの方へ向かう虚無の姿は見当たらない。
ここからゆっくりとプラズマキャノン「アークスレイ」と狙う事ができる。
「あなたの炸裂弾、見せてあげなさい」
アークスレイの照準は、飛翔体オブジェクトをしっかりと収めていた。
●
カインがQ-2に向かってエプイを飛ばす頃、ラズモネ・シャングリラの上空では相変わらず未確認飛行物体の襲撃が続いていた。
「空から降るのは雨や雪ばかりだと思っていたけど、こういう天気もあるんだね」
ワイバーン『Peter』と共に飛行するHolmes(ka3813)は、誰も聞こえない小声でそっと呟いた。
雨や雪どころか、空を埋める勢いで飛来する未確認飛行物体。
その飛行物体を縫うように飛行しているHolmesだが、その冗談は甲板で戦うハンター達にとっては笑えない。
「Peter、対空迎撃で新たな来客をお迎えするとしよう」
Holmesに答えるようにPeterは一声吼えた。
幻獣剣「グルート」により炎のオーラのような刃が形成される。
Peterは未確認飛行物体の合間を通り過ぎるように飛行して、グルートで適確に攻撃を叩き込んでいく。
しかし、未確認飛行物体の影から別の飛行物体が姿を覗かせる。
――至近距離。だが、その距離だからこそHolmesは次の一手を打てる。
「近くに来たいのなら、遠慮する事は無いよ」
至近距離だからこそ、Holmesはファントムハンドを伸ばした。
飛行物体の一部を掴み、強引に近くへと引き寄せる。
「Peter、ファイアブレス」
Holmesの指示で炎を吐き出すPeter。
焙られる飛行物体。幻影の腕が離れる時には、飛行物体は自力飛行ができず墜落していった。
「こっちもまだ終わってませんよ。CAMから降りてからが魔法砲台の本番です」
R7エクスシア-DMを降りたアシェールは、ラズモネ・シャングリラの甲板の上で堂々と墜空を発動。
未確認飛行物体の上空に火球を生み出し、次々と降らせていく。
ラズモネ・シャングリラへ攻撃を仕掛ける為にアシェールの近くに寄っていた未確認飛行物体が次々と地上へ墜落していく。
「おーおー、結構ピンチって奴か? ちぃとばっかり遅れての登場となっちまったが……俺様が直々に相手してやるよ」
敵の大量出現で予定よりも異なる場所で釘付けにされていたラズモネ・シャングリラ。
その近くへフライトブーストとアクティブスラスターを駆使して到着したジャックのヘクトル。
到着早々に獅子吼を発動。
マテリアルを乗せた雄叫びが、ラズモネ・シャングリラの上空にいた未確認飛行物体をヘクトルの方へ引き寄せる。エンジン部を狙おうとしていた敵も引き寄せる事ができた以上、貴族が平民の窮地を救ったと見ても良いのかもしれない。
「そうだ。こっちに来い。俺様の強さをたっぷりと教えてやる」
マテリアルライフルで紫色の光線が未確認飛行物体を貫いていく。
ハンターの活躍で空を埋めていた敵は、確実にその数を減らしていった。
●
「世界の裏側なぁ……なんだろうな、この違和感は」
ソティス=アストライア(ka6538)はR7エクスシアの中で奇妙な感覚に襲われていた。
目眩とは異なる、胸騒ぎと軽い頭痛を併発したような感覚。
それはグラウンド・ゼロに広がる異様な光景が原因なのかもしれない。
だが、そうであってもやるべき事に相違はない。
「狩りの時間だ。纏めて……消し飛ぶがいい!」
まだ調整は万全ではないR7エクスシアだったが、ソティスは眼前のシェオル・ブリッツへハンドガン「トリニティ」を浴びせかける。
黒いムカデの大量に叩き込まれる弾丸。長い体は地面へのたうち周り、周囲のシェオル・ノドを巻き込んで吹き飛ばす。
「スワローテイル、行け」
ソティスは傍らで控えていた強化人間達に眼前の敵にトドメを刺すよう打診した。
強化人間とソティスで同一の敵を目標とする事で確実に敵を葬りさるのが狙いだ。
それに万一問題があれば、ソティスが直接強化人間達を助ける事もできる。
「ふぅむ。じゃが、まだあのムカデは元気なようじゃな。リアルブルーから来た者達から離れてくれたのは好都合じゃ……黒っ!」
紅薔薇(ka4766)の傍らにいた刻令ゴーレム「Volcanius」『黒』は、200mm4連カノン砲 をシェオル・ブリッツへ向けた。
未だ地面に体を叩き付けるムカデ。
その場で暴れ回るだけなら、黒にとっては良い的だ。
「撃てっ!」
紅薔薇の指示を受け、200mm4連カノン砲が火を噴いた。
黒の体が反動で僅かばかり後ろへ下がる。
同時に、放たれた砲弾はムカデの体を直撃。派手な爆発がムカデの体を包んだ。
「よし。黒は後方で支援じゃ。妾は皆と共に雑兵を相手にしよう」
紅薔薇は祈りの剣を握り、強化人間達を支援するべく一気に前へ出た。
手近にいたシェオル・ノドを一刀の元に斬り伏せた。
「リアルブルーから来てくれた皆には感謝するのじゃ。我らの力を合わせて、必ず、皆で生きて帰るのじゃ!!」
強化人間達へ檄を飛ばす紅薔薇。
連戦続きで疲労が見え始めた強化人間達であった。だが、ソティスや紅薔薇のように強化人間達を助けて導く存在が、戦況に影響を与え始めていた。
「新たな敵影、か。さっさと退場願うとするか……この世からな」
ソティスは、新たに襲来したクイックライフル「ウッドペッカー」の銃口を向けた。
●
「飛翔体、新たにB-8付近へ飛来! 戦域西、ラズモネ・シャングリラの近くです」
「……って、事ぁオレがいる辺りか!」
大伴 鈴太郎(ka6016)はR7エクスシアのモニターをチェックする。
展開された情報から類推する限り、鈴太郎が立つ辺りに向かって飛翔体オブジェクトが飛んでくるはずだ。その証拠にR7エクスシアのモニターにも大きな黒い塊が空に浮かんでいるのを確認できる。
「初搭乗にしちゃ、デカいのが相手かよ。……頼むぜ、くまごろー」
サポートロボット「くまごろー」は、R7エクスシアに接続されている。
鈴太郎の操縦サポートをする頼もしい仲間である。
「20秒で飛翔体が着弾します」
「わーってるよ。焦るなって」
鈴太郎はR7エクスシアを屈ませ、マテリアルキャノン「タスラム」を構える。
既に飛翔体は目視できる。照準へ収める事はできる。問題は、あの飛翔体を破壊するのにマテリアルキャノンだけで火力が足りるかどうか、だ。
そこへ近衛 惣助(ka0510)の声が魔導スマートフォンから聞こえてくる。
「一人でヒーローにでもなろうっていうのか? 独り占めはズルいな」
ラズモネ・シャングリラの甲板からロングレンジライフル「ルギートゥスD5」を構えるオファニム『無銘』。
長い銃身の先には飛来する飛翔体オブジェクトがある。
惣助の意識は、その飛翔体へと向けられていく。
「だったら、さっさと手伝え!」
「ああ。地上部隊に楽させてやろう!」
鈴太郎と惣助が狙う同一の飛翔体オブジェクト。
もう少し――もう少しでお互いの射程圏内に入る。
息を細め、虫のような息をゆっくりと吐く。
周囲の音が掻き消えたかのような錯覚。
すべてが自分と飛翔体オブジェクトだけになったかのよう。
――そして、意を決した二人の手に力が込められる。
「墜ちろ!」
「やらせるかよ!」
轟音と共に放たれる二人の弾丸。
飛翔体オブジェクトヘ突き刺さり、深く抉っていく。
さらに鈴太郎はミサイルランチャー「レプリカント」を、惣助は高速射撃とシャープシューティングを乗せた第二射へ追撃をかける。
浴びせかける攻撃に飛翔体オブジェクトも限界を迎えたのだろう。
黒い塊は上空で弾け、その体を欠片として地面へ降り注いだ。
「へっ、他愛もねぇ」
「他愛もないなら、少しでもこっちを手伝ってくれ。シャングリラに増援だ」
惣助のモニターには、未確認飛行物体の増援を知らせる警告が表示されている。
惣助は手早くミサイルランチャー「ガダブタフリール」へ切り替え、照準を合わせ始めている。
「わーったよ。だけど、飛翔体がまた来るようならそっちを優先するからな」
鈴太郎のR7エクスシアは、ラズモネ・シャングリラに向かって歩き出した。
●
「うおっ!?」
ヨルズの機体が激しく揺れる。
旋回中にシェオル・ブリッツが側面から突進。頭部の角がヨルズの機体に深く突き刺さっている。
「中尉!」
マリィアが異変に気付き、ハンドガン「トリニティ」でシェオル・ブリッツへ銃弾を浴びせかける。
状況を考えれば、周囲は乱戦に見舞われている。
破壊された飛翔体オブジェクトがヨルズの近くへ落下。そこからシェオル・ブリッツが突如姿を見せたのだ。回避そのものが難しかったのかもしれない。
「やってくれるじゃねぇか。
type3装填……季節外れのハロウィンだ。あめ玉が欲しければ、悪戯前に言うべきだったな」
ヨルズからの砲撃。
周辺の空気が大きく揺れる。
次の瞬間、荒野に跳ね回るシェオル・ブリッツの姿があった。
type3――対空用榴散弾。
本来ならば未確認飛行物体を相手に発射される散弾だが、ドリスキルは近接射撃として利用したようだ。おかげでシェオル・ブリッツに直撃。その体は大きく削り取られる事になった。
だが、まだトドメを刺した訳ではない。
「はやてにおまかせですの!」
通信を聞いた八劒 颯(ka1804)が、魔導アーマー量産型『Gustav』で駆けつける。
タイヤを滑らせながら、アーマードリル「轟旋」を前面へ突き出した。
高速回転するドリル。
独特な音を響かせながら、ドリルの突端をシェオル・ブリッツへ向かって行く。
「びりびり電撃どりる!」
強烈な一撃が、シェオル・ブリッツの体を貫いた。
シェオル・ブリッツは悲鳴を上げる暇もなく、地面で動かなくなった。
敵を葬った事を確認した颯は、破損したヨルズに近づく。
「大丈夫ですの?」
「ああ、駆動系には異変は無さそうだ。このままダンスも踊れるぐらい元気……」
「中尉、一旦引きます。今回の戦いでヨルズを失いたくは無いでしょう?」
ドリスキルの言葉をマリィアは遮った。
CAMに負けたくないという想いから、無理を貫こうとしていると感じたようだ。
事実、見た目からもシェオル・ブリッツに作られた角は深く突き刺さっている。ヨルズの移動には問題ないかもしれないが、大事を取った方がいい。
「無理はダメですの。みんなのおかげで敵の数は減ってますの」
颯からもドリスキルの後退を勧める。
まだラズモネ・シャングリラは初戦。ヨルズはこれからも戦ってもらわなければならない。ここで無理して長期修理としては目も当てられない。
CAMよりも上だと見せつけたいドリスキルにとって、それは避けたい事態だ。
「ちっ、仕方ねぇ。ラズモネ・シャングリラへ戻るとするか」
「ここは、はやてが頑張るですの」
ラズモネ・シャングリラの方へ走り出すヨルズ。
そのヨルズに並走する形でmercenarioも動き出す。
颯の目から見ても敵の数は減少している。
あと少し――あと少しで趨勢は決しようとしていた。
●
「たとえ世界の裏側とて、私の手から逃れる事はできぬ。
それが虚無でも……空から降る黒い悪夢でも」
コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)は、スナイパーライフル「ルーナマーレ」のスコープで飛翔体オブジェクトの欠片を捕捉していた。
ラズモネ・シャングリラのマテリアルビーム砲で砕いた飛翔体オブジェクトだが、上空で砕いたとしても大きめの欠片はどうしても地上に落下してしまう。
コーネリアら一部のハンターは、大きめな欠片も確実に破壊するべく注力していた。
「距離1200……もう少し」
ルーナマーレの引き金に掛けた人差し指。
コンバージェンスによりマテリアルを収束。さらに高加速射撃で弾丸の威力を高めている。
『負を纏う漆黒の闇』を狙うコーネリア。
そこへ他のハンター達も同調する。
「私、あまり強くないのだけれどね……どこまでやれるかしらっ!」
坂上 瑞希(ka6540)も同じ飛翔体オブジェクトに狙いを定めていた。
アサルトライフル「ブラック・ペイン」の弾丸に自身のマテリアルをエネルギーとして流入。
己の想いを弾丸に乗せ、銃口を空へと向ける。
破壊できるのかは、分からない。
だが、戦わなければ道を切り拓けない。
「ユーグ、敵を食い止めるですの。わたくしがあれを落とすですの」
ユグディラ『ユーグ』と共に、チョココ(ka2449)が駆け込んできた。
近寄るシェオル・ノドをユーグが撃退する傍らで、チョココはスタッフ「ケレース」を空へ掲げた。
ケレースの先に生まれる燃え盛る火球が生み出され、チョココの指示を待つかのようにその場で漂っている。
――そして。
三人の攻撃が一斉に、飛翔体オブジェクトヘ殺到する。
コーネリアの弾丸が欠片に突き刺さり、瑞希が細かい弾丸を打ち砕いていく。
チョココのファイアーボールが欠片に衝突。爆炎がグラウンド・ゼロの上空に広がった。
気付けば、欠片は跡形も無く霧散していた。
「クリア。残るは、シェオル・ノドか」
コーネリアは、ユーグの方へ向き直る。
既にハンターと強化人間達が虚無の掃討に尽力。その数を大幅に減らしていた。視界に見える虚無も数える程になっていた。
「オブジェクトも見当たらなくなってきたし、後は地上の敵だね!」
瑞希は、ブラックペインの銃口を周辺の虚無へと向ける。
――掃討戦。
それは瑞希の脳裏にもはっきりと浮かんでいた。勝利は目前という意識が強くなった証拠だ。
「よぉーし! もう一頑張りですの!」
チョココはシェオル・ノドへライトニングボルトを放つ。
強烈な電撃がシェオル・ノドを貫通。
ハンター達の猛攻は、確実に虚無を追い詰めていた。
●
「UFOは男のロマンっす! 歪虚だろうっすけど万が一があるっすからね?」
撃墜されていく未確認飛行物体を、神楽(ka2032)は三下魔導カメラで次々と撮影する。
ラズモネ・シャングリラの甲板で、神楽はフレイムアローで未確認飛行物体を射貫き続けていた。
だが、神楽の中に眠っていた浪漫が暴れ出すのは時間の問題だった。
目の前に飛来するのは、恐怖と興味が入り交じった感情で雑誌を見続けたUFO。
徐々に攻撃するだけでは飽き足らなくなってきた。
気付けば三下魔導カメラで次々と激写し始めていたという訳だ。
「くぅ?。UFOの欠片はゲットできなかったっすけど、心にしっかりと焼き付けないとっすねぇ?」
次々とシャッターを切る神楽。
残念ながら、未確認飛行物体の欠片は手にした段階で歪虚同様サラサラと砂のように崩れてしまった。持ち帰る事が難しいと分かった段階で、神楽は未確認飛行物体を撮影し続けていた。
もし、この写真を解析して何か重要な事が判明するとすれば――それは、まさに浪漫だ。
「粗方片付いたザマスね」
「え!?」
恭子の通信で神楽はようやく我に返る。
見回せば、未確認飛行物体の姿は消え失せ、ただの荒野が広がる大地がそこにあった。
撮影で夢中になるあまり、戦いが終わりを告げた事を気付かなかったのだ。
「何機はフレイムアローで落としたっすが、もうちょっと未確認飛行物体を満喫したかったっすねぇ」
「あたくしはもうUFOはこりごりザマス!」
神楽の言葉に、恭子は即座に否定した。
ラズモネ・シャングリラの初陣はこうして幕を閉じた。
強化人間側に多少の負傷者は出ていたものの、ハンターの尽力である程度の被害は抑えられた。
ラズモネ・シャングリラもエンジン出力や一部調整を行えば、再び異世界航行する事も可能なはずだ。
次なる戦いは、果たしていずこで待っているのだろうか。
リプレイ拍手
近藤豊 | 11人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!