【未来】王国のその後

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▼グラズヘイム王国の【未来】▼
 
 

グラズヘイム王国のその後

邪神戦争と傲慢歪虚との戦争が終結して歪虚災害が大きく減じたグラズヘイム王国だが、戦後の王国には幾つかの問題が残る事となった。
大まかに言えば、財政破綻危機・人口減少・歪虚汚染浄化である。
システィーナ・グラハム女王(kz0020)こそ健在であるものの、王国は金銭も人材もあらゆるものが枯渇していた。

王国は傲慢歪虚との戦争と邪神戦争という二つの戦争を、歴史によって積み重ねてきた金銭と技術によって耐え抜いてきた。
ハンター達の大いなる活躍やルクシュヴァリエ等のような新技術が勝利の決め手だったとはいえ、それらを後方から支え続けたのは歴史に基づいた資産であった。
国家予算を切り詰めて軍事に充て、王家の財産すら投入して開発と生産を指示する。おかげで古色蒼然としていた王国の各種産業が発展したのも事実であったが、その代償に王国は戦後復興資金にすら難渋する事となった。
第六商会のような大店や黄金商会のような新興ながら野心溢れる商会から援助を受け、幾つかの貴族家にも借りを作りながら国内の復興を進める。
この綱渡りのような資産運用は、戦中に国内の貴族派を大きく叩けず資産を接収できなかった事が響いていたのだが、削れなかった事で得られたウェルズ・クリストフ・マーロウ大公の多大な協力が綱渡りの成功にも繋がっていた。
この嘆くべきか安堵すべきか分からない皮肉な状況に、システィーナ女王は頭を抱えてため息をついたという。

人口――特に若年層の減少には二つの戦争の推移が関わっている。
傲慢歪虚王イヴは決戦前、半年をかけて王国全土に百万の配下を放っていた。それらの傲慢兵はイヴ討伐後に消滅、あるいは分散してどこかへ去ったのだが、それから時を置かずして今度は邪神より派兵されたシェオル型歪虚が世界を襲った。
全土に拡がる激戦を戦い抜いた王国の者達にとって、休息もままならず波のように転移してきたシェオル型歪虚は絶望そのものであった。
イスルダ島占拠から続いた11年の戦争と、最後に押し寄せた歪虚によって失われた命は数知れず、王国は戦災孤児を支援して人々の保護をするばかりかハンターや鬼族から移民を募るほど人手に困る事となった。
システィーナ女王等のごく一部を除き本来保守的な気質であったはずのグラズヘイム王国が、だ。

また王国には11年にわたって占拠されていた西方沖のイスルダ島と、10年間にわたって係争地であった王国西部リベルタース地方が存在する。 歪虚汚染浄化といえば“レクエスタ”がクリムゾンウェスト全土の浄化を進めているが、王国はまず本土から浄化、再開拓しなければならなかった。
王国騎士団と聖堂戦士団の一部をレクエスタに派遣する一方で国内の浄化と再開拓も行わなければならない状況は、金銭的にも人材的にも王国を大きく圧迫した。

しかしこれらの問題は同時に、システィーナ女王の望む一つの未来への第一歩を後押しした。
一般市民の影響力の増大である。
商会は国に貸しを作って国政に食い込み、騎士団は人が足りず門戸を開く。グラズヘイム王立学校は女王直々の施策により一般入学者を増やし、グラズヘイム・シュヴァリエ等の工房はリアルブルーとの交流に踏み切った。
王家と貴族の影響力が緩やかに減少し、市民の台頭が近付きつつあった。

そうしてギリギリの戦後復興を果たす中、王国暦1021年、サルヴァトーレ・リーラなる異界航行船が就航するやシスティーナ女王はリアルブルーへの短期留学を強行した。
一年間リアルブルーの大学で勉強して帰国した女王は、王国の最高意思決定機関である円卓会議の規模拡大と王立学校の総合大学化を決定する。
これこそが、立憲君主制への移行を目指すシスティーナ女王の百年計画(クイーンズ・プラン)の始まりであった。

王都イルダーナ 傲慢歪虚との戦争で集中して攻められた王都は戦争の爪跡が色濃く残っていたが、戦争終結から僅かな期間で王都再建はもちろん、新たに第七城壁の完成まで一気にこぎ着ける事に成功した。 それは第七街区の人々のバイタリティと、その際に得たハンターらの知恵、そして貴族らの献金の賜物であった。第七街区自体には未だ空き地が多くバラックのような家に住む者も少なくないが、正式に王都に組み込まれたという喜びが第七街区の活気を大きくした。 また第二街区では王立学校の拡張が行われ、第三街区では騎士団員の募兵が行われるなど、戦後特有の賑やかさが王都の人々の心を慰めた。 王国暦1021年には女王の短期留学という前代未聞の事態により騒然とするが、女王が帰国してからは改革の流れも大きくなり、商会や工房はこの波に乗り遅れまいと活発に動き始めた。 それは1014年にサルヴァトーレ・ロッソが漂着する前まで落ち着いていた――悪く言えばひどく硬直していた王都とは思えないほどの活気であった。
港町ガンナ・エントラータ ヘクス・シャルシェレット(kz0015)が領主を務めていた港町は、ヘクスの隠居という大ごとはあったものの、その経済活動に陰りはなかった。 元々が王国一の港町であり、商業組合の力の強い地である。その活動を阻害しないという点でヘクスは有能であったが、それ故に一人の引退が与える影響は小さかった。加えて彼はここに本店を構える国内有数の大店、第六商会の会長として王国暦1022年――王都復興が成るまで君臨し続けたため、急激な変化が町を襲う事はなかった。 また、システィーナ女王の短期留学に際して隠居前のヘクスとハンターがこの町から手引きした事が判明しており、彼らにセドリック・マクファーソン大司教の雷が落ちた話は喜劇として吟遊詩人に歌われている。
古都アークエルス 奇人変人の多い古都は二つの戦争によって損害を負ったが、その被害は王都ほどではなかった。 変人ではあるものの優秀な研究者や覚醒者も多いこの街は瞬く間に復興を果たすと、各々の研究に戻った。領主フリュイ・ド・パラディ(kz0036)すらそれを止める事なく、義理程度に王都へ復興資金と作業員を送ると自らも研究に打ち込んだ。 ただ、一つだけ領主フリュイが研究者達に命じた事がある。それはリアルブルーの知識を蓄える事。王都のグラズヘイム・シュヴァリエ等も気付いていたが、フリュイもまた青の世界の知識と魔導の融合こそが今後の最先端技術となる事を確信していたのだ。
古の塔 古都からやや離れた所に塔がある。華美な装飾も何もない塔だ。 最上階には古き玉座が据えられている。しかるべき者が座れば王国全土を巡る法術陣――巡礼陣と接続できる、王国の秘儀に値する装置だ。 かつてそれを管理していた者は既にない。今、これを護り管理するのは、幾体ものゴーレムとクリスティア・オルトワール(ka0131)であった。 塔は静かに佇んでいる。 グラズヘイム王国に再び危難が訪れる、その時まで……。

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主要人物のその後

システィーナ・グラハム(kz0020)
傲慢歪虚との戦争及び邪神戦争の爪跡残るグラズヘイム王国復興に際し内政手腕を発揮、迅速な対応で国民人気を確立する。
また王国暦1021年には就航直後の異界航行船サルヴァトーレ・リーラに乗船し、リアルブルーへの短期留学を実現した。
その後母国に戻った彼女は、戦争と留学で得た知見を元に立憲君主制への移行の下地作りに尽力、次代の千年王国の第一歩を刻んだ。

セドリック・マクファーソン(kz0026)
邪神戦争後もシスティーナ治世下において彼女の腹心として辣腕を振るい、女王の短期留学を機に還俗、正式に宰相位を拝命した。
彼自らが各所から引き抜いて組織した官僚集団は年々規模を拡大し、王国の行政改革に大きな役割を果たす事になる。
辣腕でありながら教育者でもあった彼は、女王を始め幾人もの傑物を育成し慕われたが、女王からはいつまでも恐れられたという。

ヴィオラ・フルブライト(kz0007)
聖堂教会所属の聖堂戦士団団長として王国内の雑魔討伐・汚染浄化に従事、のち王国暦1020年に発足したレクエスタに協力し長期遠征を行う。
クリムゾンウェスト広域を覆う汚染地域にレクエスタと共に切り込み、戦友を癒し、団員を指揮する姿は、苛烈にして高潔であったという。
王国暦1026年、長きにわたる遠征から帰還した彼女は聖堂戦士団団長を辞し、女王の相談役及び侍従隊の特別顧問として王国に仕官した。

ヘクス・シャルシェレット(kz0015)
傲慢歪虚との戦争において重度の汚染を被った彼は邪神戦争終結を機に隠居、王都や港町等の邸で悠々自適の療養生活を送る。
シャルシェレット家当主からは退いたものの第六商会には会長として居座り、様々な要望で商会を振り回しながら鍛え上げた。
王国暦1022年、商会へ金融業界参入を指示し姿を消した。その後、大聖堂で似た姿の司祭を見かけた者もいるというが、真相は定かではない。

フリュイ・ド・パラディ(kz0036)
研究家気質の者の多い古都アークエルスの領主として、彼は邪神戦争終結後に古都在住研究者へ一つの指示を下す。
それは、リアルブルーとの本格的交流の開始までに少しでも青の世界の知識を蓄える事。科学の荒波が押し寄せてきた時を見越した指示であった。
飽くなき探求心を内に秘めた彼は率先して青の知識と魔導の融合を目指し、王国における魔導技術の最先端の一人であり続けた。

ゲオルギウス・グラニフ・グランフェルト
グラズヘイム王国騎士団長として戦い抜いた彼は、邪神戦争後も団長として戦後復興に貢献しながらも後進育成をよく口にするようになった。
非覚醒者であった彼は若き日より後方支援や露払い役が多く、ようやく得た華々しい舞台であったが、その椅子は若者達の血に塗れていた。
数多の犠牲の末に訪れた戦後は、年老いた彼には虚しすぎた。故に彼はエリオットかあるいは新たな英雄にその座を譲る機を待っている。

エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)
グラズヘイム王国騎士団黒の隊の隊長として戦い抜いた彼は、邪神戦争後も黒の隊長として戦後復興に貢献した。
彼を騎士団長に推す声は消えなかったが、それら一切を彼は断り、生涯一騎士を掲げて前線にあり続けた。
時に民を護り、時にレクエスタに参加し前線を切り拓く。その実直にして清廉潔白な姿は幾編もの詩に詠まれ、親しまれる事となった。

アカシラ(kz0146)
グラズヘイム王国騎士団赤の隊の隊長として戦い抜いた彼女は、邪神戦争後しばらく赤の隊長を務めたのちにレクエスタに身を投じた。
かつて鬼の一族は歪虚に従わされていた。その贖罪に開拓を選んだ彼女ら一党は、王国と東方への義理を果たすべく最前線にあり続ける。
王国暦1026年、彼女は開拓され王国に割譲された地における騎士団長に就任して周辺の安定に寄与、鬼の地位向上に大きな貢献を果たした。

ウェルズ・クリストフ・マーロウ
大公であった彼は邪神戦争後に当主を降り、孫にその座を譲って後見人となると、王家と貴族の間に立つ調整役となった。
前当主といえどその影響力は変わらず大きい。年若い当主を支え、教育する傍らで、彼は王国復興の為に巧みに貴族達に資金を吐き出させる。
王国暦1026年、愛国者であった彼は開拓地の幾ばくかを自費で購入して王家に献上すると、それを最後の贖罪としたかのように息を引き取った。

ラーズスヴァン
傲慢歪虚との戦争で砦から焼け出されながらもしぶとく生き延びた彼は、邪神戦争後に各地を放浪する事となる。
それは砦司令を務める間我慢してきた酒とその身一つの戦いを求めた旅だったが、女王らの必死の説得により王国騎士の身分はそのままとなった。
ドワーフながら一人の王国騎士として諸国を遍歴した彼はいつしかドワーフ・ナイトと吟じられ、酒場を賑わすようになる。

ユグディラ女王
法術陣の予備マテリアルタンクの役を負っていた彼女は傲慢歪虚との戦争を辛くも生き延びると、女王の任を譲り隠居する事となった。
遥か昔の契約により歴代女王に課せられていた予備タンクの任はこの禅譲に際し破棄、のちの女王が法術陣に縛られる事はなくなった。
隠居した彼女はグラズヘイム王国王城やシスティーナ女王お気に入りのヒカヤ高原で余生を過ごす。その傍らには常に三匹の従者がいたという。

エステル・マジェスティ
伝承作家である彼女は不変である。過去と現在と未来を繋ぐ彼女の『伝承大全』は常に未完であり続ける。
グラズヘイム王国建国より記されてきた『伝承大全』を継ぐ者にとって、人生とは王国の事象を観測し、古ぼけた紙片に筆を乗せる事そのもの。
幸運にもこの激動の時代に巡り合えた彼女は、今も一匹のユグディラと共に国を流離い伝承を残している。

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組織のその後

グラズヘイム王国騎士団
王国暦1008年、傲慢の歪虚による王国西方沖のイスルダ島占領以降、1019年の邪神戦争終結まで歪虚との戦いは激化の一途を辿り続けた。この11年にもわたる戦いは王国騎士団に深刻すぎる損耗を刻みつけ、戦後にも多大な影響を与える事となった。
人員の補充は戦争の最中にも当然行っていた。それどころか一時的に騎士科の卒業繰り上げや在学生の動員までした事すらあった。そういった自転車操業もあって辛くも戦争を戦い抜いた王国騎士団だが、それ故に二つの大きな問題が戦後に表出した。
資金の枯渇と人員不足――より細かく言えば、遺族への補償と団員の年齢層の偏りであった。

平和の為に戦い、志半ばで息絶えた者の遺族には最大の配慮がなされなければならない。
弔慰金の支払いを年金として数十年に分割する事でどうにか資金を回す事が可能になったが、代わりに騎士団は装備の更新にすら難儀する事となった。ともすれば貴族私兵の装備の方が高性能であったり煌びやかであったりする場合もあり、王国騎士団は数十年単位で困窮する事となる。
とはいえそれに文句を言う者は少なかった。誇りある友の命に報いないような国よりは、よほど良かった。
また貧乏となった事で備品が損耗しづらい基礎訓練に重点を置くようになり、騎士の地力が上がった点は不幸中の幸いであった。

もう一つの問題、年齢層の偏りは戦争中から表面化していた問題であった。
戦後まで生き残った騎士達は歪虚を相手に多くの経験を積んだ。個人の戦闘能力や戦術的知識は戦前の上級騎士を上回るだろう。しかし若年層が多く三十代から五十代が少ない騎士団は、小隊長を束ねる中隊長のような中間層の人材が枯渇していた。
無論、騎士団全体としての団員数も戦前より少ない。が、より深刻だったのはこの中間層であった。
指揮官教育と、黒の隊のような門戸開放によるハンター招聘。それらが急務であり、故に団長ゲオルギウス・グラニフ・グランフェルトは後進育成に苦労する事となった。

白の隊 王家直轄領と王都を守る白の隊は比較的被害が少なかったが、同時に戦闘経験も少なく、戦前では最もエリートであった彼らは騎士団における地位を落とす事となった。
内部を弄る必要のないこの隊はある意味でゲオルギウスの癒しの存在となる。のちに彼は白老なる呼び名まで得てしまうが、その由来は白の隊の駐屯地に入り浸ってぐったりしていたからという勤め人の悲哀に満ちたものであった。
赤の隊 損耗激しい赤の隊は戦時中に隊長ダンテ・バルカザール(kz0153)を失うという悲劇に見舞われ、その後を継いだ鬼族のアカシラも統率に苦労する事となる。
前隊長ダンテの強すぎた求心力と、赤の隊員の多すぎる血の気に、基本的に真面目であるアカシラは対応しきれなかった。隊員側は彼女が外様である事を気にしなかったが、彼女自身が鬼族を率いる事に特化しすぎており、赤の隊全体をまとめるには経験が不足していたのだ。
彼女はハンター部隊「レクエスタ」の発足からしばらくして隊長の座を辞すると、赤の隊の一部を率いてレクエスタに協力した。
彼女が辞したのちの赤の隊長には、騎士団に入団していたハンター出身かつ傭兵団出身の“紅”アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が抜擢され、圧倒的な実力と副官の補佐能力によって統率されてゆく事となった。またゲオルギウス団長が彼女を次期団長にすべく便利使いしているというが、真偽の程は定かではない。
青の隊 後方支援や搦め手による作戦の多い青の隊は、比較的損耗は少なかったが、隊長であったゲオルギウスが騎士団長となったため指揮官の不在に悩まされる事となった。
しばらくは彼が兼任していたが、そこに名乗りを上げたのが軍師騎士と呼ばれるノセヤなる者であった。直接的な戦闘能力に乏しい彼であったが、その作戦立案能力と事務処理能力は極めて高く、青の隊の長たるに相応しい能力を有していると言えた。
隊長代理として再編を手早く済ませた彼は、レクエスタへの派遣隊の支援体制や特別小隊アルテミスの編成まで行い、その頃には正式に青の隊長に任命されていた。
そうして彼に率いられた青の隊が、騎士団のレクエスタ派遣や歪虚残党討伐を大きく支えていく事となる。
黒の隊 傲慢歪虚との戦争中に新設された黒の隊は変わらず隊長にエリオット・ヴァレンタインを据え、各地を転戦する事となった。
最も新しい部隊とはいえ、主な隊員は元ハンターや在野に眠っていた勇士など外部から招聘した者であり、戦闘能力は騎士団で随一の隊である。その能力は戦前に最精鋭と言われた白の隊や、勇猛な赤の隊を超えるが、しかし王立学校騎士科を経ていない者が多く、一癖も二癖もある者ばかりであった。
必然、統率には苦労すると思われたが、のちに“騎士の中の騎士”と呼ばれる隊長のカリスマ、及び戦後入団した“隊長の右腕”誠堂 匠(ka2876)の智謀によってまとめ上げられ、精緻にして有機的な活動を各地で展開した。
騎士団の中でも赤と黒はのちに双翼と称せられ、人々の安寧と失われし大地の開拓に大きく貢献する事となる。

聖堂教会
約800年前から存在し、人々の心の拠り所としてそこに在り続けている教会は、不変である。
教区大司教であるカリギリス・ヴィルマンティはめったに表舞台に出る事はなく、ただ君臨する。その年齢からそろそろ教区大司教の位を降りるのではないかと噂されているが、ひたすら静観を貫いている。
800年という年月により侵食するように拡がっていた内部腐敗は、王国暦1021年に還俗し王国宰相となったセドリック・マクファーソンが大司教であった頃から少しずつ排除され、彼の還俗に合わせて大きく“掃除”された。そのためセドリックが宰相である期間は腐敗とも無縁であろうと目されており、この期間にヴィオラ・フルブライトやイコニア・カーナボン(kz0040)のような清廉な者がその能力に相応しい力を得るのではないかと考えられている。

また教会保有の聖堂戦士団は団長ヴィオラによって再編され、王国内部での活動とレクエスタへの協力の二班に分かれて活動する事となった。
二班はそれぞれ、人々の心を護る“護心隊”、人々の世界を護る“挺身隊”として心と世界の浄化に従事し、教会の存在感を大きく回復する事に成功する。困窮した王国騎士団とは違い潤沢な資金を持つ彼らは、自身の治癒能力も相まって非常に高い継戦能力を有しており、最前線において戦場を支える存在であった。無論、その浄化能力もレクエスタの本義に貢献するものであった。
団長ヴィオラは王国暦1026年に辞任し教会を去るが、教義に基づく強靭な精神に支えられた戦士団は揺らぐ事なく、その後も人々と世界のための活動を続けた。

傲慢歪虚との戦争終盤において多大な貢献を果たした携帯法術陣を開発した法術研究室は、研究内容を民間向けにシフトしつつ戦後も活動を続けた。
ヘクス・シャルシェレットの第六商会や、新興にして勢いのある黄金商会、古都アークエルス等の外部組織と連携しながら開発される作品の多くは人々の生活に根差したもので、室長の思いを表すかのようであった。

侍従隊
システィーナ・グラハムの近衛隊たる侍従隊は、マルグリッド・オクレールを長としてシスティーナ戴冠後も日夜護衛に勤しんでいる。
女性のみで構成され、女王とも接する機会の多いこの隊は、戦闘能力だけでなく洗練された所作や女王への忠誠、奉仕精神等の様々な能力が求められる。オクレールはそれらを総称して“侍女魂”と表現し、それによって入隊の可否を決定した。
そのため戦後も隊員数はあまり増加せず、直接戦闘能力(直接護衛能力)に難儀するという近衛隊にあるまじき問題を抱える事になるが、それを解決したのが王国暦1026年に聖堂戦士団を辞し特別顧問に就いたヴィオラ・フルブライトであった。

特別顧問は入隊条件を緩める代わりに戦士団式の訓練を採用して隊内教育を強化、外部とのコネクションを使ってローテーションでの実戦派遣を行い、侍従隊を実戦侍女部隊とする事に成功した。
“王城には戦うメイドさんがいる”
そんな情報が流れるようになったのは、ヴィオラの特別顧問就任三年後の事であった。

グラズヘイム王立学校
戦前、入学試験の難しさに加えて入学金や授業料の高さによって一般市民には入学しづらかった王立学校は、戦後奨学金採用枠を大きく増やした。
財政的に厳しい戦後においてシスティーナ女王の肝いりで行われたこの施策は、王立学校の門戸を開き、広く人材を拾い上げるためであったが、国はその財源確保に際し第六商会を始めとした大店に多大な借金をする事となった。
将来的に大きな借りとなるであろう借金をしてでも女王が戦後間もなくこれを断行したのは、戦後の混乱に乗じて平民支援策を捻じ込み、国に仕える平民の数を増やす事で貴族と平民の格差を埋めようとしたとの見方が強いが、確かな事は分からない。
ともあれ身を切るように行われた門戸開放により、王立学校は入学者を大きく増やした。

かつて一般科、騎士科、芸術科、神学科、魔術科に分かれていた専門教育課程は、戦中に生まれた砲兵科やリアルブルーとの交流の中で考案された情報科、魔導科学科などの科が増設され、生徒増加に見合うだけ学校規模もまた大きくなった。
しかし新設された科の教師となれる者は王国内に少なく、実態としては教師と生徒が一丸となって研究している状態であった。教師役となる外部のリアルブルー出身者の招聘が急務となっているが、該当の人材は騎士団等の国内組織に限らず、他国の勧誘やレクエスタへの参加等のような競合組織が多く、遅々として進んでいない。
その状況を見た女王はリアルブルーへの短期留学で得た学校教育の速やかな導入を断念、百年計画と称して少しずつ総合大学への道を進める事となった。

また国内の学校教育では聖堂教会と貴族ら主導で設立されていた聖導士学校が極めて先進的な学校教育システムを構築しており、王国ではその動向に注目している。
歪虚との戦争中からハンターの意見を大きく取り入れ発展し既に卒業生を多く輩出しているかの学校は、リアルブルーの学校教育制度の一部を導入したい百年計画の良いモデルケースであった。
宰相セドリック・マクファーソンは幾つかの仲介を挟んで秘密裡に聖導士学校への援助も行っており、共存共栄する事が王立学校のさらなる発展にも繋がると考えているようだ。

第六商会
戦前より商会を率いていたヘクス・シャルシェレットは戦後、多少形は変えつつもそのまま会長として商会を牽引する事となった。
港町であるガンナ・エントラータ領主であるシャルシェレット家の地縁を多大に活かして発展してきた商会は、王国内では珍しく同盟やリゼリオ産の先進的商品を数多く扱う事ができる。またその経験を活かした商品開発のノウハウも、国内では研究者の多いアークエルスに匹敵するかそれ以上であり、他商会の追随を許さぬもの“であった”。
しかしいつ頃からか黄金商会なる若手商会が台頭、規模こそ第六商会に及ばぬものの、その勢いたるやヘクスすら頭を抱えさせるものであった。
その商会長の名はジャック・J・グリーヴ(ka1305)。これを知ったヘクスは大笑いし、目を輝かせたという。

重度の歪虚汚染に苛まれていたヘクスは王国暦1022年、会長を辞して姿を消す。
机には金融業界参入とお抱えの職人工房への投資強化を指示した手紙が残されており、跡を継いだ新商会長はそれに従い資金運用を行った。
1022年はシスティーナ女王が短期留学から戻ってきた年であり、翌23年から様々な分野で国内が大きく動く時機であった。
ヘクスがそれを知っていたわけではないだろうが、推測していたであろう事はこの突然の指示からほぼ間違いなく、商会は資金を多方面に貸し付けながら容易に存在感を増していった。
“第六の鎖に気を付けろ”。戦後拡大期において様々な工房で囁かれたこの言葉は、工房規模拡大の好機であり商会に取り込まれる危機でもあるこの状況で生まれた言葉であった。

グラズヘイム・シュヴァリエ
戦前より王国騎士御用達の鍛冶工房であったが、急激に変化する戦中において他職工房や教会、研究者らと連携する事でその流れに食らいついていったグラズヘイム・シュヴァリエは、戦後そのアドヴァンテージを活かすべくさらなる他業種連携と技術向上に務めるようになった。
特に法術刻印を装備品に付与する系統はハンター向け商品として大きく当たり、刻印付与技術については世界有数であろうと鍛冶師達は胸を張って言えた。しかし工房長はそれだけで満足しなかった。
法術刻印の開発には、法術陣の起源を記したエメラルドタブレットを分析しなければならない。また法術による聖別で完成品を強化するには、聖堂教会の聖導士にお願いしなければならない。他にも魔術付与や、将来生まれるかもしれないリアルブルーとの融合技術を付与するにも、その者らの協力が必要不可欠である。
故に工房長は外部との連携を強く求め、同時に純粋な鍛造品ではなく“付与されて完成する鍛造品”の最適化を進めたのである。

彼らグラズヘイム・シュヴァリエの鍛冶師達は、戦後二手に分かれて技術を磨くようになった。一方はリアルブルーの冶金学や鍛冶を理論的に学ぶ班。もう一方は刻印や魔術等の付与する技術を学ぶ班。
各人がそれぞれのやり方でそれらを学び、皆で集まって技術を融合し、一つの理想を突き詰める。そのやり方は徒弟制の王国において極めて異質で、そして先進的であった。
弛まぬ努力と団結によって技術を磨く彼らは、それ故に超一流の鍛冶工房であり続けた。
また王国暦1030年、鍛冶師の一部が第六商会の有志と協力して立ち上げた自動車工房は王国初の自動車専門工房となり、開明的なシスティーナ女王を喜ばせた。

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