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【交酒】旭日昇天?瑞雨の模擬挙式?「花嫁&花婿衣装ファッションショー」リプレイ

:トップ画像

作戦1:花嫁&花婿衣装ファッションショー

ミリア・クロスフィールド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
シルキー・アークライト
シルキー・アークライト(kz0013
三条 真美
三条 真美(kz0198
スメラギ
スメラギ(kz0158
志鷹 都
志鷹 都(ka1140
岩井崎 旭
岩井崎 旭(ka0234
岩井崎 メル
岩井崎 メル(ka0520
榊 兵庫
榊 兵庫(ka0010
日下 菜摘
日下 菜摘(ka0881
エアルドフリス
エアルドフリス(ka1856
ジュード・エアハート
ジュード・エアハート(ka0410
金鹿
金鹿(ka5959
クローディオ・シャール
クローディオ・シャール(ka0030
ジャック・J・グリーヴ
ジャック・J・グリーヴ(ka1305
時音 ざくろ
時音 ざくろ(ka1250
舞桜守 巴
舞桜守 巴(ka0036
アデリシア=R=エルミナゥ
アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746
八劒 颯
八劒 颯(ka1804
白山 菊理
白山 菊理(ka4305
アルラウネ
アルラウネ(ka4841
黒の夢
黒の夢(ka0187
ミィナ・アレグトーリア
ミィナ・アレグトーリア(ka0317
ヴァイス
ヴァイス(ka0364
アニス・エリダヌス
アニス・エリダヌス(ka2491
エステル・ソル
エステル・ソル(ka3983
バジル・フィルビー
バジル・フィルビー(ka4977
ノノトト
ノノトト(ka0553
羊谷 めい
羊谷 めい(ka0669
レム・フィバート
レム・フィバート(ka6552
アーク・フォーサイス
アーク・フォーサイス(ka6568
イスフェリア
イスフェリア(ka2088
綿狸 律
綿狸 律(ka5377
皆守  恭也
皆守 恭也(ka5378
リューリ・ハルマ
リューリ・ハルマ(ka0502
アルト・ヴァレンティーニ
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
椿姫・T・ノーチェ
椿姫・T・ノーチェ(ka1225
神代 誠一
神代 誠一(ka2086
ジャック・エルギン
ジャック・エルギン(ka1522
リンカ・エルネージュ
リンカ・エルネージュ(ka1840
テオバルト・グリム
テオバルト・グリム(ka1824
柄永 和沙
柄永 和沙(ka6481
アイビス・グラス
アイビス・グラス(ka2477
カティス・ノート
カティス・ノート(ka2486
フィーナ・マギ・ルミナス
フィーナ・マギ・ルミナス(ka6617
フレデリク・リンドバーグ
フレデリク・リンドバーグ(ka2490
ヴィルマ・レーヴェシュタイン
ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
ヨルムガンド・D・L
ヨルムガンド・D・L(ka5168
ヴァルナ=エリゴス
ヴァルナ=エリゴス(ka2651
南護 炎
南護 炎(ka6651
フィルメリア・クリスティア
フィルメリア・クリスティア(ka3380
シェルミア・クリスティア
シェルミア・クリスティア(ka5955
ゼクス・シュトゥルムフート
ゼクス・シュトゥルムフート(ka5529
巽 宗一郎
巽 宗一郎(ka3853
真夜・E=ヘクセ
真夜・E=ヘクセ(ka3868
久我・御言
久我・御言(ka4137
鷹藤 紅々乃
鷹藤 紅々乃(ka4862
ハンス・ラインフェルト
ハンス・ラインフェルト(ka6750
穂積 智里
穂積 智里(ka6819
龍堂 神火
龍堂 神火(ka5693
 模擬結婚式場であるモノトーン氏の別荘に降り注ぐ暖かな太陽の日差し。
 本日はお日柄も良く……という言葉がピッタリの青空に、白い石造りの建物が映える。
 備え付けられた壇上に、ダークグレーのスーツ姿の十 音子(ka0537)がマイクを持って立っていた。
「えー。本日はお集まり戴き、誠にありがとうございます。私、ショー成功と円滑な進行の為に裏方に邁進するはずが何故か司会に任命されてしまった十 音子です」
「いやはや、工程進行を把握している方が司会をなさるのは自然なこと。司会も立派な裏方ですぞ!」
「そう言われてしまうと確かにそうなんですが……。あ、こちら今回の支援者であるオーガスト・モノトーン氏です」
 音子の紹介にかっちりとした燕尾服で鷹揚にお辞儀をするオーガスト。
「審査員はオーガスト氏、そしてミリアさん、シルキーさん、真美さん、スメラギさんです。時間がないのでご挨拶は割愛させて戴きます」
 司会に促され、ぺこりとお辞儀する淡いブルーのカクテルドレスを着たミリア・クロスフィールド(kz0012)。
 ふんわりとしたピンクのパーティドレスを着たシルキー・アークライト(kz0013)がひらひらと手を振る。
 藤色の振袖姿で会釈をする三条 真美(kz0198)。スメラギ(kz0158)は紋付き袴姿だが、浮かない顔をして……。
「それではこれより、模擬結婚式を開催します!」
 音子の宣誓で湧き上がる拍手。色々な思惑を乗せて、ショーの幕が上がる――。

「それでは最初は……志鷹 都(ka1140)さんですね」
「こんにちは。よろしくお願いします」
「これはまたしっとりした素敵な方ですね。衣装も素敵ですが、これはどんなイメージで……?」
「はい。お庭での結婚式に合うようなナチュラルスタイルを意識して来ました」
 にっこりと微笑む都。胸下から広がる優しい風合いの薄緑のドレスが何とも色気があり、胸元と透明度の高いオーバースカート全体に繊細な白いレースが上品さを醸し出している。
 髪には白や桃、黄緑などの生花の冠が飾られ、編みこまれた髪にも花があしらわれて……ところどころ出た後れ毛が愛らしい印象を与えている。
 周囲からよく見えるようにと壇上を優雅に歩く彼女。
 大きく開いた胸元。豊かな胸の上で揺れる真珠のネックレス。右手には髪飾りと同じ生花のブレスレットが踊り……そのたおやかさに観客からため息が漏れる。
「男性陣! いくら都さんがセクシーだからって胸ばっかり見てたらダメですよ! 審査員のミリアさんとシルキーさん、いかがでした?」
「はい! 色気と上品さって両立できるものなんだなーって感心しました!」
「ドレス自体はシンプルにして、庶民でも手が届く感じなのがいいですね! 小物が良く効いてて素敵です!」
「シルキーさん、さすがショップ店員らしいコメントですね。都さんもありがとうございました」
「こちらこそありがとうございます」
 都の笑顔は、舞台を降りるまで輝かしく――。

「お次は岩井崎 旭(ka0234)さんと岩井崎 メル(ka0520)さんですね。お二人はご夫婦だとか」
「おう! そうだぜ! ほら見てくれよ! 俺の奥さん可愛いだろ!?」
「えっ。やだもう旭くんったら……!!」
 えっへんと胸を張る旭に頬を染めるメル。メルは白いドレスこそ着ているが、ブーツにいつもの髪飾り。旭は愛用の装備でどこから見てもハンター! といういでたちだった。
「それではショーの方をお願いできまs」
「「宣誓! 我々、ハンター一同は! 清く、正しく、面白おかしく、一風変わった思い出が残る結婚式を披露することを、誓います!!」」
 音子の言葉が終わる前に。剣を抜き放ち、天に掲げて高らかに宣誓する2人。
 次の瞬間、マテリアルをブーツから勢いよく噴射し、飛び上がるメル。ドレスをはためかせ、高速で持っているブーケを投げる。
 いや、これはもう全力なので投擲と言った方が良いか。空に可憐な花束が次々と吸い込まれ……これ鳥に当たったら撃ち落とせるんじゃなかろうか。
 呆然と空を見上げる観客たちを引き戻したのはパンパンパーーーーン! という軽い破裂音。
 旭が手にした大量のクラッカーを一斉掃射したらしい。紙テープに塗れた彼は瞬く間に羽毛に覆われ、ぐんぐんと巨大化する。
 そして手にした魔筆を空中に滑らせ……一瞬ではあったが、青い空に大きな『HAPPY WEDDING』という光の文字が浮かび上がった。
「どうだ! これが! 俺達の!! 全 力 だ ああああああ!!」
「いえーい! さっすが旭くん! 最高! カッコイイーーー!! さすが私の旦那様!」
「ハハハ! ありがとなメルちゃん!! 愛してるぜー!」
「うん! 私もー!!」
 やりたいことは済んだのか、ゴースロンの上できゃっきゃうふふしながら風のように去っていく旭とメル。
 どうやらこの2人、仲が良すぎる為か揃うとテンションと理論が若干荒ぶるらしい。
 遠ざかる旭の高笑い。嵐が去って静まり返る会場に、音子の咳払いが響く。
「イメージをお伺いする前に去られてしまいましたね……。こんなこともあろうかとこの音子、事前に聴取をしておきました! ええと、旭さんによると『バカ騒ぎの見本』。メルさんによると『楽しくてコンテストだったの忘れてた!』とのことです」
「ハハハハ! 確かにバカ騒ぎだったな。俺様こういうの嫌いじゃないぜ」
「大きな音でびっくりしてしまいましたが、確かに終始明るくて、楽しかったです……」
「スメラギさんも真美さんもありがとうございます。出場者両名には聞こえてないかもしれませんが、皆様盛大な拍手をお願いします」

「お次は榊 兵庫(ka0010)さんと日下 菜摘(ka0881)さんですね。お二人はショー、というよりはご提案と伺っておりますが……」
「まあ、男の俺には今ひとつ理解しがたいところもあるが、結婚式というのは一つの節目であるからな」
「結婚式は女性にとっては一世一代の晴れ舞台ですもの、素敵で意味深いものにしたいですわよね。そこで、兵庫と一緒に考えて参りました。結婚式という風習を広めるお手伝いが出来ればと思います」
 音子の紹介を受け、にこやかに受け答える兵庫と菜摘。その言葉に、各国の商人達とオーガストが身を乗り出す。
「リアルブルーの結婚式には、『サムシングフォー』という風習がございまして……」
 眼鏡をクイ、と上げながら説明を続ける菜摘。兵庫がスッと図説が描かれた紙を掲げる。
 この2人は恋人同士なのであるが、こうしていると何だか先生と助手のようにも見えて微笑ましい。
「……花嫁が結婚式当日に何か一つ『古いもの』『新しいもの』『借りたもの』『青いもの』の4つを身につけると、必ず幸せになると言われております」
「古いものは親や先祖からの祝福という意味でな。新しいものは、新たな生活が幸せなものになりますようにとの願いを込める」
「借りたものは幸せな結婚生活を送っている人から物をお借りすることで、幸運をわけてもらうんですの。青いものはリアルブルーで多く信仰されている神の色で、それを身に着けることで幸せを呼ぶ色とされているんですのよ」
「ふむふむ。それをクリムゾンウェストにも……ということですかな。興味深いですが、果たしてどうやって……?」
 考え込むオーガスト。兵庫と菜摘は図説を指差しながら続ける。
「それも簡単さ。古いものは母親や祖母の身に着けていたものを拝借すればいい。ドレスの仕立て直しは予算も抑えられるし金になるんじゃないか? 新しいものはドレスでも靴でも、それこそ何でもいいからそこは商人の腕の見せ所だろう」
「借りたものはお友達からハンカチなどをお借りすれば大丈夫です。青いものは……ここにも色々な精霊や神がいらっしゃいますし、信仰する神に因んだ色にすれば抵抗なく受け入れられるかと思いますわ」
「ふむ。仕立て直しから全て一手に引き受ければ、予算を抑えつつ演出が出来そうですな……」
「ああ。こういった仕来りに則るというのも存外素敵なことだと思うぞ」
「私が結婚式を挙げる時にも、この風習は取り入れたいと思ってますの。リゼリオでも取り入れて下さったらお話が早いですので有り難いですわ。ねえ、兵庫?」
「んっ? おっ? おう。……って、結婚!!?」
 菜摘の言葉を受け流しかけて、固まる兵庫。
 結婚。うん、結婚。考えてなかった訳じゃないが突然言われると心の準備が……。
 いやいや、待て。こういうことは男の俺の方からビシっとだな――!
「いやはや、素晴らしい話をありがとう。とても良いヒントになったよ。商工会の議題に挙げるとしよう。君達の結婚式は是非我々のところで挙げて戴きたいものだ!」
 ガハハハハと笑うオーガスト。彼から握手を求められて、笑顔で応じる菜摘の横で、音子がマイクを握る。
「兵庫さんの心が戻ってきてないみたいですが、大丈夫でしょうか。菜摘さん、素晴らしい提案をありがとうございました。ショーではないので採点難しいところですが、商工会の皆さんは総立ちです。お二人に拍手を!」

「用意はいい? エアさん」
「いつでもどうぞ。判っているとも、今日の俺は添え物だ」
「またそんなこと言って! ……エアさんカッコいいのに」
 エアルドフリス(ka1856)の首元のタイを手慣れた様子で整えるジュード・エアハート(ka0410)。
 ドレス姿のジュードが愛らしくて、エアルドフリスは目を細める。
 今回のショーに参加するにあたって、ジュードは様々なドレスに袖を通した。
 己の想い人は何を着ても似合うし、可愛いし。それはそれは心ときめく光景だったのだが。跳ね上がっていく値段にふと我に返った。
「待った。今回は庶民にも手が届く、が条件じゃあなかったかね?」
「あっ……!」
 ――そんなことがありつつ迎えた当日。
 この人と共に歩むことを決めてから早数年。こういうことは何度あっても楽しいものだと思えるようになったのは、エアルドフリス自身の大きな変化で……。
「それではお手を。花嫁さん」
 ジュードの手を取り、壇上に上がる彼。笑顔の司会者と目が合う。
「お次はジュードさんとエアルドフリスさん。闘祭で有名になられたご夫婦ですね! 今回のショーのイメージはなんですか?」
「庶民の人達にも手が届いて、西方と東方、両方の文化を交えた感じの挙式を考えて来ました」
「ジュードが工夫を凝らしているのでね。良く見て戴けると有り難い」
 ジュードが纏うドレスは、ベースは白のシンプルなドレスだったが、そこに東方の古い着物や帯を解いてフリルを作って飾りつけ、それは華やかな見た目となっていた。
 ベールは袋状になった綿帽子風。ブーケは棒つき飴を束ねたキャンディブーケなのもまた愛らしい。
 エスコートに徹するエアルドフリスはスーツこそ普通の形であったが、チーフやタイピン、カフスボタンが東方風になっており、控えめでかつ花嫁のジュードのとの一体感があった。
「エアさん、ガータートスもしよ?」
 耳元で悪戯っぽく囁くジュード。公衆の面前で恋人の下着や太腿を晒すのは聊か複雑であったが、お望みとあらば……と応えるエアルドフリス。
 ジュードのドレスの下、太腿には水引細工で作ったウェディングガーターが出てきてやっぱり隠したくなったがここまで来たら仕方がない。
 堂々と口でベルトを外し始める。
「あ、これはガータートスですね。挙式後に、新婦が左足の太ももにつけているガーターリングを取り、未婚の男性ゲストにむけて後ろ向きで投げるという風習です。ガーターを受け取った男性は次の花婿になれるといわれていますが……これはなかなか刺激的な光景ですね……」
 解説を加える音子。ジュードはともかく、全力で取り組んでいるエアルドフリスの挙動がいちいちいやらしいのは仕様なので諦めて戴きたい。
「あの……何も見えないんですが……」
「あれは真美さんにはまだ早いですわ。もう少しお姉さんになってから。ね?」
 真美の目を両手で覆い隠してお姉ちゃんガードを発動させる金鹿(ka5959)。
「きゃー! すごい!」
「きゃーー! はずかしい!」
 ミリアとシルキーは両手で顔を覆いつつ、指の隙間からしっかりガン見しているようだった。

「いやあすごい光景でしたね!! さてお次は……」

 チリンチリンチリン。
 カランカランカラン。

 仕切り直す音子。
 そこに聞こえてきた軽快な音に振り返る観客達。そこには白いタキシードに白いヘルメット姿のクローディオ・シャール(ka0030)が淡い光を纏い、フリルリボンと空き缶を括りつけたママチャリに乗って颯爽と現れた。
「クローディオさんですね、こんにちは。参加動機を教えて下さい」
「うむ。暇だったのでな」
「理由が切ないですが……随分可愛い自転車ですね」
「そうだろう? この子はヴィクトリアというのだが、結婚式仕様で着飾らせてみた」
「ということは、このママチャリが花嫁役ですか?」
「いいや。あくまでも相棒だ。私には生涯を共に歩んでいくような相手はいない。だが、もしそのような相手がいるのだとしたら……ヴィクトリアと共に迎えに行こう」
「えっ。ママチャリで……? 二人乗りは厳しいんじゃ……」
「大丈夫。ヴィクトリアはこう見えて頑丈だ!!」
「そうなんですね。クローディオさんの花嫁の条件はヴィクトリアさんに一緒に乗れる方だそうです! ちょっと残念な方ですが見た目はいいですよ見た目は!! 皆さん如何ですか!?」
「残念……? 新手の誉め言葉だろうか」
「バッカお前ディスられてんだよ!!」
 音子の言葉に首を傾げるクローディオ。どこからともなくジャック・J・グリーヴ(ka1305)のツッコミが聞こえて来る。
「審査員の皆さん、いかがですか?」
「ママチャリ……ですか? すごいですね! 私乗ってみたいです!」
「おお、そうか? では後で乗せてやるとしよう」
「真美さん……」
 ママチャリが珍しいのか、素直に目を輝かせる真美に満足気に頷くクローディオ。
 子供らしい反応に、ミリアとシルキーが熱くなる目頭をそっと押さえた。

「お次の方は……団体様ですね。時音 ざくろ(ka1250)さんとその花嫁さんということですが。自己紹介をお願いしてもいいですか?」
 音子に促され、ざくろは緊張した面持ちで前に出る。
「あ、ハイ。今紹介に預かりました時音 ざくろです」
「舞桜守 巴(ka0036)です。頑張ります!」
「アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)です。この場を盛り上げられると良いのですが……」
「八劒 颯(ka1804)ですの。良く分からないですけどはやてにおまかせですの!」
「白山 菊理(ka4305)だ。よろしく頼む」
「アルラウネ(ka4841)だよー。とりあえず楽しめればいいかなーって!」
「ありがとうございます。今回のイメージは何ですか?」
「虹の絆と希望を共に……ということで、ざくろ達全員で虹を表してみたんだ」
 そう言うざくろは橙色の礼服に、黄色のマントを纏った王子様風。
 巴は燃えるような赤いシンプルなドレスがメリハリのあるプロポーションを際立たせている。
 ふんわりとした藍色のプリンセスラインのドレスを纏ったアデリシアは、いつもの堅いイメージがなく美しい。
 鮮やかな青のアシンメトリーのドレスを着た颯はお人形のようだし、紫色のマーメイドラインのドレス姿の菊理は何とも言えない色気を漂わせている。
 そして緑色のVネックのドレスを纏ったアルラウネは茨の冠を飾り……まるで茨の姫のようだった。
「皆本当に良く似合うわ……。お姉さんちょっと感動しました……!」
「本当。颯さん良く似合っていて可愛いですわ」
「えっ。えっ。そんなことないですの! はやてはまだまだですの!」
「謙遜することないのに」
「皆似合ってみんなイイ! ……たまには皆でこういうのもいいよねー」
 きゃっきゃうふふと盛り上がる女性陣。コホン、とざくろが咳ばらいをする。
「今回は模擬式ということだけど、皆さんがいる前で永遠の愛を誓わせて欲しくて……本番に、させて欲しい」
「おお! まさかの本番宣言! 皆様いかがでしょう!?」
 思わぬ宣言にどよめく観客。音子の問いかけに、すぐさま割れんばかりの拍手が返って来る。
「皆様、ありがとうございます。時間制限もありますので指輪の交換だけさせてください」
 ぺこりと頭を下げる巴。5人を代表して、5色の宝石が嵌った指輪をざくろの薬指に。そしてざくろが花嫁達にそれぞれ指輪を贈る。
「巴、アデリシア、颯、菊理、アルラウネ……。一緒に新たな一歩を踏みだそう。ざくろが一生幸せにするとここに誓うよ」
「お願いしますよ。こんなに可愛い花嫁いっぱいでざくろも果報者ですよねー」
「果報者というよりは罰当たりかもしれませんね」
「はやて、ハンターになった時は結婚するなんて思ってもみなかったの」
「それは確かに……。こんなことになるとは人生分からないものだな……」
「これからも皆で楽しくやっていけるといいね」
 寄り添う花婿と花嫁。それはまるで虹の色が纏まるようで……。
 花嫁を引き寄せるざくろ。すっと、その顔が近づいたところでピピ――! とホイッスルが鳴り響いた。
「申し訳ないんですがお子様見てるんでそこまでにしといてくださいねー!」
「あら。仕方ないですね。ざくろ、司会者さんの言う通り今日ばかりはらきすけも封印しといてください」
「えっ。それはざくろのせいじゃないよ!!?」
「ざくろさんのせいではないというか、ざくろさんがいるから起きるというか……」
「言われても仕方ないですの」
「ビックリするくらい良く起こるからな……」
「じゃあ続きはこれが終わってからにしましょ!」
 くすくすと笑い合う花嫁達に釣られて笑うざくろ。
 らきすけのことはともかく、彼女達が幸せそうだから、まあいっか……。
「素敵な結婚式ですーー!」
「本当、感動しちゃいましたぁー!!」
 審査員のミリアとシルキーは、本物の結婚式に大層満足した様子だった。

 ――魔女の願いは叶わない。
 王子様のキスなど貰えやしない。
 だって……お姫様じゃないもの。

「お次は黒の夢(ka0187)さんですね。よろしくお願いします。今回は歌を披露して戴けるとか?」
「……そうなのな。お祝いの歌なのな」
 音子の声をどこか遠くに聞きながら頷く黒の夢。
 アネモネの飾りを胸に飾り、闇色のドレスを纏って壇上に立つ。
 ――そう、これはお祝い。目の前で、不機嫌そうな顔をして座っている汝の門出を祝う歌。
 ……とても生意気な男の子だった。
 祭では手を引いてくれたり。
 転移門では頼ってくれたり。
 いつかはこの花冠も編んでくれた。
 思い出も少なくはない。
 けれど、まだ……。
 ――今聞いたら、汝の本当の名を教えてくれるだろうか。
 行かないで、と言ったら。汝はどんな顔をするのだろう――。
 でも、そんなことを願って何になるのか……。
 ここまで来て、彼女は気付いた。
 ああ。そうか、我輩は――。
 歌い終えると、司会の声も聴かずに逃げるように立ち去る黒の夢。
「……どうされたんでしょうか」
「さあ……」
 戸惑いの表情を見せる審査員達。その中で、スメラギは――深いため息をついた。

「とても綺麗な歌声でしたね! それではお次は……ミィナ・アレグトーリア(ka0317)さんですね! 宜しくお願いします!」
「はい! よろしくお願いしますなのん。うぅ。皆よう平気でおるなぁ……。気恥かしいんよ?」
 音子に促され、壇上に上がったものの恥ずかしそうにもじもじしているミィナ。
 普段出さない耳が出ているのと、胸元が大きく開いた衣装なのが恥ずかしいらしい。
 音子は励ますように微笑みかける。
「大丈夫ですよ! よくお似合いですよ! これはどういったイメージなんです?」
「これな、エルフの里の婚礼衣装なんよ?。うちのおかーちゃんにどんなん着たん? って聞いたらこれ出してきてな……」
「あら。そうだったんですか! 珍しいですね。説明して戴いてもいいですか?」
「う、うん。ここまで来たらやるのん……!」
 意を決したミィナ。壇上でくるりと回ると、編み込んだ三つ編みの髪の毛に柊の葉や花があしらわれ、オフショルダーのAラインのドレスは、独特な文様が織り込まれているのが見てとれた。
「式用に織った木綿か綿の布を作って体に巻いて、胸元と腰を紐で縛って固定するらしいのん! あとは魔除けの意味もあるヒイラギの枝や葉っぱで飾り付けて完成だけど、季節のお花をこうやって編んだ髪に挿し込むのも良いらしいんよ」
「文様がとても不思議ですね。これはエルフの里に伝わるものなんですか?」
「そうだと思うのん。式は聖樹さまっていうエルフの里を守ると言われてる樹の前に夫になる人と並んで誓うって言ってたのん! 他と比べたら凄く質素だと思うのん。でも、こういうのもあるんだって参考になったらいいなって思ったのん」
「なるほど。個人的には大変良いと思うのですが、審査員の皆さまはいかがですか?」
「いやはや。素晴らしい。こういったものを知る機会はなかなかありませんので非常に興味深いですぞ!」
「なかなかいいんじゃね。面白かったぜ」
 興奮気味のオーガスト。スメラギに頷く観客達。未知の文化に触れて、観客達も大満足のようだ。

「お次はヴァイス(ka0364)さんとアニス・エリダヌス(ka2491)さんのカップルですね!」
「…………」
「あの、宜しくお願いします」
 名を呼ばれ、ぺこりとお辞儀をするアニス。赤面したまま微動だにしないヴァイスに、音子が首を傾げる。
「……何かヴァイスさん固まってますけど大丈夫ですか?」
「…………」
「はい。何だか緊張しているみたいで……」
「歪虚相手に後れを取らないヴァイスさんがここまで固まるってすごいレアな光景ですね! じゃあアニスさん、イメージを教えて貰っていいですか?」
「はい。今日は『ごく普通』の結婚式をさせて戴こうかと。こういう時こそ、基本が大事だと思いますので……」
「なるほど。ではアピールタイムお願いします!」
 促されて、壇上の中央に立つ2人。ようやく落ち着いて来たのか、顔の赤いままのヴァイスがじっとアニスを見つめる。
「と、とても綺麗だよ。アニス」
「……ありがとうございます」
 にっこりと微笑むアニス。
 ヴァイスがプレゼントしたドレスとペンダント。ベールの代わりに浄化の巫女が着るという純白の外套やエルフハイムに縁のある品を纏い、花の指輪や薔薇のコサージュ、シルキーの店で入手したブーケを手にした彼女は地に咲く一輪の花のようで……ヴァイスの目に眩しく感じられる。
 その手を取るヴァイスは、白のクリムゾンウェストの礼服に蒼い石のペンダントを着用したシンプルなものに留め、花嫁を良く引き立てていた。
 信ずる神に愛を誓い、家族や友人に感謝を述べ。式の終わりに誓いの口づけを交わすという式の流れ。
 神聖な雰囲気で行われる式に、観客達も見入る。
 そう。何も恥ずかしいことはない。最後の誓いのキスも『フリ』をするだけだ。
 ――そういう、手筈だった。
 ふと名を呼ばれ、顔をあげたアニス。そこには真剣な面持ちのヴァイスの顔があって――。
「いつもありがとう。絶対に幸せにするよ……愛している」
「……!!?」
 彼女にしか聞こえない囁き。微かに触れた唇。
 打ち合わせと違う展開に、アニスはみるみる朱に染まっていく。
「やっぱりこういう基本の結婚式もすごく素敵ですよねー! はあ、いいなあー」
「金鹿さん……見えないです……」
「ミリアさんコメントありがとうございます! ちょっとハプニングありましたけど、金鹿さんガードが発動したみたいなので大丈夫そうですね!」

「……似合いませんっ」
 その頃、エステル・ソル(ka3983)は控え室で涙目になっていた。
 身に纏ったマーメイド型のウェディングドレスが絶望的に似合わなかったからだ。
「お母さまはとっても綺麗さんだったのに……!」
 元々マーメイドラインの服は体の凹凸がハッキリした人が似合うものだ。
 お子様体型のエステルが着こなすのが難しいのは仕方のない話なのだが……。
「おや。花嫁さんに涙は似合いませんよ? どうしたのかな?」
 差し出された一輪の花。聞き慣れた声に顔を上げると、白いかっちりとしたベストとパンツ姿に、髪もきちんとまとめたバジル・フィルビー(ka4977)がいて……その姿に涙も引っ込む。
「わあ! バジルさんカッコいいさんです!」
「ははは。ありがとう」
「今日はお一人ですか?」
「うん。ちょっと会場の設営を手伝ってね。時間があるからこうしてみて回ってたんだけど……一体どうしたの? 泣いたりして」
「このドレスがあまりにも似合わないので出るのが嫌だなって思って……」
「そっかー。じゃあ思い切って白無垢に着替えてみたら? きっと似合うと思うよ」
「そ、そうですかね。そうしてみます!」
「着替えが終わったら、僕とご一緒して戴けますか?」
「……はいです! 喜んでです!」
 恭しく頭を下げるバジルに、こくこくと頷くエステル。
 2人は顔を見合わせてにこにこと笑い合う。
 ――詩天の地で出会ったお友達。この先も仲良くできたらいいと思う。

 もう一組、控室でもじもじしているカップルがいた。
 ノノトト(ka0553)と羊谷 めい(ka0669)である。
 着慣れない白のタキシード。裾を折ったのだがまだ長い気がする。
 それに比べて、めいの何と美しいことか……。
 黒い長い髪に白いドレスが映えて、人に見せるのが勿体ないなと正直思う。
「あの……わたし、お嫁さんに見えますか?」
「もちろんだよ! すごい綺麗!! っていうかこれってショーだけど……け、結婚する時の式だよね!!?」
「うん。模擬ですけれど結婚式ですし……」
 テンパるあまりに変な確認をするノノトト。笑顔のめいを前にして、ノノトトは考え込む。
 彼女は友達である真美と同じように守りたい人だけど……自分は、彼女を好きなんだろうか。
 守りたい、という気持ちは同じ。
 でも、決定的に違うものがある。
 ――だから自分は、めいのことを好きなのだと思う。
「あのね。めいちゃん」
「はい?」
「ぼくはめいちゃんが好きだ。だから、他の人と同じように誓うことはできないよ」
「……ノトくん?」
「だって、お嫁さんって幸せで幸せで、これ以上ない幸せの時になるものだよ。ぼくはめいちゃんに心配かけたりして……泣かせたりして。まだ、そんなに幸せにできてないもん」
 だから――。
「君を、幸せにしたい。星の距離くらい離れても、きっと君と君の幸せを見つけてみせる。もうちょっと待っててくれる?」
 その言葉に目を丸くするめい。その瞳にみるみる涙が溢れて、ノノトトが慌てる。
「わあっ!? また泣かせちゃった!!? ご、ごめん!」
「……ちがう。違うの。嬉しくて涙が出ちゃったの」
 慌てて涙を拭うめい。小さくため息をついて続ける。
「わたしも、ノトくんが大好き。みんな、幸せならそばにいれなくてもいいと思うのに、ノノくんはわたしの隣にいてほしくて……ノノくんがほかの女の子と仲良くしてると、さみしくなっちゃうんです。そんな嫉妬深い自分がいるって知られたくないけど、それが本当だから……」
「えっ。ううん! それってすごく光栄!」
「えっ。そう? 良かった……」
 あははと笑い合う2人。空気が和んで、自然と言葉が出る。
「んっと、今日は模擬の……真似っこだけど。頑張ってエスコートするね」
「うん。ありがとう。よろしくね」
 ノノトトに笑顔を返すめい。
 ――あなたがそばにいて、わたしを想ってくれる。
 そのかけがえのない幸せに感謝して……めいは彼の手を取って、舞台に向かって歩き出した。

「おーファッションショーだってさアーくんっ! 見に行ってみよーっ♪」
「見に行くのは別に構わないけど。レムは参加しないの?」
「あれっ!? なんですかなっ!? れ、レムさんだって女子ですし少しはどんなもんか気になる精神はありますからなっ!?」
「ふーん。そっかそっか。オッケー」
 レム・フィバート(ka6552)の反応にニヤリとするアーク・フォーサイス(ka6568)。彼女の手を取ってぐいぐい引っ張っていく。
「えっ。ちょっ。アーくんどこ行くの!?」
「だから衣装借りて、ショーに参加しようって言ってるの」
「ひょええええ!? そんな急に言われてもですよ!? あ、アーくんさん!? 正気!!?」
「正気も正気。レムは、俺と参加じゃ嫌?」
「誰がそんなこと言いました!? 嫌、とかじゃないですがっ!」
「じゃあ良いんだね。よし」
「な、なんかずるいぞーっ!?」
 ギャーギャー言い合いながら到着した貸衣装部。覗き込むとそこにはイスフェリア(ka2088)がいた。
「あ、いらっしゃいませ。何かお探し?」
「うん。この子に似合うドレスをね」
「アーくんも着るですよ?! あ、イスフェリアさんは何してるの?」
「わたしは衣装作りのお手伝いしてたの」
 そういうイスフェリアの手には鮮やかな文様描かれた婚礼衣装。辺境部族のものだろうか。一風変わったそれに、レムの目が輝く。
「へー。これも綺麗だねえ」
「オイマト族の婚礼衣装なの。庶民にも手が届く結婚式っていうなら手作りがいいかなと思ったんだけど、難しくて一から作ろうと思ったら全然間に合わなくって……」
「へえ……。伝統を守るって大変なんだね」
「うん。だから元々あるのをお借りして、ちょっとアレンジしてみようかなって」
「そうなのか。イスフェリアさんは着ないの?」
 続いたアークの問いに一瞬固まるイスフェリア。少し考えてからぷるぷると首を振る。
「わたしはそういうのには縁がないから……」
「折角作ったのに勿体ないよー!」
「あ、じゃあレムさん試着してみない?」
「え? いいの?」
「うん。誰かに着て貰いたかったし。他にも衣装あるから色々着てみたら?」
「やった! 着る着るー!」
 イスフェリアの言葉に万歳するレム。
 衣装を眺めていたアークがくるりと振り返る。
「レム―。どうせ試着するなら俺の好みで選んだドレスも着てみてくれる?」
「へっ? べ、別にいいけど……」
「じゃあ選んだら持っていくよ。待ってて」
 立ち並ぶ衣装の中に消えていくアーク。
 彼がピックアップする衣装もお洒落で可愛くて……レムは嬉しいような、困ったような複雑な気分になる。
 ――んー、ししょーとかお母さんとかお父さんもこーゆーの期待してたのかなー。
「レムさん、ちょっと腕上げてくれる?」
「あ、はーい」
「レム。これ着てみて」
「ちょっ!? アーくん!? このドレスの山はなんですかッ!?」
 イスフェリアとアークに着せ替え人形のように色々着せられるレム。
 ――彼女達の衣装選びは、とても時間がかかりそうな気配だ。

 人気のない控室。そこで綿狸 律(ka5377)はぷるぷると震えていた。
 何故って。皆守 恭也(ka5378)と共に、2人で紋付き袴を着る予定だったのに、自分だけ白無垢を着せられる羽目になったので……。
「……すまん。律。係の者に俺が夫だと伝えたのがいけなかったか……」
「いや、違うって。これ絶対母さん達の悪ノリだって!」
 恭也の呟きに吼える律。
 そうだ。そもそも紋付き袴はちゃんと2つ用意されていたのだ。
 それなのに、着替える段になって恭也と律の母が押しかけてきてあれよあれよというまに化粧させられ、髪もつけ毛を足されて長くなり。
 白い着物を着せられ、綿帽子を被せられ――。
「オレは男だっつの! 男がこんな格好して喜ぶやつなんていねぇだろ!! ……って、きょーや。何ボーっとしてんだよ」
「いや……その。美しいなと思ってな」
「ハァ!!? お前熱でもあんのかよ!!」
「そう、だな。しいて言えば律にお熱か」
「あー。そうだなーーって冗談言ってる場合じゃねえよ!! どうすんだこれ!!」
「今から着替えていては間に合わぬしな……仕方ないが、このままでいくか」
「えええええ! オレ変な奴扱いされねえ!?」
「いや。男子だが花嫁姿の人物、何人かいたぞ……?」
「マジかよ。勇気あるな……」
「仕方あるまい。式が終われば直ぐに脱ごう。な?」
「うー。分かった。しゃーねえ。早く終わらせようぜ、きょーや!」
 不機嫌そうな律に無言で頷く恭也。
 そうは言ったものの、目の前の律は本当に、お世辞抜きで美しい。
 夢に見なかった訳ではない想い人の姿に、どうしても見入ってしまう。
 少しでもいい、この時間が長く続いて欲しい――。
「なあ、きょーや。伝統通りの式ってどうやんだ?」
「……そんなに難しく考えなくていい。俺のを見て真似すれば大丈夫だ」
「ん。分かった。きょーやと一生を誓うぞ。主従の契約より、もっともっとデカくて、すげえ契約!」
「……ああ。そうだな。お互いの一生をかけた契約だ」
 手を伸ばし、律の頬を撫でる恭也。
 ――以前は想い人に従者として仕える身で。
 想いが通じる日が来ることも、結婚の許可を得ることも夢のような話で……この日を迎えるなど、かつては想像もしなかった。
 この幸せをなくさぬ様、もっともっと強くなろう。
「きょーや。時間だ。行こうぜ!」
「ああ、足元に気をつけろよ」
 お互いの手をとる2人。
 一生一緒に生きていく為の約束。それを形にするため、光に向かって歩き出した。

「お次の方は、ジャック・J・グリーヴさんですね。……えっと何しに来たんですか?」
「バッカ! お前、俺様がここに出ないで誰が出るってんだよ!!?」
 音子の身も蓋もない発言に吼えるジャック。司会者の生ぬるい目線を無視して観客に向き直る。
「この世には持つ者と持たざる者が存在する……そして俺様は、持つ者だッ!」
 高らかに宣誓する彼の手には抱き枕。
 そう。黒髪ロングの大和撫子。某ぎゃるげえヒロインのサオリたんのそれである。
 輝かしい笑顔を浮かべる彼女を大事そうに抱えてジャックは続ける。
「さぁて。持たざる野郎共に朗報だぜ? 世の中ってのは不平等だからよ、カノジョってのがいない奴もいる。けどよ、こいつがありゃあ万事解決! それがこいつ、「抱き枕」だッ!」
 ジャックの上がっていくボルテージ。それに反してどんどん会場の空気が冷たくなっていく。
 それにも気付かず、ジャックは抱き枕に更なる秘密兵器を重ねた!
「これを見ろ! 『抱き枕』に『推し衣装』を着せるだけで何と驚きカノジョの出来上がりだッ! 西方東方関係なく寂しんボーイはどこにだっているはず! これはッ! そんな奴等に捧ぐッ! 救世主ッ!」

 メッ!

 シッ!

 アァンッ!

 謎の叫びと共にバリバリ! と鈍い音を立てて割ける服。
 上半身の筋肉を誇示しながら、ジャックは狼のごとき咆哮をあげた。
「さぁ! 吼えろよ野郎共! 共に逝こうぜ! ヘブーー」
「はいはい。時間! 時間ですよジャックさん! アピールありがとうございました!」
「ちょっと待て音子! まだ俺様の主張は終わってねえ!!」
「一応審査員の方、コメント戴いてもいいですかー?」
「えっと……色々な世界があるんだなと思いました!」
「……抱き枕、うちの店に置いたら売れますかねえ……?」
「ミリアさんありがとうございますッ! シルキーさん、それは辞めた方がいいと思います……。はい次行ってみましょ! 次!」
「待て! 俺の話はまだ終わってねえええ!!」

「気を取り直して次行ってみましょう! お次はリューリ・ハルマ(ka0502)さんとアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)さんですね。珍しくお友達同士での参加ですよ!」
「リューリだよ! 今日は親友のアルトちゃんと一緒にショーをやるね!」
「アルトだよ。精一杯頑張るね」
「それでは今回のテーマを聞かせて戴いてもいいですか?」
「それ話しちゃうとつまんないかな。アルトちゃんどう思う?」
「そうだね。実際見て戴いた方がいいかも。じゃ、リューリちゃん宜しく!」
 音子に笑顔を返したアルト。彼女の合図で、リューリが動き出す。
 濃い赤のゴシックドレスを身に纏う彼女。
 ワンショルダーのビスチェはレースがたっぷり。ネックレスや靴も深紅で揃え、鮮やかさが目を引く。
 後ろ姿も見せつけるように明るいステップで舞台を一周したリューリ。
 軽い足取りでターンを決めて、ウィンクした後真っ赤なブーケを客席に投げ入れる。
 思わぬプレゼントに、沸き立つ観客。
 ……ふと舞台に目線を戻せば深紅の花は消え、代わりに深い青のドレスを纏ったアルトが立っていた。
 淑やかな表情。たおやかな足取り。
 元気にステップを踏んでいたリューリに比べ、アルトのステップは静かで、そして深い青に合わせたアクセサリーが星のように瞬く。
 切り替わる動と静。流れていく昼と夜。
 そんな対比を表しているのだと、見ているものに感じさせた。
 そして欠けた月が満ちていくように華やかになるアルトのステップ。
 不意に投げられたブーケ。それに目を奪われているうちに、重ねておいたヴェールを早業で取り――より輝く夜空のイメージを見せ、彼女も退場する。
「リューリさんもアルトさんも素晴らしいです! お疲れ様でした! 審査員の皆さん、いかがでしたか?」
「これはショーとして良く考えられた内容でしたな! 余興として取り入れても良いかと思いましたぞ!」
「くるくる変わって、どんな魔法を使ったのかと思いました……!」
 司会の音子、審査員のオーガストと真美のコメントに賛同するように湧き上がる拍手。
 このショーは、商工会の面々に『お色直し』というものを考えさせるには十分の企画となった。

「次の方は……椿姫・T・ノーチェ(ka1225)さんと神代 誠一(ka2086)さん。恋人同士での参加ですね」
 音子に紹介され、壇上に並ぶ椿姫と誠一。2人は恭しく頭を下げる。
「早速ですが、テーマなどがありましたら教えて戴けますか?」
「そうですね。新しい結婚式のスタイルの提案……と言ったところでしょうか」
「結婚式は神に向けて誓いを立てるものが多いですが、俺達のは友達や家族……『人』に向かって誓いを立てる、というんですかね。低予算でも華やかにできないかと考えました」
「まさに今回の主題に沿ってますね! 見せて戴いても宜しいですか?」
 頷く2人。
 椿姫のドレスは真っ白で、二段切り替えになっているとてもシンプルなもの。髪には布で作った白い花が咲いている。
 誠一もシンプルなワイシャツにスラックス姿で、胸元にパッチワークで作られた花が飾られていた。
 向かい合い、布製の花を交換する新郎新婦。
 ――花嫁から花婿へは白い花。それは人生を捧げることを意味する。
 ――花婿から花嫁へはカラフルな花。それは沢山の幸せを捧げることを意味する。
 厳かに進められる式。
 不意に誠一から湧き上がる一陣の風と葉の幻影。
 一瞬で椿姫の白のドレスが外れ、下から色とりどりのミニ丈のドレスが現れた。
 あまりの早業に目を瞬かせる観客達。素晴らしい演出に自然と拍手が巻き起こり、音子もそれに続く。
「これはすごい早着替えでしたね……! ミニ丈のドレスには色々な布が縫い付けられていますが、これにも意味があるんですか?」
「ええ。実はこの布、親や友人達に思い入れのあるものを持ち寄って貰って、パッチワークの要領で縫い付けて貰ったんです」
「晴れの日だからこそ、今まで紡がれた数々の縁とこれからの縁を身に纏って欲しいとの思いでお願いしました」
「示し合わせた訳ではないので、本当に色も素材もバラバラなんですが……それがまた、それぞれ人の個性が出ているような気がして」
「ドレスや花に、大切な人達の想いを形にしてまとめられるって、そうそう出来ることじゃないと思うんですよね。いい記念になると思うんです」
 椿姫と誠一の説明に、音子はしきりに頷く。
「なるほどです。全てに意味があるんですねー。審査員の皆さん、いかがですか?」
「なんつーか、ここまできちんと意味まで考えて提案するってなかなか大変なこった。良く頑張ったと思うぜ」
「衣装もとっても素敵です……! パッチワークをちょっと見直しました!」
「スメラギさん、シルキーさん、ありがとうございます! 椿姫さんと誠一さんにもう一度盛大な拍手を!」

「お次はジャック・エルギン(ka1522)さんとリンカ・エルネージュ(ka1840)さんですね! よろしくお願いします」
「おう、よろしくなー」
「宜しくお願いしまーす!」
「早速ですが、ショーのテーマがあったら教えてください」
「そうだな、炎と水の競演……ってとこかな」
「2人の活きがいいところビシっとお見せするよ☆」
「活きが良いって俺達は活魚か何かかよ……!」
「あははは! 細かいこと気にしない!」
「ま、いーや。んじゃ、楽しんでいくか!」
 音子に促され、舞台を進むジャックとリンカ。
 審査員や観客の前に立つとさっきまでの雰囲気とは一転し、真面目な表情で丁寧に一礼する。
 そして剣を抜き放った2人。手の代わりに剣を繋ぐように。
 切っ先を合わせてくるりくるりと回る。
 ジャックの焔のような赤いタキシード。金色の長い髪が火の粉のようにゆらりゆらりと揺れる。
 リンカは白と水色が基調の透明感のある衣装で、彼女の動きに合わせて動くドレスが美しい。
 続く輪舞。閃く剣。揺れる赤と青。それはまるで、炎と水が交じり合い、遊んでいるようにも見える。
 何より、ジャックとリンカが楽しんでいるのが伝わってきて――。
 最後に大きくくるりと回転すると、ジャックはリンカを抱き上げてそのまま踊るように退場する。
 明るく楽しく、余韻が残る余興に、観客達から割れんばかりの拍手が送られる。
「最後まで明るくて素敵でしたね! 審査員の皆さん如何でしたか?」
「本当に炎と水が舞っているようで綺麗でした……!」
「剣舞って元々カッコいいですけど、今回のはスタイリッシュで更にカッコよかったです!」
 真美とシルキーの評価を聞いていた2人。ジャックとリンカは拳を突き合わせる。
「よっし! 観客の反応も審査員の評価も上々だね! やったね、ジャックさん!」
「おう。思いっきりやったしなー。こういうのは楽しんだモン勝ちだろ」
「そうだよねー! 本当楽しかった!」
「ああ、そういや言い忘れてた。リンカ、ドレス似合ってんぜ」
「……えっ? あ、当たり前じゃないやだなあもう!!」
「いてっ。痛えっ! 殴るなって」
 まさか褒められるとは思ってなかったらしく、アワアワと慌てるリンカ。
 その勢いのまま、ジャックの背中をボコボコと殴った。

「次の方は……テオバルト・グリム(ka1824)さんと柄永 和沙(ka6481)さんですね。おや? テオバルトさんの姿が見えませんが……」
「あ、何か用意してくるもの忘れたらしくて。すぐに戻ってくるよ」
 首を傾げる音子に受け答える和沙。
 ドレスなんて初めてで、何だかちょっと落ち着かない。
 1人で立っているせいか、観客の目も自分に集中していて恥ずかしい――。
 そんなことを考えていた彼女。オフホワイトのAラインのドレス。
 上半身はシンプルなビスチェで、スカートがフリルでふんわりとした愛らしいデザインだ。
 髪にはテオバルトから貰った簪を。頭はベールで飾り、腕には肘下までの白い手袋。
 花嫁としてはオーソドックスな格好だが、素材を吟味し、庶民でも手が届く価格帯のものにしている。
「すみません。遅くなりました」
「お、花婿さん登場ですね。さあ、どうぞこちらへ」
 音子に促され、やってきたテオバルド。
 その手にはマーガレットの花束。黒いフロックコートにタイ、髪の毛もぴったりと撫でつけてあって……いつもと全然違う彼に和沙の心臓がトクリと跳ねる。
 テオバルトは観客に向き直るとこほん、と咳ばらいをした。
「花束は、時間あれば本当は参列している家族とか友人から一輪ずつ貰って入場中に作るんだけど、今回は二人だけなのでこんな形にさせて貰いました。……皆さん。これから俺は、一番大切な人に求婚します。皆さんに是非、証人になって戴きたい」
「……? テオ?」
 意味が分からず、首を傾げる和沙。普段とは違う、美しい姿の彼女を瞳に焼き付けて……彼はその場に片膝をつき、花束を捧げる。
「君と出会って、これまでを過ごして……本当に毎日楽しいし、とても幸せで……。俺はこの先も君の傍で、君と同じ時を重ねていきたい。その……俺のお嫁さんになってくれますか?」
「………!!?」
 突然の告白に息を飲む和沙。いつも飄々としているテオバルトが珍しく真面目で、どことなく不安さが滲み出ていて……何か答えなくちゃと思うのに、上手く言葉にならない。
 代わりに出て来るのはとめどなく溢れる涙。嬉しい。すごく嬉しいのに。このままでは勘違いされてしまう。
 和沙は黙ってこくこくと頷くと震える手でブーケを受け取り、そこから一輪抜き取ると、そっと彼の胸ポケットに花を挿して、泣きながら笑う。
「……テオ。わたし、わたしね……」
「うん。これはYESってことでいいのかな?」
「勿論! テオ、だいすき。あたしと、ずっと一緒にいて下さい」
 返事の代わりに立ち上がり、和沙を抱きしめるテオバルト。
 プロポーズ大成功に、観客が多いに沸いて……あちこちから祝福の声がする。
 近づく2人の顔。それを隠すように音子が『みせられないよ!』という手持ち看板を掲げた。
「盛り上がってるところ申し訳ないんですが、お子様もいるので続きは控室でお願いしますねー!! 審査員の皆さん! まさかの本気のプロポーズ大作戦でしたがいかがでしたか!?」
「これは大変めでたいですな! 衣装が安価で抑えられているところも大変好感が持てます。いやはや、お二人には是非ともリゼリオで挙式を揚げて戴きたいものです。我々が支援させて戴きますよ!」
「うううう。いいなあああああ! 恋人ほしいいいいいいい!!」
「オーガストさん、ありがとうございます! ああっ。ミリアさん本音が漏れてますよー!」

「お次はアイビス・グラス(ka2477)さんですね! こんにちは!」
「こんにちは……って、あの感動のシーンの後に一人ってすごくやり辛い気がするんだけど……」
 気後れしたのか、ため息をつくアイビス。音子はぶんぶんと首を横に振る。
「そんなことないです! アイビスさんお綺麗ですし! 負けてないですよ! きっと今お相手募集すれば名乗り上げる人が……」
「あー。いい、それはいい」
「そうですか? 早速ですが、今日の参加動機を教えてください」
「クリムゾンウェストに来てから生活の為にハンター稼業に明け暮れていて、全然考えてる余裕がなかったから……。今日くらい夢見てもいいかなって」
「なるほど。やっぱりお相手募集します?」
「自分で探すからいい!!」
「えー。赤いドレス似合ってらっしゃるのになー!」
「あ、そう? ありがとう。派手すぎるかなって心配してたんだけど、そうでもなくて良かった」
「ところで今日のテーマをお伺いしてもいいですか?」
「ええ。『お色直し』にこういう服を着たら素敵かなーと思ったの」
 そう言って、壇上でくるりと回って見せるアイビス。
 真っ赤なネックホルターのドレスに真っ赤なハイヒール。イヤリングやブレスレットも赤の宝石で統一している。
 それらはアイビスのくびれがハッキリした身体を際立たせ、ピンと伸びた背筋が健康的で、何とも言えない美しさが滲み出ていた。
「結婚式のお色直しって確かリアルブルーの風習ですよね」
「そう。こちらにも似た感じのはあるのかもしれないけど……私が聞いたのは、日本という名前の国の風習よ。昔は結婚して三日間は白無垢を着続け、四日目に色打ち掛けを着る……そうやって、ようやく相手の家に染まる事が許されたそうよ。今では大分簡略化されたけど、その風習が残ってる……ということみたい」
「相手の家に染まるってなかなかすごい考え方ですよね」
「そうねえ。クリムゾンウェストでも、王家とか貴族にはまだ残ってそうな気がするけど……」
 音子に頷き、考え込むアイビス。
 ――今は仮初だけど、いずれ私も相手の色に染められるのかな?
 そうなってもいい、と思える相手が現れるのだろうか……。
 どこか遠くに聞こえる審査員の声。スメラギの声だけ、やたらハッキリと聞こえてきた。
「アイビスって逞しい印象だったけど、こうしてみるとなかなかどうして……うん」
「……スメラギくん後で拳骨食らわすから」
「何でだよ!!?」
「デリカシーがないのは罪ですね。アイビスさん、ありがとうございましたー!」

「はわぁ♪ 素敵な白ドレスなのです♪ ……でも、似合ってるかな?」
「勿論。ティス、世界で一番可愛いし似合ってる」
 純白のドレスに身を包み、くるりと回るカティス・ノート(ka2486)。大真面目に絶賛するフィーナ・マギ・ルミナス(ka6617)の言葉に、ボフッ! という音がしそうなくらい一瞬で朱に染まる。
 漆黒のタキシード姿のフィーナもカッコイイのだが……というかカッコ良すぎて直視できないんですが……!!
 動揺して言葉にならず、気持ちを握った手に込める。
「……うん。ありがとう。それじゃ、行こうか。私のいう通りにしていれば大丈夫だから」
 フィーナの言葉にただこくりと頷き返すカティス。
 現れた2人を、司会者と観客が拍手で出迎える。
「お次はフィーナさんとカティスさんのカップルです! 早速ですが、今回のテーマを教えて戴けますか?」
「今回のテーマは『相手を自分の色に染める』です」
「先ほどアイビスさんとのお話にも出てきましたね。一体どのようにやるんでしょう」
「これから実演してみせますね」
 自信ありげに一礼するフィーナ。カティスの手を取り舞踏会のようなダンスを披露する。
 そして不意にカティスを引き寄せ、抱きしめるフィーナ。
 どさくさ紛れに彼女の唇を塞ぎ……。
「わっ!? フィ……」
 途切れる声。音子が瞬時の判断で『みせられないよ!』の手持ち看板で隠す。
 ――この司会、なかなか出来る!
 そうしている間に、聞こえてくる観客のどよめき。
 みると、カティスの纏っているドレスがフィーナの触れていたところだけ黒くなっていて……。
 身を離す2人。黒く染まったドレスを誇示するように、カティスがゆっくりと歩く。
「種明かしをしますね。まず、花嫁のドレスには膠で溶かした銀粉をあらかじめ塗装してありました」
「あ、それでちょっとグレーがかってたんですね」
「はい。黒のタキシードの方には銀を黒くいぶす液体を仕込みます」
「えっ。銀を黒くする液体……?」
「ええ、温泉と同じ成分です。卵が腐ったようなにおいがする温泉、ありますでしょう?」
「あー! 確かに、うっかりアクセサリーつけたまま温泉入ると変色しますね!」
「温泉成分が入った液体なら、銀以外のものを変色させません。塗料だと、うっかり何かにぶつかった時に被害が出てしまいますから」
「ふむふむ。なるほど……確かにそうですね……!」
「今回の方法は比較的安価な方法でしたが、お貴族様でしたら銀糸を使うともっと映えるかと思います。恋人を自分の色で染め上げたいあなたにぴったりです!」
 フィーナの説明におおおお……! と感心の声を上げる観客達。オーガストと各国の商人達もがぶり寄りで聞いている。
「何だか商人さん達の心をくすぐちゃったみたいですけど、審査員の皆さんはいかがでしょう」
「温泉って意外なことにも使えるんだな。初めて知ったぜ」
「相手を染めちゃうって倒錯的だけど素敵です……!」
「スメラギさん一つ賢くなりましたね! シルキーさん目がハートになってますよ。ところでカティスさん静かですけど大丈夫ですか……?」
「うゅ……。し、心臓がどきどきしちゃって喋れなくて……」
「あ、そうだったんですね。控室でゆっくり休憩なさってください。ありがとうございましたー!」

 ファッションショーへの参加を決めたフレデリク・リンドバーグ(ka2490)は、何を着るかで悩んでいた。
 ――私はどちらを着ましょうかね。うーん……。タキシードもいいんですけど……。
 ふと鏡を見るフレデリク。ぱっちりとした目。中世的な顔。エルフらしく線の細い身体……。これは、これならいけるのでは……?
 よし、ドレスにしよう!
 そう心に決めた彼。自分が思うがままに着飾って、壇上へと上がる。
「次の方はフレデリクさん……あら? フレデリクさん男性でしたよね……?」
「はいっ! 男です!」
 目を丸くする音子に、こくりと頷くフレデリク。その返答に、観客から驚きの声が上がる。
 無理もない。どこからどう見てもドレスを着た可憐な少女にしか見えなかったので……。
「随分立ち居振る舞いが慣れてらっしゃいますけど、ドレス着た経験でもあるんですか?」
「はい。前にも着たことがありましたが……そちらは訳アリ結婚式でしたので! 皆で女装して花嫁役をやったのはいい思い出です」
「皆で女装ですか……。皆フレデリクさんみたいだったんですかね……。ともあれ、今回のテーマはなんでしょう」
「はい! エルフなので植物をモチーフにしてみました。森の妖精風です!」
 くるりと回ってみせる彼。編み込みにされた髪にとまる蝶。淡い黄緑のミニ丈のドレスに花や葉があしらわれていて……線の細さも相俟って、本当に妖精のようで、あちこちからため息が漏れる。
「……フレデリクさんの線の細さもびっくりなんですけど、すね毛がないこともびっくりなんですよね」
「えっ? ええ、元々生えない性質なんですよ。髭もこの通りで……」
「エルフって皆こうなんですかね。ねえ、審査員の皆さん……?」
「何かちょっと、女性であることに胡坐をかいてはいけないと思いました……!」
「明日からダイエットします……!」
「……ミリアさんとシルキーさんが変な方向に火がついちゃったみたいですね。まあいいでしょう。フレデリクさんありがとうございました!」
「こちらこそ! これから美味しい料理食べてきます!!」

「お次は、ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)さんとヨルムガンド・D・L(ka5168)さんのご夫妻ですね。……おお? 早速ショーが始まっているようです」
 音子の声に振り返る観客達。
 そこには色とりどりの花弁が舞う中、腕を組み静々と歩くヴィルマとヨルムガンドの姿があった。
「登場からロマンチックでしたね。それではテーマをお聞かせ願えますか?」
「うむ。我らのテーマは『思い出』じゃ。豪奢なアクセサリーでなくとも、思い出の花で飾るのも素敵だと思うのじゃ。白いドレスに花は映えるでのぅ。入場の時に参列者に花びらをまいて祝福してもらうのも綺麗じゃろ」
 そういうヴィルマの手にはスズランのブーケ。白いミュゲのドレスにもふんだんにスズランが飾られている。頭を彩るスズランの花冠とミストヴェールも何とも愛らしい。
 隣に立つヨルムガンドは癖のある黒髪を纏め、やや灰色がかった白色のスーツにスズランのコサージュと淡い緑のリボンを身に纏っていた。
「この格好を見ればお分かりかと思うが、我らの思い出の花はスズランじゃ。ヨルガが我にプロポーズをした際、スズランの花冠と……婚約指輪がないから、と咄嗟にスズランで指輪を作ってくれたのじゃよ」
 その時の夫の様子を思い出して、クク……と笑い声を漏らすヴィルマ。
 切羽詰まって、思い詰めた顔をしていた彼。プロポーズを受けて貰えたと知ってようやく笑顔が戻ったが……緊張は、なかなか消えなかったらしい。
 背中を丸めて、震える手で一生懸命指輪を編んでいた姿は、きっと一生忘れないだろうと思う。
 彼女が何を思い出しているのか察して、ヨルムガンドの心中は複雑だったが、それでも笑う彼女を見るのは嬉しいからいっか、とすぐに切り替えて……。
 妻の愛らしい手にもう一度、スズランの指輪を滑らせる。
「あの日もこんな風に、指輪を贈ったんだよ。二人で小さな幸せを積み重ねていけたら、と……そんな願いを込めてね。思い出の花と、大好きなリボン。たくさんの想いが詰まった俺達だけの衣装なんだ」
「うむ。この緑のリボンにもちゃんと意味があるのじゃよ」
「人に歴史あり、とはまさにこのことですね! 審査員の皆さんどう思われますか?」
「ふむ……これは新郎新婦との綿密な打ち合わせが必要にはなりますが、それさえクリアできれば心温まる結婚式が開催できるということですな。新たな商売への可能性を見た気がしますな」
「……思い出を積み重ねるって、素敵ですね。私もお友達とやってみたいです」
「さすがモノトーン氏。商魂たくましいですね……。真美さんもお友達と記念日作るのもいいかもしれませんね。あ。そういえばヴィルマさんとヨルムガンドさんは新婚さんなんですよ! 皆さん、祝福の拍手をお願いします」
 音子の声に湧き上がる拍手。温かなそれに、ヴィルマとヨルムガンドは微笑んで手を繋ぎ……そして頭を下げた。
「パートナーを頼まれた時は驚きましたけど、考えてみればパーティーでも知人にパートナーを頼む事はありますね。折角ですし、普段しない装いを楽しませて頂きましょう」
「ああ、折角だ。楽しんでくれよな」
 涼やかに微笑むヴァルナ=エリゴス(ka2651)に笑みを返す南護 炎(ka6651)。
 入場の時間が迫り、炎がそれじゃ失礼……と屈みこむ。
「さてお次は炎さんとヴァルナさんですが……」
 言葉を切る音子。前方から、炎がヴァルナをお姫様抱っこして歩いて来るのが見える。
「早速の演出ですね。今回のテーマはなんですか?」
「俺達のテーマは『正装の騎士』と『姫』の王道の結婚式だ」
 ヴァルナをそっと降ろしながら言う炎。
 見れば黒いフルアーマーにマント、両手剣といういで立ちで、まさに騎士そのもの。
 一方のヴァルナはふわふわのドレスにティアラという絵本から飛び出したようなお姫様の恰好をしていた。
 貴人を扱うように恭しくヴァルナの手を取る炎。
 その手にそっと指輪をはめて、剣を捧げ持ち、誓いの言葉を述べる。
 何だかおとぎ話に出て来る勇者と姫の冒険譚の結末を見ているような感覚に、観客の目が輝く。
 そこに音もなく、すすすす……と巨大なウェディングケーキが運ばれてきた。
「二人の初めての共同作業ですね。お願いしm……」
「どりゃああああああああああああああああああ!!」
 ヴァルナの言葉が終わる前に、大剣を力いっぱい振り下ろす炎。
 ズドン!! とう鈍い音がして……ケーキが真っ二つになる。
「炎さん!? そんなに急に切ったらケーキが倒れてしまいますよ……!?」
「あれ? こっちの世界のケーキカットってこうやるんだろ?」
「違うと思います……! こんな巨大なケーキ両断できるのハンターだけですから!」
「あー? まあ、そうか。まあ味は変わらないし! いいんじゃないか!」
 からからと明るく笑う炎にああああ、と頭を抱えるヴァルナ。
 冒険譚から一気にお笑いへとシフトして、客席から笑い声が聞こえたが、音子はめげずに仕切り始める。
「ちょっと予想より激しい演出に驚きましたが問題ないです。ケーキは後程皆様に振る舞われますのでお待ちくださいね。審査員の皆さま、いかがでしたか?」
「あのさ……一つ言っていいか。炎のヤツ、台座までぶった斬ってねえか……?」
「騎士様も姫様も素敵でした! あとケーキ美味しそうです!」
「あー本当だ……。スメラギさんご指摘ありがとうございます。炎さん後で追加請求ですね。ミリアさん、なんだかんだで食い気なんですね……。ともあれ、お二人ともありがとうございました!」

「お姉ちゃん、頑張ってね」
「ありがとう。上手くいくといいのだけど」
「大丈夫。任せとけって。……さて、行こうか奥さん?」
 フィルメリア・クリスティア(ka3380)の虹色に淡い青がかけられたドレスに赤いバラを挿しながら言うシェルミア・クリスティア(ka5955)。
 フィルメリアは妹に優しい笑みを返す。
 悪戯っぽく手を差し出してきたゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)。白のスーツに蒼のストール。白のネクタイにつけられた四葉のクローバーのピン……。
 我が夫ながら、なかなか様になっていると思う。
 夫の手に己の手を重ねて、フィルメリアは静かに歩き出す。
 出迎える司会者。その先の観客に、2人は優雅に一礼した。
「お次はフィルメリアさんとゼクスさんご夫妻ですね! 今回のテーマは何ですか?」
「……テーマですか。そうですね……。しいて言うなら『応援』になるんでしょうか」
「応援、ですか? 一体どなたを……?」
「そうだな。立場に縛られて足掻いている若者になるのかな。なあ、奥さん?」
「そうね」
 ゼクスの言葉にこくりと頷くフィルメリア。2人の目線が審査員席に注がれているのに気づいたのか、音子もははーん……という顔をする。
「そうですね。若い人達には色々な道がありますからね。狭めるようなことはしたくないですよねー」
「ええ、まあ。そういうことですので……応援の意味も込めてガータートスを行いたいと思います」
「え。マジで? いいの?」
「ゼクス。変なことしたら蹴り上げるわよ?」
「おー。我が奥さんは怖いねえ。へいへい、と」
 誘いに乗り、流れるような動きでフィルメリアのガーターを取りにかかるゼクス。
 やっていることは某水も滴る肉体系魔術師様と一緒なのだが、清々しさを感じるのはその……動きのせいか。それとも人徳か?
 ともあれ、素早い動きで目的を達成したゼクスは、それを後手に投げて……飛んだガーターは綺麗な弧を描いて、見事スメラギの顔にクリーンヒットした。
「わぷっ! 何しやがる!」
「おお、当たっちまったかすまんすまん。まあ縁起物だから我慢してくれや」
 白々しく詫びを入れるゼクス。フィルメリアの隙をつく形で抱え上げる。
「ちょっとゼクスってば何してるの……!?」
「まあ。本気出せば、俺みたいにこんなに綺麗で強くて優しい嫁がゲットできる訳よ。まー振り向いて貰うまでは結構苦労したけどさ。行動しなきゃ理想は手に入らねえってことよ。分かるか少年」
「……そう、だな。その通りだと思うぜ」
「おう、分かってくれて何よりだ……って痛い痛い。おい、フィルそれ痛い」
「だったら離しなさいな……!」
 真面目な話をしている傍から夫のこめかみに拳をグリグリ決めているフィルメリア。
 音子も安堵のため息をついて、審査員席を振り返る。
「審査員の皆さま、コメント戴けますか?」
「……すみません金鹿さん。見えません……」
「真美さんは見たらダメです」
「えっと。同じガータートスでも全然違うんだなーって思いました!」
「金鹿さんのお姉ちゃんガード、完璧ですね……。シルキーさんありがとうございます!」

「残るは2組となりましたが、お次は巽 宗一郎(ka3853)さんと真夜・E=ヘクセ(ka3868)さんですね。今回のテーマは何ですか?」 「今回はショーではなく、商人達に『自分色の結婚式』の提案に来たんだ。発案はマヤなんだけどね」 「ひとまず私達の衣装、見てもらおうかな」  音子の紹介を受け、そのままの流れで切りだした宗一郎と真夜。  2人並んで紋付き袴と白無垢姿。  正座し、三々九度で厳かな雰囲気出していたと思ったら……あっと言う間にそれを脱ぎ、下からスーツとパーティドレスが現れる。  目にも止まらぬ早着替えを披露した後、真夜はもう一度商人達を見つめた。 「結婚式が敬遠される理由。それはもう皆も分かってるとは思うけど、かかる金額が割高だからだと思うの。新しい生活を始める時ってそれじゃなくてもお金がかかる。そんな時に、結婚式に割けるお金って、そんなに多くないと思うんだ」 「結婚式の衣装は、そんなに何度も着るものじゃない。大抵は一生に一度だ。それを買うとなるとどうしてもお金がかかる。コストダウンするにはどうしたらいいか」 「それを解決するのがレンタルだよ! ありとあらゆる新郎新婦の服を集めて、そこから挙式する人達に貸し出すの!」 「衣装を購入した金額は、何回か貸せば回収できるはずだ。割安にすることで、庶民でも高い衣装が手に届くようになる。管理費も別途必要になるが、それもレンタル料に上乗せして考えればいい」 「各衣装の傷み具合から貸し出せる回数を割出し、レンタル料を勘案するの。そうすれば質の悪い衣装を貸し出す必要もなくなるでしょ」  宗一郎と真夜の具体的な案におお……と声を挙げる商人達。
 その話に真顔になって耳を傾ける。
「庶民に安価で結婚式を提供する方法は色々あると思う。ともあれ、我々が言いたいのはただ一つ! 自分らしい式、始めませんか? ってことだ」
 そこで言葉を区切る宗一郎。ぐい、と真夜を引き寄せる。
「例えば、こんな風にね」
「ちょっ。まっ、宗一……」
「おーーっと待った―! 大人なシーンはそこまでですよーーー!!」
 誓いのキスを『みせられないよ!』看板で封じる音子。段々手慣れて来てますね、この司会者……!
「商談、ご相談はいつでも乗るわ! よろしくね!」
 そんな声を残して去っていく宗一郎と真夜。その背に向かって、商人達が拝んでいる。2人の話は、オーガストと商人達から絶賛された。
「あー。もう人前の恥ずかしさったら……! セリフ噛むかと思ったわよ!」
「そうかい? 余裕があるように見えたけど」
「どこがよ! もう心臓バクバク、顔は熱いし大変だったんだからね!」
 凄い勢いで宗一郎に愚痴る真夜。小さくため息をついて、ぽつりと呟く。
「……こんなの、あと1回で十分ね」
「そうだね。今度は僕らの為にやろうね」
「えっ? ええ??」
 ほのめかした言葉にあっさり頷かれて慌てる真夜。彼女の心臓は当分落ち着きそうになかった。

「お次は久我・御言(ka4137)さんと鷹藤 紅々乃(ka4862)さんですね。事前にお伺いしていたお話によると、リアルブルーの日本に伝わる神前結婚式、と呼ばれるものだそうです。楽しみですね!」
 読み上げられる音子の解説。そこに、シャンシャンシャン……と軽やかな鈴の音が聞こえて来る。
 その音に合わせ、静々と進む紅々乃と御言。
 紅々乃が身に纏うのは伝統的な『黒引き振袖』。
 黒地に舞う鷹の図と御所車菊梅紋様が鮮やかで目を引き付けられる。
 そして髪型は文金高島田と呼ばれる古来から結婚式で使われているものだった。
 隣の御言は黒の紋付き袴を着こなし、顔を正面向け、厳かに悠然と歩み……。
 そして、並んで座し、2人順番に盃に口をつける。
 『三献の儀』と称される新郎新婦が盃を交わすことに契りを結ぶという意味があるらしい。
 それが終わったところで、御言がすくっと立ち上がり、観客の方へ向き直った。
「諸君! 君達にこの言葉を送ろう。どうだ、羨ましいだろう? と!」
「……えっ? 御言さん!?」
 飛び出した言葉に目を丸くする紅々乃。それでも御言の言葉は止まらない。
「此度の参加は私の我儘! 彼女の艶姿を見たいが故! 打掛が引き立てる彼女の可憐さ愛らしさはとても3分では語り尽くせんゆえ手紙を書いてきた!!」
「て、手紙!?」
「後で読んでくれたまえ」
「あ、ハイ……」
「諸君。覚悟を示す式なのだから背伸びをし給え。偽るな、取り繕うなと言う声に、本気だと返してやれ!」
「………」
「いいかね、諸君! 汝の隣人を愛し給え!」
 御言の朗々とした宣誓をポカーンと見上げる紅々乃。
 ――この人に、自分はずっと片思いをしていて、今回のショーもダメ元で、思い切ってお願いしたのだけれど。
 もしかして、もしかしたら。少しは可能性があるのではないだろうか……?
 だって、嘘をつくような人ではないし……。そうでなければ、今の言葉は出てこないと思うから……。
 でもそんな。急にそんなこと言われても。どうしよう。
 みるみる顔が赤くなる紅々乃。そこにそーっと音子が声をかける。
「すみません、口挟む隙がなかったんですが、そろそろ時間なので宜しいでしょうか……」
「うむ。問題ない。己の持つものは出し切った」
「あっ。ハイ。大丈夫です……!」
「素晴らしいお式だったと思いますが、審査員の皆さまはどう思われました?」
「リアルブルーの古いしきたりだそうですが、エトファリカも同じような結婚式を挙げるんです。お二人の故郷と言われる場所に何だか親近感が沸きました」
「東方風の結婚式も素敵だなあと思いました!」
「真美さん、ミリアさんありがとうございます! 皆さん、お二人に大きな拍手を!」
 控え室に戻る道すがら。紅々乃は御言の袖をくいくい、と引っ張った。
「……あの。御言さん」
「何かな?」
「……いつか、模擬式ではなく本当の式を挙げたいです……」
 真っ赤になりながら言う彼女。その言葉に、御言は思わず固まって……。
「……いや、すまん。不覚を取った。……好意では足りぬようだな」
 髪に、と思ったが。結い上げられていて叶わなかったので。
 紅々乃の小さな手を取り、その指先に軽く口づけた。

 ――確かに誘いに乗ってくれたけど。想像してたのと何か違う。
 目の前にいるハンス・ラインフェルト(ka6750)をじっと見つめる穂積 智里(ka6819)。
 まあ確かに、おばあちゃんの国の話で盛り上がりながら一緒に美味しい物食べられればいいなと思っていたけど……。
 本当に故郷の話だけで1日過ごすことになるとは思わなかった……!
「……ハンスさんはうちのおじいちゃんと話があうのかも」
「そうですね、異国情緒を愛すという点では、確かに貴女の御祖父と話が合うかもしれません」
「今度ご紹介したいです。きっと祖父が喜びます……」
「おお。それは是非。美味しいお茶でもご馳走しましょう」
 そんな話をしていた2人。呼ばれる声がして、慌てて壇上に向かう。
「最後のお二人ですね。智里さんとハンスさんです。今回のテーマを教えて戴いて宜しいですか?」
「はい! 私達のテーマは『友人の結婚式へのお呼ばれ』です。結婚する回数より、結婚式に呼ばれる回数の方が多いはずですから、そういう紹介があってもいいかなと思いまして」
「ああ、なるほど確かに。結婚は、まあ時々沢山する方もいらっしゃいますけど大抵1回ですものね」
「はい。お呼ばれする際は、主役より目立たぬよう配慮し、花嫁の色である白は避けるなどのマナーがありますよね。今回それらを押さえて、こういった格好になりました」
 くるりとその場で回って見せる智里。
 フリルとリボンが多いクランベリーピンクのパーティドレスにベージュのショールを羽織り、パールのネックレスとパールカラーのハイヒールに同系色のバックを合わせていた。
「気品のある格好ですね」
「そうだといいんですが……パーティドレスであること、白すぎず黒すぎず、肩を隠す、ストッキングでヒール……そういった決まりをしっかり守ればあまり外れた格好にはならないかなとも思います」
「私も智里さんと同じく男性バージョンです。友人ならスリーピースのダークスーツに白シャツ、明るい色のネクタイでポケットチーフがあれば十分でしょうが……ここは詩天の方にも馴染み深い格好が良いかと思いまして。詩天の方が普段友人の結婚式に行かれる場合の格好を披露させていただくことにしました」
 そう言い、静かに佇むハンス。
 長着と袴の上に羽織を纏い、長着と羽織にはそれぞれ一つ紋が入っている。暗めの色合いの着物に、白足袋と白襟がきっちり感を醸し出していた。
「羽織はスーツでいうところのジャケットのようなものですので、一枚羽織るだけできちんとした印象にしてくれ上品な着姿になります。下が着物の場合も、羽織を着ればぐっと印象が上品になりますよ」
「ふむ……参列する側というのも色々あるんですね。審査員の皆さん如何ですか?」
「参列する側についての衣装の作法はあまり気にしたことがなかったので、もう少しお勉強したいと思います……!」
「真美は素直だなぁ。別にどんな格好でも良くね?」
「真美さん素晴らしい心がけですね! スメラギさんそれアウトですからね!?」

 そして、改めて壇上に立った音子。観客と審査員、出場者に向けて深々と一礼する。
「さて、長きに渡り司会を務めて参りましたが、そろそろお別れのお時間が近づいて参りました。初めての経験で至らぬこともあったかと思いますがどうぞお赦しください。それでは皆様、結果発表まで今しばらくご歓談くださいませ!」

 ファッションショーが恙なく終了し、その興奮冷めやらぬ中。
 会場の隅で早々に羽織を脱いで放り投げたスメラギと、金鹿とシェルミアがひそひそと話し込んでいた。
「……お見合いの話も御座いますものね。お気持ちお察ししますわ」
「そうだよねー。スメラギくんも自分だけならまだしも、真美ちゃんも関わってるなら怒りたくもなるよね」
 ――金鹿もシェルミアも、もう子供という年齢でもない。
 スメラギや真美を取り巻くものが一筋縄ではいかないことも、政というものが複雑であることも理解はしている。
 今回の一件も『国』というものを優先した結果なのだろうと思う。
 それでも。いや、だからこそ。
 大局的なものは関係なく、『本人の気持ち』を重んじて行動する者がいたって良いのではないか――。
 2人はそんな気持ちがあって、東方の帝に声をかけていた。
「まあ、怒ってても仕方ないからさ。ここは何とかしてみようよ」
「ええ。何か協力できることはございます?」
「……嫁」
「「は?」」
 ぼそりと。吐き出すように言ったスメラギにキョトンとする2人。
 彼はくしゃくしゃと頭を掻いて吼える。
「だから嫁!! 見合い回避して、紫草を納得させるには嫁しかねーだろ!!」
「お嫁さんを探される、ということですの?」
「おう。嫁のフリしてもらうってことも考えたが紫草を騙せるかが問題だな……」
「紫草さん、人三倍鋭いからどうかなあ……」
「……そのお嫁さんは、ハンターさんでもいいんですの?」
「俺様が嫁として連れてきゃ紫草も文句は言わねえと思う。あいつが欲しいのは世継ぎだ。身分とかは二の次だろうさ」
「だったらまあ、何とかなるんじゃない? っていうか心当たりないの? そういう人」
「友達はいるぜ。でもよ……そーいうことになると話は別でな。……色恋は苦手なんだよ。身構えちまう。色仕掛けっつーの? ああいうのも昔っから結構仕掛けられてたからさ」
 ハァ、とため息をつくスメラギに、シェルミアが小首を傾げる。
「もしかして、女の子に触られると悲鳴あげるのはそのせい?」
「まあなあ。別に女嫌いって訳じゃねーんだけどさ。身の振り方誤ると、俺様だけじゃなくて紫草も終わるからよ」
「悲しいですわね……」
 目を伏せる金鹿。
 スメラギは今でも十分に若い。そんな彼が『昔から』色仕掛けを受けていた事実。
 ――狙われるのは命だけではないということだ。
 上の立場にあるということは、そういったものとも戦わなければならないのかもしれない。
「それにしても、そういうの苦手ってちゃんと話しなさいよね! 気にかけてくれる子もいるのに! 黒の夢さん泣いてたじゃん!!」
「そうですわね。お友達であればなおのことお話すべきですわ」
「あー。まあ、そうだな。次の機会があれば……」
「……とにかく分かった。そういうことなら協力するよ」
「そうですわね。真美さんの為ですし。私も出来ることがあれば……」
「金鹿、真美のことになると目の色変わるのな」
「それはもう。大事なひとですから」
「……そうか」
 自信に満ち溢れた笑みを浮かべる金鹿。
 それを眩しそうに見つめるスメラギに、シェルミアはかける言葉が見つからなかったけれど――。
 この少年に、『特別大事に思える誰か』が見つかればいいと思う。

 一方、真美のいる場所からは賑やかな声が聞こえてくる。
「ほら、これ。あげる。きっと着物にも合うよ」
「真美ちゃんもお着替えすればいいです! きっと似合うです!」
 バジルに花冠を乗せられて恥ずかしそうに笑う真美。エステルの勧めに、少女はえっと……と口籠る。
「折角だしドレス着てみたらどうかな。ボク、エスコートするよ?」
「すみません。この後商工会の人とお話もあるので……」
「そっか。じゃあそれが終わってからでもいいよ。僕達でも衣装くらい用意できるし」
 龍堂 神火(ka5693)とバジルのめげなさに目を丸くしてから笑う真美。
 エステルがあっ! と思い出したように声をあげる。
「真美ちゃん、お見合いさんするって本当ですか!?」
「……そう、ですね。立花院様の命が下れば、余程のことがない限りお断りすることは難しいかと思います」
「うーん……。お見合いさん、あんまりよくないと思うです。わたくし、特別な好きが大事だと思います。幸せな人は幸せをお裾分け出来ます」
「あのさ、真美さん。そのことでちょっと話があるんだけどいいかな」
「はい。何でしょう?」
 真剣な面持ちで切りだした神火に、首を傾げる真美。
 彼は少し考えたあと、真っ直ぐに真美を見据える。
「スメラギさんは確かにいい人かもしれない。エステルさんも言ってるけど、結婚は……多分、好きな人とした方がいいんじゃないかな」
 その言葉に、悲しげに微笑む真美。
 ――彼女は、国の為になるのなら。きっと自分のことは後回しにしてしまうのだろう。
 それは美徳であり、同時にとても悲しいことだと思う。
 だから……。
「その。ボクと婚約してくれないかな」
「……!!? 神火さん、何を言ってるんですか……!?」
「色々考えたんだけど。相手がいるなら……その相手が、『詩天を救った士』なら、きっと断る理由になる」
 神火の言葉に目を見開く真美。
 確かに、詩天を救った……一時的にでも憤怒王を名乗った歪虚撃破に貢献したハンターに求婚されたとなれば、紫草を諦めさせるには十分な理由になり得る。
 でも、そうなれば……。
「……婚約したとなれば神火さんの進退にも関わります。ご迷惑がかかるのでは……」
「ボクから言い出してるくらいだよ。別に構わないよ。キミに本当に好きな人が出来るまで、隠れ蓑になれる」
「……少し、考える時間をください。武徳にも相談したいですし……」
「うん。勿論。真美さんの気持ち次第だし。良く考えて」
 こくりと頷く真美。そこにひょっこりと金鹿が戻って来て……様子のおかしい友人達に、小首を傾げる。
「あら。どうされましたの?」
「あの……神火さんに求婚されて……その……」
 真美からぽろりと漏れた言葉に笑顔のままビシっと固まる金鹿。その背から立ち上る炎を見た気がして、神火が後ずさる。
「あらあらあら。まあまあまあ。神火さんそれはどういうことですかしら……?」
「待って、待って金鹿さん! 誤解! 誤解だからボクの話聞いて!?」
 目の前で起きる修羅場。それを見てエステルがかくりと首を傾げる。
「……金鹿さん怒ってるです?」
「えーと。お茶でも飲みながら話した方が良さそうだね」
 はははは……と笑うバジル。お茶を取りに行く為に踵を返した。


 こうして、色々な事情を孕みながらも模擬結婚式は無事に終了した。
 ファッションショーで最優秀賞に輝いたのは、テオバルトと和沙のカップルだった。
 双方共に庶民が手に届くものを意識し、素材も安価なものを選択。装飾も身近にあるものを使い、極力豪華になるよう工夫したことがまず高得点に繋がり、更にショーの最中、テオバルトから本気のプロポーズという微笑ましいサプライズがあり、会場が祝福の空気に包まれ大きく湧いた。
 そして最優秀賞の2人は、式はいつか、予算はどれくらいかとオーガストや各国商人達から声をかけられまくったとか。

担当:猫又ものと
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

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