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【交酒】旭日昇天?瑞雨の模擬挙式?「立食パーティー」リプレイ


▼グランドシナリオ「旭日昇天?瑞雨の模擬挙式?」(6/15?7/15)▼
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作戦3:立食パーティー
- リラ(ka5679)
- 雪都(ka6604)
- トリプルJ(ka6653)
- ノワ(ka3572)
- イレーヌ(ka1372)
- オウカ・レンヴォルト(ka0301)
- 水野 武徳(kz0196)
- ボルディア・コンフラムス(ka0796)
- 神楽(ka2032)
- チューダ(kz0173)
- テルル(kz0218)
- 桜憐りるか(ka3748)
- ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)
- Uisca Amhran(ka0754)
- 星輝 Amhran(ka0724)
- 天央 観智(ka0896)
- ジーナ(ka1643)
- 骸香(ka6223)
- 鞍馬 真(ka5819)
- シガレット=ウナギパイ(ka2884)
- アシェ?ル(ka2983)
- アスワド・ララ(ka4239)
- ディーナ・フェルミ(ka5843)
- チョココ(ka2449)
- グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)
- ユーレン(ka6859)
会場であるモノトーン氏の別荘には、多数の人々が押しかけていた。
広い会場では『模擬挙式&衣装コンテスト』が開催され、ハンターに限らず西方や東方の商人、有力者などが詰めかけている。
会場には立食パーティも催され、並べられた料理に参加者は舌鼓を打っていた。
(西方貴族、エゴロフの家の者として恥ずかしくない立ち振る舞いをしませんと……)
ドレス「スプランドゥール」に身を包んだリラ(ka5679)は、来場者への応対に努めていた。
リラにとって、このパーティが単なる食事の機会ではないと認識していた。東方と西方が交流する場を築くために有力者へのアピールが重要と考えていたのだ。
「ああ、ありがとう」
リラは東方よりやってきた商人に、西方のワインを差し出した。
東方ではあまり口にする事のできない西洋の酒。変わった味わいに商人は驚きを隠せない。
「お茶とは異なる苦味がありますね。これが西方の酒ですか」
「はい。ですが、東方と西方の違いはお酒だけではありません」
そう告げたリラは、大きく息を吸い込んだ。
そして、リラの口から流れるのは歌声。室外でアカペラによる歌唱ではあるが、音程やリズムは東方では聞く事のできない代物だ。
「……これは」
「西方の歌になります。私は西方と東方がもっと交流できるように音楽による交流の催しを提案致します」
リラは、力説する。
東西の交流はお互いの活性化に繋がる。開催となれば、祭り好きのハンターもきっと力を貸してくれるはずだ。商人や有力者が動き出せば、東西交流祭にも負けない音楽祭が開催できるに違いない。
「西方の音楽を東方へ……物資ではないが、これならやる価値はあるかもしれません」
「はい。よろしくお願い致します」
リラは目の前の商人に頭を深々と下げた後、下げた頭を持ち上げる瞬間に次の有力者を捕捉する。
この立食パーティで多くの有力者へ取り入る為に。
言ってみれば、ここはリラにとって――戦場であった。
●
雪都(ka6604)は、一人焦っていた。
パーティと聞いてゴシックスーツ「ロウェル」に袖を通していたのだが、既にロウェルは雪都の汗を吸収している。
何度も会場を歩き回るが、その焦りは募るばかりである。
「いよぉーし、練習だろうが本番だろうが祝い事には変わりねぇ! はち切れるまで飲んで……って、何やってるんだ?」
テキーラをラッパ飲みしながら気合いを入れるトリプルJ(ka6653)。
傍らを過ぎ去る雪都に思わず声をかけるが、聞こえてはおらず過ぎ去っていく。
代わりに、雪都を後ろから追いかけるノワ(ka3572)が答えた。
「なんか、『先生がいない』って言ってます」
「先生? なんだそりゃ?」
テキーラを口の中へ流し込み、手近にあったライムを豪快に絞って飲み干すトリプルJ。
雪都の言う先生がどういう存在かはよく分からないが、何か起こりそうな気配に思わず体が動き出す。
「へぇ、なんか面白そうじゃねぇか。いいぜ、先生って奴を探せばいいんだな?」
「お願い……あ、雪都さん、待ってください!」
ノワとトリプルJが話している隙に、雪都は一人遠くまで走る。
(先生……きっと、心細い思いをされているはずっ! 必ず、俺が参ります。今しばらくの辛抱をっ!)
雪都は、想いを寄せる『先生』を求めて会場を駆けずり回っていた。
●
別会場では模擬結婚式と料理大会が執り行われている。
会場を訪れた人々は、催されるイベントを温かい目で見守りながら『非日常』を楽しんでいる。
「綺麗な衣装、だったな」
覚醒した姿でドレス「スプランドゥール」に身を包んだイレーヌ(ka1372)は、先程目にした光景を思い浮かべていた。
模擬結婚式へ参加したハンター達を彩る衣装達。
所詮は模擬――紛い物ではあるが、二人揃って出場するハンター達の顔は本物の笑顔があった。仮に彼らが結婚式を挙げたとするならば、同じ笑顔を浮かべるのだろう。
イレーヌの呟きに、恋人のオウカ・レンヴォルト(ka0301)はそっと答える。
「……そうだな」
寡黙なオウカの言葉。
その言葉の裏に、様々な想いがある事をイレーヌは知っている。
付き合い出してから多くの思い出を二人で作ってきた。
そんな二人の前で開催された、模擬結婚式――胸に去来する想いをお互い話し出せずにいた。
「豪華な料理だな。見た事もない料理も多いが……」
「おそらく東方の料理だ」
テーブルに並べられた料理を前にしながら、オウカは手にしていたワイングラスをイレーヌへとそっと手渡す。
グラスの中にあったワインが大きな波を作りながら、イレーヌの手の中へ落ちる。
ふと見上げれば、オウカはイレーヌの頬にクリームが付いている事に気付く。
「付いている。さっきのデザートだな」
「……んっ。拭いてくれるのか」
オウカはハンカチでイレーヌの頬を拭う。
ハンカチ越しに伝わるイレーヌの温もり。
お互いを意識するには十分過ぎる距離である。
「そういえば、私達が初めて出会った時……どちらが飲めるのか勝負していたな」
「ああ」
二人の脳裏にあったのは、恋人となるには似付かわしくないシチュエーションであった。
酒を酌み交わし、どちらが勝つかを競い合う。
あの時にはこのような出会いになるとは想像もしていなかった。
「オウカ。私もいずれ、あの美しい衣装を纏う事になるのだな。私達の……」
ふいにイレーヌの口に、そっとオウカの指が指が触れる。
思わずイレーヌは言葉を呑み込んだ。
「そこから先は……いずれ俺から言おう。レンヴォルトの名を捨て、本当の名を取り戻した時に」
覚悟。
すべてを片付け、イレーヌと共に歩む。
その想いを察したイレーヌは、小さく笑みを浮かべる。
「分かった、待とう。
だが、それ程長い時間を待てない。なるべく早く続きを聞かせてくれ」
●
三条家軍師の水野 武徳(kz0196)の元には、多くの人間が集まっていた。
その理由はこの東西交流祭開催に関わった人物の一人でもあるだが、詩天の実務面を担っている人物でもある。先日発生した三条仙秋の一件にも貢献を果たした上、復興にも尽力する忠臣であると西方でも知られている。
「俺はボルディアだ。会うのは初めてだな」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)は、鶏のモモ肉を食している際に見かけた武徳へ声をかけた。
ボルディアにとって武徳は東方の偉い人物であるという認識でしかないが、ハンターとして顔を売っておくのも悪くないと考えたからだ。
「うむ。これはまた屈強なハンターだ。詩天でもそなたのような武人は、なかなかお目にかかれまい」
「お世辞はいい。どうせ他の奴にもそう言っているんだろ?
さっき見てたら何か難しい顔をしてるのが気になってた。こんな席でもマツリゴトって奴を考えてんのか?」
ボルディアは武徳の様子を窺っていた。
立食パーティの席でも一切気を抜かない。常に気を張り続け、周囲に気を配っている。国の政治に興味が無いボルティアにとって、武徳の行動は奇異に見えた。
しかし、ボルディアの質問に武徳の口から笑い声が漏れる。
「わははは、こんな席でも? 違うな。『こんな席だからこそ』だ」
「どういう事だ?」
「良いか。事は会議ですべて決まるのではない。会議へ至るまでにすべてが整い決まっているのだ。このような席で顔を売り、相手を取り込み、物事を決めるものだ」
「へぇ。そういうもんかねぇ」
「そうじゃな。言うなれば、これも『戦』よ。戦は単なる力で決まるのではない。戦の勝利は戦が始まる前にすべて決しておる」
「ああ、それなら分かりやすいな」
武徳の話に耳を傾けながら、テーブルの上にあったオードブルを食べ続けるボルディア。
せっかくのパーティだからこそ、ここで腹一杯食べておこうという魂胆だ。
「やれやれ。本当に分かっておるのか」
「酒の肴に面白い話をしてやるよ。西方にも、あの真美って奴と似たような境遇の奴がいる」
「…………」
「つい数年前までは、周囲の大人に振り回されていたが、最近『王』の自覚に目覚めたらしくてな……まあ、なんだ。ガキってぇのは、大人が思う以上に早く成長すンだよ」
ボルディアは自分が回りくどい言い方をしているのは気付いている。
だが、武徳には言わずにいられなかった。
真美と似た境遇にあった者を知っているからこそ――。
「なあ。お前はアイツの話、ちゃんと耳を傾けているか?」
「ほう」
ボルディアが気付いた瞬間、武徳の顔つきが変わっていた。
別人――先程、笑みを浮かべていた武徳はおらず、そこにいるのは激情を隠す舞剣士がいる。鋭い眼光は、ボルディアへと向けられる。
「ハンターよ。真美様とその者が似た境遇に見えるのかもしれぬが、詩天には詩天の事情がある。真美様は詩天を守るという覚悟を持って、九代目詩天を襲名された。乱れた国を立て直し、幼くして兄妹同然に育った叔父を千石原の乱を乗り越えられて、な。
一国を背負うその覚悟、貴様に分かるか?」
「いいねぇ。俺はやっぱり武人としてのおまえがいい」
射貫かれる視線を前に、ボルディアは体を震わせる。
ボルディアも数多くの修羅場を潜り抜けてきた。やはり戦場とするなら、このような立食パーティよりも剣で斬り合う方が良い。
「力自慢なのかもしれぬが、力だけでは戦に勝てぬ事を……機会あれば教えてやろう」
「……焦らすねぇ。期待して待ってるよ」
「あ。ここにいらっしゃいましたか」
ボルティアと武徳の間に流れる空気に気付かず、神楽(ka2032)。
神楽の登場で武徳は来客者向けの笑顔を再び浮かべる。
「おや、新たなハンターか」
「俺は金に汚いハンターなんで、金さえ貰えれば面倒な仕事も請け負うっす!」
神楽は自分を売り込みに来た様だ。既に別会場で真美とスメラギにも挨拶を終え、金払いの良さそうな武徳の元を訪れたという訳だ。
「ふむ。おそらく仕事ならしばらくした後に出るかもしれぬ。その際はハンターに声をかけるとしよう」
「ありがとうございまっす! 俺は神楽っていいまっす! 金さえもらえれば、何でもしまっす!」
神楽は強く自分を売り込む。
だが、同時に武徳の表情も見逃さない。
あれは何かを考えている証拠。おそらく、詩天で何かをするつもりだ。その際には必ずハンターを計算に入れる。武徳の印象に残れば、神楽に仕事が回る可能性も高まるに違いない。
「そいつを雇って何をするのか……見物だな」
「おや、お嬢さん! そういえば、さっきの模擬結婚式を見たっすか? いやー、新婦は綺麗でしたっすねぇ」
ボルディアの存在に気付いた神楽は、急に声のトーンを変えた。
神楽の中で弾き出された計算。
それは――独身の女が披露宴に参加したら、自分も結婚したくなって彼氏を作ろうと思う筈。つまり、今ならナンパ成功率のインフレ状態。ハーレム目指して神楽は動き出したのだが……。
「ああ? 興味ないこたぁないが、今は花より団子だな」
こんがりと焼き上げられた肉塊を頬張るボルディア。
どうやら神楽の目論見はあっさり崩れ去ったかにみえた。
「ま、まだまだっす。きっと待ってる女子がいるはずっす!」
神楽の挑戦は、今始まったばかりであった。
●
「だから、我輩は王なのでありますっ! 中に入れるであります!」
「王を名乗る怪しい幻獣であっても、正装が必要です。出直していただきます」
会場の入り口では二つの獣が大騒ぎしていた。
自称『幻獣王』チューダ(kz0173)とテルル(kz0218)である。
チューダはパーティがあると聞きつけてはるばるやってきたのだが、ドレスコードを料理の名前と勘違い。いつもの調子でやってきたものの、入り口で門前払いを受けていた。
「これが我輩の正装であります!」
「マントと王冠を付けただけじゃありませんか! ダメです!」
パーティ料理を前に押し問答を繰り返すチューダ。
その傍らでは呆れ顔のテルルが立っている。
「もういいじゃねぇか。俺っちが港でうまいポテトでも食わしてやっからよ。もう諦めろよ」
「いやであります! 我輩、パーティで美味しい物を食べてみんなにチヤホヤされるでありますぅぅぅ?!」
「先生っ! 先生、ここにいらっしゃいましたかっ!」
騒ぐチューダの元へ駆け込んできたのは雪都。
慕うチューダの姿を目撃して猛スピードで現れたのだ。
「ああっ! 雪都! 雪都でありますか! 我輩、中に入れてもらえないであります!」
涙と鼻水塗れの顔で雪都の胸に顔を埋めるチューダ。
時折、入り口にいた給仕に目配せしてアピールを忘れない。
「あ、チューダ様とテルル様!」
雪都の後を追ってやってきたのは、ノワとトリプルJである。
「ああ? なんだ、こいつらは?」
「おい。こいつらってぇのはなんだ? 俺っちはテルルって名前があんだよ。いきなりやる気か、この野郎っ!」
トリプルJの言葉へ早々に反応するテルル。
悪態はついているものの、その外見と高めの声でまったく迫力が無い。
「へぇ?。幻獣の中には面白ぇのがいるじゃねぇか。空瓶と一緒にジャグリングしてやるよ」
「言いやがったなっ! よぉ?し、俺っちの腕っ節を……わっ!」
テルルが喋っている最中、ノワがぎゅっと抱きしめた。
「わーっ、テルル様もすっごいもふもふですね。ささ、ケーキを用意したので是非どうぞ」
テルルに差し出されたノワのケーキ。
しかし、当のテルルはケーキを食べようとしない。
「へっ、甘い物は食べねぇんだよ! チューダの奴にでもくれてやんな! それより、俺っちは忙しいんだよ」
「おうおう、退屈せずに済みそうだ」
テキーラをラッパ飲みしながら、テルルを会場へ引き入れるトリプルJ。
一方、チューダはというと――。
「うっひょーっ! これ全部我輩のケーキでありますぅ?!」
「先生、こちらのクッキーは如何でしょう? ナッツ入りの物を押さえておきました」
「さすがは雪都であります! ささ、我輩のお口に運ぶであります」
雪都のおかげで中に入れたチューダは、大きな口を開いてクッキーを待ち受ける。
正直、馬鹿面であるが、念願の料理とあって大喜びで食している。
そこへノワが再びケーキを持ってくる。
「チューダ様、こちらのケーキはどうでしょう?」
「……あ。そのケーキ、痛んでいるであります。変な匂いがするであります」
「え?」
食い意地張っている割に、ケーキのトッピングに混入された薬品を嗅ぎ分けたようだ。
馬鹿にしても幻獣。異変には敏感のようだ。
「先生、肉はどうでしょう。先程、焼いていただきました」
「雪都、すぐに切り分けて我輩に!」
しばらくは食べるのに夢中なチューダであった。
●
「あの……どうでしょうか……?」
着物「雪花」にロングブーツ「ブルーロビン」を身につけた桜憐りるか(ka3748)。
そのりるかの鼓動は、徐々に早くなっていく。
今日の為に準備した衣装であるが、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)を前に緊張を隠せない。
「ふふ、とても素晴らしいですよ。いつもと違うお召し物で良くお似合いです」
「……ありがとう」
緊張のせいか、りるかはいつも以上に話せない。
本当は、もっともっとヴェルナーの事を知りたい。
ヴェルナーの好みを知って、ヴェルナーの為に頑張って――もっと親しくなりたい。
その想いを胸にやってきたのだが、恥ずかしがり屋のりるかは一歩前に踏み出せない。
「どうしました? いつもより、顔が紅いように見えます」
体を震わせるりるかを察したのか、ヴェルナーは中腰になってそっと肩に手を置いた。
気付けばりるかの顔の前にヴェルナーが間近に迫る。
吐息が、そっとりるかの顔に触れる。
「あの……」
「そういえば、このようにお話する機会はありませんでした。もっとゆっくりお話できる機会があれば良かったのですが……いけませんね。私一人で、喋ってしまっていました」
ヴェルナーは、テーブルにあったオレンジジュースをりるかへ手渡した。
ヴェルナー自身の手には赤ワイン。グラスに入ったワインが大海の荒波のように大きく揺れている。
「あの……もっと、お役に立てる様に……頑張るので……」
意を決してしゃべり出したが、徐々に弱々しくなっていくりるかの声。
『ほめて』の言葉がどうしても出て来ない。
その様子を見ていたヴェルナーは、りるかのグラスに乾杯する。
優しく触れるグラスが、独特の音を奏でる。
「頼りにさせていただきます。ですが、可憐で美しいお嬢さんばかりに戦わせる訳にも参りません。時には、私もあなたを守らせて下さい」
優しい笑みを浮かべるヴェルナー。
きっと想いはヴェルナーに伝わっている。
りるかはそう感じずにはいられなかった。
「これでも私、軍人なんです」
●
「私の部族のご馳走なのです!」
Uisca Amhran(ka0754)は、姉の星輝 Amhran(ka0724)とチューダに雉鍋を振る舞った。
Uiscaより提案された『東方と西方の交流会という事を考えて出身世界や地域にない食べ物を一品は食べるルール』を実行に移す星輝とチューダ。
星輝はともかくチューダはテーブルに並ぶ品々のほとんどを食した事がなかった。
この為、星輝はチューダと共に大半のテーブルを回る事となっていた。
「このスープが美味しいでありますっ! あ、星輝。野菜は良いので、そこの雉を我輩のお皿に入れるであります」
「分かった。……それにしても肩が凝ったのじゃ」
チューダに促されるまま、皿に雉をよそう星輝。
実はチューダをヨイショしつつ、頭に乗せて各テーブルを回ってご機嫌を取っていた星輝。当初はチューダも見た事無い風景に大はしゃぎだったのだが、最近食べまくって増加傾向にある体重が星輝の首へ地味なダメージを与えていた。
「ありがとうであります! 香りがとっても良いであります」
「喜んでいただけて何よりです」
Uiscaの雉鍋は東方にも似た料理はあったようだが、だからこそ西方の鍋として主に東方の民が興味を示したようだ。
『食べた事のない食べ物を食べてお互いが理解し合う切っ掛け』を狙ったUiscaの提案は概ね成功と言えるだろう。
「それでは二人とも。記念撮影と参りましょう」
「……ん? なんだそりゃ」
Uiscaが手にしていた三下魔導カメラに興味を示したのはテルル。
幻獣ではあるが、魔導に興味を持つ変わった幻獣である。
「これは魔導カメラという物です。風景を撮影する事で写真がその場で印刷されて記録されます」
「へぇ?。俺っちは地下の遺跡ばっかりだったから、こういう魔導機械は見た事ねぇなぁ。早速その撮影ってぇのをやってみてくれよ」
テルルに促されるまま、Uiscaは星輝とテルルをファインダーに入れる。
そして、スイッチを押した瞬間魔導カメラから音が鳴る。
「これで終わりか?」
「はい、あとはこの紙を持って待っていれば……あ、出てきました」
紙にうっすらと現れた画像。
そこには雉鍋を取り皿によそう星輝と、チューダ秘蔵のツマミとして持ち込まれた少量のおばけクルミを持つチューダが移っていた。
「こりゃ、面白ぇな。どうなっているんだ? ちょっと分解してみてもいいか?」
「さすがに分解はちょっと……」
テルルが興味を示してくれたまではよかったが、分解を言い出されて困るUisca。
一方、撮影された画像を見て騒ぎ出すチューダ。
「我輩、こんなにブサイクじゃないでありますっ! もっと八頭身でスラッとしていて、王の威厳に溢れたイケメンであります!」
「チューダ、こっちにナッツのケーキがあるのじゃ」
「わーい。それも食べるであります。星輝、早う我輩にケーキを!」
むくれていたチューダは、星輝へケーキを差し出された途端に機嫌を回復する。
テルルと異なり、チューダは単純な性格のようだ。
●
会場に入り込んだ二匹の幻獣。
どうやら参加者の注目を集めてしまう傾向にあるようだ。
「なるほど。古代文明の遺物と思われる……魔導アーマーですか。駆動系は……帝国の魔導アーマーと異なるのですか?」
「前にちょっと見せてもらったが、大きくは変わらねぇ。材質の特性を生かす方向で設計されてるからな」
テルルと技術系談義に花を咲かせるのは天央 観智(ka0896)。
東西各地の料理やソフトドリンクを堪能していた観智。
変わった料理を満喫して文化の違いを意識していた最中、視界に入ってきたのは飯を食い続けるチューダと傍らにいるテルル。噂ではテルルは魔導に興味を持つ幻獣だという。 科学者気質のある観智にとって、テルルとの意見交流は行っておきたいところだ。
「そうですか。是非、一度その……魔導アーマーを拝見したいですね」
「ああ。ドワーフの工房に来ればいつでも見られるぜ。俺っちのカマキリはまだ謎の部分もあるんだ。是非考察を聞かせてもらいてぇな」
「テルル、聞きたい事がある」
テルルの元を訪れたのは、ジーナ(ka1643)。
ゴシックスーツ「オトラント」を着用して、少々大人の雰囲気を漂わせている。
「お、ジーナじゃねぇか」
「ヴェルナーの指示で遺跡探索を進めていると聞いたが、その後の進捗はどうだ?」
ジーナの言っている遺跡探索とは、辺境の地下で発見される遺跡群の事を指している。
テルルの騎乗する魔導アーマー『カマキリ』も、その遺跡で発見された代物だ。歪虚も暗躍している事からジーナも気になっていたのだ。
「あー。遺跡は発見できるが、相変わらずパーツばっかりだな。ドワーフの方もそのパーツを使って武器を生産しているみてぇだが、遺跡の謎はまだまだだな」
「そうか」
「遺跡? 古代文明の遺跡ですか? それは実に興味を惹かれます」
遺跡の話を聞いて観智が一歩前へ出る。
失われた文明の持っていた魔導アーマー。話を聞く限り、かなり進んだ文明を保持していたはずだ。それが何らかの理由で滅んでしまった。
科学だけではなく、何故か浪漫を感じてしまう。
「あ。そういや、バタルトゥって奴が言ってたな。この間、例の歪虚と地下で遭遇したって。連中、地図を持って何か探しているらしいな」
「歪虚も地下で何かを……これは無視できませんね。古代文明の兵器を悪用しようとしているのかもしれません」
観智の脳裏に様々な可能性が浮かんでは消える。
はっきりしている事は、歪虚が何かを企んでいるということだ。
「困ったら、いつでも呼んでくれ。同胞の地で好き勝手はさせない」
ジーナは、静かに闘志を燃やしながらそう言い放った。
●
「結婚なぁ……まあ、したい子がいるんならじゃない?」
骸香(ka6223)は、鞍馬 真(ka5819)の傍らでそう呟いた。
模擬結婚式に参加したハンター達の姿を思い浮かべながら、自分には少々背伸びしなければ無理だと実感していた。
「まあ、うちはこういうのは似合わないから良いか」
「……ん? 骸香、何か言ったか?」
鞍馬が骸香へ振り返る。
骸香は心の中で呟いていたつもりだったが、知らないうちに言葉となって口から漏れ出ていたようだ。
「い、いや。何でも無い。東西の料理が一堂に会したパーティなんて珍しいよね」
「ああ。ハンターだけじゃない。多くの人が尽力したからこそ、このパーティがある。そうでなければ、このパーティは開催できなかっただろう」
鞍馬は、思い返す。
詩天で歪虚と戦った事を。あの戦いで勝利しなければ、今回のようなパーティは想定される事すら無かっただろう。
「ああ。初代詩天に勝てなかったと思うとゾッとするなァ」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)が、御猪口に注がれた清酒を手にやってきた。
東方の料理を満喫していたシガレットだったが、鞍馬同様に詩天での戦いを振り返って見たくなったのだ。
「多くのハンターが詩天の為に力を尽くした。まだ東方にいる歪虚を倒せた訳ではないが……」
「まぁな。それでも真美を護る楯になったりもしたが……こうして酒の肴をツマミながら思い出話ができるとは、感慨深いぜェ」
鞍馬もシガレットも骸香も、詩天で何度も戦っている。
特に鞍馬とシガレットは初代詩天との決戦に関与。あの戦いで勝利を収められた事は、詩天にとって大きな功績であった。
「ほう。詩天の窮地を作った者達か」
ハンター達の姿を見かけて、武徳が歩み寄ってきた。
鞍馬は一歩下がって会釈する。
「武徳殿。詩天での開いていただいた酒宴以来です」
「おお。あの時は世話になったな。
それから、その傍らにいるハンターも真美様を護ってくれたそうじゃな。真美様から聞いておりますぞ。感謝致す」
「あ? いやァ、まあ……ハンターとして当たり前のっつーか……」
柄にもなく照れるシガレット。
褒められなれていない為、セリフがうまく出て来ない。
そんな三人のやり取りを見ながら、骸香はそっと三人から離れる。
「今は……一緒にいられたらイイか」
骸香は、鞍馬の姿を見て微笑ましく感じた。
●
「初めまして。こちらはチューダ様です」
チューダを抱えて武徳の前に現れたのは、アシェ?ル(ka2983)。
初めて見るチューダに武徳は驚きを隠せない。
思わず視線を変えて何度も覗き込む。
「何と面妖な豚だ。このようなものが西方におるのか?」
「豚ではないであります! 我輩は幻獣王でありますぞ!」
「おおっ、喋った!?」
豚扱いされて怒るチューダを前に、武徳は一歩身を引いた。
そこへヴェルナーが情報を補足する。
「ああ、失礼。大幻獣と呼ばれる存在は喋る事ができるのです」
「左様でござったか。東方にも歪虚ではない面妖な生物はおりますが、このように太った物はござらん」
「……ああ、太っているのはこのチューダだけです」
チューダも酷い言われ様だが、太っているのは事実だから仕方ない。
そんな最中、武徳とヴェルナーに対してアシェールが一つ提案を持ってきた。
「東西交流の美味しい物が増えたら、皆、嬉しいと思います。でも距離がとってもあって大変です。そこでホープに中継都市として再開発できないでしょうか?」
現状交易は陸路か海路のみ。
転移門は覚醒者で無いものが使えば三日と動けなくなる。交易には使えない代物だ。長距離輸送が必要となるだけに、中継都市があった方が便利だ。そこでアシェールはCAM実験場跡のホープを中継都市として利用するよう提案したのだ。辺境の海岸線に沿って海路を利用する事も可能だ。
「ホープの復興にもなりますし、良い案と思いますよね……チューダ様?」
「なんだか良く分からないけど、良いのであります!」
事情を理解せずに賛成するチューダ。
一方、武徳はヴェルナーへ問いかける。
「ヴェルナー殿。ホープとは何でござるか?」
「かつて魔導エンジンの稼働実験をしていた場所です。今は大きな空き地で物資輸送にホープ近くに都市が建設されていますが、ホープそのものを都市化ですか……」
「あの巨大な鉄人形の実験場となれば、相応に大きな場所でござるな。それを中継都市とするなら、かなりの費用と時間がかかるのでは?」
「そうなります。私としては良い案ではありますが、交易路がどうなるか次第でしょうか。着工しながら様子を見たいところです」
ヴェルナーが懸念しているのは交易路が未だに確定していない点だ。
もし、ホープに大きな都市を建設しても内陸部で大きな交易をが構築されれば、ホープに投資した資金も無駄になる。少しずつ開発して拡張していきたいというのがヴェルナーの意見のようだ。
「そうですか。でも、検討していただけるだけでも感謝です」
アシェールはチューダと共に頭を下げた。
●
「ヴェルナーさん、宿舎の件ですが提案があります」
アスワド・ララ(ka4239)は、ヴェルナーに話を持ちかける。
先日、武徳を交えて話し合いを行ったヴェルナーは、東方から来訪する者に向けた宿舎をノアーラ・クンタウへ設置する事を約束した。
この会に参加していたアスワドは商売の匂いを感じ取って行動を開始。
パーティ内で東方の商人を捕まえて率先して情報交流。東方への交易を聞き出しながら、東方商人にノアーラ・クンタウ経由での交易を推奨していた。ノアーラ・クンタウは帝国の防衛拠点ではあるが、往来は比較的多い。歪虚の存在もあるが、辺境の部族会議も目を光らせている事からルートによっては安全に通行できる可能性も高い。
「ふふ、早速ですか。熱意ある商人は歓迎ですよ」
「僕は設立予定の宿舎をもっと良い物にできないかと考えました。せっかくの宿舎です。質実剛健の宿よりも各国の文化様式を取り入れて宿泊そのものを楽しめるようにしては如何でしょうか」
アスワドの提案は内装や寝具にも拘って、武徳でさえも来訪したくなる宿舎を建設しようというのだ。
見方によっては東方の者が西方へ更なる興味を抱く。それは新たなる商売の機会へと繋がっていく。
「なるほど。宿舎をもう一つ特色を持たせるのですね。確かに一考の価値はあります」
「幸い、この会場には宿舎にも導入できそうなヒントが沢山あります。吟味してみては如何でしょうか」
「実に商人らしい発想です。あなたの提案は実に正しい。
ですが、私はもう一歩踏み込んだ事も考えているのです」
ヴェルナーはアスワドへ向き直る。
しばしの沈黙の後、アスワドはヴェルナーへ問いかけた。
「それは……どのようなものでしょうか?」
「宿舎はいくらサービスを向上しても宿舎です。大切なのはその宿舎を拠点とした次の段階です。この宿舎を利用するのは商人ばかりではありません。東方の未来を担う若者も使節団として訪れます。
彼らは西方諸国を学ぶ為にやってくるのです」
「分かりました。西方を学ぶ機会の拡充ですか」
アスワドもすぐに気付いた。
宿舎は商人の宿というよりも東方から西方を学ぶ為にやってくる使節団向けだ。
宿舎を使う事で西方への興味を強める事は正解だが、大切なのはその先。若者が西方を学ぶ環境である。王国や帝国、同盟などの地域で若者は様々な文化に触れる。
ヴェルナーはこの支援を行う事で、東方の結びつきを強めたいのだ。
だが、アスワドにも引っかかる事がある。
「ヴェルナーさん。それはあくまでも東西交流の為『だけ』ですよね?」
アスワドは敢えてツッコんだ。
しかし、ヴェルナーはその問いを誤魔化すように笑みを浮かべる。
「……当然です。勘ぐりすぎですよ、アスワドさん」
●
「我が人生に悔い無しっ! 前のめりに倒れる為にもっ……これを食べきらなきゃなの……」
ディーナ・フェルミ(ka5843)は、果敢なる挑戦を続けていた。
全ブレート制覇――それはテーブルに並べられた料理を一口ずつでも食べていこうという試みだ。
だが、東西交流祭は東方と西方の交易促進の一面もある。
この為、かなりの料理がテーブルの上に並べられている。すべてを食べきるというのは胃袋の耐久レースであった。
しかし、ディーナは自分でも認める大食漢。ここで負ける訳にはいかない。
「何度触れても、もふもふですのー」
「チョココ、ダメであります! お腹をぎゅっとしたら食べ物が出てくるであります……」
ディーナの傍らで、チョココ(ka2449)はチューダに抱きついた。
しかし、チューダは欲張って勝利を食べまくった結果、既に胃袋は限界。地面に横たわってダウンしている。
「まったく、馬鹿みてぇに食いまくるからだ。あ、チューダは馬鹿だったか」
「テルル……酷いであります……」
呆れかえるテルル。パーティが終わればチューダを連れて帰らなければならないのだ。テルルの苦労も伺いしれる。
「ハムさんはそこで寝ててね……あれ? テーブルに届かない」
チョココも食事をしようと前に行ってみた。
だが、背の低いチョココには高すぎて料理を食べ辛そうだ。
それを見かねてテルルが何処かから台を持ってきた。
「ほらよ。本当はチューダの為に作ってた奴だが、好きに使え」
「ありがとう、テルル様」
踏み台に乗ったチョココは、猛烈な勢いで勝利を平らげていく。
ディーナにとっては思わぬ来訪者である。
(……この勢い、早く食べないと全プレート制覇は阻止されるかも)
ディーナは己を奮い立たせ、目の前の料理へ挑み続ける。
「おお。チューダ様とテルル様……二人揃うと最強だな」
会場でケーキを作って製菓欲を満たしていたグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)。
わざわざコンテストには出場せず、スキレットでパンケーキを焼いたりデコレーションケーキを作ってパーティの料理に華を添えたグリムバルド。一仕事終えてパーティに参加したところで、チューダとテルルに遭遇した。
キュートな外見である幻獣達を前に、思わずグルムバルドは膝を折った。
「チューダ様の横たわる姿も素晴らしいが、テルル様の立ち姿も素晴らしい」
「何言ってやがるんだ。俺っちは単に立っているだけだ。気持ち悪いな」
苛立ちを隠せないテルル。
だが、外見の可愛らしさから棘がまったく存在しない。
「テルル様もお元気そうで何より。ところで、俺も魔導アーマー乗りなんです」
「何? そうなのか? そういう事は早く言えよ。聞いてみてぇんだが、帝国の魔導エンジンの癖が知りてぇんだ。特に燃費とエネルギー供給なんだがよ……」
グリムバルドが魔導アーマー乗りと知って、急に上機嫌になるテルル。
グルムバルド自身も魔導アーマーを乗る者として興味がない話でもない。話を聞くフリして可愛さを堪能するつもりだ。
そんな中――ダウンするチューダの傍らに現れる一人の影。
「おーおー、めんこいのぅ。めんこくて旨そうなネズミだのう」
「へ?」
横たわるチューダを持ち上げたユーレン(ka6859)は、そのまま口を開けてチューダを食べようとする。
どうやらユーレンは先程大量の酒を飲んでいる為、酔いが回っているようだ。
「ぎゃー! 我輩、食べられるでありますっ! 誰か、助けてっ!」
「ハムさんを食べちゃダメですの!」
慌ててユーレンの手からチューダを奪い返すチョココ。
ユーレン自身、何が起こっているのか分かっていないようだ。
「お酒の飲み過ぎはダメですわ。そんな人のお酒はお水にしちゃいますわよ?」
ユーレンを叱るチョココであったが、当のユーレンは首を捻っている。
「言われてみれば、普段は皮を剥いでよく洗い、焼いてからでないと口にせぬなぁ。しかし、これだけはこのまま丸呑みしても構わんのではないかと思う程、キラキラ輝いておってなぁ」
チューダに視線を向けるユーレン。
その視線に恐怖を感じたチューダは、チョココにしがみつく。
「怖いっ! 怖いであります!」
恐怖に震えるチューダ。
その様子を見たユーレンは、唐突にポンと自らの手を打った。
「なるほど、これが酔うということか。今まで一度も酔うた事などなかったのでな、ついぞ気付かんかった。はははは」
笑い飛ばすユーレン。
樽レベルで酒を飲んだ結果の暴挙だったようだ。
騒ぎに包まれながら、パーティはまだまだ続いて行く――。
広い会場では『模擬挙式&衣装コンテスト』が開催され、ハンターに限らず西方や東方の商人、有力者などが詰めかけている。
会場には立食パーティも催され、並べられた料理に参加者は舌鼓を打っていた。
(西方貴族、エゴロフの家の者として恥ずかしくない立ち振る舞いをしませんと……)
ドレス「スプランドゥール」に身を包んだリラ(ka5679)は、来場者への応対に努めていた。
リラにとって、このパーティが単なる食事の機会ではないと認識していた。東方と西方が交流する場を築くために有力者へのアピールが重要と考えていたのだ。
「ああ、ありがとう」
リラは東方よりやってきた商人に、西方のワインを差し出した。
東方ではあまり口にする事のできない西洋の酒。変わった味わいに商人は驚きを隠せない。
「お茶とは異なる苦味がありますね。これが西方の酒ですか」
「はい。ですが、東方と西方の違いはお酒だけではありません」
そう告げたリラは、大きく息を吸い込んだ。
そして、リラの口から流れるのは歌声。室外でアカペラによる歌唱ではあるが、音程やリズムは東方では聞く事のできない代物だ。
「……これは」
「西方の歌になります。私は西方と東方がもっと交流できるように音楽による交流の催しを提案致します」
リラは、力説する。
東西の交流はお互いの活性化に繋がる。開催となれば、祭り好きのハンターもきっと力を貸してくれるはずだ。商人や有力者が動き出せば、東西交流祭にも負けない音楽祭が開催できるに違いない。
「西方の音楽を東方へ……物資ではないが、これならやる価値はあるかもしれません」
「はい。よろしくお願い致します」
リラは目の前の商人に頭を深々と下げた後、下げた頭を持ち上げる瞬間に次の有力者を捕捉する。
この立食パーティで多くの有力者へ取り入る為に。
言ってみれば、ここはリラにとって――戦場であった。
●
雪都(ka6604)は、一人焦っていた。
パーティと聞いてゴシックスーツ「ロウェル」に袖を通していたのだが、既にロウェルは雪都の汗を吸収している。
何度も会場を歩き回るが、その焦りは募るばかりである。
「いよぉーし、練習だろうが本番だろうが祝い事には変わりねぇ! はち切れるまで飲んで……って、何やってるんだ?」
テキーラをラッパ飲みしながら気合いを入れるトリプルJ(ka6653)。
傍らを過ぎ去る雪都に思わず声をかけるが、聞こえてはおらず過ぎ去っていく。
代わりに、雪都を後ろから追いかけるノワ(ka3572)が答えた。
「なんか、『先生がいない』って言ってます」
「先生? なんだそりゃ?」
テキーラを口の中へ流し込み、手近にあったライムを豪快に絞って飲み干すトリプルJ。
雪都の言う先生がどういう存在かはよく分からないが、何か起こりそうな気配に思わず体が動き出す。
「へぇ、なんか面白そうじゃねぇか。いいぜ、先生って奴を探せばいいんだな?」
「お願い……あ、雪都さん、待ってください!」
ノワとトリプルJが話している隙に、雪都は一人遠くまで走る。
(先生……きっと、心細い思いをされているはずっ! 必ず、俺が参ります。今しばらくの辛抱をっ!)
雪都は、想いを寄せる『先生』を求めて会場を駆けずり回っていた。
●
別会場では模擬結婚式と料理大会が執り行われている。
会場を訪れた人々は、催されるイベントを温かい目で見守りながら『非日常』を楽しんでいる。
「綺麗な衣装、だったな」
覚醒した姿でドレス「スプランドゥール」に身を包んだイレーヌ(ka1372)は、先程目にした光景を思い浮かべていた。
模擬結婚式へ参加したハンター達を彩る衣装達。
所詮は模擬――紛い物ではあるが、二人揃って出場するハンター達の顔は本物の笑顔があった。仮に彼らが結婚式を挙げたとするならば、同じ笑顔を浮かべるのだろう。
イレーヌの呟きに、恋人のオウカ・レンヴォルト(ka0301)はそっと答える。
「……そうだな」
寡黙なオウカの言葉。
その言葉の裏に、様々な想いがある事をイレーヌは知っている。
付き合い出してから多くの思い出を二人で作ってきた。
そんな二人の前で開催された、模擬結婚式――胸に去来する想いをお互い話し出せずにいた。
「豪華な料理だな。見た事もない料理も多いが……」
「おそらく東方の料理だ」
テーブルに並べられた料理を前にしながら、オウカは手にしていたワイングラスをイレーヌへとそっと手渡す。
グラスの中にあったワインが大きな波を作りながら、イレーヌの手の中へ落ちる。
ふと見上げれば、オウカはイレーヌの頬にクリームが付いている事に気付く。
「付いている。さっきのデザートだな」
「……んっ。拭いてくれるのか」
オウカはハンカチでイレーヌの頬を拭う。
ハンカチ越しに伝わるイレーヌの温もり。
お互いを意識するには十分過ぎる距離である。
「そういえば、私達が初めて出会った時……どちらが飲めるのか勝負していたな」
「ああ」
二人の脳裏にあったのは、恋人となるには似付かわしくないシチュエーションであった。
酒を酌み交わし、どちらが勝つかを競い合う。
あの時にはこのような出会いになるとは想像もしていなかった。
「オウカ。私もいずれ、あの美しい衣装を纏う事になるのだな。私達の……」
ふいにイレーヌの口に、そっとオウカの指が指が触れる。
思わずイレーヌは言葉を呑み込んだ。
「そこから先は……いずれ俺から言おう。レンヴォルトの名を捨て、本当の名を取り戻した時に」
覚悟。
すべてを片付け、イレーヌと共に歩む。
その想いを察したイレーヌは、小さく笑みを浮かべる。
「分かった、待とう。
だが、それ程長い時間を待てない。なるべく早く続きを聞かせてくれ」
●
三条家軍師の水野 武徳(kz0196)の元には、多くの人間が集まっていた。
その理由はこの東西交流祭開催に関わった人物の一人でもあるだが、詩天の実務面を担っている人物でもある。先日発生した三条仙秋の一件にも貢献を果たした上、復興にも尽力する忠臣であると西方でも知られている。
「俺はボルディアだ。会うのは初めてだな」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)は、鶏のモモ肉を食している際に見かけた武徳へ声をかけた。
ボルディアにとって武徳は東方の偉い人物であるという認識でしかないが、ハンターとして顔を売っておくのも悪くないと考えたからだ。
「うむ。これはまた屈強なハンターだ。詩天でもそなたのような武人は、なかなかお目にかかれまい」
「お世辞はいい。どうせ他の奴にもそう言っているんだろ?
さっき見てたら何か難しい顔をしてるのが気になってた。こんな席でもマツリゴトって奴を考えてんのか?」
ボルディアは武徳の様子を窺っていた。
立食パーティの席でも一切気を抜かない。常に気を張り続け、周囲に気を配っている。国の政治に興味が無いボルティアにとって、武徳の行動は奇異に見えた。
しかし、ボルディアの質問に武徳の口から笑い声が漏れる。
「わははは、こんな席でも? 違うな。『こんな席だからこそ』だ」
「どういう事だ?」
「良いか。事は会議ですべて決まるのではない。会議へ至るまでにすべてが整い決まっているのだ。このような席で顔を売り、相手を取り込み、物事を決めるものだ」
「へぇ。そういうもんかねぇ」
「そうじゃな。言うなれば、これも『戦』よ。戦は単なる力で決まるのではない。戦の勝利は戦が始まる前にすべて決しておる」
「ああ、それなら分かりやすいな」
武徳の話に耳を傾けながら、テーブルの上にあったオードブルを食べ続けるボルディア。
せっかくのパーティだからこそ、ここで腹一杯食べておこうという魂胆だ。
「やれやれ。本当に分かっておるのか」
「酒の肴に面白い話をしてやるよ。西方にも、あの真美って奴と似たような境遇の奴がいる」
「…………」
「つい数年前までは、周囲の大人に振り回されていたが、最近『王』の自覚に目覚めたらしくてな……まあ、なんだ。ガキってぇのは、大人が思う以上に早く成長すンだよ」
ボルディアは自分が回りくどい言い方をしているのは気付いている。
だが、武徳には言わずにいられなかった。
真美と似た境遇にあった者を知っているからこそ――。
「なあ。お前はアイツの話、ちゃんと耳を傾けているか?」
「ほう」
ボルディアが気付いた瞬間、武徳の顔つきが変わっていた。
別人――先程、笑みを浮かべていた武徳はおらず、そこにいるのは激情を隠す舞剣士がいる。鋭い眼光は、ボルディアへと向けられる。
「ハンターよ。真美様とその者が似た境遇に見えるのかもしれぬが、詩天には詩天の事情がある。真美様は詩天を守るという覚悟を持って、九代目詩天を襲名された。乱れた国を立て直し、幼くして兄妹同然に育った叔父を千石原の乱を乗り越えられて、な。
一国を背負うその覚悟、貴様に分かるか?」
「いいねぇ。俺はやっぱり武人としてのおまえがいい」
射貫かれる視線を前に、ボルディアは体を震わせる。
ボルディアも数多くの修羅場を潜り抜けてきた。やはり戦場とするなら、このような立食パーティよりも剣で斬り合う方が良い。
「力自慢なのかもしれぬが、力だけでは戦に勝てぬ事を……機会あれば教えてやろう」
「……焦らすねぇ。期待して待ってるよ」
「あ。ここにいらっしゃいましたか」
ボルティアと武徳の間に流れる空気に気付かず、神楽(ka2032)。
神楽の登場で武徳は来客者向けの笑顔を再び浮かべる。
「おや、新たなハンターか」
「俺は金に汚いハンターなんで、金さえ貰えれば面倒な仕事も請け負うっす!」
神楽は自分を売り込みに来た様だ。既に別会場で真美とスメラギにも挨拶を終え、金払いの良さそうな武徳の元を訪れたという訳だ。
「ふむ。おそらく仕事ならしばらくした後に出るかもしれぬ。その際はハンターに声をかけるとしよう」
「ありがとうございまっす! 俺は神楽っていいまっす! 金さえもらえれば、何でもしまっす!」
神楽は強く自分を売り込む。
だが、同時に武徳の表情も見逃さない。
あれは何かを考えている証拠。おそらく、詩天で何かをするつもりだ。その際には必ずハンターを計算に入れる。武徳の印象に残れば、神楽に仕事が回る可能性も高まるに違いない。
「そいつを雇って何をするのか……見物だな」
「おや、お嬢さん! そういえば、さっきの模擬結婚式を見たっすか? いやー、新婦は綺麗でしたっすねぇ」
ボルディアの存在に気付いた神楽は、急に声のトーンを変えた。
神楽の中で弾き出された計算。
それは――独身の女が披露宴に参加したら、自分も結婚したくなって彼氏を作ろうと思う筈。つまり、今ならナンパ成功率のインフレ状態。ハーレム目指して神楽は動き出したのだが……。
「ああ? 興味ないこたぁないが、今は花より団子だな」
こんがりと焼き上げられた肉塊を頬張るボルディア。
どうやら神楽の目論見はあっさり崩れ去ったかにみえた。
「ま、まだまだっす。きっと待ってる女子がいるはずっす!」
神楽の挑戦は、今始まったばかりであった。
●
「だから、我輩は王なのでありますっ! 中に入れるであります!」
「王を名乗る怪しい幻獣であっても、正装が必要です。出直していただきます」
会場の入り口では二つの獣が大騒ぎしていた。
自称『幻獣王』チューダ(kz0173)とテルル(kz0218)である。
チューダはパーティがあると聞きつけてはるばるやってきたのだが、ドレスコードを料理の名前と勘違い。いつもの調子でやってきたものの、入り口で門前払いを受けていた。
「これが我輩の正装であります!」
「マントと王冠を付けただけじゃありませんか! ダメです!」
パーティ料理を前に押し問答を繰り返すチューダ。
その傍らでは呆れ顔のテルルが立っている。
「もういいじゃねぇか。俺っちが港でうまいポテトでも食わしてやっからよ。もう諦めろよ」
「いやであります! 我輩、パーティで美味しい物を食べてみんなにチヤホヤされるでありますぅぅぅ?!」
「先生っ! 先生、ここにいらっしゃいましたかっ!」
騒ぐチューダの元へ駆け込んできたのは雪都。
慕うチューダの姿を目撃して猛スピードで現れたのだ。
「ああっ! 雪都! 雪都でありますか! 我輩、中に入れてもらえないであります!」
涙と鼻水塗れの顔で雪都の胸に顔を埋めるチューダ。
時折、入り口にいた給仕に目配せしてアピールを忘れない。
「あ、チューダ様とテルル様!」
雪都の後を追ってやってきたのは、ノワとトリプルJである。
「ああ? なんだ、こいつらは?」
「おい。こいつらってぇのはなんだ? 俺っちはテルルって名前があんだよ。いきなりやる気か、この野郎っ!」
トリプルJの言葉へ早々に反応するテルル。
悪態はついているものの、その外見と高めの声でまったく迫力が無い。
「へぇ?。幻獣の中には面白ぇのがいるじゃねぇか。空瓶と一緒にジャグリングしてやるよ」
「言いやがったなっ! よぉ?し、俺っちの腕っ節を……わっ!」
テルルが喋っている最中、ノワがぎゅっと抱きしめた。
「わーっ、テルル様もすっごいもふもふですね。ささ、ケーキを用意したので是非どうぞ」
テルルに差し出されたノワのケーキ。
しかし、当のテルルはケーキを食べようとしない。
「へっ、甘い物は食べねぇんだよ! チューダの奴にでもくれてやんな! それより、俺っちは忙しいんだよ」
「おうおう、退屈せずに済みそうだ」
テキーラをラッパ飲みしながら、テルルを会場へ引き入れるトリプルJ。
一方、チューダはというと――。
「うっひょーっ! これ全部我輩のケーキでありますぅ?!」
「先生、こちらのクッキーは如何でしょう? ナッツ入りの物を押さえておきました」
「さすがは雪都であります! ささ、我輩のお口に運ぶであります」
雪都のおかげで中に入れたチューダは、大きな口を開いてクッキーを待ち受ける。
正直、馬鹿面であるが、念願の料理とあって大喜びで食している。
そこへノワが再びケーキを持ってくる。
「チューダ様、こちらのケーキはどうでしょう?」
「……あ。そのケーキ、痛んでいるであります。変な匂いがするであります」
「え?」
食い意地張っている割に、ケーキのトッピングに混入された薬品を嗅ぎ分けたようだ。
馬鹿にしても幻獣。異変には敏感のようだ。
「先生、肉はどうでしょう。先程、焼いていただきました」
「雪都、すぐに切り分けて我輩に!」
しばらくは食べるのに夢中なチューダであった。
●
「あの……どうでしょうか……?」
着物「雪花」にロングブーツ「ブルーロビン」を身につけた桜憐りるか(ka3748)。
そのりるかの鼓動は、徐々に早くなっていく。
今日の為に準備した衣装であるが、ヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)を前に緊張を隠せない。
「ふふ、とても素晴らしいですよ。いつもと違うお召し物で良くお似合いです」
「……ありがとう」
緊張のせいか、りるかはいつも以上に話せない。
本当は、もっともっとヴェルナーの事を知りたい。
ヴェルナーの好みを知って、ヴェルナーの為に頑張って――もっと親しくなりたい。
その想いを胸にやってきたのだが、恥ずかしがり屋のりるかは一歩前に踏み出せない。
「どうしました? いつもより、顔が紅いように見えます」
体を震わせるりるかを察したのか、ヴェルナーは中腰になってそっと肩に手を置いた。
気付けばりるかの顔の前にヴェルナーが間近に迫る。
吐息が、そっとりるかの顔に触れる。
「あの……」
「そういえば、このようにお話する機会はありませんでした。もっとゆっくりお話できる機会があれば良かったのですが……いけませんね。私一人で、喋ってしまっていました」
ヴェルナーは、テーブルにあったオレンジジュースをりるかへ手渡した。
ヴェルナー自身の手には赤ワイン。グラスに入ったワインが大海の荒波のように大きく揺れている。
「あの……もっと、お役に立てる様に……頑張るので……」
意を決してしゃべり出したが、徐々に弱々しくなっていくりるかの声。
『ほめて』の言葉がどうしても出て来ない。
その様子を見ていたヴェルナーは、りるかのグラスに乾杯する。
優しく触れるグラスが、独特の音を奏でる。
「頼りにさせていただきます。ですが、可憐で美しいお嬢さんばかりに戦わせる訳にも参りません。時には、私もあなたを守らせて下さい」
優しい笑みを浮かべるヴェルナー。
きっと想いはヴェルナーに伝わっている。
りるかはそう感じずにはいられなかった。
「これでも私、軍人なんです」
●
「私の部族のご馳走なのです!」
Uisca Amhran(ka0754)は、姉の星輝 Amhran(ka0724)とチューダに雉鍋を振る舞った。
Uiscaより提案された『東方と西方の交流会という事を考えて出身世界や地域にない食べ物を一品は食べるルール』を実行に移す星輝とチューダ。
星輝はともかくチューダはテーブルに並ぶ品々のほとんどを食した事がなかった。
この為、星輝はチューダと共に大半のテーブルを回る事となっていた。
「このスープが美味しいでありますっ! あ、星輝。野菜は良いので、そこの雉を我輩のお皿に入れるであります」
「分かった。……それにしても肩が凝ったのじゃ」
チューダに促されるまま、皿に雉をよそう星輝。
実はチューダをヨイショしつつ、頭に乗せて各テーブルを回ってご機嫌を取っていた星輝。当初はチューダも見た事無い風景に大はしゃぎだったのだが、最近食べまくって増加傾向にある体重が星輝の首へ地味なダメージを与えていた。
「ありがとうであります! 香りがとっても良いであります」
「喜んでいただけて何よりです」
Uiscaの雉鍋は東方にも似た料理はあったようだが、だからこそ西方の鍋として主に東方の民が興味を示したようだ。
『食べた事のない食べ物を食べてお互いが理解し合う切っ掛け』を狙ったUiscaの提案は概ね成功と言えるだろう。
「それでは二人とも。記念撮影と参りましょう」
「……ん? なんだそりゃ」
Uiscaが手にしていた三下魔導カメラに興味を示したのはテルル。
幻獣ではあるが、魔導に興味を持つ変わった幻獣である。
「これは魔導カメラという物です。風景を撮影する事で写真がその場で印刷されて記録されます」
「へぇ?。俺っちは地下の遺跡ばっかりだったから、こういう魔導機械は見た事ねぇなぁ。早速その撮影ってぇのをやってみてくれよ」
テルルに促されるまま、Uiscaは星輝とテルルをファインダーに入れる。
そして、スイッチを押した瞬間魔導カメラから音が鳴る。
「これで終わりか?」
「はい、あとはこの紙を持って待っていれば……あ、出てきました」
紙にうっすらと現れた画像。
そこには雉鍋を取り皿によそう星輝と、チューダ秘蔵のツマミとして持ち込まれた少量のおばけクルミを持つチューダが移っていた。
「こりゃ、面白ぇな。どうなっているんだ? ちょっと分解してみてもいいか?」
「さすがに分解はちょっと……」
テルルが興味を示してくれたまではよかったが、分解を言い出されて困るUisca。
一方、撮影された画像を見て騒ぎ出すチューダ。
「我輩、こんなにブサイクじゃないでありますっ! もっと八頭身でスラッとしていて、王の威厳に溢れたイケメンであります!」
「チューダ、こっちにナッツのケーキがあるのじゃ」
「わーい。それも食べるであります。星輝、早う我輩にケーキを!」
むくれていたチューダは、星輝へケーキを差し出された途端に機嫌を回復する。
テルルと異なり、チューダは単純な性格のようだ。
●
会場に入り込んだ二匹の幻獣。
どうやら参加者の注目を集めてしまう傾向にあるようだ。
「なるほど。古代文明の遺物と思われる……魔導アーマーですか。駆動系は……帝国の魔導アーマーと異なるのですか?」
「前にちょっと見せてもらったが、大きくは変わらねぇ。材質の特性を生かす方向で設計されてるからな」
テルルと技術系談義に花を咲かせるのは天央 観智(ka0896)。
東西各地の料理やソフトドリンクを堪能していた観智。
変わった料理を満喫して文化の違いを意識していた最中、視界に入ってきたのは飯を食い続けるチューダと傍らにいるテルル。噂ではテルルは魔導に興味を持つ幻獣だという。 科学者気質のある観智にとって、テルルとの意見交流は行っておきたいところだ。
「そうですか。是非、一度その……魔導アーマーを拝見したいですね」
「ああ。ドワーフの工房に来ればいつでも見られるぜ。俺っちのカマキリはまだ謎の部分もあるんだ。是非考察を聞かせてもらいてぇな」
「テルル、聞きたい事がある」
テルルの元を訪れたのは、ジーナ(ka1643)。
ゴシックスーツ「オトラント」を着用して、少々大人の雰囲気を漂わせている。
「お、ジーナじゃねぇか」
「ヴェルナーの指示で遺跡探索を進めていると聞いたが、その後の進捗はどうだ?」
ジーナの言っている遺跡探索とは、辺境の地下で発見される遺跡群の事を指している。
テルルの騎乗する魔導アーマー『カマキリ』も、その遺跡で発見された代物だ。歪虚も暗躍している事からジーナも気になっていたのだ。
「あー。遺跡は発見できるが、相変わらずパーツばっかりだな。ドワーフの方もそのパーツを使って武器を生産しているみてぇだが、遺跡の謎はまだまだだな」
「そうか」
「遺跡? 古代文明の遺跡ですか? それは実に興味を惹かれます」
遺跡の話を聞いて観智が一歩前へ出る。
失われた文明の持っていた魔導アーマー。話を聞く限り、かなり進んだ文明を保持していたはずだ。それが何らかの理由で滅んでしまった。
科学だけではなく、何故か浪漫を感じてしまう。
「あ。そういや、バタルトゥって奴が言ってたな。この間、例の歪虚と地下で遭遇したって。連中、地図を持って何か探しているらしいな」
「歪虚も地下で何かを……これは無視できませんね。古代文明の兵器を悪用しようとしているのかもしれません」
観智の脳裏に様々な可能性が浮かんでは消える。
はっきりしている事は、歪虚が何かを企んでいるということだ。
「困ったら、いつでも呼んでくれ。同胞の地で好き勝手はさせない」
ジーナは、静かに闘志を燃やしながらそう言い放った。
●
「結婚なぁ……まあ、したい子がいるんならじゃない?」
骸香(ka6223)は、鞍馬 真(ka5819)の傍らでそう呟いた。
模擬結婚式に参加したハンター達の姿を思い浮かべながら、自分には少々背伸びしなければ無理だと実感していた。
「まあ、うちはこういうのは似合わないから良いか」
「……ん? 骸香、何か言ったか?」
鞍馬が骸香へ振り返る。
骸香は心の中で呟いていたつもりだったが、知らないうちに言葉となって口から漏れ出ていたようだ。
「い、いや。何でも無い。東西の料理が一堂に会したパーティなんて珍しいよね」
「ああ。ハンターだけじゃない。多くの人が尽力したからこそ、このパーティがある。そうでなければ、このパーティは開催できなかっただろう」
鞍馬は、思い返す。
詩天で歪虚と戦った事を。あの戦いで勝利しなければ、今回のようなパーティは想定される事すら無かっただろう。
「ああ。初代詩天に勝てなかったと思うとゾッとするなァ」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)が、御猪口に注がれた清酒を手にやってきた。
東方の料理を満喫していたシガレットだったが、鞍馬同様に詩天での戦いを振り返って見たくなったのだ。
「多くのハンターが詩天の為に力を尽くした。まだ東方にいる歪虚を倒せた訳ではないが……」
「まぁな。それでも真美を護る楯になったりもしたが……こうして酒の肴をツマミながら思い出話ができるとは、感慨深いぜェ」
鞍馬もシガレットも骸香も、詩天で何度も戦っている。
特に鞍馬とシガレットは初代詩天との決戦に関与。あの戦いで勝利を収められた事は、詩天にとって大きな功績であった。
「ほう。詩天の窮地を作った者達か」
ハンター達の姿を見かけて、武徳が歩み寄ってきた。
鞍馬は一歩下がって会釈する。
「武徳殿。詩天での開いていただいた酒宴以来です」
「おお。あの時は世話になったな。
それから、その傍らにいるハンターも真美様を護ってくれたそうじゃな。真美様から聞いておりますぞ。感謝致す」
「あ? いやァ、まあ……ハンターとして当たり前のっつーか……」
柄にもなく照れるシガレット。
褒められなれていない為、セリフがうまく出て来ない。
そんな三人のやり取りを見ながら、骸香はそっと三人から離れる。
「今は……一緒にいられたらイイか」
骸香は、鞍馬の姿を見て微笑ましく感じた。
●
「初めまして。こちらはチューダ様です」
チューダを抱えて武徳の前に現れたのは、アシェ?ル(ka2983)。
初めて見るチューダに武徳は驚きを隠せない。
思わず視線を変えて何度も覗き込む。
「何と面妖な豚だ。このようなものが西方におるのか?」
「豚ではないであります! 我輩は幻獣王でありますぞ!」
「おおっ、喋った!?」
豚扱いされて怒るチューダを前に、武徳は一歩身を引いた。
そこへヴェルナーが情報を補足する。
「ああ、失礼。大幻獣と呼ばれる存在は喋る事ができるのです」
「左様でござったか。東方にも歪虚ではない面妖な生物はおりますが、このように太った物はござらん」
「……ああ、太っているのはこのチューダだけです」
チューダも酷い言われ様だが、太っているのは事実だから仕方ない。
そんな最中、武徳とヴェルナーに対してアシェールが一つ提案を持ってきた。
「東西交流の美味しい物が増えたら、皆、嬉しいと思います。でも距離がとってもあって大変です。そこでホープに中継都市として再開発できないでしょうか?」
現状交易は陸路か海路のみ。
転移門は覚醒者で無いものが使えば三日と動けなくなる。交易には使えない代物だ。長距離輸送が必要となるだけに、中継都市があった方が便利だ。そこでアシェールはCAM実験場跡のホープを中継都市として利用するよう提案したのだ。辺境の海岸線に沿って海路を利用する事も可能だ。
「ホープの復興にもなりますし、良い案と思いますよね……チューダ様?」
「なんだか良く分からないけど、良いのであります!」
事情を理解せずに賛成するチューダ。
一方、武徳はヴェルナーへ問いかける。
「ヴェルナー殿。ホープとは何でござるか?」
「かつて魔導エンジンの稼働実験をしていた場所です。今は大きな空き地で物資輸送にホープ近くに都市が建設されていますが、ホープそのものを都市化ですか……」
「あの巨大な鉄人形の実験場となれば、相応に大きな場所でござるな。それを中継都市とするなら、かなりの費用と時間がかかるのでは?」
「そうなります。私としては良い案ではありますが、交易路がどうなるか次第でしょうか。着工しながら様子を見たいところです」
ヴェルナーが懸念しているのは交易路が未だに確定していない点だ。
もし、ホープに大きな都市を建設しても内陸部で大きな交易をが構築されれば、ホープに投資した資金も無駄になる。少しずつ開発して拡張していきたいというのがヴェルナーの意見のようだ。
「そうですか。でも、検討していただけるだけでも感謝です」
アシェールはチューダと共に頭を下げた。
●
「ヴェルナーさん、宿舎の件ですが提案があります」
アスワド・ララ(ka4239)は、ヴェルナーに話を持ちかける。
先日、武徳を交えて話し合いを行ったヴェルナーは、東方から来訪する者に向けた宿舎をノアーラ・クンタウへ設置する事を約束した。
この会に参加していたアスワドは商売の匂いを感じ取って行動を開始。
パーティ内で東方の商人を捕まえて率先して情報交流。東方への交易を聞き出しながら、東方商人にノアーラ・クンタウ経由での交易を推奨していた。ノアーラ・クンタウは帝国の防衛拠点ではあるが、往来は比較的多い。歪虚の存在もあるが、辺境の部族会議も目を光らせている事からルートによっては安全に通行できる可能性も高い。
「ふふ、早速ですか。熱意ある商人は歓迎ですよ」
「僕は設立予定の宿舎をもっと良い物にできないかと考えました。せっかくの宿舎です。質実剛健の宿よりも各国の文化様式を取り入れて宿泊そのものを楽しめるようにしては如何でしょうか」
アスワドの提案は内装や寝具にも拘って、武徳でさえも来訪したくなる宿舎を建設しようというのだ。
見方によっては東方の者が西方へ更なる興味を抱く。それは新たなる商売の機会へと繋がっていく。
「なるほど。宿舎をもう一つ特色を持たせるのですね。確かに一考の価値はあります」
「幸い、この会場には宿舎にも導入できそうなヒントが沢山あります。吟味してみては如何でしょうか」
「実に商人らしい発想です。あなたの提案は実に正しい。
ですが、私はもう一歩踏み込んだ事も考えているのです」
ヴェルナーはアスワドへ向き直る。
しばしの沈黙の後、アスワドはヴェルナーへ問いかけた。
「それは……どのようなものでしょうか?」
「宿舎はいくらサービスを向上しても宿舎です。大切なのはその宿舎を拠点とした次の段階です。この宿舎を利用するのは商人ばかりではありません。東方の未来を担う若者も使節団として訪れます。
彼らは西方諸国を学ぶ為にやってくるのです」
「分かりました。西方を学ぶ機会の拡充ですか」
アスワドもすぐに気付いた。
宿舎は商人の宿というよりも東方から西方を学ぶ為にやってくる使節団向けだ。
宿舎を使う事で西方への興味を強める事は正解だが、大切なのはその先。若者が西方を学ぶ環境である。王国や帝国、同盟などの地域で若者は様々な文化に触れる。
ヴェルナーはこの支援を行う事で、東方の結びつきを強めたいのだ。
だが、アスワドにも引っかかる事がある。
「ヴェルナーさん。それはあくまでも東西交流の為『だけ』ですよね?」
アスワドは敢えてツッコんだ。
しかし、ヴェルナーはその問いを誤魔化すように笑みを浮かべる。
「……当然です。勘ぐりすぎですよ、アスワドさん」
●
「我が人生に悔い無しっ! 前のめりに倒れる為にもっ……これを食べきらなきゃなの……」
ディーナ・フェルミ(ka5843)は、果敢なる挑戦を続けていた。
全ブレート制覇――それはテーブルに並べられた料理を一口ずつでも食べていこうという試みだ。
だが、東西交流祭は東方と西方の交易促進の一面もある。
この為、かなりの料理がテーブルの上に並べられている。すべてを食べきるというのは胃袋の耐久レースであった。
しかし、ディーナは自分でも認める大食漢。ここで負ける訳にはいかない。
「何度触れても、もふもふですのー」
「チョココ、ダメであります! お腹をぎゅっとしたら食べ物が出てくるであります……」
ディーナの傍らで、チョココ(ka2449)はチューダに抱きついた。
しかし、チューダは欲張って勝利を食べまくった結果、既に胃袋は限界。地面に横たわってダウンしている。
「まったく、馬鹿みてぇに食いまくるからだ。あ、チューダは馬鹿だったか」
「テルル……酷いであります……」
呆れかえるテルル。パーティが終わればチューダを連れて帰らなければならないのだ。テルルの苦労も伺いしれる。
「ハムさんはそこで寝ててね……あれ? テーブルに届かない」
チョココも食事をしようと前に行ってみた。
だが、背の低いチョココには高すぎて料理を食べ辛そうだ。
それを見かねてテルルが何処かから台を持ってきた。
「ほらよ。本当はチューダの為に作ってた奴だが、好きに使え」
「ありがとう、テルル様」
踏み台に乗ったチョココは、猛烈な勢いで勝利を平らげていく。
ディーナにとっては思わぬ来訪者である。
(……この勢い、早く食べないと全プレート制覇は阻止されるかも)
ディーナは己を奮い立たせ、目の前の料理へ挑み続ける。
「おお。チューダ様とテルル様……二人揃うと最強だな」
会場でケーキを作って製菓欲を満たしていたグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)。
わざわざコンテストには出場せず、スキレットでパンケーキを焼いたりデコレーションケーキを作ってパーティの料理に華を添えたグリムバルド。一仕事終えてパーティに参加したところで、チューダとテルルに遭遇した。
キュートな外見である幻獣達を前に、思わずグルムバルドは膝を折った。
「チューダ様の横たわる姿も素晴らしいが、テルル様の立ち姿も素晴らしい」
「何言ってやがるんだ。俺っちは単に立っているだけだ。気持ち悪いな」
苛立ちを隠せないテルル。
だが、外見の可愛らしさから棘がまったく存在しない。
「テルル様もお元気そうで何より。ところで、俺も魔導アーマー乗りなんです」
「何? そうなのか? そういう事は早く言えよ。聞いてみてぇんだが、帝国の魔導エンジンの癖が知りてぇんだ。特に燃費とエネルギー供給なんだがよ……」
グリムバルドが魔導アーマー乗りと知って、急に上機嫌になるテルル。
グルムバルド自身も魔導アーマーを乗る者として興味がない話でもない。話を聞くフリして可愛さを堪能するつもりだ。
そんな中――ダウンするチューダの傍らに現れる一人の影。
「おーおー、めんこいのぅ。めんこくて旨そうなネズミだのう」
「へ?」
横たわるチューダを持ち上げたユーレン(ka6859)は、そのまま口を開けてチューダを食べようとする。
どうやらユーレンは先程大量の酒を飲んでいる為、酔いが回っているようだ。
「ぎゃー! 我輩、食べられるでありますっ! 誰か、助けてっ!」
「ハムさんを食べちゃダメですの!」
慌ててユーレンの手からチューダを奪い返すチョココ。
ユーレン自身、何が起こっているのか分かっていないようだ。
「お酒の飲み過ぎはダメですわ。そんな人のお酒はお水にしちゃいますわよ?」
ユーレンを叱るチョココであったが、当のユーレンは首を捻っている。
「言われてみれば、普段は皮を剥いでよく洗い、焼いてからでないと口にせぬなぁ。しかし、これだけはこのまま丸呑みしても構わんのではないかと思う程、キラキラ輝いておってなぁ」
チューダに視線を向けるユーレン。
その視線に恐怖を感じたチューダは、チョココにしがみつく。
「怖いっ! 怖いであります!」
恐怖に震えるチューダ。
その様子を見たユーレンは、唐突にポンと自らの手を打った。
「なるほど、これが酔うということか。今まで一度も酔うた事などなかったのでな、ついぞ気付かんかった。はははは」
笑い飛ばすユーレン。
樽レベルで酒を飲んだ結果の暴挙だったようだ。
騒ぎに包まれながら、パーティはまだまだ続いて行く――。
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