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【王戦】朱を抱いて眠れ「傲慢歪虚ミュール討伐」リプレイ

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作戦3:「傲慢歪虚ミュール討伐」リプレイ

ヘクス・シャルシェレット
ヘクス・シャルシェレット(kz0015
十色 エニア
十色 エニア(ka0370
宵待 サクラ
宵待 サクラ(ka5561
雨音に微睡む玻璃草
雨音に微睡む玻璃草(ka4538
神楽
神楽(ka2032
時音 ざくろ
時音 ざくろ(ka1250
夢路 まよい
夢路 まよい(ka1328
ソフォス(ポロウ)
ソフォス(ポロウ)(ka1328unit003
高瀬 未悠
高瀬 未悠(ka3199
瀬織 怜皇
瀬織 怜皇(ka0684
レベッカ・アマデーオ
レベッカ・アマデーオ(ka1963
ゼーヴィント(魔導型デュミナス)
ゼーヴィント(魔導型デュミナス)(ka1963unit002
ルナ・レンフィールド
ルナ・レンフィールド(ka1565
カイン・A・A・マッコール
カイン・A・A・マッコール(ka5336
リューリ・ハルマ
リューリ・ハルマ(ka0502
セレス・フュラー
セレス・フュラー(ka6276
アルト・ヴァレンティーニ
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
アニス・エリダヌス
アニス・エリダヌス(ka2491
ヴァイス
ヴァイス(ka0364
Uisca Amhran
Uisca Amhran(ka0754
ミュール
ミュール(kz0259
不動 シオン
不動 シオン(ka5395
南護 炎
南護 炎(ka6651
●大広間
 豪華絢爛な玉座に腰掛けるヘクス・シャルシェレット(kz0015)の手には、如何にも怪しい金属製の箱があった。
 目立つのはランプとふざけた髑髏マークが描かれたボタン……。
「これが不思議かい?」
 ヘクスは不敵な笑みを浮かべて、箱を見つめる十色 エニア(ka0370)に尋ねる。
 首を横に振るエニア。
「その箱……どこかで見た事があるような気がして」
「だろうね。これはね……“想い出の品”なんだよ。そして、同時に、万が一の時の“保険”さ」
 “保険”と言ったのは、やはり、玉座を爆発させる気なのだろう。
「わたし達の出番、無いと良いね?」
 願うように言いながら、エニアはリレィン(ペガサス)(ka0370unit003)に指示を出す。
 大広間の正面、巨大な扉は厳重に閉ざされていた。その大扉の前で待機させているのだ。
 それにどれほどの意味があるか分からない。敵が雪崩れ込んで来たら……ミュール本体がいよいよ迫ったら、ヘクスは自身を囮にして爆死するつもりなのだ。
「っていうかさ、なんでこう狂信的なエクラ教徒はすぐ死にたがるのかな」
 宵待 サクラ(ka5561)が恨めしそうに呟いていた。
 その台詞は、きっと、ヘクスに対して言ったものではないだろうが……。
「遍くエクラの御威光を広めるためにも、ここでシャルシェレット卿に死なれるのは、まだ困るんだけどさ!」
「いやー。僕にそれだけの価値があるのだと、いいのだけどねー」
 ヘラヘラと笑いながら返すヘクスの態度にサクラは不安そうに両肩を落とした。
 そして、指先を浮遊大陸の方へと向ける。
「あの光も聖女が成してきた事のおかげだし、僕は“最も厄介な傲慢”を引き付ける位しかできないから」
「人が選んだ聖女は努力さえすりゃ誰だってなれるんだ……言い方は悪いけど。神の選んだ聖女は違う」
「僕には、どちらも同じ。もっとも、君にとっては、何か事情があるみたいだけどね。僕には何もできないさ」
 全身を襲う倦怠感に抗うのを止めて、ヘクスはどでーんと、玉座の背に寄り掛かった。
 この死に体でも、今は役に立つのだから、笑える――そんな風に思っているとヘクスの目の前を傘差して、くるくると雨音に微睡む玻璃草(ka4538)が回っていた。
「お城の中で鬼ごっこに隠れんぼ。一緒に遊びましょうって言ったのに、おじいさんったら居ないんだもの」
「……君もいつも通りだね」
 その無邪気さが、今は心地好かった。
 大広間に集った面々は、覚悟を決めた上級騎士が数名とこのハンター達のみ。
 もっと多くの数が詰めていたのだが、中庭と城内へと向かった。いや、向かわせた。
「先に言っておくよ。ミュールの本体が“此処”にやってきたら、僕は遠慮なくボタンを押す。悪いけど、皆は一緒にあの世行きだよ」
 もっとも……地獄に落ちるのは自分だけかもしれないけど。
 ヘクスの台詞に、それまでくるくる回っていた玻璃草がピタリと動きを止めた。
「女の子を見つけたらお話するわ。王様のお話よ。素敵な王様。優しい王様の話」
「……まぁ、それ位なら良いかな」
 そんな機会が来るかどうか分からないが。
 ヘクスはニヤリと口元を緩め、爆破スイッチを兼ねた、金属製の怪しい箱を撫でる。
 結局、箱の正体が分からないままエニアは大扉へと視線を戻した。エニアは思い出せなかったが、その箱は、彼も知る戦死した騎士が持っていた“特別な箱”を改造したものだった。
 つまり――ヘクスは本当に爆散する覚悟が、既にあって臨んでいたのだと、この時、誰も知る由はなかったのだ。

●指令室
 大広間に隣接している特別室で、神楽(ka1250)がそれは見事な土下座をしていた
「立場や面子があると思うっすけど王城を守る為に協力してくれっす!」
「指揮権自体は申し訳ない。我らの職務なので、渡す訳にはいかない」
 神楽の申し出に対し、指揮官は毅然と応えた。
 王城防衛の戦力割り振りについて、神楽から具体的な提案があったのだが、指揮官は断った。
 ただ、神楽の話全てを拒否した訳ではない。ハンターからの情報共有は防衛上、必須だからだ。
「敵軍勢が中庭を侵攻中です」
 伝令が飛び込んできて報告した。
 重厚に作られた指令室の小窓からは、中庭の一部を確認できた。
 なるほど、確かにシャトランジの軍勢が進んできている。
「数が多いっすね」
「本当に王城を蹂躙するつもりのようだ……万が一の時、君は脱出してくれ」
「何言ってるっすか! いざとなれば戦うっすよ!」
 敵の狙いは玉座なのだ。もし、大広間に敵が現れたら、予備戦力として向かうつもりだった。

●中庭
 神楽が城の入り口に壁を作るように指示していた刻令ゴーレムが派手に吹き飛んで停止した。
 シャトランジの軍勢の中に目立つ異様な存在。青髪青瞳の青年が水で出来た巨大な大剣を手にしている。騎士や兵士達が、シャトランジの軍勢を抑えるべく、駆け出していった。
 魔動冒険王『グランソード』(刻騎ゴーレム「ルクシュヴァリエ」)(ka1250unit008)に乗る時音 ざくろ(ka1250)が、求めていた敵を見つけ、急いで近づく。
「ティオリオス、お前の願いとざくろの願いを賭け、正々堂々ざくろ達と勝負だ!」
 この強欲の歪虚を何としてでもここで足止めしなければならない……そんな覚悟を込めて、ざくろは叫ぶ。
 それに応じるように、ティオリオスは大剣を高く掲げた。
(今、周囲を確認した?)
 夢路 まよい(ka1328)はソフォス(ポロウ)(ka1328unit003)に指示を出しながら、ティオリオスの初動を見逃さないように見ていた。
 中庭をザっと見渡したように思えたのだ。中庭には囲うように大きな池が作られているし、十分な広さもある。
「覚悟は出来ているようだな。このティオリオスが貴様らの相手になってやろう!」
 突如として水がティオリオスの周囲を包み込むように現れた。
 攻撃を防ぐ厄介な能力【水壁】だ。それに対し、ソフォスが鳴いて不可思議なマテリアルを飛ばした。
「そんな小細工、俺に通じるとでも思ったか」
「強度が足りなかったみたい」
 “吹き消すホー”の能力で一瞬、消えかけた【水壁】だったが、何事もなかったようにティオリオスの周りから剥がれない。
 しかし、ハンター達の試みはこれで終わった訳ではない。
 まよいが、マテリアルを集中させて、強大無比な連続魔法を唱えた。
「……怒涛なる水の流れ、揺ぎ無き大地の力、我らの敵を打ち砕け! アブソリュートゼロぉ!」
 異なる属性魔法を叩き込むその攻撃は複数回攻撃に分類される。  故に、その攻撃が命中した場合は、当たる部位やダメージ量は、それぞれの攻撃ごとに行われる。
「ほぉ。少しは“水”が何たるかは理解しているようだな」
 早くも2枚の【水壁】が剥がれた事にティオリオスは感心したようだ。
 大精霊が司る『勇気』の力を解放した高瀬 未悠(ka3199)はまよいの攻撃魔法に続いて、堕杖をティオリオスへと向ける。
「行くわよ、ミラ!」
 目標となる強欲歪虚の足元に魔法陣が描かれた。
 刹那、大地から天空に伸びる光の柱が現れ、更にミラ(ユグディラ)(ka3199unit002)の狂詩曲を受けて、おおいにティオリオスを焼いた。
「直接身体に届かなくても、剥がし続ければ、その分、当たりやすくなるよね」
「そんな余裕が貴様らにあれば、な!」
 猛烈な渦と共に水の刃が幾つも形成されると、ハンター達に向かって放たれる。
 それをエーテル(R7エクスシア)(ka0684unit001)に搭乗している瀬織 怜皇(ka0684)が機体の大きさとマテリアルカーテンで仲間を庇いながら防いだ。
「ティオリオス……ですか、面識はありませんが他人事には思えません、ね」
 モニターに映る敵の姿を確認して、怜皇は呟いた。
 王城には互いの無事を祈った、愛する人が戦っている――この歪虚を王城へと行かす訳にはいかない理由が、彼にはあった。
「ここから先には行かせません!」
 猛烈なマテリアルの集束と共に、加速砲から弾丸が射出された。
 雷鳴のように轟いたそれを、ティオリオスは避ける。
「そんなもの、簡単に当たるとは思うな」
「それは承知の上ですよ」
「な、にっ!?」
 大掛かりで派手な攻撃だからこそ、レベッカ・アマデーオ(ka1963)が乗るゼーヴィント(魔導型デュミナス)(ka1963unit002)の急接近に気が付くのが遅れたようだ。
「……アイツもある意味、犠牲者だけどさ……だからって、許せるわけじゃない」
「ほう。我が海の理解者ではないか」
 ゼーヴィントの機鎌を【水壁】で防ぐ。
 ハンター達の初手で既に幾枚かの【水壁】を剥がした。これまでの交戦記録からの対策が上手く機能しているといえよう。
「まだ、壁が残っている」
「ざくろが行くよ!」
 レベッカの機体の背後から回り込むように駆けると、ざくろのルクシュヴァリエが挟み込むように迫った。
 機剣を振るったが、単体での攻撃は当てにくい……が、流れるような連続攻撃までは、さすがのティオリオスも避けきれなかったようだ。  また一枚、【水壁】が無くなった。
「この機会を待っていたわ!」
 未悠が魔法で作り出した幻影の腕をティオリオスへと伸ばした。
 移動を封じて、王城へと行かせない為だが……腕は強欲歪虚を捕まえると同時に、気合の掛け声で霧散した。強度が不足していたようだ。
 だが、どの道、ハンター達の“足止め”はある意味、成功する事になる。
「もしかして、此処で戦うつもりなのかな?」
 まよいの質問にティオリオスは仰々しく腕を構えると頷いた。
「当然だ。傲慢王に最も近き従者の行く末を見守る為に、俺は来たのだ。俺自身が王城の中で戦ってどうする……それに、ここには水の力が存分にあるようだからな」
 中庭の池に一瞬、視線を向けるティオリオス。
 どうやら、恐るべきもう一つの能力【水棺】を行使するには水の存在が不可欠のようだ。
 ハンター達が中庭でティオリオスを足止めするという戦術は妥当で、かつ、適切だった。惜しむらくは、ティオリオスの動きを読み切れなかった事だっただろう。
 ティオリオスが中庭を主戦場として最初から戦うつもりだと見当がついていたならば、ハンター達が足止めに費やそうとした分が無駄にならなくて良かったからだ。
「その力は使わせない!」
 変身を遅らせる為に未悠が攻撃を続ける。
 少しでもダメージを今の内、与えておこうという事だ。
 だが、数人のハンターによる攻撃程度でティオリオスの動きが止まる訳がない。
 次々と攻撃を受けつつも、構えた腕をぐるりと回すティオリオス。
「へ・ん・し・ん!」
 水色のマテリアルの光が全方位に発して、集束するようにティオリオスを包むと、まずは、直立したような竜の姿となった。
 しかし、それは一瞬の事、再び、ティオリオスはハンター達を指差すと言い放つ。
「さぁ、贖罪の刻だ」
 水色のマテリアルが全身から放たれた、身体が巨大化していく。
 瞬く間に水龍の姿が形成されていく。ハンター達と水龍の戦いは、ここから本番を迎えようとしていた。

●城内
 シャトランジの軍勢は王城内部へ侵入すると物量に物を言わせて次から次へとひたすら進んでくる。
 それをミューズ(ユグディラ)(ka1565unit001)と共にルナ・レンフィールド(ka1565)は迎撃していた。
「一度、下がりましょう」
「承知!」
 一緒に戦う騎士達に声を掛ける。
 敵の勢いは圧倒的だ。倒しても倒しても、止まらないので、防衛側の疲労は積み重なっていくばかりである。だから、こういう戦いでは、如何に効率よく敵を倒せるかというのが大事なポイントだった。
 ルナは敵をわざと戦いやすい場所に誘引して、然る後に逆襲していた。
 特に細い通路は大きいサイズが通れない事を逆手にとって、大廊下や部屋など、広い場所での待ち伏せは有効だ。
「今、敵を引き連れています。ヴォーイさん! カインさん!」
「任せておけじゃん」
「準備は出来ている」
 ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka6276)が槍を構え、レドリックス(オートソルジャー)を従えたカイン・A・A・マッコール(ka5336)が銃を構える。
 細い通路を抜けたルナと騎士は左右にパッと散った。残ったのは列を成している傲慢兵士。
「よし、レドリックス。足を止めろ」
 オートソルジャーは主人の意図を理解して、細い通路から大廊下に至る出口に塞がると、エリアキープを発動して物理的な侵入を防ぐ。
 傲慢兵士は後ろに下がろうにも、数が多くて下がれず進退窮まってしまっていた。
「これじゃ、単なる的じゃん!」
 嬉々として槍を突き出すヴォーイ。
 カインは射撃で通路奥の傲慢兵士を狙う。
 もっとも、敵も黙ってやられるだけではない。ハンターの攻撃に対し、負のマテリアルでの反撃――【懲罰】を繰り出してきた。
 無数の牙となって襲い掛かって来る【懲罰】だったが、いずれも、ヴォーイやカインには当たらなかった、いや、二人は抵抗しきって、負のマテリアルが弾かれたというべきだろう。
「援護は任せて下さい」
 気が付けば、ハンターや騎士達は、ルナが奏でる旋律から発した蒼い光に包まれていた。
「想うは月夜の光、願うは静謐……奏でましょう。ノックターン『ブルームーンライト』」
 マテリアルを活性化して抵抗力を増す奏唄士の力だ。
 傲慢歪虚との戦いでは特に有効なスキルだ。また、ルナが連れてきたミューズは、回復支援が出来る事も大きかった。

 敵の大半は傲慢兵士だったりするが、中には強力な傲慢貴族、傲慢王族などの存在も確認できた。
 それはシャトランジの軍勢では指揮官級ともいえる存在であると同時に、傲慢兵士を召喚できるので厄介でもある。
「多分……向こう側にも幾体か、いる……かな」
 リューリ・ハルマ(ka0502)が超聴覚で城内に響く足音を聞き分けようとしていた。
 しかし、思うような結果には至らなかった。時折、傲慢兵士とは違う足音は聞こえるのだが、敵の数が多く、認識が困難だったからだ。
 それでも、厄介な指揮官級を次々に討ち取る【月待猫】の面々。
「王国無くなったら大変だしね。頑張らないと」
「思えばあたしも、結構長く王国で活動してるもんだ……そろそろ、終わらせたいね」
 少し疲れた表情でセレス・フュラー(ka6276)が頷いて答えた。
 危険な個体を、疾影士としての力を存分に活かして、セレスは探し回っていた。積極的に攻撃はせずに、まずは敵の位置を確認する。
 これが、実はかなり有効であったのだ。
 敵の狙いはあくまでも玉座、大広間であったので、敵対的な行動をしなければ、敵は攻撃してこなかったからだ。
「それじゃ、また見て来るから」
 仲間に告げて、セレスはナイトカーテンで自身を覆う。
 探索を行った後、大事な事は、如何にして討伐するか――だが、リューリとセレスには、その心配は必要なかった。
「頼んだよ」
 爽やかな表情でアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は言うと、連れてきたパウル(ポロウ)(ka3109unit005)を撫でる。
 ここまでは順調だ。討伐数は順調に伸びている。それでも、王城内のあちらこちらで死闘は続いていた。
「この国のために命を落とした友が……沢山の人達がいた。彼らの想いをお前達如きに、踏み躙らせやしない」
 そんな決意と共にアルトは秒針にも似た形状のナイフを確りと握る。
 傲慢との戦いは正念場だ。絶対に負ける訳にはいかない。
「私に力の必要性を教えたのは傲慢による蹂躙だ。味わえ、私はお前らが作り出した、お前達を滅ぼす刃を」
 不意に飛び出してきた傲慢兵士を一蹴すると、セレスから連絡があった方向へと走り出した。

 大広間に至る巨大な扉の前で、リンクス(ユグディラ)(ka2491unit003)を連れたアニス・エリダヌス(ka2491)はアイデアル・ソングを行使しつつ、仲間達を支援していた。
「王城防衛。ハンターになったばかりの頃のベリアル戦を思い出しますね」
 あの時、大勢のハンター達の力を以てしても、ベリアルは大広間に侵入した。
 だが、その後、成長したハンター達はベリアルを倒す程、強くなった。今は、その時よりも、更に強くなっているはずだ。
「何より……個人的ですが、かけがえのないものを得て、負けられなくなりました」
 武器を振るい続ける、ヴァイス(ka0364)を見つめるアニス。
 彼は決して最後まで諦める事はないだろう。これまでの王国での戦いで失った仲間達から継いだ想いがある限り。
「今こそ、長きに渡る因果に終止符を」
 アニスの祈りにも似た言葉が聞こえたようで、ヴァイスは振り返って頷いた。
「そうだな。ここで、終わらせよう」
 大広間前は傲慢兵士が押し寄せていた。
 たまに、傲慢貴族や傲慢王族の姿が見えるが、やや離れた場所から魔法や射撃で攻撃してくるか、傲慢兵士を召喚し続けていた。ヴァイスに出来る事といえば、それらの相手になる事だ。
「ミュールに専念できるような隙は作る。だから、イスカ……頼んだ。ここに居ない彼奴の為にも」
「ありがとうございます。ヴァイスさん」
 銀雫(ポロウ)(ka0754unit005)を伴ったUisca Amhran(ka0754)が戦友に感謝の言葉を告げた。
 これだけの数の敵がいるのだ。乱戦になったら、まともに話せる暇もないかもしれない。
 会話して何かなるか、分からない。それでも、その大切さを、ヴァイスは理解しているからこその動きだろう。
「あの時の答えを伝えにきたよ……」
 いまだに姿を見せないミュール(kz0259)に向かってUiscaは言うと、攻撃魔法を傲慢兵士の群れに向かって放った。

 優秀な聖導士二人の支援を受けつつ、不動 シオン(ka5395)と南護 炎(ka6651)の二人は刀を振るい続けていた。
 当初は広い城内で戦っていたのだが、通信機からの情報を元に行動していた結果、自然とこの場所に至ったのだ。
「物足りないぞ!」
 シオンが傲慢兵士に向かって薙ぎ払う。
 避けられなかった数体が吹き飛ぶように転がっていった。
 【懲罰】によるダメージは心配だが、支援を受けられる状況なら多少の無理も効く。
 体勢を整えるとシオンは剛刀を突き出した。一直線に放たれるマテリアルが傲慢兵士を貫いた。
「さっさと来い! いつまで、後ろから高みの見物だ!」
 傲慢兵士の奥で控えている傲慢貴族に向かってシオンは叫んだ。
 人語が理解できているはずだが、人間の言葉に気にした様子はない。
「こんな程度だったら、すぐに全滅させられるな」
 南護の怒涛の攻撃も続いていた。
 彼が駆けると、まるで体の一部のような聖罰刃が、マテリアルを帯びた斬撃を放つと傲慢兵士が次々に消滅する。
 親玉が出て来ないなら、雑魚を倒しまくって誘き出すだけだ。
「なんだ?」
 沢山いた傲慢兵士の中の一体に対して斬りつけた感触が、違ったからだ。
 見た目は確かに傲慢兵士なのだが、その一撃で倒れる事は無かった。
「これは……【変容】か!?」
「傲慢兵士に紛れてやがる!」
 反撃に備える南護と、怪しい傲慢兵士に向かって剛刀を突き出すシオン。
 だが、それよりも早く、それは掻き消えるように居なくなった。
 それが何を意味するのか、大扉前のハンター達は理解できた。傲慢兵士に【変容】していた傲慢幼女が、大広間に向かって【瞬間移動】したのだ。
「押し寄せてきていた意味はこれだったのか!」
「だったら、これ以上、押させはしない!」
 大広間でヘクスを護衛している仲間に通信機で侵入を許した事を伝えつつ、二人は引き続き、刀を振るうのであった。
 
●守護されし玉座
 傲慢兵士に【変容】した傲慢幼女が、大広間に姿を現した。
 その数は1体ではない。幾体か確認出来る。
「……ソルラは怒るだろうな?。僕が玉座と心中したら。でも、まぁ、怒っていいのは、本来は……僕の方なのだけど」
「ヘクスさん……?」
 ボソっと呟くようなヘクスの台詞に、エニアが反応した。
「いや、なんでもないよ。ふと、ね」
「だったら、いいけど……死神が護衛って、絵面最悪でごめんね」
「いやいや、頼もしいよ」
 二人が会話している視界の中で【変容】を解いて幼女の姿となった。
 同じ姿をした女の子が無表情で一列並んでいるのは、それはそれで不気味な光景だ。
 傲慢幼女の【変容】について、エニアは注意していたが、外から中に飛んでくるのは防ぎようがない。
 勝負の時なのかと思ったサクラが、神妙な顔つきをしているヘクスに向かって言う。
「いきなり爆発とかしないでくれるよね!」
「勿論さ……あれは、全部、分体だよ。だから、僕じゃなくて、どちらかというと、君達が死なないようにね」
 病人とも思えないニヤニヤとした表情でヘクスは言葉を返した。
 大広間に姿を現した幼女が分体か本体か、その区別がつくというのだろうか。
「分かるの?」
「まさか。ただ、相手は“傲慢”だからね。“あの時”と一緒さ」
「鬼ごっこだと思ったのに。おしくらまんじゅうなの」
 ヘクスの言葉の意味に首を傾げるサクラに対し、玻璃草は楽しそうにクルクルと回る。
 彼の言う“あの時”とは古の塔での戦いの事だろう。メフィスト(kz0178)がヘクスの抹殺を狙ったあの戦い……あれの重要なポイントは、メフィスト自身がヘクスを狙うという事だった。
「傲慢ゆえの性質だからこそ、玉座に触れるのは本体……」
「だから、ほらね。君達、取り巻きから狙われるって事だよ」
「取り巻きって……酷い言いようね! まぁでも、諸々とあるから、こんな所で死なれてたまるか!」
 臨戦態勢に入るハンター達と数名の騎士。
 傲慢幼女らは一斉に立札に【変容】した。直後、内側から立札が開くと、異界への簡易門が通じ、幾体もの傲慢歪虚が姿を現した。
 玻璃草が跳ねながら真っ先に動いた。
「踊る。踊る。銀糸の靴は軽やかに。タタン、タタンと踵を鳴らし。駆ける。駆けて、黄金の昼下がりを水面の匙でひと掬いするの」
 傘として装飾された剣を振るう玻璃草を援護するようにサクラも聖罰刃を構えて駆け出した。
 戦力は拮抗しているだろう。大広間外で戦うハンターの方が多かったので、戦力としてはギリギリだ。
「それでも、やるしかない!」
 回復はペガサスに任せ、エニアはアイデアル・ソングを歌って、前衛の二人を支援する。
 ここにきて【強制】や【懲罰】で全滅する訳にはいかないからだ。
 その時、大広間に神楽の叫びが響いた。
「イヴめ! ちびすけイヴめ! あんなに小さいのに王様とか、ププーっすよ!」
 指令室で状況を知った彼は予備戦力として大広間に駆け付けたのだ。
 突如、現れたハンターに、傲慢歪虚共が一斉に顔を向けた。
「お……なんすか? やるっすか?」
「そりゃ、君達護衛から倒すつもりなのだろうし、そしたら、一番、注目を集めた人から狙うよね」
「いやー。ヘクスさん、それ、マジっすか?」
 冷や汗を流しながら錬金杖を確りと握り締めた神楽にヘクスは笑みを浮かべて答えた。
「うぉー! タンマっす! 今のは無しっす!」
 一斉に向かって来る傲慢歪虚に神楽は魔法を唱えて迎え撃つ。
 やれやれといった様相で残ったハンター達は顔を見合わすと、頷いて、それぞれが武器を構える。
 とりあえずは、これ以上、敵の増援がなければ、なんとかはなるはずだ。

●水竜の咆哮
 一定空間を水や海と入れ替える【水棺】の能力。
 守護者とはいえ、息継ぎが出来なければ、意識を失うのは必至だった。
「なんという広さだ」
「幻獣は大丈夫みたいだね」
 なんとか効果範囲から脱出した未悠とまよいの二人。
 まよいが全力で泳いで30秒程は必要だったのだ。守護者だからこその短さだろうが……。
 【水棺】の中に残っているのは、水中での息継ぎが必要のない、CAMやゴーレムだけだ。
「これだと【水棺】の外からレセプションアークもファントムハンドも届かないかっ!」
 悔しそうに拳を握る未悠。
 思った以上に【水棺】の範囲が広かったからだ。
 その情報は王都外縁部での攻防戦でティオリオスが見せていた。
「ある程度、潜って近づいてから魔法を使わなきゃダメかな」
 それは非効率な手段だが、何もしないで此処で立っているよりかはマシだろう。
 射撃攻撃と違って魔法は水中でも問題なく発揮できる。
 未悠とまよいは頷き合うと、たっぷりと空気を吸うと勢いよく潜るのであった。

 光の筋が水竜に直撃する。しかし、気にした様子なく水竜は尻尾を振って反撃してきた。
 恐ろしい広範囲を叩きつけるような攻撃を、回避しつつ怜皇は叫ぶ。
「貴方の恋人の事は、イスカから聞いています。俺の恋人も巫女、です」
 声が通じているかどうか分からない。それでも、怜皇は言わなければいけなかった。
 悲劇の結果に、絶望の結果に、この水竜が歪虚と化しているのなら、尚の事に。
 鋭い高圧の水刃が立て続けに放たれたが、錐揉み状に機体を操作して避ける。
「もし、貴方と同じようになったら……俺もどうなるかわからない。だけど、イスカが信じている、愛している、この世界に……俺は、絶望したくありません!」
 スキルトレースで機体の踵からマテリアルを噴出し、一気に距離を詰めるとスピアガンを撃ち出した。
 確かな手応えを感じるが、水竜なだけあって、耐久力もずば抜けて高いようだった。
 怜皇の機体を援護するように、ざくろのゴーレムから膨大なマテリアルの光が刃となって水竜へと飛んだ。
「憎しみに満ちた精霊の力で戦うなっ!」
 強欲歪虚ティオリオスの正体を、ざくろは知っている。
 愛する人を失い、絶望したある青年が、水龍に願った事を。
 けれど、その願いは破滅しかない。そんな願いを叶えようとする水竜は、ハンターとは相反するものだ。
「があぁぁぁ!」
 水の中だというのに、水竜の咆哮が響いた。怒りと哀しみに満ちた、そんな叫びだった。
 正面に回って対峙するざくろは機剣を構えた。ルクシュヴァリエの機構とスキルトレースを組み合わせた強烈な一撃を叩き込むつもりなのだ。
「その怒りごと断つ……超重機剣グランカイザー!」
 水龍は避ける事もしなかった。巨大化した機剣が突き刺さるが、その隙を狙って、水龍の尻尾がざくろのゴーレムを捕まえる。
 ギリギリと捻じ込んでゴーレムを物理的に破壊しようとした。
「くっ……こんな所で!」
「ざくろさん!」
 怜皇はCAMごと尻尾に体当たりさせて、ざくろのゴーレムを離させた。
 一度、水面に上がった仲間のハンターも潜っては魔法攻撃を繰り出すが、焼け石に水だ。
 攻撃は届いているので、足りていないのは合計した威力だろうか。
 ちょこまかと動くハンター達に水竜は苛立ちを隠せないようだった。水流を操作して、集束していく水圧。
 禍々しい負のマテリアルと水の流れは、恐ろしい程の威力を感じさせた。
(これは……)
(退避しないと!)
 未悠とまよいの二人は慌てて水面へと戻る。
 近接していなかった事が、生身の二人にとっては幸運だった。これが近づいていたら、身体が木端微塵になって砕けていただろう。
 CAMとルクシュヴァリエは、解放された水圧流に巻き込まれ、四肢がひしゃげ、あるいはもげる。圧倒的な破壊力に一撃で機体が戦闘不能となった。
 これほどの攻撃を前回はマスティマが因果律を不可思議に操作して未然に防いだ。だが、今回、その力はない。
 同時に【水棺】の効果が終了し、水圧流に巻き込まれたハンターやCAM、ルクシュヴァリエが中庭に転がった。
「他愛もない」
 吐き捨てるように水竜は言い放った。
 だが、ハンター達へトドメを差す前に黒と濃紺のツートンのデュミナスが立ち塞がった。
 水流圧に襲われる直前、アクティブスラスターとハイパーブーストで恐るべき威力の外へ急速移動して難を逃れたのだ。
 強い嵐には耐えるか――もしくは、嵐を避けるしかない。それが、海の掟のようなものだから。
「その境遇には同情するよ……でもな! お前がやってるのは、ナーシャさんへの裏切りだ!」
「先に彼女を裏切ったのは貴様ら、人間共。これは復讐なのだ。偉大なる海の全てを汚した罪に!」
「彼女が守ろうと祈っていた海を復讐……八つ当たりの道具に使いやがって! だから、今日ここで終わらせる……マテリアルに還って、謝ってこい!!」
 一気に距離を詰めるとレベッカは機体を立体的に機動させた。
 宙に飛び上がると、落下の勢いをつけて機鎌を水竜の頭に叩きつける。
 機鎌が深く突き刺さったまま、モニター越しに、怒りに満ちた水龍の瞳を見つめるレベッカ。
「まっとうな形で出会いたかったよ。アンタが水竜のままなら、契約できてたかもね」
「嵐は去った。俺の海を止められるのなら、止めてみるがいい」
 王城の方に一瞬、視線を向けたティオリオスは何かを察し――翼を広げると、大空へと飛び立っていった。

●解放
 王城内での戦いは続いている。騎士団の戦線を辛うじて維持出来ているのは、ルナやヴォーイ、カインらが共闘していたからだ。
 ハンター達の絶対数が少なかった分、騎士団にしわ寄せが来ていたのだ。
「傲慢王族か……俺達でやるしかない」
 カインが重鞘に納めた魔導剣の柄を手にして覚悟を決める。
 傲慢戦車や傲慢巨象は城内まで入って来なかった。それらのほとんどは中庭で騎士団が侵入を防いでいたからだ。
 戦いは必然的に、傲慢兵士や大きな廊下であれば傲慢騎士との戦闘が主となっていた。
 そして、今、ハンター達の目の前には、傲慢王イヴの姿を模した漆黒の人型歪虚。
 此奴は傲慢貴族を召喚し、傲慢貴族は傲慢兵士などを召喚するので、可能な限り早期に討伐したい存在だ。
「やってやろうじゃん!」
 青龍戟を二度三度大振りしてから構えるヴォーイ。
 騎士が数名援護してくれるとはいえ、絶対に有利という訳ではない。むしろ、全滅する恐れもあるだろう。
 歴戦のハンターなら倒せるかもしれないが、仲間は別の場所で戦っている。この場を守れるのは自分達しかないのだ。
「ここからが本番です。アンコール フォルテッシモ!」
 ルナがアイデアル・ソングで仲間達の支援を続ける。
 傲慢王族となれば、その強さはかなりのものだ。【強制】や【懲罰】は、高い強度で放ってくるはず。
 案の定、同士討ちの【強制】を広範囲で放ってきた。
 それらを、ヴォーイやカイン、騎士達は抵抗しきって跳ね返す。
「やれますね! 後は【懲罰】に気を付けて攻撃です」
 敢えてその言葉をルナは口にした。
 敵のヘイトを集める為だ。シャトランジの軍勢は知能を持っている。目的達成の為に効率的な動きをしてくるのであれば……それを利用する事も可能だ。
 傲慢王族は再度、【強制】を使う。今度はルナだけを対象とした単体強制であり、強度が高い。
 襲い掛かる負のマテリアル。だが、携帯法術陣から光が迸ると、【強制】の力を大幅に減退させた。
 この隙にカインが渾身の力を込めて重鞘で傲慢王族の頭部を殴る。
「兜に斬撃は効きにくくても打撃は意外に効くものだけど……」
 直後に【懲罰】による負のマテリアルがカインを貫こうとするが、抵抗して防ぐ。
 カインは身体に掛かる荷重を入れ替えるように体勢をぐるりと重鞘から魔導剣を打ち放つと突き出した。
「一気に畳みかけるじゃん!」
 負けじとヴォーイも槍を繰り出した。
 騎士達も剣や槍で一斉に掛かる。こうなれば、傲慢王族であっても無事では済まない。
 立て続けに攻撃を受け、【懲罰】で反撃するものの有効打には繋がらず、打ち倒されるのであった。

 大広間前での戦いは一進一退の状況にあった。
 扉に近づけさせまいと押し返すハンター達に、圧倒的な物量で迫るシャトランジの軍勢。
「どれだけ倒したか分からなくなってきた」
 南護は聖罰刃を振り続けていた。もはや、スキルを行使するマテリアルも枯渇している。
 しかし、それだけ攻撃していても敵の迫る勢いは衰える気配が見られなかった。
「倒しがいはあるがなっ!」
 嬉しそうにシオンは刀を突き出し、傲慢兵士を倒した。
 傲慢王族や傲慢貴族からの【強制】には携帯法術陣が役に立っている。攻撃する為、少しばかり、アイデアル・ソングの外に出る事もあるからだ。
 そこへ城内を駆け巡りながら指揮官級を倒し続けていたアルト達が合流する。
「これだけの数……尋常じゃないな」
「まだ、こんなにいるの。全く、いい加減にしてよね」
 アルトは呼吸を整えると法術刀を、セレスはうんざりとした様子でベースギターを構えた。
 連れてきたポロウが幻影魔法を張って、遠距離攻撃に備える中、リューリが戦い続けているヴァイスに声を掛けた。
「かなりの数は倒していたんでしょ?」
「そのはずなのだが。どうも、ここから奥に、まだ大量にいるようだ」
「それは可笑しいわね」
 小難しい顔をしてセレスがギターを弾きながら言った。
 全部とは言わないが、かなりの数の指揮官級倒してきたのだ。それに伴い、雑魚も倒していた。
 王城全てを埋め尽くすほど、敵がいたかもしれないが、だいぶと削ったはずなのだ。
「それじゃ、まだ召喚され続けているって事かな」
「……そういう絡繰りか。長期戦に備えていて良かったよ」
 何かに気が付いたアルトにアニスが尋ねる。
 指揮官級の傲慢王族、傲慢貴族を倒し続けても、まだ敵が出現し続ける理由とは一体何か。
「どういう事でしょうか、アルトさん」
「ミュールだよ。それも、本体だ。これだけの規模の軍勢、あの小さな簡易転移門で容易には集められないだろう」
 過去、ハンター達が遭遇した立札への【変異】による簡易転移門。
 そこからは限られた数しか出現しなかった。それにも関わらず、地を埋め尽くす程の軍勢になったのだ。
「つまり……ミュールの真の力は簡易転移門への変容を可能とする分体を……“多量に生み出せる”という事……なのですね」
 アニスの確認するような台詞にアルトは大きく頷いた。
 これまでの傲慢歪虚とは一線を画す、恐るべき力だ。
「「「それが分かった所で、どうしようもないでしょ?」」」
 奥から姿を現したのは幾体もの傲慢幼女だった。
 シャトランジの軍勢の中で、このタイプが最も少ない理由だったのは……それらが立札に【変容】して消えてしまうからだ。
「酷いよね。玉座を爆発させようなんて。そんな事をしても“ミュール達”は誰一人救えないのに」
 負のマテリアルの魔法攻撃や【強制】を繰り出して、傲慢幼女達はずかずかと大扉へと迫って来る。
 そのやや後方に、別のミュールがいた。圧倒的な負のマテリアルを周囲に放ち――次々に分体が形作られていた。
 それを止めさせない限り、幾らでも敵が出現してしまうだろう。
 南護とシオンの二人がミュールを挑発する。
「やっと来たか、お前の過去に何があったとしても、犯した罪を正当化できるってわけじゃないぜ。お仕置きの時間だ!」
「いいぞ小娘、全力でこの城を奪ってみるがいい! 貴様に出来るものならな」
 二人の言葉にピタリとミュールの動きが止まった。
「……潰れて。こんな人がいるから、“ミュール達”はいつも辛い事ばっかりなんだから!」
 怒りを爆発させたように、少女から全身から負のマテリアルが噴出する。
 それらが次々に分体になると、立札に【変容】していく。
「なんか火に油を注ぐってこういう事かな」
「そんな冷静に言ってる場合じゃないよ、セレスさん!」
 セレスの呟きにリューリが慌てて武器を構えた。
 多数の立札が一斉に開き、雪崩れ込むようにシャトランジの軍勢が現れると、南護とシオンは刀を振りながらも埋もれていった。
「回復が……間に合わないです」
「分かった。もう少し、保たせるだけでいい」
 マテリアルのオーラが包み込んだ大鎌を全力で振って、ヴァイスが体内のマテリアルを燃やした。
 チラリと視線をUiscaへと向ける。この絶体絶命の状態で仲間を信じた。
 ミュールを怒らして分体が多く出現したのならば“その逆”も可能なのかもしれないからだ。
 ヴァイスが多くの敵を引き付けた隙を突いて、Uiscaがミュールへと近づく。
 攻撃魔法も回復魔法もほぼ使い切るほど、彼女は善戦していた。残り出来る事といえば……この少女に想いを伝える事だけだ。
「聞いて、ミュールちゃん! 確かに絶望している人は沢山いる。でも、私は復讐が救済だと思わない!」
「それじゃ、どうすればいいの!? イヴ様以外の誰にも“ミュール達”の絶望は救えないのに!」
 心の奥底から叫ぶように言い返すミュール。
 少女は幼い頃に実親や家族から虐待を受けていた。名前も自由も無く、暗い地下室で寒さと飢えと痛みに震えるだけの時間。そんな絶望から誰も少女を救う事ができなかったのは事実だ。
 そして、それは……ミュールだけの話ではないだろう。だからこそ、少女は救いを求め、イヴに依存しているのだ。
 それが違うとUiscaは伝えようとした。傲慢王が支配する世界に救いはないという事を。
「私は何度でも希望を示すよ。貴女みたいな子達にも、希望があると信じられるまで!」
「そうやって何度も絶望させて!」
 Uiscaはグッと言葉を飲み込み、大きく息を吐いてから静かに告げた。
「絶望する人を救う為の組織を創りたいと思うの……何度でも絶望する時が来るかもしれない。けれど、それ以上に、希望を抱く事はできる。貴女が望めば、一緒に希望を広げられる……だからっ!」
 意を決して、Uiscaは手を伸ばした。
 その手を、ミュールは見つめる。
「本当にミュールでも、出来るの?」
「貴女じゃないと出来ない事があるから」
 その言葉にUiscaの手を取ろうとしたミュール。全身から発せられていた負のマテリアルが収まり、分体の噴出が収まった。
 だが、無情にも、二人の手が繋がる事は無かった。
 既に幾体にも出現していた傲慢幼女が、本体を一斉に攻撃したのだ。負のマテリアルの刃に全身を貫かれるミュールは茫然とした表情のまま崩れ落ちた。
 人への怒りが強い時に生み出された分体だけあって、その思考は傲慢歪虚のそれにとても近かったのだろう。分体ごとに微妙な違いがあったのは、ミュールの気分の差によって生じたものだったのだ。
 傲慢は裏切りを許さない。本体の行動は、分体達にとって、裏切りに映ったのだろう。
 冷たい床に転がったミュールを抱き起すUisca。少女の身体は、数多の歪虚や堕落者の最後と同様、塵となっていく。
「……カ……ぉ……ねえ……」
 辛うじてUiscaの名前を呼びながら、ぎこちない笑みを浮かべて、ミュールは消えていった。
 最期に見たその顔は、絶望の日々から解放されたような、そんな顔をしていたかもしれない。
「――――っ!!」
 目の前で起こった最期にUiscaは叫び声を挙げる。
 城内の隅々にまで聞こえそうな程、悲痛なまでの戦友の声を聴きながら、アルトは冷徹な眼差しで法術刀を構え直した。
「……やってくれたな」
 新たに分体が生み出される事がなくなった以上、ここで敵を殲滅すれば、それで終わりだ。
 アルトはまだ立っている仲間達を順に見渡し、頷くと、多数の傲慢幼女に向かって駆け出した。


 戦いの決着は、ハンター達と騎士団に軍配が上がった。
 戦力不足について、騎士団が補う形となったが、大きな被害に至る前に、全てのミュールを討伐したのであった。

執筆:赤山優牙
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

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