「なんだかよくわからないことになってしまいましたね」
　冒険都市リゼリオはハンターズ・ソサエティの本部を有することで知られるが、だからこそ世界各国の物流の要衝としても機能している。
　各地の名産物が黙っていても流れ込んでくるので、よほど輸送や入手が困難なものでなければ、大抵のモノが手に入る。
　ソサエティの懐事情を預かる影の権力者シルキー・アークライト(kz0013)は、今年の聖輝節でも暗躍を進め、崑崙とリゼリオ、二つの都市による大量のケーキ制作&販売で大儲けしようと、世界中から大量の材料を集めている。
　その結果、元々リアルブルーからの二度目の大転移とも呼ぶべき爆発的ハンター人口の増加に合わせ、ソサエティ本部は大混乱に陥っていた。
「ケーキ、リアルブルー人、ケーキ、リルブルー人、ケーキ、リアルブルー人……」
「しっかりしてくださいミリアさん……あなたが倒れたらソサエティはシルキーさんに乗っ取られてしまいます」
　グロッキ―状態で生まれたての小鹿のように両足をガクガクと震わせるミリア・クロスフィールド(kz0012)をルビー(kz0208)が懸命に励ます。
　うず高く積み上げられた無数のコンテナ、その中身は当然ながらケーキの材料である。
「今回のイベントでは最低でも一万個はケーキを売りさばくつもりですよ～♪」
「素朴な疑問なのですが、食品ロスにならないのでしょうか」
「余ったケーキはソサエティ関係者が美味しくいただくのと、別に崑崙に限らずに歪虚被害者の方々に配布予定ですから、余っちゃう事はないんですよ～」
「これは失礼しました。評価を大幅に上方修正……人道的なイベントですね」
「ルビーさん、シルキーさんのこと非人道的だと思ってたんですか？」
　コンテナの山の上に立つミリアを見上げながら、ルビーは感心したように両手を合わせる。
「というわけで世界平和を守るというソサエティの理念に則って世界中にケーキの材料を出荷しますよ～」
『――――ちょっと待ったァ！！』
　という掛け声と共に広場に投げ込まれる発煙筒！
　ただの煙だと正直高位のハンターにはあんまり意味ないが演出の一部である。
『我々は反逆のザンダXX（ダブルクロス）！！　クリスマスケーキの材料は頂いていく！！』
　仮面をつけた謎の男たち（覚醒者）らは、なんと魔導アーマーやCAMを用いて材料が詰まったコンテナを奪っていくではないか！！
「ダブルクロス……？　それは裏切りを意味する言葉では？」
「ルビーさんツッコミどころそこじゃないです！　町中で大型ユニットを使うなんて危ないじゃないですか！！」
「ミリアさんツッコミどころそこでもないです～！　私のおかｎ……みんなのケーキの材料を奪うなんてこの不届き者～～～～！！」
「黙れリア充どもめ！　お前ら今年もなんかすごい勢いでケーキ集めたりしながらみんなでイチャイチャするつもりだろう！　我々は何度倒されても蘇るのだ！　あとCAMの運用は安全に配慮されている！！」
　と言いながらもCAMがアサルトライフルの銃口をシルキーへと向ける。
『シルキー・アークライト！　特にケーキとか関係なくお前には色々言いたいこともある！！』
「なんですかぁ？」
『アイテム交換所で同時に複数個アイテムを交換できるようになりませんか？』
「「ただの要望」」
「なんでもいいからケーキを返してください～！　恵まれない子供達がケーキを待ってるんですよ～～～！？」
『ふははははそんなもん我々の知った事ではないわ！　だが、恵まれない子供たちに送られる予定の分はかわいそうだから手を付けていない！　これは貴様らハンターの分だああああああっ！！！』
　CAMから響き渡る高笑い。そして反逆のザンダXXたちは去っていく……。
「みなさ～ん！　人類共通の敵である反逆のザンダXXたちがケーキを奪って逃げてしまいました～！　さあ、力を合わせて追い掛けましょう～！！」
　とシルキーが呼びかけるのは、最近ハンターになったばかりのリアルブルー人たちだ。
「あの人達それなりに強いボランティアなので、結構ガッツリ殴っても大丈夫ですよ～。さあ、レクリエーション開始です！」
「レクリエーションって言っちゃってますけど大丈夫でしょうか」
「うんまあ、毎年茶番だからいいんじゃないですか？」
　このノリについていけず困惑したままシルキーに急かされて走り出す若手のハンターらを眺めながら、ルビーとミリアはみんなに手を振るのであった。