「クリスマスの補給物資の転移が妨害された…………なんでじゃ？」
　それがナディア・ドラゴネッティ（kz0207）の率直な感想であった。
　リアルブルーの月面基地崑崙との通信も、大渓谷ゲートシステムの補助を受けることでだいぶ安定してきた。
　モニター越しに姿を見せたトマーゾ・アルキミア教授は、ぽりぽりと頬をかく。
『そこはわしも理解に苦しむが……まあ、一応軍事的なものが含まれておるからな』
　崑崙と友好的な関係になったハンターズソサエティ。
　先日の崑崙防衛戦の礼として、そして友好を示すものとして補給物資の送付が開始されて間もなくのことだ。
　崑崙の転移門を用いて物資を送り込んでくれる予定が、いつまで経っても物資がこないという問題が発生した。
　調べてみると、どうやら転移先の座標が歪んでいるという事がわかったのだが、これが自然現象ではないことは明らかであった。
『VOIDが物資の転移を妨害しておるのだろう』
「てゆーか、歪虚にそんな能力あるのかの？　異世界への転移を妨害するなんて生半可ではないぞ？」
『普通に考えれば不可能じゃ。……まあ実はわしはすでにやっておるのじゃが』
「ええ、やってるの！？　不可能とはいったい……」
『歪虚限定でな。地球のすぐそばに転移するのではなく、かなり離れた場所に転移するようにしておるが、その程度じゃ』
　完全に異世界からの介入をシャットアウトする方法は今のところ存在しない。だが座標をずらすことはできる。
　それと同じことをできる者が歪虚側にいるのなら、あるいはこういったケースも起こり得るのだという。
「相当に特殊な能力じゃな。いくら強力な歪虚でもそんなことが可能なものか……？」
『歪虚の能力は幅広い。単純な戦闘力にすぐれずとも、そういう一芸を持つモノもおる』
「黙示騎士……かの？」
『だとすれば現在確認されている個体ではなく、別の個体じゃろうな』
　マクスウェルやラプラスがそうした能力を持っていたのなら、もっと別の介入を受けていただろう。
　だが、ことはリアルブルー側とのつながりをきっかけに起きたように思える。それはつまり――。
「リアルブルー側にも黙示騎士が入り込んでおるということか……？」
『すでにこっちの転移門は調整したので再発はしないじゃろうが、すでに送り込んだ分の回収は困難じゃな。座標は特定しておるので、そっちで回収に向かってくれ』
「素朴な疑問じゃが、ハンターの転移は妨害されぬのか？」
『貴様らは気持ち悪いくらい“神”の力でがんじがらめじゃからそれはないわー。むしろそれができるのならもう自由になっておるじゃろう』
「たしかに～～」
『貴様ら完全に神の奴隷ではないか。いやにならんの？』
「若干なってきてるところはあるがエバーグリーン人には言われたくない」
『補給物資の中には貴様ら用に調整したエクスシアのパーツもまじっておる。別に追加生産分を後で送るが、勿体ないので破壊される前に回収を頼んだぞ』
　そこでトマーゾとの通信は途切れてしまう。
　異世界間の通信は決まった時間にしか行えない。その頻度は増したものの、未だ不便さは拭えなかった。

「……というわけで、補給物資の回収に向かってほしい。座標そのものは特定されておるが、世界各地に散らばっておってな……リストを確認してくれ」
　オフィスに集められたハンターを前にナディアは面倒くさそうに説明する。
　職員に手渡しされたリストを確認すると、当初の到着予定地であったリゼリオから何百キロも離れた座標に転移しているものもあった。
「崑崙からの友好の証でもあるので、可能な限り回収してもらいたい。それと、補給物資の中にはクリスマスケーキも含まれているそうじゃ」
　ハンターらが顔をあげ首をかしげると、ナディアもなんとも言えない表情を浮かべる。
「リアルブルーにも聖輝節、つまりクリスマスの催しがあるらしい。その文化を味わってほしいとかなんとか……こっちにもあるんじゃけどな～」
　わしわしと頭をかき、咳ばらいを一つ。
「拾ったケーキはおぬしらで勝手に食って構わん！　補給物資は回収し持ち込めば報酬を渡そう！　色々と腑に落ちないこともあるが……ともかく、諸君らの尽力に期待するのじゃ！」
　こうして崑崙からの補給物資を探し求める戦いが始まるのであった。

「うわー、もう対応されちゃったか。トマーゾ君やるなあ」
『ククク……あのジジイを甘く見るからだ。やはり小細工など無為。力こそ歪虚の本質よ』
「ふむ……なぜマクスウェルが得意げなのだ？」
「まーいいや。何か別のアプローチを考えるかな。んじゃ二人とも、後はよろしくね」