ゲスト
(ka0000)
とある農村の異種族訪問
マスター:真太郎

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/04/23 09:00
- 完成日
- 2018/04/27 18:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
辺境には農耕ができる場所が少ない。
それは辺境が歪虚の支配地域と近いため歪虚汚染された土地も多く、雑魔の出現頻度や歪虚の襲撃が他の地域に比べて多いためである。
そのため辺境に住む者の多くは食料を輸入に頼っている。
しかし昨年、アルナス湖から南に流れるアルナス川の下流域の一角で、新しく農村が作られた。
ただ、その村は少し変わった環境にある。
人間の村なのだが、近くにはリザードマンの集落があり、近くの森にはコボルドが住み、川には精霊までいる。
精霊は争い事がない限りは他種族には不干渉で、水を媒介にした大蛇の如き姿を見る事すら稀である。
コボルドは最初は人間を警戒していたものの、自分達を襲う事もなく、食べ物をくれる優しい存在だと認知してからは人間との融和ができていた。
リザードマンは他種族と諍いは起こしていないものの、不干渉な態度を取り続けていた。
農地の開拓は昨年の秋頃から始められた。
リアルブルーと違い重機などないクリムゾンウェストでの開墾はほぼ手作業であるため、開拓は過酷な重労働を極めた。
それでも冬までには農地を作り上げる事ができた。
厳しい冬は残り僅かな資金で買い集めた食料を村人全員で分け合って乗り越えた。
そして待ちに待った春が訪れたのである。
人間の村の近くの川岸には川の精霊を祀った小さな祠が作られていて、農民達は毎朝祈りを捧げる事が日課になっていた。
(精霊様、今日も我らをお守りください……)
祈りを終えて川の対岸に目を向けると、2体のリザードマンが歩いているが見える。
「トカゲさーん。おはよー」
村長の女房で村のまとめ役的な女性(通称、女将)が挨拶をする。
リザードマンはチラッとこちらを見たが、すぐに去っていった。
「なかなか打ち解けてくれないねぇ。どうすりゃもっと仲良くできるのか……」
女将が一抹の寂しさを感じながらも畑に向かった。
今日から本格的に農作を始める。
とは言え、農耕が盛んではない辺境では農作経験者は少なく、村では村長と女将ぐらいで他はほぼ素人だ。
そのため経験者を中心にして農作業は行われた。
コボルドも群れのリーダーのロブを中心にして拙い手つきで農作業をしてくれていた。
皆が汗水を垂らして働き、日が頂点を差し掛かろうとした頃。
『逃げよ人の子』
不意に村人達の脳に意味だけが直接流れ込んでくるような【声】が響いた。
「え?」
「なに、これ?」
「誰の声なの?」
『川より悪しきものが来る。逃げよ』
皆が戸惑う中、2度目の【声】が響く。
「もしかして……精霊様かい?」
川の精霊がどんな姿でどんな話し方をするか聞いて知っていた女将が気づく。
「これが精霊様の声?」
「精霊様って本当にいたんだ!」
不安そうにしていた村人達の表情が少し和らぐ。
「でも逃げろって」
しかしその表情はすぐにまた曇った。
「悪しきものって何だ?」
「やっぱり歪虚じゃ……」
村人達が話していると、不意に川の水が大きく盛り上がった。
「精霊様?」
てっきり川の精霊が水に宿って大蛇の姿を現してくれたのだと思った。
しかし違った。
小山の如き巨体のそれは不定形にぶよぶよとした形のまま川から陸に上がってくる。
「……スライム」
「スライムだぁー!!」
村人達が一斉に逃げ出すとスライムは体を波打たせながら追ってくる。
その時、村人とスライムの間に割って入る者がいた。
長い尾と鱗に覆われた体を持つ者。
「リザードマン!?」
驚く村人を尻目にリザードマンを槍を一閃させてスライムの体表を断ち切り、進行を止める。
「トカゲさん……助けてくれるのかい?」
尋ねる女将に答えず、2体のリザードマンは槍を振るってスライムを切り刻んでゆく。
長い戦いの果に雌雄は決し、粉々に切り分けされたスライムは黒い塵と化して消えた。
どうやら雑魔と化したスライムだったらしい。
しかしリザードマンの1体は戦闘の最中にスライムに取り込まれ、溶解液で半身が焼けただれる大怪我を負っていた。
「誰か救急箱持ってきておくれ! 今手当するよトカゲさん」
女将は人を呼ぶとリザードマンの傷を診ようとしたが、手を軽く跳ね除けられる。
「え? どうして……」
『……』
リザードマンは何も言わず、仲間の肩を借りて自分達の集落へ戻っていった。
翌日、女将は御礼の品を持ってリザードマンの集落を訪れた。
しかし見張りのリザードマンに行く手を阻まれてしまう。
「昨日のお礼に言いに来たんだよ。怪我したトカゲさんは無事かい?」
身振り手振りと絵まで使って用件を話し、相手の事情も聞いた。
すると怪我をしたリザードマンは重篤な状態だと分かる。
「そんな……」
そして年寄りの何人かが人間などのために同胞が死に瀕している事を憤っているらしい。
ここのリザードマンは30年前、土地を奪おうとしてきた人間に何人もの同胞を殺された事があるため、年配の中には人間をよく思っていない者も多いのである。
だから人間は通せないと言うのだった。
「なら、せめて御礼の品を……」
川魚の入った籠を差し出したが、それも受け取って貰えなかった。
「女将さん、今日の所は戻ろう」
護衛についてきた男衆に促され、その日はそのまま村に戻った。
しかし翌日も、その翌日も通ったが、やはり通してもらえない。
その夜、女将は自宅で頭を抱えた。
「どうすりゃいいのかねぇ……」
「思わず受け取りたくなるような物、例えば海の魚など贈ってみてはどうだ」
普段は寡黙な夫である村長が告げる。
「彼らは小さな川魚しか知らない。海の大魚を見せればきっと驚くだろう」
「いいかもしれないけど、海の魚を買う程の金が何処に」
村長が黙って金を差し出す。
「どうしたんだいコレ?」
「村の衆から募った。村に残る全財産だ」
「そんな大事な金使えないよ!」
「いいんだ。この地で暮らすという事はリザードマンと共に暮らすという事だ。彼らとの友好は不可欠だよ。気にせず使いなさい。無一文になってしまうが、村の皆も分かってくれている」
村長は女将の手に金を握らせた。
口下手な村長が一軒一軒回って説明し、頭を下げてきただろう苦労が容易に想像できた。
感謝の念で胸が思わず熱くなる。
「ありがとう! あんたは最高の旦那だよ」
女将は感激のあまり村長に抱きついた。
「あたしゃ幸せもんだ。村のみんなにも御礼を言わなきゃいけないねぇ」
翌朝、女将は商人を通じて大魚を注文した。
そして届いたのは体長80cmもある立派なブリだった。
「これなら驚くこと間違いなし! きっと受け取ってくれるわ」
女将は満足顔だが、まだ不十分だった。
御礼の品を受け取ってもらうだけではなく、ちゃんと直接御礼を言いたいのである。
そのため女将は注文した際、ハンターにブリの輸送と共にリザードマンへ御礼をするための手助けもして貰えるよう依頼していたのだった。
それは辺境が歪虚の支配地域と近いため歪虚汚染された土地も多く、雑魔の出現頻度や歪虚の襲撃が他の地域に比べて多いためである。
そのため辺境に住む者の多くは食料を輸入に頼っている。
しかし昨年、アルナス湖から南に流れるアルナス川の下流域の一角で、新しく農村が作られた。
ただ、その村は少し変わった環境にある。
人間の村なのだが、近くにはリザードマンの集落があり、近くの森にはコボルドが住み、川には精霊までいる。
精霊は争い事がない限りは他種族には不干渉で、水を媒介にした大蛇の如き姿を見る事すら稀である。
コボルドは最初は人間を警戒していたものの、自分達を襲う事もなく、食べ物をくれる優しい存在だと認知してからは人間との融和ができていた。
リザードマンは他種族と諍いは起こしていないものの、不干渉な態度を取り続けていた。
農地の開拓は昨年の秋頃から始められた。
リアルブルーと違い重機などないクリムゾンウェストでの開墾はほぼ手作業であるため、開拓は過酷な重労働を極めた。
それでも冬までには農地を作り上げる事ができた。
厳しい冬は残り僅かな資金で買い集めた食料を村人全員で分け合って乗り越えた。
そして待ちに待った春が訪れたのである。
人間の村の近くの川岸には川の精霊を祀った小さな祠が作られていて、農民達は毎朝祈りを捧げる事が日課になっていた。
(精霊様、今日も我らをお守りください……)
祈りを終えて川の対岸に目を向けると、2体のリザードマンが歩いているが見える。
「トカゲさーん。おはよー」
村長の女房で村のまとめ役的な女性(通称、女将)が挨拶をする。
リザードマンはチラッとこちらを見たが、すぐに去っていった。
「なかなか打ち解けてくれないねぇ。どうすりゃもっと仲良くできるのか……」
女将が一抹の寂しさを感じながらも畑に向かった。
今日から本格的に農作を始める。
とは言え、農耕が盛んではない辺境では農作経験者は少なく、村では村長と女将ぐらいで他はほぼ素人だ。
そのため経験者を中心にして農作業は行われた。
コボルドも群れのリーダーのロブを中心にして拙い手つきで農作業をしてくれていた。
皆が汗水を垂らして働き、日が頂点を差し掛かろうとした頃。
『逃げよ人の子』
不意に村人達の脳に意味だけが直接流れ込んでくるような【声】が響いた。
「え?」
「なに、これ?」
「誰の声なの?」
『川より悪しきものが来る。逃げよ』
皆が戸惑う中、2度目の【声】が響く。
「もしかして……精霊様かい?」
川の精霊がどんな姿でどんな話し方をするか聞いて知っていた女将が気づく。
「これが精霊様の声?」
「精霊様って本当にいたんだ!」
不安そうにしていた村人達の表情が少し和らぐ。
「でも逃げろって」
しかしその表情はすぐにまた曇った。
「悪しきものって何だ?」
「やっぱり歪虚じゃ……」
村人達が話していると、不意に川の水が大きく盛り上がった。
「精霊様?」
てっきり川の精霊が水に宿って大蛇の姿を現してくれたのだと思った。
しかし違った。
小山の如き巨体のそれは不定形にぶよぶよとした形のまま川から陸に上がってくる。
「……スライム」
「スライムだぁー!!」
村人達が一斉に逃げ出すとスライムは体を波打たせながら追ってくる。
その時、村人とスライムの間に割って入る者がいた。
長い尾と鱗に覆われた体を持つ者。
「リザードマン!?」
驚く村人を尻目にリザードマンを槍を一閃させてスライムの体表を断ち切り、進行を止める。
「トカゲさん……助けてくれるのかい?」
尋ねる女将に答えず、2体のリザードマンは槍を振るってスライムを切り刻んでゆく。
長い戦いの果に雌雄は決し、粉々に切り分けされたスライムは黒い塵と化して消えた。
どうやら雑魔と化したスライムだったらしい。
しかしリザードマンの1体は戦闘の最中にスライムに取り込まれ、溶解液で半身が焼けただれる大怪我を負っていた。
「誰か救急箱持ってきておくれ! 今手当するよトカゲさん」
女将は人を呼ぶとリザードマンの傷を診ようとしたが、手を軽く跳ね除けられる。
「え? どうして……」
『……』
リザードマンは何も言わず、仲間の肩を借りて自分達の集落へ戻っていった。
翌日、女将は御礼の品を持ってリザードマンの集落を訪れた。
しかし見張りのリザードマンに行く手を阻まれてしまう。
「昨日のお礼に言いに来たんだよ。怪我したトカゲさんは無事かい?」
身振り手振りと絵まで使って用件を話し、相手の事情も聞いた。
すると怪我をしたリザードマンは重篤な状態だと分かる。
「そんな……」
そして年寄りの何人かが人間などのために同胞が死に瀕している事を憤っているらしい。
ここのリザードマンは30年前、土地を奪おうとしてきた人間に何人もの同胞を殺された事があるため、年配の中には人間をよく思っていない者も多いのである。
だから人間は通せないと言うのだった。
「なら、せめて御礼の品を……」
川魚の入った籠を差し出したが、それも受け取って貰えなかった。
「女将さん、今日の所は戻ろう」
護衛についてきた男衆に促され、その日はそのまま村に戻った。
しかし翌日も、その翌日も通ったが、やはり通してもらえない。
その夜、女将は自宅で頭を抱えた。
「どうすりゃいいのかねぇ……」
「思わず受け取りたくなるような物、例えば海の魚など贈ってみてはどうだ」
普段は寡黙な夫である村長が告げる。
「彼らは小さな川魚しか知らない。海の大魚を見せればきっと驚くだろう」
「いいかもしれないけど、海の魚を買う程の金が何処に」
村長が黙って金を差し出す。
「どうしたんだいコレ?」
「村の衆から募った。村に残る全財産だ」
「そんな大事な金使えないよ!」
「いいんだ。この地で暮らすという事はリザードマンと共に暮らすという事だ。彼らとの友好は不可欠だよ。気にせず使いなさい。無一文になってしまうが、村の皆も分かってくれている」
村長は女将の手に金を握らせた。
口下手な村長が一軒一軒回って説明し、頭を下げてきただろう苦労が容易に想像できた。
感謝の念で胸が思わず熱くなる。
「ありがとう! あんたは最高の旦那だよ」
女将は感激のあまり村長に抱きついた。
「あたしゃ幸せもんだ。村のみんなにも御礼を言わなきゃいけないねぇ」
翌朝、女将は商人を通じて大魚を注文した。
そして届いたのは体長80cmもある立派なブリだった。
「これなら驚くこと間違いなし! きっと受け取ってくれるわ」
女将は満足顔だが、まだ不十分だった。
御礼の品を受け取ってもらうだけではなく、ちゃんと直接御礼を言いたいのである。
そのため女将は注文した際、ハンターにブリの輸送と共にリザードマンへ御礼をするための手助けもして貰えるよう依頼していたのだった。
リプレイ本文
「この村に来ンのも久し振りだな。ロブ達は元気に働いてっかな?」
昨年の秋、コボルドの子供の出産祝いの手伝いで村に来た大伴 鈴太郎(ka6016)は見知っているコボルドの事を思った。
「今回はリザードマンへの見舞いの手伝いですか。過去の遺恨から敵意や警戒心を持たれるのは当然であり、仕方のない事ですが」
保・はじめ(ka5800)は異種族調停での訪問はこれで3度目になる。
「皆が仲良くできるのが1番なのっ♪」
保の言葉尻を受けて白樺(ka4596)が声を上げる。
「そのためには胃袋親善ですぅ。このブリを美味しく調理して、リザードマンさんの心も胃袋もバッチリ掴むですぅ」
星野 ハナ(ka5852)は簡易竈や[CS]鉄人の鍋等を持参してきており、料理する気まんまんだ。
「だからシロにも女将さんとあの子達のお手伝いさせてね?」
「ありがとね。正直あたしらだけじゃ集落にすら入れさせてもらえなくて困ってたんだ」
にこぱ、と笑顔を見せる白樺の頭を女将が撫でる。
「秋に来た時は、オレ達もリザードマンに釣り場を教えて貰ったかンな。礼に行くなら協力すンぜ! でも行く前にやって欲しい事もあンだ。これ見てくれ」
鈴太郎が持参した[CS]クリムゾンウェスト薬草百科を開き、[火傷][鎮痛][感染症予防]等のページを見せる。
「こン中にこの辺でも取れる薬草ねぇかな? あンなら持って行きてぇンだ」
「そうだねぇ……コレとコレ、あとコレなんかは見た事あるね。探せばすぐ見つかるだろうから、手の空いてる村の衆にも探させるよ」
「シロもお手伝いするぅ~」
「じゃあ、一緒に探してくれるかい?」
「うん♪」
白樺は女将と手をつなぐと薬草探しに向かった。
鈴太郎はコボルドにも協力してもらおうと森へ行く。
「オーッス、ロブ!」
森の前の畑の中でロブを見つけた鈴太郎は手を振った。
『バウッ』
一声鳴いて応じてくれた。たぶん挨拶してくれたのだろう。
「元気だったか。また会えて嬉しいぜ。今日はちょっと頼みあンだよ。これこれ。この絵と同じ草が生えてるトコに連れてってくンねぇかな?」
薬草百科の森に自生する薬草のページを開いて見せて、身振り手振りで説明する。
「もちろんタダでとは言わねぇからさ」
干し肉を渡すと、ロブはしばらく何か考えこんだ後、手招きしてから森の中に入っていった。
「案内してくれンだな。サンキュー」
一方、ハナは薬草を採りながら他の副産物も見つけていた。
「女将さーん。これ薬草じゃないですけど、ここからここまで全部ハーブですよぅ」
ハナが草原の一角の200mくらいの範囲を指し示す。
「こんなに! これ全部食べられるのかい?」
女将は驚いた後、歓喜で目を輝かせる。
「そうですぅ。これは生でも食べられますからサラダでどうぞぅ。こっちは魚なんかの臭み消しに使えますぅ。これは苦味が強いのでぇ、そうですねぇ……掻き揚げとかいいかもしれませんねぇ」
「教えてくれてありがとう。うちは貧乏だから食べられる物が増えると助かるよぉ~。ホントありがと!」
女将はハナの手を握ってぶんぶん振ると、早速ハーブを収穫しようとした。
「女将さん、今は薬草を採ってくださいねぇ。ハーブは逃げませんからぁ」
「あ、そうだったね。悪い悪い。思わず手が出ちまった」
ハナに窘めらた女将は照れくさそうに笑った。
そうして必要な分の薬草を集めたハンター達は女将を連れてリザードマンの集落へ向かった。
「無抵抗の証って言ったら白旗かな?」
そう考えた白樺は棒の先に括り付けた白いハンカチをふりふりと振りながら近づく。
しかし見張りのリザードマンは弓を引き絞り、何か声を発した。
おそらく「止まれ」と言ったのだろう。
「シロたち怪しい者じゃありませーん。お礼と怪我したリザードマンさんの治療に来ただけなのー」
白樺が諸手を挙げて無抵抗をアピールしながら訴えかける。
「私は星野ハナと申しますぅ。御見舞品のブリの調理に来ましたぁ」
ハナは自己紹介してからブリを持ち上げて見張りに見せた。
「見てください、この立派なブリ! 脂ものっててとーっても美味しいですよぅ」
ブリを見た見張りは驚いたのか、表情が変わるのが見て取れた。
だからと言ってそれで通して貰えるわけもなく、また何か言われる。
おそらく「帰れ」と言ったのだろう。
「スライムに取り込まれて大怪我を負ったリザードマンの容態が良くないと聞きました。僕らならその治療が可能です。その証拠を今からお見せします」
保はたいまつを灯けると、その火を自分の腕に押し付けた。
「くっ!」
腕の焼ける痛みに保の顔が歪み、額に脂汗が滲む。
「見てて下さい」
そして火傷を負った腕をよく見えるように掲げると『再生の祈り』を発動。
祈りの力を癒し変換した波動が放たれ、見る見るうちに火傷が治ってゆく。
その光景を見た見張りのリザードマンは驚きで目を大きく見開いた。
「触って確認して下さい」
保は相手を刺激しないようにゆっくりと近づき、治した腕を差し出した。
見張りは保の腕を仔細に眺めてからペタペタと触れる。
「これは他者に施す事も可能です」
「それに薬草を使った治療法も享受すンぜ」
「今なら美味しいブリもセットで付いてきて、とーってもお買い得ですよぅ」
鈴太郎が各種の薬草を、ハナがブリを見せつけて更にダメ押す。
見張りリザードマンはしばらく考え込むと、やがて「ここで待て」というようなジェスチャーをした後、集落の中へ入っていった。
しばらく待つと、見張りのリザードマンが粘土板を持ったリザードマンを連れて戻ってきた。
リザードマンが粘土板を見せてくる。
そこには『長老の許可が降りました。私が案内しますので、中へどうぞ』と書かれていた。
「ようやく分かってもらえたんだね、嬉しいよ。ところであんたはあたしらの言葉が分かるのかい?」
女将がリザードマンに聞くと、彼女は首を振り、粘土板に文字を書いた。
『いえ、人間の言葉は聞き取りづらくて分かりません。ですが文字は覚えましたので、この粘土板を介して文字で伝えてくれれば分かります』
「そうなのかい。でも文字だけでも分かる人がいてくれるとありがたいよ」
『はい、通訳は任せて下さい』
ハンター達は通訳の案内で通ろうとしたが、見張りがハナの荷物を見咎めた。
リザードマンには簡易竈が何か分からず、怪しい物に見えたのだ。
ハナの持ち物は検閲を受け、「なぜ大量の武器を持ち込もうとしたのか?」と咎められる。
「竈は料理の火を保つための道具なんですよぅ。これは鈍器ではなくスキレット、つまり炒め物とかする道具ですぅ。それは剣じゃないですぅ。大きな魚を捌くための包丁なんですぅ~。どれも武器じゃないんですよぅ~」
ハナは懸命に説明したが、リザードマンには料理の習慣がないためか納得してもらえず、バトルスキレット「フルムーン」と大包丁は持ち込み不可とされた。
「村内への持ち込みがダメならここで調理してしまうですぅ」
「いやいや! トカゲさん達には調理前のブリを見て欲しいんだよ。それは止めとくれ」
事前調理は女将に止められたため、ハナは仕方なくスキレットと大包丁をリザードマンに預けた。
「これじゃ料理のレパートリー減っちゃうですぅ~」
「入れるだけでもマシだろ。オレらが何か企ンでるって思われて追い返されてた可能性だってあンだからさ」
鈴太郎は気落ちするハナを連れて集落に足を踏み入れた。
集落に入った鈴太郎は通訳のリザードマンに1つ頼み事をした。
「なぁ、アンタらと同じ格好してぇから、服貸してくンねぇかな?」
『構いませんけど』
通訳は何故同じ格好をしたいのか不思議に思いながらも腰布を貸してくれた。
鈴太郎は服を脱いでビキニ水着姿になると、腰布を付けた。
「どうだ? 仲間に見られっかな?」
鈴太郎は同じ格好をした自分に同族意識を抱いてもらって場の空気を和らげるつもりでいた。
しかし単に腰布付けただけの人間にしか見えず。皆がコメントに困り、その空気を鈴太郎も察する。
「まぁ、郷にいれば郷に従えって言うじゃねぇか。女将さんも一緒にどうだ?」
「いやいや勘弁しとくれ。あたしみたいな腹出たおばさんが着たって見苦しいだけさ」
女将には拒否されたが、鈴太郎は集落内ではこの格好で過ごし続けた。
「まずは見舞いに行かせてくれるかい。お礼を言ってからブリを見て貰いたいんだよ」
『こちらです』
女将の頼みで通訳が案内してくれるが、兵士と思われるリザードマンも何人かついてくる。
(やはり完全に信用されてはいませんか)
保はさり気なく女将を何時でも庇える位置について歩いた。
怪我人は草で作ったベッドのようなものに寝かされていた。
火傷にはペースト状にした薬草が塗られているが、息が荒くて苦しそうだ。
「トカゲさん、この間は助けてくれてありがとう。お陰で村も村人も無事だよ。あんたはあたし達の救世主だ」
女将が粘土板に書き込みながら話しかけ、粘土板の文字を読んだ通訳がそれを伝える。
鈴太郎は怪我人の肌に触れてみると、かなり体温が高くなっていた。
「やべぇ、熱高ぇぞ。感染症からの炎症も起こしてるかもしンねぇ」
「シロが治してあげるから安心して。痛いの痛いのとんでけ~なのっ!」
白樺の『フルリカバリー』の暖かく強い光がリザードマンの体を包んでゆく。
すると見る見るうちに焼け爛れていた皮膚が治ってゆく。
更に炎症対策に『キュア』も施す。
リザードマンは身を起こし、不思議そうに火傷の跡に触れた。
「これでもう大丈夫なのっ♪」
白樺がニッコリ笑う。
「ねぇ、トカゲさん。どうしてそんな大怪我してまであたしらを助けてくれたんだい?」
『自分はべつに人間は好きでも嫌いでもない。だが人間が自分達と友好を結びたがっている事は知っていた。好意を向けてくる者の危機を見過ごす事は恥であるため助けたのだ。自分の挟持で助けただけだ。礼はいらない』
「でもよぉ、受けた恩義に礼儀で返さねぇのは人間にとっちゃ恥だぜ。ま、小難しいこた抜きに、助けて貰ったら感謝を伝えてぇってだけだよ。な、女将サン?」
鈴太郎が女将に話を振る。
「そうさ。だからお礼のこの魚、受け取ってくれるかい」
『受け取ろう。そして傷を癒やしてくれた事、感謝する』
怪我人だったリザードマンは笑みと共にブリを受け取ってくれた。
『しかしこれは……どうやって食べればいいのだ?』
受け取ったものの、口を開けても頭がギリギリ入るくらいの大きさで戸惑っている。
「そういう事なら私の出番ですぅ! 食べやすく調理してあげるですぅ」
ここぞとばかりにハナが勢い込む。
場所を集落の広場へ移したハナは竈に火を焚き、鍋で湯を沸かした。
周囲では何が起こるのかと興味津々なリザードマン達が見物している。
「女将さん、やり方を見ててくださいねぇ。今後三種族全部集まってのお祭りだってあると思いますからぁ」
ハナはペティナイフで頭を落とし、腹を割いて内蔵を取り、片身を剥がすところまでやって見せた。
「反対の身は女将さんがやってみて下さいねぇ」
「上手くできるかねぇ……」
女将も何とか片身を削いだ。
「上手ですよぉ。身は刺し身でお願いしますぅ。ただ、口の大きさが違うなら美味しく食べられる大きさも違うでしょうから気をつけてくださいねぇ。相手に供する時はそういう想像力必須ですぅ」
ハナは手本で刺し身は少し作ると後は女将に任せ、鰤の頭を茹で始める。
そして軽く味付けした鍋の煮汁を女将に味見にしてもらう。
「生食しかしないなら私達の味付けは濃すぎて食べられないでしょうからぁ。今日リザードマンさんが喜んだ味付けを次は貴女がすればいいと思いますぅ」
保は出来上がった刺し身と煮魚を、食べ方を見せると称して毒味をしてみせた。
「このように手掴みで構いませんので、どうぞ」
リザードマン達は毒の疑いなど初めから抱いていなかったのか、興味津々だった見た事のない大きな魚を遠慮なく食べてゆく。
評判は。
がつがつ。
もぐもぐ。
パクパク。
食べる勢いと嬉しそうな表情を見れば聞くまでもなかった。
ハナはブリの頭茹での中身を掻き出し、極々微量の塩を振り、怪我人だったリザードマンに渡した。
「これは怪我人さんにどうぞぉ」
煮魚は初めてだったのか、少し戸惑いつつも口に入れる。
「お味はどうですかぁ?」
『これはこれで美味い』
という評価をしてくれたものの、中にはイマイチと言う者もいて、評価は半々といったところだった。
ただ、煮汁は大多数が美味いと言ってくれて好評だった。
食事が終わると、白樺と鈴太郎が薬草の解説を始める。
「シロたちが薬草の正しい使い方を説明するので聞いて欲しいの」
「今日はオレらが治したけど、自分達でも治せる方がいぃかンな」
2人は解説で手が塞がるので、保が聞き取って粘土板に書き、それを通訳してもらう。
白樺は採ってきた薬草の効果を一つ一つ解説する。
「これは毒なの。でもこっちのと一緒に食べれば薬になるの」
単体では毒でも合わせる事で治療薬になる物は実際に食べてみせ、毒だけ食べた時の解毒方もキチンと教える。
鈴太郎は看護師になると決めてからの一年半で教わってきた知識を総動員し、皆で集めた薬草を磨り潰したり煮だしたりして煎じて見せた。
「コイツはこうやって磨り潰した方が効果があンだ。で、患部に塗る」
リザードマン達は真剣に聞き入ってくれた。
「最後まで聞いてくれてありがとうなの。シロは人間だけど、貴方達の敵じゃないの……って、知ってほしいの。全部の人間が悪いんじゃ無いって識っててほしいの」
白樺がそう締めくくり、薬草の解説会を終えた。
今回の訪問でのリザードマンの自分達に対する反応は悪くなかったように保には感じられた。
(人間は役に立つ、という利害や損得が理由であっても今は構いません。この件が、村人に対する警戒心の緩和や交流の黙認に繋がれば、まずは上出来です)
なので保は今回の結果に満足しながら帰路についた。
ハナは女将の案内で川の精霊を祀る祠へやってきた。
「精霊さま今回はありがとうございましたぁ。感謝の気持ちを込めてミナワさまって名前を贈らせていただいても良いですぅ? 水の和で輪でミナワですぅ」
川は静かに流れるだけで返事はない。
ここの精霊は基本的に人間に不干渉なのである。
「ハナさん。いい名前だとは思うんだけど、精霊様もう名前を持ってらっしゃるかもしれないし、勝手に付けた名前で呼んでもいいのかねぇ?」
「そうですねぇ。では名前を聞いてなかったらミナワさまという事でぇ」
しかしどれだけ待っても川の精霊は現れなかったため、暫定的に『ミナワ』となった。
「もっと精霊さまとみんなが仲良くなるようお祈り申し上げますぅ」
ハナは最後に村人と共に祈りを捧げた。
昨年の秋、コボルドの子供の出産祝いの手伝いで村に来た大伴 鈴太郎(ka6016)は見知っているコボルドの事を思った。
「今回はリザードマンへの見舞いの手伝いですか。過去の遺恨から敵意や警戒心を持たれるのは当然であり、仕方のない事ですが」
保・はじめ(ka5800)は異種族調停での訪問はこれで3度目になる。
「皆が仲良くできるのが1番なのっ♪」
保の言葉尻を受けて白樺(ka4596)が声を上げる。
「そのためには胃袋親善ですぅ。このブリを美味しく調理して、リザードマンさんの心も胃袋もバッチリ掴むですぅ」
星野 ハナ(ka5852)は簡易竈や[CS]鉄人の鍋等を持参してきており、料理する気まんまんだ。
「だからシロにも女将さんとあの子達のお手伝いさせてね?」
「ありがとね。正直あたしらだけじゃ集落にすら入れさせてもらえなくて困ってたんだ」
にこぱ、と笑顔を見せる白樺の頭を女将が撫でる。
「秋に来た時は、オレ達もリザードマンに釣り場を教えて貰ったかンな。礼に行くなら協力すンぜ! でも行く前にやって欲しい事もあンだ。これ見てくれ」
鈴太郎が持参した[CS]クリムゾンウェスト薬草百科を開き、[火傷][鎮痛][感染症予防]等のページを見せる。
「こン中にこの辺でも取れる薬草ねぇかな? あンなら持って行きてぇンだ」
「そうだねぇ……コレとコレ、あとコレなんかは見た事あるね。探せばすぐ見つかるだろうから、手の空いてる村の衆にも探させるよ」
「シロもお手伝いするぅ~」
「じゃあ、一緒に探してくれるかい?」
「うん♪」
白樺は女将と手をつなぐと薬草探しに向かった。
鈴太郎はコボルドにも協力してもらおうと森へ行く。
「オーッス、ロブ!」
森の前の畑の中でロブを見つけた鈴太郎は手を振った。
『バウッ』
一声鳴いて応じてくれた。たぶん挨拶してくれたのだろう。
「元気だったか。また会えて嬉しいぜ。今日はちょっと頼みあンだよ。これこれ。この絵と同じ草が生えてるトコに連れてってくンねぇかな?」
薬草百科の森に自生する薬草のページを開いて見せて、身振り手振りで説明する。
「もちろんタダでとは言わねぇからさ」
干し肉を渡すと、ロブはしばらく何か考えこんだ後、手招きしてから森の中に入っていった。
「案内してくれンだな。サンキュー」
一方、ハナは薬草を採りながら他の副産物も見つけていた。
「女将さーん。これ薬草じゃないですけど、ここからここまで全部ハーブですよぅ」
ハナが草原の一角の200mくらいの範囲を指し示す。
「こんなに! これ全部食べられるのかい?」
女将は驚いた後、歓喜で目を輝かせる。
「そうですぅ。これは生でも食べられますからサラダでどうぞぅ。こっちは魚なんかの臭み消しに使えますぅ。これは苦味が強いのでぇ、そうですねぇ……掻き揚げとかいいかもしれませんねぇ」
「教えてくれてありがとう。うちは貧乏だから食べられる物が増えると助かるよぉ~。ホントありがと!」
女将はハナの手を握ってぶんぶん振ると、早速ハーブを収穫しようとした。
「女将さん、今は薬草を採ってくださいねぇ。ハーブは逃げませんからぁ」
「あ、そうだったね。悪い悪い。思わず手が出ちまった」
ハナに窘めらた女将は照れくさそうに笑った。
そうして必要な分の薬草を集めたハンター達は女将を連れてリザードマンの集落へ向かった。
「無抵抗の証って言ったら白旗かな?」
そう考えた白樺は棒の先に括り付けた白いハンカチをふりふりと振りながら近づく。
しかし見張りのリザードマンは弓を引き絞り、何か声を発した。
おそらく「止まれ」と言ったのだろう。
「シロたち怪しい者じゃありませーん。お礼と怪我したリザードマンさんの治療に来ただけなのー」
白樺が諸手を挙げて無抵抗をアピールしながら訴えかける。
「私は星野ハナと申しますぅ。御見舞品のブリの調理に来ましたぁ」
ハナは自己紹介してからブリを持ち上げて見張りに見せた。
「見てください、この立派なブリ! 脂ものっててとーっても美味しいですよぅ」
ブリを見た見張りは驚いたのか、表情が変わるのが見て取れた。
だからと言ってそれで通して貰えるわけもなく、また何か言われる。
おそらく「帰れ」と言ったのだろう。
「スライムに取り込まれて大怪我を負ったリザードマンの容態が良くないと聞きました。僕らならその治療が可能です。その証拠を今からお見せします」
保はたいまつを灯けると、その火を自分の腕に押し付けた。
「くっ!」
腕の焼ける痛みに保の顔が歪み、額に脂汗が滲む。
「見てて下さい」
そして火傷を負った腕をよく見えるように掲げると『再生の祈り』を発動。
祈りの力を癒し変換した波動が放たれ、見る見るうちに火傷が治ってゆく。
その光景を見た見張りのリザードマンは驚きで目を大きく見開いた。
「触って確認して下さい」
保は相手を刺激しないようにゆっくりと近づき、治した腕を差し出した。
見張りは保の腕を仔細に眺めてからペタペタと触れる。
「これは他者に施す事も可能です」
「それに薬草を使った治療法も享受すンぜ」
「今なら美味しいブリもセットで付いてきて、とーってもお買い得ですよぅ」
鈴太郎が各種の薬草を、ハナがブリを見せつけて更にダメ押す。
見張りリザードマンはしばらく考え込むと、やがて「ここで待て」というようなジェスチャーをした後、集落の中へ入っていった。
しばらく待つと、見張りのリザードマンが粘土板を持ったリザードマンを連れて戻ってきた。
リザードマンが粘土板を見せてくる。
そこには『長老の許可が降りました。私が案内しますので、中へどうぞ』と書かれていた。
「ようやく分かってもらえたんだね、嬉しいよ。ところであんたはあたしらの言葉が分かるのかい?」
女将がリザードマンに聞くと、彼女は首を振り、粘土板に文字を書いた。
『いえ、人間の言葉は聞き取りづらくて分かりません。ですが文字は覚えましたので、この粘土板を介して文字で伝えてくれれば分かります』
「そうなのかい。でも文字だけでも分かる人がいてくれるとありがたいよ」
『はい、通訳は任せて下さい』
ハンター達は通訳の案内で通ろうとしたが、見張りがハナの荷物を見咎めた。
リザードマンには簡易竈が何か分からず、怪しい物に見えたのだ。
ハナの持ち物は検閲を受け、「なぜ大量の武器を持ち込もうとしたのか?」と咎められる。
「竈は料理の火を保つための道具なんですよぅ。これは鈍器ではなくスキレット、つまり炒め物とかする道具ですぅ。それは剣じゃないですぅ。大きな魚を捌くための包丁なんですぅ~。どれも武器じゃないんですよぅ~」
ハナは懸命に説明したが、リザードマンには料理の習慣がないためか納得してもらえず、バトルスキレット「フルムーン」と大包丁は持ち込み不可とされた。
「村内への持ち込みがダメならここで調理してしまうですぅ」
「いやいや! トカゲさん達には調理前のブリを見て欲しいんだよ。それは止めとくれ」
事前調理は女将に止められたため、ハナは仕方なくスキレットと大包丁をリザードマンに預けた。
「これじゃ料理のレパートリー減っちゃうですぅ~」
「入れるだけでもマシだろ。オレらが何か企ンでるって思われて追い返されてた可能性だってあンだからさ」
鈴太郎は気落ちするハナを連れて集落に足を踏み入れた。
集落に入った鈴太郎は通訳のリザードマンに1つ頼み事をした。
「なぁ、アンタらと同じ格好してぇから、服貸してくンねぇかな?」
『構いませんけど』
通訳は何故同じ格好をしたいのか不思議に思いながらも腰布を貸してくれた。
鈴太郎は服を脱いでビキニ水着姿になると、腰布を付けた。
「どうだ? 仲間に見られっかな?」
鈴太郎は同じ格好をした自分に同族意識を抱いてもらって場の空気を和らげるつもりでいた。
しかし単に腰布付けただけの人間にしか見えず。皆がコメントに困り、その空気を鈴太郎も察する。
「まぁ、郷にいれば郷に従えって言うじゃねぇか。女将さんも一緒にどうだ?」
「いやいや勘弁しとくれ。あたしみたいな腹出たおばさんが着たって見苦しいだけさ」
女将には拒否されたが、鈴太郎は集落内ではこの格好で過ごし続けた。
「まずは見舞いに行かせてくれるかい。お礼を言ってからブリを見て貰いたいんだよ」
『こちらです』
女将の頼みで通訳が案内してくれるが、兵士と思われるリザードマンも何人かついてくる。
(やはり完全に信用されてはいませんか)
保はさり気なく女将を何時でも庇える位置について歩いた。
怪我人は草で作ったベッドのようなものに寝かされていた。
火傷にはペースト状にした薬草が塗られているが、息が荒くて苦しそうだ。
「トカゲさん、この間は助けてくれてありがとう。お陰で村も村人も無事だよ。あんたはあたし達の救世主だ」
女将が粘土板に書き込みながら話しかけ、粘土板の文字を読んだ通訳がそれを伝える。
鈴太郎は怪我人の肌に触れてみると、かなり体温が高くなっていた。
「やべぇ、熱高ぇぞ。感染症からの炎症も起こしてるかもしンねぇ」
「シロが治してあげるから安心して。痛いの痛いのとんでけ~なのっ!」
白樺の『フルリカバリー』の暖かく強い光がリザードマンの体を包んでゆく。
すると見る見るうちに焼け爛れていた皮膚が治ってゆく。
更に炎症対策に『キュア』も施す。
リザードマンは身を起こし、不思議そうに火傷の跡に触れた。
「これでもう大丈夫なのっ♪」
白樺がニッコリ笑う。
「ねぇ、トカゲさん。どうしてそんな大怪我してまであたしらを助けてくれたんだい?」
『自分はべつに人間は好きでも嫌いでもない。だが人間が自分達と友好を結びたがっている事は知っていた。好意を向けてくる者の危機を見過ごす事は恥であるため助けたのだ。自分の挟持で助けただけだ。礼はいらない』
「でもよぉ、受けた恩義に礼儀で返さねぇのは人間にとっちゃ恥だぜ。ま、小難しいこた抜きに、助けて貰ったら感謝を伝えてぇってだけだよ。な、女将サン?」
鈴太郎が女将に話を振る。
「そうさ。だからお礼のこの魚、受け取ってくれるかい」
『受け取ろう。そして傷を癒やしてくれた事、感謝する』
怪我人だったリザードマンは笑みと共にブリを受け取ってくれた。
『しかしこれは……どうやって食べればいいのだ?』
受け取ったものの、口を開けても頭がギリギリ入るくらいの大きさで戸惑っている。
「そういう事なら私の出番ですぅ! 食べやすく調理してあげるですぅ」
ここぞとばかりにハナが勢い込む。
場所を集落の広場へ移したハナは竈に火を焚き、鍋で湯を沸かした。
周囲では何が起こるのかと興味津々なリザードマン達が見物している。
「女将さん、やり方を見ててくださいねぇ。今後三種族全部集まってのお祭りだってあると思いますからぁ」
ハナはペティナイフで頭を落とし、腹を割いて内蔵を取り、片身を剥がすところまでやって見せた。
「反対の身は女将さんがやってみて下さいねぇ」
「上手くできるかねぇ……」
女将も何とか片身を削いだ。
「上手ですよぉ。身は刺し身でお願いしますぅ。ただ、口の大きさが違うなら美味しく食べられる大きさも違うでしょうから気をつけてくださいねぇ。相手に供する時はそういう想像力必須ですぅ」
ハナは手本で刺し身は少し作ると後は女将に任せ、鰤の頭を茹で始める。
そして軽く味付けした鍋の煮汁を女将に味見にしてもらう。
「生食しかしないなら私達の味付けは濃すぎて食べられないでしょうからぁ。今日リザードマンさんが喜んだ味付けを次は貴女がすればいいと思いますぅ」
保は出来上がった刺し身と煮魚を、食べ方を見せると称して毒味をしてみせた。
「このように手掴みで構いませんので、どうぞ」
リザードマン達は毒の疑いなど初めから抱いていなかったのか、興味津々だった見た事のない大きな魚を遠慮なく食べてゆく。
評判は。
がつがつ。
もぐもぐ。
パクパク。
食べる勢いと嬉しそうな表情を見れば聞くまでもなかった。
ハナはブリの頭茹での中身を掻き出し、極々微量の塩を振り、怪我人だったリザードマンに渡した。
「これは怪我人さんにどうぞぉ」
煮魚は初めてだったのか、少し戸惑いつつも口に入れる。
「お味はどうですかぁ?」
『これはこれで美味い』
という評価をしてくれたものの、中にはイマイチと言う者もいて、評価は半々といったところだった。
ただ、煮汁は大多数が美味いと言ってくれて好評だった。
食事が終わると、白樺と鈴太郎が薬草の解説を始める。
「シロたちが薬草の正しい使い方を説明するので聞いて欲しいの」
「今日はオレらが治したけど、自分達でも治せる方がいぃかンな」
2人は解説で手が塞がるので、保が聞き取って粘土板に書き、それを通訳してもらう。
白樺は採ってきた薬草の効果を一つ一つ解説する。
「これは毒なの。でもこっちのと一緒に食べれば薬になるの」
単体では毒でも合わせる事で治療薬になる物は実際に食べてみせ、毒だけ食べた時の解毒方もキチンと教える。
鈴太郎は看護師になると決めてからの一年半で教わってきた知識を総動員し、皆で集めた薬草を磨り潰したり煮だしたりして煎じて見せた。
「コイツはこうやって磨り潰した方が効果があンだ。で、患部に塗る」
リザードマン達は真剣に聞き入ってくれた。
「最後まで聞いてくれてありがとうなの。シロは人間だけど、貴方達の敵じゃないの……って、知ってほしいの。全部の人間が悪いんじゃ無いって識っててほしいの」
白樺がそう締めくくり、薬草の解説会を終えた。
今回の訪問でのリザードマンの自分達に対する反応は悪くなかったように保には感じられた。
(人間は役に立つ、という利害や損得が理由であっても今は構いません。この件が、村人に対する警戒心の緩和や交流の黙認に繋がれば、まずは上出来です)
なので保は今回の結果に満足しながら帰路についた。
ハナは女将の案内で川の精霊を祀る祠へやってきた。
「精霊さま今回はありがとうございましたぁ。感謝の気持ちを込めてミナワさまって名前を贈らせていただいても良いですぅ? 水の和で輪でミナワですぅ」
川は静かに流れるだけで返事はない。
ここの精霊は基本的に人間に不干渉なのである。
「ハナさん。いい名前だとは思うんだけど、精霊様もう名前を持ってらっしゃるかもしれないし、勝手に付けた名前で呼んでもいいのかねぇ?」
「そうですねぇ。では名前を聞いてなかったらミナワさまという事でぇ」
しかしどれだけ待っても川の精霊は現れなかったため、暫定的に『ミナワ』となった。
「もっと精霊さまとみんなが仲良くなるようお祈り申し上げますぅ」
ハナは最後に村人と共に祈りを捧げた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/04/21 08:30:29 |
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質問卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2018/04/22 17:43:12 |
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相談卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2018/04/23 00:10:57 |