マスター:白藤

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2018/05/10 19:00
完成日
2018/05/21 04:02

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●害虫問題
 その日、ハンターズ・ソサエティの受付嬢は依頼内容を確認するために山中に建てられた広大な屋敷を訪れていた。
「まあ、とりあえず見てくれよ」
 依頼主の強面な金持ち中年男性に導かれて閉ざされた豪華な門を潜り、内部の様子が全く分からない作りの小屋――貯蔵庫だろうか――を通り過ぎれば、黒いドーム状の“何か”が見えてきた。明らかに異質なそれは、よく見ると微かに蠢いている。
「え……あれ、何ですか?」
「酷いだろう!? あれは自慢の畑なんだ! 今は“蛾”に覆われてしまっているがな!!」

 蛾。
 あれ、全部――蛾!

「ひいぃっ!?」
 受付嬢は衝撃の事実に仰け反り、それでも頭を振るい、畑に近付く。
 もぞもぞ蠢くのは、男の言う通り、蛾。その数は十や百といった可愛らしいレベルの話ではない。
 数多の蛾達は何故か畑を覆うように、それこそドームを形成するかのように重なり合い、畑に植えられているであろう作物を完全に隠してしまっていた。
「コイツら、ひと月前に突然やってきて畑を覆うようになっちまった! 追っ払ってもすぐに戻ってくるから無駄、殺しても次々新しい蛾がやってきて振り出しだ! このままじゃ花がお天道様に当たらねぇ、大事な商品が台無しになっちまう! ハンターさんの力で何とかしてくれぃ!!」
 酷くイラついた様子で、男は小屋からマッチと長い枝を持ってきた。彼は枝に火をつけ、躊躇う様子もなく蛾達を焼き殺し始める。それでも何故か、蛾は逃げようとはしない。
「う……」
 無抵抗のまま、複数の蛾が焼き殺されていく。陽光を阻む害虫とはいえ、あまりにも無残な光景に受付嬢は嗚咽を堪えるように口元を覆った。
「嬢ちゃん、気持ち悪いか? 女は虫嫌いだもんな、仕方ねぇか……ほら、あれだ。綺麗な花だろう? 蛾のせいでかなり弱っちまってるがな」
 男が蛾を焼いたことにより、ドームに僅かながら穴が開いた。淡い紫色の可愛らしい花々が、弱々しく葉を広げて咲いているのが見える。
「珍しい花ですね。あれが、商品……?」
 男の強面な容姿からは結び付かない、優美で可愛らしい花。受付嬢が考えていることを察したのか、男は「ガハハ」と豪快に笑い、屋敷から顔を出していた屈強な男に向かって手を上げた。こちらに駆け寄ってくる屈強な男――恐らく使用人だろう――は、淡い紫の液体の入った瓶を握っている。
「アレの蜜を水で薄めたら上質な“酒”になるんだよ。一口飲むだけで天国に行けるぜ?」
「へぇ……綺麗なお酒ですね」
 瓶の中で揺れる、淡い紫の液体。日の光を浴びたそれは、キラキラと宝石のように輝いている。
 珍しい色のお酒があるものだなと受付嬢が瓶を眺めていると、コップに注がれた液体が差し出された。
「どうだい嬢ちゃん? 一口飲んでいかねぇか?」
「!?」
 コップから香るのは芳醇な香り。大変魅力的なお誘い――しかし、今は仕事中だ!
「い、いえ、結構です。仕事中ですので」
「んな固いこと言うんじゃんぇよ、勿体ねぇ」
「ええと、ええと、あ、そうだ! 蛾、一匹捕まえますね! 蛾も見たことのない蛾なので、持ち帰って調べてみます!!」
 断るのが難しそうな雰囲気だったこともあり、受付嬢は逃げるように畑へと走る。そんな彼女の傍に、ひらりと一匹の蛾が群れから離れてやってきた。
(……あら?)
 その時、背後の男達が発する、蔑むような下品な笑い声が気にならない程に、不思議なことが起こった。

●不思議な蛾
「ああ、『がっくん』ですか? 白くてもふもふで、うさぎみたいでしょう?」
 どこか嬉しそうに虫カゴを覗き込んでいた受付嬢は、近付いてきたハンター達ににこやかに微笑む。
 うさぎとかどうでも良い。どうして蛾を眺めているんだと問い質され、受付嬢はハンター達にカゴを手渡した後に事情を語った。

「……というわけで、蛾の駆除を依頼されたのです。がっくんには参考資料として着いて来て貰いました。勿論、この後開放するつもりですけどね」
 がっくんはドームを形成していた蛾の一匹であるため、勿論元は真っ黒だ。
 しかしこの蛾、何故か受付嬢の手に乗った途端に色が白く変わったのだという。しかも恐らく現在の白い姿が本来のものであると考えられるらしい。
「どうして真っ黒になっていたのか、どうしてあの紫の花を覆っていたのか、どうして仲間が殺されても逃げなかったのか……妙なことは多いのですが、まあ、依頼は依頼ですので。申し訳ありませんが、あまり時間的猶予を頂けなかったので皆さんにはこの後すぐに向かって頂くこととなります」
 受付嬢曰く、『大至急何とかしてくれ』という無茶ぶりが付いたためか依頼金はそれなりの額らしく、いかに中年男が儲けているかを思い知らされたのだとか……とはいえ、色々と『きな臭い』ので何かしら掴めそうならそちらを優先して欲しい、との事だった。
「蛾の駆除以外のことをする場合はちゃんと証拠掴んでからにして下さいね。確かに色々怪しかったのですが、きな臭いからと言っていきなり依頼主の方々に危害を加えたんじゃ、こっちが悪者になっちゃいますし」
 仮に依頼以外のことをしようと考えている場合は『その行為が必要と判断した証拠』を提示しなければ話にならない、と受付嬢は語る。口頭証拠では弱いので物品を確保した上で行動に移って欲しいとの事だった。

「ああ、そうそう。もしかしたら、お酒を勧められるかもしれません。仕事中の飲酒はどうかとは思いますが、状況が状況なので自己責任で飲酒も認めます。ただ、あれ本当にお酒なんですかね? 万が一の事態に備えて、色々と用意しておいた方が良いかもしれません……あ、飲む場合は、ですよ?」
 受付嬢は苦笑しつつ、少し名残惜しそうにしながらもがっくんを窓の外に逃がしてやった。依頼の説明が終了し、彼を虫カゴに閉じ込めておく必要が無くなったためだ。
「がっくん、バイバイ……って、あれ? どうしたんでしょう……?」
 しかし白い不思議な蛾はすぐには逃げ出さず、受付嬢やハンター達の周りをくるくると回る。
 その後がっくんは何事も無かったかのように大空へ飛び立っていったが、不思議な行動を目の当たりにした受付嬢はしばらく首を傾げたまま固まってしまっていた。

リプレイ本文

●黒い蛾、白い蛾
「まあ、この有様でね」
 依頼人の中年男とその使用人らしき男に連れていかれた畑は聞いていた話の通り、おびただしい数の黒い蛾が蠢いている。数名のハンターが顔を僅かに歪める中、無道(ka7139)は冷静に依頼人達に声を掛けた。
「まずは軽く駆除をしてみよう。依頼主さん達は離れててください」
 落ち着いた様子で、かつ冷静な無道の様子に安心したのだろう。依頼人達は微笑み、一度屋敷へと戻っていった。

「というか……」
 それを確認した後、エメラルド・シルフィユ(ka4678)は蠢く蛾達を眺めながら口を開く。
「この数の蛾は……正直あまり近付きたくはないぞ……」
 うごうご、という効果音が似合いそうな、一箇所に集中して集まる数多の黒い蛾――この手のものが苦手な者からしてみれば発狂物な光景である。
「蛾の方は何か普通の蛾みたいだよね?」
 狐中・小鳥(ka5484)は傍にいたレイア・アローネ(ka4082)に同意を求める。レイアは「そうだな」と呟き、蛾の間から見える畑へと視線を向けるのであった。
「依頼から察するに、蛾の発生は不測の事態なのだろう。なら蛾を調べても何もわかるまい」
 その言葉に皆、同意する。依頼人達が戻って来ないことを確認した後、ルカ(ka0962)は魔導スマートフォンを手に畑に近付いていった。
「……今のうちに、畑……調査してみますね」
 畑に近付いても、彼女が手でそっと蛾を払い除けるようにすると、手に触れた蛾が白く色を変えた。それを見た無道は畑から少し離れた場所に移動し、体内のマテリアルを燃やし始める。するとどうだろうか。半数近い蛾が無道の傍に集まり始めたのだ。
「これは……」
 炎のオーラの中で、ひらひらと楽しげに舞う蛾達。彼らは次第に色を変え、白く染まっていく。密集して無道の周りにドームを形成するわけでもなく、大量の白い羽根を空から撒いたかのように自由な蛾達の姿は、どこか幻想的で美しく思える光景であった。
「本来は真っ白、さらに正のマテリアルを好む蛾、ということなんでしょうか……」
 一通りの調査を終えたらしいルカはほうと息を吐き、無道の傍に歩み寄る。
「魔導スマートフォンを使用してみました、ええと、あの花、もしくは畑そのものが汚染されているのか、いつもとは様子が違いましたね。その……負のマテリアル汚染、で、間違いないかと」
「それが本当なら、蛾はわざわざ嫌いな物の傍に集まっているのか」
 無道がマテリアルを燃やすのをやめた途端、再び蛾は畑の傍に寄り、黒く染まっていく。
「嫌な物にあえて近付く……任務ならともかく、私は嫌だぞ……」
「蛾達、畑を覆う任務みたいなものがあるのかもしれませんね」
「いやいや、そんな、まさか……しかし、そうでもしないと説明が付かないのか」
 エメラルドも小鳥もレイアも、信じられないと言わんばかりの様子だ。こんな事を考えている間に屋敷主が戻ってきてしまうかもしれない。
「わたし達はそろそろ離れておきます」
「ああ、分かった。気を付けるんだぞ」
「引き付けるのは任せるぞ。なるべくすぐに戻る」
 エメラルド達に一声掛けた後、小鳥とレイアは物陰に身を潜めた。
「さて……」
「ほ、本当に大丈夫ですか? エメラルドさん……」
 屋敷の様子を伺いながら、エメラルドはドームを形成する蛾達を見据える。そんな彼女を、採取した花と土、そして虫カゴに入れた蛾を隠しつつもルカが見上げている。エメラルドは「任せておけ」と言って不敵な笑みを浮かべてみせた。
「多分、死ぬような物ではないんだ。ならばこれが一番手っ取り早いし、それだけで捕縛の理由は十分。ルカ、無道。私が変になっていたら、よろしく頼む」
 これも作戦のひとつである。改めてエメラルドの意思を確認した後、無道とルカは屋敷の方へと視線を移した。

「ハンターの皆様、お飲み物はどうかな? 花の蜜を利用して作ったジュースと酒だ。美味いですぞ」
「ジュースは蜜を砂糖水で割ったものなんですよ。未成年の方もいらっしゃるようなので……おや、人数が足りないようですが」
 ちょうど依頼主と使用人が戻ってきたようだ。人数分のグラスと二種類の瓶を手にした彼らは、姿が見えないレイアと小鳥を探しているらしい。それを辞めさせる目的も兼ねて、エメラルドは二人の傍に歩み寄った。
「何やら用事があるらしく、先に帰ったんだ……酒を頂いても良いだろうか?」
「ふむ……まあ良いでしょう」
 使用人がグラスに酒を注ぎ、エメラルドに手渡す。紫色の、怪しげな色彩が陽光に照らされて輝いている。エメラルドはゆらゆらとグラス内の『酒』を揺らして香り等を確認した後、それを迷わず口に含んだ。


●証拠品探し
「本当に酒を勧めてきたようだな……どう考えても、あれは酒では無いだろうが」
 場所は変わり、屋敷内。見事潜入に成功したレイアと小鳥は、酒を勧められている外の仲間達を心配しつつも周囲への警戒を続けていた。小鳥は心底嫌そうに顔を歪める。
「それなのにお酒を飲まそうとしてくるのも何とも怪しく見えるね……わ、わたしは未成年だから飲まないけどもっ」
「瓶が二種類あった。恐らく、ジュースも用意していたんじゃないか? 未成年用に」
「何が何でもわたし達にアレ飲ませたいんだ……」

 レイアは天井に貼り付き、小鳥は小さな体を利用して物陰に隠れつつ、屋敷の中央へ向かっていく。今のところ、侵入に気付かれている様子はない。
 そもそも、出払っているのか、そんなに人が雇われていないのかは分からないが、屋敷内部に人気が殆ど無いのだ。時々歩いているメイドに出くわしたが、屋敷の広さと比較すると人手不足のように思えた。
「依頼内容を聞いた時にルカさんが『麻薬』の可能性について触れていましたよね? もしそうだとしたら、メイドさん達が麻薬中毒になってたりしませんかね?」
「可能性はあるな。だが、見たところメイドも、さらに言えば依頼主とその側近も普通だな。そもそも麻薬というものは効果が切れると中毒の症状が出ると聞く。四六時中摂取していれば、軽く見た程度じゃ異変に気付かれないような振る舞いも出来るんじゃなかろうか」
「じゃあ、屋敷にいる人の様子だけじゃ判断出来そうにないですね」
 麻薬、というのは受付嬢の話を聞いた後にルカが口にしていた言葉だ。蛾はマテリアルに反応して色を変化させるようだが、畑に集まっている根本的な理由は花が麻薬的な効果を持ち、その中毒によるものではないか、というのが彼女の推測であった。無論、その証拠は無いのだが。
「それにしても、屋敷内部の人が少な過ぎる……これが罠で無ければ良いのだが」
「秘密があるなら、それを知る可能性がある人物は最小限に留めるべきですよね。そう考えれば、辻褄が合わないことは無いですけど……罠、嫌だね」
「一応、最悪の事態を考えておこう」
「そうですね……」
 慎重に、慎重に、二人は屋敷の奥を目指す。部屋を見つければ、しらみ潰しに中を調べた。痕跡を残さぬように関係無さそうな物には触れず、なるべく身軽な状態で進んでいく。

「む……」
「どうされましたか?」
「この部屋、鍵が掛かっているようだ」
 屋敷のちょうど中心部に当たる場所だろうか。レイアが鍵の掛かった部屋を発見した。ここに至るまで、そのような部屋はひとつも存在しなかった。ここが怪しいと睨んで良いだろう。
「ちょっと待っていてくれ」
「分かりました」
 小鳥が周囲を警戒する中、レイアは扉の開錠を試みる。苦戦しつつも、何とか人に見つかる前に扉が開いた。中の様子を伺った後、二人は部屋の内部に忍び込んだ。
「書庫か? 本が多いな。いや、酒らしき瓶が沢山あるぞ……ワインセラーなのか?」
「もう滅茶苦茶ですね! でも、最悪酒だけ持ち出せたら終了ですね!」
 そこは、書庫とワインセラーが合体したような不思議な空間であった。酒はここから持ってきたのだとすれば、一度席を外した彼らが戻ってくるまでに時間が掛かったのも納得出来る。
 よく見れば地下へ通じる扉もあり、そちらは酒の製造室に繋がっていた。勿論鍵は掛かっていたが、隠されていたその空間はレイアの手であっさりと暴かれることとなった。
「製造室に鍵……きな臭いな。まあ、黒なんだろうが」
「レイアさん! これ!」
 地下から酒の作り方と思しき事項が記載された紙束を回収したレイアの名を小鳥が呼ぶ。かなり怪しい物を見つけたのだろう、興奮しているのか、少し声が大きい。
「どうした?」
「帳簿です!」
「おお、それはでかしたぞ」
 地下から戻り、二人は並んで帳簿を流し読む。記されているのは、酒の金額と、取引相手と思わしき名前。日付はつい最近の物ばかりで、この商売を初めて日が浅いことが伺える。しかし短期間で同じ人物に買われている上に、回を重ねる毎に金額が上昇している。このような手法で売られる商品に、小鳥もレイアも覚えがあった。
「これは、ルカさんビンゴかな……いや、単純にアル中なのかもしれませんが……」
「こんなに大勢のアル中がいるなんて考えたくないな。決定打には欠けるが、この紙束と帳簿、そして現物を持ち帰れるなら問題なかろう。もう麻薬と断定して良いんじゃないか?」
 恐らく、あの花の蜜によって作られるのは酒ではなく、麻薬だ――証拠となる物品を見つけた二人は、外の仲間達に合流すべく書庫から抜け出し、その歩を早めた。


●証言の時間
「いやはやどうですかねぇ? お味の方は?」
 エメラルドが酒を口に含んだまま、それを飲み込んでいないことに気が付いたらしい。使用人は彼女の顔を覗き込み、にやりと笑みを浮かべている。
(これは……)
 やむを得ないな、と彼女は意を決して口に含んでいた酒を飲み込んだ。喉を通る液体は僅かに熱を持ち、胃に落ちていく。
「甘めの酒なんだな。花の香りが上品だ」
「良いだろう? 皆、癖になると言ってくれます」
 癖になる、が変な意味で無ければ良いのだが――そう思ったエメラルドの視界がぐらりと揺れた。
「う……っ」
 酒に酔ったにしては早過ぎる。異変に気付いた無道が彼女を抱え、屋敷主と使用人から引き離した。駆け寄ったルカが、エメラルドにピュリフィケーションを掛ける。
「身体に合わなかったのか? 時々いるんだよ、そういうタイプも」
「慣れれば良い物ですよ。どうですか? 他のお二人も」
 この状況でも屋敷主達は動じていない。ここまでは恐らく、よくあることなのだろう。しかし、客観的にエメラルドの様子を見ていた無道とルカは、あれがただの『酒』で無いと見抜いていた。
「その前に、依頼の話をしましょう」
 エメラルドをルカに託し、無道が依頼主達の前に出る。
「ここには負のマテリアルがある。歪虚がいるおそれもあるのでとにかく離れてください」
「ヴォ、歪虚、だと?」
「蛾が集まるのは、その影響です。万が一の場合に備え、早く離れて下さい」
 最初の時同様、無道は静かに依頼主達に訴えかける。しかし、彼らは動かない。ルカとエメラルドも彼らの様子を伺っている。
「歪虚がいるかもしれないのになぜ離れないのか。早く離れて」
「いやいや、あくまでも可能性の話だろう? それに、我々は蛾さえ駆除して貰えれば、それで――」
「ああ、そうだろうな。仮に歪虚がいるならば、それを理由に私達を呼ぶだろうからな……蛾の駆除等という理由ではなく!」
 依頼主の言葉を遮ったのはエメラルドだった。ここで依頼主達は漸く、彼女が不調から完全に立ち直っていることに気付いた。
「! な、何故……」
「ハンターを舐めて貰っては困るな。まあ、治してくれたのは隣のルカだが」
「お、恐らく……恐らく、ですが! お酒の正体は麻薬、ですね!? 畑を調べられると困るから、疑われてしまった以上この場から動けない……違います、か?」
「受付嬢にも酒を勧めたそうじゃないか。大方麻薬中毒者を増やすことによる収入増、加えて中毒にしたハンターを思うがままに動かすのが目的だったのだろう? 残念だったな」
 既に負のマテリアルが存在するということ、エメラルドが飲んだ物が酒では無い事は確定している。『毒』という可能性もあるにはあるが、依頼主達の様子を見た限り『麻薬』で正解なのだろう。
「くっ、忌々しい蛾め。お前らがいたから、こんな事に……! ええい、こうなればハンター全員を中毒にしてしまえば良い!」
 自棄になった依頼主、そして側近の使用人と異変に気付いて屋敷から飛び出してきた使用人がハンター達に襲い掛かる。

――が、日々歪虚と戦うハンター達にとって、少々鍛えているだけの一般人の相手等、造作も無いこと。そもそも、これくらいの事態は想定の範囲内だ。

「あ、あれ!?」
「そっちはそっちで終了か……」
 結果、屋敷から戻ってきた小鳥とレイアは、捕縛された依頼主達の姿を目の当たりにするだけとなってしまった。
「何か、大したこと無かった」
 エメラルドの容赦のない感想に捕縛された男達はがっくりと肩を落とすのであった。

●虫の知らせ
 土が悪いのか花が悪いのかは結局分からなかったが、鑑識用の物は確保出来ているため、残された土と花の浄化を行えば、蛾はひらひらと舞い散り、空に帰っていく。浄化を終えたルカは自身が蛾を入れていた虫カゴに目をやり、声を震わせた。
「あぁっ!? 蛾が……! マテリアルに反応する希少な蛾だったのに……!」
 いつの間にか虫カゴは倒れ、中はもぬけの殻となってしまっていた。しょんぼりとするルカを見て、エメラルドは「あーあ」と呟き、苦笑した。
「まあ、良いんじゃないか? 蛾は物証にならないだろうし」
 恐らくルカは種類を調べてみたかったのだろうが、これでは無理だろう。魔導スマートフォンで上手く写真が撮れてたら良いねとエメラルドは落ち込むルカの肩を叩く。

「蛾の方は麻薬中毒じゃ無さそうでしたね……一体、何だったんでしょう?」
 畑から離れた蛾達は、まるでハンター達にお礼を言うかのように上空をくるくる回っている。元々群れを成す習性があるのか、ルカが捕獲していた蛾も既に大群の中に紛れ込んでしまっていた。
 その様子を見ながら、レイアは「そういえば」と口を開いた。
「……麻薬探知犬、と呼ばれる訓練を受けた犬がいるな」
「えっ、じゃああの蛾達、麻薬探知蛾なんですかね!?」
「知らん。だが案外、本当にそうなのかもしれないな」
 この件に関する真相は分からない。しかし、ハンター達は最良の結果を出すことに成功したのだ。
「しかし、不思議な蛾だな……願わくは、ずっと白いままでいて欲しいものだ」
 無道は蛾を見上げ、ぽつりとそんな言葉を漏らす。次第に蛾達はこの場から離れ、どこかへと向かっていく。
 落ち込んでいたルカを含めた五人のハンター達は空を見上げ、謎の習性を持つ真白の蛾達を見送るのであった。

依頼結果

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MVP一覧


  • ルカka0962
  • 悲劇のビキニアーマー
    エメラルド・シルフィユka4678

重体一覧

参加者一覧


  • ルカ(ka0962
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 悲劇のビキニアーマー
    エメラルド・シルフィユ(ka4678
    人間(紅)|22才|女性|聖導士
  • 笑顔で元気に前向きに
    狐中・小鳥(ka5484
    人間(紅)|12才|女性|舞刀士
  • 優しき孤高の騎士
    無道(ka7139
    鬼|23才|男性|闘狩人

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/05/10 12:50:10
アイコン 農園を守れ
エメラルド・シルフィユ(ka4678
人間(クリムゾンウェスト)|22才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/05/10 18:32:55