• 羽冠

【羽冠】地下迷宮にデブ羊を見た!

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
5~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/05/14 19:00
完成日
2018/05/21 16:28

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 歪虚から人類の手に奪還された土地、イスルダ島。
 王国西方沖のこの島で容赦のない戦いが進められていた。

 拳銃弾がゴブリン型歪虚の頭を爆散させる。
 術で引き起こされた爆風が蜂型歪虚の群れを消し飛ばす。
 斬鉄もこなせる剣が、妙にふてぶてしく頑丈な蛇を開きにした。
 残心は怠らない。
 しかし歪虚の気配は感じられなくなった。
「無傷での勝利だな」
「お疲れー」
「いや調査が主で戦闘は従ですからね」
 雑談の間も自然体な警戒は続く。
 ここは神殿跡地の地下通路だ。
 壁も天井も頑丈だが障害物が多く、奇襲を仕掛ける側が圧倒的に有利だ。
「あ、いた」
 ライフルを持ち上げ引き金を引く。
 100メートル以上奥で潜んでいた騎士型歪虚の兜と中身を半壊させる。
 分厚い鎧が勢いよく真後ろへ倒れ、板状の何かが粉砕される音が通路中に響いた。
 鎧が階段を転げ落ちていく。
 途中で鎧ごと中身が消え去る。
 それは全てハンターの視界外で起こったが、音だけでも何があったか知るには十分だ。
「偽装の跡を確認した」
「音がひびいてる、すごく奥まで続いてるよ。ここと違って荒れてない」
「このまま攻略と行きたい所ですが」
 3人の視線が一瞬だけ交錯する。
 全く同じタイミングで微苦笑が浮かんだ。
「地上に戻って出入り口を封鎖しよう」
「ダンジョン攻略は魅力的だけど、人数が足りないかなって」
「通信している間の護衛をお願いしますね」
 複数の通信機を経由して後方に情報が送られ、即席麺が出来るより短い時間で返信が届く。
「ヴィオラ女史が直接来るぅ!?」
「暇なのかな?」
「いやいやいや、王国の切り札の1人ですからね! 多分、何かあるんですよ」
 馬蹄とエンジン音が遠くから近づいて来る。
 馬に乗る聖堂戦士は入り口に背を見せる形で警戒を始め、魔導トラックからは水食料と矢弾が運び出されて山積みにされる。
「本気だな」
「ボーナス出るかな」
「帰りたくなってきました。地下に何があるのか」
 地平線近くに、ヴィオラ・フルブライト(kz0007)の姿が見えた。

●地下ダンジョン
 細マッチョ金属像が受け身もとれずに殴り倒された。
 重装備を感じさせない軽い足取りでヴィオラが近づく。
 強靱な靴底を金属像の下腹に載せ、踏み込んだ。
「ブシッ!?」
 護衛の聖堂戦士団男性陣が身を震わせる。
 ここが戦場でなければ顔を真っ青にして自分の下腹をガードしていたかもしれない。
「ベリアルではありません」
 ヴィオラは微笑みを浮かべて平然としている。
 特殊な性癖を持っているわけではない。
 歪虚にかける情けはないだけだ。
 必死に這って逃げようとする金属像に、異様に速く重いメイスが叩き込まれ頭が腹まで押し込まれた。
 歪虚らしく薄れていくが、全ては消えずに見慣れぬ質感の金属が残る。
「私が」
 聖堂戦士が回収して背負い袋に入れる。
 金属なのに生々しい気配がして正直嫌だがこれも仕事だ。
 後で地上に戻ったときに研究者に渡すまでの辛抱である。
「当たりの確率は4割と思っていましたが」
 前進を再開する。
 妙に豪華な通路に仕込まれていた落とし穴や釣り天井のほとんどは凄まじく鋭敏な知覚で見抜かれ。
 希に発動した罠も俊敏な動きと分厚い装甲に歯が立たない。
 超高位覚醒者による正面突破は色々な意味で迫力があった。
 足を止めずにゴブリン型や蛇型、時折混じる奇妙な金属像を一撃必殺していヴィオラの足が急に止まる。
 三叉路だ。
 片方には絨毯が引かれ、もう片方には何が重い物を運んだ跡がある。
 歪虚の気配は、双方にあった。
「同時に攻めます」
 ヴィオラの瞳があなたに向けられた。
 命令の気配はない。
 私はこうするけどあなたはどうする? と聞いているのだ。
 意見を言わなければヴィオラと聖堂戦士は跡がある方を攻め、あなた達ハンターは絨毯の側を攻めることになる。

●絨毯の通路
「ブシシシ、飛んで火に入る夏の虫ブシ!」
「ベリアルの真似をするんじゃねぇブシ」
「俺がベリアルだ」
 金属像が世迷い言を垂れ流している。
 骨も筋肉も分厚い大男に、腹がバランス悪く引っ込んでいる長身男に、恐ろしく身軽そうな少年。
 どれも金属像であり頭はベリアルによく似せられた羊型だ。
 彼等は空の玉座の前で、延々と不毛な睨み合いを続けていた。

●跡がある通路
「死にたくない、死にたくないぃ」
「ケッ、怖いなら死ぬまで震えていろ」
 玉座前の3体と比べると非常に雑な形の金属像が、負の気配を帯びたインゴットを穴の中に落としている。
 全て落とし終えると1人を除いてガラクタを押しやり偽装を完了。
 その後は鍛冶用ハンマーを手に取り出入り口を囲む形で待機する。
 侵入者が弱ければ殺した後に逃走、弱ければ何体が犠牲になっているうちに地上へ逃げるつもりだった。

リプレイ本文

●ダンジョンあたっく!
 夢路 まよい(ka1328)は決断した。
「ヴィオラすとーっぷ」
 気軽な声だ。
 聖堂戦士団という巨大組織の実質的頂点にかける言葉としては不適当。
「どうしました」
 ヴィオラ・フルブライト(kz0007)本人は気にせず、しかし速度を緩めはしても足は止めない。
「焦ってる?」
 水晶球が放つ光に照らされたヴィオラは、少し余裕がないように感じられた。
「地下ダンジョンっていうのかね。出入り口も偽装しているとすりゃあ、何か隠してるんじゃねえか?」
 ソレル・ユークレース(ka1693)が雰囲気を和らげる目的で口を開く。
 籠手で包まれた手で綺麗な壁を撫でる。
「色々探してみたいところだよな」
 手触りから、この場にかけられた費用と手間を推測する。
 採算度外視だ。危険なアイテムや貴重なお宝が隠されている可能性はかなりある。
「もう、ソルったらはしゃがないでよ」
 リュンルース・アウイン(ka1694)が楽しげに微笑んだ。
 彼の白い肌を見た聖堂戦士が赤面して慌てて顔を逸らすが、ハンターは気付かないふりをしてヴィオラは気付いていない。
「はしゃいでるか?」
 ソレルの口角が軽く持ち上がる。
「はしゃいでるかもなぁ」
 リュンルースと組むとしっくりくるのだ。
 敵の奇襲に備えた警戒の分担など、本来なら相談に時間がかかる部分を略せるのは非常に楽だ。
 それに何より、背中を預けられる男と戦えるのは楽しいことだ。
「確かに一緒なのは久しぶりだけど」
 リュンルースはしかめっ面をしたつもりだった。
 けれど上機嫌な美形がそれをしても、第3者の目の保養の提供にしかならない。
「もちろん私だって一緒の依頼を受けられるのは嬉しいよ。でも仕事だからね、しっかりやらないと」
「了解」
 最初から目は真剣だったソレルが真剣な表情になる。
 白皙の美貌に、一瞬だけ陰が浮かんですぐに消えた。
 親友同士のはずの両者の間には感情の質と量の違いが微かだが存在した。
 ヴィオラはいつの間にか足が止まっていた
 彼女も木石ではない。美形の異性を眺めて楽しむ程度のことはする。
「ヴィオラも女の子だもねぇ」
 まよいが軽い足取りで先頭に立つ。
 聖堂戦士団の面々が気付いたときには、まよいとの距離は10メートルを超えていた。
「そろそろ行くね」
 偶然繋がった魔導短伝話で別働隊に連絡を入れる。
 壁にかかっていた羊型の装飾を取り外し、綺麗なフォームで振りかぶって、投げた。

●蹂躙
 そこは薄暗い鍛冶場だった。
 金属像型歪虚が両手で金槌を持ち、追い詰められた顔で何かを待っている。
 ごろんと、硬質な何かが転がる音が聞こえた。
 ひぃっと息を吸う音が10以上重なった直後、鋼鉄よりも硬く重いトンカチが投擲されくるくる回って薄暗がりへ消える。
 ベリアルを象った装飾が砕け、破片が歪虚の足下まで転がった。
「ベリアル、様の?」
 一瞬の呆然の後、いきなり出入り口から光が差し込んだ。
 まよいが横から顔に出したのに気付いたのは、歪虚の3分の1にも満たない。
「地面の下の精霊さん、騒がしちゃってごめんね」
 マテリアルが渦を巻いている。
 矢というより槍という言葉が相応しい光の塊となり、まよいの目の前に浮かんでいる。
「いっけー!」
「躱せぇ!!」
 歪虚の声はほとんど断末魔であった。
 反応できたのは半分ほど。
 胸や腹を光が貫通して大穴が空き、衝撃に耐えきれずに硬い床に打ち付けられる。
 反応できた半分も末路はほとんど変わらない。
 腕を犠牲にして威力は弱めても致命傷に近く、体の一部を失い床の上から呆然とまよいを見上げた。
 赤い影がまよいを隠し、あっという間に大きくなる。
 床に落ちたままの金槌が蹴散らされる。
「手荒い歓迎だな。なりふり構わない辺りこっちがアタリか?」
 闘志を僅かに残した歪虚が、金属製の指を揃えて激突の瞬間に備える。
 斬鉄も可能なこの指があれば、まだ抵抗はできると思っていた。
「ベリアルのニセモノか」
 逞しい腕に適量の力が籠もる。
 闘旋剣「デイブレイカー」の刀身から、夜明けを思わせる山吹色のオーラが噴き出す。
「顔面を叩き潰せば少しはスカッとしそうだな!」
 王国騎士団所属としてはベリアルに対する恨みは計測不能なレベルだ。
 負の感情も物理的な威力に変え、そこで振っても歪虚に当たらないはずの位置で刃を振り下ろす。
 室内の空気と負のマテリアルが同時に震える。
 衝撃波が生じ、空気とマテリアルを巻き込む嵐となって金属像群を巻き込んだ。
「な」
「嘘、だ」
 金属像に亀裂が生じる。
 ぽっかりと開いた隙間から濃いマテリアルが宙へと抜け出し、残った金属像は内側に崩れて単なる残骸と化す。
「蹂躙だな」
 ソレルが息を吐きながら感想をもらす。
 強烈な術と技により歪虚の士気は完全に崩壊して完全に逃げ腰だ。
 このまま戦えば確実に勝つ。
 だが、得られる戦果はまだ確定していない。
「大丈夫だ。ルースを信じろ」
 逞しい馬は、主の言葉ではなく自信に勇気づけられる。
 馬防柵じみたガラクタ、おそらくは鍛冶用の器具をかき分けるようにして奥に進む。
 蹄が割れかねない突起を2度ほど踏んでしまうが、リュンルースが授けたオーラ状障壁がダメージを吸収して馬もソレルも傷つけさせない。
「士気が高い個体が2……3体か」
 他の9体と形は同じだ。
 金属の目が絶望に染まっているのも同様。
 だがその3体だけは、己が滅ぶ前に何かを為そうとあがいていた。
「ルース!」
 山盛りの障害物の向こう側にいたリュンルースが即座に術を発動させる。
 凶悪な冷気が鉄塊に亀裂を生じさせる。
 金属像型歪虚に当たれば一撃で致命傷もあり得る。
 歪虚は鉄塊の影から動けず逃げられない。
 だが鉄塊が邪魔になり歪虚まで届かない。
「ここか」
 冷気が止むタイミングでソレルが着地する。
 そこは、気合いの入った歪虚が目指していた場所だった。
「金属と金属がこすれる音……インゴットかな?」
 リュンルースの鋭敏な感覚が、瓦礫の下からの音を捉えていた。
 金属像型歪虚の羊顔に焦りが浮かぶ。
 予備の金槌を拾い上げ、ソレルの頭上の梁めがけて思い切り投げつけようとして2体が術と刃で砕かれる。
「味方を道連れにする気か!? そうまでして隠したいものがココにあるのか?」
 残り1体に向かいレイオス・アクアウォーカー(ka1990)が突っ込む。
 片手で操作しているのは馬ではなく魔導バイクだ。
 素晴らしく速いが金槌投擲阻止には間に合わない。
 壮絶な表情の金属像から金属塊が離れ、高速で回転して低い天井に向かった。
 金槌が唐突に赤熱して形を崩す。
 バランスが激変して進路が大きくずれ、ソレルから数メートル離れた場所に重い音と共に落ちた。
「今、何をしようとしたのかな」
 リュンルースの声が聞こえる。
 穏やかなのに、歪虚には王よりも恐ろしく感じられる。
 大きな金属塊の一部に融けたような穴が開いている。
 金属型歪虚には気づけなかったが、リュンルースの強化ファイアアローが貫通した跡だった。
 リュンルースが徒歩で近づく。
 大輪の薔薇を思わせる笑みが、歪虚に己の死を確信させた。

●玉座の3体
 王宮でも使える質の赤絨毯が、馬鹿馬鹿しいほど大きな玉座へ続いていた。
 そこに座ろうと小競り合いをする金属像が3体。
 鍛冶の間にいた雑なつくりの歪虚よりできがよく活力にも満ち満ちている。
「また裸筋肉羊男。夢に出てきそうなんだけど」
 八原 篝(ka3104)がげんなりとした顔で小さく舌を出した。
 そうしている間もカオスセラミック製の弓に矢をつがえ、鏃を炎のマテリアルで赤熱させる。
「力を隠すのも力のうちなんだけどね」
 肌と舌で空気の温度と流れを捉え、気配と総合して敵3体の戦力評価を行う。
 危険なのは最も小さな1体だ。
 感じる力の割に体格は小さく間違いなく素早い。
 特に目の奥に感じる力は、竜のブレスに近かった。
「1人死んでも大敗北だから」
 今回の参加者は凄腕ばかりだ。
 まぐれあたり1発で誰か欠ければ対歪虚戦線に悪影響が出る。
 だから篝は、確実に勝てしかも損害の少なく済む戦法を躊躇無く選ぶ。
 開戦の狼煙は3本の矢だ。
 1発1発がライフル弾並の矢で小型像を狙う。
 どん、と音がして2本が矢羽根までめり込んだ。
 ビックリするほど反応がよく、そして思ったよりも敵の装甲が薄かった。
「俺がベリアルだ」
 篝の目で辛うじて追える速度で小型金属像が跳ぶ。
 無駄に綺麗な瞳に爆発寸前の炎の色が滲んでいた。
「手札を惜しむな、奴が要だ!」
 コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)の魔導拳銃が吼える。
 冷気に還元されたマテリアルが弾丸に収束し、瞬く間に敵との距離を0にし金属状の表面を打ち抜く。
 中の空洞にある負マテリアルを削った手応えはある。
 しかし大ダメージを負わせた感触も、状態異常を引き起こした感覚もなかった。
 小型金属像が着地する。
 高位覚醒者並の足さばきで、篝の背後を精密に狙った跳躍を行おうとした。
「てめぇの行き先はこっちだ」
 金眼が強い光を放ち、白と黒の虎を思わせる髪がゆらりと揺れた。
 セルゲン(ka6612)が幅広の特大太刀を構えると、地下に漂う負マテリアルよりさらに濃い気配が集まり3本の腕となる。
「できるものなら抵抗してみな!」
 小型像の足が床から離れるタイミングで、3本の腕が金属の体に抱きついた。
 己の源であるセルゲンへ、見た目よりはるかに重い金属像を引きずりっていく。
「4体目がいる気がするんだがな」
 辺境生活で鍛えた耳が異常を感じ取っている。
 一時的に宿った動物霊も警告じみたものを発しているのだが、具体的な異常が何なのかは全く分からない。
 セルゲンと鼻が鼻が当たりそうな距離で、頭から下は少年像が敵意を剥き出しにして目を見開いた。
「俺がベリアルだ!」
「っと」
 大柄な鬼が曲芸じみたブリッジを披露する。
 その腹と胸を掠めるように、固形物じみた熱が1メートルと数十センチ伸び唐突に消えた。
「言うだけのことはあるな」
 回避には成功した。
 セルゲイに届いたのは本来の100分の1にも満たない余波だけだ。
 その余波だけで、全身鎧の腹と胸の装甲が熱くなっていた。
「よく躱す」
 3矢同時発射の篝ですら百発百中とはいかない。
 威力と状態異常を優先したコーネリアは、全ての銃弾を回避されてしまう。
 移動できない状態で躱し続ける金属像は、客観的に見てとんでもなく強かった。
「本物にぶつけれなかった鬱憤をぶつけさせてもらうか」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の動きが倍速再生じみたものになる。
 剛刀「大輪一文字」の切っ先はハンターでも視認困難で、桜舞う幻影を伴う斬撃は歪虚の知覚と防御を大いに乱す。
「俺が」
「ベリアルのつもりのようだな」
 腹を薙ぎ胸を刺す。
 鋼よりずっと強いはずの装甲が、豆腐か何かのように大輪一文字によって破壊された。
 ハンターの攻撃は終わらない。
 ファントムハンド発動にあわせて氣の流れに乗ったアルスレーテ・フュラー(ka6148)が、元金属像の背後十数センチの位置で黒塗り鉄扇を振り上げていた。
「そーれ!」
 明るく軽妙なはかけ声とは正反対の、重苦しさすら感じられる轟音が響く。
 アルトによる絶大威力2連撃にすら耐えきった金属像型歪虚が、体というより存在そのものを揺らされ人事不省に陥る。
 優れた移動能力も高度な足さばきも歪虚から消え去った。完全な棒立ちで無防備な姿をさらしている。
「当たれば死ぬな」
 自らに向けられて訳でもないのに、アルトの声からは緊張が感じられる。
 超人の域すら超えつつある彼女でも確実に耐えるのは無理だしこんな状態になれば削り殺される。
「攻撃を集中しろ」
 コーネリアが銃撃を継続する。
 対歪虚戦ではまずあり得ない百発百中で銃弾が当たり金属が削れて宙に舞う。
「残り2つは私が抑える」
 アルトは返事を待たずに加速する。
 大剣を軽々と振り回しながら向かって来る2体目金属像へ真正面から接近。
 間合いも速度も歪虚が隠していた技も全て見抜き、大剣が振り切りったタイミングで突きを見舞う。
「これもか?」
 手応えは2回あった。
 どうやらこの長身金属像も内側が空洞のようだ。
 反撃の横凪が来る前に大輪一文字を引き抜き悠々と後ろへ跳ぶ。
 アルトの威力もアルスレーテの技もない斬撃が虚しく空振りする。
「手応えがいいわー」
 アルスレーテが鉄扇を構え直す。
 軽やかで華やかな舞いの一部にも見える。
 実際は、全身の筋肉が生み出す力を最大の効率で一点へ集める必殺の構えだ。
「もう1発!」
 力は美に通じ、美は力に通じる。
 鉄扇が金属像の頭頂にめり込み、半秒後れて上半身が潰れて腰から下へ押し込まれる。
「オ……ガ……」
 狭い空間に瘴気が押し込まれ密度が急上昇。
 頭部にあった熱が文字通り火を付け、内圧が爆発的に触れ上がった。
「さて、何があるのか知らないけども」
 アルスレーテが斜め後ろへ跳ぶ。
 元小型像がひび割れ、そこから放出される光が玉座の間を白と黒に染める。
「何もなくても、とりあえず体動かしときゃダイエットにはなるからいいのよ」
 気合いの入ったポーズをとる彼女はとても麗しい。
 一応ダイエットの効果はあるはずだが、実戦を通した鍛錬になってしまっていて今回もまた筋肉が美しく成長しそうだった。

●怒れるベリアル(仮)
「この島の神殿ってだけでもう嫌な気しかしねぇ……あの時と同じ轍は踏まねぇように、精々気をつけて行くか」
 セルゲンには慢心も油断も無い。
 大刀「緋虎童子」と共に突っ込めば英雄譚風の活躍もできるのに、完全勝利のための手を打つ。
「足が動かないブシ」
 腹だけがバランス悪く引っ込んだ金属像の下半身が動かなくなる。
 かつての大規模作戦で活躍したときと変わらず、ファントムハンドの効果は強烈だった。
「どいつもこいつも生温い攻撃ばかりしおって」
 コーネリアは歪虚に近づかない。
 剣も拳も届かない距離から、ハンター用バトルライフルで淡々と弾を撃ち込む。
「卑怯ものブシ!」
 恐るべき力と頑丈さを兼ね備えた太い腕が、非常に雑に振るわれバランスを崩す。
「戦いを舐めているのか?」
 弾にマテリアルを込め撃つ。
 通常より高速回転する銃弾が、分厚い鉄を削って内側まで届く。
「うるさいブシ!」
 最も大きな金属像が両手両脚を大きく振って走る。
 速度はあれど姿勢は乱れ、銃口から赤い閃光と共に放たれる銃弾を全く躱せず防げない。
 射撃しつつ後退していたコーネリアが、壁まで1メートルの位置で止まった。
「届いた、ブシッ!」
 金属の顔に嫌らしい笑みが浮かび、威力だけはある拳が迫る。
 かん、と軽い音を立てて拳が受け流された。
 鉄爪に持ち替えたコーネリアが拳を叩き込みつつ鼻で笑う。
 大型金属像が大きくよろめいた。
 背中に突き立つ3本の矢が6本、9本と増え隙間から負マテリアルが抜けていく。
「ベリアルは、俺、ブシ」
 心技体いずれも程度は低いが闘志だけはある。
 が、ハンターと比べると足りないものが多すぎた。
「手応えのない」
 単に事実を指摘する言葉が金属像のプライドを粉微塵にする。
 大輪一文字の切っ先が背中から胸に抜け前後の装甲に大きな亀裂をつくる。
 これは止めの一撃ではない。
 何度も繰り返すヒット&アウェイの第一撃のつもりだった。
「ブシッ!?」
 亀裂が腰と脚を繋ぐ箇所まで広がる。
 脚が曲がらないはずの方向へ曲がり横倒しになる。
「本当に手応えがない」
 油断して手傷を負うより万全の準備をして準備の一部が無駄になる方がはるかによい。
 歪虚の手足の届かぬ位置から斬撃が繰り出され、羊頭巨体の像が頭から股間まで両断されるのだった。

●真ベリアル
 剣しか振れない歪虚が脚を封じられるとどうなるか。
 その実例が床に転がっている。
「いたいブ」
 喉奥に矢が突き刺さり床に縫い止められ、断末魔をあげることもできずに消滅した。
「よーし、出番だぞ」
 セルゲンが入り口に振り向くと、モフロウが現れ慎重に高度を上げていく。
 覚醒したままの金眼が細められる。
「認識阻害系の術だな」
 もう1戦あるかもしれない。
 鍛冶の間からもハンターとヴィオラ以下数名が全速力でやってきた。
「さっきから何を拾っているのか訊いても良いかしら?」
 篝が聖堂戦士に声をかける。
 全身鎧の背中に特大の籠を背負っているので、その男は非常に目立っていた。
「ダンジョンにお宝はつきものだが、まさかヤツらが落とす気持ち悪い金属塊がそうじゃないよな?」
 レイオスが冗談8割で尋ねると苦笑が返ってきた。
「宝なら大歓迎ですよ。歪虚が大規模な罠を張ってるという……勘が」
「勘」
「勘か」
 3人分の視線がヴィオラに向いた。
「そろそろ始めましょう」
 篝が空気を引き締める。
 壁をそろそろと歩き、まず間違いなくあるはずの異常を探していく。
 緊急時には仲間の援護を受けられるよう常に意識してだ。
 天井は、異様なほどに高く遠い。
 これでは仲間と連携できず単独で戦うことになってしまう。
 天井近くの凹みへ負のマテリアルが流れ込んでいる。
 CAMほどに大きな羊頭巨漢の金属像が、金属の大胸筋をぴくぴくさせていた。

 万全を期すため地上まで戻り出入り口を封鎖した。
 もう、逃げ場はない。

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MVP一覧

  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよいka1328
  • 弓師
    八原 篝ka3104
  • 半折れ角
    セルゲンka6612

重体一覧

参加者一覧

  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • White Wolf
    ソレル・ユークレース(ka1693
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 道行きに、幸あれ
    リュンルース・アウイン(ka1694
    エルフ|21才|男性|魔術師
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士
  • 半折れ角
    セルゲン(ka6612
    鬼|24才|男性|霊闘士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/05/13 16:07:49
アイコン 相談卓
アルスレーテ・フュラー(ka6148
エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2018/05/14 07:54:34