ゲスト
(ka0000)
初夏でも涼を!
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/05/28 19:00
- 完成日
- 2018/05/30 21:33
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
うららかな春の日。
――といいたいのだが。
「あっつーい!」
ここ数日、リゼリオの街は妙に暑い。リアルブルーで異常気象が騒がれるのはもう最近では当たり前のようなかんじになっているが、クリムゾンウェストでこの時期にこれだけ暑いのはやはり何かあるのではないかと勘ぐってしまいそうだ。
が、一般市民の考えはそこでなく、とりあえずなんとか暑さをしのぎたい――この一言に尽きた。
お陰で喫茶店などは妙に大賑わい。
暑さで冷たい飲み物や食べ物の需要が増えているいい証拠だった。
●
さて、ココにぐったりしているねずみが一匹。
――もとい、チューダ(kz0173)がいた。
ふくふくの毛皮を常日頃から纏っているチューダ、当たり前だが暑さに弱い。たとえ夏毛に生え替わるとしても暑さに弱い。
ふっくりふくふくの外見は力なくだれている。
「あついであります……」
脳みそも蕩けているのか、口調も何処かおぼつかない。
そんなチューダが今いるのは、まだリーダーであるリムネラが戻ってきていない辺境ユニオン『ガーディナ』にしつらえられている談話室。近くには他にも、やはり暑さでへばり気味なハンターが転がって……もとい、くったりのんびりとしている。
「みなさん、だらけてますねぇ」
そう言って苦笑を浮かべるのは補佐役を務めるジーク・真田(kz0090)。風の噂にリムネラもそろそろ戻ってくるらしいとは聞いているが、いつになるのか、彼もはっきりは知らない。それでもこのだらけっぷりを見せるのは何処かしのびなかった。
「……そうだチューダ様。もう暫くしたらリムネラさんも帰ってくるはずなんですが……きっと来たから戻ってくることですし、ここ数日のリゼリオの暑さにはきっとすぐに参ってしまうと思うんです。なので、涼しく出迎える準備、しませんか?」
見た目だけでも、とか、何か飲み物や食べ物で涼をとる、とか、その手段はなんでもいい。心地よい気分で出迎えるのなら、このぐったりした幻獣王はちょっとアレだろうから、せめて気持ちだけでも……と言うことだ。
「ふむ……めんどくさくはありますが、リムネラも重大な任務からの帰りでありますな。心地よく迎え入れてやりたいのはわかるでありますよ」
チューダも、何となく意図は察したようだ。
●
そんなわけで、少しでも涼しくなる大作戦が、決行される。
みなさんも、参加してみませんか?
うららかな春の日。
――といいたいのだが。
「あっつーい!」
ここ数日、リゼリオの街は妙に暑い。リアルブルーで異常気象が騒がれるのはもう最近では当たり前のようなかんじになっているが、クリムゾンウェストでこの時期にこれだけ暑いのはやはり何かあるのではないかと勘ぐってしまいそうだ。
が、一般市民の考えはそこでなく、とりあえずなんとか暑さをしのぎたい――この一言に尽きた。
お陰で喫茶店などは妙に大賑わい。
暑さで冷たい飲み物や食べ物の需要が増えているいい証拠だった。
●
さて、ココにぐったりしているねずみが一匹。
――もとい、チューダ(kz0173)がいた。
ふくふくの毛皮を常日頃から纏っているチューダ、当たり前だが暑さに弱い。たとえ夏毛に生え替わるとしても暑さに弱い。
ふっくりふくふくの外見は力なくだれている。
「あついであります……」
脳みそも蕩けているのか、口調も何処かおぼつかない。
そんなチューダが今いるのは、まだリーダーであるリムネラが戻ってきていない辺境ユニオン『ガーディナ』にしつらえられている談話室。近くには他にも、やはり暑さでへばり気味なハンターが転がって……もとい、くったりのんびりとしている。
「みなさん、だらけてますねぇ」
そう言って苦笑を浮かべるのは補佐役を務めるジーク・真田(kz0090)。風の噂にリムネラもそろそろ戻ってくるらしいとは聞いているが、いつになるのか、彼もはっきりは知らない。それでもこのだらけっぷりを見せるのは何処かしのびなかった。
「……そうだチューダ様。もう暫くしたらリムネラさんも帰ってくるはずなんですが……きっと来たから戻ってくることですし、ここ数日のリゼリオの暑さにはきっとすぐに参ってしまうと思うんです。なので、涼しく出迎える準備、しませんか?」
見た目だけでも、とか、何か飲み物や食べ物で涼をとる、とか、その手段はなんでもいい。心地よい気分で出迎えるのなら、このぐったりした幻獣王はちょっとアレだろうから、せめて気持ちだけでも……と言うことだ。
「ふむ……めんどくさくはありますが、リムネラも重大な任務からの帰りでありますな。心地よく迎え入れてやりたいのはわかるでありますよ」
チューダも、何となく意図は察したようだ。
●
そんなわけで、少しでも涼しくなる大作戦が、決行される。
みなさんも、参加してみませんか?
リプレイ本文
●
集まった日は、――まだ初夏だというのに、やはり暑かった。
満足な冷房がないなか、だれもが額にじわりと汗を滲ませながら、中央でふんぞり返っているチューダを見て更に気分が減退する気がする。
(ひっさびさに見るけど、チューダ……お前ってほんっと、暑そうな身体をしてるよなぁ……)
そんなことを思いながら座っているのは、機械鎧に身を包んだ、これまた見た目は暑そうなキヅカ・リク(ka0038)である。機導師としての実力もあってか、機械鎧と言うこともあるのか、本人は(まだ)涼しい顔をしているが、
「まあ、……この時期でも全身鎧を戦場で着なきゃいけない僕らとかもたいがいなんだけどね……ぶっちゃけると戦場ついた時点でもう蒸れてたり、汗でやばかったりして、既に帰りたくなってるんだけどね」
あ、ぶっちゃけた。屋内で話す依頼だからまだましなものの、実際はかなり暑いらしいことがその発言から見て取れる。
「それでも、温暖化とかが進んでいないだけ、まし……ですけれど、リアルブルーのクーラーのような類はない……ですし、ね」
そう言って小さく頷き返したのはこちらもリク同様にリアルブルー出身の天央 観智(ka0896)、ただしリクとは違ってどちらかというとデスクワークの似合いそうな青年である。無論ハンターの嗜みとして鎧の類も持っているが、普段はもっぱら白衣で過ごすことが多い。
「にしてもあついでありますなー。ジーク、なにかつめたいものをしょもうするであります」
声をかけられたガーディナの補佐役ジーク・真田は苦笑を浮かべながらそんなことを言うチューダ、そして集まってくれた面々に冷やした紅茶を差し出す。リアルブルーほどの技術はないものの、つめたいものを飲み食いする手段は確立されているのは救いと言えた。カランと涼しげな音の鳴る氷に耳を澄ませながら、ストローでアイスティを貰えば、口の中を通り抜けていく涼しさに思わずうっとりするのも仕方がない。
「あ、そう言えば……きちんとお会いするのは初めてでしたよね。エルバッハ・リオンです、よろしければエルとお呼びください。よろしくお願いします」
丁寧に挨拶をするのはエルフの少女エルバッハ・リオン(ka2434)、ドレスにビキニアーマーを纏う姿は見目にはだいぶ涼しげだが、それでも暑さはやはり感じるのだろう。こめかみにうっすらと汗をかいている。そんな少女にジークはにこりと笑いかけ、そしてぽんと背中を叩いてやった。
「いや、そんなに畏まらなくてもいいから。今回はリムネラさんの出迎えという意味も含んでいるからね」
そう。一足早くリゼリオに戻ってきたハンターたちとは一旦別れ、リムネラはリタ・ティトに今回の経緯を報告しているのだ。北方や辺境の北部から帰還するぶんには、リゼリオの最近の暑さは身に堪えるに違いないと言うことで、今回の相談が発生したのである。
「でも……涼しくする、涼しくする……かぁ。なんて言うか、こう、ブリザードみたいな魔法でばーっと、ほどよく涼しく出来れば良かったんだけど、そんなのつかったらいろいろ凍り付いちゃうだろうしなぁ……どうせなら、誰もやったことないようなアイデアで涼しくできたらいいんだけど!」
ストローを口にくわえたまま、夢路 まよい(ka1328)は青い瞳をなんども瞬きさせる。流石自他共に認める『無邪気ブレイカー』の通り名は伊達ではないらしい。そんな荒っぽいやり方では涼しくなると言うより、色んな意味で凍えてしまうだろう。
●
「……で、如何しましょうかね。実際の話」
一息ついてからジークがそう言うと、チューダはまた
「あついであります!」
とじたばたする有り様。むしろそんなに暴れたりしたらいっそう暑くなるだろうに、本人(?)は気付いていないのだろうか? だがまあソレがチューダという存在の憎めない部分とも言えるので、あえて突っ込んだりする者はいない。
「にしても、暑いでありますな……」
ふと予想外の方角からそんな声が溢れて、面々は声の主――レイア・アローネ(ka4082)に眼をやる。
「ッ、私、今なにか言ったか?!」
慌てふためくレイアに一瞬呆然としつつも、仲間たちは(まあ暑いからなぁ)という程度。レイアも落ち着きを取りもどし、
「私ももともと暑い国の生れではあるのだが、それでも暑いものは暑いからな……」
そうなに食わぬ顔で言ってみせる。その実、彼女はチューダに会うとなぜだか判らないがみょうにからだがこわばっていた。
会うのが初めての筈なのに、猛烈に感じる不安感と不快感……というか、むしろ、八つ当たりをしたくなるほどの怨嗟。理由はまったく分からないが、まあ今回はそれを考えていてもしようがない。
「……嗚呼、すまない。涼みについての話だったな」
と、レイアはじろりとチューダの顔を見て、
「そうだな……チューダの毛を全部刈り取ればいいのではなかろうか?」
「ひぃぃ!?」
流石にチューダもおののいた顔でその言葉を聞く。周囲も一瞬空気が凍り付いたが、意外にもそれに追撃をかける者がいた。
「それもよいと思いますが、以前リアルブルーの本で読んだことのあるゲームなどはどうでしょう? 後ろから襲い来る鬼から逃げる、命がけの鬼ごっこです。捕まればジ・エンドという鬼ごっこなら心の底から涼しくなるだけでなく……ダイエットにも丁度いいと思いますし」
そう言いながらチューダに目をやるエルバッハである。そう言えば彼女は以前からチューダの脂肪の付き方について苦言を呈していたが……
「どうでしょう、チューダ様? ここのところ怠慢も目立つようですから、良い機会と思いますし?」
そう言いながらエルバッハが浮かべる笑顔はなんというか……たとえて言うなら氷の微笑。まさしく年に似合わぬクールビューティ。
と、エルバッハはすぐに表情を軟化させ、
「すみません、冗談です」
そう言ってみせる。……まあ、チューダの怠慢ぶりは今に始まったことではないので、釘を刺しておくのはありなのであろう。
「でも、そう言う精神的な涼しさ……身の凍る思いというのも確かにアリではあるな。それこそブリザードの魔法……ああ、でもあれは使ったあとに氷が残らないし……試してみろって言われても、今回は準備してきてないんだけどね」
なかなかつめたい(物理的に)なことを言うのはまよいだ。
「あとは、頭の上に大きな石をつるして、いつ落ちてくるか判らないひやっと感で肝を冷やすとかはどうかな?」
「ソレは……うっかりするとほんとうの意味で危険では」
観智の冷静な突っ込みで流石にそれは却下になるが、どうも熱さのせいか皆すこし頭のねじが緩んでいるのかも知れない。
「さっむーい駄洒落を言いあって、場の空気を凍り付かせるとか? あとは怪談話とか?」
アイデアは面白いが、実行に移すとなると実際には冷えるかんじのしないアイデアがぽんぽんと飛び出すまよい。まあ、実際にできるかと言えば難しいものも多いので、実行に移されることはないだろうが、いい気分転換にはなるのかも知れない。
●
「でも、エアコンがなくて、電気がなくて……ってなればやることは一つ! 水で冷やす、っていうのが、一番判りやすいだろうなぁ……!」
リクがそう言うと、それまで静かに話を聞いていた最後の一人――灯(ka7179)は、曖昧に頷いた。
「確かに、大切な方を少しでも心地よく迎えてあげたいというのなら、それはとてもやさしい想いだし……見目に涼しくなれるように工夫をするのはいいかもしれないですね。あと、それなら、小さいながら氷を生み出すテクノロジーは一応存在しますし、氷柱花、というのはいかがでしょうか」
氷柱花。花を水とともに凍らせて、見た目にも涼しいインテリアである。
「あ、聞いたことはあります」
リアルブルー出身のジークがぽんと手を打った。
「紫陽花にアナベルのように小さくて色合いの涼やかなものや、百日草や芝桜など、カラフルな花弁を浮かべた、おおきめのキャンドル程度の氷を持参して、机の上にまとめて置いておくだけでも随分と涼やかと思います。ゆっくり溶けていく時には温度も下げてくれる……と、思いますし。食べられる花を使っているので、これでつめたいジュースをこしらえたりするのもいいですね」
なるほど、見て楽しく味わって楽しい。
「そう言う、見た目に……というのなら、窓の外に、簾をするのは……いかがでしょう? 可能なところは、葦簀もいいですけれど」
観智も見目からの涼しさを提案する。もともと古い時代のリアルブルー・日本地域では、やはり電気などは存在せず、見目の涼しさで気持ちを落ち着けたりと言うことも行っていた。その再現とまでは行かないかも知れないが、そう言うことなのであろう。
無論防犯上の問題で窓の開けっ放しというのはあまり褒められたものでは無いのかも知れないが、それでも風通しをよくするというのは暑い季節を乗り越えるのなら多少なりともましになるという者だ。
「昔、リアルブルーで得た知識ですけれど……部屋をあたためる要因の多くは、意外と……窓からさす日光らしいんです。日差しで熱された壁や屋根からの熱が伝わって、と言うのも勿論ありますけれど……思っているよりも比率は少ないらしくて。だから、窓の外に日差しを遮るものを設置するだけで、室温が上がるのを多少は抑えられるはず、です」
こういう時の観智は饒舌になる。自分の知識が活用できることを喜ばない知恵者というのはそうそう存在しない者なのだ。
聞いていたリクも、なるほどと頷いてみせる。
「先人の知恵というのも馬鹿には出来ないな。僕が考えたのはもっとシンプルに水での冷却だけど、まあ、節制蒸留水を利用して水を作り、それを貯水石にため込む。チューダはコップに水を入れてその中に浮かべておくとして……あとは桶かなにかを用意して、全員がそれに入れた水に足をつけられるようにすれば、だいぶましになるんじゃないかな……と思ったわけだけど。長い目で見るのなら、施設の周りの緑化だとか、建物の壁面を蔦で覆って日光の熱から護るとか……すぐに出来ることじゃないけれど、来年の今頃にはだいぶ違うかも知れない」
「ああ、なるほど。グリーンカーテンなら……時間はかかりますけれど、労力としては難しくない、かも知れませんね」
観智も似たような考えは持っていたので、なるほどと頷いた。飛影を作るというのは確かにかなりの重労働だが、植物の育つに任せるというなら苦労は半分ほどで済むだろう。
「うん。雨や嵐の対策にも、結構効果あるし」
そう言いながら、そっと取り出したのは……プラモデル。
「あとはなにかに集中するって言うのも考えたんだけど、心頭滅却すれば火もまたすずしって言うし……でも良く考えたら逆に熱中するから汗かくんだよな……」
リクは年齢相応の屈託ない笑顔で笑って見せた。
「水を使うのなら、小さな用水路を引くというのもあり得るだろう。それが難しそうなら、池を作るとか」
たいへんかも知れないが、リムネラを迎えるためだというならこのくらいはきっと朝飯前。レイアはそう言ってにっこりと笑う。
「リアルブルーの風習に『打ち水』というのがあるとも聞きます。家の入口に水をまくだけですが、蒸発した水が熱を奪って気温を下げると言いますから、物は試しにやってみるのもどうでしょう」
エルバッハもそう提案して、先ほどまでとは違う落ち着いた笑みを浮かべた。こっくりと頷いて、灯もなにやらとりだしてみせる。
「そういうのも素敵ですね。あとは……気持ちだけでも、と思い、ハッカ油を用意してきました。薄めたものをスプレーで持参したのですが、試してみませんか?」
灯はそう言うとジークに許可を取り、腕にひとふり。
すっとする匂いと、清涼感が漂う。
「疲れた気持ちもすっきりすると思います。お迎えするリムネラさんは女性ですし、こういうのも好むといいのですが」
ただ動物には苦手な香りだったりするらしく……と言ってからふっとチューダに向き直る。
「あ……もしかして、チューダさんは、ミントの香りは平気でしょうか? もし苦手だったら流してきます」
「んー、我輩、こういう匂いは正直よく分からないでありますよ……ただ、ヘレもおりますからなあ」
ヘレは今回リムネラが龍園まで行くきっかけになった龍の子だ。チューダよりもこちらになにかがあってはいけないというのも言われて見れば当然である。
「あ、そ、そうですよね……! 気が利かなくてすみません。でも……」
灯はちら、とチューダのもふもふの毛並みを眺める。
(毛の間に塗ってみたりしたらとても涼しいとは思うのだけど……ちょっと配慮が足りなかったみたいですね)
それでもあのもふもふの毛並みに心奪われる人はやはりいるわけで――
「チューダさん、あの……図々しいお願いですけれど、その、触れさせていただいてもよろしいですか……?」
僅かに口ごもりながら、顔を赤らめチューダに尋ねる灯。チューダはそう言うリクエストに応えないわけもなく、
「もちろんでありますとも」
そう言ってふかふかの胸元をさしだした。それに縋るように、思わずダイブする灯。彼女にとって、今日は間違いなく幸せな日に違いあるまい。
●
結果として、簾とグリーンカーテン、それに打ち水は早速採用された。
じりじりと暑くなる季節も近づいてくる中、リムネラも間もなく帰ってくるだろうし、このガーディナに人が集うことも幾度とあるだろう。
だれもがその日を待っている。
ヘレを伴い、明るい笑顔を見せるリムネラを、待っている。
集まった日は、――まだ初夏だというのに、やはり暑かった。
満足な冷房がないなか、だれもが額にじわりと汗を滲ませながら、中央でふんぞり返っているチューダを見て更に気分が減退する気がする。
(ひっさびさに見るけど、チューダ……お前ってほんっと、暑そうな身体をしてるよなぁ……)
そんなことを思いながら座っているのは、機械鎧に身を包んだ、これまた見た目は暑そうなキヅカ・リク(ka0038)である。機導師としての実力もあってか、機械鎧と言うこともあるのか、本人は(まだ)涼しい顔をしているが、
「まあ、……この時期でも全身鎧を戦場で着なきゃいけない僕らとかもたいがいなんだけどね……ぶっちゃけると戦場ついた時点でもう蒸れてたり、汗でやばかったりして、既に帰りたくなってるんだけどね」
あ、ぶっちゃけた。屋内で話す依頼だからまだましなものの、実際はかなり暑いらしいことがその発言から見て取れる。
「それでも、温暖化とかが進んでいないだけ、まし……ですけれど、リアルブルーのクーラーのような類はない……ですし、ね」
そう言って小さく頷き返したのはこちらもリク同様にリアルブルー出身の天央 観智(ka0896)、ただしリクとは違ってどちらかというとデスクワークの似合いそうな青年である。無論ハンターの嗜みとして鎧の類も持っているが、普段はもっぱら白衣で過ごすことが多い。
「にしてもあついでありますなー。ジーク、なにかつめたいものをしょもうするであります」
声をかけられたガーディナの補佐役ジーク・真田は苦笑を浮かべながらそんなことを言うチューダ、そして集まってくれた面々に冷やした紅茶を差し出す。リアルブルーほどの技術はないものの、つめたいものを飲み食いする手段は確立されているのは救いと言えた。カランと涼しげな音の鳴る氷に耳を澄ませながら、ストローでアイスティを貰えば、口の中を通り抜けていく涼しさに思わずうっとりするのも仕方がない。
「あ、そう言えば……きちんとお会いするのは初めてでしたよね。エルバッハ・リオンです、よろしければエルとお呼びください。よろしくお願いします」
丁寧に挨拶をするのはエルフの少女エルバッハ・リオン(ka2434)、ドレスにビキニアーマーを纏う姿は見目にはだいぶ涼しげだが、それでも暑さはやはり感じるのだろう。こめかみにうっすらと汗をかいている。そんな少女にジークはにこりと笑いかけ、そしてぽんと背中を叩いてやった。
「いや、そんなに畏まらなくてもいいから。今回はリムネラさんの出迎えという意味も含んでいるからね」
そう。一足早くリゼリオに戻ってきたハンターたちとは一旦別れ、リムネラはリタ・ティトに今回の経緯を報告しているのだ。北方や辺境の北部から帰還するぶんには、リゼリオの最近の暑さは身に堪えるに違いないと言うことで、今回の相談が発生したのである。
「でも……涼しくする、涼しくする……かぁ。なんて言うか、こう、ブリザードみたいな魔法でばーっと、ほどよく涼しく出来れば良かったんだけど、そんなのつかったらいろいろ凍り付いちゃうだろうしなぁ……どうせなら、誰もやったことないようなアイデアで涼しくできたらいいんだけど!」
ストローを口にくわえたまま、夢路 まよい(ka1328)は青い瞳をなんども瞬きさせる。流石自他共に認める『無邪気ブレイカー』の通り名は伊達ではないらしい。そんな荒っぽいやり方では涼しくなると言うより、色んな意味で凍えてしまうだろう。
●
「……で、如何しましょうかね。実際の話」
一息ついてからジークがそう言うと、チューダはまた
「あついであります!」
とじたばたする有り様。むしろそんなに暴れたりしたらいっそう暑くなるだろうに、本人(?)は気付いていないのだろうか? だがまあソレがチューダという存在の憎めない部分とも言えるので、あえて突っ込んだりする者はいない。
「にしても、暑いでありますな……」
ふと予想外の方角からそんな声が溢れて、面々は声の主――レイア・アローネ(ka4082)に眼をやる。
「ッ、私、今なにか言ったか?!」
慌てふためくレイアに一瞬呆然としつつも、仲間たちは(まあ暑いからなぁ)という程度。レイアも落ち着きを取りもどし、
「私ももともと暑い国の生れではあるのだが、それでも暑いものは暑いからな……」
そうなに食わぬ顔で言ってみせる。その実、彼女はチューダに会うとなぜだか判らないがみょうにからだがこわばっていた。
会うのが初めての筈なのに、猛烈に感じる不安感と不快感……というか、むしろ、八つ当たりをしたくなるほどの怨嗟。理由はまったく分からないが、まあ今回はそれを考えていてもしようがない。
「……嗚呼、すまない。涼みについての話だったな」
と、レイアはじろりとチューダの顔を見て、
「そうだな……チューダの毛を全部刈り取ればいいのではなかろうか?」
「ひぃぃ!?」
流石にチューダもおののいた顔でその言葉を聞く。周囲も一瞬空気が凍り付いたが、意外にもそれに追撃をかける者がいた。
「それもよいと思いますが、以前リアルブルーの本で読んだことのあるゲームなどはどうでしょう? 後ろから襲い来る鬼から逃げる、命がけの鬼ごっこです。捕まればジ・エンドという鬼ごっこなら心の底から涼しくなるだけでなく……ダイエットにも丁度いいと思いますし」
そう言いながらチューダに目をやるエルバッハである。そう言えば彼女は以前からチューダの脂肪の付き方について苦言を呈していたが……
「どうでしょう、チューダ様? ここのところ怠慢も目立つようですから、良い機会と思いますし?」
そう言いながらエルバッハが浮かべる笑顔はなんというか……たとえて言うなら氷の微笑。まさしく年に似合わぬクールビューティ。
と、エルバッハはすぐに表情を軟化させ、
「すみません、冗談です」
そう言ってみせる。……まあ、チューダの怠慢ぶりは今に始まったことではないので、釘を刺しておくのはありなのであろう。
「でも、そう言う精神的な涼しさ……身の凍る思いというのも確かにアリではあるな。それこそブリザードの魔法……ああ、でもあれは使ったあとに氷が残らないし……試してみろって言われても、今回は準備してきてないんだけどね」
なかなかつめたい(物理的に)なことを言うのはまよいだ。
「あとは、頭の上に大きな石をつるして、いつ落ちてくるか判らないひやっと感で肝を冷やすとかはどうかな?」
「ソレは……うっかりするとほんとうの意味で危険では」
観智の冷静な突っ込みで流石にそれは却下になるが、どうも熱さのせいか皆すこし頭のねじが緩んでいるのかも知れない。
「さっむーい駄洒落を言いあって、場の空気を凍り付かせるとか? あとは怪談話とか?」
アイデアは面白いが、実行に移すとなると実際には冷えるかんじのしないアイデアがぽんぽんと飛び出すまよい。まあ、実際にできるかと言えば難しいものも多いので、実行に移されることはないだろうが、いい気分転換にはなるのかも知れない。
●
「でも、エアコンがなくて、電気がなくて……ってなればやることは一つ! 水で冷やす、っていうのが、一番判りやすいだろうなぁ……!」
リクがそう言うと、それまで静かに話を聞いていた最後の一人――灯(ka7179)は、曖昧に頷いた。
「確かに、大切な方を少しでも心地よく迎えてあげたいというのなら、それはとてもやさしい想いだし……見目に涼しくなれるように工夫をするのはいいかもしれないですね。あと、それなら、小さいながら氷を生み出すテクノロジーは一応存在しますし、氷柱花、というのはいかがでしょうか」
氷柱花。花を水とともに凍らせて、見た目にも涼しいインテリアである。
「あ、聞いたことはあります」
リアルブルー出身のジークがぽんと手を打った。
「紫陽花にアナベルのように小さくて色合いの涼やかなものや、百日草や芝桜など、カラフルな花弁を浮かべた、おおきめのキャンドル程度の氷を持参して、机の上にまとめて置いておくだけでも随分と涼やかと思います。ゆっくり溶けていく時には温度も下げてくれる……と、思いますし。食べられる花を使っているので、これでつめたいジュースをこしらえたりするのもいいですね」
なるほど、見て楽しく味わって楽しい。
「そう言う、見た目に……というのなら、窓の外に、簾をするのは……いかがでしょう? 可能なところは、葦簀もいいですけれど」
観智も見目からの涼しさを提案する。もともと古い時代のリアルブルー・日本地域では、やはり電気などは存在せず、見目の涼しさで気持ちを落ち着けたりと言うことも行っていた。その再現とまでは行かないかも知れないが、そう言うことなのであろう。
無論防犯上の問題で窓の開けっ放しというのはあまり褒められたものでは無いのかも知れないが、それでも風通しをよくするというのは暑い季節を乗り越えるのなら多少なりともましになるという者だ。
「昔、リアルブルーで得た知識ですけれど……部屋をあたためる要因の多くは、意外と……窓からさす日光らしいんです。日差しで熱された壁や屋根からの熱が伝わって、と言うのも勿論ありますけれど……思っているよりも比率は少ないらしくて。だから、窓の外に日差しを遮るものを設置するだけで、室温が上がるのを多少は抑えられるはず、です」
こういう時の観智は饒舌になる。自分の知識が活用できることを喜ばない知恵者というのはそうそう存在しない者なのだ。
聞いていたリクも、なるほどと頷いてみせる。
「先人の知恵というのも馬鹿には出来ないな。僕が考えたのはもっとシンプルに水での冷却だけど、まあ、節制蒸留水を利用して水を作り、それを貯水石にため込む。チューダはコップに水を入れてその中に浮かべておくとして……あとは桶かなにかを用意して、全員がそれに入れた水に足をつけられるようにすれば、だいぶましになるんじゃないかな……と思ったわけだけど。長い目で見るのなら、施設の周りの緑化だとか、建物の壁面を蔦で覆って日光の熱から護るとか……すぐに出来ることじゃないけれど、来年の今頃にはだいぶ違うかも知れない」
「ああ、なるほど。グリーンカーテンなら……時間はかかりますけれど、労力としては難しくない、かも知れませんね」
観智も似たような考えは持っていたので、なるほどと頷いた。飛影を作るというのは確かにかなりの重労働だが、植物の育つに任せるというなら苦労は半分ほどで済むだろう。
「うん。雨や嵐の対策にも、結構効果あるし」
そう言いながら、そっと取り出したのは……プラモデル。
「あとはなにかに集中するって言うのも考えたんだけど、心頭滅却すれば火もまたすずしって言うし……でも良く考えたら逆に熱中するから汗かくんだよな……」
リクは年齢相応の屈託ない笑顔で笑って見せた。
「水を使うのなら、小さな用水路を引くというのもあり得るだろう。それが難しそうなら、池を作るとか」
たいへんかも知れないが、リムネラを迎えるためだというならこのくらいはきっと朝飯前。レイアはそう言ってにっこりと笑う。
「リアルブルーの風習に『打ち水』というのがあるとも聞きます。家の入口に水をまくだけですが、蒸発した水が熱を奪って気温を下げると言いますから、物は試しにやってみるのもどうでしょう」
エルバッハもそう提案して、先ほどまでとは違う落ち着いた笑みを浮かべた。こっくりと頷いて、灯もなにやらとりだしてみせる。
「そういうのも素敵ですね。あとは……気持ちだけでも、と思い、ハッカ油を用意してきました。薄めたものをスプレーで持参したのですが、試してみませんか?」
灯はそう言うとジークに許可を取り、腕にひとふり。
すっとする匂いと、清涼感が漂う。
「疲れた気持ちもすっきりすると思います。お迎えするリムネラさんは女性ですし、こういうのも好むといいのですが」
ただ動物には苦手な香りだったりするらしく……と言ってからふっとチューダに向き直る。
「あ……もしかして、チューダさんは、ミントの香りは平気でしょうか? もし苦手だったら流してきます」
「んー、我輩、こういう匂いは正直よく分からないでありますよ……ただ、ヘレもおりますからなあ」
ヘレは今回リムネラが龍園まで行くきっかけになった龍の子だ。チューダよりもこちらになにかがあってはいけないというのも言われて見れば当然である。
「あ、そ、そうですよね……! 気が利かなくてすみません。でも……」
灯はちら、とチューダのもふもふの毛並みを眺める。
(毛の間に塗ってみたりしたらとても涼しいとは思うのだけど……ちょっと配慮が足りなかったみたいですね)
それでもあのもふもふの毛並みに心奪われる人はやはりいるわけで――
「チューダさん、あの……図々しいお願いですけれど、その、触れさせていただいてもよろしいですか……?」
僅かに口ごもりながら、顔を赤らめチューダに尋ねる灯。チューダはそう言うリクエストに応えないわけもなく、
「もちろんでありますとも」
そう言ってふかふかの胸元をさしだした。それに縋るように、思わずダイブする灯。彼女にとって、今日は間違いなく幸せな日に違いあるまい。
●
結果として、簾とグリーンカーテン、それに打ち水は早速採用された。
じりじりと暑くなる季節も近づいてくる中、リムネラも間もなく帰ってくるだろうし、このガーディナに人が集うことも幾度とあるだろう。
だれもがその日を待っている。
ヘレを伴い、明るい笑顔を見せるリムネラを、待っている。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
納涼大作戦 レイア・アローネ(ka4082) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/05/27 22:59:36 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/05/28 18:40:43 |