海の幸三昧

マスター:きりん

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/06/08 12:00
完成日
2018/06/11 01:05

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●海の恵みは巨大エビ
 クリムゾンウエストでもリアルブルーでも、海というものは恵みをもたらすものである。
 本日は大漁で、魚の他にも沢山のエビが水揚げされた。
 どれもが大きなエビで、中には一メートル程度の大きさのものもいる。
「今日はよく取れたな」
「運が良かったんだ。毎回こうはいかねえよ」
「違いない」
 漁師たちが今日の漁の成果を確認する中、エビの山はさっそく競りにかけられる。
 次々と魚が落札され、めぼしい魚が売りつくされた後でエビの番になった。
 まずは小さめのエビから競りが始まる。小さめといっても、それは一番大きなエビと比べてであって、それでも家庭に並ぶエビとしてはかなり大きいのであるが。
「うひゃあ、こりゃでけえなあ」
「そうだそうだ。こんなに大きなエビは珍しいぞ」
「しかも数が多い。今回は大漁だな」
 競りに参加する面々も白熱し、財布の口が緩むようで競りの値段は普段より早いペースで値上がりしていく。
「よっしゃ、競り落とせた!」
「くそ、届かなかった……。次のに期待するか」
 何しろとにかくエビの数が多いので後から後から美味そうなエビはいくらでも出てくるのだ。
 先物買いの銭失いには注意しなければならない。
 その時、絹を裂くような悲鳴が響き渡った。
「雑魔だー! 水揚げされた中に雑魔が混じってるぞー!」

●巨大魚が空を泳ぐ
 叫んだのは、最初の方に魚を競り落とした人間だった。彼はその場で漁師に解体を依頼して、終わるのを待とうとしていた。
 すると、自分が競り落とした魚が突然動き出し、まるで水の中にいるかのように空中を泳ぎ出したのだという。
 騒ぎは伝播し、よく見ると他にもいくつかの魚が空中を泳いでいるのが見える。
「どうなってるんだ……俺は夢でも見てるのか」
 男の顔色は悪い。
 当然だ。雑魔のことは当然クリムゾンウエストで生きる者として知識として知っているものの、一般人が実際に出会って平静を保っていられるかというと、それはノーである。
 水揚げされたのが全て食用魚で、危険な鮫や毒持ちの魚が含まれていないのが、唯一の救いか。
 もっとも、雑魔に一般人が対抗するのは困難なため、元の生物が何であろうと脅威には違いないだろうが。
 雑魔魚たちは広い競り会場の中を縦横無尽に泳ぎ回るので、危なくて競りどころではなく、人々は慌てて避難を始めた。
「おい! 誰かハンターズソサエティに連絡しろ! ハンターに来てもらえ! 俺たちじゃどうにもならん!」
 競りの責任者が叫び、寄ってくる雑魔魚たちに慌てて逃げ出した。

●巨大貝が跳ねる
 雑魔になったのは魚だけではなかった。
 同じ日に水揚げされ、競り会場に運ばれていた貝の中にも、雑魔になった貝が混じっていたのである。
 全体的に貝も魚と同じように大きい種だったので、雑魔化した貝も当然大きかった。
 体当たりするだけだった魚に比べ、貝は水を鉄砲のように撃ってくるので危ない。
 しかも、時折予想外の力でジャンプして意表を突く動きをしてくる。
 勢いよく発射される水に当たったら吹っ飛ばされるだろうし、圧し掛かられると潰されかねない。殻で挟まれでもしたら大怪我を負う可能性もある。
 厄介なのは、行動の予兆が掴み難い点だ。
 止まっていても突然動くかもしれない。静から動への動き出しが分かり辛いので、場合によっては初見殺しになる可能性がある。
 少なくとも、一般人にとっては。
「くそ、危なくて近付けないぞ!」
「離れろ、挟まれでもしたら身体が千切れるぞ!」
「不用意に近付くなよ、静かにしてても獲物を待っているだけかもしれないからな!」
 漁師たちは声を掛け合い、雑魔が暴れる区画から避難していく。
「北のエビ競りでも雑魔、東の魚競りでも雑魔、西の貝競りでも雑魔、これで南の蟹競りでも雑魔が出たら完璧だな!」
「止めろよ縁起でもない!」
 そんな軽口を叩いていたのがいけなかったのか。
 競り会場の南で、彼らが蟹の雑魔を見つけてしまったのは。

●巨大蟹の横走り
 大きさに反して、雑魔蟹の動きは軽快だった。
「活きのいい蟹だなぁ」
「そうだなぁ。活け造りにしたら美味そうだ」
 あまりに非現実的なことばかり起きていたので現実逃避していた二人の漁師を、避難中の他の漁師がどついた。
「お前ら阿呆なこと言ってる場合か! さっさと逃げやがれ!」
「だがよ、どうやって逃げるんでい。俺たちの足じゃあっという間に追いつかれるぜ」
「狭い所に逃げ込むのはどうだ?」
「あいつら足が長くて細いからな。器用に入り込んでくるんじゃないか」
 口々に相談する漁師たちは、蟹の素早さを懸念していた。
 蟹という生き物はあれで案外素早く動くことができるものだ。
 普通の蟹ですらそうなのだから、雑魔となった蟹ならば、何をかいわんやである。
「おい、ハンターはまだか!」
「さっき連絡したばかりだよ!」
「これじゃあ競りどころじゃねえぞ!」
 競り会場はどこも大騒ぎだ。
「お、離れたぞ」
「よし、今のうちだ」
 蟹がどこかへ行ったのを見て、漁師たちは避難を再開させた。

●ハンターズソサエティ
 その日の受付嬢は、営業スマイルを通り越して満面の笑顔だった。
 同僚の受付嬢たちは、その笑顔を見て首を傾げたり、驚いて仰け反ったりしている。
「皆さん、海の幸をいただきに行きましょう」
 は? とその場にいたハンターたちの心が一つになった。
「間違えました。依頼です。競りが行われている会場で、商品の海産物が一部雑魔となったようです。成り立てらしいですよ」
 ハンターたちは受付嬢が上機嫌な理由を悟った。
 依頼という名目で海の幸が食べたいだけだ。依頼を説明した後で絶対ついていきたいとか言い出すに違いない。
「雑魔はエビ、魚、貝、蟹の四種類です。それぞれ会場は四つに分けられていて、北にエビ、東に魚、西に貝、南に蟹と分かれて競りが行われていました。ですので、雑魔もその周辺にいると思われます。会場そのものは広いですが、競りの際中だったため商品が並んでおりかなり視界が遮られるそうです。ですので、皆さんお気をつけください」
 注意を促してくれるのはいいのだが、じゅるりと涎を啜ることさえなければ完璧だった。
「もし死体が残ったら、それも報酬の一部に加えてくださるそうですよ。結構大きな雑魔ですから、かなりの量の美味しい海の幸が手に入ります」
 受付嬢のクールな仮面は完全に剥がれて海の藻屑になったようで、もはや受付嬢は食いしん坊以外の何者でもなかった。
「ちなみに、今回は見届け人として私も参りますが、驚かないでくださいね?」
 知ってた。
 その場にいたハンターたちの心の声が唱和した。

リプレイ本文

●もうでっかい食材にしか見えない
 ハンターたちが競り場に着くと、磯の香りが漂ってきた。
 匂いの正体は競り場に残された数多の海産物だ。
 雑魔を倒して得られたものは好きにしていいらしく、ハンターたちの海の幸に対する期待が高まる。
「鍋や調味料を手配しておきました。俺は海老と蟹の相手をします」
 鹿東 悠(ka0725)がそつなく戦闘終了後のことについて告げ、駆け出す。
「氷を漁師たちに頼んでおきましたよ。俺は魚と貝の方に行きますかね」
 淡々とした口調で、Gacrux(ka2726)も報告を行い自らの受け持ちを決める。 
「えびえび……えびかにたべほうd……あ、しっかり退治してからや! 当然やで!」
 完全に食欲に頭が支配されていた白藤(ka3768)が我に返り、慌てて悠を追いかける。
「近隣住民の平和と私のご飯のためにも、雑魔をズバッとやっつけちゃうんだから!」
 瞳をキラキラと輝かせたルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は、今日も元気いっぱいだ。
「すごーい! おっきい! 海の幸って聞いたから来たけど、これは予想以上だよ!」
 既に雑魔が食材にしか見えていない様子のシエル・ユークレース(ka6648)は大喜びしている。
「退治した後のことも楽しみだけど、やっぱり退治の方が大事。しっかりやるよ!」
 海の幸のことを肯定しながらも、イリエスカ(ka6885)は本来の目的である雑魔退治を強調する。
「エビ(好き)姉妹に勝てると思うニャよ! さあ大人しくミアたちのご飯にニャるのだ!」
 まさに猫まっしぐらな勢いで駆けながら、ミア(ka7035)が器用に周囲の状況を把握していく。
「エビもカニも貝も魚も全部食う! そのために雑魔を倒す! 待ってろよ海の幸!」
 目的が入れ替わっている気がしないでもない浅生 陸(ka7041)は食欲に忠実だった。
 食欲に支配されている八人のハンターたちには、もはや雑魔すらも海の幸にしか見えていない。
 残された受付嬢は、Gacruxから預かった猫を抱きながら漁師たちを指揮して宴会の準備に取り掛かる。
 さあ、依頼の始まりだ!

●南北班の戦い
 海老と蟹の雑魔を相手にするのは悠、白藤、ミア、陸の四人だ。
 四人は全員が友人で、巧みな連携で戦う様は彼ら彼女らの仲の良さを十二分に示している。
 まずは一匹しかいない蟹の方を集中攻撃して倒す作戦だ。
 白藤が魔導拳銃をホルスターから引き抜き、狙いをつけようとして悠に振り向く。
「ねえ悠、残ってる売り物ふっ飛ばしたら不味いやろ? 巻き添えしなさそうな場所に誘い込んでや」
 ゴーグル越しに目を合わせて白藤とアイコンタクトをかわした悠は、体内のマテリアルを燃焼させて炎のようなオーラを纏う。
 眩い輝きに目を奪われた蟹の雑魔が、はっきりと悠を獲物として認識した。
 蟹の雑魔が悠に気を取られているうちに、ミアが蟹の雑魔の足元に潜り込む。
「甲羅は傷付けるなよ。カトウの甲羅酒が俺たちを待ってるんだ。足を狙え、足を」
 陸も魔導銃を構え射撃体勢に入り、ミアに注意喚起をする。
「よし、俺も攻撃に移るか。白藤さん、悪いが援護を頼むぞ」
 戦闘を開始しぶっきらぼうになった口調で悠は白藤に声をかけると、両手に持った試作振動刀とヴァイブレードナイフで蟹の八本足のうちいくつかを斬り落とした。
 反撃とばかりに蟹の雑魔は両手の鋏を振り上げるが、放たれた白藤の銃弾がそれを許さない。
 白藤の銃弾は悠を掠めて雑魔の鋏に命中した。
 誤射されかけて目を剥く陸と、ニヤニヤしながらそれを見つめる白藤を他所に、ミアが元気よく蟹の雑魔を投げ飛ばして地面に叩きつける。
「あいつらがコントしてる間に良い所はミアがいただきニャ!」
 ひっくり返ってむき出しになった腹に打撃を受け、蟹の雑魔は無事海の幸となった。

 続いて相手をするのは海老の雑魔が三匹だ。
 単独だった蟹に対して海老は三匹いる。一筋縄ではいかないかもしれない。
「皆、数が多いから深追いはあかんでー。離脱する隙はうちが作っちゃるからなー」
 行動を起こした白藤が、牽制や威嚇目的に海老の雑魔目掛け銃弾をばらまく。
「浅生さんに戦闘技術の指導をすると約束していたんだったな。ちょうどいい。見極めるか」
 近寄ってきた海老の一匹に対し振り向きもせず、悠は無造作にその足を切り落として機動力を削ぐ。
 そのまま返す刀で頭と胴を唐竹割りにした。
 まずは一匹。
「ずっと前から好きでしたーニャス! 愛してるニャス! ミアの食欲と付き合って欲しいニャス!」
 海老の雑魔に対するミアのラブコールは熱烈だが、食欲由来なので全くときめく余地のない残念なラブコールになっていた。
 それでも味方との連携を忘れず、もう一匹の海老雑魔に必殺の領域まで高めた打撃を放つ。
 味方に近い敵を優先に魔導銃で銃撃する陸の背後から、再び白藤の銃弾が掠めて飛んでいく。
 反射的に陸が目で追ったその銃弾は別の一匹の海老雑魔を打ち抜き、陸の魔導銃による銃撃が遅れて残る海老雑魔に命中する。
「シラフジいい加減にしろよ! 後ろから狙ってくんな! わざとやってるだろ!」
 笑顔を浮かべて誤魔化そうとした白藤を見て、陸は白藤の背後に回った。
 彼女の魔導拳銃よりも陸の魔導銃の方が基礎的な射程は長い。
 背後に回ればいいだけであることに気がついたのだ。
 海老の雑魔が全滅するのに、そう時間はかからなかった。

●東西班の戦い
 魚と貝の雑魔を相手にするのは、Gacrux、ルンルン、シエル、イリエスカの四人だ。
 貝の雑魔はいったん放置しておくことにして、四人は先に魚の雑魔を片付けることにした。
 何しろ魚の雑魔は空中を泳ぎ突進する。
 早急に何とかしなければ、残された海産物に更なる被害が出るのは避けられない。
「絶妙に狙い難い位置ですよねぇ。攻撃が届かない位置じゃないんですけど」
 Gacruxが放った、大口を開けた巨大な髑髏の姿にも見える衝撃波が魚を捕らえる。
 後のことを考えるとあまり身を傷付けるわけにもいかないので、巨大な髑髏に浮かぶ表情もどこか面倒くさそうだ。
 銃剣付き自動拳銃を構えたイリエスカは、仲間たちが狙っていない魚の雑魔一匹を狙う。
「動かないでね、変な場所に弾が当たったら美味しくなくなっちゃうから!」
 逃げようとする魚の雑魔へ、イリエスカが激しい銃撃を浴びせかける。
 さすがというべきか、放たれた銃弾は臓器などの損傷したら味に影響が出る箇所を綺麗に逸れて命中している。
 生き生きとした様子で輝いている者もいた。
 カードマスタールンルンである。
「トラップカード発動! 更に、ジュゲームリリカル……ルンルン忍法五星花! 煌めいて星の花弁☆」
 まるで本当のカードゲームさながらに、地面近くを泳いでいた魚の雑魔を伏せておいた符で捕まえ、別の符を発動させて光の結界を張る。
 結界は過たず魚の雑魔のうち一匹を捕らえ、眩い光を溢れせた。
 三人の攻撃が命中した魚の雑魔は二匹はそのまま海の幸になったが、そのうちの一匹は耐えたようで、再び宙を泳ごうとする。
 そこへ、立体的な動きを駆使して障害物を乗り越えてきたシエルが止めを刺そうと襲い掛かった。
 蒼機剣の刀身を射出して攻撃するとともに、自らのマテリアルを紐づけて引き合わせるような勢いで移動する。
「悪いけど、さっさと調理しちゃいたいから仕留めちゃうね!」
 シエルの一撃は、過たず魚の雑魔を貫いた。

 三匹の魚の雑魔さえ倒してしまえば、後はもう貝の雑魔を残すのみである。
 貝の雑魔はピクリとも動かず、ただひたすら獲物が近付くのを待っているようだ。
「あ、そうだ。あれ試してみよっと」
 背後に売り物の海産物があるような位置関係にならないよう気をつけながら貝に近付くイリエスカは、注意深く貝の反応を窺った。
 ある程度の距離まで来ると、突然貝の殻が大きく開いて水を勢いよく噴射してくる。
 危なげなくそれを避けたイリエスカが、露になった中身目掛け無造作に冷気弾を撃ち込んだ。
 一瞬貝を開いた態勢のまま硬直した貝の雑魔は、すぐに復帰して殻を閉じようとする。
 しかしそうは問屋が下ろさない。
 例え一瞬でも時間が稼げれば十分。ルンルン忍法使いが颯爽と登場するだけの時間になるのだ。
「ルンルン忍法、開いた口が塞がらないの術!」
 ずぼっと貝の口に、ルンルンは己が持つ透明の盾をねじ込んでつっかえ棒にした。
 これで貝の雑魔は口を閉じることができない。
「あっ、管みっけ! これって水鉄砲発射するやつだよね。ちょん切っちゃえ! えい!」
 目ざとく水鉄砲の発射管を見つけたシエルが、素早く切断して貝の雑魔の抵抗を封じた。
「これで貝柱はいただきですねぇ!」
 タイミングをずっと見計らっていたGacruxが念押しとばかりに槍を貝の雑魔に噛ませ、貝柱をこそぎ取り、完全に開口させた。

●調理だ! 試食だ! 海の幸だ!
 無事雑魔が海の幸になった後、漁師たちの手も借りて大掛かりな解体作業が行われた。
 解体道具としては、ハンターたちが自前で準備してきた刃物と、競り場にいた漁師たちが持っていた解体用の包丁がある。
 特に漁師たちの包丁は一口に解体用といっても部位ごとに細かく使い分けられており、その辺りはさすがプロといったところだ。
 大きさが大きさなので、解体は完全に余興となっていて、実際に捌くハンターたちを漁師たちがやんややんやと囃し立てる。
「さあさあ、これからハンターの方々の解体ショーが始まります! 皆様ふるってご見物ください!」
 いつの間にか現れた受付嬢ジェーン・ドゥが、胡散臭い営業スマイルを浮かべて実況を始め、場を盛り上げていた。
 捌くのは主にGacruxと陸が行う。
 二人は漁師たちから直々に捌き方の指導を受け、道具を借りて、あるいは持ち込んだ自前の道具で、次々に捌いていく。
 鮮度が命なので、捌く前も捌いた後も氷が詰まった木箱に入れられる。これは漁師たちが好意で用意してくれたものである。
「よし、蟹いいですよ! 調理班頼みますねぇ!」
「貝も上がった! 始めてくれ!」
 綺麗に解体された蟹は手足と甲羅に綺麗に分けられ、甲羅の中にはたっぷりと蟹味噌が詰まり、足にもぎっしりと身が詰まっている。
 このまま食べても美味そうなくらいだ。
 さらに、特徴的だったのは内子と外子があったことである。
 内子は蟹の卵巣で、外子は腹に抱いている受精卵のことである。
 つまり、この蟹は雌だったのだ。
 ちなみにレイターコールドショットで鮮度維持は一度試して無理という結論が出た。効果が一瞬なので、一瞬温度が低下するだけですぐ元に戻ってしまうのである。
「では僭越ながら、調理は俺が担当しましょうか」
「これだけあれば、刺身、汁物、焼き物、何でも作れるで!」
 悠と白藤が調理に取り掛かる中、今度はイリエスカを交えてGacruxと陸による海老の解体が始まっていた。
 想定している食べ方によっても捌き方は異なる。
 刺身の場合はまず邪魔な髭や足を取り、片手で頭を押さえる。
 次に頭の殻の下あたりに包丁の先を入れて節を断ち切り、包丁を握っていた手で海老の身体を持ち、雑巾絞りのように捻ってそっと引き離せば、身が残らずに綺麗に頭が取れる。
 それから身体の部分を縦に切り、腹を上に向けて置き、頭があった部分を手前にして尻尾側から包丁を入れていく。
 あとは背わたを取り、スプーンで身を殻から剥がせば綺麗に取れるので、氷水につけて身をしめてアク抜きを行い食べやすい大きさに切り、皿に頭や殻を飾って盛り付ければ完成だ。
 ちなみにただ焼いて食べるだけなら背から開くだけでもいいらしい。漁師の一人が教えてくれた。
「す、凄い……! これをボクが……!」
 最初はおっかなびっくりだったイリエスカも、綺麗な刺身となった海老を見て感動している。
 続いて漁師たちの協力も得て、悠や白藤、シエルによって魚が三枚に下ろされた。
 そして、悠と白藤が調理をしている方角からいい匂いが漂い出す。
 鍋には海老の殻で出汁を取り、貝の身や蟹の内子やらを具にした潮汁が作られ、網では魚、貝、海老、蟹が網焼きにされて香ばしい匂いを放つ。
 それでも余った身はドレッシングや調味料を混ぜた液に浸されマリネになり、蟹の甲羅を利用した蟹料理も作られる。
「ふわああああ……。美味しそう。私、感激しちゃいます!」
 見学していたルンルンは、先ほどからずっと生唾を飲み込みっ放しだった。
 着々と料理は完成しつつあり、シエルが持ち込んだ調味料のいい匂いが漂い始める。
「えへへへ、持ってきて良かった! どうせなら、味にはバリエーションがあった方がいいもんね!」
 味付けを任されたシエルは、自分の用意した調味料が役立っていることにご満悦だ。
「飯盒……ないニャあ……ニャッ!?」
 米を手にミアが落ち込んでいると、すぐ側に営業スマイルが輝かしい受付嬢が立っている。
「ご心配なさらず。こんなこともあろうかと、こちらに用意してございます」
 目を輝かせたミアは、たちまち上機嫌になってご飯を炊き、熱々のご飯でお握りを作り始めた。
 そして、全ての調理が終了した。

 いただきます、という声が唱和する。
「凄いですね。新鮮なものはこんなに美味しいんですか」
 海老や魚の刺身を食べた悠が感嘆の声をあげた。予想していた以上に美味だったらしい。ちなみに刺身には他にも白藤やイリエスカが関わっている。
「我ながら、いい仕事をしましたね」
 Gacruxもまた、悠が作った海老の素焼きや蟹料理、白藤が作ったマリネを満足そうに食べ、刺身を猫に与えている。
「美味しすぎます。海老、蟹、貝、出汁が豪華過ぎですよ!」
 湯気の立つ椀を手に、ルンルンは謎の力説をしていた。
「その潮汁、ボクが作ったんだよ」
 自らが手がけた料理が喜んで食されていることに、シエルは照れている。持ち込んだフルーツソースも好評だ。
「いける……! これも、これも! 海鮮料理に漁師飯! たまんない!」
 最初こそ色々な料理を少しずつ味わっていたイリエスカは、今や感動に打ち震え、一粒一滴一欠片、最後まで味わい噛み締める勢いだ。
「うめえ、うめえ! やっぱカトウもシラフジもすげえや!」
 陸がミアの作ったおむすびをお供に、海の幸尽くしを味わう。陸以外にも次々に手が伸び、たくさんあったおむすびがあっという間に消費されていく。
 最後に甲羅酒が振る舞われた後、賑やかな輪から人知れず抜け出したミアは、満ち足りた表情でオカリナを吹く。
 気付けば、隣に白藤がいた。
「今日は素敵な一日だニャ。ミアはとっても満足ニャス」
「本当に楽しいわぁ……。なあ、ミア?」
 オカリナに合わせ、白藤が歌う。
 肩を寄せ合った二人が奏でる耳に気楽な自然な音色は、宴会の喧騒の中空高く上っていった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 粛々たる刃
    鹿東 悠(ka0725
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 天鵞絨ノ空木
    白藤(ka3768
    人間(蒼)|28才|女性|猟撃士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • なにごとも楽しく♪
    シエル・ユークレース(ka6648
    人間(紅)|15才|男性|疾影士
  • 食事は別腹
    イリエスカ(ka6885
    オートマトン|16才|女性|猟撃士
  • 天鵞絨ノ風船唐綿
    ミア(ka7035
    鬼|22才|女性|格闘士
  • Schwarzwald
    浅生 陸(ka7041
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/07 09:58:03
アイコン 海の幸!
シエル・ユークレース(ka6648
人間(クリムゾンウェスト)|15才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2018/06/08 07:02:56