聖堂のスカラファッジョ

マスター:三田村 薫

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/06/11 09:00
完成日
2018/06/17 00:08

このシナリオは1日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●Scarafaggio in santuario
 アルトゥーロは困っていた。今、自身が司祭を務めている町の教会で、聖歌隊の子どもたちが腰にぶら下がっているのである。
「司祭さまー! 怖いよー!」
「司祭さまー! 助けてー!」
「こらこら、君たち、仮にもこの教会の聖歌隊であるなら、そんなに取り乱してはいけませんよ」
 にこやかに子どもたちの頭を撫でながら、彼もまた冷や汗ダララダであった。
(何であんなでかいのがいるのよーッ!?)
 テンションがぶち上がると、気の強い女性じみた口調になる彼だが、今はまだ心の声だけで済んだ。子どもたちの前で面子を保ったのである。
 で、なんで子どもたちが怯え、司祭がパニックになりかかっているかと言うと、聖堂の入り口の上に、真夏のセミの如く貼り付いている、黒い触覚を持つ虫に似た雑魔のせいであった。そう……ゴ……Gとかなんとか呼ばれるアレに似ている。ものすごく。
 男の子は虫が平気! なんてものは幻想である。男だろうと女だろうと、嫌なものは嫌である。
(イヤーッ! いくらアタシがハンターでも一人であの雑魔に立ち向かいたくないわーッ!)
 ちなみに、この司祭は聖導士でもあった。もちろんメイスも傍らにある。シャドウブリットでも撃ち込めば倒せそうなものだが、その瞬間に飛ばれたりしたら厄介だ。自分一人なら良いが、そうすると子どもたちが危ない。
「ひとまず、出ましょうかね。ささ、こっちですよ」
 元々体格に恵まれているアルトゥーロは、覚醒状態になれば子どもが数人腰にへばりついていても移動くらいはできる。そろそろと、雑魔がいるのとは反対側の、居住スペースへ続くドアに連れて行った。そっと扉を開けて、一人ずつ逃がして行く。
「さあ、親御さんたちに伝えるのです。すぐにハンターオフィスに通報を」
「司祭さまはどうするの?」
「僕も最後に出ますよ」
 そう言って、アルトゥーロは振り返った。そして顔を強ばらせる。

 いないのだ。先ほどまでドアの上で蠢いていた雑魔が。

「い、一体どこに……」
「あっ! 司祭さま! 上です!」
 一人の少女が声を上げて上を指した。見れば、聖堂の高い天井から、羽を広げてさっきの雑魔がこちらに向かって急降下してくる。ぶぅーん。羽音がはっきりと聞こえた。
「通報を頼みましたよ!」
 アルトゥーロは咄嗟に最後の一人を押し出して、ドアを閉めると内側から施錠した。そのまま演壇の下に転がり込む。
「司祭さま! 司祭さまー!」
 子どもたちが外からドアを叩く。その後ろから、走ってくる足音がした。
「パパとママを連れてきたよ!」
「司祭さま! ご無事ですか」
「無事です! 無事ですが僕一人では少々相手にしにくいです!」
 雑魔は扉の前に降り立った。まずい。雑魔なら、ドアを破るくらいのことはできるだろう。
「逃げてください! 今扉の前にいます!」
 叫んで避難を促すと、それを聞きつけて、雑魔がこちらを向いた。

「……」

 結構な近距離から、顔に当たる部分をばっちり見てしまったアルトゥーロは、生理的嫌悪感で一気に外面を弾け飛ばした。火事場の馬鹿力と、覚醒状態の身体能力で、自分が隠れていた演壇を投げつける。雑魔はさっさと飛び立ってしまい、決死の投擲はドアを塞いだだけで終わった。
「イヤーッ!!!! 気持ち悪いッ!」
「し、司祭さまー!」
「アタシのことはいーから早く逃げてハンター呼んできてッ!」
「し、司祭さまもハンターでしょー!?」
「いくらハンターでも生理的に無理なものは無理なのよぉ!!!!」
「司祭さまー!」
「パパがたまに行くお店のおばちゃんみたいになってるー!」
「ちょっとあなたどういうことなの!? 子どもをどこの店に連れてったのよ!?」

●Inferno fuori dalla chiesa
「司祭さまを助けなきゃ!」
 一人の少年が立ち上がった。
「僕、誕生日に買ってもらった剣があるよ! それで雑魔をやっつけよう!」
「じゃあ私、スコップを持ってくるわ!」
「ちょ、ちょっと、何を考えているんだ! ハンターオフィスに通報するから、あとはパパたちに……」
「だって司祭さまは僕たちを助けて取り残されたんだ! 僕たちが助けないと!」
「そうだそうだ!」
 かくして、使命感に燃えた子どもたちは各々武器を取りに家に戻った。
 ここから事態はどんどんと大きくなっていくのである。

●In ufficio
「ハンターも人格を持った一人である以上、生理的に無理なものがあるのは仕方ないけどね……」
 中年職員はそう言って首を横に振った。
「とはいえ、ハンターが複数駆けつければ、彼も正気に戻って参戦できるかもしれない。それより厄介なのは、子どもたちが、司祭さまを助けるんだ! って教会に入ろうとしていることだ。外はそちらの対応にも追われているらしい」
 スコップや、おもちゃの剣やらで武装(?)をした聖歌隊の子どもたちが聖堂の前に集まっている。中には、自宅から包丁を持ち出そうとして親に止められている子までいるらしい。
「どの道、包丁は頂けない。料理以外で使わせるもんじゃない。包丁で何かを害すると言う経験をさせてはいけない。包丁をそういうことに使うこと対してハードルが下がるというのは良くないよ。包丁だけじゃない。スコップもそうだ。日用品を暴力行為に使わせるというのは駄目だ。将来の人格に響く」
 自らも父親であると言う職員はしかめっ面を作って断言する。
「特に、それで誰かを助けたとなっては、暴力に対して肯定感を持ってしまう。聖歌隊の子どもたちだ。心優しい子たちだろう。そんなことを覚えさせたらいけない。戦うのは善悪をちゃんと覚えてからだ」
 そこまで言ってから、彼ははっと我に返った。照れ臭そうに頭をかく。
「ま、まあ、教育について熱く語ってしまったけど、どの道、子どもたちでは雑魔にやられてしまうだろう。助けると思って一つ頼むよ。言うまでもないが子どもたちに怪我はさせない方が良いね」

リプレイ本文

●ハンターたちの到着
 ハンターたちが現場に到着すると、確かに、聖堂側には二十人くらいの子どもたちが集まっており、大人たちが必死になってそれを止めている。
「やめて! 歪虚なんかに勝てるわけないでしょ! どうしてそれがわかんないのあんたたち!」
 母親らしき一人の女性が金切り声で叫んでいる。当たり前だ。覚醒者でもない一般人、それも子どもが、ハンターでも一人で対応が難しいと言った歪虚と相対できるわけがない。間違いなく殺される。彼女の子どもも、おそらくは死ぬ。
「ママ! じゃあママは司祭さまが死んでも良いって言うの! 薄情だ!」
「薄情でも良い! ママはあんたたちに死なれたら生きていけないの!」
「すごいことになってるね」
 ちょっとした暴動になりつつある。ステラ=ライムライト(ka5122)は、その様子に思うところでもあったのだろうか、一瞬だけ、表情が翳った。しかし、次の瞬間には、意思の強い表情に変わり、仲間たちを振り返る。
「行こう。めいちゃんとフィロちゃんに説得をお願いして良いんだよね?」
「はい、お任せください、ライムライト様」
 フィロ(ka6966)が礼儀正しく頭を下げる。羊谷 めい(ka0669)も頷いた。
「司祭さまをお願いしますね。多少なら怪我させても回復できます」
「あんまりやりたくないけど、いざとなったら気絶させるね」
「動けそうならこちらの援護をお願いするつもりではいます」
 夜桜 奏音(ka5754)が言う。ハンターであると言う司祭なら、今錯乱していても正気に返ればできることはあるだろう。

●聖堂のスカラファッジョ
「要するにアレだよね、今回の敵ってでっかい台所の黒い悪魔だよね……?」
 居住スペースから聖堂に続く廊下を進むステラは、奏音を振り返りながら確認するように言う。
「名前も口にしたくないあの虫……触りたくない」
「そのようですね。しかし教会内にGっぽい雑魔とは……サクッと倒しましょう。いえ、倒すのではなく塵も残さず滅さないといけませんね」
 その言葉は本気であった。彼女は既に、ワイルドカードを使用して、符術の威力を底上げしている。
「そうだよね……最後に殺虫剤まかなきゃ」
「お掃除も必要ですね」
 二人は聖堂の扉の前に立った。中からは、男性の雄叫びと、大股の足音が聞こえる。ステラはドアノブを回して開こうとしたが、何かに引っかかった。隙間から見ると、演壇がドアを塞いでいる。
「一緒に開けますか」
 それを見た奏音が申し出た。二人は覚醒状態になると、一緒にドアを押して、演壇ごと向こうに開ける。
「イヤーッ!!!!」
 次の瞬間、亜麻色の髪をした司祭がこちらに駆けてきた。これがアルトゥーロ司祭だろう。その後から、件の雑魔がカサカサと追い掛けてくる。
 奏音がマーキス・ソングの歌舞を始めた。純白のフリルが、動きに合わせて花のように開き、閉じ、雑魔のマテリアルを威圧する。雑魔は、援軍の登場に気付いて足を止めた。後ずさり飛び立つ。
「司祭様!」
「あー! あー! 聞こえないッ! アタシ羽音なんて聞こえないわッ!」
 アルトゥーロは完全に錯乱していた。ステラは鞘でその頭を叩く。ぱこーん! と気持ちの良い音が響いた。司祭の顔に理性が戻る。
「ハッ!? 僕は何を……!」
「大丈夫、助っ人に来たよ!」
「! 良かった! あの子たちは無事に通報してくれたのですね。神よ、感謝します……」
「でも今司祭様を助けるんだ! って突入しようとしてるけどね」
「え?」
「でも大丈夫です。私たちの仲間が説得に当たっています。援護をお願いできますか?」
「わかりました。ではプロテクションを」
 司祭は、外に続く扉を一瞥してから、二人にプロテクションを施した。その間に奏音は外の二人に司祭の無事を伝えた。
「よし! やろう、奏音ちゃん!」
「はい、サクっと片付けてしまいましょう、ステラさん」

●意思の壁
 めいは聖堂の扉の前に立った。幾人かは、あれは誰だ? と怪訝そうにしているが、多くは親を引きはがそうとしていて注目するには至らない。
「……仕方ありませんね」
 彼女は自分の背丈よりも高い聖杖を振りかざすと、フォースクラッシュを用いてそれを地面に叩きつけた。一瞬だが、大きな音が轟いて、その場の全員が驚いて跳び上がる。
 彼女の名誉のために記すが、普段はこんなことはしない。今回は、子どもたちが聖堂に突入することによる被害の拡大を防ぐために、全員の説得が必要になる。そのためには、全員が彼女たちの話を聞かなくてはならない。人命と秤に掛けるまでもなく、それが必要であると判断した。
「ハンターの羊谷めいです。アルトゥーロ司祭さまを助けに来ました」
 その言葉に、子どもたちが活気づく。一緒に戦う! と言って持ってきた武器を振りかざす姿が見えた。
「それは、いけません」
「どうして!」
「良いですか、大事な人を助けたいという気持ちは大切です。けれどあなた達が怪我をしてしまったら、司祭さまは悲しむでしょう。お父さんやお母さんだって悲しみます」
 親のいる子は親の顔を見た。何故そこまでして必死に止めるのか、親の心子知らずとはよく言ったものだ。
「司祭さまは何とおっしゃっていましたか?」
「……通報して欲しいって」
 一人が、バツの悪い顔で答える。
「そうですよね。あなた達のことを守りたいから、逃げてハンターを呼ぶようにと伝えたのではないですか?」
 少しずつ、落ち着き始めていた。しかし、まだ安心できない。説得そのものに反感を持つ子どもはいる。
「わたしは、あなた達に怪我をさせたくない……司祭さまを悲しませたくないですから、通すつもりはありません」
 はっきりと、めいは断言した。
「助けるためには力も必要です」
 彼女が注目を引くために地面を叩いたのもその一つだ。
「どうしてもというのなら、わたしを退けてみせてください」

●肉を切らせて骨を断つ
 一方聖堂内部。
「さっさと消えて下さい」
 奏音の五色光符陣が炸裂した。マーキス・ソングを舞いながら投げつけた符は、フリルの波から現れたかの様だった。マテリアルを威圧された雑魔は、そのまばゆい光に抵抗する力を失っている。光に目がくらんだまま、それは奏音に向かって突進した。しかし、やはり前がよく見えていないようで、奏音はマーキス・ソングのステップのままひらりとそれを回避した。
「行くよっ!」
 ステラがその背後に向かって居合で斬りかかる。しかし、これは紙一重で届かなかった。
「運の良い奴め……」
「では僕も」
 アルトゥーロが後ろからホーリーライトを放つが、これももう少しのところで当たらない。
「さすがGっぽいだけあって無駄に機敏ですね」
「殺虫剤かけるのも苦労するんだよねぇ」
 ご家庭に出たことがある人間なら皆が頷く苦労を、奏音とステラがぼやく。
「ステラさん、桜幕符で援護します」
「そうだね。これだけ避けられちゃね」
 かさかさと逃げて行く雑魔に向かって、奏音が桜幕符を放った。聖堂の中を吹き荒れる桜吹雪は、ひどく幻想的で、美しい。中心にいるのがあの虫の形をした雑魔でなければの話だが。
「……いっけぇ、そのまま落ちちゃえ!」
 二連之業がヒットした。雑魔は行き先を求めて暴れているようにも見える。やがて、飛び立って闇雲に逃げ始めた。
「そこは私の間合い! 逃がさないよ!」
 次元斬。彼女が狙ったその空間、そこにいるものは誰であれ……斬る!
 雑魔は落下した。ステラは長椅子の背もたれに着地する。
「ステラさん!」
 アルトゥーロが警戒を促した。雑魔は散々自分を斬ってくれたステラを目標に定めたらしい。アルトゥーロからは、マーキス・ソングで威圧し、目くらましを掛けてくる奏音に怯えているようにも見えた。口吻を前に突き出し、ステラに向かって突進する。舞台照明を浴びた女優に向かう、暴徒の様であった。
「うわわわこっち来たぁぁ!? さっさと消えちゃってよ……!!」
 半分は狙い通りであったが、実際に来られて嫌なものは嫌である。肉を切らせて骨を断つ。口吻がステラの肩を捉えたその瞬間、彼女はカウンターで斬り伏せた。
 その時だった、聖堂の外から、聖歌らしきものが聞こえた。アルトゥーロにはその声に覚えがある。聖歌隊の子どもたちだ。
「聞こえますかアルトゥーロ様! 子供達がアルトゥーロ様を応援しているのです!」
 フィロの声が聞こえた。それは、外での説得が完了したことを示していた。

●聖歌隊整列
 少し前。
 めいの説得で、ほとんどの子どもたちは諦めた。ここは大人しく、ハンターに任せよう。そう言う空気になった。が、幾人かは諦められない子どもはいる。説得されることを良しとしない子どもはいる。既に司祭の無事は中から伝達されていたが、それを伝えるタイミングが難しい。沈静が先だ。無事とわかってなだれ込まれても困る。
「知るかよ! ハンターがいるんだから、俺たちだってそこまで危険じゃないだろ」
 そう言いつのる子どもに、フィロが声を掛けた。
「危険かそうでないか、と言うだけではありません」
 剣呑な目つきで自分を睨む少年に、フィロは、
「先ほど羊谷様も仰っていましたが」
 と、前置きをしてから、噛んで含めるように告げる。
「皆さまがそんなものを手に聖堂に突入したら、今度こそ司祭様が泣かれますよ? 正気に戻ってから、皆さまを危険に晒した自分の不甲斐なさを悔やんで、ここを去られてしまうかもしれません。皆さまのうちの誰かが怪我でもしたら、自分を許せなくて儚くなってしまうかもしれません」
 司祭の人格までは、子どもたちも否定できなかったようだ。そんなことない、と言ってしまえば、優しい司祭の気遣いを否定することになる。
 て言うか、正気に戻ったらってどう言うこと? ひそひそと囁き合う声がする。おそらくは発狂した司祭の声を聞いてない子だろう。
「皆さま、司祭様が好きで司祭様を助けたくてここに集まったのでしょう? 皆さまの気持ちは尊いけれど、だからこそ司祭様を苦しめるようなことをしてはなりません」
「でも……」
 何かしたい。何かしなくては、司祭に報いることができない。優しい司祭に。その様子を見て、フィロは声を張り上げた。
「皆さまにも出来ることがあります! 聖歌は困難を乗り越え神を称える歌です。皆さんの知っている聖歌を、ここで歌っていただきたいのです」
 子どもたちは顔を見合わせる。歌。それは自分たちがもっとも胸を張って言える、できること、だ。司祭もいつも喜んで聞いてくれる
「司祭様が元気を取り戻して歪虚を倒すには皆さん全員の応援が必要です。これは皆さんにしかできない大切なことなのです」
「やろう」
 一人が言った。
「歌おう、司祭さまが一番好きなやつ!」
「整列!」
「俺聖歌隊じゃないんだけど!」
「お前テノールで良いから、こっち」
 めいとフィロも整列を手伝った。指揮者役の少女が一人、前に出る。彼女が手を挙げると、全員がざっと足を肩幅に開いた。やがて合図があって、子どもたちは歌い始める。めいも一緒に歌った。フィロはそれを見届けると、聖堂を振り返って、呼びかける。
「聞こえますかアルトゥーロ様! 子供達がアルトゥーロ様を応援しているのです!」

●五色の洗礼
「わあ。あんなにたくさんの子どもたちに醜態がバレているんですか、僕は」
 雑魔の攻撃を敢えて受けたステラにヒールを施しながら、アルトゥーロは悲しげな顔になった。
「仕方ありません。さあ、醜態を招いた奴を倒してしまいましょう」
 奏音が肩をぽんぽん叩きながら言う。彼女、さっきから例の虫に対してたいそう厳しい。それゆえに大変心強い味方であった。
「こちらフィロです。聖歌、聞こえていますか? 説得は完了です」
「こちら夜桜です。聞こえてますよ、ありがとうございます。こちらもそろそろ片付きます」
 奏音は再びワイルドカードをセットした。それから、彼女は外の聖歌に合わせ、マーキス・ソングのステップを踏む。
「良い曲ですね」
「ええ。ゴスペルです。リアルブルーでの聖歌の歌い方だそうですね。これは僕の一番好きな歌です」
「では、これでとどめにしましょうか」
 聖歌に合わせて舞いながら、奏音はターンした勢いで五枚の呪符を投げつける。雑魔は五色光符陣の洗礼を再び受けて、塵となり、それもやがて消滅した。

●司祭の帰還
 聖堂の扉が開く。子どもたちが歌うのをやめた。めいとフィロも振り返り、背の高い青年が、ステラと奏音に付き添われているのを見た。
「司祭さまー!」
 子どもたちは我先にと雪崩を打って司祭に駆け寄った。
「あはは、心配かけて申し訳ありませんでした。ハンターさんたちに助けていただいて、この通り元気ですよ」
「良かった! 歪虚はどうなったの?」
「倒していただきました」
「司祭さまは?」
「いや、僕は腰を抜かしていましたから」
「えー、なんだよそれー」
 司祭を囲みながら、はしゃく子どもたちを、めいが少し離れたところで見守っている。彼女の服の裾を、誰かが掴んだ。振り返ると、彼女の説得に反抗した少年だった。
「どうしましたか?」
「ごめんなさい……」
 それだけ言って気まずそうな顔を作る彼の頭を、めいは撫でる。
「良いんですよ。でも、私の言ったこと、わかってくれましたよね?」
「うん。悔しいけど、俺にはまだそんな力はないよ」
「戦うだけが力じゃないです」
「そうなの?」
「ええ。司祭さまも、きっとそう仰ることでしょう」

 ステラと奏音の申し出で、聖堂の掃除と殺虫剤の噴霧が行なわれた。
「あんな雑魔の痕跡があるとか嫌ですしね」
 奏音は最後まで例の虫に辛辣であった。またああいうのが出たら彼女を指名して依頼できないだろうか。アルトゥーロは自分がハンターであることを忘れかけてそんなことを考える。
 ステラは、例の虫が入りそうな隙間に向かって殺虫剤を噴霧する。
「でかいGとか、恐怖でしかない……気休めかもしれないけど、ないよりマシだから……」
「ええ、ええ、ありがたいことです」
「後でお風呂入りたい……」
「宿がありますからそちらにお願いしましょう」
 モップで床を掃除する司祭の傍に、雑巾を持ったフィロがそっと並ぶ。
「司祭様、大変消耗されたご様子です」
「はは……あんなに叫んで走り回ったのは久しぶりですよ。しかし、皆さんそうですが、フィロさんもよくこの依頼を受けて下さる気になりましたね?」
「私は、あのタイプの昆虫が飼育用飼料として大量生産されたり観賞用として生産されたりしているのを知っておりましたので、そういう感情に結びつきませんでした」
「しいくようしりょう」
「司祭様のおつらい気持ちに添えず申し訳ありません」
 あの虫が飼料にされる生き物ってなんだろう。もう肉食を断つべきだろうか。いくつもの食用動物を頭に浮かべながらも、アルトゥーロは引きつった笑いでフィロに応じるのであった。

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重体一覧

参加者一覧

  • Sanctuary
    羊谷 めい(ka0669
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士
  • 甘苦スレイヴ
    葛音 ステラ(ka5122
    人間(蒼)|19才|女性|舞刀士
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/07 01:06:48
アイコン 相談卓
羊谷 めい(ka0669
人間(リアルブルー)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2018/06/11 01:23:23