• 春郷祭1018

【春郷祭】精霊たちとの宴

マスター:大林さゆる

シナリオ形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2018/06/20 09:00
完成日
2018/06/26 00:49

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 自由都市同盟。
 極彩色の街「ヴァリオス」近郊に、小さな村があった。
「カイゼル様の祠が完成したぞ!」
 村の子供たちが、トパーズの欠片を手に持ち、新しくできた祠の前に供えた。
 この村には、宝石工房があり、職人たちがお供え用にと、トパーズの欠片を用意してくれたのだ。
 村の近くには、トパーズ鉱山があったが、そこにはインペリアルトパーズの精霊が住みつくようになったのだ。
 カイゼルとは、インペリアルトパーズ精霊の名だ。
 ラキ(kz0002)とディエス(kz0248)は、春郷祭の準備も兼ねて、この村を訪れていた。
 農耕推進地域ジェオルジから、ワインと野菜を届けにやってきていたのだ。
 輸送は魔術師協会広報室に所属する魔術師たちが行い、品物も無事に村へと届いていた。
 広場では、ジェオルジ地域から来た行商人たちが屋台や出店を開き、旅芸人たちが自前の楽器を演奏していた。
 マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)と言えば、魔術師協会広報室からの依頼で村の警護をしていた。
 商人たちの活気ある声と、芸人たちの奏でる音楽が混ざり合いながらも、穏やかな日常に色彩が織り込まているようにも感じられた。
「ワインも野菜も届いたことだし、準備に取り掛かろう」
 ラキが元気よく声をかけると、ディエスが頷く。
「カイゼルさん、ワインが好きだったよね。今回は手作りチョコも食べてもらいたいな。ワンコの足跡の形にしようっと」
 ディエスたちは、村の一角にある食堂のキッチンを借りて、準備を進めていた。
「ワンコの足音って、ティキティキって聞こえるから、チョコの名前に入れてみようかな」
 ディエスが楽しそうにチョコを湯煎していた。
「ティキティキ・チョコだね。あたしは、ジャガイモの料理でも作ろうかな」
 ラキが野菜を洗っていると、15センチほどの小さな少女が現れた。
 エメラルドの精霊エラルだ。
「こんにちは。この村で、宴があるの?」
「エラルさん! また会えてうれしいよ! カイゼルさんの祠が完成したから、この村で宴をやるんだって」
 満悦の笑みを浮かべるディエス。
 ラキは、右手を休めて、エラルに挨拶した。
「はじめまして。あたしは、ラキ。きみのことは、ディエスから聞いてるよ。人魚の島で、ハンターさんたちに助けられたんだってね。ここまで、一人で来たのかな?」
「えと、カイゼルが、わたしの名を呼んだら、ここに来てたの」
 エラルはそう言いながら、ゆっくりと浮かび上がってディエスの肩に乗っていた。
「精霊さんって、瞬間移動できるの?」
「そういうのとは、違う…かな。カイゼルに呼ばれて、『宴があるから、遊びに来い』っていう声が聞こえたから……そうすると、わたし、ここに来られるの」
 エラルは懸命に説明するが、ディエスはあまり理解できなかった。
「よく分からないけど、カイゼルさんが招待してくれたから、ここに来たんだね。うれしいな」
「わたしも、うれしい……また、会いたかったから」
 エラルはそう言った後、テーブルの上に降り立ち、ラキたちの様子を窺っていた。
「あの、わたし……葡萄ジューズが良いな」
「もちろん、ジュースも用意するから安心してね」
 ラキが朗らかに微笑んだ。



 村の子供たちが、祠の前にトパーズの欠片を一つ一つ供えてから、「カイゼルー!!」と呼びかけると、青年の姿をした精霊が姿を現した。
「俺様のこと、呼んだな。呼んだからには、宴だな」
「宴も良いけど、遊んでよ。カイゼル」
 子供たちが、カイゼルの周囲に集まってきた。
「遊ぶ? なにして遊ぶんだ?」
 踏ん反り返るカイゼル。
「カイゼルって、強そうだから、勇者ごっこ、しようぜ!」
 村で一番強いと言われている少年が、カイゼルに提案する。
「勇者の真似事か? で、誰が勇者になるんだ? 言っとくが、俺様はおめぇらよりは強いから、ダーク・ヒーローになってやるぜ。勇者と一騎打ちするんだ」
 カイゼルの返答に、子供たちは大喜び。
「カイゼルが悪の帝王になってくれんの? じゃあ、俺たちが勇者ご一行だな」
「待て。俺様は悪じゃねえよ。ダーク・ヒーローだって言っただろう? 勇者とはライバル関係っていう設定だ。んで、最後はなんだかんだと協力して、悪の帝王を倒すっていう筋書きよ」
 妙に話に拘るカイゼルであった。
 子供たちは、はしゃいでいた。
「そんじゃ、その設定で、勇者ごっこ、やろうぜ!」
「賛成っ」
「良いよー。僕も、一緒に遊ぶっ」
 かくして、カイゼルは子供たちと『勇者ごっこ』で遊ぶことになった。



「よし、できた。ディエス、料理とワイン、テーブルに運ぼう」
 ラキがそう言うと、ディエスも張り切っていた。
「精霊さんたちだけじゃなくて、村の人達やハンターさんたちにも楽しんでもらいたいな」
「ディエスがそう言うかと思って、本部でも声をかけてみたよ」
 ラキがウィンクする。
「楽しみだな。どんな宴になるのかな」
 ディエスは、ワクワクしながら、テーブルに料理を運んでいた。


 さてさて、今年の春郷祭では、どんな出会いがあるのか。
 ひと時の安らぎを、あなたと共に……。

リプレイ本文

 村人たちが食堂に集まり、それぞれが好きな席に座って談話していた。
「お待たせしました」
 鳳凰院ひりょ(ka3744)は、給仕役としてラキ(kz0002)たちの手伝いをしていた。
「葡萄ジュース3つ、ティキティキ・チョコの詰め合わせ3点セットになります」
 テーブルに注文したものが並ぶと、席に座っていた子供がうれしそうに笑っていた。
 子供の両隣には、その子の父と母が楽しそうに微笑んでいた。
「良かったわね」
 母がそう言うと、子供は大きく頷いていた。
「これ食べ終わったら、カイゼルたちのとこに行こう」
「そうだな。久し振りの休みだしな」
 父は優しく子供の頭を撫でていた。
(……良かった。寛いでくれてるみたいだな)
 家族たちの様子を見て、安堵するひりょ。
 次々と注文が飛び交う中、ひりょはラキたちが作った料理や菓子を手際よく配膳していた。
「鳳凰院さん、次の注文、お願いね」
 ラキに呼び止められ、ひりょは立ち並ぶテーブルをするりと擦り抜け、カウンターに顔を出した。
「これは五番テーブルか。承知した」
 間違いがないか確認してから、五番テーブルに向かう。
 その席には、男女のカップルが座っていた。
 恋愛ムードが漂う中、ひりょは動じることもなく、テーブルにグラスと皿を丁寧に置いた。
「ワインは2つ、干し肉とジャガイモの和え物は一つでしたね。ごゆっくり」
 御辞儀してから、ひりょがその場から離れる。
「鳳凰院さーん、また次の注文が来たよ」
 ラキの明るい声が、賑わう客の声に交じって聴こえてきた。
「はいはい、今度は三番テーブルだな」
 ひりょは、店の賑わいを肌で感じつつ、給仕役に専念することにした。
 今は思い悩むよりも、身体を動かして、次へと繋げる活力を養い、自分のできることをしよう。
 そう想いながら……。


 厨房では、キヅカ・リク(ka0038)がディエス(kz0248)の手伝いをしていた。
「僕は、クッキー作ってみようかな。エラルちゃんも、一緒に作る?」
 リクが着ていたパーカーの中から、エメラルドの精霊エラルが顔を出した。
「うおっ?! こんなところに精霊がいるとはな」
 トリプルJ(ka6653)もディエスの手伝いで厨房に立っていたが、エラルがひょっこり現れたので、少し驚いていた。
「考えてみりゃ、精霊の祠が完成した祝いの宴だから、いても不思議じゃねぇか……まあ、厨房にいたのは、意外だったがな。驚いて悪かった、綺麗な精霊のお嬢さん、お詫びにどうぞ?」
 トリプルJは手品の仕草で手首を捻り、小さなスプレーバラを取り出した。
 エラルは戸惑いつつも、小さなバラを受け取った。
「ありがと……わたしの方こそ、突然、出てきて、ごめんね」
「なに、お嬢さんが謝ることじゃないぜ。せっかくここまで来たんだ、楽しんでいってくれよ」
 ウィンクするトリプルJ。
 エラルは照れ笑いを浮かべていた。
「さてっと、給仕は鳳凰院に任せっきりになっちまったが、俺様はディエスの手伝いだな」
 落ち着きを取り戻したトリプルJは、鍋に細かく削ったチョコを入れて湯煎していた。
「ほどよくチョコが溶けたところで、型に入れるんだな」
「そうだよ。ワンコの肉球の形」
 ディエスはワクワクしながら、溶けたチョコを型に流し込んでいた。
「ワンコか。そういや、一緒に動物の世話、したことあったな」
 保護施設での出来事を思い出して、楽しそうに話すトリプルJ。
 リクはディエスたちの会話を微笑ましく聞きながら、エラルと一緒にクッキーの生地を捏ね始めた。
「これって、実際にやってみると難しいな。出来上がるの、昼過ぎになりそうだな……」
 エラルは作り方が全く分からなかったため、リクが生地を作っている様子を窺っていた。
「店に出すの?」
 エラルの疑問に、リクは笑顔で応えた。
「今回は、ディエスとエラルに、手作りクッキー食べてもらいたいなっと思ってさ。クッキーが出来上がったら、アリアも誘ってみるつもりだよ」
 リクは、クッキーの生地を平らにしてから、星の形をした型でくり抜いた。
 オーブンでクッキーを焼いている間、リクはディエスの手伝いに加わり、出来上がったティキティキ・チョコを紙袋に入れてラッピングしていた。
 ちなみに紙袋がピンク色なのは、ラキの趣味である。
 ディエスは、リクがラッピングしたチョコを受け取ると、カウンターに並べていた。
 注文が来ると、ひりょが来店してきた客たちの所まで運んでいってくれた。
「鳳凰院さんが給仕してくれるから、ボクたちは御菓子作りができるね」
 料理や菓子作りの手伝いが多かったため、ひりょが給仕に徹してくれたのだ。
 おかげで、順調に来店してきた客に料理や菓子、飲み物を配膳することができたのだった。
 アーク・フォーサイス(ka6568)はアラミドグローブを手に嵌めて、熱くなった鍋を持ち上げながら、ディエスの元へと運んでいた。
「溶かしたチョコが入った鍋、まだ熱いし、運ぶのは俺がやるから。鍋敷きの上に置いておけば良いかな」
「助かります」
 ディエスは料理用のボウルを用意して、チョコが少し冷えるまでキッチンの前に立っていた。
「こうやって、ディエスとゆっくり時間を過ごすのって、初めてだ」
 アークは以前からディエスと一緒に依頼に参加したことがあったが、戦いの依頼ばかりであった。
 料理もやろうと思えばできるのだが、アーク自身は刀を振るう方が馴染んでいた。
「アークさん、どうしたの?」
 考え込んでいるアークに、声をかけるディエス。
「あ、ごめん。ディエスと話がしてみたいと思って、いろいろ考えてて……これからどうなりたい、とか。だけど、無理強いするつもりはないから」
 アークはそう言いながら、少し冷めたチョコが固まる前に料理用のボウルに流し込んだ。
 ディエスが、箆を使ってチョコをかき混ぜていく。滑らかにするためだ。
「えっとね、ボク、やってみたいことが見つかったんだ。動物の調教をする仕事だよ」
 ディエスの言葉に、アークが思わず微笑む。
「それなら、依頼を熟していくうちに、専門のクラスを修得できる可能性があるな。俺は刀しかないから……この力で守れるもの、助けられることをしていきたいと思ってる。自己満足かもしれないけど」
「ボクは、アークさんに助けられて、今度は自分で何かできることはないかって考えたよ。少し時間はかかったけど、最近は少しだけ自信がついてきたかな。ようやく治癒の術を使うこともできるようになったし」
「ディエスは良い方向へ進んでるんだな。俺も、もっともっと精進していきたい」
 アークは、自分に言い聞かせるように決意を固めていた。



 広場では、ジェオルジから来た行商人たちが威勢の良い声を張り上げていた。
 祭りで人々が行き交う様子を見ながら、セレスティア(ka2691)は待ち合わせ場所に来ていた。
「セティ」
 フェリア(ka2870)の声に気付き、セレスティアが振り返る。
「フェリア姉さん」
「出店を見て廻りましょうか? 宝石のアクセサリーを扱っている店があるようですよ」
 フェリアに誘われて、セレスティアは共に歩き出した。
 と、そこへ。
「フェリア」
 レイア・アローネ(ka4082)だ。
「あら、奇遇ね?」
 穏やかな物腰のフェリア。
 レイアは「一人か?」と尋ねた後、セレスティアがいることに気が付く。
「二人だったか」
「こんにちは、レイア。え、レイアもご一緒ですか?」
 セレスティアは挨拶した後、フェリアに問う。
「生憎と先約があって、これからデートなの」
 フェリアが澄まして言う。
「ん? どういうことだ? セレスティアに恋人がいるのは知っていたが、フェリアにもいたのか?」
 首を傾げるレイアに、フェリアが微笑む。
「私も独り身よ。せっかくだから、三人で見て回りましょう」
「…そうか。では、お言葉に甘えて」
 結局、三人で仲良く出店巡りをすることになった。
 フェリアは、セレスティアの薬指に指輪があることに気付いた。
「その指輪は、もしかして?」
 セレスティアが頬を染める。
「はい。結婚の約束をしたのですが、最近、忙しくて、なかなか会えなくて」
「セレスティアも、ついに婚約か」
 レイアは、なんとも言えない複雑な気持ちになっていた。
「セティ、会えなくて寂しい?」
 フェリアが恋愛話へと誘導すると、セレスティアが応える。
「あまり会えなくても、必ず週に三度は時間を作ってくれるんですよ。だからその時はちゃんと甘えてますよ♪」
「御馳走様…というべきか」
 レイアが呟く。周囲を見渡すと、カップル同士が多かった。
「まあ、いろいろあるが、久し振りの祭りを楽しむか」
「セティの惚気話も聞けたし、今は三人で楽しみましょう」
 フェリアの言葉に、我に返るセレスティア。
 まんまとフェリアの罠に引っかかったことに気付き、セレスティアは少し慌てていた。
「あ、えっと、女性同士、気を使うこともないですから、話も弾みますね」
 照れ隠しなのか、先へと急ぐセレスティア。
 フェリアとレイアは互いに顔を見合わせ、楽しそうに笑うと、セレスティアの後を追って歩き出した。



 一方、屋台では。
「あったニャス! 鶏の香草焼きニャスー♪」
 ミア(ka7035)は目を輝かせて、目的の屋台までダッシュしていく。
「もー、走るとコケるで?」
 白藤(ka3768)が言った傍から、ミアが倒れそうになるが、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)がミアを優しく受け止める。
「ミアは美味しい食べ物には目がないからの」
「鶏の香草焼き、お酒に合いそうニャス! しーちゃん、蜜鈴ちゃん、お酒が好きだから、良いおつまみになると思うニャス」
 早速、ミアは3人分の鶏の香草焼きを注文した。
 屋台の親方は焼き上がった鶏肉を串に刺すと、ミアに手渡した。
「まいどー、確かに鶏の香草焼きは酒のつまみには持ってこいだからな。すぐそこで、同盟産の酒を置いてる屋台があるから、行ってみるといいよ」
「ふむ、同盟産の酒とはな。飲んでみたいの」
 蜜鈴はそう言いながら、ミアが持っていた鶏の香草焼きを一口食べていた。
「あぁもう、ついとるで?」
 白藤は、ミアの口元に付いている鶏肉の食べ残しを指で拭う。
「うちも同盟産の酒、気になるから、そこの屋台、行ってみよか」
 白藤たちが、酒の屋台へと顔を出すと、すでに酔っぱらっている客がいた。
「よお、姉さんたち、ここに来るのは初めてかい? 俺らが案内してやろうか?」
 酔っぱらった男性が、蜜鈴に近寄っていくが、白藤が立ちはだかる。
「その必要はないで?」
 笑顔で言う白藤だが、目が笑っておらず、親指を下に向けて掻っ切る仕草をした。
「来世がんばっといで?」
「姉さん、面白いこと言うなぁー」
 男性は笑いながら、持っていたジョッキで酒を飲もうとするが……。
「なんじゃこりゃ、ただの水じゃねぇか」
 蜜鈴が扇を広げ、悪戯っぽい笑みを浮かべた。こっそりとピュアウォーターを使い、男性が持っていた酒を『水』に変えていたのだ。
「……少しは目が覚めたかの?」
 男性は、蜜鈴の迫力に負けて、その場から退散していった。
「ん? ミアは?」
 周囲を見渡す白藤。しばらくすると、ミアが駆け寄ってきた。
「揚げパスタ、買ってきたニャス。3人で、食べようニャスー♪」
 互いに「あーん」と食べ合いっこしたり、酒を飲み干した後、ミアがオカリナを取り出した。
「旅芸人さんたちの音楽、聴いてたら、ミアも演奏したくなったニャス」
「では、妾は琵琶を奏でようかの」
 蜜鈴は携帯していた四弦黒琵琶の弦を軽く鳴らす。
 ミアが前奏でオカリナを吹くと、白藤は蜜鈴と目を合わせた。
 出だしの琵琶が調べを響かせ、白藤が唄い始めた。
 中盤になると、蜜鈴の『灯蝶』が空間を照らしていた。炎を纏った蝶が舞い踊る中、白藤の凛とした歌声が映えていた。
 三人の音楽が気になって、足を止めて聞き惚れる者たちが少しずつ増えてきた。
 演奏が終わる頃。
 雪の幻影が降り注いでくる。
 蜜鈴の『スノーホワイト』だ。
 演奏を聴いていた人々が、一斉に拍手。
 その雰囲気に、白藤は幸せそうに目を細めていた。
(あぁ楽し…また、来たいなぁ…。
 今度は、もっと大人数で。
 そのためにも、この手にある温もりを零さへんよう…生きんとやな)
 白藤はミアと蜜鈴を紹介するように両手を広げて、聴いてくれた人々に御辞儀をした。
 拍手は、しばらく鳴り止まなかった。



 カーミン・S・フィールズ(ka1559)は、ラキとディエスに挨拶した後、精霊のエラルを連れて広場を歩き回っていた。
「トパーズの精霊…カイゼルだっけ? 小さなレディを呼び出しておいて、何ほったらかしにしてるのかしら?」
 エラルはカーミンの肩に乗って、祭りの様子を楽しそうに見ていた。
「カイゼルが、わたしを『ここ』に呼んだのは、嫉妬の眷属から守るためなの」
「え? そうだったの? だとしたら、尚更、カイゼルの側にいた方が良いんじゃない?」
 カーミンの問いに、エラルが小声で言った。
「わたしたち、『同じ領域』にいるから、大丈夫…村の中にいる限り、安心…」
「ふーん、そうなんだ。エラルがそう言うなら、一緒に広場の様子を見て廻ろうかしら?」
 カーミンはエラルと共に、広場を散策することにした。
 途中、警護で巡回していたマクシミリアン・ヴァイス(kz0003)と遭遇した。
「カーミンか」
 最初に声をかけてきたのは、マクシミリアンだった。
「マクシミリアン、こんな時にまで仕事? 真面目ねえ」
 そう言いながら、カーミンはマクシミリアンに同行することにした。
 相変わらず、ポーカーフェイスの男。
 いまいち、何を考えているのか分からないけど、今回は先にマクシミリアンが私のことを見つけてくれた。
「えっと…この髪だから目立つと思ったのよねー」
 カーミンは、それとなく話しかけた。
 自分の髪は桃色だし、それで見つけ易かったのよ、たぶん。
「おまえは、全体的に目立つからな。すぐに分かった」
 マクシミリアンは無表情だ。
 おまえ? 私のこと、おまえって…どういうこと?
「……私の肩に、エラルが居るの、気が付いた?」
 カーミンが尋ねると、マクシミリアンが顔を向けてきた。
「……今、気が付いた。小さいから、遠くからでは、よく分からんな」
 エラルが、カーミンの後ろに隠れた。
「わたし、いても良いの?」
「良いに決まってるじゃない。マクシミリアンと会ったのは偶然だし、どうせだから、私も警護に同行しようと思っただけよ?」
 何故か、自分でも分からず少し慌てているカーミン。
 マクシミリアンが、顎に右手を添えていた。
「カーミン、具合でも悪いのか? 無理はするなよ」
「む、無理なんか、してないって。村の警護するんでしょ。さっさと歩くわよ」
 カーミンがそう言うと、マクシミリアンは無言で頷いて、歩き出した。



 祠の前では、トパーズの精霊カイゼルと子供たちが『勇者ごっこ』の相談をしていた。
「そういや、悪役が足りねぇな。どうすっか」
 カイゼルが悩んでいると、その様子に気が付いたハンターたちが集まってきた。
「お久し振りです、カイゼル様」
 フィロ(ka6966)が会釈する。
「祠の完成おめでとうございます。お子様たちと遊ぶのでしたら、魔導機械「スーパー光線銃」を差し上げます。どうぞお使いください」
 そう言って、フィロは玩具のスーパー光線銃3つをカイゼルに手渡した。
「おお、フィロか。ありがとよ」
 カイゼルは礼を述べると、勇者と仲間たちの役をする子供たちに一つずつスーパー光線銃を渡した。
 子供たちが引き金を引くと、光って音の出る玩具だ。
「カッケー! これさえあれば、悪役と対戦するのにも迫力が出そうだぜ」
 大喜びの子供たち。
 悪役に立候補したのは、夢路 まよい(ka1328)、ジャック・エルギン(ka1522)、鳳凰院瑠美(ka4534)、フィロだった。
 アリア・セリウス(ka6424)が、ナレーションを引き受けることになった。


 そして、勇者の物語が始まる。

 様々な試練を乗り越えた勇者たちは、トパーズの戦士カイゼルと一騎打ちとなった。

 戦いは、勇者たちの勝利。

 カイゼルは「また会うこともあるだろう」と一言残し、立ち去った。

 さらに旅を続ける勇者たちだが、魔王の配下と名乗るフィロが立ちはだかった。

 フィロは、両手を掲げ、行く手を阻む。
「はははは、この地は魔王がいただいた! 皆跪け! 我を崇めよ! この地は我が魔王軍のものである!」

「俺たちは、世界を守るために戦う者だ!」
 勇者たちは、スーパー光線銃の引き金を引いた。

「まさか、勇者か!? 今時そんなものがいるはずが……ぎゃー!」
 光に貫かれたフィロは、力尽きて倒れた。

 勇者たちは、魔王の城を目指して歩き続けた。

 だが、またもや、悪の使者が現れたのだ。
「ふふふ、私は怪盗一味の1人、謎の美少女ルーミンよっ!」
 マスカレードを顔に付けた少女だ。
「魔王の配下であるフィロを倒すなんて、さすが勇者ね。だけど、このルーミンを倒せるかしら?」

「皆、油断するな。一斉攻撃だ!」
 スーパー光線銃の力を結集して、勇者たちはルーミンを狙い撃つ。

「な、なんて、力なの……この私が……おぉぉぉぉっ?!」
 閃光が、ルーミンの身体に命中……光が弾け飛ぶと同時に、ルーミンは力尽き、倒れた。

 さらに旅を続ける勇者たち。

 闇の世界に近づくにつれ、怪しい気配が漂ってきた。

 ついに、魔王の城に辿り着いた勇者たち。

 玉座の前には、マントを翻した魔王エルギン、側近の魔女マヨイがいた。
「フハハハハ! よくぞ、ここまで辿り着いたな、勇者たちよ」
 魔王エルギンが、邪悪に笑う。
「俺の配下になるならば、世界中の宝石の半分をお前たちにやろうではないか!」

 勇者は、魔王エルギンに言い放った。
「宝石よりも、俺たちは世界の平和を望んでいるんだ!」

「ほう、では、俺の配下にはならないという事か?」
 魔王の問いに、勇者は叫んだ。
「当たり前だ! 俺たちは魔王の配下になるために戦ってきたわけじゃない。世界を守るために戦ってきたんだ!」

「我が王の命が聞けぬと言うのなら、この魔女マヨイが相手になってあげるわ」
 魔女マヨイとの戦いに苦戦する勇者たち。
「諦めるな! 俺たちで、世界を守るんだ!」
「笑止、おまえらごときが、魔王様に勝てると思っているの? その前に、私がお前たちを消し去ってあげるわよ」
 冷酷に告げる魔女マヨイ。

「待ちやがれ! 貴様の相手は、この俺様だ! 魔女マヨイ!」
 トパーズ戦士カイゼルは、一気に駆け寄ると魔女マヨイ目掛けて大剣を振り下ろした。
 錬金杖「ヴァイザースタッフ」で受け止めるマヨイ。
「おまえは、カイゼル……私の邪魔をするなら、まずはおまえを先に八つ裂きにしてあげるわよ」

「カイゼル、助けにきてくれたのか?」
 勇者の言葉に、カイゼルは不敵な笑みを浮かべた。
「勘違いするな。俺様は魔女マヨイを退治するために来ただけのこと。魔王を倒すのは、勇者の役目だろう?」
「ありがとう、カイゼル。俺たちは、絶対に魔王を倒してみせる」

 勇者たちは、魔王エルギンと対決することになった。
「ククク、貴様らが、この魔王を倒すなど、笑わせてくれるわっ!」
 魔王がマントを広げて、勇者たちを縛り付けていく。(ように見える演技)
「クッ、さすがは魔王、そう簡単には倒せないか」
 勇者たちは、渾身の力を引き絞り、魔王のマントを引き千切ると、スーパー光線銃を構えた。
「いくぞ、勇気っ!」
「団結っ!」
「スーパー光線ぬぅぅぅぅぅぅんっ!!」
 その技は、三人の心が一つになった時、発動するのだ。

 凄まじい光が迸り、魔王エルギンの急所を貫いた。
「おのれぇぇぇー、勇者どもめぇぇーーーーーっ!」
 必殺技を受けた魔王は、咆哮をあげながら、倒れ落ちた。

 魔女マヨイとカイゼルは、相打ちとなり、二人は倒れていた。

 カイゼルの元へと駆け寄る勇者たち。
「カイゼル、しっかりしろ!」
 返事はなかった。
 城が、崩壊していく。
 勇者たちは、その場に立ち尽くしていた。

 城が消え去り、辺りには草原が広がっていた。

 勇者たちは、見事に魔王エルギンを倒したのだ。

(唄うようなナレーションは全て、アリアでした)



 祠の近くにあるベンチにて。
 遊びも一段落して、フィロはカイゼルにワインを勧めた。
「お子様たちの笑顔が、たくさん集まって良かったですね、カイゼル様」
 グラスに注がれたワインを飲み干すカイゼル。
「フィロ、子供の世話も上手いな。また機会があったら、別の遊びでもしてみるかねぇ。それからジャック、おまえさんが魔王役になるとはな。夢路の提案でクライマックスは少しアレンジしてみたが、子供たちも楽しんでたみたいだな」
「おう、俺も楽しかったぜ。悪役ってのは、滅多にないからな」
 ジャックは、カイゼルの隣に座り、ワインを飲んでいた。
 今年も無事に春郷祭が行われ、子供たちと遊ぶ機会もできた。
 安堵の笑みを浮かべるジャックであった。
 目の前では、マスカレードを付けた瑠美が、子供たちと意気投合して、走り回ってはしゃいでいた。
「きっと皆は、未来の勇者になるわね!」
「よっし、いつか本物のハンターになるためにも特訓だっ!」
 勇者役をやった少年が、拳を突き上げた。
「「おおーっ!!」」
 懸命に走り回る子供たち。
 瑠美は声を張り上げて、応援していた。


 その頃。
 アリアは、リクの誘いを受けて、ディエスたちと合流していた。
 三人は食堂の席に座り、クッキーを食べていた。
「サクサクした食感だね」
 ディエスがそう言うと、アリアが感想を述べる。
「バターの風味が効いていて美味しいわ」
「良かった」
 リクは、自分で作ったクッキーを食べてもらい、うれしそうだった。
 アリアが、一息ついてからディエスに尋ねた。
「次の郷祭は、紅も蒼も緑も、色んな友達や仲間と一緒に参加したいわね。……緑の世界のディエスの仲間って、どんな人達だったの?」
 ディエスは、黙り込んでしまった。
 しばらく沈黙が続いたため、リクは話題を変えることにした。
「そういや反影作戦の時に自分の過去を見せてくるやつとかいたけど、ディエスの所、どうだった?」
「……過去のエバー・グリーンだったよ。世界が崩壊する前日……ボクは、自分の主だった研究所の室長に助けられた。だけど、室長はボクを庇って……亡くなった」
 ディエスは過去を思い出して、泣き出してしまった。
 アリアが、ディエスの背中を優しく擦る。
「ディエス、ごめんなさい」
「ごめん、ディエス」
 リクは、ディエスの過去を情報整理してもらうつもりであった。
 他意はなかったが、ディエスは辛い過去を思い出して混乱していた。
「リクさん、アリアさん、ごめんなさい。ボク、今は話せない。いつか、きっと話せるようになるから……それまで、待っててくれる?」
 ディエスは、アリアの腕の中で泣いていた。アリアはただ、何も言わずに抱き締めてやることしかできなかった。
 しばらくすると、窓の外から光が見えた。
「ディエス、外へ行ってみよう」
 リクはディエスの手を引いて、食堂から出ると、東の方角を見上げた。
「空に光のイリュージョンが見えるよ。ディエス、見てごらん?」
 そっと見上げるディエス。
「……うわー、キレイだな」
「そうね。誰かが上げた花火かしら?」
 アリアは、ディエスに笑顔が戻り、安堵していた。
 その花火は、蜜鈴が『ワンダーフラッシュ』で打ち上げた幻影であった。
 祭りを楽しんでいた人々が、空を見上げていた。
「素敵ニャス」
 ミアは両腕をパタパタさせて、蜜鈴の周囲でステップを踏んでいた。
「ほんまやな。村中の人達が、蜜鈴の花火を見てる。一瞬でも、誰かが笑顔になってくれると良いな」
 白藤もまた、空に浮かび上がる花火を見上げ、幸せな気分に浸っていた。


 今は、哀しいことを忘れよう。
 仲間たちと楽しい時間を過ごすために……。

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参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 淡光の戦乙女
    セレスティア(ka2691
    人間(紅)|19才|女性|聖導士
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • うら若き総帥の比翼
    ひりょ・ムーンリーフ(ka3744
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 天鵞絨ノ空木
    白藤(ka3768
    人間(蒼)|28才|女性|猟撃士
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • 乙女の護り
    レイア・アローネ(ka4082
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • おしゃべり大好き☆
    鳳凰院瑠美(ka4534
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 紅の月を慈しむ乙女
    アリア・セリウス(ka6424
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • 決意は刃と共に
    アーク・フォーサイス(ka6568
    人間(紅)|17才|男性|舞刀士
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • ルル大学防諜部門長
    フィロ(ka6966
    オートマトン|24才|女性|格闘士
  • 天鵞絨ノ風船唐綿
    ミア(ka7035
    鬼|22才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アリア・セリウス(ka6424
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/06/19 21:12:14
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/19 18:52:15