ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】お連れ様の行く先は
マスター:三田村 薫

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~4人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/06/22 19:00
- 完成日
- 2018/06/28 02:22
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●赤毛の馭者
エルフのサンドラは馬車に揺られてジェオルジの郷祭に向かっていた。荷台には、切り花とバケツ、鉢植えが積まれており、彼女はその隙間にちょこんと座っている。
その馬車を御しているのは赤毛の青年で、サンドラが住む町で司祭をしている人間だった。彼はサンドラが郷祭に行きたい! と言うのを聞いて馭者を買って出た。彼はハンターの資格も持っている覚醒者であるため、道中の警護もばっちり、と言うわけである。
「あなた、一人でその荷物を抱えていくおつもりですか? 野垂れ死にしますよ。私が馭者を務めましょう」
そう言って、今馬を操る彼は、司祭の法衣ではなく、乗馬服を着込んでいた。ロザリオを下げたその姿は、言われなければ、信心深い馭者としか思えないだろう。
サンドラはこの春先に今住んでいる町に引っ越してきた。そこまでのいきさつにも色々あったのだが今回は割愛する。今住んでいる家の庭で花を育てているのだが、いかんせん住んでいる期間が短いので、郷祭に露店を出せるほどの量は確保できなかった。自分の庭に置く分がなくなってしまう。と、思って悩んでいるところに、町の奥様方から植物提供の申し出があった。自分たちも郷祭に行くけど、買い専で行くから、良かったらあなた売ってきてよ、と言うわけである。サンドラは一も二もなく了承した。
●司祭が帰ってこない
さて、サンドラは司祭に手伝ってもらって、設営場所にもろもろを運び込んだ。司祭も手伝おうとしたが、サンドラは、
「それくらいできる。お前は馬を御して疲れただろう? 何か飲み物でも買ってくると良いよ」
と言って断った。
「そうですか。ではあなたの分も買ってきましょう」
「後で払うから」
「それくらいは私に払わせてください」
司祭はそう言うと、くくった長い赤毛をなびかせて人込みの中に消えていった。残ったサンドラはテントを組み立て、何往復かして切り花用のバケツの水を汲んでようやく人心地がついた。
「あー、疲れた。やっぱり司祭に手伝ってもらえば良かった。でも良いか、一応できたし」
サンドラは手で顔を仰ぎながら辺りを見渡す。そういえば、司祭が帰ってこない。
「……どこまで行ってしまったんだあいつは」
知人でも見付けて話し込んでいるのだろうか。正直ひからびそうなので早く戻ってきて欲しい。それに、朝も早かったからお腹が空いた。
「うーん、これでは店開きができない……」
サンドラはござの上にごろりと転がった。
その様子を見たスタッフは、サンドラに困りごとがないかと尋ねた。彼女は、渡りに船と言わんばかりにこう告げた。
「ちょっと、頼みがある。人を探して欲しい。あとついでに私の食事と飲み物も頼みたいんだ……設営ですべての気力を使い果たした。連れが帰って来ないんだ。頼めるか?」
そしてその話がハンターたちに回ってきた、と言うわけである。
エルフのサンドラは馬車に揺られてジェオルジの郷祭に向かっていた。荷台には、切り花とバケツ、鉢植えが積まれており、彼女はその隙間にちょこんと座っている。
その馬車を御しているのは赤毛の青年で、サンドラが住む町で司祭をしている人間だった。彼はサンドラが郷祭に行きたい! と言うのを聞いて馭者を買って出た。彼はハンターの資格も持っている覚醒者であるため、道中の警護もばっちり、と言うわけである。
「あなた、一人でその荷物を抱えていくおつもりですか? 野垂れ死にしますよ。私が馭者を務めましょう」
そう言って、今馬を操る彼は、司祭の法衣ではなく、乗馬服を着込んでいた。ロザリオを下げたその姿は、言われなければ、信心深い馭者としか思えないだろう。
サンドラはこの春先に今住んでいる町に引っ越してきた。そこまでのいきさつにも色々あったのだが今回は割愛する。今住んでいる家の庭で花を育てているのだが、いかんせん住んでいる期間が短いので、郷祭に露店を出せるほどの量は確保できなかった。自分の庭に置く分がなくなってしまう。と、思って悩んでいるところに、町の奥様方から植物提供の申し出があった。自分たちも郷祭に行くけど、買い専で行くから、良かったらあなた売ってきてよ、と言うわけである。サンドラは一も二もなく了承した。
●司祭が帰ってこない
さて、サンドラは司祭に手伝ってもらって、設営場所にもろもろを運び込んだ。司祭も手伝おうとしたが、サンドラは、
「それくらいできる。お前は馬を御して疲れただろう? 何か飲み物でも買ってくると良いよ」
と言って断った。
「そうですか。ではあなたの分も買ってきましょう」
「後で払うから」
「それくらいは私に払わせてください」
司祭はそう言うと、くくった長い赤毛をなびかせて人込みの中に消えていった。残ったサンドラはテントを組み立て、何往復かして切り花用のバケツの水を汲んでようやく人心地がついた。
「あー、疲れた。やっぱり司祭に手伝ってもらえば良かった。でも良いか、一応できたし」
サンドラは手で顔を仰ぎながら辺りを見渡す。そういえば、司祭が帰ってこない。
「……どこまで行ってしまったんだあいつは」
知人でも見付けて話し込んでいるのだろうか。正直ひからびそうなので早く戻ってきて欲しい。それに、朝も早かったからお腹が空いた。
「うーん、これでは店開きができない……」
サンドラはござの上にごろりと転がった。
その様子を見たスタッフは、サンドラに困りごとがないかと尋ねた。彼女は、渡りに船と言わんばかりにこう告げた。
「ちょっと、頼みがある。人を探して欲しい。あとついでに私の食事と飲み物も頼みたいんだ……設営ですべての気力を使い果たした。連れが帰って来ないんだ。頼めるか?」
そしてその話がハンターたちに回ってきた、と言うわけである。
リプレイ本文
●旅は道連れ世は情け
フェリア(ka2870)と七夜・真夕(ka3977)は、友人同士であるが、今回の春郷祭には別々で来ていた。とはいえ、ジェオルジの春郷祭はクリムゾンウェストでもなかなかの知名度だから、毎年各地から人が集まる。二人もそんな同盟への客人だった。
真夕の方はデートの予定があったが、それは夜からなので、それまでは友人と行動を共にすることにした。同じ魔術師同士で、なおかつフェリアは先輩にあたる。普段から何かと相談に乗ってくれる彼女に、お茶でもごちそうしようと誘ったのだ。
さて、友人同士で屋台を見ている内に、真夕はござの上に横たわっているエルフの女性と、そこにかがみ込んでなにやら話しかけているスタッフを発見した。
「フェリア、何か困りごとみたい。声をかけても良いかしら?」
「ええ。構いませんよ」
フェリアは、見知らぬ人に話しかける事ができるこの友人の行動力を高く評価している。
「何かお困りかしら?」
真夕がスタッフと女性に話しかけると、サンドラと名乗った女性は、
「連れが戻って来ないんだ」
と、呻くように言う。そして、設営で全ての気力を使い果たし、喉も渇いてお腹も空いたのだと訴える。
「なので、お連れ様を探して来て、ついでに飲み物とか食べ物を調達してきてほしい、と言うわけです」
そう言って、スタッフが締めくくった。説明している間に、困りごとの気配を察して、星野 ハナ(ka5852)とフィロ(ka6966)も手伝いを申し出ており、人探しと食料調達の依頼には十分な人数が集まっている。
「クール司祭でオカン属性……薄い本が捗りそうな逸材ですぅ」
司祭の話を聞いたハナは感慨深げに頷いた。
「じゃあ、役割分担は決めた方が良いわね」
真夕が提案すると、フェリアが手を軽く挙げて申し出る。
「私が買い出しに行くわ。ちょうど喉も渇いていたところだし」
まるで、真夕が買い出しを言い出す前に決めてしまおうと言わんばかりだった。実際その通りで、真夕は基本的にはまっとうな味覚をしているものの、個人的な嗜好として、異様に辛いものや甘いものを好むところがある。流石に、初対面のサンドラに買ってくるほど気が回らない人間でもないが、念のために、とフェリアは買い出しを申し出た。
「そう? じゃあ、私は人探しね。二人はどうするの?」
「私は占いができますのでぇ、人探しの方にしますぅ」
「では私も人探しに参ります」
ハナとフィロも司祭捜しに手を挙げた。サンドラだって軽食程度があれば良い。全員で買い出しに行くこともないだろう。
「では行ってきますね」
●お買い物
さて、フェリアは食べ物の屋台が比較的多いエリアに足を伸ばした。さっき通った時に、食べ物の匂いを頻繁に嗅いだことを覚えていたのだ。
「これから接客をするのだから、無難なものの方が良いでしょうね」
歯や舌に色がついてしまうような色の濃いものは避けた方が良いだろう。ジャスミンティーを見付けて、ひとまずサンドラの飲み物としてそれを購入する。後は……自分と真夕、司祭の分も購入することにして、引き続き屋台を回る。
そういえば、司祭は戻ってきてからどうするつもりなのだろうか。接客? あまり表情が豊かではないと言っていたが。
軽食数点を購入する。ひとまず、無難な食べ物としてサンドイッチは確保。後は……真夕が戻ってくるまでサンドラと二人になるなら、話のネタになるようなものが良いだろう。フォーチュンクッキーを見付けた。吉と出るか、凶と出るか。運試しも良いだろう。
●The Chariot
「じゃあ、ちょーっと占っちゃいますねぇ」
タロットを広げながら、ハナは自分の手元を見守る二人に説明した。
「辿り着く前に移動しちゃう可能性は高いですけどぉ、それでも直近の初動が掴める可能性も高いのでそこそこ有効なんですぅ」
「そうよね。闇雲に探すよりずっと良いと思う。お願いするわ」
「はぁい」
真夕もフィロも興味津々でハナの手元を見守っている。その時だった、子どもの泣き声が、三人の耳に届いた。
「あら……?」
「迷子、でしょうか?」
「そうみたい。ねえ、私、ちょっと見てきても良いかしら?」
「お願いしますぅ。一人で大丈夫ですかぁ?」
「なんとかなるとは思うけど、そうね、子どもをあやすんだったらもう一人欲しいかも」
「でしたら、私が七夜様に同行いたします」
フィロが申し出た。
「それに、サンドラ様のお話の中のヴィルジーリオ様なら、司祭様らしく問題が起きている方へ向かわれそうです。迷子などの状況確認に努めるべきと考えます」
「言われてみれば、オカン属性ですしぃ、そういうことに首を突っ込んでいる予感もなきにしもあらずですぅ。お願いしますぅ。私は念のため、占い終わってから探してみますね」
「了解したわ。フィロ、行きましょう」
「はい、七夜様」
二人が雑踏の中に消えていくと、ハナはタロットをめくった。その内一枚が、彼女の頭のどこかにぴん、と引っかかる。
戦車の正位置だ。タロットの解釈は読み手によっていかようにも。だが、争いを示し、なおかつ正位置のこの札は……。
「喧嘩中、ですかぁ?」
●グラジオラスは日向に咲いて
「戻りましたよ」
「ああ、すまないなフェリア」
フェリアが食べ物類を持って戻ってくると、サンドラはむっくりと起き上がった。お茶を手渡されると、それがジャスミンティーであることに気付いて、ぱっと顔を輝かせる。
「ありがとう。良い香りだ」
「それなら良かった。サンドイッチもありますよ」
「ありがとう」
サンドラは礼を言うと、猛烈な勢いでサンドイッチを平らげた。その様子を見て、
「そんなにお腹が空いてらしたんですね。朝が早かったのかしら」
「うん。とても早かった。私はすごく眠かったが、司祭の奴は平気な顔して馬車を走らせていたな……司祭と言うのはみんなああなんだろうか」
「人によると思いますけど」
くすり、とフェリアは笑う。それから、買ってきた軽食も勧めた。サンドラは喜んで相伴に預かった。フェリアも、それらを摘まみながら、二人は他愛のない話に花を咲かせる。
「そういえばフェリアはどこから来たんだ?」
「出身ですか? 帝国ですよ」
「ああ……」
なんとなくだが、納得した。グラジオラスなんか似合いそうだ。鋭くも美しい、そして優雅だ。
「あなたは? 司祭さんの町のご出身ですか?」
覚醒遺伝などで、人間の両親からでもエルフの子どもが生まれることはあり得る。しかし、サンドラは首を横に振った。
「いや、私はこの春先に今のところに越してきていてな。それまでは普通にエルフの集落にいたよ。紆余曲折という奴だ」
「住み慣れたところを離れるのは大変でしょう」
フェリアの友人の真夕もそうだ。リアルブルーを離れ、クリムゾンウェストに転移した彼女も、住み慣れたところを離れ、覚醒者になりハンターとしてこの世界で戦っている。
「うん……でも、やりたいことがあったから」
「そうですか。叶うと良いですね」
「ありがとう。お前もの行く末が良いものであるように私も願おう。ところで……」
サンドラはフォーチュンクッキーをまじまじと見つめた。
「この、なんだか紙がはみ出してるのは何だ?」
「ああ、フォーチュンクッキーと言って、中に運勢を記した紙が入ってるんですよ」
「聞いたことはあるが食べたことはない」
「召し上がりますか?」
「良いのか?」
「勿論」
●喧嘩を求めて
迷子の声がする方に行くと、既に解決していたようで、泣きわめく五歳くらいの少年をあやしながら抱きしめる母親らしき女性と、その傍らに立つ、司祭の法衣を来た男性の姿が見えた。背は高いが、ヴィルジーリオ司祭は乗馬服だと言う。彼ではないだろう。
「解決してたみたいね。良かったわ」
真夕は、ふう、と息を吐く。
「ええ、そして、あの方は恐らくヴィルジーリオ司祭様ではないのでしょう」
「サンドラは乗馬服、って言ってたものね」
「ええ。あれは法衣ですね」
「それにすごい笑顔ね、あの司祭様は」
「そうですね。表情筋がまるで仕事をされない、と仰っていました」
「働き者ということしか一致しないわ」
「星野様、フィロです。こちらの迷子は解決したようですが、ヴィルジーリオ司祭様はいらっしゃいませんでした」
フィロがトランシーバーでハナに連絡を入れる。ハナからはすぐに応答があった。
「了解しましたぁ。占いによると、争いに巻き込まれてなおかつ優位っぽいのでぇ、喧嘩を求めてえんやこらしてきますぅ」
「はい、お気を付けて。では私たちも喧嘩を中心に探して参ります」
「はぁい。また連絡しますねぇ」
「喧嘩ですって?」
会話を聞いていた真夕が困惑した顔になった。
「真面目な方の様ですから、恐らく見て見ぬふりをできなかったものかと」
「それは大変。ハンターだって言うから大丈夫だとは思うけど、事後処理で掴まってる可能性もあるわ。私たちも探しに行きましょう」
「はい、七夜様」
「すみません! ちょっと人を探しているんですけど……」
真夕は持ち前のコミュニケーション能力を発揮して、聞き込みを始めたのであった。
●お連れ様の行く先は
「乗馬服を来た背の高いあんまり表情筋が動かない男性見かけませんでしたかあ? 一緒にお祭りに来た知り合いの司祭さまなんですけどちょっとはぐれちゃって探してるんですぅ」
ハナはハナで、やはりその物怖じのしない人懐っこさを発揮して聞き込みをしている。とは言え、この人込みの中、どちらかと言うと常識的な服装である乗馬服はあまり印象に残らないのだろう。祭に乗馬服も見ない組み合わせだが、大道芸人の奇抜な衣装の前ではかすむようだ。
「あれ? その人赤毛じゃなかったかい?」
と、思い当たる節があるのは占い師だ。
「そうですぅ。長い赤毛だそうです」
「だったら見たよ。あっちの方」
そう言って、占い師は西の方を指す。ハナはそちらを見てから、
「あっちで揉め事ってありませんでした?」
「あんたも占い師? あったよ。喧嘩があったって。そのお兄さんが来たのは喧嘩のことが聞こえた後だけどね」
「ありがとうございますぅ!」
ハナは占い師に礼を述べると、人込みをかき分けてそちらの方に向かった。そして見た。血の気の多そうな若者に関節技を決めている、赤毛で乗馬服を着た青年を。
「よろしいですか。子どもも多くいる祭で喧嘩など、言語道断ですよ。情操教育に大変な悪影響です」
「あだだだだだ!」
「この腕は人を殴るためのものにあらず、です。悔い改めなさい」
どちらかと言うと、この司祭の関節技の方が情操教育に悪いのではないか。既にもう一人の青年が肩を押さえてうずくまっている。本当に魔術師かこの司祭は。格闘士の間違いじゃないのか。
いや、しかし、悪くない。表情一つ動かさずに喧嘩の間に入り関節技を決める司祭。悪くない。
「わかった! わかったよぉ! もう喧嘩しねぇから!」
「あのう」
万が一、司祭に、喧嘩当事者の仲間と思われてしまっても良いように、ハナは式神を呼び出してから彼に近づいた。
「何か?」
赤毛の青年はやはり全く動じた様子も見せずにハナを見る。おお、これはなかなか、とハナが思ったかどうか。
「サンドラさんのお友達のヴィルジーリオさんで合ってますかぁ?」
「ええ、私がそうです」
「は、離してくれよぉ!」
「あ、その人は離してあげてくださぁい。もう充分悔い改めてると思うのでぇ」
「ふむ。まあ良いでしょう。私も少々頭に血が上りました。失礼」
彼はそう言って、相手を解放した。
「お、覚えてろ……」
「その言葉は忘れて差し上げますよ」
這々の体でその場を去る二人を見送ると、ヴィルジーリオはハナを見下ろした。彼が何か言う前に、ハナの方が口を開いていた。
「気に入りました結婚して下さいぃ!」
「何ですって?」
「じゃなくてサンドラさんがあっちで探してましたよぅ?」
「あ」
ヴィルジーリオはしまった、と言いたげな顔になる。なんだ、存外に表情出るじゃないか。ハナはおかしくなって、彼の腕を引いた。
「サンドラさん、お腹空かせて喉渇いたって言ってましたよぉ。私の仲間が買い出しに行ってるんですけどぉ、念のため何か買ってから戻りましょう?」
●帰ってきた司祭
「お」
フォーチュンクッキーを割って、出てきた紙片を見ると、サンドラが目を丸くした。
「何か良い結果が出ましたか?」
「待ち人来る、だそうだ。もうすぐ司祭も戻ってくるな」
「それは良かった」
その時だった。フェリアのトランシーバーが、ハナからの通信を受けた。
「あ、フェリアさんですかぁ? 星野ですぅ。ヴィルジーリオさん確保しましたぁ」
「お疲れ様です。ありがとう。サンドラにかわりましょうか」
そう言って、フェリアはサンドラにトランシーバーを渡す。向こうも司祭にトランシーバーを渡した様だ。
「サンドラ……申し訳ありません。喧嘩の仲裁に入ってました。すぐ戻ります」
「ゆっくりで良いよ。お前に怪我はないな」
「はい」
「じゃあ戻って来てくれ。ハナの言うことをちゃんと聞くんだぞ」
通信を終えてトランシーバーをフェリアに返す。
「見つかって良かった。私もなんとかミイラを免れたよ。ありがとう」
「いいえ。お役に立てたなら嬉しいわ」
「お前と話せて楽しかった。もしかしたら、私の依頼にお前が入ってくれることもあるかもしれない。その時は頼む」
「そうですね」
フェリアは頷く。依頼じゃなくても、何かの因果で顔を合わせることはあるかもしれない。
●司祭の帰還
「司祭様が喧嘩してたの?」
「司祭様が関節技ですか」
「すごかったんですよぉ、悔い改めなさいって」
「喧嘩ではありません。仲裁です」
ハナたちと合流した真夕とフィロは、事情を聞いて口々に言う。ハナはたいそう楽しいようで、にこにこしながらヴィルジーリオの腕を掴んで放さない。
「それにしても、私一人のために四人もハンターを動員させるとは、なんとも申し訳ない」
「良いのよ、こういうこともあるわ」
「お祭ではよくあることでしょう」
真夕とフィロはややバツの悪そうにしている司祭にそう告げる。やがて、四人はサンドラとフェリアが待つ出店に帰って来た。
「司祭、お帰り」
「戻りました」
「フェリアが買ってきてくれた軽食があるぞ。お前も喧嘩の仲裁してたならお腹が空いたんじゃないのか?」
「ああ、そうですね……少々疲れました。それで気が立っていたのかもしれません。いただきます」
司祭はハンターたちに礼を述べると、サンドラの隣に座ってサンドイッチをつまむ。その正面にハナが正座して、言った。
「それじゃまずオトモダチになって下さいぃ」
「はい?」
楽しい春郷祭はもう少し続く。
フェリア(ka2870)と七夜・真夕(ka3977)は、友人同士であるが、今回の春郷祭には別々で来ていた。とはいえ、ジェオルジの春郷祭はクリムゾンウェストでもなかなかの知名度だから、毎年各地から人が集まる。二人もそんな同盟への客人だった。
真夕の方はデートの予定があったが、それは夜からなので、それまでは友人と行動を共にすることにした。同じ魔術師同士で、なおかつフェリアは先輩にあたる。普段から何かと相談に乗ってくれる彼女に、お茶でもごちそうしようと誘ったのだ。
さて、友人同士で屋台を見ている内に、真夕はござの上に横たわっているエルフの女性と、そこにかがみ込んでなにやら話しかけているスタッフを発見した。
「フェリア、何か困りごとみたい。声をかけても良いかしら?」
「ええ。構いませんよ」
フェリアは、見知らぬ人に話しかける事ができるこの友人の行動力を高く評価している。
「何かお困りかしら?」
真夕がスタッフと女性に話しかけると、サンドラと名乗った女性は、
「連れが戻って来ないんだ」
と、呻くように言う。そして、設営で全ての気力を使い果たし、喉も渇いてお腹も空いたのだと訴える。
「なので、お連れ様を探して来て、ついでに飲み物とか食べ物を調達してきてほしい、と言うわけです」
そう言って、スタッフが締めくくった。説明している間に、困りごとの気配を察して、星野 ハナ(ka5852)とフィロ(ka6966)も手伝いを申し出ており、人探しと食料調達の依頼には十分な人数が集まっている。
「クール司祭でオカン属性……薄い本が捗りそうな逸材ですぅ」
司祭の話を聞いたハナは感慨深げに頷いた。
「じゃあ、役割分担は決めた方が良いわね」
真夕が提案すると、フェリアが手を軽く挙げて申し出る。
「私が買い出しに行くわ。ちょうど喉も渇いていたところだし」
まるで、真夕が買い出しを言い出す前に決めてしまおうと言わんばかりだった。実際その通りで、真夕は基本的にはまっとうな味覚をしているものの、個人的な嗜好として、異様に辛いものや甘いものを好むところがある。流石に、初対面のサンドラに買ってくるほど気が回らない人間でもないが、念のために、とフェリアは買い出しを申し出た。
「そう? じゃあ、私は人探しね。二人はどうするの?」
「私は占いができますのでぇ、人探しの方にしますぅ」
「では私も人探しに参ります」
ハナとフィロも司祭捜しに手を挙げた。サンドラだって軽食程度があれば良い。全員で買い出しに行くこともないだろう。
「では行ってきますね」
●お買い物
さて、フェリアは食べ物の屋台が比較的多いエリアに足を伸ばした。さっき通った時に、食べ物の匂いを頻繁に嗅いだことを覚えていたのだ。
「これから接客をするのだから、無難なものの方が良いでしょうね」
歯や舌に色がついてしまうような色の濃いものは避けた方が良いだろう。ジャスミンティーを見付けて、ひとまずサンドラの飲み物としてそれを購入する。後は……自分と真夕、司祭の分も購入することにして、引き続き屋台を回る。
そういえば、司祭は戻ってきてからどうするつもりなのだろうか。接客? あまり表情が豊かではないと言っていたが。
軽食数点を購入する。ひとまず、無難な食べ物としてサンドイッチは確保。後は……真夕が戻ってくるまでサンドラと二人になるなら、話のネタになるようなものが良いだろう。フォーチュンクッキーを見付けた。吉と出るか、凶と出るか。運試しも良いだろう。
●The Chariot
「じゃあ、ちょーっと占っちゃいますねぇ」
タロットを広げながら、ハナは自分の手元を見守る二人に説明した。
「辿り着く前に移動しちゃう可能性は高いですけどぉ、それでも直近の初動が掴める可能性も高いのでそこそこ有効なんですぅ」
「そうよね。闇雲に探すよりずっと良いと思う。お願いするわ」
「はぁい」
真夕もフィロも興味津々でハナの手元を見守っている。その時だった、子どもの泣き声が、三人の耳に届いた。
「あら……?」
「迷子、でしょうか?」
「そうみたい。ねえ、私、ちょっと見てきても良いかしら?」
「お願いしますぅ。一人で大丈夫ですかぁ?」
「なんとかなるとは思うけど、そうね、子どもをあやすんだったらもう一人欲しいかも」
「でしたら、私が七夜様に同行いたします」
フィロが申し出た。
「それに、サンドラ様のお話の中のヴィルジーリオ様なら、司祭様らしく問題が起きている方へ向かわれそうです。迷子などの状況確認に努めるべきと考えます」
「言われてみれば、オカン属性ですしぃ、そういうことに首を突っ込んでいる予感もなきにしもあらずですぅ。お願いしますぅ。私は念のため、占い終わってから探してみますね」
「了解したわ。フィロ、行きましょう」
「はい、七夜様」
二人が雑踏の中に消えていくと、ハナはタロットをめくった。その内一枚が、彼女の頭のどこかにぴん、と引っかかる。
戦車の正位置だ。タロットの解釈は読み手によっていかようにも。だが、争いを示し、なおかつ正位置のこの札は……。
「喧嘩中、ですかぁ?」
●グラジオラスは日向に咲いて
「戻りましたよ」
「ああ、すまないなフェリア」
フェリアが食べ物類を持って戻ってくると、サンドラはむっくりと起き上がった。お茶を手渡されると、それがジャスミンティーであることに気付いて、ぱっと顔を輝かせる。
「ありがとう。良い香りだ」
「それなら良かった。サンドイッチもありますよ」
「ありがとう」
サンドラは礼を言うと、猛烈な勢いでサンドイッチを平らげた。その様子を見て、
「そんなにお腹が空いてらしたんですね。朝が早かったのかしら」
「うん。とても早かった。私はすごく眠かったが、司祭の奴は平気な顔して馬車を走らせていたな……司祭と言うのはみんなああなんだろうか」
「人によると思いますけど」
くすり、とフェリアは笑う。それから、買ってきた軽食も勧めた。サンドラは喜んで相伴に預かった。フェリアも、それらを摘まみながら、二人は他愛のない話に花を咲かせる。
「そういえばフェリアはどこから来たんだ?」
「出身ですか? 帝国ですよ」
「ああ……」
なんとなくだが、納得した。グラジオラスなんか似合いそうだ。鋭くも美しい、そして優雅だ。
「あなたは? 司祭さんの町のご出身ですか?」
覚醒遺伝などで、人間の両親からでもエルフの子どもが生まれることはあり得る。しかし、サンドラは首を横に振った。
「いや、私はこの春先に今のところに越してきていてな。それまでは普通にエルフの集落にいたよ。紆余曲折という奴だ」
「住み慣れたところを離れるのは大変でしょう」
フェリアの友人の真夕もそうだ。リアルブルーを離れ、クリムゾンウェストに転移した彼女も、住み慣れたところを離れ、覚醒者になりハンターとしてこの世界で戦っている。
「うん……でも、やりたいことがあったから」
「そうですか。叶うと良いですね」
「ありがとう。お前もの行く末が良いものであるように私も願おう。ところで……」
サンドラはフォーチュンクッキーをまじまじと見つめた。
「この、なんだか紙がはみ出してるのは何だ?」
「ああ、フォーチュンクッキーと言って、中に運勢を記した紙が入ってるんですよ」
「聞いたことはあるが食べたことはない」
「召し上がりますか?」
「良いのか?」
「勿論」
●喧嘩を求めて
迷子の声がする方に行くと、既に解決していたようで、泣きわめく五歳くらいの少年をあやしながら抱きしめる母親らしき女性と、その傍らに立つ、司祭の法衣を来た男性の姿が見えた。背は高いが、ヴィルジーリオ司祭は乗馬服だと言う。彼ではないだろう。
「解決してたみたいね。良かったわ」
真夕は、ふう、と息を吐く。
「ええ、そして、あの方は恐らくヴィルジーリオ司祭様ではないのでしょう」
「サンドラは乗馬服、って言ってたものね」
「ええ。あれは法衣ですね」
「それにすごい笑顔ね、あの司祭様は」
「そうですね。表情筋がまるで仕事をされない、と仰っていました」
「働き者ということしか一致しないわ」
「星野様、フィロです。こちらの迷子は解決したようですが、ヴィルジーリオ司祭様はいらっしゃいませんでした」
フィロがトランシーバーでハナに連絡を入れる。ハナからはすぐに応答があった。
「了解しましたぁ。占いによると、争いに巻き込まれてなおかつ優位っぽいのでぇ、喧嘩を求めてえんやこらしてきますぅ」
「はい、お気を付けて。では私たちも喧嘩を中心に探して参ります」
「はぁい。また連絡しますねぇ」
「喧嘩ですって?」
会話を聞いていた真夕が困惑した顔になった。
「真面目な方の様ですから、恐らく見て見ぬふりをできなかったものかと」
「それは大変。ハンターだって言うから大丈夫だとは思うけど、事後処理で掴まってる可能性もあるわ。私たちも探しに行きましょう」
「はい、七夜様」
「すみません! ちょっと人を探しているんですけど……」
真夕は持ち前のコミュニケーション能力を発揮して、聞き込みを始めたのであった。
●お連れ様の行く先は
「乗馬服を来た背の高いあんまり表情筋が動かない男性見かけませんでしたかあ? 一緒にお祭りに来た知り合いの司祭さまなんですけどちょっとはぐれちゃって探してるんですぅ」
ハナはハナで、やはりその物怖じのしない人懐っこさを発揮して聞き込みをしている。とは言え、この人込みの中、どちらかと言うと常識的な服装である乗馬服はあまり印象に残らないのだろう。祭に乗馬服も見ない組み合わせだが、大道芸人の奇抜な衣装の前ではかすむようだ。
「あれ? その人赤毛じゃなかったかい?」
と、思い当たる節があるのは占い師だ。
「そうですぅ。長い赤毛だそうです」
「だったら見たよ。あっちの方」
そう言って、占い師は西の方を指す。ハナはそちらを見てから、
「あっちで揉め事ってありませんでした?」
「あんたも占い師? あったよ。喧嘩があったって。そのお兄さんが来たのは喧嘩のことが聞こえた後だけどね」
「ありがとうございますぅ!」
ハナは占い師に礼を述べると、人込みをかき分けてそちらの方に向かった。そして見た。血の気の多そうな若者に関節技を決めている、赤毛で乗馬服を着た青年を。
「よろしいですか。子どもも多くいる祭で喧嘩など、言語道断ですよ。情操教育に大変な悪影響です」
「あだだだだだ!」
「この腕は人を殴るためのものにあらず、です。悔い改めなさい」
どちらかと言うと、この司祭の関節技の方が情操教育に悪いのではないか。既にもう一人の青年が肩を押さえてうずくまっている。本当に魔術師かこの司祭は。格闘士の間違いじゃないのか。
いや、しかし、悪くない。表情一つ動かさずに喧嘩の間に入り関節技を決める司祭。悪くない。
「わかった! わかったよぉ! もう喧嘩しねぇから!」
「あのう」
万が一、司祭に、喧嘩当事者の仲間と思われてしまっても良いように、ハナは式神を呼び出してから彼に近づいた。
「何か?」
赤毛の青年はやはり全く動じた様子も見せずにハナを見る。おお、これはなかなか、とハナが思ったかどうか。
「サンドラさんのお友達のヴィルジーリオさんで合ってますかぁ?」
「ええ、私がそうです」
「は、離してくれよぉ!」
「あ、その人は離してあげてくださぁい。もう充分悔い改めてると思うのでぇ」
「ふむ。まあ良いでしょう。私も少々頭に血が上りました。失礼」
彼はそう言って、相手を解放した。
「お、覚えてろ……」
「その言葉は忘れて差し上げますよ」
這々の体でその場を去る二人を見送ると、ヴィルジーリオはハナを見下ろした。彼が何か言う前に、ハナの方が口を開いていた。
「気に入りました結婚して下さいぃ!」
「何ですって?」
「じゃなくてサンドラさんがあっちで探してましたよぅ?」
「あ」
ヴィルジーリオはしまった、と言いたげな顔になる。なんだ、存外に表情出るじゃないか。ハナはおかしくなって、彼の腕を引いた。
「サンドラさん、お腹空かせて喉渇いたって言ってましたよぉ。私の仲間が買い出しに行ってるんですけどぉ、念のため何か買ってから戻りましょう?」
●帰ってきた司祭
「お」
フォーチュンクッキーを割って、出てきた紙片を見ると、サンドラが目を丸くした。
「何か良い結果が出ましたか?」
「待ち人来る、だそうだ。もうすぐ司祭も戻ってくるな」
「それは良かった」
その時だった。フェリアのトランシーバーが、ハナからの通信を受けた。
「あ、フェリアさんですかぁ? 星野ですぅ。ヴィルジーリオさん確保しましたぁ」
「お疲れ様です。ありがとう。サンドラにかわりましょうか」
そう言って、フェリアはサンドラにトランシーバーを渡す。向こうも司祭にトランシーバーを渡した様だ。
「サンドラ……申し訳ありません。喧嘩の仲裁に入ってました。すぐ戻ります」
「ゆっくりで良いよ。お前に怪我はないな」
「はい」
「じゃあ戻って来てくれ。ハナの言うことをちゃんと聞くんだぞ」
通信を終えてトランシーバーをフェリアに返す。
「見つかって良かった。私もなんとかミイラを免れたよ。ありがとう」
「いいえ。お役に立てたなら嬉しいわ」
「お前と話せて楽しかった。もしかしたら、私の依頼にお前が入ってくれることもあるかもしれない。その時は頼む」
「そうですね」
フェリアは頷く。依頼じゃなくても、何かの因果で顔を合わせることはあるかもしれない。
●司祭の帰還
「司祭様が喧嘩してたの?」
「司祭様が関節技ですか」
「すごかったんですよぉ、悔い改めなさいって」
「喧嘩ではありません。仲裁です」
ハナたちと合流した真夕とフィロは、事情を聞いて口々に言う。ハナはたいそう楽しいようで、にこにこしながらヴィルジーリオの腕を掴んで放さない。
「それにしても、私一人のために四人もハンターを動員させるとは、なんとも申し訳ない」
「良いのよ、こういうこともあるわ」
「お祭ではよくあることでしょう」
真夕とフィロはややバツの悪そうにしている司祭にそう告げる。やがて、四人はサンドラとフェリアが待つ出店に帰って来た。
「司祭、お帰り」
「戻りました」
「フェリアが買ってきてくれた軽食があるぞ。お前も喧嘩の仲裁してたならお腹が空いたんじゃないのか?」
「ああ、そうですね……少々疲れました。それで気が立っていたのかもしれません。いただきます」
司祭はハンターたちに礼を述べると、サンドラの隣に座ってサンドイッチをつまむ。その正面にハナが正座して、言った。
「それじゃまずオトモダチになって下さいぃ」
「はい?」
楽しい春郷祭はもう少し続く。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/06/20 00:48:21 |
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筋肉ハント菓子ハント? 星野 ハナ(ka5852) 人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2018/06/20 01:22:30 |