ゲスト
(ka0000)
ある放棄された施設にて
マスター:秋月雅哉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2014/12/22 12:00
- 完成日
- 2014/12/23 08:37
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●放棄された研究施設にやってきた研究者の悲劇
帝国領の一角に今は放棄された研究施設がある。その内のひとつがこの度再利用されて新たな主を迎えることになった。
派遣されたのはまだ研究者としては無名で駆け出しの職員。彼が研究を取り仕切るわけではなく、掃除や使える備品のチェック、新たに補充しなければいけない機材の発注、新薬の開発施設であるため薬の材料の搬入など――どう頑張って言いつくろっても雑用を言いつけられ一足先に研究施設に足を踏み入れることになっただけである。
「なんか廃棄されてた施設って聞いたせいか気味が悪いな……明かりのつきも悪いし……ん? なんかうめき声が……侵入者か?」
彼の上司は口うるさいタイプで侵入者がいた痕跡など残したままにしておいては後でくどくどと文句を言われるに違いない。
腕っぷしにはまるっきり自信はなかったが聞き間違いなのかそうでないのかだけでも確認しておこうと地下へと通じる扉を開けた。
そこで新米研究員が目にしたものはと言えば――……。
「侵入者は侵入者でも人間じゃなかった。というか放棄された後自然派生して、誰も建物の性質上立ち寄らなかった上に向こうも動いたりしなかったせいで存在の発見が遅れに遅れた雑魔だった、と」
ルカ・シュバルツエンド(kz0073)がまるで時期外れの怪談だね、と他人事のような感想を漏らしつつ赤い煙の立つ、モザイクがかかっているように見えなくもない何かをフォークに差して口にした。
煙が赤いことに突っ込むべきか、食べ物のはずなのにモザイクがかかっているように見えることに突っ込むべきか、立ち込める異臭に突っ込むべきか、それらすべての要素を踏まえた明らかに危険なダークマターを平然と口にしていることに突っ込むべきか悩んだ覚醒者がいたとしたらおそらくルカとあまり面識がないか最近オフィスでの飲食を控えていたルカしか知らなかったメンバーだろう。
「で、雑魔だけど。不定形の人型……って言えばいいのかな、なんかスライムっぽい質感のがむりやり人間の形になろうとしてるような雑魔。研究員は腰を抜かしつつ這って逃げたから戦闘能力は不明。
数は混乱した状態での目視で五体。混乱してると自供があったから実際はもう少し多いかもしれないし少ないかもしれないという確定情報が何一つない状態なんだけどね。
再利用は決まっちゃってるしできるだけ場を荒らさないようにだけ気を付けて退治してきてくれないかな」
いっそ清々しいほど丸投げして童顔の青年は誤魔化すように微笑んだのだった。
帝国領の一角に今は放棄された研究施設がある。その内のひとつがこの度再利用されて新たな主を迎えることになった。
派遣されたのはまだ研究者としては無名で駆け出しの職員。彼が研究を取り仕切るわけではなく、掃除や使える備品のチェック、新たに補充しなければいけない機材の発注、新薬の開発施設であるため薬の材料の搬入など――どう頑張って言いつくろっても雑用を言いつけられ一足先に研究施設に足を踏み入れることになっただけである。
「なんか廃棄されてた施設って聞いたせいか気味が悪いな……明かりのつきも悪いし……ん? なんかうめき声が……侵入者か?」
彼の上司は口うるさいタイプで侵入者がいた痕跡など残したままにしておいては後でくどくどと文句を言われるに違いない。
腕っぷしにはまるっきり自信はなかったが聞き間違いなのかそうでないのかだけでも確認しておこうと地下へと通じる扉を開けた。
そこで新米研究員が目にしたものはと言えば――……。
「侵入者は侵入者でも人間じゃなかった。というか放棄された後自然派生して、誰も建物の性質上立ち寄らなかった上に向こうも動いたりしなかったせいで存在の発見が遅れに遅れた雑魔だった、と」
ルカ・シュバルツエンド(kz0073)がまるで時期外れの怪談だね、と他人事のような感想を漏らしつつ赤い煙の立つ、モザイクがかかっているように見えなくもない何かをフォークに差して口にした。
煙が赤いことに突っ込むべきか、食べ物のはずなのにモザイクがかかっているように見えることに突っ込むべきか、立ち込める異臭に突っ込むべきか、それらすべての要素を踏まえた明らかに危険なダークマターを平然と口にしていることに突っ込むべきか悩んだ覚醒者がいたとしたらおそらくルカとあまり面識がないか最近オフィスでの飲食を控えていたルカしか知らなかったメンバーだろう。
「で、雑魔だけど。不定形の人型……って言えばいいのかな、なんかスライムっぽい質感のがむりやり人間の形になろうとしてるような雑魔。研究員は腰を抜かしつつ這って逃げたから戦闘能力は不明。
数は混乱した状態での目視で五体。混乱してると自供があったから実際はもう少し多いかもしれないし少ないかもしれないという確定情報が何一つない状態なんだけどね。
再利用は決まっちゃってるしできるだけ場を荒らさないようにだけ気を付けて退治してきてくれないかな」
いっそ清々しいほど丸投げして童顔の青年は誤魔化すように微笑んだのだった。
リプレイ本文
●放棄施設に雑魔は蠢く
帝国領の一角にある放棄された施設が再利用されようと雑用係を迎えたのをきっかけに、いつ発生したのかも知られないままそこに存在していた雑魔は発見された。
当然ながら討伐依頼が出され、しかし依頼人が遭遇と同時に逃げ出したため正確な個体数も能力の詳細も不明という実に曖昧な情報しかなかったため、一度調査団がハンターオフィスから向けられた。
その結果数は合体・分離することもある不定形であったため確定させることはできなかったが衣類を溶解させる能力と、じかに触れた肌に経過時間が多くなるにつれ酷くなる火傷のような症状を引き起こす能力があることが判明した。
Charlotte・V・K(ka0468)はそれを踏まえて替えのコートを持参している。
「廃棄された施設や下水というのは、やはり負のマテリアルに汚染されやすいのかね。
それとも単に人が立ち寄らないから気づかれないだけか……まぁ、害虫は駆除しなければねぇ……」
「野良雑魔、というより新しく沸いたやつか。よもや変なものから生まれたのではないだろうな……なんの研究所なのやら。
まぁいい。依頼は果たさないとな」
その言葉を受けてレイス(ka1541)が自然発生したのではなく研究対象がもともと変なものだったのではないだろうか、という研究所という場所柄可能性を否定できないのが怖いところもある一言を漏らす。
「放棄した研究施設に現れた雑魔、ねぇ。
何を研究してたか知らないけど雑魔に変な影響を与えてないことを祈るわ。
ま、再利用するみたいだし取りこぼしのないようにしっかりとこなしましょ」
ナル(ka3448)もレイスと同意見のようで研究所が雑魔に影響を与えるような遺留物などを残していたことを懸念している。
「……正直、ちょっと後悔してる」
金欠から今回の依頼に飛びついたもののレイスたちの言葉と、地下からうめき声に似た雑魔の鳴き声がするということ、溶け崩れかけた人型の姿を取っているということ。
ついでに言えば廃棄された研究施設は掃除の手配など人を迎える準備をする前に客人を逃がしたので、廃墟そのものの景観で『いかにも』といった気配を漂わせている八原 篝(ka3104)にそんな弱気なセリフを吐き出させる。
一方アーヴィン(ka3383)はそんな雰囲気にも物怖じすることなく、さっさと済ませて街に戻り女性を口説く時間を増やしたいとばかりに面倒そうに口を開いた。
「どうせ一から掃除して荷物も入れ替えるんだ。少々派手にやっても構いやしないだろ?」
森には森の、街には町のルールがあり、森では弓を使うが街中では銃のほうがいいというのが彼の持論だ。
理由は銃は直線で区切られた場所で戦うのに進化した武器だから、だそうだ。
「それに、音がして気にするような獣はここにはいないからな」
持論を頭の中で思い起こしつつスライムに聴覚があるのは不明だが、と口中で付け加える。
「しっかし厄介そうな相手だねー。数の詳細が分からないってーと隅々までしらみつぶしに探索して討ち漏らしに注意かねー」
武神 守悟(ka3517)がのんびりとした口調でそう語る。
それなりに広い施設、依頼人も調査団も雑魔に遭遇したのは地下室だったそうだが他の場所に潜んでいる可能性も否定はできない。
「まーそれにしても溶かしてくる能力持ち、かー……こういうもんは薄い本だけの存在でいて欲しいんだがなー……しかし、服が溶ける、溶けるか……」
守悟が目を向けたのは女性陣――ではなくレイスとアーヴィンだった。
二人に気づかれる前に視線を移しながら心の内でこっそりと見たいとも思われていることに該当者は気づかない。
きっと気づかない方がお互いにとって幸いだろう、この場合。
幼馴染であり数か月だけだったが妻として共に過ごした最愛の人を看取って以来、妻以外の女性は愛さないと誓い同性愛者となったというのが守悟の過去のひとつであるため彼の目が悪いわけでも、目を向けた先にレイスとアーヴィンが立ちふさがっていて障害となっていたわけでもない。
「不定形の雑魔ですか……緊張しますが他のハンターの皆さんがどういう戦い方や立ち回りをするのか知りたいし、学びたいですし……できる限りで、頑張ります!」
マリアン・ベヘーリト(ka3683)は初めての依頼に緊張しつつ仲間と共に廃棄された研究施設を見上げる。
ライトを腰のベルトに括りつけて、明かりの供給が不安定な施設に足を踏み入れる前に点灯させる鹿島 雲雀(ka3706)はライトがきちんと固定されているかをもう一度確かめる。
「落ちたら困るからな。しっかりと括っておかねーと」
全員が建物に入る前にレイスが足音を忍ばせて先行して近づき、内部の音を聞き取り敵の位置を探ろうとするがとりあえず入り口付近から敵の発する音は聞こえてこない。
合流後、改めて雲雀の他にも光源を持参したメンバーと共に建物へ侵入。
とりあえず探索に不自由のない光量を得たものの研究所内は外観同様不気味な様相をしており雲雀は若干眉を寄せた。
「なんつーか……いかにもなんか出ますって感じの場所だな。よくもまぁ、護衛なしで来る気になったもんだ」
地下室を含めて三階建ての施設を上から順にしらみ潰しに見ていくことに決め、慎重に索敵を行いながら建物の見取り図を参考に歩いていく八人。
二階と一階には敵の姿はなく、事前情報どおり地下に雑魔がいると判断すると地下室の扉の前に他メンバーに待機していてもらいレイスが再び同じ手順で先行する。
扉は通路を挟んで二枚仕立てになっており、二枚目の扉の向こうからうめき声に似た声が聞こえてきたことを確認すると足音を忍ばせて仲間たちのもとへ戻った。
合図に合わせて潜入、五体のスライム状の雑魔を確認すると一番手近な場所にいた敵にレイスが瞬脚で肉薄、間合いを詰めて抑え役に回る。
「粘体型か。槍が通じるかは分からんが――バラバラにしてしまえば倒せるか?」
その間にCharlotteが前衛に自身のマテリアルをエネルギーとして流入させることで防御力を高める防性強化をかけ、近づいてきた崩れた人型を取る雑魔に向かって雷撃を放った。
魔力を帯びた雷撃は雑魔の動きを止めることに成功したようで、麻痺したのか停止する雑魔に向かって篝が後方から攻撃の瞬間に強くマテリアルを籠めることで威力を瞬間的に高めた銃弾をオートマチックの拳銃から放った。
「……頭上にもいたりしないよね……べったりと張り付いてたら、ヤだなあ……」
銃弾を撃ち込んだ後、他の雑魔が近づいてくる前に一応天井を確認する篝。
アーヴィンは銃を頭上に掲げ、仲間の頭越しに射撃を行っている。
リアルブルーで作られた、威力を重視した大口径のライフルは性能は高いが扱いは難しいと言われている。
しかしエルフの血筋のためか弓の扱いには天性のものがあり、かつ銃にも忌避感がなく射手として十分以上に有能なアーヴィンにとっては扱いに困る武器ではない。
崩れかけた人型を取っているとはいえ元はスライム状、形に囚われると思わぬ奇襲を受けることも十分にあり得ると回避行動を取りながらナルは慎重に相手の動きを見定める。
瞬脚やマルチステップで回避しながら銃撃班があまり軌道を変えずに撃てるようにと誘導し、自分からはあまり攻撃を仕掛けない。
仲間に絡みつく雑魔や包み込んでくる雑魔がいないか、面倒な効果を持っているため注意もしつつ巧みな体さばきで敵を翻弄していくナル。
守悟は全長五センチ、月を二つ重ねたような形状の手裏剣を雑魔の足に向かって投擲する。
他のメンバーの攻撃にあわせて放たれた一撃は雑魔の足を損傷させ、バランスを取ろうとするように足に他の部分の粘体が移動を始めるのを見て弱点だと判断し、他の仲間にもそれを伝えた。
足に集中攻撃を受けた雑魔の一体の体力をダメージが上回ったのか、どろりと広がった後でわずかに粘った膜の残滓を残し消え失せる。
レイスが抑えに回っていた一体もそれに前後してバラバラにちぎれ、再生しきれなくなったらしく消失した。
他の一体にレイスがランアウトで再び肉薄し、マリアンは自身に一番近い位置にいた雑魔に向かってホーリーライトを放つ。
輝く光の弾が雑魔に向かって飛び、衝撃によって雑魔が飛び散った。
蠢きながら再び一つの個体に戻ろうとする雑魔に銃弾や手裏剣が降り注ぐように着弾する。
作戦立案中、スライムという形状である分、ホーリーライトの方が多少は普通の物理攻撃よりは有効かもしれない、という意見が出たのでマリアンは外さないように狙いを定めて一撃一撃を慎重に当てていく方針だ。
緑色の柄と白い刀身を持つ、細身のレイピアを手にした雲雀は飛び散った分裂体のひとつを更に細切れにするように切り裂いていく。
物理攻撃でも体積をひたすら減らしていけば再生能力が追い付かず消失することは実証されているから分裂体になっている今は挟撃されないように注意すれば好機と言えた。
蠕動しながら集合しようとするスライム状の雑魔のうめき声に似た鳴き声と動き方から思わず全員が多少は思ったことを代弁するように叫びながらレイピアを突き立てる雲雀。
思ったこと、すなわち。
「ほんっとに気味が悪いっつーか面倒な奴らだな!?」
立て続けに襲ってくる攻撃に個に戻ることを諦めたのか分裂体がレイピアが突き立てられるタイミングを狙ったように逆に飛びかかって雲雀の腕に絡みつく。
利き手でなかったことを幸いとばかりに即座に斬り捨てたが服の一部は溶け、皮膚に軽い火傷を負ったときのようなピリピリとした痛みが走る。
「えげつねぇんだよ、テメェ等!」
ゴーグルをつけているとは顔面に纏わりつかれる時間が長かった場合窒息すると想定して思わずといったように舌打ちが漏れた。
腕の火傷と服の報復と言わんばかりにレイピアを扱って更に細切れにすれば三体目も持久力が尽きたのか床にしみいるようにして消えていく。
「……これ、実は地中に潜んでて研究所が再利用されたころに体力取り戻して戻ってくるとかいうオチじゃねぇだろうな……」
石造りの床は一面隙間のない造りで実際にしみ込むのはおそらく不可能だが思わずそんな不安が頭をもたげるのは相手が不定形だからだろう。
「あぁ、本当に厄介な連中だぜ……」
マリアンがレイスが相手取っているのとは別の、集中攻撃を行う相手としては恐らく最後になる相手を先ほどと同じように狙いを定めてホーリーライトで分裂状態に追い込み、守悟が手裏剣からワイヤーウィップに武器を持ち替えて分裂体のひとつを相手取る。
特殊強化鋼を用いて作られた鋼線を編んで一本のワイヤーにしたその武器は、柄に組み込まれた特殊モーターを起動すると同時に触れた雑魔の一部を切り裂いた。
別の分裂体に回避行動を一時的にやめたナルが風の精霊の加護を受けた、銀製の銃身を持つ風属性の魔導拳銃で銃弾を撃ち込んだ。
加護をもたらす風の精霊の力は弾丸を包み、気流を纏った高速の弾丸は分裂体をさらに小さく分断した。
「弱るのは有難いが小さくなると銃撃しにくくなるのが何ともな。まぁ、見逃してやる気は毛頭ないが」
アーヴィンが軽く口の端をあげて皮肉でもいうように呟いたあと一見無造作にすら見える撃ち方で雑魔を狙う。
しかし造作に反して正確にターゲットを捕捉していた銃口は威力の高い一撃を雑魔にお見舞いしたのだった。
Charlotteがその一撃でまた分裂を行った一体めがけてエレクトリックショックを放てばそれが止めとなり一帯に散らばっていた雑魔が霧散する。
篝が援護のためにレイスの抑えていた最後の一体に銃弾を放てばどうやら限界を迎えたらしい雑魔が飛散しながら消えていき、討伐は終了した。
終了はした、のだが。
「……これ、掃除するのも仕事なのかしら」
持ち込んだ水を使って頭や顔に残る感触を払拭するように拭きながら篝が呟く。
殆ど残滓は残らなかったが床を中心に這いずりまわったような跡は残っていた。
心なしか粘性があるような気がするそれの処理を一般人に任せてもし雑魔が復活しても事だし、できるだけ汚さないように討伐してほしい、という依頼人からの要請もある。
多少なりとも片づけて帰ろう、とマリアンが提案したことと他何人かが同意したことが後押しとなって索敵中見つけた水道で汲んだ水とモップやブラシの類を使って地下室の掃除を終え、雑魔の痕跡を完全に消し去った後、戦闘とは別の疲労感を感じつつ八人は研究施設を後にした。
この施設が新たな主人を迎え、研究を行うようになるまでしばらくの間、また静かな時が流れるのだろう。
覚醒者たちとしてはせっかく掃除までしたのだから『雑魔が出た場所は嫌だからやはり別の場所で研究を』ということにならずに済めばいい、と思う程度には汚れていた地下室は銃痕などは流石にどうにもならなかったが綺麗に掃除され、新たな住民を待つのだった。
帝国領の一角にある放棄された施設が再利用されようと雑用係を迎えたのをきっかけに、いつ発生したのかも知られないままそこに存在していた雑魔は発見された。
当然ながら討伐依頼が出され、しかし依頼人が遭遇と同時に逃げ出したため正確な個体数も能力の詳細も不明という実に曖昧な情報しかなかったため、一度調査団がハンターオフィスから向けられた。
その結果数は合体・分離することもある不定形であったため確定させることはできなかったが衣類を溶解させる能力と、じかに触れた肌に経過時間が多くなるにつれ酷くなる火傷のような症状を引き起こす能力があることが判明した。
Charlotte・V・K(ka0468)はそれを踏まえて替えのコートを持参している。
「廃棄された施設や下水というのは、やはり負のマテリアルに汚染されやすいのかね。
それとも単に人が立ち寄らないから気づかれないだけか……まぁ、害虫は駆除しなければねぇ……」
「野良雑魔、というより新しく沸いたやつか。よもや変なものから生まれたのではないだろうな……なんの研究所なのやら。
まぁいい。依頼は果たさないとな」
その言葉を受けてレイス(ka1541)が自然発生したのではなく研究対象がもともと変なものだったのではないだろうか、という研究所という場所柄可能性を否定できないのが怖いところもある一言を漏らす。
「放棄した研究施設に現れた雑魔、ねぇ。
何を研究してたか知らないけど雑魔に変な影響を与えてないことを祈るわ。
ま、再利用するみたいだし取りこぼしのないようにしっかりとこなしましょ」
ナル(ka3448)もレイスと同意見のようで研究所が雑魔に影響を与えるような遺留物などを残していたことを懸念している。
「……正直、ちょっと後悔してる」
金欠から今回の依頼に飛びついたもののレイスたちの言葉と、地下からうめき声に似た雑魔の鳴き声がするということ、溶け崩れかけた人型の姿を取っているということ。
ついでに言えば廃棄された研究施設は掃除の手配など人を迎える準備をする前に客人を逃がしたので、廃墟そのものの景観で『いかにも』といった気配を漂わせている八原 篝(ka3104)にそんな弱気なセリフを吐き出させる。
一方アーヴィン(ka3383)はそんな雰囲気にも物怖じすることなく、さっさと済ませて街に戻り女性を口説く時間を増やしたいとばかりに面倒そうに口を開いた。
「どうせ一から掃除して荷物も入れ替えるんだ。少々派手にやっても構いやしないだろ?」
森には森の、街には町のルールがあり、森では弓を使うが街中では銃のほうがいいというのが彼の持論だ。
理由は銃は直線で区切られた場所で戦うのに進化した武器だから、だそうだ。
「それに、音がして気にするような獣はここにはいないからな」
持論を頭の中で思い起こしつつスライムに聴覚があるのは不明だが、と口中で付け加える。
「しっかし厄介そうな相手だねー。数の詳細が分からないってーと隅々までしらみつぶしに探索して討ち漏らしに注意かねー」
武神 守悟(ka3517)がのんびりとした口調でそう語る。
それなりに広い施設、依頼人も調査団も雑魔に遭遇したのは地下室だったそうだが他の場所に潜んでいる可能性も否定はできない。
「まーそれにしても溶かしてくる能力持ち、かー……こういうもんは薄い本だけの存在でいて欲しいんだがなー……しかし、服が溶ける、溶けるか……」
守悟が目を向けたのは女性陣――ではなくレイスとアーヴィンだった。
二人に気づかれる前に視線を移しながら心の内でこっそりと見たいとも思われていることに該当者は気づかない。
きっと気づかない方がお互いにとって幸いだろう、この場合。
幼馴染であり数か月だけだったが妻として共に過ごした最愛の人を看取って以来、妻以外の女性は愛さないと誓い同性愛者となったというのが守悟の過去のひとつであるため彼の目が悪いわけでも、目を向けた先にレイスとアーヴィンが立ちふさがっていて障害となっていたわけでもない。
「不定形の雑魔ですか……緊張しますが他のハンターの皆さんがどういう戦い方や立ち回りをするのか知りたいし、学びたいですし……できる限りで、頑張ります!」
マリアン・ベヘーリト(ka3683)は初めての依頼に緊張しつつ仲間と共に廃棄された研究施設を見上げる。
ライトを腰のベルトに括りつけて、明かりの供給が不安定な施設に足を踏み入れる前に点灯させる鹿島 雲雀(ka3706)はライトがきちんと固定されているかをもう一度確かめる。
「落ちたら困るからな。しっかりと括っておかねーと」
全員が建物に入る前にレイスが足音を忍ばせて先行して近づき、内部の音を聞き取り敵の位置を探ろうとするがとりあえず入り口付近から敵の発する音は聞こえてこない。
合流後、改めて雲雀の他にも光源を持参したメンバーと共に建物へ侵入。
とりあえず探索に不自由のない光量を得たものの研究所内は外観同様不気味な様相をしており雲雀は若干眉を寄せた。
「なんつーか……いかにもなんか出ますって感じの場所だな。よくもまぁ、護衛なしで来る気になったもんだ」
地下室を含めて三階建ての施設を上から順にしらみ潰しに見ていくことに決め、慎重に索敵を行いながら建物の見取り図を参考に歩いていく八人。
二階と一階には敵の姿はなく、事前情報どおり地下に雑魔がいると判断すると地下室の扉の前に他メンバーに待機していてもらいレイスが再び同じ手順で先行する。
扉は通路を挟んで二枚仕立てになっており、二枚目の扉の向こうからうめき声に似た声が聞こえてきたことを確認すると足音を忍ばせて仲間たちのもとへ戻った。
合図に合わせて潜入、五体のスライム状の雑魔を確認すると一番手近な場所にいた敵にレイスが瞬脚で肉薄、間合いを詰めて抑え役に回る。
「粘体型か。槍が通じるかは分からんが――バラバラにしてしまえば倒せるか?」
その間にCharlotteが前衛に自身のマテリアルをエネルギーとして流入させることで防御力を高める防性強化をかけ、近づいてきた崩れた人型を取る雑魔に向かって雷撃を放った。
魔力を帯びた雷撃は雑魔の動きを止めることに成功したようで、麻痺したのか停止する雑魔に向かって篝が後方から攻撃の瞬間に強くマテリアルを籠めることで威力を瞬間的に高めた銃弾をオートマチックの拳銃から放った。
「……頭上にもいたりしないよね……べったりと張り付いてたら、ヤだなあ……」
銃弾を撃ち込んだ後、他の雑魔が近づいてくる前に一応天井を確認する篝。
アーヴィンは銃を頭上に掲げ、仲間の頭越しに射撃を行っている。
リアルブルーで作られた、威力を重視した大口径のライフルは性能は高いが扱いは難しいと言われている。
しかしエルフの血筋のためか弓の扱いには天性のものがあり、かつ銃にも忌避感がなく射手として十分以上に有能なアーヴィンにとっては扱いに困る武器ではない。
崩れかけた人型を取っているとはいえ元はスライム状、形に囚われると思わぬ奇襲を受けることも十分にあり得ると回避行動を取りながらナルは慎重に相手の動きを見定める。
瞬脚やマルチステップで回避しながら銃撃班があまり軌道を変えずに撃てるようにと誘導し、自分からはあまり攻撃を仕掛けない。
仲間に絡みつく雑魔や包み込んでくる雑魔がいないか、面倒な効果を持っているため注意もしつつ巧みな体さばきで敵を翻弄していくナル。
守悟は全長五センチ、月を二つ重ねたような形状の手裏剣を雑魔の足に向かって投擲する。
他のメンバーの攻撃にあわせて放たれた一撃は雑魔の足を損傷させ、バランスを取ろうとするように足に他の部分の粘体が移動を始めるのを見て弱点だと判断し、他の仲間にもそれを伝えた。
足に集中攻撃を受けた雑魔の一体の体力をダメージが上回ったのか、どろりと広がった後でわずかに粘った膜の残滓を残し消え失せる。
レイスが抑えに回っていた一体もそれに前後してバラバラにちぎれ、再生しきれなくなったらしく消失した。
他の一体にレイスがランアウトで再び肉薄し、マリアンは自身に一番近い位置にいた雑魔に向かってホーリーライトを放つ。
輝く光の弾が雑魔に向かって飛び、衝撃によって雑魔が飛び散った。
蠢きながら再び一つの個体に戻ろうとする雑魔に銃弾や手裏剣が降り注ぐように着弾する。
作戦立案中、スライムという形状である分、ホーリーライトの方が多少は普通の物理攻撃よりは有効かもしれない、という意見が出たのでマリアンは外さないように狙いを定めて一撃一撃を慎重に当てていく方針だ。
緑色の柄と白い刀身を持つ、細身のレイピアを手にした雲雀は飛び散った分裂体のひとつを更に細切れにするように切り裂いていく。
物理攻撃でも体積をひたすら減らしていけば再生能力が追い付かず消失することは実証されているから分裂体になっている今は挟撃されないように注意すれば好機と言えた。
蠕動しながら集合しようとするスライム状の雑魔のうめき声に似た鳴き声と動き方から思わず全員が多少は思ったことを代弁するように叫びながらレイピアを突き立てる雲雀。
思ったこと、すなわち。
「ほんっとに気味が悪いっつーか面倒な奴らだな!?」
立て続けに襲ってくる攻撃に個に戻ることを諦めたのか分裂体がレイピアが突き立てられるタイミングを狙ったように逆に飛びかかって雲雀の腕に絡みつく。
利き手でなかったことを幸いとばかりに即座に斬り捨てたが服の一部は溶け、皮膚に軽い火傷を負ったときのようなピリピリとした痛みが走る。
「えげつねぇんだよ、テメェ等!」
ゴーグルをつけているとは顔面に纏わりつかれる時間が長かった場合窒息すると想定して思わずといったように舌打ちが漏れた。
腕の火傷と服の報復と言わんばかりにレイピアを扱って更に細切れにすれば三体目も持久力が尽きたのか床にしみいるようにして消えていく。
「……これ、実は地中に潜んでて研究所が再利用されたころに体力取り戻して戻ってくるとかいうオチじゃねぇだろうな……」
石造りの床は一面隙間のない造りで実際にしみ込むのはおそらく不可能だが思わずそんな不安が頭をもたげるのは相手が不定形だからだろう。
「あぁ、本当に厄介な連中だぜ……」
マリアンがレイスが相手取っているのとは別の、集中攻撃を行う相手としては恐らく最後になる相手を先ほどと同じように狙いを定めてホーリーライトで分裂状態に追い込み、守悟が手裏剣からワイヤーウィップに武器を持ち替えて分裂体のひとつを相手取る。
特殊強化鋼を用いて作られた鋼線を編んで一本のワイヤーにしたその武器は、柄に組み込まれた特殊モーターを起動すると同時に触れた雑魔の一部を切り裂いた。
別の分裂体に回避行動を一時的にやめたナルが風の精霊の加護を受けた、銀製の銃身を持つ風属性の魔導拳銃で銃弾を撃ち込んだ。
加護をもたらす風の精霊の力は弾丸を包み、気流を纏った高速の弾丸は分裂体をさらに小さく分断した。
「弱るのは有難いが小さくなると銃撃しにくくなるのが何ともな。まぁ、見逃してやる気は毛頭ないが」
アーヴィンが軽く口の端をあげて皮肉でもいうように呟いたあと一見無造作にすら見える撃ち方で雑魔を狙う。
しかし造作に反して正確にターゲットを捕捉していた銃口は威力の高い一撃を雑魔にお見舞いしたのだった。
Charlotteがその一撃でまた分裂を行った一体めがけてエレクトリックショックを放てばそれが止めとなり一帯に散らばっていた雑魔が霧散する。
篝が援護のためにレイスの抑えていた最後の一体に銃弾を放てばどうやら限界を迎えたらしい雑魔が飛散しながら消えていき、討伐は終了した。
終了はした、のだが。
「……これ、掃除するのも仕事なのかしら」
持ち込んだ水を使って頭や顔に残る感触を払拭するように拭きながら篝が呟く。
殆ど残滓は残らなかったが床を中心に這いずりまわったような跡は残っていた。
心なしか粘性があるような気がするそれの処理を一般人に任せてもし雑魔が復活しても事だし、できるだけ汚さないように討伐してほしい、という依頼人からの要請もある。
多少なりとも片づけて帰ろう、とマリアンが提案したことと他何人かが同意したことが後押しとなって索敵中見つけた水道で汲んだ水とモップやブラシの類を使って地下室の掃除を終え、雑魔の痕跡を完全に消し去った後、戦闘とは別の疲労感を感じつつ八人は研究施設を後にした。
この施設が新たな主人を迎え、研究を行うようになるまでしばらくの間、また静かな時が流れるのだろう。
覚醒者たちとしてはせっかく掃除までしたのだから『雑魔が出た場所は嫌だからやはり別の場所で研究を』ということにならずに済めばいい、と思う程度には汚れていた地下室は銃痕などは流石にどうにもならなかったが綺麗に掃除され、新たな住民を待つのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 4人 |
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MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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![]() |
相談卓 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/12/22 01:35:32 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/12/19 00:36:36 |