• 空蒼

【空蒼】背後にきらめく凶刃

マスター:紫月紫織

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/06/26 12:00
完成日
2018/07/08 01:06

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●ぼやき
「なんでこんなことになっちまったのかねぇ……」
 強化人間として小隊一つを率いていた神座御純一は、そんなぼやきを吐き出しながら背後に迫る者たち相手に牽制を続けていた。
「この距離でスナイパーライフルは当たんねえなやっぱ」
 ピンと引き抜いた炸裂衝撃手榴弾を放り投げ、木の陰に身を潜める。
 ずしんと重い衝撃音が響き渡ってしばし。
 再び聞こえだす銃撃音に、純一は舌打ちした。

●昨日の友は――
 事の発端は都市部からほど近い山中に歪虚の一団が発見されたことに始まる。
 小隊一つでは荷が重いと判断され、三つの小隊が投入され、排除作戦が決行されたまでは良かったのだ。
 だが、主戦力であった第一小隊ノアが歪虚との交戦中に交信が途絶えた。
 それを受けノアを補助する予定だった第二小隊ルナが前進、歪虚を沈黙させた。
 任務は完了し、サポートに回っていた純一の部隊、ヘキサが本部への連絡を行ったところ、しばらくの沈黙の後に、ノアの人員を回収して撤退せよとの指示が下る。
 特に判断を受けるほどでもない妥当な展開は、ここから突如として崩れることと成る。
「こちらルナ! 攻撃を受けた、援護を頼む!」
「まだ歪虚が残ってたのか!?」
「違う! 歪虚じゃない、こいつらは……」
 通信の途切れた箱はノイズだけを吐き出し続けている。
 何を言いかけたんだ?
 純一が考えを巡らせる中、部下から声が上がる。
「純一隊長! 第二小隊が……!」
「なんだ! なにか見えたか!?」
 スナイパーライフルを構えた部下の動揺する声に、単眼鏡を構えた純一は、彼の視線の先に居たものに気づいて戦慄する。
「あいつは……ノアの小隊長?!」
 連絡が途絶えていたはずの第一小隊員は血まみれのブレードを手に獲物を探すように周囲を伺っている。
 その周辺にはルナの隊員たちが、細切れになって転がっていた。
 ぎろりと、高倍率の単眼鏡ごしに視線が交錯する。

 ――まずい!

 そう思って純一が反応する前に、ノアの小隊長の姿が単眼鏡の視界から消え失せた。
 思考の猶予はない状態で、それでも何が最善手かを考える。
(あの様子、話に聞く強化人間の暴走か? だとしたら俺たちも追撃を受ける可能性がある。街の中に逃げ込めば被害が増えるか……となると惹きつけて山林の中を逃げ回るしか無いか)
「本部! こちら第三小隊ヘキサ小隊長、神座御純一だ! 第一小隊ノアが暴走したと思われる! 第二小隊ルナがノアの襲撃を受けて壊滅した、当小隊はこれよりノアをひきつけ山林の奥に入る! 救援要請求む!」
『委細了解した、クリムゾンウェストへの支援要請を出せ! ……ヘキサの武運を祈る!』
 通信が終わった中、部下の視線を受け止めて純一はスナイパーライフルを構える。
「聞いてのとおりだ、第一小隊の連中が暴走した。このまま撤退すると被害が拡大する恐れがある。クリムゾンウェストからの援軍が到着するまで、山林で楽しい楽しい鬼ごっこだ!」
 無茶な決定ではある。
 第一小隊は歪虚との直接戦闘のため極めて高い火力を装備した隊で、近接戦闘寄りの装備を纏っている。
 対して純一の率いる第三小隊は遠距離からのサポートのためスナイパーライフルを中心とした装備である。
 接敵すれば分が悪いどころの話ではなかった。
 その状況は部下も皆わかっている、それでも文句を言う者は一人も居なかった。
 純一が集めた隊員達はみな、理由はどうあれ歪虚から、理不尽な力から人を守りたいと願った人員で構成されている。
 己の身かわいさに被害の拡大など、許すはずもない。
「良い顔だ。殿は俺が務める、走れ!」

●エマージェンシーコール
 ミモザとの買い出しの帰りに、ちょっとエリクシアを冷やかしていきましょうと、シルヴァはハンターオフィスへと足を運んでいた。
 そろそろ休憩の頃合いに、茶菓子を差し入れに行くというのが目的だったのだが、オフィスに訪れた二人を出迎えたのは、けたたましいベルの音と慌てた様子のエリクシアだった。
「シルヴァ!? それにミモザちゃんも、ちょうど良かったわ!」
「……タイミングが悪かったのはよくわかった。状況は?」
「え? え?」
 察した様子のシルヴァに、状況を把握できないミモザ。
 そんなミモザの頭をぽんぽんとなでて、シルヴァはエリクシアに説明するように促す。
「リアルブルーから緊急の救援要請が入りました。現在転移門を準備中です。歪虚を討伐に出ていた小隊が暴走し友軍を攻撃中、地球統一連合からの依頼は暴走した部隊の拿捕、並びに友軍の救助」
「強化人間の暴走、か……話には聞いていたけど」
 ふぅむ、と考え込むシルヴァの隣で、ミモザが慌てふためく。
「は、はやく助けに行かないと!」
「落ち着きなさいミモザ、最低限の人員と転移門の準備ができるまでは時間があるわ。エリクシア、暴走した部隊と救助する部隊の情報は?」
「暴走したとされる第一小隊は二十名からなる部隊で、近距離~中距離戦闘に特化した武装をしていたそうです。特に隊長格は該当地区の強化人間の中では腕の立つ人物だったそうで……対して攻撃を受けているのは第三小隊、神座御純一隊長が率いる支援部隊。こちらは長距離火器を装備した小隊とのことです」
「じゅ、純一おにーちゃんが?」
「列車のとき以来だったかしらね……やれやれだわ」

リプレイ本文

●友軍到着
 立て続けに銃声がこだまする中、純一たちはよく時間を稼いだ。
 たとえその結果が、追いつかれ乱戦の中で切り刻まれる有様になったとしても、だ。
 ノアの隊長の凶刃を受け流していた純一の刀が根本から折れて宙を舞う。
 続けざまに振り上げられた軍用ブレード、凌ぐ手段がない中で見開かれた目に、突如として現れた人影が身を翻す。
 ブレードが火花と共に弾ける、グラディウスを振るいブレードを受け流したその姿に、純一は見覚えがあった。
「……シルヴァ?」
「旧交を温めるには少々難儀な状況よねぇ」
 言って右手の符を散らすシルヴァ、警戒の素振りを見せたノアの隊長は、背後から忍び寄るヒース・R・ウォーカー(ka0145)の姿に気づけなかった。
 ヒースの繰り出す槍の一撃と共に迸る電光がノアの隊長を焼く。
 だが、流石に一撃での制圧とはならず、ノアの隊長は獣のような唸り声とともに振り向き、ヒースの位置を詳細に把握しないままアサルトライフルの引き金を引いた。
 すかさず飛び退ったヒースの板場所を弾丸が次々と穿っていく。
「純一さん、無事ですか!?」
「純一おにーちゃん大丈夫!?」
 彼のそばに居たノアの隊員相手に、アシェ-ル(ka2983)のガントレットとミモザ(kz0227)の剣が繰り出される。
 どこかためらいがちな両者のその攻撃は空を切るが、結果として相手が下がったことで距離が生まれ乱戦状態が次第に偏りだす。
「……来てくれたのか! 黒の腕章の奴らを抑えてくれ! ヘキサの隊員に告ぐ、こいつらは友軍だ、誤射すんなよ!」
 そもそもこの乱戦ではまともに攻撃に回ることも難しいのだが、純一は部下にそう支持を叫ぶ。
 友軍と聞いて、すでに諦めかけていた部下たちにもかすかな希望が芽生え始めていた。
 覚醒者、それは彼らにとって憧れの英雄譚の主人公のようなものだ。
「ここは私達に任せてください!」
 この状況下で、アシェールが優先したのは第三小隊の救助だった。
 胸に手をあて、そのマテリアルを強く溢れさせていく、それは温かい光となって周囲の人々に優しく降り注いだ。
 生かさず殺さず、そんなふうに体中を切りつけられていた隊員たちが、またたくまに癒やされてゆく。
 後に、桃色の聖女だったと第三小隊の隊員は証言している。
 そんなアシェールの行動は、敵にとっては厄介なものであり、更に二人の黒の腕章がそれを妨害するべく襲いかかる。
「純一おにーちゃん、これ使って!」
「サンキュー!」
 武器を失った純一に、ミモザが自分の剣を投げ、鞘に納めていた新たな剣を抜き放つ。
 二人が前に出て黒の腕章をそれぞれ抑える、その傍らでは、ヒースとシルヴァが大立ち回りを演じていた。
 入り混じっていた戦線は、着実に戦線が構築されつつある。

 ヒース達からやや離れた場所に出現したステラ=ライムライト(ka5122)とウィーダ・セリューザ(ka6076)は第一小隊の数名をひきつけながら下がるように動いていた。
 ウィーダが第三小隊の隊員を連れて距離を取る、その想定であったが、どちらも歪虚相手とは異なる条件に動きが鈍っている様子だった。
 それでも、明らかな経験の差はステラたちに有利に働いていた。
「大人しくしててもらわないとだから、ちょっと痛いかもだけど……!!」
 進路に立ちはだかる一人をめがけて、獲物を逆刃に構え奔らせる。
 確かな手応えを前に隊員が崩れ落ちる。
 殺しては居ない、という確信がステラにはあった。
 正念場はまだ先であるが、その時のために今の感触を忘れないようにと必死に感覚を研ぎ澄ませる。
 ステラが文字通り切り開いた包囲のほころびから、ウィーダが飛び出し駆け抜けていく。
 追撃するようにノア隊員のアサルトライフルから吐き出された弾が彼女を追うが、それを剣を閃かせて弾きながら、なおも距離を取る。
 やがて突き抜けた包囲、障害物を飛び越えるべく高く跳躍したその視界に、黒の腕章が一人。
「捉えた!」
 空中で姿勢を制御するウィーダの手に持つ剣がその魔導機構を展開する。
 限界まで引き絞られた弓から放たれた矢は、ブレードを持つ隊員の足を地面へと縫い付けた。
 ウィーダはそのまま第三小隊の隊員たちの前へと着地し声を上げる。
「さあ、距離を取って支援射撃を開始するぞ!」
 敵陣の中を駆け抜けさっそうと現れた友軍に鼓舞されて、追い詰められていた彼らの士気が蘇り始めた。

「早くさがれ! 前衛は俺たちに任せろ!」
 ガントレットを構えアサルトライフルの弾から背後にいる第三小隊の隊員をカバーしつつ、グリムバルド・グリーンウッド(ka4409)は状況を把握するべく全体に視線を巡らせる。
 初期の位置がよかったのか、ノアの隊長はヒースとシルヴァがうまく抑え込んでいる。
 最初乱戦だった状態は少し偏りが生まれ、牽制程度では在るが第三小隊からの援護射撃も起きつつ在る。
 近場に居た面々に修祓陣を使い状況を固めながら確実に状況を詰めていく。
 弾が弾かれると理解してか、ブレードを取り出した隊員が襲いかかってくるのを身をひねり躱し、カウンターのように生の拳をお見舞いする。
 派手に転倒し転げこそしたものの、すぐに起き上がり再び襲ってくる、その様子。
(スキル使って殴っても大丈夫そうだな……)
「んじゃまぁ、おねんねしててくれ!」
 再びめり込んだ拳から、雷が落ちたような放電が起きる。
 がくんと対象が力なく崩れるのを確認して、次の相手へと移る。
 グリムバルドとは第三小隊を数人挟んで反対側で、リラ(ka5679)はブレードを持って執拗に緑の腕章を狙う隊員を捉えようとしていた。
 間に身を割り込ませても、なぜか標的を変えようとしない。
 単に弱いものを狙っているだけなのだが、それをリラが知るところではなかった。
「いい加減に……」
 一瞬、視線が交錯した。
 その瞬間、がくんと黒い腕章の動きが止まる。
「そう……私の瞳を見て……」
 じり、と距離を詰めるリラから視線をそらせず、黒の腕章の隊員はブレードを振り上げて一気に距離を詰める。
 だが――格闘士であるリラにとって見ればそんな距離の詰め方では話にもならない。
 なまじ勢いをつけた接近はリラの投げ技の威力を増大させるに過ぎなかった。
 竜巻のように空中をぐるりと巡るように二転三転され、そのまま大地に叩きつけられた相手は、相応のダメージを受けながらもまだ意識を保ち戒めをほどこうと暴れまわる。
「ごめんなさい。しばらく寝ていて」
 ぐん、と振り上げられた拳が強いマテリアルを放つ。
 殺さないよう手加減されていてなお、必殺の威力を持ってしまうであろうその一撃をその腹に叩き込むと、ずんと森の中が振動した。
 バタリと動きが止まった隊員が、浅く呼吸しているのを確認してリラは一瞬だけ安堵し、次の拿捕対象へと目標を定めた。

 状況は二転三転し、けれども終始ハンターたちにとって良い方向に進んでいた。
 すでに半数程は拿捕されて、グリムバルドの支持によって第三小隊の面々によって縛り上げられている。
 今の所、拿捕された隊員はいずれも目覚める様子はなかった。
 次第に状況は狭まっていく中で、ステラを中心として戦いの輪を、それぞれが狭めるように動いていく。
 グリムバルドへとブレードで斬りかかったものは大きく弾かれてステラの方へと吹き飛ばされる。
 リラが外部に行こうとするものを捕まえて投げ返し、ウィーダの一時的な指揮のもとヘキサの隊員と共に行う制圧射撃は、確実に包囲の輪を狭めてゆく。
「左側をもう少し追い込んでくれ!」
 ウィーダの支持に合わせてスナイパーライフルが火を噴く。狙われていることを知った対象が動きを迷った一瞬へウィーダは狙いを定めた。
 放たれた矢は風を切り裂き狙いを寸分違わず撃ち抜く。
 その直後から、対象のアサルトライフルが動作不良を起こしたのか反応を見せなくなる。
 どうやら上手くいったようだ。
 じわりと、更に包囲が狭まる。
 その包囲の中には未だアシェールとグリムバルド、純一が残されていた。
 打って大丈夫かというステラの不安。
「避けてみせます!私ごと打って下さい!」
 ネビロスの操糸で隊員一人を拘束していたアシェールが、ステラに向けて叫ぶ。
 グリムバルドも純一のフォローをするためにその距離を詰めているところだった。
「……そこは私の間合い!!いっけぇ!」
 覚悟を決めたステラの合図に、全員がタイミングを合わせる。
 グリムバルドが純一の腕を掴んで空高く舞う、純一は一瞬何が起きたのかわからない様子だったが、何らかのフォローをされたのだとすぐに理解し姿勢を整える。
 どうか上手く行って、というステラの祈りと共に、空間が歪む。
 ステラを中心として、射程内にいた黒い腕章、五人がまとめて引き裂かれて一斉に崩れ落ちたのは一瞬先の出来事であった。

 残るは隊長のみという状況になり、いくつもの斬撃がただひたすらに打ち合う状況が続いていた。
「言葉が届くか分からないけど言っておく。お前が止まらなければ、ボクはお前を殺す。この手はもう、お前たちの血で濡れているからねぇ」
 ヒースの言葉にも、ノアの隊長はこれといった反応を見せない。
 ただその血走った眼で睨みつけ、荒々しくブレードを振り回すばかりである。
 打ち合い続ける二人、シルヴァがその動きを変え、大振りな一撃を多く繰り出すようになったのに気づき、ヒースは次第に自身の攻撃を控える。
 暴走した隊員が何をどう判断しているかはわからない、だが次第に攻撃の薄まった対象と、大きく隙を見せる対象なら、そちらを優先するらしい。
 ノアの隊長の意識がシルヴァに移ったことを確認して、ヒースが空に溶ける。
 それを確認したシルヴァが頃合いを見計らって符を散らす、地面が蠢きノアの隊長を拘束するまでは一瞬だった。
 そのまま追う姿勢だったために崩れた態勢に、頭上から降ったヒースが槍を突き立てる。
「だからお前を止める為にボクはこの身の全てを賭けよう」
 完全に密着した状態からの、二度目の紫電が迸り、ついぞノアの隊長は地に伏した。

●これは終わりか、始まりか
 意識を失っている隊員のなかでも、傷の重いものをトリアージしてステラは手持ちのポーションを開けた。
 目に見える範囲に死傷者は居ない、自身が斬った相手を含めても、だ。
 それがステラにとって何よりの救いであった。
「躊躇なく殺しにかかってきた相手に、優しいというべきか、甘いというべきか……」
 ステラの様子を見て、やれやれと呆れながら手当を手伝うウィーダの手元にゆるぎはない。
 拿捕である以上途中で死なれても困るという判断なのか、口で言いながら彼女もまた優しいのか、ステラはどちらだろうかと気にしつつ口を開く。
「敵対してた、って言っても人間だもん。死んじゃったら後味悪いから…」
 そう答えるステラの言葉は、どこか震えが混じっていた。
 拿捕した第一小隊員は皆命にも別状は無く、このまま回収を待つ限りだろう。
「一時はどうなることかと思ったが……来てくれてありがとうな、助かったぜ」
「いいってことさ、列車作戦のときお世話になったしな」
 ことが終わりなんとか笑いあえる状況となって、改めて挨拶をする純一とグリムバルドだったが、やたらと興奮状態の純一は、友よー! と叫んでグリムバルドに抱きつくぐらいの有様だった。
 助けに来てくれただけでも嬉しいというのに、それがかつて作戦をともにした仲間だというのが拍車をかけている様子だ。
「そういえば、アシェールとミモザはどうした? さっきまで居たよな?」
 ふと気づいたのか純一が周りを見回すが、先程まで隊員を癒やしてくれていたアシェールの姿が消えていた。
「お花でも摘みに行ったんじゃないの?」
 と返すシルヴァに、なんとなく釈然としない様子の純一。
 少し離れたところでは、周りに人が居ないことを確認したアシェールが、真剣な面持ちでミモザと対峙していた。
「アシェおねーちゃん、話ってなに?」
 離れてないとダメなの?
 と首をかしげるミモザに、アシェールは言うのかどうか、この懸念を伝えるべきなのかどうかまだ迷っていた。
 けれど、可能性が無いわけではない以上、確認しておかないわけにはいかないのだ。
「イギリスでも暴走した強化人間さん達が居ました……ミモザちゃん、もしも、純一さんが暴走したら……撃てる?」
 自分にも言い聞かせるように、アシェールは問う。
 森のなかにざぁと風が吹いて、その言葉をすぐに攫っていった。
 ホルダーに下げた銃に、ミモザはそっと手をやる。
 意味を理解したミモザの手は、アシェールの目にわかるぐらい震えていた。

 少しして、戻ってきたミモザに純一は声を掛ける。
 明るい様子で礼を言う純一に、ミモザはどこか歯切れの悪い反応をするしかなく、それに純一は首を傾げるのだった。

●凄惨なりし顛末
「このあたり、だと思うんだがねえ」
 純一から受け取った地図を片手に、ヒースが周囲を確認する。
 二人は、第二小隊が壊滅した場所へと足を運んできていた。
 まだ生きている人がいるのなら、というリラたっての希望に、ヒースが調査したいことがあると同行することで、離れる許可が降りた。
 次第に濃くなる血の匂いがリラの鼓動を急かすよう。
「……リラ」
「どうしたんですかヒースさ……っ!」
 ころりと、ぽつんと、転がっていたのは、肘から少し先ほどで断ち切られたのだろう、鍛え上げられた人間の腕だった。
 これぐらいなら、よくあることだと言い聞かせ踏み込んだ先の茂みは地獄の様相だった。
 散乱する人のパーツ。
 手、腰、足、首、頭、胴、足、腿。
 殺すための攻撃ではなく、人体をバラバラにするための攻撃の痕跡。
 死んだあとも執拗にブレードを振るわれたのだろう、その有様に、リラが愕然と膝をつく。
「なん……で?」
 今回の事件は、暴走した強化人間が友軍を襲った。
 元は仲間だったはずなのだ、なのに――。
「こりゃ、埋葬するのも一苦労だな……」 
 そんな言葉をつぶやいて意識をとどめつつ、ヒースは思考を巡らせる。
(罠らしきものは今の所見つかっていない。となると歪虚が引き金であったと考えるほうが自然か……だとしてもなんだ、ここまで執拗に殺す必要はあったのか?)
 これじゃあまるで――惨劇の演出じゃないか。
 あるいは、それが目的だったのか……?
 浮かんだ考えの断片は、確信には至らず暮れの森のなかに隠れたままだった。

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MVP一覧

  • 甘苦スレイヴ
    葛音 ステラka5122

重体一覧

参加者一覧

  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • 甘苦スレイヴ
    葛音 ステラ(ka5122
    人間(蒼)|19才|女性|舞刀士
  • 想いの奏で手
    リラ(ka5679
    人間(紅)|16才|女性|格闘士
  • 碧落の矢
    ウィーダ・セリューザ(ka6076
    エルフ|17才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ウィーダ・セリューザ(ka6076
エルフ|17才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2018/06/26 10:08:36
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/06/21 20:31:30