ゲスト
(ka0000)
雨の季節によく見るアイツ
マスター:春秋冬夏

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/02 19:00
- 完成日
- 2018/07/08 00:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
六月ももうすぐ終わろうという時分、かつては豪奢な屋敷であったと見受けられる、とある廃墟の片隅。今では見る影もなくなったこの場所において、今なお、ともすればかつて以上に彩を誇る一点だけあった。
「今年ももうすぐ終わりか……」
そこを、リアルブルーの人々曰く『六月の花』と呼ばれる花が咲き乱れる花壇を見つめてため息をこぼす女性が一人。
「なんでアジサイは六月しか愛でてはいけないのかしら……」
何やら誤解されているようだが、とりあえず女性は憂いていた。自分が好きで、毎年雨の多い時期になるとわざわざ足を運んで見に来るこの花は、もうすぐ見てはならないと思い込んでいるらしい。
「あら、今何か……」
ふと、風もないのに葉が揺れて、女性が覗き込むと……白くてデカくてヌメヌメしたモノと、目が合った気がした。どのへんが目なのか分かんないけど、なんかそんな気がした。
「いやぁああああああ!?」
「あの気持ち悪いのをなんとかしてぇ……」
事の次第を説明した女性は既に思い出し悪寒で半泣きである。
「たぶんナメクジだと思うんだけど、それにしては大きすぎるし、お天気もいいのに出てきたから雑魔だと思うの……そ、それじゃ、後はお願い……」
話を聞いた君たちは、震える女性をもう一度笑顔にするために頑張ってもいいし、デッカイなめくじが苦手という理由で聞かなかった事にしてもいい。
「今年ももうすぐ終わりか……」
そこを、リアルブルーの人々曰く『六月の花』と呼ばれる花が咲き乱れる花壇を見つめてため息をこぼす女性が一人。
「なんでアジサイは六月しか愛でてはいけないのかしら……」
何やら誤解されているようだが、とりあえず女性は憂いていた。自分が好きで、毎年雨の多い時期になるとわざわざ足を運んで見に来るこの花は、もうすぐ見てはならないと思い込んでいるらしい。
「あら、今何か……」
ふと、風もないのに葉が揺れて、女性が覗き込むと……白くてデカくてヌメヌメしたモノと、目が合った気がした。どのへんが目なのか分かんないけど、なんかそんな気がした。
「いやぁああああああ!?」
「あの気持ち悪いのをなんとかしてぇ……」
事の次第を説明した女性は既に思い出し悪寒で半泣きである。
「たぶんナメクジだと思うんだけど、それにしては大きすぎるし、お天気もいいのに出てきたから雑魔だと思うの……そ、それじゃ、後はお願い……」
話を聞いた君たちは、震える女性をもう一度笑顔にするために頑張ってもいいし、デッカイなめくじが苦手という理由で聞かなかった事にしてもいい。
リプレイ本文
●今回の面子は色々おかしいと思う
「食の探求者を目指すなら聖導士だと思うの。キュアとヒール使用で一発回復なの」
……待て、帰るんじゃない。
「やだ! この依頼絶対ただじゃ済まないだろう!?」
真顔でとんでもないこと言いだしたディーナ・フェルミ(ka5843)のせいでエメラルド・シルフィユ(ka4678)が脱走を試みるが……。
「リアルブルーではカタツムリは高級食材と聞いたの。なら親戚のナメクジだって食べられるかもなの」
「冗談はよせ! ま、まさかアレを食うとか言い出す気じゃないだろうな!?」
ずいと迫り、自身の正当性を説くディーナに対してサッと青ざめたエメラルドの脳裏には、依頼主から受けてしまったやたら生々しい説明でかなり気色悪い姿のナメクジが描かれている。仕方ないよ、説明は正確にしてもらわないといけないから。
「物事には限度があると思うんだが!?」
貼り出された依頼書には簡潔にしかまとめられていなかったが、実際に話を聞いた一行はより詳細な説明を受けている。その内容はきっと口にできないようなものだったのだろう……。
「ナメクジか……スライムもそうだが、こう、なんで手とか脚とかなくてぬめぬめしてるやつってこう……気持ち悪いんだろうな? どうにも生理的に苦手だ」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)……だと? 最近トップを飾ってたいかにもカッコいい路線のあなたが、何故こんなネタネタした依頼に……!
「どんどんデカくなるとかだったら想像するだけでも嫌すぎるし困る。早急に、消滅させないといけないな……まだ……まだ、今のサイズのうちの始末しよう」
しかもとんでもない事言ってる!?
想像してしまった最終形態、ジャイアントナメクジに身震いしたアルトは何もない空間を、空気の階段でも昇るようにして空へ向かおうとするのだが、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)に呼び止められて空中に座り込む。
「屋敷だけあってこんだけ大きいからな。向こうから出て来てもらった方が早いだろ? そういうわけで、こいつを使う」
彼が取り出したのは缶ビール。
「ちょっと勿体無いがナメクジはコレの匂いで寄ってくるから試してみようか」
先に目撃情報のあった紫陽花の花壇以外で試してみるものの、他の場所には出てこないようだ。
「よし、これで複数を相手にしたり、後ろから奇襲されるという事はない……よな?」
一抹の不安を抱くアルトの前で、既にプルタブの開いた缶ビールを持っていたレイオスは花壇の前に缶を置くと、そっと距離を取る。その僅か数十秒後、ニュルンと紫陽花の陰からデッカイナメクジが出てきたかと思うと、尻尾の先端で缶を持ち上げてぐびっぐびっぷはー……。
「確かにデカイな……って、なんで早送りしたみたいに速えんだよ!? ていうかなんで普通にビール飲んでるんだ!?」
塩が入ってないからじゃない? 腕のバインダーにマテリアル製のカードを装填したレイオスが身構えた横で、最上 風(ka0891)は一抱えはあろうかという塩の袋を構える。
「たまには、童心に帰ってみたいと思います」
キリッとしてるとこ悪いけど、アンタ歳いくつだよ? 見た目女児なのに童心て……。
「やはりそれはあれか、袋ごとバサッといくのか?」
若干の期待にそわそわするレイア・アローネ(ka4082)。本物のナメクジなら塩で死を振りかける事ができるが、仮にできなかったとしてもいい感じに脱水してくれれば粘液も減り、振るった剣がヌトヌトすることを回避できるかもしれないからだ。
「わ~、でっかくてヌメヌメしてテラテラしてる。面白~い」
「ナメクジ自体はそこまで苦手ではないですが、積極的にどうこうしようと思うほど好きではないですねぇ」
夢路 まよい(ka1328)と弓月・小太(ka4679)は歳の近そうなお子さま同士であろうに、片やケラケラと楽しそうに笑い、片や現実逃避するような虚ろ目である。
「後方は風に任せて下さい、決してヌメヌメに触りたくない訳では無いですよ? さぁ、今こそ戦闘開始です」
「塩をかけてくれるんじゃなかったのか!?」
風はあくまでも、戦闘後に塩をかけて溶けるのかを見たかっただけだと察したレイアの目には、うっすら涙が浮かんでいたという。
●もっとカッコよく記録してくれる人の所に持って行きなさい
「いっくよー!」
まよいがかざした杖の先端、翼の装飾に包まれた宝玉へと魔力が収束されて……え?
「すばしっこいみたいだけど、動けなくしちゃえば関係ないよね!」
圧縮された魔力は杖の前に紫黒の球体を生成し、狙いを定めるようにナメクジに向けるまよいだが、魔力球は杖から離れると空へ消えていく。
ねぇこれ、ネタ依頼に向かないガチな一撃だよね!?
「全てを無に帰せ……」
事前に収束し、圧縮された魔力を天上にて解放すれば、それは広範囲を飲み込む大型の重力の塊と化す。されどすぐには落とさず、既に周囲を巻き添えにするであろうその一撃を、強引に押し潰し内圧を高めて。
「ブラックホールカノン!」
杖を振るえば打ち上げた重圧が帰ってくる。まだ命中していないというのに、大気そのものに加重されるようにして扁平になったナメクジ目がけて紫黒の球体は急降下。直撃と同時にその一帯だけ巨大な柱でも落とされたかのように円形に地面が沈み、その中心でナメクジはペラッペラに。
すると今度は薄くなったナメクジを丸めるようにして重力が手繰り寄せられて空中で一点に収束、一瞬の間を残して小爆発を引き起こすと円形の中心にナメクジを叩き付ける。
……なんでこんな魔法持って来たの!?
「う、動きを止めれば迫って来ないですよねぇ」
などと小太は白薔薇の装飾が施された銃を空に向けて。
「行動させずに、一気に仕留めてしまいましょう!」
一斉に全弾発射。上空へ飛んでいく弾丸は少しずつ減速し、やがては重力に引かれて帰ってくる。今度は加速し始める弾丸は光を纏い、複数の弾丸が光を重ね、眩いばかりの雨となりナメクジへと降り注ぐと、その身を大地に磔にしてしまう。
「出来れば飛び散らないように綺麗に切ってしまいたいものだ……いや、全く動かなくなった敵を前に、無駄に飛散させるなど剣士の恥。何としても綺麗に切って見せるとも……!」
なかば自分に言い聞かせるようにして、アルトは時を刻む者の姿に似た短剣を握りこむと、四人に分身して四方からナメクジを囲む。
その実態は彼女が四人に増えたのではなく、極短距離をステップしながら得物を繰り出す事による残像。何故動けない相手を前にそんな高速戦を仕掛ける必要があるかと言えば。
「絶対に、絶対に返り血というか、返り粘液を浴びてなるものか……!」
体表がヌトヌトテラテラしてるモンを突っつきまわして攻撃なんかしたら、そりゃ跳ねる。ヌトヌトした物がめっちゃ跳ねる。そうならないように『斬る』には、武器の切味を最大に生かす技の冴えが必要になるが、アルトはどちらかと言えば身体能力と技量を合わせ、手数と速度で勝負するスピードタイプ。
もちろん普通に戦う分には十分どころか、人並み外れた戦闘力を誇る彼女だが、軟体の、それも粘液に包まれた物を水分の一滴すら飛ばさずに斬る事は難しい。故に、突いた直後に反対側に回って突き、両側から剣圧を与える事で最小限の飛沫に抑えつつ、さらにそのぬめりにすらかからないよう位置を変えて同じことをする、という形でヌトヌトを避けたのだった。
●カタツムリになるとは言ってない
「よし、この調子で攻めきれれば無事に……」
レイアが希望を見出した目で得物を腰だめに構えた時だった。ナメクジは渦巻き状の貝を取り出すと、頭に乗せる。
「か、殻を被りましたぁ!? ナメクじでなくカタツムリだったのでしょうかぁ……いえ、どっちでもいいのですけどもぉ……って、頭!?」
背中に背負うものだと思っていた小太の目の前でナメクジの体が膨れ上がる。
「ひぃ! やっぱり大きくなるのか!?」
青ざめて、アルトは残像で尾を引きながらバックステップ。しかし膨れたナメクジは人間サイズに留まっている……ただし、バッキバキに割れた腹筋に引き締まった四肢を兼ね備え、首から上だけ貝を被ったナメクジという姿になっているが。
「うあ……」
レイアは白昼夢でも見ているのかと一度目をこすり、目を細めて実は奇跡的な見間違いだったのではないかとナメクジを凝視するが、何度やってもポージングが変わるだけでマッスルなナメクジである。
「うあ……」
一回目は信じられないという意味で、二回目は絶望したという意味で情けない声を溢すレイアは目を覆って天を仰ぐ。
「今まで散々変わった雑魔や歪虚を相手してきたが……これはなかなか……」
「えぇ、これは……」
ディーナですらも小刻みに身を震わせて……。
「可食部分が増えるなんて、素晴らしいの……!」
じゅるり。
「気は確かか!?」
周りが曇天のような重苦しい雰囲気に包まれている中、一人だけ暗雲に一筋の光が差し込んだかの如くキラキラおめめのディーナを、エメラルドが肩を掴んで思いっきり揺さぶるが、逆に肩を掴まれて。
「落ち着くの。見た目こそ人間っぽいけど、その実態は貝の一種なの!」
「そういう問題じゃないっ!!」
「あの……」
額をぶつけ合うのではないか、という勢いの二人より後方から、風が差し示す。
「ナメクジ動いてますよ?」
「えっ」
エメラルドが振り向いた先で、ナメクジは両手を着き両脚を高さ違いに起こして腰を持ち上げ、爪先の接地面に力を溜める。
キリッ。顔を上げたナメクジの目(っぽい辺り)が光った気がして、エメラルドは脚から順に頭の天辺まで微弱な電流が這い上っていくかのように震え、硬直。「行くよ?」「断る」そんな会話があったかのようにナメクジの視線が研ぎ澄まされ、エメラルドの瞳は恐怖に開かれて……糸を引く足が、砂を巻き上げた。
「わわ、来た来た来た!?」
大した距離もないのに全力疾走してくるナメクジ相手に光の球をばら撒き、殺到させるエメラルドだがナメクジは右に左に跳ねては躱し、距離を詰める。
「寄るな来るな触るな!!」
当たらない牽制に目を潤ませるエメラルドは腕を伸ばし、己が身を弓に代えて浮遊させていた光球を引き延ばし、腕に番える。指先で狙いを定め、放つは杭。一本でも当てれば動きを止められそうなものだが、ナメクジは地面を滑って射線の下を掻い潜って跳び、エメラルドの胸目がけて……。
「うわぁああああ!?」
「逃がさないの食材っ!」
ダイブするナメクジの顔面をディーナが引っ掴む。慣性で前に飛び出す体をエメラルドは躱そうとするが、頬を思いっきり撫ぜられへたり込んでしまった。
「まずは身を柔らかくするべく、打つべし、打つべし、なの!」
一方ディーナは掴んだ掌にマテリアルを集中。微かな輝きと共に一撃毎にナメクジの全身を震わせ粘液をまき散らす衝撃を連打! トドメに軟体をぶん回して脚を掴み。
「カット、お願いしますなの!」
「こ、こっちに回すな!!」
レイアに向けて、投げたッ!
●良い子も悪い子も絶対にマネするな
「う、うぉおおおお!?」
悲鳴と雄叫びの合いの子染みた声をあげるレイアは真紅の長剣に魔力を這わせて柄の引き金に指をかけた。指圧を加えれば得物に伝えたマテリアルを喰らい、刃は光と闇で螺旋を描く。
「触れてなるものかぁああ!!」
飛来する粘液のヌトヌト感に震える脚に鞭打って、自ら踏み込み得物を振り下ろすも粘液に阻まれ両断はできず、地面に叩き落とす結果に。
「うわぁあああ!?」
「動く度に、ヌメヌメネトネトが飛び散ってます、後方に引っ込んで正解でしたねー」
衝撃で散った粘液を被ったレイアが嫌悪感に震え、風は半眼で両手の指を二本立てるとそのトレードマークとも言える大きな帽子の目玉型の装飾の前に構え、ナメクジが腹筋を使って跳ね起きる。
「はいはい、大人しくしてくださいねー?」
両手の指を重ねた方形の中で目玉装飾の視線が動きまわり、軟体を捉えた瞬間光球が撃ち出されてその体が吹き飛ばされるが、空中で身を捻り体勢を整えたナメクジは両脚と片手で地面に三本の線を引きながら踏み止まる。
「ナメクジらしく少しはゆっくり動きやがれ!」
その背後でレイオスが鞘を蹴り上げ飛び出した剣、その鍔に備えられた副柄を握り、両脚を開いて腰を落とす。後方の脚に添えて短棍のように構えた剣から直線に逆腕を伸ばす。
「ブッ潰れろ!!」
ナメクジは身を翻して白刃取りを試みるが、半円を描いて振り下ろされた刀身はその掌圧を貫通して殻を直撃。
パキョン、わずかに武器が殻を破る。小さな亀裂は瞬く間に広がって、頭の上に乗っていた巻貝が砕け散り、衝撃が貫通した頭部が爆ぜてレイオスの顔面がヌトォ……打撃武器でトドメになったらそりゃあ、ねぇ?
「新たな食材確保なのっ!」
残った軟体をディーナが野良猫のようにかっさらい、手早く切って串に刺すと簡易的な焚火を用意して早速焼き始める。そこに風が塩をかけるとキュゥ……と身が縮み、少女はふむふむ。
「やはりナメクジは塩で溶けるのですね」
いや、アレは溶けてるわけじゃ……。
「……や、やめた方がいいと思うぞ……?」
「恐れていては、目の前のそれは食材か否か分からないの」
レイアが及び腰でディーナを止めるが、彼女は構わずモグリ。
「……味がサッパリし過ぎてるの」
と、言いつつ串を差し出して。
「でも食べられない事はないの」
「いや、遠慮しとくぜ」
どこか遠くを見る眼差しをするディーナにレイオスが両手を突きだす。
「どうせ食うなら海で取れた貝が良いな。そっちなら奢るくらいはしてやるさ」
「ほう?」
まさかの風が食いついた。
「では早速行きましょう。いざタダ飯……もとい、ご厚意のお食事会へ……!」
意気揚々と帰っていく風にレイオスがやれやれと頭を振り、ディーナが……こっち向いた?
「食材はきちんと食材用に生産されたから安全に食べられるの、聖導士でないみんなは無闇にその辺のものを調理して食べたら危ないの、チャレンジは自己責任で安全重視、聖導士のお姉さんと約束なの」
その注意喚起、いる?
「あ、そうだ。折角だから紫陽花を……」
一塊分だけもらおうとしたアルトだが、そこには無残な姿の紫陽花が。
「な、何故だ……」
射程拡大した範囲魔法ぶっ放したら、巻き込むわな。
「風情があっていいですねぇ。天気がいい時の紫陽花もいいですが、雨の中の紫陽花というのも乙な物ですがぁ」
「えっ」
この残骸のどこに風情が? とアルトが小太を見やると、彼が見ていたのは奇跡的に形を保ったままプレスされ、コースターのようになった紫陽花。
「……これなら、もう落ちてしまった花だし、構わないだろうか?」
散ってしまった『一枚』を、アルトは手に取るのだった。
「食の探求者を目指すなら聖導士だと思うの。キュアとヒール使用で一発回復なの」
……待て、帰るんじゃない。
「やだ! この依頼絶対ただじゃ済まないだろう!?」
真顔でとんでもないこと言いだしたディーナ・フェルミ(ka5843)のせいでエメラルド・シルフィユ(ka4678)が脱走を試みるが……。
「リアルブルーではカタツムリは高級食材と聞いたの。なら親戚のナメクジだって食べられるかもなの」
「冗談はよせ! ま、まさかアレを食うとか言い出す気じゃないだろうな!?」
ずいと迫り、自身の正当性を説くディーナに対してサッと青ざめたエメラルドの脳裏には、依頼主から受けてしまったやたら生々しい説明でかなり気色悪い姿のナメクジが描かれている。仕方ないよ、説明は正確にしてもらわないといけないから。
「物事には限度があると思うんだが!?」
貼り出された依頼書には簡潔にしかまとめられていなかったが、実際に話を聞いた一行はより詳細な説明を受けている。その内容はきっと口にできないようなものだったのだろう……。
「ナメクジか……スライムもそうだが、こう、なんで手とか脚とかなくてぬめぬめしてるやつってこう……気持ち悪いんだろうな? どうにも生理的に苦手だ」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)……だと? 最近トップを飾ってたいかにもカッコいい路線のあなたが、何故こんなネタネタした依頼に……!
「どんどんデカくなるとかだったら想像するだけでも嫌すぎるし困る。早急に、消滅させないといけないな……まだ……まだ、今のサイズのうちの始末しよう」
しかもとんでもない事言ってる!?
想像してしまった最終形態、ジャイアントナメクジに身震いしたアルトは何もない空間を、空気の階段でも昇るようにして空へ向かおうとするのだが、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)に呼び止められて空中に座り込む。
「屋敷だけあってこんだけ大きいからな。向こうから出て来てもらった方が早いだろ? そういうわけで、こいつを使う」
彼が取り出したのは缶ビール。
「ちょっと勿体無いがナメクジはコレの匂いで寄ってくるから試してみようか」
先に目撃情報のあった紫陽花の花壇以外で試してみるものの、他の場所には出てこないようだ。
「よし、これで複数を相手にしたり、後ろから奇襲されるという事はない……よな?」
一抹の不安を抱くアルトの前で、既にプルタブの開いた缶ビールを持っていたレイオスは花壇の前に缶を置くと、そっと距離を取る。その僅か数十秒後、ニュルンと紫陽花の陰からデッカイナメクジが出てきたかと思うと、尻尾の先端で缶を持ち上げてぐびっぐびっぷはー……。
「確かにデカイな……って、なんで早送りしたみたいに速えんだよ!? ていうかなんで普通にビール飲んでるんだ!?」
塩が入ってないからじゃない? 腕のバインダーにマテリアル製のカードを装填したレイオスが身構えた横で、最上 風(ka0891)は一抱えはあろうかという塩の袋を構える。
「たまには、童心に帰ってみたいと思います」
キリッとしてるとこ悪いけど、アンタ歳いくつだよ? 見た目女児なのに童心て……。
「やはりそれはあれか、袋ごとバサッといくのか?」
若干の期待にそわそわするレイア・アローネ(ka4082)。本物のナメクジなら塩で死を振りかける事ができるが、仮にできなかったとしてもいい感じに脱水してくれれば粘液も減り、振るった剣がヌトヌトすることを回避できるかもしれないからだ。
「わ~、でっかくてヌメヌメしてテラテラしてる。面白~い」
「ナメクジ自体はそこまで苦手ではないですが、積極的にどうこうしようと思うほど好きではないですねぇ」
夢路 まよい(ka1328)と弓月・小太(ka4679)は歳の近そうなお子さま同士であろうに、片やケラケラと楽しそうに笑い、片や現実逃避するような虚ろ目である。
「後方は風に任せて下さい、決してヌメヌメに触りたくない訳では無いですよ? さぁ、今こそ戦闘開始です」
「塩をかけてくれるんじゃなかったのか!?」
風はあくまでも、戦闘後に塩をかけて溶けるのかを見たかっただけだと察したレイアの目には、うっすら涙が浮かんでいたという。
●もっとカッコよく記録してくれる人の所に持って行きなさい
「いっくよー!」
まよいがかざした杖の先端、翼の装飾に包まれた宝玉へと魔力が収束されて……え?
「すばしっこいみたいだけど、動けなくしちゃえば関係ないよね!」
圧縮された魔力は杖の前に紫黒の球体を生成し、狙いを定めるようにナメクジに向けるまよいだが、魔力球は杖から離れると空へ消えていく。
ねぇこれ、ネタ依頼に向かないガチな一撃だよね!?
「全てを無に帰せ……」
事前に収束し、圧縮された魔力を天上にて解放すれば、それは広範囲を飲み込む大型の重力の塊と化す。されどすぐには落とさず、既に周囲を巻き添えにするであろうその一撃を、強引に押し潰し内圧を高めて。
「ブラックホールカノン!」
杖を振るえば打ち上げた重圧が帰ってくる。まだ命中していないというのに、大気そのものに加重されるようにして扁平になったナメクジ目がけて紫黒の球体は急降下。直撃と同時にその一帯だけ巨大な柱でも落とされたかのように円形に地面が沈み、その中心でナメクジはペラッペラに。
すると今度は薄くなったナメクジを丸めるようにして重力が手繰り寄せられて空中で一点に収束、一瞬の間を残して小爆発を引き起こすと円形の中心にナメクジを叩き付ける。
……なんでこんな魔法持って来たの!?
「う、動きを止めれば迫って来ないですよねぇ」
などと小太は白薔薇の装飾が施された銃を空に向けて。
「行動させずに、一気に仕留めてしまいましょう!」
一斉に全弾発射。上空へ飛んでいく弾丸は少しずつ減速し、やがては重力に引かれて帰ってくる。今度は加速し始める弾丸は光を纏い、複数の弾丸が光を重ね、眩いばかりの雨となりナメクジへと降り注ぐと、その身を大地に磔にしてしまう。
「出来れば飛び散らないように綺麗に切ってしまいたいものだ……いや、全く動かなくなった敵を前に、無駄に飛散させるなど剣士の恥。何としても綺麗に切って見せるとも……!」
なかば自分に言い聞かせるようにして、アルトは時を刻む者の姿に似た短剣を握りこむと、四人に分身して四方からナメクジを囲む。
その実態は彼女が四人に増えたのではなく、極短距離をステップしながら得物を繰り出す事による残像。何故動けない相手を前にそんな高速戦を仕掛ける必要があるかと言えば。
「絶対に、絶対に返り血というか、返り粘液を浴びてなるものか……!」
体表がヌトヌトテラテラしてるモンを突っつきまわして攻撃なんかしたら、そりゃ跳ねる。ヌトヌトした物がめっちゃ跳ねる。そうならないように『斬る』には、武器の切味を最大に生かす技の冴えが必要になるが、アルトはどちらかと言えば身体能力と技量を合わせ、手数と速度で勝負するスピードタイプ。
もちろん普通に戦う分には十分どころか、人並み外れた戦闘力を誇る彼女だが、軟体の、それも粘液に包まれた物を水分の一滴すら飛ばさずに斬る事は難しい。故に、突いた直後に反対側に回って突き、両側から剣圧を与える事で最小限の飛沫に抑えつつ、さらにそのぬめりにすらかからないよう位置を変えて同じことをする、という形でヌトヌトを避けたのだった。
●カタツムリになるとは言ってない
「よし、この調子で攻めきれれば無事に……」
レイアが希望を見出した目で得物を腰だめに構えた時だった。ナメクジは渦巻き状の貝を取り出すと、頭に乗せる。
「か、殻を被りましたぁ!? ナメクじでなくカタツムリだったのでしょうかぁ……いえ、どっちでもいいのですけどもぉ……って、頭!?」
背中に背負うものだと思っていた小太の目の前でナメクジの体が膨れ上がる。
「ひぃ! やっぱり大きくなるのか!?」
青ざめて、アルトは残像で尾を引きながらバックステップ。しかし膨れたナメクジは人間サイズに留まっている……ただし、バッキバキに割れた腹筋に引き締まった四肢を兼ね備え、首から上だけ貝を被ったナメクジという姿になっているが。
「うあ……」
レイアは白昼夢でも見ているのかと一度目をこすり、目を細めて実は奇跡的な見間違いだったのではないかとナメクジを凝視するが、何度やってもポージングが変わるだけでマッスルなナメクジである。
「うあ……」
一回目は信じられないという意味で、二回目は絶望したという意味で情けない声を溢すレイアは目を覆って天を仰ぐ。
「今まで散々変わった雑魔や歪虚を相手してきたが……これはなかなか……」
「えぇ、これは……」
ディーナですらも小刻みに身を震わせて……。
「可食部分が増えるなんて、素晴らしいの……!」
じゅるり。
「気は確かか!?」
周りが曇天のような重苦しい雰囲気に包まれている中、一人だけ暗雲に一筋の光が差し込んだかの如くキラキラおめめのディーナを、エメラルドが肩を掴んで思いっきり揺さぶるが、逆に肩を掴まれて。
「落ち着くの。見た目こそ人間っぽいけど、その実態は貝の一種なの!」
「そういう問題じゃないっ!!」
「あの……」
額をぶつけ合うのではないか、という勢いの二人より後方から、風が差し示す。
「ナメクジ動いてますよ?」
「えっ」
エメラルドが振り向いた先で、ナメクジは両手を着き両脚を高さ違いに起こして腰を持ち上げ、爪先の接地面に力を溜める。
キリッ。顔を上げたナメクジの目(っぽい辺り)が光った気がして、エメラルドは脚から順に頭の天辺まで微弱な電流が這い上っていくかのように震え、硬直。「行くよ?」「断る」そんな会話があったかのようにナメクジの視線が研ぎ澄まされ、エメラルドの瞳は恐怖に開かれて……糸を引く足が、砂を巻き上げた。
「わわ、来た来た来た!?」
大した距離もないのに全力疾走してくるナメクジ相手に光の球をばら撒き、殺到させるエメラルドだがナメクジは右に左に跳ねては躱し、距離を詰める。
「寄るな来るな触るな!!」
当たらない牽制に目を潤ませるエメラルドは腕を伸ばし、己が身を弓に代えて浮遊させていた光球を引き延ばし、腕に番える。指先で狙いを定め、放つは杭。一本でも当てれば動きを止められそうなものだが、ナメクジは地面を滑って射線の下を掻い潜って跳び、エメラルドの胸目がけて……。
「うわぁああああ!?」
「逃がさないの食材っ!」
ダイブするナメクジの顔面をディーナが引っ掴む。慣性で前に飛び出す体をエメラルドは躱そうとするが、頬を思いっきり撫ぜられへたり込んでしまった。
「まずは身を柔らかくするべく、打つべし、打つべし、なの!」
一方ディーナは掴んだ掌にマテリアルを集中。微かな輝きと共に一撃毎にナメクジの全身を震わせ粘液をまき散らす衝撃を連打! トドメに軟体をぶん回して脚を掴み。
「カット、お願いしますなの!」
「こ、こっちに回すな!!」
レイアに向けて、投げたッ!
●良い子も悪い子も絶対にマネするな
「う、うぉおおおお!?」
悲鳴と雄叫びの合いの子染みた声をあげるレイアは真紅の長剣に魔力を這わせて柄の引き金に指をかけた。指圧を加えれば得物に伝えたマテリアルを喰らい、刃は光と闇で螺旋を描く。
「触れてなるものかぁああ!!」
飛来する粘液のヌトヌト感に震える脚に鞭打って、自ら踏み込み得物を振り下ろすも粘液に阻まれ両断はできず、地面に叩き落とす結果に。
「うわぁあああ!?」
「動く度に、ヌメヌメネトネトが飛び散ってます、後方に引っ込んで正解でしたねー」
衝撃で散った粘液を被ったレイアが嫌悪感に震え、風は半眼で両手の指を二本立てるとそのトレードマークとも言える大きな帽子の目玉型の装飾の前に構え、ナメクジが腹筋を使って跳ね起きる。
「はいはい、大人しくしてくださいねー?」
両手の指を重ねた方形の中で目玉装飾の視線が動きまわり、軟体を捉えた瞬間光球が撃ち出されてその体が吹き飛ばされるが、空中で身を捻り体勢を整えたナメクジは両脚と片手で地面に三本の線を引きながら踏み止まる。
「ナメクジらしく少しはゆっくり動きやがれ!」
その背後でレイオスが鞘を蹴り上げ飛び出した剣、その鍔に備えられた副柄を握り、両脚を開いて腰を落とす。後方の脚に添えて短棍のように構えた剣から直線に逆腕を伸ばす。
「ブッ潰れろ!!」
ナメクジは身を翻して白刃取りを試みるが、半円を描いて振り下ろされた刀身はその掌圧を貫通して殻を直撃。
パキョン、わずかに武器が殻を破る。小さな亀裂は瞬く間に広がって、頭の上に乗っていた巻貝が砕け散り、衝撃が貫通した頭部が爆ぜてレイオスの顔面がヌトォ……打撃武器でトドメになったらそりゃあ、ねぇ?
「新たな食材確保なのっ!」
残った軟体をディーナが野良猫のようにかっさらい、手早く切って串に刺すと簡易的な焚火を用意して早速焼き始める。そこに風が塩をかけるとキュゥ……と身が縮み、少女はふむふむ。
「やはりナメクジは塩で溶けるのですね」
いや、アレは溶けてるわけじゃ……。
「……や、やめた方がいいと思うぞ……?」
「恐れていては、目の前のそれは食材か否か分からないの」
レイアが及び腰でディーナを止めるが、彼女は構わずモグリ。
「……味がサッパリし過ぎてるの」
と、言いつつ串を差し出して。
「でも食べられない事はないの」
「いや、遠慮しとくぜ」
どこか遠くを見る眼差しをするディーナにレイオスが両手を突きだす。
「どうせ食うなら海で取れた貝が良いな。そっちなら奢るくらいはしてやるさ」
「ほう?」
まさかの風が食いついた。
「では早速行きましょう。いざタダ飯……もとい、ご厚意のお食事会へ……!」
意気揚々と帰っていく風にレイオスがやれやれと頭を振り、ディーナが……こっち向いた?
「食材はきちんと食材用に生産されたから安全に食べられるの、聖導士でないみんなは無闇にその辺のものを調理して食べたら危ないの、チャレンジは自己責任で安全重視、聖導士のお姉さんと約束なの」
その注意喚起、いる?
「あ、そうだ。折角だから紫陽花を……」
一塊分だけもらおうとしたアルトだが、そこには無残な姿の紫陽花が。
「な、何故だ……」
射程拡大した範囲魔法ぶっ放したら、巻き込むわな。
「風情があっていいですねぇ。天気がいい時の紫陽花もいいですが、雨の中の紫陽花というのも乙な物ですがぁ」
「えっ」
この残骸のどこに風情が? とアルトが小太を見やると、彼が見ていたのは奇跡的に形を保ったままプレスされ、コースターのようになった紫陽花。
「……これなら、もう落ちてしまった花だし、構わないだろうか?」
散ってしまった『一枚』を、アルトは手に取るのだった。
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ナメクジ討伐 レイア・アローネ(ka4082) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/07/02 15:32:35 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/02 16:52:01 |