ゲスト
(ka0000)
ローマの1日
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/03 22:00
- 完成日
- 2018/07/19 16:28
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
――良く考えてみたら、強化人間として軍に配属されてから、一度も故郷に戻っていなかった気がする。
忙しかったのも勿論そうだけど。
何となく。故郷に戻ってしまったら。
兄さんから遠ざかってしまうような気がしていたから。
……軍にいると、兄さんに近づけるような気がしていた。
兄さんがクリムゾンウェストという地に渡っていたことを知ってからは、余計に強化人間としての仕事に夢中になった。
……僕だけでは、クリムゾンウェストには渡れない。
ハンターさんを通じてしか、紅の大地を知ることが出来ない。
だから――僕は、仕事に没頭した。
ここに来て、故郷が懐かしくなったのは。
兄さんの手がかりが色々掴めたからなのかな……。
「……ッ」
――最近、やけに頭痛がする。
耳鳴りのような嫌な音も聞こえる。
頭を撫でられるようで気持ち悪いけど……きっと、故郷の空気を吸えば元気になる筈だ。
●ローマの1日
「……という訳ですね。皆さん、一緒にローマに行きませんか」
そう切り出したレギ(kz0229)に目を瞬かせるハンター達。
無理もない。突然ローマなんて言われてもピンと来ない。
「つかぬことを聞くけど、ローマってどこ……?」
「ああ、すみません。イタリアという国の首都です。僕の故郷なんですよ」
ローマはイタリアの首都で、芸術、建築、文化の面でリアルブルーの諸国に影響を与え続けている都市である。
町中のあちこちにある古代遺跡は、かつてローマにあった帝国の勢力を物語り、昔ながらの街並みがとても美しいらしい。
後ろ向きにコインを投げ入れると願いが叶うという泉や、『真実の口』という、手を入れた時に嘘をつくと手首を切り落とされるという伝承のある彫刻がある……というレギの説明にハンター達はふむふむと頷く。
「へー。色々あるんだな……」
「願いが叶う泉だなんて、ちょっとロマンチックだわね」
「ハイ。ローマ中が観光スポットのようなものなので、どこに行っても楽しいですよ。ハンターさんと以前、故郷を案内するって約束をしていたような気がしまして。今回折角なのでと思って声をかけてみました!」
「でも、レギ……うっかり町中に出て大丈夫なの?」
心配そうなハンター。強化人間の暴走事件のお陰で、今や強化人間全てが危険視されている。
うっかりレギが町中を歩こうものなら、石を投げられるくらいはあっても不思議ではない。
「普段着を着て、サングラスとかつけて変装すれば大丈夫かなって……故郷に戻るのに変装っていうのも何だか変な話ですけどね」
「そうか……そういうことなら同行してやった方がいいな」
「ありがとうございます。皆さんに僕の故郷を見て戴けたら嬉しいです。キレイなところなんでデートにも最適ですし……気になる人とか、恋人とかと一緒に行くといいことあるかもですよ!」
顔を見合わせて考え込むハンター達。
ここのところリアルブルーで色々あったし、のんびり羽を伸ばすのもいいかもしれない。
「お一人の方は僕で宜しければエスコートします!」
「レギも相変わらずねえ」
「レギ君、ちょっとは元気になったのかな」
どこまでも軽いノリのレギ。ちょっと顔色が悪いのが気になるけれど……。
ハンター達はレギの顔をまじまじと見た後に頷き、出立の準備を始めた。
忙しかったのも勿論そうだけど。
何となく。故郷に戻ってしまったら。
兄さんから遠ざかってしまうような気がしていたから。
……軍にいると、兄さんに近づけるような気がしていた。
兄さんがクリムゾンウェストという地に渡っていたことを知ってからは、余計に強化人間としての仕事に夢中になった。
……僕だけでは、クリムゾンウェストには渡れない。
ハンターさんを通じてしか、紅の大地を知ることが出来ない。
だから――僕は、仕事に没頭した。
ここに来て、故郷が懐かしくなったのは。
兄さんの手がかりが色々掴めたからなのかな……。
「……ッ」
――最近、やけに頭痛がする。
耳鳴りのような嫌な音も聞こえる。
頭を撫でられるようで気持ち悪いけど……きっと、故郷の空気を吸えば元気になる筈だ。
●ローマの1日
「……という訳ですね。皆さん、一緒にローマに行きませんか」
そう切り出したレギ(kz0229)に目を瞬かせるハンター達。
無理もない。突然ローマなんて言われてもピンと来ない。
「つかぬことを聞くけど、ローマってどこ……?」
「ああ、すみません。イタリアという国の首都です。僕の故郷なんですよ」
ローマはイタリアの首都で、芸術、建築、文化の面でリアルブルーの諸国に影響を与え続けている都市である。
町中のあちこちにある古代遺跡は、かつてローマにあった帝国の勢力を物語り、昔ながらの街並みがとても美しいらしい。
後ろ向きにコインを投げ入れると願いが叶うという泉や、『真実の口』という、手を入れた時に嘘をつくと手首を切り落とされるという伝承のある彫刻がある……というレギの説明にハンター達はふむふむと頷く。
「へー。色々あるんだな……」
「願いが叶う泉だなんて、ちょっとロマンチックだわね」
「ハイ。ローマ中が観光スポットのようなものなので、どこに行っても楽しいですよ。ハンターさんと以前、故郷を案内するって約束をしていたような気がしまして。今回折角なのでと思って声をかけてみました!」
「でも、レギ……うっかり町中に出て大丈夫なの?」
心配そうなハンター。強化人間の暴走事件のお陰で、今や強化人間全てが危険視されている。
うっかりレギが町中を歩こうものなら、石を投げられるくらいはあっても不思議ではない。
「普段着を着て、サングラスとかつけて変装すれば大丈夫かなって……故郷に戻るのに変装っていうのも何だか変な話ですけどね」
「そうか……そういうことなら同行してやった方がいいな」
「ありがとうございます。皆さんに僕の故郷を見て戴けたら嬉しいです。キレイなところなんでデートにも最適ですし……気になる人とか、恋人とかと一緒に行くといいことあるかもですよ!」
顔を見合わせて考え込むハンター達。
ここのところリアルブルーで色々あったし、のんびり羽を伸ばすのもいいかもしれない。
「お一人の方は僕で宜しければエスコートします!」
「レギも相変わらずねえ」
「レギ君、ちょっとは元気になったのかな」
どこまでも軽いノリのレギ。ちょっと顔色が悪いのが気になるけれど……。
ハンター達はレギの顔をまじまじと見た後に頷き、出立の準備を始めた。
リプレイ本文
「ふおお! ここがローマなのん!? すごいのん! 不思議な建物いっぱいなのん!」
「永遠の都とも称される街ですからね。ローマ帝国だけでも2000年の歴史があると言います。盛者必衰とは言いますけれど……かつての繁栄の跡は、街並みにしっかりと息づいていますね」
「観智さん詳しいのん。ローマ来たことあるのん?」
「いえ、本で読んだだけです。……今日は実際に見て回れると良いんですが」
目を丸くするミィナ・アレグトーリア(ka0317)に淡々と答える天央 観智(ka0896)。
その横で、女性陣に囲まれたレギ(kz0229)が鼻の下を伸ばしていた。
「わたくしリアルブルーは初めてですので、レギ様にご一緒いただきたいのですが……よろしいでしょうか?」
「レギさんのおすすめの場所とか食事とか、教えてほしいな」
「はい。ご案内戴けると嬉しいです」
「勿論です! 両手に花どころか両手に花いっぱいで嬉しいですね! 観智さん!」
「……僕は別にローマが見られればそれでいいんですが」
「……全ての男性が女性基準に動いてる訳じゃないわよ、レギ」
メルヴェイユ(ka7240)とイスフェリア(ka2088)、フィロ(ka6966)のお願いを安請け合いするレギ。
観智のツレない返事にショックを受ける彼に、アルスレーテ・フュラー(ka6148)のツッコミが炸裂して……氷雨 柊羽(ka6767)は噴き出しそうになるのをぐっと堪える。
「ローマと言っても色々あるんですけど、皆さん行ってみたい場所あります?」
「僕は緑が見てみたい……かな」
「真実の口と言いましたでしょうか? そこに行ってみたいです」
「願いごとの叶う泉があるそうでございますね。是非お伺いしたく思います」
「あたしは洋服が見たいわ」
「ジェラートの食べ歩きしたいのん!」
「私はちょっとお土産が見たいかな」
レギの問いかけに答えた柊羽とフィロ、メルヴェイユ。続いたアルスレーテとミィナ、イスフェリアの言葉に、観智が深々とため息をついた。
「……どうやら強行軍になりそうですね」
「レディ、相席宜しいですカ?」
「……あら? アルヴィンさんじゃないの。どうぞ」
ローマの街をあちこち巡り、カフェテリアのテーブル席でドルチェとカプチーノを頼み一息ついていたフィルメリア・クリスティア(ka3380)。アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)の声に笑顔を返す。
「どうダイ? ローマは楽しんでル?」
「お陰様でね。そういう貴方はどうなの?」
「トレヴィの泉やコロッセオを見て来たヨ! ここは古いモノが沢山あってイイネ。ジェラートというのも食べて来たけど美味しかったシ……そういうフィルメリアさんは随分大荷物ダネ」
「ああ、これ? 大半がアスガルドの子供達の洋服なのよ。……成長期だもの。目が覚めたら、きっと必要になるでしょう」
当たり前のことのようにさらりと言ったフィルメリア。アルヴィンはテーブルのエスプレッソに目線を落とす。
「フィルメリアさんは、強化人間についての噂や話を聞いたカイ?」
「ええ。……残念ながらあまりいい話は聞けなかったけれど」
「……そうだネ」
2人の間に流れる沈黙。
彼らがローマの市街で聞いた強化人間の噂は、お世辞にもあまり良いものとは言えなかった。
この街は直接強化人間達による被害は受けていないけれど。
それでも、『歪虚に立ち向かう為に生み出された希望』である存在が暴走し、反旗を翻すというのは平穏に暮らす人々にとっては十分センセーショナルだったのだろう。
「新聞には強化人間達を導入した軍や首脳陣の責任まで追及する記事があったわ」
「僕も読んだヨ。強化人間の排斥運動に発展するのモ、そう遠い未来じゃないかもしれないネ」
アルヴィンの言葉に、ため息を漏らすフィルメリア。
今のリアルブルーは、強化人間達にとっては厳しい場所だ。何とかしたいとは思うけれど――その答えが、見えてこなかった。
「あの。アルスレーテさん。そろそろ移動開始しないと時間がですね……」
「何言ってるの!? まだ見始めたばっかりじゃない!!」
サンタンジェロ城からテベレ川沿いを歩き、スペイン広場を目指していたハンター達は、その途中にある高級ブティックに引っかかっていた。
いや、正確にいえばアルスレーテのみここに用事があった訳だが。
そう。彼女にはローマの地でやりたい事があった。遊びで済ませていい問題ではない、本気の事が。
そう! 即ち!
故郷の集落でクソババア……もとい、お母様と一緒にまだ幼い妹たちの世話をさせられてるはずの愛しい彼に、リアルブルー土産の服を買って帰るのだ!
そうすれば! 恋人としては勿論、嫁としての点数もぐぐんとアップするはずだ!
そう! あの人を救うヒロインだよ! やったね!!
「……というわけでレギ。あの人、身長や体格はレギと大差ないはずだから、着せ替え人形になって? ついでに荷物持ちになってくれると嬉しいんだけど」
「えっと……」
「……あの。私も買い物とかしてるから、気にせず続けて?」
「ミィナさん達は外でジェラートを食べているから気にしないで、とのことでした。頑張ってくださいね」
仲間達に助けを求める目を向けたレギだが、イスフェリアと観智にばっさり切り捨てられる。
という訳で! アルスレーテによる着せ替え人形チャレンジ! はーじまーるよー!
「んんー! ジェラート美味しいのん! いくらでも食べられそうなのん」
「レギさんによると、ジェラートに生クリームを乗せる食べ方が本場流だそうですね」
「生クリームはローマの言葉でパンナと言うそうでございます。甘すぎなくて美味しゅうございますね」
「ふーん。ジェラートの食べ方にも色々あるんだなあ」
その頃。ミィナとフィロ、メルヴェイユと柊羽はローマ名物のジェラートに舌鼓を打っていた。
色々な味がショウケースに並んでいて、ミィナはうっとりとため息をつく。
「こんなに沢山一度に冷やせて羨ましいのん……。このジェラートってうちでも作れんかなぁ」
「……氷って割と楽に手に入るようになってるんじゃなかったかな」
「えっ。じゃあジェラート作成も夢じゃなくなるのん。あ、でも保存容器がないとダメかなぁ……」
お土産を抱えて戻って来たイスフェリアの言葉に目を輝かせるミィナ。メルヴェイユがたおやかに首を傾げる。
「わたくし、氷については良く存じ上げませんが、確か大きな街には魔導式の冷凍庫が存在すると伺ったことがございます」
「ええっ。ホントなのん!?」
「はい。ただ高価なものでございますし、定期的にメンテナンスも必要とのことですから、そう簡単に手に入るとは思えませんけれど……」
「お、お金! お金貯めるのん!!」
「クリムゾンウェストの冷蔵庫事情は大変なんですね……」
新たな夢が出来てテンションが上がるミィナに観智がしみじみと呟く。
その横で、柊羽がジェラートに噛り付きながらガイド本を眺めていた。
リアルブルーといえば、父の故郷だ。この機会にゆっくり観て回りたい。
とはいえ、1人で回れば迷子必至だったし。レギ達と合流出来て良かった……。
そんなことを考えながら、次の目的地を探す。
「ここから比較的近い緑地っていうと、ボルゲーゼ公園かな」
「柊羽様はそういえば、緑が見たいって仰っておられましたわね」
「あ、うん。それはまあそうなんだけど……ほら。レギさん、顔色悪かっただろ。ちょっとのんびりして貰った方がいいかなと思ってさ」
「……確かにそうですわね。緑地にいられる時間は、長めに設定致しましょう」
柊羽の優しさに気づき、こくりと頷くフィロ。
彼女も、具合が悪そうなレギを見て言いたいことがあった。
――人は1人で生きるものではない。
自分達オートマトンも、目を覚まさせてくれた誰かが居るからここに居るのだ。
……何かあれば告げて欲しい。頼って欲しい。心と身体は繋がっている。
きちんと声をあげていただければ、皆で考えることができるから――。
強化人間である彼のことは、1人で何とか出来ることではないから。余計にそう思う。
「素敵な街だね」
「事実ではない、諺ですが。『全ての道は、ローマに通ず』と言われたくらい、この街は繁栄を極めたんですよ。人の交流や物流の中心地だったんです」
「そうだったんだ……。わたしは赤しか知らないから、青は新鮮。でも、ずっと離れていると、やっぱり故郷が懐かしくなるよね」
「ええ。故郷は誰にとっても特別な場所ですよね」
「観智さんはリアルブルーの生まれなんでしょう?」
「はい。この街ではありませんがね」
「故郷……にございますか。オートマトンは、元はエバーグリーンで生まれた種族でございます。わたくしはエバーグリーンを知らず、ともすればクリムゾンウェストが故郷なのでしょうか……」
観智の穏やかな声に頷くイスフェリア。続いたメルヴェイユの言葉に彼女は慌てる。
「あ、あの。ごめんなさい……!」
「いいえ。お気になさらないでください」
「故郷はなくとも、作ることは出来ますよ。メルヴェイユさんにも心の故郷が出来るといいですね」
「ええ、ありがとうございます。観智様はお優しい方でございますね」
観智とメルヴェイユの言葉にハッとするイスフェリア。
……自分にとって、オイマト族や辺境は――心の故郷なのだろうか。
――そう、呼んでも良いのだろうか?
彼女の思考を遮るように、アルスレーテの声が聞こえて来た。
「ごめん! お待たせー!」
「うわ。アルスレーテさん随分買い込んだのん!」
「だって、彼何でも似合うから……!」
ナチュラルに惚気るアルスレーテに苦笑する仲間達。
柊羽とフィロはレギから荷物を奪うとスタスタと歩き出す。
「ちょ、ちょっと柊羽さん?! フィロさんも! 僕自分で持てますから!」
「苦情は後で聞くよ。ほら、次行こ、次!」
「ええ、後でじっくりお話したいこともございますから」
有無を言わさぬ笑みを浮かべる2人。レギは気圧されたのか、こくりと頷いた。
「ローマはここのジェラートがおススメですよ。一番有名な店なんです」
「わー! 沢山種類あるー! どれにしようか迷っちゃうなあ」
「交換して食べればいいよ」
レギの案内でパンテオンと呼ばれる神殿の近くにやって来たリューリ・ハルマ(ka0502)とアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
全てのローマの神に奉げられたその神殿は、石造りとは思えぬほどに大きく、荘厳という言葉かぴったりで……その近くにあるジェラート屋も何だか風情があった。
リューリとアルトは生クリームがたっぷり添えられたジェラートに舌鼓を打ちながらレギを見る。
「レギ君、何かあちこち連れて行って貰っちゃってごめんねー」
「今日はお誘いありがとう。一度来てみたかったから嬉しいよ」
「いえ。素敵なレディをエスコートする栄誉を賜って光栄ですし」
「そんなこと言ってるけど大丈夫?」
「何がです?」
「……身体の具合だよ。今日はずっと青い顔してる」
お姉さん達の目線を受け止めて涼しい顔をしていたレギ。
暫くしてはあ……と小さくため息をつく。
「……やっぱりお2人は騙せないかな。最近何か頭痛くて、耳鳴りがするんです」
「え。大丈夫なの?」
「原因は分かってるのかい?」
「いえ。そこまでは。大したことありませんし」
「ダメだよ! ちゃんと診て貰わなきゃ! 何事も身体が資本なんだからね! ね、アルトちゃん?」
レギをめっと叱りつつ親友に話を振ったリューリ。
いつまで待っても返事がないので横を見ると、アルトはいつの間にか路上にいる弾き語りに夢中になっていた。
「……アルトさん?」
「あっ。話の途中でごめん。いい曲だったからつい……」
「ううん。いいんだよ。アルトちゃん演奏聞きたいって言ってたもんね」
「僕の天使さんは歌が好きなんですね」
「うん。それもあるんだけど。ここは僕のご先祖様が暮らしてた街だって聞いてね。折角、こっちに来れたんだからご先祖様の国の音楽とか覚えて家族にも伝えたいと思って……というか、その呼び方やめない?」
「あはは。で、アルトちゃん。歌覚えられそう?」
「あ、うん。あの弾き語りの人が歌ってる曲はそんなに難しくないからね。歌詞までは分からないから、メロディだけだけど……ちょっと歌ってみようか。こう見えても歌は得意なんだよ」
「わあ! 聞きたい! レギ君、アルトちゃん歌とっても上手だから聞いた方がいいよ!」
リューリの声にウインクで応えたアルト。
古の神殿の前に立ち、歌い始める。
広場に響く彼女の伸びやかな声。
――彼女は知らないだろうが。
この歌は、暗闇を照らす光の守護者の歌だ。
……迷いし者を導く天使の声。それはレギの頭に響いて――少しだけ、頭痛が和らいだような気がした。
「リアルブルーでゆっくりするのは初めてだね。何か新鮮な感じ」
「そりゃ何よりだ」
「ソルはリアルブルーに慣れてるのかい?」
「んー? 初めてじゃないが、ローマじゃあ無かったなあ」
「え。『楽しみにしてろ』なんて言うから何も調べて来なかったよ? 大丈夫かい?」
「大丈夫だって。ほら、こっちだ」
そんな軽口を叩き合うソレル・ユークレース(ka1693)とリュンルース・アウイン(ka1694)。
入り組んだ石畳の細い道。その先に現れた壮大な噴水に目を細めるリュンルース。
相棒を迷わずにここまで連れて来られたことに、ソレルは人知れず胸を撫で下ろす。
「こちらがローマの観光名所、トレヴィの泉でございます、ってね」
「……綺麗だ。良くこんな場所知ってたね」
「まあな。ちょっと待ってろよ」
そう言い、泉に背を向けるソレル。そのまま手にした2枚のコインを放り投げる。
軽い音をさせて泉に消えたそれを見て、リュンルースは首を傾げた。
「今のは何?」
「おまじないさ。この泉には願いが叶うという伝説があるらしい。泉に背を向けてコインを2枚投げると大切な人と永遠に一緒にいられるそうだぞ。ルースもやってみろよ」
「私は遠慮しておくよ」
「え。何でだよ」
「……別に願掛けをしなくても、私はソルとずっと一緒にいるから」
ルースの言葉に、虚を突かれたソル。目を泳がせて頭を掻きながらぼそりと口を開く。
「えっと。その、何だ。お前はずっと俺が守る」
「ふふ。ありがとう。頼りにしているよ」
「おう。……ルース、腹減ってないか? 飯食いに行くか」
「うん。いい場所に連れてってくれるんでしょ?」
見つめ合い、はにかんだ笑みを浮かべた2人。そのまま連れ立って歩き出す。
「わああ! 揺れるうううう!」
「すみません、静かに運転してるんですけど……!」
「いいよー! これも面白いしきゅんきゅんするしー!」
ママチャリに2人乗りして疾走するイェルズ・オイマト(kz0143)とシアーシャ(ka2507)。
ローマは美しい街だが、石畳が多い。その分、揺れが激しくなる。
――何故こんな状況になっているかというと。
シアーシャはリアルブルーの古い恋物語の情報を仕入れたらしい。
どこで調べたのか、乙女は乙女ちっくな話に敏感である。
そこでシアーシャはイェルズを誘い出し、早速ヒロインがローマを散策するシーンを再現しようとしたのだが、スクーターを借りるには『メンキョ』とやらが必要だった。
『メンキョ』がなくても乗れると勧められたのがママチャリだったという訳で――。
「はい、これどうぞ」
「わーい! 美味しそう!! あ。あたしばっかり楽しんでごめんね」
「いえ。俺も楽しいですし」
ジェラートを受け取りつつ、まじまじと赤毛の青年を見つめるシアーシャ。
その目線に気づいて、イェルズが首を傾げる。
「何です?」
「イェルズさんにとって1番大切なものって何かなって思って」
「ん? うーん……。家族と……あとは友達、ですかね」
「そっか! 友達は大事だよね!」
「はい。いつも助けて戴いてます。ここんとこカッコ悪いとこばっかり見せてたからちょっと取り返さないと」
「あはは。いつでもカッコよくいられる人なんていないよー。あ。そうだ。バタルトゥさん達にお土産買って行かない?」
「あ、いいですね。お土産買えるとこ行きましょうか」
再びママチャリに乗って散策を始める2人。何やかや、ローマを満喫しているようだった。
「どこも人が多いな……」
石畳に吸い込まれる鳳凰院ひりょ(ka3744)の呟き。
別に友達がいない訳ではないが……何となく1人で観光したかった。
自分に言い訳をしつつ、人混みを避けるようにして歩き……。気づけば、『真実の口』と呼ばれる像の前にやって来ていた。
この像の口に、嘘や偽りの心をもつ人間が手を入れると抜けなくなるという伝承がある。
ひりょは何気なく手を入れて……。
――あれ? ちょっと待て。抜けない……?
俺の心に偽りがあるとでも言うのだろうか?
……俺は心の思うままに。ハンターとして人々の笑顔を守る為に戦ってきた。
その気持ちに偽りはないし、行動にも誤りはない、と思う。
――本当に?
血を血で洗う、戦いに身を投じる日々を望んでいたか?
……違う。それは違う。
俺は、皆と共に笑顔でいられる日々を望んでいた筈だ……。
「……あ。抜けた」
呟き、抜けた手を見つめるひりょ。
忘れるな。戦いはあくまでも手段だ。
友人や、あの子の笑顔を守る為の。
――総帥をお守りしたいなら……もっと強くなって下さい。
頭を過ぎるあいつの声。
ああ、そうだ。その為に――。
顔をあげるひりょ。高ぶった気を落ち着ける為、彼は涼を求めて歩き出した。
街の喧騒から逃れ、ため息をつく志鷹 都(ka1140)。
彼女がいるボルゲーゼ公園はローマで最も大きな公園で、遊歩道と花壇の間に彫刻や噴水、神殿が点在している。
勿論歴史を感じさせる神殿も素敵だったけれど。
きらきらと日光を照り返す湖。木漏れ日が揺れる静かな庭園が美しくて――苦しい事も悲しい事も忘れて自然を満喫していたら、気が付けば日が傾いていた。
流石に足に疲れを感じ、ベンチに腰掛ける都。
ふと、夕方の涼やかな風に乗って、伸びやかな歌声が聞こえて来て……ふと目線をやると、歳の頃は10歳程だろうか。少女が譜面を見ながら一生懸命歌っている。
その歌声が何とも愛らしくて、都は思わず拍手を送る。
「……!?」
「こんにちは。驚かせてしまってごめんなさいね。貴女の歌があまりにも素敵だったものだから」
「あ……ありがとう」
「貴女、とっても歌が上手なのね。どうしてこんなところで歌っているの?」
「……もうすぐ、学校で発表会があるの。だから、練習してたんだ」
「そうだったの。……ねえ、今の歌、私にも教えて貰えないかしら」
「お姉さんも歌うの?」
「ええ。素敵な歌を聞かせて貰ったお礼に練習のお手伝いをさせて貰えたらなって。どうかしら」
都の申し出に、少女ははにかんだ笑みを浮かべて頷き……。
――2人の唄声は、日が暮れるまで続いた。
「おお~。……凄い」
「ホント凄いよねー!」
「……真夕はリアルブルーの人なのにここに来たことないの?」
「うん。私が住んでたの別な場所だからね。ローマ、一度行ってみたかったから嬉しい!」
満面の笑みを浮かべる七夜・真夕(ka3977)に頷き返す雪継・紅葉(ka5188)。
ここが、自分達とは違う世界。そして真夕がいた世界――。
初めて触れる空気や文化に、紅葉の心も高鳴る。
「次はあっちに行くよ! ついてきて!」
「うん」
恋人の手を引き、意気揚々と歩く真夕。
2人は朝からずっと食べ歩きをしながらローマの街を巡っていた。
コロッセオや遺跡は立派だったし、真実の口と呼ばれる像は面白い顔をしていたし。
そしてやって来たこの場所も、豪華な彫刻装飾から沢山の水が湧き出していた。
「……真夕、このコインどうするの?」
「この泉に背を向けて投げ入れてみて? 言っとくけど、真面目によ。真面目に!」
「何か意味あるの?」
「ある! 大ありよ! 後で教えてあげるから!」
真顔で2枚の硬貨を渡されてかくりと首を傾げる紅葉。言われるがままに硬貨を投げると、真夕は満足そうに笑う。
「あのね、この泉には背を向けてコインを投げると願いが叶うっていう伝承があってね。1枚だと再びローマに戻ってくることができ、2枚だと大切な人と永遠に一緒にいられるんだって」
「ああ、そういうことだったんだ……」
「うん。だからちょっとムキになっちゃった」
あはは……と笑う真夕。ムキになった理由が嬉しくて、紅葉はそっと彼女の頬に唇を寄せる。
「……ボクはどっちの世界でも、ずっと真夕と一緒にいるよ」
「ありがと! ずっと仲良く、一緒にいようね」
紅葉を抱き寄せる真夕。
――願わくばこの先も、ずっと2人で。
「さあ、お買い物に行くですよ!」
「はいっ! ……って、何でディがいるですかね?」
「僕がいたら困る?」
「困らないです。お友達と一緒はいい事です」
「だよね♪」
頷き合うエステル・ソル(ka3983)とグラディート(ka6433)。
雲雀(ka6084)だけが1人アワアワしていた。
「……ひばりちゃん?」
「え? 何ですか? 雲雀は何時もと変らんですたい! さあ行くですよー!」
「とか言うけど雲雀、右手と右足、左手と左足が同時に出てるよ?」
「はわぁ!!?」
そんなやり取りをしつつローマの街を歩く3人。小間物や家具の店を順番に回る。
古い都はとても綺麗で、時間を忘れて歩いていたけれど……幼馴染達の疲れを察知したグラディートは、言葉巧みにお洒落なカフェに誘導していた。
ちなみに彼が取った行動は完璧に女ったらしのそれである。
「エスティ、雲雀。これ今日の記念にどうぞ。皆で色違いのお揃いだよ」
「わあ……。綺麗なハンカチなのです!」
「あ、ありがとうございます……」
「食器とか見てるから何かと思ったけど、そっか。エスティ一人暮らしするんだっけ」
「そうなのです。ひばりちゃんが一緒なので、完全に一人という訳じゃないんですけど」
「あ、はい! 私にお任せください!」
「へえ。いいなあ。引っ越ししたら僕お呼ばれしようかな」
「はいです。遊びに来てくださいd……」
「ダメですよう! レディのお家に気軽に来たら! エステルは心に決めた人もいるですし!!」
「へえ? 初耳ー。どんな人なの?」
「ひばりちゃん、ディは家族みたいなものですから……って、えっ??」
突然想い人の話を振られて赤面するエステル。グラディートはくすくす笑いながらパスタを口に運ぶ。
「あ、このトマトソース美味しいよ」
「むむ。本当ですね……!」
「レシピさん教えて貰えないですかね……。あっ。このジェラートさん1人づつ違うです! 全部食べてみたいです!」
「もー。仕方ないですね。じゃあ、ジェラートは皆で……」
「雲雀、それ一口頂戴」
雲雀が言い終わる前に彼女のジェラートに噛り付くグラディート。
彼の歯形がくっきり残るそれを見て固まる。
えっと。これってあの。間接的なアレになりませんかね……!?
「ん。美味しい。2人共も食べてごらんよ」
「………」
「はーい! ……ひばりちゃん? 食べないです?」
「た、食べますよ? こんなの何でもないですよ!」
「ひばりちゃん、顔真っ赤です。お熱あるですか?」
「んー。ちょっと雲雀には刺激が強すぎたかな」
「……???」
くすりと笑うグラディートに首を傾げるエステル。
――それからというもの、雲雀はぼんやりとしたままだった。
「デートをしましょう、中尉」
「何だ? 今をときめくお訊ね者とデートなんて変わってるな」
「茶化さないで頂戴。ちょっと話がしたいのよ」
有無を言わさぬ笑顔でジェイミー・ドリスキル(kz0231)の手を引くマリィア・バルデス(ka5848)。
人気のないバーに連れて行き、彼の前にウィスキーを置く。
「お、気が利くねぇ」
「これさえあれば貴方のストレスは閾値を越えずに済むかしら」
「ん? これは俺にとって水みたいなもんだぜ?」
「ないと生きていけないってことね?」
ドリスキルの軽口に応えるマリィア。彼女はカクテルを頼むと、彼に目線を送る。
「ねえ。中尉が強化人間になる時、誓約書で気になる文言はなかったかしら」
「誓約書だぁ? 記憶にねえな」
「そう。……中尉。強化人間って何だと思う?」
「何って歪虚に対抗するべく生み出されたもんだろ」
「そうね。私は……強化人間とは、契約者じゃないかと疑ってる。契約といっても直接じゃなくて孫契約くらいでしょうけど……」
「ケーヤクシャ? 何だそりゃ。新型CAMの名前か?」
ウィスキーを煽るドリスキルに驚愕の表情を向けるマリィア。
対歪虚の戦力として生み出しておきながら、歪虚と契約者の関係すら教えられていないなんて……。
その話をするにしても、まずは、彼に大事なことを伝えなくてはならない。
マリィアはそっとドリスキルの手を取り、熱っぽい目で彼を見つめる。
「とにかく貴方を呪縛から解き放つには時間がかかるの。そこに辿り着くまで……折れないで。死なないでほしいの、ジェイミー」
「……愛の言葉にしては色気がないが、女の頼みを断るほど野暮でもない。折角だ、このまま夜明けの珈琲でも一緒に飲むか?」
「貴方が歪虚と契約者の関係についての授業を受けてくれるなら考えてあげてもいいけど?」
にっこりと笑うマリィア。ドリスキルは肩を竦めて見せた。
「んっふっふ。イケメンとデートだなんて生き返るザマス!」
「ええ、とことんエスコートさせて戴きますよ」
トリプルJ(ka6653)のエスコートに目をキラキラとさせる森山恭子(kz0216)。
言動はアレだが、恭子の居住まいはとても上品で……彼女の若かりし頃はなかなかの上玉だったのではないかとトリプルJは思う。
「……さて。1つ相談しても宜しいですか、館長?」
「なんざましょ」
「強化人間について、艦長はどこまでご存知ですか? 彼らの力の源は負のマテリアルです。いわば、歪虚に近いものではないかと考えているのですが……」
「……強化人間については、わたくし達にも詳細は知らされていないザマス。ただ、ハンターにも負けぬ力を持つ兵だとだけ……」
目を伏せる恭子。歪虚に対抗する力を持たぬリアルブルーが生み出した希望の星。
だが現実はどうだ。
強化人間は暴走し、排斥運動まで起こりつつある。
それが分かっているからこそ、こうしてトリプルJは話をしに来たのだ。
「正直、俺も彼らが何であるかは分かりません。でも、このままにはしておけない。下手したら……」
――大量に歪虚が発生する事態になる。その言葉の代わりにため息を漏らす彼。
恭子もそれを察したのか、慎重に言葉を選ぶ。
「わたくしも彼らを守るべき、とは思っているザマスが……」
恭子も軍の中で認められつつあるが、微妙な立場であることは変わらないのだろう。
それでも。彼らが助けられるなら……。トリプルJは深く頭を下げる。
「彼らが何であるのか見極めるまで、メンタルケアを厚くすべきと考えます。そういったことに従事できるスタッフを、ラズモネ・シャングリラに手配できないでしょうか」
「お約束はできないザマスが、検討はするザマス。……それで宜しいザマスね?」
「はい。ありがとうございます。さすが艦長は出来る女ですね」
「あら。お世辞も上手ザマスね」
満更でもない恭子に、トリプルJはイケメンスマイルを返した。
「考えてみれば、この地にはアスガルドや強化人間と関わる以外で訪れたことはありませんでした。これは真剣に取り組むべき案件だと判断します」
「うん。そうだね。楽しみたいよね」
大真面目な顔で観光ガイドを読んでいるトラウィス(ka7073)にあははと笑う深守・H・大樹(ka7084)。
トラウィスは本から顔を上げずに続ける。
「大ちゃん様は行きたい場所はありますか?」
「僕? 僕は是非イタリアのアイスを食べてみたい」
「ふむ。ジェラートでしたか。いくつか店舗があるようですね」
「じゃあ早速行ってみようよ」
「お待ちください。電車の乗り方を調べます」
どこまでも用心深いトラウィス。彼に任せておけば大丈夫そうだなあーなんて、大樹はのんびりと考えて……。
そんなことがありながら、電車やバスを乗り継いで。
2人はあちこちの店でジェラートを堪能していた。
「ふむ。ローマではジェラートに生クリームを乗せるのが主流なのですね」
「たっぷり乗っててアイスが見えないや! でもおいしいね。いくつか食べたけど、トラちゃんくんはどの味が気に入った?」
「そうですね。ピスタチオナッツの味が良かったでしょうか。濃厚かつさっぱりしていました。大ちゃん様は?」
「僕はレモンのがさっぱりしてて好きだな!」
「……そういえばどの店でもレモン味を頼まれていましたね。飽きませんか?」
「全然? お店によって味違うし。トラちゃんくんが別な味のジェラート分けてくれるしね!」
「そうですか。ではこちらもどうぞ。今回はチョコレートです」
「ありがと! 僕はヨーグルトにしてみたよ!」
ジェラートを交換してにこにこする2人。交換すれば、楽しさも美味しさも2倍だ。
永遠の都、ローマ。
街は人々の喜び、不安を抱えて――それでも止まらずに進んで行く。
リアルブルーが不穏な波に覆われても、この日の思い出はハンター達の胸に明るく輝き続けるだろう。
「永遠の都とも称される街ですからね。ローマ帝国だけでも2000年の歴史があると言います。盛者必衰とは言いますけれど……かつての繁栄の跡は、街並みにしっかりと息づいていますね」
「観智さん詳しいのん。ローマ来たことあるのん?」
「いえ、本で読んだだけです。……今日は実際に見て回れると良いんですが」
目を丸くするミィナ・アレグトーリア(ka0317)に淡々と答える天央 観智(ka0896)。
その横で、女性陣に囲まれたレギ(kz0229)が鼻の下を伸ばしていた。
「わたくしリアルブルーは初めてですので、レギ様にご一緒いただきたいのですが……よろしいでしょうか?」
「レギさんのおすすめの場所とか食事とか、教えてほしいな」
「はい。ご案内戴けると嬉しいです」
「勿論です! 両手に花どころか両手に花いっぱいで嬉しいですね! 観智さん!」
「……僕は別にローマが見られればそれでいいんですが」
「……全ての男性が女性基準に動いてる訳じゃないわよ、レギ」
メルヴェイユ(ka7240)とイスフェリア(ka2088)、フィロ(ka6966)のお願いを安請け合いするレギ。
観智のツレない返事にショックを受ける彼に、アルスレーテ・フュラー(ka6148)のツッコミが炸裂して……氷雨 柊羽(ka6767)は噴き出しそうになるのをぐっと堪える。
「ローマと言っても色々あるんですけど、皆さん行ってみたい場所あります?」
「僕は緑が見てみたい……かな」
「真実の口と言いましたでしょうか? そこに行ってみたいです」
「願いごとの叶う泉があるそうでございますね。是非お伺いしたく思います」
「あたしは洋服が見たいわ」
「ジェラートの食べ歩きしたいのん!」
「私はちょっとお土産が見たいかな」
レギの問いかけに答えた柊羽とフィロ、メルヴェイユ。続いたアルスレーテとミィナ、イスフェリアの言葉に、観智が深々とため息をついた。
「……どうやら強行軍になりそうですね」
「レディ、相席宜しいですカ?」
「……あら? アルヴィンさんじゃないの。どうぞ」
ローマの街をあちこち巡り、カフェテリアのテーブル席でドルチェとカプチーノを頼み一息ついていたフィルメリア・クリスティア(ka3380)。アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)の声に笑顔を返す。
「どうダイ? ローマは楽しんでル?」
「お陰様でね。そういう貴方はどうなの?」
「トレヴィの泉やコロッセオを見て来たヨ! ここは古いモノが沢山あってイイネ。ジェラートというのも食べて来たけど美味しかったシ……そういうフィルメリアさんは随分大荷物ダネ」
「ああ、これ? 大半がアスガルドの子供達の洋服なのよ。……成長期だもの。目が覚めたら、きっと必要になるでしょう」
当たり前のことのようにさらりと言ったフィルメリア。アルヴィンはテーブルのエスプレッソに目線を落とす。
「フィルメリアさんは、強化人間についての噂や話を聞いたカイ?」
「ええ。……残念ながらあまりいい話は聞けなかったけれど」
「……そうだネ」
2人の間に流れる沈黙。
彼らがローマの市街で聞いた強化人間の噂は、お世辞にもあまり良いものとは言えなかった。
この街は直接強化人間達による被害は受けていないけれど。
それでも、『歪虚に立ち向かう為に生み出された希望』である存在が暴走し、反旗を翻すというのは平穏に暮らす人々にとっては十分センセーショナルだったのだろう。
「新聞には強化人間達を導入した軍や首脳陣の責任まで追及する記事があったわ」
「僕も読んだヨ。強化人間の排斥運動に発展するのモ、そう遠い未来じゃないかもしれないネ」
アルヴィンの言葉に、ため息を漏らすフィルメリア。
今のリアルブルーは、強化人間達にとっては厳しい場所だ。何とかしたいとは思うけれど――その答えが、見えてこなかった。
「あの。アルスレーテさん。そろそろ移動開始しないと時間がですね……」
「何言ってるの!? まだ見始めたばっかりじゃない!!」
サンタンジェロ城からテベレ川沿いを歩き、スペイン広場を目指していたハンター達は、その途中にある高級ブティックに引っかかっていた。
いや、正確にいえばアルスレーテのみここに用事があった訳だが。
そう。彼女にはローマの地でやりたい事があった。遊びで済ませていい問題ではない、本気の事が。
そう! 即ち!
故郷の集落でクソババア……もとい、お母様と一緒にまだ幼い妹たちの世話をさせられてるはずの愛しい彼に、リアルブルー土産の服を買って帰るのだ!
そうすれば! 恋人としては勿論、嫁としての点数もぐぐんとアップするはずだ!
そう! あの人を救うヒロインだよ! やったね!!
「……というわけでレギ。あの人、身長や体格はレギと大差ないはずだから、着せ替え人形になって? ついでに荷物持ちになってくれると嬉しいんだけど」
「えっと……」
「……あの。私も買い物とかしてるから、気にせず続けて?」
「ミィナさん達は外でジェラートを食べているから気にしないで、とのことでした。頑張ってくださいね」
仲間達に助けを求める目を向けたレギだが、イスフェリアと観智にばっさり切り捨てられる。
という訳で! アルスレーテによる着せ替え人形チャレンジ! はーじまーるよー!
「んんー! ジェラート美味しいのん! いくらでも食べられそうなのん」
「レギさんによると、ジェラートに生クリームを乗せる食べ方が本場流だそうですね」
「生クリームはローマの言葉でパンナと言うそうでございます。甘すぎなくて美味しゅうございますね」
「ふーん。ジェラートの食べ方にも色々あるんだなあ」
その頃。ミィナとフィロ、メルヴェイユと柊羽はローマ名物のジェラートに舌鼓を打っていた。
色々な味がショウケースに並んでいて、ミィナはうっとりとため息をつく。
「こんなに沢山一度に冷やせて羨ましいのん……。このジェラートってうちでも作れんかなぁ」
「……氷って割と楽に手に入るようになってるんじゃなかったかな」
「えっ。じゃあジェラート作成も夢じゃなくなるのん。あ、でも保存容器がないとダメかなぁ……」
お土産を抱えて戻って来たイスフェリアの言葉に目を輝かせるミィナ。メルヴェイユがたおやかに首を傾げる。
「わたくし、氷については良く存じ上げませんが、確か大きな街には魔導式の冷凍庫が存在すると伺ったことがございます」
「ええっ。ホントなのん!?」
「はい。ただ高価なものでございますし、定期的にメンテナンスも必要とのことですから、そう簡単に手に入るとは思えませんけれど……」
「お、お金! お金貯めるのん!!」
「クリムゾンウェストの冷蔵庫事情は大変なんですね……」
新たな夢が出来てテンションが上がるミィナに観智がしみじみと呟く。
その横で、柊羽がジェラートに噛り付きながらガイド本を眺めていた。
リアルブルーといえば、父の故郷だ。この機会にゆっくり観て回りたい。
とはいえ、1人で回れば迷子必至だったし。レギ達と合流出来て良かった……。
そんなことを考えながら、次の目的地を探す。
「ここから比較的近い緑地っていうと、ボルゲーゼ公園かな」
「柊羽様はそういえば、緑が見たいって仰っておられましたわね」
「あ、うん。それはまあそうなんだけど……ほら。レギさん、顔色悪かっただろ。ちょっとのんびりして貰った方がいいかなと思ってさ」
「……確かにそうですわね。緑地にいられる時間は、長めに設定致しましょう」
柊羽の優しさに気づき、こくりと頷くフィロ。
彼女も、具合が悪そうなレギを見て言いたいことがあった。
――人は1人で生きるものではない。
自分達オートマトンも、目を覚まさせてくれた誰かが居るからここに居るのだ。
……何かあれば告げて欲しい。頼って欲しい。心と身体は繋がっている。
きちんと声をあげていただければ、皆で考えることができるから――。
強化人間である彼のことは、1人で何とか出来ることではないから。余計にそう思う。
「素敵な街だね」
「事実ではない、諺ですが。『全ての道は、ローマに通ず』と言われたくらい、この街は繁栄を極めたんですよ。人の交流や物流の中心地だったんです」
「そうだったんだ……。わたしは赤しか知らないから、青は新鮮。でも、ずっと離れていると、やっぱり故郷が懐かしくなるよね」
「ええ。故郷は誰にとっても特別な場所ですよね」
「観智さんはリアルブルーの生まれなんでしょう?」
「はい。この街ではありませんがね」
「故郷……にございますか。オートマトンは、元はエバーグリーンで生まれた種族でございます。わたくしはエバーグリーンを知らず、ともすればクリムゾンウェストが故郷なのでしょうか……」
観智の穏やかな声に頷くイスフェリア。続いたメルヴェイユの言葉に彼女は慌てる。
「あ、あの。ごめんなさい……!」
「いいえ。お気になさらないでください」
「故郷はなくとも、作ることは出来ますよ。メルヴェイユさんにも心の故郷が出来るといいですね」
「ええ、ありがとうございます。観智様はお優しい方でございますね」
観智とメルヴェイユの言葉にハッとするイスフェリア。
……自分にとって、オイマト族や辺境は――心の故郷なのだろうか。
――そう、呼んでも良いのだろうか?
彼女の思考を遮るように、アルスレーテの声が聞こえて来た。
「ごめん! お待たせー!」
「うわ。アルスレーテさん随分買い込んだのん!」
「だって、彼何でも似合うから……!」
ナチュラルに惚気るアルスレーテに苦笑する仲間達。
柊羽とフィロはレギから荷物を奪うとスタスタと歩き出す。
「ちょ、ちょっと柊羽さん?! フィロさんも! 僕自分で持てますから!」
「苦情は後で聞くよ。ほら、次行こ、次!」
「ええ、後でじっくりお話したいこともございますから」
有無を言わさぬ笑みを浮かべる2人。レギは気圧されたのか、こくりと頷いた。
「ローマはここのジェラートがおススメですよ。一番有名な店なんです」
「わー! 沢山種類あるー! どれにしようか迷っちゃうなあ」
「交換して食べればいいよ」
レギの案内でパンテオンと呼ばれる神殿の近くにやって来たリューリ・ハルマ(ka0502)とアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
全てのローマの神に奉げられたその神殿は、石造りとは思えぬほどに大きく、荘厳という言葉かぴったりで……その近くにあるジェラート屋も何だか風情があった。
リューリとアルトは生クリームがたっぷり添えられたジェラートに舌鼓を打ちながらレギを見る。
「レギ君、何かあちこち連れて行って貰っちゃってごめんねー」
「今日はお誘いありがとう。一度来てみたかったから嬉しいよ」
「いえ。素敵なレディをエスコートする栄誉を賜って光栄ですし」
「そんなこと言ってるけど大丈夫?」
「何がです?」
「……身体の具合だよ。今日はずっと青い顔してる」
お姉さん達の目線を受け止めて涼しい顔をしていたレギ。
暫くしてはあ……と小さくため息をつく。
「……やっぱりお2人は騙せないかな。最近何か頭痛くて、耳鳴りがするんです」
「え。大丈夫なの?」
「原因は分かってるのかい?」
「いえ。そこまでは。大したことありませんし」
「ダメだよ! ちゃんと診て貰わなきゃ! 何事も身体が資本なんだからね! ね、アルトちゃん?」
レギをめっと叱りつつ親友に話を振ったリューリ。
いつまで待っても返事がないので横を見ると、アルトはいつの間にか路上にいる弾き語りに夢中になっていた。
「……アルトさん?」
「あっ。話の途中でごめん。いい曲だったからつい……」
「ううん。いいんだよ。アルトちゃん演奏聞きたいって言ってたもんね」
「僕の天使さんは歌が好きなんですね」
「うん。それもあるんだけど。ここは僕のご先祖様が暮らしてた街だって聞いてね。折角、こっちに来れたんだからご先祖様の国の音楽とか覚えて家族にも伝えたいと思って……というか、その呼び方やめない?」
「あはは。で、アルトちゃん。歌覚えられそう?」
「あ、うん。あの弾き語りの人が歌ってる曲はそんなに難しくないからね。歌詞までは分からないから、メロディだけだけど……ちょっと歌ってみようか。こう見えても歌は得意なんだよ」
「わあ! 聞きたい! レギ君、アルトちゃん歌とっても上手だから聞いた方がいいよ!」
リューリの声にウインクで応えたアルト。
古の神殿の前に立ち、歌い始める。
広場に響く彼女の伸びやかな声。
――彼女は知らないだろうが。
この歌は、暗闇を照らす光の守護者の歌だ。
……迷いし者を導く天使の声。それはレギの頭に響いて――少しだけ、頭痛が和らいだような気がした。
「リアルブルーでゆっくりするのは初めてだね。何か新鮮な感じ」
「そりゃ何よりだ」
「ソルはリアルブルーに慣れてるのかい?」
「んー? 初めてじゃないが、ローマじゃあ無かったなあ」
「え。『楽しみにしてろ』なんて言うから何も調べて来なかったよ? 大丈夫かい?」
「大丈夫だって。ほら、こっちだ」
そんな軽口を叩き合うソレル・ユークレース(ka1693)とリュンルース・アウイン(ka1694)。
入り組んだ石畳の細い道。その先に現れた壮大な噴水に目を細めるリュンルース。
相棒を迷わずにここまで連れて来られたことに、ソレルは人知れず胸を撫で下ろす。
「こちらがローマの観光名所、トレヴィの泉でございます、ってね」
「……綺麗だ。良くこんな場所知ってたね」
「まあな。ちょっと待ってろよ」
そう言い、泉に背を向けるソレル。そのまま手にした2枚のコインを放り投げる。
軽い音をさせて泉に消えたそれを見て、リュンルースは首を傾げた。
「今のは何?」
「おまじないさ。この泉には願いが叶うという伝説があるらしい。泉に背を向けてコインを2枚投げると大切な人と永遠に一緒にいられるそうだぞ。ルースもやってみろよ」
「私は遠慮しておくよ」
「え。何でだよ」
「……別に願掛けをしなくても、私はソルとずっと一緒にいるから」
ルースの言葉に、虚を突かれたソル。目を泳がせて頭を掻きながらぼそりと口を開く。
「えっと。その、何だ。お前はずっと俺が守る」
「ふふ。ありがとう。頼りにしているよ」
「おう。……ルース、腹減ってないか? 飯食いに行くか」
「うん。いい場所に連れてってくれるんでしょ?」
見つめ合い、はにかんだ笑みを浮かべた2人。そのまま連れ立って歩き出す。
「わああ! 揺れるうううう!」
「すみません、静かに運転してるんですけど……!」
「いいよー! これも面白いしきゅんきゅんするしー!」
ママチャリに2人乗りして疾走するイェルズ・オイマト(kz0143)とシアーシャ(ka2507)。
ローマは美しい街だが、石畳が多い。その分、揺れが激しくなる。
――何故こんな状況になっているかというと。
シアーシャはリアルブルーの古い恋物語の情報を仕入れたらしい。
どこで調べたのか、乙女は乙女ちっくな話に敏感である。
そこでシアーシャはイェルズを誘い出し、早速ヒロインがローマを散策するシーンを再現しようとしたのだが、スクーターを借りるには『メンキョ』とやらが必要だった。
『メンキョ』がなくても乗れると勧められたのがママチャリだったという訳で――。
「はい、これどうぞ」
「わーい! 美味しそう!! あ。あたしばっかり楽しんでごめんね」
「いえ。俺も楽しいですし」
ジェラートを受け取りつつ、まじまじと赤毛の青年を見つめるシアーシャ。
その目線に気づいて、イェルズが首を傾げる。
「何です?」
「イェルズさんにとって1番大切なものって何かなって思って」
「ん? うーん……。家族と……あとは友達、ですかね」
「そっか! 友達は大事だよね!」
「はい。いつも助けて戴いてます。ここんとこカッコ悪いとこばっかり見せてたからちょっと取り返さないと」
「あはは。いつでもカッコよくいられる人なんていないよー。あ。そうだ。バタルトゥさん達にお土産買って行かない?」
「あ、いいですね。お土産買えるとこ行きましょうか」
再びママチャリに乗って散策を始める2人。何やかや、ローマを満喫しているようだった。
「どこも人が多いな……」
石畳に吸い込まれる鳳凰院ひりょ(ka3744)の呟き。
別に友達がいない訳ではないが……何となく1人で観光したかった。
自分に言い訳をしつつ、人混みを避けるようにして歩き……。気づけば、『真実の口』と呼ばれる像の前にやって来ていた。
この像の口に、嘘や偽りの心をもつ人間が手を入れると抜けなくなるという伝承がある。
ひりょは何気なく手を入れて……。
――あれ? ちょっと待て。抜けない……?
俺の心に偽りがあるとでも言うのだろうか?
……俺は心の思うままに。ハンターとして人々の笑顔を守る為に戦ってきた。
その気持ちに偽りはないし、行動にも誤りはない、と思う。
――本当に?
血を血で洗う、戦いに身を投じる日々を望んでいたか?
……違う。それは違う。
俺は、皆と共に笑顔でいられる日々を望んでいた筈だ……。
「……あ。抜けた」
呟き、抜けた手を見つめるひりょ。
忘れるな。戦いはあくまでも手段だ。
友人や、あの子の笑顔を守る為の。
――総帥をお守りしたいなら……もっと強くなって下さい。
頭を過ぎるあいつの声。
ああ、そうだ。その為に――。
顔をあげるひりょ。高ぶった気を落ち着ける為、彼は涼を求めて歩き出した。
街の喧騒から逃れ、ため息をつく志鷹 都(ka1140)。
彼女がいるボルゲーゼ公園はローマで最も大きな公園で、遊歩道と花壇の間に彫刻や噴水、神殿が点在している。
勿論歴史を感じさせる神殿も素敵だったけれど。
きらきらと日光を照り返す湖。木漏れ日が揺れる静かな庭園が美しくて――苦しい事も悲しい事も忘れて自然を満喫していたら、気が付けば日が傾いていた。
流石に足に疲れを感じ、ベンチに腰掛ける都。
ふと、夕方の涼やかな風に乗って、伸びやかな歌声が聞こえて来て……ふと目線をやると、歳の頃は10歳程だろうか。少女が譜面を見ながら一生懸命歌っている。
その歌声が何とも愛らしくて、都は思わず拍手を送る。
「……!?」
「こんにちは。驚かせてしまってごめんなさいね。貴女の歌があまりにも素敵だったものだから」
「あ……ありがとう」
「貴女、とっても歌が上手なのね。どうしてこんなところで歌っているの?」
「……もうすぐ、学校で発表会があるの。だから、練習してたんだ」
「そうだったの。……ねえ、今の歌、私にも教えて貰えないかしら」
「お姉さんも歌うの?」
「ええ。素敵な歌を聞かせて貰ったお礼に練習のお手伝いをさせて貰えたらなって。どうかしら」
都の申し出に、少女ははにかんだ笑みを浮かべて頷き……。
――2人の唄声は、日が暮れるまで続いた。
「おお~。……凄い」
「ホント凄いよねー!」
「……真夕はリアルブルーの人なのにここに来たことないの?」
「うん。私が住んでたの別な場所だからね。ローマ、一度行ってみたかったから嬉しい!」
満面の笑みを浮かべる七夜・真夕(ka3977)に頷き返す雪継・紅葉(ka5188)。
ここが、自分達とは違う世界。そして真夕がいた世界――。
初めて触れる空気や文化に、紅葉の心も高鳴る。
「次はあっちに行くよ! ついてきて!」
「うん」
恋人の手を引き、意気揚々と歩く真夕。
2人は朝からずっと食べ歩きをしながらローマの街を巡っていた。
コロッセオや遺跡は立派だったし、真実の口と呼ばれる像は面白い顔をしていたし。
そしてやって来たこの場所も、豪華な彫刻装飾から沢山の水が湧き出していた。
「……真夕、このコインどうするの?」
「この泉に背を向けて投げ入れてみて? 言っとくけど、真面目によ。真面目に!」
「何か意味あるの?」
「ある! 大ありよ! 後で教えてあげるから!」
真顔で2枚の硬貨を渡されてかくりと首を傾げる紅葉。言われるがままに硬貨を投げると、真夕は満足そうに笑う。
「あのね、この泉には背を向けてコインを投げると願いが叶うっていう伝承があってね。1枚だと再びローマに戻ってくることができ、2枚だと大切な人と永遠に一緒にいられるんだって」
「ああ、そういうことだったんだ……」
「うん。だからちょっとムキになっちゃった」
あはは……と笑う真夕。ムキになった理由が嬉しくて、紅葉はそっと彼女の頬に唇を寄せる。
「……ボクはどっちの世界でも、ずっと真夕と一緒にいるよ」
「ありがと! ずっと仲良く、一緒にいようね」
紅葉を抱き寄せる真夕。
――願わくばこの先も、ずっと2人で。
「さあ、お買い物に行くですよ!」
「はいっ! ……って、何でディがいるですかね?」
「僕がいたら困る?」
「困らないです。お友達と一緒はいい事です」
「だよね♪」
頷き合うエステル・ソル(ka3983)とグラディート(ka6433)。
雲雀(ka6084)だけが1人アワアワしていた。
「……ひばりちゃん?」
「え? 何ですか? 雲雀は何時もと変らんですたい! さあ行くですよー!」
「とか言うけど雲雀、右手と右足、左手と左足が同時に出てるよ?」
「はわぁ!!?」
そんなやり取りをしつつローマの街を歩く3人。小間物や家具の店を順番に回る。
古い都はとても綺麗で、時間を忘れて歩いていたけれど……幼馴染達の疲れを察知したグラディートは、言葉巧みにお洒落なカフェに誘導していた。
ちなみに彼が取った行動は完璧に女ったらしのそれである。
「エスティ、雲雀。これ今日の記念にどうぞ。皆で色違いのお揃いだよ」
「わあ……。綺麗なハンカチなのです!」
「あ、ありがとうございます……」
「食器とか見てるから何かと思ったけど、そっか。エスティ一人暮らしするんだっけ」
「そうなのです。ひばりちゃんが一緒なので、完全に一人という訳じゃないんですけど」
「あ、はい! 私にお任せください!」
「へえ。いいなあ。引っ越ししたら僕お呼ばれしようかな」
「はいです。遊びに来てくださいd……」
「ダメですよう! レディのお家に気軽に来たら! エステルは心に決めた人もいるですし!!」
「へえ? 初耳ー。どんな人なの?」
「ひばりちゃん、ディは家族みたいなものですから……って、えっ??」
突然想い人の話を振られて赤面するエステル。グラディートはくすくす笑いながらパスタを口に運ぶ。
「あ、このトマトソース美味しいよ」
「むむ。本当ですね……!」
「レシピさん教えて貰えないですかね……。あっ。このジェラートさん1人づつ違うです! 全部食べてみたいです!」
「もー。仕方ないですね。じゃあ、ジェラートは皆で……」
「雲雀、それ一口頂戴」
雲雀が言い終わる前に彼女のジェラートに噛り付くグラディート。
彼の歯形がくっきり残るそれを見て固まる。
えっと。これってあの。間接的なアレになりませんかね……!?
「ん。美味しい。2人共も食べてごらんよ」
「………」
「はーい! ……ひばりちゃん? 食べないです?」
「た、食べますよ? こんなの何でもないですよ!」
「ひばりちゃん、顔真っ赤です。お熱あるですか?」
「んー。ちょっと雲雀には刺激が強すぎたかな」
「……???」
くすりと笑うグラディートに首を傾げるエステル。
――それからというもの、雲雀はぼんやりとしたままだった。
「デートをしましょう、中尉」
「何だ? 今をときめくお訊ね者とデートなんて変わってるな」
「茶化さないで頂戴。ちょっと話がしたいのよ」
有無を言わさぬ笑顔でジェイミー・ドリスキル(kz0231)の手を引くマリィア・バルデス(ka5848)。
人気のないバーに連れて行き、彼の前にウィスキーを置く。
「お、気が利くねぇ」
「これさえあれば貴方のストレスは閾値を越えずに済むかしら」
「ん? これは俺にとって水みたいなもんだぜ?」
「ないと生きていけないってことね?」
ドリスキルの軽口に応えるマリィア。彼女はカクテルを頼むと、彼に目線を送る。
「ねえ。中尉が強化人間になる時、誓約書で気になる文言はなかったかしら」
「誓約書だぁ? 記憶にねえな」
「そう。……中尉。強化人間って何だと思う?」
「何って歪虚に対抗するべく生み出されたもんだろ」
「そうね。私は……強化人間とは、契約者じゃないかと疑ってる。契約といっても直接じゃなくて孫契約くらいでしょうけど……」
「ケーヤクシャ? 何だそりゃ。新型CAMの名前か?」
ウィスキーを煽るドリスキルに驚愕の表情を向けるマリィア。
対歪虚の戦力として生み出しておきながら、歪虚と契約者の関係すら教えられていないなんて……。
その話をするにしても、まずは、彼に大事なことを伝えなくてはならない。
マリィアはそっとドリスキルの手を取り、熱っぽい目で彼を見つめる。
「とにかく貴方を呪縛から解き放つには時間がかかるの。そこに辿り着くまで……折れないで。死なないでほしいの、ジェイミー」
「……愛の言葉にしては色気がないが、女の頼みを断るほど野暮でもない。折角だ、このまま夜明けの珈琲でも一緒に飲むか?」
「貴方が歪虚と契約者の関係についての授業を受けてくれるなら考えてあげてもいいけど?」
にっこりと笑うマリィア。ドリスキルは肩を竦めて見せた。
「んっふっふ。イケメンとデートだなんて生き返るザマス!」
「ええ、とことんエスコートさせて戴きますよ」
トリプルJ(ka6653)のエスコートに目をキラキラとさせる森山恭子(kz0216)。
言動はアレだが、恭子の居住まいはとても上品で……彼女の若かりし頃はなかなかの上玉だったのではないかとトリプルJは思う。
「……さて。1つ相談しても宜しいですか、館長?」
「なんざましょ」
「強化人間について、艦長はどこまでご存知ですか? 彼らの力の源は負のマテリアルです。いわば、歪虚に近いものではないかと考えているのですが……」
「……強化人間については、わたくし達にも詳細は知らされていないザマス。ただ、ハンターにも負けぬ力を持つ兵だとだけ……」
目を伏せる恭子。歪虚に対抗する力を持たぬリアルブルーが生み出した希望の星。
だが現実はどうだ。
強化人間は暴走し、排斥運動まで起こりつつある。
それが分かっているからこそ、こうしてトリプルJは話をしに来たのだ。
「正直、俺も彼らが何であるかは分かりません。でも、このままにはしておけない。下手したら……」
――大量に歪虚が発生する事態になる。その言葉の代わりにため息を漏らす彼。
恭子もそれを察したのか、慎重に言葉を選ぶ。
「わたくしも彼らを守るべき、とは思っているザマスが……」
恭子も軍の中で認められつつあるが、微妙な立場であることは変わらないのだろう。
それでも。彼らが助けられるなら……。トリプルJは深く頭を下げる。
「彼らが何であるのか見極めるまで、メンタルケアを厚くすべきと考えます。そういったことに従事できるスタッフを、ラズモネ・シャングリラに手配できないでしょうか」
「お約束はできないザマスが、検討はするザマス。……それで宜しいザマスね?」
「はい。ありがとうございます。さすが艦長は出来る女ですね」
「あら。お世辞も上手ザマスね」
満更でもない恭子に、トリプルJはイケメンスマイルを返した。
「考えてみれば、この地にはアスガルドや強化人間と関わる以外で訪れたことはありませんでした。これは真剣に取り組むべき案件だと判断します」
「うん。そうだね。楽しみたいよね」
大真面目な顔で観光ガイドを読んでいるトラウィス(ka7073)にあははと笑う深守・H・大樹(ka7084)。
トラウィスは本から顔を上げずに続ける。
「大ちゃん様は行きたい場所はありますか?」
「僕? 僕は是非イタリアのアイスを食べてみたい」
「ふむ。ジェラートでしたか。いくつか店舗があるようですね」
「じゃあ早速行ってみようよ」
「お待ちください。電車の乗り方を調べます」
どこまでも用心深いトラウィス。彼に任せておけば大丈夫そうだなあーなんて、大樹はのんびりと考えて……。
そんなことがありながら、電車やバスを乗り継いで。
2人はあちこちの店でジェラートを堪能していた。
「ふむ。ローマではジェラートに生クリームを乗せるのが主流なのですね」
「たっぷり乗っててアイスが見えないや! でもおいしいね。いくつか食べたけど、トラちゃんくんはどの味が気に入った?」
「そうですね。ピスタチオナッツの味が良かったでしょうか。濃厚かつさっぱりしていました。大ちゃん様は?」
「僕はレモンのがさっぱりしてて好きだな!」
「……そういえばどの店でもレモン味を頼まれていましたね。飽きませんか?」
「全然? お店によって味違うし。トラちゃんくんが別な味のジェラート分けてくれるしね!」
「そうですか。ではこちらもどうぞ。今回はチョコレートです」
「ありがと! 僕はヨーグルトにしてみたよ!」
ジェラートを交換してにこにこする2人。交換すれば、楽しさも美味しさも2倍だ。
永遠の都、ローマ。
街は人々の喜び、不安を抱えて――それでも止まらずに進んで行く。
リアルブルーが不穏な波に覆われても、この日の思い出はハンター達の胸に明るく輝き続けるだろう。
依頼結果
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質問卓 エステル・ソル(ka3983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/07/01 17:20:17 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/02 23:46:15 |