ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】春の弦楽三重奏。街道にて
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/07 07:30
- 完成日
- 2018/07/20 01:52
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
エリーヌ・エルマン。チェリスト。界隈では若く、華やかな容貌に恵まれた女性。
春の郷祭のために、ヴァイオリンとヴィオラを弾く友人を誘い街道を越え、酒席を巡って華やかな春の弦楽を届けて回る。
ジェオルジでの仕事を全て終え、以前の教訓を活かした往路と同じくハンターに護衛の依頼を出すと、彼等と待ち合わせてジェオルジとヴァリオスを繋ぐ街道へ向かった。
オフィスにて、その街道に出ていた厄介な歪虚が、最近退治されたと聞いた。
ジェオルジへ来る前のことだったから、丁度良い時期だったのだろう。
この所、寄せられるのはコボルトの目撃情報くらい。
大きな群では無いらしく、馬車にぶつかってこなければ問題は無い。
往路は全く、安全だった。
復路もそうだといいわね、と、友人達と笑い合う。
●
街道の入り口で荷物の確認。
緩衝の布に包んで荷車に積み込んだのはそれぞれの楽器と、テントや焜炉。野宿に必要な様々な道具。
春郷祭で調達した数々の実り。
春野菜の漬け物を数種類、採れたての果物のジャム、ジュース、前の季節につけ込んだ果実酒の瓶。
ハムやソーセージ、ベーコン、チーズに燻製、干物、油漬けの缶詰に水煮の缶詰。
エリーヌの仕事道具よりも大きくなった土産の中から、道中に摘まみましょうかと幾つかを取り分けて、残りを詰め込んだ袋は荷車に固定する。
最後に大判の帆布を塵避けにして、エリーヌが馭者席で手綱を握った。
ヴァイオリン奏者のフィンは隣に乗り込み、ヴィオラ奏者のトトは自前の黒馬に跨がってその隣へと手綱を振るう。
穏やかな陽差しの中を進む、荷車を満載にした馬の歩みは、とても緩やかだった。
行程半ば、日が傾いたところで馬を繋ぎ、テントを下ろす。
急ぐ旅でも無いから、と。簡単な調理器具で煮炊きをしながら、祭の思い出話に花を咲かせ。
食事に一区切り付いた頃、エリーヌが楽しそうにこう言った。
「折角だし、何かやらない?」
いいわね。と、フィンとトトも乗り気で積荷の布を解く。少し傾いた荷台を椅子代わりに腰掛けて、脚を開いてチェロを立てるエリーヌが、弓で拍子を刻む。フィンはヴァイオリンをトトがヴィオラを構えた。
一瞬の静寂。そして、艶やかな音色が広がった。
エリーヌ・エルマン。チェリスト。界隈では若く、華やかな容貌に恵まれた女性。
春の郷祭のために、ヴァイオリンとヴィオラを弾く友人を誘い街道を越え、酒席を巡って華やかな春の弦楽を届けて回る。
ジェオルジでの仕事を全て終え、以前の教訓を活かした往路と同じくハンターに護衛の依頼を出すと、彼等と待ち合わせてジェオルジとヴァリオスを繋ぐ街道へ向かった。
オフィスにて、その街道に出ていた厄介な歪虚が、最近退治されたと聞いた。
ジェオルジへ来る前のことだったから、丁度良い時期だったのだろう。
この所、寄せられるのはコボルトの目撃情報くらい。
大きな群では無いらしく、馬車にぶつかってこなければ問題は無い。
往路は全く、安全だった。
復路もそうだといいわね、と、友人達と笑い合う。
●
街道の入り口で荷物の確認。
緩衝の布に包んで荷車に積み込んだのはそれぞれの楽器と、テントや焜炉。野宿に必要な様々な道具。
春郷祭で調達した数々の実り。
春野菜の漬け物を数種類、採れたての果物のジャム、ジュース、前の季節につけ込んだ果実酒の瓶。
ハムやソーセージ、ベーコン、チーズに燻製、干物、油漬けの缶詰に水煮の缶詰。
エリーヌの仕事道具よりも大きくなった土産の中から、道中に摘まみましょうかと幾つかを取り分けて、残りを詰め込んだ袋は荷車に固定する。
最後に大判の帆布を塵避けにして、エリーヌが馭者席で手綱を握った。
ヴァイオリン奏者のフィンは隣に乗り込み、ヴィオラ奏者のトトは自前の黒馬に跨がってその隣へと手綱を振るう。
穏やかな陽差しの中を進む、荷車を満載にした馬の歩みは、とても緩やかだった。
行程半ば、日が傾いたところで馬を繋ぎ、テントを下ろす。
急ぐ旅でも無いから、と。簡単な調理器具で煮炊きをしながら、祭の思い出話に花を咲かせ。
食事に一区切り付いた頃、エリーヌが楽しそうにこう言った。
「折角だし、何かやらない?」
いいわね。と、フィンとトトも乗り気で積荷の布を解く。少し傾いた荷台を椅子代わりに腰掛けて、脚を開いてチェロを立てるエリーヌが、弓で拍子を刻む。フィンはヴァイオリンをトトがヴィオラを構えた。
一瞬の静寂。そして、艶やかな音色が広がった。
リプレイ本文
●
晴れた初夏の道を行く、先行すると言ったマリィア・バルデス(ka5848)の背を追いながら馬車と馬は穏やかに進み、野草を見付けて離れた星野 ハナ(ka5852)は、いつの間にか戻っている。
「うふふー。初夏、新緑の街道はサイコーですぅ」
爽やかに香る淡い緑のブーケを抱いて。しかし、アク抜きの手間を考えると食べられるのは明日の朝食だろう。
贈られた蛍袋に戸惑った依頼主はそれぞれ、髪に胸許にとその花を飾る。
似合ってるよ、と、隣を進む鞍馬 真(ka5819)が和らげた表情を俄に厳しく、森の方へと警戒の目を向ける。
もうすぐ、過日の――自身の手で撃退した、大元だったらしい歪虚を知る以前に街道を荒らしていた、雑魔のそれだが――戦場を越える。警戒は解けない。
カリアナ・ノート(ka3733)も近くを穏やかに、高い陽差しの眩しさに手を翳して進む。
初めての任務、と、気合を十分に出発したセシア・クローバー(ka7248)も確りと3人の傍に付いて進みながら、聞こえた鳥のさえずりに耳を澄まし、一時そちらへ目を向ける。
馬を寄せたトトが可愛い声だと話し掛ける。頷くと、金の双眸を細める。
「妹だと、あー昼寝にいいねー、と即寝るんだ……ぐー、と」
寝姿を思い出してくすりと微笑みながら、眺める新緑の森の眩しさに溜息を零す。
「私としてはこういう綺麗な景色を楽しんで歩きたい」
馬車の傍へ寄るカリアナも、景色を楽しむように森を、空を眺めて、馬上で背や四肢を伸ばして寛いだ表情を浮かべた。
「最近はお仕事でものんびりしてる気がするわ、ね」
開けた辺り、名の知れぬ草が所狭しと生い茂っている。寝転んだら気持ちいいかしら、休憩する所にも有るかしら。そんな想像を巡らせながら。
仕事と言えば、だけれど、と鞍馬がエリーヌへ声を掛けた。
挨拶ならば出立前に。だが、発ってすぐは張り詰めていたから。
「活躍しているようで何よりだよ」
昨年の、恋人の日、手伝いに行った店で演奏を聞いて以来になる。2月のことだったから丸一年と半分近く。
エリーヌも思い出した様に、それは久しぶりねと身を乗り出してくる。
周囲を見張りながらサクラ・エルフリード(ka2598)も穏やかに3人の近くを進む。
思い切り手足を伸ばして横たわったカリアナが、暫くうとうと微睡んだ後に慌てて起き上がった草の上にテントを張り。思い出話の続きに花を咲かせながら鞍馬とエリーヌは野営に必要な荷物を運び下ろして。
合流したマリィアに先行と安全の礼を告げて、フィンは珍しそうに魔導バイクを眺めている。フィンの髪から花を抜き取ったトトは三人分を纏めてグラスに生け、料理を始めるから、と、ハンター達に声を掛けた。
星野は摘んできた野草の処理を小鍋1つで茹でたり、冷ましたりと繰り返し。レディだからと手伝いに名乗りを上げたカリアナや、喫茶店での働きを知られた鞍馬が夕食作りに、セシアは休める場所を作るからと帆布の屋根を作りに、マリィアとサクラもそれぞれ自身や仲間の寝床作りに向かった。
●
夕食を終えて、空いた皿を片付け。祭の思い出を語らいながら並べたクラッカーに瓶詰めの果物を乗せる。
春郷祭で売っていた物よ、と、エリーヌがワインを片手に。
ベリーのジャム、リンゴのコンポートにママレード。三種のクラッカーを取り分けた皿を少し離れた鞍馬に届けた。塩っぱい物も後で持っていきますね、と笑って差し出す。
性分だからと輪の外側で森を、道をと気に掛ける鞍馬に暫しの見張りを任せ楽器の支度は着々と進む。
その傍らで石を組んだ簡易焜炉で紅茶を煎れていた星野は注ぎ分けたカップを1つ鞍馬へ届ける。
「ある程度大きい音出しても安全だと思いますけど警戒よろしくですぅ」
ここまで歪虚の痕跡は無かったけれど、日が落ちると分からないから。カップの影で声を潜め、鞍馬が分かったとそれを受け取ると、トレイに並べたカップを配って回る。
「こういう優雅な一時には是非活用したいと思いましてぇ」
ジェオルジの紅茶とクッキーを、お代わりも十分に用意して。
「ん、いくらか気配はしますが、襲ってはこなさそうでしょうか……」
耳を澄まして聞こえる鳥の囀りと葉の擦れる音。風の所為では無いそれは、恐らく獣の動く音だろう。
こちらを避けて動いているのか、遠ざかっていきやがて聞こえなくなる。
サクラはほっと息を吐くと、音を合わせている3人に目を遣った。
「音と匂いは遠くからでも歪虚や獣を呼ぶ。でも……」
見回りから戻り、3人を仲間と焚き火で囲めるように位置を測ってマリィアは腰を下ろす。
「何があっても対応できるんじゃないかしら」
周囲に感じた気配と、仲間の数を眺めてそう呟いた。
音階を奏でたフィンが頷いて2人へ目配せを。エリーヌとトトも弓を構える。
静かに弦に乗せられたそれが引かれた瞬間に、艶やかな音が鳴り響いた。
高い音で滑らかに主旋律を引くヴァイオリンと低音を添えるチェロ、その間の音域で拍子を刻むヴィオラ。
それぞれの独奏を挟みながら、季節を謳う華やかな一曲を奏でた。
魔法みたいだと弦を抑えて音を作る器用な指に、弦を撫でて音を広げる弓の動きに、カリアナは目を輝かせる。
わくわくと弾んだ心地で聞き入り、聞き覚えのあるメロディーを小さく口遊んだ。
ご褒美のようで嬉しいと、セシアもその音色に聞き入って、季節の風や道程の森の鮮やかな緑や木漏れ日の煌めきを思い出す。
鳥の声のようにヴァイオリンが高く歌い上げて最初の曲を終えると、3人はハンター達に一礼を。そして、何か聴きたい曲は、と尋ねた。
とても綺麗な曲だった、昼間の風景が浮かんでくるような。そう感想を伝えるセシアに、それなら次はと奏でられた曲は、同じく春の祭典を楽しむ曲。
サクラと星野、そしてマリィアは祭の中、どこかで聞いたようなと首を傾げた。
祭の間に色んな場所で弾いていた曲だから。どこかで出会っているのかも知れないわね。短い弓を素早く動かして快活な旋律を楽しげに操りながらエリーヌが3人に笑い掛けた。
駆け抜けるような楽句を終えてヴァイオリンに引き継いだエリーヌが弓を置いて手を叩く。
1人、1人とハンター達の手拍子が加わり、一層賑わいを増し、その最高潮で終曲。ぱん、と合わせた手がそのまま拍手に移行する。
拍手が止むと弓をナイフとトレイに持ち替えて、一口サイズにカットしたピクルスとチーズを配る。ワインとジュースを注ぎ、紅茶も煎れ直して短い休憩。
思い出した様に荷物を探るサクラが鞄を開閉して首を捻る。楽器は持ってなかっただろうか。
どうしたの、とフィンが覗き込むと、楽器を持っているけれど今日は忘れてしまったらしいと答える。
いつもは荷物に入れているのだけれど、と。
それなら歌は、と誘われる。
「う、歌……? 歌はその、遠慮します……! へ、下手というわけでなくその、は、恥ずかしいので……」
大丈夫よ。そう手を引かれてヴァイオリンとチェロの間へ。
折角だから貴方も。最初の曲を歌っていたカリアナも手を引かれてその隣へ。
振る舞った春野菜のピクルスを摘まんで、トトがヴィオラのメロディを確認する。
その音にカリアナが、姉の好きな曲だと身を乗り出した。
じゃあ気合を入れて弾かなくっちゃと辿っていただけの音色が一転、力強く。
演奏の止む一時、仕事を思い出した様に輪の外側へとマリィアは目を向けている。
届けられたピクルスを摘まみ、茜色の眩しい西日に目を細めて、影を長く伸ばす森の木々に紛れる獣の気配を探った。音に怯えるものは近付かない。火に怯えるものも同様に。返ってそれに引き寄せられてくる厄介なものは、今宵はどうやら不在らしい。
紅茶を配って戻った星野は、次の曲にそわそわと、セシアもじっと5人を見詰める。
同盟のポピュラーソングの1つを弦楽向けにアレンジして、三重奏にパートを分けて。
技巧の披露は少ないけれど、引き立ったメロディーラインが歌唱に向く。
せーの。と、声を出して鮮やかな前奏。小さなステージに誘った2人の名前を呼んで、楽譜に無いディミヌエンドが少女2人の歌声を際立たせる。
楽器に合わせて低音域を歌うエリーヌが、2人の高い声を励まし、緊張していた声が次第に伸びやかに、聞き馴染んだ歌を楽しみ始めた。
前半を終え、下げていた楽器の音が戻ると、途端に真っ赤になったサクラの背に手を添えて宥め、拍手を送り元の椅子まで手を引いて導く。続きは聞いていてと、頬に留まらずに赤くなったサクラに囁いて微笑むと、その手がセシアの手を取った。
どうかしら、と誘われれば高揚に流されたように頷いて、中央に連れられていく。
初夏の夕暮れに薫った風、茜の空に薄らと細い月。葉を擦った微風に歌声を乗せ、少し特別な時間に浸る。
歌い上げた2人に続き、ヴィオラが最後の旋律を繰り返して音が止むと、カリアナとセシアも互いに拍手を贈り合って、まだ頬の赤いサクラも惜しみなく手を叩いていた。
●
そろそろ日が落ちてしまう。次で最後にしましょうか。その前に一杯だけ。
最後に選んだのは、祭でも一際の歓声を浴びた交響曲の楽章の1つ。緩やかに奏でるヴァイオリンの音色が次第に調子を上げて、駆けるように響き渡る。
ヴィオラが刻むリズムも旋律を1つ隔てて速く、軽快に。弦に指を滑らせるチェロが高音を歌うように奏でると、技巧的な短い独奏のアレンジが沸かせる。
巧みな指がネックを上り、音域が戻るとヴァイオリンの独奏へ。フィンの指を見詰めてマリィアが静かに呟いた。
「さすが本職……やっぱり全然違うわね」
リアルブルーのホームドラマに憧れて大人になってから始めたけれど、身に付く前にこちらへ来てしまった。
まだ少し憶えている指が、フィンの指の動きを追って無意識に動く。
もう一度きちんと習いたいと、その艶やかな音色に耳を澄ませながら。
暫く聞いていたカリアナが、華やかさを収めた静かな転調にはっと目を瞠った。お姉ちゃんが好きだった曲だと思い出し、歓声を上げる。
「ずっと聞いていたいわ……」
凪がれてくる音に鼻歌を合わせ、ぱくりとピクルスを頬張って。
最後の曲だけは鞍馬も振り返って手を叩く。
少し息の上がった3人が楽器を下ろし、聞いてくれてありがとう、と繋いだ手を大きく揺らして深く頭を下げる。
小さな演奏会を終えて、片付けに加わった。
指の動きを見たのだろうか、弾くの、と、唐突にマリィアに尋ねたフィンの声に、重ねた皿を抱えたままで惑う。
「……父がね、レコードを良く聴いていたの。技巧曲過ぎて私には何が良いのかさっぱり分からなかったけれど……ドラマで、農場のお父さんがパーティをするたびにバイオリンを弾く姿が素敵だなって思って」
切欠を懐かしく思い出しながらそう答えた。私は逆、とフィンは笑う。父が酒を片手によく弾いていて、華やかな技巧曲に憧れた、と。
互いの思い出話にくすりと笑って、皿の残りを片付ける。
楽器は緩衝の毛布の中に確りと収めて、瓶や包みを束ねて積み直す。
依頼人はテントへ、ハンター達も不寝番を決めて順に休む。
眠くなる前に、一番最初に見張りに出たカリアナは昇った星の瞬きを数えながら欠伸を噛み殺す。
「……ごめんなさぃ。ん……大丈夫よ。ちゃんと……護衛でき……る、わ……」
反対側で空へ指を伸ばし、星座を辿りながら目はしゃきっと開いているセシアが小さな声で口遊む。
もう寝静まってしまっただろうかと、火の絶えぬように気に掛けながら。
「星も綺麗だから不寝番も悪いことでもないと思う」
歌い終えて告げた言葉に、微睡み掛けていたカリアナがそうねと瞼を擦った。
演奏会の間見張っていたからと、少し休んだ鞍馬が交代に起き出してきて、星野も続いてテントから顔を覗かせた。
見張りの後にもう少し休んだら朝に使えそうな野草を探すのだと楽しそうに語る。
道中に摘んできた物もえぐみが抜けて柔らかくなっているだろう。
星野が向かうと言う森の方へ目を向けた鞍馬が、穏やかに息を吐く。
何事も無く抜けられたのは久しぶりかも知れない、今後もこんな平穏が続いたらと思いながら。
「……それなら、少しは頑張った甲斐があるというものさ」
見回ってくる、と焚き火を任せ、星を見上げて歩いて行く。
地平線が僅かに白み始める頃、最後に見張っていたマリィアとサクラに代わって星野が、見張りの傍ら野草を摘みに森へ入り。日の昇るまでに戻って来る。
始まっていた朝食の支度に野草を加えたデトックスメニューを仕上げ、まだ深く寝入っているらしい3人を起こす。
硬いパンとジャムとチーズ。それから干した野菜を戻したスープに干し肉や、昨晩解いたハム。軽い朝食に野草を煮たり揚げたりと食べやすく調理した物を加えて振る舞う。
賑やかな皿に喜んで、残り半分の道程も頑張ろうと話す声が弾む。
水から上げた蛍袋を飛ばされないように身に着けて、野宿の跡を片付けると再びヴァリオスへ向けて出発した。
「素敵な演奏だったわ……次の演奏会が決まったら是非教えて頂戴」
「楽しい演奏会ありがとうございましたぁ。次も是非よろしくお願いしますぅ」
到着すると、マリィアと星野が別れを惜しむように握手をして、鞍馬が旅の無事に安堵している。
セシアも初めての任務を終えてほっとしながら、3人に疲れていないかと気遣うような目を向けている。
ありがとう、と全員に礼を告げ、次のフライヤーは荷物の中と残念そうにしながら3人は街の中へと帰っていく。
静かな街道を一度だけ振り返ると、ハンター達もそれぞれの帰途に就いた。
晴れた初夏の道を行く、先行すると言ったマリィア・バルデス(ka5848)の背を追いながら馬車と馬は穏やかに進み、野草を見付けて離れた星野 ハナ(ka5852)は、いつの間にか戻っている。
「うふふー。初夏、新緑の街道はサイコーですぅ」
爽やかに香る淡い緑のブーケを抱いて。しかし、アク抜きの手間を考えると食べられるのは明日の朝食だろう。
贈られた蛍袋に戸惑った依頼主はそれぞれ、髪に胸許にとその花を飾る。
似合ってるよ、と、隣を進む鞍馬 真(ka5819)が和らげた表情を俄に厳しく、森の方へと警戒の目を向ける。
もうすぐ、過日の――自身の手で撃退した、大元だったらしい歪虚を知る以前に街道を荒らしていた、雑魔のそれだが――戦場を越える。警戒は解けない。
カリアナ・ノート(ka3733)も近くを穏やかに、高い陽差しの眩しさに手を翳して進む。
初めての任務、と、気合を十分に出発したセシア・クローバー(ka7248)も確りと3人の傍に付いて進みながら、聞こえた鳥のさえずりに耳を澄まし、一時そちらへ目を向ける。
馬を寄せたトトが可愛い声だと話し掛ける。頷くと、金の双眸を細める。
「妹だと、あー昼寝にいいねー、と即寝るんだ……ぐー、と」
寝姿を思い出してくすりと微笑みながら、眺める新緑の森の眩しさに溜息を零す。
「私としてはこういう綺麗な景色を楽しんで歩きたい」
馬車の傍へ寄るカリアナも、景色を楽しむように森を、空を眺めて、馬上で背や四肢を伸ばして寛いだ表情を浮かべた。
「最近はお仕事でものんびりしてる気がするわ、ね」
開けた辺り、名の知れぬ草が所狭しと生い茂っている。寝転んだら気持ちいいかしら、休憩する所にも有るかしら。そんな想像を巡らせながら。
仕事と言えば、だけれど、と鞍馬がエリーヌへ声を掛けた。
挨拶ならば出立前に。だが、発ってすぐは張り詰めていたから。
「活躍しているようで何よりだよ」
昨年の、恋人の日、手伝いに行った店で演奏を聞いて以来になる。2月のことだったから丸一年と半分近く。
エリーヌも思い出した様に、それは久しぶりねと身を乗り出してくる。
周囲を見張りながらサクラ・エルフリード(ka2598)も穏やかに3人の近くを進む。
思い切り手足を伸ばして横たわったカリアナが、暫くうとうと微睡んだ後に慌てて起き上がった草の上にテントを張り。思い出話の続きに花を咲かせながら鞍馬とエリーヌは野営に必要な荷物を運び下ろして。
合流したマリィアに先行と安全の礼を告げて、フィンは珍しそうに魔導バイクを眺めている。フィンの髪から花を抜き取ったトトは三人分を纏めてグラスに生け、料理を始めるから、と、ハンター達に声を掛けた。
星野は摘んできた野草の処理を小鍋1つで茹でたり、冷ましたりと繰り返し。レディだからと手伝いに名乗りを上げたカリアナや、喫茶店での働きを知られた鞍馬が夕食作りに、セシアは休める場所を作るからと帆布の屋根を作りに、マリィアとサクラもそれぞれ自身や仲間の寝床作りに向かった。
●
夕食を終えて、空いた皿を片付け。祭の思い出を語らいながら並べたクラッカーに瓶詰めの果物を乗せる。
春郷祭で売っていた物よ、と、エリーヌがワインを片手に。
ベリーのジャム、リンゴのコンポートにママレード。三種のクラッカーを取り分けた皿を少し離れた鞍馬に届けた。塩っぱい物も後で持っていきますね、と笑って差し出す。
性分だからと輪の外側で森を、道をと気に掛ける鞍馬に暫しの見張りを任せ楽器の支度は着々と進む。
その傍らで石を組んだ簡易焜炉で紅茶を煎れていた星野は注ぎ分けたカップを1つ鞍馬へ届ける。
「ある程度大きい音出しても安全だと思いますけど警戒よろしくですぅ」
ここまで歪虚の痕跡は無かったけれど、日が落ちると分からないから。カップの影で声を潜め、鞍馬が分かったとそれを受け取ると、トレイに並べたカップを配って回る。
「こういう優雅な一時には是非活用したいと思いましてぇ」
ジェオルジの紅茶とクッキーを、お代わりも十分に用意して。
「ん、いくらか気配はしますが、襲ってはこなさそうでしょうか……」
耳を澄まして聞こえる鳥の囀りと葉の擦れる音。風の所為では無いそれは、恐らく獣の動く音だろう。
こちらを避けて動いているのか、遠ざかっていきやがて聞こえなくなる。
サクラはほっと息を吐くと、音を合わせている3人に目を遣った。
「音と匂いは遠くからでも歪虚や獣を呼ぶ。でも……」
見回りから戻り、3人を仲間と焚き火で囲めるように位置を測ってマリィアは腰を下ろす。
「何があっても対応できるんじゃないかしら」
周囲に感じた気配と、仲間の数を眺めてそう呟いた。
音階を奏でたフィンが頷いて2人へ目配せを。エリーヌとトトも弓を構える。
静かに弦に乗せられたそれが引かれた瞬間に、艶やかな音が鳴り響いた。
高い音で滑らかに主旋律を引くヴァイオリンと低音を添えるチェロ、その間の音域で拍子を刻むヴィオラ。
それぞれの独奏を挟みながら、季節を謳う華やかな一曲を奏でた。
魔法みたいだと弦を抑えて音を作る器用な指に、弦を撫でて音を広げる弓の動きに、カリアナは目を輝かせる。
わくわくと弾んだ心地で聞き入り、聞き覚えのあるメロディーを小さく口遊んだ。
ご褒美のようで嬉しいと、セシアもその音色に聞き入って、季節の風や道程の森の鮮やかな緑や木漏れ日の煌めきを思い出す。
鳥の声のようにヴァイオリンが高く歌い上げて最初の曲を終えると、3人はハンター達に一礼を。そして、何か聴きたい曲は、と尋ねた。
とても綺麗な曲だった、昼間の風景が浮かんでくるような。そう感想を伝えるセシアに、それなら次はと奏でられた曲は、同じく春の祭典を楽しむ曲。
サクラと星野、そしてマリィアは祭の中、どこかで聞いたようなと首を傾げた。
祭の間に色んな場所で弾いていた曲だから。どこかで出会っているのかも知れないわね。短い弓を素早く動かして快活な旋律を楽しげに操りながらエリーヌが3人に笑い掛けた。
駆け抜けるような楽句を終えてヴァイオリンに引き継いだエリーヌが弓を置いて手を叩く。
1人、1人とハンター達の手拍子が加わり、一層賑わいを増し、その最高潮で終曲。ぱん、と合わせた手がそのまま拍手に移行する。
拍手が止むと弓をナイフとトレイに持ち替えて、一口サイズにカットしたピクルスとチーズを配る。ワインとジュースを注ぎ、紅茶も煎れ直して短い休憩。
思い出した様に荷物を探るサクラが鞄を開閉して首を捻る。楽器は持ってなかっただろうか。
どうしたの、とフィンが覗き込むと、楽器を持っているけれど今日は忘れてしまったらしいと答える。
いつもは荷物に入れているのだけれど、と。
それなら歌は、と誘われる。
「う、歌……? 歌はその、遠慮します……! へ、下手というわけでなくその、は、恥ずかしいので……」
大丈夫よ。そう手を引かれてヴァイオリンとチェロの間へ。
折角だから貴方も。最初の曲を歌っていたカリアナも手を引かれてその隣へ。
振る舞った春野菜のピクルスを摘まんで、トトがヴィオラのメロディを確認する。
その音にカリアナが、姉の好きな曲だと身を乗り出した。
じゃあ気合を入れて弾かなくっちゃと辿っていただけの音色が一転、力強く。
演奏の止む一時、仕事を思い出した様に輪の外側へとマリィアは目を向けている。
届けられたピクルスを摘まみ、茜色の眩しい西日に目を細めて、影を長く伸ばす森の木々に紛れる獣の気配を探った。音に怯えるものは近付かない。火に怯えるものも同様に。返ってそれに引き寄せられてくる厄介なものは、今宵はどうやら不在らしい。
紅茶を配って戻った星野は、次の曲にそわそわと、セシアもじっと5人を見詰める。
同盟のポピュラーソングの1つを弦楽向けにアレンジして、三重奏にパートを分けて。
技巧の披露は少ないけれど、引き立ったメロディーラインが歌唱に向く。
せーの。と、声を出して鮮やかな前奏。小さなステージに誘った2人の名前を呼んで、楽譜に無いディミヌエンドが少女2人の歌声を際立たせる。
楽器に合わせて低音域を歌うエリーヌが、2人の高い声を励まし、緊張していた声が次第に伸びやかに、聞き馴染んだ歌を楽しみ始めた。
前半を終え、下げていた楽器の音が戻ると、途端に真っ赤になったサクラの背に手を添えて宥め、拍手を送り元の椅子まで手を引いて導く。続きは聞いていてと、頬に留まらずに赤くなったサクラに囁いて微笑むと、その手がセシアの手を取った。
どうかしら、と誘われれば高揚に流されたように頷いて、中央に連れられていく。
初夏の夕暮れに薫った風、茜の空に薄らと細い月。葉を擦った微風に歌声を乗せ、少し特別な時間に浸る。
歌い上げた2人に続き、ヴィオラが最後の旋律を繰り返して音が止むと、カリアナとセシアも互いに拍手を贈り合って、まだ頬の赤いサクラも惜しみなく手を叩いていた。
●
そろそろ日が落ちてしまう。次で最後にしましょうか。その前に一杯だけ。
最後に選んだのは、祭でも一際の歓声を浴びた交響曲の楽章の1つ。緩やかに奏でるヴァイオリンの音色が次第に調子を上げて、駆けるように響き渡る。
ヴィオラが刻むリズムも旋律を1つ隔てて速く、軽快に。弦に指を滑らせるチェロが高音を歌うように奏でると、技巧的な短い独奏のアレンジが沸かせる。
巧みな指がネックを上り、音域が戻るとヴァイオリンの独奏へ。フィンの指を見詰めてマリィアが静かに呟いた。
「さすが本職……やっぱり全然違うわね」
リアルブルーのホームドラマに憧れて大人になってから始めたけれど、身に付く前にこちらへ来てしまった。
まだ少し憶えている指が、フィンの指の動きを追って無意識に動く。
もう一度きちんと習いたいと、その艶やかな音色に耳を澄ませながら。
暫く聞いていたカリアナが、華やかさを収めた静かな転調にはっと目を瞠った。お姉ちゃんが好きだった曲だと思い出し、歓声を上げる。
「ずっと聞いていたいわ……」
凪がれてくる音に鼻歌を合わせ、ぱくりとピクルスを頬張って。
最後の曲だけは鞍馬も振り返って手を叩く。
少し息の上がった3人が楽器を下ろし、聞いてくれてありがとう、と繋いだ手を大きく揺らして深く頭を下げる。
小さな演奏会を終えて、片付けに加わった。
指の動きを見たのだろうか、弾くの、と、唐突にマリィアに尋ねたフィンの声に、重ねた皿を抱えたままで惑う。
「……父がね、レコードを良く聴いていたの。技巧曲過ぎて私には何が良いのかさっぱり分からなかったけれど……ドラマで、農場のお父さんがパーティをするたびにバイオリンを弾く姿が素敵だなって思って」
切欠を懐かしく思い出しながらそう答えた。私は逆、とフィンは笑う。父が酒を片手によく弾いていて、華やかな技巧曲に憧れた、と。
互いの思い出話にくすりと笑って、皿の残りを片付ける。
楽器は緩衝の毛布の中に確りと収めて、瓶や包みを束ねて積み直す。
依頼人はテントへ、ハンター達も不寝番を決めて順に休む。
眠くなる前に、一番最初に見張りに出たカリアナは昇った星の瞬きを数えながら欠伸を噛み殺す。
「……ごめんなさぃ。ん……大丈夫よ。ちゃんと……護衛でき……る、わ……」
反対側で空へ指を伸ばし、星座を辿りながら目はしゃきっと開いているセシアが小さな声で口遊む。
もう寝静まってしまっただろうかと、火の絶えぬように気に掛けながら。
「星も綺麗だから不寝番も悪いことでもないと思う」
歌い終えて告げた言葉に、微睡み掛けていたカリアナがそうねと瞼を擦った。
演奏会の間見張っていたからと、少し休んだ鞍馬が交代に起き出してきて、星野も続いてテントから顔を覗かせた。
見張りの後にもう少し休んだら朝に使えそうな野草を探すのだと楽しそうに語る。
道中に摘んできた物もえぐみが抜けて柔らかくなっているだろう。
星野が向かうと言う森の方へ目を向けた鞍馬が、穏やかに息を吐く。
何事も無く抜けられたのは久しぶりかも知れない、今後もこんな平穏が続いたらと思いながら。
「……それなら、少しは頑張った甲斐があるというものさ」
見回ってくる、と焚き火を任せ、星を見上げて歩いて行く。
地平線が僅かに白み始める頃、最後に見張っていたマリィアとサクラに代わって星野が、見張りの傍ら野草を摘みに森へ入り。日の昇るまでに戻って来る。
始まっていた朝食の支度に野草を加えたデトックスメニューを仕上げ、まだ深く寝入っているらしい3人を起こす。
硬いパンとジャムとチーズ。それから干した野菜を戻したスープに干し肉や、昨晩解いたハム。軽い朝食に野草を煮たり揚げたりと食べやすく調理した物を加えて振る舞う。
賑やかな皿に喜んで、残り半分の道程も頑張ろうと話す声が弾む。
水から上げた蛍袋を飛ばされないように身に着けて、野宿の跡を片付けると再びヴァリオスへ向けて出発した。
「素敵な演奏だったわ……次の演奏会が決まったら是非教えて頂戴」
「楽しい演奏会ありがとうございましたぁ。次も是非よろしくお願いしますぅ」
到着すると、マリィアと星野が別れを惜しむように握手をして、鞍馬が旅の無事に安堵している。
セシアも初めての任務を終えてほっとしながら、3人に疲れていないかと気遣うような目を向けている。
ありがとう、と全員に礼を告げ、次のフライヤーは荷物の中と残念そうにしながら3人は街の中へと帰っていく。
静かな街道を一度だけ振り返ると、ハンター達もそれぞれの帰途に就いた。
依頼結果
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相談相談! カリアナ・ノート(ka3733) 人間(クリムゾンウェスト)|10才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2018/07/06 22:51:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/06 22:49:30 |