ゲスト
(ka0000)
月夜に煌めく花園で
マスター:秋月雅哉

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~50人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2018/07/13 19:00
- 完成日
- 2018/07/13 22:52
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●それは地上に落ちた星屑のような
そこは隠れた観光名所だった。夏の時期、夜にだけ白い花が咲く。白い花が咲くだけの景色なら珍しくもなんともないだろう。
その花は、うっすらと光を帯びて花開くのだという。月の光を集めたような、地上に輝く星が落ちたような。そんな幻想的な光景が見られることだろう。
ほのかに光る花の花弁は六枚。少しとがったひし形をした花びらが中央から広がるように咲き誇る。
一輪一輪は決して大きな花ではないが群生地帯を埋め尽くすように淡い光を帯びた花が咲き乱れる景色は一見の価値がある。
「というような、話を聞いたんだ。息抜きにどうかと思ってね。花を摘むのは構わないけれど、他にもこの花を目当てに訪れる人は隠れ名所といっても多少はいる。その人たちの楽しみを奪うような無粋はしないでくれると嬉しいかな。飲食物の持ち込みは自由だけど立つ鳥跡を濁さず。丁寧にしっかり片付けてほしい」
幻想的な花畑への誘いを持ち出したのは白銀の髪に蒼い目の、ぱっと見は少年、実際年齢はそこそこの年になるルカ・シュバルツエンドだ。
大きな戦いもあったし、夏場で精神的、肉体的な疲れも見えない場所からたまっていく。そんな皆にひと時の安らぎを、と思ったらしい。
「時間は夜咲く花だから夜に現地集合になるね。希望者には地図を渡しておくよ。アルコールは飲める年になってから、静かに花を楽しみたい人もいるだろうからあまり大騒ぎはしないように。僕からはそれくらいかな」
当日は満月になりそうだし、月の光に押されてしまうかもしれないけれど星々も見られることだろう。天の星と地に咲く星のような花、二つを眺めて暑い夏の一夜を心穏やかに過ごそうじゃないか。
ルカはそういって集まった者たちに地図を配り始めたのだった。
そこは隠れた観光名所だった。夏の時期、夜にだけ白い花が咲く。白い花が咲くだけの景色なら珍しくもなんともないだろう。
その花は、うっすらと光を帯びて花開くのだという。月の光を集めたような、地上に輝く星が落ちたような。そんな幻想的な光景が見られることだろう。
ほのかに光る花の花弁は六枚。少しとがったひし形をした花びらが中央から広がるように咲き誇る。
一輪一輪は決して大きな花ではないが群生地帯を埋め尽くすように淡い光を帯びた花が咲き乱れる景色は一見の価値がある。
「というような、話を聞いたんだ。息抜きにどうかと思ってね。花を摘むのは構わないけれど、他にもこの花を目当てに訪れる人は隠れ名所といっても多少はいる。その人たちの楽しみを奪うような無粋はしないでくれると嬉しいかな。飲食物の持ち込みは自由だけど立つ鳥跡を濁さず。丁寧にしっかり片付けてほしい」
幻想的な花畑への誘いを持ち出したのは白銀の髪に蒼い目の、ぱっと見は少年、実際年齢はそこそこの年になるルカ・シュバルツエンドだ。
大きな戦いもあったし、夏場で精神的、肉体的な疲れも見えない場所からたまっていく。そんな皆にひと時の安らぎを、と思ったらしい。
「時間は夜咲く花だから夜に現地集合になるね。希望者には地図を渡しておくよ。アルコールは飲める年になってから、静かに花を楽しみたい人もいるだろうからあまり大騒ぎはしないように。僕からはそれくらいかな」
当日は満月になりそうだし、月の光に押されてしまうかもしれないけれど星々も見られることだろう。天の星と地に咲く星のような花、二つを眺めて暑い夏の一夜を心穏やかに過ごそうじゃないか。
ルカはそういって集まった者たちに地図を配り始めたのだった。
リプレイ本文
●今夜、月の下で逢いましょう
日中は暑さで水分補給が欠かせず、少し動いただけで汗がにじむ季節ではあるが夜間になれば日も落ちて。夜風がさわやかな、夏の満月の一夜。
星々と月が藍の天蓋を煌めくように飾り、地上は街並みであれば人々の生活の営みが灯りとなって輝く時間帯だが今夜ハンターたちが集ったのはそんな人工的な明かりが届く場所ではなかった。
燐光のようにほのかに青みを帯びた白い花、蛍火のように淡い黄緑色を帯びた、けれども目を凝らせばやはり白い花、うっすらと縁がピンク色の白い花。
柔らかくも確かに闇夜に浮かぶ光を放つ花々にルカ・シュバルツエンド(kz0073)から誘いを受けて地図を見ながら花畑にたどり着いたメンバーは小さく息をのむ。空中には何匹かの蛍が飛ぶ夏だけの、隠れた観光名所だがその花畑に名前はない。
「わぁ、夜にふっすら光り輝く花があるなんて。見てもきれいだけど、そういう暗闇に光るものを写真に撮ったりしたら、どんな風に映るんだろう? 興味津々~」
夢路 まよい(ka1328)は淡く光る花々の間を踏み荒らさないように気を付けて一人で散策しながらどうやればきれいに魔導カメラで花を撮影できるか思案する。
暗い中で光るものの撮影は存外難しい。フラッシュを焚けば光る様子を写すにはかえって邪魔だし、周りの人の迷惑になるかもしれない。
光っているといっても微々たる光量だから一瞬でシャッターを切った場合は真っ暗な写真になりそうで。
「カメラを固定して長時間露光かなぁ?」
ひとまず、人気のない位置に移動して、魔導カメラを固定する準備をし始める。
解散時間は特に決まっていないし、同伴者もいない。魔導カメラ用の夜景撮影の道具は集められる範囲で集めてきたし、活躍してくれるといいのだけれど。
「綺麗にとれたら写真をお友達に自慢したいし、頑張ってよね、カメラさん」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は風情を出すために浴衣で参加。舗装されていない道を下駄で歩くのはほんの少し大変だったがその苦労も報われるほどいい眺めにほんの少し口角をあげて笑う。
「前に見た光る藤っぽい花も悪くないが、こっちの花も違う趣があるな」
そういえばあの光る藤と自分の仲を取り持ってくれたのもあの童顔の青年ではなかっただろうか、とレイオスは花と月と星を肴に酒を飲みほしながら記憶を掘り起こしていた。
季節は巡り、人の縁も途切れたり繋ぎなおされたりしながら続いていく。
「月を眺めて一杯やって、花を愛でてまた一杯。肴が二つもあるとは贅沢だな」
ついでにいうなら今日集まっているハンターたちも見目麗しい人々が多いわけで。殺伐とした依頼ではなく息抜きに訪れた同僚たちの和やかな笑顔も記憶の一ページに、今日の幻想的な風景と一緒に刻まれることだろう。
そんなレイオスに声をかけたのはミオレスカ(ka3496)だ。約束もなかったので一人で酒を楽しむ様子を見て声をかけてみたのだ。
邪魔なようなら立ち去るつもりではあったけれど、命の危機がないなら袖振り合うも他生の縁、ハンターの日常を垣間見るにはいい機会。
レイオスは酒をあおり、ミオレスカは少し離れた場所でのんびり弁当をつつく。
レイオスが思い出したのは今日同行しているはずの青年だったがミオレスカが思い出したのは彼が仲介した仕事で出会った、歪虚の足取りを追って旅立った一人の女性のことだった。
「小夜子さんにも、こういった景色もたくさん見てもらいたいです。お元気でしょうか」
ルカの下に手紙か何か届いていないだろうか。あとで暇そうにしているようなら訪ねてみようか。
所在地がわかればこちらから手紙を出すのもいいかもしれない。ずいぶん長いこと、彼女の顔は見ていないから。
「歪虚を追って旅に、か。生半可な道のりじゃないんだろうな。救援要請が届くようなら、手を貸したいところだが。今頃どうしてるんだろうな」
「はい、生真面目な印象を受ける方でしたので無理をされていないかが心配で」
リアルブルーからやってきた異邦人と、クリムゾンウェストの、料理が下手な青年の話で二人はしばらく話し込んだのだった。
月の妖精みたいな坊ややねぇ、と地図を渡したルカが実は少年のような外見とはかけ離れた実年齢であることを白藤(ka3768)はしらない。
ルカはルカで自分の童顔ぶりから実年齢を言っても信じてもらえないことは承知していたのであいまいに笑って言葉を濁したのだった。
そんな白藤は蜜鈴=カメ―リア・ルージュ(ka4009)とデートに来ていたが他にも顔見知りを発見、そのうちの一人に抱き着かれ元気やなぁと相好を崩した。
ミア(ka7035)は合流したメンバーに次々と親愛のハグをして、それぞれからそれぞれらしい反応を受けて無邪気に笑う。
持参したのはエディブルフラワーのクッキー。手作りで真心がこもっている。
「クッキーもぐもぐどうぞニャス♪」
独特の語尾で白藤には紫のパンジーのもの、蜜鈴には赤のパンジー、灯には黄色のパンジー。
「ここでかくれんぼしたら、シュヴァルツエンドチャンの一人勝ちニャスかな?」
銀の髪と白衣の彼は確かに白い花畑では自然迷彩じみたステルス機能を発揮できそうではある。色も白いもやしなのでなおさら。
「はい、どーぞニャス」
そんなルカに差し出されたのは青いパンジーのクッキー。
「おや、僕にもくれるのかい。わざわざありがとう」
そんな二人の様子を白地に藤の咲く浴衣を着た灯(ka7179)が見守っている。かつて、愛した人が似合うと言ってくれた色を纏って静かに花畑を眺めた。
会えてよかった、そう伝えられたのは夜の魔法にかかったからだろうか。明るい光の下でそんなセリフは少し恥ずかしいし、陳腐に聞こえるけれど今この景色でいうならそれほど浮いた感じがしないのは幻想的な光景だからかもしれない。
「この花は何を力にして光っているのかしら。夜に咲く花なら、月の光をいとおしく思って咲くのかな」
「この花は、昼の間は普通の花と違って花弁を閉じているんだそうだ。光る理由は僕にはわからないけれど……夜闇を心細く思う誰かのために、閉じた花弁が日の光を集めて夜に放っているのか、それとも君の言う通り月がいとおしいのか。
人の手による開発が進んで便利になっていく世の中ではあるけれど、こういう景色は残ってほしいよね」
「はい。花だけじゃない、きっと人にもそういう力は必要なものなのかもしれないですね」
例えばこうやって自然の中で無心になることで心にゆとりを持つこととか。
「夏と花を楽しみましょう。この夏は一度きりなのだから」
そして来年同じ景色を見られるとは限らないのだから。
「白い六花、夜にだけ開く光の花、ニャスか。六つの光……ミアにとっての光は……ニャふふ♪ 個性と色であふれてるニャス♪ シュバルツエンドちゃん、このお花、名前はないんニャスかな?」
「聞いたことがないなぁ。似た花なら……白い花っていうとジャスミンとかマーガレットとかシロツメクサくらいしか僕は知らないんだけどその中で考えるならジャスミンがほんの少し近いような。でもまるっきり違うのかな。
この花畑にも正確な名前はなくてね、名前のない花畑に咲く名前のない花ってところ」
名前のない花、雑草という草はないそうだけれどね、無学で申し訳ない、とルカは白衣に包まれた肩をすくめる。
白藤は蜜鈴とミアが良い奥さんになりそうだとか、よい母親にもなれそうだとか、そんな親のような感想をかわしながら蜜鈴の口元にエディブルフラワーのクッキーを運ぶ。
そんな白藤の指先に口づけるように一口食べて。
「明るいほどの月光じゃが夜闇の影は死角を作る故のう。気を付けて歩くんじゃぞ」
「あーかり、手ぇかそか?」
ルカと別れた後は夜のお散歩。ふらふらと歩きながら鼻歌を歌って。
「花も綺麗やけど、気のえぇ仲間も綺麗で目が足りんな」
「笑顔の花、とは良う言うたものじゃなな」
友がいるというだけで世界はかくも美しい、とほほ笑んだ蜜鈴は思い出作りに写真を一枚。表情はもちろん、全員飛び切りの笑顔で。
「夏に咲く六花か……冬の六花とモノは違えど変わらず美しいよな。手折るはもったいないきもしよるのう……種は……あるじゃろうか。手に入るならば持ち帰りたいものじゃが」
種のつく時期ではないのか、球根などから増える種類なのか。あいにく種子はみつからなかったので、一輪だけ愛しき友への土産に帰り道へ同行を願うのだった。
「ふう……待ちぼうけを食らってしまったようだな」
なんて嘯くのはレイア・アローネ(ka4082)だが。実際は用事があってこれないと事前に言われていたのでただの皮肉なのだけれど。
仕方がないからこの景色はしばらくは一人で楽しむとしよう、と花畑を見渡す。
日々が激戦のさなか、たまにはこうしてゆっくりするのも悪くない。
だが話し相手がいればそれも一期一会、また違った楽しさがあるだろう、と今度は花ではなく人を観察するように見まわして。
「お邪魔してもいいだろうか。一人で見るよりたのしそうだったんでな」
レイオスとミオレスカとレイアは三角形を作るように座って、今度は三人で雑談開始。
久我・御言(ka4137)は待ち合わせの十分前にはたどり着いていた。いわく、紳士として恋人を待たせてはいけないから、と。
愛しき人の手を取り花畑へとエスコート。たどり着いた先の夜闇に浮かぶ無数の光にしばし呆然とたたずんで。
花を眺めながら少し歩き、程よいところで鷹藤 紅々乃(ka4862)がつかれていないかと気遣って座れる場所を探す。
「自ら輝く花、かね。うむ、素晴らしい。見事なものだね」
私にとっては隣を歩む花に勝るものなどないが、とさらりとのろけて。
「だからといってこの景色を否定するものでもない。そして、そんな景色を今、大事な相手とともに見ることができている。これを幸福といわずなんと呼ぼう」
御言のいうところの世界で最も美しい花、と称賛の言葉を受けた紅々乃は御言に誘われた久々のデートということで真っ赤になった顔はバレバレかもしれないけれど、夜のデートでよかったかもしれないと恥じらっている。
淡い光を帯びた花畑は楽しみにしていた分、そして愛しい人の隣で見る分とてもきれいで。
この世のものとは思えない景色にうっとりしてどこか遠くを見るような表情になってしまって御言を心配させてしまったり。
「心配させてごめんなさい。でも私の居場所は御言さんの隣です。今も、これからも。……あの、御言さん……私の、ファーストキス……もらってくださいますか?」
御言がそれに応じたのか、それとも完全に二人きりのところでキスを送ったのか。それは二人と、花と、天体だけの秘密。
夜桜 奏音(ka5754)はゆっくりと花々を鑑賞。
「たまにはこんなふうにゆっくりとした時間を過ごすのもいいですね」
花を傷つけないように注意しながら敷物を敷いて楽な姿勢でくつろいで。
恋人たちの逢瀬は邪魔しないようにしながら行きかう人たちと軽く言葉を交わす。
「さて、ひとしきり花を楽しませていただきましたし。この雰囲気に合う舞でもひとつ」
自分の舞も、誰かが楽しんでくれればいいが。そんな思いを抱きながら天と地に捧げる舞を舞うのだった。
「わぁ……っ! すごいですねぇ。私、今、星の中にいるみたいじゃないですかー?」
「……なるほど。見事なものだなこれは。こう幻想的な風景もあまりみられるものじゃ……と、柊。あまりはしゃぎすぎるなよ。コケてもしらないぞ?
……しかし、星の中、か。……言いえて妙だな。まるで星の海のようだ」
氷雨 柊(ka6302)がはしゃぎながら花畑の中でくるりと振り返って問いかければクラン・クィールス(ka6605)はくすりと笑ってからかって。
子供じゃないんだから転んだりしません、と抗議の声の後に恋人から、花畑に来た真意を問われる。
「このお花に興味があってきたかった……だけではなさそうでしたよねぇ? どうして一緒に行くって言ってくれたのか、教えてくれませんかー?」
「まぁ、花に対する興味も多少はあったんだが……そうだな。普段は、お前から誘われてばかりだから。良い機会だと思った。大した理由じゃないが、そんなところだ」
たまには依頼以外で足を延ばすのも悪くないし、こういう場所ならゆっくり話すのもちょうどいいから。そんなクランの言葉に柊は喜びで顔をほころばせた。
「それじゃあ、ゆっくり楽しみながら歩きましょうかー。もし転んだら助けてくださいねぇ?」
「あぁ、そうだな。ゆっくりすごそう。……ところで、子供じゃないんじゃなかったのか?」
「だってー、暗いですしー、足場も悪いですしー、恋人に甘えるいい機会ですしー。ね?」
「なにがね? なんだか」
まぁ、わからなくもないけれど。まんざらでもない様子で二人は手をつないで歩きだしたのだった。
「なかなかのデートスポットと聞きましたので、是非マウジーときたかったのですよ」
妻の穂積 智里(ka6819)とぴったり寄り添って歩きながらハンス・ラインフェルト(ka6750)は微笑みを浮かべる。
「地上の星のような……コロニーにいるときは考えもしませんでしたが、人は長らく、重力の底から星々の世界にあこがれ見上げ続けていたということでしょうね」
「確かにきれいな場所ですよね……絵葉書があったら、おじいちゃんやおばあちゃんに送りたいくらいです。二人とも、こういう場所はすごく好きだと思うから」
でも、と智里はゆっくりと瞬きをしてハンスを見る。
「たまにですけど……ハンスさんの感性ってやっぱり独特だなって思います。きれいだな、だけじゃだめですか? 人は多いですけど……この景色を共有する楽しみより、そちらに興味がいっちゃうんですね」
智里の指摘にすみません、とわびた後軽く頭を下げて、それでもこの風景をわざわざ星の海に喩えるほど人は空に焦がれていたのかと面白くなってしまったのだと告げる。
「私たちにとっては真空に瞬く星などただの恐ろしい死の世界の象徴だったのに、と」
「手に入らないものに焦がれて、それを別のものに仮託すること自体はよくあることじゃないでしょうか。それで幸福と満足を得られますから」
「手に入らないからこそ焦がれる……そうかもしれませんね。ならば焦がれていた東方世界と貴女を手に入れた私は世界一幸運な男だということですね」
甘い言葉をさらりと言って髪にキスするハンスに智里は人前で恥ずかしいことするのは禁止ですと真っ赤になって照れるのだった。
夫婦の時間は緩やかに、甘やかに過ぎていく。
美しい風景だと思いながらフィロ(ka6966)は一人で花を眺めながら散策していた。
この思いは他者と共有することでより深くなるのだろうか、とも考えるが自分からはまだ誰にも話しかけていない。あちこちで恋人が、友人たちが、夫婦が楽しげに語らっている。
自分はそんな人たちと今ここで景色を共有している。同じように思い、同じように花を眺め。
それを取り出して深めるのか、それとも一人で大事に記憶の淵にしまい込むのか。
世界は美しく、思い出せない自分の主人とその家族たちはこんな風景がきっと好きだったのだろう。この場にいれば仲良く寄り添って眺めていたのかもしれない。
(私はいまだに思い出せない方々を愛している。壊れた記憶がそう思っているだけかもしれないけれど……何もなくなってしまったからこそ、今度こそは私は何かを得たい)
そして何かを得た後、自分は何を遺すのだろうか。
そんな思考の海を揺蕩っていると白い影。
「ルカ様、本日は素敵な場所へのお招きありがとうございました」
「どういたしまして、いつもお疲れさま。今度なにか厄介ごとが持ち込まれたら解決を手伝ってくれると嬉しいよ。こういうつかの間の休息が、つかの間ではなくずっと続くといいのだけれど」
銀髪に蒼い目の青年はそういって少し困ったように笑う。まだそれは大分先のことだとわかっていたからだろう。
けれど夢見ることは自由だと思ったから、フィロはそうですね、と短く相槌を打ったのだった。
オフィスで聞いた、光る小花を愛でに宵の散歩。踏まないように気を付けて、花の間を行きかえば。
「私の衣の裾も花の色に染まっていくよう」
歌うように玲瓏(ka7114)はつぶやく。花分け衣だ、と。こんなかわいらしい衣をまとってみたいものですね。そんなおとぎ話のような願いも、ここでなら聞き届けてもらえそうな景色だった。
「これはなんという花なのでしょう」
万燈籠のような、空の星をそのまま移したような花々をそっと見つめ続けていると脳みそも解けて消えてしまうような錯覚に陥る。
それは現実逃避だろうか、それとも花が見せる魔性の一面だろうか。
魔性のものだったとしても良い気分転換にはなったので、ほかの人たちが全員いなくなっても一人でぽつり、朝日が昇るまで。
一般的な花々が開き始める時間に花を閉じる白い花の明かりの行く末を玲瓏はしずかに見送ったのだった。
夏の間、その花畑はひっそりといつ来るともしれない観光客を待っている。誰かが来ても、こなくても。変わらずに日が暮れてから花を開き、夜明けと同時にしぼむ。
銀髪の青年はこの花を六花と喩えたけれど。クリムゾンウェスト出身の彼は、リアルブルーで雪を六花と称することをきっと知らなかったのだろう。
けれど夏の雪のように、幻のように、この世とは思えない景色の主役となる花々は、確かに六花と呼んでもいいものかもしれない。
満ちては欠ける月に照らされて、夏の六花はまどろむように花開く。今日も、この世界のどこかで。
日中は暑さで水分補給が欠かせず、少し動いただけで汗がにじむ季節ではあるが夜間になれば日も落ちて。夜風がさわやかな、夏の満月の一夜。
星々と月が藍の天蓋を煌めくように飾り、地上は街並みであれば人々の生活の営みが灯りとなって輝く時間帯だが今夜ハンターたちが集ったのはそんな人工的な明かりが届く場所ではなかった。
燐光のようにほのかに青みを帯びた白い花、蛍火のように淡い黄緑色を帯びた、けれども目を凝らせばやはり白い花、うっすらと縁がピンク色の白い花。
柔らかくも確かに闇夜に浮かぶ光を放つ花々にルカ・シュバルツエンド(kz0073)から誘いを受けて地図を見ながら花畑にたどり着いたメンバーは小さく息をのむ。空中には何匹かの蛍が飛ぶ夏だけの、隠れた観光名所だがその花畑に名前はない。
「わぁ、夜にふっすら光り輝く花があるなんて。見てもきれいだけど、そういう暗闇に光るものを写真に撮ったりしたら、どんな風に映るんだろう? 興味津々~」
夢路 まよい(ka1328)は淡く光る花々の間を踏み荒らさないように気を付けて一人で散策しながらどうやればきれいに魔導カメラで花を撮影できるか思案する。
暗い中で光るものの撮影は存外難しい。フラッシュを焚けば光る様子を写すにはかえって邪魔だし、周りの人の迷惑になるかもしれない。
光っているといっても微々たる光量だから一瞬でシャッターを切った場合は真っ暗な写真になりそうで。
「カメラを固定して長時間露光かなぁ?」
ひとまず、人気のない位置に移動して、魔導カメラを固定する準備をし始める。
解散時間は特に決まっていないし、同伴者もいない。魔導カメラ用の夜景撮影の道具は集められる範囲で集めてきたし、活躍してくれるといいのだけれど。
「綺麗にとれたら写真をお友達に自慢したいし、頑張ってよね、カメラさん」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は風情を出すために浴衣で参加。舗装されていない道を下駄で歩くのはほんの少し大変だったがその苦労も報われるほどいい眺めにほんの少し口角をあげて笑う。
「前に見た光る藤っぽい花も悪くないが、こっちの花も違う趣があるな」
そういえばあの光る藤と自分の仲を取り持ってくれたのもあの童顔の青年ではなかっただろうか、とレイオスは花と月と星を肴に酒を飲みほしながら記憶を掘り起こしていた。
季節は巡り、人の縁も途切れたり繋ぎなおされたりしながら続いていく。
「月を眺めて一杯やって、花を愛でてまた一杯。肴が二つもあるとは贅沢だな」
ついでにいうなら今日集まっているハンターたちも見目麗しい人々が多いわけで。殺伐とした依頼ではなく息抜きに訪れた同僚たちの和やかな笑顔も記憶の一ページに、今日の幻想的な風景と一緒に刻まれることだろう。
そんなレイオスに声をかけたのはミオレスカ(ka3496)だ。約束もなかったので一人で酒を楽しむ様子を見て声をかけてみたのだ。
邪魔なようなら立ち去るつもりではあったけれど、命の危機がないなら袖振り合うも他生の縁、ハンターの日常を垣間見るにはいい機会。
レイオスは酒をあおり、ミオレスカは少し離れた場所でのんびり弁当をつつく。
レイオスが思い出したのは今日同行しているはずの青年だったがミオレスカが思い出したのは彼が仲介した仕事で出会った、歪虚の足取りを追って旅立った一人の女性のことだった。
「小夜子さんにも、こういった景色もたくさん見てもらいたいです。お元気でしょうか」
ルカの下に手紙か何か届いていないだろうか。あとで暇そうにしているようなら訪ねてみようか。
所在地がわかればこちらから手紙を出すのもいいかもしれない。ずいぶん長いこと、彼女の顔は見ていないから。
「歪虚を追って旅に、か。生半可な道のりじゃないんだろうな。救援要請が届くようなら、手を貸したいところだが。今頃どうしてるんだろうな」
「はい、生真面目な印象を受ける方でしたので無理をされていないかが心配で」
リアルブルーからやってきた異邦人と、クリムゾンウェストの、料理が下手な青年の話で二人はしばらく話し込んだのだった。
月の妖精みたいな坊ややねぇ、と地図を渡したルカが実は少年のような外見とはかけ離れた実年齢であることを白藤(ka3768)はしらない。
ルカはルカで自分の童顔ぶりから実年齢を言っても信じてもらえないことは承知していたのであいまいに笑って言葉を濁したのだった。
そんな白藤は蜜鈴=カメ―リア・ルージュ(ka4009)とデートに来ていたが他にも顔見知りを発見、そのうちの一人に抱き着かれ元気やなぁと相好を崩した。
ミア(ka7035)は合流したメンバーに次々と親愛のハグをして、それぞれからそれぞれらしい反応を受けて無邪気に笑う。
持参したのはエディブルフラワーのクッキー。手作りで真心がこもっている。
「クッキーもぐもぐどうぞニャス♪」
独特の語尾で白藤には紫のパンジーのもの、蜜鈴には赤のパンジー、灯には黄色のパンジー。
「ここでかくれんぼしたら、シュヴァルツエンドチャンの一人勝ちニャスかな?」
銀の髪と白衣の彼は確かに白い花畑では自然迷彩じみたステルス機能を発揮できそうではある。色も白いもやしなのでなおさら。
「はい、どーぞニャス」
そんなルカに差し出されたのは青いパンジーのクッキー。
「おや、僕にもくれるのかい。わざわざありがとう」
そんな二人の様子を白地に藤の咲く浴衣を着た灯(ka7179)が見守っている。かつて、愛した人が似合うと言ってくれた色を纏って静かに花畑を眺めた。
会えてよかった、そう伝えられたのは夜の魔法にかかったからだろうか。明るい光の下でそんなセリフは少し恥ずかしいし、陳腐に聞こえるけれど今この景色でいうならそれほど浮いた感じがしないのは幻想的な光景だからかもしれない。
「この花は何を力にして光っているのかしら。夜に咲く花なら、月の光をいとおしく思って咲くのかな」
「この花は、昼の間は普通の花と違って花弁を閉じているんだそうだ。光る理由は僕にはわからないけれど……夜闇を心細く思う誰かのために、閉じた花弁が日の光を集めて夜に放っているのか、それとも君の言う通り月がいとおしいのか。
人の手による開発が進んで便利になっていく世の中ではあるけれど、こういう景色は残ってほしいよね」
「はい。花だけじゃない、きっと人にもそういう力は必要なものなのかもしれないですね」
例えばこうやって自然の中で無心になることで心にゆとりを持つこととか。
「夏と花を楽しみましょう。この夏は一度きりなのだから」
そして来年同じ景色を見られるとは限らないのだから。
「白い六花、夜にだけ開く光の花、ニャスか。六つの光……ミアにとっての光は……ニャふふ♪ 個性と色であふれてるニャス♪ シュバルツエンドちゃん、このお花、名前はないんニャスかな?」
「聞いたことがないなぁ。似た花なら……白い花っていうとジャスミンとかマーガレットとかシロツメクサくらいしか僕は知らないんだけどその中で考えるならジャスミンがほんの少し近いような。でもまるっきり違うのかな。
この花畑にも正確な名前はなくてね、名前のない花畑に咲く名前のない花ってところ」
名前のない花、雑草という草はないそうだけれどね、無学で申し訳ない、とルカは白衣に包まれた肩をすくめる。
白藤は蜜鈴とミアが良い奥さんになりそうだとか、よい母親にもなれそうだとか、そんな親のような感想をかわしながら蜜鈴の口元にエディブルフラワーのクッキーを運ぶ。
そんな白藤の指先に口づけるように一口食べて。
「明るいほどの月光じゃが夜闇の影は死角を作る故のう。気を付けて歩くんじゃぞ」
「あーかり、手ぇかそか?」
ルカと別れた後は夜のお散歩。ふらふらと歩きながら鼻歌を歌って。
「花も綺麗やけど、気のえぇ仲間も綺麗で目が足りんな」
「笑顔の花、とは良う言うたものじゃなな」
友がいるというだけで世界はかくも美しい、とほほ笑んだ蜜鈴は思い出作りに写真を一枚。表情はもちろん、全員飛び切りの笑顔で。
「夏に咲く六花か……冬の六花とモノは違えど変わらず美しいよな。手折るはもったいないきもしよるのう……種は……あるじゃろうか。手に入るならば持ち帰りたいものじゃが」
種のつく時期ではないのか、球根などから増える種類なのか。あいにく種子はみつからなかったので、一輪だけ愛しき友への土産に帰り道へ同行を願うのだった。
「ふう……待ちぼうけを食らってしまったようだな」
なんて嘯くのはレイア・アローネ(ka4082)だが。実際は用事があってこれないと事前に言われていたのでただの皮肉なのだけれど。
仕方がないからこの景色はしばらくは一人で楽しむとしよう、と花畑を見渡す。
日々が激戦のさなか、たまにはこうしてゆっくりするのも悪くない。
だが話し相手がいればそれも一期一会、また違った楽しさがあるだろう、と今度は花ではなく人を観察するように見まわして。
「お邪魔してもいいだろうか。一人で見るよりたのしそうだったんでな」
レイオスとミオレスカとレイアは三角形を作るように座って、今度は三人で雑談開始。
久我・御言(ka4137)は待ち合わせの十分前にはたどり着いていた。いわく、紳士として恋人を待たせてはいけないから、と。
愛しき人の手を取り花畑へとエスコート。たどり着いた先の夜闇に浮かぶ無数の光にしばし呆然とたたずんで。
花を眺めながら少し歩き、程よいところで鷹藤 紅々乃(ka4862)がつかれていないかと気遣って座れる場所を探す。
「自ら輝く花、かね。うむ、素晴らしい。見事なものだね」
私にとっては隣を歩む花に勝るものなどないが、とさらりとのろけて。
「だからといってこの景色を否定するものでもない。そして、そんな景色を今、大事な相手とともに見ることができている。これを幸福といわずなんと呼ぼう」
御言のいうところの世界で最も美しい花、と称賛の言葉を受けた紅々乃は御言に誘われた久々のデートということで真っ赤になった顔はバレバレかもしれないけれど、夜のデートでよかったかもしれないと恥じらっている。
淡い光を帯びた花畑は楽しみにしていた分、そして愛しい人の隣で見る分とてもきれいで。
この世のものとは思えない景色にうっとりしてどこか遠くを見るような表情になってしまって御言を心配させてしまったり。
「心配させてごめんなさい。でも私の居場所は御言さんの隣です。今も、これからも。……あの、御言さん……私の、ファーストキス……もらってくださいますか?」
御言がそれに応じたのか、それとも完全に二人きりのところでキスを送ったのか。それは二人と、花と、天体だけの秘密。
夜桜 奏音(ka5754)はゆっくりと花々を鑑賞。
「たまにはこんなふうにゆっくりとした時間を過ごすのもいいですね」
花を傷つけないように注意しながら敷物を敷いて楽な姿勢でくつろいで。
恋人たちの逢瀬は邪魔しないようにしながら行きかう人たちと軽く言葉を交わす。
「さて、ひとしきり花を楽しませていただきましたし。この雰囲気に合う舞でもひとつ」
自分の舞も、誰かが楽しんでくれればいいが。そんな思いを抱きながら天と地に捧げる舞を舞うのだった。
「わぁ……っ! すごいですねぇ。私、今、星の中にいるみたいじゃないですかー?」
「……なるほど。見事なものだなこれは。こう幻想的な風景もあまりみられるものじゃ……と、柊。あまりはしゃぎすぎるなよ。コケてもしらないぞ?
……しかし、星の中、か。……言いえて妙だな。まるで星の海のようだ」
氷雨 柊(ka6302)がはしゃぎながら花畑の中でくるりと振り返って問いかければクラン・クィールス(ka6605)はくすりと笑ってからかって。
子供じゃないんだから転んだりしません、と抗議の声の後に恋人から、花畑に来た真意を問われる。
「このお花に興味があってきたかった……だけではなさそうでしたよねぇ? どうして一緒に行くって言ってくれたのか、教えてくれませんかー?」
「まぁ、花に対する興味も多少はあったんだが……そうだな。普段は、お前から誘われてばかりだから。良い機会だと思った。大した理由じゃないが、そんなところだ」
たまには依頼以外で足を延ばすのも悪くないし、こういう場所ならゆっくり話すのもちょうどいいから。そんなクランの言葉に柊は喜びで顔をほころばせた。
「それじゃあ、ゆっくり楽しみながら歩きましょうかー。もし転んだら助けてくださいねぇ?」
「あぁ、そうだな。ゆっくりすごそう。……ところで、子供じゃないんじゃなかったのか?」
「だってー、暗いですしー、足場も悪いですしー、恋人に甘えるいい機会ですしー。ね?」
「なにがね? なんだか」
まぁ、わからなくもないけれど。まんざらでもない様子で二人は手をつないで歩きだしたのだった。
「なかなかのデートスポットと聞きましたので、是非マウジーときたかったのですよ」
妻の穂積 智里(ka6819)とぴったり寄り添って歩きながらハンス・ラインフェルト(ka6750)は微笑みを浮かべる。
「地上の星のような……コロニーにいるときは考えもしませんでしたが、人は長らく、重力の底から星々の世界にあこがれ見上げ続けていたということでしょうね」
「確かにきれいな場所ですよね……絵葉書があったら、おじいちゃんやおばあちゃんに送りたいくらいです。二人とも、こういう場所はすごく好きだと思うから」
でも、と智里はゆっくりと瞬きをしてハンスを見る。
「たまにですけど……ハンスさんの感性ってやっぱり独特だなって思います。きれいだな、だけじゃだめですか? 人は多いですけど……この景色を共有する楽しみより、そちらに興味がいっちゃうんですね」
智里の指摘にすみません、とわびた後軽く頭を下げて、それでもこの風景をわざわざ星の海に喩えるほど人は空に焦がれていたのかと面白くなってしまったのだと告げる。
「私たちにとっては真空に瞬く星などただの恐ろしい死の世界の象徴だったのに、と」
「手に入らないものに焦がれて、それを別のものに仮託すること自体はよくあることじゃないでしょうか。それで幸福と満足を得られますから」
「手に入らないからこそ焦がれる……そうかもしれませんね。ならば焦がれていた東方世界と貴女を手に入れた私は世界一幸運な男だということですね」
甘い言葉をさらりと言って髪にキスするハンスに智里は人前で恥ずかしいことするのは禁止ですと真っ赤になって照れるのだった。
夫婦の時間は緩やかに、甘やかに過ぎていく。
美しい風景だと思いながらフィロ(ka6966)は一人で花を眺めながら散策していた。
この思いは他者と共有することでより深くなるのだろうか、とも考えるが自分からはまだ誰にも話しかけていない。あちこちで恋人が、友人たちが、夫婦が楽しげに語らっている。
自分はそんな人たちと今ここで景色を共有している。同じように思い、同じように花を眺め。
それを取り出して深めるのか、それとも一人で大事に記憶の淵にしまい込むのか。
世界は美しく、思い出せない自分の主人とその家族たちはこんな風景がきっと好きだったのだろう。この場にいれば仲良く寄り添って眺めていたのかもしれない。
(私はいまだに思い出せない方々を愛している。壊れた記憶がそう思っているだけかもしれないけれど……何もなくなってしまったからこそ、今度こそは私は何かを得たい)
そして何かを得た後、自分は何を遺すのだろうか。
そんな思考の海を揺蕩っていると白い影。
「ルカ様、本日は素敵な場所へのお招きありがとうございました」
「どういたしまして、いつもお疲れさま。今度なにか厄介ごとが持ち込まれたら解決を手伝ってくれると嬉しいよ。こういうつかの間の休息が、つかの間ではなくずっと続くといいのだけれど」
銀髪に蒼い目の青年はそういって少し困ったように笑う。まだそれは大分先のことだとわかっていたからだろう。
けれど夢見ることは自由だと思ったから、フィロはそうですね、と短く相槌を打ったのだった。
オフィスで聞いた、光る小花を愛でに宵の散歩。踏まないように気を付けて、花の間を行きかえば。
「私の衣の裾も花の色に染まっていくよう」
歌うように玲瓏(ka7114)はつぶやく。花分け衣だ、と。こんなかわいらしい衣をまとってみたいものですね。そんなおとぎ話のような願いも、ここでなら聞き届けてもらえそうな景色だった。
「これはなんという花なのでしょう」
万燈籠のような、空の星をそのまま移したような花々をそっと見つめ続けていると脳みそも解けて消えてしまうような錯覚に陥る。
それは現実逃避だろうか、それとも花が見せる魔性の一面だろうか。
魔性のものだったとしても良い気分転換にはなったので、ほかの人たちが全員いなくなっても一人でぽつり、朝日が昇るまで。
一般的な花々が開き始める時間に花を閉じる白い花の明かりの行く末を玲瓏はしずかに見送ったのだった。
夏の間、その花畑はひっそりといつ来るともしれない観光客を待っている。誰かが来ても、こなくても。変わらずに日が暮れてから花を開き、夜明けと同時にしぼむ。
銀髪の青年はこの花を六花と喩えたけれど。クリムゾンウェスト出身の彼は、リアルブルーで雪を六花と称することをきっと知らなかったのだろう。
けれど夏の雪のように、幻のように、この世とは思えない景色の主役となる花々は、確かに六花と呼んでもいいものかもしれない。
満ちては欠ける月に照らされて、夏の六花はまどろむように花開く。今日も、この世界のどこかで。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/13 00:30:57 |