• 空蒼

【空蒼】神様ちょっと、僕の手を引いて

マスター:凪池シリル

シナリオ形態
ショート
難易度
不明
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~4人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/07/17 15:00
完成日
2018/07/22 03:04

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松本尚巳

オープニング

「……何ですか。『お前まだ正気だったのか』とでも言いたげですね」
 伊佐美 透の顔を見るなり、強化人間の高瀬少尉はつい、そう口にしていた。
 彼は少し前に関りを持つことになったハンターだった。とはいえ向こうがこちらに関心を持つような関りではなかっただろうから、彼がこの任務を依頼として受けてきたのはあくまでただの偶然だろう。
 動乱の蒼の世界、その最中の依頼ではあるが、今回のこれは、内容としてはこれまでに良くあるものだった。狂気VOIDの討伐。火星クラスタ戦の折りなどに放たれ未だ残留するそれらが姿を現した物らしい。地味だがかといって放置して良いものではない。
 奇しくも、少尉と透が初対面の時と状況は酷似していた。まだ市街地からは離れた場所に姿を現したVOIDの迎撃。だが、万一を考え作戦は戦闘区域となりうる可能性のある場所に住む市民の一時避難を完了させた後に開始する。
 つまり……行動開始まで、雑談する程度の時間があった。
「……無事が分かって良かったと、思ってるよ」
 返ってきた言葉から悪意は感じ取れなかった。むしろ純粋に善意なのだろう。こっちの態度を思うと呆れたお人好しだ。反意を向けにくくなって、逆に腹立たしい。
「……。そちらは、ご活躍のようで」
 だから皮肉の一つでも言ってやろうと思ったのに……出た声は、ただ、疲れたような物になってしまった。
 ハンターという存在が疎ましかった。軍の道を真っ直ぐに進み世界の為にと自らの意思で強化人間となった少尉にとっては。ずっとリアルブルーに居ることが出来て、いつでもこの世界を守ることのできる、第一にこの世界を守るべき存在は僕たちだと、軍なのだと、そう認識されるべきだと感じていた彼にとって、ハンターは邪魔な存在だった。ましてや戦闘以外の手段で目立ち人気を得ようなどと。
 自ら志願したのではなく、ただ選ばれて覚醒者となった彼らはいい加減な存在なのだと思えた。だから戦う以外に生きがいがどうのと寝惚けたことが言える。そんな奴らなのだと。
 ……その生き様に触れる機会があって。確かに自分は嫉妬していたのだと、そのことも自覚はしたが。決して自ら望んだわけでは無い環境に連れてこられて、自らを投げ出さなかったその姿勢に。
 それも……もう、どうでもいい。妬みも。羨望も。そう──もう、疲れたんだな。僕は。
 そうして。
「ここで、僕を、殺してみますか」
 そんな言葉が、口を突いて出た。
「貴方たちにはそれが許されるでしょう。ここで、僕が『暴走』したなら。……貴方になら出来るんじゃないですか。僕には僕の理屈がありますが、それでも。貴方には散々不快なことを言ったという自覚もありますよ」
「……君は暴走してない」
「それは、暴走したら、殺すということですかね」
 少尉の言葉に、透の顔色が変わる。彼はこちらの意図を正しく理解したらしい。そう、実際に暴走したかどうかなど、事実味方に攻撃を加えれば傍目にどう分かるというのだ。ましてや死体となってしまえば。強化人間の扱いを決めかねている軍や政府は、ハンターが伝えた言葉を追及はしまい。
「馬鹿なこと、考えるな! 大体これは君一人の問題じゃない! 暴走事例の報告が増えたら、強化人間排除の話が余計に加速する!」
「それも……良いのかも知れませんよ。決断は、早く促した方が。守るはずだったものを害する前に」
「……。強化人間が、必ず暴走するかは、まだ分からないだろう」
 こちらからすれば虚しい希望に過ぎない言葉を、彼は口にした。強化人間にはまだ不透明な部分は多い。もしかして、そこに望みはあるのかもしれないが……だが、それでも。
「……仮にそうだとしても。悠長にそれを解明している暇が有りますかね……あるいは、その必要が」
「必要がって……」
「人類は本当にそんなものを求めているんでしょうか。連日の報道にデモ。君たちに僕たちを殺せという叫びは。こう、聞こえませんか」

 ──真実なんてどうでもいい。化物同士殺し合え。血みどろになって俺たちを楽しませろ。

「……僕たちは。何のために──いや、何と戦ってるんですか? どう、勝利するんです……?」
 ……もはや。真実を解明することが。事件の元凶を討伐することが。勝利などと言えるのか。
 いや。『強化人間』たちについては、もはやとっくに敗北しているのではないか。初めから。最初の一手で、どうしようもなく僕たちは負けていた。少尉にはもはやそんな風に思えてならない。
「──だったら、取り戻す」
 なのに。貴方はそんなことを言うのか。
「……そうだ。俺は、それをもう一度、取り戻そうとしたんだ。その為に戦ってきた」
 その言葉を、まるきり無視できるわけでは、無かったが。
「まだ、終わってない。ここに居るのは、俺たちを否定しようとする人たちだけじゃない。悪意がそれを塗りつぶそうとしたって、抗える。きっと……届く」
 まだ終わらない、そのことも、否定はしない。こちらからすれば、負けるにも負け方というものは考えなければならない、という意味でだが。
「……成程。『希望の象徴』らしいことを言うようになったじゃないですか。でもそういうのは、もっと堂々とした表情でやらないと駄目じゃないですかね」
 前向きにこれからのことを語ろうとする彼の表情は、苦悩に満ちたものだった。
 嗚呼、ふと思う。どれほど絶望的な結果を見せられようとも、その力故に、世界から、己から、期待を、希望を背負わされ続ける彼らの方が気の毒なのかもしれない、と。
 そうするうちに、避難完了の連絡が入った。

「二手に別れましょうか」
 提案は、少尉からだった。透は同行は選ばず、別方面に向かうと言った。これは少し、意外だった。こちらの目的はおそらく理解しただろうに。その上で、こちらの気持ちも尊重してくれたのか。
「……さっき言ったこと、僕は割と本気なんですよ」
 そうして、こちら側に来たハンターに少尉は告げた。
「『暴走』した僕を、ここで『処分』しますか?」
 欧州での、強化人間の暴走事件。希望を望んだ末での選択の結果が、あの末路ならば。
 絶望的な手段が、力なき人々の未来を掬うことも、あるんじゃないだろうか、と。
「……残された命と、意思が、限られた物ならば、僕はそれをどう使うべきなんでしょうか」
 VOIDに向けて、自爆的な特攻をすることも考えたが、それも出来ない。近づくことで暴走のリスクはより高まるだろうから。それに。
「強化人間が暴走するキーがあるというのならば。余計に。己の最期を、敵意ある存在に握られているという気持ちが、分かりますか?」
 少尉は現状をこう認識している。強化人間はもうどうしようもなくVOIDに敗北した。これはもう、負け方を決めるための戦いだと。
「──最期くらい、自分の意志で決めさせてもらえないですか」
 ハンター。希望の象徴。さあ、この言葉にどう答える。

リプレイ本文

 ──何のために、ですか。

 難しい問いですね、と、マリエル(ka0116)は静かに、胸の内に答えを聞く。
 己の意識を探ろうとすると、まず触れるものがある──神様というものが、嫌いだ。
 余り周りに言うべきことではないと弁えてはいるが。
 覚醒者になる前の記憶がない彼女だが、その感覚は何となく馴染み深く、きっと記憶を失う前、もっと昔からこうだったのだろうな、と漠然と思っている。
 ……そも、神とは何だろう。
 大精霊は神とも言われているらしいが、彼女にはピンと来ていない。実体を持つ存在を神様と呼んでいいのか、と。
 改めて自己のその部分を確認して、さらに深いところへ。

 何のために、と問われるならば。自分のために、と答えるだろう。
 何と、というならば。運命というものから。



 木々を掻き分けて空から狂気の個体がぬっと姿を現した。
 アルスレーテ・フュラー(ka6148)が魔法の矢を放ち迎撃すると、続くようにテノール(ka5676)の、マテリアルを練り上げた気功波がVOIDを直線状に薙ぎ払っていく。メアリ・ロイド(ka6633)が機杖を掲げると、生まれた三つの光点から放たれる熱線がそれぞれ敵を穿つ。
「擬似接続開始。コード『ロキ』。イミテーション・ミストルティン!」
 マリエルの祈りと共に漆黒の槍が生まれ、向かい来る敵を縫い留めていく。
 それらハンターの動きに一歩遅れる形で、少尉が銃を抜き、撃った。そこに今のところ、おかしな動きは見えない。
「迎撃する気は有るんだな」
 一先ずは余裕のある戦局に、テノールが口を開いた。
「死にたいなら、黙ってこいつらに殺されるという方法もあると思うが」
 周りに迷惑をかけないのであれば、死にたいのであれば止めはしない。そんな、突き放した声だった。
 敵意を向けようとしている……わけでは無い。単純に、思ったことを言っているのだろう。
「だが、『殺してみますか?』『処分しますか?』──自分の死を他人に背をわせるのは止めろ」
 言いながらテノールは、今一撃を食らわせた眼前の個体、失神して地に落ちたそれを見下ろした。死にたい、しかし自分で手を下すのは上手くいかないというのならば、そういう方法もある。それこそ、何の良心の呵責も後腐れもなく殺してくれることだろう。
「そんな風に最期まで自分で選んだかのように見せかけ、人任せにしようとするような──自分の命だろうと簡単に手放そうとするな。それは生きたくても散っていった者たちへの侮辱だ」
 テノールの言葉に、少尉は時折、表情に反応を見せていた。
「そもそも、ここで死ねば歪虚の思い通りだろうに。強化人間と言う駒を奪い、一般人からの不信と言う鎖で動けなくする、奴らの狙いはこちらの世界の守護を担う軍と言う存在のそうやった弱体化だろう」
「……見解の相違ですね。『強化人間と言う駒を奪い』というが、そもそもそれを現状『こちら側の駒』と考えるべきなのか」
 そこまで聞くと、少尉も口を開いた。声は淡々としている。
「意図がきちんと伝わっていなかったようなので説明します。僕は、強化人間がこのまま暴走を繰り返すのであれば、地球政府及び軍には『早急な決断』が必要になるだろうと思っています。そのためには……『覚醒者が』『暴走した強化人間を』討伐したという結果が、もっと必要だろうと、申し上げているのです」
 テノールは嘆息して、付け足すように告げた。
「こちらの世界ではどうだか知らんが、俺らの世界には負のマテリアルを持った死体を歪虚にするような奴らもいる……今は、紅と蒼を人だけでなく歪虚も行き来する時代になったようだしな。死んだとて、そいつらに使役される歪虚になるだけかもしれんぞ」
「……それは、あまり心配することではないですね。死体を使った、あからさまなVOIDであれば、現状でも軍も貴方方も容赦く潰す、ただそれだけでしょう」
 肩を竦めて、テノールは敵へと完全に向き直った。処置なしか、と思ったのか。どうにせよ、仕事の対象ではないため会話の結果がどうなろうと殺すつもりは全くなかったが。
 そうしたやりとり──敵を作りたがるような少尉の言い草を、メアリは興味深そうに横目で見た。
 彼女は高瀬少尉を興味深いと思っていた。表出している部分は違えど、自分に似ていると思う──友達が少なさそうな所も、ひねくれたところも。
 やけになって絶望しているのを。消すことは出来なくともせめて緩和はしてやりたいと思う。死にたいというのが本気ならば、そこからは引き摺り上げてやりたい。
 とはいえ、言いたいことは戦闘の片手間にやるべきことではないと思うから……今は、静観する。
「当然だけど、暴走したら倒すわよ」
 アルスレーテが、面倒くさそうに言った。やはり目の前まで迫った一体の触手を、篭手で弾き返したところだった。マテリアルを込めた拳が敵の一撃を無効化すると、押し返したその距離を埋めるように踏み込み、殴りつける。必殺の一撃を受けて昏倒する相手を、依頼とは分かりつつもご愁傷様、と自嘲気味に見つめて。
「暴走して、歪虚退治の邪魔をするならね。けど暴走しないなら、現状の高瀬は味方。なら、わざわざ攻撃する理由はないわ」
 しれっと言い放つ彼女は、世論だとか、政治の話だとか、そんな事は一切気にするつもりは無いらしかった。
「……本音を言うとね。私は別に、仕事でなければ、最低限身を護る以外の理由で歪虚を倒すつもりはない」
 それは、相手が歪虚だろうが強化人間だろうが、人間やエルフ、ドワーフも鬼もドラグーンもオートマトンであっても、変わらない。
 ──『私の世界』を乱すなら相手になるし、そうでないなら不干渉、だ。
「先がどうなるかは何も考えず、ただ目の前の事だけ対処すれば良い……と?」
「世界を滅ぼそうってんなら好きにすればいいし、結果として滅ぼされるなら負けるほうが悪い」
「こうして、VOID退治には参加されるのは?」
「仕事だから。歪虚を倒してくれと頼まれて対価を貰ってる、ならそれだけの仕事はしないと、ただのクズでしょ?」
「人間退治で報酬が出る依頼があれば、それでもいいと」
「……。まあ、そうなるわね」
 歪虚と友達になることもあるだろうし、個人的に嫌いな歪虚もいるし、個人的に嫌いな人間もいる。
 種族単位でどうこう言うつもりはない。好きなやつは好き、嫌いなやつは嫌い。可愛いものは可愛い、醜いものは醜い。
 彼女のそのスタンスに添うならば、そういう事になる。
「楽してお金貰えてダイエットになる仕事があれば、そっちに手を出すけど。歪虚退治しかり、こんなめんどくさい事誰が好んでやりますか」
 あくまで、今だって信念があってVOID退治に精を出しているわけでは無いと、そういう事らしい。
「で? この問答もそろそろ面倒くさいんだけど、まだ続くの?」
「いいえ。そこまで割り切っているのであれば、何も。実際、傭兵とはそのようにあることを願うべきなのでしょうね、我々は──本当なら。っ……!」
 最期に言葉を詰まらせたのは、単純にVOIDの放つ熱線の標的になったからだ。マリエルが咄嗟に障壁を張り、それを軽減する。
「先を考えて動くのは、その責任と結果を受け取るのは、指揮する側に集約されるべき、だ。派遣される者たちには、ただ従ってもらうのがいい。リアルブルーのことは、リアルブルーの人間で。……強化人間は、その説得力になるはずだった」
 ポツリと。誰にという訳ではなかったのだろう、呟かれた言葉は少し寂しさが漂っていた。
 マリエルとテノールがその時、僅かに表情を動かしていた。



「すみません」
 一旦、現れた全ての敵を倒し終えると、マリエルが少尉の詫びの言葉を告げる。少尉は思い当たる節は有りそうなものの、なんです、と視線を向けた。
「戦闘中、貴方を護ったこと。面白くなさそうでしたので」
「……まあ、『お前が一番弱い』という事実を露骨に突き付けられている心地ではありましたね」
 にべもなく少尉は返す。勿論、そんなつもりではなかった。ただ……今は彼に寄り添うことが、それを示すことが必要だと思っただけだ。
「掌をひっくり返した様な望まない現実。それでも、なにかの、誰かの為にと願った貴方だけの戦う理由があった筈。その想いは本物だったと私は信じます」
 戦いの中、彼がほんの片鱗だけ見せたもの。それを信じて、臆せず彼女はもう一歩、踏み込む。
 彼女の尊敬する友人たちは、泣いている人をほっては置かないだろうから。
 ──記憶のない自分の命は他の人よりも軽い、そう考えていた私を救ってくれた彼女なら。
 ──そして遠く霞む記憶の中に微かにあった、小さな世界しか知らなかった私に手を差し伸べ外に連れて行ってくれたあの人ならば。
「ですから、すみません。貴方に死んでほしくないんです」
 まっすぐに、少尉を見つめてマリエルは言う。
 これは決して、彼を救いたい、なんて傲慢では無くて。
(私の為に──私が私らしくある為に)
 世界は……ままならないことばかりかもしれない。それでも今は。互いに、生きている。だから。
「良ければ、貴方の思い出を聞かせて下さい」
「……」
 少尉は、口を閉ざして、答えなかった。テノールが、もう一言だけ、という感じで言った。
「あんたが何のために軍人になったのかは知らないが、普通の軍人ではなく強化人間になったぐらいだから何か強い志は持っていたんだろう? 信じる先があったんだろう?」
 少尉は、少し考えるようなそぶりを見せて……そして首を振った。もう意味がない。そう言いたげに。
 そこで、メアリが少尉の前に歩み出た。
「初めまして、メアリ・ロイドと申します」
「依頼に参加するハンターの基本情報は把握していますよ」
「……いえ、きちんと名乗っておかないとなと思いまして」
 いちいち言い返す、そんな態度が……メアリには、やっぱりちょっと、面白いと思ってしまう。構わず続けた。
「私は最後まで諦めず、強化人間を暴走させる黒幕を倒しにいきます」
 きっぱりと告げるメアリの言葉に、少尉の表情は晴れるどころか益々顰められた気がした──それも、そうだと思っていた。
「夢見させるようなこと、と思うかもしれませんが私のあきらめが悪いだけです。……万が一、間に合わなくて、貴方が暴走してしまったら責任を持って私が止めにいきます。無いよりはマシな約束でしょう?」
「……まあ、少なくとも何か不都合が増えるような話ではありませんね。実際、無いよりはマシ程度の期待値だと思いますが」
 ありふれた綺麗事。そう思って、少尉はこれまで通り淡々と受け流──
「私、歪虚は殺した事何度かありますけど、人間は無い。なので、私に殺されたいのならば私と親しくなって下さい、友達になってください高瀬さん」
「なっ……あっ!?」
 メアリがそう続けた瞬間、滅茶苦茶動揺した。
「い、いきなり何を言いだすんですか!?」
 いきなり真っ赤になって慌てふためく少尉に、メアリはつい、一度言葉を止めて目を瞬かせた。
「……いえ別に、『お友達から始めましょう』とかそういう話ではないですが」
「わ、分かっていますよ僕だってそれくらい! それでも婦女子から男にそういう事を言い放つのはどうかと言っているんです!」
 まあ、彼女の読み通り、というか、これまでの言動を見ればさもありなんとは思うが、実際に彼は友人が少ない。ましてや異性となれば。
「うっわどんだけだよこれ完全に免疫ゼロか」
「完全に堅物の軍人生活なら、そんなものかもな」
 予想外の展開に、アルスレーテとテノールが、呆れ気味に指摘する。
「幾ら軍人ったって、今時のリアルブルー人でこれはねぇよと思うけどな」
「……は?」
「ん。いえ、何も」
 メアリは思わず素の口調で突っ込んだ。少尉が我に返って訝しむのを、慌てて誤魔化す。
「ええと、だから……私、殺すならちゃんと貴方の事を知ってから背負いたいです。アスガルドの子ども達の時は、全員の名前と性格を調べるだけ調べて、私だけは忘れないようにと、そうしたんです」
 気を取り直してメアリが続けると……真面目な話であることは認識したのだろう。一つ、大きな深呼吸をして、少尉はメアリに向き直った。
「……あまり、賢い生き方とは思えませんね」
 少尉の返答に、メアリは儚げに苦笑した。実際、その通りだと思う。
 実の所彼女は彼をだまそうとしている。止める約束はしても、例えいつか暴走しても殺す気は無い。
「友達になりたい動機はそれだけではありません、貴方の感情、性格が、興味深い」
「なっ……! で、ですから迂闊にそういうっ……!」
 また真っ赤になって動揺した。……いや実際、当初とはまた違う方向で興味深いこれ、どうしよう、とか内心思わないでもないメアリである。
 流石に把握して来たので、今度は予定通りに対応するが。
「まだ貴方の下の名前、教えてもらってないです。まずはそこから聞かせて下さい」
 言いながら、握手を求めるように手を差し出す。少尉は暫くその手へと視線を向けて……そして、ふい、と背けた。
「僕は……ハンターと慣れあう気は、有りません。当事者として、常駐する責任ある立場として、この世界の戦いを導くために強化人間になった……!」
 語気を強めて、少尉は告げる。耳まで真っ赤にしての拒絶に説得力など無かったが。
「それに……別に、聞かせるほどの話もありませんよ。軍に入ったのは、そういう家系だったというだけです。誇り高く祖国を護れと育てられて……その通りに戦死した父に報いるためにこうするのが良いと、その時は考えた、それだけです」
 そうして。少尉は静かにその身の上を、手短に語って見せた。握手は叶わなかったが、こちらの誠意をすべて跳ねのけるという訳でもないのだろう。メアリはそう解釈して、その色んな意味でのあまりの不器用さに無表情を少しだけ崩す。
 少尉は面白くなさそうに、アルスレーテ、テノール、マリエルへと順番に視線を向けた。
「兎に角。貴方方に今回、僕の主張に協力する気がある者は居ないという事は判りました。……であれば、今日のところは一旦保留とせざるを得ません。望む形の報告をしてもらえそうにないのであれば誰の益にもならない話だ」
 そうして、言い捨てると彼はVOIDの捜索を再開します、と歩き始めた──完全に負け惜しみの体ではあったが。



 やがて、こちらの方面も全ての捜索と退治を終えて、彼らは来た道を引き返す。
 合流は、予定していた地点にたどり着くより先に成された。こちらの様子を気にしていたのだろう、急ぎ気味に向かってきた別動隊の動きによって。
 少尉の生存に、安堵の表情を浮かべる彼らに。少尉はつまらなそうな顔を向けるが……そこに湛える重さは、初めに見たときより軽減されているように、見えた。

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MVP一覧

  • 天使にはなれなくて
    メアリ・ロイドka6633

重体一覧

参加者一覧

  • 聖癒の奏者
    マリエル(ka0116
    人間(蒼)|16才|女性|聖導士
  • ―絶対零度―
    テノール(ka5676
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士
  • 天使にはなれなくて
    メアリ・ロイド(ka6633
    人間(蒼)|24才|女性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/07/13 19:20:07
アイコン 相談卓?
アルスレーテ・フュラー(ka6148
エルフ|27才|女性|格闘士(マスターアームズ)
最終発言
2018/07/17 10:16:55