ゲスト
(ka0000)
クリスとマリー 古都、はなまがり
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/23 19:00
- 完成日
- 2018/07/31 03:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ダフィールド侯爵領を出た貴族の娘クリスティーヌ・オードランとその若き侍女マリー…… もとい、貴族の娘マリアンヌ・オードランとその侍女クリスティーヌは、無事に北東山岳地帯フェルダー地方を抜けてエリザス地方へと入った。
「ようやく巡礼の旅に戻ることができたわね! この服を着るのも随分と久しぶりな気がするわ!」
長い長い『寄り道』を終え、久方ぶりに巡礼者たちの装束を身に纏い…… 長らく離れていた旅路に戻ったマリーは鼻歌混じりにスキップするように先行しながら、のんびりと後をついて来るクリスを笑顔でそう振り返る。
「随分と嬉しそうですね、マリー」
「あったりまえよ! 一生に一度は冒険……もとい。王国全土を見て回るのが私の夢だったんだから! まだまだ未知の土地や文化が私を待っているんだし!」
「その旅ももうじき終わり……そうしたら、いよいよマリーも結婚ですね」
「ウッ……!?」
「……もしかして、忘れてはしゃいでたんですか? 結婚が嫌で駄々をこねて巡礼の旅に出たというのに」
……侯爵領での『寄り道』の果て。実はそれぞれの立場──主従が逆である事が判明したクリスとマリーだったが、幼馴染で親友でもある二人の関係性は以前と全く変わらない。いや、むしろ侯爵領でのあの命懸けの騒動を経て、その絆はより深まったかもしれない。マリーを見守るクリスの瞳はとてもとても暖かで、優し気で…… 元々、姉妹の様な関係性の二人だったが、今では本当の家族のようだ。
「もう、いいのよ、それは! 巡礼が終わったら終わったでまた追々何か考えるから! それより今はいつもの解説!」
「はいはい。……エリダス地方と言えば何といっても古都アークエルスですね。歴史的には、ネグノーシス戦争を終結させたエルス条約が王国暦238年にこの町で締結されました。その歴史にふさわしく、王国一の蔵書を誇る王立図書館『グリフヴァルト』を擁し、多くの研究家が居と研究所を構える学問の都、学術都市としても有名ですね」
「ふーん…… じゃあ、学生と学者先生ばかりのお堅い町なんだ?」
「それは…… 実際にその目で確かめた方が早いかと」
そうして古都アークエルスへ到着したマリーとクリスは、町の入り口でいきなり胡散臭い男に声を掛けられた。
「おねーさんたち、この街の関係者? え、違う? だったら魔法災害保険に入っておいた方がいいよ。今なら爆発特約もついてお得だよ!」
「保険? え? 魔法災…… てか爆発? え? え???」
「だから、街中で魔法災害に巻き込まれた時に備える為の保険だよ。旅人さんはこの町の素人さんだし、いつ何時爆発に巻き込まれるか分からないだろうし……」
「え、ちょっと、何言ってるか分かんないです」
お上りさんに対する新手の詐欺か何かだろうか。そう思って断ったマリーだったが、その後も門前から抜けるまでは何度も同じような勧誘が相次いだ。護衛のハンターがいるから、とその全てを断って市中へ入った彼女だったが……一刻も経たない内に、先の話が詐欺でもなんでもないことを身に染みて思い知らされた。
街を歩いているだけで、どこか遠くから響き渡る爆発音を幾度も耳にした。マリーは思わず身を竦めたが、周囲の街の人々はまったく動じてなかった。彼らにあの爆音は何かと訊いてみたら「多分、どこかの研究者が実験に失敗してアフロになったのさ」と事も無げに宣った。日常茶飯事なのだろう。
観光名所の動物園は、観光施設などではなくて、研究者たちが集めて来た実験動物を飼っておくための施設だった。幻獣──猛獣どころの騒ぎではない──が檻の中をうろつき回り、のこのこやって来た観光客(人間)に敵意丸出しの威嚇をし。無造作に放置された魔法生物がポコポコと分裂を繰り返す…… 帰り際、出口付近の係員に「お客さんらは運が良い」と声を掛けられた。なぜなら、今日はただの一頭も脱走騒ぎを起こしていないから。
裏道では下水に詰まったスライムが溢れ、魔術師が溜め息交じりに火炎魔法で『掃除』をしていた。
実験場と思しき畑では竜みたいに巨大化したミミズがのたうち回っていた。
どこぞの遺跡考古学者が拾ってきた魔導機械が坂道を転倒して転げ落ち、人込みの中に突っ込んで爆発して皆アフロになった。
夜、魔導照明によりライトアップされた街並みに沸き上がった観光客らの歓声と感嘆の吐息は、直後、どこからともなく明かりに惹かれてやって来た大量の虫(拳大)たちによってすぐに悲鳴に変わった……
「なんなのよ、この町はっ!?」
「あははー、楽しいれするぇー♪」
辛うじて逃げ帰った宿の食堂で、ダンッとテーブルへカップを叩きつけて叫ぶマリー。一方、その正面に座るクリスの表情と言動はハッピーでおかしなことになっていた。おそらくドリンクバー(と訳された)の魔導機械がおかしなことになって、クリスが飲んだ飲み物が汚染されて変な効果がついたようだ。まあ一晩寝れば治るだろう(ぇ
そんな状態のクリス(含み笑いが止まらない)をベッドに放り込んでさっさと就寝したマリーは、しかし、夜中にどこからか這い寄って来た強烈な悪臭に目覚めを強制されることとなった。
就寝しながらも感じた違和感にスンスンと鼻を鳴らし……眉をひそめて覚醒したところに普通に息を吸ってしまって、直後、肺中の空気を一気に吐き出しながら、咳込み、のた打ち回ってベッドから転げ落ちる。
(何これ!? この例え難い強烈な悪臭は……! ニンニク臭いというか、腐ったごま油みたい臭いは……!)
リアルブルー出身者なら、焼けたゴムや硫化水素といった例えも表現に付け加えられていたかもしれない。そして、この臭いは例えのどれとも異なり、また言葉で言い表せないくらいに強烈で不快だった。その臭気はkm単位で周囲に広がるとか、月単位で臭いが取れないとか、そういった災害レベルでの……!
ちなみに、この悪臭の只中にあって、クリスは泥の様に眠ったままピクリとも動かず、全く目を覚まさなかった。先の飲み物の効果なのか、何だか顔が信号機の様に土色になったり紫色になったりしてるが、まあ一晩寝れば治るだろう。
(それより今はこの悪臭! いったいどこから……ッ?)
ハンカチで口を押え、涙混じりで換気の為に窓を開けたマリーは、直後、窓の外に咲いていた『花』と『目が合った』。
……二階の窓である。『花』はその高さに相応しく巨大なものだった。夜の街中、篝火の明かりに赤く照らされたのっぺりとした黄色い花が、ジッとマリーを『見返して』いる……
「大変だ! トットチーニョさんとこの植物園から繁殖期の『skunk cabbage』(と訳された)が逃げ出した!」
(植物園? 動物園じゃなく?)
あまりの悪臭に意識を失いながら…… 最後にマリーはもう一度「何なのよ、この町は!」とツッコんだ。
「ようやく巡礼の旅に戻ることができたわね! この服を着るのも随分と久しぶりな気がするわ!」
長い長い『寄り道』を終え、久方ぶりに巡礼者たちの装束を身に纏い…… 長らく離れていた旅路に戻ったマリーは鼻歌混じりにスキップするように先行しながら、のんびりと後をついて来るクリスを笑顔でそう振り返る。
「随分と嬉しそうですね、マリー」
「あったりまえよ! 一生に一度は冒険……もとい。王国全土を見て回るのが私の夢だったんだから! まだまだ未知の土地や文化が私を待っているんだし!」
「その旅ももうじき終わり……そうしたら、いよいよマリーも結婚ですね」
「ウッ……!?」
「……もしかして、忘れてはしゃいでたんですか? 結婚が嫌で駄々をこねて巡礼の旅に出たというのに」
……侯爵領での『寄り道』の果て。実はそれぞれの立場──主従が逆である事が判明したクリスとマリーだったが、幼馴染で親友でもある二人の関係性は以前と全く変わらない。いや、むしろ侯爵領でのあの命懸けの騒動を経て、その絆はより深まったかもしれない。マリーを見守るクリスの瞳はとてもとても暖かで、優し気で…… 元々、姉妹の様な関係性の二人だったが、今では本当の家族のようだ。
「もう、いいのよ、それは! 巡礼が終わったら終わったでまた追々何か考えるから! それより今はいつもの解説!」
「はいはい。……エリダス地方と言えば何といっても古都アークエルスですね。歴史的には、ネグノーシス戦争を終結させたエルス条約が王国暦238年にこの町で締結されました。その歴史にふさわしく、王国一の蔵書を誇る王立図書館『グリフヴァルト』を擁し、多くの研究家が居と研究所を構える学問の都、学術都市としても有名ですね」
「ふーん…… じゃあ、学生と学者先生ばかりのお堅い町なんだ?」
「それは…… 実際にその目で確かめた方が早いかと」
そうして古都アークエルスへ到着したマリーとクリスは、町の入り口でいきなり胡散臭い男に声を掛けられた。
「おねーさんたち、この街の関係者? え、違う? だったら魔法災害保険に入っておいた方がいいよ。今なら爆発特約もついてお得だよ!」
「保険? え? 魔法災…… てか爆発? え? え???」
「だから、街中で魔法災害に巻き込まれた時に備える為の保険だよ。旅人さんはこの町の素人さんだし、いつ何時爆発に巻き込まれるか分からないだろうし……」
「え、ちょっと、何言ってるか分かんないです」
お上りさんに対する新手の詐欺か何かだろうか。そう思って断ったマリーだったが、その後も門前から抜けるまでは何度も同じような勧誘が相次いだ。護衛のハンターがいるから、とその全てを断って市中へ入った彼女だったが……一刻も経たない内に、先の話が詐欺でもなんでもないことを身に染みて思い知らされた。
街を歩いているだけで、どこか遠くから響き渡る爆発音を幾度も耳にした。マリーは思わず身を竦めたが、周囲の街の人々はまったく動じてなかった。彼らにあの爆音は何かと訊いてみたら「多分、どこかの研究者が実験に失敗してアフロになったのさ」と事も無げに宣った。日常茶飯事なのだろう。
観光名所の動物園は、観光施設などではなくて、研究者たちが集めて来た実験動物を飼っておくための施設だった。幻獣──猛獣どころの騒ぎではない──が檻の中をうろつき回り、のこのこやって来た観光客(人間)に敵意丸出しの威嚇をし。無造作に放置された魔法生物がポコポコと分裂を繰り返す…… 帰り際、出口付近の係員に「お客さんらは運が良い」と声を掛けられた。なぜなら、今日はただの一頭も脱走騒ぎを起こしていないから。
裏道では下水に詰まったスライムが溢れ、魔術師が溜め息交じりに火炎魔法で『掃除』をしていた。
実験場と思しき畑では竜みたいに巨大化したミミズがのたうち回っていた。
どこぞの遺跡考古学者が拾ってきた魔導機械が坂道を転倒して転げ落ち、人込みの中に突っ込んで爆発して皆アフロになった。
夜、魔導照明によりライトアップされた街並みに沸き上がった観光客らの歓声と感嘆の吐息は、直後、どこからともなく明かりに惹かれてやって来た大量の虫(拳大)たちによってすぐに悲鳴に変わった……
「なんなのよ、この町はっ!?」
「あははー、楽しいれするぇー♪」
辛うじて逃げ帰った宿の食堂で、ダンッとテーブルへカップを叩きつけて叫ぶマリー。一方、その正面に座るクリスの表情と言動はハッピーでおかしなことになっていた。おそらくドリンクバー(と訳された)の魔導機械がおかしなことになって、クリスが飲んだ飲み物が汚染されて変な効果がついたようだ。まあ一晩寝れば治るだろう(ぇ
そんな状態のクリス(含み笑いが止まらない)をベッドに放り込んでさっさと就寝したマリーは、しかし、夜中にどこからか這い寄って来た強烈な悪臭に目覚めを強制されることとなった。
就寝しながらも感じた違和感にスンスンと鼻を鳴らし……眉をひそめて覚醒したところに普通に息を吸ってしまって、直後、肺中の空気を一気に吐き出しながら、咳込み、のた打ち回ってベッドから転げ落ちる。
(何これ!? この例え難い強烈な悪臭は……! ニンニク臭いというか、腐ったごま油みたい臭いは……!)
リアルブルー出身者なら、焼けたゴムや硫化水素といった例えも表現に付け加えられていたかもしれない。そして、この臭いは例えのどれとも異なり、また言葉で言い表せないくらいに強烈で不快だった。その臭気はkm単位で周囲に広がるとか、月単位で臭いが取れないとか、そういった災害レベルでの……!
ちなみに、この悪臭の只中にあって、クリスは泥の様に眠ったままピクリとも動かず、全く目を覚まさなかった。先の飲み物の効果なのか、何だか顔が信号機の様に土色になったり紫色になったりしてるが、まあ一晩寝れば治るだろう。
(それより今はこの悪臭! いったいどこから……ッ?)
ハンカチで口を押え、涙混じりで換気の為に窓を開けたマリーは、直後、窓の外に咲いていた『花』と『目が合った』。
……二階の窓である。『花』はその高さに相応しく巨大なものだった。夜の街中、篝火の明かりに赤く照らされたのっぺりとした黄色い花が、ジッとマリーを『見返して』いる……
「大変だ! トットチーニョさんとこの植物園から繁殖期の『skunk cabbage』(と訳された)が逃げ出した!」
(植物園? 動物園じゃなく?)
あまりの悪臭に意識を失いながら…… 最後にマリーはもう一度「何なのよ、この町は!」とツッコんだ。
リプレイ本文
「うぐ……なんだ、この臭い…… この街って温泉とかあるんだっけ……?」
「というかこの臭い、割と冗談抜きで危険を感じるんですが……」
その臭気に身体が危険を感じたのか、全身から汗を噴き出しながら── ルーエル・ゼクシディア(ka2473)とアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が呟いた。
「……昼間も色々とツッコミに不足のない刺激的で退屈知らずな街(←婉曲的表現)でしたが、こんな夜中にまでイベント(←略)を起こしてくれなくてもいいのですけどね……」
そう言うサクラ・エルフリード(ka2598)に頷きつつ、ハンターたちはハンカチで口元を押さえながら、クリスとマリーの部屋に向かった。
ノックをしても返事もなく、顔を見合わせ、扉を開けて。七色の顔色をしたクリスと床に倒れたマリーに気付いて中へと駆け込む。
だが、部屋の中に入った彼らは窓(二階)の外に巨大な『skunk cabbage』──ミズバショウの『顔』(=花)を目の当たりにして…… 暫しの硬直の後、とてとてと歩いて行ったルーエルがパタリと部屋の窓を閉めた。
「……。どうやらまた妙な騒動に巻き込まれたようですね。こういうところが無ければ、ここも普通に風情のある観光地なのでしょうが……」
「知性と理性が一周半しちゃったような街だもんね。なんだか波長の合う街だな☆ って思ってたけど、こりゃまともなヒューマンライフは歩めないや。毎日が災害カーニバル!」
嘆息するヴァルナ=エリゴス(ka2651)に、きゅぴ~ん! と(乾いた)笑みを浮かべてポーズを取るレイン・レーネリル(ka2887)。
とりあえず、ハンターたちはクリスとマリーを部屋から移して治療を施すことにした。ファンファーレ(←自前)付きで取り出した巨大な機導注射器でレインが2人の不調を魔法的に吸い取り……穏やかな寝顔になった次の瞬間、「ゴフォッ!?」と再び悪臭に意識を失う。
「……気絶していた方が幸せな時もある。それが今だ」
「クリス……どこまでも不憫な娘(こ)……!」
ぶわっと溢れる涙を抑え、肩を震わせるシレークス(ka0752)。そこへ別行動中であったヴァイス(ka0364)が扉を押し開けて飛び込んで来た。
「皆、無事か?!」
ハンターたちは沈黙した。ヴァイスの姿が青地に白のフリフリのついた可憐なドレス(中身はいつもの男前)だったからだ。
「……ん? この服装か? 路上でアイドル活動をしていたところだったんだ。そんなことより見たか? 宿の前にいる巨大な花を」
しかし、当のヴァイス本人には羞恥を感じる様子もなかった。赤世界の人間である彼が青世界のアイドルなるものになった最初の時から…… 男性アイドルもフリフリドレスを着るものだと、そういうものだと信じている。
「ともかく一刻も早く片付けてしまいましょう。……このまま臭いが伝染るのはちょっと」
アデリシアの言葉にハッと我に返って、ハンターたちは宿のエントランスに移動した。表へ出て行く仲間たちへ、アデリシアが抵抗の低い順に『レジスト』の加護を与えていく。
宿の前には、件の巨大なミズバショウ───そして、それ以外にも3体の熊が立っていた。いずれも全長2mを超す大物だ。餌である花を守る為か、横一列に並んでラインを組んでいる。
「まずはあれをなんとかしないと花には辿り着け無さそうですね」
「……上等だ。篤と私を楽しませてくれるのだろうな?」
ルーエルの言葉に、不動 シオン(ka5395)は笑みを浮かべた。彼女は上機嫌だった──全力で戦い、斬り伏せるに値する『魔物』がごちそうの如く用意されたこの状況に。禍々しいこの化け物とルール無用の死闘を思う存分満喫させてもらおう……
「ゴメンよ。キミたちはただ餌を守りに来ただけなんだろうけど、場所的に流石に見逃せない」
珍しく真剣に、沈痛な表情を浮かべたレインが魔導拳銃を構えて告げる。
戦闘が始まった。
先制はレインの『デルタレイ』とシオンの銃撃。レインの前面に浮かび上がった三角形、その各頂点から放たれた3本の光条がそれぞれ『熊の壁』を直撃し。一方、シオンが巨大花の防御力を推し測るべく撃ち放った銃弾は、いずれも表皮こそ貫けたものの巨体は小動もしない。
「これはまた切り倒し甲斐のありそうな相手じゃないか……!」
抜刀した妖刀を抜き身で引っ提げ、先行する前衛組を追うシオン。「目に沁みてくるような」悪臭の中、アデリシアが同じ中衛のレインに改めて『レジスト』を掛けつつ、続く。
前衛は4人。マテリアルを得物に纏わせながら熊へと迫るヴァイスとヴァルナ。サクラと共に進むシレークスは剛力を纏いつつ、立ち塞がる熊たちに闘志むき出し、全力で威嚇する。
「上等っ! てめぇらの相手はこのわたくしが……ッ!?」
瞬間、その前衛たちの姿が突然、掻き消えた。前衛が消えた辺りの地面に、壕の様な横長の大きな穴がぽっかりと空いていた
「落とし穴!?」
多々良を踏んで叫ぶルーエル。その穴の底、「痛たた……」と尻餅をついたサクラがピタリとその動きを止める。彼女の眼前、落とし穴の横壁からウネッと顔を出す根っこの触手── 直後、全周に一斉に『芽吹いて』迫るその光景に声にならない悲鳴を上げて、サクラはその全てを吹き飛ばすべく光の波動を連打する。
「スライムがいないで良かったとか思っていたら! スライムが、いないで、良かったとか、思っていたら……!」
文節を区切るごとに根っこを剣で殴りながら涙目で叫ぶサクラ。駆けつけてきたアデリシアが手早くワイヤーを穴の中へと下ろし、穴の外まで伸びて来た根っこを戦鎚で叩き潰しつつ、落ちた者らを引っ張り上げる。
横壁に槍を突き立て、それを足場に跳躍し、前方側へと上がるヴァイス。距離を詰め、ラインを上げて来る熊たちから彼が『橋頭保』を確保する間に、穴から引き揚げられた前衛たちが次々と穴を跳び越え、向こう側へと渡る……
穴を背にした前衛組の背水の攻防は続く。
「拳でお仕置きでやがります。どっちらの方が格上なのか、エクラ教徒として、修道女として、『慈悲深く』徹底的に叩き込んでやがりやがるです!」
物理的にも精神的にもタフな熊らの圧力に対し、剛力と生来の負けん気で真っ向勝負を挑むシレークス。フィンガーロックの力比べから、筋肉を打つ音と血の飛沫を飛ばしながらのドツキ合い──振るわれた鉤爪による一撃を、横からスライドする様に割り込んだサクラが盾でもって受け止めて。そんなサクラをスクリーンにして反転、切り返したシレークスが、背中にエクラの聖印を背負いながらのリバーブローを叩き込む……
激戦である。そんな前衛を回復で支え、この酷い悪臭に誰かの動きが鈍くなる度に浄化を施してきたルーエルとアデリシアは、ふと小さな何かが頬を叩いた感触に気付いて周囲を見渡した。
「虫……?」
いつの間にか、周囲に大量の蠅が湧いていた。夜の闇に気付かなかったが、その様はまさに雲霞の如く──
「痛ッ……!」
噛まれた。いや、かじられた。こいつら、僕らの肉を食べる気か……!
ルーエルはハッと傍らのレインを振り返った。彼女は虫を苦手にしている。というか、不倶戴天の仇として嫌いまくっている。
「レインおねーさん、大丈夫?!」
「……聞こえない」
「……は?」
「羽音とかちっともこれっぽっちも聞こえない。目にも虫なんて映らない」
達観したような表情で、レイン。しかし、顔にはぺちぺち虫がぶつかって来るし、って言うかガジガジ噛んでくるし……
「ひゃぁあぁぁやっぱ無理! 羽虫軍団超キモい! 虫とか存在自体がアウトなんですけど! 来世はキノコにでもなるといいよ! エクラ様にお願いしとくよ! ルー君が!」
目をグルグル巻きにしたレインによって夜空にレーザー光線の如く乱れ飛ぶデルタレイ── その光景を背景に熊と切り結んでいたシオンが、巨大花が生きる為に必死で凝らした趣向にニヤリと笑う。
「わざわざゲストまで呼び寄せるとは、やけにサービスがいいじゃないか。それでこそ私の獲物だ」
「虫を呼ぶ!? なんでそんなの栽培してんの?! ……燃やす。天日干しにして乾燥させた後、切り分けて飼い主共々キャンプファイヤーの薪にしてやるんだからね、このファンキーミズバショウ!」
目をギュルギュル巻き(←高速回転)にするレインを落ち着かせに掛かるルーエル。そんな2人を庇いながら、アデリシアは『ブルガトリオ』で羽虫の群れを追い散らしに掛かった。とは言え、足止めは出来ないし、この量を削り切るのも手間が掛かる。一時凌ぎに過ぎない事は彼女も百も承知だが、それでも前衛組が攻撃に集中できるだけの時間とスペースくらいは十分、稼げる。
「さあ、喰われて骨になる前に倒してみせろと私の怪物が言ってるぞ?」
「防衛線を抜ける! ヴァルナ! シオン! 押し込むぞ!」
ヴァイスが七支槍を握り直して叫び。ヴァルナとシオンも同様にそれぞれ魔剣と妖刀を刺突に構え直す。直後、地を蹴り、自らの質量と速度を乗せて、花まで貫けとばかりに穂先と剣先を突き込む3人。そのまま花の茎(幹?)まで押し込まれた熊たちが初めて戸惑いと怒りの咆哮を上げる。
「このまま崩します!」
魔剣の刀身に流し込んだ魔力の余波を曳きながら──ヴァルナはその巨大な大剣を身体ごと捻るように振り上げ、上段から振り下ろした。力を纏った刃が熊の針の如き毛皮を断ち割り、分厚い筋肉を殴打する。
同時に、シレークスは正面の熊の鼻先に掌底を叩きつけ、怯んだ所を腕を取りつつ半回転。全身を梃子に、剛力をバネに熊の巨体を跳ね上げ、巻き込む様に地面へ叩きつける。
「今だ!」
倒れた二頭の傍らを疾く駆け抜けて行くヴァイスとシオン。それを追わんとしたもう1頭を、サクラが盾ごと押し込み、阻む。
「ルーエルさん」
「はいっ!」
応じて『ブルガトリオ』を熊らへ放つルーエル。周囲の空間より生じた無数のマテリアルの闇の刃が熊らを貫き、動けぬようその場に固着する。
「とにかく、早急に、全力であの植物を切り倒しにかかります!(ところで、あれを切り倒せばすぐに悪臭は止むんですよね???)」
瞬く間もあればこそ──先の一撃から流れるような動きで花へと踏み込みながら、返す刀で魔力の刃を巨大花へと叩きつけるヴァルナ。シオンもまた突破の勢いそのままに、弓の様に引いた左手をまるで銃撃の様な勢いで片手突き──妖刀の切っ先から掴までを大樹の如き茎へとぶち込む。
「どうした? 私如きの刃で簡単に刈り取られるようではただの大木と変わらんぞ? もっと私に傷を負わせてみろ。動きを抑えつけてみろ!」
シオンのその飢餓の叫びに呼応したのか、はたまた純粋な生存本能か── 目に見えない濃密な何かが周辺の空気を変えた。危機を察したのか、ハンターたちの身体の拒絶反応か目からは絶え間なく涙が溢れ、呼吸そのものを拒否するかの如く肺が全ての空気を吐き出す。
「ダメージを受ける程の悪臭だと……!?」
「つーか、誰でやがりますか、こんな傍迷惑なモノ作ったのは! 臭みは旨味とも聞きますが、限度を知りやがれ!!」
思わず叫んで咳込み、悶絶するシレークス。それは熊らも同様に……!
シオンは高揚に背筋を震わせた。──このデカ花、迫る危険に形振り構わずこちらを殺しにきやがった……!
振り撒かれる状態異常。必死に回復を飛ばすルーエルとアデリシア。だが、それから15秒もしない内に、彼ら2人を除いた全員が何らかの身体・精神的不調に捉われる事態に追い込まれた。
(今、最優先で為すべきことは……!)
ルーエルとアデリシアの脳内で思考が目まぐるしく流転する。
アイコンタクト──アデリシアは素早く傍らのルーエルにレジストを施した。直後、咳込み、崩れるアデリシアからその『襷』を受け取ったルーエルは……範囲回復ではなく、キュアの光をヴァルナに向かってかざした。
立ったまま意識を失っていたヴァルナがハッと回復し、自力回復したヴァイスと共に即座にステップを踏み出した。『アイデアル・ソング』──歌やステップを詠唱として味方の抵抗力を上昇させる。戦場で即興で結成された即席のアイドルコンビが靴音高く、篝火の炎に照らされながら幻想的な剣舞を舞い踊る。
「任せた!」
ステップをヴァルナに託して『ステージ』を下りたヴァイスが、渾身の力を込めて巨大花に七支槍を突き入れ、同時に刃に纏わせた魔力を爆発的に放出した。シオンもまたふらつく頭と身体を理性で以って制御下に置いて走り寄り、マテリアルを爆発させて加速させた刀身を閃光と共に振り抜いて……
だが、その爆炎によって『幹』の半ばを左右からごっそり吹き飛ばされながら、それでもまだ巨大花は倒れない。
「……植物相手なら斧でも持って来ればよかったですかね……?」
そこへ飛び込んで来たサクラが、刻まれたルーン文字と共に青白く発光する魔法剣を、ヴァイスとシオンが吹き飛ばした跡──白く柔らかい中身を晒したそこへと突き立てた。
「楔は打ち込みました。徐々に切れ目を広げていきましょう。木こりが大樹を切り倒すように。木彫師がノミを入れるように」
やがてメキメキと音を立てて── 左右から猛攻を集中されたミズバショウがゆっくりと道路に沿って倒れていった。
野次馬たちから上がる歓声── シオンは満足気に刀を収め。攻性強化付きのデルタレイで虫らを追い払ったレインはぐったりとルーエルの背にもたれかかる。
「あー、鼻がバカになってる…… ルー君の臭いがしない。舐めていい?」
「ええっ!?」
(しかし、責任者はこの残骸をどうするつもりですかね? 後始末も大変そうですが……)
アデリシアがそんなことを考えていると「待て!」というシレークスの声が響いた。その周りにはなぜか、正気を取り戻した3頭の熊がいた。
「よし!」
シレークスの号令と同時に、熊たちが弾ける様にミズバショウへと群がり、食べ始める……
「あの植物を食べる生き物とか正気ですかね……」
「自然というものは凄いですね……」
その光景を見やって遠い目をするサクラとアデリシア。一通り現場の片付けを終えたヴァイスがすっくと立ち上がる。
「ヴァイスさん、どこへ?」
「ゲリラライブの途中だったからな。まだ俺の事を待っているファンがいるかもしれん」
止める間もあらばこそ。ダッシュで街へと戻っていくヒラヒラアイドル。その行く先で飛び交う悲鳴── 黄色い歓声ではない。文字通りの悲鳴である。
「……あれだけ強烈な臭い、絶対に服とか身体に移っていますからね…… 私たちは香料入りのお風呂と洗濯桶を用意してもらいましょうか」
「今日はもう寝不足決定だね…… クリスさんとマリー以外は、だけど」
アデリシアとルーエルは笑い合って……重い溜め息を吐いた。
「というかこの臭い、割と冗談抜きで危険を感じるんですが……」
その臭気に身体が危険を感じたのか、全身から汗を噴き出しながら── ルーエル・ゼクシディア(ka2473)とアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が呟いた。
「……昼間も色々とツッコミに不足のない刺激的で退屈知らずな街(←婉曲的表現)でしたが、こんな夜中にまでイベント(←略)を起こしてくれなくてもいいのですけどね……」
そう言うサクラ・エルフリード(ka2598)に頷きつつ、ハンターたちはハンカチで口元を押さえながら、クリスとマリーの部屋に向かった。
ノックをしても返事もなく、顔を見合わせ、扉を開けて。七色の顔色をしたクリスと床に倒れたマリーに気付いて中へと駆け込む。
だが、部屋の中に入った彼らは窓(二階)の外に巨大な『skunk cabbage』──ミズバショウの『顔』(=花)を目の当たりにして…… 暫しの硬直の後、とてとてと歩いて行ったルーエルがパタリと部屋の窓を閉めた。
「……。どうやらまた妙な騒動に巻き込まれたようですね。こういうところが無ければ、ここも普通に風情のある観光地なのでしょうが……」
「知性と理性が一周半しちゃったような街だもんね。なんだか波長の合う街だな☆ って思ってたけど、こりゃまともなヒューマンライフは歩めないや。毎日が災害カーニバル!」
嘆息するヴァルナ=エリゴス(ka2651)に、きゅぴ~ん! と(乾いた)笑みを浮かべてポーズを取るレイン・レーネリル(ka2887)。
とりあえず、ハンターたちはクリスとマリーを部屋から移して治療を施すことにした。ファンファーレ(←自前)付きで取り出した巨大な機導注射器でレインが2人の不調を魔法的に吸い取り……穏やかな寝顔になった次の瞬間、「ゴフォッ!?」と再び悪臭に意識を失う。
「……気絶していた方が幸せな時もある。それが今だ」
「クリス……どこまでも不憫な娘(こ)……!」
ぶわっと溢れる涙を抑え、肩を震わせるシレークス(ka0752)。そこへ別行動中であったヴァイス(ka0364)が扉を押し開けて飛び込んで来た。
「皆、無事か?!」
ハンターたちは沈黙した。ヴァイスの姿が青地に白のフリフリのついた可憐なドレス(中身はいつもの男前)だったからだ。
「……ん? この服装か? 路上でアイドル活動をしていたところだったんだ。そんなことより見たか? 宿の前にいる巨大な花を」
しかし、当のヴァイス本人には羞恥を感じる様子もなかった。赤世界の人間である彼が青世界のアイドルなるものになった最初の時から…… 男性アイドルもフリフリドレスを着るものだと、そういうものだと信じている。
「ともかく一刻も早く片付けてしまいましょう。……このまま臭いが伝染るのはちょっと」
アデリシアの言葉にハッと我に返って、ハンターたちは宿のエントランスに移動した。表へ出て行く仲間たちへ、アデリシアが抵抗の低い順に『レジスト』の加護を与えていく。
宿の前には、件の巨大なミズバショウ───そして、それ以外にも3体の熊が立っていた。いずれも全長2mを超す大物だ。餌である花を守る為か、横一列に並んでラインを組んでいる。
「まずはあれをなんとかしないと花には辿り着け無さそうですね」
「……上等だ。篤と私を楽しませてくれるのだろうな?」
ルーエルの言葉に、不動 シオン(ka5395)は笑みを浮かべた。彼女は上機嫌だった──全力で戦い、斬り伏せるに値する『魔物』がごちそうの如く用意されたこの状況に。禍々しいこの化け物とルール無用の死闘を思う存分満喫させてもらおう……
「ゴメンよ。キミたちはただ餌を守りに来ただけなんだろうけど、場所的に流石に見逃せない」
珍しく真剣に、沈痛な表情を浮かべたレインが魔導拳銃を構えて告げる。
戦闘が始まった。
先制はレインの『デルタレイ』とシオンの銃撃。レインの前面に浮かび上がった三角形、その各頂点から放たれた3本の光条がそれぞれ『熊の壁』を直撃し。一方、シオンが巨大花の防御力を推し測るべく撃ち放った銃弾は、いずれも表皮こそ貫けたものの巨体は小動もしない。
「これはまた切り倒し甲斐のありそうな相手じゃないか……!」
抜刀した妖刀を抜き身で引っ提げ、先行する前衛組を追うシオン。「目に沁みてくるような」悪臭の中、アデリシアが同じ中衛のレインに改めて『レジスト』を掛けつつ、続く。
前衛は4人。マテリアルを得物に纏わせながら熊へと迫るヴァイスとヴァルナ。サクラと共に進むシレークスは剛力を纏いつつ、立ち塞がる熊たちに闘志むき出し、全力で威嚇する。
「上等っ! てめぇらの相手はこのわたくしが……ッ!?」
瞬間、その前衛たちの姿が突然、掻き消えた。前衛が消えた辺りの地面に、壕の様な横長の大きな穴がぽっかりと空いていた
「落とし穴!?」
多々良を踏んで叫ぶルーエル。その穴の底、「痛たた……」と尻餅をついたサクラがピタリとその動きを止める。彼女の眼前、落とし穴の横壁からウネッと顔を出す根っこの触手── 直後、全周に一斉に『芽吹いて』迫るその光景に声にならない悲鳴を上げて、サクラはその全てを吹き飛ばすべく光の波動を連打する。
「スライムがいないで良かったとか思っていたら! スライムが、いないで、良かったとか、思っていたら……!」
文節を区切るごとに根っこを剣で殴りながら涙目で叫ぶサクラ。駆けつけてきたアデリシアが手早くワイヤーを穴の中へと下ろし、穴の外まで伸びて来た根っこを戦鎚で叩き潰しつつ、落ちた者らを引っ張り上げる。
横壁に槍を突き立て、それを足場に跳躍し、前方側へと上がるヴァイス。距離を詰め、ラインを上げて来る熊たちから彼が『橋頭保』を確保する間に、穴から引き揚げられた前衛たちが次々と穴を跳び越え、向こう側へと渡る……
穴を背にした前衛組の背水の攻防は続く。
「拳でお仕置きでやがります。どっちらの方が格上なのか、エクラ教徒として、修道女として、『慈悲深く』徹底的に叩き込んでやがりやがるです!」
物理的にも精神的にもタフな熊らの圧力に対し、剛力と生来の負けん気で真っ向勝負を挑むシレークス。フィンガーロックの力比べから、筋肉を打つ音と血の飛沫を飛ばしながらのドツキ合い──振るわれた鉤爪による一撃を、横からスライドする様に割り込んだサクラが盾でもって受け止めて。そんなサクラをスクリーンにして反転、切り返したシレークスが、背中にエクラの聖印を背負いながらのリバーブローを叩き込む……
激戦である。そんな前衛を回復で支え、この酷い悪臭に誰かの動きが鈍くなる度に浄化を施してきたルーエルとアデリシアは、ふと小さな何かが頬を叩いた感触に気付いて周囲を見渡した。
「虫……?」
いつの間にか、周囲に大量の蠅が湧いていた。夜の闇に気付かなかったが、その様はまさに雲霞の如く──
「痛ッ……!」
噛まれた。いや、かじられた。こいつら、僕らの肉を食べる気か……!
ルーエルはハッと傍らのレインを振り返った。彼女は虫を苦手にしている。というか、不倶戴天の仇として嫌いまくっている。
「レインおねーさん、大丈夫?!」
「……聞こえない」
「……は?」
「羽音とかちっともこれっぽっちも聞こえない。目にも虫なんて映らない」
達観したような表情で、レイン。しかし、顔にはぺちぺち虫がぶつかって来るし、って言うかガジガジ噛んでくるし……
「ひゃぁあぁぁやっぱ無理! 羽虫軍団超キモい! 虫とか存在自体がアウトなんですけど! 来世はキノコにでもなるといいよ! エクラ様にお願いしとくよ! ルー君が!」
目をグルグル巻きにしたレインによって夜空にレーザー光線の如く乱れ飛ぶデルタレイ── その光景を背景に熊と切り結んでいたシオンが、巨大花が生きる為に必死で凝らした趣向にニヤリと笑う。
「わざわざゲストまで呼び寄せるとは、やけにサービスがいいじゃないか。それでこそ私の獲物だ」
「虫を呼ぶ!? なんでそんなの栽培してんの?! ……燃やす。天日干しにして乾燥させた後、切り分けて飼い主共々キャンプファイヤーの薪にしてやるんだからね、このファンキーミズバショウ!」
目をギュルギュル巻き(←高速回転)にするレインを落ち着かせに掛かるルーエル。そんな2人を庇いながら、アデリシアは『ブルガトリオ』で羽虫の群れを追い散らしに掛かった。とは言え、足止めは出来ないし、この量を削り切るのも手間が掛かる。一時凌ぎに過ぎない事は彼女も百も承知だが、それでも前衛組が攻撃に集中できるだけの時間とスペースくらいは十分、稼げる。
「さあ、喰われて骨になる前に倒してみせろと私の怪物が言ってるぞ?」
「防衛線を抜ける! ヴァルナ! シオン! 押し込むぞ!」
ヴァイスが七支槍を握り直して叫び。ヴァルナとシオンも同様にそれぞれ魔剣と妖刀を刺突に構え直す。直後、地を蹴り、自らの質量と速度を乗せて、花まで貫けとばかりに穂先と剣先を突き込む3人。そのまま花の茎(幹?)まで押し込まれた熊たちが初めて戸惑いと怒りの咆哮を上げる。
「このまま崩します!」
魔剣の刀身に流し込んだ魔力の余波を曳きながら──ヴァルナはその巨大な大剣を身体ごと捻るように振り上げ、上段から振り下ろした。力を纏った刃が熊の針の如き毛皮を断ち割り、分厚い筋肉を殴打する。
同時に、シレークスは正面の熊の鼻先に掌底を叩きつけ、怯んだ所を腕を取りつつ半回転。全身を梃子に、剛力をバネに熊の巨体を跳ね上げ、巻き込む様に地面へ叩きつける。
「今だ!」
倒れた二頭の傍らを疾く駆け抜けて行くヴァイスとシオン。それを追わんとしたもう1頭を、サクラが盾ごと押し込み、阻む。
「ルーエルさん」
「はいっ!」
応じて『ブルガトリオ』を熊らへ放つルーエル。周囲の空間より生じた無数のマテリアルの闇の刃が熊らを貫き、動けぬようその場に固着する。
「とにかく、早急に、全力であの植物を切り倒しにかかります!(ところで、あれを切り倒せばすぐに悪臭は止むんですよね???)」
瞬く間もあればこそ──先の一撃から流れるような動きで花へと踏み込みながら、返す刀で魔力の刃を巨大花へと叩きつけるヴァルナ。シオンもまた突破の勢いそのままに、弓の様に引いた左手をまるで銃撃の様な勢いで片手突き──妖刀の切っ先から掴までを大樹の如き茎へとぶち込む。
「どうした? 私如きの刃で簡単に刈り取られるようではただの大木と変わらんぞ? もっと私に傷を負わせてみろ。動きを抑えつけてみろ!」
シオンのその飢餓の叫びに呼応したのか、はたまた純粋な生存本能か── 目に見えない濃密な何かが周辺の空気を変えた。危機を察したのか、ハンターたちの身体の拒絶反応か目からは絶え間なく涙が溢れ、呼吸そのものを拒否するかの如く肺が全ての空気を吐き出す。
「ダメージを受ける程の悪臭だと……!?」
「つーか、誰でやがりますか、こんな傍迷惑なモノ作ったのは! 臭みは旨味とも聞きますが、限度を知りやがれ!!」
思わず叫んで咳込み、悶絶するシレークス。それは熊らも同様に……!
シオンは高揚に背筋を震わせた。──このデカ花、迫る危険に形振り構わずこちらを殺しにきやがった……!
振り撒かれる状態異常。必死に回復を飛ばすルーエルとアデリシア。だが、それから15秒もしない内に、彼ら2人を除いた全員が何らかの身体・精神的不調に捉われる事態に追い込まれた。
(今、最優先で為すべきことは……!)
ルーエルとアデリシアの脳内で思考が目まぐるしく流転する。
アイコンタクト──アデリシアは素早く傍らのルーエルにレジストを施した。直後、咳込み、崩れるアデリシアからその『襷』を受け取ったルーエルは……範囲回復ではなく、キュアの光をヴァルナに向かってかざした。
立ったまま意識を失っていたヴァルナがハッと回復し、自力回復したヴァイスと共に即座にステップを踏み出した。『アイデアル・ソング』──歌やステップを詠唱として味方の抵抗力を上昇させる。戦場で即興で結成された即席のアイドルコンビが靴音高く、篝火の炎に照らされながら幻想的な剣舞を舞い踊る。
「任せた!」
ステップをヴァルナに託して『ステージ』を下りたヴァイスが、渾身の力を込めて巨大花に七支槍を突き入れ、同時に刃に纏わせた魔力を爆発的に放出した。シオンもまたふらつく頭と身体を理性で以って制御下に置いて走り寄り、マテリアルを爆発させて加速させた刀身を閃光と共に振り抜いて……
だが、その爆炎によって『幹』の半ばを左右からごっそり吹き飛ばされながら、それでもまだ巨大花は倒れない。
「……植物相手なら斧でも持って来ればよかったですかね……?」
そこへ飛び込んで来たサクラが、刻まれたルーン文字と共に青白く発光する魔法剣を、ヴァイスとシオンが吹き飛ばした跡──白く柔らかい中身を晒したそこへと突き立てた。
「楔は打ち込みました。徐々に切れ目を広げていきましょう。木こりが大樹を切り倒すように。木彫師がノミを入れるように」
やがてメキメキと音を立てて── 左右から猛攻を集中されたミズバショウがゆっくりと道路に沿って倒れていった。
野次馬たちから上がる歓声── シオンは満足気に刀を収め。攻性強化付きのデルタレイで虫らを追い払ったレインはぐったりとルーエルの背にもたれかかる。
「あー、鼻がバカになってる…… ルー君の臭いがしない。舐めていい?」
「ええっ!?」
(しかし、責任者はこの残骸をどうするつもりですかね? 後始末も大変そうですが……)
アデリシアがそんなことを考えていると「待て!」というシレークスの声が響いた。その周りにはなぜか、正気を取り戻した3頭の熊がいた。
「よし!」
シレークスの号令と同時に、熊たちが弾ける様にミズバショウへと群がり、食べ始める……
「あの植物を食べる生き物とか正気ですかね……」
「自然というものは凄いですね……」
その光景を見やって遠い目をするサクラとアデリシア。一通り現場の片付けを終えたヴァイスがすっくと立ち上がる。
「ヴァイスさん、どこへ?」
「ゲリラライブの途中だったからな。まだ俺の事を待っているファンがいるかもしれん」
止める間もあらばこそ。ダッシュで街へと戻っていくヒラヒラアイドル。その行く先で飛び交う悲鳴── 黄色い歓声ではない。文字通りの悲鳴である。
「……あれだけ強烈な臭い、絶対に服とか身体に移っていますからね…… 私たちは香料入りのお風呂と洗濯桶を用意してもらいましょうか」
「今日はもう寝不足決定だね…… クリスさんとマリー以外は、だけど」
アデリシアとルーエルは笑い合って……重い溜め息を吐いた。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/21 21:27:37 |
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相談 サクラ・エルフリード(ka2598) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2018/07/23 12:46:44 |