ゲスト
(ka0000)
水の恵み ~騎士アーリア~
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/27 12:00
- 完成日
- 2018/08/09 21:07
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国の南部に広がる伯爵地【ニュー・ウォルター】を覆っていた暗い闇は、振り払われた。
黒伯爵を名乗る歪虚軍長アスタロトが率いていた敵は壊滅。討伐が一段落して、少なくとも戦の状況からは脱したといえる。
差し迫る危機は去ったものの、懸案は残った。畑が荒らされただけでなく、灌漑関連の破壊が顕著だった。
城塞都市マールの城。
若き娘ミリア・エルブンは、兄であるアーリア・エルブン伯爵から領内の復興行政を任される。その日は自室にて、各地から届いた陳情書に目を通していた。
(まずは領民の命に関わる事業は優先して発注しましたの。でもそれだけでは、ダメ。ニュー・ウォルターの将来も踏まえての一手が必要ですの……)
目下に迫る危機への対処は一段落していたが、それは応急処置に過ぎなかった。山積している問題の一つずつを確かめていくうちに、ある内容に目が留まる。
「田んぼ……ですの?」
その陳情書には、二年前から実地されている稲作についてが言及されていた。今年も水稲がよく育っているが、来年からの本格的な栽培のために、田んぼを拡張中だという。
田んぼの開拓の他に、湖から村までの新たな用水路を掘っている途中で、問題が発生した。非常に固い岩盤が地面の下から現れたのである。
岩盤を避けようとすると、あまりに遠回り。実質的に掘り直すのと変わらなかった。そこで岩盤に溝を掘るために協力して欲しいとの陳情内容だった。
「ハンターのみなさんなら、きっと岩盤を壊せるはずですの」
ミリアは自らハンターズソサエティー支部に出向く。そしてハンターの派遣を要望するのであった。
黒伯爵を名乗る歪虚軍長アスタロトが率いていた敵は壊滅。討伐が一段落して、少なくとも戦の状況からは脱したといえる。
差し迫る危機は去ったものの、懸案は残った。畑が荒らされただけでなく、灌漑関連の破壊が顕著だった。
城塞都市マールの城。
若き娘ミリア・エルブンは、兄であるアーリア・エルブン伯爵から領内の復興行政を任される。その日は自室にて、各地から届いた陳情書に目を通していた。
(まずは領民の命に関わる事業は優先して発注しましたの。でもそれだけでは、ダメ。ニュー・ウォルターの将来も踏まえての一手が必要ですの……)
目下に迫る危機への対処は一段落していたが、それは応急処置に過ぎなかった。山積している問題の一つずつを確かめていくうちに、ある内容に目が留まる。
「田んぼ……ですの?」
その陳情書には、二年前から実地されている稲作についてが言及されていた。今年も水稲がよく育っているが、来年からの本格的な栽培のために、田んぼを拡張中だという。
田んぼの開拓の他に、湖から村までの新たな用水路を掘っている途中で、問題が発生した。非常に固い岩盤が地面の下から現れたのである。
岩盤を避けようとすると、あまりに遠回り。実質的に掘り直すのと変わらなかった。そこで岩盤に溝を掘るために協力して欲しいとの陳情内容だった。
「ハンターのみなさんなら、きっと岩盤を壊せるはずですの」
ミリアは自らハンターズソサエティー支部に出向く。そしてハンターの派遣を要望するのであった。
リプレイ本文
●
青空の下、荷馬車やバイクが細道を走る。ミリアが同行するハンター一行は、村に立ち寄ってから現場へ向かっていた。
「農作のために水を引く、と。運ぶのでは駄目なのか?」
「その程度では足りませんの。もっとたくさんの水が必要で、ため池もあるって聞きましたの」
今一要領を得ないバイク騎乗のレイア・アローネ(ka4082)から、荷馬車のミリアは質問攻めにあう。
「水を貯める? 池の中に畑を作るのか……?」
「イメージとしては、そんな感じなんですけれど……」
レイアとミリアがやり取りしているうちに、田園の風景が視界に広がった。そういうことか!」と叫んだレイアは、納得がいったようである。
「田んぼをどれだけ拡張できるのか、この両腕とレイバシアーにかかっていますの」
愛馬の手綱を握るディーナ・フェルミ(ka5843)は、食い入るように水田を眺める。
「田んぼが増やせれば、こっちでもお米をいっぱいを食べれるんだよ、頑張るんだよ」
「幸子がやる気でいっぱいだな。ここは俺も頑張ろうか」
バイクで併走して走る弓月 幸子(ka1749)と鳳凰院ひりょ(ka3744)。興奮気味の弓月幸子の様子に、鳳凰院は微笑んだ。
「あのため池に繋がる用水路が給水のすべてか。かなり賄えているようだが、不安になるのも無理からぬな。ここは新たな水源を確保して、安心してもらおうか」
荷馬車のロニ・カルディス(ka0551)が遠方を望んだ。ため池は大きかったが、ここしばらくの暑さのせいか、水量がかなり減っている模様だった。
「出来ることならば、俺達がいる間に水路を繋げたいものだ」
「そうすれば安心ですね。村の方によれば、水田で稲作は、東方由来の文化のようです。灌漑は大切だと聞いてます」
荷馬車の南護 炎(ka6651)と愛馬騎乗のミオレスカ(ka3496)が、田んぼ沿いの水路を見下ろす。水草の間にザリガニや、メダカが泳いでいたりと、とても長閑な風景である。
「ミリア様と御一行の方々、あの辺りが難工事の区域となります」
村から同行していた馭者台の案内人が、進行方向を指さした。そのときはわかりにくかったが、近づいていくうちに詳細な事態が判明していく。
浅いところでは三十cm程度掘っただけで、岩盤が横たわっている。すでに村人達によって経路の土の表層は除けられていた。用水路予定地は、岩盤剥きだしで一筋の道にようになっている。
現場へと到着。約百Mに渡っての岩盤に溝を掘るべく、ハンター達は準備を始めた。
「つまりここの岩盤をぶち抜けばいいの! 分かったの、私のレイバシアーが火を噴くのー」
真っ先に取りかかったのは、ディーナだ。普段は片手持ちのメイスに両手を添えて、「チャキッ」っと正眼に構えて岩盤を睨みつける。
不敵な笑みを浮かべて、思いっきり振りおろした。煙のような粉塵を噴き上げつつ、砕けた岩石の破片が飛び散っていく。
フォースクラッシュが付与されたメイスの攻撃力は凄まじく、大穴が空いた。穴底へ降りたディーナは、正面の岩盤に再びフォースクラッシュの一撃をぶつける。
「岩盤は、ぶち抜くものとみつけたり」
キランと光るディーナの瞳。体力とフォースクラッシュの残存回数の限り、岩盤を抉っていった。
「ディーナさん、すごい勢いですの」
「やる気が凄まじいな」
ミリアと言葉を交わしてから、ロニも作業に取りかかる。有効的なスキルが切れるまで、直接的な掘削作業は二人か三人までが従事と事前に全員で決めていた。
「俺もディーナに負けていられないからな!」
ロニは岩盤の上に立ち、セイクリッドフラッシュによる光の波動を放った。自身を中心にして足元の岩盤がひび割れていく。いくらか歩いて再び光の波動を浴びせかける。計17回の衝撃を岩盤に与えておき、今後の作業をやりやすくした。
「よし! これで砕けやすくなったはずだ。ここからは溝の形状も考慮して砕いていこう」
ロニはヘビーメイスを握りしめて、フォースクラッシュによる打撃で岩盤を砕いた。一方のディーナは、勢いのまま力の限り砕き続ける。
「むむむむむ……お前はお米の敵なの。ゆえにオブジェクトであろうと、今回はぶっ壊せると信じるの」
特に硬い部分に当たって、停滞していた。光の波動を併用してもわずかしか掘り進められない。イライラを抱えたままで「セイクリッドフラッシュ!」を使用する。
「きゃー、生き埋めノーサンキューなの、ヘルプなのー」
突破することはできたものの、大量の破片が降り注ぐ事態に。ミリアが放り投げた縄に掴まって、ディーナは「ケホッ」と咳をしながらも無事生還。もしやと考えて付与してあった魔法ディヴァインウィルで助かった彼女であった。
ロニとディーナの次に取りかかったのは、弓月幸子と鳳凰院だ。
「真っ直ぐに線を引こうと思っていたから、岩盤が見えていて助かったんだよ」
「すでに割れ目がいくつかあるな。試してみよう」
弓月幸子が見守る中、鳳凰院はロングボウを手にする。ソウルエッジを付与した一矢が射たれて、割れ目へと吸い込まれていく。その衝撃により、蜘蛛の巣のようにヒビが岩盤の表面へと広がる。
「いい感じなんだよ。ここを穿てば大きく崩れるかも?」
弓月幸子が真剣な眼差しで放ったのが、ウォーターシュートだ。大きな水球が割れ目に食い込むようになりながら命中。その衝撃によって岩盤の一部が、ガラガラと崩れていく。
「うまくいったんだよ!」
「これはいい感じに、崩れたな」
弓月幸子は用意されていたハンマーを振るった。細かな割れ目が入っているので、容易に岩石と化していく。鳳凰院はワイヤードクローの鉤爪を突き刺していった。
岩石の運びは仲間達に任せて、次々と岩盤を削っていく。弓矢でのソウルエッジと、ウォーターシュートの炸裂を併用して効率よくこなしていった。
一段落ついたところで、次の仲間と交代する。二人は一旦村へと戻り、寝床として宛がわれた空き家の炊事場で、昼食の準備へと取りかかった。
「せっかくお米があるんだからご飯を炊いて、おにぎりがいいかな」
「ミリアが持ってきた味噌があるから、焼きおにぎりだな」
二人で協力してご飯を炊いて、調理していく。
「幸子、長い戦いになったが、一緒に戦ってくれてありがとうな。幸子も居てくれたから、こうしてここまで戦って来られたと思うから」
鳳凰院は弓月幸子にこれまでの礼を伝えた。少し照れた様子の弓月幸子だが、普段通りの元気いっぱいな姿で「これからもよろしく」と返事をするのだった。
焼きおにぎりが詰まった木箱の他に、樽に冷たい井戸水を汲んで荷馬車へと積む。そして仲間達が待つ作業場へと戻っていった。
「おにぎりにして正解だったんだよ」
「さて、午後からもがんばろうか」
午後一からの仕事は、岩石運びである。
弓月幸子が「歪虚みたいに消えてくれたら楽なのになー」と呟いて、鳳凰院が笑う。二人ともバイクに繋げた荷車に岩石を積んで、運ぶのであった。
「ここの岩の質、違うかも」
「音からして硬そうだな」
「他にもあるかも知れない。俺たちがやるときに注意しなければ」
ミオレスカ、レイア、南護炎が籠に岩石を拾い集めていく。それらはミオレスカの愛馬ブラウンダイヤが牽く荷車へと積みこんだ。
運ぶ先は、水源側や村側の完成間近な作業現場だ。水が染みだしにくくするために、水路の壁面へと埋め込むのである。ちなみに、岩盤を削る区間では必要のない作業だ。
やがて三人が直接的な掘削を行う順番となった。
「私によい策があります。試させて頂きますね」
ミオレスカはセイクリッドフラッシュ等で、すでにひびが入れられた周辺を、敢えて除外した。そして決めた地点を的にして、魔導拳銃の銃口を向ける。撃ったのは、レイターコールドショットによる冷気をまとった弾丸だ。一瞬だが周辺が凍りついた。すかさず大火弓に持ち替えて、フレイムアローを射つ。今度は火属性による一矢が岩盤へと突き刺さる。
冷気と熱気が混じりあう寒暖の差によって、非常に硬い岩盤部分にわずかながら割れ目が生じた。そこから広げる打撃は、レイアと南護炎に任せる。
「一点の突破さえ叶えば、そこは突破したと同じこと……。危険なので、下がっていてもらえるか。俺の剣技を見せてやるぜ!!」
南護炎は聖罰刃を両手で構えて、岩盤の割れ目を睨みつけた。イメージしたのは岩盤の奥の奥。遮蔽物すらものともしない次元斬の刃が岩盤へと叩きつけられる。
欠けた小石が、南護炎の足元に転げてきた。続いて南護炎が踏みだした一歩による震動で、岩盤の一部がガラガラと崩れていく。
別の箇所で、再びミオレスカが冷気と熱気によるヒビを岩盤へと入れる。今度はレイアがその前に立つ。
「気兼ねなくスキルを使わせてもらおうか」
レイアはここ一番のリバースエッジを試すことにした。生命力の転換によって生じる光と闇の属性。更なる連撃が岩盤を食い破った。まるで熱したナイフでバターを切るが如く、抉れた岩の塊が周辺へと転がる。
「ここさえ排除できれば、後はそれほどでもないだろう」
残った箇所は、ソウルエッジと渾身撃で削っていく。身捧の腕輪による付与もあってかなりの効果がある。但しこちらも生命力が奪われるので、ディーナのフルリカバリーに助けられた。
「ここは特に水路予定に沿って長いようですし……、あれを使ってみます。危険ですので、みなさん近づかないようお願いします」
ミオレスカはシャープシューティングのために、水路の側壁へと背中を預けた姿勢をとる。さらにコンバージェンスにより、時間をかけてマテリアルを収束させていく。呼吸を整えて意識を集中。そうやって放たれたのが、サジタリウスの一撃だ。
一矢が、すっと岩盤へと吸い込まれていく。まるで何事もなかったかのように。しかしわずかに遅れて貫通した周囲の外面へと、非常に細かなヒビが入る。ミオレスカが拾った小石を投げ落とすと、瞬く間に瓦礫の山と化す。
「まだ硬いところが残っているな。先に壊してしまおうか。そうすれば、後はツルハシでも何とかなる」
南護炎は一之太刀と気息充溢を併用して、岩盤を崩していく。
「それがいいだろうな。ただ、最初に気がつかなかった硬い区間もあるかも知れない。余力を残しておいたほうがよさそうだ」
ソウルエッジで難関箇所を破壊したレイアが、南護炎に答える。
ミオレスカ、南護炎、レイアの三人が一通りのスキルを使い終わった頃、空は夕暮れのオレンジ色に染まっていた。
「一日でこの成果。素晴らしいですの」
ミリアが工事の進み具合を知って、大いに喜んだ。
この日は村に早々と戻る。村共同の浴場があったので、一風呂浴びさせてもらった。そして村人が用意したご馳走に舌鼓を打つ。
「おにぎりのときも感じたが、ここの米はとても美味いな!」
南護炎はおかわり三杯目の茶碗に手をつける。
「この米が普通に買えるようになったら、どんなに嬉しいだろう」
「来年が楽しみなんだよ」
鳳凰院と弓月幸子も、食が進んでいるようである。リアルブルー勢だけでなくクリムゾン出身者も、ご飯が気に入った様子だ。
「このかき揚げ丼、なかなかの味だ」
「おいしいです! ブラウンダイヤも美味しそうに草を食べていましたし、ここの土壌は植物の育成にぴったりなようです」
ロニとミオレスカは言葉を交わした後で、美味しそうに頬を膨らませる。
「こいつは美味いぞ。夏の体力作りにぴったりだ」
「鰻の蒲焼き? それをご飯にのせたのが鰻丼?」
南護炎に渡されて、レイアは鰻丼を頂く。そして瞳を輝かせた。
「さあ、ディーナさん、遠慮なさらずに。とても頑張られていましたの」
「作物の収益UPは重要なの。お手伝い出来てうれしいの……じゅるり」
ミリアが勧める秋刀魚の味醂干しや鰻の蒲焼きと一緒に、ディーナはご飯を味わう。運河のおかげで、海洋に通じているマール住みだからこその入手性といえた。摘まむ箸は中々止まらず、お腹いっぱいまで食べ尽くす。
誰もがご飯による晩食に大満足。明日からの作業に備えて就寝するのだった。
●
誰もが四日目に有効なスキルを使い終わる。その後はツルハシやハンマー、自前の武器にて岩盤を砕くこととなった。
「集中やお守りのスティグマータも終わった。残るはこの身体のみ!」
ロニはヘビーメイスを何度も岩盤に振りおろした。砕けた岩石がそれなりに溜まったところで、籠に詰めて仲間に渡していく。
「暑い日にしっかりな運動なんだよ。きっとダイエットにもなっているんだよ。だけど……」
「ほら、しっかりしろ。定期的にこいつを忘れるなよ」
木陰で涼んでいた弓月幸子に、鳳凰院が水筒と塩を渡した。少し休んでから、二人はバイクに乗って輸送を再開する。
「ふぅ……生き返ります。みなさんにもここで涼むのをお勧めしましょう」
「岩の下敷きになって死にかけたり、こうして幸せを感じたり……。ここは人生の縮図ですの」
ミオレスカとディーナは水源側へ岩石を運んだとき、完成している水路区間へと飛びこんだ。暑い日差しの中、プカプカと水面に浮かぶ。
やる気を取り戻した二人は、元気いっぱいに現場へと復帰する。
「ここさえ崩せば、残りは雑魚のみ。全力で参る!」
南護炎は小さな目標を立てて、それを一つずつクリアしていく。ツルハシが深く突き刺さって、岩盤が砕け散った。
「水田が増えれば、あのお米がさらに作付けできる。そうすればあの鰻丼が食べられるようになるのだ!」
レイアは友人知人の顔を脳裏に思い浮かべて、ハンマーを振るう。
五日六日と過ぎ去って、そして七日目。岩盤の水路に最後の仕上げが施される。
水源側と村側、どちらの水路も完成していた。繋げられると、綺麗な清水が岩盤の水路を流れていく。その様子を眺めて、ミリアとハンター一同、そして村人達は喜んだ。
「みなさんの力がなければ半年は……いえ、硬い部分を考えたら、それ以上の月日がかかっていたはずですの。領主のアーリアに代わって、お礼をいわせていただきます。ありがとうございました」
マール到着後の別れ際、ハンター一行はミリアから礼をいわれる。これまでに受け取る機会がなかったハンターには、貢献の勲章が手渡された。
望んだハンターには、米入りの小袋が手渡される。数日中に焚いて食べる必要はあるものの、友人知人と楽しむには充分な量であった。
青空の下、荷馬車やバイクが細道を走る。ミリアが同行するハンター一行は、村に立ち寄ってから現場へ向かっていた。
「農作のために水を引く、と。運ぶのでは駄目なのか?」
「その程度では足りませんの。もっとたくさんの水が必要で、ため池もあるって聞きましたの」
今一要領を得ないバイク騎乗のレイア・アローネ(ka4082)から、荷馬車のミリアは質問攻めにあう。
「水を貯める? 池の中に畑を作るのか……?」
「イメージとしては、そんな感じなんですけれど……」
レイアとミリアがやり取りしているうちに、田園の風景が視界に広がった。そういうことか!」と叫んだレイアは、納得がいったようである。
「田んぼをどれだけ拡張できるのか、この両腕とレイバシアーにかかっていますの」
愛馬の手綱を握るディーナ・フェルミ(ka5843)は、食い入るように水田を眺める。
「田んぼが増やせれば、こっちでもお米をいっぱいを食べれるんだよ、頑張るんだよ」
「幸子がやる気でいっぱいだな。ここは俺も頑張ろうか」
バイクで併走して走る弓月 幸子(ka1749)と鳳凰院ひりょ(ka3744)。興奮気味の弓月幸子の様子に、鳳凰院は微笑んだ。
「あのため池に繋がる用水路が給水のすべてか。かなり賄えているようだが、不安になるのも無理からぬな。ここは新たな水源を確保して、安心してもらおうか」
荷馬車のロニ・カルディス(ka0551)が遠方を望んだ。ため池は大きかったが、ここしばらくの暑さのせいか、水量がかなり減っている模様だった。
「出来ることならば、俺達がいる間に水路を繋げたいものだ」
「そうすれば安心ですね。村の方によれば、水田で稲作は、東方由来の文化のようです。灌漑は大切だと聞いてます」
荷馬車の南護 炎(ka6651)と愛馬騎乗のミオレスカ(ka3496)が、田んぼ沿いの水路を見下ろす。水草の間にザリガニや、メダカが泳いでいたりと、とても長閑な風景である。
「ミリア様と御一行の方々、あの辺りが難工事の区域となります」
村から同行していた馭者台の案内人が、進行方向を指さした。そのときはわかりにくかったが、近づいていくうちに詳細な事態が判明していく。
浅いところでは三十cm程度掘っただけで、岩盤が横たわっている。すでに村人達によって経路の土の表層は除けられていた。用水路予定地は、岩盤剥きだしで一筋の道にようになっている。
現場へと到着。約百Mに渡っての岩盤に溝を掘るべく、ハンター達は準備を始めた。
「つまりここの岩盤をぶち抜けばいいの! 分かったの、私のレイバシアーが火を噴くのー」
真っ先に取りかかったのは、ディーナだ。普段は片手持ちのメイスに両手を添えて、「チャキッ」っと正眼に構えて岩盤を睨みつける。
不敵な笑みを浮かべて、思いっきり振りおろした。煙のような粉塵を噴き上げつつ、砕けた岩石の破片が飛び散っていく。
フォースクラッシュが付与されたメイスの攻撃力は凄まじく、大穴が空いた。穴底へ降りたディーナは、正面の岩盤に再びフォースクラッシュの一撃をぶつける。
「岩盤は、ぶち抜くものとみつけたり」
キランと光るディーナの瞳。体力とフォースクラッシュの残存回数の限り、岩盤を抉っていった。
「ディーナさん、すごい勢いですの」
「やる気が凄まじいな」
ミリアと言葉を交わしてから、ロニも作業に取りかかる。有効的なスキルが切れるまで、直接的な掘削作業は二人か三人までが従事と事前に全員で決めていた。
「俺もディーナに負けていられないからな!」
ロニは岩盤の上に立ち、セイクリッドフラッシュによる光の波動を放った。自身を中心にして足元の岩盤がひび割れていく。いくらか歩いて再び光の波動を浴びせかける。計17回の衝撃を岩盤に与えておき、今後の作業をやりやすくした。
「よし! これで砕けやすくなったはずだ。ここからは溝の形状も考慮して砕いていこう」
ロニはヘビーメイスを握りしめて、フォースクラッシュによる打撃で岩盤を砕いた。一方のディーナは、勢いのまま力の限り砕き続ける。
「むむむむむ……お前はお米の敵なの。ゆえにオブジェクトであろうと、今回はぶっ壊せると信じるの」
特に硬い部分に当たって、停滞していた。光の波動を併用してもわずかしか掘り進められない。イライラを抱えたままで「セイクリッドフラッシュ!」を使用する。
「きゃー、生き埋めノーサンキューなの、ヘルプなのー」
突破することはできたものの、大量の破片が降り注ぐ事態に。ミリアが放り投げた縄に掴まって、ディーナは「ケホッ」と咳をしながらも無事生還。もしやと考えて付与してあった魔法ディヴァインウィルで助かった彼女であった。
ロニとディーナの次に取りかかったのは、弓月幸子と鳳凰院だ。
「真っ直ぐに線を引こうと思っていたから、岩盤が見えていて助かったんだよ」
「すでに割れ目がいくつかあるな。試してみよう」
弓月幸子が見守る中、鳳凰院はロングボウを手にする。ソウルエッジを付与した一矢が射たれて、割れ目へと吸い込まれていく。その衝撃により、蜘蛛の巣のようにヒビが岩盤の表面へと広がる。
「いい感じなんだよ。ここを穿てば大きく崩れるかも?」
弓月幸子が真剣な眼差しで放ったのが、ウォーターシュートだ。大きな水球が割れ目に食い込むようになりながら命中。その衝撃によって岩盤の一部が、ガラガラと崩れていく。
「うまくいったんだよ!」
「これはいい感じに、崩れたな」
弓月幸子は用意されていたハンマーを振るった。細かな割れ目が入っているので、容易に岩石と化していく。鳳凰院はワイヤードクローの鉤爪を突き刺していった。
岩石の運びは仲間達に任せて、次々と岩盤を削っていく。弓矢でのソウルエッジと、ウォーターシュートの炸裂を併用して効率よくこなしていった。
一段落ついたところで、次の仲間と交代する。二人は一旦村へと戻り、寝床として宛がわれた空き家の炊事場で、昼食の準備へと取りかかった。
「せっかくお米があるんだからご飯を炊いて、おにぎりがいいかな」
「ミリアが持ってきた味噌があるから、焼きおにぎりだな」
二人で協力してご飯を炊いて、調理していく。
「幸子、長い戦いになったが、一緒に戦ってくれてありがとうな。幸子も居てくれたから、こうしてここまで戦って来られたと思うから」
鳳凰院は弓月幸子にこれまでの礼を伝えた。少し照れた様子の弓月幸子だが、普段通りの元気いっぱいな姿で「これからもよろしく」と返事をするのだった。
焼きおにぎりが詰まった木箱の他に、樽に冷たい井戸水を汲んで荷馬車へと積む。そして仲間達が待つ作業場へと戻っていった。
「おにぎりにして正解だったんだよ」
「さて、午後からもがんばろうか」
午後一からの仕事は、岩石運びである。
弓月幸子が「歪虚みたいに消えてくれたら楽なのになー」と呟いて、鳳凰院が笑う。二人ともバイクに繋げた荷車に岩石を積んで、運ぶのであった。
「ここの岩の質、違うかも」
「音からして硬そうだな」
「他にもあるかも知れない。俺たちがやるときに注意しなければ」
ミオレスカ、レイア、南護炎が籠に岩石を拾い集めていく。それらはミオレスカの愛馬ブラウンダイヤが牽く荷車へと積みこんだ。
運ぶ先は、水源側や村側の完成間近な作業現場だ。水が染みだしにくくするために、水路の壁面へと埋め込むのである。ちなみに、岩盤を削る区間では必要のない作業だ。
やがて三人が直接的な掘削を行う順番となった。
「私によい策があります。試させて頂きますね」
ミオレスカはセイクリッドフラッシュ等で、すでにひびが入れられた周辺を、敢えて除外した。そして決めた地点を的にして、魔導拳銃の銃口を向ける。撃ったのは、レイターコールドショットによる冷気をまとった弾丸だ。一瞬だが周辺が凍りついた。すかさず大火弓に持ち替えて、フレイムアローを射つ。今度は火属性による一矢が岩盤へと突き刺さる。
冷気と熱気が混じりあう寒暖の差によって、非常に硬い岩盤部分にわずかながら割れ目が生じた。そこから広げる打撃は、レイアと南護炎に任せる。
「一点の突破さえ叶えば、そこは突破したと同じこと……。危険なので、下がっていてもらえるか。俺の剣技を見せてやるぜ!!」
南護炎は聖罰刃を両手で構えて、岩盤の割れ目を睨みつけた。イメージしたのは岩盤の奥の奥。遮蔽物すらものともしない次元斬の刃が岩盤へと叩きつけられる。
欠けた小石が、南護炎の足元に転げてきた。続いて南護炎が踏みだした一歩による震動で、岩盤の一部がガラガラと崩れていく。
別の箇所で、再びミオレスカが冷気と熱気によるヒビを岩盤へと入れる。今度はレイアがその前に立つ。
「気兼ねなくスキルを使わせてもらおうか」
レイアはここ一番のリバースエッジを試すことにした。生命力の転換によって生じる光と闇の属性。更なる連撃が岩盤を食い破った。まるで熱したナイフでバターを切るが如く、抉れた岩の塊が周辺へと転がる。
「ここさえ排除できれば、後はそれほどでもないだろう」
残った箇所は、ソウルエッジと渾身撃で削っていく。身捧の腕輪による付与もあってかなりの効果がある。但しこちらも生命力が奪われるので、ディーナのフルリカバリーに助けられた。
「ここは特に水路予定に沿って長いようですし……、あれを使ってみます。危険ですので、みなさん近づかないようお願いします」
ミオレスカはシャープシューティングのために、水路の側壁へと背中を預けた姿勢をとる。さらにコンバージェンスにより、時間をかけてマテリアルを収束させていく。呼吸を整えて意識を集中。そうやって放たれたのが、サジタリウスの一撃だ。
一矢が、すっと岩盤へと吸い込まれていく。まるで何事もなかったかのように。しかしわずかに遅れて貫通した周囲の外面へと、非常に細かなヒビが入る。ミオレスカが拾った小石を投げ落とすと、瞬く間に瓦礫の山と化す。
「まだ硬いところが残っているな。先に壊してしまおうか。そうすれば、後はツルハシでも何とかなる」
南護炎は一之太刀と気息充溢を併用して、岩盤を崩していく。
「それがいいだろうな。ただ、最初に気がつかなかった硬い区間もあるかも知れない。余力を残しておいたほうがよさそうだ」
ソウルエッジで難関箇所を破壊したレイアが、南護炎に答える。
ミオレスカ、南護炎、レイアの三人が一通りのスキルを使い終わった頃、空は夕暮れのオレンジ色に染まっていた。
「一日でこの成果。素晴らしいですの」
ミリアが工事の進み具合を知って、大いに喜んだ。
この日は村に早々と戻る。村共同の浴場があったので、一風呂浴びさせてもらった。そして村人が用意したご馳走に舌鼓を打つ。
「おにぎりのときも感じたが、ここの米はとても美味いな!」
南護炎はおかわり三杯目の茶碗に手をつける。
「この米が普通に買えるようになったら、どんなに嬉しいだろう」
「来年が楽しみなんだよ」
鳳凰院と弓月幸子も、食が進んでいるようである。リアルブルー勢だけでなくクリムゾン出身者も、ご飯が気に入った様子だ。
「このかき揚げ丼、なかなかの味だ」
「おいしいです! ブラウンダイヤも美味しそうに草を食べていましたし、ここの土壌は植物の育成にぴったりなようです」
ロニとミオレスカは言葉を交わした後で、美味しそうに頬を膨らませる。
「こいつは美味いぞ。夏の体力作りにぴったりだ」
「鰻の蒲焼き? それをご飯にのせたのが鰻丼?」
南護炎に渡されて、レイアは鰻丼を頂く。そして瞳を輝かせた。
「さあ、ディーナさん、遠慮なさらずに。とても頑張られていましたの」
「作物の収益UPは重要なの。お手伝い出来てうれしいの……じゅるり」
ミリアが勧める秋刀魚の味醂干しや鰻の蒲焼きと一緒に、ディーナはご飯を味わう。運河のおかげで、海洋に通じているマール住みだからこその入手性といえた。摘まむ箸は中々止まらず、お腹いっぱいまで食べ尽くす。
誰もがご飯による晩食に大満足。明日からの作業に備えて就寝するのだった。
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誰もが四日目に有効なスキルを使い終わる。その後はツルハシやハンマー、自前の武器にて岩盤を砕くこととなった。
「集中やお守りのスティグマータも終わった。残るはこの身体のみ!」
ロニはヘビーメイスを何度も岩盤に振りおろした。砕けた岩石がそれなりに溜まったところで、籠に詰めて仲間に渡していく。
「暑い日にしっかりな運動なんだよ。きっとダイエットにもなっているんだよ。だけど……」
「ほら、しっかりしろ。定期的にこいつを忘れるなよ」
木陰で涼んでいた弓月幸子に、鳳凰院が水筒と塩を渡した。少し休んでから、二人はバイクに乗って輸送を再開する。
「ふぅ……生き返ります。みなさんにもここで涼むのをお勧めしましょう」
「岩の下敷きになって死にかけたり、こうして幸せを感じたり……。ここは人生の縮図ですの」
ミオレスカとディーナは水源側へ岩石を運んだとき、完成している水路区間へと飛びこんだ。暑い日差しの中、プカプカと水面に浮かぶ。
やる気を取り戻した二人は、元気いっぱいに現場へと復帰する。
「ここさえ崩せば、残りは雑魚のみ。全力で参る!」
南護炎は小さな目標を立てて、それを一つずつクリアしていく。ツルハシが深く突き刺さって、岩盤が砕け散った。
「水田が増えれば、あのお米がさらに作付けできる。そうすればあの鰻丼が食べられるようになるのだ!」
レイアは友人知人の顔を脳裏に思い浮かべて、ハンマーを振るう。
五日六日と過ぎ去って、そして七日目。岩盤の水路に最後の仕上げが施される。
水源側と村側、どちらの水路も完成していた。繋げられると、綺麗な清水が岩盤の水路を流れていく。その様子を眺めて、ミリアとハンター一同、そして村人達は喜んだ。
「みなさんの力がなければ半年は……いえ、硬い部分を考えたら、それ以上の月日がかかっていたはずですの。領主のアーリアに代わって、お礼をいわせていただきます。ありがとうございました」
マール到着後の別れ際、ハンター一行はミリアから礼をいわれる。これまでに受け取る機会がなかったハンターには、貢献の勲章が手渡された。
望んだハンターには、米入りの小袋が手渡される。数日中に焚いて食べる必要はあるものの、友人知人と楽しむには充分な量であった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/27 01:13:45 |
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水路を掘ろう 南護 炎(ka6651) 人間(リアルブルー)|18才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2018/07/27 09:05:44 |