ゲスト
(ka0000)
螢火の幻影
マスター:秋月雅哉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/07/29 19:00
- 完成日
- 2018/07/30 14:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●優しく、けれど残酷な夢
その森には夏の夜になるとひっそりと死を望む人たちが足を運ぶという。暗黙の了解でその危険な行為を人々は黙認していた。
いつか自分も安らかな死を望むかもしれないからギルドに、ハンターに介入されるのは困る。そう考えて見過ごしてきた。
けれどそれを良しとしない匿名の誰かからの一通の手紙が、ギルドを震撼させることになる。
七月下旬、まだまだ猛暑の続く夏のある日。その手紙は体感気温を下げるほど冷たい死の誘いだった。
『同封した地図の森、蛍が住まう綺麗な泉がある。それだけなら特に危険はない蛍狩りのスポットです。けれど蛍が舞う時期になるとネムリゲシという花が咲き始めます。この花は淡く光る美しい花で、けれど人を死にいざないます。一説によると花の精霊の一種だとか。このネムリゲシの放つ花粉は人を死に至らしめる危険なもので、安楽死を求める人々……未来に希望をなくした若者やいじめにあってつらい思いをした子供、重い病を患った病人、老いで体の自由が利かなくなった老人などが人に連れられ、あるいは自分で死を選びに夏になるとひっそりと山に登っていくのだそうです。
安らかな死は、得難い終わりなのかもしれません。けれど私はそんな終わりを認めたくない、選んでほしくない。ゆえに。ネムリゲシの討伐をお願いしたく匿名で手紙を送らせていただきました。どうぞ人々に安らかな終わりではなく、苦しくともいつか充足したと思える未来を示してください』
ルカ・シュバルツエンド(kz0073)はその手紙を集まったハンターたちに向かって読み上げた後地図を示した。
人里から少し離れた、起伏の少ない森や山というよりは丘のような場所。その頂上にバツ印が書き込まれている。木々で少し見通しは悪く、水辺だということで足場も悪いだろう。しかも蛍が舞う時間ともなれば日は落ちている。
「この間見に行った光る花は美しかったけれどね。この花はどうやら危険らしい。詳しい情報はわかっていない。なにせ隠匿されていた自殺場所だしどれだけの時間花粉を吸い込めば死ぬのかも定かじゃない。けれど放っていくことはできないと思う。
理屈として考えて花粉は風に乗って移動するよね?ならば地上で暴れまわるよりも空中の、風に舞い上がる量の少ない領域から焼き払うなり遠距離の攻撃を仕掛けるのがいいと思う。花の精霊ということは多分自立型。群生しているそうだから花粉を少しでも吸いこみにくくするように口と鼻をしっかり覆って、念のためにゴーグルがあるといいかもしれない。
それと……多分ネムリゲシの根元にはもう白骨になっているだろうけど、安楽死を求めて得た人たちの死体があると思うんだ。戦闘で多少は破損してしまうかもしれないけれど、村の共同墓地に弔ってほしい。これは僕からの個人的な願いだから叶えなくても構わないよ」
この手紙の差出人の言う通り、今はつらくともきっとまだ続いていくべき道を奪う仇花をどうか討ってほしい。
ルカは珍しく真摯な態度で頭を下げたのだった。
その森には夏の夜になるとひっそりと死を望む人たちが足を運ぶという。暗黙の了解でその危険な行為を人々は黙認していた。
いつか自分も安らかな死を望むかもしれないからギルドに、ハンターに介入されるのは困る。そう考えて見過ごしてきた。
けれどそれを良しとしない匿名の誰かからの一通の手紙が、ギルドを震撼させることになる。
七月下旬、まだまだ猛暑の続く夏のある日。その手紙は体感気温を下げるほど冷たい死の誘いだった。
『同封した地図の森、蛍が住まう綺麗な泉がある。それだけなら特に危険はない蛍狩りのスポットです。けれど蛍が舞う時期になるとネムリゲシという花が咲き始めます。この花は淡く光る美しい花で、けれど人を死にいざないます。一説によると花の精霊の一種だとか。このネムリゲシの放つ花粉は人を死に至らしめる危険なもので、安楽死を求める人々……未来に希望をなくした若者やいじめにあってつらい思いをした子供、重い病を患った病人、老いで体の自由が利かなくなった老人などが人に連れられ、あるいは自分で死を選びに夏になるとひっそりと山に登っていくのだそうです。
安らかな死は、得難い終わりなのかもしれません。けれど私はそんな終わりを認めたくない、選んでほしくない。ゆえに。ネムリゲシの討伐をお願いしたく匿名で手紙を送らせていただきました。どうぞ人々に安らかな終わりではなく、苦しくともいつか充足したと思える未来を示してください』
ルカ・シュバルツエンド(kz0073)はその手紙を集まったハンターたちに向かって読み上げた後地図を示した。
人里から少し離れた、起伏の少ない森や山というよりは丘のような場所。その頂上にバツ印が書き込まれている。木々で少し見通しは悪く、水辺だということで足場も悪いだろう。しかも蛍が舞う時間ともなれば日は落ちている。
「この間見に行った光る花は美しかったけれどね。この花はどうやら危険らしい。詳しい情報はわかっていない。なにせ隠匿されていた自殺場所だしどれだけの時間花粉を吸い込めば死ぬのかも定かじゃない。けれど放っていくことはできないと思う。
理屈として考えて花粉は風に乗って移動するよね?ならば地上で暴れまわるよりも空中の、風に舞い上がる量の少ない領域から焼き払うなり遠距離の攻撃を仕掛けるのがいいと思う。花の精霊ということは多分自立型。群生しているそうだから花粉を少しでも吸いこみにくくするように口と鼻をしっかり覆って、念のためにゴーグルがあるといいかもしれない。
それと……多分ネムリゲシの根元にはもう白骨になっているだろうけど、安楽死を求めて得た人たちの死体があると思うんだ。戦闘で多少は破損してしまうかもしれないけれど、村の共同墓地に弔ってほしい。これは僕からの個人的な願いだから叶えなくても構わないよ」
この手紙の差出人の言う通り、今はつらくともきっとまだ続いていくべき道を奪う仇花をどうか討ってほしい。
ルカは珍しく真摯な態度で頭を下げたのだった。
リプレイ本文
●死へといざなう、ネムリゲシの群生地で死者は眠る
その場所はひっそりとしていた。蛍が舞っているが虫の声はしない。もしかしたらその蛍は実は蛍ではなく、ネムリゲシによって命を絶つことを選んだ死者の魂なのかもしれない。夏になると死者は帰ってくる。リアルブルーにはそんな言い伝えがあるが、ここの死者たちは弔われることなく死に果てて、ネムリゲシにとらわれているのかもしれない。
そんな錯覚をするほど、静かに死に満ちたネムリゲシの群生地。ケシの花によく似た、けれど色とりどりに淡く光る死へいざなう花が今夜も咲き誇る。
幸い今日は自殺志願者の姿はないので思い切り勢いよく掃討できるだろう。
「厄介な敵だな。ワイバーンで上空から焼き払いたいところだが……あいにくと今回はつれてきてはいないしな……!」
飛行するすべを持たないレイア・アローネ(ka4082)は丈夫なマスクを着けて地上で戦うことを選んだ。
危険は承知の上。けれどネムリゲシが存在してはいけない。そのために危険を負うのはハンターである自分の役割だ。そう心に定めている。
今はまだ精霊の姿を取っていないので防御は捨てて全力で攻撃を仕掛けた。
花が揺れたせいで花粉が零れ落ちる量が増える。光る鱗粉のように細かい粒子が舞った。
「十……いや、五分を目安にカタをつける……!」
「優しい悪夢、ね。いいわ、終わらせましょう。どんな夢も覚めるもの。だからこその夢なのだから」
そうやって地上で戦うレリアを空から俯瞰しながら拡散することを前提にして七夜・真夕(ka3977)は攻撃態勢に入る。
口元を布で覆いながらハンターたちの周りに風の障壁を作り上げる。
本来は風の動きによって微妙に攻撃の軌道をそらすものではあるが今回は花粉を蹴散らす防護壁の役割を少なからず果たしてくれるだろう。
彼女が紫色の光を伴った重力波を発生させるとネムリゲシたちが本性である精霊体をとって地上に現れ始めた。
頭頂部に咲くネムリゲシの花はそのままに、たおやかな女性の姿。散らされた同胞をを悼むように、死者を悼むようにその顔は憂いに満ちているがそんな表情で躊躇するハンターたちではない。
「自ら命を絶つ行いは主に対する最大の罪。それをそそのかす花を見過ごすわけにはいくまい。ゆえにすべてを駆逐する」
マスクとゴーグルで防護を取り、風の加護を受けたエメラルド・シルフィユ(ka4678)が花の精霊……それとも魔物だろうか。死にいざなう、美しい偉業を切り払う。
(仮に……私が幻覚を見せられたとして……私の望む幸せとはどんなのだろうな……)
そう思ったレリアの視界から突然戦場が消えた。
剣をふるうことがなかったことを示す、華奢で鍛えていないことがわかる手や指。戦いに明け暮れた自分の指は節ばっていたのに。
数多くの友人や、心に決めた愛する者への温かい思いが心を満たす。歪虚の脅威も、魔獣に奪われる命もない、平和な世界で静かに穏やかに暮らす。
(私はひたすら剣をふるい、剣を誇りにしてきたが……もしかしたら剣をおける場所を求めていたのか……? ああ……それも悪くない)
安らぎに満ちていて、誰もが笑顔で。傷つく必要がない、傷つける必要もない。そんな優しい世界。
「だが……ないんだ……! それがないから私は剣をふるっている……!」
エメラルドの放った浄化と自身の決意によって我を取り戻したレリアが叫びながら異形を切り捨てた。
三百を数えるであろう花々は、けれどさして戦闘能力は高くなく徐々に駆逐されていく。
口元をマスクで覆いながら飛行している真夕から花粉が薄く、ネムリゲシがいる辺りを俯瞰で見てもらい、連絡を受けて多由羅(ka6167)は火を使って焼き払っていた。地面をこすり上げるようにして斬りつけた一撃は地面を剣がこすれた瞬間に摩擦熱で発火するのだ。
「植物なら、火には弱いでしょう? たいまつも差し上げますよ」
もちろん延焼には十分注意して放ったたいまつと剣戟で花とも人ともいえない異形を刈り取っていく。
焼けただれる異形たちからは皮肉なことに花の香りがした。人に似ていても、決して人ではないことの証明だった。
しかし炎であぶられた花粉は香りとともに幻覚作用を強めたのか、多由羅もまた幻にとらわれる。
己が剣を極め、万人が認める剣豪となる夢だった。
「しっかり! 幻覚につかまらないで!」
再び浄化の術が飛び、多由羅は猛烈にそんな夢を見た自分を恥じ、怒った。
「私は人に認められるために剣をふるっているのではありません……!」
同時に。ならばこそ自分は花に感謝するべきなのかもしれない、と思う。己の奥底にあった卑しい心に気づかせてくれたのだから、と。
炎の延焼を防ぐため真夕は冷気の嵐を巻き起こす。凍り付いた花の化身はぱきぱきと頼りない音を立てて折れていった。
花粉も、異形も、そうして徐々に数は減り、そしてネムリゲシの群生地帯には少しあれた空き地が残った。
戦いが終わったことを悟って蛍たちが戻ってくる。ここは死出の旅の出発点ではなく、ただの蛍狩りのスポットになったのだ。
「束の間でも弱い心でも、幸せを見せてくれたのは悪い気がしなかったよ。けど……ソレをみせて生きる気力を奪うお前たちの存在はあってはならないものだったんだ。これで、もう悪い夢は終わりだ」
レリアが精神的な疲れで上がった息を整えながら花の残骸に注げる。幻想的な光は失われていて、夜闇に紛れそうだった。
「亡くなった人たちをとむらってあげましょう。これでも巫女だったんだし、ほうっておけない。せめてその魂は安らかに……」
真夕が鎮魂を願い、エメラルドが共同墓地に運ぶために丁重に白骨を扱う。
「自ら死したお前たちを愚かとは蔑まない。苦しい思いもしたのだろう……けれど、そんなお前たちをお前たちが認めてやらないでどうするのか……。
いや、よそう。もうこれ以上苦しむ必要はない。安らかに眠ってくれ。神よ、彼らは大きな罪を犯しました。だけど、どうかそれを許し給いますよう……」
死者と、自身が信じる神への祈り。死にたくて死ぬ人が、どこにいるだろう? 彼らもきっと苦しんで苦しんで……選ぶ道を、間違った。
多由羅には命を絶ちたいと思う者たちの心は正直理解ができなかった。そして思う、自分たちの行いは逃げ場を奪ってしまったのかもしれない、と。
(でも、傲慢でも構いません。私は彼らに対し何の責任も持てません。彼らの責任は彼ら自身で持つしかないのです。生きるのも、死ぬのも。そういうことなのだから。誰かに変わりはさせられない。人の代わりは誰にもできないし、ずっと道を示し続けてもらうこともできない)
だから、危険な花はない方がいい。匿名で依頼を出した人物が気に病まなければいいのですが、とも思う。
これは自分たちが勝手にやったことなのだから、安楽死の場を奪ったことを後悔しないでほしいと。
この事件に正解はないのかもしれないけれど、依頼人も自分たちも間違ってはないのだから。
「本当に……こういうのは私の性にはあいません……」
白骨死体を夜が明けてから共同墓地に弔って、夏の悪夢は終わったのだった。
次に見る夢はどうか、本当に幸せなものを。
この場所の不吉なうわさは、いつか時が忘却の彼方へ連れていくだろう。その時には虫の鳴き声も戻ってくるだろう。そして人々は死に魅入られるために花を見るのではなく、夏の思い出作りに蛍狩りに来るのだろう。そんな願いを、抱くことができればいい。四人のハンターたちはそう思うのだった。
その場所はひっそりとしていた。蛍が舞っているが虫の声はしない。もしかしたらその蛍は実は蛍ではなく、ネムリゲシによって命を絶つことを選んだ死者の魂なのかもしれない。夏になると死者は帰ってくる。リアルブルーにはそんな言い伝えがあるが、ここの死者たちは弔われることなく死に果てて、ネムリゲシにとらわれているのかもしれない。
そんな錯覚をするほど、静かに死に満ちたネムリゲシの群生地。ケシの花によく似た、けれど色とりどりに淡く光る死へいざなう花が今夜も咲き誇る。
幸い今日は自殺志願者の姿はないので思い切り勢いよく掃討できるだろう。
「厄介な敵だな。ワイバーンで上空から焼き払いたいところだが……あいにくと今回はつれてきてはいないしな……!」
飛行するすべを持たないレイア・アローネ(ka4082)は丈夫なマスクを着けて地上で戦うことを選んだ。
危険は承知の上。けれどネムリゲシが存在してはいけない。そのために危険を負うのはハンターである自分の役割だ。そう心に定めている。
今はまだ精霊の姿を取っていないので防御は捨てて全力で攻撃を仕掛けた。
花が揺れたせいで花粉が零れ落ちる量が増える。光る鱗粉のように細かい粒子が舞った。
「十……いや、五分を目安にカタをつける……!」
「優しい悪夢、ね。いいわ、終わらせましょう。どんな夢も覚めるもの。だからこその夢なのだから」
そうやって地上で戦うレリアを空から俯瞰しながら拡散することを前提にして七夜・真夕(ka3977)は攻撃態勢に入る。
口元を布で覆いながらハンターたちの周りに風の障壁を作り上げる。
本来は風の動きによって微妙に攻撃の軌道をそらすものではあるが今回は花粉を蹴散らす防護壁の役割を少なからず果たしてくれるだろう。
彼女が紫色の光を伴った重力波を発生させるとネムリゲシたちが本性である精霊体をとって地上に現れ始めた。
頭頂部に咲くネムリゲシの花はそのままに、たおやかな女性の姿。散らされた同胞をを悼むように、死者を悼むようにその顔は憂いに満ちているがそんな表情で躊躇するハンターたちではない。
「自ら命を絶つ行いは主に対する最大の罪。それをそそのかす花を見過ごすわけにはいくまい。ゆえにすべてを駆逐する」
マスクとゴーグルで防護を取り、風の加護を受けたエメラルド・シルフィユ(ka4678)が花の精霊……それとも魔物だろうか。死にいざなう、美しい偉業を切り払う。
(仮に……私が幻覚を見せられたとして……私の望む幸せとはどんなのだろうな……)
そう思ったレリアの視界から突然戦場が消えた。
剣をふるうことがなかったことを示す、華奢で鍛えていないことがわかる手や指。戦いに明け暮れた自分の指は節ばっていたのに。
数多くの友人や、心に決めた愛する者への温かい思いが心を満たす。歪虚の脅威も、魔獣に奪われる命もない、平和な世界で静かに穏やかに暮らす。
(私はひたすら剣をふるい、剣を誇りにしてきたが……もしかしたら剣をおける場所を求めていたのか……? ああ……それも悪くない)
安らぎに満ちていて、誰もが笑顔で。傷つく必要がない、傷つける必要もない。そんな優しい世界。
「だが……ないんだ……! それがないから私は剣をふるっている……!」
エメラルドの放った浄化と自身の決意によって我を取り戻したレリアが叫びながら異形を切り捨てた。
三百を数えるであろう花々は、けれどさして戦闘能力は高くなく徐々に駆逐されていく。
口元をマスクで覆いながら飛行している真夕から花粉が薄く、ネムリゲシがいる辺りを俯瞰で見てもらい、連絡を受けて多由羅(ka6167)は火を使って焼き払っていた。地面をこすり上げるようにして斬りつけた一撃は地面を剣がこすれた瞬間に摩擦熱で発火するのだ。
「植物なら、火には弱いでしょう? たいまつも差し上げますよ」
もちろん延焼には十分注意して放ったたいまつと剣戟で花とも人ともいえない異形を刈り取っていく。
焼けただれる異形たちからは皮肉なことに花の香りがした。人に似ていても、決して人ではないことの証明だった。
しかし炎であぶられた花粉は香りとともに幻覚作用を強めたのか、多由羅もまた幻にとらわれる。
己が剣を極め、万人が認める剣豪となる夢だった。
「しっかり! 幻覚につかまらないで!」
再び浄化の術が飛び、多由羅は猛烈にそんな夢を見た自分を恥じ、怒った。
「私は人に認められるために剣をふるっているのではありません……!」
同時に。ならばこそ自分は花に感謝するべきなのかもしれない、と思う。己の奥底にあった卑しい心に気づかせてくれたのだから、と。
炎の延焼を防ぐため真夕は冷気の嵐を巻き起こす。凍り付いた花の化身はぱきぱきと頼りない音を立てて折れていった。
花粉も、異形も、そうして徐々に数は減り、そしてネムリゲシの群生地帯には少しあれた空き地が残った。
戦いが終わったことを悟って蛍たちが戻ってくる。ここは死出の旅の出発点ではなく、ただの蛍狩りのスポットになったのだ。
「束の間でも弱い心でも、幸せを見せてくれたのは悪い気がしなかったよ。けど……ソレをみせて生きる気力を奪うお前たちの存在はあってはならないものだったんだ。これで、もう悪い夢は終わりだ」
レリアが精神的な疲れで上がった息を整えながら花の残骸に注げる。幻想的な光は失われていて、夜闇に紛れそうだった。
「亡くなった人たちをとむらってあげましょう。これでも巫女だったんだし、ほうっておけない。せめてその魂は安らかに……」
真夕が鎮魂を願い、エメラルドが共同墓地に運ぶために丁重に白骨を扱う。
「自ら死したお前たちを愚かとは蔑まない。苦しい思いもしたのだろう……けれど、そんなお前たちをお前たちが認めてやらないでどうするのか……。
いや、よそう。もうこれ以上苦しむ必要はない。安らかに眠ってくれ。神よ、彼らは大きな罪を犯しました。だけど、どうかそれを許し給いますよう……」
死者と、自身が信じる神への祈り。死にたくて死ぬ人が、どこにいるだろう? 彼らもきっと苦しんで苦しんで……選ぶ道を、間違った。
多由羅には命を絶ちたいと思う者たちの心は正直理解ができなかった。そして思う、自分たちの行いは逃げ場を奪ってしまったのかもしれない、と。
(でも、傲慢でも構いません。私は彼らに対し何の責任も持てません。彼らの責任は彼ら自身で持つしかないのです。生きるのも、死ぬのも。そういうことなのだから。誰かに変わりはさせられない。人の代わりは誰にもできないし、ずっと道を示し続けてもらうこともできない)
だから、危険な花はない方がいい。匿名で依頼を出した人物が気に病まなければいいのですが、とも思う。
これは自分たちが勝手にやったことなのだから、安楽死の場を奪ったことを後悔しないでほしいと。
この事件に正解はないのかもしれないけれど、依頼人も自分たちも間違ってはないのだから。
「本当に……こういうのは私の性にはあいません……」
白骨死体を夜が明けてから共同墓地に弔って、夏の悪夢は終わったのだった。
次に見る夢はどうか、本当に幸せなものを。
この場所の不吉なうわさは、いつか時が忘却の彼方へ連れていくだろう。その時には虫の鳴き声も戻ってくるだろう。そして人々は死に魅入られるために花を見るのではなく、夏の思い出作りに蛍狩りに来るのだろう。そんな願いを、抱くことができればいい。四人のハンターたちはそう思うのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 4人 |
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真夏の夜の夢 レイア・アローネ(ka4082) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/07/28 23:38:57 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/07/28 09:36:38 |