ゲスト
(ka0000)
【MN】こどもじだい・延長戦
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 3~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/08/10 19:00
- 完成日
- 2018/08/21 06:20
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
――着ていた服がぶかぶかである。
バランスを取るのが、上手くいかない。
――目が覚めたら、外見年齢が十年前に逆戻りしていた。
●
「夏の夜の夢という言葉はありますけどね」
ハンターオフィスの面々はため息をつく。
「それでも流石に子どもばかりであふれかえっていたら、怪しまれますって! いくらハンターでも!」
しかしそう叫ぶ受付の外見年齢も声変わり前の少年といったかんじで、正直言うと、まったくおっかなくない。普段はややコワモテの兄ちゃん、という感じなのだが、十年前はまるきり紅顔の美少年だ。
「まあ、これはもう起きてしまったことだ。仕方がない、諦めよう……」
オフィスでも年かさの職員が、ため息をついて頷く。普段はお局様の彼女も、いまはミニスカートのよく似合う女子高校生といった雰囲気で、気の強そうな表情が愛らしいというふうに見せている。若い頃はモテたのだろうなと思われた。
「まあ、だいたいマテリアルの異常現象だろうし」
「まてりあるのいじょうげんしょう」
「一日たてばだいたい終わってることも多いからね」
「いちにちたてば」
逆に言うとこの大混乱が一日続くというわけで。
ハンターも、オフィスの職員も、ため息をつく以外なにもできなかった。
●
とはいえ楽観的なものも、悲観的なものもいるわけで。
なにぶん姿は子どもでも頭の中はしっかりそのままなので、戸惑う人が多かったのだから。
まあ仕方がない。一日たてば元通りというなら、この一日を楽しむ方が正解だろう。……多分。
――着ていた服がぶかぶかである。
バランスを取るのが、上手くいかない。
――目が覚めたら、外見年齢が十年前に逆戻りしていた。
●
「夏の夜の夢という言葉はありますけどね」
ハンターオフィスの面々はため息をつく。
「それでも流石に子どもばかりであふれかえっていたら、怪しまれますって! いくらハンターでも!」
しかしそう叫ぶ受付の外見年齢も声変わり前の少年といったかんじで、正直言うと、まったくおっかなくない。普段はややコワモテの兄ちゃん、という感じなのだが、十年前はまるきり紅顔の美少年だ。
「まあ、これはもう起きてしまったことだ。仕方がない、諦めよう……」
オフィスでも年かさの職員が、ため息をついて頷く。普段はお局様の彼女も、いまはミニスカートのよく似合う女子高校生といった雰囲気で、気の強そうな表情が愛らしいというふうに見せている。若い頃はモテたのだろうなと思われた。
「まあ、だいたいマテリアルの異常現象だろうし」
「まてりあるのいじょうげんしょう」
「一日たてばだいたい終わってることも多いからね」
「いちにちたてば」
逆に言うとこの大混乱が一日続くというわけで。
ハンターも、オフィスの職員も、ため息をつく以外なにもできなかった。
●
とはいえ楽観的なものも、悲観的なものもいるわけで。
なにぶん姿は子どもでも頭の中はしっかりそのままなので、戸惑う人が多かったのだから。
まあ仕方がない。一日たてば元通りというなら、この一日を楽しむ方が正解だろう。……多分。
リプレイ本文
●
(……なんか、こんなのまえにもあったきがするぞ)
そう思いつつも言葉遣いがこどもらしく全てひらがなになっているのはレイア・アローネ(ka4082)。普段は長い髪を風に翻らせる彼女だが、頭に手を当ててみると肩にも届かないほどに短い。どうやらショートカットになってしまっているようだ。
彼女の言う『この前』というのは、おそらくは春のこと。
(あのときはなんかこう、おもいだしたくもないけど人間じゃないものになっていたような……)
言葉にしようもないくらいに思い出したくないという、『あの時』。はっきりとは思い出せないのに、背筋が凍るような寒気が走る。……思えばその頃から、どこぞの幻獣王に対するあたりが強くなっているような気もするが、それが同一の理由かは、レイア自身ははっきりと思い出すことができない。とりあえず心許なげに体中をぺたぺたとさわって確認すれば、明らかに胸の膨らみも控えめになっている。
それもそのはずで、十年前と言えばレイアはまだ思春期の入口付近といった年齢だ。その頃には剣術の修行に夢中になり、気が付けば同い年くらいの少年にも引けを取らなくなっていた。
色恋よりも修業三昧の少女時代。
それが結果として、いまの彼女を形作ったと言えなくもないのだが。
(うーむ、とりあえずはんたーおふぃすにいらいを……)
とそこまで考えるが、すぐに首を横に振った。
(……いやだめだな。なんかそれ、まえにもやったきがする)
どちらにしても今日のこの状況でハンターオフィスに行ってもいろんな意味で混乱が起きるばかりだ。既に混乱が起きている可能性もあるだろうし(そしてそれは残念ながらあながち外れていない)、色々な意味での二次被害を発生させてもどうしようもないのだ。
(……きめた。とりあえずおなじようなしょうじょうのものたちがいないか、さがしてみよう)
普段着のシャツと短めのボトム――いまの体躯では結構ぶかぶかなので紐などで調節をしつつ――を身につけ、護身用の武器を背負い、彼女は街へ繰り出したのだった。
●
(うわ~、なにこれ?!)
夢路 まよい(ka1328)は思わず大声を上げそうになったが、必死にとどまる。
「からだが、ちっちゃくなっちゃった……」
いまの外見年齢は、幼稚園児くらいだろうか。如何にもなこども体型なので頭身も低く、重心が高いこともあってただ歩くだけでも何処か危なっかしい。目や髪の色にはとくに変化はないものの、こちらも着替えに困る状態だ。何しろ普通の服装では裾がずるずると引きずってしまう状態なのだから。
(まずはお洋服をなんとかしなくっちゃ……)
パジャマの裾を踏んづけたりしてはみっともないし、どちらにしてもこのままの状態で一日いるのもそれはそれでいやだ。思い付いて大きめのバスタオルを身体に巻き付け、ずり落ちたり裾が開いたりしないように気をつけて紐やブローチで留め、ローブ風に纏ってみる。これだって決して褒められたものではないが、何もしないよりはうんとましだし、きっと他の人もわかってくれるはず、だ。
たいていこういう謎現象が発生した時、他にも被害者(?)がいるのは世の常ともなっている。街にも似たような状況で困っている人も多いハズだ。
「とりあえず、いってみよ」
少しばかり舌足らずになった口調でそう言いながら、まよいはよいしょとドアを開けた。幼児一人で出かけるのが大変なのを、改めて実感した。
(いつも当たり前に使ってるドアを開けるのにも一苦労なんてね。さて、これからどうしようかな……)
ちょこまかと足を動かしながら、幼い姿で歩くさまは見る人が見れば母性本能に訴えかけられるものだったろう。
●
そういう意味では、リューリ・ハルマ(ka0502)は非常に順応が早かった。髪の毛をポニーテールにし、子供服はないけれど……と探して見つけたミニスカートとシャツをベルトやピン、リボンなどで詰めて見苦しくない程度に着こなしている。
いまのリューリは外見年齢十歳くらい。外見的には第二次性徴の始まる少し前くらいというわけだが、それをあくまで「楽しむ」というスタンスが強いのだ。
(うんうん、子どもに戻っちゃったのはビックリだけど、そのうちちゃんと元に戻るのなら楽しまないと損だよねー!)
そんなことを思いながら着替えを終えた彼女が向かったのは、親友のアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の住まい。
こんこん、と軽くノックをすると、
「はい」
いつもより僅かに高い友人の声。ドアが開かれると、見慣れたアルト――の姿とは少し違った。
普段はサイドの髪が長いのに、それが綺麗なショートヘアに落ち着いている。
そしてなにより視線がほとんど変わらない。それはつまり、アルトも同様に幼い姿になっていると言うことで。
「リューリちゃん……か? リューリちゃんも、なのか?」
相手にもおそるおそる尋ねられるので、頷いてみせる。
「うーん、アルトちゃんもか……やっぱりちょっと様子見した方がいいのかな? それより、洋服はどうしたの?」
アルトはまだ普段の――つまり、いまの大きさではだぼだぼの寝間着姿。急に身体の大きさが変わって満足に動けなかったらしい。
「とりあえず、てもちの服でなんとかアレンジしよう」
リューリはそう微笑むと、アルトのタンスにしまわれていた大きめのシャツをとりだし、適度にリボンとピンでおさえていく。シャツワンピースのように着こなしてしまえば、不自然なところも少ないだろうという目算だ。
「これ、短くないかな?」
不安げにアルトが尋ねると、
「子どもの姿なんだし、気にしすぎることはないと思うけどな」
それにちょうどいいサイズだよと付け加えて、リューリが頷いてみせる。
確かに、普段でも少し長めのシャツだったそれは、いまは膝丈ほどまでのワンピースと言ってまったく遜色のない代物になっていた。
「うん、予想どおり可愛い! そうだ、このまま閉じこもっているのもつまんないし、せっかくだから一緒に遊びに行こうよ!」
リューリの笑顔に、ついアルトもはにかむような笑みを見せて頷いたのだった。
●
白い肌に大きな蒼い瞳、そして背中まである長い黒髪を青いリボンで緩くまとめたその姿は一見深窓の令嬢。
だが男だ。これはこういう場合のお約束である。
成長前と言うこともあり、身長もミドルティーンの男性にしては低めの百五十センチあるかなしか、その上声変わりもまだとくれば本当にどこか儚げな美少女――しかしその正体は『駄犬』と自嘲気味に言うこともあるアルマ・A・エインズワース(ka4901)なのであった。
しかし彼は、その姿を確認するよりもまえに己の右腕を二度三度と動かして、何処かなつかしそうに笑った。
かつてコーリアスとの戦いで喪った右腕が、いま、たとえ夢の中の世界のようなものだとしても、間違いなく存在している。なんだかそれが嬉しくて、手を動かしたりしてみるのだ。
しかしそんなアルマの『飼い主』……もとい参謀の仙堂 紫苑(ka5953)は、十年ほど前と言えばまだまだ実家で普通に生活をしていた時期であり。むろん機械好きは幼い頃からだが、どうにも言動が肉体年齢に引っ張られてしまう。
(いかんいかん、しっかりしないと。それよりこの現象が俺だけでなければ、アルマがちょっと心配だ)
急いで駆けつけようと適当に調達してきた服を纏い、バイクに乗ろうとする。が、足がまともに付かない上に子どもがバイクの運転と言うことで注意を受ける始末。
(バイクがつかえないなんてなんて不便なんだ……!!)
そう、どう足掻いても見た目年齢と法律に悩まされてしまうのだ。しかしそう思ったのもつかの間、機導術は普通に扱える上に公共の乗り物やレストランなどでは子どもとして扱われるため、子ども料金で移動が出来たり、普段は頼むのが難しいお子様ランチも当たり前のように注文できたりで、決して悪いことばかりではないと気付けば、この珍しい機械を満喫するのもありかなと思えるようになってきた。
ちなみに彼が選んだ服というのは、ミドルティーンくらいにはちょっと大人っぽいファッションばかりで、普段の紫苑なら問題ないだろうスタイルなのだが、顔にまだ幼さを残しているいまの姿では何処か服に着せられているような感じが半端ない。
それでもどうにかアルマのところにたどり着くと、
「シオン!」
アルマはまだ寝間着姿だったが、ぴょんと嬉しそうに紫苑に近づこうとして……留められた。まあ、どう見ても美少女然としたアルマに驚かないわけがないわけで。
「アルマ、着替えてこいよ」
そう言えばアルマもこくっと頷き、しかし紫苑には別室で頼む、と言われてしまった。思春期の少年にはたとえ分かっていても目の毒なのだ。
やがて現れたアルマは……胸元に蒼い大きな花とリボンをあしらった白いワンピース、と言う姿であった。思い切り、女の子の服装である。
「シオンー、見て下さーい!」
しかもそれを嬉しそうに着こなしているのである。実際似合っているのがある意味で恐ろしい。
「ちょっと待て、なんでそのカッコになった!? 女物じゃんかそれ!」
当たり前だが焦りを隠せない紫苑に、アルマは少し項垂れて、しかしすぐに首を傾げて
「わぅ……似合ってないです?」
違う、似合っているから問題なのだが――紫苑は敢えてだんまりを決め込んだ。
アルマ相手にちょっとドキッとしてしまったのは、とても不覚だから。
●
そんなこんなでほとんどのハンターたちは家から出て子どもとしての時間を過ごすことに決めた。もっとも、まよいのようにどうしてもそうせざるを得ないという例もあるので、その思惑は人それぞれなのだけれど。
そのまよいはと言えば、子供服を扱っている洋品店で服を見繕っていた。
「今日は、きっとこどもふくがよく売れるよね……」
見れば店員もいつもより若返っている。バスタオルを巻き付けただけの服装ではやはり心許ないので、下着から一式、買いそろえる必要があった。
パフスリーブのワンピースにレースのついた靴下、ストラップシューズ。それと肌着を買い込むと早速着込んで見る。普段の恰好に少し似せてみたつもりだ。子ども服らしいレースやフリルがあしらわれていて、なかなか可愛らしい。
服を見繕うと、うーんと考える。
(子ども姿を満喫って言っても……普段からもともと少し子どもっぽいほうだし、子どもの姿じゃないと……ってこと、なにかあるかなぁ)
そう思っていると、目の前を愛らしいワンピース姿のアルマと、ちょっと背伸びした服装の紫苑が、近くのレストランに入っていくのが見えた。二人の会話を漏れ聞くと、どうやら二人してお子様ランチを食べるらしい。
「おこさまランチ……うん、おひるはそうしようっと!」
まよいも、顔をぱっと輝かせて頷いた。
その頃ハンターオフィスに顔を出していたのはレイア。
おなじような症状の者がいたら話が聞けるかも知れないと、人の集まりそうな場所を……と言うことで、オフィスに向かってみたのだが、はたして予想通り、何人かのハンターたちが途方に暮れた顔でうろうろしていた。
「いがいとたくさんいるものだな……さて、みなどうしよう」
どちらにしてもここで立ったままでは埒があかない。
レストランにでもいくか、と言う結論に達した。
「あ、あれレイアさんだ! おーい」
まよいはレストランに偶然入ってきたレイアに手を振ってみせる。普段とそれほど変わらない雰囲気の彼女は、ある意味見つけやすいのだ。
「おや、まよいもか。不思議なこともあるもんだな」
そう言ってよくよくみれば、まよいの口元はケチャップで真っ赤になっている。そして嬉しそうに、満面の笑みを浮かべていった。
「こどものとっけんだよ、おこさまらんちがふつうにたべられるの!」
そう言われてみれば、周囲にもおこさまランチをつついているものは結構な人数がいる。
「みんないちどはたべてみたかったんじゃないかなー、きょうはよく売れてるってウェイトレスさんがいってたよ」
短い足をぶらぶらさせながら、まよいが嬉しそうに言うと、なるほど、とレイアも頷いた。
「たしかに、こういうときでないとできないことはあるな……きょうくらいははんたーであることをわすれてもいいか」
そう言ったレイアの顔も、いつもより朗らかだった。
●
「子どもの視線だと、見え方がかわって新鮮だね!」
リューリはアルトと手を繋ぎ、そう言って嬉しそうに声を弾ませる。まだこどもの身体のバランスになれていないアルトはさっき転びそうになったので、いまはこうやって手を繋いでいるのだ。
「こうやって手を繋いだら、転げにくくなるよね! それになんだか、仲良しってかんじで、楽しい!」
もともと親友の二人だが、育ってきた環境はもともと違う。こうやってハンターにならなければ、お互いを知ることもなかったかも知れない――そう思うと、子ども時代を追体験することができるのは、なんだか照れくさくも嬉しいものだった。
「せっかくだから、あっちにお菓子やさんあったし、いってみようよ」
リューリが提案をすると、アルトもこくんと頷く。普段はいろいろ節制をしているぶん、食べ歩きなどはある種の夢なのだ。
「でも、子どものころって、こんなに動きにくかったんだな。リューリちゃんこそ大丈夫か?」
「うん、大丈夫。それにアルトちゃんもいるしね」
アルトの言葉に笑顔で返すリューリ。それを聞いて顔をほんのり赤らめるアルトなのである。
●
「おこさまランチ、懐かしい味がするですね、シオン」
「そうだな、大人になってから食べるとなんとも懐かしい、下手な大人用定食よりも美味いし」
男二人はそう言いながら、おこさまランチをぱくついていた。とくにアルマはにこにこと笑顔を絶やさない。時々右手で紫苑の手を握ったり、隣に座る紫苑に抱きつこうとしたり、いつも以上にスキンシップ過多になっている気もするが。
「あんまりべたべたするなよ……!?」
少し呆れたような声でそう言うも、アルマは嬉しそうに微笑むばかり。
「わふぅー。だっていまなら、ちゃんと右のおててあるです。だから、今のうちに両手でたくさんぎゅうー、しとくです! シオンにぎゅうーなのです-!」
そう無邪気に言われて紫苑は気付く。
(ああ……会った頃にはもう、こいつの手は義手だったもんな……ハンターになる前の姿だから、まだ腕があるのか……)
アルマの右手は、柔らかくあたたかい。義手のそれとは違うぬくもりがある。そう思うと、アルマの行動を諫めるのはなんだか申し訳がなくて、紫苑はされるがままになっていった。
思春期の少年らしさを垣間見せた瞬間だった。
――夏の夜の夢ももうすぐ終わり。
それぞれの胸に、優しい気持ちを閉じ込めて。
(……なんか、こんなのまえにもあったきがするぞ)
そう思いつつも言葉遣いがこどもらしく全てひらがなになっているのはレイア・アローネ(ka4082)。普段は長い髪を風に翻らせる彼女だが、頭に手を当ててみると肩にも届かないほどに短い。どうやらショートカットになってしまっているようだ。
彼女の言う『この前』というのは、おそらくは春のこと。
(あのときはなんかこう、おもいだしたくもないけど人間じゃないものになっていたような……)
言葉にしようもないくらいに思い出したくないという、『あの時』。はっきりとは思い出せないのに、背筋が凍るような寒気が走る。……思えばその頃から、どこぞの幻獣王に対するあたりが強くなっているような気もするが、それが同一の理由かは、レイア自身ははっきりと思い出すことができない。とりあえず心許なげに体中をぺたぺたとさわって確認すれば、明らかに胸の膨らみも控えめになっている。
それもそのはずで、十年前と言えばレイアはまだ思春期の入口付近といった年齢だ。その頃には剣術の修行に夢中になり、気が付けば同い年くらいの少年にも引けを取らなくなっていた。
色恋よりも修業三昧の少女時代。
それが結果として、いまの彼女を形作ったと言えなくもないのだが。
(うーむ、とりあえずはんたーおふぃすにいらいを……)
とそこまで考えるが、すぐに首を横に振った。
(……いやだめだな。なんかそれ、まえにもやったきがする)
どちらにしても今日のこの状況でハンターオフィスに行ってもいろんな意味で混乱が起きるばかりだ。既に混乱が起きている可能性もあるだろうし(そしてそれは残念ながらあながち外れていない)、色々な意味での二次被害を発生させてもどうしようもないのだ。
(……きめた。とりあえずおなじようなしょうじょうのものたちがいないか、さがしてみよう)
普段着のシャツと短めのボトム――いまの体躯では結構ぶかぶかなので紐などで調節をしつつ――を身につけ、護身用の武器を背負い、彼女は街へ繰り出したのだった。
●
(うわ~、なにこれ?!)
夢路 まよい(ka1328)は思わず大声を上げそうになったが、必死にとどまる。
「からだが、ちっちゃくなっちゃった……」
いまの外見年齢は、幼稚園児くらいだろうか。如何にもなこども体型なので頭身も低く、重心が高いこともあってただ歩くだけでも何処か危なっかしい。目や髪の色にはとくに変化はないものの、こちらも着替えに困る状態だ。何しろ普通の服装では裾がずるずると引きずってしまう状態なのだから。
(まずはお洋服をなんとかしなくっちゃ……)
パジャマの裾を踏んづけたりしてはみっともないし、どちらにしてもこのままの状態で一日いるのもそれはそれでいやだ。思い付いて大きめのバスタオルを身体に巻き付け、ずり落ちたり裾が開いたりしないように気をつけて紐やブローチで留め、ローブ風に纏ってみる。これだって決して褒められたものではないが、何もしないよりはうんとましだし、きっと他の人もわかってくれるはず、だ。
たいていこういう謎現象が発生した時、他にも被害者(?)がいるのは世の常ともなっている。街にも似たような状況で困っている人も多いハズだ。
「とりあえず、いってみよ」
少しばかり舌足らずになった口調でそう言いながら、まよいはよいしょとドアを開けた。幼児一人で出かけるのが大変なのを、改めて実感した。
(いつも当たり前に使ってるドアを開けるのにも一苦労なんてね。さて、これからどうしようかな……)
ちょこまかと足を動かしながら、幼い姿で歩くさまは見る人が見れば母性本能に訴えかけられるものだったろう。
●
そういう意味では、リューリ・ハルマ(ka0502)は非常に順応が早かった。髪の毛をポニーテールにし、子供服はないけれど……と探して見つけたミニスカートとシャツをベルトやピン、リボンなどで詰めて見苦しくない程度に着こなしている。
いまのリューリは外見年齢十歳くらい。外見的には第二次性徴の始まる少し前くらいというわけだが、それをあくまで「楽しむ」というスタンスが強いのだ。
(うんうん、子どもに戻っちゃったのはビックリだけど、そのうちちゃんと元に戻るのなら楽しまないと損だよねー!)
そんなことを思いながら着替えを終えた彼女が向かったのは、親友のアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の住まい。
こんこん、と軽くノックをすると、
「はい」
いつもより僅かに高い友人の声。ドアが開かれると、見慣れたアルト――の姿とは少し違った。
普段はサイドの髪が長いのに、それが綺麗なショートヘアに落ち着いている。
そしてなにより視線がほとんど変わらない。それはつまり、アルトも同様に幼い姿になっていると言うことで。
「リューリちゃん……か? リューリちゃんも、なのか?」
相手にもおそるおそる尋ねられるので、頷いてみせる。
「うーん、アルトちゃんもか……やっぱりちょっと様子見した方がいいのかな? それより、洋服はどうしたの?」
アルトはまだ普段の――つまり、いまの大きさではだぼだぼの寝間着姿。急に身体の大きさが変わって満足に動けなかったらしい。
「とりあえず、てもちの服でなんとかアレンジしよう」
リューリはそう微笑むと、アルトのタンスにしまわれていた大きめのシャツをとりだし、適度にリボンとピンでおさえていく。シャツワンピースのように着こなしてしまえば、不自然なところも少ないだろうという目算だ。
「これ、短くないかな?」
不安げにアルトが尋ねると、
「子どもの姿なんだし、気にしすぎることはないと思うけどな」
それにちょうどいいサイズだよと付け加えて、リューリが頷いてみせる。
確かに、普段でも少し長めのシャツだったそれは、いまは膝丈ほどまでのワンピースと言ってまったく遜色のない代物になっていた。
「うん、予想どおり可愛い! そうだ、このまま閉じこもっているのもつまんないし、せっかくだから一緒に遊びに行こうよ!」
リューリの笑顔に、ついアルトもはにかむような笑みを見せて頷いたのだった。
●
白い肌に大きな蒼い瞳、そして背中まである長い黒髪を青いリボンで緩くまとめたその姿は一見深窓の令嬢。
だが男だ。これはこういう場合のお約束である。
成長前と言うこともあり、身長もミドルティーンの男性にしては低めの百五十センチあるかなしか、その上声変わりもまだとくれば本当にどこか儚げな美少女――しかしその正体は『駄犬』と自嘲気味に言うこともあるアルマ・A・エインズワース(ka4901)なのであった。
しかし彼は、その姿を確認するよりもまえに己の右腕を二度三度と動かして、何処かなつかしそうに笑った。
かつてコーリアスとの戦いで喪った右腕が、いま、たとえ夢の中の世界のようなものだとしても、間違いなく存在している。なんだかそれが嬉しくて、手を動かしたりしてみるのだ。
しかしそんなアルマの『飼い主』……もとい参謀の仙堂 紫苑(ka5953)は、十年ほど前と言えばまだまだ実家で普通に生活をしていた時期であり。むろん機械好きは幼い頃からだが、どうにも言動が肉体年齢に引っ張られてしまう。
(いかんいかん、しっかりしないと。それよりこの現象が俺だけでなければ、アルマがちょっと心配だ)
急いで駆けつけようと適当に調達してきた服を纏い、バイクに乗ろうとする。が、足がまともに付かない上に子どもがバイクの運転と言うことで注意を受ける始末。
(バイクがつかえないなんてなんて不便なんだ……!!)
そう、どう足掻いても見た目年齢と法律に悩まされてしまうのだ。しかしそう思ったのもつかの間、機導術は普通に扱える上に公共の乗り物やレストランなどでは子どもとして扱われるため、子ども料金で移動が出来たり、普段は頼むのが難しいお子様ランチも当たり前のように注文できたりで、決して悪いことばかりではないと気付けば、この珍しい機械を満喫するのもありかなと思えるようになってきた。
ちなみに彼が選んだ服というのは、ミドルティーンくらいにはちょっと大人っぽいファッションばかりで、普段の紫苑なら問題ないだろうスタイルなのだが、顔にまだ幼さを残しているいまの姿では何処か服に着せられているような感じが半端ない。
それでもどうにかアルマのところにたどり着くと、
「シオン!」
アルマはまだ寝間着姿だったが、ぴょんと嬉しそうに紫苑に近づこうとして……留められた。まあ、どう見ても美少女然としたアルマに驚かないわけがないわけで。
「アルマ、着替えてこいよ」
そう言えばアルマもこくっと頷き、しかし紫苑には別室で頼む、と言われてしまった。思春期の少年にはたとえ分かっていても目の毒なのだ。
やがて現れたアルマは……胸元に蒼い大きな花とリボンをあしらった白いワンピース、と言う姿であった。思い切り、女の子の服装である。
「シオンー、見て下さーい!」
しかもそれを嬉しそうに着こなしているのである。実際似合っているのがある意味で恐ろしい。
「ちょっと待て、なんでそのカッコになった!? 女物じゃんかそれ!」
当たり前だが焦りを隠せない紫苑に、アルマは少し項垂れて、しかしすぐに首を傾げて
「わぅ……似合ってないです?」
違う、似合っているから問題なのだが――紫苑は敢えてだんまりを決め込んだ。
アルマ相手にちょっとドキッとしてしまったのは、とても不覚だから。
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そんなこんなでほとんどのハンターたちは家から出て子どもとしての時間を過ごすことに決めた。もっとも、まよいのようにどうしてもそうせざるを得ないという例もあるので、その思惑は人それぞれなのだけれど。
そのまよいはと言えば、子供服を扱っている洋品店で服を見繕っていた。
「今日は、きっとこどもふくがよく売れるよね……」
見れば店員もいつもより若返っている。バスタオルを巻き付けただけの服装ではやはり心許ないので、下着から一式、買いそろえる必要があった。
パフスリーブのワンピースにレースのついた靴下、ストラップシューズ。それと肌着を買い込むと早速着込んで見る。普段の恰好に少し似せてみたつもりだ。子ども服らしいレースやフリルがあしらわれていて、なかなか可愛らしい。
服を見繕うと、うーんと考える。
(子ども姿を満喫って言っても……普段からもともと少し子どもっぽいほうだし、子どもの姿じゃないと……ってこと、なにかあるかなぁ)
そう思っていると、目の前を愛らしいワンピース姿のアルマと、ちょっと背伸びした服装の紫苑が、近くのレストランに入っていくのが見えた。二人の会話を漏れ聞くと、どうやら二人してお子様ランチを食べるらしい。
「おこさまランチ……うん、おひるはそうしようっと!」
まよいも、顔をぱっと輝かせて頷いた。
その頃ハンターオフィスに顔を出していたのはレイア。
おなじような症状の者がいたら話が聞けるかも知れないと、人の集まりそうな場所を……と言うことで、オフィスに向かってみたのだが、はたして予想通り、何人かのハンターたちが途方に暮れた顔でうろうろしていた。
「いがいとたくさんいるものだな……さて、みなどうしよう」
どちらにしてもここで立ったままでは埒があかない。
レストランにでもいくか、と言う結論に達した。
「あ、あれレイアさんだ! おーい」
まよいはレストランに偶然入ってきたレイアに手を振ってみせる。普段とそれほど変わらない雰囲気の彼女は、ある意味見つけやすいのだ。
「おや、まよいもか。不思議なこともあるもんだな」
そう言ってよくよくみれば、まよいの口元はケチャップで真っ赤になっている。そして嬉しそうに、満面の笑みを浮かべていった。
「こどものとっけんだよ、おこさまらんちがふつうにたべられるの!」
そう言われてみれば、周囲にもおこさまランチをつついているものは結構な人数がいる。
「みんないちどはたべてみたかったんじゃないかなー、きょうはよく売れてるってウェイトレスさんがいってたよ」
短い足をぶらぶらさせながら、まよいが嬉しそうに言うと、なるほど、とレイアも頷いた。
「たしかに、こういうときでないとできないことはあるな……きょうくらいははんたーであることをわすれてもいいか」
そう言ったレイアの顔も、いつもより朗らかだった。
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「子どもの視線だと、見え方がかわって新鮮だね!」
リューリはアルトと手を繋ぎ、そう言って嬉しそうに声を弾ませる。まだこどもの身体のバランスになれていないアルトはさっき転びそうになったので、いまはこうやって手を繋いでいるのだ。
「こうやって手を繋いだら、転げにくくなるよね! それになんだか、仲良しってかんじで、楽しい!」
もともと親友の二人だが、育ってきた環境はもともと違う。こうやってハンターにならなければ、お互いを知ることもなかったかも知れない――そう思うと、子ども時代を追体験することができるのは、なんだか照れくさくも嬉しいものだった。
「せっかくだから、あっちにお菓子やさんあったし、いってみようよ」
リューリが提案をすると、アルトもこくんと頷く。普段はいろいろ節制をしているぶん、食べ歩きなどはある種の夢なのだ。
「でも、子どものころって、こんなに動きにくかったんだな。リューリちゃんこそ大丈夫か?」
「うん、大丈夫。それにアルトちゃんもいるしね」
アルトの言葉に笑顔で返すリューリ。それを聞いて顔をほんのり赤らめるアルトなのである。
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「おこさまランチ、懐かしい味がするですね、シオン」
「そうだな、大人になってから食べるとなんとも懐かしい、下手な大人用定食よりも美味いし」
男二人はそう言いながら、おこさまランチをぱくついていた。とくにアルマはにこにこと笑顔を絶やさない。時々右手で紫苑の手を握ったり、隣に座る紫苑に抱きつこうとしたり、いつも以上にスキンシップ過多になっている気もするが。
「あんまりべたべたするなよ……!?」
少し呆れたような声でそう言うも、アルマは嬉しそうに微笑むばかり。
「わふぅー。だっていまなら、ちゃんと右のおててあるです。だから、今のうちに両手でたくさんぎゅうー、しとくです! シオンにぎゅうーなのです-!」
そう無邪気に言われて紫苑は気付く。
(ああ……会った頃にはもう、こいつの手は義手だったもんな……ハンターになる前の姿だから、まだ腕があるのか……)
アルマの右手は、柔らかくあたたかい。義手のそれとは違うぬくもりがある。そう思うと、アルマの行動を諫めるのはなんだか申し訳がなくて、紫苑はされるがままになっていった。
思春期の少年らしさを垣間見せた瞬間だった。
――夏の夜の夢ももうすぐ終わり。
それぞれの胸に、優しい気持ちを閉じ込めて。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
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